(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】クルクミン含有経口摂取用固形製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/12 20060101AFI20220530BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20220530BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220530BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20220530BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20220530BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20220530BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20220530BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20220530BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20220530BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20220530BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20220530BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20220530BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220530BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20220530BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220530BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20220530BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220530BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220530BHJP
【FI】
A61K31/12
A61K47/38
A61K47/26
A61K47/36
A61K47/32
A61K47/12
A61K47/04
A61K9/20
A61K9/16
A61K9/48
A61K9/10
A61P39/06
A61P29/00
A61P37/08
A61P35/00
A61P3/06
A61P9/00
A61P25/00
(21)【出願番号】P 2020082621
(22)【出願日】2020-05-08
【審査請求日】2022-01-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507186687
【氏名又は名称】株式会社セラバリューズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧野 悠治
(72)【発明者】
【氏名】加藤 千恵子
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 晶子
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/174475(WO,A1)
【文献】特表2014-503470(JP,A)
【文献】国際公開第2010/119942(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/096804(WO,A1)
【文献】特開2005-068116(JP,A)
【文献】特開2018-154586(JP,A)
【文献】Journal of Applied Polymer Science,2016年,Vol.133, Article No.42966
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00- 9/72
A61P 39/00
A61P 29/00
A61P 37/00
A61P 35/00
A61P 3/00
A61P 9/00
A61P 25/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)非晶質体を含む固体状のクルクミン及び
ウコン色素から選ばれる1以上と、(B)20℃における2質量%水溶液の粘度が
1mm
2
/s以上10mm
2/s以下であるヒドロキシプロピルメチルセルロースと、(C)ゲル非形成性医薬品添加剤とを
、単に均一に混合された状態で含有する経口摂取用固
形製剤
であって、
成分(C)と、成分(A)と成分(B)の和の含有質量比(C/(A+B))が0.4~7である経口摂取用固形製剤。
【請求項2】
成分(A)と成分(B)の含有質量比(A/B)が、0.2~1である請求項1記載の経口摂取用固形製剤。
【請求項3】
成分(C)が、ゲル非形成性賦形剤、ゲル非形成性崩壊剤、ゲル非形成性分散剤、ゲル非形成性滑沢剤、ゲル非形成性着色剤、ゲル非形成性香料及びゲル非形成性矯味剤から成る群から選ばれる1種以上である請求項1又は2記載の経口摂取用固形製剤。
【請求項4】
成分(B)が、20℃における2質量%水溶液の粘度が1~8mm
2/s以下であるヒドロキシプロピルメチルセルロースである請求項1~3のいずれか1項に記載の経口摂取用固形製剤。
【請求項5】
剤形が、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、錠剤及びドライシロップ剤から選ばれる請求項1~
4のいずれか1項に記載の経口摂取用固形製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クルクミン含有経口摂取用固形製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
クルクミン及びその類縁体は、近年、抗酸化作用、抗炎症作用、抗アレルギー作用、腫瘍形成阻害作用、コレステロール低下作用、脳疾患予防作用、心血管系疾患予防治療作用等の生理活性が注目されており、飼料、飲食品(例えば、機能性食品など)、医薬品、化粧品等への利用が検討されている。しかし、クルクミン及びその類縁体は、経口摂取による体内への吸収性が著しく低いため、クルクミン及びその類縁体がもつ生理活性が経口摂取によって十分に得られないといった問題がある。
【0003】
そこで、クルクミン及びその類縁体の経口摂取後の吸収性を改善する手段としてクルクミノイド、熱可塑性ポリマー及びホスファチドが溶融加工されている固体分散体とする手段(特許文献1)、クルクミンとポリサッカロイドとの複合体とする手段(特許文献2)、クルクミンと水溶性セルロースとの複合体とする手段(特許文献3、4及び5)が報告されている。また、クルクミンをアモルファス化することにより溶解速度が向上する旨の報告もある(非特許文献1~4)。更に、本発明者らは、非晶質クルクミン又はその類縁体とヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの水溶性高分子とを物理的に混合した固形組成物がクルクミン又はその類縁体の吸収性が良好であることを見出し、特許出願した(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2014-503470号公報
【文献】特開平3-97761号公報
【文献】国際公開第2015/174475号パンフレット
【文献】国際公開第2016/010093号パンフレット
【文献】国際公開第2017/061627号パンフレット
【文献】国際公開第2019/160146号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【文献】J Pharm Sci. 1994 Dec;83(12):1700-5.
