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特許7080663光学活性なシクロペンテノン誘導体の製造方法
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  • 特許-光学活性なシクロペンテノン誘導体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】光学活性なシクロペンテノン誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 45/79 20060101AFI20220530BHJP
   C07C 49/707 20060101ALI20220530BHJP
   C07B 57/00 20060101ALI20220530BHJP
【FI】
C07C45/79 CSP
C07C49/707
C07B57/00 343
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018024587
(22)【出願日】2018-02-15
(65)【公開番号】P2019137656
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】598014814
【氏名又は名称】株式会社コンポン研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】特許業務法人謝国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】野中 利之
(72)【発明者】
【氏名】神島 尭明
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-267537(JP,A)
【文献】特開2014-073987(JP,A)
【文献】特開平02-250847(JP,A)
【文献】第17回 東北大学多元素物質科学研究所研究発表会講演予稿集,2017年,第49頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 45/00
C07C 49/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
で表される化合物を、キラルカラムを装着した高速液体クロマトグラフィー(以下、「HPLC」という)装置を用いて光学分割することを含み、移動相がn-ヘキサンとi-プロパノールの混合溶媒であり、n-ヘキサンとi-プロパノールの混合溶媒の体積比が6:4~4:6である、式(I)で表される化合物の光学活性体の製造方法。
【請求項2】
式(I)で表される光学活性なシクロペンテノン化合物が99%ee以上のエナンチオマー過剰率を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
式(II)
で表される光学活性体(S体)。
【請求項4】
式(I)
で表される化合物を光学分割することを含み、移動相がn-ヘキサンとi-プロパノールの混合溶媒であり、n-ヘキサンとi-プロパノールの混合溶媒の体積比が6:4~4:6である、式(II)
で表される光学活性体(S体)の製造方法。
【請求項5】
式(II)で表される光学活性体(S体)が99%ee以上のエナンチオマー過剰率を有する、請求項4に記載の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4-ヒドロキシ-2-ヒドロキシメチル-2-シクロペンテン-1-オンの光学活性体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
式(I)で表される4-ヒドロキシ-2-ヒドロキシメチル-2-シクロペンテン-1-オンの光学活性体は、プロスタグランジン(prostaglandins)、ペンテノマイシン(pentenomycin)、ベルチマイシン(vertimycin)等の医薬品原料となる有望な合成ブロックであるとされている。非特許文献1では、式(I)の光学活性体のうち、R体の合成法が示されているが、10段階の反応ステップが必要であり、全収率は約35%に留まる。また、非特許文献1では、式(I)で表される化合物の光学活性体S体の記載がない。
【0003】
一方、2-デオキシ―アルドヘキソースを出発原料とし、その水溶液を蒸発させずに加熱する工程(150℃~300℃の範囲内)における化学的変換反応により一工程で式(I)で表される4-ヒドロキシ-2-ヒドロキシメチル-2-シクロペンテン-1-オンのラセミ体を得ることができたことが報告されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、この方法における収率は、HPLCにおけるピーク面積を基準とした相対的な値であり、2-デオキシ―アルドヘキソースから4-ヒドロキシ-2-ヒドロキシメチル-2-シクロペンテン-1-オンに変換する収率の向上、目的生成物である4-ヒドロキシ-2-ヒドロキシメチル-2-シクロペンテン-1-オンの精製のし易さ等の課題が存在する。
【0005】
しかも、特許文献1においても、式(I)の4-ヒドロキシ-2-ヒドロキシメチル-2-シクロペンテン-1-オンのラセミ体のみが得られる内容にとどまっており、その光学活性体を得ることの記述がない。即ち、式(I)の光学活性体R体、S体のうち、S体の工業的な製造法の記述および化合物の記載がこれまで見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5776984
