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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】トンネル防水シート用固定ディスク
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/38 20060101AFI20220530BHJP
【FI】
E21D11/38 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018035835
(22)【出願日】2018-02-28
(65)【公開番号】P2019151974
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-02-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591029921
【氏名又は名称】フジモリ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085556
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 昇
(72)【発明者】
【氏名】村田 知哉
(72)【発明者】
【氏名】細田 優介
(72)【発明者】
【氏名】扇畑 邦史
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-071598(JP,U)
【文献】特開2007-330391(JP,A)
【文献】特開平04-297699(JP,A)
【文献】特開平07-296963(JP,A)
【文献】米国特許第04466758(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防水シートをトンネルの周壁に固定するトンネル防水シート用固定ディスクであって、
定着部材が貫通される定着貫通部が設けられたベースと、
前記ベースの表面に前記定着貫通部を囲むように設けられ、電磁誘導加熱される環状金属膜と、
前記環状金属膜の表面に積層されたホットメルト層と、を備え、
前記環状金属膜の周方向の所定箇所に前記電磁誘導加熱による局所的な易破断部が設けられており、
前記定着貫通部は、内部が前記ベースのトンネル内側を向く表側面に開口された筒部と、前記筒部の前記表側面とは反対の地山側を向く裏側端を塞ぐ底板部とを含み、前記底板部が、前記ベースにおける前記定着貫通部を除く部分よりも前記地山側へ突出されていることを特徴とするトンネル防水シート用固定ディスク。
【請求項2】
前記環状金属膜の周方向の各所における内周縁と外周縁を結ぶ距離が、前記易破断部において局所的に小さいことを特徴とする請求項1に記載のトンネル防水シート用固定ディスク。
【請求項3】
前記環状金属膜の外周縁が四角形であり、前記環状金属膜の内周縁が円形であることを特徴とする請求項1又は2に記載のトンネル防水シート用固定ディスク。
【請求項4】
前記環状金属膜の厚さが、10μm~100μmであることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のトンネル防水シート用固定ディスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの周壁に防水シートを固定するための固定ディスクに関し、特に電磁誘導加熱を利用して防水シートを固定する固定ディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばNATM(New Austrian tunneling Method)工法やSENS(Shield・ECL・NATM・System)工法においてはトンネルの周壁に防水シートが設けられる。一般に、防水シートは、一次覆工側の透水性の裏面緩衝材と、二次覆工側の不透水性の防水シート材との積層構造になっている(例えば特許文献1等参照)。1枚の防水シートは通常2m程度の幅を有している。該防水シートが、幅方向をトンネル軸方向へ向けて一次覆工の周方向へ張り渡されている。複数の防水シートが約2m間隔でトンネル軸方向に並べられて接合されている。
【0003】
トンネル施工現場で約2m置きに防水シートどうしの接合作業を行なうのは工期の長期化や接合不良等を招くことが考えられる。そこで、予め工場において例えば3枚の防水シートを連ねて約6m幅にした状態でトンネル施工現場に搬入することもある。そうすることによって、トンネル施工現場における防水シートの接合作業量を3分の1に短縮でき、かつ接合不良が起きる可能性を3分の1に減らせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-060217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
