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特許7080762N,N-二置換アミドの製造方法およびN,N-二置換アミド製造用触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】N,N-二置換アミドの製造方法およびN,N-二置換アミド製造用触媒
(51)【国際特許分類】
   C07C 231/06 20060101AFI20220530BHJP
   C07C 233/05 20060101ALI20220530BHJP
   B01J 29/40 20060101ALI20220530BHJP
   B01J 29/46 20060101ALI20220530BHJP
   B01J 29/14 20060101ALI20220530BHJP
   B01J 23/72 20060101ALI20220530BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220530BHJP
【FI】
C07C231/06
C07C233/05
B01J29/40 Z
B01J29/46 Z
B01J29/14 Z
B01J23/72 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018143522
(22)【出願日】2018-07-31
(65)【公開番号】P2020019736
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】上田 祥之
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 彰
(72)【発明者】
【氏名】宮田 英雄
(72)【発明者】
【氏名】内田 博
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特公昭48-003813(JP,B1)
【文献】米国特許第03751465(US,A)
【文献】特公昭45-035525(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリルとアルコールとを触媒の存在下で反応させて、N,N-二置換アミドを製造するN,N-二置換アミドの製造方法であり、
前記ニトリルが
CN
(式中のRは炭素原子数10以下のアルキル基または炭素原子数10以下のアリール基である。)
で示される化合物であり、
前記アルコールが
OH
(式中のRは炭素原子数10以下のアルキル基である。)で示される化合物であり、
前記触媒が、担体と、前記担体に担持された金属酸化物とからなる不均一触媒であって、
前記担体が、ゼオライトであり、
前記金属酸化物に含まれる金属が、銅とモリブデンから選択される少なくとも一種を含むN,N-二置換アミドの製造方法。
【請求項2】
前記ニトリルがアセトニトリルである請求項1に記載のN,N-二置換アミドの製造方法。
【請求項3】
前記アルコールがメタノールである請求項1または請求項2に記載のN,N-二置換アミドの製造方法。
【請求項4】
前記担体がZSM-5型のゼオライトである請求項1に記載のN,N-二置換アミドの製造方法。
【請求項5】
担体と、前記担体に担持された金属酸化物とからなる不均一触媒であって、
前記担体が、ゼオライトであり、
前記金属酸化物に含まれる金属が、銅とモリブデンから選択される少なくとも一種を含み、
ニトリルとアルコールとを反応させてN,N-二置換アミドを製造する際に用いられるN,N-二置換アミド製造用触媒。
【請求項6】
前記担体の質量に対する前記金属の質量の割合((金属酸化物に含まれる金属の質量/担体の質量)×100(質量%))が1~15質量%である請求項5に記載のN,N-二置換アミド製造用触媒。
【請求項7】
前記ニトリルが
CN
(式中のRは炭素原子数10以下のアルキル基または炭素原子数10以下のアリール基である。)
で示される化合物であり、
前記アルコールが
OH
(式中のRは炭素原子数10以下のアルキル基である。)で示される化合物である請求項5または請求項6に記載のN,N-二置換アミド製造用触媒。
【請求項8】
前記ニトリルがアセトニトリルである請求項5請求項7のいずれか一項に記載のN,N-二置換アミド製造用触媒。
【請求項9】
前記アルコールがメタノールである請求項5請求項8のいずれか一項に記載のN,N-二置換アミド製造用触媒。
【請求項10】
前記担体がZSM-5型のゼオライトである請求項5に記載のN,N-二置換アミド製造用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N,N-二置換アミドの製造方法およびN,N-二置換アミド製造用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
N,N-ジメチルアセトアミドなどのN,N-二置換アミドは、工業的に重要であり、種々の溶剤として使用されている。
N,N-二置換アミドを製造する方法としては、一般に、ジアルキルアミンを原料として使用する方法が用いられている。具体的には、N,N-ジアルキルアミンであるN,N-ジメチルアミンと、酢酸または酢酸エステルとを反応させて、N,N-ジメチルアセトアミドを製造する方法が用いられている。
【0003】
一方、N,N-ジアルキルアミンは、一般に、アンモニアと、対応するアルコールまたはハロゲン化アルキルとを反応させて製造されている。この反応では、N,N-ジアルキルアミンとともに、モノアルキルアミンおよび/またはトリアルキルアミンが副生しやすい。このため、反応後にN,N-ジアルキルアミンを副生物と分離し、精製する必要がある。このことから、N,N-ジアルキルアミンは、一般に高価である。
【0004】
そこで、N,N-ジアルキルアミンを原料として使用せずに、対応するN,N-二置換アミドを製造する方法が検討されている(例えば、特許文献1~特許文献6参照)。
