IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニバーシティ オブ アルスターの特許一覧

特許7080820音響力学的療法のための微小気泡-化学療法剤複合体
<>
  • 特許-音響力学的療法のための微小気泡-化学療法剤複合体 図1
  • 特許-音響力学的療法のための微小気泡-化学療法剤複合体 図2
  • 特許-音響力学的療法のための微小気泡-化学療法剤複合体 図3
  • 特許-音響力学的療法のための微小気泡-化学療法剤複合体 図4
  • 特許-音響力学的療法のための微小気泡-化学療法剤複合体 図5
  • 特許-音響力学的療法のための微小気泡-化学療法剤複合体 図6
  • 特許-音響力学的療法のための微小気泡-化学療法剤複合体 図7
  • 特許-音響力学的療法のための微小気泡-化学療法剤複合体 図8
  • 特許-音響力学的療法のための微小気泡-化学療法剤複合体 図9
  • 特許-音響力学的療法のための微小気泡-化学療法剤複合体 図10
  • 特許-音響力学的療法のための微小気泡-化学療法剤複合体 図11
  • 特許-音響力学的療法のための微小気泡-化学療法剤複合体 図12
  • 特許-音響力学的療法のための微小気泡-化学療法剤複合体 図13
  • 特許-音響力学的療法のための微小気泡-化学療法剤複合体 図14
  • 特許-音響力学的療法のための微小気泡-化学療法剤複合体 図15
  • 特許-音響力学的療法のための微小気泡-化学療法剤複合体 図16
  • 特許-音響力学的療法のための微小気泡-化学療法剤複合体 図17
  • 特許-音響力学的療法のための微小気泡-化学療法剤複合体 図18
  • 特許-音響力学的療法のための微小気泡-化学療法剤複合体 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】音響力学的療法のための微小気泡-化学療法剤複合体
(51)【国際特許分類】
   A61K 41/00 20200101AFI20220530BHJP
   A61K 47/52 20170101ALI20220530BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220530BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220530BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20220530BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20220530BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20220530BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20220530BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220530BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20220530BHJP
【FI】
A61K41/00
A61K47/52
A61P35/00
A61P35/02
A61K31/352
A61K31/513
A61K31/704
A61K31/7068
A61P43/00 121
A61K45/06
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2018545703
(86)(22)【出願日】2016-11-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-01-10
(86)【国際出願番号】 GB2016053682
(87)【国際公開番号】W WO2017089800
(87)【国際公開日】2017-06-01
【審査請求日】2019-11-12
(31)【優先権主張番号】1520649.3
(32)【優先日】2015-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518180504
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ アルスター
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】カラン、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】マクヘイル、アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】ストライド、エリナー
【審査官】藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/141917(WO,A3)
【文献】国際公開第2012/143739(WO,A3)
【文献】J Control Release,2014年,Vol.174,p.109-16
【文献】J Control Release,2010年,Vol.143, No.1,p.143-50
【文献】J Control Release,2015年,Vol.203,p.51-6
【文献】Biomaterials, 2016.2, Vol.80, pp.20-32
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響化学療法による癌の治療において使用するための医薬組成物であり、
前記医薬組成物が、微小気泡-化学療法剤複合体および微小気泡-超音波感受性薬剤複合体を含み
前記化学療法剤が、5-フルオロウラシル、ドキソルビシンまたはゲムシタビンであり、
前記超音波感受性薬剤が、ローズベンガルである
医薬組成物
【請求項2】
音響化学療法による癌の治療において使用するための医薬組成物であって、
前記医薬組成物が、少なくとも1つの超音波感受性薬剤に付着又は結合した微小気泡-化学療法剤複合体を含み
前記化学療法剤が、5-フルオロウラシル、ドキソルビシンまたはゲムシタビンであり、
前記超音波感受性薬剤が、ローズベンガルである
医薬組成物
【請求項3】
前記微小気泡-化学療法剤複合体が、ビオチン-アビジン相互作用を介して前記超音波感受性薬剤に付着又は結合している、請求項2に記載の医薬組成物
【請求項5】
前記微小気泡が、ビオチン-アビジン相互作用を介して少なくとも1つの化学療法剤に付着又は結合している、請求項4に記載の医薬組成物
【請求項6】
前記微小気泡-化学療法剤複合体が、気体を保持するシェルを有する微小気泡を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項7】
前記気体が、酸素である請求項6に記載の医薬組成物
【請求項8】
前記微小気泡-超音波感受性薬剤複合体が、気体を保持するシェルを有する微小気泡を含む、請求項1及び4~7のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項9】
前記気体が、酸素である請求項8に記載の医薬組成物
【請求項10】
