(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】空調制御装置
(51)【国際特許分類】
F24F 11/64 20180101AFI20220530BHJP
【FI】
F24F11/64
(21)【出願番号】P 2018081271
(22)【出願日】2018-04-20
【審査請求日】2021-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】504093467
【氏名又は名称】トヨタホーム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591150797
【氏名又は名称】株式会社デンソーエアクール
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】江津 勇佑
(72)【発明者】
【氏名】藤森 研治
(72)【発明者】
【氏名】鳥原 健太
【審査官】石田 佳久
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-067427(JP,A)
【文献】特開2010-181043(JP,A)
【文献】特開2011-127880(JP,A)
【文献】特開2016-130624(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0330652(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/00-11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物に設置された空調装置が過去に運転された際の、前記建物の室温の変化を表すデータを含む運転実績データを記憶する記憶部と、
空調完了目標時刻が設定された場合に、前記記憶部に記憶された運転実績データに基づいて、前記空調完了目標時刻に前記建物の室温が設定された目標室温に達するように、前記空調装置の運転を開始させる制御部と、
を含
み、
前記運転実績データは、前記空調装置が過去に運転された際の目標室温及び外気温を表すデータを含み、
前記制御部は、前記運転実績データのうち、目標室温と外気温との差が今回の運転での目標室温と外気温との差と所定値以内の運転条件での運転実績を表すデータを選択し、選択したデータから取得した室温の時間変化の傾きに基づいて、前記空調装置の運転開始時刻を演算する空調制御装置。
【請求項2】
前記建物の周辺の気象条件を予測した気象予測情報を受信する受信部を更に含み、
前記制御部は、前記受信部によって受信された気象予測情報に基づいて、前記空調装置を運転しない場合の前記建物の室温の変化を予測し、前記空調装置を運転しない場合の前記建物の室温の変化の予測値を考慮して、前記空調装置の運転開始時刻を演算する請求項1記載の空調制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記空調装置の運転を開始させる迄の間、前記建物の外気温の変化の予測値及び前記空調装置を運転しない場合の前記建物の室温の変化の予測値を実測値と比較し、前記予測値と実測値との差が所定値以上になった場合に、前記運転開始時刻を再度演算する請求項2記載の空調制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空調制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ユーザが運転する車両が自宅に到着する予測時刻を算出し、算出した予測時刻と自宅に設置された電気機器に対する制御内容を含む予約情報とに基づき、前記電気機器の起動時刻を設定して起動時刻に動作を開始させる技術が開示されている。特許文献1は、制御内容毎に所要時間を対応付けた所要時間対応データを用いて所要時間を求めており、エアコンに関しては、運転開始時の室温と目標値である設定温度とから所要時間を一意に定める関数を、所要時間データとすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、空調装置を運転する際に室温が目標温度に達するまでの所要時間は、空調対象の建物の規模や断熱性能などの建物の特性によって左右される。これに対し、特許文献1に記載の技術は、室温と目標温度とから所要時間を一意に定めてエアコンの起動時刻を設定するので、エアコンの起動時刻の設定精度が不足している。このため、一例として
