(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】自動変速機の制御装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/02 20060101AFI20220530BHJP
F16H 59/04 20060101ALI20220530BHJP
F16H 61/18 20060101ALI20220530BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/04
F16H61/18
(21)【出願番号】P 2019016785
(22)【出願日】2019-02-01
【審査請求日】2021-01-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】柴田 哲孝
(72)【発明者】
【氏名】竹川 公介
(72)【発明者】
【氏名】肥後 公則
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-232093(JP,A)
【文献】特開2000-27982(JP,A)
【文献】特開2008-261440(JP,A)
【文献】特開2009-121655(JP,A)
【文献】特開2009-168197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00-61/12,61/16-61/24
61/66-61/70,63/40-63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動変速機の制御装置であって、
前記自動変速機を手動で変速させるためにドライバにより操作されるスイッチと、
車両の走行状態に応じて自動で変速を行うための自動変速モードと、前記スイッチの操作に応じて手動で変速を行うための手動変速モードとを備え、これらの変速モードに応じて前記自動変速機を制御するよう構成されたコントローラと、
を有し、
前記コントローラは、変速モードが前記自動変速モードから前記手動変速モードに遷移するときに、複数段シフトダウンさせるように前記自動変速機を制御し、変速モードが前記手動変速モードに遷移した後は、前記スイッチの操作に応じて1段ずつシフトダウンさせるように前記自動変速機を制御するよう構成され、
前記コントローラは、更に、
変速モードが前記自動変速モードである場合に前記スイッチが操作されたときに、変速モードを前記自動変速モードから前記手動変速モードに遷移させると共に、このスイッチの操作に応じて複数段シフトダウンさせるように前記自動変速機を制御し、
変速モードを前記手動変速モードに遷移させた後に前記スイッチが操作されたときに、このスイッチの操作に応じて1段シフトダウンさせるように前記自動変速機を制御するよう構成されている、
ことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記コントローラは、変速モードが前記自動変速モードから前記手動変速モードに遷移するときに、ドライバによりアクセルペダルが操作されている場合には、前記複数段シフトダウンを禁止するよう構成されている、請求項1に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記コントローラは、変速モードが前記自動変速モードから前記手動変速モードに遷移するときに、ドライバによりブレーキペダルが操作されていない場合には、前記複数段シフトダウンを禁止するよう構成されている、請求項1又は2に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項4】
前記コントローラは、変速モードが前記自動変速モードから前記手動変速モードに遷移するときに、当該自動変速モードにより前記自動変速機がシフトダウンされている場合には、前記複数段シフトダウンを禁止するよう構成されている、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項5】
自動で変速を行うためのDレンジと手動で変速を行うためのMレンジとを備えた自動変速機の制御装置であって、
前記自動変速機を手動で変速させるためにドライバにより操作されるスイッチと、
前記Dレンジにおいて車両の走行状態に応じて自動で変速を行うための自動変速モードと、前記Dレンジにおいて前記スイッチが操作された場合に当該スイッチの操作に応じて一時的に手動で変速を行うための第1の手動変速モードと、前記Mレンジにおいて前記スイッチの操作に応じて継続的に手動で変速を行うための第2の手動変速モードと、を備え、これらの変速モードに応じて前記自動変速機を制御するよう構成されたコントローラと、
を有し、
前記コントローラは、
変速モードが前記第1の手動変速モードに遷移するときには、複数段シフトダウンさせるように前記自動変速機を制御し、変速モードが前記第1の手動変速モードに遷移した後は、前記スイッチの操作に応じて1段ずつシフトダウンさせるように前記自動変速機を制御するよう構成され、
変速モードが前記第2の手動変速モードに遷移するときには、前記複数段シフトダウンを制限するよう構成されている、
ことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項6】
前記コントローラは、変速モードが前記自動変速モードから前記第2の手動変速モードに遷移するときに、ドライバによりアクセルペダルが操作されておらず、且つドライバによりブレーキペダルが操作されている場合には、前記複数段シフトダウンを許可するように構成されている、請求項
5に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項7】
前記コントローラは、変速モードが前記自動変速モードから前記第2の手動変速モードに遷移するときに、当該自動変速モードにより前記自動変速機がシフトダウンされている場合には、前記複数段シフトダウンを禁止するように構成されている、請求項
5又は6に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項8】
前記コントローラは、変速モードが前記第1の手動変速モードから前記第2の手動変速モードに遷移するときには、変速モードの遷移の前後において変速段を維持し、前記自動変速機をシフトダウンさせないように構成されている、請求項
5乃至7のいずれか一項に記載の自動変速機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動で変速を行う自動変速モードに加えて、ドライバの操作に応じて手動で変速を行う手動変速モードを備えた自動変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両用の自動変速機として、走行状態に応じて変速段を自動的に切り替える自動変速モードと、ドライバの手動操作によって変速段を切り替える手動変速モードとを備えたものが知られている。また、近年の自動変速機においては、燃費向上などの観点から、多段化(細分化)された変速段(例えば6速以上の変速段)を有するものが主流となっている。
【0003】
このように多段化された変速段を有する自動変速機においては、1段ごとのギヤ比の差が小さいので、急加速時や坂路走行時などにおいて大きなトルクやエンジンブレーキが要求される場合には、複数段の変速を行うことが望ましい。例えば、降坂路走行時において所望のエンジンブレーキを得るためには、2段以上のシフトダウンを行うことが望ましい。しかしながら、上述した手動変速モードの設定中においては、ドライバは、このような複数段の変速を行うに当たって、変速段を切り替えるための操作を短時間に連続して複数回行う必要がある、つまりドライバは煩雑な操作を行う必要がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、上述したような問題に対処するための技術が開示されている。具体的には、この特許文献1には、手動変速モードにおいて、シフトレバーによりマニュアルダウンシフトが操作されたときに、自動変速モードの変速段数(例えば8速)より少ない変速段数(例えば5速)の飛び変速モードによりシフトダウンする技術が開示されている。こうすることで、操作の煩雑さを抑制して、迅速なシフトダウンの実現を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1に記載された技術では、手動変速モードの飛び変速モードにおいては、ドライバが変速段を切り替えるために行った操作の回数が、自動変速機において実際に切り替えられた変速段数と対応しない。すなわち、ドライバが行った操作回数が1回であるのに対して、自動変速機が2段以上シフトダウンされる。その結果、ドライバが変速操作を介して認識している変速段が、自動変速機に実際に設定された変速段と一致しなくなり、ドライバに違和感を与えてしまう。一般的に、手動変速モードにおいては、自動変速機に現在設定されている変速段がインストルメントパネルなどに表示されるため、ドライバは、この表示を見て自動変速機に実際に設定されている変速段を認識し、そして、この実際の変速段が変速操作に応じた変速段と一致しないことに気付くのである。