前記微小気泡-化学療法剤複合体及び/又は前記微小気泡-超音波感受性薬剤複合体が、0.5~100μmの直径を有する微小気泡を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項11】
前記微小気泡-化学療法剤複合体及び/又は前記微小気泡-超音波感受性薬剤複合体が、1種以上のポリマーに連結されたリン脂質単層シェルを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項12】
少なくとも1種類の医薬担体または賦形剤と共に、少なくとも1つの超音波感受性薬剤に付着又は結合した微小気泡-化学療法剤複合体を含む医薬組成物であって、
前記化学療法剤が、5-フルオロウラシル、ドキソルビシンまたはゲムシタビンであり、
前記超音波感受性薬剤が、ローズベンガルである、医薬組成物。
【請求項13】
少なくとも1種類の医薬担体または賦形剤と共に、微小気泡-化学療法剤複合体および微小気泡-超音波感受性薬剤複合体を含む医薬組成物であって、
前記化学療法剤が、5-フルオロウラシル、ドキソルビシンまたはゲムシタビンであり、
前記超音波感受性薬剤が、ローズベンガルである、医薬組成物。
【請求項14】
前記組成物が、同時に又は経時的に患者の細胞又は組織と接触し、前記細胞又は組織が超音波による照射に供される、請求項1~11のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項15】
深部腫瘍の治療に使用するための、請求項1~11および14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記癌が、骨肉腫及び軟部組織肉腫を含む肉腫;乳癌、肺癌、脳癌、膀胱癌、甲状腺癌、前立腺癌、結腸癌、直腸癌、膵臓癌、胃癌、肝臓癌、子宮癌、肝臓癌、腎臓癌、前立腺癌、子宮頸癌または卵巣癌;ホジキン及び非ホジキンリンパ腫を含むリンパ腫神経芽細胞腫黒色腫骨髄腫ウィルムス腫瘍並びに急性リンパ芽球性白血病及び急性骨髄芽球性白血病を含む白血病星細胞腫神経膠腫並びに網膜芽腫からなる群から選択される、請求項1~11および14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記癌が膵臓癌である、請求項16に記載の医薬組成物
【請求項18】
以下の成分:
(i)請求項1、4~7、10及び11のいずれか一項に定義される微小気泡-化学療法剤複合体;並びに別々に
(ii)請求項1及び8~11のいずれか一項に定義される微小気泡-超音波感受性薬剤複合体を含み、
必要に応じて(iii)音響化学療法による癌治療方法における前記成分の使用のための取扱説明書を更に含む、
音響化学療法による癌の治療において使用するためのキット。
【請求項19】
少なくとも1つの化学療法剤及び少なくとも1つの超音波感受性薬剤に連結し、
前記化学療法剤が5-フルオロウラシル、ドキソルビシンまたはゲムシタビンであり、
前記超音波感受性薬剤が、ローズベンガルである微小気泡。
【請求項20】
酸素ガスを含有する請求項19に記載の微小気泡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響力学的療法の方法における、及び音響力学的療法の方法に関する改善に関し、特に、過剰増殖細胞及び/又は異常細胞によって特徴付けられる疾患の治療に関する。より具体的には、本発明は、音響力学的療法と抗癌療法の組み合わせを用いた深部腫瘍の標的治療に関する。
【0002】
本発明はさらに、特定の新規増感剤、それらの調製方法、並びに光力学療法(PDT)及び/又は音響力学的療法(SDT)の方法における増感剤としてのそれらの使用に関する。本発明はまた、近赤外(NIR)イメージング剤としての、これらの薬剤のうちのいくつかの使用及び画像診断法におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
深部腫瘍の従来の治療は、典型的には、大手術、化学療法、放射線療法又はこれらの全ての組み合わせを伴う。全3つの介入は、敗血症を含む様々な合併症をもたらし得る。したがって、そのような患者を治療するために有効性が改善され、より標的化され、低侵襲性の治療方法の開発が非常に求められている。膵臓癌は深部腫瘍の一例である。膵臓癌は、診断された人の20%未満が根治的外科的治療の対象であることが知られている癌の最も致命的な種類の1つである。膵臓癌は全ての癌の約2%を占め、外科的切除後に全身化学療法を受ける患者の15~21%の生存率は5年である。
【0004】
癌の治療に使用するための既知の方法には、光線力学療法(PDT)が含まれる。PDTは、患部への光増感剤の適用後に、光の光活性化への暴露が続き、これらを細胞傷害性形態に変換する。これにより、標的組織内の細胞及び周囲の血管系の破壊がもたらされる。
【0005】
現在PDTにおける使用が承認されている光増感剤は、可視領域(700nm未満)の光を吸収する。しかしながら、この波長の光は、皮膚に浸透する能力が制限されており、わずか数mmの表面の深さしか浸透しない。PDTは、より深部の標的細胞を治療するために使用することができるが、これは、一般的に、光増感剤の活性化のために、カテーテル指向光ファイバーなどのデバイスの使用を伴う。これは、複雑な手順であるだけでなく、身体の特定の領域へのアクセスを妨げる。それはまた、治療の非侵襲的な性質を損なう。したがって、表在性腫瘍を治療するのに適するが、腫瘍塊などの深部細胞、及び解剖学的にアクセスしにくい病変の治療におけるPDTの使用は制限される。
【0006】
音響力学療法(SDT)は、より最近の概念であり、超音波と超音波感受性薬物(sonosensitising drug)(超音波感受性薬剤(sonosensitiser)とも呼ばれる)の組み合わせを伴う。PDTと同様に、音響エネルギーによる超音波感受性薬剤の活性化によって、一重項酸素などの反応性酸素種(ROS)が対象となる標的部位に生成される。そのような種は細胞傷害性であり、それにより、標的細胞を死滅させるか、又は少なくともその増殖能を減少させる。多くの公知の光増感剤は、音響エネルギーによって活性化することができ、そのためSDTでの使用に適している。超音波は、数cmの組織を容易に通って伝播するので、SDTは、組織内の深部に位置する腫瘍を治療することができる手段を提供する。光と同様に、超音波エネルギーはまた、超音波感受性薬剤を活性化させることによって、その効果を標的部位に制限するために、腫瘍塊に焦点を合わせることができる。
【0007】
SDTは、PDTを上回るいくつかの重要な利点を提供する。超音波は、コスト効果的かつ安全な臨床イメージングモダリティとして広く受け入れられており、光とは異なり、使用される超音波周波数に応じて、しっかりと数十センチメートルまでの軟部組織に浸透することに集中することができる。
【0008】
WO 2012/143739において、超音波感受性薬剤は、気体充填微小気泡(MB)にコンジュゲートされて、SDTで使用するための微小気泡-超音波感受性薬剤「複合体」を提供する。これらの複合体は、超音波を用いて制御された気泡の破壊によって、部位特異的に活性のある超音波感受性薬剤の効果的な送達を可能にする。標的化超音波感受性薬剤のその後の又は同時の超音波活性化により、標的部位における細胞破壊及び腫瘍組織の退縮をもたらす。微小気泡の使用はまた、所望の標的部位に到達する前に、潜在的な光活性化から超音波感受性薬剤の遮蔽により、有毒な副作用の減少をもたらす。
【0009】