図15に示すように、例えば到着予測時刻よりも大幅に早いタイミングで室温が目標温度に達することで、室温が目標温度に達してから到着予測時刻になる迄の間、室温維持のために無駄にエネルギーを消費したり、或いは、到着予測時刻になっても室温が目標温度に達していないことが生じ得る、という問題がある。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮し、空調完了目標時刻に応じて空調装置を運転する際に、室温が目標室温に達するタイミングを空調完了目標時刻に一致させる精度を向上させることができる空調制御装置を得ること目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様は、建物に設置された空調装置が過去に運転された際の、前記建物の室温の変化を表すデータを含む運転実績データを記憶する記憶部と、空調完了目標時刻が設定された場合に、前記記憶部に記憶された運転実績データに基づいて、前記空調完了目標時刻に前記建物の室温が設定された目標室温に達するように、前記空調装置の運転を開始させる制御部と、を含んでいる。
【0007】
第1の態様では、記憶部に記憶された運転実績データが、建物に設置された空調装置が過去に運転された際の建物の室温の変化を表すデータを含んでおり、当該データが表す室温の変化には、前記建物の規模や断熱性能などの建物の特性が反映されている。そして第1の態様では、空調完了目標時刻が設定された場合に、運転実績データに基づいて、空調完了目標時刻に建物の室温が設定された目標室温に達するように空調装置の運転を開始させる。これにより、空調完了目標時刻に応じて空調装置を運転する際に、空調装置の運転を開始してから建物の室温が設定された目標室温に達するまでの所要時間が建物の特性に応じて変動することが考慮されることで、室温が目標室温に達するタイミングを空調完了目標時刻に一致させる精度を向上させることができる。
【0008】
第2の態様は、前記運転実績データは、前記空調装置が過去に運転された際の目標室温及び外気温を表すデータを含み、前記制御部は、前記運転実績データのうち、目標室温と外気温との差が今回の運転に近似する運転条件での運転実績を表すデータに基づいて、前記空調装置の運転開始時刻を演算する。
【0009】
空調装置の運転効率は、外気温(詳しくは目標室温と外気温との差)の影響を受ける。第2の態様では、空調装置が運転された際の目標室温及び外気温を表すデータを含む運転実績データのうち、目標室温と外気温との差が今回の運転に近似する運転条件での運転実績を表すデータに基づいて、空調装置の運転開始時刻を演算する。これにより、設定された空調完了目標時刻に応じて空調装置を運転する際に、空調装置の運転を開始してから建物の室温が設定された目標室温に達するまでの所要時間が外気温(詳しくは目標室温と外気温との差)に応じて変動することも考慮されることで、室温が目標室温に達するタイミングを空調完了目標時刻に一致させる精度を更に向上させることができる。
【0010】
第3の態様は、前記建物の周辺の気象条件を予測した気象予測情報を受信する受信部を更に含み、前記制御部は、前記受信部によって受信された気象予測情報に基づいて、前記空調装置を運転しない場合の前記建物の室温の変化を予測し、前記空調装置を運転しない場合の前記建物の室温の変化の予測値を考慮して、前記空調装置の運転開始時刻を演算する。
【0011】
建物の室温は、空調装置を運転しない場合にも建物の外気温等の影響を受けて変化し、この空調装置を運転しない場合の建物の室温の変化は、空調装置を運転する場合に建物の室温が設定された目標室温に達するまでの所要時間に影響を与える。これに対して第3の態様は、建物の周辺の気象条件を予測した気象予測情報を受信し、受信した気象予測情報に基づいて、空調装置を運転しない場合の建物の室温の変化を予測する。そして、空調装置を運転しない場合の建物の室温の変化の予測値を考慮して、空調装置の運転開始時刻を演算する。これにより、空調装置の運転を開始してから建物の室温が設定された目標室温に達するまでの所要時間が、空調装置を運転しない場合の建物の室温に応じて変動することも考慮されることで、室温が目標室温に達するタイミングを空調完了目標時刻に一致させる精度を更に向上させることができる。
