(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】抗糖化剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/899 20060101AFI20220530BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220530BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20220530BHJP
A61P 3/10 20060101ALN20220530BHJP
A61P 9/10 20060101ALN20220530BHJP
A61P 17/00 20060101ALN20220530BHJP
A61P 25/00 20060101ALN20220530BHJP
A61P 27/02 20060101ALN20220530BHJP
A61P 13/12 20060101ALN20220530BHJP
【FI】
A61K36/899
A61P43/00 111
A23L33/105
A61P3/10
A61P9/10 101
A61P17/00
A61P25/00
A61P27/02
A61P9/10
A61P13/12
(21)【出願番号】P 2017108054
(22)【出願日】2017-05-31
【審査請求日】2020-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】321006774
【氏名又は名称】三井製糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】古田 到真
(72)【発明者】
【氏名】水 雅美
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-231083(JP,A)
【文献】特開2001-335505(JP,A)
【文献】特開2005-075750(JP,A)
【文献】特開2001-299264(JP,A)
【文献】特開2003-265135(JP,A)
【文献】国際公開第2014/054421(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/899
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
甘蔗由来の抽出物を有効成分として含み、
前記甘蔗由来の抽出物が、甘蔗汁、甘蔗の溶媒抽出液及び甘蔗由来の糖蜜からなる群より選ばれる原料を、カラムクロマトグラフィーで処理したものであり、
前記甘蔗由来の抽出物が、合成吸着剤を充填したカラムに前記原料を通液して、前記合成吸着剤に吸着させた吸着成分を、水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1つの溶出溶媒で溶出させた第1の溶出成分を含有
し、
前記合成吸着剤が疎水性置換基を有する芳香族系樹脂である、抗糖化剤。
【請求項2】
甘蔗由来の抽出物を有効成分として含み、
前記甘蔗由来の抽出物が、甘蔗汁、甘蔗の溶媒抽出液及び甘蔗由来の糖蜜からなる群より選ばれる原料を、カラムクロマトグラフィーで処理したものであり、
前記甘蔗由来の抽出物が、イオン交換樹脂を充填したカラムに前記原料を通液して、溶出させた溶出成分のうち、波長420nmの光を吸収する、第2の溶出成分を含有
し、
前記イオン交換樹脂がナトリウムイオン型の強酸性陽イオン交換樹脂である、抗糖化剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の抗糖化剤を含有する、抗糖化用飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗糖化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
糖化とはメイラード反応とも呼ばれ、1912年にフランスの科学者L.C. Maillardによって発見されたアミノ酸・タンパク質と還元糖の非酵素的な化学反応である。糖化は食品の加熱中におこる着色、香り・風味の変化等食品化学の分野で注目されてきた。
【0003】
生体における糖化は、グルコースなどの還元糖のカルボニル基とタンパク質とが非酵素的に反応し、シッフ塩基(schiff base)の形成を経てアマドリ転移により不可逆的な物質である糖化タンパク質となり、3-デオキシグルコソン(3DG)、グリオキサール、メチルグリオキサール、グリセルアルデヒド、グルタールアルデヒドなどのカルボニル化合物を中心とする反応中間体生成を経て、糖化最終生成物(advanced glycation endproducts: AGEs)の生成に至る反応である。
【0004】
近年、AGEsと、人の皮膚の老化、動脈硬化、糖尿病疾病、糖尿病の三大合併症(神経障害、網膜症、腎症)、成人病疾患等との関係性について種々の研究がなされており、これらの疾患の治療・改善及び老化防止・予防には、抗糖化剤が用いられる。そして、これまでにも、種々の抗糖化剤が提案されている。例えば、特許文献1には、焼酎残渣もろみの濃縮エキスを有効成分として含有する、抗糖化剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規な抗糖化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、甘蔗由来の抽出物を有効成分として含む抗糖化剤に関する。本発明の抗糖化剤は、甘蔗由来の抽出物を有効成分として含むため、抗糖化活性に優れている。
【0008】
本発明の抗糖化剤は、上記甘蔗由来の抽出物が、甘蔗汁、甘蔗の溶媒抽出液及び甘蔗由来の糖蜜からなる群より選ばれる原料を、カラムクロマトグラフィーで処理したものであってよい。この場合、抗糖化活性がより一層優れたものとなる。
【0009】
上記甘蔗由来の抽出物は、合成吸着剤を充填したカラムに上記原料を通液して、合成吸着剤に吸着させた吸着成分を、水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1つの溶出溶媒で溶出させた第1の溶出成分を含有するもの(抽出物a)であってよい。また、上記甘蔗由来の抽出物は、イオン交換樹脂を充填したカラムに上記原料を通液して、溶出させた溶出成分のうち、波長420nmの光を吸収する、第2の溶出成分を含有するもの(抽出物b)であってよい。甘蔗由来の抽出物が抽出物a又はbである場合、抗糖化活性がより一層優れたものとなる。
【0010】
上記抗糖化剤は、抗糖化活性に優れているため、抗糖化用飲食品として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、新規な抗糖化剤を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】製造例1における溶出パターンを示すグラフである。
【
図2】製造例2におけるイオン交換樹脂を充填したカラムを用いた単塔式回分分離法による2番蜜分画サンプルの分析値を示すグラフである。
【
図5】試験例3における、3-デオキシグルコソン(3DG)の生成阻害試験の結果を示すグラフである。
【
図6】試験例3における、グリオキサール(GO)の生成阻害試験の結果を示すグラフである。
【
図7】試験例3における、メチルグリオキサール(MGO)の生成阻害試験の結果を示すグラフである。
【
図8】試験例3における、CMLの生成阻害試験の結果を示すグラフである。
【
図9】試験例3における、ペントシジンの生成阻害試験の結果を示すグラフである。
【
図10】試験例4における結果を示すグラフである。
【
図11】試験例5における結果を示すグラフである。