最近、本発明者らは、前臨床モデルにおける膵臓癌の治療のための微小気泡-超音波感受性薬剤複合体を用いてSDTの有効性を実証した(McEwanら、J Control Release.2015;203,51-6)。これらの研究から、気体酸素で充填し、ローズベンガル増感剤を保有する超音波応答性微小気泡(MB)の注入が、コアガスとしてSF6を含む同様のMBコンジュゲートで処置した腫瘍と比較した場合、ヒト異種移植片BxPC-3腫瘍を保有するマウスにおける腫瘍成長の統計学的に有意なSDT媒介性低減をもたらすことが示された。MBのコア中に酸素を取り込む根拠は、酸素がSDTにおけるROS生成のための基質であるので、音響力学的事象中に腫瘍微小環境内で発生するROSの量を高めることであった。膵臓腫瘍は、特に、非常に低酸素であることが知られており、細胞傷害性ROSの生成については酸素に依存しており、PDT/SDTなどの方法の有効性にさらなる悪影響を与える。
【0010】
ベンチマーク膵臓癌代謝拮抗治療薬の5-フルオロウラシル(5-FU)及びゲムシタビンを、イリノテカン及びオキサリプラチンなどの補完的化学療法剤と組み合わせると、膵臓癌患者の平均生存率を向上させることができることも実証されている(Leeら、Chemotherapy.2013;59,273-9)。しかしながら、フォルフィリノックス(FOLFIRINOX)として知られるこの組み合わせは、重篤な副作用をもたらし、特に適合する健康な患者にのみ処方される。
【0011】
したがって、膵臓癌などの深部のアクセス不能な腫瘍の治療のための代替方法、特に、非侵襲性又は微小浸潤性であり、かつ悪影響のない方法の必要性が存在する。このような方法は、例えば、患者の外傷の低減、治療費の削減及び入院に関連する費用の削減の面で、明らかに社会経済的な利益を有する。本発明は、この必要性に取り組むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2012/143739号パンフレット
【非特許文献】
【0013】
【文献】McEwanら、J Control Release.2015;203,51-6
【文献】Leeら、Chemotherapy.2013;59,273-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者らは、異なる機構を介して細胞傷害性効果を発揮する代謝拮抗療法及びSDTとして(前者はチミジル酸シンターゼ阻害を介し、後者は細胞基質の酸化を介して)、単一の治療計画におけるそれらの組み合わせが、有意な患者の利益を提供することができることをこれから提案する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
具体的には、本発明者らは、音響力学的治療の方法において使用した場合に、超音波感受性薬剤と代謝拮抗薬の両方を送達するための微小気泡の使用がいくつかの利点を与えることを見出した。具体的には、本発明者らが発見したことは、微小気泡を有する複合体(又は複数種の複合体)の形態での超音波感受性薬剤と代謝拮抗薬の両方の送達が、超音波を用いて制御された気泡の破壊によって部位特異的に(例えば、内部腫瘍へ)両方の薬剤の有効な送達を可能にすることである。標的化超音波感受性薬剤の超音波活性化により、標的部位で腫瘍細胞を破壊するROSが生成する。この作用は、意図した標的部位でその細胞傷害性効果を直接発揮する代謝拮抗薬の作用によって補完される。両方の薬剤の担体として微小気泡を使用することにより、非標的組織によるこれらの非特異的な取り込みは低減されるので、全身送達を上回る有意な利点を提供する。このように、この治療法は、副作用を軽減し、ひいては、重要な患者の利益を提供することが期待される。
【0016】
さらに、腫瘍微小環境へ酸素だけでなく代謝拮抗薬及び増感剤を送達するために、外部から適用される超音波と組み合わせた酸素添加MBプラットフォームを利用することによって、高度に標的化された療法が、特に、増感剤と代謝拮抗化学療法薬物の治療指数の増加の結果として実現することができることを本発明者らは提案する。腫瘍に酸素を送達する微小気泡の能力は、その治療効果を媒介する酸素に依存するそのような治療をさらに強化することが期待される。
【0017】
本明細書に記載されるのは、表面にローズベンガル(O2MB-RB)又は5-FU(O2MB-5FU)のいずれかが付着した酸素添加脂質安定化MB(O2MB)の調製である。得られるコンジュゲートは、MB安定性及び超音波媒介酸素放出の点で特徴付けられ、膵臓癌細胞株のパネルにおける代謝拮抗薬/SDTの組み合わせ治療の超音波媒介細胞傷害性をインビトロで実証する。組み合わせアプローチの治療効果は、マウスにおける前臨床異所性のヒト異種移植片膵臓腫瘍モデルを用いて実証され、5-FU又はゲムシタビン単独治療を利用する従来の治療アプローチと比較される。SDTが、免疫応答及び細胞増殖を媒介するシグナル伝達プロセスに重大な影響を与えることを実証する証拠も提供される。
【0018】
本明細書で提供される結果は、治療効果を媒介するO2に依存する療法の有効性を高めるために、膵臓癌における独立型の治療オプションとしての組み合わされたSDT/代謝拮抗薬療法の可能性だけでなく、O2を腫瘍微小環境に送達するO2添加MBの能力を示す。外部から印加される超音波を用いて増感剤を活性化する可能性と組み合わせて、O2並びに増感剤/代謝拮抗薬の送達を容易にするためにMBを使用すると、従来の単独の代謝拮抗薬物の全身投与と比較して、有効性が改善され、副作用が低減されたより標的化されたアプローチを提供する。
【0019】
膵臓癌の治療のこの新規なアプローチは、過剰増殖細胞及び/又は異常細胞によって特徴付けられる他の疾患及び病状の治療、特に、他の深部腫瘍の治療にまで及ぶ。したがって、本明細書で説明するように、このアプローチは、他の化学療法薬物を用いて、他のそのような疾患及び病状の治療にまで及ぶより広い用途を有する。
【発明の効果】
【0020】
発明の詳細な説明
その最も広い態様において、本発明は、音響力学的治療の方法における使用のための微小気泡-化学療法剤複合体を提供する。本明細書で使用する場合、用語「音響力学的療法」は、超音波と超音波感受性薬剤(本明細書では「超音波感受性薬物」とも呼ばれる)の組み合わせを含み、音響エネルギーによる超音波感受性薬剤の活性化が一重項酸素などの活性酸素種の生成をもたらす方法を指すことが意図される。
【0021】
微小気泡-化学療法剤複合体は、少なくとも1つの化学療法剤に付着するか、又は別の方法で結合している微小気泡を含む。微小気泡が、2以上の化学療法剤に付着している場合、それらは同一でも、又は異なっていてもよい。しかしながら、一般的に、特定の微小気泡に付着した化学療法剤は、同一である。そのような複合体がSDTの方法での使用を意図している限り、それは超音波応答性である。具体的には、複合体の微小気泡成分が、超音波の適用によって破裂し、それよって、所望の標的部位に化学療法剤を放出することができることが意図される。
【0022】
化学療法剤(又は複数の化学療法剤)は、共有結合又は非共有結合手段を介して、例えば、静電相互作用、ファンデルワールス力及び/又は水素結合を介して微小気泡に連結されてもよい。一実施形態において、該微小気泡は、化学療法剤に静電的に結合される。別の実施形態において、該微小気泡は共有結合せることができる、すなわち、該化学療法剤は、1以上の共有結合によって微小気泡に付着している。
