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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20220530BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20220530BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20220530BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20220530BHJP
   C09D 5/28 20060101ALI20220530BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/02
C09D7/40
C09D5/16
C09D5/28
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017128110
(22)【出願日】2017-06-29
(65)【公開番号】P2019011417
(43)【公開日】2019-01-24
【審査請求日】2020-05-15
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515096952
【氏名又は名称】日本ペイント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】松島 美咲
(72)【発明者】
【氏名】川上 晋也
(72)【発明者】
【氏名】岡 賢治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘一
(72)【発明者】
【氏名】高見 浩輔
(72)【発明者】
【氏名】藤井 寛之
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 哲弥
【審査官】岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-334311(JP,A)
【文献】特開平10-259325(JP,A)
【文献】特開平07-316342(JP,A)
【文献】特開2004-315727(JP,A)
【文献】特開2016-093786(JP,A)
【文献】特開2000-095979(JP,A)
【文献】特開2009-221362(JP,A)
【文献】特開2004-083832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D201
C09D5
C09D7
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂エマルション組成物(a)と、光触媒型酸化チタン(b)と、顔料(c)と、を含む塗料組成物であって、
前記光触媒型酸化チタン(b)は、金属担持アナターゼ型酸化チタン(b-1)及び金属担持ルチル型酸化チタン(b-2)であり、
前記塗料組成物の全固形分100質量部に対する光触媒型酸化チタン(b)の含有量は、0.03~2.78質量部であり、かつ、金属担持ルチル型酸化チタン(b-2)の含有量は、0.01~2.76質量部であり、
前記光触媒型酸化チタン(b)及び前記顔料(c)の合計顔料体積濃度(PVC)は、11~74であり、
前記顔料(c)は着色顔料(c-1)と、体質顔料(c-2)と、平均粒子径が0.1~100μmの艶消し材(c-3)を含み、
前記体質顔料(c-2)は、炭酸カルシウムであり、
前記艶消し材(c-3)は、シリカ、珪藻土、及びゼオライトからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記塗料組成物の全固形分100質量部に対する艶消し材(c-3)の含有量は、2.1~6.0質量部である、塗料組成物。
【請求項2】
前記合計顔料体積濃度(PVC)は、33~74である請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記塗料組成物の全固形分100質量部に対する光触媒型酸化チタン(b)の含有量は、0.1~1質量部である請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒型酸化チタンを含む塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光触媒型酸化チタンを含む塗料を用いて形成される塗膜は、当該酸化チタンが紫外光などの光照射を受けて強い酸化還元作用を発現するため、抗菌性、抗ウイルス性等に優れることが知られている。光触媒は太陽光が照射される屋外において、高い活性を示すことが知られているが、近年、屋外以外でも高い活性を示す光触媒を用いた塗料が開発されている。