【0012】
第4の態様は、前記制御部は、前記空調装置の運転を開始させる迄の間、前記建物の外気温の変化の予測値及び前記空調装置を運転しない場合の前記建物の室温の変化の予測値を実測値と比較し、前記予測値と実測値との差が所定値以上になった場合に、前記運転開始時刻を再度演算する。
【0013】
先に説明した第3の態様において、気象予測情報が表す建物の周囲の気象条件及び空調装置を運転しない場合の建物の室温の変化は、あくまで予測値である。このため、建物の周辺の気象条件が予測と相違することで、建物の外気温の変化及び空調装置を運転しない場合の建物の室温の変化が予測値と相違することは生じ得る。これに対して第4の態様は、空調装置の運転を開始させる迄の間、建物の外気温の変化の予測値及び空調装置を運転しない場合の建物の室温の変化の予測値を実測値と比較し、差が所定値以上になった場合に運転開始時刻を再度演算する。これにより、建物の周辺の気象条件が予測と相違した場合に、室温が目標室温に達するタイミングを空調完了目標時刻に一致させる精度が低下することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
第1の態様は、設定された空調完了目標時刻に応じて空調装置を運転する際に、室温が目標室温に達するタイミングを空調完了目標時刻に一致させる精度を向上させることができる、という効果を有する。
【0015】
第2の態様及び第3の態様は、室温が目標室温に達するタイミングを空調完了目標時刻に一致させる精度を更に向上させることができる、という効果を有する。
【0016】
第4の態様は、建物の周辺の気象条件が予測と相違した場合に、室温が目標室温に達するタイミングを空調完了目標時刻に一致させる精度が低下することを抑制できる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1実施形態に係る空調装置の概略ブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係る予約運転制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図3】運転実績データが示す室温の時間変化の一例を示す線図である。
【
図4】建物の規模に応じた室温の時間変化の一例を示す線図である。
【
図5】建物の断熱性能に応じた室温の時間変化の一例を示す線図である。
【
図6】第1実施形態に係る制御を適用した場合の室温の時間変化の一例を示す線図である。
【
図7】第2実施形態に係る予約運転制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図8】目標室温と外気温との差に応じた室温の時間変化の一例を示す線図である。
【
図9】第3実施形態に係る空調装置の概略ブロック図である。
【
図10】第3実施形態に係る予約運転制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図11】気象予測情報から求まる外気温予測値の一例を示す線図である。
【
図12】運転停止中温度データが表す運転停止中の外気温及び室温の実測値の一例を示す線図である。
【
図13】外気温予測値と運転停止中温度データから求めた室温予測値の一例を示す線図である。
【
図14】第4実施形態に係る予約運転制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図15】従来技術での室温の時間変化の一例を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。なお、以下では建物の一例としての住宅に、当該住宅の全館空調を行う空調装置が設けられ、前記住宅の居住者(ユーザという)によって設定された空調完了目標時刻に合わせて予約運転を行う態様を説明する。但し、建物は住宅に限られるものではなく、また全館空調を行うことに限られるものでもない。
【0019】
〔第1実施形態〕
