(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】車両の制御方法、車両システム及び車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/045 20120101AFI20220530BHJP
B60L 7/14 20060101ALI20220530BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20220530BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20220530BHJP
B60W 10/20 20060101ALI20220530BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20220530BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20220530BHJP
B60K 6/26 20071001ALI20220530BHJP
B60K 6/485 20071001ALI20220530BHJP
B60K 6/54 20071001ALI20220530BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20220530BHJP
【FI】
B60W30/045 ZHV
B60L7/14
B60L50/16
B60W10/00 134
B60W10/06
B60W10/08
B60K6/26
B60K6/485
B60K6/54
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W20/00 900
(21)【出願番号】P 2018169774
(22)【出願日】2018-09-11
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】秋谷 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】梅津 大輔
(72)【発明者】
【氏名】小川 大策
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-089252(JP,A)
【文献】特開2017-140864(JP,A)
【文献】特開平11-082094(JP,A)
【文献】特開2018-058480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-60/00
G08G 1/00-99/00
F02D 29/00-29/06
F02D 41/00-45/00
B60L 7/00-13/00
B60L 15/00-58/40
B60K 6/00- 6/547
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪を駆動するエンジンと、巻き掛け部材を介して前記前輪に連絡された発電機と
、前記エンジン及び前記発電機を制御する制御器と、を備える車両を制御する方法であって、
前記制御器が、前記車両に搭載された操舵装置の操舵角の増加に基づいて、前記車両を減速させるための減速トルクを設定する減速トルク設定工程と、
前記制御器が、前記巻き掛け部材の状態に応じた前記発電機による回生遅れ量を設定する回生遅れ量設定工程と、
前記制御器が、設定された前記回生遅れ量に基づいて、前記エンジンのトルク低減量を設定するトルク低減量設定工程と、
前記制御器が、設定された前記トルク低減量に基づいて前記エンジンのトルクを低減させる制御を実行すると共に、前記発電機を回生させる制御を実行して、設定された前記減速トルクを発生させるようにする減速トルク発生工程と、
を有することを特徴とする車両の制御方法。
【請求項2】
前記トルク低減量設定工程では、前記回生遅れ量が大きいときは、前記回生遅れ量が小さいときよりも、前記エンジンのトルク低減量を大きくする、請求項1に記載の車両の制御方法。
【請求項3】
前記トルク低減量設定工程では、前記回生遅れ量が小さくなるに従って、前記エンジンのトルク低減量を小さくする、請求項1又は2に記載の車両の制御方法。
【請求項4】
前記回生遅れ量が0になったときに、前記トルク低減量設定工程では前記エンジンのトルク低減量を0に設定し、前記減速トルク発生工程では前記発電機の回生によって前記減速トルクを発生させる、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の車両の制御方法。
【請求項5】
前記回生遅れ量設定工程では、前記発電機による発電電力に基づき、前記回生遅れ量を設定する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の車両の制御方法。
【請求項6】
前記巻き掛け部材は、ゴム製のベルトであり、
前記回生遅れ量設定工程では、前記発電機の発電状態、前記ベルトの温度、及び前記車両の製造時からの経過時間のうちの少なくとも1つに基づき、前記回生遅れ量を設定する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の車両の制御方法。
【請求項7】
車両を制御するシステムであって、
前記車両の前輪を駆動するエンジンと、
前記前輪により駆動されて回生する発電機と、
前記前輪と前記発電機とを連絡するための巻き掛け部材と、
前記車両を操舵するためのステアリングホイールを備える操舵装置と、
前記操舵装置の操舵角を検出する操舵角センサと、
前記エンジン及び前記発電機を制御する制御器と、を有し、
前記制御器は、
前記操舵装置の操舵角の増加に基づいて、前記車両を減速させるための減速トルクを設定し、
前記巻き掛け部材の状態に応じた前記発電機による回生遅れ量を設定し、
設定された前記回生遅れ量に基づいて、前記エンジンのトルク低減量を設定し、
設定された前記トルク低減量に基づいて前記エンジンのトルクを低減させる制御を実行すると共に、前記発電機を回生させる制御を実行して、設定された前記減速トルクを発生させるよう構成されている、