幅約6m等の幅広防水シートは、例えば固定ディスクを用いて一次覆工に固定される。固定ディスクは、金属からなる誘導加熱体の表面にホットメルト層を設けたものである。該固定ディスクをコンクリート釘やアンカー等の定着部材で一次覆工に直接又は裏面緩衝材を介して固定したうえで、該固定ディスクに被さるように防水シート材を張り渡す。そして、防水シートの表面側(トンネル内側)から電磁誘導加熱装置で前記誘導加熱体を電磁誘導加熱する。これによって、ホットメルト層が溶融して防水シートと接着される。
しかし、固定ディスクを電磁誘導加熱し過ぎると、防水シートが溶融されるおそれがある。溶融の程度によっては漏水を招く。
本発明は、かかる事情に鑑み、過度な電磁誘導加熱によって防水シートが溶融されるのを防止可能なトンネル防水シート用固定ディスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者は、ある種の形状の金属膜を誘導加熱体とする固定ディスクは、電磁誘導加熱し過ぎると特定箇所に亀裂が入って破断し、以後、誘導磁場をかけても加熱されなくなることを発見した。
本発明はかかる知見に基づいてなされたものであり、防水シートをトンネルの周壁に固定するトンネル防水シート用固定ディスクであって、
定着部材が貫通される定着貫通部が設けられたベースと、
前記ベースの表面に前記定着貫通部を囲むように設けられ、電磁誘導加熱される環状金属膜と、
前記環状金属膜の表面に積層されたホットメルト層と、を備え、
前記環状金属膜の周方向の所定箇所に前記電磁誘導加熱による局所的な易破断部が設けられていることを特徴とする。
【0007】
当該固定ディスクはコンクリート釘やアンカーボルト等の定着部材によって一次覆工等のトンネル周壁に固定される。更に環状金属膜の適度な電磁誘導加熱によってホットメルト層が溶融して防水シートに接着される。これによって、防水シートが固定ディスクを介してトンネルの周壁に固定される。
過度に電磁誘導加熱したときは、前記易破断部の内周縁及び外周縁間に亀裂が入って破断されやすい。環状金属膜は、一旦破断されると、以後、誘導磁場をかけても加熱されずに冷めていく。したがって、環状金属膜がヒューズのような役目を果たすことで、過度な電磁誘導加熱を防止できる。これによって、防水シートの溶融を防止でき、該溶融部からの漏水を防止できる。
【0008】
前記環状金属膜の周方向の各所における内周縁と外周縁を結ぶ距離が、前記易破断部において局所的に小さいことが好ましい。
これによって、電磁誘導加熱量が超過したとき、易破断部において破断されやすくなる。
【0009】
前記環状金属膜の外周縁が四角形であり、前記環金属膜の内周縁が円形であることが好ましい。
これによって、環状金属膜における四角形の外周縁の少なくも一辺の中間部と円形の内周縁との間が易破断部となり、電磁誘導加熱量の超過時にはそこに亀裂が生じやすくなる。
【0010】
前記環状金属膜の厚さが、10μm~100μmであることが好ましい。
これによって、環状金属膜が適度に電磁誘導加熱されることでホットメルト層を確実に溶融させて防水シートを接合でき、かつ電磁誘導加熱し過ぎた時は易破断部が確実に破断されるようにできる。10μm未満であると、十分に電磁誘導加熱しきれないうちに易破断部が破断してしまい、防水シートを接着できないおそれがある。100μm超であると、易破断部が破断される前に防水シートが溶融してしまうおそれがある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、トンネル防水シート用固定ディスクの過度な電磁誘導加熱によって防水シートが溶融されるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係るトンネル防水シート用固定ディスクを使用前の状態で示す正面図である。
図2図2は、図1のII-II線に沿う断面図である。
図3図3(a)は、前記トンネル防水シート用固定ディスクを正面側から見た斜視図である。図3(b)は、前記トンネル防水シート用固定ディスクを裏面側から見た斜視図である。
図4図4は、図2の円部IVの拡大断面図である。
図5図5は、前記トンネル防水シート用固定ディスクを用いて固定された防水シートを含むトンネルを、トンネル軸線と直交する断面で示す断面図である。
図6図6は、前記トンネルを、防水シートの張設後、二次覆工(同図において二点鎖線)の打設前の状態で示す、図5のVI-VI線に沿う断面図である。
図7図7は、図6の円部VIIを、電磁誘導加熱による防水シート材の固定工程で示す拡大断面図である。
図8図8は、前記トンネル防水シート用固定ディスクを電磁誘導加熱し過ぎた状態で示す正面図である。