【0007】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、変速モードが遷移するときに、煩雑な操作を伴わずに迅速にシフトダウンできると共に、ドライバが認識している変速段と実際の変速段との不一致を適切に抑制できる自動変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、自動変速機の制御装置であって、自動変速機を手動で変速させるためにドライバにより操作されるスイッチと、車両の走行状態に応じて自動で変速を行うための自動変速モードと、スイッチの操作に応じて手動で変速を行うための手動変速モードとを備え、これらの変速モードに応じて自動変速機を制御するよう構成されたコントローラと、を有し、コントローラは、変速モードが自動変速モードから手動変速モードに遷移するときに、複数段シフトダウンさせるように自動変速機を制御し、変速モードが手動変速モードに遷移した後は、スイッチの操作に応じて1段ずつシフトダウンさせるように自動変速機を制御する構成され、コントローラは、更に、変速モードが自動変速モードである場合にスイッチが操作されたときに、変速モードを自動変速モードから手動変速モードに遷移させると共に、このスイッチの操作に応じて複数段シフトダウンさせるように自動変速機を制御し、変速モードを手動変速モードに遷移させた後にスイッチが操作されたときに、このスイッチの操作に応じて1段シフトダウンさせるように自動変速機を制御するよう構成されている、ことを特徴とする。
【0009】
このように構成された本発明では、自動変速モードから手動変速モードへの遷移時に複数段(2段以上)シフトダウンするので、煩雑な操作を行うことなく、迅速にシフトダウンすることができる。その結果、ドライバの加減速要求、特に要求減速度を効果的に実現することが可能となる。
【0010】
また、本発明によれば、手動変速モードへの遷移時における複数段シフトダウンによりドライバに与える違和感を適切に抑制できる。すなわち、基本的には、ドライバは、複数段シフトダウン前における自動変速モードでの変速段を認識していないため、手動変速モードへの遷移時に複数段シフトダウンされたと認知することはないので、自動変速モードから手動変速モードへの遷移時において、ドライバが認識している変速段と実際の変速段との不一致による違和感を抑制できるのである。より具体的には、1回しか操作を行っていないのに変速段が2段以上切り替わったという違和感をドライバに与えることを抑制できる。
【0011】
更に、本発明によれば、手動変速モードにおいてはドライバが変速段を認識可能であることから、手動変速モードへの遷移後には、スイッチの操作に応じて1段ずつシフトダウンさせるので、このスイッチの操作によりドライバが認識している変速段と実際の変速段とを適切に一致させることができ、ドライバに与える違和感を確実に抑制できる。
【0012】
以上より、本発明によれば、変速モードが遷移するときに、煩雑な操作を伴わずに迅速にシフトダウンできると共に、ドライバが認識している変速段と実際の変速段との不一致を適切に抑制できる。
また、本発明において、好ましくは、コントローラは、変速モードが自動変速モードである場合にスイッチが操作されたときに、変速モードを自動変速モードから手動変速モードに遷移させると共に、このスイッチの操作に応じて複数段シフトダウンさせるように自動変速機を制御し、変速モードを手動変速モードに遷移させた後にスイッチが操作されたときに、このスイッチの操作に応じて1段シフトダウンさせるように自動変速機を制御するよう構成されているのがよい。
【0013】
本発明において、好ましくは、コントローラは、変速モードが自動変速モードから手動変速モードに遷移するときに、ドライバによりアクセルペダルが操作されている場合には、複数段シフトダウンを禁止するよう構成されている。
アクセルペダルが踏み込まれている場合に複数段シフトダウンを実施してもほとんど効果が得られないので、本発明によれば、そのような状況での無駄な複数段シフトダウンの実施を確実に抑制できる。加えて、アクセルペダルが踏み込まれている場合、基本的には減速が要求されていないので、本発明によれば、この場合に複数段シフトダウンを禁止することで、ドライバが意図していない減速度の発生を適切に抑制できる。
【0014】
本発明において、好ましくは、コントローラは、変速モードが自動変速モードから手動変速モードに遷移するときに、ドライバによりブレーキペダルが操作されていない場合には、複数段シフトダウンを禁止するよう構成されている。
このように構成された本発明によれば、ドライバがブレーキペダルを踏み込んでいない場合、つまりドライバが減速要求していない場合に複数段シフトダウンを禁止するので、ドライバが意図していない大きな減速度の発生を適切に抑制できる。
【0015】
本発明において、好ましくは、コントローラは、変速モードが自動変速モードから手動変速モードに遷移するときに、当該自動変速モードにより自動変速機がシフトダウンされている場合には、複数段シフトダウンを禁止するよう構成されている。
このように構成された本発明によれば、変速モードを遷移するときに自動変速モードによるシフトダウンが実施されている場合には、複数段シフトダウンを禁止するので、過剰なシフトダウンの実施(つまり自動変速モードによるシフトダウンと変速モード遷移時の複数段シフトダウンの両方の実施)による過度の減速度の発生を適切に抑制できる。
【0017】
他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、自動で変速を行うためのDレンジと手動で変速を行うためのMレンジとを備えた自動変速機の制御装置であって、自動変速機を手動で変速させるためにドライバにより操作されるスイッチと、Dレンジにおいて車両の走行状態に応じて自動で変速を行うための自動変速モードと、Dレンジにおいてスイッチが操作された場合に当該スイッチの操作に応じて一時的に手動で変速を行うための第1の手動変速モードと、Mレンジにおいてスイッチの操作に応じて継続的に手動で変速を行うための第2の手動変速モードと、を備え、これらの変速モードに応じて自動変速機を制御するよう構成されたコントローラと、を有し、コントローラは、変速モードが第1の手動変速モードに遷移するときには、複数段シフトダウンさせるように自動変速機を制御し、変速モードが第1の手動変速モードに遷移した後は、スイッチの操作に応じて1段ずつシフトダウンさせるように自動変速機を制御するよう構成され、変速モードが第2の手動変速モードに遷移するときには、複数段シフトダウンを制限するよう構成されている、ことを特徴とする。
【0018】
このように構成された本発明によれば、変速モードが、自動変速機のDレンジにおいてスイッチが操作された場合に一時的に手動で変速を行うための第1の手動変速モード(後述する「ダイレクトモード」)へと遷移するときに、複数段シフトダウンを実施するので、煩雑な操作を行うことなく、迅速にシフトダウンすることができる。この場合、基本的には、ドライバは、複数段シフトダウン前における変速段を認識していないため、第1の手動変速モードへの遷移時に複数段シフトダウンされたと認知することはないので、本発明によれば、第1の手動変速モードへの遷移時において、ドライバが認識している変速段と実際の変速段との不一致による違和感を抑制できる。
【0019】
更に、本発明によれば、第1の手動変速モードにおいてはドライバが変速段を認識可能であることから、第1の手動変速モードへの遷移後にはスイッチの操作に応じて1段ずつシフトダウンさせるので、このスイッチの操作によりドライバが認識している変速段と実際の変速段とを適切に一致させることができ、ドライバに与える違和感を確実に抑制できる。
【0020】
他方で、本発明では、変速モードが、自動変速機のMレンジにおいてスイッチの操作に応じて継続的に手動で変速を行うための第2の手動変速モード(ドライバによる手動操作を優先するモードであり、後述する「マニュアルモード」)へと遷移するときには、複数段シフトダウンが自動的に実施されるのを制限するので、ドライバによる手動変速の意図を適切に優先することができる。
【0021】
本発明において、好ましくは、コントローラは、変速モードが自動変速モードから第2の手動変速モードに遷移するときに、ドライバによりアクセルペダルが操作されておらず、且つドライバによりブレーキペダルが操作されている場合には、複数段シフトダウンを許可するように構成されている。
このように構成された本発明によれば、自動変速モードから第2の手動変速モードへの遷移時であっても、アクセルペダルが操作されておらず且つブレーキペダルが操作されている場合、つまりドライバが減速要求を発している場合には、複数段シフトダウンを許可するようにする。これにより、煩雑な操作を行うことなく、迅速にシフトダウンすることができ、ドライバの要求減速度を効果的に実現可能となる。
【0022】
本発明において、好ましくは、コントローラは、変速モードが自動変速モードから第2の手動変速モードに遷移するときに、当該自動変速モードにより自動変速機がシフトダウンされている場合には、複数段シフトダウンを禁止するように構成されている。
このように構成された本発明によれば、変速モードを遷移するときに自動変速モードによるシフトダウンが実施されている場合には、複数段シフトダウンを禁止するので、過剰なシフトダウンの実施(つまり自動変速モードによるシフトダウンと変速モード遷移時の複数段シフトダウンの両方の実施)による過度の減速度の発生を適切に抑制できる。
【0023】
本発明において、好ましくは、コントローラは、変速モードが第1の手動変速モードから第2の手動変速モードに遷移するときには、変速モードの遷移の前後において変速段を維持し、自動変速機をシフトダウンさせないように構成されている。