【0023】
好ましくは、化学療法剤(又は複数の化学療法剤)と微小気泡との間の相互作用は、ビオチン-アビジン相互作用などの強い非共有結合を含む。この実施形態において、結合対の一方の成分(例えば、化学療法剤)はビオチンで官能化され、他方(例えば、微小気泡)はアビジンで官能化される。アビジンは、ビオチンのための複数の結合部位を含有するので、これは、典型的には、ビオチン-アビジン相互作用を介して微小気泡にも結合される。
【0024】
例えば、微小気泡は、ビオチンで官能化され、ビオチン化微小気泡を形成することができ、次いで、アビジンと共にインキュベートされる。アビジンが気泡と結合すると、化学療法剤などの任意のさらなるビオチン化部分の結合を可能にする。そのため、微小気泡と化学療法剤との間に生じる結合は、「ビオチン-アビジン-ビオチン」相互作用の形態を取ることができる。
【0025】
本明細書で使用する場合、用語「化学療法剤」は、広義には、癌の治療に有用な任意の化学的又は生物学的化合物を包含することが意図される。これは、増殖阻害剤及び他の細胞傷害性剤を含む。用語「成長阻害剤」は、インビトロ又はインビボのいずれかで、細胞、特に、癌細胞の増殖を阻害する化合物を指す。
【0026】
本発明における使用のために、化学療法剤の適切なクラス及びそれらのクラス内の例としては、以下のものが挙げられる:葉酸代謝拮抗薬(例えば、メトトレキサート);5-フルオロピリミジン(例えば、5-フルオロウラシル又は5-FU);シチジン類似体(例えば、ゲムシタビン);プリン代謝拮抗薬(例えば、メルカプトプリン);アルキル化剤(例えば、シクロホスファミド);非古典的アルキル化剤(例えば、ダカルバジン);プラチナ類似体(例えば、シスプラチン);抗腫瘍抗生物質(例えば、アクチノマイシンD、ブレオマイシン、マイトマイシンC);生体内還元剤(例えば、マイトマイシンC、バノキサントロン(AQ4N));アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン、ミトキサントロン);トポイソメラーゼI阻害剤(例えば、イリノテカン);トポイソメラーゼII阻害剤(例えば、エトポシド);ビンカアルカロイド(例えば、ビンクリスチン)、タキソール(例えば、パクリタキセル)、及びエポチロンなどの抗微小管剤(例えば、イキサベピロン);抗エストロゲン(例えば、タモキシフェン);抗アンドロゲン(例えば、ビカルタミド(biclutamide)、酢酸シプロテロン);アロマターゼ阻害剤(例えば、アナストロゾール、フォルメスタン);抗血管新生薬物又は低酸素症標的薬物(天然に存在する、例えば、エンドスタチン又は合成の、例えば、ゲフィチニブ、レナリドマイドのいずれか);抗血管剤(例えば、コンブレタスタチン(cambretastatin);チロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ゲフィチニブ、エルロチニブ、バンデタニブ、スニチニブ);癌遺伝子又はシグナル伝達経路標的剤(例えば、チピファルニブ(tipfarnib)、ロナファルニブ、ナルトリンドール、ラパマイシン);ストレスタンパク質標的薬(例えば、ゲルダナマイシン及びその類似体);オートファジー標的剤(例えば、クロロキン);プロテアソーム標的剤(例えば、ボルテゾミブ);テロメラーゼ阻害剤(標的オリゴヌクレオチド又はヌクレオチド);ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(例えば、トリコスタチンA、バルプロ酸);DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、デシタビン);スルホン酸アルキル(例えば、ブスルファン、インプロスルファン及びピポスルファン);アジリジン(例えば、ベンゾドーパ、カルボコン、メツレドーパ、及びウレドーパ);エチレンイミン及びメチロールメラミン(methylamelamine)(例えば、アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド及びトリメチロールメラミン);ナイトロジェンマスタード(例えば、クロラムブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノベムビチン(novembichin)、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード);ニトロソ尿素(例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン);プリン類似体(例えば、フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン);ピリミジン類似体(例えば、アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン);アンドロゲン(例えば、カルステロン、ドロモスタノロン、プロピオン酸、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン);及び抗副腎剤(例えば、アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン)。これらの化合物の任意の薬学的に許容される塩、誘導体又は類似体も使用することができる。
【0027】
本発明で使用するための増殖阻害剤の例としては、G1停止及びM期停止を誘導する薬剤などの(S期以外の位置で)細胞周期の進行を阻止する薬剤が挙げられる。古典的なM期ブロッカーには、ビンカ(ビンクリスチン及びビンブラスチン);パクリタキセル、ドセタキセル、及びその類似体を含むタキサンファミリーメンバー;並びにイリノテカン、トポテカン、カンプトテシン、ラメラリンD、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、エトポシド、及びブレオマイシンなどのトポイソメラーゼ阻害剤が含まれる。G1を停止させるこれらの薬剤には、例えば、タモキシフェン、プレドニゾン、ダカルバジン、メクロレタミン、シスプラチン、メトトレキサート、5-FU、及びara-CなどのDNAアルキル化剤が含まれる。
【0028】
化学療法剤の選択は、腫瘍の性質、治療すべき患者などの様々な要因に依存するが、当業者によって容易に選択することができる。
【0029】
特定の一実施形態において、該化学療法剤は代謝拮抗薬である。本発明における使用に特に適している代謝拮抗薬には、抗葉酸、プリン及びピリミジン代謝拮抗薬及び抗生物質が含まれる。膵臓癌の治療に用いることができる代謝拮抗薬の一例としては、5-フルオロウラシル(5-FU)が挙げられる。
【0030】
SDTで使用するために、微小気泡-化学療法複合体は、微小気泡にも連結される少なくとも1つの超音波感受性薬剤(例えば、複数の超音波感受性薬剤)と組み合わせて(本明細書では「微小気泡-超音波感受性薬剤複合体」)使用される。超音波感受性薬剤は、化学療法剤と同じ微小気泡に連結することができるか、或いは、別々の微小気泡に連結することができる。典型的には、2つの薬剤がコンジュゲートされて、微小気泡を分離する。
【0031】
