(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】動体検知装置、動体検知システム及び動体検知方法
(51)【国際特許分類】
G01V 3/12 20060101AFI20220530BHJP
G08B 25/04 20060101ALI20220530BHJP
G08B 21/04 20060101ALI20220530BHJP
G01S 13/08 20060101ALI20220530BHJP
G01S 13/66 20060101ALI20220530BHJP
【FI】
G01V3/12 A
G08B25/04 K
G08B21/04
G01S13/08
G01S13/66
(21)【出願番号】P 2017228159
(22)【出願日】2017-11-28
【審査請求日】2020-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】506060258
【氏名又は名称】公立大学法人北九州市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100153969
【氏名又は名称】松澤 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】梶原 昭博
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-137432(JP,A)
【文献】特開2015-198354(JP,A)
【文献】特開2007-241446(JP,A)
【文献】特開2006-255141(JP,A)
【文献】特開2005-004256(JP,A)
【文献】特開2015-068700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00-99/00
G01S 7/00-7/42
G01S 13/00-13/95
G08B 19/00-21/24、25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
広帯域の無線電波を所定の検知エリアに向けて発信可能に構成された発信部と、
前記発信部から発信された無線電波の反射波を受信可能に構成された受信部と、
制御部とを備え、
前記制御部は、
前記受信部が受信した反射波に基づいて、前記検知エリアを構成する複数の領域のそれぞれにおける信号強度を算出する第1の処理と、
前記複数の領域のそれぞれにおける信号強度の時間変動に基づいて、前記複数の領域のうち動体が存在する存在領域を特定する第2の処理と、
前記存在領域と前記存在領域に隣り合う少なくとも一つの隣接領域とのそれぞれにおける信号強度の時間変動に基づいて、動体の位置をトラッキングする第3の処理とを実行する、動体検知装置。
【請求項2】
前記第1の処理は、前記複数の領域のそれぞれにおいて算出した信号強度を、前記複数の領域ごとに時間軸で平滑化処理することを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第2の処理において、前記複数の領域のそれぞれにおける信号強度の時間変動と所定の第1の閾値とを比較して、前記複数の領域のうちから前記第1の閾値を超える時間変動を示す領域を前記存在領域として特定し、
前記制御部は、機械学習の結果を用いて前記第1の閾値を設定するように構成されている、請求項1
又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第3の処理において、前記存在領域と前記存在領域の両隣に位置する一対の隣接領域とのそれぞれにおける信号強度の時間変動に基づいて、動体の位置をトラッキングする、請求項1
~3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記存在領域における信号強度の時間変動が所定の第2の閾値を超えて変動した場合に、動体が異常状態にあると判定する第4の処理をさらに実行する、請求項1~
4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記制御部は、機械学習の結果を用いて前記第2の閾値を設定するように構成されている、請求項
5に記載の装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記第3の処理におけるトラッキングの結果、動体が継続して静止状態にあるときの継続時間が所定の第3の閾値を超えた場合に、動体が異常状態にあると判定する第5の処理をさらに実行する、請求項1~
6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記制御部は、機械学習の結果を用いて前記第3の閾値を設定するように構成されている、請求項
7に記載の装置。
【請求項9】
建物内の所定箇所に設置され、請求項1~
8のいずれか一項に記載の装置と、
前記装置との間で通信して、前記装置から送信された動体に関する情報を報知するように構成された報知装置とを備える、動体検知システム。
【請求項10】
前記発信部から発信された無線電波及びその反射波の進行方向を変更させるように構成されたリフレクタをさらに備える、請求項
9に記載のシステム。
【請求項11】
広帯域の無線電波を所定の検知エリアに向けて発信する第1の工程と、
無線電波の反射波に基づいて、前記検知エリアを構成する複数の領域のそれぞれにおける信号強度を算出する第2の工程と、
