(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】低減した解放力を有するインジェクタ
(51)【国際特許分類】
A61M 5/315 20060101AFI20220530BHJP
A61M 5/31 20060101ALI20220530BHJP
【FI】
A61M5/315 512
A61M5/31 530
(21)【出願番号】P 2018549261
(86)(22)【出願日】2017-03-13
(86)【国際出願番号】 DK2017050070
(87)【国際公開番号】W WO2017157396
(87)【国際公開日】2017-09-21
【審査請求日】2020-03-11
(32)【優先日】2016-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(32)【優先日】2016-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(32)【優先日】2016-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】518326294
【氏名又は名称】インイェクト・グループ・エー/エス
【氏名又は名称原語表記】Injecto Group A/S
【住所又は居所原語表記】Strandvejen 60,2900 Hellerup,Denmark
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【氏名又は名称】鵜飼 健
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(72)【発明者】
【氏名】ヘッティング、ミカル
【審査官】川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-523162(JP,A)
【文献】国際公開第2014/194918(WO,A1)
【文献】特開2001-259032(JP,A)
【文献】特開2002-000726(JP,A)
【文献】実開平01-172843(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2003/0105433(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
A61M 5/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬組成物のデリバリーのためのインジェクタであって、
前記インジェクタは、
-縦方向の軸に沿って伸長するシリンダであって、内部壁、外部壁、及び、作動端と反対側の排出端における排出口を有するシリンダと、
-作動ピストンエレメント
、受動ピストンエレメント
、及び前記作動ピストンエレメントを前記受動ピストンエレメントにリンクする弾性フレームを備えるピストン組立体とを備え、
前記弾性フレームは弾性ポリマーでできており、
前記ピストン組立体が前記シリンダ中に挿入されるとき、前記作動ピストンエレメントと前記受動ピストンエレメントは、接する境界面において前記シリンダの前記内部壁に接し、それにより、
前記作動ピストンエレメントと前記シリンダの前記内部壁との間に、並びに前記受動ピストンエレメントと前記シリンダの前記内部壁との間に液密シールを提供し、
前記作動ピストンエレメントと前記受動ピストンエレメントはそれぞれ、
前記作動ピストンエレメントと前記受動ピストンエレメントとの間に位置付けられた圧縮性セクションに面する内面を有し、
したがって、前記圧縮性セクションは、前記作動ピストンエレメントの内面から前記受動ピストンエレメントの内面へと計算される容積を有し、
前記弾性フレームは、前記圧縮性セクションの容積の5%から
50%の範囲の容積率を
有し、前記圧縮性セクションは、圧縮性流体をさらに備え、
前記作動ピストンエレメントは、前記シリンダの前記作動端により近いピストンエレメントであり、前記受動ピストンエレメントは、前記シリンダの前記排出端により近い前記ピストンエレメントである、インジェクタ。
【請求項2】
弛緩した状態の前記圧縮性セクションの軸方向の長さは、弛緩した状態の前記ピストン組立体の全体の軸方向の長さの10%から90%の範囲である、請求項1に記載のインジェクタ。
【請求項3】
前記弾性フレームは、前記圧縮性セクションの容積の10%から
40%の範囲の容積率を有する、請求項1又は2に記載のインジェクタ。
【請求項4】
弛緩した状態の前記弾性フレームは、弛緩した状態の前記ピストン組立体の全体の長さの30%から70%の範囲の軸方向の長さを有し、
前記弾性フレームは、10%から
40%の範囲の前記圧縮性セクションの容積率を有する、請求項1から3のうちいずれか1項に記載のインジェクタ。
【請求項5】
前記作動ピストンエレメント、前記受動ピストンエレメント、若しくは前記弾性フレームは熱可塑性エラストマー(TPE)できており、又は前記作動ピストンエレメント、前記受動ピストンエレメント及び前記弾性フレームは、熱可塑性エラストマー(TPE)でできている、請求項1から4のうちのいずれか1項に記載のインジェクタ。
【請求項6】
前記作動ピストンエレメント、前記受動ピストンエレメント、若しくは前記弾性フレームは50から90の範囲のショアA硬度を有し、又は前記作動ピストンエレメント、前記受動ピストンエレメント及び前記弾性フレームは、50から90の範囲のショアA硬度を有する、請求項1に記載のインジェクタ。
【請求項7】
前記作動ピストンエレメント、前記受動ピストンエレメント及び前記弾性フレームは、単一の部品として射出成形される、請求項5又は6に記載のインジェクタ。
【請求項8】
前記ピストン組立体は、前記受動ピストンエレメントの排出面と比較して、前記作動ピストンエレメントの作動面に関して対称である、
又は前記作動ピストンエレメントは、プランジャーの傾きと相互作用するための空洞を備えている、請求項1から7のうちのいずれか1項に記載のインジェクタ。
【請求項9】
前記インジェクタは、ピストンロッドを備え、
前記作動ピストンエレメントは、前記ピストンロッドの相補的係合デバイスを係合するための係合デバイスを備える、請求項1から8のうちのいずれか1項に記載のインジェクタ。
【請求項10】
前記インジェクタは、潤滑剤を備えない、請求項6から9のうちのいずれか1項に記載のインジェクタ。
【請求項11】
前記シリンダは、ガラス
、又はポリマー素材でできている、請求項1から9のうちのいずれか1項に記載のインジェクタ。
【請求項12】
前記作動ピストンエレメント、前記受動ピストンエレメント及び/又は前記弾性フレームは、1枚以上の安定板を備える、請求項1から9のうちのいずれか1項に記載のインジェクタ。
【請求項13】
前記シリンダは、2mmから10mmの範囲の内径を有する、請求項1から9のうちのいずれか1項に記載のインジェクタ。
【請求項14】
前記シリンダは、医薬組成物が予め充填されている、請求項1から9のうちのいずれか1項に記載のインジェクタ。
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、低減した解放力(BLF)を有するインジェクタに関する。インジェクタは、縦方向の軸に沿って伸長するシリンダであって、内部壁、外部壁、及び、作動端と反対側の排出端における排出口を有するシリンダと、ピストン組立体とを備えている。本発明のインジェクタは、低減したBLFを提供し、医薬組成物の長期の保管を可能にする予め充填されているインジェクタに対して特に適している。
【先行技術】
【0002】
医薬組成物のデリバリーのためのインジェクタは、典型的に、シリンダ中にピストンを備えており、ピストンは、シリンダの一端から他の端に押されることができ、それにより、シリンダ中に含まれる液体を排出する。シリンダ中のピストンは、シリンダの内部壁に接し、ピストンと内部壁との間の境界面において、静摩擦と動摩擦が存在する。シリンダにおけるピストンの動きには、初めに静摩擦に、引き続いて動摩擦に打ち勝つに十分な力の適用を必要とし、静摩擦は動摩擦よりも大きく、それによって、ピストンの初期動作を提供するための力は、ピストンの持続する動きを提供するために必要とされる力よりも大きい。いったんピストンが動きを止めると、初期動作を提供するための力に、再度、打ち勝たなければならない。従来、シリンダの内部壁は、ピストンのための十分な滑りを確実にし、シリンダにおけるピストンの楽な動きと、それによる注射の間の医薬組成物の楽なデリバリーを可能にするために、動摩擦を十分に低く保つように潤滑される。静摩擦は、医薬インジェクタに関連して、「解放力」(BLF)と呼ばれ、動摩擦は、一般的に、「滑走力」と呼ばれることが多い。快適で使いやすいインジェクタを提供するために、低BLF値を有するインジェクタを提供することへの関心がある。
【0003】
BLFは、いくつかの要因に依存するが、特に、ピストンのシーリングエレメントとシリンジの内部壁との間の相互作用の増加した期間の影響を受ける。数分内に充填され、空になる従来のシリンジとは異なり、予め充填されているシリンジは、より長い時間期間の間の棚に置かれ、これは、「粘着効果」としてしも知られている、シーリングエレメントがそれ自体をシリンジの内部壁に付着する傾向をもたらし、これは、経時的に増加し、高い温度、湿度等のようなに周囲の悪い条件によってさらに増加する。
【0004】
予め充填されたシリンジは、3年までの期間、棚に置かれることから、予め充填されているシリンジに関してBLFは特に重要である。通常、高BLFに関する問題は、ピストンを、及び/又は、シリンジの内部壁を潤滑させることによって解決されるが、シリコン潤滑剤は、液体注射可能医薬組成物中のタンパク質を集約させ、これらを非効率的にする、悪影響を有することが多いかもしれないことを、又は、注射を受ける患者に有害でもあることをテストは示している。さらに、眼の注射に関して、シリコン潤滑剤は眼中に残る傾向を有しており、これは、単独では望ましくない。正確に成形されるプラスチックバレルとは異なり、これらのバレルは、潤滑の使用を左右する、過度に固い又はその逆のいずれかに適合するピストンにつながる実質的により高い許容範囲で製造されることから、BLFは、ガラスシリンジに、特に予め充填されるシリンジに関してより重要である。ガラスシリンジの内径について、容器の内径は、プラス又はマイナス1/10ミリメートルまで変化してよく、結果として、1つの容器からもう1つのものに全体で0.2mmまでの差異となり、これは、ピストンと容器内部壁との間の摩擦に、したがってBLFに著しい影響を与え、容器施栓完全性(CCI)の標準規格にしたがうために、シーリングが無条件に必要不可欠であることから、ガラスバレルに対する既存のピストンは、バレルの直径が下側にあるとき、対応する直径よりも著しく長い外径を有さなければならない。
