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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】柱部材及び柱脚構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/24 20060101AFI20220530BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20220530BHJP
【FI】
E04B1/24 R
E04B1/58 511H
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018004257
(22)【出願日】2018-01-15
(65)【公開番号】P2019124024
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2021-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】316001674
【氏名又は名称】センクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】青木 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 大致
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 倫夫
(72)【発明者】
【氏名】大庭 秀治
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-180798(JP,A)
【文献】特開2003-232078(JP,A)
【文献】特開2014-070350(JP,A)
【文献】特開2003-343119(JP,A)
【文献】特開2000-008495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/18
E04B 1/24
E04B 1/38-1/61
E04B 1/98
E04H 12/22
E02D 27/00
F16B 35/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱と、前記柱の一端に接合された略矩形のベースプレートと、を具備する柱部材であって、
前記ベースプレートは、
前記ベースプレートの四隅近傍に設けられるアンカーボルト孔と、
前記アンカーボルト孔の部位を含み、少なくとも、前記ベースプレートの四隅近傍の裏面側に設けられる切欠きによって形成される薄肉部と、
を具備し、
前記薄肉部は、前記柱の基部には形成されず、前記ベースプレートの四隅に略L字状に形成され、
前記アンカーボルト孔の重心位置を通り、前記ベースプレートの対角線に直交する直線を基準線とし、前記基準線に平行な前記柱の基部の降伏耐力よりも、前記基準線に平行であって前記薄肉部のみを通る直線の内、最も前記柱に近い部位の降伏耐力が小さく、
それぞれの前記薄肉部は、当該薄肉部の前記アンカーボルト孔の中心から当該薄肉部の横方向のL字先端部までの距離より、当該薄肉部の横方向のL字先端部から当該薄肉部の横方向にある他の前記薄肉部の横方向のL字先端部までの距離が大きくなるように形成され、かつ、
それぞれの前記薄肉部は、当該薄肉部の前記アンカーボルト孔の中心から当該薄肉部の縦方向のL字先端部までの距離より、当該薄肉部の縦方向のL字先端部から当該薄肉部の縦方向にある他の前記薄肉部の縦方向のL字先端部までの距離が大きくなるように形成される
ことを特徴とする柱部材。
【請求項2】
柱と、
前記柱の下端に接合される略矩形のベースプレートと、
前記ベースプレートと基礎との間に設けられるモルタルと、
前記ベースプレートを前記基礎に固定するアンカーボルトと、
を具備し、
前記ベースプレートは、
前記ベースプレートの四隅近傍に設けられるアンカーボルト孔と、
前記アンカーボルト孔の部位を含み、少なくとも、前記ベースプレートの四隅近傍の裏面側に設けられる切欠きによって形成される薄肉部と、
を具備し、
前記薄肉部は、前記柱の基部には形成されず、前記ベースプレートの四隅に略L字状に形成され、