微小気泡-超音波感受性薬剤複合体は、少なくとも1つの超音波感受性薬剤、好ましくは、複数の超音波感受性薬剤に付着するか、又は別の方法で結合された微小気泡を含む。微小気泡が、2以上の超音波感受性薬剤に付着している場合、それらは同一でも、又は異なっていてもよい。しかしながら、一般的に、超音波感受性薬剤は同一である。そのような複合体がSDTの方法での使用を意図している限り、それは超音波応答性である。具体的には、該複合体の微小気泡成分が超音波の適用によって破裂することにより、所望の標的部位に超音波感受性薬剤を放出することができることが意図される。本明細書に記載されるとおり、音響エネルギーによる超音波感受性薬剤の活性化はまた、細胞傷害性である一重項酸素などの反応性酸素種の生成をもたらす。
【0032】
超音波感受性薬剤(又は複数の超音波感受性薬剤)は、共有結合又は非共有結合手段を介して、例えば、静電相互作用、ファンデルワールス力及び/又は水素結合を介して微小気泡に連結されてよい。一実施形態において、該微小気泡は、超音波感受性薬剤に静電結合する。別の実施形態において、該微小気泡は、共有結合することができる、すなわち、超音波感受性薬剤は、1以上の共有結合によって微小気泡に付着する。しかしながら、好ましくは、該相互作用は、上記のようなビオチン-アビジン相互作用などの強い非共有結合を含む。
【0033】
ビオチン-アビジン相互作用が、微小気泡に超音波感受性薬剤(又は複数の超音波感受性薬剤)を連結するために使用される場合には、結合対の一方の成分(例えば、超音波感受性薬剤)はビオチンで官能化され、他方(例えば、微小気泡)はアビジンで官能化される。典型的には、アビジン分子は、ビオチン-アビジン相互作用を介して微小気泡にも結合される。例えば、微小気泡は、ビオチンで官能化され、ビオチン化微小気泡を形成することができ、次いで、アビジンと共にインキュベートされる。アビジンが気泡と結合すると、超音波感受性薬剤などの任意のさらなるビオチン化部分の結合を可能にする。そのため、微小気泡と超音波感受性薬剤との間に生じる連結は、「ビオチン-アビジン-ビオチン」相互作用の形態を取ることができる。
【0034】
本明細書で使用する場合、用語「微小気泡」は、ほぼ球形の形状を有するシェルを含み、気体又は気体の混合物を含む内部空隙を取り囲むマイクロスフェアを指すことが意図される。「シェル」は、微小気泡の内部空隙を取り囲む膜を指す。
【0035】
微小気泡は、例えば、超音波造影剤として、当技術分野でよく知られている。そのため、それらの組成及びそれらの調製方法は、当業者にはよく知られている。微小気泡の調製のための手順の例としては、例えば、Christiansenら,Ultrasound Med.Biol.,29:1759-1767,2003;Farookら,J.R.Soc.Interface,:271-277,2009;及びStride&Edirisinghe,Med.Biol.Eng.Comput.,47:883-892,2009に記載されており、それらの内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0036】
微小気泡は、気体を含む内部空隙を取り囲むシェルを含む。一般的に、微小気泡の形状は、本発明の実施に必須ではなく、したがって、限定するものではないが、これらの形状はほぼ球形である。微小気泡のサイズは、例えば、静脈注射によって、投与後に肺系統を通過するのを可能にするようなものであるべきである。微小気泡は、典型的には、約200μm未満の直径を有し、好ましくは、約0.5~約100μmの範囲である。特に本発明での使用に適しているのは、約10μm未満、より好ましくは1~8μm、特に好ましくは5μmまで、例えば、約2μmの直径を有する微小気泡である。微小気泡のシェルは、厚さが変化し、典型的には、約10~約200nmの範囲である。シェルが気体コアを保持する所望の機能を実行するという条件で、正確な厚さは必須ではない。
【0037】
微小気泡を形成するために使用することができる材料は、生体適合性であるべきであり、適切な材料は当技術分野で周知である。典型的には、微小気泡のシェルは、界面活性剤又はポリマーを含む。使用することができる界面活性剤は、微小気泡を形成し、コア内の気体と外部媒体、例えば、微小気泡を含有する水溶液の間のインタフェースで層を形成することにより維持することができる任意の材料を含む。界面活性剤又は界面活性剤の組み合わせを使用することができる。適切なものには、脂質、特にリン脂質が含まれる。使用することができる脂質には、レシチン(すなわち、ホスファチジルコリン)、例えば、卵黄レシチン又は大豆レシチンなどの天然レシチン及びジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン若しくはジステアロイルホスファチジルコリンなどの合成レシチン;ホスファチジン酸;ホスファチジルエタノールアミン;ホスファチジルセリン;ホスファチジルグリセロール;ホスファチジルイノシトール;及びそれらの混合物が含まれる。例えば、大豆又は卵黄由来のもの;ホスファチジルセリン;ホスファチジルグリセロール;ホスファチジルイノシトール;及びホスファチジン酸などの正味の全体の電荷(例えば、負電荷)を有するリン脂質の使用は、超音波感受性薬剤への微小気泡のイオン結合に有利である。一実施形態において、ジベヘノイルホスファチジルコリン(DBPC)などの長鎖脂質は、微小気泡のシェルを形成するために使用することができる。
【0038】
適切な脂質は、酸素の保持に関して、微小気泡の安定性を増強するそれらの能力に基づいて選択することができる。この点で使用に適するものは、ジベヘノイルホスファチジルコリン(DBPC)である。
【0039】
微小気泡のシェル形成に使用するのに適するポリマー材料には、タンパク質、特にアルブミン、特にヒト血清アルブミンが含まれる。使用することができる他の生体適合性ポリマーには、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコライド)(PLGA)、シアノアクリレート、ポロキサマー(プルロニック)又はこれらの組み合わせが含まれる。
【0040】
微小気泡のシェルは、同一若しくは異なる材料の単一又は複数の層を含むことができる。複数の層は、例えば、基本的なシェル材料(例えば、脂質)が1以上のポリマー又は多糖類を保有する場合に形成され得る。このようなポリマーの例としては、ポリエチレングリコール及びポリビニルピロリドンが挙げられる。微小気泡シェルはまた、ポリ-L-リジン及びPLGAなどのポリマー、並びに/又はアルギン酸塩、デキストラン、ジエチルアミノエチル-デキストラン塩酸塩(DEAE)又はキトサンなどの多糖類で被覆することができる。これらのコーティング材料を付着させる方法は、静電的又は共有結合性相互作用を伴い得る。異なるコーティング材料(ポリマー、多糖類、タンパク質など)は、例えば、微小気泡ベースの試薬の循環の強剛性、安定性及び/又は組織浸透能力を高めることによって、微小気泡の正味の表面電荷を操作することによって、おそらく最も重要なのは、微小気泡のペイロード容量を増大することによって、微小気泡の特性を改善するために使用することができる。ペイロード容量の増大を達成する1つの方法は、レイヤー・バイ・レイヤー(LBL)アセンブル技術の適用によるものである。これは、超音波感受性薬剤負荷容量を増大させるために予め形成された微小気泡への超音波感受性薬剤の複数層の付着を伴う。LBL技術は、Bordenら、陽イオン性脂質コーティング微小気泡上へのDNA及びポリリジンの吸着及び多層構成(DNA and polylysine adsorption and multilayer construction onto cationic lipid-coated microbubbles,Langmuir 23(18):9401-8,2007)によって記載されている。