ことを特徴とする車両システム。
【請求項8】
前輪を駆動するエンジンと、巻き掛け部材を介して前記前輪に連絡された発電機とを備える車両を制御する装置であって、
前記車両に搭載された操舵装置の操舵角が増加したときに、前記車両を減速させるための減速トルクを設定する減速トルク設定手段と、
前記巻き掛け部材の状態に応じた前記発電機による回生遅れ量を設定する回生遅れ量設定手段と、
設定された前記回生遅れ量に基づいて、前記エンジンのトルク低減量を設定するトルク低減量設定手段と、
設定された前記トルク低減量に基づいて前記エンジンのトルクを低減させる制御を実行すると共に、前記発電機を回生させる制御を実行して、設定された前記減速トルクを発生させるようにする減速トルク発生手段と、
を有することを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵に応じて車両の姿勢を制御する車両の制御方法、車両システム及び車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スリップ等により車両の挙動が不安定になった場合に安全方向に車両の挙動を制御するもの(横滑り防止装置等)が知られている。具体的には、車両のコーナリング時等に、車両にアンダーステアやオーバーステアの挙動が生じたことを検出し、それらを抑制するように車輪に適切な減速度を付与するようにした技術が知られている。
【0003】
他方で、車両の挙動が不安定になるような走行状態における安全性向上のための制御とは別に、ステアリングホイール(以下では単に「ステアリング」とも呼ぶ。)の操作時にトルクを変化させることで、コーナリング時におけるドライバの操作が自然で安定したものとなるように車両姿勢を制御する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。以下では、このようなドライバによるステアリング操作に応じて車両の姿勢を制御することを適宜「車両姿勢制御」と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に記載された技術では、車両姿勢制御において、ステアリングが切り込まれたときに、点火プラグによる点火時期を遅角(点火リタード)させることにより、エンジンのトルクを低減させて、減速度を車両に付加している。このような点火リタードによるトルク低減は、燃費を悪化させる傾向にある。一方で、回生により発電する発電機が車両に設けられている場合には、点火リタードによりトルクを低減させる代わりに、発電機に回生を行わせることで、減速度を車両に付加することができる。こうすると、点火リタードと比較して、車両姿勢制御時の燃費を改善することができる。
【0006】
ところで、発電機が巻き掛け部材を介して車輪に連絡された構成を有する車両が知られている。典型的には、この車両では、発電機がベルトなどの巻き掛け部材を介してエンジンに連絡されている。このような構成を有する車両において、発電機の回生により車両姿勢制御を行うと、巻き掛け部材の張りや伸びなどにより、発電機による回生が遅れる傾向にある。その結果、車両姿勢制御により所望の減速度を車両に付加できなくなる。
【0007】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、巻き掛け部材を介して前輪に連絡された発電機を備える車両において、発電機による回生の遅れによらずに、車両姿勢制御により所望の減速度を適切に車両に付加することができる車両の制御方法、車両システム及び車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、前輪を駆動するエンジンと、巻き掛け部材を介して前輪に連絡された発電機と、エンジン及び発電機を制御する制御器と、を備える車両を制御する方法であって、制御器が、車両に搭載された操舵装置の操舵角の増加に基づいて、車両を減速させるための減速トルクを設定する減速トルク設定工程と、制御器が、巻き掛け部材の状態に応じた発電機による回生遅れ量を設定する回生遅れ量設定工程と、制御器が、設定された回生遅れ量に基づいて、エンジンのトルク低減量を設定するトルク低減量設定工程と、制御器が、設定されたトルク低減量に基づいてエンジンのトルクを低減させる制御を実行すると共に、発電機を回生させる制御を実行して、設定された減速トルクを発生させるようにする減速トルク発生工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
このように構成された本発明では、操舵装置の操舵角が増加したときに、つまりステアリングホイールが切り込み操作されたときに、車両を減速させるための減速トルクを付加することで車両の姿勢を制御する。そして、本発明では、発電機に連絡された巻き掛け部材の伸びなどに起因する発電機の回生遅れが生じている間は、発電機の回生に加えて、エンジンのトルク低減によって、減速トルクを発生させるようにする。特に、上述したような巻き掛け部材の状態(例えば伸びや張りなど)に応じた発電機の回生遅れ量に基づいて、エンジンのトルク低減量を設定する。これにより、発電機の回生遅れ量に対応する減速トルクの不足分を、エンジンのトルク低減によって適切に発生させることができる、つまり回生遅れに起因する減速トルクの不足分をエンジンのトルク低減にて補完することができる。したがって、本発明によれば、巻き掛け部材の伸びなどに起因する発電機の回生遅れによらずに、車両姿勢制御において所望の減速度を適切に車両に付加することができる。
【0010】
本発明において、好ましくは、トルク低減量設定工程では、回生遅れ量が大きいときは、回生遅れ量が小さいときよりも、エンジンのトルク低減量を大きくする。
このように構成された本発明によれば、発電機の回生遅れ量に応じた量だけ、エンジンのトルクを適切に低減することができる。よって、回生遅れに起因する減速トルクの不足分をエンジンのトルク低減にて確実に補完することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、トルク低減量設定工程では、回生遅れ量が小さくなるに従って、エンジンのトルク低減量を小さくする。