N,N-ジアルキルアミンを原料として使用せずに、N,N-二置換アミドを製造する方法としては、ニトリルとアルコールとを触媒の存在下で反応させる方法がある。ニトリルとアルコールとの反応を促進させる触媒および/または促進剤としては、SbCl、ZnCl、SnCl、CoClなどの塩化物、酢酸カドミウム、ゼオライト、BPOなどのリン酸塩、硫酸塩、ピリジン、水等が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭36-3967号公報
【文献】特公昭45-35525号公報
【文献】特公昭48-3813号公報
【文献】米国特許第5103055号明細書
【文献】米国特許第5072024号明細書
【文献】米国特許第5118846号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来、ニトリルとアルコールとを反応させてN,N-二置換アミドを生成する場合、触媒として、出発物質および生成物に可溶な均一触媒が用いられている。均一触媒は、反応後に得られた目的物と触媒との分離に手間がかかる。また、均一触媒は、気相反応には適用できない。
このため、N,N-二置換アミドを生成する反応に用いることができ、出発物質および生成物に溶解しない不均一触媒が求められていた。
【0007】
N,N-二置換アミドを生成する反応に用いる不均一触媒として、ゼオライトまたはBPOを用いることが考えられる。しかし、本発明者の検討によれば、触媒としてゼオライトまたはBPOを単独で用いて、ニトリルとアルコールとを気相反応させても、N,N-二置換アミドは生成しない。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、液相反応でも気相反応でもニトリルとアルコールとの反応によりN,N-二置換アミドが得られ、反応後に得られた目的物と触媒との分離が容易であるN,N-二置換アミドの製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、ニトリルとアルコールとの反応に用いられる不均一触媒であって液相反応でも気相反応でもN,N-二置換アミドが得られるN,N-二置換アミド製造用触媒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、ゼオライトとシリカとアルミナから選択される少なくとも一種の担体に、銅とモリブデンから選択される少なくとも一種を含む金属の酸化物を担持させた不均一触媒の存在下で、ニトリルとアルコールとを反応させることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を想到した。
すなわち、本発明は以下の事項に関する。
【0010】
[1]ニトリルとアルコールとを触媒の存在下で反応させて、N,N-二置換アミドを製造するN,N-二置換アミドの製造方法であり、
前記ニトリルが
CN
(式中のRは炭素原子数10以下のアルキル基または炭素原子数10以下のアリール基である。)
で示される化合物であり、
前記アルコールが
OH
(式中のRは炭素原子数10以下のアルキル基である。)
で示される化合物であり、
前記触媒が、担体と、前記担体に担持された金属酸化物とからなる不均一触媒であって、
前記担体が、ゼオライト、シリカおよびアルミナから選択される少なくとも一種であり、
前記金属酸化物に含まれる金属が、銅とモリブデンから選択される少なくとも一種を含むN,N-二置換アミドの製造方法。
【0011】
[2]前記ニトリルがアセトニトリルである[1]に記載のN,N-二置換アミドの製造方法。
[3]前記アルコールがメタノールである[1]または[2]に記載のN,N-二置換アミドの製造方法。
[4]前記担体がゼオライトである[1]~[3]のいずれかに記載のN,N-二置換アミドの製造方法。
[5]前記担体がZSM-5型のゼオライトである[4]に記載のN,N-二置換アミドの製造方法。
【0012】
[6]担体と、前記担体に担持された金属酸化物とからなる不均一触媒であって、
前記担体が、ゼオライト、シリカおよびアルミナから選択される少なくとも一種であり、
前記金属酸化物に含まれる金属が、銅とモリブデンから選択される少なくとも一種を含み、
ニトリルとアルコールとを反応させてN,N-二置換アミドを製造する際に用いられるN,N-二置換アミド製造用触媒。
[7] 前記担体の質量に対する前記金属の質量の割合((金属酸化物に含まれる金属の質量/担体の質量)×100(質量%))が1~15質量%である[6]に記載のN,N-二置換アミド製造用触媒。
【0013】
[8]前記ニトリルが
CN
(式中のRは炭素原子数10以下のアルキル基または炭素原子数10以下のアリール基である。)
で示される化合物であり、
前記アルコールが
OH
(式中のRは炭素原子数10以下のアルキル基である。)
で示される化合物である[6]または[7]に記載のN,N-二置換アミド製造用触媒。
【0014】
[9]前記ニトリルがアセトニトリルである[6]~[8]のいずれかに記載のN,N-二置換アミド製造用触媒。
[10]前記アルコールがメタノールである[6]~[9]のいずれかに記載のN,N-二置換アミド製造用触媒。
[11]
前記担体がゼオライトである[6]~[10]のいずれかに記載のN,N-二置換アミド製造用触媒。
[12]
前記担体がZSM-5型のゼオライトである[11]に記載のN,N-二置換アミド製造用触媒。
【発明の効果】
【0015】
本発明のN,N-二置換アミドの製造方法では、特定の不均一触媒の存在下で、ニトリルとアルコールとを反応させる。このため、本発明のN,N-二置換アミドの製造方法では、液相反応でも気相反応でもN,N-二置換アミドが得られる。しかも、本発明の製造方法に用いる触媒は、不均一触媒であるため、反応後に得られた目的物と触媒との分離が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のN,N-二置換アミドの製造方法およびN,N-二置換アミド製造用触媒について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