【文献】Adv Drug Deliv Rev. 2012 May 1;64(6):480-95.
【文献】Ther Deliv. 2015 Mar;6(3):339-52.
【文献】Mol Pharm. 2011 Jun 6;8(3):807-13.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、特許文献6に記載の水溶性高分子のうちヒドロキシプロピルメチルセルロースを使用した物理的混合固形組成物につき更に研究を続けた結果、該組成物カプセルに封入したカプセル剤の場合、あるいは該固形組成物を任意の賦形剤とともに圧縮加工等をして製する顆粒剤、丸剤、カプセル剤、錠剤、ドライシロップ剤などの固形製剤にした場合には、製剤によって崩壊性が遅延することが判明した。そして崩壊性の遅延は、経口投与後の腸管からのクルクミン類の吸収を低下させ、バラツキを大きくする恐れがあると推定した。
従って、本発明の課題は、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、錠剤、ドライシロップ剤などの固形製剤に加工した場合に崩壊性が良好である非晶質クルクミン類とヒドロキシプロピルメチルセルロースとを含有する経口摂取用カプセル剤、顆粒剤、丸剤、錠剤、ドライシロップ剤などの固形製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、前記課題を解決すべく種々検討したところ、全く意外にも、固体状の非晶質体を含むクルクミン及びその類縁体から選ばれる1種以上と、2質量%水溶液の粘度が10mm2/s以下であるヒドロキシプロピルメチルセルロースと、ゲル非形成性医薬品添加剤とを含有させた、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、錠剤、ドライシロップ剤などの経口摂取用固型製剤が、崩壊性が顕著に向上し、経口吸収性も良好でかつ保存安定性も良好であることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の発明[1]~[7]を提供するものである。
[1](A)非晶質体を含む固体状のクルクミン及びその類縁体から選ばれる1種以上と、(B)20℃における2質量%水溶液の粘度が10mm2/s以下であるヒドロキシプロピルメチルセルロースと、(C)ゲル非形成性医薬品添加剤とを含有する経口摂取用固製剤。
[2]成分(A)と成分(B)の含有質量比(A/B)が、0.2~1である[1]記載の経口摂取用固形製剤。
[3]成分(C)が、ゲル非形成性賦形剤、ゲル非形成性崩壊剤、ゲル非形成性分散剤、ゲル非形成性滑沢剤、ゲル非形成性着色剤、ゲル非形成性香料及びゲル非形成性矯味剤から成る群から選ばれる1種以上である[1]又は[2]記載の経口摂取用固形製剤。
[4]成分(B)が、20℃における2質量%水溶液の粘度が1~8mm2/s以下であるヒドロキシプロピルメチルセルロースである[1]~[3]のいずれかに記載の経口摂取用固形製剤。
[5]成分(C)と、成分(A)と成分(B)の和の含有質量比(C/(A+B))が0.4~7である[1]~[4]のいずれかに記載の経口摂取用固形製剤。
[6]剤形が、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、錠剤及びドライシロップ剤から選ばれる[1]~[5]のいずれかに記載の経口摂取用固形製剤。
[7]クルクミン及びその類縁体が、クルクミン及びウコン色素である[1]~[6]のいずれかに記載の経口摂取用固形製剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明の固形製剤は、崩壊性が良好で、経口摂取後クルクミン又はその類縁体が速やかに吸収されて高くバラツキの少ない血中濃度を得ることができる。また、非晶質体のクルクミン又はその類縁体をそのまま製剤化できるので、保存安定性も保持できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に至った経緯を更に詳しく述べる。本発明者らは特許文献6の中で、この発明の組成物については、非晶質クルクミン類と、ヒドロキシプロピルメチルセルロースについては、a)2重量%水溶液の粘度が2.4~3.6mm2/sのもの(レッテンマイヤージャパン製、E3)あるいはb)同粘度が40~60mm2/sのもの(信越化学工業製、メトローズSE-50)を含む組成物が経口吸収性及び保存安定性が優れていると記述した。事実、これらの組成物としては実施例6があり、そこでは2重量%水溶液の粘度が40~60mm2/sのものが使用され、これらの組成物に加えてマルトデキストリンを配合した組成物としては実施例1~5、8~12があり、そこではa)2重量%水溶液の粘度が2.4~3.6mm2/sのものあるいはb)同粘度が40~60mm2/sのものが使用されている。そして、実際にラットの経口吸収性については実施例2~7、9~12(これらでは何れも2重量%水溶液の粘度が40~60mm2/sのものが使用されている)について試験されている。