このように構成された本発明によれば、第1の手動変速モードから第2の手動変速モードへの遷移は、手動変速モードという範疇での遷移であるので、変速段を維持してシフトダウンさせないようにすることで、ドライバによる手動変速の意図を適切に優先することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の自動変速機の制御装置によれば、変速モードが遷移するときに、煩雑な操作を伴わずに迅速にシフトダウンすることができると共に、ドライバが認識している変速段と実際の変速段との不一致を適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態による自動変速機の制御装置が適用された車両の概略構成図である。
【
図2】(a)は、本発明の実施形態によるシフトレバーの斜視図であり、(b)は、このシフトレバーの操作位置を示す平面図である。
【
図3】(a)は、本発明の実施形態によるステアリングホイールの平面図(上面図)であり、(b)は、このステアリングホイールの正面図である。
【
図4】本発明の実施形態によるメータユニットの構成図である。
【
図5】本発明の実施形態によるメータユニットにおける自動変速機用のインジケータの点灯パターンを示す。
【
図6】本発明の実施形態による自動変速機の制御装置の電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【
図7】本発明の第1実施形態による変速制御を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の第1実施形態による変速制御を実行した場合のタイムチャートである。
【
図9】本発明の第1実施形態による変速制御を実行した場合のインジケータの表示例を示す。
【
図10】本発明の第2実施形態による変速制御を示すフローチャートである。
【
図11】本発明の第3実施形態による変速制御を示すフローチャートである。
【
図12】本発明の第3実施形態の変形例による変速制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による自動変速機の制御装置について説明する。
【0027】
<全体構成>
まず、
図1を参照して、本発明の実施形態による自動変速機の制御装置が適用された車両の全体構成について説明する。
図1は、本発明の実施形態による自動変速機の制御装置が適用された車両の概略構成図である。
【0028】
図1に示すように、車両200の前部には、エンジン1と、自動変速機2と、これらエンジン1及び自動変速機2を接続するトルクコンバータ10と、を含むパワーユニットが搭載されている。また、車室内の運転席DSの側方には、自動変速機2のレンジを切り替えるためのシフトレバー3が設けられている。
【0029】
自動変速機2は、車両200の走行状態に応じて自動で変速するための自動変速モードと、ドライバのシフト操作によって手動で変速するための手動変速モードとの間で、変速モードを切り替え可能となっている。また、本実施形態では、手動変速モードとして、自動変速モードへの変更操作があるまで継続的に手動で変速を行うためのマニュアルモード(本発明における「第2の手動変速モード」に相当する)と、後述の所定操作があったときから所定条件成立により解除されるまで、一時的に手動で変速を行うためのダイレクトモード(本発明における「第1の手動変速モード」に相当する)と、を含む。
【0030】
また、車室内においては、ステアリングホイール4が運転席DSの前方に設けられ、メータユニット5がステアリングホイール4前方のインストルメントパネルに設けられている。加えて、アクセルペダル6a及びブレーキペダル6bが運転席DSの足元に設けられている。
【0031】
<シフトレバー>
次に、
図2を参照して、本発明の実施形態によるシフトレバー3の構成について説明する。
図2(a)は、シフトレバー3の斜視図であり、
図2(b)は、シフトレバー3の操作位置を示す平面図である。
【0032】
図2(a)に示すように、シフトレバー3は、ガイド部材31に設けられた一連の操作経路32に沿って操作されるようになっている。
図2(b)に示すように、この操作経路32上には、パーキングレンジ(Pレンジ)位置、リバースレンジ(Rレンジ)位置、ニュートラルレンジ(Nレンジ)位置、及びドライブレンジ(Dレンジ)位置が設けられている。基本的には、シフトレバー3がDレンジ位置に操作されたときに、自動変速機2の変速モードが自動変速モードに設定されるようになっている。
【0033】
また、Dレンジ位置の側方にはマニュアルレンジ(Mレンジ)位置33が設けられており、シフトレバー3がDレンジ位置から当該Mレンジ位置33に操作されたときに、自動変速機2の変速モードがマニュアルモードに切り替えられるようになっている。
【0034】
Mレンジ位置33は前後に長い操作領域を含んでおり、この領域における中央がシフトレバー3の中立位置とされている。シフトレバー3を中立位置から前方へ操作すると(
図2(b)の矢印A参照)、シフトダウン用のスイッチ(以下、「シフトレバーダウンスイッチ」という。)34がオンになり、自動変速機2の変速段が1段シフトダウンする。一方、シフトレバー3を中立位置から後方に操作すると(
図2(b)の矢印B方向)、シフトアップ用のスイッチ(以下、「シフトレバーアップスイッチ)という。)35がオンになり、自動変速機2の変速段が1段シフトアップする。そして、シフトレバー3は、このような操作後は中立位置に戻り、次の操作に備えるようになっている。
【0035】
<ステアリングホイールのスイッチ>
次に、
図3を参照して、本発明の実施形態によるステアリングホイール4に設けられたスイッチ(シフトスイッチ)について説明する。
図3(a)は、ステアリングホイール4の平面図(上面図)であり、
図3(b)は、ステアリングホイール4の正面図である。
【0036】
図3(a)及び
図3(b)に示すように、ステアリングホイール4は、図示しないステアリングシャフトに接続されるハブ部41と、このハブ部41からT字状に延びる3本のスポーク部42、43、44と、これらスポーク部42、43、44に支持され、ドライバによって把持されるリム部45と、を有する。
【0037】
また、左右のスポーク部42、43の裏側におけるハブ部41の所定の部位、詳しくはリム部45を握ったドライバの左右の手の親指以外の指が位置する部位の近傍に、シフトスイッチ46、47が設けられている。より具体的には、スポーク部42の裏側におけるハブ部41の部位(つまりハブ部41の左側)には、シフトダウン用のスイッチ(以下、「ステアリングダウンスイッチ」ともいう。)46が設けられている。また、スポーク部43の裏側におけるハブ部41の部位(つまりハブ部41の右側)には、シフトアップ用のスイッチ(以下、「ステアリングアップスイッチ」ともいう。)47が設けられている。ステアリングダウンスイッチ46を手前へ引き寄せ操作すると(
図3(a)の矢印A’参照)、当該スイッチ46がオンになり、自動変速機2の変速段がシフトダウンする。一方、ステアリングアップスイッチ47を手前へ引き寄せ操作すると(
図3(a)の矢印B’参照)、当該スイッチ47がオンになり、自動変速機2の変速段がシフトアップする。
【0038】
これらステアリングダウンスイッチ46及びステアリングアップスイッチ47は、以下の2つの機能を有する。第1の機能は、シフトレバー3がMレンジ位置33に操作されてマニュアルモードが選択されているときに、ステアリングダウンスイッチ46又はステアリングアップスイッチ47がオン操作されることにより、シフトレバーダウンスイッチ34及びシフトレバーアップスイッチ35の代わりに、変速段をシフトダウン又はシフトアップさせる機能である。第2の機能は、シフトレバー3がDレンジ位置に操作されて自動変速モードが選択されているときに、ステアリングダウンスイッチ46又はステアリングアップスイッチ47がオン操作されることにより、変速モードを自動変速モードからダイレクトモードに切り替えて、変速段をシフトダウン又はシフトアップさせる機能である。
【0039】
<表示システム>
次に、
図4及び
図5を参照して、本発明の実施形態による各種情報の表示システムについて説明する。
図4は、本発明の実施形態によるメータユニットの構成を示す図であり、
図5は、このメータユニットにおける自動変速機用のインジケータの要部の点灯パターンを示す図である。
【0040】
図4に示すように、メータユニット5においては、車速計51が中央のエリアに配置され、エンジン回転計52が左側のエリアに配置され、水温計53、燃料計54及び自動変速機2の状態を示すインジケータ55が右側のエリアに配置されている。
【0041】
このインジケータ55は、シフトレバー3の操作によって選択されたレンジを示すPレンジ表示器55a、Rレンジ表示器55b、Nレンジ表示器55c、及びDレンジ表示器55dを有し、また、このDレンジ表示器55dに隣接させて、「D」の文字を示すダイレクトモード表示器55e、及び「M」の文字を示すマニュアルモード表示器55fを有する。Dレンジ表示器55dは、セグメント型の表示器で構成されている。
【0042】
次に、
図5を参照して、Dレンジ表示器55d、ダイレクトモード表示器55e及びマニュアルモード表示器55fの表示態様について具体的に説明する。
【0043】
図5(a)に示すように、シフトレバー3がDレンジ位置にある自動変速モードでは、ダイレクトモード表示器55e及びマニュアルモード表示器55fが消灯し、Dレンジ表示器55dが「D」の文字を表示する。
【0044】
図5(b)に示すように、シフトレバー3がMレンジ位置にあるマニュアルモードでは、ダイレクトモード表示器55eが消灯し、マニュアルモード表示器55fが点灯すると共に、Dレンジ表示器55dが、自動変速機2に現在設定されている変速段を示す数字を表示する。