「N,N-二置換アミドの製造方法」
本実施形態の製造方法では、ニトリルとアルコールとを触媒の存在下で反応させて、下記式(1)で示されるN,N-二置換アミドを製造する。
本実施形態におけるニトリルとアルコールとの反応は、液相反応であってもよいし、気相反応であってもよい。
【0017】
【化1】
【0018】
本実施形態の製造方法では、ニトリルとして、
CN
(式中のRは炭素原子数10以下のアルキル基または炭素原子数10以下のアリール基である。)
で示される化合物を用いる。
また、アルコールとして、
OH
(式中のRは炭素原子数10以下のアルキル基である。)
で示される化合物を用いる。
【0019】
式(1)で示されるN,N-二置換アミドにおいて、カルボニル基中の炭素原子に結合している置換基は、上記RCNで示される化合物中のRである。式(1)で示されるN,N-二置換アミドにおいて、アミド基中の窒素原子に結合している2つの置換基は、同じであって、上記ROHで示される化合物中のRである。
【0020】
本実施形態の製造方法において、RCNで示される化合物中のRは炭素原子数10以下のアルキル基または炭素原子数10以下のアリール基である。炭素原子数10以下のアルキル基は、アルコールとの反応性が良好であるため、メチル基またはエチル基であることが好ましい。特に、炭素原子数10以下のアルキル基がメチル基である(言い換えると、ニトリルがアセトニトリルである)場合、有用性の高いN,N-二置換アミドが得られるため好ましい。炭素原子数10以下のアリール基としては、入手しやすくコストが安いことから、フェニル基であることが好ましい。Rが炭素原子数10以下のアリール基である場合、炭素原子数10以下のアルキル基である場合と比較して、反応性が高く、より低温で反応させることができ、好ましい。
【0021】
本実施形態の製造方法において、ROHで示される化合物中のRは、炭素原子数10以下のアルキル基である。炭素原子数10以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基であることが好ましい。特に、副生成物(アルコールの分子内脱水に伴うアルケン等)が生成しにくく、有用性の高いN,N-二置換アミドが得られるため、炭素原子数10以下のアルキル基がメチル基である(言い換えると、アルコールがメタノールである)ことが好ましい。
【0022】
本実施形態の製造方法において、RCNで示される化合物中のRと、ROHで示される化合物中のRとは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0023】
本実施形態の製造方法により合成される目的物としての化合物は、式(1)で示されるN,N-二置換アミドである。式(1)におけるRは、ニトリルとして用いたRCNで示される化合物中のRである。式(1)におけるRは、アルコールとして用いたROHで示される化合物中のRである。
式(1)で示されるN,N-二置換アミドとしては、Rがメチル基、エチル基、フェニル基から選ばれるいずれか一種であって、Rがメチル基、エチル基、n-プロピル基であることが好ましく、特に、RおよびRがメチル基であるN,N-ジメチルアセトアミドであることが好ましい。式(1)で示されるN,N-二置換アミドが、N,N-ジメチルアセトアミドである場合、より速い反応速度で、効率よく合成できる。
【0024】
ニトリルとアルコールとの反応温度は、ニトリルとアルコールとの反応が進行する範囲内の温度であればよい。ニトリルとアルコールとの反応温度は、気相反応であっても液相反応であっても300℃未満とすることが好ましく、280℃以下とすることがより好ましい。反応温度が低いほど、N,N-二置換アミドの合成反応の安全性が向上するとともに、反応容器の耐久性が向上する。ただし、反応温度が低くなるのに伴って反応速度が遅くなるので、反応温度の下限値は100℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましく、180℃以上がさらに好ましい。
【0025】
また、気相反応においては、反応容器内で生成した反応生成物中の成分が、反応容器内で固化したり、反応生成物を捕集する捕集容器と反応容器内とを連結する導管内で固化したりすることを抑制することが好ましい。したがって、反応容器内の温度および導管内を通過する反応生成物の温度を、反応生成物中の成分が固化しない温度にすることが好ましい。
例えば、アセトニトリルとメタノールとを気相反応させてN,N-ジメチルアセトアミドを合成する場合、反応生成物中には、原料であるアセトニトリルと大気中の水とが反応して副生したアセトアミドが含まれる場合がある。アセトアミドの融点は約80℃である。このため、導管内を通過している反応生成物の温度が低下したとしても、反応生成物の温度が80℃未満にならないように、アセトニトリルとメタノールとの反応温度を十分に高くすることが好ましい。このことにより、導管内でのアセトアミドの固化を抑制でき、アセトアミドの固化による導管の詰まりを防止できる。
なお、導管を加温したり保温したりすることにより、導管内を通過する反応生成物の温度が80℃未満にならないようにしてもよい。
【0026】
「気相反応」
本実施形態におけるニトリルとアルコールとの反応が気相反応である場合、例えば、以下に示す方法によりニトリルとアルコールとを反応させることができる。まず、ニトリルとアルコールとを混合した出発物質溶液を、気化器に送液して気化させる。また、窒素ガスなどの希釈ガスを気化器に供給し、気化させた出発物質溶液と混合し、気化した原料ガスとする。その後、気化した原料ガスを、触媒を含む触媒層を有する反応容器内に導入し、ニトリルとアルコールとを反応させる。
【0027】
触媒層は、固定床であってもよいし、流動床であってもよい。触媒層が、固定床である場合、触媒層は1層であってもよいし、2層以上であってもよい。
