(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】りんご果実粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 19/00 20160101AFI20220530BHJP
【FI】
A23L19/00 Z
(21)【出願番号】P 2018092657
(22)【出願日】2018-05-14
【審査請求日】2021-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】301061230
【氏名又は名称】柳沢 菊二
(74)【代理人】
【識別番号】100128794
【氏名又は名称】小林 庸悟
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 菊二
【審査官】安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2018-0011596(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第103039890(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106382791(CN,A)
【文献】特開平03-091454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
種子や内果皮を含めたりんご果実を細分化する細分化工程と、
前記りんご果実に存在する酵素を完全に不活性化することがない条件で蒸気によって加熱する蒸し工程と、
前記酵素を活性化する温度で、前記りんご果実の酵素分解を促進させると共に乾燥を促進させるように、雑菌の増殖による腐敗が生じない時間内の範囲で寝かす熟成乾燥工程と、
前記酵素を不活性化させる温度で乾燥を高めて雑菌の繁殖を阻止するように加熱する不活性化加熱乾燥工程と、
粉末状に細分化度を高める粉末化工程とを有
し、
前記蒸し工程は、90℃以下の加熱で10分以内に行われ、
前記熟成乾燥工程は、60℃以下の加熱で24時間以内に行われ、
前記不活性化加熱乾燥工程は、80℃以上の加熱によって行われることを特徴とするりんご果実粉末の製造方法。
【請求項2】
種子や内果皮を含めたりんご果実を細分化する細分化工程と、
前記りんご果実に存在する酵素を完全に不活性化することがない条件で蒸気によって加熱する蒸し工程と、
前記酵素を活性化する温度で、前記りんご果実の酵素分解を促進させると共に乾燥を促進させるように、雑菌の増殖による腐敗が生じない時間内の範囲で寝かす熟成乾燥工程と、
前記酵素を不活性化させる温度で乾燥を高めて雑菌の繁殖を阻止するように加熱する不活性化加熱乾燥工程と、
粉末状に細分化度を高める粉末化工程とを有
し、
前記蒸し工程は、90℃以下の加熱で10分以内に行われ、
前記熟成乾燥工程は、60℃以下の加熱で24時間以内に行われ、
前記不活性化加熱乾燥工程は、80℃以上の加熱と、焙煎によって行われることを特徴とするりんご果実粉末の製造方法。
【請求項3】
前記焙煎は、30秒前後の時間内に行われることを特徴とする
請求項2記載のりんご果実粉末の製造方法。
【請求項4】
前記細分化工程は、スライスすることによって行われることを特徴とする
請求項1~3のいずれかに記載のりんご果実粉末の製造方法。
【請求項5】
前記粉末化工程は、前記不活性化加熱乾燥工程によって処理された後のりんご果実を冷却した状態で行われることを特徴とする
請求項1~4のいずれかに
記載のりんご果実粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、加熱することによって乾燥させる工程を有するりんご果実粉末の製造方法に関する。
【0002】
従来、りんご果実などの水分の多い含水果実を、粉末にするために乾燥する方法としては、一般的に加熱乾燥法や真空乾燥法がある。例えば、乾燥機の熱源を遠赤外線にする事で、果物・野菜・キノコ類・魚類・草花等の芯から低温で乾燥させる事が可能となり、その為、その対象物の持つ成分とか色合いを保ったままで、その過程において、生体水も抽出でき、乾燥度合いも任意に設定出来る事から、対象物の持つ形以外の全ての物を、壊さず、失わず求める乾燥度合いの、粉末に出来得る乾燥品から一夜干し程度の乾燥品を生産する事のできる技術(特許文献1参照)が提案されている。