図5(b)では、「3速」の変速段の表示例を示している。
【0045】
図5(c)に示すように、シフトレバー3がDレンジ位置に操作されている状態で、ステアリングダウンスイッチ46又はステアリングアップスイッチ47がオン操作されることにより設定されるダイレクトモードでは、ダイレクトモード表示器55e及びマニュアルモード表示器55fの両方が点灯すると共に、Dレンジ表示器55dが、自動変速機2に現在設定されている変速段を示す数字を表示する。
図5(c)では、「4速」の変速段の表示例を示している。
【0046】
<コントローラ>
次に、
図6を参照して、本発明の実施形態において、自動変速機2及びインジケータ55などを制御するコントローラ100について説明する。
図6は、本発明の実施形態による自動変速機の制御装置の電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【0047】
図6に示すように、コントローラ100には、車速を検知する車速センサ101からの信号と、アクセル開度(アクセルペダル6aの踏込み量)を検知するアクセル開度センサ102からの信号と、ブレーキペダル6bの踏込み状態を検知するブレーキセンサ103からの信号と、シフトレバー3の操作位置を検知するシフト位置センサ104からの信号と、が入力されるようになっている。なお、ブレーキセンサ103としては、ブレーキペダル6bの操作/解除に応じてオン/オフするブレーキスイッチや、ブレーキペダル6bの踏込み量を検出するブレーキ踏込み量センサなどを適用すればよい。
【0048】
また、コントローラ100には、マニュアルモードでの制御のために、シフトレバーダウンスイッチ34及びシフトレバーアップスイッチ35からの信号が入力されると共に、マニュアルモード及びダイレクトモードでの制御のために、ステアリングダウンスイッチ46及びステアリングアップスイッチ47からの信号が入力されるようになっている。
【0049】
コントローラ100は、図示しない1つ以上のプロセッサ(典型的にはCPU)と、各種情報(プログラムなど)を記憶する記憶部110(典型的にはROMやRAM)などを備えたコンピュータにより構成される。特に、コントローラ100の記憶部110には、自動変速機2の変速制御やメータユニット5におけるインジケータ55の表示制御などに用いられる各種情報が記憶される。
【0050】
コントローラ100は、上述したセンサ101~104及びスイッチ34、35、46、47からの信号と記憶部110に記憶された各種情報とに基づいて変速段を設定し、その変速段を実現するように自動変速機2に変速制御信号を出力すると共に、各表示器55a~55fの表示状態を制御するための表示制御信号をインジケータ55に出力するようになっている。
【0051】
なお、コントローラ100に加えて、シフトレバーダウンスイッチ34とシフトレバーアップスイッチ35、及び/又は、ステアリングダウンスイッチ46とステアリングアップスイッチ47が、本発明における「自動変速機の制御装置」に相当する。
【0052】
<変速モードの切り替え条件>
次に、本発明の実施形態において、コントローラ100が変速モードを切り替えるときに用いる条件(切り替え条件)について説明する。
【0053】
(自動変速モードからダイレクトモードへの切り替え条件)
コントローラ100は、変速モードが自動変速モードであるときに、車速が時速10km以上で、且つステアリングダウンスイッチ46又はステアリングアップスイッチ47が操作されたという条件が成立した場合に、自動変速機2に適用する変速モードを自動変速モードからダイレクトモードへと切り替える。
【0054】
(ダイレクトモードから自動変速モードへの切り替え条件)
コントローラ100は、変速モードがダイレクトモードであるときに、以下の3つの条件(第1~第3の条件)のうちのいずれかが成立した場合に、自動変速機2に適用する変速モードをダイレクトモードから自動変速モードへと切り替える。
【0055】
まず、第1の条件は、ステアリングアップスイッチ47が長押しされた、すなわちステアリングアップスイッチ47が所定時間以上継続して引き寄せ操作されたという条件である。この第1の条件は、ドライバによるダイレクトモードの手動解除を規定する条件である。
【0056】
次に、第2の条件は、車速が時速10km未満であるという条件である。この第2の条件は、ダイレクトモードの自動解除を規定する条件である。特に、第2の条件は、車両200がほぼ停止したとみなせる状況において、変速モードをダイレクトモードから自動変速モードへと自動で切り替えるための条件である。
【0057】
次に、第3の条件は、アクセルペダル6aがオフではなく、且つ、アクセル開度が60%以上ではなく、尚且つ、コーナー走行中ではない場合において、変速モードがダイレクトモードに切り替わってからの経過時間が所定時間に達したという条件である。この第3の条件も、ダイレクトモードの自動解除を規定する条件である。特に、第3の条件は、変速モードをダイレクトモードに維持するのが不要と考えられる状況、換言すると車両200が安定状態にある場合において、変速モードをダイレクトモードから自動変速モードへと自動で切り替えるための条件である。ここでいう安定状態とは、車両200が降坂路などを走行していない場合や(逆に降坂路走行時にはアクセルペダル6aがオフとなる)、車両200が急加速していない場合や(この場合にはアクセル開度が60%未満となる)、車両姿勢がほとんど変化していない場合(典型的には車両200が直進走行している場合)などである。
【0058】
なお、上述した第3の条件において経過時間の判定に適用される所定時間は、車速に応じて変化される。具体的には、この所定時間は、アクセルペダル6aがオフからオンになったときの車速、ステアリングダウンスイッチ46又はステアリングアップスイッチ47の操作時の車速、及び、コーナー走行から直進走行への移行時の車速の少なくともいずれかに応じて設定される。例えば、所定時間は、2~8秒の間の時間に設定される。基本的には、上記の車速が高くなるほど、所定時間が長く設定される。
【0059】
(自動変速モードとマニュアルモードとの切り替え条件)
コントローラ100は、変速モードが自動変速モードであるときに、シフトレバー3がDレンジ位置からMレンジ位置33に操作されたという条件が成立した場合に(
図2(b)参照)、自動変速機2に適用する変速モードを自動変速モードからマニュアルモードへと切り替える。これに対して、コントローラ100は、変速モードがマニュアルモードであるときに、シフトレバー3がMレンジ位置33からDレンジ位置に操作されたという条件が成立した場合に、自動変速機2に適用する変速モードをマニュアルモードから自動変速モードへと切り替える。
【0060】
ここで、マニュアルモードは、アクセルペダル6aのキックダウン時に変速段を自動的にシフトダウンさせる「第1のマニュアルモード」と、キックダウンされたとしても変速段を完全に固定する「第2のマニュアルモード(ドライバによる手動操作を優先するモードである)」と、を備えていてもよい。また、これら第1及び第2のマニュアルモードは、いわゆる横滑り防止制御(DSC:Dynamic Stability Control)のオン/オフを切り替えるためのスイッチに応じて切り替えるのがよい。より具体的には、横滑り防止制御をオフにするためのDSCオフスイッチがドライバによりオフに設定された場合、すなわち横滑り防止制御が適用される場合には、マニュアルモードを第1のマニュアルモードに設定すればよく、DSCオフスイッチがドライバによりオンに設定された場合、すなわち横滑り防止制御が適用されない場合には、マニュアルモードを第2のマニュアルモードに設定すればよい。
【0061】
(ダイレクトモードからマニュアルモードへの切り替え条件)
コントローラ100は、変速モードがダイレクトモードであるときに、シフトレバー3がDレンジ位置からMレンジ位置33に操作されたという条件が成立した場合に、自動変速機2に適用する変速モードをダイレクトモードからマニュアルモードへと切り替える。
【0062】
<変速制御の実施形態>
次に、本発明においてコントローラ100が実行する変速制御の具体的な実施形態(第1乃至第3実施形態)について説明する。
【0063】
(第1実施形態)
第1実施形態においては、コントローラ100は、変速モードが自動変速モードからダイレクトモードに遷移するときに、2段シフトダウンさせるように自動変速機2を制御し、変速モードがダイレクトモードに遷移した後は、1段ずつシフトダウンさせるように自動変速機2を制御する。具体的には、コントローラ100は、変速モードが自動変速モードである場合にステアリングダウンスイッチ46が操作されたときに、変速モードを自動変速モードからダイレクトモードに遷移させると共に、このスイッチ46の操作に応じて2段シフトダウンさせるように自動変速機2を制御し、変速モードをダイレクトモードに遷移させた後にステアリングダウンスイッチ46が操作されたときに、このスイッチ46の操作に応じて1段シフトダウンさせるように自動変速機2を制御する。
【0064】
こうすることで、自動変速モードからダイレクトモードへの遷移時には、2段シフトダウンさせることで、煩雑な操作を伴わずに迅速にシフトダウンできるようにする一方で、ダイレクトモードへの遷移後には、1段ずつシフトダウンさせることで、ステアリングダウンスイッチ46の操作によりドライバが認識している変速段と自動変速機2の実際の変速段との不一致を抑制するようにする。
【0065】
図7は、本発明の第1実施形態による変速制御を示すフローチャートである。この変速制御は、コントローラ100によって、記憶部110に記憶されたプログラムに基づき、所定の周期で繰り返し実行される。