【0005】
シリンジの一般的なユーザの使いやすさに関連するさまざまな問題を取り扱うために、又は、他のより具体的な目的を達成するために、先行技術中にいくつかの示唆が存在する。
【0006】
US2003/105433は、親プランジャーと子プランジャーとの間に形成される空気室を有する使い捨てシリンジを開示している。使用する際に、子プランジャー向けて親プランジャーをスライドさせるための圧力が親プランジャーに適用され、空気室中のガスは、液体室中の液体よりもより圧縮性があることから、子プランジャーにスライドを開始させ、液体を針の外に押し出すのに十分な圧力があるとき、子プランジャーは、動くだろう。シリンジのユーザによって行使される圧力中にわずかな変化は、空気クッションに合わせて作用する圧縮/伸長力によって吸収されることから、空気室中の空気を圧縮することは、「空気クッション」を提供し、これは、液体のより制御された注射を可能にする。
【0007】
歯科用の注射における圧力のバリエーションを抑制することに関して、EP2218473は、US2003/105433と同じ問題を扱っており、注射の間にシリンジ中の液体を吸引できることは重要であるとみなされている。EP2218473のシリンジも、プランジャー部分の間で空気クッションを用い、これは、ガス容量の圧力インジケータを備えていてよい。
【0008】
DE4428467は、注射ピストンを有するシリンジを開示しており、抑制効果は、脊椎麻酔及び静脈注射に関連する。シリンジは、2つのピストンエレメントの間に、注射ピストン、圧縮ピストン、及び、圧縮性媒体を有している。シリンジは、ばねをさらに備えていてよいが、ばねによって生じた効果はない。
【0009】
US2006/247582は、血管アクセスデバイスについての洗浄手順における使用のための「洗浄シリンジ」を開示している。洗浄シリンジは、確実に、洗浄手順に続いて逆流が生じないようにするように設計されており、ストッパーを係合した後、シリンジの室からからより多くの液体を駆動するように、末端のストッパー部分を末端方向に動かすばね手段によって分けられる、末端のストッパー部分及び近接のストッパー部分を備えるストッパーを有している。明らかに、洗浄シリンジは、BLFを下げることに関係していない。
【0010】
この分野のいくつかの製造業者は、シリコン潤滑剤の添加をなくそうと努力しており、代わりに、さまざまな表面で乾燥させたもの又はこれに類するものによる他の解決法がもたらされており、これらは、ピストンの動きを開始するために必要とされる力を低減させるように想定される。BLEを低減させる問題を取り扱うために、先行技術において、多数の示唆が存在しており、これらは、典型的に、例えば、粘度に関して、例えば、潤滑剤がどのように適用されるか、又は、潤滑剤のタイプのような潤滑剤の改良を伴う。代替として、WO2014/194918は、ピストンの特別な設計を使用して、どのようにBLFが制御されるかを示唆している。
【0011】
さらなる改良が可能であることが予期され、低減されたBLFを有するインジェクタを提供することが、本発明の目的である。本発明は、主に予め充填されているシリンジ専用であるが、他の医療用途及び目的に対して有用になることを目的としている。
【発明の開示】
【0012】
本発明は、医薬組成物のデリバリーに適したインジェクタに関する。インジェクタは、
-縦方向の軸に沿って伸長するシリンダであって、内部壁、外部壁、及び、作動端と反対側の排出端における排出口を有するシリンダと、
-作動ピストンエレメントと受動ピストンエレメントとの間に圧縮性セクションを備えるピストン組立体とを備え、ピストン組立体がシリンダ中に挿入されるとき、これらのピストンエレメントは、接する境界面においてシリンダの内部壁に接し、それにより、圧縮性セクションをシールし、圧縮性セクションは、圧縮性流体と作動ピストンエレメントを受動ピストンエレメントにリンクする弾性フレームとを備えている。
【0013】
圧縮性セクションは、圧縮性流体と作動ピストンエレメントを受動ピストンエレメントにリンクする弾性フレームとを備えている。本発明に関連して、用語「リンクする」は、エレメントのうちの作動しているものが他のエレメントも作動させるように、作動ピストンエレメントと受動ピストンエレメントが物理的に互いに結合されることを意味している。例えば、作動ピストンエレメントが押される場合、弾性フレームは受動ピストンエレメントを押し、作動ピストンエレメントが引っ張られる場合、弾性フレームは受動ピストンエレメントを引っ張るであろう。ピストン組立体中の作動ピストンエレメントと受動ピストンエレメントとの間に圧縮性セクションを含めることにより、ピストン組立体の解放力(BLF)を、ピストン組立体と比較して下げることができ、作動ピストンエレメントと受動ピストンエレメントは互いに固く結合される。したがって、例えば、作動ピストンエレメントと受動ピストンエレメントとの間に空気クッションを備える、作動ピストンエレメントと受動ピストンエレメントを有するピストン組立体は、低減されたBLFを有しているだろう。しかしながら、驚くことに、本発明にしたがって、弾性フレームによって作動ピストンエレメントを受動ピストンエレメントにリンクすることにより、全体的なBLFは、ピストン組立体の滑走力に類似した値にそろえられ、有することを本発明者は発見した。BLFは、滑走力に類似していることにより、シリンジの操作の間に認識すらされないことがあることから、これは、ピストンのエンドユーザに、空気クッションを使用して得られるものよりもさらに円滑な経験を提供する。
【0014】
インジェクタはシリンダを備えている。本発明に関連して、「シリンダ」は、シリンダにおける1つのポジションからから別のポジションにピストン組立体が動かされることを可能にする任意の種類の管又はこれに類するものである。シリンダは、互いに対向した「作動端」と「排出端」とを有している。シリンダの作動端は、シリンダの中でピストンを動かすために、すなわち、作動ピストンエレメントを介してピストン組立体を「作動させる」ためにピストン組立体へのアクセスを可能にする。シリンダの排出端は、シリンダ中に含まれる流体のための排出口を備えている。
【0015】
シリンダは、内部壁と外部壁を有している。内部壁は、任意の突出部、押込又は、これらに類するものなく、概してなめらかである。特に、ピストン組立体は、好ましくは、シリンダの軸方向の長さを通してシールを提供する。外部壁は、シリンダの長さに沿ってどこかに、例えば、シリンダの作動端に位置付けられているフィンガーグリップを備えていてよい。実施形態において、シリンダは、WO2016/192739において説明されているようにシリンダの外側に据え付けるための針受けとともに、排出端と作動端との間に位置付けられているフィンガーグリップを備え、WO2016/192739、特に、第3頁7行目から第5頁14行目は、参照によってここに組み込まれている。針受けは、WO2016/192739の第6頁3行目から第7頁の25行目に説明されており、これは、対応する図面とともに参照によってここに組み込まれている。同様に、WO2016/192739の請求項1から9の本文も、参照によって組み込まれている。
【0016】
シリンダは、任意の関連する素材でできていてよく、典型的な素材は、環状オレフィンコポリマー(COC)、例えば(TOPAS Advanced Polymers GmbHによって供給される)TOPASポリマー、環状オレフィンポリマー(COP)、例えばゼオノア、又は、ポリスチレン、のようなポリマー素材、あるいは、ガラス、例えばホウケイ酸ガラスを備えている。COCポリマーは、その優れたバリア特性により有利であり、したがって、医薬品の長期間の保管の必要性に適合している。別の実施形態において、シリンダは、ガラス、例えばホウケイ酸ガラスでできている。シリンダは金属で作られてよいこと、又は、ポリマー素材、ガラスあるいは金属の任意の組み合わせを備えていてよいことも企図されている。シリンダの断面形状は限定されないが、シリンダは円形の断面を有することが好ましい。断面は、長円形、楕円形、多角形等であってよいことも企図されている。シリンダが円形の断面を有するとき、直径、例えば、内径は、シリンジで通常使用される任意の値を有してよい。例えば、好ましい実施形態において、シリンダは、4.65mm、6.35mm又は8.80mmのような、2mmから10mmの範囲の内径を有しているが、本発明にしたがうと、より大きな値を有しているかもしれない。
【0017】
幅広すぎて、従来のピストンと相互作用できない、および、従来のピストンに対する高すぎるBLF値により同時の潤滑剤を省けない、内径許容範囲を有するガラスシリンジ円筒との潤滑剤のない相互作用に、ピストン組立体は特に適している。短い直径値において、BLFは高すぎであり、長い直径値において、従来のピストンによる容器施栓完全性(CCI)は、損なわれるだろう。対照的に、本発明で用いられるピストン組立体は、シーリングエレメントのその変位する動きにより、広い許容範囲に対して補正することができ、これは、より長いピストン直径が、許容可能な値内でBLFを維持しながら、同時に、従来の潤滑剤の省略を可能にする。
【0018】
本発明のインジェクタは、作動ピストンエレメントと受動ピストンエレメントとを備えるピストン組立体を有しており;作動ピストンエレメントは、シリンダの作動端により近いピストンエレメントであり、受動ピストンエレメントは、シリンダの排出端により近いピストンエレメントである。作動ピストンエレメントと受動ピストンエレメントは同一であってよく、又は、作動ピストンエレメントは、受動ピストンエレメントと比較して異なっていてよい。作動ピストンエレメントは、シリンダの作動端に面する作動面を有し、受動ピストンエレメントは、作動面と反対側の、したがってシリンダの排出端に面する、排出面を有している。各ピストンエレメントは、圧縮性セクションに面する内面を有していてよい。
【0019】