【
図12】試験例6における結果を示すグラフである。
【
図13】試験例7における結果を示すグラフである。
【
図14】試験例8における、血糖値測定結果を示すグラフである。
【
図15】試験例8における、血漿中のGO測定の結果を示すグラフである。
【
図16】試験例8における、血漿中のCML測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本明細書における抗糖化剤は、抗糖化活性を有するものであり、具体的には、糖化最終生成物(AGEs)の、生成抑制作用(糖化反応阻害作用)、蓄積抑制作用又は分解作用を有するものであってよい。言い換えれば、本実施形態の抗糖化剤は、例えば、糖化最終生成物の生成抑制剤(糖化反応阻害剤)、蓄積抑制剤又は分解剤(分解促進剤)であってよい。
【0015】
糖化最終生成物(終末糖化産物)は、糖化反応(メイラード反応)による生成物の総称である。糖化最終生成物としては、例えば、CML(Nε-(carboxymethyl)lysine)、ペントシジン(pentosidine)、ピラリン(pyrraline)、クロスリン(crossline)が挙げられる。また、本実施形態の抗糖化剤は、糖化反応における反応中間体の、生成抑制作用、蓄積抑制作用又は分解促進作用を有することにより、結果として、上述の抗糖化活性を有するものであってよい。糖化反応における反応中間体としては、具体的には、グリオキサール(GO)、3-デオキシグルコソン(3DG)、メチルグリオキサール(MGO)等であってよい。
【0016】
本実施形態の抗糖化剤は、甘蔗(さとうきび)由来の抽出物を有効成分として含む。
【0017】
本明細書において、「甘蔗由来の抽出物」とは、甘蔗(及び/又はその加工物)を原料として得られる抽出物をいう。
【0018】
抗糖化剤における甘蔗由来の抽出物の含有量は、抗糖化剤全量基準で、0.01~100質量%であってもよく、0.1~100質量%であってもよい。
【0019】
甘蔗由来の抽出物は、甘蔗汁、甘蔗の溶媒抽出液及び甘蔗由来の糖蜜からなる群より選ばれる原料(以下、単に「原料」ともいう)をカラムクロマトグラフィーで処理したものであることが好ましい。甘蔗由来の抽出物は、より具体的には、後述する抽出物a又は抽出物bであってよい。カラムクロマトグラフィーで処理する条件(カラム処理条件)は、例えば、後述する、抽出物a又はbを得るために用いる条件であってよい。
【0020】
「甘蔗汁」とは、甘蔗を圧搾して得られる圧搾汁、甘蔗を水で浸出して得られる浸出汁、又は原料糖工場の製造工程における石灰処理した清浄汁若しくは濃縮汁をいう。
【0021】
「甘蔗の溶媒抽出液」とは、甘蔗を汎用の抽出溶媒で抽出した抽出液を濃縮、乾固後、水に再溶解した抽出液を意味する。上記抽出溶媒としては、例えばメタノール、エタノール等のアルコール溶媒が挙げられ、これらのアルコール溶媒は、単独又は組み合わせて使用してもよい。さらに、抽出溶媒は上記アルコール溶媒と水の混合溶媒であってよい。
【0022】
「甘蔗由来の糖蜜」とは、結晶化工程で得られた砂糖結晶と、母液の混合物とを遠心分離にかけ、砂糖結晶を分離して得られる振蜜を意味する。例えば、原料糖工場の製造工程における1番蜜、2番蜜、若しくは製糖廃蜜、又は、精製糖工場の製造工程における洗糖蜜、1~7番蜜、若しくは精糖廃蜜等が挙げられる。さらに、これらの糖蜜を原料としてアルコール発酵を行った分離液のように、糖蜜を脱糖処理したものも甘蔗由来の糖蜜に含まれる。
【0023】
カラムクロマトグラフィーによる処理において、固定担体として、例えば合成吸着剤又はイオン交換樹脂を使用してもよい。また、固定担体として、合成吸着剤、イオン交換樹脂の他に、シリカゲル、活性アルミナ、活性炭、活性白土、逆相シリカゲル等の吸着剤を使用してもよい。
【0024】
甘蔗由来の抽出物は、糖類を含有していてもよい。甘蔗由来の抽出物における糖類の含有量(糖含有量)は、固形分量に対して好ましくは50質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。また、甘蔗由来の抽出物における糖類の含有量は、0.1質量%以上であってよい。ここで、糖類とは、スクロース、グルコース及びフルクトースであり、糖類の含有量とは、これらの含有量の合計を意味する。糖類の含有量が高すぎる(例えば、糖類の含有量が50質量%超えである)と、糖類に起因する甘味により用途が限定されてしまう場合がある。糖類の含有量が高すぎる場合、シュガーフリーの機能性食品に応用する場合に問題となる。さらに、甘蔗由来の抽出物中の抗糖化効果を奏する有効成分の割合が少なくなるために固形分量に対する抗糖化効果が低下してしまう場合がある。甘蔗由来の抽出物における糖類の含有量は、高速液体クロマトグラフィー又は薄層クロマトグラフィーにより測定することができる。検出感度に優れる観点から、糖類の含有量の測定には、高速液体クロマトグラフィーが好適に用いられる。
【0025】
糖類の含有量は、例えば、カラムクロマトグラフィーによる処理により調整することができる。具体的には、糖類の含有量は、例えば、上記原料をカラムクロマトグラフィーで処理し、多数の画分を得て、甘蔗由来の抽出物として混合する際に、相対的に糖類(スクロース)の含有量が高い画分を、必要に応じて、甘蔗由来の抽出物に混合しないことにより、調整することができる。
【0026】
一態様において、甘蔗由来の抽出物は、合成吸着剤を充填したカラムに原料を通液して、合成吸着剤に吸着させた吸着成分を、水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1つの溶出溶媒で溶出させた第1の溶出成分を含有するもの(以下、「抽出物a」ともいう)であることが好ましい。この場合、抗糖化活性がより一層優れたものとなる。
【0027】
原料は、そのまま又は水で任意の濃度に調整して、合成吸着剤を充填したカラムに通液することができる。なお、異物除去のために、カラムで処理する前に、原料(甘蔗汁、甘蔗の溶媒抽出液又は甘蔗由来の糖蜜)をろ過することが望ましい。ろ過の手段は特に限定されず、食品工業で広く使用されているスクリーンろ過、ケイソウ土ろ過、精密ろ過、限外ろ過等を好ましく使用できる。
【0028】
抽出物aにおいて、上記原料は、抽出物aの製造コストがより低減される点から、甘蔗汁であることが好ましい。
【0029】
上記合成吸着剤としては、合成多孔質吸着剤が好ましい。合成吸着剤(合成多孔質吸着剤)としては、有機系樹脂が好適に用いられる。有機系樹脂としては、例えば、芳香族系樹脂、アクリル酸メタクリル樹脂、アクリロニトリル脂肪族系樹脂等が使用できる。合成吸着剤は、芳香族系樹脂、アクリル酸系メタクリル樹脂及びアクリロニトリル脂肪族系樹脂からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、芳香族系樹脂であることがより好ましい。
【0030】
芳香族系樹脂として、例えば、スチレン-ジビニルベンゼン系樹脂が挙げられる。また、芳香族系樹脂としては、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、無置換基型の芳香族系樹脂、無置換基型に特殊処理をした芳香族系樹脂等の多孔質性樹脂が挙げられるが、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂が好ましい。
【0031】