【0066】
まず、ステップS101において、コントローラ100は、ドライバの操作によってステアリングダウンスイッチ46がオンにされたか否かを判定する。その結果、ステアリングダウンスイッチ46がオンにされたと判定された場合(ステップS101:Yes)、コントローラ100は、ステップS102に進む。これに対して、ステアリングダウンスイッチ46がオンにされたと判定されなかった場合(ステップS101:No)、コントローラ100は、本フローチャートに示す一連のルーチンを抜ける。
【0067】
次いで、ステップS102において、コントローラ100は、変速モードが自動変速モードに設定されているか否かを判定する。その結果、変速モードが自動変速モードに設定されていると判定された場合(ステップS102:Yes)、コントローラ100は、ステップS103に進む。このようにしてステップS103に進んだ状況は、変速モードが自動変速モードであるときにステアリングダウンスイッチ46が操作されたという状況に相当する。
【0068】
したがって、コントローラ100は、2段シフトダウンを実施すべく、自動変速機2に現在設定されている変速段から2段下げた変速段を選択する(ステップS103)。例えば、コントローラ100は、現在の変速段が「7速」である場合には、この変速段の2段下の「5速」を選択する。そして、コントローラ100は、ステップS104に進み、ステップS103で選択した変速段にシフトダウンするように自動変速機2を制御する。この後、コントローラ100は、一連のルーチンを抜ける。
なお、上記のように変速モードが自動変速モードである場合にステアリングダウンスイッチ46が操作された場合には、
図7に示すフローチャートのルーチンとは別のルーチンにおいて、変速モードが自動変速モードからダイレクトモードに切り替えられる。
【0069】
他方で、ステップS102の結果、変速モードが自動変速モードに設定されていると判定されなかった場合(ステップS102:No)、つまり変速モードがダイレクトモード又はマニュアルモードに設定されている場合、コントローラ100は、ステップS105に進む。このようにしてステップS105に進んだ状況は、変速モードがダイレクトモード又はマニュアルモードであるときにステアリングダウンスイッチ46が操作されたという状況に相当する。
【0070】
したがって、コントローラ100は、1段シフトダウンを実施すべく、自動変速機2に現在設定されている変速段から1段下げた変速段を選択する(ステップS105)。例えば、コントローラ100は、現在の変速段が「5速」である場合には、この変速段の1段下の「4速」を選択する。そして、コントローラ100は、ステップS104に進み、ステップS105で選択した変速段にシフトダウンするように自動変速機2を制御する。この後、コントローラ100は、本フローチャートに示す一連のルーチンを抜ける。
【0071】
次に、
図8は、上述した本発明の第1実施形態による変速制御を実行した場合の各種パラメータの変化例を示すタイムチャートである。具体的には、
図8は、上から順に、ステアリングダウンスイッチ46のオン/オフ、自動変速モードのオン/オフ、ダイレクトモードのオン/オフ、自動変速機2の変速段、エンジン回転数を示している。また、
図8の横方向は時間を示している。
【0072】
更に、
図8では、第1実施形態による変速段及びエンジン回転数を実線で示し、比較例による変速段及びエンジン回転数を破線で示している。第1実施形態では、自動変速モードからダイレクトモードへの遷移時に2段シフトダウンさせるのに対して、比較例では、自動変速モードからダイレクトモードへの遷移時に1段シフトダウンさせる。第1実施形態と比較例とは、この点において異なり、ダイレクトモードへの遷移後に1段シフトダウンさせる点は共通する。
【0073】
まず、時刻t1において、ステアリングダウンスイッチ46がドライバによってオンにされる。この時刻t1では、変速モードは自動変速モードに設定されている(自動変速モードオン且つダイレクトモードオフ)。したがって、第1実施形態では、コントローラ100は、変速モードが自動変速モードであるときにステアリングダウンスイッチ46が操作されたと判定して、時刻t1において、2段シフトダウンさせるように自動変速機2を制御する。具体的には、コントローラ100は、変速段を「7速」から「5速」へシフトダウンさせる。これに対して、比較例では、変速段が「7速」から「6速」へシフトダウンされる。その結果、第1実施形態によれば、2段シフトダウンに応じて、大きくエンジン回転数が上昇するのに対して、比較例では、1段しかシフトダウンしていないので、第1実施形態よりもエンジン回転数の上昇量が小さくなる。よって、第1実施形態によれば、比較例よりも、ドライバの要求に応じた大きな減速度を発生可能となる。
【0074】
このような時刻t1の直後の時刻t2において、変速モードが自動変速モードからダイレクトモードへと切り替えられる(自動変速モードオフ且つダイレクトモードオン)。そして、時刻t3において、ステアリングダウンスイッチ46がドライバによって再度オンにされる。時刻t3では、変速モードはダイレクトモードに設定されている(自動変速モードオフ且つダイレクトモードオン)。したがって、第1実施形態では、コントローラ100は、変速モードがダイレクトモードであるときにステアリングダウンスイッチ46が操作されたと判定して、時刻t3において、1段シフトダウンさせるように自動変速機2を制御する。具体的には、コントローラ100は、変速段を「5速」から「4速」へシフトダウンさせる。比較例においても、変速段が同様にして1段シフトダウンされるが、元の変速段が「6速」であるため、「6速」から「5速」へシフトダウンされる。その結果、第1実施形態と比較例とではシフトダウンによるエンジン回転数の上昇量はほぼ同じになるが、上昇前のエンジン回転数が比較例よりも第1実施形態のほうが大きいので、上昇後のエンジン回転数も比較例よりも第1実施形態のほうが大きくなる。
【0075】
次に、
図9は、上述した本発明の第1実施形態による変速制御を実行した場合における自動変速機用のインジケータ55(Dレンジ表示器55d、ダイレクトモード表示器55e及びマニュアルモード表示器55f)の表示例を示す。
【0076】
まず、コントローラ100は、自動変速モードでは、ダイレクトモード表示器55e及びマニュアルモード表示器55fを消灯させ、Dレンジ表示器55dに「D」の文字を表示させる。この自動変速モードでは、自動変速機2の現在の変速段はインジケータ55に表示されない。なお、ここで示す例では、自動変速モード時における自動変速機2の変速段が「7速」であるものとする。
【0077】
次いで、変速モードが自動変速モードであるときにステアリングダウンスイッチ46が操作されることで、コントローラ100は、変速モードをダイレクトモードに切り替えると共に、自動変速機2を2段シフトダウンさせる、具体的には変速段を「7速」から「5速」へシフトダウンさせる。この場合、コントローラ100は、ダイレクトモード表示器55e及びマニュアルモード表示器55fを点灯させると共に、シフトダウンさせた「5速」に対応する「5」の数字をDレンジ表示器55dに表示させる。
【0078】
ここで、自動変速モードでは変速段が表示されていないので、ドライバは、自動変速モードにおいては自動変速機2の変速段を認識していない。したがって、上述したように自動変速モードからダイレクトモードへの遷移時に2段シフトダウンさせた変速段を表示させても、ドライバは、この2段シフトダウン前における自動変速モードでの変速段を認識していないので、基本的には、ダイレクトモードへの遷移時に2段シフトダウンされたと認知することはない。よって、第1実施形態によれば、自動変速モードからダイレクトモードへの遷移時において2段シフトダウンを行ったとしても、この2段シフトダウンによりドライバに違和感を与えることはない。すなわち、ドライバが認識している変速段と実際の変速段との不一致による違和感、より具体的には1回しか操作を行っていないのに変速段が2段切り替わったという違和感をドライバに与えることはない。
【0079】
次いで、変速モードがダイレクトモードであるときにステアリングダウンスイッチ46が操作されることで、コントローラ100は、自動変速機2を1段シフトダウンさせる、具体的には変速段を「5速」から「4速」へシフトダウンさせる。この場合、コントローラ100は、ダイレクトモード表示器55e及びマニュアルモード表示器55fの点灯を維持しつつ、シフトダウンさせた「4速」に対応する「4」の数字をDレンジ表示器55dに表示させる。
【0080】
ここで、ダイレクトモードでは変速段が表示されるので、ドライバは、ダイレクトモード中においては自動変速機2の変速段を認識している。したがって、もしダイレクトモードにおいても変速段を2段シフトダウンさせると、ドライバは、この2段シフトダウン前の変速段を認識しているので、2段シフトダウン時において、自身が把握している変速段が実際の変速段と一致していないと認知する傾向にある。これは、ドライバが変速段を切り替えるために行った操作の回数が自動変速機2において実際に切り替えられた変速段数と対応しないからである、すなわち1回しか操作を行っていないのに変速段が2段切り替えられたからである。その結果、ドライバに違和感を与えてしまう。
【0081】
このような問題点に対処すべく、第1実施形態では、変速モードがダイレクトモードであるときにステアリングダウンスイッチ46が操作された場合には、このステアリングダウンスイッチ46の操作に応じて1段ずつシフトダウンさせるようにした。これにより、自動変速モードからダイレクトモードへの遷移後において、ドライバが認識している変速段と実際の変速段との不一致による違和感をドライバに与えることはない。