前記複数の領域のそれぞれにおける信号強度の時間変動に基づいて、前記複数の領域のうち動体が存在する存在領域を特定する第3の工程と、
前記存在領域と前記存在領域に隣り合う少なくとも一つの隣接領域とのそれぞれにおける信号強度の時間変動に基づいて、動体の位置をトラッキングする第4の工程とを含む、動体検知方法。
【請求項12】
前記第2の工程は、前記複数の領域のそれぞれにおいて算出した信号強度を、前記複数の領域ごとに、時間軸で平滑化処理することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第4の工程は、前記存在領域と前記存在領域の両隣に位置する一対の隣接領域とのそれぞれにおける信号強度の時間変動に基づいて、動体の位置をトラッキングすることを含む、請求項
11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記存在領域における信号強度の時間変動が所定の閾値を超えて変動した場合に、動体が異常状態にあると判定する第5の工程をさらに含む、請求項
11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記第4の工程におけるトラッキングの結果、動体が所定時間継続して静止状態にある場合に、動体が異常状態にあると判定する第6の工程をさらに含む、請求項
11~
14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、動体検知装置、動体検知システム及び動体検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
室内において、室温の高い部屋と室温の低い部屋との間を移動すると、急激な温度変化により血圧が急変することがある。特に冬場においては、浴室と脱衣室との間、トイレと廊下との間などにおいて、大きな寒暖差が存在するので、「ヒートショック」と呼ばれるショック症状(例えば、心筋梗塞、脳梗塞、脳卒中、不整脈など)が、とりわけ体力の低下した高齢者に生ずる懸念が高まる。
【0003】
浴室、トイレなどのヒートショックが起こりやすい場所には、一人で出入りすることが多いので、ショック症状が生じた人が床に倒れ込んでしまったような場合には、その発見が遅くなってしまう。しかしながら、プライバシーの関係上、浴室、トイレなどにカメラを設置して入室者を撮像することは好ましくない。そのため、カメラではなく電波センサを用いて浴室等における人の様子を検知して、異常が生じた場合に家族等に報知するための種々の技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1は、ドップラーセンサからの電波と、人体及び室内からの反射電波との周波数の差分に基づいて、在室者の動きを検知する検知システムを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特に浴室では、シャワー及び水栓からの水流、浴槽の湯面、湯気などの変動の影響により、ドップラーセンサが人体以外の動きも検知してしまう。そのため、人体の動きのみを正確に検知することが困難であった。また、室内では電波が何度も反射して、マルチパスが生じ、電波信号同士が干渉してしまうことがある。この場合、実際には人体が動いているにもかかわらず、人体からの反射電波が他の電波と干渉して弱められてしまう。そのため、人体の動きを誤検知してしまうことがあった。
【0007】
そこで、本開示は、外乱の大きい環境下においても、動体を正確に検知することが可能な動体検知装置、動体検知システム及び動体検知方法を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一つの観点に係る動体検知装置は、広帯域の無線電波を所定の検知エリアに向けて発信可能に構成された発信部と、発信部から発信された無線電波の反射波を受信可能に構成された受信部と、制御部とを備える。制御部は、受信部が受信した反射波に基づいて、検知エリアを構成する複数の領域のそれぞれにおける信号強度を算出する第1の処理と、複数の領域のそれぞれにおける信号強度の時間変動に基づいて、複数の領域のうち動体が存在する存在領域を特定する第2の処理と、存在領域と存在領域に隣り合う少なくとも一つの隣接領域とのそれぞれにおける信号強度の時間変動に基づいて、動体の位置をトラッキングする第3の処理とを実行する。
【0009】
本開示の他の観点に係る動体検知システムは、建物内の所定箇所に設置された上記装置と、装置との間で通信して、装置から送信された動体に関する情報を報知するように構成された報知装置とを備える。
【0010】
本開示の他の観点に係る動体検知方法は、広帯域の無線電波を所定の検知エリアに向けて発信する第1の工程と、無線電波の反射波に基づいて、検知エリアを構成する複数の領域のそれぞれにおける信号強度を算出する第2の工程と、複数の領域のそれぞれにおける信号強度の時間変動に基づいて、複数の領域のうち動体が存在する存在領域を特定する第3の工程と、存在領域と存在領域に隣り合う少なくとも一つの隣接領域とのそれぞれにおける信号強度の時間変動に基づいて、動体の位置をトラッキングする第4の工程とを含む。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る動体検知装置、動体検知システム及び動体検知方法によれば、外乱の大きい環境下においても、動体を正確に検知することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、動体検知システム及び浴室の周辺を上方から見た概略図である。
