(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】生体分子の溶液を処理するための方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/34 20060101AFI20220530BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220530BHJP
B01D 12/00 20060101ALN20220530BHJP
C12N 15/10 20060101ALN20220530BHJP
B01D 61/14 20060101ALN20220530BHJP
【FI】
C07K1/34
C12M1/00 A
B01D12/00
C12N15/10 100Z
B01D61/14 500
(21)【出願番号】P 2018535310
(86)(22)【出願日】2016-12-19
(86)【国際出願番号】 GB2016053981
(87)【国際公開番号】W WO2017118836
(87)【国際公開日】2017-07-13
【審査請求日】2019-11-19
(32)【優先日】2016-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】508236033
【氏名又は名称】フジフィルム・ダイオシンス・バイオテクノロジーズ ・ユーケイ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100188374
【氏名又は名称】一宮 維幸
(72)【発明者】
【氏名】ハイス,チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】ナギー,ティボー
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/164511(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/133972(WO,A1)
【文献】特開昭58-190447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
C12M
B01D
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分子を含む液体をインライン液体交換するための装置であって、多重入口流量制御器を含み、少なくとも2つの液体を混合するための2つ以上の可変流量入口弁をさらに含む、混合のための手段を含み、前記可変流量入口弁は、液体が流れることができるままであるかまたは流れが阻止される第1の相対的に低い流量と、少なくとも第2のより高い流量とを達成する位置の間でサイクリングされるように調節され、前記混合のための手段は、シングルパスモードで構成されたタンジェンシャルフロー濾過デバイスと流体連通した出口をも含む、前記装置。
【請求項2】
前記タンジェンシャルフロー濾過デバイスからの保持液が、少なくとも2つの液体を混合するための第2の手段と流体連通しており、混合のための前記第2の手段は、シングルパスモードで構成された第2のタンジェンシャルフロー濾過デバイスと流体連通した出口を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記可変流量入口弁が間欠流量弁である、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
生体分子を含む液体を液体交換するための装置であって、
a)i)
可変流量入口弁も含む、生体分子を含む第1の液体培地のための第1の入口、
ii)
可変流量入口弁も含む、第2の液体培地のための少なくとも第2の入口
iii)タンジェンシャルフロー濾過デバイスと流体連通した出口
を含む多重入口流量制御器、
b)前記流量制御器と前記タンジェンシャルフロー濾過デバイスとを通した液体の流れを付与するための手段、および
c)
前記可変流量入口弁が、液体が流れることができるままであるかまたは流れが阻止される第1の相対的に低い流量と、少なくとも第2のより高い流量とを達成する位置の間でサイクリングされるように、
前記可変流量入口弁を通した流れを調節するための手段
を含む、前記装置。
【請求項5】
前記流れを付与するための手段が、前記多重入口流量制御器の前記出口と前記タンジェンシャルフロー濾過デバイスとの間に配置されたポンプを含む、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記タンジェンシャルフロー濾過デバイスの下流にリストリクターをさらに含む、請求項4または5に記載の装置。
【請求項7】
i)前記タンジェンシャルフロー濾過デバイスからの保持液と流体連通した第1の入口、
ii)第3の液体培地のための第2の入口、および
iii)第2のタンジェンシャルフロー濾過デバイスと流体連通した出口
を含む第2の多重入口流量制御器をさらに含む、請求項4から6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記第2の多重入口流量制御器がリストリクターとして機能する、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記第2の多重入口流量制御器が2つ以上の可変流量入口弁をさらに含む、請求項7または8に記載の装置。
【請求項10】
生体分子を調製するための方法であって、請求項1から9のいずれか一項に記載の装置を使用する液体交換によって前記生体分子を含む液体培地を処理することを含む、前記方法。
【請求項11】
少なくとも10サイクルが使用される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