本発明者らは、次に該特許文献では記載されていなかった粘度のヒドロキシプロピルメチルセルロースを使用して該特許記載の固形組成物を調製し、特許文献と同じ方法(該組成物を生理食塩水で懸濁して投与)でラット経口吸収性を検討した結果(後記参考実験1に記載)、該特許で記述したように(該特許文献段落(0020))ヒドロキシプロピルメチルセルロースの粘度に関わらず良好な経口吸収性を示した。
しかし、本発明者らは上記のヒドロキシプロピルメチルセルロース粘度の効果について更に研究を進め、(1)溶融処理クルクミン粉末、(2)異なる粘度、40~60mm2/s(信越化学、SE50)、12~18mm2/s(レッテンマイヤージャパン製、E15)、4.8~7.2mm2/s(信越化学、SE06)、3.6~5.1mm2/S(信越化学、ファルマコート645W)、3.2~4.8mm2/s(信越化学、ファルマコート645W)、2.4~3.6mm2/s(レッテンマイヤージャパン製、E3)のヒドロキシプロピルメチルセルロース、(3)マルトデキストリン(サンエイ糖化、NSD#300)、(4)ステアリン酸カルシウム、(5)二酸化ケイ素とからなる粉末状組成物を製し、これを2号カプセルに充填して日本薬局方の崩壊試験法(条件:水、37℃、シンカー使用)に従って崩壊性を確認した(後記参考実験2に記載)。その結果、粘度が40~60mm2/s、12~18mm2/sのヒドロキシプロピルメチルセルロースを使用したカプセル剤では、試験後、崩壊試験器の網目上にカプセル内容物が残存し、内容物の内部は水が浸入しておらず元の組成物のままであった。しかし、粘度10mm2/s以下になるとカプセルが完全に崩壊する(崩壊試験器の網目上にカプセル内容物はほとんど残存しない)ことを発見した。ヒドロキシプロピルメチルセルロースの2重量%水溶液の粘度とそれを含むカプセルの崩壊性に相関関係があることは全く知られておらず、まして粘度が10mm2/sを境界として、それ以下のヒドロキシプロピルメチルセルロースが共存する非晶質クルクミンとの組成物を含むカプセルの崩壊性を良好にすることは予想できない知見であった。
【0011】
更に、本発明者らは特許文献6の成分(A)(非晶質を含む固体状クルクミン及び/又はその類縁体)と成分(B)固体状の水溶性高分子を含有する経口摂取用固形組成物を摂取しやすい経口摂取用固形製剤に加工する場合には、成分(A)、成分(B)に第三成分(C)が加えると容易に加工できるが、その成分(C)が水に接してゲルを形成する性質を有すると、(B)に2質量%水溶液の粘度が10mm2/s以下であるヒドロキシプロピルメチルセルロースを使用しても固形製剤の崩壊性が低下することを発見した(参考実験3)。更に、上記の崩壊性の良好な2質量%水溶液の粘度が10mm2/s以下であるヒドロキシプロピルメチルセルロースを使用した固形組成物に、第三成分(C)として非ゲル形成性医薬品添加剤を加えて製した経口摂取用固形製剤が崩壊性良好な固形製剤となること(参考実験3)も新規に知見し、本発明に到達した。
【0012】
本発明の経口摂取用固型製剤は、(A)非晶質体を含む固体状のクルクミン及びその類縁体から選ばれる1種以上と、(B)2質量%水溶液の粘度が10mm2/s以下であるヒドロキシプロピルメチルセルロースと、(C)ゲル非形成性医薬品添加剤とを含有することを特徴とする。
【0013】
クルクミンは、ウコン色素に含まれるクルクミノイドの主成分であり、下記構造式(1)で表される化合物である。
【0014】
【0015】
本発明に用いられるクルクミンは、化学合成されたクルクミンを用いてもよいし、ウコン色素として流通しているものを用いてもよい。ウコン色素としては、ショウガ科ウコン属植物(例えば、Curcuma longa Linne)の根茎の乾燥物を粉末にしたウコン末、該ウコン末を適当な溶媒(例えば、エタノール、油脂、プロピレングリコール、ヘキサン、アセトンなど)を用いて抽出して得られる粗製クルクミン或いはオレオレジン(ターメリックオレオレジン)及び精製したクルクミンを挙げることができる。