図9図9は、本発明の第2実施形態に係るトンネル防水シート用固定ディスクの正面図である。
図10図10は、実施例1の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
<第1実施形態>
図1図8は、本発明の第1実施形態を示したものである。図5に示すように、例えばNATM工法によって地山2が掘削されてトンネル1が形成されている。トンネル1の周壁は、掘削された地山2の内壁2a側からトンネル内側へ一次覆工3、防水層4、二次覆工5の順に重ねられた層構造になっている。
【0014】
図5及び図6に示すように、防水層4は、複数の防水シート10を含む。各防水シート10は、防水シート材11と、裏面緩衝材12を含む。防水シート材11は二次覆工5に面し、裏面緩衝材12は一次覆工3に面している。
なお、図5において、防水シート材11及び裏面緩衝材12の厚みは、一次覆工3及び二次覆工5の厚みに対して誇張されている。
【0015】
防水シート材11は、不透水性を有し、地山2からの湧水がトンネル1内に流入するのを阻止する防水機能を担っている。防水シート材11の材質としては、例えばエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル(PVC)等の熱可塑性樹脂が挙げられ、好ましくはEVAである。
【0016】
防水シート材11の背面(一次覆工3側を向くべき面、図6において上面)に裏面緩衝材12が積層されている。裏面緩衝材12は、不織布等にて構成されている。不織布の材質としては、例えばポリエステル、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等の化学繊維、ヤシがら、綿、麻、羊毛、絹などの天然繊維、ガラス、炭素、金属、セラミックなどの無機繊維などが挙げられ、好ましくは化学繊維である。裏面緩衝材12は、一次覆工3又は地山2と二次覆工5との間の緩衝機能の他、地山2からの湧水を排出する排水機能等を担っている。
【0017】
1枚の防水シート10の幅(図6において左右方向の寸法)は2m程度である。該防水シート10が幅方向をトンネル軸方向へ向け、かつ長手方向をトンネル周方向へ向けて、一次覆工3の内面に沿って張り渡されている。更に、複数の防水シート10がトンネル軸方向に連接され、防水層4が構築されている。
【0018】
図6に示すように、防水シート10は、固定手段6によって一次覆工3(周壁)に固定されている。固定手段6は、トンネル防水シート用固定ディスク20と、コンクリート釘31,32を含む。コンクリート釘31によって、隣接する2枚の裏面緩衝材12の端部どうしの接合部分が一次覆工3に止められている。
【0019】
図7に示すように、固定ディスク20は、裏面緩衝材12と防水シート材11の間に配置されている。コンクリート釘32(定着部材)によって、固定ディスク20及び裏面緩衝材12が一次覆工3に止められている。更に固定ディスク20が電磁誘導加熱溶着によって防水シート材11に接合されている。
【0020】
図1に示すように、固定ディスク20は、ベース21と、誘導加熱接着シート22とを含む。ベース21は、正方形状(四角形状)の板状になっている。図2及び図3(a)に示すように、ベース21の表側面(二次覆工5を向く面、図2において上面)は平坦面である。図3(b)に示すように、ベース21の裏側面(一次覆工3を向く面)には、補強リブ21bが放射状に形成されている。ベース21の材質は、例えばEVA、PP、PE、PVCその他の樹脂であり、好ましくはEVAである。
【0021】
図1図3に示すように、ベース21の中央部には定着貫通部23が設けられている。定着貫通部23は、筒部23aと、底板部23bを含む。筒部23aは、円筒形状に形成され、ベース21の表側面から裏側(図2において下側)へ突出されている。筒部23aの内部空間がベース21の表側面に開口されている。筒部23aの内周面には3つ(複数)の係止爪23fが周方向に間隔を置いて形成されている。筒部23aの裏側端(図2において下端)が底板部23bによって塞がれている。底板部23bは、ベース21よりも裏側(図2において下側)へ突出して位置されている。
【0022】
図2に示すように、定着貫通部23の内部には円形の固定板24が収容されている。固定板24は、例えば溶融亜鉛メッキ鋼板によって構成されている。固定板24が、底板部23bの内底面に重ねられるとともに係止爪23fに係止されることによって抜け止めされている。
図7に示すように、トンネル1においては、前記コンクリート釘32(定着部材)が、固定板24及び定着貫通部23の底部を貫通して一次覆工3に打ち込まれている。
【0023】