【非特許文献】
【0007】
【文献】J.D.Elliottら, J. Chem. Soc. Perkin Trans. I, 1782 (1981)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
式(I)で表される4-ヒドロキシ-2-ヒドロキシメチル-2-シクロペンテン-1-オンの4位の炭素原子は、不斉炭素原子であり、2つの光学活性体が存在する。医薬品としての有用性を高めるうえで、光学活性化合物に関する薬理活性、体内動態、安全性等の検討は重要であり、そのためには、光学活性化合物を製造する簡便な方法を開発する必要がある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記事情に鑑みて精力的に研究を重ねた。その結果、入手容易な2-デオキシ―アルドヘキソースの水溶液を蒸発させずに加圧状態で加熱することにより、1工程で式(I) で表される4-ヒドロキシ-2-ヒドロキシメチル-2-シクロペンテン-1-オンを得たのち、本発明でキラルカラムを装着した高速液体クロマトグラフィー(以下、「HPLC」という。)装置を用いる簡易な方法により、前記の式(I)で表されるラセミ体を光学分割して、目的とする光学活性化合物を容易に製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
式(I)
で表される化合物を、キラルカラムを装着したHPLC装置を用いて光学分割することを含む、式(I)で表される化合物の光学活性体の製造方法。
[2]
移動相がn-ヘキサンとi-プロパノールの混合溶媒である、[1]に記載の製造方法。
[3]
式(I)で表される光学活性なシクロペンテノン化合物が99%ee以上のエナンチオマー過剰率を有する、[1]に記載の方法。
[4]
式(II)
で表される光学活性体(S体)。
[5]
式(I)
で表される化合物を光学分割することを含む、式(II)
で表される光学活性体(S体)の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、目的生成物である上記の式(I)の化合物の光学活性体(R体及びS体)の新規で簡便な製造方法が提供される。即ち、式(I)で表される4-ヒドロキシ-2-ヒドロキシメチル-2-シクロペンテン-1-オンを得たのち、本発明により、キラルカラムを装着した高速液体クロマトグラフィー(以下、「HPLC」という。)装置を用いる簡易な方法により、前記の式(I)で表されるラセミ体を光学分割して、目的とする光学活性化合物を容易に製造できた。本発明の方法は、工程数が短く、HPLCの移動相として用いた溶媒を蒸留等でリサイクルできるので、環境に比較的に優しい工業的な価値を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】分取HPLCによる光学分割のHPLCチャートを示す。
図2】分取HPLCによる光学分割で得られたS体のHPLCチャートを示す。
図3】分取HPLCによる光学分割で得られたR体のHPLCチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0015】
以下、本発明に係る構造式(I)で表されるシクロペンテノン誘導体の光学活性体の製造方法について説明する。
【0016】
(出発原料)
出発原料である4-ヒドロキシ-2-ヒドロキシメチル-2-シクロペンテン-1-オンのラセミ体は、非特許文献1、特許文献1等の公知の方法により製造することができる。
【0017】
本発明にかかる光学活性化合物の製造法は、ラセミ化合物の「光学分割」操作を含む方法であり、当該「光学分割」操作は、キラルカラムを装着したHPLCを使用するものである。前記の「キラルカラム」とは、キラル順相カラム、キラル逆相カラムまたはキラルイオン交換カラムを示し、どのカラムを採用するかは、光学分割操作に供する化合物の種類やその他の諸条件により異なり、特に限定はされない。
【0018】
前記の「光学分割」操作において使用する移動相は、使用するHPLCの機種、使用するカラムの種類、光学分割に供する化合物、流速等により異なり、特に限定はされないが、キラル順相カラムを用いた場合、移動相の好適な例としては、n-ヘキサンとi-プロパノールの混合溶媒やn-ヘキサンとエタノールの混合溶媒、n-ヘプタンとi-プロパノールの混合溶媒等が挙げられる。
【0019】
また、移動相における溶媒の混合比は、使用するカラム、光学分割に供する化合物及びHPLCの移動相の流量等により異なることは言うまでもなく、特に限定されないが、好適な例を挙げると、n-ヘキサンとi-プロパノールの混合溶媒で体積比(混合前の体積比。以下の記述における体積比もすべて混合前の体積比を意味する)6/4から4/6の範囲であり、より好適には体積比5/5である。n-ヘキサンとi-プロパノールの混合溶媒で体積比2/6になると、移動相の溶媒の極性が高くなるため、光学活性体それぞれのピークが接近して光学分割しにくくなる。逆に、n-ヘキサンとi-プロパノールの混合溶媒で体積比6/2となると、光学分割は行えるが、キラルカラム内でゾーン(帯)状に濃縮された光学活性体それぞれが析出し、固体状の光学活性体となってキラルカラム内を閉塞させる場合がある。即ち、式(I)のシクロペンテノ誘導体(ラセミ体)が移動相中に溶解し続けるために、移動相である混合溶媒は極性があることが好ましい。
【0020】
(エナンチオマー過剰率(%ee))