図1に示すように、住宅10に設置された空調装置12は、住宅10の屋外に設置された空調室外機14、住宅10の室内に設置された空調室内機34、及び、ユーザによって操作される空調操作装置24を含んでいる。空調室外機14と空調室内機34との間は、熱交換媒体が流通する複数の配管及び電気配線で接続されている。
【0020】
空調室外機14は、空調装置12の運転時に空調室外機14内の各部分の温度等の運転状態を計測する運転状態計測部16、住宅10の外気温Toを計測する外気温計測部18、室外機運転制御部20及び空調室内機34との間で通信を行う室内外通信部22を備えている。室外機運転制御部20は、空調装置12の運転時に、空調室内機34と協働して、住宅10の室内の温度(室温Tr)が目標温度Tsになるように、空調室外機14のコンプレッサー等の運転を制御する。
【0021】
空調操作装置24は、ユーザが操作入力を行うための操作入力部26、空調装置12の運転状態や目標室温Tsなどを表示するための表示部28、室温Trを計測する室温計測部30及び空調室内機34との間で赤外線通信等の無線通信を行う室内機通信部32を備えている。ユーザが空調操作装置24を介して空調装置12へ指示可能な操作としては、空調装置12の運転/運転停止の切替え、運転状態(冷房/暖房/除湿等)の切替え、目標室温Tsの設定などに加えて、予約運転の設定も挙げられる。
【0022】
本実施形態における予約運転は、例えば、ユーザが外出していて住宅10が無人であったとしても、設定された空調完了目標時刻tendに室温Trが目標室温Tsに達するように、空調装置12の運転を事前に予約する運転形態である。空調完了目標時刻tendとしては、例えば外出していたユーザが住宅10に帰宅する帰宅予測時刻などが設定される。
【0023】
なお、ユーザが所持する携帯端末を空調操作装置24として機能させることも可能である。この場合、携帯端末がGPS衛星などから位置情報を取得する機能を有していれば、外出中のユーザが所持する携帯端末の位置情報などに応じて、空調完了目標時刻tendを自動的に設定して空調装置12(空調室内機34)へ送信することも可能である。
【0024】
空調室内機34は、空調装置12の運転時に空調室内機34内の各部分の温度等の運転状態を計測する運転状態計測部36、住宅10の室内の温度(室温Tr)を計測する室温計測部38、室内機運転制御部40、空調室外機14との間で通信を行う室内外通信部46及び空調操作装置24との間で赤外線通信等の無線通信を行う操作装置通信部48を備えている。室内機運転制御部40は、空調装置12の運転時に、空調室外機14と協働して、住宅10の室内の温度(室温Tr)が目標温度Tsになるように、空調室内機34のブロアモータ等の運転を制御する。
【0025】
また本実施形態において、空調室内機34は運転実績記憶部42及び予約運転制御部44も備えている。運転実績記憶部42は、空調装置12が過去に運転された際の運転実績を表す運転実績データを記憶する。この運転実績データは、空調装置12が過去に運転された際の室温Trの変化(
図3参照)を表すデータを含み、それ以外に目標室温Ts、外気温To、運転状態計測部16,36によって計測された運転状態等のデータを含んでいる。予約運転制御部44は、空調操作装置24を介して予約運転が設定された場合に、運転実績記憶部42に記憶された運転実績データに基づいて、室温Trが空調完了目標時刻tendに目標室温Tsに達するように空調装置12の予約運転を制御する。なお、運転実績記憶部42は記憶部の一例であり、予約運転制御部44は制御部の一例である。
【0026】
次に第1実施形態の作用を説明する。第1実施形態において、予約運転制御部44は、予約運転が設定されている場合に、
図2に示す予約運転制御処理を行う。予約運転制御処理のステップ100において、予約運転制御部44は、ユーザにより空調操作装置24を介して設定された空調完了目標時刻tendを取得する。また、ステップ102において、予約運転制御部44は、ユーザにより空調操作装置24を介して設定された目標室温Tsを取得し、次のステップ112において、予約運転制御部44は、室温計測部38から現在の室温Trを取得する。
【0027】
ステップ115において、予約運転制御部44は、運転実績記憶部42に記憶されている運転実績データに基づいて、空調装置12の過去の運転での室温の時間変化の傾きΔTを取得する。空調装置12の運転時には、一例として