【
図2】
図2は、動体検知装置を概略的に示すブロック図である。
【
図3】
図3は、主として制御部を概略的に示すブロック図である。
【
図4】
図4は、報知装置を概略的に示すブロック図である。
【
図5】
図5は、動体検知の処理手順を説明するためのフローチャートである。
【
図6】
図6は、入浴者が洗い場にいる場合の、時間と信号強度変動の平均値との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7(a)は浴室を側方から見た概略図であり、
図7(b)は入浴者が洗い場にいる場合の、距離と信号強度変動の平均値との関係を示すグラフであり、
図7(c)は入浴者が浴槽にいる場合の、距離と信号強度変動の平均値との関係を示すグラフである。
【
図8】
図8(a)はシナリオ1による実験結果を示すグラフであり、
図8(b)はシナリオ2による実験結果を示すグラフである。
【
図9】
図9(a)はシナリオ3による実験結果を示すグラフであり、
図9(b)はシナリオ4による実験結果を示すグラフである。
【
図10】
図10はシナリオ5による実験結果を示すグラフである。
【
図11】
図11は、他の例に係る動体検知システム及び浴室の周辺を上方から見た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本開示に係る実施形態の一例について、図面を参照しつつより詳細に説明する。以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0014】
[動体検知システムの構成]
動体検知システム1の構成について、
図1を参照して説明する。動体検知システム1は、動体の位置及び様子を検知して、動体から離れた場所に検知結果を知らせるように構成されている。本実施形態では、動体検知システム1が浴室30に適用される例を示している。動体検知システム1は、動体検知装置10と、報知装置20とを備える。
【0015】
ここで、浴室30の構成を説明する。浴室30は、洗い場31と、ドア32と、シャワー33と、浴槽34とを含む。洗い場31は、矩形状を呈している。ドア32は、洗い場31の長手方向の一端(
図1では左端)に設けられており、洗い場31と図示しない脱衣所との間を出入り可能に仕切っている。シャワー33は、洗い場31の長手方向の他端(
図1では右端)側に設けられている。浴槽34は、矩形状を呈しており、洗い場31と隣接して位置している。
【0016】
動体検知装置10は、浴室30内の入浴者Hの位置及び様子を検知する機能を有する。動体検知装置10は、浴槽34の長手方向に沿って延びる浴室30の壁面に取り付けられている。動体検知装置10は、
図2に示されるように、発信機11(発信部)と、受信機12(受信部)と、通信機13と、制御部14(コントローラ)と、バス15とを含む。
【0017】
発信機11は、制御部14からの指示に基づいて、浴室30内に向けて広帯域の無線電波を発信するように構成されている。発信機11の水平面における指向角は、例えば、40°~80°程度であってもよいし、60°~80°程度であってもよい。発信機11は、指向角の範囲におおよそ対応した検知エリアRを有している。なお、浴槽34の湯面の変動による影響を抑制する目的で、発信機11の垂直面における指向角は、例えば30°以下に設定されていてもよい。
【0018】
本明細書において「広帯域」とは、周波数帯域幅が100MHz以上の場合をいうものとする。そのため、発信機11が発信する無線電波の周波数帯域幅は、例えば、100MHz以上であってもよいし、300MHz以上であってもよいし、500MHz以上であってもよいし、1GHz以上であってもよい。特に、発信機11は、周波数帯域幅が500MHz以上の超広帯域(UWB:Ultra Wide Band)無線センサであってもよい。広帯域又は超広域帯の無線電波を用いる場合、無線電波の発信出力を小さくすることができ、入浴者Hに対する無線電波の影響を小さくすることができる。
【0019】
受信機12は、発信機11から発信された無線電波の反射波を受信可能に構成されている。発信機11において広帯域の無線電波を用いているので、受信機12は、無線電波の反射波を反射パス長に対応した時間軸上で分離して受信することができる。すなわち、受信機12は、検知エリアRの距離方向において複数に区切られた測定領域(レンジビンともいい、周波数帯域幅で決まる)B1~B8ごとに、信号を抽出することが可能である。各レンジビンB1~B8の幅は、例えば15cm~30cm程度であってもよい。なお、周波数帯域幅が750MHzの場合には、一つのレンジビンの幅は約20cm程度となる。本実施形態ではレンジビンの数が8個であったが、レンジビンの幅及び検知エリアRの大きさに応じてレンジビンの数を変更可能である。
【0020】
通信機13は、報知装置20の通信機23と通信可能に構成されている。通信機13の通信機23との通信方式は特に限定されず、例えば、LTE(Long Term Evolution)、LTE-A(LTE-Advanced)、SUPER3G、IMT-Advanced、4G、5G、FRA(Future Radio Access)、W-CDMA(登録商標)、GSM(登録商標)、CDMA2000、UMB(Ultra Mobile Broadband)、IEEE 802.11(Wi-Fi)、IEEE 802.16(WiMAX)、IEEE 802.20、UWB、Bluetooth(登録商標)、その他の通信方式が用いられてもよい。
【0021】