【0003】
しかしながら、従来の乾燥方法では、果実の元々の風味を損なわないように乾燥するという課題に主眼を置くもので、その課題に加えて、苦みや渋みを取り去ると共に糖度を高めることで、風味をより高めることができる乾燥方法については提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-145316号公報(第1頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
りんご果実粉末の製造方法に関して解決しようとする問題点は、従来の乾燥方法では、原料としてりんごの外果皮や種子を取り除かないと苦みや渋みが残ってしまうことや、りんご果実の風味を損なうことなく糖度を高めることができないことにある。
【0006】
そこで本発明の目的は、原料としてりんごの外果皮や種子を取り除かないで、苦みや渋みをなくし、且つ糖度を高めることができるりんご果実粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために次の構成を備える。
本発明に係るりんご果実粉末の製造方法によれば、種子や内果皮を含めたりんご果実を細分化する細分化工程と、前記りんご果実に存在する酵素を完全に不活性化することがない条件で蒸気によって加熱する蒸し工程と、前記酵素を活性化する温度で、前記りんご果実の酵素分解を促進させると共に乾燥を促進させるように、雑菌の増殖による腐敗が生じない時間内の範囲で寝かす熟成乾燥工程と、前記酵素を不活性化させる温度で乾燥を高めて雑菌の繁殖を阻止するように加熱する不活性化加熱乾燥工程と、粉末状に細分化度を高める粉末化工程とを有する。
【0008】
本発明に係るりんご果実粉末の製造方法の一構成によれば、前記細分化工程は、スライスすることによって行われることを特徴とすることができる。
【0009】
本発明に係るりんご果実粉末の製造方法の一構成によれば、前記蒸し工程は、90℃以下の加熱で10分以内に行われることを特徴とすることができる。
【0010】
本発明に係るりんご果実粉末の製造方法の一構成によれば、前記熟成乾燥工程は、60℃以下の加熱で24時間以内に行われることを特徴とすることができる。
【0011】
本発明に係るりんご果実粉末の製造方法の一構成によれば、前記不活性化加熱乾燥工程は、80℃以上の加熱によって行われることを特徴とすることができる。
【0012】
本発明に係るりんご果実粉末の製造方法の一構成によれば、前記不活性化加熱乾燥工程は、80℃以上の加熱と、焙煎によって行われることを特徴とすることができる。
【0013】
本発明に係るりんご果実粉末の製造方法の一構成によれば、前記焙煎は、30秒前後の時間内に行われることを特徴とすることができる。
【0014】
本発明に係るりんご果実粉末の製造方法の一構成によれば、前記粉末化工程は、前記不活性化加熱乾燥工程によって処理された後のりんご果実を冷却した状態で行われることを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のりんご果実粉末の製造方法によれば、原料としてりんごの外果皮や種子を取り除かないで、苦みや渋みをなくし、且つ糖度を高めることができるという特別有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係るりんご果実粉末の製造方法の構成例を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るりんご果実粉末の製造方法の構成例を、添付図面(
図1)に基づいて詳細に説明する。
【0018】
本発明に係るりんご果実粉末の製造方法では、
図1に示すように、種子や内果皮を含めたりんご果実を細分化する細分化工程10と、前記りんご果実に存在する酵素を完全に不活性化することがない条件で蒸気によって加熱する蒸し工程20と、前記酵素を活性化する温度で、前記りんご果実の酵素分解を促進させると共に乾燥を促進させるように、雑菌の増殖による腐敗が生じない時間内の範囲で寝かす熟成乾燥工程30と、前記酵素を不活性化させる温度で乾燥を高めて雑菌の繁殖を阻止するように加熱する不活性化加熱乾燥工程40と、粉末状に細分化度を高める粉末化工程50とを有する。
