(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】発泡体積層シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 43/58 20060101AFI20220530BHJP
B32B 5/32 20060101ALI20220530BHJP
B29C 43/30 20060101ALI20220530BHJP
B29C 43/46 20060101ALI20220530BHJP
B29K 23/00 20060101ALN20220530BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20220530BHJP
B29L 9/00 20060101ALN20220530BHJP
B29K 105/04 20060101ALN20220530BHJP
【FI】
B29C43/58
B32B5/32
B29C43/30
B29C43/46
B29K23:00
B29L7:00
B29L9:00
B29K105:04
(21)【出願番号】P 2018082471
(22)【出願日】2018-04-23
【審査請求日】2021-02-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】奥村 直也
(72)【発明者】
【氏名】志村 繁康
(72)【発明者】
【氏名】小林 幹晴
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-029371(JP,A)
【文献】特開2013-209612(JP,A)
【文献】特公昭55-045375(JP,B2)
【文献】特開平02-196618(JP,A)
【文献】米国特許第04548775(US,A)
【文献】特許第6025827(JP,B2)
【文献】特開2013-100459(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108032478(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/00-43/58
B32B 1/00-43/00
C08J 9/00- 9/42
B29C 44/00-44/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡体積層シートの製造方法であって、
複数の発泡シートを積層して、積層体を成形する積層工程と、
前記積層体を、前記積層体を構成する前記複数の発泡シートの軟化点以上融点以下の温度にて熱圧着する熱圧着工程と、
を含み、
前記積層体を構成する前記複数の発泡シートの各ペアの層の接触面において、一方または両方の前記発泡シートがスキン層を有しない、発泡体積層シートの製造方法。
【請求項2】
発泡体積層シートの製造方法であって、
複数の発泡シートを積層して、積層体を成形する積層工程と、
前記積層体を、前記積層体を構成する前記複数の発泡シートの軟化点以上融点以下の温度にて熱圧着する熱圧着工程と、
を含み、
前記熱圧着工程が、熱ロール法による熱圧着である、発泡体積層シートの製造方法。
【請求項3】
前記積層体を構成する前記複数の発泡シートの各ペアの層の接触面において、一方または両方の前記発泡シートがスキン層を有しない、請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
前記積層体を構成する前記複数の発泡シートの一部または全部が、複数の発泡シート分割物となるように発泡シート原反を厚み方向に分割して得られたものである、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記発泡シート原反が、少なくとも樹脂を含む樹脂組成物を発泡させて得られるシートであり、
常温常圧で気体である物質の超臨界状態又は亜臨界状態が維持される条件下にて、溶融した前記樹脂組成物に前記物質を超臨界状態又は亜臨界状態で含浸させる含浸工程と、
前記物質を含浸した前記樹脂組成物を、前記物質の超臨界状態又は亜臨界状態が維持されない条件下に配することにより、前記樹脂組成物を発泡させる発泡工程と
を含む発泡シート製造工程により得られたものである、請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記発泡シートの前記スキン層を有しない表面において、気泡径10~200μmの気泡が、100(個/mm