【0003】
例えば、屋外だけでなく、独自の光源を持たない暗所にも適用可能な塗料として、銀および銅並びに水酸化第四アンモニウムを含有する紫外光応答型の塗料が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、2価銅化合物と、酸化チタンとを含有する可視光応答型の塗料が提案されている(例えば特許文献2)。特許文献2に記載の技術を用いることにより、屋内でも光触媒の機能が発揮される塗膜を形成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-260684号公報
【文献】特開2016-093786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の技術を用いても、光触媒の機能が十分に発揮されない場合がある。塗料には意匠性の観点から、有機系の調色顔料が使用される場合あるが、この有機顔料は塗膜中に含まれる光触媒と反応すること等により塗膜が変色するという問題が生じる。
【0007】
本発明は、屋内でも光触媒の機能が十分に発揮され、変色が少ない塗膜を形成可能な塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、樹脂エマルション組成物(a)と、光触媒型酸化チタン(b)と、顔料(c)と、を含む塗料組成物であって、前記光触媒型酸化チタン(b)は、金属担持アナターゼ型酸化チタン(b-1)及び金属担持ルチル型酸化チタン(b-2)であり、前記塗料組成物の全固形分100質量部に対する光触媒型酸化チタン(b)の含有量は、0.03~2.78質量部であり、かつ、金属担持ルチル型酸化チタン(b-2)の含有量は、0.01~2.76質量部であり、前記光触媒型酸化チタン(b)及び前記顔料(c)の合計顔料体積濃度(PVC)は、11~74である、塗料組成物に関する。
【0009】
また、前記合計顔料体積濃度(PVC)は、33~74であることが好ましい。
【0010】
また、前記塗料組成物の全固形分100質量部に対する光触媒型酸化チタン(b)の含有量は、0.1~1質量部であることが好ましい。
【0011】
また、前記顔料(c)は、着色顔料(c-1)と、体質顔料(c-2)と、平均粒子径が0.1~100μmの艶消し材(c-3)を含み、前記塗料組成物の全固形分100質量部に対する、艶消し材(c-3)は、1~15質量部であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、屋内でも光触媒の機能が十分に発揮され、変色が少ない塗膜を形成可能な塗料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0014】
<塗料組成物>
本実施形態に係る塗料組成物は、塗装体を塗装するのに用いられる。塗料組成物は、例えば、建築物の内装面を塗装するのに用いられることが好ましい。塗装体に塗装された塗料組成物は、太陽光等の紫外光を含む強い光だけではなく、可視光条件下でも効果を発現することができる塗膜を形成する。
内装面としては、例えば、モルタル、コンクリート、石膏ボード、サイディングボード、押出成形板、スレート板、石綿セメント板、繊維混入セメント板、ケイ酸カルシウム板、ALC板、金属、木材、ガラス、陶磁器、焼成タイル、磁器タイル、プラスチック板、壁紙、合成樹脂等の基材、クロス、壁紙、あるいはこれらの基材上に形成された塗膜等が挙げられる。なお、塗料組成物は、建築物の内装面だけでなく、建築物の外装面や建築物以外の構造物にも適用することが可能である。
【0015】
本実施形態に係る塗料組成物は、樹脂エマルション組成物(a)と、光触媒型酸化チタン(b)と、顔料(c)と、を含む。また、塗料組成物は、その他の成分(d)を含むことが好ましい。
【0016】
[樹脂エマルション組成物(a)]
本実施形態に係る樹脂エマルション組成物(a)は、塗料組成物の結合剤として働く成分である。樹脂エマルション組成物(a)としては、例えば、酢酸ビニル樹脂エマルション、塩化ビニル樹脂エマルション、エポキシ樹脂エマルション、アクリル樹脂エマルション、ウレタン樹脂エマルション、アクリルシリコン樹脂エマルション、フッ素樹脂エマルション、あるいはこれらの複合系等の樹脂成分からなる合成樹脂エマルションが挙げられる。樹脂エマルション組成物(a)は、アクリル樹脂エマルションであることが好ましい。
【0017】
本実施形態に係るアクリル樹脂エマルションは、(メタ)アクリル酸エステル系のモノマーを、水を媒体とする乳化重合法等の公知の重合方法によって得ることができる。また、樹脂エマルション組成物(a)の形態は特に限定されず、1液型、2液型の何れであってもよい。