【0019】
このりんご果実粉末の製造方法によれば、以上の工程を順次行うことで、原料としてりんごの外果皮や種子を取り除かないで、苦みや渋みをほとんどなくすことができる共に、糖度を糖度計による数値で、例えば、従来の方法による場合は13~14度であったのに対し、本願発明によれば23度まで高めたりんご果実粉末を得ることができた。すなわち、下準備の作業を軽減できて、比較的簡単に行うことができると共に、苦みや渋みを除去することと、糖度を格段に高めることができるという特別有利な効果を奏する。
【0020】
また、このりんご果実粉末の製造方法の細分化工程10によれば、種子や内果皮を含めて原料として使用し、細分化をすることが必要である。これによれば、先ず、りんご果実の芯抜きを行わないで、ヘタ等を除いてりんご果実のほとんど全部を利用することができ、作業が簡単であると共に、原料の捨てる部分が少なくなって効率的であって、生産性を向上できる。なお、種子と内果皮は、合わせて核と呼ばれる部位であり、果肉は中果皮で、外果皮はいわゆる皮である。
【0021】
そして、このようにりんご果実の種子や内果皮を含めて原料として使用することによって、熟成乾燥工程30で熟成する際に、苦みや渋みを低減或いは無くすように作用すると共に、糖度を高めるように作用する酵素が、適切に存在する状態となる。すなわち、このりんご果実に由来する酵素の種類は、複数が存在するものと考えられ、複合的で相乗効果的に作用するものと考えられるが、それら複数の酵素のうち、種子付近に存在するものが、最も重要であると考えられる。
【0022】
また、本発明に係るりんご果実粉末の製造方法では、細分化工程10は、スライスすることによって行われることで適正に行うことができる。これによれば、次に行われる加熱処理を、果汁を極力失うことなく、効率よく適切に行うことができる。
なお、このスライスの厚さは、特に限定されないが、リンゴの品種などの種々の条件に対応させて、おおむね2~10mmの範囲で適宜に設定すれば良い。
【0023】
また、細分化の方法はスライスに限定されることになく、サイコロ状に切断することや、適度に潰すことなど、他の細分化処理も可能である。
なお、細分化工程10の前に、腐敗が生じたような不要箇所を除く事前の下準備工程や、汚れを除去する洗浄工程などの他の工程を適宜なタイミングで選択的に加えることができるのは勿論である。
【0024】
また、本発明に係るりんご果実粉末の製造方法では、蒸し工程20は、90℃以下の加熱で10分以内に行われることで適正に行うことができる。このようにスライスよって細分化されたリンゴ果実を蒸すことによって、果汁が流失することを最小限に抑制しつつ、適切に加熱処理できる。この条件の範囲内で、加熱温度が高ければ時間を短くすることができ、加熱温度が低ければ時間を長くすることで対応できるが、加熱温度として90℃に近い方が効率的に行うことができる。
【0025】
これによれば、完全ではないが、殺菌を行い菌の繁殖を抑制や阻止することや、選択的且つ適度に酵素の作用を抑制や不活性化することができる。例えば、酵素作用によって果実が茶色に変色する酸化を防止できる。なお、この蒸し工程20は、100℃未満の短時間の加熱によるものであり、低温加熱に属する加熱方法となっている。
【0026】
また、本発明に係るりんご果実粉末の製造方法では、熟成乾燥工程30は、60℃以下の加熱で24時間以内に行われることで適正に行うことができる。この工程は、酵素を活性化させて、その酵素分解機能を効果的に作用させるため、環境条件を保持するために行われるもので、加熱温度としては60℃に近い方が効率的に行うことができる。そして、この熟成乾燥工程30では、熟成乾燥処理が均一にバランス良くなされるように、細分化されたりんご果実を処理器に入れる際に攪拌を行うことや、工程の中途で再度攪拌を行うことがあり、その攪拌時間や頻度は、りんごの品種などの種々の条件に応じて、適宜に設定すれば良い。
なお、この熟成乾燥工程30では、乾燥された果実の水分含有率が、30%前後になることを目標とすれば良いが、後の工程との関係で特に限定されるものではない。