制御部14は、バス15を介して、発信機11、受信機12及び通信機13との間で信号の送受信を行い、これらの動作を制御するように構成されている。制御部14は、例えば、プロセッサ16と、メモリ17と、ストレージ18とを含む。
【0022】
メモリ17、ストレージ18等のハードウェアに所定のソフトウェア(プログラム)が読み込まれると、プロセッサ16は、所定の演算を行い、発信機11からの無線電波の発信、受信機12が受信した反射波の解析、通信機13による通信、メモリ17及びストレージ18におけるデータの読み出し又は書き込みを実行する。これにより、動体検知装置10における各機能が実現される。
【0023】
具体的には、
図3に示されるように、制御部14は、機能ブロックとして、記憶部14aと、送受信処理部14bと、信号強度算出部14cと、動体検出部14dと、トラッキング部14eと、判定部14fとを含む。
【0024】
記憶部14aは、種々のデータを記憶する機能を有する。記憶部14aが記憶するデータとしては、例えば、読み出したプログラム、発信機11の動作設定データ、受信機12が受信した反射波のデータ、判定部14fによる判定結果に関するデータ等が挙げられる。
【0025】
送受信処理部14bは、発信機11、受信機12及び通信機13の間で信号を送受信する機能を有する。具体的には、送受信処理部14bは、発信機11に指示信号を送信して、発信機11から無線電波を発信させる。送受信処理部14bは、受信機12から反射波のデータを受信し、当該データを記憶部14aに記憶させる。送受信処理部14bは、通信機13に指示信号を送信して、判定部14fによる判定結果を報知装置20に送信させる。
【0026】
信号強度算出部14cは、送受信処理部14bが受信した反射波のデータに基づいて、各レンジビンB1~B8のそれぞれにおける信号強度を算出する機能を有する(第1の処理)。
【0027】
動体検出部14dは、信号強度算出部14cにおいて算出された各レンジビンB1~B8の信号強度の時間変動に基づいて、レンジビンB1~B8のいずれに入浴者Hが存在するかを特定する機能を有する(第2の処理)。動体検出部14dにおいて特定されたレンジビンは、入浴者Hが存在する領域であることから、本明細書において「存在レンジビン」(存在領域)と称する。
【0028】
トラッキング部14eは、動体検出部14dにおいて特定された存在レンジビンとその両隣に位置する一対の隣接レンジビン(隣接領域)との3つのレンジビンのそれぞれにおける信号強度の時間変動に基づいて、入浴者Hの位置をトラッキングする機能を有する(第3の処理)。トラッキング部14eは、入浴者Hが他のレンジビンに移動した場合に、当該他のレンジビンを存在レンジビンとして更新し、当該他のレンジビンに隣接する一対のレンジビンを隣接レンジビンとして更新する機能を有する。
【0029】
判定部14fは、動体検出部14dにおいて特定された存在レンジビン又はトラッキング部14eにおいて更新された存在レンジビンに基づいて、入浴者Hが浴室30内のどの位置にいるかを判定する機能を有する。判定部14fは、トラッキング部14eによるトラッキング処理に際して、存在レンジビン及び隣接レンジビンのそれぞれにおける信号強度の時間変動に基づいて、入浴者Hが動作しているかどうかを判定する機能を有する。
【0030】
判定部14fは、存在レンジビンにおける信号強度の時間変動が所定の第1の閾値(以下、閾値TH1と称する。)を超えて変動した場合に、入浴者Hに異常が生じていると判定する機能を有する(第4の処理)。判定部14fは、トラッキング部14eによるトラッキング処理の結果、入浴者Hが所定時間継続して静止状態にある場合に、入浴者Hに異常が生じていると判定する機能を有する(第5の処理)。
【0031】
図1に戻って、報知装置20は、例えば浴室30とは壁Wを隔てた別の室内に取り付けられている。報知装置20は、
図4に示されるように、モニタ21(報知部)と、スピーカ22(報知部)と、通信機23と、制御部24(コントローラ)と、バス25とを含む。
【0032】
モニタ21及びスピーカ22はそれぞれ、通信機23を介して受信した判定部14fによる判定結果を、映像及び音声で当該別の室内にいる在室者(例えば、家族)に報知するように構成されている。通信機23は、動体検知装置10の通信機13と同様の構成を有しており、通信機13と同様に機能する。
【0033】
制御部24は、プロセッサ24aと、メモリ24bと、ストレージ24cとを含んでおり、動体検知装置10の制御部14と同様に機能する。バス25は、動体検知装置10のバス15と同様の構成を有しており、バス15と同様に機能する。
【0034】
[動体検知方法]
続いて、
図5~
図7を参照して、動体検知システム1による入浴者Hの検知方法について説明する。
【0035】
まず、送受信処理部14bは、発信機11に指示して、発信機11から無線電波を浴室30内に発信させる(第1の工程)。次に、送受信処理部14bは、受信機12を介して無線電波の反射波のデータを受信する。
【0036】
次に、信号強度算出部14cは、信号強度算出部14cが受信した反射波のデータに基づいて、各レンジビンB1~B8の信号強度を所定のサンプリング周期でそれぞれ算出する(
図5のステップS1;第1の処理;第2の工程)。サンプリング周期としては、例えば、0.01秒~0.1秒程度であってもよい。
【0037】
次に、信号強度算出部14cは、レンジビンB1~B8ごとに、算出した信号強度を時間軸で平滑化処理する。平滑化処理としては、例えば、単純移動平均、重み付き移動平均などの種々の処理方法を採用してもよい。