なお、クルクミンには、互変異性体であるケト型及びエノール型のいずれも含まれる。
【0016】
クルクミン類縁体としては、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミン、テトラヒドロクルクミン、ヘキサヒドロクルクミン等が挙げられる。なお、ウコン色素には、クルクミン、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミン及びテトラヒドロクルクミンが含まれている。
【0017】
本発明の成分(A)は、クルクミン及びその類縁体から選ばれる1種以上の非晶質体を含んでいる。非晶質クルクミンであることは、粉末X線回折スペクトルにおいて明確な回折ピークを有さないことにより確認できる。非晶質クルクミンは、クルクミンが溶融する温度、例えば160℃以上で溶融処理することにより得られる。
【0018】
本発明固形製剤中には、固体状の非晶質クルクミン又はその類縁体が含まれている。ここで、固体状とは、粉末状、顆粒状又は塊状であることを言い、他の物質と複合体を形成していたり、固体分散体を形成していないことを示す。固体状の非晶質クルクミンが複合体及び固体分散体を形成していないことは示差走査熱量分析において非晶質クルクミンのみの熱物性と類似すること及び複合体、固体分散体と熱物性が異なることで確認できる。これらの固体状のうち、平均粒子径300μm以下の粉末状であるのがより好ましい。
【0019】
本発明の固形製剤の成分(A)には、非晶質体クルクミン又はその類縁体(非晶質体)以外に、結晶体クルクミン又はその類縁体(結晶体)が含まれていてもよい。成分(A)としては、全量非晶質体でもよいが、非晶質体及び結晶体の両者を含有する場合、(A-1)結晶体と(A-2)非晶質体の含有質量比(A-1/A-2)が0.67以下であるのが好ましい。
【0020】
本発明の固形製剤は、(B)20℃における2質量%水溶液の粘度が10mm2/s以下であるヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有する。
本発明において、成分(B)として用いられるヒドロキシプロピルメチルセルロースは、通常のヒドロキシプロピルメチルセルロースに比べて、20℃における2質量%水溶液の粘度が低いものであり、10mm2/s以下のものである。ここで、粘度は、20℃におけるB型粘度計で測定される粘度である。
崩壊性の向上の観点から、20℃における2質量%水溶液の粘度は、1mm2/s以上10mm2/s以下が好ましく、2mm2/s以上8mm2/s以下がより好ましく、2mm2/s以上7mm2/s以下がさらに好ましい。
これらの粘度を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースは、例えば、信越化学工業、レッテンマイヤージャパン、デユポンジャパン、アイエスピージャパンなどから市販されているものを使用することができる。
【0021】
用いられるヒドロキシプロピルメチルセルロースのメトキシ基の置換度は16.5~30.0%が好ましく、ヒドロキシプロポキシ基の置換度は4.0~32.0%が好ましい。これらの中でも、メトキシ基が28.0~30.0%かつヒドロキシプロポキシ基が7.0~12.0%のもの(USP2910規格に相当)、メトキシ基が27.0~30.0%かつヒドロキシプロポキシ基が4.0~7.5%のもの(USP2906規格に相当)、メトキシ基が19.0~24.0%かつヒドロキシプロポキシ基が4.0~12.0%のもの(USP2208規格に相当)、メトキシ基が16.5~20.0%かつヒドロキシプロポキシ基が23.0~32.0%のもの(USP1828規格に相当)のものが特に好ましい。
【0022】
本発明の固形製剤中には、(A)非晶質体を含む固体状のクルクミン及びその類縁体から選ばれる1種以上と、(B)20℃における2質量%水溶液の粘度が10mm2/s以下であるヒドロキシプロピルメチルセルロースと混合された状態で含まれている。
本発明の固形製剤中の成分(A)と成分(B)の含有質量比(A/B)は、崩壊性及び保存安定性の観点から0.2~1が好ましい。
【0023】