【0018】
本実施形態に係る(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸-n-プロピル、(メタ)アクリル酸-i-ブチル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸-t-ブチル、(メタ)アクリル酸-sec-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸-n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸n一アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸オキチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ドデセニル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸-4-tert-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸-2-フェニルエチル、(メタ)アクリル酸-2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸-4-メトキシブチル等が挙げられる。
なお、これらのモノマーには、適宣、ヒドロキシル基、カルボニル基、エポキシ基、アミド基、アミノ基、メチロール基、イソシアネート基等の反応基を付与したものも、用いることができる。
【0019】
樹脂エマルション組成物(a)のガラス転移温度(Tg)は、塗膜物性の観点から、-50~50℃であることが好ましい。エマルション樹脂のガラス転移温度(Tg)が-50~50℃の範囲であれば、建築物の内装面等を塗装する際の室温環境下において、良好な塗膜形成を行うことができる。
【0020】
樹脂エマルション組成物(a)の酸価は、5~25が好ましく、10~20がより好ましい。5未満では樹脂エマルションの安定性が不十分である恐れがあり、また25を超えると、塗膜物性が悪くなる恐れがあるためである。
【0021】
樹脂エマルション組成物(a)のpHについて、安定性の観点から、必要に応じて塩基で中和することによりpHが5~10の範囲内で用いられることが好ましい。中和は、アンモニア、ジメチルエタノールアミン等のアミン類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を添加することにより行われる。
【0022】
樹脂エマルション組成物(a)を含む塗料固形分は1~90質量%であることが好ましい。塗料固形分がこの範囲内であることにより、塗装後の乾燥工程における塗膜収縮に伴う、塗膜の欠損を防ぐことができる。より好ましい塗料固形分は、10~70質量%である。
【0023】
樹脂エマルション組成物(a)の粘度は50~10,000mPa・sであることが好ましく、より好ましくは、同条件下における粘度が300~8,000mPa・sである。なお、上記粘度は、例えば、E型粘度計を用いて測定される。
【0024】
[光触媒型酸化チタン(b)]
本実施形態に係る光触媒型酸化チタン(b)は、金属担持アナターゼ型酸化チタン(b-1)及び金属担持ルチル型酸化チタン(b-2)である。なお、本明細書において、結晶構造がアナターゼ型の酸化チタンをアナターゼ型酸化チタンといい、結晶構造がルチル型の酸化チタンをルチル型酸化チタンという。金属担持アナターゼ型酸化チタン(b-1)に含まれる金属成分の存在形態としては、アナターゼ型酸化チタンに接触している状態であることを前提とし、金属成分の一部が単独で分散して存在している状態が挙げられる。また、金属担持ルチル型酸化チタン(b-2)に含まれる金属成分の存在形態としては、ルチル型酸化チタンに金属成分が接触している状態が挙げられる。光触媒型酸化チタン(b)の結晶構造は、例えば、粉末X線回折により同定することができる。
【0025】
本実施形態に係る金属担持アナターゼ型酸化チタン(b-1)は、光触媒活性を呈するためには、光波長400nm未満の紫外線が必要であり、一方、本実施形態に係る金属担持ルチル型酸化チタン(b-2)は、光波長が400nm以上の可視光でも、光触媒活性を示す。なお、光触媒活性を示す光波長に関しては、酸化チタンの結晶構造だけでなく、担持する金属によっても変化する。
【0026】
本実施形態に係る金属担持アナターゼ型酸化チタン(b-1)は、抗菌性能や抗ウイルス性能を補助するために、金属や金属化合物を担持させたものであり、例えば、銀の化合物としてAgOや銅の化合物として、Cu(OH)、CuOやCuOのいずれか1つを担持してもよく、2つ以上を担持してもよい。
【0027】