図3に示すように、室温Trは目標室温Tsとの差が漸減する時間変化を示す。また、空調装置12の運転時の室温Trの時間変化の傾きΔTは、住宅10の規模や断熱性能などの住宅10の特性に応じて変化する。
【0028】
すなわち、
図4に示すように、住宅10の規模が大きい場合は、住宅10の規模がより小さい場合と比較して、空調装置12の運転時の室温Trの時間変化の傾きΔTが小さくなる。また、
図5に示すように、住宅10の断熱性能が低い場合は、住宅10の断熱性能がより高い場合と比較して、空調装置12の運転時の室温Trの時間変化の傾きΔTが小さくなる。空調装置12の運転時の室温Trの時間変化の傾きΔTは、実際には外気温Toを始めとするその他のパラメータの影響も受けてばらつきが生ずるが、一例としてステップ115では、その他のパラメータの影響を均した平均的な傾きΔTを、例えば回帰分析等を適用して運転実績データから取得する。
【0029】
次のステップ119において、予約運転制御部44は、ステップ115で取得した傾きΔTに基づいて、ステップ112で取得した室温Trがステップ102で取得した目標室温Tsに達するタイミングを、ステップ100で取得した空調完了目標時刻tendに一致させるための運転開始時刻tstartを演算する。運転開始時刻tstartは例えば次の(1)式から算出できる。
tstart=tend-{(Ts-Tr)/ΔT} …(1)
【0030】
上記の(1)式は、空調装置12の運転時に室温Trが傾きΔTで変化すると仮定したときに、室温Trが目標室温Tsに達するタイミングを空調完了目標時刻tendに一致させるための運転開始時刻tstartを算出している。(1)式における(Ts-Tr)/ΔTは、室温Trが目標室温Tsに達するまでの所要時間に相当する。運転実績データから取得した室温Trの時間変化の傾きΔTには、住宅10の規模や断熱性能などの住宅10の特性が反映されているので、この傾きΔTを用いることで、室温Trが目標室温Tsに達するまでの所要時間が住宅10の特性に応じて変動することを考慮した運転開始時刻tstartが得られる。
【0031】
ステップ126において、予約運転制御部44は、ステップ119で演算した運転開始時刻tstartが到来したか否か判定し、判定が否定された場合は、判定が肯定される迄ステップ126を繰り返す。そして、ステップ126の判定が肯定されるとステップ128へ移行する。ステップ128において、予約運転制御部44は、室外機運転制御部20及び室内機運転制御部40による空調装置12の運転を開始させる。また、予約運転制御部44は、室温計測部38から定期的に室温Trを取得して運転実績記憶部42に新たな運転実績データとして記憶させる処理を開始し、予約運転制御処理を終了する。
【0032】
上記処理により、住宅10の規模や断熱性能などの住宅10の特性が考慮されることで、一例として
図6にも示すように、室温Trが目標室温Tsに達するタイミングを、空調完了目標時刻tendに精度良く一致させることができる。また、
図6を
図15と比較しても明らかなように、室温Trを目標室温Tsに維持させるための空調装置12の運転を空調完了目標時刻tend以前に行う必要がないので、エネルギーを無駄に消費することを抑制することができる。
【0033】
〔第2実施形態〕
次に本発明の第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態は第1実施形態と同一の構成であるので、各部分に同一の符号を付して構成の説明を省略し、第2実施形態の作用について、第1実施形態と異なる部分を説明する。
図7に示すように、第2実施形態に係る予約運転制御処理は、ステップ115が省略され、ステップ106,116,118が追加されている点で第1実施形態と相違している。
【0034】
予約運転制御処理のステップ106において、予約運転制御部44は、空調室外機14の外気温計測部18から現在の外気温Toを取得する。運転実績記憶部42に記憶されている運転実績データには、運転時の運転条件である目標室温Tsと外気温Toとの温度差(Ts-To)が相違する運転実績データが混在している。このため、ステップ116において、予約運転制御部44は、運転実績記憶部42に記憶されている運転実績データの中から、運転時の運転条件である温度差(Ts-To)が、現在の目標室温Tsと外気温Toとの温度差(Ts-To)と所定値以内の運転実績データを選択する。