このように構成された本発明によれば、エンジンのトルクの無駄な低減を防止して、燃費の悪化を抑制することができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、回生遅れ量が0になったときに、トルク低減量設定工程ではエンジンのトルク低減量を0に設定し、減速トルク発生工程では発電機の回生によって減速トルクを発生させる。
このように構成された本発明によれば、発電機の回生遅れ量が0になった後は、発電機の回生のみによって減速トルクを発生させることで、燃費を確保することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、回生遅れ量設定工程では、発電機による発電電力に基づき、回生遅れ量を設定する。
このように構成された本発明によれば、検出などにより取得した発電電力に基づき、発電機の回生遅れ量を精度良く求めることができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、巻き掛け部材は、ゴム製のベルトであり、回生遅れ量設定工程では、発電機の発電状態、ベルトの温度、及び車両の製造時からの経過時間のうちの少なくとも1つに基づき、回生遅れ量を設定する。
このように構成された本発明によれば、発電機の発電状態や、ベルトの温度や、車両の製造時からの経過時間に基づき、回生遅れ量を精度良く推定することができる。
【0015】
他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、車両を制御するシステム(車両システム)であって、車両の前輪を駆動するエンジンと、前輪により駆動されて回生する発電機と、前輪と発電機とを連絡するための巻き掛け部材と、車両を操舵するためのステアリングホイールを備える操舵装置と、操舵装置の操舵角を検出する操舵角センサと、エンジン及び発電機を制御する制御器と、を有し、制御器は、操舵装置の操舵角の増加に基づいて、車両を減速させるための減速トルクを設定し、巻き掛け部材の状態に応じた発電機による回生遅れ量を設定し、設定された回生遅れ量に基づいて、エンジンのトルク低減量を設定し、設定されたトルク低減量に基づいてエンジンのトルクを低減させる制御を実行すると共に、発電機を回生させる制御を実行して、設定された減速トルクを発生させるよう構成されている、ことを特徴とする。
【0016】
更に他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、前輪を駆動するエンジンと、巻き掛け部材を介して前輪に連絡された発電機とを備える車両を制御する装置(車両の制御装置)であって、車両に搭載された操舵装置の操舵角が増加したときに、車両を減速させるための減速トルクを設定する減速トルク設定手段と、巻き掛け部材の状態に応じた発電機による回生遅れ量を設定する回生遅れ量設定手段と、設定された回生遅れ量に基づいて、エンジンのトルク低減量を設定するトルク低減量設定手段と、設定されたトルク低減量に基づいてエンジンのトルクを低減させる制御を実行すると共に、発電機を回生させる制御を実行して、設定された減速トルクを発生させるようにする減速トルク発生手段と、を有することを特徴とする。
【0017】
上述した他の観点に係る本発明によっても、巻き掛け部材の伸びなどに起因する発電機の回生遅れによらずに、車両姿勢制御において所望の減速度を適切に車両に付加することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の車両の制御方法、車両システム及び車両の制御装置によれば、巻き掛け部材を介して前輪に連絡された発電機を備える車両において、発電機による回生の遅れによらずに、車両姿勢制御により所望の減速度を適切に車両に付加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態による車両の全体構成を概略的に示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態による車両の電気的構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態による車両姿勢制御処理のフローチャートである。
【
図4】本発明の実施形態による減速トルク設定処理のフローチャートである。
【
図5】本発明の実施形態による付加減速度と操舵速度との関係を示したマップである。
【
図6】モータジェネレータの回生遅れについての説明図である。
【
図7】本発明の実施形態による車両姿勢制御を行った場合の作用を説明するためのタイムチャートである。
【
図8】本発明の実施形態の変形例による車両姿勢制御処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両の制御方法、車両システム及び車両の制御装置について説明する。
【0021】
<車両の構成>
まず、
図1及び
図2を参照して、本発明の実施形態による車両の制御方法、車両システム及び車両の制御装置が適用された車両について説明する。
図1は、本発明の実施形態による車両の全体構成を概略的に示すブロック図であり、
図2は、本発明の実施形態による車両の電気的構成を示すブロック図である。
【0022】
図1に示すように、車両1の車体前部には、左右の前輪2を駆動する原動機として、エンジン4が搭載されている。この車両1は、所謂FF車として構成されている。車両1の各車輪2は、弾性部材(典型的にはスプリング)やサスペンションアームなどを含むサスペンション70を介して、車体に懸架されている。
【0023】
エンジン4は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃エンジンであり、本実施形態では点火プラグ14(
図2参照)を有するガソリンエンジンである。エンジン4は、変速機6を介して前輪2との間で力が伝達され、また、コントローラ8により制御される。エンジン4は、吸入空気量を調整するスロットルバルブ10と、燃料を噴射するインジェクタ12と、点火プラグ14と、吸排気弁の開閉時期を変化させる可変動弁機構16と、エンジン4の回転数を検出するエンジン回転数センサ18と、を有する(