本発明の固形製剤の剤形としてはカプセル剤、顆粒剤、丸剤、錠剤、ドライシロップ剤が挙げられる。これらの剤形を製するためには、成分(A)と成分(B)に加えて、賦形剤、崩壊剤、分散剤、滑沢剤などの医薬品添加剤が必要である。但し、本発明の固形製剤、すなわちカプセル剤、顆粒剤、丸剤、錠剤、ドライシロップ剤の崩壊性を良好にするためには成分(C)はゲル非形成性医薬品添加剤でなければならない。カプセル剤、顆粒剤、丸剤、錠剤、ドライシロップ剤などの固形製剤が崩壊する際に製剤内に侵入した体液により成分(C)がゲル化すると製剤内部への体液の侵入に時間がかかり製剤の崩壊が遅延するためと考えられる。成分(C)としては、ゲル非形成性賦形剤、ゲル非形成性崩壊剤、ゲル非形成性分散剤、ゲル非形成性滑沢剤、ゲル非形成性着色剤、ゲル非形成性香料及びゲル非形成性矯味剤から成る群から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0024】
ゲル非形成性賦形剤としては、乳糖、果糖、結晶セルロース、とうもろこしデンプン、デキストリン、マルトデキストリン、イソマルト、イノシトール、カゼイン、果糖、キシリトール、クエン酸カルシウム、クエン酸水和物、クエン酸ナトリウム、精製白糖、ソルビトール、炭酸カルシウム、トレハロース、バレイショデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、ブドウ糖、部分アルファー化デンプン、プルラン、ペクチン、ポビドン、マルトース水和物、マンニトール、無水クエン酸、無水クエン酸ナトリウム、無水乳糖から成る群から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0025】
ゲル非形成性崩壊剤としては、デキストリン、クロスポビドン、クロスカルメロース、クロスカルメロースナトリウム、結晶セルロース、部分アルファー化デンプン、ポビドンから成る群から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0026】
ゲル非形成性分散剤としては、アラビアゴム、カラギーナン、精製大豆レシチン、トラガント末、ガティガムから成る群から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0027】
ゲル非形成性滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、軽質無水ケイ酸、二酸化ケイ素、タルクから成る群から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0028】
ゲル非形成性着色剤としては、通常に使用される着色剤であり、例えば食用色素類、カラメル、酸化鉄類などが挙げられる。
【0029】
ゲル非形成性香料としては、通常に使用される香料であり、例えば各種フレーバー類、各種エキス類などが挙げられる。
【0030】
ゲル非形成性矯味剤としては、通常に使用される矯味剤であり、アスコルビン酸類、クエン酸類、各種甘味剤などが挙げられる。
【0031】
なお、本発明の固形製剤を製する場合に使用できないゲル形成性添加物としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、アルファー化デンプン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどが挙げられる。
【0032】
本発明の固形製剤に使用される成分(C)の量は、本発明の固形組成物が投与形態である固形製剤に加工されるために添加される量であるが、下限は固形製剤が良好な崩壊性を示すための最低の必要量と、物理的に固形製剤を形成するのに必要な最小量で規定され、上限は該固形製剤が単位投与製剤(カプセル剤、錠剤、分包顆粒剤)として無理なく投与できる最大量である。また、単位投与製剤の個別全重量はクルクミンの含有量に左右されるものであり、つまり、単位投与製剤中の(A)+(B)の量が多い場合と少ない場合では前者では(C)の量は少なくなり、後者では(C)の量は多くなる。通常の上記の単位製剤の全重量と、クルクミンの上記単位製剤中の推奨されているクルクミン含量を考慮すると、(C)の量は質量比(C/(A+B))が0.4~10が好ましく、更に望ましくは0.5~7の範囲である。成分(C)の中の賦形剤、崩壊剤、分散剤、滑沢剤、着色剤、香料、矯味剤は必要に応じて含有されるが、その含有比率は顆粒剤、丸剤、カプセル剤、錠剤〔素錠、糖衣錠、口腔内速崩壊錠、咀嚼可能錠(チュアブル錠)、発泡錠、トローチ剤、フィルムコーティング錠等を含む〕、ドライシロップ剤、カプセル剤などの固形製剤を製造する際に従来知られている比率で使用すればよい。