【0035】
そして、ステップ118において、予約運転制御部44は、ステップ116で選択した運転実績データから、空調装置12の過去の運転での室温Trの時間変化の傾きΔTを取得する。ステップ118で取得した室温Trの時間変化の傾きΔTは、第1実施形態と同様に、ステップ119における運転開始時刻tstartの演算に用いられる。
【0036】
空調装置12を運転した際の運転効率は、外気温To、より詳しくは目標室温Tsと外気温Toとの温度差(Ts-To)に応じて変化する。そして、温度差(Ts-To)の相違に応じた運転効率の変化に伴い、空調装置12の運転時の室温Trの時間変化の傾きΔTにもばらつきが生ずる。一例として
図8に示すように、温度差(Ts-To)が大きい場合は、温度差(Ts-To)がより小さい場合と比較して、空調装置12の運転効率が低く空調装置12の運転時の室温Trの時間変化の傾きΔTが小さくなる。
【0037】
これに対して第2実施形態では、運転実績記憶部42に記憶されている運転実績データの中から、運転時の温度差(Ts-To)が現在の温度差(Ts-To)に近似する運転実績データを選択する。これにより、運転時の温度差(Ts-To)が現在の温度差(Ts-To)と乖離しているために、室温Trの時間変化の傾きΔTも今回の運転での室温Trの時間変化の傾きΔTと乖離していると推定される運転実績データは選択から除外される。そして、選択した運転実績データから室温Trの時間変化の傾きΔTを取得することで、現在の温度差(Ts-To)で運転した場合の室温Trの時間変化を高精度に表す傾きΔTが得られる。従って、温度差(Ts-To)で考慮されることで、室温Trが目標室温Tsに達するタイミングを空調完了目標時刻tendに一致させる精度を向上させることができる。
【0038】
〔第3実施形態〕
次に本発明の第3実施形態について説明する。なお、第1実施形態及び第2実施形態と同一の部分には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0039】
図9に示すように、本第3実施形態では、空調室内機34に、運転停止中温度記憶部50及び外部通信部52が追加されている。室内機運転制御部40は、空調装置12が運転を停止している期間に、室温計測部38から室温Trを取得すると共に、空調室外機14の外気温計測部18から外気温Toを取得することを定期的に繰り返す。そして、室内機運転制御部40は、取得した室温Tr及び外気温Toを運転停止中温度データとして運転停止中温度記憶部50に記憶させる。
【0040】
外部通信部52は通信線を介してネットワーク54に接続されている。ネットワーク54には様々な機器が接続されているが、ネットワーク54に接続されている様々な機器の中には、
図9に示すように、気象予測情報を送信するサービスを提供する気象予測サーバ56が含まれている。第3実施形態に係る空調装置12は、ネットワーク54及び外部通信部52を経由して、気象予測サーバ56から気象予測情報を取得する。この気象予測情報には、外気温、天候、風向、風量などの時系列の予測値が含まれている。なお、外部通信部52は受信部の一例である。
【0041】
次に
図10を参照し、第3実施形態に係る予約運転制御処理を説明する。第3実施形態に係る予約運転制御処理は、第2実施形態(
図7)と比較して、ステップ104,108,110,114が追加され、ステップ119に代えてステップ120を行う点で相違している。
【0042】
予約運転制御処理のステップ104において、予約運転制御部44は、ネットワーク54及び外部通信部52を経由して、住宅10の周辺の地域の気象予測情報を気象予測サーバ56から取得する。また、ステップ108において、予約運転制御部44は、ステップ104で取得した気象予測情報及びステップ106で取得した現在の外気温Toに基づいて、外気温Toが今後どのように推移するかを表す外気温の時系列予測値Toi(tx)を演算する。外気温の時系列予測値Toi(tx)の一例を
図11に示す。外気温の時系列予測値Toi(tx)の時間間隔(時刻txの増分)は、例えば1時間、或いはそれ以下の時間である。
【0043】