合成多孔質吸着剤で市販のものとしては、ダイヤイオン(商標)HP-10、HP-20、HP-21、HP-30、HP-40、HP-50(以上、無置換基型の芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱化学株式会社製);SP-825、SP-800、SP-850、SP-875、SP-70、SP-700(以上、無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱化学株式会社);SP-900(芳香族系樹脂、商品名、三菱化学株式会社製);アンバーライト(商標)XAD-2、XAD-4、XAD-16、XAD-2000(以上、芳香族系樹脂、いずれも商品名、株式会社オルガノ製);ダイヤイオン(商標)SP-205、SP-206、SP-207(以上、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱化学株式会社製);HP-2MG、EX-0021(以上、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱化学株式会社製);アンバーライト(商標)XAD-7、XAD-8(以上、アクリル酸エステル樹脂、いずれも商品名、株式会社オルガノ製);ダイヤイオン(商標)HP1MG、HP2MG(以上、アクリル酸メタクリル樹脂、いずれも商品名、三菱化学株式会社製);セファデックス(商標)LH20、LH60(以上、架橋デキストランの誘導体、いずれも商品名、ファルマシア バイオテク株式会社製)等が挙げられる。中でも、無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂(例えば、SP-850)および疎水性置換基を有する芳香族系樹脂(例えば、SP-207)が好ましく、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂がより好ましい。
【0032】
カラムに充填する合成多孔質吸着剤の量は、カラムの大きさ、溶出溶媒の種類、固定担体の種類などによって適宜決定できるが、上記原料の固形分に対して、0.01~5倍湿潤体積量が好ましい。
【0033】
上記原料をカラム処理することにより、原料中の、抗糖化活性を有する成分(有効成分)が固定担体に吸着され、スクロース、グルコース、フラクトース及び無機塩類の大部分がそのまま流出する。
【0034】
合成多孔質吸着剤に吸着された吸着成分は、溶出溶媒により溶出させることができる。抗糖化活性を有する成分がより効率よく回収可能となる観点から、第1の溶出成分を溶出させる前に、残留するスクロース、グルコース、フラクトース及び無機塩類を水洗により充分に洗い流すことが好ましい。
【0035】
溶出溶媒は、水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物から選ばれる。溶出溶媒は、水とアルコールの混合溶媒が好ましく、エタノール-水混合溶媒がより好ましく、室温において目的の効果を有する成分がより効率よく溶出可能となる観点から、50/50~60/40(体積/体積)エタノール-水混合溶媒が更に好ましい。カラム温度を上げることにより、エタノール-水混合溶媒のエタノール混合割合を減らすことができ、抽出物aをより効率的に溶出することができる。カラム内は常圧条件下であっても、加圧条件下であってもよい。
【0036】
溶出速度は、カラムの大きさ、溶出溶媒の種類、合成多孔質吸着剤の種類等によって適宜変更が可能であるが、SV=0.1~10時間-1が好ましい。なお、SV(Space Velocity、空間速度)は、1時間当たり樹脂容量の何倍量の液体を通液するかという単位である。
【0037】
抽出物aは、例えば、次のようにして得ることができる。すなわち、原料の固形分に対して0.01~5倍湿潤体積量の疎水性置換基を有する芳香族系樹脂を充填したカラムに、カラム温度60~97℃にて原料を通液した後、カラムに吸着された成分を、カラム温度20~60℃にて50/50~60/40(体積/体積)エタノール‐水混合溶媒(溶出溶媒)で溶出させ、エタノール‐水混合溶媒での溶出開始時点から集めた溶出液の量が該香族系樹脂の4倍湿潤体積量以内に溶出する画分を回収する。回収された画分(抗糖化活性を有する成分を含む画分)を集め、慣用の手段(減圧下での溶媒留去、凍結乾燥など)により濃縮して、甘蔗由来の抽出物(抽出物a)を得ることができる。抽出物aは、固形分が60質量%以上になるように濃縮した液状又は粉末状で保存することができる。甘蔗由来の抽出物の保存は、当該抽出物が液状の場合、冷蔵で行うことが好ましい。
【0038】
一態様において、甘蔗由来の抽出物は、イオン交換樹脂を充填したカラムに上記原料を通液して、溶出させた溶出成分のうち、波長420nmの光を吸収する、第2の溶出成分を含有するもの(以下、「抽出物b」ともいう)であることが好ましい。この場合、抗糖化活性がより一層優れたものとなる。
【0039】
溶出成分(第2の溶出成分)の波長420nmにおける吸光度は、例えば、0.02以上であってよい。波長420nmにおける吸光度は、分光光度計により測定することができる。より具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0040】
抽出物bにおいて、上記原料は、甘蔗由来の糖蜜であることが好ましい。甘蔗由来の糖蜜は、糖がより少ない(脱糖している)傾向にあり、上記原料が甘蔗由来の糖蜜である場合、抽出物bの収率及び製造効率がより一層向上する。
【0041】
イオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂又は陰イオン交換樹脂であってよい。イオン交換樹脂は、好ましくは、陽イオン交換樹脂であり、より好ましくは、強酸性陽イオン交換樹脂であり、更に好ましくは、ナトリウムイオン型、カリウムイオン型又はカルシウムイオン型の強酸性陽イオン交換樹脂である。強酸性陽イオン交換樹脂としては、スルホン化ポリスチレン樹脂の、ナトリウム塩、カリウム塩又はカルシウム塩が好ましい。
【0042】
イオン交換樹脂は、樹脂の形態に基づいて、ゲル型樹脂と、ポーラス型、マイクロポーラス型又はハイポーラス型等の多孔性樹脂とに分類される。イオン交換樹脂としては、ゲル型のイオン交換樹脂を用いることが好ましく、強酸性型のナトリウムイオン型、カリウムイオン型又はカルシウムイオン型であるゲル型の陽イオン交換樹脂を用いることがより好ましい。
【0043】
市販のイオン交換樹脂としては、ダイヤイオン(商標)SK1B、SK104、SK110、SK112、SK116(以上、三菱化学株式会社製)、UBK530、UBK550(以上、三菱化学株式会社製)、アンバーライト(商標)アンバーライトIR120BN、IR124、XT1006、IR118アンバーリスト31、クロマトグラフ用アンバーライトCG120、CG6000(以上、オルガノ株式会社製)、ダウエックス(商標)HCR-S、HCR-W2、HGR-W2、モノスフィアー650C、マラソンC600、50W×2、50W×4、50W×8(以上、ダウケミカル日本株式会社製)、ムロマック50WX(室町化学工業株式会社製)、ピュロライト(商標)C-100E、C-100、C-100×10、C-120E、PCR433、PCR563K、PCR822、PCR833、PCR866、PCR883、PCR892、PCR945(以上、エイエムビー・アイオネクス株式会社製)等が挙げられる。中でもUBK530、UBK550等のUBKシリーズが特に好ましい。
【0044】
イオン交換樹脂を用いる際の溶出溶媒は、水が好ましい。また、イオン交換樹脂を用いて溶出する際の条件は、カラム温度は50~120℃、カラム内は常圧又は加圧された状態であることが好ましい。
【0045】
イオン交換樹脂の量は、カラムの大きさ、固定担体の種類などによって適宜決定できるが、原料の固形分に対して2~10,000倍湿潤体積量が好ましく、5~500倍湿潤体積量がより好ましい。
【0046】