ピストン組立体は、作動ピストンエレメント作動面から受動ピストンエレメントの排出面へと計算される、すなわち、ピストン組立体が弛緩した状態であり、エンドユーザから外部圧力を受けないときの、全体の長さを有している。一般的に、圧縮性セクションの軸方向の長さは、弛緩した状態のピストン組立体の全体の軸方向の長さの10%から90%の範囲である。作動ピストンエレメントと受動ピストンエレメントは、一般的に低圧縮率を有しており、例えば、ピストン本体は圧縮可能ではない。特定の実施形態において、圧縮性セクションの軸方向の長さは、弛緩した状態のピストン組立体の全体の軸方向の長さの少なくとも20%、例えば、少なくとも25%又は少なくとも30%である。したがって、弾性フレームは、弛緩した状態のピストン組立体の全体の軸方向の長さの10%から70%の長さを有していてよい。他の実施形態において、弾性フレームは、弛緩した状態のピストン組立体の全体の軸方向の長さの、例えば、30%、40%、50%、60%又は70%のような、30%から70%の長さを有している。
【0020】
ピストンエレメントは、それぞれのピストンエレメントとシリンダの内部壁との間に、液密シールを、オプション的に、気密シールも提供し、それにより、作動ピストンエレメントと受動ピストンエレメントとの間に圧縮性セクションを形成する。したがって、作動ピストンエレメントがシリンダの作動端から押されるとき、圧縮性セクションは、圧縮され、最終的に、受動ピストンエレメントをシリンダの排出端に向けて押し、それにより、シリンダ中に含まれる液体を排出する。作動ピストンエレメントと受動ピストンエレメントは、それぞれ、静摩擦を有しており、それぞれのピストンがシリンダ中で動きを開始する前に静摩擦に打ち勝たなければならない。既存のピストンとは反対に、本発明にしたがうピストンは、シーリングエレメントのステップ運動によって総BLFをより少ない増加へと均等に分けるシーリングエレメントの変位運動をもたらすことにより、ピストンを動かすためのBLFをかなり低い値に低減させる。作動ピストンが動くことを開始するとき、その動きは、受動ピストエレメントを押すが、本発明者は、驚くことに、作動ピストンエレメントの静摩擦がピストン組立体を動かし、シリンダから液体を排出するために使用される力にのみわずかに寄与し、ピストン組立体の円滑な動きは、ピストン組立体の静摩擦に寄与する作動ピストンエレメントのみの静摩擦により取得されることを発見した。弾性フレームは、BLFの効果にさらに寄与し、弾性フレームがピストン組立体中に存在する、例えば、弾性フレームがピストン組立体の全体の長さの少なくとも25%の軸方向の長さを有するとき、(Nで測定される)BLFは、2倍の高さの(Nで測定される)滑走力よりも少なく、例えば、BLFと滑走力は、ほぼ等しく、したがって、エンドユーザにさらに円滑な経験を提供する。
【0021】
単一のピストンエレメントを備えるピストンを使用することによることと比べて、2つのピストンエレメントを備えるピストン組立体を有することにより、シリンダ中の内容物、例えばワクチンのような医薬組成物のより効果的なシーリングが取得される。これは、特に、医薬組成物が予め充填されているシリンジに関連する。従来、すなわち、圧縮性セクションがないピストンが本発明のピストン組立体のピストンエレメントに対応する2つのシーリングエレメントを用いる場合、インジェクタを不便にするより高いBLFが観察されるだろう。したがって、本発明は、インジェクタの医薬組成物の効果的なシーリングによる、ユーザに使いやすいインジェクタを提供する。本発明者は、任意の特定の理論に縛られることなく、圧縮性セクションの弾性の特質は、受動ピストンエレメントに適用される力の均一化を提供し、これは、次に、ピストン組立体の総BLFを低減させると考えている。さらなる実施形態において、インジェクタは、ピストンエレメントのペアの間に圧縮性セクションを備える、2より多くのピストンエレメントを備えていてよい。
【0022】
したがって、ユーザによって感じられる最大BLFは、1つのピストンエレメントに対するBLFよりも大きくはならないだろう。以下の値は、本発明の実施形態において取得されたBLF力を例証している:注射完了までに、約7Nの作動ピストンエレメントのBLF、低減された約4Nの平均滑走力、増加された約7Nの受動ピストンエレメントのBLF、低減された約4Nの平均滑走力、これは約14Nの従来のピストンのBLFのおおよそ50%に等しい。したがって、本発明のしたがうピストンは、任意の既知のピストンと比較して、半値に又はより低くBLFを低減させることが可能であり、さらに、弾性フレームが存在するとき、滑走力は、典型的にBLFの半分よりも大きく、したがって、より円滑なエンドユーザの経験を提供する。
【0023】
その最も単純な形態において、ピストン組立体は、作動ピストンエレメント及び受動ピストンエレメント、並びに、圧縮性流体からなる圧縮性セクションを備えていてよい。作動ピストンエレメントと受動ピストンエレメントとの間に存在する任意の非圧縮性流体は、圧縮性セクションの一部分にはならないと見なされる。例えば、作動ピストンエレメントと受動ピストンエレメントとの間の圧縮性流体、例えば空気は、通常湿度を含むことがあり、これは、シリンダの内部壁又はピストンエレメントの内面上に水滴を形成することがある。このケースにおいて、本発明に関連する、圧縮性セクションは、圧縮性流体、例えば空気からなると見なされる。例えば、圧縮性セクションは、作動ピストンエレメントと受動ピストンエレメントとの間に取り込まれる空気であってよい。いったん作動ピストンエレメントが動かされると、圧縮性流体は圧縮され、最終的に、圧縮性セクション中の圧力は、動きを開始する受動ピストンエレメントの静摩擦に打ち勝つのに十分大きくなるだろう。圧縮性流体は、ばねのような効果を提供することがあり、両方のシーリングエレメントが同時に動きを開始しなければならず、結果として、大幅に高いBLF値となる、2つのピストンエレメントとともに単一のストッパーを有するインジェクタを操作する場合よりも、エンドユーザはより円滑な経験を有するだろう。しかしながら、弾性フレームが存在せず、圧縮性セクションが単に圧縮性流体からなるとき、受動ピストンエレメントは、作動ピストンレメントによって単に押されることがあり、これは、作動ピストンエレメントを介して受動ピストンエレメントを引くことはほぼ不可能である。
【0024】
圧縮性セクションは、圧縮性流体と作動ピストンエレメントを受動ピストンエレメントにリンクする弾性フレームを備えている。弾性フレームは、所望の任意の形態をとってよく、弾性フレームは、適切な弾性を提供する任意の素材から準備されてよい。作動ピストンエレメントと受動ピストンエレメントとの間の素材は、本発明に関連して、「ステム」としても呼ばれてよい。例えば、素材は、フレームを構成するステムを残すように素材のブロックから取り除かれてよい。弾性フレームは、弾性ポリマー、例えば、熱可塑性エラストマー(TPE)、又は弾性金属でできていてよい。ある実施形態において、弾性フレームは、例えば水素化スチレンブロックコポリマー(SBC)から構成されるリストから選択されるSBCのようなSBC、又は、非水素化SBS、又は、これらの合金のようなTPEから射出成形される。
【0025】
同様に、作動ピストンエレメントと受動ピストンエレメントはまた、所望の通りに任意の適切な素材から準備されてよい。しかしながら、作動ピストンエレメントと受動ピストンエレメントは、典型的に、ポリマー素材から、特にそれぞれのピストンエレメントがピストンエレメントとシリンダの内部壁との間をシールすることを可能にする弾性ポリマー素材から準備されるだろう。作動ピストンエレメントと受動ピストンエレメント、並びに弾性フレームに対しても好ましい素材は、例えば水素化SBCから構成されるリストから選択されるSBCのようなSBC、又は、非水素化SBS、又は、これらの合金のようなTPEである。作動ピストンエレメントと受動ピストンエレメントは、例えば上記で言及したTPEのようなTPEから射出成形されることがさらに好ましい。したがって、実施形態において、作動ピストンエレメント、受動ピストンエレメント、弾性フレーム、又は、例えば、単一の部品としての、作動ピストンエレメント、受動ピストンエレメント及び弾性フレームは、TPEでできている。
【0026】
実施形態において、作動ピストンエレメント、受動ピストンエレメント、弾性フレーム、又は、例えば、単一の部品としての、作動ピストンエレメント、受動ピストンエレメント及び弾性フレームは、射出形成によって作られる。
【0027】
本発明においてTEPが適切である場合、任意のTPEが使用されてよい。適切な熱可塑性ポリマーは、SBC、例えば、水素化-H-SBC-(SEBS-スチレンエチレン ブチレン-スチレン、又は、これに類するもの)、又は、非水素化(SBS-スチレン-ブタジエンスチレン)、又は、これらの合金、及びCOCエラストマーのような他の互換性のあるポリマーを備えている。好ましいSBCは、AlphaGray Corporation(Leominster, MA, USA)によって販売されているような商標Evopreneのもとで知られているものである。Evopreneは、(2007年7月にAlphaGaryによって公開された)「EVOPRENE(登録商標)Thermoplastic Elastomer (TPE) Compounds-GENERAL INFORMATION」というパンフレットに記載されており、好ましいEvoprene(登録商標)ポリマーは、それぞれ、(2007年7月にAlphaGaryによって公開された)「EVOPRENE(登録商標)SUPER G Thermoplastic Elastomer(TPE)Compounds」、「EVOPRENE(登録商標)G Thermoplastic Elastomer(TPE)Compounds」、「EVOPRENE(登録商標)GC Thermoplastic Elastomer(TPE)Compounds」、及び、EVOPRENE(登録商標)HP Thermoplastic Elastomer(TPE)Compoundsのパンフレットに記載された、Evoprene(登録商標)Super G、Evoprene(登録商標)G、Evoprene(登録商標)GC、Evoprene(登録商標) HPである。AlphaGrayによるすべての言及したパンフレットの内容は、参照によってここに組み込まれている。他の関連エラストマーは、COCエラストマー、例えば、TOPAS(登録商標)Elastomer E-140を備えている。
【0028】