前記アンカーボルトは、前記薄肉部以外の部位には形成されず、
前記アンカーボルト孔の重心位置を通り、前記ベースプレートの対角線に直交する直線を基準線とし、前記基準線に平行な前記柱の基部における降伏耐力および前記アンカーボルトの降伏力よりも、前記基準線に平行であって前記薄肉部のみを通る直線の内、最も前記柱に近い部位の降伏耐力が小さく、
それぞれの前記薄肉部は、当該薄肉部の前記アンカーボルト孔の中心から当該薄肉部の横方向のL字先端部までの距離より、当該薄肉部の横方向のL字先端部から当該薄肉部の横方向にある他の前記薄肉部の横方向のL字先端部までの距離が大きくなるように形成され、かつ、
それぞれの前記薄肉部は、当該薄肉部の前記アンカーボルト孔の中心から当該薄肉部の縦方向のL字先端部までの距離より、当該薄肉部の縦方向のL字先端部から当該薄肉部の縦方向にある他の前記薄肉部の縦方向のL字先端部までの距離が大きくなるように形成される
ことを特徴とする柱脚構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベースプレートに柱が接合された柱部材およびこれを用いた柱脚構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
構造体の柱脚構造は、柱の下部にベースプレートが接合され、ベースプレートが基礎等のコンクリートに対してアンカーボルトで固定される(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-108810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、例えば、地震等によって、柱脚に大きな曲げモーメントが生じる場合において、エネルギーの吸収能力を大きくするため、アンカーボルトよりもベースプレートを先行させて降伏させる方法が検討されている。ベースプレートを降伏させやすくするためには、アンカーボルトのピッチに対して、ベースプレートの厚みを薄くする方法がある。
【0005】
図8は、柱脚構造100に対して、側方からの力が付与された状態を示す概念図である。柱脚構造100は、柱105の下端にベースプレート103が接合されて構成される。ベースプレート103には、アンカーボルト孔107が設けられ、アンカーボルト109が挿通される。ベースプレート103は、アンカーボルト109によって、基礎111に固定される。ベースプレート103と基礎111との間には、モルタル113が充填される。
【0006】
柱脚構造100に力が加わると、柱105には曲げモーメントIが生じる。この際、ベースプレート103の厚みを薄くすることで、アンカーボルト109が降伏するよりも先に、柱105との接合部におけるベースプレート103を降伏させることができる(図中J部)。
【0007】
しかし、ベースプレート103の厚みを薄くすると、ベースプレート103が変形しやすくなるため柱脚部の剛性が低下するという問題がある。
【0008】
これに対し、ベースプレート103の幅を大きくし、アンカーボルト109同士の距離を長くすることで、ベースプレート103を降伏させやすくしつつ、柱脚部の剛性を高めることが出来る。
【0009】
しかし、この方法では、ベースプレート103の下部の基礎111のサイズが大きくなり、他部材や敷地との収まりが悪くなる。また、ベースプレート103のサイズを大きくすることで、ベースプレート103の使用材料量が増加する。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、柱脚部の剛性を確保しつつ、ベースプレートを降伏しやすくして柱脚におけるエネルギー吸収能力を大きくすることが可能な柱部材及び柱脚構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、柱と、前記柱の一端に接合された略矩形のベースプレートと、を具備する柱部材であって、前記ベースプレートは、前記ベースプレートの四隅近傍に設けられるアンカーボルト孔と、前記アンカーボルト孔の部位を含み、少なくとも、前記ベースプレートの四隅近傍の裏面側に設けられる切欠きによって形成される薄肉部と、を具備し、前記薄肉部は、前記柱の基部には形成されず、前記ベースプレートの四隅に略L字状に形成され、前記アンカーボルト孔の重心位置を通り、前記ベースプレートの対角線に直交する直線を基準線とし、前記基準線に平行な前記柱の基部の降伏耐力よりも、前記基準線に平行であって前記薄肉部のみを通る直線の内、最も前記柱に近い部位の降伏耐力が小さく、それぞれの前記薄肉部は、当該薄肉部の前記アンカーボルト孔の中心から当該薄肉部の横方向のL字先端部までの距離より、当該薄肉部の横方向のL字先端部から当該薄肉部の横方向にある他の前記薄肉部の横方向のL字先端部までの距離が大きくなるように形成され、かつ、それぞれの前記薄肉部は、当該薄肉部の前記アンカーボルト孔の中心から当該薄肉部の縦方向のL字先端部までの距離より、当該薄肉部の縦方向のL字先端部から当該薄肉部の縦方向にある他の前記薄肉部の縦方向のL字先端部までの距離が大きくなるように形成されることを特徴とする柱部材である。
【0012】
1の発明によれば、変形量が大きくなる柱の角部におけるベースプレートの厚みを相対的に厚くすることで、柱脚構造の剛性を確保しつつ、ベースプレートの下面の切欠きによって薄肉部が形成され、ベースプレートの薄肉部を先行降伏させることができる。このため、ベースプレートのサイズを大きくする必要がなく、他部材や敷地との収まりが良く、ベースプレートの使用材料量の増加を抑制することができる。
【0013】
また、ベースプレートの下部に切欠きを設けることで、ベースプレートの切欠き段差の側面とアンカーボルトとの間にモルタルが充填され、ベースプレートからアンカーボルトへのせん断力を伝達することができる。また、切欠きが底面側であるため、ベースプレートの上方におけるナットや締付工具と切欠きの段部との干渉がなく、作業が容易である。
【0014】
また、切欠きの形状により、ベースプレートの降伏位置をコントロールできるため、ベースプレートの板厚、アンカーボルト位置、ベースプレートの幅などの設計自由度が高い。
【0015】
の発明は、柱と、前記柱の下端に接合される略矩形のベースプレートと、前記ベースプレートと基礎との間に設けられるモルタルと、前記ベースプレートを前記基礎に固定するアンカーボルトと、を具備し、前記ベースプレートは、前記ベースプレートの四隅近傍に設けられるアンカーボルト孔と、前記アンカーボルト孔の部位を含み、少なくとも、前記ベースプレートの四隅近傍の裏面側に設けられる切欠きによって形成される薄肉部と、を具備し、前記薄肉部は、前記柱の基部には形成されず、前記ベースプレートの四隅に略L字状に形成され、前記アンカーボルトは、前記薄肉部以外の部位には形成されず、前記アンカーボルト孔の重心位置を通り、前記ベースプレートの対角線に直交する直線を基準線とし、前記基準線に平行な前記柱の基部における降伏耐力および前記アンカーボルトの降伏力よりも、前記基準線に平行であって前記薄肉部のみを通る直線の内、最も前記柱に近い部位の降伏耐力が小さく、それぞれの前記薄肉部は、当該薄肉部の前記アンカーボルト孔の中心から当該薄肉部の横方向のL字先端部までの距離より、当該薄肉部の横方向のL字先端部から当該薄肉部の横方向にある他の前記薄肉部の横方向のL字先端部までの距離が大きくなるように形成され、かつ、それぞれの前記薄肉部は、当該薄肉部の前記アンカーボルト孔の中心から当該薄肉部の縦方向のL字先端部までの距離より、当該薄肉部の縦方向のL字先端部から当該薄肉部の縦方向にある他の前記薄肉部の縦方向のL字先端部までの距離が大きくなるように形成されることを特徴とする柱脚構造である。
【0016】
の発明によれば、剛性が高く、ベースプレートの先行降伏が可能な柱脚構造を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、柱脚部の剛性を確保しつつ、ベースプレートを降伏しやすくして柱脚におけるエネルギー吸収能力を大きくすることが可能な柱部材及び柱脚構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(a)は、柱部材1の側面図、(b)は、柱部材1の底面図。
図2】(a)は、柱脚構造10の側面図、(b)は、(a)のA部拡大図。
図3】柱部材1の底面図。
図4】柱脚構造10の変形状態を示す概念図。
図5】(a)は、柱部材1aの底面図、(b)は、柱部材1bの底面図、(c)は、柱部材1cの底面図。
図6】(a)は、柱部材1dの底面図、(b)は、柱部材1eの底面図、(c)は、柱部材1fの底面図、(d)は、柱部材1gの底面図。