【0033】
本発明の固形製剤は、後記実施例に示すように、崩壊性が良好で、経口吸収性も良好で、かつ保存安定性も良好である。従って、本発明の固形製剤は、経口摂取により、クルクミン又はその類縁体の生理活性を経口摂取で発揮させるための飼料、その添加剤、栄養補助食品、機能性食品、特定保健用食品、医薬品、医薬部外品、化粧品として有用である。
【0034】
飼料としては、本発明の経口摂取用固形製剤を含有すれば特に限定はなく、例えば、牛、豚、馬、鶏等の肥育を目的とした畜産用飼料、魚類・甲殻類の養殖用飼料及び抗菌を目的とした添加剤、犬、猫等のペット用の餌添加剤・栄養補強剤として用いることができる。
【0035】
飲食品としては、本発明の経口摂取用固形製剤を含有すれば特に限定はなく、例えば、クルクミンを含む飲食品が挙げられる。具体的には、特定保健用食品、栄養機能食品、老人用食品、特別用途食品、機能性表示食品、健康補助食品(サプリメント)として、例えば、肝臓の機能を調整するために用いられるものである旨の表示を付して提供することが可能になると考えられる。
【0036】
本発明の経口摂取用固形製剤は、医薬品、医薬部外品等としても幅広く利用することができる。例えば、認知症、糖尿病、心血管系疾患、消化器系疾患、呼吸器系疾患、耳鼻咽喉科に分類される疾患、自己免疫疾患、骨格筋及び関節に由来する疾患、口腔・歯科領域に分類される疾患、悪性腫瘍などの疾患治療や予防のために用いることが可能である。
【実施例】
【0037】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
実施例1(粉末状組成物)
市販ウコン抽出物粉末(クルクミン含量86.8%(w/w))を適当量ホットプレート型加熱装置(日進機械製)に投入し、処理温度220℃で溶融した。また、この溶融物を室温で保持することで固化させ、溶融処理クルクミン(非晶質クルクミン)約50gを調製した。これを乳鉢で粉砕し30号篩で篩過したもの(溶融処理クルクミン(非晶質クルクミン)粉砕物)10.0g、2質量%水溶液の粘度2.4~3.6mm2/sのヒドロキシプロピルメチルセルロース(レッテンマイヤージャパン、E3)10.0gとを混合し均一な粉末状組成物を得た(実施例1)。
(以下の実施例などの“溶融処理クルクミン(非晶質クルクミン)”は上記実施例1中に記載された方法で調製されている。)
【0039】
実施例2(粉末状組成物)
溶融処理クルクミン(非晶質クルクミン)粉砕物10.0g、2質量%水溶系の粘度4.8~7.2mm2/sのヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学、SE6)10.0gを混合し均一な粉末状組成物を得た(実施例2)。
【0040】
比較例1(粉末状組成物)
溶融処理クルクミン(非晶質クルクミン)粉砕物10.0g、2質量%水溶液の粘度12~18mm2/sのヒドロキシプロピルメチルセルロース(レッテンマイヤージャパン、E15)10.0gを混合し均一な粉末状組成物を得た(比較例1:特許文献6に記載の組成物)。
【0041】
比較例2(粉末状組成物)
溶融処理クルクミン(非晶質クルクミン)粉砕物10.0g、2質量%水溶液の粘度40~60mm2/sのヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学、SE50)10.0gを均一な粉末状組成物を得た(比較例2:特許文献6に記載の組成物)。
【0042】
参考実験1(実施例1、2、比較例1、2のラット吸収性)
実施例1、2及び比較例1、2の組成物の水懸濁分散液の経口吸収性をラットを用いて検討した。
(1)投与方法
8-9適齢の雄性SDラットに、実施例1、2の本発明の組成物及び比較例1、2の組成物を生理食塩水に懸濁分散した後、タルクミン濃度として10mg/kgとなるよう強制経口投与し、投与前、投与30分後、投与1時間後及び投与2時間後に採血を行い、下記で示した方法で採血し血疑中の総クルクミン濃度を測定した。なお、対照は株式会社セラバリューズが販売する高吸収性クルクミン製剤(TheracurminTM:CR-033P)を用いた。
【0043】
(2)血糠中クルクミン濃度の測定
a.前処理