サイクル周波数が100Hz未満である、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
サイクル周波数が0.05~0.5Hzである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記処理することが緩衝液交換を含む、請求項10から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項10から14のいずれか一項に記載の方法を含む、生体分子の産生のためのプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子、特に組換えポリペプチドおよび核酸の溶液を処理するための方法、ならびにそのような方法を実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの生体分子、特に組換えポリペプチドおよび、プラスミド(pDNA)等の核酸は、特に治療用途において大いに注目されている。そのような生体分子は、一般に、所望の生体分子を発現するように操作された組換え宿主細胞を培養することによって産生される。次いで生体分子は、典型的には遠心分離、濾過およびクロマトグラフィーによる精製を含む方法によって培地から回収される。生体分子の回収は、一般に、その中に生体分子が溶解または懸濁している液体培地の性質および特性の調節を含む。この調節は、生体分子の不純物からの精製、および/または例えば使用までもしくは即使用可能な製剤への最終的な変換まで保存され得る培地中への生体分子の製剤化を容易にし得る。そのような調節は一般に、一般的には緩衝液である液体培地を別のものに置き換えることを含み、体積の変化を伴う場合も伴わない場合もあるが、いずれの場合も生体分子の濃度が変化する可能性がある。
【0003】
従来の液体交換は、生体分子を含む初期培地を、適当な大きさの分子量カットオフを有する多孔質フィルターを備えたタンジェンシャルフロー濾過デバイスに通過させることを含み、カットオフは、生体分子が保持液(retentate)中に保持されるが、その培地の少量成分の一部、例えば緩衝液、溶媒およびカットオフ値未満の分子量の溶質はフィルターを通過して透過液中に出ていくように選択される。保持液は保持タンクに再循環され、保持タンク中で保持液は代替液と混合され、再循環プロセスは生体分子を含む培地が所望の組成になるまで続けられる。そのようなプロセスの不利益な点は、生体分子の製造のスケールが大きくなると、必要な液体の体積が増大し、保存および混合用のタンクのスケールが増大して、装置の大きさおよび/またはコストが実施不可能になるほど増大することである。代替策として、透析を使用することができ、そこでは必要な分子量カットオフを有する多孔質バッグが大量の置換液体培地の中に保存されるが、これは同様の不利益を受ける。
【0004】
従来のプロセスのさらなる不利益は、プロセスが比較的遅く、したがって生体分子の処理が遅くなることである。さらに、プロセスが進行するにつれて生体分子がポンプヘッドを繰り返し通過し、広範な溶質および緩衝液の濃度にわたり剪断力を受けるので、凝集および変性等の生体分子の不安定性および/または不溶性が生じることがある。
【発明の概要】
【0005】
本発明の第1の態様によれば、生体分子を含む液体をインライン液体交換するための装置であって、多重入口流量制御器を含み、少なくとも2つの液体を混合するための2つ以上の可変流量入口弁をさらに含む、混合のための手段を含み、該流量制御器は、シングルパスモードで構成されたタンジェンシャルフロー濾過デバイス(TFFデバイス)と流体連通した出口をも含む、前記装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本発明による装置の1つの例を
図1に例示する。
【
図2】本発明による装置の別の例を
図2に例示する。
【
図3】2つのTFFデバイスを使用する本発明のさらなる例を
図3に例示する。
【
図4】2つのTFFデバイスを使用する本発明のさらに別の例を
図4に例示する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
混合のための手段は好ましくはTFFデバイスに直接取り付けられており、即ちその間に中間処理ステージは組み込まれない。
本発明の第1の態様の特定の実施形態では、TFFデバイスからの保持液は少なくとも2つの液体を混合するための第2の手段と流体連通している。他の実施形態では、多重入口流量制御器の多重入口の1つはTFFデバイスからの保持液と流体連通しており、TFFデバイスは任意選択で少なくとも2つの液体を混合するための第2の手段からの出口によって供給される。いずれの実施形態も、混合のための第2の手段は混合のための第1の手段とは異なった種類でもよく、同じ種類でもよい。
【0008】
本発明の第1の態様のさらなる実施形態では、混合のための第2の手段は第2のTFFデバイスと流体連通した出口を含む。第2のTFFデバイスは第1のTFFデバイスとは異なった種類でもよいが、多くの実施形態では第1のTFFデバイスと第2のTFFデバイスは同じ種類である。
【0009】
本発明の第1の態様のさらなる実施形態では、第2のTFFデバイスからの保持液は、少なくとも2つの液体を混合するための第3の手段と流体連通している。混合のための第3の手段は、混合のための第1および第2の手段と異なった種類でもよく、それらのいずれかまたは両方と同じでもよい。混合のための第3の手段は第3のTFFデバイスと流体連通した出口を含んでよい。第3のTFFデバイスは第1および第2のTFFデバイスと異なった種類でもよいが、多くの実施形態では第1、第2および第3のTFFデバイスは同じ種類である。
【0010】
任意選択でTFFデバイスと流体連通した出口を有する、少なくとも2つの液体を混合するためのさらなる手段も組み込んでよいことが認識されよう。