図2に示すように、ベース21の表側面(二次覆工5を向く面)に誘導加熱接着シート22が設けられている。図4に示すように、誘導加熱接着シート22は、接着フィルム層25と、環状金属膜26(誘導加熱体)と、ホットメルト層27の三層ラミネート構造になっている。環状金属膜26の裏面(図4において下面)に接着フィルム層25が積層され、環状金属膜26の表面(同図において上面)にホットメルト層27が積層されている。接着フィルム層25がベース21に接着されている。
トンネル1においては、ホットメルト層27が溶融されて防水シート材11に接合されている(図7参照)。
【0024】
環状金属膜26の材質は、例えばアルミニウム(Al)等の金属によって構成されている。環状金属膜26の厚さは、好ましくは10μm~100μm程度である。
【0025】
図1に示すように、環金属膜26の中央部には円形の中心穴26cが形成されている。中心穴26cの内側に定着貫通部23が配置されている。要するに、環状金属膜26ひいては誘導加熱接着シート22の形状は、定着貫通部23を囲む環状になっている。環状金属膜26の外周縁は、ベース21の外周に沿う四角形である。環金属膜26の内周縁は円形である。
【0026】
前記外周縁と内周縁の形状の違いのために、これら外周縁と内周縁を結ぶ周縁間距離D26が、環状金属膜26の周方向の位置に応じて異なっている。ここで、周縁間距離D26は、環状金属膜26の外周縁上の任意の点から内周縁(中心穴26cの縁)までの最短距離を云う。環状金属膜26の外周縁の4つのR状の角部から中心穴26cまでが周縁間距離D26の最大値D26maxとなる。環状金属膜26の外周縁の4つの辺のちょうど中間部から中心穴26cまでが周縁間距離D26の最小値D26minとなる。環状金属膜26における周縁間距離D26が最小値D26minとなる経路部分は、電磁誘導加熱によって局所的に破断されやすく、易破断部28を構成する。
言い換えると、環状金属膜26の周方向の所定箇所に電磁誘導加熱による局所的な易破断部28が設けられている。環状金属膜26の周方向の各所における内周縁と外周縁を結ぶ周縁間距離D26が、易破断部28において局所的に小さくなっている。
【0027】
トンネル1の構築方法をトンネル防水シート用固定ディスク20の使用方法を中心に説明する。
好ましくは工場において、1枚約2m幅の防水シート材11及び裏面緩衝材12をそれぞれ3枚(複数枚)ずつ溶着等で接合して約6m幅の幅広シートに形成する。防水シート材11と裏面緩衝材12とは、工場では接合することなく別々にトンネル施工現場へ搬入する。
【0028】
トンネル施工現場において、地山2の掘削及び一次覆工3の構築が所定のスパン進んだら、一次覆工3の内周面(図6において下面)に3枚一体の裏面緩衝材12を張り渡す。該裏面緩衝材12を固定手段6によって一次覆工3に固定する。固定手段6のコンクリート釘31は、隣接する2枚の裏面緩衝材12どうしの接合部分に打ち込む。かつ固定ディスク20を裏面緩衝材12の複数箇所に配置し、コンクリート釘32で止める(図7)。
固定ディスク20の定着貫通部23がベース21より一次覆工3側へ突出されているため、一次覆工3の内面に凹凸があっても、固定ディスク20を裏面緩衝材12を介して一次覆工3に安定的に定着できる。
なお、コンクリー釘31,32に代えてアンカーボルトを用いてもよい。
【0029】
3枚一体の裏面緩衝材12の幅方向の端部には、隣接する別の3枚一体の裏面緩衝材12を溶着等で接合する。3枚一体の裏面緩衝材12によれば、トンネル施工現場における裏面緩衝材12どうしの接合作業量を1枚ごとに行う場合の3分の1に短縮でき、かつ接合不良が起きる可能性を3分の1に減らすことができる。
【0030】
次に、3枚一体の防水シート材11を裏面緩衝材12の内面側(図6において下側)に重ねるようにして張り渡す。該防水シート材11が固定ディスク20に被さる。
続いて、図7に示すように、電磁誘導加熱機7のプローブ7bを、防水シート材11を挟んで固定ディスク20と対向させ、環状金属膜26を電磁誘導加熱する。これによって、ホットメルト層27が溶融して防水シート材11と接着される。好ましくは、防水シート材11をプローブ7b等で固定ディスク20に押し付けることで、しっかりと接着できる。これによって、防水シート材11が、固定ディスク20を介して裏面緩衝材12と接合されるとともに一次覆工3に固定される。
1つの固定ディスク20あたりの好適な電磁誘導加熱時間は、防水シート材11の厚みや気温その他の現場条件に左右されるが、例えば数秒~十数秒である。
【0031】
図8に示すように、固定ディスク20を電磁誘導加熱し過ぎたときは、環状金属膜26における易破断部28の内周縁及び外周縁間に亀裂28cが入り、環状金属膜26が破断される。そのメカニズムは明確ではないが、易破断部28では、周縁間距離D26が局所的に小さいために電磁誘導のエネルギー密度が高くなり、環状金属膜26の他の部位よりも高温化されることが考えられる。