固定床の触媒層においては、触媒層に含まれる触媒間の隙間によって、触媒が触媒層に安定的に保持されにくい場合がある。この場合、ガラスビーズなどのニトリルとアルコールとの反応に影響しない固体粉末を用いて、触媒層に含まれる触媒間の隙間を埋めてもよい。
【0028】
気相反応における触媒の使用量は、気化させた出発物質溶液と希釈ガスの混合物である原料ガスのフィード量500~10000mL/時間に対し、0.5~5gであることが好ましく、1~3gであることがより好ましい。
気相反応では、原料ガスが触媒と接触する時間を1~15秒とすることが好ましく、2~5秒とすることがより好ましい。原料ガスと触媒との接触時間を1秒以上とすることで、効率よく反応を進行させることができる。また、原料ガスと触媒との接触時間を15秒以下とすることで、原料ガス中のアルコールの酸化に起因する副反応の進行を抑制できる。また、原料ガスと触媒との接触時間を15秒以下とすることで、触媒中の担体に担持された金属酸化物が還元されて、触媒が失活することを抑制できる。
【0029】
「液相反応」
本実施形態におけるニトリルとアルコールとの反応が液相反応である場合、ニトリルとアルコールとの反応は、オートクレーブ反応容器内で密閉した状態で行うことが好ましい。このことにより、安定して反応を進めることができる。
オートクレーブ反応容器内で密閉した状態で反応を行う場合、反応容器内の雰囲気中に酸素ガスが含まれていると、アルコールが酸化されてアルデヒドが生じたり、アルデヒドがさらにアルコールと反応してアセタールが副生したりすることがある。そのため、反応容器内の雰囲気を、窒素ガス、アルゴンなどの不活性雰囲気とすることが好ましい。なお、常圧の空気雰囲気下で密閉容器に出発物質を封入する場合、密閉容器内に封入される空気の体積を少なくすることで、アセタールの副生による収率の低下を抑制できる。
【0030】
液相反応では、反応中の反応容器の内圧を、反応開始から終了までの全工程において10MPa未満とすることが好ましく、8MPa以下とすることがより好ましい。また、液相反応における反応中の反応容器の内圧は、常圧(0.1MPa)以上であることが好ましい。なお、本実施形態における反応容器の圧力はゲージ圧を意味する。
液相反応での反応時間は、出発物質の目的物質への転化速度を考慮すると、2時間以上であることが好ましく、3時間以上であることがより好ましく、4時間以上とすることがさらに好ましい。また、液相反応での反応時間は、反応に伴う触媒の活性低下の可能性を考慮すると、24時間以下が好ましく、12時間以下がより好ましく、8時間以下がさらに好ましい。
【0031】
液相反応における触媒の使用量は、ニトリルとアルコールの合計100質量部に対して1~10質量部であることが好ましく、2~5質量部であることがより好ましい。ニトリルとアルコールの合計100質量部に対する触媒の使用量が1質量部以上であると、効果的に反応性を向上させることができる。また、触媒の使用量が10質量部以下であると、副反応を抑制できる。
【0032】
また、液相反応においては、反応生成物に常温で固体の成分が含まれる場合にその回収を容易にするために、常温で液体であって反応に関与しない化学種を溶媒として用いることができる。溶媒としては、例えば、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタンなどの脂肪族飽和炭化水素、あるいはベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素などを用いることができる。
液相反応における溶媒の使用量は、ニトリルとアルコールの合計100質量部に対して100~1000質量部であることが好ましく、200~500質量部であることがより好ましい。ニトリルとアルコールの合計100質量部に対する溶媒の使用量が100質量部以上であると、固体の反応生成物を常温でも効果的に溶解できる。また、溶媒の使用量が1000質量部以下であると、反応速度を十分な水準に維持できる。
【0033】
本実施形態のN,N-二置換アミドの製造方法では、触媒として、出発物質および生成物に溶解しない不均一触媒を用いる。このため、本実施形態の製造方法では、ニトリルとアルコールとを液相反応させて得た反応生成物から、例えば、濾過法、遠心分離法、デカンテーション法などにより、触媒を容易に分離できる。
【0034】
「N,N-二置換アミド製造用触媒」
本実施形態のN,N-二置換アミドの製造方法では、以下に示す本実施形態のN,N-二置換アミド製造用触媒(以下、「触媒」と略記する場合がある。)を用いる。
本実施形態の触媒は、ニトリルとアルコールとを触媒の存在下で反応させて、N,N-二置換アミドを製造する際に用いられる。本実施形態の触媒は、出発物質および生成物に溶解しない不均一触媒である。
【0035】
本実施形態の触媒は、担体と、担体に担持された金属酸化物とからなる。
本実施形態の触媒における担体は、ゼオライト、シリカおよびアルミナから選択されるいずれか一種以上である。中でも特に、高い収率が得られるため、担体がゼオライトであることが好ましい。
ゼオライトとしては、例えば、SiOとAlとのモル比(SiO/Al比)が5以上2000以下であって、細孔径が0.45nm以上1nm以下である疎水性ゼオライトなどを用いることができる。このようなゼオライトとしては、例えば、いずれも東ソー株式会社より市販されている商品名822HOA、890HOA、320HOD1Aなどを用いることができる。
【0036】
特に、ゼオライトとしては、三次元細孔を有するため、失活しにくいZSM-5型のゼオライトを用いることが好ましい。市販されているZSM-5型のゼオライトとしては、例えば、822HOA、890HOAなどが挙げられ、特に、822HOAを用いることが好ましい。822HOAは、SiO/Al比が比較的小さく、強いルイス酸性を発現するため、高い収率が得られる。
また、ゼオライトとしては、高い収率が得られるため、陽イオンが水素イオンであり、BET法で測定した比表面積が300m/g以上800m/g以下であることが好ましい。
【0037】
ゼオライトとしては、粉末状のものを用いてもよいし、ペレット状のものを用いてもよい。
担体として粉末状のゼオライトを用いた場合、ペレット状のゼオライトを用いた場合と比較して、ニトリルおよびアルコールと触媒との接触面積が確保されやすいため、反応開始直後から高い反応性が得られやすい。
市販されている粉末状のゼオライトとしては、例えば、商品名822HOA、890HOA(いずれも東ソー株式会社製)などがある。
【0038】
ペレット状のゼオライトは、ゼオライトとバインダーとの混合物が、所定の形状に成形されたものである。
バインダーとしては、アルミナゾル、シリカゾル、粘土等を用いることができる。ペレット状のゼオライト中におけるバインダーの含有量は、ペレット状のゼオライトの担体としての性能に影響の出ない範囲とすることができ、例えば、質量比でペレット状のゼオライトの20%程度とすることができる。
ペレット状のゼオライトの形状は、例えば、直方体状など角柱状であってもよいし、円柱状、球状などであってもよい。ペレット状のゼオライトは、反応応器内に充填しやすい。したがって、担体としてペレット状のゼオライトを用いることで、例えば、固定床の触媒層を容易に形成できる。
市販されているペレット状のゼオライトとしては、例えば、商品名320HOD1A(東ソー株式会社製)などがある。
【0039】
本実施形態の触媒における担体として用いることができるシリカとしては、粒状に成形されたものを用いてもよいし、粉末状のものを用いてもよい。シリカとしては、高い収率が得られるため、細孔径が3nm以上10nm以下であって、BET法で測定した比表面積が250m/g以上600m/g以下のものを用いることが好ましい。
市販されているシリカとしては、例えば、商品名CARiACT Q-6(富士シリシア株式会社製、粒状、細孔径6nm、BET法で測定した比表面積450m/g)などがある。
【0040】
また、本実施形態の触媒における担体として用いることができるアルミナとしては、粒状に成形されたものを用いてもよいし、粉末状のものを用いてもよい。
市販されているアルミナとしては、例えば、商品名NST-7(日揮ユニバーサル株式会社製、粒状)などを使用することができる。
【0041】
本実施形態の触媒における金属酸化物に含まれる金属は、銅とモリブデンから選択される少なくとも一種を含むものであり、銅とモリブデン以外の金属が含まれていてもよい。
金属酸化物に含まれる金属として、銅および/またはモリブデンと共に用いることができる金属としては、例えば、アルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs)と、アルカリ土類金属(Mg、Ca、Sr、Ba)から選択される少なくとも一種が挙げられる。金属酸化物に含まれる金属は、高い収率が得られるため、銅および/またはモリブデンのみであることが好ましい。
本実施形態の触媒は、具体的には、ゼオライトに酸化モリブデンが担持されたもの、および/またはゼオライトに酸化銅が担持されたものであることが好ましい。
【0042】
本実施形態の触媒中の金属酸化物に含まれる金属の含有量は、担体の種類および金属の種類などに応じて適宜決定できる。触媒中の担体の質量に対する金属の質量の割合((金属酸化物に含まれる金属の質量/担体の質量)×100(質量%))は、1~15質量%であることが好ましく、2~13質量%であることがより好ましい。触媒中の担体の質量に対する金属の質量の割合が1質量%以上であると、担持されている金属酸化物による収率向上効果が顕著となる。また、担体の質量に対する金属の質量の割合が15質量%以下であると、担体の細孔が金属原子で塞がれることによる活性低下を抑制できる。
【0043】
(触媒の製造方法)
本実施形態の触媒は、例えば、以下に示す方法により製造できる。
触媒の金属酸化物となる金属元素を含む化合物を純水に溶解した水溶液に、担体を含浸させて攪拌し、触媒含侵担体を得る。触媒含侵担体を製造する際に使用する金属元素を含む化合物の質量および担体の質量は、目的物における担体の質量に対する金属酸化物に含まれる金属の質量の割合に応じて決定される。
【0044】
次に、触媒含浸担体を乾燥させて焼成する。
触媒含浸担体の乾燥は、例えば、大気雰囲気下の室温で0.5~24時間風乾した後、熱風乾燥器により大気雰囲気下80~150℃で1~36時間乾燥させる方法により行うことができる。
また、触媒含浸担体の焼成は、例えば、大気雰囲気下300~700℃で1~20時間加熱する方法により、行うことができる。触媒含浸担体を焼成することにより、金属元素を含む化合物として、金属塩などの金属酸化物ではない化合物を用いた場合であっても、化合物中の対アニオンに含まれる揮発成分が確実に除去され、担体に含侵させた化合物中の金属種が酸化物に変換される。
以上の工程により、担体と、担体に担持された金属酸化物とからなる本実施形態の触媒が得られる。
【実施例
【0045】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0046】
(触媒1)
モリブデン酸アンモニウム(四水和物、日本無機化学株式会社製)2.2gを純水10gに溶解した水溶液に、担体として粉末状のゼオライト(商品名:822HOA、東ソー株式会社製、ZSM-5型、細孔径:0.58nm、陽イオン:水素イオン、SiOとAlとのモル比(SiO/Al比):24、BET法で測定した比表面積:330m/g、結晶の大きさ:0.05μm、粒子の大きさ:5μm)10gを含浸させて攪拌し、触媒含浸担体を得た。
次に、触媒含浸担体を室温で1時間風乾し、熱風乾燥器により大気雰囲気下110℃で4時間乾燥させた。その後、乾燥させた触媒含浸担体を、マッフル炉(株式会社コクゴ製Y-1218-P)を用いて大気雰囲気下500℃で2時間加熱して焼成し、ゼオライトに酸化モリブデンが担持された触媒1を得た。