図7】(a)は、柱部材1hの底面図、(b)は、柱部材1iの底面図、(c)は、柱部材1jの底面図、(d)は、柱部材1kの底面図。
図8】従来の柱脚構造100を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態にかかる柱部材1について説明する。図1(a)は、柱部材1を示す側面図であり、図1(b)は底面図である。柱部材1は、主に、ベースプレート3と柱5とから構成される。
【0020】
ベースプレート3は、平面視が略矩形であり、例えば鋼製の板状部材である。ベースプレート3の四隅近傍には、貫通孔であるアンカーボルト孔11が設けられる。アンカーボルト孔11には、後述するアンカーボルトが挿通される。ベースプレート3の上面には、柱5の一端が接合される。柱5は、例えば角鋼管である。
【0021】
ベースプレート3の四隅近傍の裏面側には、少なくともアンカーボルト孔11の部位を含み、切欠き7が設けられる。切欠き7は、ベースプレート3の下面側が所定の厚みだけ除去された形態である。このため、切欠き7に対応する部位には、他の部位に対して厚みが薄い薄肉部9が形成される。
【0022】
図示した例では、薄肉部9は、ベースプレート3の四隅に、それぞれ略L字状に形成され、L字の中央曲部の内側に対応する部位の近傍に、柱5の各角部が配置される。なお、ベースプレート3の対角線上において、アンカーボルト孔11と、薄肉部9の縁部(薄肉部9と他の部位の境界)とは離れており、かつ、薄肉部9の縁部と柱5の基部とは離れている。すなわち、薄肉部9は、柱5の基部には形成されず、柱5は、全体が薄肉部9以外の部位に配置される。
【0023】
次に、柱部材1を用いた柱脚構造10について説明する。図2(a)は、柱脚構造10を示す図である。柱脚構造10は、柱部材1がコンクリート製の基礎13に対して、アンカーボルト17によって固定されて構成される。すなわち、柱脚構造10は、主に、ベースプレート3、柱5、アンカーボルト17等から構成される。前述したように、ベースプレート3の四隅近傍にはアンカーボルト孔11が形成され、それぞれのアンカーボルト孔11にアンカーボルト17が挿通される。アンカーボルト17は、下端が基礎13内に定着され、上端がナットによってベースプレート3に固定される。
【0024】
基礎13とベースプレート3の間には、モルタル15が充填される。すなわち、モルタル15は、ベースプレート3の下面の全体に配置され、切欠き7にも充填される。
【0025】
図2(b)は、図2(a)のA部拡大図である。ここで、例えば、切欠き7を有さない場合において、ベースプレート3に水平方向の力が付与されると、アンカーボルト17とアンカーボルト孔11との間にはクリアランスが存在するため、ベースプレート3からの応力がアンカーボルト17へ効率よく伝達されない。しかし、本実施形態では、前述したように、切欠き7にもモルタル15が充填されるため、アンカーボルト17と切欠き7の段部(薄肉部9の縁部)との間に、モルタル15が存在する。このため、ベースプレート3に側方からの水平方向の力が加わった際(図中矢印B)、ベースプレート3からの応力を、モルタル15を介してアンカーボルト17へ確実に伝達することができる(図中矢印C)。
【0026】
次に、ベースプレート3の降伏について説明する。図3は、柱部材1(ベースプレート3)の背面図であり、図4は、図3のD-D線に対応する柱脚構造10の断面図である。図3に示すように、柱5に曲げモーメントが加わると(図中H)、アンカーボルト17が弾性伸びし、所定以上の力が加わることで、ベースプレート3の一部が降伏する。すなわち、ベースプレート3は、アンカーボルト17が降伏するより早く降伏する。
【0027】
ここで、ベースプレート3の降伏は、ベースプレートの各辺に対して45°の線上で起こる。このため、各部の降伏応力について検討する。まず、アンカーボルト孔11の中心を通り、ベースプレート3の対角線に直交する直線(すなわち、各辺に対して45°の直線)を基準線Eとする。
【0028】
また、基準線Eに平行な柱5の基部を通る直線(柱5の外周面との接線)をGとする。また、基準線Eに平行であって、薄肉部9のみを通る直線の内、最も柱5に近い部位の直線をFとする。すなわち、直線Fは、基準線Eに平行な直線の内、それ以上柱5に近づけると、当該直線が薄肉部9以外の部位を通過することとなる境界の直線である。