図2参照)。エンジン回転数センサ18は、その検出値をコントローラ8に出力する。
【0024】
また、
図1に示すように、車両1には、前輪2を駆動する機能(つまり電動機としての機能)と、前輪2により駆動されて回生発電を行う機能(つまり発電機としての機能)と、を有するモータジェネレータ20が搭載されている。モータジェネレータ20は、ゴム製のベルト19、エンジン4及び変速機6などを介して、前輪2との間で力が伝達され、また、インバータ22を介してコントローラ8により制御される。さらに、モータジェネレータ20は、バッテリ24に接続されており、駆動力を発生するときにはバッテリ24から電力が供給され、発電(回生)したときにはバッテリ24に電力を供給してバッテリ24を充電する。
【0025】
車両1は、ステアリングホイール28(以下では単に「ステアリング」とも表記する。)やステアリングコラム30などを含む操舵装置26と、ステアリングコラム30の回転角度やステアリングラック(不図示)の位置から操舵装置26における操舵角を検出する操舵角センサ34と、アクセルペダルの開度に相当するアクセルペダル踏込量を検出するアクセル開度センサ36と、ブレーキペダルの踏込量を検出するブレーキ踏込量センサ38と、車速を検出する車速センサ40と、ヨーレートを検出するヨーレートセンサ42と、加速度を検出する加速度センサ44と、を有する。また、車両1は、バッテリ24の温度(バッテリ温度)を検出するバッテリ温度センサ31と、モータジェネレータ20によって発電された電流(モータジェネレータ20による発電電力(回生電力)に相当する)を検出する電流センサ32と、を有する。典型的には、バッテリ24及びバッテリ温度センサ31は、エンジンルーム内に設けられ、電流センサ32は、インバータ22に設けられる。これらの各センサは、それぞれの検出値をコントローラ8に出力する。このコントローラ8は、例えばPCM(Power-train Control Module)などを含んで構成される。
【0026】
また、車両1は、各車輪に設けられたブレーキ装置(制動装置)46のブレーキキャリパにブレーキ液圧を供給するブレーキ制御システム48を備えている。ブレーキ制御システム48は、各車輪に設けられたブレーキ装置46において制動力を発生させるために必要なブレーキ液圧を生成する液圧ポンプ50を備えている。液圧ポンプ50は、例えばバッテリ24から供給される電力で駆動され、ブレーキペダルが踏み込まれていないときであっても、各ブレーキ装置46において制動力を発生させるために必要なブレーキ液圧を生成することが可能となっている。また、ブレーキ制御システム48は、各車輪のブレーキ装置46への液圧供給ラインに設けられた、液圧ポンプ50から各車輪のブレーキ装置46へ供給される液圧を制御するためのバルブユニット52(具体的にはソレノイド弁)を備えている。例えば、バッテリ24からバルブユニット52への電力供給量を調整することによりバルブユニット52の開度が変更される。また、ブレーキ制御システム48は、液圧ポンプ50から各車輪のブレーキ装置46へ供給される液圧を検出する液圧センサ54を備えている。液圧センサ54は、例えば各バルブユニット52とその下流側の液圧供給ラインとの接続部に配置され、各バルブユニット52の下流側の液圧を検出し、検出値をコントローラ8に出力する。
【0027】
ブレーキ制御システム48は、コントローラ8から入力された制動力指令値や液圧センサ54の検出値に基づき、各車輪のホイールシリンダやブレーキキャリパのそれぞれに独立して供給する液圧を算出し、それらの液圧に応じて液圧ポンプ50の回転数やバルブユニット52の開度を制御する。
【0028】
図2に示すように、本実施形態によるコントローラ8は、上述したセンサ18、31、32、34、36、38、40、42、44、54の検出信号の他、車両1の運転状態を検出する各種の運転状態センサが出力した検出信号に基づいて、エンジン4の各部(例えば、スロットルバルブ10、インジェクタ12、点火プラグ14、可変動弁機構16のほか、ターボ過給機やEGR装置等)、モータジェネレータ20、及び、ブレーキ制御システム48の液圧ポンプ50及びバルブユニット52に対する制御を行うべく、制御信号を出力する。
【0029】
コントローラ8は、それぞれ、1つ以上のプロセッサ、当該プロセッサ上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを記憶するためのROMやRAMの如き内部メモリを備えるコンピュータにより構成される。
【0030】
このようなコントローラ8は、本発明における「制御器」に相当する。また、エンジン4、モータジェネレータ20、ベルト19、操舵装置26、操舵角センサ34、及びコントローラ8を含むシステムは、本発明における「車両システム」に相当する。更に、コントローラ8は、本発明における「車両の制御装置」に相当し、「減速トルク設定手段」、「回生遅れ量設定手段」、「トルク低減量設定手段」及び「減速トルク発生手段」として機能する。
【0031】
<車両姿勢制御>
次に、本発明の実施形態による車両姿勢制御について説明する。まず、
図3を参照して、この車両姿勢制御の全体的な流れについて説明する。
図3は、本発明の実施形態による車両姿勢制御処理のフローチャートである。
【0032】
図3の車両姿勢制御処理は、車両1のイグニッションがオンにされ、車両システムに電源が投入された場合に起動され、所定周期(例えば50ms)で繰り返し実行される。
【0033】
車両姿勢制御処理が開始されると、
図3に示すように、ステップS101において、コントローラ8は車両1の運転状態に関する各種センサ情報を取得する。具体的には、コントローラ8は、バッテリ温度センサ31が検出したバッテリ温度、電流センサ32が検出した電流、操舵角センサ34が検出した操舵角、アクセル開度センサ36が検出したアクセル開度、ブレーキ踏込量センサ38が検出したブレーキペダル踏込量、車速センサ40が検出した車速、ヨーレートセンサ42が検出したヨーレート、加速度センサ44が検出した加速度、エンジン回転数センサ18が検出したエンジン回転数、液圧センサ54が検出した液圧、車両1の変速機6に現在設定されているギヤ段等を含む、上述した各種センサが出力した検出信号を運転状態に関する情報として取得する。