【0047】
(触媒2)
モリブデン酸アンモニウム水溶液に代えて、硝酸銅(II)(三水和物、富士フイルム和光純薬株式会社製)0.79gを純水5.3gに溶解させた溶液を用い、担体としてゼオライト822HOAを5.0g用い、室温での風乾時間を100分、大気雰囲気下110℃での乾燥時間を27時間とした以外は、触媒1と同様にして、ゼオライトに酸化銅が担持された触媒2を得た。
(触媒3)
硝酸銅(II)(三水和物)を1.6g用いた以外は、触媒2と同様にして、ゼオライトに酸化銅が担持された触媒3を得た。
【0048】
(触媒4)
モリブデン酸アンモニウム水溶液に代えて、硝酸銅(II)(三水和物)0.79gを純水10gに溶解させた溶液を用い、担体として質量比約20%のアルミナゾルを含有する約1mm×約1mm×約10mmの直方体ペレット状のゼオライト(商品名:320HOD1A、東ソー株式会社製、Y型、細孔径:0.9nm、SiO/Al比:5.5)10gを用い、大気雰囲気下110℃での乾燥時間を24時間とした以外は、触媒2と同様にして、ゼオライトに酸化銅が担持された触媒4を得た。
【0049】
(触媒5)
担体として、シリカ(CARiACT Q-6)(富士シリシア株式会社製、細孔径:6nm、比表面積:450m/g)を用い、大気雰囲気下110℃での乾燥時間を26時間とした以外は、触媒4と同様にして、シリカに酸化銅が担持された触媒5を得た。
(触媒6)
担体として、γ-アルミナ(NST-7)(日揮ユニバーサル株式会社製)を用い、大気雰囲気下110℃での乾燥時間を24時間とした以外は、触媒4と同様にして、アルミナに酸化銅が担持された触媒6を得た。
【0050】
(触媒7)
モリブデン酸アンモニウムを0.74g用い、大気雰囲気下110℃での乾燥時間を22時間とした以外は、触媒1と同様にして、ゼオライトに酸化モリブデンが担持された触媒7を得た。
(触媒8)
モリブデン酸アンモニウムを1.1g用い、大気雰囲気下110℃での乾燥時間を22時間とした以外は、触媒1と同様にして、ゼオライトに酸化モリブデンが担持された触媒8を得た。
【0051】
(触媒9)
担体として、粉末状のゼオライト(商品名:890HOA、東ソー株式会社製、ZSM-5型、細孔径:0.58nm、SiO/Al比:1500)を10g用い、室温での風乾時間を18時間、大気雰囲気下110℃での乾燥時間を8時間とした以外は、触媒8と同様にして、ゼオライトに酸化モリブデンが担持された触媒9を得た。
(触媒10)
モリブデン酸アンモニウム1.1gを純水30gに溶解させた溶液と40質量%酢酸バリウム水溶液(大崎工業株式会社製)3.7gとの混合溶液を用いたこと以外は、触媒1と同様にして、ゼオライトに酸化モリブデンと酸化バリウムとが担持された触媒10を得た。
【0052】
触媒1~触媒10において使用した「担体」、担体に担持された金属酸化物に含まれる「金属」および触媒中の担体の質量に対する金属の質量の割合(金属酸化物に含まれる金属の質量/担体の質量)×100(質量%))を表1に示す。表1に記載の触媒中の担体の質量に対する金属の質量の割合は、原料の仕込み量から算出した算出値である。この算出値は、触媒1~触媒10の各触媒をICP発光分析することにより得られる分析値と、同等の値であることを予め確認している。
【0053】
【表1】
【0054】
(触媒11~触媒15)
触媒として、表1に示す担体または化合物を用いた。なお、触媒12は、担体を用いていない。表1中の金属(質量%)[Cu(80)]は、触媒として用いた酸化銅(CuO)中のCuの含有率を意味する。
【0055】
(実施例1の製造方法)
[気相反応によるN,N-ジメチルアセトアミドの合成]
アセトニトリル41g(1.0mol)とメタノール3.2g(0.1mol)とを100mL三角フラスコ内で均一に混合し、出発物質溶液を得た。ステンレス管を通して、出発物質溶液を気化器に送液し、275℃に加熱して気化させた。出発物質溶液は、ポンプ(昭和電工株式会社製、Shodex DS-4)を用いて流速0.1mL/分で気化器に送液した。気化器としては、ガラスビーズ3g(東新理興株式会社製、直径1mm)を詰めた全長5cm、直径8mmの気化器(昭和電工株式会社製、Shodexガードカラム)を用いた。
【0056】
窒素ガス(東京高圧山崎株式会社製)を50mL/分の流速で気化器に供給し、気化させた出発物質溶液と混合し、気化した原料ガスとした。
反応容器として、全長5cm、直径8mm、容量2.5mLの反応器(昭和電工株式会社製、Shodexガードカラム)を用意した。次いで、反応容器の反応容器内に、表1に示す触媒1を表2に示す触媒質量で使用し、固定床からなる触媒層を形成した。
そして、マントルヒーター(東京硝子器械株式会社製)によって275℃に加熱された反応容器内に、気化した原料ガスを導入し、アセトニトリルとメタノールとを30分間反応させた。原料ガスが触媒と接触する時間(接触時間)を表2に示す。
【0057】
上記の反応によって反応容器から流出した反応生成物を、ゴム管を通して反応容器に連結された捕集瓶に捕集した。反応開始直後から30分後まで(反応時間)に捕集瓶に捕集された成分のうち、自然冷却されて液化した成分を液体成分とした。液体成分の質量は2.4gであった。また、上記の捕集瓶に捕集された成分のうち、液化しなかった気体成分を、ゴム管を通して捕集瓶に連結され、純水50mLが入れられた別の捕集瓶に捕集した。
【0058】
得られた液体成分および気体成分について、それぞれガスクロマトグラフィー(GC)を用いて組成を分析した。
その結果、液体成分中には、目的物であるN,N-ジメチルアセトアミドが含まれ、その他に、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、酢酸メチルが含まれていた。また、気体成分中には、ジメチルアミン、ジメチルエーテルが副生物として含まれていた。
【0059】