【0029】
ここで、基準線Eから直線Fまでの距離をLとし、基準線Eから直線Gまでの距離をLとする。この際、アンカーボルトによる引張力をTとすると、直線Gにおける曲げモーメントMおよび、直線Fにおける曲げモーメントMは、それぞれ、
=T・L
=T・L
で表される。
【0030】
また、直線Gにおける断面係数をZとし、直線Fにおける断面係数をZとし、材料の降伏応力をσとすると、直線Gにおける降伏時の曲げモーメントMa1および、直線Fにおける降伏時の曲げモーメントMa2は、それぞれ、
a1=Z・σ
a2=Z・σ
で表される。
【0031】
ここで、直線Gにおいて降伏する前に直線Fの位置で降伏する条件は、
a1/M>Ma2/M、かつ
a2<M
を満たす場合である。すなわち、
/L>Z/L、かつ、
・σ<T・L
を満たす場合である。このような式を満たすように、薄肉部9の位置と各部の断面係数を設定することで、柱5の基部において降伏する前に、柱5の基部から離れた位置の薄肉部9において降伏させることができる。
【0032】
ここで、薄肉部9を設けずに、ベースプレート3が一定の肉厚である場合について検討する。アンカーボルト孔11におけるベースプレート3の変形量δは、たわみの公式により、
δ=T・L /(3EI
で表される。但し、Iは、平坦形状の場合の断面二次モーメント、Eはヤング率である。
【0033】
一方、薄肉部9を形成した場合における、アンカーボルト孔11におけるベースプレート3の変形量δは、
δ=T・L /(3EI)+T・(L・α-α/2)/(3EI)+T・(L・α-α/3)/(2EI
で表される。但し、α=L-Lであり、I、Iは、それぞれ、直線E~F間及び、直線F~G間の断面二次モーメントである。
【0034】
すなわち、δ<δであれば、ベースプレート3の変形量が小さくなり、柱脚の剛性が高くなる。ここで、平坦形状のベースプレートが先行降伏する条件は、
a3<M
の場合である。但し、Ma3=Z・σであり、M=T・L=Mであり、Zは、平坦形状の柱5の基部における断面係数である。
【0035】
ここで、Z~Zは、それぞれ板厚の2乗に依存し、I~Iは、それぞれ板厚の3乗に依存する。このため、薄肉部9および薄肉部9以外の厚み(柱5の基部の厚み)を調整することで、従来の板厚が一定である場合のベースプレートに対して、剛性を高くしつつ、直線Fにおける先行降伏を達成することができる条件が存在する。例えば、従来のベースプレートと同一のサイズであって、同一の重量のベースプレートであっても、剛性を高めつつ、先行降伏が可能となる条件が存在する。
【0036】
このように、所定の条件を満たすように設計することで、基準線Eに平行な柱5の基部における降伏耐力よりも、基準線Eに平行であって薄肉部9のみを通る直線の内、最も柱5に近い部位の降伏耐力を小さくすることができる。このため、直線Fにおける降伏耐力が、アンカーボルト17の降伏力よりも小さければ、柱脚構造10に曲げモーメントが生じた際、柱5の基部またはアンカーボルト17ではなく、柱5の基部からずれた位置(図中Fの位置)のベースプレート3を降伏させることができる。このため、変形量の大きな柱5の基部における降伏を抑えつつ、アンカーボルト17よりも先に、ベースプレート3の柱5の基部から離れた部位を降伏させることができる。
【0037】
以上、本実施の形態によれば、柱5に外力が生じた際に、アンカーボルト17が降伏して塑性変形を開始するのに先行して、ベースプレート3が塑性変形を開始して、エネルギーを吸収することができる。このようにすることで、より大きなエネルギーを吸収することができる。
【0038】
また、変形量が大きくなる柱5の角部におけるベースプレート3の厚みを相対的に厚くすることで、柱脚構造10の剛性を確保することができる。また、ベースプレート3のサイズを大きくすることなく、ベースプレート3を先行降伏させることができるため、他部材や敷地との収まりが良く、ベースプレート3の使用材料量の増加を抑制することができる。
【0039】
また、ベースプレート3の下部に切欠き7を設けることで、ベースプレート3の切欠き7の段部とアンカーボルト17との間にモルタル15が充填され、ベースプレート3からアンカーボルトへ17のせん断力を伝達することができる。また、切欠き7が底面側に形成されるため、ナットや締付工具と切欠き7の段部との干渉がなく、作業が容易である。