2)以上1000(個/mm
2)未満存在する、請求項
1又は3に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡体積層シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シート状に成形された発泡体(発泡シート)は、通常、高いクッション性や凹凸への良好な追従性を有する。更には、発泡シートは、所謂独立気泡発泡構造を採用することで気密性を高めること(所謂連続気泡発泡構造を採用することで透水性や通気性を高めること)だけでなく、所定の添加剤を加えることにより、導電性、熱伝導性、親水性等を向上させること等が可能である。このように、発泡シートは、使用される状況や用途に応じて種々の特性を付与することが可能な機能性材料である。
【0003】
ここで、発泡シートは、通常、発泡体の原料となる組成物をシート状に成形する過程にて、シートの両側の表面に気泡のないスキン層(表皮層ともいう。)が成形される。このスキン層は、密度が重いため硬く、クッション性や細かな凸凹への追従性の低下を招く。従って、クッション性や凹凸への追従性を担保するために、割り加工等でスキン層を分割及び除去して、スキン層を有しない芯部分のみを発泡シートとして使用する場合がある。
【0004】
特許文献1では、発泡前のクッション材の構成材料と発泡前の発泡樹脂基材の構成材料とを同時に押出成形して積層し、押出成形と同時あるいは直後に、クッション材と発泡樹脂基材とを同時に発泡させることで、十分な発泡倍率を有しながらも反りや曲がり、捻れといった変形を生じることがなく、特別に効果な材料を必要とせずに、かつ、クッション材の積層も効率的に行うことが可能な発泡樹脂成形体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法に従って発泡シートを成形した際、ピンホール(シートの厚み方向を貫通して存在する気泡)の存在を含めた構造的なムラが生じてしまい、外観だけでなく機械的性質にも問題が生じる場合があった。
【0007】
そこで本発明は、ピンホールを含めた構造的なムラが生じ難い発泡シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に基づき鋭意研究を行い、複数の発泡シートに特定の処理を施し発泡体積層シートとすることにより、上記課題を解決可能なことを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は以下の通りである。
【0009】
本発明(1)は、
発泡体積層シートの製造方法であって、
複数の発泡シートを積層して、積層体を成形する積層工程と、
前記積層体を、前記積層体を構成する前記複数の発泡シートの軟化点以上融点以下の温度にて熱圧着する熱圧着工程と、
を含む、発泡体積層シートの製造方法である。
本発明(2)は、
前記積層体を構成する前記複数の発泡シートの各ペアの層の接触面において、一方または両方の前記発泡シートがスキン層を有しない、前記発明(1)の製造方法である。
本発明(3)は、
前記積層体を構成する前記複数の発泡シートの一部または全部が、複数の発泡シート分割物となるように発泡シート原反を厚み方向に分割して得られたものである、前記発明(1)又は(2)の製造方法である。
本発明(4)は、
前記発泡シート原反が、少なくとも樹脂を含む樹脂組成物を発泡させて得られるシートであり、
常温常圧で気体である物質の超臨界状態又は亜臨界状態が維持される条件下にて、溶融した前記樹脂組成物に前記物質を超臨界状態又は亜臨界状態で含浸させる含浸工程と、
前記物質を含浸した前記樹脂組成物を、前記物質の超臨界状態又は亜臨界状態が維持されない条件下に配することにより、前記樹脂組成物を発泡させる発泡工程と
を含む発泡シート製造工程により得られたものである、前記発明(3)の製造方法である。
本発明(5)は、
前記発泡シートの前記スキン層を有しない表面において、気泡径10~200μmの気泡が、100(個/mm2)以上1000(個/mm2)未満存在する、前記発明(1)~(5)のいずれかの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ピンホールを含めた構造的なムラが生じ難い発泡シートを提供することが可能となる。
【0011】
また、本発明によれば、発泡体の厚みが制約された条件においても、追従性や機械的性質等の設計に関する自由度を向上させることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施例におけるシートの積層方法及び熱圧着方法の概略図である。