抽出物bは、例えば、特開2011-32240号公報に記載の方法により得ることができる。抽出物bは、具体的には、以下のようにして得ることができる。まず、上記イオン交換樹脂を充填したカラムに上記原料を通液する。次に、溶離液(溶出溶媒)として水を用いてカラムクロマトグラフィー処理することが好ましい。得られた多数の画分(溶出成分)のうち、波長420nmの光を吸収する画分(第2の溶出成分)を混合することにより、抽出物bを得ることができる。以下、この方法をイオンクロマト分離ということがある。
【0047】
通液条件は、原料の組成及び固定担体の種類等によって適宜決定する。用いる液体クロマトグラフが単塔式回分分離法に基づくものである場合は、溶離液として脱気処理した水を用い、流速はSV=0.3~1.0時間-1、サンプルの供給量は液量として固定担体(樹脂)の1~20%、温度は40~90℃が好ましい。
【0048】
イオンクロマト分離により得た画分のそれぞれについて、波長420nmの吸光度を測定すると共に、電気伝導度(塩分量の尺度)、又は、スクロース、グルコース及びフラクトースの濃度(糖類の濃度)を分析することが好ましい。各画分の上記分析値を時系列的にグラフに表すと、通常、波長420nmでの吸光度のピーク、電気伝導度のピーク、スクロース及び還元糖のピークがこの順に現れる。
【0049】
抽出物bは、波長420nmの光を吸収する画分のうち、得られた画分の中でスクロース含有量が相対的に高い画分(スクロース画分)を混合せずに得られたもの(非スクロース画分)であってよい。
【0050】
抽出物b(波長420nmの光を吸収する第2の溶出成分)は、本発明の効果を奏する物質を濃縮するために、更に膜処理等に付すことにより、塩分(無機塩)を低減又は除去したものであってよい。第2の溶出成分に含まれる塩分は、好ましくは抽出物bの固形分全量に対する33%以下であり、より好ましくは20%以下、更に好ましくは10%以下である。なお、膜処理による場合、技術的な観点から塩分を1%未満にすることは困難であるが、ゲルろ過クロマトグラフによる場合、塩分を0.01%にまで、又はそれ以下に低減することが可能である。
【0051】
抽出物bを得るときに用いる液体クロマトグラフは、擬似移動床式連続分離法に基づく擬似移動床方式クロマトグラフであることが好ましい。擬似移動床方式クロマトグラフでは、原料供給量、溶離液通液量、各画分抜き出し流量は、原料の組成、固定担体の種類、樹脂量に合わせて適宜設定することができる。
【0052】
原料糖工場の製造工程における2番蜜を原料として擬似移動床式連続分離法により得られる抽出物bの組成は、原料の種類及びイオン交換樹脂の分離能により変化する。しかし、その組成は、一般には、固形分全量に対して、スクロースが10%以下、非糖分が90%以上、見掛純糖率が10%以下である。ここで、見掛純糖率は、ブリックス(Bx.)度(ブリックス度計で測定した固形百分率)に対する糖度(糖度計で測定した純スクロース規定量に対する直接旋光度)の百分率である。
【0053】
一方、単塔式回分分離法により得られる抽出物bは、2番蜜を原料として得られた画分の場合、一般に、固形分(凍結乾燥固形分)全量に対するポリフェノール量が約5%(カテキン換算)、電気伝導度灰分(すなわち塩分)は約44.7%、糖度は約5%である。
【0054】
甘蔗由来の抽出物は、液状又は粉末状であってよい。粉末状の甘蔗由来の抽出物は、例えば、液状の甘蔗由来の抽出物(第1の溶出成分又は第2の溶出成分)を用いて、スプレードライ法、凍結乾燥法、流動層造粒法、又は賦形剤を用いた粉末化法等により製造することができる。なお、甘蔗由来の抽出物は固形分20質量%以上に濃縮することが、腐敗防止の観点から好ましく、液状の場合は特に冷蔵保存することが好ましい。
【0055】
本実施形態の抗糖化剤は、甘蔗由来の抽出物以外に賦形剤などを含んでもよい。賦形剤として、抗糖化剤が動物用である場合、コーンスターチ、及び小麦デンプン等の各種デンプン、デキストリン、各種グルテン、小麦粉、ふすま、各種米糠、大豆かす、及び黄粉などの大豆類、グルコース又は乳糖などの糖類、植物・動物油等の油脂類、魚粉類、酵母類、ケイ素化合物類、各種リン酸塩、ケイソウ土又はベントナイトなどの鉱物類、飼料及び飼料添加物の製剤を製造する上で使用できる賦形剤が挙げられる。また、抗糖化剤がヒト用である場合、乳糖、デンプン及びマルトース等の糖類、その他ヒト用の製剤を製造する上で使用できる賦形剤が挙げられる。これらのうち、コーンスターチ、デキストリン及び脱脂米糠は、製剤用担体として用いることができ、これらと甘蔗由来の抽出物を混合することで、抗糖化剤を、例えば、粉末状、顆粒状、又は錠剤状の固形製剤とすることができる。
【0056】
本実施形態の抗糖化剤は、ヒト又は動物に投与(例えば、経口投与)することにより、抗糖化効果を奏するものであってよい。
【0057】
抗糖化剤の投与量は、甘蔗由来の抽出物の精製度、形態、対象とする動物の種類、健康状態、成長の度合い等により適宜決定し得る。特に投与の形態、例えば集中投与又は長期投与のいずれかであるかは、投与量を決定する上で重要な要因である。集中投与である場合、抗糖化剤の投与量は、単糖類及び少糖類を除く甘蔗由来の抽出物の全量基準(固形分)で、体重1kg当たり1日に50~3,000mg、又は100~2,000mgであってよい。また、集中投与の場合の投与期間は、1~20日間であってよい。日常的に長期投与する場合、抗糖化剤の投与量は、単糖類および少糖類を除く甘蔗由来の抽出物の全量基準(固形分)で、体重1kg当たり1日に1~500mg又は、1~100mgであってよい。長期投与の場合の投与期間は、例えば、数週間から数ヶ月間(例えば、20~180日間)であってよい。
【0058】
本実施形態の抗糖化剤は、医薬品、医薬部外品、飲食品(食品組成物)、飼料、飼料添加物等の製品の成分として使用することができる。飲食品(飲料及び食品)としては、例えば、健康食品、機能性表示食品、特別用途食品、栄養補助食品、サプリメント又は特定保健用食品等が挙げられる。また、上記抗糖化剤は、調味料(醤油、味噌等)、菓子類等の食品、又は水、清涼飲料水、果汁飲料、アルコール飲料等の飲料における成分として使用することもできる。
【0059】
飼料としては、ドッグフード、キャットフード等のコンパニオン・アニマル用飼料、家畜用飼料、家禽用飼料、養殖魚介類用飼料等が挙げられる。「飼料」には、動物が栄養目的で経口的に摂取するもの全てが含まれる。具体的には、養分含量の面から分類すると、粗飼料、濃厚飼料、無機物飼料、特殊飼料の全てを包含し、また公的規格の面から分類すると、配合飼料、混合飼料、単体飼料の全てを包含する。また、給餌方法の面から分類すると、直接給餌する飼料、他の飼料と混合して給餌する飼料、または飲料水に添加し栄養分を補給するための飼料の全てを包含する。
【0060】
本実施形態の抗糖化剤からなる、又は抗糖化剤を含む上記製品(例えば、飲食品)は、抗糖化用であってよい。すなわち、本実施形態の抗糖化剤を含有する飲食品は、抗糖化用飲食品として好適に用いることができる。上記抗糖化剤を含有する、上記製品の形状は、固形又は液体のいずれの形状であってもよい。
【0061】
上記製品に含まれる抗糖化剤の含有量は、上記製品の種類及び摂取方法に応じて、適宜決定してよい。抗糖化効果をより一層有効に発揮する観点から、上記製品は、単糖類及び少糖類を除く固形分として0.001質量%以上となるような量の甘蔗由来の抽出物を含むことが好ましい。抗糖化剤を含有する、上記製品を集中的に摂取する場合、上記製品の摂取量(1日当たりの摂取量)は、単糖類および少糖類を除く甘蔗由来の抽出物の全量基準(固形分)で、好ましくは50~3,000mg/kg(体重)であり、より好ましくは100~2,000mg/kg(体重)である。日常的に長期摂取する場合、上記製品の摂取量(1日当たりの摂取量)は、単糖類及び少糖類を除く甘蔗由来の抽出物の全量基準(固形分)で、好ましくは1~500mg/kg(体重)である。