血疑20μLに0.1M酢酸緩衝液(pH5.0) 100μLとβ-グルクロニダーゼ溶液(約68,000units/mL) 10μLを加え、37℃で1時間保持した。その後、内部標準液であるメプロニル20ng/mLが含まれる50%(v/v)メタノール10μLとクロロホルム0.5mLとを添加し、ボルテックスミキサーを用いて1分間撹拝後、超音波発生装置を用いて15分間混合処理を行った次に、遠心分離(13,000×g、5分間、室温)によってクロロホルム層と水層とに分離した。この抽出操作を2回繰り返した後、このクロロホルム層を採取し、これを減圧遠心濃縮機を用いて溶媒留去することで乾固させた。ここに50%(v/v)メタノール100μLを添加し、遠心分離 (13,000 X g、5分間、室温)を行い、上澄液を回収した。
【0044】
b.測定方法
上記a.で調製した上溝液2μLをLC-MS/MS (島津社製)を用いて分析を行うことで血漿中クルクミン濃度を測定した。なお、LC-MS/MS分析条件は LCカラムがAtlantis T3 (2. 1 X 150mm, 3μm, Waters社製)、カラム温度が40℃、流速が0.2mL/min、移動相がA: 0.1% (v/v)ギ酸水溶液、 B: 0.1% (v/v)ギ酸/アセトニトリルとし、グラジェント溶出を行った。また、MS分析条件はイオン化モードがElectron Spray ionaization (ESI), Positive,測定モードがMultiple Reaction Monitoring (MRM)とし、クルクミン369. 1→177. 2 (m/2) 、メプロニル270→119 (m/z)で評価した。
一方、試料中に含まれるクルクミン量を定量するために使用する検量線の作成は、クルクミンとして1.0, 2.0, 3.9, 7.8, 15.6, 31.3, 62.5, 125又は250ng.mLの50% (v/v)メタノール溶液(クルクミン標準液) 90μLにメプロニル2Ong/mLの50% (v/v)メタノール溶液10μL を添加することで調製した各種標準溶液(クルクミン濃度0.9~225ng/mL)を用いて上記同様の条件で測定することで行った。
【0045】
(3)結果
血疑中総クルクミン最高血中濃度(Cmax(ng/mL))及び血疑中総クルクミン濃度―時間曲線下面積(AUC(ng/mL(0-2h)).0-2h)を表1に示す。
対照と比較して、実施例1、同2、比較例1、同2ともに有意に高く、これらの組成物の水懸濁分散液はヒドロキシプロピルメチルセルロースの粘度とは関係なくラットで優れた経口吸収性を示した。
【0046】
【0047】
実施例3(粉末状組成物)
溶融処理クルクミン(非晶質クルクミン)粉砕物10.0g、2質量%水溶液粘度3.2~4.8mm2/sのヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学、904)10.0gを混合し均一な粉末状組成物を得た(実施例3)。
【0048】
実施例4(粉末状組成物)
溶融処理クルクミン(非晶質クルクミン)粉砕物10.0g、3.6~5.1mm2/sのヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学、645W)10.0gを混合し均一な粉末状組成物を得た(実施例4)。
【0049】
実施例5~8(カプセル剤)、比較例3、4(カプセル剤)
(1)実施例1~実施例4の本発明の粉末状組成物及び比較例1、比較例2の粉末組成物のそれぞれ20.0gにマルトデキストリン(サンエイ糖化株式会社、NSD#300)30gを均一になるまで混合した。
(2)得られた混合物に日局ステアリン酸カルシウム(植物性、太平化学産業株式会社製)420mg、食添二酸化ケイ素80mgを加えて軽く混合し粉末組成物を得た。
(3)得られたそれぞれの粉末組成物から300mgを採取し、2号硬カプセルに充填し、実施例5の本発明のカプセル剤(実施例1の本発明の組成物を含むカプセル剤)、実施例6の本発明のカプセル剤(実施例2の本発明の組成物を含むカプセル剤)、実施例7の本発明のカプセル剤(実施例3の本発明の組成物を含むカプセル剤)、実施例8の本発明のカプセル剤(実施例4の本発明の組成物を含むカプセル剤)、比較例3のカプセル剤(比較例1の組成物を含むカプセル剤)、比較例4のカプセル剤(比較例2の組成物を含むカプセル剤)を得た。
【0050】
崩壊試験1(参考実験2)
実施例5~8、比較例3、4で得られた硬カプセルを用いて、日本薬局方の崩壊試験法に従ってカプセル剤の崩壊性試験を行った。試験液として脱イオン水を用いた。試験器の管(6本)それぞれに試料を入れ(各試料6カプセルを使用)、更に補助盤を入れ、20分間補助盤を上下運動させて、カプセル剤の崩壊性を試験した。