本実施形態に係る金属担持ルチル型酸化チタン(b-2)は、少なくとも1種の2価銅化合物を担持することが好ましい。
【0028】
ルチル型酸化チタンは、バンドギャップが、3.0eVであり、光波長に換算すると413nmの可視光で光励起が起り、光触媒活性を呈する。
【0029】
このルチル型酸化チタンに、2価銅化合物を担持することにより、ルチル型酸化チタンに可視光を照射した場合の界面電荷移動を補助し、光触媒活性を高める効果がある。また、2価銅化合物は、無水物であっても水和物であってもよい。
【0030】
金属担持ルチル型酸化チタンに担持される銅化合物は、少なくとも1種の2価銅化合物である。これらの2価銅化合物は、1種を単独で、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
金属担持ルチル型酸化チタン(b-2)が担持する銅化合物は、水に対して不溶性ないしは難溶性の銅化合物であり、溶解度積が1.5×10-10(出典:化学実験ハンドブック編集委員会「第四版化学実験ハンドブック」技報堂出版、1984年)よりも小さい銅化合物であれば1種単独で、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
[顔料(c)]
本実施形態に係る顔料(c)は、着色顔料(c-1)と、体質顔料(c-2)と、艶消し材(c-3)と、を含むことが好ましい。
本実施形態に係る着色顔料(c-1)は、塗膜の色味となる顔料である。なお、本明細書において、色味には白色が含まれる。つまり、白色の顔料も着色顔料(c-1)に含まれる。
【0033】
着色顔料(c-1)としては、有機系又は無機系の顔料が単独で又は併用して用いられる。有機系の顔料としては、例えば、アゾレーキ系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、フタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料等が挙げられる。無機系の顔料としては、例えば、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタン等が挙げられる。これらの顔料が単独で用いられてもよく、2つ以上が用いられてもよい。
【0034】
本実施形態に係る体質顔料(c-2)は、塗料を増量する顔料である。体質顔料(c-2)としては、例えば、バリタ粉、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、石膏、クレー、ホワイトカーボン、珪藻土、炭酸マグネシウム、アルミナホワイト、グロスホワイト、タンカル等が挙げられる。
【0035】
本実施形態に係る艶消し材(c-3)は、塗膜の表面積に寄与する成分である。塗膜の表面積が増加する程、塗膜は光を吸収しやすくなるため、光触媒型酸化チタン(b)の効果が発現しやすくなる。ここで、艶消し材(c-3)の平均粒子径は、0.1~100μmであることが好ましく、1~50μmであることがより好ましい。平均粒子径が0.1μm未満である場合には、塗膜の表面積が十分に増加しない。平均粒子径が100μm以上である場合には、塗膜(塗装体)の美観が損なわれる。
【0036】
平均粒子径が上記範囲の艶消し材であれば特に限定されないが、具体的な艶消し材(c-3)としては、例えば、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、長石、ワラストナイト、珪藻土、ゼオライト等の無機系艶消し材や、有機微粒子からなる有機系の艶消し材等が挙げられる。これらの艶消し材が単独で用いられてもよく、2つ以上が用いられてもよい。
【0037】
また、着色顔料(c-1)と、体質顔料(c-2)と、艶消し材(c-3)とはそれぞれ異なる顔料が用いられてもよく、共通の顔料が用いられてもよい。
【0038】
[その他の成分(d)]
本実施形態に係る塗料組成物は、必要に応じて、その他の成分(d)を含んでいてもよい。その他の成分(d)としては、骨材、繊維、可塑剤、防腐剤、防黴剤、消泡剤、粘性調整剤、レベリング剤、顔料分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、抗菌剤、吸着剤等が挙げられる。これらの成分を、単独で、又は併用して本実施形態に係る塗料組成物に配合することができる。
【0039】
<各成分の比率>
塗料組成物中に含まれる樹脂エマルション組成物(a)、光触媒型酸化チタン(b)及び顔料(c)の各比率が適切な範囲となることにより、屋内でも光触媒の機能が十分に発揮され、変色が少ない塗膜を得ることができる。
【0040】