【0082】
以上説明したように、本発明の第1実施形態によれば、自動変速モードからダイレクトモードへの遷移時に2段シフトダウンするので、煩雑な操作を行うことなく、迅速にシフトダウンすることができる。その結果、ドライバの要求減速度を効果的に実現することが可能となる。
【0083】
また、第1実施形態によれば、ダイレクトモードへの遷移時における2段シフトダウンによりドライバに与える違和感を適切に抑制できる。すなわち、基本的には、ドライバは、2段シフトダウン前における自動変速モードでの変速段を認識していないため、ダイレクトモードへの遷移時に2段シフトダウンされたと認知することはないので、自動変速モードからダイレクトモードへの遷移時において、ドライバが認識している変速段と実際の変速段との不一致による違和感を抑制できるのである。より具体的には、1回しか操作を行っていないのに変速段が2段切り替わったという違和感をドライバに与えることを抑制できる。
【0084】
また、第1実施形態によれば、ダイレクトモードへの遷移後にはステアリングダウンスイッチ46の操作に応じて1段ずつシフトダウンさせるので、このステアリングダウンスイッチ46の操作によりドライバが認識している変速段と実際の変速段とを適切に一致させることができ、ドライバに与える違和感を確実に抑制できる。
【0085】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。基本的には、コントローラ100は、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、自動変速モードからダイレクトモードへの遷移時には2段シフトダウンし、ダイレクトモードへの遷移後には1段ずつシフトダウンさせる。しかしながら、第2実施形態では、コントローラ100は、自動変速モードからダイレクトモードへの遷移時であっても、(1)ドライバによりアクセルペダル6aが操作されている場合、(2)ドライバによりブレーキペダル6bが操作されていない場合、(3)自動変速モードにおいて自動変速機2が既にシフトダウンされている場合には、2段シフトダウンを禁止する。この点で、第2実施形態は第1実施形態と異なる。すなわち、第2実施形態では、コントローラ100は、自動変速モードからダイレクトモードへの遷移時であっても、2段シフトダウンを実施するのが望ましくない状況では、2段シフトダウンを禁止するようにする。
【0086】
なお、以下では、第1実施形態と異なる点について主に説明し、第1実施形態と共通する点については説明を適宜省略する。つまり、ここで特に説明しない制御や処理や作用効果などは第1実施形態と同様とする。
【0087】
図10は、本発明の第2実施形態による変速制御を示すフローチャートである。この変速制御は、コントローラ100によって、記憶部110に記憶されたプログラムに基づき、所定の周期で繰り返し実行される。
【0088】
まず、ステップS201において、コントローラ100は、ドライバの操作によってステアリングダウンスイッチ46がオンにされたか否かを判定する。その結果、ステアリングダウンスイッチ46がオンにされたと判定された場合(ステップS201:Yes)、コントローラ100は、ステップS202に進む。これに対して、ステアリングダウンスイッチ46がオンにされたと判定されなかった場合(ステップS201:No)、コントローラ100は、本フローチャートに示す一連のルーチンを抜ける。
【0089】
次いで、ステップS202において、コントローラ100は、変速モードが自動変速モードに設定されているか否かを判定する。その結果、変速モードが自動変速モードに設定されていると判定されなかった場合(ステップS202:No)、つまり変速モードがダイレクトモード又はマニュアルモードである場合、コントローラ100は、ステップS208に進む。このようにしてステップS208に進んだ状況は、変速モードがダイレクトモード又はマニュアルモードであるときにステアリングダウンスイッチ46が操作されたという状況に相当するので、コントローラ100は、1段シフトダウンを実施すべく、自動変速機2に現在設定されている変速段から1段下げた変速段を選択する(ステップS208)。そして、コントローラ100は、ステップS207に進み、ステップS208で選択した変速段にシフトダウンするように自動変速機2を制御する。この後、コントローラ100は、本フローチャートに示す一連のルーチンを抜ける。
【0090】
他方で、ステップS202の結果、変速モードが自動変速モードに設定されていると判定された場合(ステップS202:Yes)、コントローラ100は、ステップS203に進む。ステップS203において、コントローラ100は、アクセル開度センサ102からの信号に基づき、アクセルペダル6aがオフであるか否か(換言するとアクセルペダル6aが踏み込まれていないか否か)を判定する。
【0091】
ステップS203の結果、アクセルペダル6aがオフであると判定されなかった場合(ステップS203:No)、つまりアクセルペダル6aがオンである場合、コントローラ100は、ステップS208に進む。この場合には、コントローラ100は、変速モードが自動変速モードであるときにステアリングダウンスイッチ46が操作されているが、2段シフトダウンではなく1段シフトダウンを実施すべく、自動変速機2に現在設定されている変速段から1段下げた変速段を選択し(ステップS208)、この選択した変速段にシフトダウンするように自動変速機2を制御する(ステップS207)。こうする理由は以下の通りである。
【0092】
アクセルペダル6aがオフであるとき(つまり減速時)には、シフトダウンする変速段数に応じて減速度が変わる。すなわち、シフトダウンする変速段数が大きいほど、減速度が大きくなる。しかしながら、アクセルペダル6aがオンであるとき(つまり加速時)には、シフトダウンする変速段数を大きくしても、エンジン回転数が上がるだけで、エンジン1の駆動力はほとんど変わらない。つまり、アクセルペダル6aがオンであるときには、2段シフトダウンを実施しても、あまり効果はない。また、アクセルペダル6aがオンである状況は、基本的には、ドライバが減速を要求していない状況であると言える。このようなことから、第2実施形態では、自動変速モードからダイレクトモードへの遷移時であっても、アクセルペダル6aがオンである場合には、2段シフトダウンを禁止し、1段シフトダウンを実施することとした。
【0093】
他方で、ステップS203の結果、アクセルペダル6aがオフであると判定された場合(ステップS203:Yes)、コントローラ100は、ステップS204に進む。ステップS204において、コントローラ100は、ブレーキセンサ103からの信号に基づき、ブレーキペダル6bがオンであるか否か(つまりブレーキペダル6bが踏み込まれているか否か)を判定する。
【0094】
ステップS204の結果、ブレーキペダル6bがオンであると判定されなかった場合(ステップS204:No)、つまりブレーキペダル6bがオフである場合、コントローラ100は、ステップS208に進む。この場合には、コントローラ100は、変速モードが自動変速モードであるときにステアリングダウンスイッチ46が操作されているが、2段シフトダウンではなく1段シフトダウンを実施すべく、自動変速機2に現在設定されている変速段から1段下げた変速段を選択し(ステップS208)、この選択した変速段にシフトダウンするように自動変速機2を制御する(ステップS207)。
【0095】
ブレーキペダル6bがオフである場合、つまりドライバがブレーキペダル6bを踏み込んでいない場合には、ドライバは、2段シフトダウンにより実現されるような大きな減速度を要求していないと言える。したがって、第2実施形態では、自動変速モードからダイレクトモードへの遷移時であっても、ブレーキペダル6bがオフである場合には、2段シフトダウンを禁止し、1段シフトダウンを実施することとした。
【0096】
他方で、ステップS204の結果、ブレーキペダル6bがオンであると判定された場合(ステップS204:Yes)、コントローラ100は、ステップS205に進む。ステップS205において、コントローラ100は、自動変速モードにおいて自動変速機2がシフトダウンされていないか否かを判定する。換言すると、コントローラ100は、現在、自動変速モードによるシフトダウンの実行中でないか否かを判定する。
【0097】
ステップS205の結果、自動変速機2がシフトダウンされていないと判定されなかった場合(ステップS205:No)、つまり自動変速モードによるシフトダウン中である場合、コントローラ100は、ステップS208に進む。この場合には、コントローラ100は、変速モードが自動変速モードであるときにステアリングダウンスイッチ46が操作されているが、2段シフトダウンではなく1段シフトダウンを実施すべく、自動変速機2に現在設定されている変速段から1段下げた変速段を選択し(ステップS208)、この選択した変速段にシフトダウンするように自動変速機2を制御する(ステップS207)。
【0098】
例えば自動変速モードにおいてブレーキペダル6bが踏み込まれるとシフトダウンするが、このように自動変速モードにおいてシフトダウンが既に実行されている場合に、当該自動変速モードからダイレクトモードへの遷移時に2段シフトダウンを実施すると、過度の減速度が生じてしまう。したがって、第2実施形態では、自動変速モードからダイレクトモードへの遷移時であっても、自動変速モードによるシフトダウン中である場合には、2段シフトダウンを禁止し、1段シフトダウンを実施することとした。