【実施例】
【0062】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0063】
甘蔗由来の抽出物は、図又は表中において、甘蔗抽出物又はSCE(Sugar Cane Extract)と表現することがある。
【0064】
糖類とは、スクロース、グルコースおよびフルクトースを指し、これらの検出は、薄層クロマトグラフィーにより標準物質(スクロース、グルコースおよびフルクトース)と比較することによって行った。なお、薄層クロマトグラフィーによる検出は、プレートTLC plates silica gel 60 F254 precoated (MERCK製)、層開溶媒にクロロホルム:メタノール:水=65:37:9(体積比)、発色剤に1%バニリン・50%硫酸水溶液を用いた条件で行った。
【0065】
糖類の定量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による内部標準法により標準物質(スクロース、グルコース及びフルクトース)と比較することによって行い、スクロース、グルコースおよびフルクトースの合計を定量した。なお、高速液体クロマトグラフィーの条件は、カラムERC-NH-1171(エルマ株式会社製)、流速1.0 ml/分、温度20℃、溶媒アセトニトリル:水=80:20(体積比)、検出器RI-8010(東ソー株式会社製)、内部標準物質グリセリン(和光純薬工業株式会社)、クロマトレコーダー SC-8020(東ソー株式会社)であった。
【0066】
<甘蔗由来抽出物の製造>
(製造例1)
原料である甘蔗汁(原料糖製造工場の製糖工程にて得られた石灰清浄後の清浄汁、沖縄産、固形分14%)7,500リットルを、カートリッジフィルター(アドバンテック株式会社製、コットンワインドカートリッジフィルター、TCW-10-CSD型)で濾過処理し、清浄汁濾過処理物を得た。合成吸着剤(三菱化学株式会社製、SP-207)500リットルを樹脂塔(内径800mm、高さ2,000mm)に充填し、これに上記の清浄汁濾過処理物を、流速2,500リットル/時間(SV=5.0(時間
-1))で通液した。溶出パターンを
図1に示す。
図1の(A)が通液開始点である。なお、清浄汁通過中は、ウォータージャケットには、80℃の水を常に循環させた。
次に、1,200リットルの水道水を、流速2,500リットル/時間(SV=5.0(時間
-1))で樹脂塔に通液して洗浄した。
図1の(B)が通液開始点である。水道水で洗浄後、樹脂塔から溶出した画分について塔の検出を行ったところ、ハンドレフブリックス(Bx)計(株式会社アタゴ製、PAL-J型)において、Bxが約0になっているのを確認した。その後、1,500リットルの水道水を、流速4,500リットル/時間(SV=9.0(時間
-1))で樹脂塔の下から通液し、逆洗を行った。
次に、溶出溶媒として55%エタノール水溶液(エタノール/水=55/45(体積/体積))1,000リットルを、流速1,000リットル/時間(SV=2.0(時間
-1))で樹脂塔に通液した。
図1の(C)が通液開始点である。続けて、760リットルの水道水を流速1,000リットル/時間(SV=2.0(時間
-1))で樹脂塔に通液し、合成吸着剤に吸着した成分を溶出された。なお、55%エタノール水溶液及び水道水は、プレート式熱交換器(株式会社日立製作所、RX-025A-KNHJR-36型)にて50℃に加温して、樹脂塔に通液した。
樹脂塔から溶出した画分のうち後半の1,460リットル(
図1においてaの部分)を、遠心式薄膜真空蒸発装置(株式会社大川原製作所、エバポールCEP-5S)にて約50倍の濃度に減圧濃縮したのち、1晩凍結乾燥して、甘蔗由来の抽出物として、茶褐色の粉末(I)(抽出物aに相当する)8.4kgを得た。これを、SCE1とした。粉末(I)の糖類を定量したところ、5.0%であった。
【0067】
(製造例2)
原料糖工場で得られた2番蜜処理液を原料として、単塔式回分分離法によるイオン交換カラムクロマトグラフィー処理を行った。原料は、2番蜜処理液を使用した。
【0068】
当該2番蜜処理液は、2番蜜を希釈後、引き続き炭酸ソーダによる清浄処理、ケイソウ土ろ過を行ったものである。この原料の分析値は、ブリックス47.4、糖度(Pol.)23.2、純糖率(Purity)48.9、還元糖分3.2%であった。
【0069】
単塔式回分分離法として、FPLCシステム(ファルマシア株式会社製)を用い、分画分離を行った。
【0070】
ゲル型の強酸性陽イオン交換樹脂UKB530、ナトリウムイオン型(商標、三菱化学株式会社)500mlをカラムに充填した。カラムは内径26mm、高さ1,000mmで、フローアダプター付きである。通液は、溶離液として脱気した蒸留水を用い、流速4.17ml/分(SV=0.5時間-1)、温度60℃の条件で行った。
【0071】
約25mlの原料をカラムに供与した。分画条件は、原料供与30分後から溶出液の回収を開始し、試験管1本当たり3.6分間(約15ml/本)回収し、全部で30本回収した。得られた画分をそれぞれ画分1~30とした。
【0072】
画分1~30について波長420nmの吸光度、電気伝導度、及び糖濃度(糖含有量)を測定した。その結果を
図2に示す。画分1~30の吸光度測定は、0.5mMリン酸バッファー(pH7.5)2mlに各画分0.1mlを加えて測定試料とし、分光光度計(UV-160、株式会社島津製作所製)で測定試料の波長420nmにおける吸光度を測定することにより行った。画分1~30の電気伝導度は、各画分を蒸留水で0.5%に希釈して測定試料として、卓上型pH・水質分析計(F-74、株式会社堀場製作所製)により測定した。糖濃度は、上記のHPLCにより、糖の定量を行うことにより、測定した。
【0073】
各ピークの分析を行うため、波長420nmの吸光ピーク部分を4つに、またスクロースのピーク部分を3つに、スクロースのピーク以降を1つにまとめた。すなわち、画分3及び画分4を合わせてサンプル1に、画分5及び6を合わせてサンプル2に、画分7及び8を合わせてサンプル3に、画分9及び10を合わせてサンプル4に、画分11及び12を合わせてサンプル5に、画分13及び14を合わせてサンプル6に、画分15及び16を合わせてサンプル7に、画分17~30を合わせてサンプル8とした(
図2参照)。画分1及び2は波長420nmの光を吸収する成分をほとんど含有しないため、廃棄した。サンプル1~8を1晩凍結乾燥して、各サンプルの凍結乾燥粉末を得た。
【0074】
吸光度は、各サンプルの凍結乾燥粉末0.25gを0.5mMリン酸バッファー(pH7.5)に溶解して100mlとし、波長420nmで測定した。また、凍結乾燥固形分の分配比率、電気伝導度灰分(塩分)、スクロース(Suc)、グルコース(Glu)及びフラクトース(Fru)含量、ポリフェノール含量を測定した。
【0075】
電気伝導度灰分(伝導度灰分ともいう)は、電気伝導度と既知の硫酸灰分との関係の検量線から、係数を求め算出した。また、スクロース、グルコース及びフラクトース含量は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析により求めたものを、それぞれ各サンプルの固形分質量に対する比(%)として示した。ポリフェノール含量は、カテキン水溶液を標準溶液として検量線を引き、フェノール試薬で反応させて波長765nmの吸光度を測定するフォリン-チオカルト法により測定し、カテキン換算の値として示した。凍結乾燥固形分の分配比率は、全サンプルの固形分質量の合計に対する各サンプルの固形分質量の比(%)である。
【0076】
各サンプルの分析結果を表1に示す。
【0077】
【0078】