【
図2】
図2は、実施例における180°剥離強度の測定方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る発泡体積層シートの製造方法について詳述するが、本発明はこれには何ら限定されない。
【0014】
<<<発泡体積層シートの製造方法>>>
本発明に係る発泡体積層シートの製造方法は、複数の発泡シートを積層して、積層体を成形する積層工程と、積層体を構成する複数の発泡シートの軟化点以上融点以下の温度にて積層体を熱圧着する熱圧着工程と、少なくとも含む。また、積層体を構成する複数の発泡シートの一部または全部が、発泡シート製造工程により得られたものであることが好ましく、また、発泡シート原反を厚み方向に分割する発泡シート分割工程により得られたものであることが好ましい。本発明に係る発泡体積層シートの製造方法は、必要に応じてその他の工程を含んでいてもよい。
【0015】
ここで、発泡シートとは、シート状に成形された発泡構造体を示す。いわゆるシートとは、最小単位としては薄い紙などの1枚を指す。さらに、敷布や雨よけなどに使う大きな防水布なども含まれる。本発明の発泡シートにおいては、その製造方法は限定されない、金型でバッチ処理して一つ一つ作られるものについても、押出機により連続的に製造される長尺反物形状であってもよい。
【0016】
なお、シート状に成形された発泡体であれば、発泡シート分割工程に供される発泡シート(発泡シート原反)、発泡シート分割工程により得られた発泡シート(発泡シート分割物)、発泡体積層シート等を、単に「発泡シート」と表現する場合がある。また、一部の工程において、発泡シートがロール状に巻き取られていてもよい。
【0017】
なお、本発明における発泡シートは、連続気泡発泡体であってもよいが、独立気泡発泡体であることが好ましい。なお、ここで示す独立気泡発泡体とは、完全に全ての気泡が独立しているもののみを示すのではなく、一部の気泡が隣接する気泡と連通していてもよく、全体として独立気泡発泡体と解される程度に、各気泡が独立していればよい。また、本発明の効果を阻害しない範囲内で、独立気泡発泡体である発泡シートに、更に連続気泡体である発泡シートが積層されてもよい。
【0018】
以下、上述したそれぞれの工程について説明する。
【0019】
<<発泡シート製造工程>>
発泡シート製造工程は、積層工程又は発泡シート分割工程で使用される発泡シートを製造する工程であり、従来公知の発泡シート製造工程を適用可能である。発泡シート製造工程としては、超臨界発泡法を使用することが好ましい。
【0020】
以下、超臨界発泡法を使用した発泡シートの製造工程を説明した後に、その他の発泡法を使用した発泡シートの製造工程について説明する。
【0021】
なお、発泡シート製造工程により得られた発泡シートは、通常、両側の表面にスキン層を有する。本発明においてスキン層とは、発泡シートの厚み方向において表層側に形成される、比較的低発泡高密度となる層を意味する。
【0022】
<超臨界発泡法を使用した発泡シートの製造工程>
超臨界発泡法を使用した発泡シートの製造工程としては、樹脂組成物を溶融させる溶融工程と、常温常圧で気体である物質の超臨界状態又は亜臨界状態が維持される条件下にて、溶融した樹脂組成物に超臨界状態又は亜臨界状態の物質(超臨界物質)で含浸させる含浸工程と、超臨界物質を含浸した樹脂組成物を超臨界物質の超臨界状態が維持されない条件下に配することにより、樹脂組成物を発泡させる発泡工程と、を含む。また、発泡後、溶融状態である樹脂組成物を冷却し結晶化させる冷却工程を含んでもよい。なお、これらの工程は、その一部又は全部が同時に実行されてもよい。
【0023】
(溶融工程)
本形態に係る溶融工程は、樹脂組成物を溶融させる工程である。
【0024】
樹脂組成物としては、熱可塑性ポリオレフィン樹脂と熱可塑性エラストマーとを含むことが好ましい。またこの場合、溶融工程は、ポリオレフィン樹脂及び熱可塑性エラストマーのいずれもが溶融する条件で実施される。
【0025】
熱可塑性ポリオレフィン樹脂は、特に限定されず、オレフィンの単独重合体でも共重合体(ランダムでもブロックでもよい)でもよく、更には一種であっても二種以上を組み合わせたものでもよい。例えば、ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、エチレン- プロピレン共重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体、ポリメチルペンテン、環状オレフィン樹脂、ポリオレフィンに極性基を導入したもの(例えば、エチレンビニルアセテート)の一種又は二種以上の組み合わせが挙げられる。
【0026】
熱可塑性エラストマーは、特に限定されず、例えば、オレフィン系エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系エラストマー、エステル系エラストマー等を挙げることができる。
【0027】
また、樹脂組成物は、発泡核剤や他の熱可塑性ポリマー等の公知の成分を含んでいてもよい。
【0028】
各成分の配合量は、その用途に応じて適宜変更可能である。
【0029】
溶融工程後に超臨界状態又は亜臨界状態の物質を添加して混練するため、溶融工程においても、当該物質が超臨界状態であることが担保される温度及び圧力であることが好ましい。
【0030】
(含浸工程)
含浸工程は、常温常圧で気体である物質の超臨界状態又は亜臨界状態が維持される条件下にて、溶融した樹脂組成物に前記物質を超臨界状態又は亜臨界状態で含浸させる工程である。
【0031】
このような超臨界状態又は亜臨界状態では、溶融樹脂への溶解度がより増大し、高濃度での前記物質の混入が可能となる。この結果、急激な圧力降下時には、前記物質が高濃度であるために気泡核の発生が多くなる。
【0032】
更には、分子レベルで溶け込んだ物質が気化するため、出来る気泡が微細である。その結果、その気泡核が成長してできる気泡の密度が、気孔率が同じであっても他の状態の場合より大きくなる。
【0033】
常温で気体である物質は、常温(JISZ8703で規定される常温、具体的には5℃以上35℃以下)、常圧(特別に減圧も加圧もしないときの圧力、具体的には例えば86kPa以上106kPa以下の圧力)下で気体である限り特に限定されないが、好適には、不活性ガス、例えば、二酸化炭素又は窒素であり、より好適には、ポリオレフィン系樹脂への含浸量を多くすることができる二酸化炭素である。
【0034】
常温常圧で気体である物質として二酸化炭素を選択した場合、二酸化炭素の臨界温度は31℃、臨界圧力は7.4MPaである。よって、二酸化炭素を選択した場合には、温度に関しては、50~250℃の範囲内とすることが好適であり、90~230℃の範囲内とすることがより好適であり、圧力に関しては、8~40MPa程度の範囲内とすることが好適であり、10~30MPaの範囲内とすることがより好適である。
【0035】
(発泡工程)
本形態に係る発泡工程は、常温常圧で気体である物質を含浸した樹脂組成物を、当該物質の超臨界状態が維持されない条件下に配することにより、樹脂組成物を発泡させる工程である。
【0036】
例えば、内部が高温(例えば、155~180℃程度)・高圧である押出成形機から、当該物質を含浸した樹脂組成物を口金を介して押し出す{例えば長尺シート(例えば1mm厚前後)に連続的に押し出す}ことにより実施する。すなわち、樹脂組成物をシート状に成形しながら発泡させる。口金は、Tダイもしくは環状ダイを用いることができる。
【0037】
樹脂組成物に、常温常圧で気体である物質を高圧下で溶解させることで、分子レベルで均一に気泡核を分散させた後、常圧下で圧力が解放されると、内部から発泡し微細な気泡が形成される。すなわち、樹脂組成物の圧力下における溶解度差を利用することで微細な気泡が形成される。
【0038】
尚、発泡工程では、圧力を解放しさえすればよく、単に押出成形機から樹脂組成物を押し出すだけで当該樹脂組成物に印加される圧力が大気圧程度まで低下するため、減圧装置が不要である。
【0039】
なお、このような超臨界発泡法を使用した発泡シートの製造工程としては、より具体的には、特許6025827に記載された方法を適用してもよい。
【0040】
<その他の発泡法を使用した発泡シートの製造工程>
その他の発泡法を使用した発泡シートの製造工程としては、公知の方法を適用可能である。例えば、水系液体分散媒と、水分散性樹脂と、起泡剤と、を少なくとも含む液状原料混合物を得る工程である原料調製工程と、液状原料混合物を発泡させる発泡混合物を得る発泡工程と、発泡混合物をシート状に成形するシート成形工程と、発泡混合物中の分散媒を蒸発させる乾燥工程と、を含む製造工程が挙げられる。なお、これらの工程は、その一部又は全部が同時に実行されてもよい。
【0041】
液状原料混合物の原料としては、公知のものを使用すればよく特に限定されない。