また、反応生成物のガスクロマトグラフィー(GC)分析結果を用いて、以下に示す方法により、実施例1の製造方法により生成したN,N-ジメチルアセトアミドの収率と、アセトニトリルの転化率を算出した。その結果を表2に示す。
表2において「MeOH」はメタノールであり、「MeCN」はアセトニトリルであり、「DMAc」はN,N-ジメチルアセトアミドである。表2における「MeOH当量」はアセトニトリル1当量に対するメタノール当量である。
【0060】
(N,N-ジメチルアセトアミドの収率)
アセトニトリルとメタノールとをモル比で1:2(MeCN:MeOH)の割合で混合した混合溶液で、目的物である化合物の市販品(N,N-ジメチルアセトアミド:富士フイルム和光純薬工業製、超脱水、有機合成用)を希釈し、目的物の濃度が異なる3つ以上のサンプルを調製した。各サンプルを、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて分析し、得られたピーク面積より検量線を求めた。
【0061】
次に、上記の方法により求めた検量線を用いて、以下に示す方法により収率を算出した。ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて反応生成物を分析し、反応生成物中の目的物のピーク面積を求め、上記の方法により求めた検量線と回収された反応生成物質量に基づいて、反応生成物中の目的物の含有量を算出し、そのモル数を求めた。そして、原料として使用したアセトニトリルのモル数に対する反応生成物中の目的物のモル数の割合を求め、収率を算出した。
【0062】
(アセトニトリルの転化率)
以下に示す方法により検量線を求め、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて分析した結果から、反応生成物中のアセトニトリルの含有量を求め、出発物質として使用した量から差し引くことで転化率を算出した。
アセトニトリルとメタノールとの混合液であって、アセトニトリル濃度を5~20質量%の範囲内で異ならせた3種類以上のサンプルを調製した。各サンプルを、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて分析し、得られたピーク面積よりアセトニトリルの検量線を求めた。
【0063】
【表2】
【0064】
(実施例2、3、5~10、比較例1~5の製造方法)
[気相反応によるN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)の合成]
表1に示す触媒2、3、5~15を表2に示す触媒質量で使用し、反応容器内に固定床からなる触媒層を形成したこと以外は、実施例1の製造方法と同様にして、アセトニトリルとメタノールとを反応させ、実施例1の製造方法と同様にして、反応生成物(液体成分および気体成分)を捕集した。
【0065】
(実施例4の製造方法)
[気相反応によるN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)の合成]
表1に示す触媒4を表2に示す触媒質量で使用し、反応時間を90分間としたこと以外は、実施例1の製造方法と同様にして、アセトニトリルとメタノールとを反応させた。反応開始直後から90分後までに捕集瓶に捕集された成分のうち、自然冷却されて液化した成分を液体成分としたこと以外は、実施例1の製造方法と同様にして、反応生成物(液体成分および気体成分)を捕集した。
【0066】
実施例2~実施例10、比較例1~比較例5の製造方法により得られた反応生成物について、それぞれ実施例1と同様にガスクロマトグラフィー(GC)を用いて組成を分析した。その結果を用いて、実施例1と同様にして、実施例2~実施例10、比較例1~比較例5の各製造方法により生成したN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)の収率およびアセトニトリル(MeCN)の転化率を算出した。その結果を表2に示す。
【0067】
表2に示すように、触媒1~触媒10を用いてアセトニトリルとメタノールとを反応させた実施例1~実施例10では、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)が得られた。
これに対し、触媒11~触媒15を用いてアセトニトリルとメタノールとを反応させた比較例1~比較例5では、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)が得られなかった。
【0068】
(実施例11の製造方法)
[液相反応によるN,N-ジメチルアセトアミドの合成]
アセトニトリル9.4g(0.23mol)と、メタノール14g(0.45mol:アセトニトリル1当量に対してメタノールを2当量)と、表3に示す量の触媒1とを混合して懸濁液を得た。
表3に示す実施例の触媒量は、(担体と担体に担持された金属酸化物の合計質量/アセトニトリルとメタノールの合計質量)×100(質量%)である。
【0069】
この懸濁液を、ステンレス(SUS316)製の100mLオートクレーブ反応容器(日東高圧株式会社製、耐熱内温300℃、10MPa安全弁付)に入れ、常圧の空気雰囲気下で密閉した。次いで、窒素ボンベより8MPaの窒素ガスを反応容器内に供給し、漏れがないことを確認した。続いて、反応容器に付属しているバルブを開放し、反応容器内を常圧の窒素ガス雰囲気とした。その後、バルブを閉じて再度、反応容器を密閉した。
【0070】
次に、反応容器内の内容物を攪拌羽により攪拌しながら、反応容器を電気炉で加熱し、内温を温度計で計測しながら275℃で4時間保持して反応させた。反応中の反応容器の内圧は、7.35[MPa]まで上昇した後に漸減し、275℃で4時間保持した時点では4.45[MPa]であった。
その後、反応容器と内容物を室温まで冷却し、ドラフトチャンバー内で反応容器に取り付けられたバルブを開放した。このことにより、反応混合物中の液体成分に溶解しなかった気体の生成物を放出し、残圧(0.30MPa、重量減0.5g)を除去した。続いて、反応容器を大気雰囲気下で開封し、反応生成物(22.8g)を黒褐色の液体と灰色の粉末の混合物として得た。