ピストン組立体が、射出成形されるとき、従来のゴムピストン、例えば、ブロモブチル又はクロロブチルゴムから作られるピストンの製造の際に一般的に使用される加硫のようなテクノロジーによって提供されるものよりも、より低い許容範囲で、ピストン組立体は作られることができる。適切な素材は、ゴム、例えば、天然ゴム、合成ゴム(ポリイソプレンゴム、ブチルゴム)、シリコンゴム、及びこれらに類するもののようなエラストマーを備え、エラストマーは、例えば、エラストマーの素材の弾性を示し、エラストマーの素材の硬度を測定するショアデュロメータに関して定義されてよく、デュロメータが高くなればなるほど組成物は硬くなる。例えば、本発明の実施形態において、例えば変形可能なシーリングエレメントを含む、ピストン組立体は、50から90の、好ましくは60から80の、より好ましくは71から76の範囲のショアA硬度を有する。用語「ショア硬度」及び「ショアデュロメータ」は、交換可能に使用されてよい。一般的に、変形可能なシーリングエレメントは、同質であり、変形可能なシーリングエレメントの体積を通して同じ素材からなり、この素材は、所定の範囲のショアA硬度を有する。上記で言及した範囲のショアA硬度を有する素材を使用することによって、比較的硬いエラストマーの素材が提供される。ショアAデュロメータは、選ばれた素材の素材特性を特徴付けるための多くの方法のうちの1つに過ぎず、素材を特徴付けるために他の試験を用いてよいことに留意すべきである。ショアA硬度の測定は、当業者に周知のものであり、特に、ショアA硬度は、ISO868標準規格にしたがって一般的に記録されている。
【0029】
例示的なTPEとそのショアA硬度を表1中に要約した。
【0030】
【0031】
実施形態において、作動ピストンエレメント、受動ピストンエレメント、弾性フレーム、又は、作動ピストンエレメント、受動ピストンエレメント及び弾性フレームは、50から90の範囲のショアA硬度を有している。弾性フレームが50から90の、特に、70から90の範囲のショアA硬度を有するとき、(Nで測定される)BLFは、一般的に(Nで測定される)滑走力の150%内である。
【0032】
TPEはまた、それらの圧縮永久ひずみ値によって規定されてよく、圧縮永久ひずみ値は、TPEに適用された力を取り除いた後に残っている変形に対応する(そして典型的に%で表される)。圧縮永久ひずみ値は、典型的に、例えば、ISO815標準規格にしたがう、例えば、18時間から96時間の範囲の特定の時間期間、及び、特定の温度を通して記録される。本発明に関連して、圧縮永久ひずみは、例えば、10℃から40℃の範囲で、一般的に「周囲温度」において記録される。一般的に、温度が高いほど、圧縮永久ひずみに記録することに関連する時間は短くなる。圧縮永久ひずみは、一般的にできるだけ低くあるべきであるが、本発明のピストン組立体、又はピストン組立体の一部分に対して、圧縮永久ひずみは、15%から40%の範囲であってよい。圧縮永久ひずみ値は、一般的に、ピストン組立体がシリンダに挿入される予め充填されているインジェクタに関連し、したがって、充填されるインジェクタが長い時間期間保管されるとき、圧縮される。ピストンエレメントが50から90の範囲のショアA硬度を有し、少なくとも25%の、例えば、25%から35%の範囲の圧縮永久ひずみ値を有するとき、本発明の予め充填されているインジェクタのBLFは、例えば少なくとも5日間、保管すると減少し、本発明のピストン組立体は、予め充填されているインジェクタに特に有利である。圧縮永久ひずみが60%より低い限り、CCIが確保される。
【0033】
ある実施形態において、ピストン組立体のピストンエレメントは、それぞれ、凸状の変形可能なシーリングエレメントを備え、この変形可能なシーリングエレメントは、接する境界面において、シリンダ内部壁に接し、ピストンエレメントとシリンダ内部壁との間にシールを提供する。用語「接する境界面」は、内部壁と変形可能なシーリングエレメントが互いに接触する任意のセクションを指し、「接する境界面」は、シリンダの内部壁又はシーリングエレメントの面のいずれにも、何らかの限定を課すものではない。これに関連して、用語「凸状」は、変形可能なシーリングエレメントの内での任意の2点の間の直線が変形可能なシーリングエレメントの面を横切らないことを意味する。特に、それぞれのピストンエレメントが、例えばピストン組立体をシリンダに挿入することによってもたらされる変形のような変形のない状態である「弛緩した状態」であるとき、変形可能なシーリングエレメントは、凸状であるが、変形可能なシーリングエレメントは、シリンダに挿入されるときも凸状であることが好ましい。変形可能なシーリングエレメントの直径、すなわち、ピストンエレメントの直径は、典型的には、シリンダの内径より3%から20%、例えば、5%から15%大きい。シリンダの内径よりも3%から20%長い直径を有する凸状の変形可能なシーリングエレメントを備えるピストンエレメントが、50から90の範囲の、例えば70から90の範囲のショアA硬度の素材、例えばTPEから準備されるとき、ピストン組立体は潤滑剤なしで使用されてよい。別の実施形態において、インジェクタは、潤滑剤を備えず、特に、インジェクタは、シリコン潤滑剤を備えない。潤滑剤、例えばシリコン潤滑剤は、ある医薬品、例えばワクチンのようなタンパク分子に基づく医薬品に関して、不活性であり、医薬品が予め充填されているインジェクタの長期間の保管に対して、潤滑剤は避けられるべきである。したがって、この実施形態は、有利なことに、医薬品への有害な影響なく、医薬品、例えばタンパク質ベースの医薬品が予め充填されている本発明のインジェクタの長期間の保管を可能にする。作動ピストンエレメントと受動ピストンエレメント、特にシリンダの内面に接触する変形可能なシーリングエレメントが50から90の範囲のショアA硬度を有するTPEからできているとき、潤滑剤、例えばシリコン潤滑剤が存在しないときでさえ、付着効果を防ぐ。したがって、作動ピストンエレメントと受動ピストンエレメントが、50から90の範囲のショアA硬度を有するTPEから作られ、潤滑剤が存在しない任意の実施形態は、長期間の保管に特に適している。付着効果が生じないことから、長期のシーリングが提供され、潤滑剤からの薬への悪影響を回避しつつ、本発明のピストン組立体によって提供されるBLFの低減により、円滑なエンドユーザの経験を依然として得ることができる。この効果は、ガラスシリンダと共にポリマーを有するインジェクタ対して観測される。
【0034】
特定の実施形態において、例えば、ピストン組立体が弛緩した状態であるとき、作動ピストンエレメントの直径は、受動ピストンエレメントの直径よりも短い。したがって、作動ピストンエレメントに関連するBLFは、受動ピストンエレメントに関連するBLFよりも小さく、これは、全体のBLFと滑走力の両方が減少することを提供し、したがって、インジェクタを空にするとき、エンドユーザにより円滑な経験を提供する。さらに、作動ピストンエレメントのBLFは受動ピストンエレメントのBLFよりも少ないことから、作動力が受動ピストンエレメントから取り除かれるとき、確実に、受動ピストンエレメントがとどまり、作動ピストンエレメントのみが動くようにする。したがって、注射する量のより良い制御が可能である。
【0035】
シーリングエレメントの異なる動きによって全体のBLFを低減させるその一意的な設計により、ピストンエレメントの直径が最大化される一方で、ピストンエレメントの差動運動により低いBLFを依然として取得することから、ピストン組立体は、かなりの許容範囲にかかわらず、潤滑剤が省かれるときでさえ、ガラスバレルと円滑に相互作用することができる。したがって、好ましい実施形態において、シリンダは、ガラス、例えばホウケイ酸ガラスでできており、インジェクタは、潤滑剤、特にシリコンベースの潤滑剤を含まない。2つのピストンエレメントと低減されたBLFを使用して取得される効率的なシーリングの組み合わせは、付着効果が生じず、医薬組成物、例えばタンパク質ベースの医薬組成物上の潤滑剤の有害な効果が回避されることから、予め充填されているインジェクタの長期の保管に特に有利である。本発明は、付着効果に悩まされることのない、医薬組成物の長期の保管のためのインジェクタを提供するといえる。
【0036】
実施形態において、弾性フレームは、接着する又は溶接、例えばレーザ溶接、超音波溶接等することにより、又は任意の適切な方法により、作動ピストンエレメントと受動ピストンエレメントに接合される。この実施形態において、作動ピストンエレメント、受動ピストンエレメント及び弾性フレームは、同じ素材でできていてよく、又は異なる素材でできていてよい。
【0037】
別の実施形態において、作動ピストンエレメント、受動ピストンエレメント及び弾性フレームは、例えば弾性フレーム又はピストンエレメントを所望の形状で提供するように修正されてよい素材の単一の部品として提供されている。例えば、セクションは、所望の形状を提供するために、素材のブロックから取り除かれてよい。ピストンエレメントを準備するための別のオプションは、3Dプリントである。
【0038】
好ましい実施形態において、作動ピストンエレメント、受動ピストンエレメント及び弾性フレームは、その最終形状において、素材の単一の部品として提供されている。このような素材は、例えばTPEの、射出形成によって提供されてよい。ピストン組立体は、50から90の、例えば、70から90範囲のショアA硬度を有するTPEからのその最終形状の単一の部品として射出成形されることが特に好ましい。このピストン組立体は、潤滑剤、例えばシリコン潤滑剤を含まないインジェクタに適している。
【0039】
圧縮性セクションは、圧縮性セクションに面する差動ピストンエレメントの内面から、圧縮性セクションに面する受動ピストンエレメントに面する内面へと計算される容積を有している。圧縮性セクションは、容積を有し、弾性フレームによって占有される容積の部分は、本発明に関連して、「容積率」と呼ばれる。本発明の実施形態において、弾性フレームは、圧縮性セクションの容積の5%から90%の範囲の、例えば、10%から70%、15%から50%、又は20%から40%の範囲の容積率を有している。例えば、弾性フレームは、一般的に1つ以上の穴又は押込を備えるシリンダ形状を有していてよく、これは、フレームの素材の弾力特性とともに弾性を提供する。ある実施形態において、シリンダ形状のフレームは、単一の貫通孔を有している。貫通孔は、例えば円形、長円形、楕円形、長方形、正方形等のような任意の断面形状を有していてよい。貫通孔は、壁を備えるフレーム、又は、弾性をフレームに提供する「減衰セクション」を提供するだろう。フレームが貫通孔を備えるとき、弾性フレームの容積率は、典型的に30%から70%の範囲になるだろう。特定の実施形態において、弾性フレームは、ピストン組立体の全体の長さの30%から70%の範囲の軸方向の長さを有し、弾性フレームは、10%から70%の範囲の圧縮性セクションの容積率を有している。さらなる実施形態において、弾性フレームは、ピストン組立体の全体の長さの30%から70%の範囲の軸方向の長さを有し、弾性フレームは、10%から70%の範囲の圧縮性セクションの容積率を有しており、弾性フレームは、50から90の範囲のショアA硬度を有している。