【0099】
他方で、ステップS205の結果、自動変速機2がシフトダウンされていないと判定された場合(ステップS205:Yes)、コントローラ100は、ステップS206に進む。このようにしてステップS206に進んだ状況は、(1)変速モードが自動変速モードであるときにステアリングダウンスイッチ46が操作されたという条件、(2)アクセルペダル6aがオフであるという条件、(3)ブレーキペダル6bがオンであるという条件、(4)自動変速機2がシフトダウンされていないという条件、の全てが成立した状況に相当する。すなわち、2段シフトダウンを実施しても特に問題がない状況に相当する。
【0100】
したがって、コントローラ100は、ステップS206において、2段シフトダウンを実施すべく、自動変速機2に現在設定されている変速段から2段下げた変速段を選択する。そして、コントローラ100は、ステップS207に進み、ステップS206で選択した変速段にシフトダウンするように自動変速機2を制御する。この後、コントローラ100は、本フローチャートに示す一連のルーチンを抜ける。
【0101】
以上説明したように、本発明の第2実施形態によれば、自動変速モードからダイレクトモードへの遷移時であっても、ドライバによりアクセルペダル6aが操作されている場合には、2段シフトダウンを禁止するので、2段シフトダウンを実施してもほとんど効果(大きな減速度の発生など)が得られない状況での無駄な2段シフトダウンの実施を適切に抑制できる。加えて、ドライバがアクセルペダル6aを踏み込んでいる場合、基本的には減速が要求されていないので、この場合に2段シフトダウンを禁止することで、ドライバが意図していない減速度の発生を適切に抑制できる。
【0102】
また、第2実施形態によれば、自動変速モードからダイレクトモードへの遷移時であっても、ドライバによりブレーキペダル6bが操作されていない場合には、2段シフトダウンを禁止するので、ドライバが意図していない大きな減速度の発生を適切に抑制できる。
【0103】
また、第2実施形態によれば、自動変速モードからダイレクトモードへの遷移時であっても、当該自動変速モードにより自動変速機2がシフトダウンされている場合には、2段シフトダウンを禁止するので、過剰なシフトダウンによる過度の減速度の発生を適切に抑制できる。
【0104】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。上述した第1及び第2実施形態は、自動変速モード又はダイレクトモード(特に自動変速モードからダイレクトモードへの遷移時)に適用されるものであったが、第3実施形態は、マニュアルモード(特に自動変速モード又はダイレクトモードからマニュアルモードへの遷移時)に適用されるものである。
【0105】
第3実施形態の概要を述べると、コントローラ100は、(1)自動変速モードからマニュアルモードへの遷移時において所定条件が成立した場合には2段シフトダウンを実施し、(2)自動変速モードからマニュアルモードへの遷移時において当該所定条件が成立しない場合には1段シフトダウンを実施し、(3)ダイレクトモードからマニュアルモードへの遷移時には現在の変速段を維持する。この(1)及び(2)で用いる所定条件は、第2実施形態で挙げたような、アクセルペダル6aがオフであるという条件、ブレーキペダル6bがオンであるという条件、及び、自動変速機2がシフトダウンされていないという条件である。すなわち、第3実施形態でも、第2実施形態と同様の観点より、上記の所定条件を用いて2段シフトダウンの実施の可否を判断することで、2段シフトダウンを実施するのが望ましくない状況では当該2段シフトダウンを禁止するようにする。
【0106】
なお、以下では、第1及び第2実施形態と異なる点について主に説明し、第1及び第2実施形態と共通する点については説明を適宜省略する。つまり、ここで特に説明しない制御や処理や作用効果などは第1及び第2実施形態と同様とする。
【0107】
図11は、本発明の第3実施形態による変速制御を示すフローチャートである。この変速制御は、コントローラ100によって、記憶部110に記憶されたプログラムに基づき、所定の周期で繰り返し実行される。
【0108】
まず、ステップS301において、コントローラ100は、シフト位置センサ104からの信号に基づき、現在の変速モードが自動変速モードであるときにシフトレバー3がDレンジ位置からMレンジ位置33に操作されたか否か、つまり変速モードが自動変速モードからマニュアルモードへ切り替わったか否かを判定する。その結果、変速モードが自動変速モードからマニュアルモードへ切り替わったと判定された場合(ステップS301:Yes)、コントローラ100は、ステップS302に進む。
【0109】
ステップS302において、コントローラ100は、第2実施形態で示したステップS203と同様に、アクセル開度センサ102からの信号に基づき、アクセルペダル6aがオフであるか否かを判定する。その結果、アクセルペダル6aがオフであると判定された場合(ステップS302:Yes)、コントローラ100は、ステップS303に進む。
【0110】
ステップS303において、コントローラ100は、第2実施形態で示したステップS204と同様に、ブレーキセンサ103からの信号に基づき、ブレーキペダル6bがオンであるか否かを判定する。その結果、ブレーキペダル6bがオンであると判定された場合(ステップS303:Yes)、コントローラ100は、ステップS304に進む。
【0111】
ステップS304において、コントローラ100は、第2実施形態で示したステップS205と同様に、自動変速モードにおいて自動変速機2がシフトダウンされていないか否かを判定する。その結果、自動変速機2がシフトダウンされていないと判定された場合(ステップS304:Yes)、コントローラ100は、ステップS305に進む。
【0112】
このようにしてステップS305に進んだ状況は、(1)変速モードが自動変速モードからマニュアルモードへ切り替わったという条件、(2)アクセルペダル6aがオフであるという条件、(3)ブレーキペダル6bがオンであるという条件、(4)自動変速機2がシフトダウンされていないという条件、の全てが成立した状況に相当する。すなわち、2段シフトダウンを実施しても特に問題がない状況に相当する。したがって、コントローラ100は、ステップS305において、2段シフトダウンを実施すべく、自動変速機2に現在設定されている変速段から2段下げた変速段を選択する。そして、コントローラ100は、ステップS306に進み、ステップS305で選択した変速段にシフトダウンするように自動変速機2を制御する。この後、コントローラ100は、本フローチャートに示す一連のルーチンを抜ける。
【0113】
他方で、ステップS301の結果、変速モードが自動変速モードからマニュアルモードへ切り替わったと判定されなかった場合(ステップS301:No)、コントローラ100は、ステップS308に進む。ステップS308において、コントローラ100は、シフト位置センサ104からの信号に基づき、現在の変速モードがダイレクトモードであるときにシフトレバー3がDレンジ位置からMレンジ位置33に操作されたか否か、つまり変速モードがダイレクトモードからマニュアルモードへ切り替わったか否かを判定する。その結果、変速モードがダイレクトモードからマニュアルモードへ切り替わったと判定されなかった場合(ステップS308:No)、つまり変速モードがマニュアルモードへ切り替わっていない場合、コントローラ100は、本フローチャートに示す一連のルーチンを抜ける。
【0114】
これに対して、ステップS308の結果、変速モードがダイレクトモードからマニュアルモードへ切り替わったと判定された場合(ステップS308:Yes)、コントローラ100は、ステップS309に進む。ステップS309では、コントローラ100は、現在の変速段を維持し、つまり変速モードの遷移の前後において変速段を維持し、自動変速機2をシフトダウンさせないようにする。こうするのは、ダイレクトモードからマニュアルモードへの遷移は手動変速モードという範疇での遷移であるので、ドライバによる手動変速の意図を優先すべく、自動変速機2を自動で変速させないようにするためである。このステップS309の後、コントローラ100は、本フローチャートに示す一連のルーチンを抜ける。
【0115】
他方で、ステップS302の結果、アクセルペダル6aがオフであると判定されなかった場合(ステップS302:No)、つまりアクセルペダル6aがオンである場合、コントローラ100は、ステップS309に進む。この場合にも、コントローラ100は、現在の変速段を維持する(ステップS309)。こうするのは、ドライバがアクセルペダル6aを踏み込んでいる場合には減速が要求されていないので、ドライバが意図していない減速度の発生を抑制すべく、自動変速機2をシフトダウンさせないようにするためである。
【0116】
他方で、ステップS303の結果、ブレーキペダル6bがオンであると判定されなかった場合(ステップS303:No)、つまりブレーキペダル6bがオフである場合、又は、ステップS304の結果、自動変速機2がシフトダウンされていないと判定されなかった場合(ステップS304:No)、つまり自動変速モードによるシフトダウン中である場合、コントローラ100は、ステップS307に進む。この場合には、コントローラ100は、1段シフトダウンを実施すべく、自動変速機2に現在設定されている変速段から1段下げた変速段を選択し(ステップS307)、この選択した変速段にシフトダウンするように自動変速機2を制御する(ステップS306)。こうするのは、第2実施形態で述べたように、ドライバが意図していない大きな減速度(過剰なシフトダウンによる過度の減速度も含む)の発生を抑制するためである。このステップS306の後、コントローラ100は、本フローチャートに示す一連のルーチンを抜ける。