【0041】
加えて、微小気泡のコーティングは、特に、コーティング材料が超音波感受性薬剤又は化学療法剤用の固定化マトリックスとして(例えば、架橋を介して)機能する場合、ペイロードの安定性を増大させることができる。
【0042】
単層、二層又は多層構造のいずれかを形成する脂質も使用することができる。これらの例としては、単層又は多層のリポソーム及びミセルが挙げられる。
【0043】
本明細書に記載の微小気泡シェルのいずれかは、標的部位への気泡の送達を補助するさらなる成分を含むことができる。例えば、これらは、標的細胞又は組織に結合することができるリガンド又は標的化剤を組み込むか、又はこれらに結合するように官能化することができる。適切な標的化剤の例としては、抗体及び抗体断片、細胞接着分子及びそれらの受容体、サイトカイン、増殖因子及び受容体リガンドが挙げられる。そのような薬剤は、当技術分野で公知の方法を使用して、例えば、共有結合、分子スペーサー(例えば、PEG)の使用及び/又はアビジン-ビオチン複合体法によって微小気泡に付着させることができる。例えば、脂質ベースの微小気泡への脂質-PEG-ビオチンコンジュゲートの取り込みに続く、アビジンの添加によって、ビオチン化標的リガンドで微小気泡表面を官能化することができる。ハーセプチンは、目的の標的化のために微小気泡シェルにコンジュゲートさせることができる抗体の例である。
【0044】
微小気泡のコア内の気体は、生体適合性であるべきである。用語「気体」は、周囲温度及び圧力で気体である物質だけでなく、これらの条件下で液状であるものを包含する。「気体」が周囲温度で液体である場合、これは一般的に、30℃以上、より好ましくは35℃以上の温度で気体への相変化を受ける。周囲温度で液体である任意の気体にとって、一般的に、これは、約30~37℃の間の温度で、好ましくは、ほぼ正常体温で、気体への相変化を受けることが好ましい。このように、本明細書での「気体」への言及は、気体及び液体だけでなく、液体蒸気及びそれらの任意の組み合わせ、例えば、気体中の液体蒸気の混合物を包含することを考慮すべきである。
【0045】
本発明に従って使用するための微小気泡内に組み込むのに適している気体には、空気、窒素、酸素、二酸化炭素、水素;ヘリウム、アルゴン、キセノン又はクリプトンなどの不活性気体;六フッ化硫黄、二硫化デカフルオライド(disulphur decafluoride)などの硫黄フッ化物;アルカン類(例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン)、シクロアルカン類(例えば、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン)、アルケン類(例えば、エチレン、プロペン)などの低分子量炭化水素;並びにアルキン類(例えば、アセチレン又はプロピン);エーテル類;エステル類;ハロゲン化低分子量炭化水素;及びこれらの混合物が含まれる。
【0046】
適切なハロゲン化炭化水素の例としては、1以上のフッ素原子を含有するものであり、例えば、ブロモクロロジフルオロメタン、クロロジフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、ブロモトリフルオロメタン、クロロトリフルオロメタン、クロロペンタフルオロエタン、ジクロロテトラフルオロエタン、クロロトリフルオロエチレン、フルオロエチレン、フッ化エチル、1,1-ジフルオロエタン及びパーフルオロカーボンが挙げられる。
【0047】
適切なフルオロカーボン化合物の例としては、パーフルオロカーボンが挙げられる。パーフルオロカーボンには、パーフルオロメタン、パーフルオロエタン、パーフルオロプロパン、パーフルオロブタン、パーフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン及びパーフルオロへプタンなどのパーフルオロアルカン類;パーフルオロプロペン、パーフルオロブテンなどのパーフルオロアルケン類;及びパーフルオロシクロブタンなどのパーフルオロシクロアルカン類が含まれる。
【0048】
過フッ素化気体を含有する微小気泡、特に、パーフルオロプロパン、パーフルオロブタン、パーフルオロペンタン及びパーフルオロヘキサンなどのパーフルオロカーボンは、血流中の安定性により本発明での使用に適する。
【0049】
パーフルオロカーボンを含有する微小気泡、特に、パーフルオロアルカン、及びリン脂質を含有するシェルは、本発明で使用することができ、例えば、Nomikou & McHale,cancer Lett.,296:133-143,2010に記載されている。そのような微小気泡の一例としては、Sonidel SDM202(Sonidel社から入手可能)が挙げられる。パーフルオロカーボンは、気体又は液状のいずれかで存在し得る。例えば、Rapoportら、Bubble Sci.Eng.Technol.:31-39,2009に記載されているように、液体コアを含有するものは、超音波への曝露の際に、後で気体の微小気泡に変換することができるナノエマルジョンから調製することができる。
【0050】
特に、本発明での使用に好ましいのは、酸素を運ぶ微小気泡である。酸素は、SDTの重要な基質であり、多くの癌が低酸素状態であるので、酸素ガスで気泡のコアを充填すると、音響力学的効果及び生成される一重項酸素の量が増す。
【0051】
微小気泡が化学療法剤と超音波感受性薬剤の両方に添加される場合、気泡は、好ましくは、酸素を運ぶ(例えば、それは酸素ガスを含有する)。異なる微小気泡が本明細書に記載の併用療法で使用される場合、微小気泡の少なくとも一種が酸素を取り込むことが好ましい。例えば、超音波感受性薬剤にコンジュゲートされた微小気泡が酸素酸素を含むことができ、かつ/又は化学療法剤を担持する微小気泡が酸素を含むことができる。好ましい実施形態において、使用される全ての微小気泡は、酸素(例えば、O2ガス)を運ぶ、すなわち、これらは「O2付加」されている。
【0052】
本発明において使用することができる超音波感受性薬剤には、標的細胞又は組織を超音波に過敏にさせる化合物が含まれる。場合によって、超音波感受性薬剤は、音響エネルギー(例えば、超音波)を、細胞傷害性をもたらすROSに変換することが可能であり得る。他のものは、細胞膜の完全性を損なうことにより、標的細胞又は組織を超音波に過敏にさせることができる。多くの既知の超音波感受性薬剤が光力学活性化を促進することができること、かつ細胞又は組織を光に対して過敏にさせるために使用することができることは周知である。
【0053】
本発明の一実施形態において、超音波感受性薬剤は、イメージング剤として、例えば、NIR剤として同時に機能することができる。そのような増感剤は、インビボでのコンジュゲートのトラッキングを可能にするイメージング潜在力の点で利点を提供する。
【0054】