【0042】
液状原料混合物の発泡手段としては、特に限定されず、公知の発泡手段を用いればよい。このような発泡手段としては、例えば、化学反応によりガスが発生する発泡剤を配合することで気泡を成形する方法、高圧下で適宜のガスを液状原料混合物に溶解させた後に圧力を低下させる又は加熱を行うことで気泡を成形する方法、液状原料混合物に混合した可溶性の物質を除去し空隙として気泡を成形する方法、空気や適宜のガスが抱き込まれるように液状原料混合物を機械的に撹拌する方法(メカニカルフロス)等が挙げられる。
【0043】
発泡工程における発泡条件(温度、時間等)は、使用する発泡手段に応じて適宜変更可能であり、発泡密度等も、積層工程で必要とされる発泡シートの物性等に応じて適宜変更可能である。
【0044】
発泡混合物をシート状に成形する手段としては、特に限定されず、公知の手段を用いればよい。例えば、ドクターナイフ、ドクターロール等を用いた塗工が挙げられる。また、押出機や射出成形機を使用することで、発泡混合物をシート状に成形してもよい。
【0045】
乾燥工程における乾燥条件は、発泡混合物の条件や発泡方法によって適宜設計すればよい。
【0046】
発泡シート製造工程により得られた発泡シートは、発泡シート分割工程を経て又は経ないで積層工程に供される。
【0047】
<<発泡シート分割工程>>
発泡シート分割工程は、原料となる発泡シート(発泡シート原反)を厚み方向に分割し、複数の発泡シート分割物を得る工程である。
【0048】
より具体的には、発泡シート原反が上述した発泡シート製造工程によって得られた両側の表面にスキン層を有する発泡シートである場合、発泡シート分割工程は、片面の表面のみにスキン層を有する2枚の発泡シートに分割する工程(発泡シート原反を2分割する工程)、又は、片面の表面のみにスキン層を有する2枚の発泡シート及びスキン層を有しない1枚以上の発泡シートに分割する工程(発泡シート原反を3つ以上に分割する工程)である。
【0049】
発泡シート分割工程で用いられる発泡シート原反は、特に限定されず、一般的な発泡シートであればよいが、上述の発泡シート製造工程により得られた発泡シートであることが好ましい。
【0050】
発泡シートの分割方法としては特に限定されず、例えばバンドマシン、スライサー等を用いることができる。
【0051】
発泡シートを分割物の厚みは特に限定されず、後述する積層工程で必要とされる発泡シートの厚みや、分割元となる発泡シート原反の厚みに応じて適宜変更可能である。
【0052】
発泡シート分割工程は、発泡シート原反から、片面又は両面のスキン層のみを除去する工程であってもよい。
【0053】
このような発泡シート分割工程を実行することで、所定の厚み及び密度を有しつつも、片面のみにスキン層を有する発泡シートや、両面にスキン層を有しない発泡シート等を準備することができる。
【0054】
なお、発泡シート分割工程においては、通常の発泡シートよりも厚みのある発泡体を原反としてもよい。この場合、発泡シート分割物が、積層工程にて求められる程度の厚みとなるように、分割数を増加させればよい。
【0055】
<<積層工程>>
積層工程は、複数の発泡シートを積層して、積層体を成形する工程である。
【0056】
ここで、積層体を構成する複数の発泡シートの各ペアの層の接触面(例えば、上側に配される発泡シートと下側に配される発泡シートとの接触面)において、一方または両方の前記発泡シートがスキン層を有しないことが好ましい。換言すれば、(1)発泡シートの各ペアのうち、少なくとも一方の発泡シートが両側の表面にスキン層を有しない発泡シートである形態、(2)発泡シートの各ペアのうち、少なくとも一方の発泡シートが片側の表面のみにスキン層を有する発泡シートであり、この発泡シートのスキン層を有しない表面を他方の発泡シートに接触させるように積層する形態、のいずれかであることが好ましい。このような構成とすることにより、後述する熱圧着工程において、発泡シート間に気泡が留まることを防止し、成形性や界面接着性を向上させることが可能となる。なお、このような効果をより高めるためには、発泡シートのスキン層を有しない表面において、気泡径10~200μmの気泡が、100(個/mm2)以上1000(個/mm2)未満存在することが好ましい。さらに、50~150μmの気泡が存在するのが、より好ましい。
【0057】
なお、追従性を向上させるためには、最外層にスキン層を配さない積層体とすることが好ましい。
【0058】
積層方法は特に限定されず、ある発泡シートの上に別の発泡シートを載せるだけでもよいし、これらを仮留めしてもよい。