【0027】
ところで、この熟成乾燥工程30が、24時間を超えると、雑菌が増殖して腐敗してしまうなど、変質するリスクが増大することになる。
また、この熟成乾燥工程30における乾燥は、適宜に換気を行ったり、より乾燥度の高い空気を換気するように送風したり、大気圧より低い減圧真空環境にするというような、既知の乾燥促進手段を複合的に用いて行うことができるのは勿論である。
【0028】
また、本発明に係るりんご果実粉末の製造方法では、不活性化加熱乾燥工程40は、80℃以上の加熱によって行われることで適正に行うことができる。これによれば、酵素の不活性化を効率よくできると共に、雑菌の増殖を阻止するように殺菌を効率よくできるとともに、乾燥を促進できる。
【0029】
そして、この不活性化加熱乾燥工程40によれば、粉末にすることが可能となるように、乾燥度が高められることになる。この工程では、乾燥されたりんご果実の水分含有率が、最終的に5%程度になることが望ましい。なお、後述するように、この工程が一段階目の80℃以上の加熱と、二段階目の焙煎とで行われる場合、一段階目では前記水分含有率を10%程度とすることが望ましく、二段階目では前記水分含有率を5%程度とすることが望ましい。
【0030】
また、この不活性化加熱乾燥工程40における乾燥でも、適宜に換気を行ったり、より乾燥度の高い空気を換気するように送風したり、大気圧より低い減圧真空環境にするというような、既知の乾燥促進手段を複合的に用いて行うことができるのは勿論である。また、各工程は、エアフィルタを使って清浄空気で換気することや、クリーンルーム内で作業を行って、雑菌の侵入を防止するようにするとよい。
【0031】
また、本発明に係るりんご果実粉末の製造方法では、不活性化加熱乾燥工程40は、80℃以上の加熱と、焙煎によって行われることで適正に行うことができる。すなわち、この不活性化加熱乾燥工程40では、80℃以上の加熱で適切に乾燥させたりんご果実の乾燥物を、最後に焙煎機にかけて焙煎による乾燥させるという二段階の工程で行うことによって、水分の再吸収が難しくなるような完全乾燥を目指した乾燥状態にさせ、次の粉末化工程50で最終的にサラサラな粉末を得ることが可能な乾燥物とすることができる。
【0032】
さらに、この焙煎は、30秒前後の時間内に行われることで適正に行うことができる。このように短時間の適度な時間の範囲内で行うことで、焦げてしまうことを防止できると共に、粉末化が適切に可能となるように、乾燥度を適切に高めることができる。
例えば、通常の焙煎機において、水分含有率が10%程度まで乾燥されたりんご果実の接触する面の表面温度を250℃に設定し、30秒前後の焙煎を行うことで、そのりんご果実の水分含有率が5%程度となるように乾燥できる。
【0033】
また、本発明に係るりんご果実粉末の製造方法では、粉末化工程50は、不活性化加熱乾燥工程40によって処理された後のりんご果実を冷却した状態で行われることで適正に行うことができる。すなわち、不活性化加熱乾燥工程40によって処理された後のりんご果実を冷却し、その状態を維持する状態で粉末化工程50を行うとよい。これによれば、りんご果実の乾燥物を、すりこぎ棒状のもので押し砕くことや、臼のような回転圧ですり砕くことで、飴状になることを防止しつつ、0.5mm以下の粒子からなる細かい粉末とすることができる。さらに、既知のミル装置を適宜選択的に使用することによって、さらに細かい粉末にすることも可能である。
【0034】
この粉末化工程50において、りんご果実の乾燥物を冷却した状態に置く方法とは、例えば、室温を15℃以下とすることでも良いが、簡易的には、りんご果実の乾燥物が置かれて粉末化を行う受け器の温度を10℃以下に保つことでも、適切に行うことができる。この受け器としては、金属製又は熱伝導性の高いものによって構成でき、これを10℃以下に保つことで、室温は常温として作業を行うことができ、エネルギー消費を低減できる。
【0035】
以上、本発明につき好適な形態例を挙げて種々説明してきたが、本発明はこの形態例に限定されるものではなく、発明の精神を逸脱しない範囲内で多くの改変を施し得るのは勿論のことである。
【符号の説明】
【0036】
10 細分化工程
20 蒸し工程
30 熟成乾燥工程
40 不活性化加熱乾燥工程
50 粉末化工程