なお、気象予測情報及び外気温の実測値から外気温の時系列変化を予測する技術は公知であるので、外気温の時系列予測値Toi(tx)の演算については詳細な説明を省略する。また、第3実施形態は、気象予測サーバ56から取得する気象予測情報における外気温の予測値の時間間隔が、後述する室温の時系列予測値Tri(tx)の時間間隔よりも大きいことを前提としている。しかし、気象予測情報における外気温の予測値の時間間隔が、室温の時系列予測値Tri(tx)の時間間隔以下で、気象予測情報における外気温の予測値と外気温Toとの差が所定値以下であれば、ステップ108を省略し、気象予測情報における外気温の予測値をそのまま外気温の時系列予測値Toi(tx)として用いることも可能である。
【0044】
次のステップ110において、予約運転制御部44は、空調装置12が運転を停止している期間の室温Tr及び外気温Toの推移を表す運転停止中温度データを運転停止中温度記憶部50から取得する。ステップ110で取得される運転停止中温度データの一例を
図12に示す。また、ステップ114において、予約運転制御部44は、ステップ108で演算した外気温の時系列予測値Toi(tx)、ステップ110で取得した運転停止中温度データ及びステップ112で取得した現在の室温Trに基づいて、空調装置12を運転しない場合の室温の時系列予測値Tri(tx)を演算する。
【0045】
図12に一例を示すように、空調装置12が運転を停止している場合、外気温Toが変化すると室温Trはそれに追従して変化するものの、室温Trの変化は外気温Toの変化に対して「遅延」すると共に変化幅も「圧縮」される。この外気温Toの変化に対する室温Trの変化の「遅延」及び「圧縮」の程度は、容積や断熱性能などの住宅10の特性に応じて変化する。
【0046】
このため、ステップ114では、一例として、まず運転停止中温度データから、外気温Toの変化に対する室温Trの変化の「遅延」及び「圧縮」の大きさを算出する。例えば、或る日付の外気温Toのデータと同一日付の室温Trのデータの対から「遅延」及び「圧縮」の大きさを求めることを、運転停止中データに含まれる複数のデータ対について各々行い、その平均を「遅延」及び「圧縮」の大きさとして算出する。
【0047】
次に、外気温の時系列予測値Toi(tx)から、算出した「遅延」及び「圧縮」の大きさを適用することで、各予測時刻毎の室温Trの変化量を推定する。そして、現在の室温Trを室温の時系列予測値の初期値Tri(t0)に設定し(t0は現時刻)、現時刻より後の各予測時刻(t1,t2,…)毎に、現在の室温Trを各予測時刻における室温の推定変化量だけ変化させた値を演算することで、空調装置12を運転しない場合の室温の時系列予測値Tri(tx)が得られる。この時系列予測値Tri(tx)により、空調装置12を運転しない場合、空調完了目標時刻tendに室温Trが室温予測値Tri(tend)になることが推定できる。
【0048】
ステップ120において、予約運転制御部44は、ステップ118で取得した傾きΔTに基づき、室温Trが目標室温Tsに達するタイミングを、空調完了目標時刻tendに一致させるための運転開始時刻tstartを、空調装置12を運転しない場合の空調完了目標時刻tendでの室温予測値Tri(tend)も考慮して演算する。ステップ120における運転開始時刻tstartは例えば次の(2)式から算出できる。
tstart=tend-{(Ts-Tri(tend)/ΔT} …(2)
【0049】
住宅10の室温Trは、空調装置12を運転しない場合にも外気温To等の影響を受けて変化し、空調装置12を運転しない場合の住宅10の室温Trの変化は、空調装置12を運転する場合に住宅10の室温Trが設定された目標室温Tsに達するまでの所要時間に影響を与える。
【0050】
これに対して第3実施形態は、住宅10の周辺の地域の気象予測情報を受信し、受信した気象予測情報に基づいて、空調装置12を運転しない場合の住宅10の室温の変化を予測した室温の時系列予測値Tri(tx)を演算する。そして、空調装置12を運転しない場合の住宅10の室温の時系列予測値Tri(tx)を考慮して、空調装置12の運転開始時刻tstartを演算している。これにより、空調装置12の運転を開始してから住宅10の室温Trが設定された目標室温Tsに達するまでの所要時間が、空調装置12を運転しない場合の住宅10の室温Trに応じて変動することも考慮されることで、室温Trが目標室温Tsに達するタイミングを設定された空調完了目標時刻tendに一致させる精度を更に向上させることができる。