【0040】
弾性フレームはまた、作動ピストンエレメントを受動ピストンエレメントにリンクする1つ以上の柱又はステムの形態をとってよい。本発明に関連して、用語「ステム」と「柱」は、交換可能に使用されてよい。柱は、自由に設計されてよいが、必要な収縮を達成するために、柱の幅、厚さ及び長さは変化してよく、これは、所定のピストン組立体に対する力と摩擦要件に影響を及ぼす、シリンダの寸法と内径に依存してよい。差動ピストンエレメントを押すことにより、柱は、フレームに弾性を提供するように変形するだろう。実施形態において、柱は、線形の形状のものである。柱は、差動ピストンエレメントと受動ピストンエレメントとの間を直角で伸張してよく、柱は、直角から外れた角度で伸張してよい。柱の角度が直角から外れるとき、柱の変形は一般的に柱が直角であるときよりも滑らかであり、それにより、よりユーザに使いやすいインジェクタの操作を提供する。特定の実施形態において、柱は曲がっている又は角を含んでいる。曲がった又は角のある柱はまた、よりユーザに使いやすいインジェクタの操作を提供するように、より円滑に変形するだろう。別の実施形態において、弾性フレームはらせん形状を有している。らせん形状の弾性フレームも、ユーザに使いやすいインジェクタの操作を提供するだろう。
【0041】
さらなる実施形態において、圧縮性セクションはスポンジ又はこれに類する形状のフレームを備えている。例えば、弾性フレームの素材、例えば弾力素材は、構造の総容積の10%から40%を構成する素材を備える、標準の又は非標準の構造のネットワークを有していてよい。このような構造を備えるフレームを有するピストン組立体は、2つのコンポーネント成形により準備されてよい。
【0042】
別の態様において、本発明は、医薬組成物のデリバリーのためのインジェクタに関連し、インジェクタは、
-縦方向の軸に沿って伸長するシリンダであって、内部壁、外部壁、及び、作動端と反対側の排出端における排出口を有するシリンダと、
-作動ピストンエレメントと受動ピストンエレメントとの間に圧縮性セクションを備えるピストン組立体とを備え、これらのピストンエレメントは、50から90の範囲のショアA硬度を有し、ピストン組立体がシリンダ中に挿入されるとき、接する境界面においてシリンダの内部壁に接し、それにより、圧縮性セクションをシールし、圧縮性セクションは、圧縮性流体からなる。
【0043】
この態様のインジェクタは、有利なことに、潤滑剤を必要とせず、特定の実施形態において、インジェクタは、潤滑剤、例えばシリコン潤滑剤を必要としない。
【0044】
本発明の実施形態において、作動ピストンエレメントの作動面は、ピストンに取り付けられている永久プランジャーを備える、従来の予め充填されているシリンジに対するプランジャー又はロッドの傾きと相互作用するための空洞を備えていてよい。プランジャー又はロッドの容易で単純な据え付けに適合するように、さらなる実施形態は、作動ピストンエレメントの作動面と受動ピストンエレメントの排出面において、空洞、例えば、同一の空洞を備えていてよい。これは、対称な設計により、シリンダへの挿入の際に、ピストン組立体の向きに対する要求をなくす。
【0045】
さらなる実施形態において、作動ピストンエレメントは、ピストンロッドの相補的係合デバイスを係合するための係合デバイスを備えている。特に、作動ピストンエレメントが係合デバイスを備えるとき、ピストン組立体は、好ましくは、作動ピストンエレメントを受動ピストンエレメントにリンクする弾性フレームを有している。それにより、インジェクタは、患者への注射のための医薬組成物を備えるインジェクタをユーザが充填できるようにする従来のインジェクタとして使用されてよい。特定の実施形態において、インジェクタはまた、相補的な、すなわち、作動ピストンの係合デバイスに相補的な係合デバイスを有するピストンロッドを備えている。係合デバイスと相補的係合デバイスの例示的なセットは、内部の及び外部のらせん状のねじ山を備えている。インジェクタが、ピストンロッドの相補的係合デバイスを係合するための係合デバイスを有する作動ピストンエレメントを備えるピストン組立体を有するとき、BLFに関するピストン組立体の効果は、ピストンロッドを使用してピストン組立体を押し、引くとき、すなわち、インジェクタを空にするまた充填するとき、の両方で取得される。それにより、BLFと滑走力との間の低い差による、インジェクタのより正確な充填を取得することができる。
【0046】
一般的に、圧縮性セクション中に存在する圧縮性流体は、インジェクタの周囲圧力に対応する圧力になるだろう。しかしながら、弾性フレームの存在にかかわらず、増加した又は減少した圧力で、2つのピストンレメントを備えるインジェクタが組立てられてよいことも企図される。修正された圧力における組立体に続き、ピストンエレメントの可動性質は、周囲圧力に適応する圧縮性セクションの圧力を提供するだろう。
【0047】
ピストン組立体が弾性フレームを備えるとき、ピストン組立体は、受動ピストンエレメントの排出面と比較して、作動ピストンエレメントの作動面に関して対称であることが好ましい。それにより、シリンダへのピストン組立体の挿入は、その向きに依存しない。これは、ピストンロッドを収容する手段により、ピストンを係合するピストンロッドを有するインジェクタと比較して、インジェクタの製造を簡略化する。
【0048】
インジェクタは、対象者の皮膚を通して、対象者に医薬組成物をデリバリーするために用いられる任意の種類のインジェクタであってよい。例えば、インジェクタは、例えば、皮下の(SC)、筋肉内の(IM)、皮膚内の(ID)、又は静脈内の(IV)デリバリーあるいは別のタイプのデリバリーを介して、医薬組成物を注射するために皮下注射針を装着したシリンジであってよい。
【0049】
インジェクタは、作動ピストンエレメントを作動させるための管状セクションを有する針キャップを備えていてよく、この針キャップは、針キャップがシリンダ上に据え付けられるとき、シリンダの排出口の相補的係合デバイスを係合するための係合デバイスを備える針挿入端を有しており、この針キャップは、例えば、弛緩した状態で、シリンダの作動端からシリンダの排出端までの距離から縦方向の軸に平行なピストン組立体の寸法を引いたものによって規定されるシリンダの動作長と等しい又はより長い長さを有している。一般的に、シリンダの作動端からシリンダの排出端までの距離からシリンダの縦方向の軸に平行なピストンの寸法を引いたものが、シリンダの「動作長」を規定する。ピストン組立体は、任意の手段を使用して、作動端から排出端に向かって動かされてよく、例えば、ピストン組立体は、ピストンロッド又はプランジャーを使用して、排出端に向かって動かされてよい。ピストン組立体は、例えば、作動端からのピストンロッド又はこれに類するものとのピストン組立体の係合により、例えば排出端から、作動端に向かって動かすことができないことが望ましい。針キャップは、弾性可能な素材からなってよく、又は、これは、固い素材、例えば、ポリマー剛体、又は、エラストマーの素材からなってよい。この実施形態に関するさらなる詳細は、US2016/0129197とDK178284B1中に見出され、これらは、参照によってここに組み込まれている。特に、それぞれの特許請求の範囲は、参照によって組み込まれている。
【0050】
作動端におけるシリンダは、シリンダの断面全体にわたって開いていてよく、これは、ピストン組立体の除去や挿入を可能にし、それによって、作動端を介してインジェクタの充填も可能にする。シリンダはまた、作動端において、一旦シリンダに挿入されたピストン組立体の除去を回避するリッジ又は突出部又はこれらに類するものを有していてよい。特に、リッジ又は突出部は、相補的な「ばねデバイス」がピストンロッド上に含まれている「ばねロックデバイス」の「ロックデバイス」を提供してよい。ばねロックデバイス又はこれに類するものは、ピストン組立体をシリンダの排出端に動かした後、ピストンロッドをロックすることができ、それによって、シリンダの再充填を回避する。
【0051】
インジェクタは、例えば排出端において、皮下注射針を取り付ける又は据え付けるフィッティングを備えてよい。したがって、シリンダは、皮下注射針の相補的係合デバイスを係合するための係合デバイスを提供する、シリンダからの先細の排出口、例えば、管状排出口を有していてよく、例えば、係合デバイスと相補的係合デバイスは雄雌相互作用を備えてよく、管状の排出口はオプション的に外側にねじ山、例えば、らせん状の外部のねじ山を備え、皮下注射針はオプション的に相補的な内部のねじ山、例えば、らせん状の内部のねじ山を備える。皮下注射針は、皮下注射針の単純な取り外しや置換を可能にするよう適合されてよく、又は、皮下注射針は、インジェクタ上に恒久的に据え付けられてよい。特に、皮下注射針は、その取り外しがインジェクタの破壊を必要とし、それにより再使用を阻止するように、インジェクタ上に据え付けられてよく、これは、本発明に関連して、「恒久的」と見なされる。インジェクタがシリンダの排出口に取り付けられている、例えば恒久的に取り付けられている皮下注射針を備えることは、好ましい。
【0052】
発明の実施形態において、好ましくは予め充填されている、インジェクタは、皮下注射針を備えるシリンジである。シリンジは、管状の排出口又は別の形状の排出口上に据え付けられている、例えば、恒久的に据え付けられている、皮下注射針を有していてよい。インジェクタが予め充填されるとき、特に、インジェクタがピストンロッドとして使用するための針キャップも備えるとき、シリンダの作動端とピストン組立体の作動面との間に間隙があってよい。間隙は、ピストンロッドがシリンダに挿入されるとき、ピストンロッドの安定性を確実にし、結果として、インジェクタのより安全な、より簡単な操作となる。例えば長さの単位で測定される間隙は、インジェクタのサイズ、例えば容積、及び、インジェクタの医薬組成物の用量に関連する任意の値であってよい。間隙に対する典型的な値は、約2mmから約20mmの間である。しかしながら、ユーザがインジェクタを取り扱い、操作できるように、インジェクタ本体、したがってシリンダは、かなり大きく、特に長いが、例えば、眼の注射のような、注射可能量の実際の量がシリンダ使用可能量よりもかなり少ない、注射可能量がたった0.5mlであるケースにおいて、間隙は、20mmを超えるかもしれない。
【0053】