図6に、レンジビンB1~B8のいずれか一つ(例えばレンジビンB6)における、平滑化後の信号強度の時間変動の一例を示す。
【0038】
次に、動体検出部14dは、信号強度算出部14cが算出した各レンジビンB1~B8における平滑化後の信号強度に基づいて、入浴者Hが存在する存在レンジビンを特定する(
図5のステップS2;第2の処理;第3の工程)。具体的には、動体検出部14dは、各レンジビンB1~B8における平滑化後の信号強度の時間変動(例えば、現在の信号強度と一定時間前の信号強度との差分)を、レンジビンB1~B8ごとに算出する。次に、動体検出部14dは、算出したレンジビンB1~B8ごとの時間変動を閾値TH1と比較して、閾値TH1を超える時間変動を示すレンジビンを特定する。なお、実験結果などに基づいて人が閾値TH1の大きさを適宜設定してもよいし、機械学習の結果を用いて最適な閾値TH1の大きさを設定してもよい。
【0039】
ところで、シャワー及び水栓からの水流、浴槽の湯面などは、変動しているものの、一般に、信号強度の時間変動はそれほど大きくない。一方、人体の動きは一定ではなく、人体が動いたときの信号強度の時間変動は極めて大きくなる傾向にある。そのため、信号強度の時間変動が閾値TH1以下である場合には単に水流、湯面等が変動しているに過ぎないが、信号強度の時間変動が閾値TH1を上回る場合には入浴者Hの存在が検知される。そのため、本実施形態では、入浴者H以外の動きを外乱として排除することが可能となっている。
【0040】
ここで、レンジビンB6における信号強度の時間変化を示す
図6を用いて、存在レンジビンの特定方法を例示する。時間T1では、信号強度がほぼ0であるので、時間変動もほぼ0である。すなわち、時間変動が閾値TH1以下である。そのため、時間T1では、動体検出部14dは、レンジビンB6で入浴者Hを検知しない。一方、時間T1の後の時間T2では、信号強度が変動しており、時間変動が閾値TH1を超えている。そのため、時間T2では、動体検出部14dは、レンジビンB6に入浴者Hが存在することを検知する。
【0041】
なお、
図6の時刻t1,t2では、入浴者HがレンジビンB6に存在するにもかかわらず、信号強度が極端に小さい。これは、マルチパス等の影響により電波信号同士が干渉し、入浴者Hが一時的に検知されなかったことを示す。しかしながら、このような場合でも、本実施形態では、単なる信号強度の大きさではなく、信号強度の時間変動に基づいて入浴者Hの存在を検知しているので、電波信号の干渉による影響を排除することが可能となっている。
【0042】
次に、トラッキング部14eは、動体検出部14dにおいて特定された存在レンジビン及び隣接レンジビン(存在レンジビンがレンジビンB6である場合には、レンジビンB5~B7)のそれぞれにおける信号強度に基づいて、入浴者Hの位置をトラッキングする(
図5のステップS3;第3の処理;第4の工程)。例えば、時間の経過に伴い、存在レンジビンB6において大きな信号強度が継続して生じているが、隣接レンジビンB5,B7において信号強度が小さいままである場合には、その時間、入浴者Hが存在レンジビンB6に留まっていたと判断される。
【0043】
時間の経過に伴い、大きな信号強度が存在レンジビンB6から隣接レンジビンB5へと移行した場合には、その時間、入浴者Hが存在レンジビンB6から隣接レンジビンB5へと移動したと判断される。この場合、トラッキング部14eはその後、移行後の隣接レンジビンB5を存在レンジビンとして扱うと共に、存在レンジビンB5に隣接するレンジビンB4,B6を隣接レンジビンとして扱う。時間の経過に伴い、大きな信号強度が存在レンジビンB6から隣接レンジビンB7へと移行した場合には、その時間、入浴者Hが存在レンジビンB6から隣接レンジビンB7へと移動したと判断される。この場合も同様に、トラッキング部14eはその後、移行後の隣接レンジビンB7を存在レンジビンとして扱うと共に、存在レンジビンB7に隣接するレンジビンB6,B8を隣接レンジビンとして扱う。すなわち、トラッキング部14eは、レンジビンB1~B8(動体検知装置10からの距離)に対する信号強度の変化率(現在の信号強度と一定時間前の信号強度との差分)に基づいて入浴者Hをトラッキングしているともいえる。
【0044】
ここで、
図1及び
図7を用いて、入浴者Hのトラッキング処理を例示する。入浴者Hがドア32から浴室30内に入室し、洗い場31に移動すると(
図1の下側及び
図7(a)の右側の入浴者Hを参照)、
図7(b)に示されるように、レンジビンB6において大きな信号強度の時間変動が生ずる。レンジビンB6の周囲のレンジビンB5,B6,B8においては、シャワー33の水流等の影響により、多少の信号強度の時間変動が生ずる。レンジビンB1~B4においては、浴槽34の湯面の変動等の影響により、若干の信号強度の時間変動が生ずる。このような場合、本実施形態では、トラッキング部14eは、存在レンジビンB6及び隣接レンジビンB5,B7のみの信号強度を解析対象とする。そのため、他のレンジビンB1~B4,B8での信号強度の変動が解析から除去されるので、湯面の変動等を動体と誤検知することが抑制される。
【0045】
また、入浴者Hが洗い場31から浴槽34内に移動すると(
図1の上側及び
図7(a)の左側の入浴者Hを参照)、