【0117】
以上説明したように、本発明の第3実施形態によれば、自動変速モードからマニュアルモードへの遷移時において所定条件が成立した場合に2段シフトダウンするので、煩雑な操作を行うことなく、迅速にシフトダウンすることができる。その結果、ドライバの要求減速度を効果的に実現することが可能となる。また、第3実施形態によれば、自動変速モードからマニュアルモードへの遷移時における2段シフトダウンによりドライバに与える違和感を適切に抑制できる。すなわち、基本的には、ドライバは、2段シフトダウン前における自動変速モードでの変速段を認識していないため、マニュアルモードへの遷移時に2段シフトダウンされたと認知することはないので、自動変速モードからマニュアルモードへの遷移時において、ドライバが認識している変速段と実際の変速段との不一致による違和感を抑制できるのである。
【0118】
また、第3実施形態によれば、自動変速モードからマニュアルモードへの遷移時において、ドライバによりアクセルペダル6aが操作されておらず、且つドライバによりブレーキペダル6bが操作されている場合に限って、2段シフトダウンを許可するようにする。これにより、ドライバが意図していない減速度の発生を適切に抑制できる。
【0119】
また、第3実施形態によれば、自動変速モードからマニュアルモードへの遷移時において、当該自動変速モードにより自動変速機2がシフトダウンされている場合には、2段シフトダウンを禁止するので、過剰なシフトダウンによる過度の減速度の発生を適切に抑制できる。
【0120】
また、第3実施形態によれば、ダイレクトモードからマニュアルモードへの遷移時には、変速モードの遷移の前後において変速段を維持し、自動変速機2をシフトダウンさせないようにするので、ドライバによる手動変速の意図を適切に優先することができる。
【0121】
<変形例>
以下では、上述した実施形態の変形例について説明する。なお、以下で示す変形例は、適宜組み合わせて実施してよい。
【0122】
(第1変形例)
上述した第3実施形態では、自動変速モードからマニュアルモードへの遷移時において、所定条件が成立した場合には2段シフトダウンを実施し、当該所定条件が成立しない場合には1段シフトダウンを実施していたが、変形例では、自動変速モードからマニュアルモードへの遷移時には、所定条件が成立するか否かにかかわらずに、2段シフトダウンを制限して、1段シフトダウンを実施することとしてもよい。
【0123】
図12は、本発明の第3実施形態の変形例による変速制御を示すフローチャートである。この変速制御も、コントローラ100によって、記憶部110に記憶されたプログラムに基づき、所定の周期で繰り返し実行される。なお、以下では、第3実施形態と異なる点について主に説明し、第3実施形態と共通する点については説明を適宜省略する。つまり、ここで特に説明しない制御や処理や作用効果などは第3実施形態と同様とする。
【0124】
まず、ステップS401において、コントローラ100は、変速モードが自動変速モードからマニュアルモードへ切り替わったか否かを判定する。その結果、変速モードが自動変速モードからマニュアルモードへ切り替わったと判定された場合(ステップS401:Yes)、コントローラ100は、ステップS402に進む。
【0125】
第3実施形態の変形例では、コントローラ100は、自動変速モードからマニュアルモードへの遷移時に1段シフトダウンを実施すべく、ステップS402において、自動変速機2に現在設定されている変速段から1段下げた変速段を選択する。そして、コントローラ100は、ステップS403に進み、ステップS402で選択した変速段にシフトダウンするように自動変速機2を制御する。この後、コントローラ100は、本フローチャートに示す一連のルーチンを抜ける。
【0126】
他方で、ステップS401の結果、変速モードが自動変速モードからマニュアルモードへ切り替わったと判定されなかった場合(ステップS401:No)、コントローラ100は、ステップS404に進む。この後のステップS404及びS405の処理は、それぞれ、第3実施形態で示したステップS308及びS309と同様であるため、その説明を省略する。
【0127】
以上説明した変形例によれば、自動変速モードからマニュアルモードへの遷移時に自動で1段シフトダウンするので、これによっても、ある程度迅速なシフトダウンを実現することができる。また、この変形例によれば、自動変速モードからマニュアルモードへの遷移時に1段のみシフトダウンさせるので、ドライバが認識している変速段と実際の変速段との不一致による違和感を確実に抑制できる。
【0128】
(第2変形例)
上述した実施形態では、所定の変速モードの遷移時に変速段を2段シフトダウンしていたが、変形例では、この2段シフトダウンの代わりに、変速段を3段以上シフトダウンしてもよい。
【0129】
(第3変形例)
上述した実施形態では、シフトレバー3にMレンジ位置33が設けられており(
図2参照)、シフトレバー3をDレンジ位置とMレンジ位置33との間で操作することで、自動変速モードとマニュアルモードとの間の切り替え、及びダイレクトモードからマニュアルモードへの切り替えを実施していた。変形例は、シフトレバー3にMレンジ位置33が設けられておらず、基本的には、ステアリングホイール4に設けられたステアリングダウンスイッチ46又はステアリングアップスイッチ47を操作することで、変速モードを切り替えるものである。より具体的には、この変形例では、変速モードの切り替えに関して3つのタイプ(タイプ1、タイプ2、タイプ3)が用意されており、このタイプ別に変速モードの切り替えが行われる。また、タイプ1、タイプ2、タイプ3は、画面操作や所定のスイッチ操作により、ユーザによって選択可能となっている。
【0130】
まず、タイプ1では、自動変速モードと、アクセルペダル6aのキックダウン時に変速段を自動的にシフトダウンさせる第1のマニュアルモードと、の切り替えが可能となっている。このタイプ1では、自動変速モードにおいてステアリングダウンスイッチ46又はステアリングアップスイッチ47が操作されたときに、変速モードが自動変速モードから第1のマニュアルモードに切り替えられる。また、タイプ1では、第1のマニュアルモードにおいてステアリングアップスイッチ47が長押しされたときに、変速モードが第1のマニュアルモードから自動変速モードに切り替えられる。この切り替えは、第1のマニュアルモードの手動解除に相当する。更に、タイプ1では、第1のマニュアルモードにおいて車速が時速10kmであるときに(つまり車両200がほぼ停止しているとき)、変速モードが第1のマニュアルモードから自動変速モードに切り替えられる。この切り替えは、第1のマニュアルモードの自動解除に相当する。
【0131】
次に、タイプ2では、自動変速モードと、アクセルペダル6aがキックダウンされたとしても変速段を完全に固定する第2のマニュアルモードと、の切り替えが可能となっている。このタイプ2では、自動変速モードにおいてステアリングダウンスイッチ46又はステアリングアップスイッチ47が操作されたときに、変速モードが自動変速モードから第2のマニュアルモードに切り替えられる。また、タイプ2では、第2のマニュアルモードにおいてステアリングアップスイッチ47が長押しされたときに、変速モードが第2のマニュアルモードから自動変速モードに切り替えられる。この切り替えは、第2のマニュアルモードの手動解除に相当する。
【0132】
次に、タイプ3では、自動変速モードとダイレクトモードとの切り替えが可能となっている。このタイプ3では、自動変速モードにおいて、車速が時速10km以上で且つステアリングダウンスイッチ46又はステアリングアップスイッチ47が操作されたときに、変速モードが自動変速モードからダイレクトモードに切り替えられる。また、タイプ3では、ダイレクトモードにおいて、上記の「ダイレクトモードから自動変速モードへの切り替え条件」のセクションで示した第1~第3の条件のうちのいずれかが成立したときに、変速モードがダイレクトモードから自動変速モードに切り替えられる。すなわち、ダイレクトモードにおいて、(1)ステアリングアップスイッチ47が長押しされたとき、(2)車速が時速10km未満であるとき、(3)アクセルペダル6aがオフではなく、且つ、アクセル開度が60%以上ではなく、尚且つ、コーナー走行中ではない場合において、変速モードがダイレクトモードに切り替わってからの経過時間が所定時間に達したとき、変速モードがダイレクトモードから自動変速モードに切り替えられる。(1)の条件成立時の切り替えは、ダイレクトモードの手動解除に相当し、(2)及び(3)の条件成立時の切り替えは、ダイレクトモードの自動解除に相当する。
【0133】
なお、上述した実施形態で示した各種の変速制御は、本変形例で述べたような変速モードの切り替えを行う形態に対しても同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0134】
1 エンジン
2 自動変速機
3 シフトレバー
4 ステアリングホイール
5 メータユニット
6a アクセルペダル
6b ブレーキペダル
34 シフトレバーダウンスイッチ
35 シフトレバーアップスイッチ
46 ステアリングダウンスイッチ
47 ステアリングアップスイッチ
55 インジケータ
55d Dレンジ表示器
55e ダイレクトモード表示器
55f マニュアルモード表示器
100 コントローラ
102 アクセル開度センサ
103 ブレーキセンサ
200 車両