多くの実施形態では、使用されるそれぞれのTFFデバイスはシングルパスモードで構成され、保持液は再循環されない。
【0011】
特定の実施形態では、装置には保持液を再循環タンジェンシャルフロー濾過ステップに供するための手段が含まれる。そのような手段には、保持容器(holding vessel)および再循環モードで作動するように構成された個別のTFFデバイスが含まれてよい。いくつかの実施形態では、再循環モードで作動するように構成された個別のTFFデバイスを備えた2つ以上の保持容器が使用される。いくつかの実施形態では、シングルパスモードの代替として、本発明による装置において使用される1つまたは複数のTFFデバイスが再循環タンジェンシャルフロー濾過モードで操作されることを可能にする手段が提供される。そのような再循環タンジェンシャルフロー濾過ステップは、産生される生成物がcGMP等の厳しい規制要件の対象となる場合に有利であり得る個別のバッチを画定するために有利であり得る。
【0012】
2つ以上のTFFデバイスを使用する場合には、それぞれのTFFデバイスは好ましくは直列に配置される。
多重入口流量制御器を含む混合のための手段には、好ましくは流量制御器を通る液体の流れを調節する2つ以上の可変流量、好ましくは間欠流量入口弁が含まれる。
【0013】
使用することができる混合のための第2のおよびさらなる手段には、2つのチューブの間の単純な合流を含むインラインミキサーが含まれ、チューブは同じかまたは異なる直径を有してよい。混合のための手段には、バッフルまたはボルテックスミキサーが含まれてもよい。それぞれのチューブには流れを付与するための手段、例えばポンプが取り付けられてもよい。流れを付与するための手段は、少なくとも2つの液体の異なった流量が得られるように、チューブの寸法と組み合わせて操作可能であり得る。多くの実施形態では、混合のための第2のおよび引き続く手段には多重入口流量制御器が含まれ、好ましくは流量制御器を通る液体の流れを調節する2つ以上の可変流量入口弁、好ましくは間欠流量入口弁が含まれる。
【0014】
本発明の第2の態様によれば、生体分子を含む液体を液体交換するための装置であって、
a)i)生体分子を含む第1の液体培地のための第1の入口、
ii)第2の液体培地のための少なくとも第2の入口
iii)タンジェンシャルフロー濾過デバイス(TFFデバイス)と流体連通した出口
を含む多重入口流量制御器、および
b)流量制御器とタンジェンシャルフロー濾過デバイスとを通した液体の流れを付与するための手段
を含む装置が提供される。
【0015】
液体の流れを付与するための手段は当技術分野で周知であり、液体にガス、特に窒素またはヘリウム等の不活性ガスの圧力を印加することを含む。好ましくは液体の流れを付与するための手段はポンプである。使用することができるポンプには蠕動ポンプ、ダイヤフラムポンプ、ローブポンプおよび遠心ポンプが含まれる。使い捨ておよび再使用可能のポンプデザインの両方を使用することができる。ポンプを使用する場合には、多くの好ましい実施形態で、ポンプは多重入口流量制御器の出口とTFFデバイスとの間に配置される。同じかまたは異なる流量で作動することができる2つ以上のポンプを使用してもよい。特定の実施形態では、それぞれのポンプによって得られる同じ流量は、ポンプヘッドを物理的に連結して同じ内径のチューブを使用するか、外部制御を通して同じ流量を送達するようにポンプを同期化することによって達成することができる。
【0016】
装置に使用できるTFFデバイスは当技術分野で周知であり(例えばFiltration in the Biopharmaceutical Industry、T.H.MeltzerおよびM.W. Jornitz編、1998年を参照されたい)、それらには、平板なシート、中空繊維、および環状に曲折したデバイスが含まれる。好ましくは、TFFデバイスは中空繊維濾過デバイスである。
【0017】
TFFデバイスは生体分子の性質に適したカットオフを有するように選択され、それにより、生体分子はバリアを通過せず、一方、液体のより小さい成分はバリアを通過して透過液中に出ていくことができる。
【0018】
多重入口流量制御器には、流量制御器を通る液体の流れを調節する2つ以上の可変流量入口弁、好ましくは間欠流量入口弁が含まれる。多重入口流量制御器は少なくとも2つの入口弁を含み、多くの場合に8個まで、例えば3、4、5、6または7個の入口弁を含む。入口弁はそれぞれ同じ寸法を有してもよく、入口弁の1つまたは複数は異なった寸法を有してもよい。特定の好ましい実施形態では、それぞれの入口弁から流量制御器の出口まで測定した体積はそれぞれの入口について同じであり、それぞれの入口弁から流量制御器の出口まで測定した体積と流路長の両方がそれぞれの入口について同じであることが非常に好ましい。
【0019】
本発明で使用される流量制御器はまた、少なくとも1つの出口を含み、2つ以上の出口が存在してもよいが、単一の出口を使用することが好ましい。
可変流量弁は、液体が流れることができるままである第1の相対的に低い流量と、少なくとも第2のより高い流量との間で流れを調節することができる。好ましい実施形態では、可変流量弁は間欠流量弁であり、第1の位置では流れを阻止するが、少なくとも第2の位置では流れを許容する。最も好ましくは、全ての弁が間欠流量弁である。
【0020】
好ましくは、可変流量弁は制御され、最も好ましくはプログラム可能な制御ユニットによって制御されて、多重入口流量制御器を流れるインプット液体の必要な相対量を達成するために、弁の開放と閉止を調節する。これは、好ましくは流量制御器の入口弁を通して所定の時間またはサイクル速度でサイクリングすること、および所望の組成を得るために必要なサイクルタイムの割合に従って弁の開放または閉止を調節することによって、達成される。サイクル速度は一定でも、変化させてもよい。最も好ましくは、間欠流量入口弁が使用され、操作において、任意の所与の時間にただ1つの弁のみが開いているように制御される。多くの実施形態では、多重入口流量制御器のサイクル速度は一定に保たれ、インプット液体の所望の相対量は一貫している。