本発明で超音波感受性薬剤として使用するのに適する化合物の例としては、フェノチアジン色素(例えば、メチレンブルー、トルイジンブルー)、ローズベンガル、ポルフィリン(例えば、フォトフリン(登録商標))、クロリン、ベンゾクロリン、フタロシアニン、ナフタロシアニン、ポルフィセン、シアニン(例えば、メロシアニン540及びインドシアニングリーン)、アゾジピロメチン(azodipyromethine)(例えば、BODIPY及びそのハロゲン化誘導体)、アクリジン色素、プルプリン、フェオホルビド、ベルジン、ソラレン、ヘマトポルフィリン、プロトポルフィリン及びクルクミンが挙げられる。これらの薬剤の任意の既知の類似体又は誘導体も使用することができる。適切な誘導体には、薬学的に許容される塩が含まれる。
【0055】
本発明で超音波感受性薬剤として使用するのに好ましいのは、メチレンブルー、ローズベンガル、インドシアニングリーン(ICG、カルジオグリーンとしても知られている)、並びにそれらの任意の類似体及び誘導体である。ICGは、以下の構造を有する:
【0056】
【化1】
【0057】
本明細書に記載の超音波感受性薬剤の任意の公知の類似体も、本発明において使用することができる。特に適するのは、シアニン系色素の構造類似体、例えば、ICGの構造類似体及びそれらの薬学的に許容される塩である。これらの例としては、シアニン色素IR820及びIR783が挙げられ、共に市販されている。
【0058】
【化2】
【0059】
近赤外(NIR)吸収蛍光色素ICGは、医療用イメージングにおける使用がFDA承認されている。ICGは、NIR領域(750~900nm)で強く吸収し、ヒト組織のより深部で光によって活性化され得る利点を有する(800nmでの光の透過は、600nmよりも4倍高い)。しかしながら、ICG、IR820及びIR783などのシアニン色素の一重項酸素生成(SOG)効果は、ローズベンガルなどの他の公知の増感剤と比較した場合には比較的不良である。これは、微小気泡上へのより多くのシアニン分子の濃縮によって克服することができる。
【0060】
その構造中にハロゲン原子(例えば、ヨウ素及び臭素)を取り込むことによりシアニン色素のROS生成能を改善する他の試みが行われてきた。例えば、米国特許公開第2013/0231604号(その全体の内容は参照により本明細書に組み込まれる)において、シアニン系色素及びそのような色素の類似体は、それぞれのベンズアゾール若しくはナフタゾール環のベンゼン又はナフタレン部分上に3個のヨウ素原子を導入することによって改変され得ることが提案されている。本明細書に開示するポリメチン色素(特に、シアニン)のいずれかは、本発明において超音波感受性薬剤として使用することができる。
【0061】
米国特許公開第2013/0231604号に記載の研究開発において、本発明者らは、ベンザゾール環のそれぞれに1又は2個のハロゲン原子(例えば、ヨウ素又は臭素、好ましくはヨウ素)を担持する特定のシアニン色素の構造類似体(例えば、IR783)を調製し、これらが、ROS発生能を強化し、ひいては、ICGと比較して超音波活性化時に癌細胞(例えば、膵臓癌細胞)に対してより細胞傷害性となることを発見した。理論に束縛されるものではないが、ハロゲン原子の存在は、「重原子効果」として知られているものにより、励起一重項状態から励起三重項状態への項間交差(ISC)を増加させると考えられている。三重項励起状態は、その後、分子状酸素又は他の基質と係合し、ROSを生成することができる。ROS生成能の向上したこのようなレベルは、米国特許公開第2013/0231604号の教示に照らして予測され得なかったハロゲン原子(例えば、ヨウ素)と、IR783中のより少ない(すなわち、合計2又は4のいずれかの)水素原子を置換することによって達成することができる。
【0062】
さらに、以下でより詳細に説明するように、本発明者らは、驚くべきことに、IR783が合計2個のハロゲン原子(すなわち、ベンザゾール環のそれぞれにただ1つのハロゲン原子、例えば、ヨウ素、)と置換されている場合に、該化合物は高度に蛍光のままであるので、NIRイメージング剤として使用することができることを見出した。ISCの増加は、典型的には、蛍光を発する化合物の能力を低下させるので、この発見は予想外である。IR783のこれらの特定の類似体のNIRイメージングとしての潜在力と増感剤としての潜在力の組み合わせは、これらの化合物が「テラノスティック」潜在力、すなわち、治療薬及び診断薬の両方として機能する能力を有することを意味する。
【0063】
本明細書に開示されるIR783のハロゲン化(例えば、ヨウ化)類似体は、新規化学物質であり、本発明のさらなる態様を表す。したがって、さらなる態様から考えると、本発明は、式I又は式II:
【0064】
【化3】
【0065】
(式I及び式IIにおいて、各Xは、独立して、臭素及びヨウ素原子から選択され、好ましくは、各Xはヨウ素である)の化合物又はその薬学的に許容される塩を提供する。
【0066】
そのような化合物の適切な塩及びそれらの調製方法は、当業者が容易に選択することができる。該化合物は、例えば、その適切な薬学的に許容される塩に無機又は有機塩基を用いて変換することができる。この目的のために適切であり得る塩基には、アルカリ及びアルカリ土類金属水酸化物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又は水酸化セシウム、アンモニア及びジエチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、シクロヘキシルアミン及びジシクロヘキシルアミンなどの有機アミン類が含まれる。塩形成の手順は、当技術分野の従来のものである。
【0067】
式I及びIIの好ましい化合物は、以下のもの:
【0068】
【化4】
【0069】
及びそれらの薬学的に許容される塩を含む。
【0070】
少なくとも1つの薬学的に許容される担体又は賦形剤と共に、式I、II、Ia若しくはIIaの化合物又はその薬学的に許容される塩のいずれかを含有する医薬組成物は、本発明のさらなる態様を表す。
【0071】
これらの新規化合物は、当業者に公知の方法によって調製することができ、本明細書で提供される実施例によって例示される。このような化合物の調製方法はまた、本発明の一部を形成する。
【0072】
したがって、さらなる態様から考えると、本発明は、式I又はIIの化合物の調製方法であって、以下の工程:
(a)式IIIの化合物:
【0073】
【化5】
【0074】
と、式IV又はVの化合物:
【0075】
【化6】
【0076】
(式IVにおいて、Xは臭素又はヨウ素原子であり、式Vにおいて、各Xは独立して、臭素及びヨウ素原子から選択される)
を反応させる工程;及び
(b)必要に応じて、生じた化合物をその薬学的に許容される塩に変換する工程、
を含む方法を提供する。
【0077】
本発明はさらに、医薬として、例えば、治療薬、診断薬又はセラノスティック薬(すなわち、治療及び診断の両方の機能を有するもの)として、式I、II、Ia及びIIaの化合物、及びその薬学的に許容される塩のいずれかの使用を提供する。特に、これらは、PDT及び/又はSDTの方法、又はインビボイメージング(例えば、NIRイメージング)の方法、特に、腫瘍塊などの深部に位置する細胞の治療及び/又は診断のイメージング方法において使用することができる。PDTの方法において使用される場合、近IR領域、例えば、700~900nm、より特には、750~850nmの波長を有する活性化光を使用することができる。NIR光活性化又は超音波活性化の際に、これらの化合物は、ROS生成能を増強し、ICGよりも癌細胞(例えば、膵臓癌及び子宮頸癌の細胞)に対してより毒性である。