【0059】
積層体を構成する発泡シートの枚数(積層数)は特に限定されず、2枚の発泡シートを使用してもよいし、3枚以上の発泡シートを使用してもよい。3枚以上積層することで、ピンホールを含めた構造的なムラが生じ難く、光等の遮蔽性が向上する。また、積層する発泡シートの密度は、各々異なっていてもよい。特に連続気泡体である発泡シートを含む発泡体積層シートとした場合、シート厚み方向の密度勾配がつくことで圧力損失を制御することができる。
【0060】
<<熱圧着工程>>
熱圧着工程は、積層工程によって得られた積層体を構成する各発泡シートの軟化点以上融点以下の温度にて、各発泡シートの熱圧着を実行する工程である。このような熱圧着工程を経ることで、発泡シートの発泡構造をある程度維持したまま、複数の発泡シートを一体化させることができる。
【0061】
熱圧着の方法としては特に限定されず、公知の方法を使用可能であり、例えば熱ロール等が挙げられる。熱ロール法では、2枚の発泡シートを積層して繰り出し、接着面を接触させた状態で、加熱した2本のローラの間を通過させることで熱溶着を行う。その他、熱溶着には、熱風溶着法、熱鏝(こて)溶着法、熱板溶着法、高周波ウエルダー溶着法などを用いることができる。
【0062】
熱圧着の条件としては、少なくとも各発泡シート同士の接触表面において、各発泡シートの軟化点以上融点以下(融点未満)の温度となるように制御されていればよい。加熱温度は、より具体的には、各発泡シートの軟化点よりも5~40℃高く、各発泡シートの融点よりも10~45℃低い温度であることが好ましい。
【0063】
具体的には、好ましくは160℃未満、より好ましくは110℃以上150℃以下で熱圧着される。
【0064】
加熱時間としては特に限定されないが、例えば、カレンダーロールで圧着する場合には、0.085~0.15秒等である。
【0065】
なお、熱圧着の際の加圧条件については、使用する発泡シートの厚み、及び、形成する発泡体積層シートの厚みに応じて適宜変更可能である。例えば、比較的弱い圧力にて熱圧着した場合、各発泡シートの合計の厚みとあまり変わらない厚みを有する発泡体積層シートとすることができるし、比較的強い圧力にて熱圧着した場合、任意の厚みに圧縮された発泡体積層シートとすることができる。加圧条件は、例えば、ロール間の距離を調整する等の適宜の方法により変更できる。
【0066】
この熱圧着工程において、各発泡シート間の界面が消失してもよいし、消失しなくてもよい。
【0067】
なお、積層工程(積層体の成形)と熱圧着工程とは、各工程の一部又は全部が同時に実行されてもよい。例えば、ロール状の複数の発泡シートを各々上下方向から引き出しつつ、それらがロールに引張られるようにロール間に挟み熱ロールすることで、積層工程と熱圧着工程とが同時に実行される場合がある。また、予め発泡シートの少なくとも表面を加熱することで発泡シートを軟化点以上融点以下の温度に維持し、その状態で発泡シート同士を積層及び加圧することで、積層工程と熱圧着工程の一部が同時に実行される場合がある。
【0068】
更に、積層工程及び熱圧着工程は、各々複数回実行されてもよい。例えば、積層工程及び熱圧着工程を経て成形された発泡体積層シートに、更に別の発泡シートを積層させた後に熱圧着し、積層数を増加させた発泡体積層シートを成形してもよい。
【0069】
上述のような積層工程及び熱圧着工程を実行し、複数の発泡シートを積層させて一体化させることで、各発泡シートのシート毎のバラツキが平均化され、構造的なムラが発生し難くなる。具体的には、ある発泡シートにピンホールが存在していたとしても、別の発泡シートがそのピンホールを覆うことになるため、ピンホールの発生を顕著に抑制することができる。
【0070】
また、上述のような積層工程及び熱圧着工程を実行することで、複数の発泡シート毎の材質、密度、厚み、スキン層の有無、積層体中のスキン層の配し方(各発泡シートの層間にスキン層を配するか、積層体の最外層となるようにスキン層を配するか)等、設定可能なパラメーターが増加する。更に、これらは簡易に設定可能であるため、追従性や機械的性質等の設計に関する自由度が向上する。
【0071】
<<その他の工程>>
本発明の効果を阻害しない範囲で、その他の工程として、上述した各工程の前後又は各工程中に、各シートをせん断したり穿孔を行う加工工程、各シートの表面を洗浄したり表面処理(コロナ放電処理、帯電防止処理、ブロッキングの防止加工等)を行う処理工程、適宜の環境(所定の温度や湿度等)にて各シートを保持する保存工程、等を実行してもよい。