【0034】
次に、ステップS102において、コントローラ8は、ステップS101において取得された車両1の運転状態に基づき、目標加速度を設定する。具体的には、コントローラ8は、種々の車速及び種々のギヤ段について規定された加速度特性マップ(予め作成されてメモリなどに記憶されている)の中から、現在の車速及びギヤ段に対応する加速度特性マップを選択し、選択した加速度特性マップを参照して現在のアクセル開度に対応する目標加速度を設定する。
【0035】
次に、ステップS103において、コントローラ8は、ステップS102において設定した目標加速度を実現するために、車両1に付加すべき基本トルクを設定する。そして、コントローラ8は、この目標加速度に応じた基本トルクに基づき、エンジン4及びモータジェネレータ20のそれぞれが発生すべき基本エンジントルク及び基本MGトルクを決定する。原則、基本エンジントルクと基本MGトルクとを加算したトルクが基本トルクとなる。コントローラ8は、現在の車速、ギヤ段、路面勾配、路面μなどに基づき、エンジン4及びモータジェネレータ20が出力可能なトルクの範囲内で、基本エンジントルク及び基本MGトルクを決定する。典型的な例では、コントローラ8は、エンジントルクのみによって目標加速度を実現すべく、基本MGトルクを0に設定し、基本トルクをそのまま基本エンジントルクに設定する。
【0036】
また、ステップS102及びS103の処理と並行して、ステップS104において、コントローラ8は、ステアリング操作に基づき車両1に減速度を付加するためのトルク(減速トルク)を設定する減速トルク設定処理を実行する。本実施形態では、コントローラ8は、操舵装置26の操舵角が増加したときに、つまりステアリング28が切り込み操作されたときに、基本トルクを減速トルクだけ低減させることで、車両1に減速度(付加減速度)を付加することにより車両姿勢を制御するようにする。
【0037】
ここで、
図4及び
図5を参照して、本発明の実施形態における減速トルク設定処理について説明する。
図4は、本発明の実施形態による減速トルク設定処理のフローチャートであり、
図5は、本発明の実施形態による付加減速度と操舵速度との関係を示したマップである。
【0038】
減速トルク設定処理が開始されると、ステップS11において、コントローラ8は、操舵装置26の操舵角(絶対値)が増加している(即ちステアリングホイール28の切り込み操作中)か否かを判定する。その結果、操舵角が増加している場合(ステップS11:Yes)、ステップS12に進み、コントローラ8は、操舵速度が所定の閾値S
1以上か否かを判定する。即ち、コントローラ8は、
図3のステップS101において操舵角センサ34から取得した操舵角に基づき操舵速度を算出し、その値が閾値S
1以上か否かを判定する。
【0039】
その結果、操舵速度が閾値S1以上である場合(ステップS12:Yes)、ステップS13に進み、コントローラ8は、操舵速度に基づき付加減速度を設定する。この付加減速度は、ドライバの意図に沿って車両姿勢を制御するために、ステアリング操作に応じて車両1に付加すべき減速度である。
【0040】
具体的には、コントローラ8は、
図5のマップに示す付加減速度と操舵速度との関係に基づき、ステップS12において算出した操舵速度に対応する付加減速度を設定する。
図5における横軸は操舵速度を示し、縦軸は付加減速度を示す。
図5に示すように、操舵速度が閾値S
1以下である場合、対応する付加減速度は0である。即ち、操舵速度が閾値S
1以下である場合、コントローラ8は、ステアリング操作に基づき車両1に減速度を付加するための制御を実行しない。
【0041】
一方、操舵速度が閾値S1を超えている場合には、操舵速度が増大するに従って、この操舵速度に対応する付加減速度は、所定の上限値Dmaxに漸近する。即ち、操舵速度が増大するほど付加減速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。この上限値Dmaxは、ステアリング操作に応じて車両1に減速度を付加しても、制御介入があったとドライバが感じない程度の減速度に設定される(例えば0.5m/s2≒0.05G)。さらに、操舵速度が閾値S1よりも大きい閾値S2以上の場合には、付加減速度は上限値Dmaxに維持される。
【0042】
次に、ステップS14において、コントローラ8は、ステップS13で設定した付加減速度に基づき、減速トルクを設定する。具体的には、コントローラ8は、基本トルクの低減により付加減速度を実現するために必要となる減速トルクを、
図3のステップS101において取得された現在の車速、ギヤ段、路面勾配等に基づき決定する。ステップS14の後、コントローラ8は減速トルク設定処理を終了し、メインルーチンに戻る。
【0043】
また、ステップS11において操舵角が増加していない場合(ステップS11:No)、又は、ステップS12において操舵速度が閾値S
1未満である場合(ステップS12:No)、コントローラ8は、減速トルクの設定を行うことなく減速トルク設定処理を終了し、
図3のメインルーチンに戻る。この場合、減速トルクは0となる。
【0044】
図3に戻ると、ステップS102及びS103の処理並びにステップS104の低減トルク設定処理を実行した後、コントローラ8は、ステップS105に進む。ステップS105において、コントローラ8は、ステップS103において設定した基本エンジントルクを、エンジン4から最終的に発生させるべき最終目標エンジントルクに設定する。次いで、ステップS106において、コントローラ8は、ステップS103において設定した基本MGトルクからステップS104において設定した減速トルクを減算したトルクを、モータジェネレータ20から最終的に発生させるべき最終目標MGトルクに設定する。上述した例のように基本MGトルクを0に設定した場合には、最終目標MGトルクは減速トルクそのものに対応するトルクとなり、また、最終目標MGトルクは負のトルクとなる。この負のトルクは、モータジェネレータ20の回生により発生するトルク(回生トルク)に相当する。