用語「エナンチオマー過剰率(%ee)」は、当業者によく知られている。エナンチオマー過剰率は、2種のエナンチオマーのうちの一方の、他方に対する過剰率であり、百分率で表される。当該の化合物ABがエナンチオマーAとエナンチオマーBからなる場合に言い換えれば、当該の化合物AB中にエナンチオマーAとエナンチオマーBが含まれる場合に、エナンチオマー過剰率は、当該の化合物AB中のエナンチオマーAのモル数とエナンチオマーBのモル数から計算することができる。即ち、エナンチオマー過剰率は、AB→A+Bの分割について、下記のように定義される:
エナンチオマー過剰率(%ee)=[(エナンチオマーAのモル数)-(エナンチオマーBのモル数)]/[(エナンチオマーAのモル数)+(エナンチオマーBのモル数)]×100
ただし、エナンチオマーAが過剰のエナンチオマーである。
【0021】
エナンチオマー過剰率は、光学分割と同じキラルカラムを用いて、HPLC分析により測定される。本発明では、エナンチオマー過剰率の測定におけるHPLC分析条件としては、光学分割と同じHPLC分析条件が用いられる。HPLCのチャートにおける、エナンチオマーAとエナンチオマーBそれぞれのピーク面積の値からエナンチオマー過剰率の値が算出できる。他の方法として、エナンチオマー過剰率は、キラルシフト試薬を用いるH-NMR分析によっても決定できる。
【0022】
本発明の光学分割におけるエナンチオマー過剰率は、好ましくは95%ee以上、特に好ましくは99%ee以上の範囲を例示できる。
【0023】
(旋光性)
旋光性の値の測定には、旋光計またはHPLC分析が用いられる。旋光計が示す正負の値から、式(I)で表される化合物の光学活性体のうち、R体、S体が判別できる。
【0024】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
光学活性な4-ヒドロキシ-2-ヒドロキシメチル-2-シクロペンテン-1-オンの製造(光学分割条件)
HPLC装置:LC-Forte/R (YMC社製、分取HPLC)
カラム:CHIRAL ART Cellulose-SC (粒径5μm、φ30.0mm I.D.、長さ250mm、YMC社製)
カラム温度:室温
移動相:n-ヘキサン/i-プロパノール(=50:50<v/v>)
流量:13mL/min
紫外線可視分光器検出波長:220nm
【0026】
注入量:4.5mL (1610mg/L in Eluent:4-ヒドロキシ-2-ヒドロキシメチル-2-シクロペンテン-1-オンのラセミ体32.2mgを混合溶媒(n-ヘキサン10mL、i-プロパノール 10mL)に溶かして調整)
【0027】
図1で表されるように、シクロペンテノン誘導体の光学活性体として、 R体、S体がそれぞれのピークに分かれている。それぞれのピークを分取し、光学分割できる。なお、旋光度測定には、旋光計(POLAX-2L、ATAGO社、等)を用いた。
【実施例2】
【0028】
光学活性な4-ヒドロキシ-2-ヒドロキシメチル-2-シクロペンテン-1-オンの製造(光学分割条件)
HPLCの条件は、実施例1と同じである。ラセミ体の注入量を増やした。
【0029】
注入量:2~3mL (約40000mg/L in Eluent:例えば、4-ヒドロキシ-2-ヒドロキシメチル-2-シクロペンテン-1-オンのラセミ体(特許文献2の方法を用いて製造)2.69gを混合溶媒(n-ヘキサン30mL、i-プロパノール30mL)に溶かして調整)
【0030】
HPLCチャートのR体、S体のピークを観察しながら手動で、それぞれの光学活性体を分取した。ラセミ体の注入量が約100mg/回に増えると、R体、S体それぞれのピークの裾が重なってくるため、 R体、S体それぞれの回収液に他方の微量な混入(数パーセント)がみられた。
【実施例3】
【0031】
光学活性な4-ヒドロキシ-2-ヒドロキシメチル-2-シクロペンテン-1-オンの製造(光学分割条件)
HPLCの条件は、実施例1と同じである。実施例2で得られたR体(数パーセントのS体含む)、S体(数パーセントのR体含む)をそれぞれ、もう一度HPLCで光学分割した。
【0032】
(実施例2で得られたS体(数パーセントのR体含む)の光学分割)
試料溶液の注入量約2mL (約40000mg/L in Eluent:実施例2で得られたS体(数パーセントのR体を含む)1.27gを混合溶媒(n-ヘキサン16mL、i-プロパノール16mL)に溶かして調整)である。
【0033】
(実施例2で得られたR体(数パーセントのS体含む)の光学分割)
試料溶液の注入量3mL (約40000mg/L in Eluent:実施例2で得られたR体(数パーセントのS体を含む)1.07gを混合溶媒(n-ヘキサン14mL、i-プロパノール 14mL)に溶かして調整)である。
【0034】
図2図3に光学分割で得られたS体、R体のHPLCチャートを示す。99%ee以上の光学純度でR体、S体が得られることが分かった。
【0035】
99%ee以上の光学活性体(R体)及び(S体)の比旋光度([α]D)を測定した。それぞれの[α]D値は以下であった。
(R体):[α]D=+33.0°(C=1.0 in EtOH)、(S体):[α]D=-31.9°(C=1.0 in EtOH)
【0036】
本発明により、目的生成物である上記式(I)の化合物の光学活性体の新規で簡便な製造方法が提供される。式(I)で表される4-ヒドロキシ-2-ヒドロキシメチル-2-シクロペンテン-1-オンの光学活性体はプロスタグランジン、ペンテノマイシン(pentenomycin)及びベルチマイシン(vertimycin)等の医薬品原料となる有望な合成ブロックであるとされている。

図1
図2
図3