【0040】
なお、切欠き7(薄肉部9)の形状は、図1等に示した例には限られない。図5(a)は、柱部材1aを示す底面図である。なお、以下の図において、柱部材1と同一の機能を奏する構成については、図3と同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、以下の図における直線E、F、Gは、図3における直線E、F、Gと同様である。
【0041】
柱部材1aは、切欠き7がベースプレート3の角部を略三角形に切り取るように、各辺に対して45°の角度で形成される。この場合、降伏部(直線F)は、薄肉部9と他の部位との境界部の直線となる。この場合でも、直線Gが直線Fと離れていることで、柱5の基部での降伏を抑制し、かつ、ベースプレート3の先行降伏を達成することができる。
【0042】
また、図5(b)は、柱部材1bを示す底面図である。柱部材1bは、切欠き7がベースプレート3の外周部を囲むようにロの字状に形成される。この場合、降伏部(直線F)は、矩形の薄肉部9の内側の角部近傍を通る直線となる。この場合でも、直線Gが直線Fと離れていることで、柱5の基部での降伏を抑制し、かつ、ベースプレート3の先行降伏を達成することができる。
【0043】
また、図5(c)は、柱部材1cを示す底面図である。柱部材1cは、切欠き7が柱部材1とほぼ同様に略L字形である。この場合、降伏部(直線F)は、L字の内側の角部近傍を通る直線となる。柱部材1cでは、切欠き7が柱5の基部のぎりぎりの位置まで形成される。この場合でも、柱5の角部の面取形状(R形状)が、L字の切欠き7の中央曲部の内側の面取形状よりも大きければ、直線Gと直線Fとが離れ、柱5の基部での降伏を抑制し、かつ、ベースプレート3の先行降伏を達成することができる。
【0044】
また、図6(a)~図6(d)は、柱部材1d、1e、1f、1gを示す底面図である。柱部材1d、1e、1f、1gは、それぞれ、柱部材1、1a、1b、1cに対して、アンカーボルト孔11が、各角部に2か所ずつ設けられたものである。この場合、基準線Eは、ベースプレート3の対角線に直交し、アンカーボルト孔11の中心を通る直線となる。柱部材1d、1e、1f、1gにおいても、直線Gが直線Fと離れていることで、柱5の基部での降伏を抑制し、かつ、ベースプレート3の先行降伏を達成することができる。
【0045】
また、図7(a)~図7(d)は、柱部材1h、1i、1j、1kを示す底面図である。柱部材1h、1i、1j、1kは、それぞれ、柱部材1、1a、1b、1cに対して、アンカーボルト孔11が、各角部に3か所ずつ設けられたものである。この場合、基準線Eは、ベースプレート3の対角線に直交し、3つのアンカーボルト孔11の重心を通る直線となる。柱部材1h、1i、1j、1kにおいても、直線Gが直線Fと離れていることで、柱5の基部での降伏を抑制し、かつ、ベースプレート3の先行降伏を達成することができる。
【0046】
なお、本発明において、アンカーボルト孔11の重心位置とは、各角部におけるアンカーボルト孔11が一つの場合には、アンカーボルト孔の中心位置を差し、各角部におけるアンカーボルト孔11が二つの場合には、各アンカーボルト孔11同士の中心位置を差し、各角部におけるアンカーボルト孔11が三つ以上の場合には、各アンカーボルト孔11同士を結ぶ多角形の重心位置を差すものとする。
【0047】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0048】
例えば、柱5は、断面が略矩形のものに限られず、円形であってもよく、または、H型であってもよい。
【符号の説明】
【0049】
1、1a、1b、1c、1d、1e、1f、1g、1h、1i、1j、1k………柱部材
3………ベースプレート
5………柱
7………切欠き
9………薄肉部
10………柱脚構造
11………アンカーボルト孔
13………基礎
15………モルタル
17………アンカーボルト
100………柱脚構造
103………ベースプレート
105………柱
107………アンカーボルト孔
109………アンカーボルト
111………基礎
113………モルタル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8