本発明の実施形態において、作動ピストンエレメント、受動ピストンエレメント及び/又は弾性フレームは、1枚以上の安定板を備えている。安定板は、所望のように任意の形態又は形状をとってよく、典型的にそれぞれのピストンエレメント又は弾性フレームとシリンダの内部壁との間に非シーリング接触を提供するだろう。安定板は、ピストンエレメントとシリンダの内部壁との間に、例えば、作動面と作動面の変形可能なシーリングエレメントとの間に、又は、排出面と受動ピストンエレメントの変形可能なシーリングエレメントとの間に、又は、存在するとき、弾性フレームの一部として、接する面とは異なるロケーションにおけるそれぞれのピストンエレメント上に一般的に存在するだろう。実施形態において、安定板は、ピストンエレメントの本体を囲む円形の外部突出部であり、この本体は、シリンダの内部壁とは接触せず、安定板は、それぞれのピストンエレメントの内面とシリンダの内部壁に接するそれぞれのピストンエレメントのセクション、例えば、凸状の変形可能なシーリングエレメントとの間に、又は、シリンダの内部壁に接するそれぞれのピストンエレメントのセクションと弾性フレームとの間に、又は、弾性フレーム上に位置付けられる。例えば、円形の外部突出部の形状の安定板が、それぞれのピストンエレメントの内面とシリンダの内部壁に接する受動ピストンエレメントのセクションとの間に位置づけられるとき、シリンダの内部壁に接する受動ピストンエレメントのセクションと排出面との間に安定板を有する実施形態と比較して、注射の完了した後に残される残りの注射可能物質のリスクは、確実に低くなる。安定板はまた、変形可能シーリングエレメントといずれかのピストンエレメントの圧縮性セクションとの間のロケーションに存在してよい。実施形態において、安定板は、ピストンエレメントが挿入されるシリンダに対して縦方向を有している。したがって、安定板は、ピストン組立体のBLFにわずかに寄与する。ピストンエレメント上のそのポジションにかかわらず、安定板は、それぞれのピストンエレメントの傾きを回避する。傾きの回避は、より丈夫なインジェクタを提供する。インジェクタ中のピストンが傾くとき、インジェクタの操作はあまり予測可能でなくなり、特に、圧縮性セクション中に圧縮性流体が存在する本発明のインジェクタの実施形態において、傾きは、BLFを低下させることに関して、インジェクタの誤動作をもたらすことがある。したがって、安定板は、本発明のインジェクタに特に有利である。
【0054】
特定の実施形態において、安定板は、特に、インジェクタのシリンダの軸方向に、柔軟である。柔軟な安定板は、典型的にピストン本体を囲む1つ以上のセクションを備え、シリンダの内部壁間の内径又は距離、例えば半径距離よりも長い、径方向の伸長を有するだろう。例えば、柔軟な安定エレメントは、シリンダの、内径の120%から200%の間位の範囲の、直径、又は径方向寸法、あるいは、内部壁間の距離を有している。シリンダへ挿入すると、柔軟な安定板は、ピストン組立体の滑走力に著しい寄与をすることなく、シリンダの内部壁に沿って曲がり、スライドするだろう。いったんシリンダに挿入されると、柔軟な安定板を有するピストン組立体の柔軟な安定板は、ピストン組立体のBLFにわずかな寄与を提供するにすぎないだろう。インジェクタのシリンダの内径よりも長い、柔軟な安定板、例えば、径方向の伸長を有する柔軟な安定板は、ピストン組立体の傾きに対する安定性を向上させるだろう。安定板は、例えば、ピストン本体を囲むカラーの形態をとってよく、又は、安定板は、ピストン本体の中心軸から径方向に伸長する2つ以上の、例えば3つ又は4つの、フラップを備えていてよい。例えば、ピストン本体の軸方向の、柔軟な安定板の厚さは、典型的に1mmまで、例えば、0.1から1.0mmの範囲だろう。柔軟な安定板は、好ましくは、50から90の範囲のショアA硬度を有しており、より好ましくは、ピストン本体及び/又はピストンエレメントと同じ素材でできている。実施形態において、柔軟な安定板を含むピストン組立体は、例えばTPEから単一の部品として射出成形される。圧縮性ピストンエレメント又は受動ピストンエレメントのいずれかの傾きが圧縮性セクションのシ-リングを回避することから、軸方向に柔軟な安定板は、圧縮性セクションが圧縮性流体からなるとき、特に適切である。
【0055】
別の態様において、本発明は、医薬組成物のデリバリーのためのインジェクタに関連し、インジェクタは、
-縦方向の軸に沿って伸長するシリンダであって、シリンダの内径を規定する内部壁、外部壁、及び、作動端と反対側の排出端における排出口を有するシリンダと、
-ピストンがシリンダ中に挿入されるとき、単一のシーリングエレメントは、接する境界面においてシリンダの内部壁に接し、それにより、インジェクタをシールするピストン本体、及び、ピストン本体の周りに径方向に伸長する1つ以上のセクションを有する柔軟な安定板を有するピストンとを備え、柔軟な安定板は、シリンダの内径よりも長く、シーリングエレメントは、50から90の範囲のショアA硬度を有している。シリンダは、円形の断面を有するように制限されず、「内径」は、シリンダの2つの対向する壁間の任意の径方向の距離を指してよい。この態様のインジェクタは、有利なことに、潤滑剤を必要とせず、特定の実施形態において、インジェクタは、潤滑剤、例えば、シリコン潤滑剤を必要としない。
【0056】
この態様において、柔軟な安定板は、上記で説明した任意の実施形態にしたがってよいが、柔軟な安定板は、インジェクタのシリンダの軸方向において柔軟であることが特に好ましい。傾きを回避することは、長期の保管のために予め充填されているシリンジで使用されるピストンに対して十分なシーリングを単一のシーリングエレメントが提供することを確実にすることから、単一のシーリングエレメントを有するピストンと組み合わせられるとき、傾きを回避するための柔軟な安定板の組み合わされた効果は、特に有利である。単一のシーリングエレメントを有するが柔軟な安定板がないピストンは、容易にインジェクタのシリンダに挿入されることや、十分なシーリングを提供することができない。さらに、単一のシーリングエレメントを備えるピストンを有するが、柔軟な安定板を有さない予め充填されているインジェクタの長期の保管の後、ピストンを動かすときにピストンが傾く傾向は、柔軟な安定板を有する、本発明のピストンと比較して、増加する。したがって、本発明のこの態様は、長期の保管の後に傾きが回避されるインジェクタを提供する。さらに、柔軟な安定板は、著しくBLFに寄与しないことから、この態様中のピストンのBLFは、単一のシーリングエレメントのみによってもたらされる。単一のシーリングエレメントのみにより、BLFは、エンドユーザに円滑な使用経験を提供するように許容可能に低くなる。特に好ましい実施形態において、ピストンが弛緩状態のとき、すなわち、シリンダに挿入されないとき、単一のシーリングエレメントは、凸状であり、シリンダの内径よりも長い3%から15%の直径を有している。この態様中のピストンが単一の部品としてTPEから射出成形さることがさらに好ましい。
【0057】
この態様のインジェクタは、ピストンロッドも備えていてよい。特に、ピストン本体は、シリンダの作動端に面する作動面を備えていてよく、ピストンロッドは、ピストン本体の作動面への相補的な作動面を有していてよい。例えば、ピストン本体とピストンロッドは、それぞれ、上記で規定したような、係合デバイスと相補的係合デバイス、例えば、内部及び外部のらせん状のねじ山を備える、係合デバイスと相補的係合デバイスの例示的なセットを備えていてよい。別の実施形態において、ピストン、例えばピストン本体は、頑丈で、空洞を備えない。頑丈なピストン本体は、一般的に、ピストンロッドとピストン本体との間の係合を可能にしないだろう。さらなる実施形態において、例えば作動面におけるピストン本体は、振動フィーダー、例えばボウルフィーダーにおける方向付けを促進するための空洞を備えている。振動フィーダーにおける方向付けを促進するための空洞は、典型的に内部のらせん状のねじ山を備えない。
【0058】
本発明の任意の態様のインジェクタの特徴は、自由に組み合わされてよく、特定の特徴に対して取得される任意の利点は、インジェクタ中のそれぞれの特徴によって組み込まれることにより、いずれの態様にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
以下において、例の助けにより、及び、概略図を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【
図1】
図1は、先行技術のピストンの斜視図を示している。
【
図2】
図2は、本発明のインジェクタのピストン組立体の斜視図を示している。
【
図3】
図3は、本発明のインジェクタのピストン組立体の側面図を示している。
【
図4】
図4は、本発明のインジェクタの側面図を示している。
【
図5】
図5は、本発明のインジェクタの側面図を示している。
【
図6】
図6は、本発明のインジェクタのピストン組立体の側面図を示している。
【
図7】
図7は、本発明のインジェクタのピストン組立体の側面図を示している。
【
図8】
図8は、
図7中に示されているインジェクタのピストン組立体の上面図を示している。
【
図9】
図9は、本発明のインジェクタのピストン組立体の斜視図を示している。
【
図12a】
図12aは、本発明のピストン組立体とインジェクタの側面図を示している。
【
図12b】
図12bは、本発明のピストン組立体とインジェクタの側面図を示している。
【
図13a】
図13aは、本発明のピストン組立体とインジェクタの側面図を示している。
【
図13b】
図13bは、本発明のピストン組立体とインジェクタの側面図を示している。
【
図14a】
図14aは、本発明のピストン組立体とインジェクタの側面図を示している。
【
図14b】
図14bは、本発明のピストン組立体とインジェクタの側面図を示している。
【
図15】
図15は、本発明のインジェクタの側面図を示している。
【
図16】
図16は、本発明のインジェクタのピストン組立体の斜視図を示している。
【
図17】
図17は、本発明のインジェクタのピストン組立体の斜視図を示している。
【
図18a】
図18aは、本発明のインジェクタのピストン組立体の斜視図と側面図を示している。
【
図18b】
図18bは、本発明のインジェクタのピストン組立体の斜視図と側面図を示している。
【
図18c】
図18cは、本発明のインジェクタのピストン組立体の斜視図と側面図を示している。
【
図19】
図19は、本発明のインジェクタのピストン組立体の側面図を示している。
【
図20】
図20は、ピストンロッドを有する本発明のインジェクタのピストン組立体の斜視図を示している。
【
図21a】
図21aは、本発明のインジェクタのピストン組立体の斜視図を示している。
【
図21b】