【0051】
〔第4実施形態〕
次に本発明の第4実施形態について説明する。なお、第4実施形態は第3実施形態と同一の構成であるので、各部分に同一の符号を付して構成の説明を省略し、第4実施形態の作用について、第1実施形態と異なる部分を説明する。
図14に示すように、第4実施形態に係る予約運転制御処理は、ステップ122,124が追加されている点で第3実施形態と相違している。
【0052】
第4実施形態に係る予約運転処理は、ステップ120で運転開始時刻tstartを演算した後、ステップ122へ移行し、ステップ122において、予約運転制御部44は、現時刻tを取得する。次のステップ124において、予約運転制御部44は、以下の第1条件及び第2条件の少なくとも一方を満足したか否か判定する。第1条件は、現在の外気温Toと、外気温の時系列予測値に含まれる現時刻での外気温予測値Toi(t)と、の差の絶対値が所定値以上、という条件である。第2条件は、現在の室温Trと、室温の時系列予測値に含まれる現時刻での室温予測値Tri(t)と、の差の絶対値が所定値以上、という条件である。
【0053】
ステップ124において、第1条件及び第2条件の何れも満足しない場合は、ステップ126へ移行し、運転開始時刻tstartが到来したか否か判定する。ステップ126の判定が否定された場合はステップ122に戻り、ステップ124又はステップ126の判定が肯定される迄、ステップ122~126を繰り返す。これにより、運転開始時刻tstartを演算した後は、演算した運転開始時刻tstartが到来する迄の間、前述の第1条件及び第2条件の少なくとも一方を満足したか否かが監視される。そして、第1条件及び第2条件の少なくとも一方を満足することなく運転開始時刻tstartが到来した場合には、ステプ126の判定が肯定されて空調装置12の運転が開始される。
【0054】
一方、例えば気象予測サーバ56から受信した気象予測が外れたなどの場合、外気温の時系列予測値Toi(tx)や室温の時系列予測値Tri(tx)の誤差が大きくなる。この場合、運転開始時刻tstartが到来する前に第1条件及び第2条件の少なくとも一方を満足することで、ステップ124の判定が肯定されてステップ104に戻り、ステップ104以降の処理を再度行う。これにより、気象予測情報が再度取得され、最新の気象予測に基づいて運転開始時刻tstartが再度演算される。従って、第4実施形態によれば、住宅10の周辺の実際の気象条件が気象予測と相違したなどの場合に、室温Trが目標室温Tsに達するタイミングを空調完了目標時刻tendに一致させる精度が低下することを抑制することができる。
【0055】
なお、上述した各実施形態において、ステップ128で空調装置12の運転を開始するよりも前の空調装置12の状態は、運転を停止している状態に限られるものではない。例えば住宅10の全館空調等では、住宅10が無人であってもエネルギー消費量を抑制した省エネ運転を行うことがあり、ステップ128で空調装置12の運転を開始する処理は、省エネ運転から目標室温Tsを目標とする通常運転へ移行する処理であってもよい。
【0056】
また、上述した各実施形態は、空調装置12が運転している間の室温Trの時間変化の傾きΔTが一定であることを前提として説明したが、傾きΔTが一定であることに限定されるものではない。例えば、目標室温Tsと室温Trとの差に応じて傾きΔTが変化する場合には、一例として、(Ts-Tr)=0~(Ts-Tr)の温度範囲を複数の区間に区切り、各区間毎の傾きΔTを運転実績データから取得してもよい。この場合、取得した各区間毎の傾きΔTから各区間毎の所要時間を求め、各区間毎の所要時間を積算することで、室温Trが目標室温Tsに達するまでの所要時間を演算することができる。
【符号の説明】
【0057】
10 住宅
12 空調装置
14 空調室外機
18 外気温計測部
20 室外機運転制御部
34 空調室内機
38 室温計測部
40 室内機運転制御部
42 運転実績記憶部(記憶部)
44 予約運転制御部(制御部)
50 運転停止中温度記憶部
52 外部通信部(受信部)