サンプル8の吸光度は0.86であり、比較的高い値を示した。しかし、サンプル8は固形分の回収率が低いため、この画分だけを本発明の効果を有する画分として回収することは効率が悪い。
【0079】
糖分含量から、サンプル1~3及び8が非スクロース画分(スクロースの含有量が相対的に低い画分)に相当し、サンプル4~7がスクロース画分(スクロースの含有量が相対的に高い画分)に相当することがわかる。
【0080】
サンプル1~3及び8(非スクロース画分)を混合し、甘蔗由来の抽出物として、粉末(II)(抽出物bに相当する)を得た。これをSCE4とした。
【0081】
<SCE1の抗糖化活性評価(試験例1~5)>
試験例1:ヒト血清アルブミンモデルにおける抗糖化活性の評価
グルコース-ヒト血清アルブミン(HSA)の反応により生成されるAGEsに対する甘蔗由来の抽出物(SCE1)の抗糖化活性(AGEs生成抑制作用)を調べた。
【0082】
(サンプル調製)
甘蔗由来抽出物であるSCE1を約0.5gとり、乳鉢を用いて粉砕し、粉末化した。当該粉末を蒸留水で希釈して0.1~100mg/mLの溶液を調製した。これを試験用のサンプルとした。
【0083】
陽性対照として、糖化反応阻害剤であるアミノグアニジンの水溶液(濃度0.3~3mg/mL)を調製した。
【0084】
(糖化反応条件)
0.05mol/Lリン酸緩衝液(pH7.4)、8mg/mLヒト血清アルブミン(HSA)(Sigma-Aldrich社製)及び0.2mol/Lグルコースの組成の反応液中に調製した各濃度のサンプルを1/10濃度(反応終濃度)になるように添加し、60℃で40時間インキュベーションした。陰性対照としてサンプルの代わりに蒸留水を添加したものを用いた。陽性対照としてアミノグアニジンを用いた。なお、陽性対照に対するブランクとしてグルコースの代わりに蒸留水を添加したものを用いた。
【0085】
(抗糖化活性の測定)
糖化反応終了後、反応液に生成した蛍光性AGEsをマイクロプレートリーダー(SpectraMax i3、モレキュラーデバイス社)で測定した(励起波長370nm、蛍光波長440nm)。AGEsの生成阻害率(以下、単に「阻害率」ともいう)は、糖化反応においてサンプルを添加した反応液の蛍光強度をF
1とし、グルコース水溶液の代わりに蒸留水を添加してインキュベーションした反応液の蛍光強度をF
2とし、サンプルの代わりに甘蔗由来の抽出物又はアミノグアニジンを含まない溶液を添加してインキュベーションした反応液の蛍光強度をF
3とし、ブランクとして、グルコース水溶液の代わりに蒸留水を添加してインキュベーションした反応液の蛍光強度をF
4として、下記の式に従って算出した。生成阻害率の測定結果を
図3に示す。
蛍光性AGEs阻害率(%)=(1-(F
1-F
2)/(F
3-F
4))×100
【0086】
甘蔗由来の抽出物(SCE1)の各反応終濃度(0.01mg/mL、0.1mg/mL又は1mg/mL)における蛍光性AGEs(HSA)の阻害率を
図3(a)に示す。
図3(a)のとおり、SCE1は、濃度依存的に阻害率が増加し、抗糖化活性(蛍光性AGEs(HSA)生成抑制作用)を示した。陽性対照であるアミノグアニジンの各濃度(0.03mg/mL、0.1mg/mL又は0.3mg/mL)における蛍光性AGEs(HSA)の阻害率を
図3(b)に示す。
図3(b)のとおり、アミノグアニジンは濃度依存的に阻害率が増加し、抗糖化活性(蛍光性AGEs(HSA)生成抑制作用)を有することが確認された。各濃度におけるサンプルの阻害率から算出したIC
50(50%生成阻害濃度)を表2に示す。表2に示すとおり、ヒト血清アルブミンモデルにおいて、SCE1は、アミノグアニジンと比較して、優れた抗糖化活性を有していることが示された。
【0087】
【0088】
試験例2:コラーゲンモデルにおける抗糖化活性の評価
(サンプル調製)
サンプル調製は、試験例1と同様にして行った。
【0089】
(糖化反応条件)
0.05mol/Lリン酸緩衝液(pH7.4)、1.2mg/mLコラーゲンタイプIウシ真皮由来(COL)(株式会社ニッピ製)及び0.4mol/Lグルコースの組成の反応液中に調製した各濃度のサンプルを1/10濃度(反応終濃度)になるように添加し、60℃で240時間インキュベー卜した。陰性対照としてはサンプルの代わりに蒸留水を添加したものを用いた。陽性対照としてはアミノグアニジンを用いた。
【0090】
(抗糖化活性の測定)
蛍光性AGEsの測定及び生成阻害率の算出は試験例1と同様にして行った。生成阻害率の結果を
図4に示す。
【0091】
SCE1の各濃度(0.1mg/mL、0.3mg/mL又は1mg/mL)における蛍光性AGEs(COL)の阻害率を
図4(a)に示す。
図4(a)のとおり、SCE1は濃度依存的に阻害率が増加し、抗糖化活性(蛍光性AGEs(COL)生成抑制作用)を示した。陽性対照であるアミノグアニジンの各濃度(0.1mg/mL、0.3mg/mL又は1mg/mL)における蛍光性AGEs(COL)の阻害率を
図4(b)に示す。
図4(b)のとおり、アミノグアニジンは濃度依存的に阻害率が増加し、抗糖化活性(蛍光性AGEs(COL)生成抑制作用)を有することが確認された。また、各濃度におけるサンプルの阻害率から算出したIC
50(50%生成阻害濃度)を表3に示す。表3に示すとおり、コラーゲンモデルにおいて、SCE1は、アミノグアニジンと比較して、優れた抗糖化活性を有していることが示された。
【0092】
【0093】
試験例3:各種AGEsに対する抗糖化活性の評価
(サンプル調製)
サンプル調製は、試験例1と同様にして行った。
【0094】
(糖化反応条件)
0.05mol/Lリン酸緩衝液(pH7.4)、1.2mg/mLコラーゲンタイプIウシ真皮由来(COL)(株式会社ニッピ製)、0.4mol/Lグルコースの組成の反応液中にサンプル調製した各濃度のサンプルを1/10濃度(反応終濃度)になるように添加し、60℃で240時間インキュベー卜した。陰性対照としてはサンプルの代わりに蒸留水を添加したものを用いた。陽性対照として、ペントシジン以外はアミノグアニジンを用い、ペントシジンはアミノグアニジンによるAGEs生成阻害活性を示さないため、エピガロカテキン(糖化反応阻害剤)を用いた。
【0095】
(抗糖化活性の測定)
抗3DG、グリオキサール(GO)及びメチルグリオキサール(MGO)活性(COL)の測定は、以下の方法により測定した。すなわち、サンプル反応液中に生成した3DG、グリオキサール、メチルグリオキサールは、HPLC法により絶対検量線法にて定量した。抗3DG、グリオキサール、メチルグリオキサール活性はIC
50(50%生成阻害濃度)を算出し、有効数字3桁で表示した。抗3DG、グリオキサール(GO)、メチルグリオキサール(MGO)活性(COL)の測定結果は、それぞれ
図5、6及び7に示す。各濃度におけるサンプルの阻害率から算出したIC
50を表4に示す。
【0096】
抗CML活性(COL)の測定は、The Science and Engineering Review of Doshisha University 2011年,52巻, 3号, pp.61-67に記載の方法に準じて行った。サンプル反応液中に生成したCMLは、CircuLex CML/N
ε-(carboxymethyl)Iysine ELISAKIT(株式会社サイクレックス)によるELISA法で定量した。抗CML活性はIC
50(50%生成阻害濃度)を算出し、有効数字2桁で表示した。抗CML活性(COL)の測定結果は、
図8に示す。各濃度におけるサンプルの阻害率から算出したIC
50を表4に示す。
【0097】
抗ペントシジン活性(COL)の測定は、The Science and Engineering Review of Doshisha University 2011年,52巻, 3号, pp.61-67に記載の方法に準じて行った。すなわち、サンプル反応液中に生成したペントシジンは、FSKペントシジン(株式会社伏見製薬所)によるELISA法で定量した。抗CML活性はIC