本実施形態においては、塗料組成物の全固形分100質量部に対する光触媒型酸化チタン(b)の含有量は、0.03質量部以上であり、且つ、金属担持ルチル型酸化チタン(b-2)の含有量は、0.01質量部以上である。光触媒型酸化チタン(b)の含有量が0.03質量部未満の場合には、光触媒の機能が十分に発揮されない。また、金属担持ルチル型酸化チタン(b-2)の含有量が0.01未満の場合には、可視光に対する光触媒の機能が十分に発揮されない。
また、本実施形態においては、塗料組成物の全固形分100質量部に対する光触媒型酸化チタン(b)の含有量は、2.78質量部以下であり、且つ、金属担持ルチル型酸化チタン(b-2)の含有量は、2.76質量部以下である。光触媒型酸化チタン(b)の含有量が2.78質量部を超える場合、又は、金属担持ルチル型酸化チタン(b-2)の含有量が2.76質量部を超える場合には、光触媒が担持した金属により、塗膜が黒く変色する。また、着色顔料(c-1)が有彩色又は黒色である場合には、光触媒が着色顔料(c-1)と反応することにより、塗膜が退色する。
更に、塗料組成物の全固形分100質量部に対する光触媒型酸化チタン(b)の含有量は、0.1~1質量部であることが好ましい。
【0041】
また、顔料(c)に艶消し材(c-3)が含まれる場合、塗料組成物の全固形分100質量部に対する艶消し材(c-3)は、1~15質量部であることが好ましい。更に、艶消し材(c-3)は、2~13質量部であることが好ましく、2~6質量部であることが特に好ましい。艶消し材(c-3)が1質量部未満の場合には、塗膜の表面積が十分に増加しない。艶消し材(c-3)が15質量部を超える場合には、塗料の粘度が増加し、塗膜を形成しにくい。
【0042】
また、本実施形態においては、光触媒型酸化チタン(b)及び顔料(c)の合計顔料体積濃度(PVC、以下単に「顔料体積濃度(PVC)」ともいう)は、11~74である。また、顔料体積濃度(PVC)は、14以上であることが好ましく、33以上であることがより好ましい。また、顔料体積濃度(PVC)は、69以下であることが好ましい。顔料体積濃度(PVC)が11未満の場合には、塗膜の厚み、色味が十分で、光触媒の機能が十分に発揮される塗膜を形成することが難しい。顔料体積濃度(PVC)が74を超える場合には、相対的に樹脂エマルション組成物(a)の量が少なくなるため、塗膜形成が不十分であり、また塗膜中の光触媒型酸化チタン(b)の保持性が不十分になる。
【0043】
なお、顔料体積濃度(PVC)は、光触媒型酸化チタン(b)及び顔料(c)の比重と配合質量により求めた光触媒型酸化チタン(b)及び顔料(c)の体積(P)と、樹脂エマルション組成物(a)に含まれる樹脂の比重と配合質量により求めた樹脂の体積(R)から、式P/(P+R)×100より算出した値である。
【0044】
<塗料組成物の製造方法>
塗料組成物の製造方法としては、当業者において通常用いられる方法を適用することができる。例えば、樹脂エマルション組成物(a)、光触媒型酸化チタン(b)、顔料(c)及び必要に応じてその他の成分(d)を、それぞれ、ディスパー、ボールミル、S.G.ミル、ロールミル、プラネタリーミキサー等で混合する。所定量の樹脂エマルション組成物(a)、光触媒型酸化チタン(b)、顔料(c)及び必要に応じてその他の成分(d)を混合することで、塗料組成物を調製できる。
【0045】
<塗膜の形成方法>
本実施形態に係る塗料組成物により塗膜を形成する方法としては、例えば、浸漬、刷毛、ローラー、ロールコーター、エアースプレー、エアレススプレー、カーテンフローコーター、ローラーカーテンコーター、ダイコーター等の一般に用いられている塗装方法が挙げられる。これらの塗装方法は、塗装対象や用途に応じて適宜に選択される。
【0046】
以上説明したように、本実施形態における塗料組成物は樹脂エマルション組成物(a)と、光触媒型酸化チタン(b)と、顔料(c)と、を含む塗料組成物であって、光触媒型酸化チタン(b)は、金属担持アナターゼ型酸化チタン(b-1)及び金属担持ルチル型酸化チタン(b-2)であり、塗料組成物の全固形分100質量部に対する光触媒型酸化チタン(b)の含有量は、0.03~2.78質量部であり、かつ、金属担持ルチル型酸化チタン(b-2)の含有量は、0.01~2.76質量部であり、光触媒型酸化チタン(b)及び顔料(c)の合計顔料体積濃度(PVC)は、11~74である。これにより、屋内でも光触媒の機能が十分に発揮され、変色が少ない塗膜を得ることができる。
【0047】
また、顔料体積濃度(PVC)は、33~74であることが好ましい。これにより、光触媒の機能がより発揮され、塗膜の厚み、色味が十分な塗膜を形成できる。
【0048】
また、塗料組成物の全固形分100質量部に対する光触媒型酸化チタン(b)の含有量は、0.1~1質量部であることが好ましい。これにより、より変色が少ない塗膜を得ることができる。
【0049】