【0072】
<<<発泡体積層シートの用途>>>
上述の製造方法によって得られた発泡体積層シートの用途としては、特に限定されず、電子機器用の衝撃吸収シート用、薄肉断熱シート用、防水ガスケット用、両面テープ基材用等として好適である。
【実施例】
【0073】
<<第1の実施例>>
<実施例1-1>
ランダムポリプロピレンを含むポリプロピレン樹脂コンパウンドと低密度ポリエチレンとを含有するオレフィン樹脂を含むペレットを、タンデム式の単軸押出機に投入し1つ目の押出機で溶融させるとともに、超臨界状態とした二酸化炭素を上記ペレットが溶融した樹脂組成物に含浸させ、2つ目の押出機へ送り出した。
【0074】
このように超臨界二酸化炭素が含浸した溶融樹脂組成物を、2つ目の押出機の口金から吐出し、一気に圧力を解放することで、口金表面でせん断力が加わったスキン層を有する発泡体シート(発泡シート原反)を得た。口金はサーキュラー・ダイであり、発泡体はシートとなって連続的に製造され、長尺の発泡シート原反としてロール状に巻き取られる。
【0075】
ついで、得られた発泡体シート原反の幅よりも大きい幅の切削刃を用意した。巻戻すシャフトに上記ロール状の発泡体シート原反を取り付け、発泡体シート原反のスキン層と発泡中間層との間に、上記切削刃をあてがい、上記長尺シートをスキン層と、片面にスキン層が残る発泡中間層の2枚の長尺シート(発泡シート分割物)に分離した(スカイビング加工)。スカイビング加工後の各々の長尺シートをロールに巻取り、発泡中間層が片面に露出した長尺シートを得た。
【0076】
そして、この片面にスキン層、他面に発泡中間層が露出した長尺シートに、上記スカイビング加工を再度施すことにより、2面とも発泡中間層が露出したスライス・シートを得た。
【0077】
スカイビング加工の有無及び実行回数により、発泡シート原反(両面にスキン層を有する発泡シート)、片面スライス品(片面のみにスキン層を有する発泡シート)、及び、両面スライス品(スキン層を有しない発泡シート)、の3種類の発泡シートを準備可能である。
【0078】
実施例1-1では、元厚2.0mmの発泡体シート原反から、厚み0.35mmのスライス・シート(両面スライス品)を2枚製造した。
【0079】
図1に示すように、上記2枚のスライス・シートを原料発泡シートとして、2段の繰出機にそれぞれセットした。次いで、2枚の原料発泡シートが重なった状態で2本のカレンダロール(加熱ロール)の間に通して熱圧着を行い、発泡体積層シートを製造した。この時のカレンダーロールの表面温度(加工温度)は130℃、シートの送り速度は5m/分、ロール間のギャップは0.07mmとした。なお、製造した発泡体積層シートを、巻取機でロール状に巻き取った。
【0080】
成形後の発泡体積層シートの厚みは、0.07mmであった。
【0081】
<実施例1-2~1-6、比較例1-1~1-3>
実施例1-1と同様にして、熱圧着に使用する発泡シートの種類(発泡シート原反、片面スライス品又は両面スライス品)、及び、各発泡シートの厚みを設定した上で、発泡シートの熱圧着を行い、実施例1-2~1-6、及び、比較例1-1~1-3に係るシートを得た。
【0082】
以下に、各実施例及び各比較例に係るシートの製造に使用した、発泡シートの種類、及び、発泡シートの厚み、並びに、熱圧着後の各実施例及び各比較例に係るシートの厚みを示す。なお、片面スライス品に関しては、積層時にどの面を接触面としたかをあわせて示す。また、各実施例及び各比較例に係る発泡体積層シートの製造における熱圧着時の加工温度及び送り速度を表1に示す。
【0083】
(実施例1-1)
・発泡シート
両面スライス品(スキンレス) 厚み0.35mm
両面スライス品(スキンレス) 厚み0.35mm
・熱圧着後の厚み 0.07mm
(実施例1-2)
・発泡シート
両面スライス品(スキンレス) 厚み0.35mm
両面スライス品(スキンレス) 厚み0.35mm
・熱圧着後の厚み 0.1mm
(実施例1-3)
・発泡シート
両面スライス品(スキンレス) 厚み0.4mm
両面スライス品(スキンレス) 厚み0.4mm
・熱圧着後の厚み 0.15mm
(実施例1-4)
・発泡シート
片面スライス品(片面スキン) 厚み0.4mm
両面スライス品(スキンレス) 厚み0.8mm
片面スライス品のスキン面が両面スライス品と接触するように配置した。
・熱圧着後の厚み 0.15mm
(実施例1-5)
・発泡シート
片面スライス品(片面スキン) 厚み0.4mm