50(50%生成阻害濃度)を算出し、有効数字2桁で表示した。抗ペントシジン活性(COL)の測定結果は、
図9に示す。各濃度におけるサンプルの阻害率から算出したIC
50を表4に示す。
【0098】
なお、上記の各種AGEs生成阻害試験において、陽性対照(アミノグアニジン又はエピガロカテキン)を用いた場合、いずれも濃度依存的な生成阻害率の増加が確認された(それぞれ
図5(b)、
図6(b)、
図7(b)、
図8(b)、
図9(b)参照)。
【0099】
3DG(COL)生成阻害試験結果
SCE1の各濃度(0.3mg/mL、1mg/mL又は3mg/mL)における3DG(COL)の阻害率を
図5(a)に示す。
図5(a)に示すとおり、SCE1は濃度依存的に阻害率が増加し、抗糖化活性(3DG(COL)生成抑制作用)を示した。
【0100】
GO(COL)生成阻害試験結果
SCE1の各濃度(3mg/mL又は10mg/mL)におけるGO(COL)の阻害率を
図6(a)に示す。SCE1は濃度依存的に阻害率が増加し、抗糖化活性(GO(COL)生成抑制作用)を示した。
【0101】
MGO(COL)生成阻害試験結果
SCE1の各濃度(0.3mg/mL、1mg/mL又は10mg/mL)におけるMGO(COL)の阻害率を
図7(a)に示す。SCE1は濃度依存的に阻害率が増加し、抗糖化活性(MGO(COL)生成抑制作用)を示した。
【0102】
CML(COL)生成阻害試験結果
SCE1の各濃度(0.03mg/mL、0.1mg/mL又は0.3mg/mL)におけるCML(COL)阻害率を
図8(a)に示す。SCE1は濃度依存的に阻害率が増加し、抗糖化活性(CML(COL)生成抑制作用)を示した。
【0103】
ペントシジン(COL)生成阻害試験結果
SCE1の各濃度(1mg/mL)におけるペントシジン(COL)の阻害率を
図9(a)に示す。SCE1は、抗糖化活性(ペントシジン(COL)生成抑制作用)を示した。
【0104】
表4の結果から、SCE1が各種AGEsの生成を抑制することが示された。
【0105】
【0106】
試験例4:エラスチンモデルにおける抗糖化活性の評価
(サンプル調製)
サンプルの調製は、試験例1と同様にして行った。
【0107】
(糖化反応条件)
0.01mol/Lリン酸緩衝液(pH7.4)、6mg/mL P-エラスチン豚由来(ELA)(日本ハム製)、0.2mol/Lグルコースの組成の反応液中にサンプル調製した各濃度のサンプルを1/10濃度(反応終濃度)になるように添加し、60℃で240時間インキュベートした。陰性対照としてはサンプルの代わりに蒸留水を添加したものを用いた。陽性対照としてはアミノグアニジンを用いた。
【0108】
(抗糖化活性の測定)
蛍光性AGEsの生成阻害率(%)は、試験例1と同様にして算出した。結果を
図10に示す。各サンプルの阻害濃度から算出したIC
50を表5に示す。
【0109】
甘蔗由来の抽出物(SCE1)の各濃度における蛍光性AGEs(ELA)阻害率を
図10(a)に示す。
図10(a)のとおり、SCE1は濃度依存的に阻害率が増加し、抗糖化活性(蛍光性AGEs(ELA)生成抑制作用)を示した。陽性対照であるアミノグアニジンの各濃度における蛍光性AGEs(ELA)阻害率を
図10(b)に示す。
図10(b)のとおり、アミノグアニジンは濃度依存的に阻害率が増加し、抗糖化活性(蛍光性AGEs(ELA)生成抑制作用)を有することが確認された。表5に示すとおり、エラスチンモデルにおいて、SCE1は、アミノグアニジンと比較して、優れた抗糖化活性を有していることが示された。
【0110】
【0111】
試験例5:AGEs架橋切断試験(AGEs分解活性の評価)
次に、AGEs架橋切断試験により、甘蔗由来抽出物(SCE1)のAGEs分解活性を評価した。AGEs分解活性(AGEs架橋切断作用)は、公知の方法(例えば、Glycative Stress Research 2015年,2巻(2号),pp.58-66)である、αジケトン構造を有する1-フェニルー1,2-プロパンジオン(l-phenyl-1,2-propanedione:PPD)をモデル基質とした反応系を使用した方法で評価した。
【0112】
(サンプル調製)
サンプル調製は、試験例1と同様にして行った。
【0113】
(架橋切断反応条件)
0.1mol/Lのリン酸緩衝液(pH7.4)、1mmol/mLのPPD、0.2mol/LのLグルコースの組成の反応液中に、上記で調製・適宜希釈した各濃度のサンプルを1/2濃度(反応終濃度)になるように添加し、37℃で8時間インキュベーションした。陰性対照としてはサンプルの代わりに蒸留水を添加したものを用いた。陽性対照としてPTB(N-phenacylthiazoliumbromide)を用いた。HPLC法にて安息香酸量を測定することによりPTBと比較した架橋構造の切断率(架橋切断率)を算出した。
【0114】
(架橋切断試験結果)
サンプルの各濃度及びPTB溶液(5mmol/L)における架橋切断率と、PTB(5mmol/L)を100%としたときの各濃度における架橋切断率の値(切断率相対値)を表6に示す。
図11にSCE1の各濃度における切断率相対値を示す。
【0115】
図11及び表6に記載のとおり、SCE1による架橋切断率は濃度依存的に増加し、SCE1がAGEsの分解活性を有していることが示された。
【0116】
【0117】
<SCE4の抗糖化活性評価(試験例6~7)>
試験例6:ヒト血清アルブミンモデルにおける抗糖化活性の評価
甘蔗由来の抽出物として上述のSCE4を用いたこと以外は、試験例1と同様にして、抗糖化活性を調べた。陽性対照としては、アミノグアニジンの水溶液(濃度0.3~3mg/mL)を用いた。測定結果を
図12に示す。また、各濃度におけるサンプルの阻害率から算出したIC
50(50%生成阻害濃度)を表7に示す。表7に記載のとおり、SCE4は、抗糖化活性を有していることが示された。
【0118】
【0119】
試験例7:AGEs架橋切断試験(AGEs分解活性の評価)
(サンプル調製)
試験用のサンプルは、測定試料(SCE1)0.255gを秤量後、全量を蒸留し2.55mLに溶解し、100mg/mL溶液を調製した。この溶液を蒸留水で段階希釈して、試験溶液とした。陽性対照としては、10mmol/LのPTB(N-phenacylthiazoliumbromide)溶液を用いた。
【0120】
(架橋切断反応条件)
試験溶液又はPTB溶液(10mmol/L)と、10mmol/LのPPD溶液と、0.2mol/Lリン酸緩衝液(pH7.4)と、を5:l:4の割合で混合し、37℃で8時間反応させた(n=3)。反応終了後、塩酸を加えて反応停止させた。その後、反応液は20℃で3,000×gで10分間遠心分離し、上清中の安息香酸量を逆相HPLCで分析した。反応液中の安息香酸量は、別途測定したサンプル中の安息香酸量を差し引いて求めた。1molのPPDは1molの安息香酸を生成することから、以下の式で架橋切断率を算出した。架橋切断の相対値(切断率相対値)はPTBの架橋切断率を100としたときの、各濃度の架橋切断率の値(%)である。結果を
図13及び表8に示した。なお、測定装置としては、島津超高速液体クロマトグラフNexeraシステム(株式会社島津製作所製)を用いた。
架橋切断率(%)={(A-B)/C}×100
A:反応液中の安息香酸量
B:サンプル中の安息香酸量
C:反応に供したPPD量(基質量)
【0121】
図13及び表8に記載のとおり、SCE4がAGEsの分解活性を有していることが示された。
【0122】
【0123】