図7(c)に示されるように、レンジビンB2において大きな信号強度の時間変動が生ずる。レンジビンB2の周囲のレンジビンB1,B3,B4においては、浴槽34の湯面の変動等の影響により、多少の信号強度の時間変動が生ずる。レンジビンB5~B8においては、信号強度の時間変動がほとんど生じない。このような場合、本実施形態では、トラッキング部14eは、存在レンジビンB2及び隣接レンジビンB1,B3のみの信号強度を解析対象とする。そのため、他のレンジビンB4~B8での信号強度の変動が解析から除去されるので、洗い場31で突発的に何かが動作しても、それを動体と誤検知することが抑制される。
【0046】
次に、判定部14fは、入浴者Hの状態を判定する(
図5のステップS4;第4及び第5の処理、第5及び第6の工程)。具体的には、判定部14fは、入浴者Hの位置と、入浴者Hの動作の有無と、入浴者Hが危険な状態にあるか否かを判定する。
【0047】
入浴者Hの位置の判定は、動体検出部14d又はトラッキング部14eにおける処理で得られた存在レンジビンに基づいて行われる。例えば、存在レンジビンがレンジビンB5~B8の場合には、判定部14fは、入浴者Hが洗い場31にいると判定する。一方、存在レンジビンがレンジビンB1~B4の場合には、判定部14fは、入浴者Hが浴槽34内にいると判定する。
【0048】
入浴者Hの動作の有無の判定は、存在レンジビンにおける信号強度の時間変動に基づいて行われてもよい。例えば、存在レンジビンにおける信号強度の時間変動が閾値TH1以下である場合には、判定部14fは動作なしと判定する。一方、存在レンジビンにおける信号強度の時間変動が閾値TH1を超える場合には、判定部14fは動作ありと判定する。
【0049】
入浴者Hが危険な状態にあるか否かの判定は、存在レンジビンにおける信号強度の時間変動に基づいて行われる。例えば、入浴者Hが、倒れ込んだり、浴槽内に沈んでしまったりしたときには、入浴者Hが通常よりも大きく動作する。このとき、
図6の時刻t3において例示されるような、通常よりも大きな信号強度の時間変動が発現する。そのため、存在レンジビンにおける信号強度の時間変動が、閾値TH1よりも大きな第2の閾値(以下、閾値TH2と称する。)以下である場合には、判定部14fは危険なしと判定する。一方、存在レンジビンにおける信号強度の時間変動が閾値TH2を超える場合には、判定部14fは危険ありと判定する。なお、
図6において、時刻t3以後の時間T3では、シャワーの水流、湯面の変動等による信号強度が例示されている。なお、実験結果などに基づいて人が閾値TH2の大きさを適宜設定してもよいし、機械学習の結果を用いて最適な閾値TH2の大きさを設定してもよい。
【0050】
特に、入浴者Hが洗い場31にいると共に危険ありとの判定の場合には、判定部14fは、入浴者Hが洗い場31で倒れた可能性が高いと判定してもよい。あるいは、入浴者Hが浴槽34にいると共に危険ありとの判定の場合には、判定部14fは、入浴者Hが浴槽34の湯面下に沈んでしまっている可能性が高いと判定してもよい。
【0051】
入浴者Hが危険な状態にあるか否かの判定は、判定部14fによる動作なしの判定が継続する長さに基づいて行われる。例えば、入浴者Hが静止したまま動かない場合には、判定部14fによる動作なしの判定が長時間継続する。そのため、判定部14fによる動作なしの判定の継続時間が所定の閾値(以下、閾値TH3と称する。)以下である場合には、判定部14fは危険なしと判定する。一方、判定部14fによる動作なしの判定の継続時間が閾値TH3を超える場合には、判定部14fは危険ありと判定する。なお、実験結果などに基づいて人が閾値TH3の大きさを適宜設定してもよいし、機械学習の結果を用いて最適な閾値TH3の大きさを設定してもよい。
【0052】
次に、判定部14fによる判定の結果、入浴者Hに危険なしと判断された場合には(
図5のステップS5でNO)、ステップS3~S5の処理が再び実行される。一方、判定部14fによる判定の結果、入浴者Hに危険ありと判断された場合には(
図5のステップS5でYES)、送受信処理部14bは、通信機13に指示信号を送信して、判定部14fによる判定結果を報知装置20に送信させる。これにより、動体検知装置10とは別の室内にある報知装置20のモニタ21又はスピーカ22を通じて、当該別の室内の在室者に入浴者Hの危険性が報知される(
図5のステップS6)。以上で、入浴者Hの検知処理が終了する。
【0053】
[実験例]
以上のように構成された動体検知システム1を用いて、実験を行った。具体的には、
図1と同様に、動体検知装置10を浴槽34の側方の壁面に取り付けた状態で、被験者が以下の5つのシナリオに基づき浴室30内で行動した。
・シナリオ1:被験者は、ドア32を通って脱衣所から洗い場31に入り、次に洗い場31で風呂椅子に座りながら風呂桶を使って湯を浴び、次に浴槽34内に入り、次に浴槽34から出て洗い場31に移動し、その後にドア32を通って洗い場31から脱衣所に出た。
・シナリオ2:被験者は、ドア32を通って脱衣所から洗い場31に入り、次に洗い場31で風呂椅子に座りながら風呂桶を使って湯を浴び、その途中で気を失って転倒したことを想定して床に寝そべった。
・シナリオ3:被験者は、ドア32を通って脱衣所から洗い場31に入り、次に洗い場31で風呂椅子に座りながら湯を浴び、次に浴槽34内に入り、その途中で気を失って沈溺したことを想定して湯面下に潜水した。
・シナリオ4:被験者は、ドア32を通って脱衣所から洗い場31に入り、次に洗い場31で立ちながらシャワーを浴び、その途中で気を失って転倒したことを想定して床に寝そべった。
・シナリオ5:被験者は、ドア32を通って脱衣所から洗い場31に入り、次に洗い場31で風呂椅子に座りながらシャワーを浴び、その途中で気を失って転倒したことを想定して床に寝そべった。
【0054】
シナリオ1の実験結果を