また、顔料(c)は、着色顔料(c-1)と、体質顔料(c-2)と、平均粒子径が0.1~100μmの艶消し材(c-3)を含み、塗料組成物の全固形分100質量部に対する、艶消し材(c-3)は、1~15質量部であることが好ましい。そのため、塗膜の外観に影響がない範囲で塗膜の表面積を大きくできる。これにより、屋内でも光触媒の機能がより発揮される。
【0050】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【実施例
【0051】
次に、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、単位は質量基準である。
【0052】
[樹脂エマルション組成物(a)]
参考例1~7、16~18、20、22、26、27、実施例19、21、23~25、比較例1~6の樹脂エマルション組成物(a)として、従来公知の重合反応を利用して、pH:8.5、酸価AV:15、塗料固形分(NV):50質量%、粘度:2000mPa・sのアクリル樹脂エマルションを得た。
また、参考例8~11の樹脂エマルション組成物(a)として、ユーコートUX-485(三洋化成工業株式会社製)を用いた。
また、参考例12~15の樹脂エマルション組成物(a)として、VINYBLAN A68J1(日信化学工業株式会社製)を用いた。
【0053】
[光触媒型酸化チタン(b)]
各実施例、参考例、比較例の金属担持アナターゼ型酸化チタン(b-1)、 金属担持ルチル型酸化チタン(b-2)として、以下のものを用いた。
・金属担持アナターゼ型酸化チタン:酸化銀、酸化銅を担持したアナターゼ型酸化チタン
・金属担持ルチル型酸化チタン:溶解度積が1.5×10-10よりも小さい2価銅化合物を担持した酸化チタン
【0054】
[顔料(c)]
各実施例、参考例、比較例の顔料として、以下の市販品を用いた。
・酸化チタン:タイペークCR-97 (石原産業株式会社製)
・炭酸カルシウム:スペシャルライス SSS (丸尾カルシウム株式会社製)
【0055】
実施例19、21、23~25、参考例20、22、26、27の顔料(c-3)として、以下の市販品を用いた。
・珪藻土:ラヂオライト#100 (株式会社丸東社製)
・シリカ:ニップシールE-200A(東ソー・シリカ株式会社製)
・ゼオライト:X型ゼオライト(F-9)(東ソー株式会社製)
【0056】
上記樹脂エマルション組成物(a)、光触媒型酸化チタン(b)、顔料(c)を表1~表3に示す割合で混合、調整することにより、各評価試験用の各実施例、参考例、比較例の塗料組成物を得た。なお、耐候性Xe退色評価試験用の各実施例、参考例、比較例の塗料組成物は、表1~表3に記載された顔料(c)に、更に1質量部のAF レッドE-17(大日精化工業株式会社)を添加し、混合調整された。
【0057】
[試験板]
予め洗浄したソーダガラス板(50mm×50mm×2mmT)の表面に、各実施例、参考例、比較例の塗料組成物を、塗着量が200g/mとなるように、エアースプレーで塗装した。塗装後、23℃(室温)で7日間養生したガラス板を抗菌性評価、抗ウイルス性評価用の試験板とした。
【0058】
70mm×70mm×20mmのモルタル(水:セメント:砂=0.6:1:2)の表面に、各実施例、参考例、比較例の塗料組成物を、塗着量が200g/mとなるように、コテにて塗装した。塗装後、23℃(室温)で7日間養生したモルタルを耐候性Xe変色評価、耐候性Xe退色評価の試験板とした。
そして、各実施例、参考例、比較例の試験板に対し、以下の評価を行った。なお、比較例6においては、塗膜を形成できなかったことから、以下の評価を行わなかった。
【0059】
(抗菌性評価)
「JIS R1752」に準拠して、黄色ブドウ球菌を用いて抗菌試験を実施した。20Wの白色蛍光灯(東芝ライテック株式会社製、「ネオライン」FL20S・W)を光源として用い、紫外線カットフィルター(日東樹脂工業株式会社製、N-169)を通して、380nm以上の可視光を、照度500ルクスで照射した。なお、照度は照度計:株式会社トプコン製、IM-5を用いて測定した。
【0060】
抗菌活性値:R=Log10(UB/TB)
TB:光照射後の試験板あたりの生菌数(cfu)
UB:光照射後のコントロールあたりの生菌数(cfu)
なお、コントロールは抗菌加工が成されていないソーダガラス板とした。
【0061】
測定された抗菌活性値(R)を以下の評価基準で評価した。結果を表1~表3に示した。
(評価)
5: 4≦R
4: 3≦R<4
3: 2≦R<3
2: 1≦R<2
1: R<1
【0062】
(抗ウイルス性評価)