両面スライス品(スキンレス) 厚み0.5mm
片面スライス品のスキン面が両面スライス品と接触するように配置した。
・熱圧着後の厚み 0.2mm
(実施例1-6)
・発泡シート
両面スライス品(スキンレス) 厚み0.9mm
両面スライス品(スキンレス) 厚み0.9mm
・熱圧着後の厚み 0.2mm
(比較例1-1)
・発泡シート
両面スライス品(スキンレス) 厚み0.6mm
・熱圧着後の厚み 0.1mm
(比較例1-2)
・発泡シート
両面スライス品(スキンレス) 厚み0.8mm
・熱圧着後の厚み 0.15mm
(比較例1-3)
・発泡シート
両面スライス品(スキンレス) 厚み0.8mm
・熱圧着後の厚み 0.2mm
【0084】
表1に、得られた各シートの、厚み、密度、気泡径、気泡数、坪量を示す。
【0085】
なお、各発泡シート原反は、厚みを調整したこと以外は実施例1-1と同様にして製造した。
【0086】
更に、発泡シート原反の製造条件、スカイビング加工の条件を変更することにより、これらの発泡シートを所望の厚みとした。
【0087】
熱圧着後のシートの厚みは、最下流のローラのギャップを変更することで調整した。
【0088】
<評価>
(外観試験)
100cm2の範囲にてシートの外観の観察を行った。ピンホール/透けが無い場合を○とし、ピンホール/透けが有る場合を×とした。なお、シートを貫通するφ1mm以上の空孔をピンホールとした。また、透けの有無は、目視検査用の透写台、ライトテーブルを用いた。テーブルの上に、試験片を置き、裏面から光源を当てた状態で、反対面への光の漏れを目視判定によって判断した。
【0089】
【0090】
<<第2の実施例>>
<実施例2-1~2-3、参考例2-1~2-3>
第1の実施例と同様にして、実施例2-1~2-3、参考例2-1~2-3に係るシートを得た。
【0091】
以下に、各実施例及び各参考例に係るシートの製造に使用した、発泡シートの種類、及び、発泡シートの厚み、並びに、熱圧着後の各実施例及び各比較例に係るシートの厚みを示す。なお、片面スライス品に関しては、積層時にどの面を接触面としたかをあわせて示す。また、各実施例及び各参考例に係る発泡体積層シートの製造における熱圧着時の加工温度及び送り速度を表2に示す。
【0092】
(実施例2-1)
・発泡シート
発泡シート原反(両面スキン) 厚み1.6mm
両面スライス品(スキンレス) 厚み0.9mm
・熱圧着後の厚み 0.2mm
(実施例2-2)
・発泡シート
両面スライス品(片面スキン) 厚み1.3mm
両面スライス品(片面スキン) 厚み1.3mm
両外側にスキン面がくるように配置した。
・熱圧着後の厚み 0.2mm
(実施例2-3)
・発泡シート
両面スライス品(片面スキン) 厚み1.3mm
両面スライス品(片面スキン) 厚み1.3mm
両外側にスキン面がくるように配置した。
・熱圧着後の厚み 0.25mm
(参考例2-1)
・発泡シート
発泡シート原反(両面スキン) 厚み1.6mm、1枚
・熱圧着後の厚み 0.15mm
(参考例2-2)
・発泡シート
発泡シート原反(両面スキン) 厚み1.6mm、1枚
・熱圧着後の厚み 0.2mm
(参考例2-3)
・発泡シート
発泡シート原反(両面スキン) 1.6mm、1枚
・熱圧着後の厚み 0.25mm
【0093】
表2に、得られた各シートの、厚み、密度、気泡径、気泡数、坪量を示す。
【0094】
<評価>
(180°剥離強度測定方法)
以下の条件にて180°剥離強度の測定を行った。評価結果を表2に、測定方法の概略を
図2に示す。
サンプルの両面に両面粘着テープ(3M製9671LE、t50μm)をそれぞれ貼り合わせる。
片面に裏打ち材として、25μm厚みのPETフィルムを貼り合わせて試験片とする。
試験片を10mm巾に打ち抜いた後、被着体としてステンレス板と貼り合わせる。
(粘着面長さ60mm)その際は、常温環境下で2kgローラーで1往復させ、被着面の空気を抜いた後、30分間放置して養生させる。試験は、引張試験機(オートグラフ:島津製作所製)にて、
図1の様に180°剥離となるように設置した後、1,000mm/minの速度で引張り、剥離強度を測定した。
試験片 : 10mm幅
裏打ち材: PET#25
圧着方法: 2kgローラー1往復
圧着温度: 23℃/50%RH
養生条件: 23℃/50%RH×30min
引張速度: 1,000mm/min
引張角度: 180°
測定温度: 23℃/50%RH
【0095】
なお、実施例2-1~2-3に係るシートは、ピンホールや透けが確認されなかった。
【0096】