【0021】
多くの実施形態では、複数のサイクルが使用される。使用されるサイクルの数は、多くの因子、例えば、そのプロセスの継続時間、濃縮される液体の体積、流量、装置の最大作動圧力、TFFデバイスの長さおよび/または面積、ならびにTFFデバイスの分子量カットオフ等の多くの因子に依存することになる。特定の実施形態では、少なくとも10サイクル、例えば少なくとも50、100、500、750、1000、1500、2000、3000、5000、7500、10000またはより多くのサイクルを使用することができる。
【0022】
様々なサイクル周波数を使用できることが認識されよう。多くの例では、周波数は、100Hz未満、典型的には50Hz未満、一般には10Hz未満、好ましくは5Hz未満である。特定の好ましい実施形態では、周波数は2Hz以下、最も好ましくは1Hz以下、例えば0.05~0.5Hzである。
【0023】
TFFデバイスの作動の間、通常、生体分子を含むゲル層がフィルター表面の保持液側に形成される。このゲル層は典型的には操作の最後にフラッシングを含ませることによってTFFデバイスから除去され、そのようなフラッシングステップを本発明のプロセスにおいて使用することができる。操作の最後におけるフラッシングステップは、生体分子の濃度に著しい急上昇をもたらすことがあり、したがって予想より高い生体分子濃度をもたらし得る。本発明の特定の実施形態では、フラッシングステージは、プロセスを通して、間隔を置いて含められる。フラッシングステージは、液体が低圧でTFFデバイスを通過する期間を延長することを含んでもよく、好ましくはフラッシングの継続時間の間、透過液ライン上の弁を閉止すること等によって、すべての流れが保持液へ進むように、透過液の流れを阻止することをさらに含んでもよい。フラッシングステージの継続時間は、しばしば、実質的に全てのゲル層の保持液への移送が達成されるように選択される。操作の最後におけるフラッシングステージは、5TFFデバイス体積までを通過させることを含み得る。プロセス中に間隔をおいて含められるフラッシングステージは、より少ないTFFデバイス体積、例えば0.25、0.5、0.75または1TFFデバイス体積を通過させることを含み得る。いくつかの実施形態では、フラッシングステージは、1TFFデバイス体積、2TFFデバイス体積、5TFFデバイス体積、10TFFデバイス体積またはそれを超える通過のためのサイクリングの操作の後に使用され、その後にサイクリングの操作に戻される。1つまたは複数のフラッシングステージが濃縮プロセスにおいて間隔を置いて組み込まれる多くの実施形態では、フラッシングステージには、好ましくはフラッシングの継続時間の間、透過液ラインの弁を閉止すること等によって透過液の流れを阻止することが伴う。
【0024】
装置は通常、TFFデバイスの下流に、流れ制限オリフィスまたはピンチ弁等のリストリクターを含む。リストリクターは流れを制限し、それにより液体およびTFFデバイスの分子量カットオフより小さい分子量を有する溶質が膜を通って透過液へ通過するために背圧を生じるように構成されている。好ましくは、リストリクターは本発明の1つの態様によって制御可能であるピンチ弁を含む。特定の実施形態では、リストリクターは好ましくは可変流量弁を含む第2の多重入口流量制御器を含む。いくつかの実施形態では、リストリクターはTFFデバイスへの流量よりも少ない流量で作動し、それにより背圧を発生するように構成されたポンプをTFFデバイスの下流に含む。
【0025】
リストリクターが可変流量弁を含む第2の多重入口流量制御器を含む場合には、好ましくはサイクリングが使用される。使用されるサイクル時間および周波数は、可変流量弁を含む第1の多重入口流量制御器について上に述べた通りであってよい。
【0026】
本発明の第2の態様による装置は任意選択でインラインミキサーを含み、これは弁と濃縮器との間に配置されてもよく、好ましくは弁とポンプとの間に配置される。インラインミキサーの例は当技術分野で周知である。好ましいインラインミキサーは、バフルドミキサーおよびボルテックスミキサー等のスタティックミキサーである。ミキサーの寸法は、好ましくはインプット液体がTFFデバイスに入る前に適切に混合されるように選択される。
【0027】
流量制御器を通して液体を合わせることによって第1の液体中の生体分子の濃度が希釈されることが認識されよう。この希釈の程度は入口を通過する液体の相対的体積によって制御され、これはさらに入口の相対的な寸法ならびに/または入口が高い流量および低い流量に保持される相対的な時間によって制御される。液体の混合によって影響される生体分子の希釈は、合わせた液体のTFFデバイスの通過によって、少なくとも部分的に相殺することができ、完全に相殺してもよく、十二分に相殺してもよい。装置は、保持液としてTFFデバイスを通過する合わせた液体の相対的部分が透過液中に通過する部分よりも多く、またはこれと同じく、またはこれより少なくなるように構成することができる。透過液中に通過する液体の体積と保持液として通過する体積の比が、第2の液体と追加の液体を合わせた体積と生体分子を含む第1の液体の体積の比に等しい場合には、保持液中の生体分子の濃度は、第1の液体中の初期濃度と同じになる。透過液と保持液の体積比を第2の液体および追加の液体の第1の液体との体積比よりも高くなるように増加させると、保持液中の生体分子の濃度は第1の液体中の濃度と比較して増加し、一方、透過液と保持液の体積比を第2の液体および追加の液体の第1の液体との体積比よりも低くなるように減少させると、生体分子の濃度は第1の液体中の濃度と比較して減少することになる。