【0071】
得られた反応生成物について、固形分を親水性PTFEメンブレンフィルター(ADVANTEC製、孔径1.0μm)濾過により除去した溶液をサンプルとして、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて組成を分析した。
その結果、反応生成物中には、目的物であるN,N-ジメチルアセトアミドが含まれ、その他に、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、酢酸、酢酸メチル、ジメチルアミン、ジメチルエーテル、メチルアミン、アンモニアが副生物として含まれていた。
【0072】
また、反応生成物のガスクロマトグラフィー(GC)分析結果を用いて、実施例1と同様にして、実施例11の製造方法により生成したN,N-ジメチルアセトアミドの収率を算出した。その結果を表3に示す。
また、反応生成物のガスクロマトグラフィー(GC)分析結果を用いて、以下に示す方法により、実施例11の製造方法における液相として回収されたアセトニトリルの転化率およびメタノールの転化率を算出した。その結果を表3に示す。
表3において「MeOH」はメタノールであり、「MeCN」はアセトニトリルであり、「DMAc」はN,N-ジメチルアセトアミドである。
【0073】
(転化率)
以下に示す方法により検量線を求め、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて分析した結果から、反応生成物中のアセトニトリルとメタノールの含有量をそれぞれ求め、出発物質として使用した量から差し引くことで転化率を算出した。
アセトニトリルとメタノールとの混合液であって、アセトニトリル濃度を5~20質量%の範囲内で異ならせた3種類以上のサンプルを調製した。各サンプルを、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて分析し、得られたピーク面積よりアセトニトリルの検量線を求めた。
また、アセトニトリルとメタノールとの混合液であって、メタノール濃度を5~20質量%の範囲内で異ならせた3種類以上のサンプルを調製した。各サンプルを、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて分析し、得られたピーク面積よりメタノールの検量線を求めた。
【0074】
【表3】
【0075】
表3において、「金属量」とは、原料として使用したアセトニトリルの物質量に対する触媒中の金属酸化物に含まれる金属の物質量の比であり、以下の式で示される数値である。
金属量(モル%)=(触媒中の金属酸化物に含まれる金属の物質量(モル)/原料として使用したアセトニトリルの物質量(モル))×100
【0076】
(実施例12~実施例15、比較例6の製造方法)
[液相反応によるN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)の合成]
表3に示す量の触媒を用いたこと以外は、実施例11の製造方法と同様にして、アセトニトリルとメタノールとを反応させ、反応生成物を得た。
なお、比較例6は、触媒として担体を使用していないので、触媒量はアセトニトリルとメタノールの合計質量に対する触媒の質量(触媒の質量/アセトニトリルとメタノールの合計質量)×100(質量%))である。
【0077】
得られた反応生成物について、それぞれ実施例11と同様にガスクロマトグラフィー(GC)を用いて組成を分析し、実施例11と同様にして、実施例12~実施例15、比較例6の各製造方法により生成したN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)の収率、アセトニトリル(MeCN)の転化率およびメタノール(MeOH)の転化率を算出した。その結果を表3に示す。
【0078】
表3に示すように、触媒1、3、8、9を用いてアセトニトリルとメタノールとを反応させた実施例11~実施例15では、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)が得られた。
また、表2および表3に示すように、触媒1、3、8、9を用いた気相反応(実施例1、3、8、9)と液相反応(実施例11~15)の反応成績を比較した。その結果、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)の収率は、同一の担体を使用した場合、銅を含む触媒では気相反応の方が高く、モリブデンを含む触媒では液相反応の方が高かった。
また、触媒11を用いてアセトニトリルとメタノールとを反応させた比較例6においても、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)が得られた。しかし、比較例6では、使用した触媒量が実施例11~15よりも多い。また、触媒11を用いた気相反応(比較例1)では、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)は得られなかった。
【0079】
本明細書には、触媒2、4~7、10を用いて液相反応によるN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)の合成を行った場合の実施例が記載されていない。しかし、液相反応は気相反応と比較して、原料と触媒との接触時間が圧倒的に長い。このことから、気相反応によりN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)が得られた触媒2、4~7、10を用いて液相反応を行った場合、当然N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)が得られるものと推定される。