図21bは、本発明のインジェクタのピストン組立体の斜視図を示している。
【
図22】
図22は、本発明のインジェクタのピストン組立体の異なる図を示している。
【
図23】
図23は、本発明のインジェクタのピストン組立体の異なる図を示している。
【
図24】
図24は、先行技術のインジェクタに対する荷重対変位のプロットを示している。
【
図25】
図25は、本発明のインジェクタに対する荷重対変位のプロットを示している。
【0060】
さまざまな実施形態における特徴の組み合わせも企図され、さまざまな特徴、詳細及び実施形態は、他の実施形態に組み合わされてよいことを理解すべきである。
【0061】
図面への参照は、本発明を説明することを担い、描かれたような特定の実施形態への特徴に限定するものとして解釈すべきではない。
【発明の詳細な説明】
【0062】
本発明は医薬組成物のデリバリーのためのインジェクタに関する。添付の図面を参照して、本発明をより詳細に説明する。ある図は、本発明のインジェクタの「断面図」として描かれており、「断面図」におけるインジェクタは、別の方法で描かれているインジェクタと比較して、90°の角度で描かれている。ある図は、本発明のインジェクタの側面図を描いている。これらの側面図は、インジェクタの排出口を描いていないが、本発明のインジェクタは、例えば皮下注射針を装着したような排出口を有することを理解すべきである。
【0063】
図1は、医薬品の注射のために(示されていない)シリンジの従来のピストン100を示している。従来のピストンは、示しているバージョンで、ピストン本体101、2つのシーリングエレメント102を備えており、これらは、従来のピストン100がシリンジに挿入されるとき、ピストン本体101とシリンジの内部壁との間の環状のギャップをシールする。ピストン本体101は、典型的に、ゴム又は低圧縮率を有する類似した素材でできている。シリンジ中の従来のピストン100を動かすために、解放力(BLF)は、2つのシーリングエレメント102の組み合わされた静摩擦を含むだろう。
【0064】
図2は、作動ピストンエレメント32と受動ピストンエレメント33との間に圧縮性セクション31を有するピストン組立体2の斜視図を示している。作動ピストンエレメント32は、実施形態で示す、弾性フレーム34を備え、弾性フレーム34は、単一の貫通孔35と対応する壁36を有している。作動ピストンエレメント32は、作動面321を有し、受動ピストンエレメント33は、排出面331を有し、示されている実施形態において、ピストン組立体3は、作動面321と排出面331に対して対称であり、インジェクタ中のピストン組立体3の向きは重要ではない。
図2のピストン組立体3のピストンエレメント32、33は、凸状の変形可能なシーリングエレメント5を有しており、ピストン組立体3は、例えば、50からら90の範囲のショアA硬度を有する、熱可塑性エラストマー(TPE)の射出成形によって単一の部品で準備される。
図2のピストン組立体3は
図3中で側面図として描かれており、
図4において、ピストン組立体3は、インジェクタ1に挿入して示されている。
図4は、フィンガーグリップ4が位置づけられているシリンダ2の作動端24を示している。ピストンエレメント32、33の凸状の変形可能シーリングエレメント5は、シリンダ2の内部壁21に接し、ピストン組立体3と内部壁21との間にシールを提供する。
図4(左パネル)において、ピストン組立体3は、弛緩した状態で示されており、
図4(右パネル)において、(矢印で示されている)力が作動面321に適用され、圧縮性セクション31が圧縮され;弾性フレームの壁36は、圧縮によって変形する。(弛緩した状態の)ピストン組立体3の全体の長さに対する圧縮性セクション31の軸方向の長さは、約50%であり、弾性フレーム34の容積率は
図2から
図4において、約30%である。
【0065】
図5は、圧縮性セクション31が圧縮性流体、例えば空気からなる実施形態を示している。したがって、ピストン組立体3は、作動ピストンエレメント32と、受動ピストンエレメント33とを備え、これらは両方、71のショア1硬度を有するEvopreneからできている。作動ピストンエレメント32と、受動ピストンエレメント33は、例えば、表1中にリストされている任意のTEPのような、50から90の範囲のショアA硬度を有する任意のTPEでできていてよい。
図5(左フレーム)において、ピストン組立体3は弛緩した状態で占められており、
図5(右フレーム)は、(矢印で示されている)力が作動面321に適用され、圧縮性流体の圧縮性セクション31が圧縮されている。
【0066】
図2及び
図3において、貫通孔35は、円形の断面を有するように描かれていたが、貫通孔は、断面形状に関して制限されない。したがって、
図6は、貫通孔35が四角形の断面を有する実施形態を示している。他の実施形態において、弾性フレーム34は、任意の断面形状の任意の数の貫通孔を有することができる。弾性フレーム34が1つ以上の押込、例えば、貫通ではない孔を有することがさらに可能である。
【0067】
図7から
図14は、弾性フレーム34が1つ以上の柱37の形態を有している実施形態を示しており;これらの実施形態において、弾性フレーム34、作動ピストンエレメント32、及び受動ピストンエレメント33は、典型的に同じ素材、例えば、TPEの射出成形から準備される。
【0068】
図7は、弾性フレーム34が4本の柱37からなる実施形態を示しており、
図8において4本の柱37は、(断面)上面図で示されている。柱37は、正方形の断面を有し、ピストンエレメント32、33の内面311間を直角に伸長する。弾性フレーム34の容積率は、
図7と
図8の実施形態において、15%から25%の範囲である。
【0069】
図9は、単一の柱からなる弾性フレーム34を有するピストン組立体3の斜視図を示しており、これは、
図10において側面図で示されている。柱は、ピストンエレメント32、33の内面311間を直角に伸長し、
図11は、シリンダ2に挿入され、(矢印により示されている)外力によって変形しているピストン組立体3を示している。
【0070】
図12において、弾性フレーム34は、作動ピストンエレメント32の内面311の側から受動ピストンエレメント32の内面311の中心に伸長する、又は、逆もまた同じである、2本の柱を有している。
図12aは、弛緩した状態のピストン組立体3を示しており、
図12bにおいて、ピストン組立体3はシリンダ2に挿入されており、矢印によって示されている外力の適用により柱が変形している、圧縮した状態で示されている。
図12bは、シリンダ2に関して1つの方向のピストン組立体3を示しているが、この実施形態は、それぞれのピストンエレメメント32、33の作動面321と排出面331に関して対称であるとみなされ、シリンダ2の向きは、ピストン組立体3の正しい機能に関連しないことに留意すべきである。
【0071】
図13は、ピストン組立体3(
図13a)とピストン組立体3を含むシリンダ2(
図13b)の側面図を示しており、ピストン組立体3は、それぞれが角度341を含む2本の柱の形態で弾性フレーム34を有している。柱は、TPEでできているが、角度341により、例えばポリマーのような、より固い素材で準備されることもできる。角度341は、弾性フレーム34に弾性を提供し、
図13b中に描いたように、外力の作用を受けると、角度341は、作動ピストンエレメント32が圧縮性セクション31を圧縮できるように曲がり、最終的に、ピストンエレメント23、33のそれぞれの追加されたBLFと比較して低減されたBLFで動ピストンエレメント33を押す。
【0072】
図14は、
図13中に描かれた実施形態のバリエーションを示しており、
図14aは、弛緩した状態のピストン組立体3を示し、
図14bは、(矢印によって示されている)外力によって圧縮されたシリンダ2中のピストン組立体3を示しており、弾性フレーム34を構成する柱の角度341は、
図13中の実施形態の角度341と比較して、反転している。
図13中の実施形態に対してなされたすべての観測は、
図14の実施形態にも関連する。
【0073】
図15は、スポンジ状の素材38でできている圧縮性エレメント31によるピストンエレメント3を有するインジェクタ1の側面図を示している。
図15(左パネル)は、弛緩状態のピストンエレメント3を示しており、
図15(右パネル)において、スポンジ状の素材38は、(矢印によって示されている)外力によって圧縮され、圧縮性セクション31も圧縮されている。
【0074】
図16及び
図17は、弾性フレーム34とピストンエレメント32、33それぞれが安定板7を設けている実施形態を示している。ピストンエレメント32、33それぞれは、ピストン本体8を有し、いったんピストン組立体がシリンダ2に挿入されると、これは、シリンダ2の内部壁21とは接触しないだろう。安定板7は、確実に、ピストン組立体3がシリンダ2中に挿入できるようにし、ピストンエレメント32、33の傾くリスクなく、ピストン組立体3を変形できるようにする。安定板7は、弾性フレーム34及び/又はピストンエレメント32、33上に縦方向に伸長する突出部として存在し、これらは、シリンダの内部壁との非シール接触を提供する。
【0075】
図17中に描いた実施形態は、シリンダに横向きの、シリンダ状の形状の弾性フレーム34を有している。ピストン組立体3のこの実施形態は、適切に成形されたピストンエレメント32、33を弾性フレーム34に接着する又は溶接することにより準備されてよく、又は、ピストン組立体3はピストンエレメント32、33を含み、弾性フレーム34は単一の部品として射出成形されてよい。
【0076】
図18は、ピストン組立体3の実施形態を示しており、作動ピストンエレメント32と受動ピストンエレメント33のそれぞれは、円周構造の形態の安定板7を有しているが、別な方法で、上記で説明した安定板7の機能を提供する。ピストン組立体3は、
図18aにおいて斜視図で、
図18bと
図18cにおいて異なる直角での側面図で描かれている。
【0077】
図19は、ピストン組立体3の実施形態の側面図を示しており、円形の安定板7がピストン本体8を囲み、ピストン組立体がシリンダ2中にいったん挿入されると、これは、シリンダ2の内部壁21とは接触しないだろう。安定板7は、ピストン組立体がいったんシリンダ2中に挿入されるとシリンダ2の内部壁21に接するそれぞれのピストンエレメント32、33のセクションと弾性フレーム34との間に位置づけられている。
【0078】