図8(a)に示す。シナリオ2の実験結果を
図8(b)に示す。シナリオ3の実験結果を
図9(a)に示す。シナリオ4の実験結果を
図9(b)に示す。シナリオ5の実験結果を
図10に示す。
図8~
図10によれば、被験者の移動に伴って被験者がどの場所にいるのか及び被験者が動作しているか否かが判定部14fによって特定できていることが確認された。また、
図8(b)、
図9(a)、
図9(b)及び
図10によれば、被験者が床に寝そべったり、湯面下に潜水したりと、危険な状態の発生を想定した行動を被験者がとった場合に、判定部14fによって危険ありと判定されることが確認された。
【0055】
[変形例]
以上、本開示に係る実施形態について詳細に説明したが、本発明の要旨の範囲内で種々の変形を上記の実施形態に加えてもよい。例えば、
図11に示されるように、動体検知装置10は、浴槽34の短手方向に沿って延びる浴室30の壁面に取り付けられていてもよい。この場合、入浴者Hが存在場所(洗い場31又は浴槽34)をレンジビンに基づいて検知することができないので、発信機11から発信される無線電波の指向性を制御して、無線電波の伝播方向と交差する方向において複数の検知エリア(例えば、
図11では2つの検知エリアR1,R2)を検知可能に発信機11が構成されていてもよい。この場合、指向性の制御方法としては、例えば、メカニカルスキャン方式、モノパルス方式、デジタルビームフォーミング方式などを採用しうる。なお、
図11の場合において、入浴者Hの存在場所以外の検知(入浴者Hの動作及び入浴者Hが危険な状態かの検知)は、上記の実施形態と同様に実行可能である。
【0056】
動体検知装置10は、給湯機器用浴室リモコン、浴室用手摺りなどの内部に、上記の発信機11、受信機12、通信機13、制御部14、バス15等が組み込まれたものであってもよい。
【0057】
動体検知装置10は、有線で報知装置20と接続されていてもよい。
【0058】
上記の実施形態では、報知装置20は、動体検知装置10と同じ建物内に取り付けられていたが、動体検知装置10とは異なる建物内に取り付けられていてもよいし、移動通信可能な携帯端末(例えば、携帯電話、スマートフォンなど)であってもよい。当該異なる建物としては、例えば、入浴者Hと別居している家族の家、救急医療サービスを提供する施設(日本においては消防署)などが挙げられる。これらの場合、動体検知装置10が、入浴者Hの場所、動作、危険な状態か否か等の検出した情報を報知装置20に送信することで、入浴者Hとは離れた場所にいる家族、救急隊などが入浴者Hの状態を知ることができる。そのため、入浴者Hが単身生活者の場合であっても、入浴者Hの状態を見守ることが可能となる。
【0059】
動体検知装置10は、浴室30内に限られず、ヒートショックによるショック症状が発生しやすい他の場所(例えば、脱衣所、トイレ、廊下など)に設置されていてもよい。
【0060】
動体検知装置10は、ヒートショックによるショック症状の発生を検知するのみならず、何らかの原因で検知対象者に危険が生じていることを検知することもできる。すなわち、動体検知装置10は、検知対象者を見守るための種々の用途に適用しうる。
【0061】
トラッキング部14eは、存在レンジビンと、その両隣の一方に位置する隣接レンジビンとの2つのレンジビンのそれぞれにおける信号強度の時間変動に基づいて、入浴者Hの位置をトラッキングしてもよい。あるいは、トラッキング部14eは、存在レンジビンのみにおける信号強度の時間変動に基づいて、入浴者Hの位置をトラッキングしてもよい。
【0062】
判定部14fは、入浴者Hが浴槽34内にいると共に危険ありとの判定の場合には、浴槽34の排水栓を制御して、当該排水栓を自動で開放するようにしてもよい。この場合、浴槽34内で入浴者が気絶した場合でも、入浴者Hの沈溺を防止することが可能となる。
【0063】
図1に示されるように、リフレクタ35(例えば、鏡)を少し傾けて浴室30内に設置してもよい。
図1において、リフレクタ35は、洗い場31のうちドア32から離れた側の壁面に、ドア32の方向を向くように取り付けられている。これにより、発信機11から発信された無線電波は、リフレクタ35によって反射されてドア32に向かっていく。また、リフレクタ35に向かってくる反射波も、リフレクタ35反射されて受信機12に向かっていく。そのため、通常は発信機11から発信される無線電波の死角になっている脱衣所も検知対象とすることが可能となる。
【0064】
[実施形態の例示]
以下に説明される本開示に係る実施形態は本発明を説明するための例示であるので、本発明は以下の内容に限定されるべきではない。
【0065】
(例1)本開示の一つの例に係る動体検知装置(10)は、広帯域の無線電波を所定の検知エリア(R)に向けて発信可能に構成された発信部(11)と、発信部(11)から発信された無線電波の反射波を受信可能に構成された受信部(12)と、制御部(14)とを備える。制御部(14)は、受信部(11)が受信した反射波に基づいて、検知エリア(R)を構成する複数の領域(B1~B8)のそれぞれにおける信号強度を算出する第1の処理と、複数の領域(B1~B8)のそれぞれにおける信号強度の時間変動に基づいて、複数の領域(B1~B8)のうち動体(H)が存在する存在領域を特定する第2の処理と、存在領域と存在領域に隣り合う少なくとも一つの隣接領域とのそれぞれにおける信号強度の時間変動に基づいて、動体(H)の位置をトラッキングする第3の処理とを実行する。
【0066】