【0045】
次いで、ステップS107において、コントローラ8は、モータジェネレータ20による回生の遅れ量(回生遅れ量)を推定する。ここで、
図6を参照して、モータジェネレータ20の回生遅れに関して具体的に説明する。
【0046】
図6は、横軸に時間を示し、縦軸にモータジェネレータ20の回生トルクを示している。
図6において、実線は、モータジェネレータ20に対して指令した回生トルク(つまり目標回生トルク)の例を示しており、複数の破線は、それぞれ、この目標回生トルクに応じてモータジェネレータ20が実際に発生した回生トルク(つまり実回生トルク)の例を示している。破線に示すように、モータジェネレータ20の実回生トルクが目標回生トルクに対して遅れて発生する場合がある。この場合における目標回生トルクに対する実回生トルクの差が回生遅れ量(絶対値で表すものとする)に相当する。
図6に示すように、回生遅れ量は時間経過に伴って徐々に減少していき、最終的には0になる。
【0047】
このようなモータジェネレータ20の回生遅れは、モータジェネレータ20とエンジン4とを連絡するゴム製のベルト19の状態、具体的には伸びや張りなどに起因するものである。特に、モータジェネレータ20の回生遅れ量は、モータジェネレータ20の発電状態や、ベルト19の温度や、車両1の製造時からの経過時間などに応じて変わる。具体的には、モータジェネレータ20が回生を行っていない状態から回生を開始するときには、モータジェネレータ20が既に回生を行っている状態から回生を開始するときと比較して、ベルト19が弛んだ状態(換言するとベルト19の張りが弱い状態)になっているので、回生遅れ量が大きくなる。また、ベルト19の温度が高くなるほど、ベルト19の伸びが大きくなるため、回生遅れ量が大きくなる。また、車両1の製造時からの経過時間が短いほど、ベルト19の伸びが大きくなるため、回生遅れ量が大きくなる(逆に、当該経過時間が長くなるほど、経年劣化によってベルト19の伸びが小さくなるため、回生遅れ量は小さくなる)。
【0048】
ここで、車両姿勢制御において減速トルクを実現する手法として、点火プラグ14の点火時期の遅角(点火リタード)によりエンジン4のトルクを低減させることで、車両1に減速トルクを発生される手法と、モータジェネレータ20に回生を行わせて車両1に回生トルク(制動トルク)を付加することで、車両1に減速トルクを発生される手法がある。点火リタードによりエンジン4のトルクを低減させる手法は、減速トルクを車両1に速やかに発生させることができるが、モータジェネレータ20に回生を行わせる手法と比較すると燃費の悪化などが生じてしまう。しかしながら、モータジェネレータ20に回生を行わせる手法では、上述したようにベルト19の伸びなどにより回生が遅れることで、減速トルクを車両1に速やかに発生させることができない場合がある。
【0049】
したがって、本実施形態では、コントローラ8は、基本的には、車両姿勢制御における減速トルクをモータジェネレータ20の回生のみによって発生させるようにするが、モータジェネレータ20の回生遅れが生じている間については、モータジェネレータ20の回生に加えて、エンジン4のトルク低減によって、減速トルクを発生させるようにする。すなわち、コントローラ8は、回生遅れが生じている期間は、点火リタードによるエンジン4のトルク低減及びモータジェネレータ20の回生の両方によって減速トルクを発生させるようにし、回生遅れが無くなった後は、モータジェネレータ20の回生のみによって減速トルクを発生させるようにする。こうすることで、燃費の悪化などをできるだけ抑制しつつ、車両姿勢制御による適切な減速度付加を確保するようにする。
【0050】
具体的には、コントローラ8は、モータジェネレータ20の回生遅れ量に対応する減速トルクの不足分を、点火リタードによるエンジン4のトルク低減によって発生させるようにする。より詳しくは、コントローラ8は、モータジェネレータ20の回生遅れ量が大きいときには、回生遅れ量が小さいときよりも、エンジン4のトルク低減量(絶対値)を大きくする。また、コントローラ8は、時間経過に伴って回生遅れ量が小さくなるに従って、エンジン4のトルク低減量(絶対値)を減少させていく。そして、コントローラ8は、回生遅れ量が0になったときにエンジン4のトルク低減量を0に設定し、これ以降はモータジェネレータ20の回生のみによって減速トルクを発生させるようにする。
【0051】
更に、本実施形態では、コントローラ8は、上述したような制御を行うに当たって用いる回生遅れ量を、モータジェネレータ20の発電状態、ベルト19の温度、及び車両1の製造時からの経過時間のうちの少なくとも1つに基づき推定する(
図3のステップS107)。具体的には、コントローラ8は、モータジェネレータ20の発電状態として、モータジェネレータ20が回生を行っているか否かを判定する。この場合、コントローラ8は、モータジェネレータ20が回生を行っていないときには、モータジェネレータ20が回生を行っているときよりも、回生遅れ量を大きく設定する。例えば、このようなモータジェネレータ20の発電状態は、電流センサ32の出力値に基づいて判定すればよい。更に、コントローラ8は、バッテリ温度センサ31によって検出されたバッテリ温度をベルト19の温度として代用して(バッテリ温度センサ31はエンジンルーム内に設けられているため、当該センサ31により検出された温度を、同じくエンジンルーム内に設けられたベルト19の温度として代用できる)、この温度が高くなるほど、回生遅れ量を大きく設定する。更に、コントローラ8は、車両1の製造時からの経過時間が短いほど、回生遅れ量を大きく設定する。コントローラ8は、車両1の製造時からの経過時間を随時記憶するようになっており、そのように記憶した経過時間に基づき回生遅れ量を設定する。
1つの例では、モータジェネレータ20の発電状態、ベルト19の温度、及び車両1の製造時からの経過時間のうちの少なくとも1つに対して、モータジェネレータ20の回生遅れ量を対応付けたマップ(