結果を、表2に示す。(HPMC粘度の低い順に記載)
【0051】
【0052】
表2より、非晶質クルクミンに、2質量%水溶液の粘度が10mm2/s以下であるヒドロキシプロピルメチルセルロースを混合した組成物を含有するカプセル剤の崩壊性が優れていることが示された。
【0053】
実施例9、10(カプセル剤)、比較例5、6(カプセル剤)
(1)実施例1、実施例2、比較例1、比較例2の粉末状組成物各20gに溶融マルトデキストリン(サンエイ糖化株式会社、NSD#300)4.2gを加え均一に混合した。
(2)得られた混合物21gに、日局トウモロコシデンプン(日澱化学株式会社製)3955mgを加えて混合し、次いで更にステアリン酸カルシウム210mg、二酸化ケイ素35mgを加えて混合して4種の粉末組成物を得た。
(3)得られた粉末組成物から、それぞれ320mgを採取し、2号カプセルに充填し、実施例9の本発明のカプセル剤(実施例1の本発明の粉末組成物を含むカプセル剤)、実施例10の本発明のカプセル剤(実施例2の本発明の粉末組成物を含むカプセル剤)、比較例5のカプセル剤(比較例1の粉末組成物を含むカプセル剤)、比較例6のカプセル剤(比較例2の粉末組成物を含むカプセル剤)。
【0054】
崩壊試験2(実施例9、10カプセル剤の崩壊試験)
実施例9、10、比較例5、6で得られた硬カプセルを用いて、日本薬局方の崩壊試験法に従ってカプセル剤の崩壊性試験を行った。試験液として脱イオン水を用いた。試験器の管(6本)それぞれに試料を入れ(各試料6カプセルを使用)、更に補助盤を入れ、20分間補助盤を上下運動させて、カプセル剤の崩壊性を試験した。
結果を、表3に示す。(HPMC粘度の低い順に記載)
【0055】
【0056】
表3より、非晶質クルクミンに、2質量%水溶液の平均粘度が6mm2/s以下であるヒドロキシプロピルメチルセルロースを混合した組成物を含有するカプセル剤は崩壊性に優れていることが示された。
【0057】
参考実験3(実施例10~13カプセル剤、比較例7~12カプセル剤の崩壊試験)
本発明のカプセル剤の成分(C)の種類と量とにつき下記の崩壊試験を実施した。
実験に使用したカプセル剤の組成を表4に示した。表4に記載の組成物を実施例5~8と同様の方法で1カプセル中にそれぞれ300mgを充填してカプセル剤とし、崩壊試験1の項に記載した方法で崩壊試験を実施した。
【0058】
【0059】
【0060】
C/A+Bの比率が0.28と小さい比較例9、成分(C)の大半がゲル形成性添加物である比較例7、8、10~12のカプセル剤の崩壊性が良好でないことが示された。
【0061】
実施例14(錠剤の製造と崩壊試験)
実施例1に記載した溶融処理クルクミン(非晶質クルクミン)粉砕物10g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(E3)10g、結晶セルロース(セオラスPH-101)20g、クロスカルメロースナトリウム(キッコレートND-2HS)9.5gを混合し、更にステアリン酸カルシウム0.42g、二酸化ケイ素0.08gを混合して得た混合粉末を卓上型単発式打錠機で190mg/錠の強度50Nの直径6mmの錠剤を製造した。この錠剤を前記崩壊試験1(参考試験1)に記載と同じ試験により崩壊性を試験したところ、全て完全に崩壊したことを確認した。
【0062】
比較例13(比較錠剤の製造と崩壊試験)
実施例1に記載した溶融処理クルクミン(非晶質クルクミン)粉砕物10g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(SE50)10g、結晶セルロース(セオラスPH-101)20g、クロスカルメロースナトリウム(キッコレートND-2HS)9.5gを混合し、更にステアリン酸カルシウム0.42g、二酸化ケイ素0.08gを混合して得た混合粉末を卓上型単発式打錠機で190mg/錠の強度50Nの直径6mmの錠剤を製造した。この錠剤を前記崩壊試験1(参考試験1)に記載と同じ試験により崩壊性を試験したところ、網目上に錠剤の一部が残存したことを確認した。
【0063】
実施例15(顆粒剤の製造)
実施例14で製造した錠剤を粉砕し、18号(850μm)篩を通過し、75号(200μm)篩に残留した顆粒状の顆粒剤を得た。なお、その顆粒剤の30号(500μm)篩に残留した割合は20%であった。