例えば、生体分子を含む第1の液体を、第1の液体と第2の液体の比を1:9として第2の液体で10倍に希釈し、次いで透過液と保持液の体積比を9:1とすると、生体分子はもとの濃度に戻り、第1の液体の90%の除去[(10-1)/10×100]が達成される。第2ステップの交換でこのプロセスを繰り返すと、第1の液体の99%が除去される[9((10×10)-1)]/(10×10)×100]が、もとの生体分子の濃度は保たれる。しかし、濃縮器における透過液と保持液の体積比が19:1で希釈を1:9のままにすると、第1のステップで第1の液体の除去は同じく90%で生体分子の濃度は2倍に増加し、第2のステップで第1の液体の除去は同じく99%で生体分子の濃度は4倍に増加する一方、濃縮器における透過液と保持液の体積比が4:1で希釈を1:9のままにすると、第1のステップで第1の液体の除去は同じく90%で生体分子の濃度は2分の1に減少し、第2のステップで第1の液体の除去は同じく99%で生体分子の濃度は4分の1に減少することになる。
【0028】
多くの実施形態で、流量制御器を通る第2の液体およびそれに続く液体の第1の液体との体積比は、対象となる液体の流れを調節する制御可能な間欠流量弁の開放時間を制御することによって制御される。好ましくは、流量制御器の下流に配置されたポンプが流量制御器を通る流量を制御し、出口への弁の流路が同じ体積である場合には、相対的体積は弁の開放時間によって支配される。他の条件が全て同じであれば、他の弁と比較して第1の液体の弁が開いている時間が短くなると、第2の液体および追加の液体への交換が速くなる。
【0029】
特定の実施形態では、好ましくは本発明に従って構成された第2のTFFデバイスが第1のTFFデバイスの下流に配置される。そのような場合の多くでは、第2のTFFデバイスの多重入口流量制御器が第1のTFFデバイスのリストリクターとして働く。好ましくは本発明に従って構成されたさらなるTFFデバイスを第2のTFFデバイスの下流に配置してもよい。本発明に従って構成された第2のまたはさらなるTFFデバイスを使用する場合には、多重入口流量制御器の入口はTFFデバイスの上流からの保持液と流体連通、好ましくは直接連通している。本発明に従って構成された第2のまたはさらなるTFFデバイスについては、対応する第2の液体培地のための入口は第1のTFFデバイスのための液体培地と同じ液体培地のための入口を含んでよく、異なった液体培地のための入口を含んでもよい。
【0030】
本発明による装置は、生体分子の溶液または懸濁液を調整するため、例えば供給流を調整するため、例えば電導度および/またはpHの変更、緩衝液の交換、成分溶質の変更、ならびに下流における単位操作の処理時間、例えばクロマトグラフィーの装荷時間を変更し、好ましくは短縮するための、体積の変更のために、使用することができる。ある場合には、本発明による装置はポリペプチドのリフォールディングまたはpDNAの抽出のために使用することができる。
【0031】
本発明による装置を使用することによって、保持液を再循環させずに液体交換を達成することができる。
本発明において使用される液体は、精製法(例えばクロマトグラフィーカラム、従来のTFFステップ、濾過および清澄化ステップ、遠心分離上清/遠心分離液またはスラリー、コンディショニング/希釈ステップ)からの溶出液、バイオリアクターおよび発酵槽からの産出物、および細胞破壊プロセスからの産出物であってよい。
【0032】
本発明の装置およびプロセスによって生産される液体は、さらなる処理なしに「そのまま」使用することができ、あるいは精製または処理ステップ等の1つまたは複数のさらなる処理ステップ、例えばアフィニティークロマトグラフィー、アニオンおよび/またはカチオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィーステップ;および/またはさらなる濾過、清澄化、コンディショニング、希釈または他の製剤化ステップに供してもよい。
【0033】
本発明による装置は、生体分子、例えばpDNA、封入体、特にポリペプチド、特に組換えポリペプチドを含む封入体を含む液体の濃縮のために使用することができる。
pDNAは、スーパーコイル、直鎖状および開環状(すなわち、ニックの入ったまたはほどかれた)アイソフォームなどの複数の形態の1つまたは複数であってよい。スーパーコイルpDNAアイソフォームは、共有結合で閉環した形態を有しており、そのpDNAは、宿主酵素系の作用により、宿主細胞中で負のスーパーコイルとなっている。開環状アイソフォームでは、pDNA二重鎖のうちの1本の鎖が1つまたは複数の箇所で切断されている。
【0034】
pDNAの産生のための方法は当技術分野で周知である。pDNAは天然でもよく、人工的、例えば、外来のDNA挿入物を担持するクローニングベクターでもよい。多くの実施形態では、pDNAは、1キロベース~50キロベースの範囲の大きさである。例えば、発現した干渉RNAをコードするpDNAは、典型的には、3キロベース~4キロベースの範囲の大きさである。
【0035】
ポリペプチド、特に組換えポリペプチドは、サイトカイン、成長因子、抗体、抗体断片、免疫グロブリン様ポリペプチド、酵素、ワクチン、ペプチドホルモン、ケモカイン、受容体、受容体断片、キナーゼ、ホスファターゼ、イソメラーゼ、ヒドロリアーゼ、転写因子および融合ポリペプチドを含む、治療用タンパク質およびペプチドを含む。
【0036】
抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体および生物学的活性を有する抗体断片を含み、それらのいずれかの多価の形態および/または多特異的な形態を含む。
天然に存在する抗体は、典型的には4つのポリペプチド鎖、ジスルフィド結合によって相互に連結された2つの同一の重(H)鎖および2つの同一の軽(L)鎖を含む。各重鎖は可変領域(VH)および定常領域(CH)を含み、CH領域はその天然型において3つのドメイン、CH1、CH2およびCH3を含む。各軽鎖は、可変領域(VL)および1つのドメインを含む定常領域CLを含む。