図20は、ピストン組立体3の実施形態の側面図を示しており、作動ピストン32は、ピストンロッド6の相補的係合デバイス62を係合するための係合デバイス61を有している。ピストンロッド6が係合デバイス61と相補的係合デバイス62を介して作動ピストンエレメント32を係合するとき、患者に注射するための医薬組成物をインジェクタに充填することが可能である。例えば、
図20中に示されているピストン組立体3に関して、インジェクタ1の自動組立を容易にするために、受動ピストンエレメント33は、生産の間ピストンの向きを省略することができる(示していない)類似の係合デバイスを有していてよい。
【0079】
図21は、ピストン組立体3の実施形態の側面図を示しており、ピストン本体8は、柔軟な安定板71を有している。示している実施形態の柔軟な安定板71は、ピストン本体8を完全に囲むTPEの単一の部品でできている。しかしながら、柔軟な安定板71は、例えばフラップの形状の、1より多くの、例えば、3、4以上のセクションも備えていてよい。
図21aにおいて、ピストン組立体3は、内部壁21とともに図示されているシリンダに部分的に挿入して示されており、
図21bにおいて、ピストン組立体3は、内部壁21間に完全に挿入して示されている。柔軟な安定板71の径方向の伸長、例えば直径は、シリンダの内径よりも長く、柔軟な安定板71がシリンダに挿入されるとき、柔軟な安定板71は、シリンダに対してピストン組立体3の動きの方向に反対方向に、シリンダの内部壁21に沿って曲がるだろう。
【0080】
図22と
図23は、それぞれ0.5mLと1.0mL量のガラスシリンダ用に作られたピストン組立体の実施形態を示している。ピストン組立体は、Evopreneから単一の部品として射出形成され、ピストン組立体は、それぞれのピストンエレメントの作動面と排出面に関して対称であり、シリンダに挿入されるとき、ピストン組立体の向きは要求されない。作動面と排出面は突出部を有し、それぞれは、特定の機能を提供する。排出面の突出部は、注射の際に、確実にシリンダを完全に空にするような形状であり、作動面の同一の突出部は、ピストンロッドとして機能する針キャップ、例えば、US2016/0129197とDK178284B1において説明されているような皮下注射針を収容するための管状セクション、の形状に相補的な形状を有している。
図22と
図23は、ピストン組立体の側面図を示しており、1つのビューはシリンダ状の弾性フレームを示し、これは、他のビューでは、90°回転して描かれており;ピストン組立体は、ピストン状の弾性フレームも描いている斜視図においても示されている。mmでの測定が、
図22及び
図23において示されている。
【0081】
例
例1
本発明のインジェクタの容器施栓完全性をテストした。一体型皮下注射針を有するガラスシリンジに、ASTM F 1929のガイドラインにしたがって準備された青色色素溶液を充填した。テストが始まるまで、インジェクタは、23°、50%RHで保管された。テストコンポーネントは、シリコン処理していない、又は、他の何らかの潤滑剤なしのものである。この研究で使用した予め充填されたインジェクタは、4.88mmのピストンエレメントの、弛緩した状態の、直径を備える熱可塑性エラストマー(TPE)Evoprene G970のピストン組立体を有している。インジェクタの通常の容量は、0.5mLであり、シリンダは、ホウケイ酸ガラスでできている。
【0082】
以下のように、デシケータ中の吸収紙上にインジェクタを置くことによって、テストを行った。
-10分間25mbar、調査、その後
-10分間35mbar、調査、その後、
-10分間100mbar、最終調査
【0083】
結果は、表2に中に要約した。
【0084】
【0085】
例2
本発明のインジェクタを空にするために必要とされる力をテストし、先行技術のインジェクタと比較した。一体型皮下注射針を有する予め充填されたインジェクタは、テストが開始されるまで、23℃、50%RHで保管された。テストコンポーネントは、シリコン処理していない、又は、他の何らかの潤滑剤又はコーティングなしのものである。この研究で使用した本発明の予め充填されたインジェクタは、4.88mmのピストンエレメントの、弛緩した状態の、直径を備えるEvoprene G970のピストン組立体を有している。具体的には、テストされた本発明のピストン組立体は、
図2中に描かれている。先行技術のインジェクタは同様にEvoprene G970のピストンを有している。インジェクタの通常の容量は、0.5mLであり、シリンダは、ホウケイ酸ガラスでできている。テストは、ISO 7886-3:2005 添付書類B 単回使用のための滅菌済み皮下注射シリンジ -パート3:固定用量免疫処置のための自動無効シリンジに基づいており、力についてのテスト方法は、プランジャーを操作することを必要とする。100N荷重セルを装備したインストロン機械式試験機が、100mm/分で用いられた。
【0086】
結果は、表3中に要約し、
図24(先行技術のピストンを有するインジェクタ)中と
図25(本発明のインジェクタ)中に描かれている。
【0087】
【0088】
本発明のインジェクタが、ピストン組立体の滑走力に類似した値に全体的なBLFを低減させたことが、
図24と
図25から明らかである。これは、エンドユーザによって経験される円滑な力の分析結果を本発明がインジェクタに提供していることを証明している。対照的に、先行技術のインジェクタは、動きを維持することと比較して動きを開始するために、より高い力を必要とする従来の力の分析結果を有していた。表3中に要約した結果は、標準偏差を表す丸括弧内の数とともに、2つのテストしたインジェクタのBLFを示している。
ここに、出願当初の特許請求の範囲の記載事項を付記する。
[1] 医薬組成物のデリバリーのためのインジェクタであって、
前記インジェクタは、
-縦方向の軸に沿って伸長するシリンダであって、内部壁、外部壁、及び、作動端と反対側の排出端における排出口を有するシリンダと、
-作動ピストンエレメントと受動ピストンエレメントとの間に圧縮性セクションを備えるピストン組立体とを備え、
前記ピストン組立体が前記シリンダ中に挿入されるとき、これらのピストンエレメントは、接する境界面において前記シリンダの前記内部壁に接し、それにより、圧縮性セクションをシールし、
前記圧縮性セクションは、圧縮性流体と作動ピストンエレメントを受動ピストンエレメントにリンクする弾性フレームとを備える、インジェクタ。
[2] 前記圧縮性セクションの軸方向の長さは、弛緩した状態の前記ピストン組立体の全体の軸方向の長さの10%から90%の範囲である、[1]に記載のインジェクタ。
[3] 前記弾性フレームは、前記圧縮性セクションの容積の5%から90%の範囲の容積率を有する、[1]又は[2]に記載のインジェクタ。
[4] 前記弾性フレームは、前記ピストン組立体の全体の長さの30%から70%の範囲の軸方向の長さを有し、
前記弾性フレームは、10%から70%の範囲の前記圧縮性セクションの容積率を有する、[1]から[3]のうちのいずれか1項に記載のインジェクタ。
[5] 前記作動ピストンエレメント、前記受動ピストンエレメント、前記弾性フレーム、又は前記作動ピストンエレメント、前記受動ピストンエレメント及び前記弾性フレームは、熱可塑性エラストマー(TPE)でできている、[1]から[4]のうちのいずれか1項に記載のインジェクタ。
[6] 前記作動ピストンエレメント、前記受動ピストンエレメント、前記弾性フレーム、又は前記作動ピストンエレメント、前記受動ピストンエレメント及び前記弾性フレームは、50から90の範囲のショアA硬度を有する、[1]から[5]のうちのいずれか1項に記載のインジェクタ。
[7] 前記作動ピストンエレメント、前記受動ピストンエレメント及び前記弾性フレームは、単一の部品として射出成形される、[5]又は[6]に記載のインジェクタ。
[8] 前記ピストン組立体は、前記受動ピストンエレメントの排出面と比較して、前記作動ピストンエレメントの作動面に関して対称である、[1]から[7]のうちのいずれか1項に記載のインジェクタ。
[9] 前記インジェクタは、ピストンロッドを備え、
前記作動ピストンエレメントは、前記ピストンロッドの相補的係合デバイスを係合するための係合デバイスを備える、[1]から[8]のうちのいずれか1項に記載のインジェクタ。
[10] 医薬組成物のデリバリーのためのインジェクタであって、
前記インジェクタは、
-縦方向の軸に沿って伸長するシリンダであって、前記シリンダの内径を規定する内部壁、外部壁、及び、作動端と反対側の排出端における排出口を有するシリンダと、
-ピストンが前記シリンダ中に挿入されるとき、単一のシーリングエレメントは、接する境界面において前記シリンダの前記内部壁に接し、それにより、前記インジェクタをシールするピストン本体、及び、前記ピストン本体の周りに径方向に伸長する1つ以上のセクションを有する柔軟な安定板を有する前記ピストンとを備え、
前記柔軟な安定板は、前記シリンダの内径よりも長く、
前記シーリングエレメントは、50から90の範囲のショアA硬度を有する、インジェクタ。
[11] 前記柔軟な安定板は、0.1から1.0mmの範囲の厚さを有する、[10]に記載のインジェクタ。
[12] 前記柔軟な安定板は、前記シリンダの内径の120%から200%の間位の範囲の直径を有する、[10]又は[11]に記載のインジェクタ。
[13] 医薬組成物のデリバリーのためのインジェクタであって、
前記インジェクタは、
-縦方向の軸に沿って伸長するシリンダであって、内部壁、外部壁、及び、作動端と反対側の排出端における排出口を有するシリンダと、
-作動ピストンエレメントと受動ピストンエレメントとの間に圧縮性セクションを備えるピストン組立体とを備え、
これらのピストンエレメントは、50から90の範囲のショアA硬度を有し、前記ピストン組立体が前記シリンダ中に挿入されるとき、接する境界面において前記シリンダの前記内部壁に接し、それにより、前記圧縮性セクションをシールし、
前記圧縮性セクションは、圧縮性流体からなる、インジェクタ。
[14] 前記インジェクタは、潤滑剤を備えない、[6]から[13]のうちのいずれか1項に記載のインジェクタ。
[15] 前記シリンダは、ガラスでできている、[1]から[14]のうちのいずれか1項に記載のインジェクタ。
[16] 前記作動ピストンエレメント、前記受動ピストンエレメント及び/又は前記弾性フレームは、1枚以上の安定板を備える、[1]から[15]のうちのいずれか1項に記載のインジェクタ。
[17] 前記シリンダは、2mmから10mmの範囲の内径を有する、[1]から[16]のうちのいずれか1項に記載のインジェクタ。
[18] 前記シリンダは、医薬組成物が予め充填されている、[1]から[17]のうちのいずれか1項に記載のインジェクタ。