図6に示すようなもの)を事前に作成しておき、コントローラ8は、そのようなマップを利用して回生遅れ量を設定すればよい。
【0052】
このようなステップS107の後、コントローラ8は、ステップS108に進み、ステップS107で得られた回生遅れ量が0でないか否か、つまりモータジェネレータ20の回生遅れが発生しているか否かを判定する。その結果、回生遅れ量が0でないと判定された場合(ステップS108:Yes)、コントローラ8は、ステップS109に進み、回生遅れ量に基づき、減速トルクが発生するように最終目標エンジントルクを補正する。すなわち、コントローラ8は、モータジェネレータ20の回生遅れ量に対応する減速トルクの不足分を、エンジン4のトルク低減によって発生させるように、最終目標エンジントルクを低減する補正を行う。具体的には、コントローラ8は、回生遅れ量が大きいほど、補正による最終目標エンジントルクの低減量(絶対値)を大きくする。また、コントローラ8は、時間経過に伴って回生遅れ量が小さくなるに従って、補正による最終目標エンジントルクの低減量(絶対値)を小さくしていく。そして、コントローラ8は、回生遅れ量が0になったときに、補正による最終目標エンジントルクの低減量を0に設定する。
【0053】
他方で、ステップS108において回生遅れ量が0でないと判定されなかった場合(ステップS108:No)、つまりモータジェネレータ20の回生遅れが発生していない場合、コントローラ8は、ステップS110に進む。この場合には、コントローラ8は、上記のステップS109のように回生遅れ量に基づく最終目標エンジントルクの補正を行わない(ステップS110)。
【0054】
このようなステップS109又はS110の後、コントローラ8は、ステップS111に進み、これまでに設定された最終目標エンジントルク及び最終目標MGトルクに基づき、アクチュエータ制御量を設定する。具体的には、コントローラ8は、最終目標エンジントルク及び最終目標MGトルクに基づき、これら最終目標トルクを実現するために必要となる各種状態量を決定し、それらの状態量に基づき、エンジン4及びモータジェネレータ20の各構成要素を駆動する各アクチュエータの制御量を設定する。この場合、コントローラ8は、状態量に応じた制限値や制限範囲を設定し、状態値が制限値や制限範囲による制限を遵守するような各アクチュエータの制御量を設定する。続いて、ステップS112において、コントローラ8は、ステップS111において設定した制御量に基づき各アクチュエータへ制御指令を出力する。
【0055】
具体的には、ステップS112において、コントローラ8は、ステップS106で設定された最終目標MGトルクが発生するように、インバータ22を介してモータジェネレータ20を制御する。基本的には、コントローラ8は、モータジェネレータ20により回生発電を行わせることで、減速トルク(典型的な例ではステップS106において減速トルクがそのまま最終目標MGトルクに設定される)に対応する回生トルクが発生するように、インバータ指令値(制御信号)を設定してインバータ22に出力する。
【0056】
また、ステップS112において、コントローラ8は、ステップS105で設定された最終目標エンジントルク又はステップS109で補正された最終目標エンジントルクが発生するように、エンジン4を制御する。特に、ステップS109で最終目標エンジントルクが補正された場合、つまり回生遅れ量に対応する減速トルクの不足分をエンジン4のトルク低減によって発生させる場合には、コントローラ8は、点火プラグ14の点火時期を遅角(点火リタード)させて、エンジン4のトルクを低減させるようにする。具体的には、コントローラ8は、点火プラグ14の点火時期を、基本エンジントルクを発生させるための点火時期よりも遅角させる。なお、点火時期の遅角に代えて、あるいはそれと共に、コントローラ8は、スロットル開度を小さくしたり、下死点後に設定されている吸気弁の閉時期を遅角させたりすることによって、吸入空気量を減少させてもよい。この場合、コントローラ8は、所定の空燃比が維持されるように、吸入空気量の増加に対応して、インジェクタ12による燃料噴射量を減少させるのがよい。
【0057】
以上のステップS112の後、コントローラ8は、車両姿勢制御処理を終了する。
【0058】
<作用及び効果>
次に、
図7を参照して、本発明の実施形態による作用について説明する。
図7は、本発明の実施形態による車両姿勢制御を行った場合の作用を説明するためのタイムチャートである。
図7は、上から順に、操舵装置26の操舵角、操舵装置26の操舵速度、車両1に付加すべき付加減速度、エンジン4の最終目標エンジントルク、モータジェネレータ20の最終目標MGトルク、点火プラグ14の点火時期、モータジェネレータ20のトルク(基本的には回生トルク)、を示している。
【0059】
まず、時刻t1において、ドライバがステアリング28の切り込み操作を開始すると、操舵角及び操舵速度が増加する。操舵速度がS
1以上になると、上述した減速トルク設定処理において、付加減速度及び減速トルクの設定が行われる(
図4のステップS11~S14)。すなわち、
図7の矢印A1に示すように操舵速度に基づき付加減速度が設定され(
図4のステップS13、
図5参照)、設定された付加減速度を実現するために必要な減速トルクが設定される(
図4のステップS14)。そして、矢印A2に示すように、この減速トルクに基づき最終目標MGトルクが設定される(
図3のステップS106)。具体的には、減速トルクに対応する回生トルクが最終目標MGトルクとして設定される。
【0060】
また、時刻t1では、最終目標MGトルクに対して、矢印A3に示すようなモータジェネレータ20の回生遅れ量が推定されて(
図3のステップS107)、この回生遅れ量に基づき、矢印A4に示すように最終目標エンジントルクを低減する補正が行われる(
図3のステップS108:Yes→ステップS109)。そして、こうして最終目標エンジントルクが補正された分だけ、矢印A5に示すように点火時期が遅角されて(
図3のステップS111、S112)、エンジン4のトルクが低減される。