【0037】
VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域が散在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域にさらに分けることができる。それぞれのVHおよびVLは、以下の順番:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4でアミノ末端からカルボキシ末端へ配列された、3つのCDRおよび4つのFRから構成されている。
【0038】
発現し得る抗体断片は、インタクトな抗体の一部を含み、前記一部は所望の生物学的活性を有する。抗体断片は、一般に、少なくとも1つの抗原結合部位を含む。抗体断片の例には、(i)VL、CL、VHおよびCH1ドメインを有するFab断片、(ii)CH1ドメインのC末端に1つまたは複数のシステイン残基を有し、2つのFab誘導体の間でジスルフィド架橋によって二価の断片を形成することができるFab’断片等のFab誘導体、(iii)VHおよびCH1ドメインを有するFd断片、(iv)CH1ドメインのC末端に1つまたは複数のシステイン残基を有するFd誘導体等のFd誘導体、(v)抗体の単一のアームのVLおよびVHドメインを有するFv断片、(vi)VLおよびVHドメインが共有結合で連結された一本鎖Fv(scFv)抗体等の一本鎖抗体分子、(vii)定常領域ドメインを有するかまたは有しない別の可変ドメイン(VHまたはVLドメインポリペプチド)に連結された、定常領域ドメインを有しないVHまたはVLドメインポリペプチド(例えばVH-VH、VH-VL、またはVL-VL)、(viii)VHドメインまたはVLドメインからなる断片および、単離されたCDR領域等のVHドメインまたはVLドメインのいずれかの抗原結合断片等のドメイン抗体断片、(ix)2つの抗原結合部位を含む、いわゆる「ダイアボディ」、例えば同じポリペプチド鎖中で軽鎖可変ドメイン(VL)に連結された重鎖可変ドメイン(VH)、ならびに(x)相補性軽鎖ポリペプチドとともに一対の抗原結合領域を形成する一対のタンデムFdセグメントを含む、いわゆる直鎖状抗体が含まれる。
【0039】
封入体は、E.coli等の細菌細胞の細胞質中で形成される、最も一般的にはポリペプチド、特に組換えポリペプチドを含む、不溶性凝集物を含む。
目標の生体分子に加えて、生体分子を含む液体の他の成分は、緩衝塩を含む塩、培地および供給液成分、溶媒、一般的には水、プロピレングリコールおよびソルビトール等のC1-6ポリオール等の共溶媒、イオン性液体、双性イオン界面活性剤(zwittergen)、界面活性剤、イミダゾールまたは他の競合的リガンド結合剤、アミノ酸、尿素等のカオトロピック剤、還元剤、酸化剤、PEG化コンジュゲーション反応物(基質、副生成物および活性化剤)、糖、脂質、核酸、代謝産物および小さいポリペプチドを含んでもよい。第1の生体分子を含む液体に混合される液体は目標の生体分子を含まず、多くの実施形態ではタンパク質および核酸を含まない。生体分子を含む液体に混合される液体の成分には一般に、緩衝塩を含む塩、培地および供給成分、溶媒、一般的には水、プロピレングリコールおよびソルビトール等のC1-6ポリオール等の共溶媒、イオン性液体、双性イオン界面活性剤、界面活性剤、イミダゾールまたは他の競合的リガンド結合剤、アミノ酸、尿素等のカオトロピック剤、還元剤、酸化剤および糖が含まれる。
【0040】
本発明による装置の1つの例を
図1に例示する。TFFデバイス1は多重入口可変流量制御器2、スタティックミキサー3、およびポンプ4の下流に配置されており、ポンプ4はTFFデバイス1に供給液を供給する。多重入口可変流量制御器2は生体分子を含む第1の液体5、および第2の液体6のTFFデバイス1への供給を制御する。リストリクター7がTFFデバイス1からの保持液ラインに配置されている。多重入口可変流量制御器2の閉止位置と開放位置との間のそれぞれの間欠流量弁のサイクリングにより、生体分子の希釈が起こる。TFFデバイス1の通過に際して、ポンプ4およびリストリクター7の作用で起こされる圧力によって、TFFデバイス1の分子量カットオフ未満の液体の一部が透過液8の中に通過し、それにより保持液9の中の生体分子の濃度が増加する。
【0041】
本発明による装置の別の例を
図2に例示する。TFFデバイス10はポンプ11の下流に配置されており、ポンプ11はTFFデバイス10に供給液を供給し、多重入口可変流量制御器12、スタティックミキサー13、および第2のポンプ14の上流に配置されている。TFFデバイス10の通過に際して、ポンプ11および多重入口可変流量制御器12の作用で起こされる圧力によって、TFFデバイス10の分子量カットオフ未満の液体の一部が透過液15の中に通過し、それにより多重入口可変流量制御器12に入る生体分子の濃度が増加する。多重入口可変流量制御器12の間欠流量弁が生体分子を含む第1の液体16、および第2の液体17の供給を制御する。多重入口可変流量制御器12の閉止位置と開放位置との間のそれぞれの間欠流量弁のサイクリングは、TFFデバイス10からの保持液ライン18上に配置された第2のポンプ14の作用を通じて、濃縮された生体分子の希釈を引き起こす。第2のポンプ14の上流にあるスタティックミキサー13によって、保持液18が第2の液体および生体分子の組成に関して均一であることが保証される。
【0042】
2つのTFFデバイスを使用する本発明のさらなる例を