<in vivo試験による抗糖化活性の評価(試験例8)>
(試験動物)
5週齢のラット(Slc:SD(SPF))雄性50匹(日本エスエルシー株式会社)を準備(入荷)した。入荷翌日に、下記試験方法に従い、個体識別番号の若い10匹を除く全例にSTZ処置を施した。検疫・馴化期間中は一般状態の観察を毎日行い、体重をパーソナル電子天秤(EW-12Ki、株式会社エー・アンド・デイ)を使用して、入荷1(入荷翌日)、3及び7日に測定した。
動物の個体識別番号は入荷日に施した耳パンチ法により行い、収容した各ケージには群分け前は、試験番号、性別及び個体識別番号(耳パンチ番号)を記入したカードをつけ、群分け後は、群及び動物番号を追記した。
【0124】
(飼育環境)
試験動物は、温度22±3℃、湿度50±20%、換気回数13~17回/時間、照明時間8:00~20:00(明12時間、暗12時間)の環境下で、ステンレス製可動ラック(1790W×470D×1650Hmm)に装着したステンレス製金網2連ケージの1区画(255W×185D×200Hmm)に個別に収容した。
【0125】
飼料は、ステンレス製固型飼料給餌器により固型飼料ラボMRストック(日本農産工業株式会社)を、試験期間を通じて自由に与えた。飲料水はポリサルフォン製給水器(先管ステンレス製)により水道水を試験期間を通じて自由に与えた。
【0126】
ラック、ケージ及び給餌器については、過度な汚れが認められなかったため試験期間中の交換はしなかった。給水器については2回以上/週の頻度で、いずれもオートクレーブで高圧蒸気滅菌したものと交換した。また、排泄物はケージ下に敷いた汚物受け皿に受け、3回以上/週の頻度で汚物受け皿を交換した。
【0127】
(試験方法)
STZ誘発糖尿病ラット作成
(1)クエン酸緩衝液の調製
クエン酸(Sigma-Aldrich製)及びクエン酸三ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)を所定量秤量し、0.01M(pH4.5)となるように蒸留水を用いてクエン酸緩衝液を調製した。
(2)STZ溶液の調製
ストレプトゾシン(STZ、Sigma-Aldrich製)を所定量秤量し、チューブに入れ投与直前まで氷冷した。投与直前に氷冷した0.01Mクエン酸緩衝液(pH4.5)を加え、溶解させた。なお、STZ溶液は用時調製とした。
(3)STZ溶液の投与
動物入荷翌日に個体識別番号の若い10匹を除くすべての動物にSTZ溶液を腹腔内投与した(投与量:60mg/kg、液量:10mL/kg)。
(4)動物の選択及び群分け
検疫を兼ねた馴化期間終了後(STZ処置1週間後)に体重測定を実施した。体重測定終了後、保定器にて動物を拘束した後、メス刃を用いて尾静脈を切皮し、得られた全血より簡易血統測定器(自己検査用グルコース測定器、ライフチェック)を用いて血糖値を測定した。各群の試験動物を、得られた血糖値を指標として層別連続無作為化法により、群分けした。
【0128】
投与物質の投与には、表9に示す所定の投与量及び投与液量となるように、投与物質を媒体(大塚蒸留水)に溶解して得たものを用いた。なお、媒体は、日本薬局方 注射用水(大塚蒸留水、株式会社大塚製薬工場製)である。また、使用した動物数(各群の動物数)は、いずれも8匹であった。
【0129】
【0130】
投与開始日を0日とし解剖日(84日目)までの毎日1日1回、経口ゾンデ(ディスポーザブル経口ゾンデ、有限会社フチガミ器械)と、注射筒(ディスポーザブルシリンジ、テルモ株式会社)を用いて強制経口投与した。
【0131】
(血糖値測定)
投与開始前、4、8、12週間目に、保定器にて動物を拘束した後、メス刃を用いて尾静脈を切皮し、得られた全血より簡易血統測定器を用いて血糖値を測定した。得られた数値(血糖値)は、各群で平均値及び標準誤差を算出した。
【0132】
血糖値の推移の結果を
図14に示す。無処置(STZ非誘発)では、試験期間を通じてほぼ一定に推移した。対照(媒体)では、無処置と比較して、投与前より統計学的有意差が確認された。また、対照(媒体)、陽性対象物質及び被験物質-1の各群間比較において、統計学的有意差は確認されなかった。
【0133】
なお、血糖値における統計処理は、以下の方法により行った。すなわち、A群とB群において、F検定により等分散性の検定を行い、等分散の場合はStudentのt検定、不等分散の場合はAspin-Welchのt検定により比較を行った。また、B群からD群の各群間において、Bartlett検定により等分散性の検定を行い、等分散の場合にはTukey法により平均値の比較を、不等分散の場合にはSteel-Dwass法により平均順位の比較を行った。F検定及びBartlett検定は有意水準を危険率5%、Studentのt検定、Aspin-Welchのt検定、Tukey法及びSteel-Dwass法は有意水準を危険率5%及び1%とした。統計学的解析は、SAS9.3(SASInstitute Inc.)、Microsoft Excel 2003(Microsoft Corp.)及びOS(Windows 7、Windows XP)を用いて実施した。
【0134】
(GO及びCMLの測定)
GO及びCMLの測定には、それぞれ上述のA~D群のラットの8週後及び12週後の凍結血漿の検体を試験材料とした(A群及びC~D群は8検体、B群は、GO測定において7検体、CML測定において6検体)。血漿は、血糖値測定の際に、採血を行い、得られた血液より血漿150μLを分取したものを用いた。なお、血漿を得るために使用したヘマトクリット毛細管(HIRSCHMANNεLABORGERATE)は、ヘパリン処理済みのものを使用した。
【0135】
GOは、以下の方法により測定した。すなわち、凍結保存ラット血漿を融解し、徐タンパクを行い、2,3-diaminonaphthalene(DAN)を加え、アミノナフタレン誘導体化し、逆相HPLCにて測定した。検量線範囲は2~2500ng/mLとした。得られた数値は、各群で平均値及び標準誤差を算出した。GO測定の結果を
図15に示す。
【0136】
図15に示すとおり、GOは、A群(無処置群)に比べてB群(STZ誘発群)が高値を示し、有意差が認められた(p<0.01)。また、B~D群の比較ではD群(SCE1群)がB群に比べ低値を示し、B群との比較で統計学的有意差が認められた(p<0.05)。
【0137】
CMLは、以下の方法により測定した。すなわち、凍結保存ラット血漿を融解し、セルバイオラボ社製のOxiSelect N-epsilon-(Carboxymethyl)Lysine(CML) Competitive ELISA Kitを用いて測定した。得られた数値は、各群で平均値及び標準誤差を算出した。CML測定の結果を
図16に示す。
【0138】
図16に示すとおり、CMLはA群(無処置群)に比べてB群(STZ誘発群)が高値を示した。B~D群の比較ではD群(SCE1群)が最も低い値を示した。
【0139】
なお、統計処理は、以下の方法により行った。すなわち、A群とB群において、Levene検定により等分散性の検定を行い、t検定により比較を行った。また、B群からD群の各群間において、一元配置分析を行い、等分散の場合にはTukey法により平均値の比較を、不等分散の場合にはKruskal-Wallis検定により平均順位の比較を行った。Levene検定及びKruskal-Wallis検定は有意水準を危険率5%、t検定及びTukey法は有意水準を危険率5%及び1%とした。統計学的解析は、SPSSStastistics24(IBM)、Microsoft Excel 2013(Microsoft Corp.)及びOS(Windows 7)を用いて実施した。
【0140】
以上の結果から、STZ誘発糖尿病モデルにおいても、甘蔗由来の抽出物(SCE1)が優れた抗糖化活性を有することが示された。