ところで、シャワー及び水栓からの水流、浴槽の湯面などは、変動しているものの、一般に、信号強度の時間変動はそれほど大きくない。一方、人体の動きは一定ではなく、人体が動いたときの信号強度の時間変動は極めて大きくなる傾向にある。そのため、第2の処理では、信号強度の時間変動に基づいて動体が検知される。しかも、第2の処理では、複数の領域ごとに信号強度の時間変動が算出されるので、当該時間変動が大きい領域が検知されると、その領域に動体が存在することが把握される。このように、信号強度の時間変動の大きさを基準とすることで、人体の動きとは異なる、水流、湯面等の変動の影響が抑制される。加えて、第3の処理では、動体のトラッキングのために、第2の処理で特定された動体の存在領域とその隣接領域とのそれぞれにおける信号強度の時間変動を利用している。そのため、これらの領域外で突発的に信号強度の時間変動が大きくなっても、それを動体と誤検知することが抑制される。以上より、例1に係る動体検知装置によれば、外乱の大きい環境下においても、動体を正確に検知することが可能となる。
【0067】
(例2)例1に記載の装置(10)において、制御部(14)は、第3の処理において、存在領域と存在領域の両隣に位置する一対の隣接領域とのそれぞれにおける信号強度の時間変動に基づいて、動体(H)の位置をトラッキングしてもよい。この場合、動体の位置をトラッキングするために、存在領域及びそれに隣接する前後の領域が利用される。そのため、トラッキングのための領域が拡大されるので、動体が存在領域の前後のどちらに移動した場合でも、容易にトラッキングすることが可能となる。
【0068】
(例3)例1又は例2に記載の装置(10)において、制御部(14)は、存在領域における信号強度の時間変動が所定の閾値を超えて変動した場合に、動体(H)が異常状態にあると判定する第4の処理をさらに実行してもよい。ここで、動体、例えば人体が、倒れ込んだり、浴槽内に沈んでしまったりしたときには、人体が通常よりも大きく動作する。そのため、通常よりも大きな信号強度の時間変動が発現する。従って、例3によれば、信号強度の時間変動に基づいて動体の異常状態を判定することが可能となる。
【0069】
(例4)例1~例3のいずれか一つに記載の装置(10)において、制御部(14)は、第3の処理におけるトラッキングの結果、動体(H)が所定時間継続して静止状態にある場合に、動体(H)が異常状態にあると判定する第5の処理をさらに実行してもよい。ここで、動体、例えば人体が、倒れ込んだり、浴槽内に沈んでしまったりに至らないまでも、気絶等により静止状態を継続することが起こりうる。例4によれば、このような場合でも、動体の異常状態を判定することが可能となる。
【0070】
(例5)本開示の他の例に係る動体検知システム(1)は、建物内の所定箇所に設置され、例1~例4のいずれか一つに記載の装置(10)と、当該装置(10)との間で通信して、当該装置(10)から送信された動体(H)に関する情報を報知するように構成された報知装置(20)とを備える。この場合、例1~例4のいずれか一つに記載の装置が検知した動体の動作の様子、動体の異常状態などを、当該装置とは異なる位置にある報知装置を介して把握することができる。そのため、例えば、入浴者の様子を、キッチン、リビング、外出先などの浴室外から見守ることが可能となる。
【0071】
(例6)例6に記載のシステム(1)は、発信部(11)から発信された無線電波及びその反射波の進行方向を変更させるように構成されたリフレクタ(35)をさらに備えてもよい。この場合、リフレクタで電波の進行方向を変更することにより、通常は発信部から発信される無線電波の死角になっている領域も、動体の検知対象とすることが可能となる。
【0072】
(例7)本開示の他の例に係る動体検知方法は、広帯域の無線電波を所定の検知エリア(R)に向けて発信する第1の工程と、無線電波の反射波に基づいて、検知エリアを構成する複数の領域(B1~B8)のそれぞれにおける信号強度を算出する第2の工程と、複数の領域(B1~B8)のそれぞれにおける信号強度の時間変動に基づいて、複数の領域(B1~B8)のうち動体(H)が存在する存在領域を特定する第3の工程と、存在領域と存在領域に隣り合う少なくとも一つの隣接領域とのそれぞれにおける信号強度の時間変動に基づいて、動体(H)の位置をトラッキングする第4の工程とを含む。この場合、例1と同様の作用効果が得られる。
【0073】
(例8)例7に記載の方法において、第4の工程は、存在領域と存在領域の両隣に位置する一対の隣接領域とのそれぞれにおける信号強度の時間変動に基づいて、動体(H)の位置をトラッキングすることを含んでもよい。この場合、例2と同様の作用効果が得られる。
【0074】
(例9)例7又は例8に記載の方法は、存在領域における信号強度の時間変動が所定の閾値を超えて変動した場合に、動体(H)が異常状態にあると判定する第5の工程をさらに含んでもよい。この場合、例3と同様の作用効果が得られる。
【0075】
(例10)例7~例9のいずれか一項に記載の方法は、第4の工程におけるトラッキングの結果、動体(H)が所定時間継続して静止状態にある場合に、動体(H)が異常状態にあると判定する第6の工程をさらに含んでもよい。この場合、例4と同様の作用効果が得られる。
【符号の説明】
【0076】
1…動体検知システム、10…動体検知装置、11…発信機(発信部)、12…受信機(受信部)、13…通信機、14…制御部、14c…信号強度算出部、14d…動体検出部、14e…トラッキング部、14f…判定部、20…報知装置、21…モニタ(報知部)、22…スピーカ(報知部)、23…通信機、35…リフレクタ、B1~B8…レンジビン(領域)、R…検知エリア。