図3に例示する。第1のTFFデバイス19は第1の多重入口可変流量制御器20、スタティックミキサー21、およびポンプ22の下流に配置されており、ポンプ22は第1のTFFデバイス19に供給液を供給する。第2の多重入口可変流量制御器23が第1のTFFデバイス19からの保持液ラインの下流に配置されている。第1の多重入口可変流量制御器20は生体分子を含む第1の液体24、および第2の液体25のTFFデバイス19への供給を制御する。多重入口可変流量制御器20の閉止位置と開放位置との間のそれぞれの間欠流量弁のサイクリングにより、生体分子の希釈が起こる。第1のTFFデバイス19の通過に際して、ポンプ22および第2の多重入口可変流量制御器23の作用で起こされる圧力によって、第1のTFFデバイス19の分子量カットオフ未満の液体の一部が透過液26の中に通過し、それにより第2の多重入口可変流量制御器23に入る生体分子の濃度が増加する。多重入口可変流量制御器23の第2の間欠流量弁が第1のTFFデバイス19からの濃縮された生体分子および第3の液体27の供給を制御する。第2の多重入口可変流量制御器23の閉止位置と開放位置との間のそれぞれの間欠流量弁のサイクリングは、第2のスタティックミキサー29と第2の多重入口可変流量制御器23の出口の両方の下流に配置された第2のポンプ28の作用を通じて、濃縮された生体分子の希釈を引き起こす。第2のポンプ28は下流にある第2のTFFデバイス30に供給液を供給する。リストリクター31はこの第2のTFFデバイス30からの保持液ラインに配置されている。第2のTFFデバイス30の通過に際して、第2のポンプ28およびリストリクター31の作用で起こされる圧力によって、TFFデバイス30の分子量カットオフ未満の液体の一部が透過液32の中に通過し、それにより保持液33の中の生体分子の濃度が増加する。
【0043】
2つのTFFデバイスを使用する本発明のさらに別の例を
図4に例示する。第1のTFFデバイス34は2つの供給ポンプ、35および36、ならびにスタティックミキサー37の下流に配置されており、スタティックミキサー37は第1のTFFデバイス34に供給液を供給する。第1のポンプ35は生体分子を含む第1の液体38の、また第2のポンプ36は第2の液体39の、第1のTFFデバイス34への供給を制御する。2つのポンプ35および36の作用により、生体分子の希釈が起こる。多重入口可変流量制御器40が第1のTFFデバイス34からの保持液ラインの下流に配置されている。第1のTFFデバイス34の通過に際して、ポンプ35および36、ならびに多重入口可変流量制御器40の作用で起こされる圧力によって、第1のTFFデバイス34の分子量カットオフ未満の液体の一部が透過液41の中に通過し、それにより多重入口可変流量制御器40に入る生体分子の濃度が増加する。多重入口可変流量制御器40の間欠流量弁がTFFデバイス34からの濃縮された生体分子および第3の液体42の供給を制御する。第2の多重入口可変流量制御器40の閉止位置と開放位置との間のそれぞれの間欠流量弁のサイクリングは、第2のスタティックミキサー44と多重入口可変流量制御器40の出口の両方の下流に配置された第3のポンプ43の作用を通じて、濃縮された生体分子の希釈を引き起こす。第3のポンプ43は下流にある第2のTFFデバイス45に供給液を供給する。リストリクター46はこの第2のTFFデバイス45からの保持液ラインに配置されている。第2のTFFデバイス45の通過に際して、第2のポンプ43およびリストリクター46の作用で起こされる圧力によって、TFFデバイス45の分子量カットオフ未満の液体の一部が透過液47の中に通過し、それにより保持液48の中の生体分子の濃度が増加する。
【0044】
本出願を、これらに限定されないが、以下の実施例によって説明する。
【実施例】
【0045】
略語
DV 透析用量
mPES 変性ポリエチレンスルホン
rhラクトフェリン 組換えヒトラクトフェリン
TFF タンジェンシャルフロー濾過
タンパク質モデル:
pH7.5で50mMのリン酸ナトリウム中、初期濃度1mg/mLの精製されたrhラクトフェリンを実験研究に使用した。
緩衝液(A)50mMリン酸ナトリウム、0.1M NaCl、pH7.0
緩衝液(B)50mMリン酸ナトリウム、pH7.5
緩衝液(C)50mMリン酸ナトリウム、0.1M NaCl、10%ソルビトール、pH7.0
緩衝液(D)50mMリン酸ナトリウム、0.1M NaCl、10%ソルビトール、6%プロパン-1,2-ジオール、pH7.0
実施例1
GE Healthcare社のAKTATM ExplorerシステムのB1ポンプで25%勾配のrhラクトフェリンを使用し、A1ポンプ(75%)で15mL/分の一定流量で緩衝液(A)を供給することによって、少なくとも400mLのpH7.5の1mg/mLのrhラクトフェリンのストック液を緩衝液(A)で4倍体積に希釈した。次いで希釈したrhラクトフェリンをAKTATM Explorer V2弁の位置2を通してダウンフローモードで、表面積370cm2、長さ65cm、10kDa mPES Spectrum Labs MidiKrosTM中空繊維に流した。次に中空繊維の保持液ラインは下流の多重入口可変流量制御器に直接連結した。多重入口可変流量制御器は、内径2mmの孔を有する単一の出口を備える特製の(Gemu)プラスチック製2弁マニフォールドを含み、マニフォールドを通る液体の流れを制御するRaspberry Piミニコンピューターに制御される高速作動ソレノイドアクチュエーターを有している。マニフォールドは弁から出口まで同じ流路体積を有するように構成されている。多重入口可変流量制御器のサイクルタイムを2秒に設定し、保持液制御弁をサイクルの25%は開いているようにして、rhラクトフェリン溶液の初期開始体積を得るために必要な4倍の体積濃縮係数が得られるようにした。緩衝液(B)による中空繊維保持液の第2の4倍希釈が可能になるように、第1の弁が閉じているときには多重入口流量制御器の第2の弁の位置がサイクルの75%は開いているようにした。