【0061】
この後、時間経過に伴って回生遅れ量が小さくなるに従って(矢印A3参照)、最終目標エンジントルクの低減側への補正量が小さくなり(矢印A4参照)、点火時期の遅角量も小さくなる(矢印A5参照)。そして、時刻t2において、回生遅れ量が0になり、最終目標エンジントルクの補正及び点火時期の遅角が終了される(
図3のステップS108:No→ステップS110、S111,S112)。
【0062】
この後、時刻t3より、操舵角が一定値となり、減速トルク設定処理において付加減速度及び減速トルクの設定が行われなくなる(
図4のステップS11:No)。したがって、車両姿勢制御が実質的に終了する。この場合、付加減速度、最終目標MGトルク及びモータジェネレータ20のトルク(回生トルク)が0になる。
【0063】
次に、上述した本発明の実施形態による効果について説明する。本実施形態では、コントローラ8は、モータジェネレータ20とエンジン4とを連絡するベルト19の伸びなどに起因する回生遅れが生じている間は、モータジェネレータ20の回生に加えて、エンジン4のトルク低減によって、減速トルクを発生させるようにする。特に、コントローラ8は、モータジェネレータ20の回生遅れ量に基づいて、エンジン4のトルク低減量を設定する。これにより、モータジェネレータ20の回生遅れ量に対応する減速トルクの不足分を、エンジン4のトルク低減によって適切に発生させることができる、つまり回生遅れに起因する減速トルクの不足分をエンジン4のトルク低減にて補完することができる。したがって、本実施形態によれば、ベルト19の伸びなどに起因するモータジェネレータ20の回生遅れによらずに、車両姿勢制御において所望の減速度を適切に車両1に付加することができる。
【0064】
また、本実施形態によれば、コントローラ8は、モータジェネレータ20の回生遅れ量が大きいときは、回生遅れ量が小さいときよりも、エンジン4のトルク低減量を大きくするので、回生遅れ量に応じた量だけ、エンジン4のトルクを適切に低減することができる。よって、回生遅れに起因する減速トルクの不足分をエンジン4のトルク低減にて確実に補完することができる。
【0065】
また、本実施形態によれば、コントローラ8は、モータジェネレータ20の回生遅れ量が小さくなるに従って、エンジン4のトルク低減量を小さくするので、エンジン4のトルクを無駄に低減してしまうことを防止できる。よって、燃費の悪化を抑制することができる。
【0066】
また、本実施形態では、コントローラ8は、モータジェネレータ20の回生遅れ量が0になったときに、エンジン4のトルク低減量を0に設定し、モータジェネレータ20の回生によって減速トルクを発生させるようにする。これにより、モータジェネレータ20の回生遅れ量が0になった後は、回生のみによって減速トルクを発生させることで、燃費を確保することができる。
【0067】
また、本実施形態では、コントローラ8は、モータジェネレータ20の発電状態、ベルト19の温度、及び車両1の製造時からの経過時間のうちの少なくとも1つに基づき、回生遅れ量を設定する。これにより、回生遅れ量を精度良く設定することができる。
【0068】
<変形例>
以下では、上述した実施形態の変形例について説明する。
【0069】
(変形例1)
上述した実施形態では、モータジェネレータ20の発電状態、ベルト19の温度、及び車両1の製造時からの経過時間のうちの少なくとも1つに基づき、モータジェネレータ20の回生遅れ量を推定により得ていたが、他の例では、モータジェネレータ20の回生遅れ量を検出により得てもよい。
【0070】
図8は、本発明の実施形態の変形例による車両姿勢制御処理のフローチャートである。ここでは、上述した実施形態と異なる部分のみを説明する。つまり、ここで特に説明しない構成等については、上述した実施形態と同様であるものとする。
【0071】
図8のステップS201~S206、S208~S212の処理は、
図3のステップS101~S106、S108~S112の処理と同一であり、ステップS207の処理がステップS107の処理と異なる。このステップS207では、コントローラ8は、モータジェネレータ20の回生遅れ量を検出する。具体的には、コントローラ8は、電流センサ32によって検出された電流に基づき、モータジェネレータ20の回生遅れ量を設定する。電流センサ32によって検出された電流は、モータジェネレータ20による発電電力(回生電力)に相当する。コントローラ8は、このような電流センサ32の検出信号に対応する回生電力と、最終目標MGトルク(実質的に減速トルクに相当する)に対応する回生電力との差、つまり目標の回生電力と実際の回生電力との差に基づき、モータジェネレータ20の回生遅れ量を設定する。例えば、コントローラ8は、所定のマップや演算式などを用いて、これらの回生電力の差に応じた回生遅れ量を設定する。
【0072】
このような変形例によれば、モータジェネレータ20による実際の発電電力(回生電力)を検出することで、モータジェネレータ20による回生遅れ量を精度良く設定することができる。
【0073】
(変形例2)
上述した実施形態では、ベルト19を本発明における「巻き掛け部材」の一例として示したが、他の例では、そのようなベルト19の代わりに、チェーンなどを巻き掛け部材として用いてもよい。また、上述した実施形態では、発電機及び電動機の両方の機能を有するモータジェネレータ20を本発明における「発電機」の一例として示したが、他の例では、そのようなモータジェネレータ20の代わりに、発電機そのものを用いてもよい。
【0074】
(変形例3)
上述した実施形態では、操舵角及び操舵速度に基づき車両姿勢制御を実行していたが、他の例では、操舵角及び操舵速度の代わりに、ヨーレートや横加速度やヨー加速度や横ジャークに基づき車両姿勢制御を実行してもよい。
【符号の説明】
【0075】
1車両
2 車輪(前輪)
4 エンジン
6 変速機
8 コントローラ
12 インジェクタ
14 点火プラグ
19 ベルト
20 モータジェネレータ
26 操舵装置
28 ステアリング
31 バッテリ温度センサ
32 電流センサ
34 操舵角センサ
36 アクセル開度センサ
40 車速センサ