「JIS R 1756(2013)」に従って、バクテリオファージQβを用いて、抗ウイルス試験を実施した。20Wの白色蛍光灯(東芝ライテック株式会社製、「ネオライン」FL20S・W)を光源として用い、紫外線カットフィルター(日東樹脂工業株式会社製、N-169)を通して、380nm以上の可視光を、照度500ルクスで照射した。なお、照度は照度計:株式会社トプコン製、IM-5を用いて測定した。可視光の照射時間を4時間として、明所の抗ウイルス活性値Vを下式により算出した。
【0063】
明所の抗ウイルス活性値:V=Log10(UV/TV)
TV:光照射後の試験板あたりのバクテリオファージ感染価(pfu)
UV:光照射後のコントロールあたりのバクテリオファージ感染価(pfu)
なお、コントロールは抗ウイルス加工が成されていないソーダガラス板とした。
【0064】
なお、抗菌性あるいは抗ウイルス性を評価する前に、塗装体の表面及び裏面をそれぞれ、クリンベンチ内にて殺菌灯を照射して、滅菌処理した。殺菌灯は15Wの殺菌灯(波長254nm)がクリンベンチの側面に各1本、計2本設置され、塗装体から光源までの距離を30cm~60cmとした。殺菌灯の照射時間は15分とした。
【0065】
測定された明所の抗ウイルス活性値(V)を以下の評価基準で評価した。結果を表1~表3に示した。
(評価基準)
5: V≧5
4: 4>V≧3
3: 3>V≧2
2: 2>V≧1
1: 1>V
【0066】
(耐候性Xe変色評価)
「JIS K 5600-7-7」に記載のキセノンランプ法に従って、スーパーキセノンウェザーメーターSX2-75(スガ試験機社製)で促進耐候性試験を実施した。試験時間は250時間とし、試験時間経過後の塗膜外観をL*a*b*表色系にて数値化した。色差計は、色彩色差計(コニカミノルタ社製、CR―400)を用いた。
【0067】
測定された明度の差(ΔL*)を以下の評価基準で評価した。結果を表1~表3に示した。
(評価基準)
5: 1>ΔL*
4: 2>ΔL*≧1
3: 3>ΔL*≧2
2: 5>ΔL*≧3
1: ΔL*≧5
【0068】
(耐候性Xe退色評価)
「JIS K 5600-7-7」に記載のキセノンランプ法に従って、スーパーキセノンウェザーメーターSX2-75(スガ試験機社製)で促進耐候性試験を実施した。試験時間は250時間とし、試験時間経過後の塗膜外観をL*a*b*表色系にて数値化した。色差計は、色彩色差計(コニカミノルタ社製、CR―400)を用いた。
【0069】
(耐候性Xe退色評価)
L*値、a*値、b*値を測色し、試験前の基準板との明度の差(ΔE)以下の評価基準で評価した。結果を表1~表3に示した。
(評価基準)
5: 2>ΔE
4: 4>ΔE≧2
3: 6>ΔE≧4
2: 8>ΔE≧6
1: ΔE≧8
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
表1~3に示したように、実施例19、21、23~25と、比較例1、2とを比較することで、塗料組成物の全固形分100質量部に対する光触媒型酸化チタン(b)の含有量が2.78質量部未満であり、かつ、金属担持ルチル型酸化チタン(b-2)の含有量が2.76質量部未満であることにより、実施例19、21、23~25の塗料組成物は、変色が少ない塗膜を形成できることが確認された。
【0074】
また、表1~3に示したように、実施例19、21、23~25と、比較例3、5とを比較することで、塗料組成物の全固形分100質量部に対する光触媒型酸化チタン(b)の含有量が0.03質量部以上であり、かつ、金属担持ルチル型酸化チタン(b-2)の含有量が0.01質量部以上であることにより、実施例19、21、23~25の塗料組成物は、屋内でも光触媒の機能が十分に発揮される塗膜を形成できることが確認された。
【0075】
また、表1~3に示したように、実施例19、21、23~25と、比較例4、6とを比較することで、光触媒型酸化チタン(b)及び顔料(c)の合計顔料体積濃度(PVC)が11~74であることにより、実施例19、21、23~25の塗料組成物は、屋内でも光触媒の機能が十分に発揮される塗膜を形成できることが確認された。
【0076】
また、表1~2に示したように、参考例1~18と、実施例19、21、23~25とを比較することで、塗料組成物の全固形分100質量部に対して艶消し材(c-3)を、1~15質量部含むことで、光触媒の機能がより発揮されることが確認された。特に、参考例3、20、22、26、27と、実施例19、21、23~25とを比較することで、艶消し材(c-3)を、2.1~6.0質量部含むことで、光触媒の機能(抗菌性、抗ウイルス性)がより発揮されることが確認された。
【0077】
また、表1に示したように、参考例2~4と、参考例5とを比較することで、光触媒型酸化チタン(b)及び前記顔料(c)の合計顔料体積濃度(PVC)が33以上であることにより、光触媒の機能(抗菌性、抗ウイルス性)がより発揮されることが確認された。