多重入口可変流量制御器からの出口は長さ10cm、直径5mmのスタティックミキサーを通り、その後でAKTATM Explorerの弁V3、位置2に戻り、電導度、pHおよび280nmの吸光度のデータが得られた。AKTATM Explorerの弁V4からのF8出口ラインを、これも15mL/分で運転される第2のGE Healthcare社のAKTATM ExplorerシステムのA1ポンプのA11供給ラインに連結した。次いでこのシステムを、これも位置2にあるAKTATM Explorerカラムの弁V2を通して、表面積370cm2、長さ65cm、10kDa mPES Spectrum Labs MidiKrosTMの第2の中空繊維に連結した。中空繊維の保持液は、第2の内径10mmの多重入口可変流量制御器に直接供給した。この弁は10秒のサイクルタイムを使用し、保持液制御弁をサイクルの4%は開いているようにして、rhラクトフェリン溶液の初期開始体積を再び得るために体積濃縮係数を4倍とした。多重入口可変流量制御器からの出口は長さ10cm、直径5mmの第2のスタティックミキサーを通り、その後でAKTATM Explorerの弁V3、位置2に戻り、電導度、pHおよび280nmの吸光度のデータが得られた。インラインで緩衝液が交換されたrhラクトフェリン溶液を、AKTATM Explorerの弁V4の出口ラインF8を通して収集した。第1のAKTATM Explorerシステムのデータはインラインシステムを使用する迅速な緩衝液交換が成功したことを実証した一方、第2のAKTATM Explorerシステムの記録は供給液に比較してタンパク質濃度が保たれていたことを示した。
【0046】
インラインで緩衝液が交換されたrhラクトフェリンの吸光度、電導度およびpHの記録は、4倍希釈および濃縮を2回行なうことによって、緩衝液(A)を緩衝液(B)と約95%交換できることを実証している。緩衝液(B)の電導度は6.9mS/cm、pHは7.47であり、最終の緩衝液交換ラクトフェリンの電導度7.2mS/cm、pH7.43とよく一致している。タンパク質濃度は約45mAUに保たれていた。
【0047】
実施例2~8
実施例1の方法を繰り返したが、表1に記載したように条件を変更して、緩衝液の交換を逆にすること、または緩衝液の粘度を変える緩衝液成分(10%ソルビトールおよび/または6%プロパン-1,2-ジオール)を加えることによる、操作時間および第1と第2の濃縮器の間の異なった濃度/希釈比に対する影響を検討した。実施例2および3では希釈剤として緩衝液(A)を使用し、実施例4では緩衝液(B)、実施例5、6および7では緩衝液(C)、実施例8では緩衝液(D)を使用した。
【0048】
表1に示された結果から、逐次希釈および濃縮によって、従来の再循環バッチTFFシステムに対して3透析用量までに相当する緩衝液交換ができることが分かる。実施例6および7で見られるように、より大きな希釈倍率で操作することによって、より高い緩衝液交換効率が得られる。
【0049】
【表1】
発明の態様
[態様1]生体分子を含む液体をインライン液体交換するための装置であって、多重入口流量制御器を含み、少なくとも2つの液体を混合するための2つ以上の可変流量入口弁をさらに含む、混合のための手段を含み、前記混合のための手段は、シングルパスモードで構成されたタンジェンシャルフロー濾過デバイスと流体連通した出口をも含む、前記装置。
[態様2]前記タンジェンシャルフロー濾過デバイスからの保持液が、少なくとも2つの液体を混合するための第2の手段と流体連通しており、混合のための前記第2の手段は、シングルパスモードで構成された第2のタンジェンシャルフロー濾過デバイスと流体連通した出口を含む、請求項1に記載の装置。
[態様3]前記可変流量入口弁が間欠流量弁である、態様1または2に記載の装置。
[態様4]生体分子を含む液体を液体交換するための装置であって、
a)i)生体分子を含む第1の液体培地のための第1の入口、
ii)第2の液体培地のための少なくとも第2の入口
iii)タンジェンシャルフロー濾過デバイスと流体連通した出口
を含む多重入口流量制御器、および
b)前記流量制御器と前記タンジェンシャルフロー濾過デバイスとを通した液体の流れを付与するための手段
を含む、前記装置。
[態様5]前記流れを付与するための手段が、前記多重入口流量制御器の前記出口と前記タンジェンシャルフロー濾過デバイスとの間に配置されたポンプを含む、態様4に記載の装置。
[態様6]前記タンジェンシャルフロー濾過デバイスの下流にリストリクターをさらに含む、態様4または5に記載の装置。
[態様7]i)前記タンジェンシャルフロー濾過デバイスからの保持液と流体連通した第1の入口、
ii)第3の液体培地のための第2の入口、および
iii)第2のタンジェンシャルフロー濾過デバイスと流体連通した出口
を含む第2の多重入口流量制御器をさらに含む、態様4から6のいずれかに記載の装置。
[態様8]前記第2の多重入口流量制御器がリストリクターとして機能する、態様7に記載の装置。
[態様9]前記第2の多重入口流量制御器が2つ以上の可変流量入口弁をさらに含む、態様7または8に記載の装置。
[態様10]生体分子を調製するための方法であって、態様1から9のいずれかに記載の装置を使用する液体交換によって前記生体分子を含む液体培地を処理することを含む、前記方法。
[態様11]前記可変流量入口弁が、液体が流れることができるままであるかまたは流れが阻止される第1の相対的に低い流量と、少なくとも第2のより高い流量とを達成する位置の間でサイクリングされる、態様10に記載の方法。
[態様12]少なくとも10サイクルが使用される、態様11に記載の方法。
[態様13]サイクル周波数が100Hz未満、好ましくは0.05~0.5Hzである、態様11または12に記載の方法。
[態様14]前記処理することが緩衝液交換を含む、態様10から13のいずれかに記載の方法。
[態様15]態様10から14のいずれかに記載の方法を含む、生体分子の産生のためのプロセス。