環状金属膜26は、一旦破断されると、以後、誘導磁場をかけても加熱されずに冷めていく。したがって、環状金属膜26がヒューズのような役目を果たすことで、過度な電磁誘導加熱を防止できる。この結果、防水シート11の溶融を防止でき、ひいては防水シート11の該溶融部からの漏水を防止できる。
環状金属膜26の厚さを10μm~100μmとすることによって、十分に電磁誘導加熱しきれないうちに易破断部28が破断されるのを防止できる。したがって、ホットメルト層27を確実に溶融させて防水シート材11と接着でき、かつ易破断部28が破断される前に防水シート材11が溶融されるのを防止できる。
【0032】
3枚一体の防水シート材11の幅方向の端部には、隣接する別の3枚一体の防水シート材11を溶着等で接合する。3枚一体の防水シート材11によれば、トンネル施工現場における防水シート材11どうしの接合作業量を1枚ごとに行う場合の3分の1に短縮でき、かつ接合不良が起きる可能性を3分の1に減らすことができる。ひいては、接合不良による漏水の可能性を3分の1に減らすことができる。
【0033】
その後、防水シート10の内面側(図6において下側)に二次覆工5を打設する。
このようにして、トンネル1が構築される。
【0034】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において既述の形態と重複する構成に関しては、図面に同一符号を付して説明を省略する。
<第2実施形態>
図9に示すように、第2実施形態に係るトンネル防水シート用固定ディスク20Bにおいては、ベース21の外周縁が円形になっている。環状金属膜40は、外周縁及び内周縁が共に円形の円環状になっている。かつ、環状金属膜40の外周縁の周方向の一箇所に例えば三角形状の切欠部41が形成されている。切欠部41を除く環状金属膜40の周縁間距離D40は一定である。
【0035】
環状金属膜40における切欠部41の先端部(内周側端部)と中心穴42との間の部分は、易破断部43となっている。環状金属膜40の周縁間距離D40が、易破断部43において局所的に小さくなっている。
切欠部41は、電磁誘導加熱が過度になったときの破断のキッカケとなる。
【0036】
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変をなすことができる。
例えば、本発明は、NATM工法に限られず、SENS工法等によるトンネル構築方法にも適用可能である。固定ディスク20,20Bをコンクリート釘32やアンカー等の定着部材で一次覆工3に直接的に固定した後、該固定ディスク20,20Bの表側から防水シート10を張り渡してもよい。誘導加熱接着シート22には、防水シート10の裏面緩衝材12が直接的に接するようにしてもよい。そして、電磁誘導加熱によってホットメルト層27が裏面緩衝材12と接合されるようにしてもよい。
【実施例1】
【0037】
実施例を説明する。ただし、本発明が以下の実施例に限定されるものではない。
第1実施形態(図1図3)と実質同一形状の固定ディスク20を用意し、該固定ディスク20に電磁誘導加熱機7のプローブ7bをかざして電磁誘導加熱した。
固定ディスク20の環状金属膜26の正方形状の外周縁の一辺の長さは、85mmであった。
中心穴25cの直径は、39mmであった。
環状金属膜26の材質は、アルミニウム(Al)であった。
環状金属膜26の厚さは、30μmであった。
電磁誘導加熱機7として、株式会社ブラウニー製型番HB-75を用いた。
電源は、単層200V、15Aであった。
電磁誘導の出力周波数は、20KHzであった。
電磁誘導加熱機7のプローブ7bから環状金属膜26までの距離は、0.8mmであった。
【0038】
図10に示すように、電磁誘導加熱時間が4秒のとき、環状金属膜26の外周縁の一辺の中央部から中心穴25cにかけて亀裂28cが入った。
それ以後も誘導磁場をかけ続けたが、環状金属膜26は冷めていった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、例えばNATM工法やSENS工法によるトンネル構築に適用できる。
【符号の説明】
【0040】
1 トンネル
3 一次覆工(トンネル周壁)
7 電磁誘導加熱器
7b プローブ
10 防水シート
20,20B トンネル防水シート用固定ディスク
32 コンクリート釘(定着部材)
21 ベース
22 誘導加熱接着シート
23 定着貫通部
25 接着フィルム層
26 環状金属膜
27 ホットメルト層
28 易破断部
40 環状金属膜
43 易破断部
26,D40 周縁間距離(内周縁と外周縁を結ぶ距離)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10