【0078】
NIRイメージング剤としての、好ましくは、PDT及び/又はSDTにおける組み合わせた増感剤及びNIRイメージング剤としての式I又はIaの化合物又はその薬学的に許容される塩の使用は、本発明の好ましい実施形態を表す。
【0079】
本明細書に記載のハロゲン化増感剤、特に、式I、II、Ia、IIaの化合物、及びそれらの薬学的に許容される塩のいずれかを保有する微小気泡、並びにそのような微小気泡の調製方法も、本発明の一部を形成する。そのような微小気泡-増感剤複合体は、微小気泡への超音波感受性薬剤の付着に関して、本明細書に記載される方法のいずれかを用いて生成することができる。好ましくは、そのような方法は、ハロゲン化増感剤のビオチン化の工程及びそれをビオチン-アビジン官能化微小気泡に連結する工程を含む。
【0080】
微小気泡の形成の方法は当技術分野で知られている。そのような方法は、選択されたシェル材料の存在下で水性媒体中での気体の懸濁液の形成を含む。微小気泡を形成するために使用される技術は、超音波処理、高速混合(機械的撹拌)、同軸電気流体力学噴霧及びT-接合を用いるマイクロ流体処理を含む(例えば、Stride & Edirisinghe,Med.Biol.Eng.Comput.,47:883-892,2009参照されたい)。
【0081】
超音波処理は、広く使用され、一般的に好ましい。この技術は、超音波送信用プローブを用いて行うことができる。より具体的には、微小気泡シェル成分の水性懸濁液は、関連する微小気泡の成分の気体、例えば、酸素の存在下で超音波処理される。
【0082】
微小気泡を形成するために使用され得る他の方法は、ナノエマルジョン中のナノ液滴コアの蒸発を含む(例えば、Rapoportら、前出を参照されたい)。そのようなナノ液滴のコアは、典型的には、ポリ(エチレンオキシド)-コ-ポリ(L-ラクチド)又はポリ(エチレンオキシド)-コ-カプロラクトンなどの生分解性両親媒性ブロック共重合体の壁によって包まれている有機パーフルオロ化合物により形成される。或いは、ナノエマルジョンは、例えば、シェル材料としてアルブミンを使用して、サイジング膜を通す押出によって調製することができる。液滴から気泡への遷移は、熱、超音波及びファインゲージ針を介する注入を含む物理的並びに/又は機械的手段により誘導することができる。そのような微小気泡は、患者への投与の時点で(例えば、ファインゲージ針を用いる投与の工程中に)又は所望の標的細胞又は組織にインビボで(例えば、ナノエマルジョンを超音波に供することによって)形成することができる。
【0083】
患者への投与の工程中又は投与後(すなわち、インビボ)のいずれかで、本明細書に定義される所望の微小気泡複合体(又は複数の複合体)を形成することが可能なナノエマルジョンの投与は、本発明の範囲内である。生じた微小気泡が酸素ガスを含有することが望ましい場合、これは、位相シフトナノエマルジョンの液体のパーフルオロカーボンコア中に溶解された形態で提供することができる。
【0084】
本明細書に記載の微小気泡複合体は、当技術分野で公知の方法及び手順を用いて調製することができる。微小気泡に化学療法剤及び/又は超音波感受性薬剤を共有結合するために使用することできる方法は、公知の化学的カップリング技術を含む。使用される正確な方法は、微小気泡の正確な性質、化学療法剤及び超音波感受性薬剤、具体的には、任意のペンダント官能基の性質に依存する。必要であれば、複合体の成分の1つ又は両方(すなわち、微小気泡及び/又は超音波感受性薬剤、又は微小気泡及び/又は化学療法剤)は、例えば、分子をカップリングするために使用することができる反応性官能基を含むように官能化することができる。適切な反応性基には、酸、ヒドロキシ、カルボニル基、酸ハロゲン化物、チオール及び/又は第一級アミンが含まれる。そのような官能基を導入する方法は、当技術分野で周知である。
【0085】
1以上の化学療法剤及び/又は超音波感受性薬剤に微小気泡を共有結合するために使用することができる方法の例としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:a)カルボジイミド系カップリング方法。これらは、カルボン酸又はアミン官能基のいずれかを有する部分にアミン又はカルボン酸官能基のいずれかを含有する微小気泡をカップリングするために使用することができる。そのような方法は、エステル又はアミド結合の形成をもたらす;b)「クリック(CLICK)」反応(すなわち、1,3-双極子環状付加反応)。これは、アセチレン又はアジド官能基のいずれかを有する部分と、アジド又はアセチレン官能化微小気泡を反応させるために使用することができる;c)シッフ塩基形成(すなわち、イミン結合形成)。この反応は、アミン又はアルデヒド官能基を含有する部分にアルデヒド又はアミン官能化微小気泡を結合するために使用することができる;並びにd)マイケル付加反応。
【0086】
ビオチン-アビジン連結を介する1以上の化学療法剤及び/又は超音波感受性薬剤への微小気泡の連結は、当業者に公知の方法によって行うことができる。そのような方法では、両方の部分は、典型的には、ビオチン化され、その後、アビジンを用いて2つの間の連結を形成する。ビオチン-アビジン相互作用を介して結合させた微小気泡-化学療法剤コンジュゲートを生成する方法の例を実施例2のスキーム1に提供する。
【0087】
予め形成された微小気泡への化学療法剤及び/又は超音波感受性薬剤のカップリングに代わるものとして、これらの部分は、代替的に(例えば、上述の方法のいずれかを使用して)脂質に連結することができ、その脂質は、続いて、調製中に微小気泡の脂質シェルに組み込まれ得る。
【0088】
荷電超音波感受性薬剤及び/又は荷電化学療法剤は、荷電微小気泡に静電気的に連結することができる。例えば、陰イオン性の泡は、陽イオン性超音波感受性薬剤又は陽イオン性化学療法剤に連結することができ、かつ逆もまた同じである。荷電超音波感受性薬剤の一例としては、陰イオン性微小気泡に静電気的に付着することができるメチレンブルーが挙げられる。
【0089】
微小気泡-超音波感受性薬剤複合体の調製の方法の例はWO 2012/143739に開示されており、その全体の内容は参照により本明細書に組み込まれる。一例として、添付の図2は、(a)ローズベンガル誘導体の調製の模式図(「RBI」と表記する)及び(b)微小気泡へのRBIの共有カップリングの模式図を示す。WO 2012/143739に開示された方法のいずれかは、本明細書に記載の微小気泡-化学療法剤複合体の調製と同様にして適用することができる。
【0090】
本明細書に記載の微小気泡-化学療法剤複合体は、それ自体新規であり、本発明のさらなる態様を形成する。一実施形態において、これらの複合体はまた、本明細書に記載の1以上の超音波感受性薬剤に連結することができる。例えば、本明細書に記載の技術のいずれかを用いて、微小気泡へ少なくとも1つの化学療法剤を連結する工程を含む、微小気泡-化学療法剤複合体の調製方法は、本発明のさらなる態様を形成する。
【0091】
本明細書に記載の微小気泡複合体は、これらを音響力学的療法の方法に有用にさせる特性を有する。
【0092】
該複合体は、音響力学的療法に応答する体内の細胞若しくは組織の障害又は異常の治療に適している。これらには、癌性増殖又は腫瘍などの悪性及び前悪性の癌状態、並びにその転移;肉腫及び癌腫などの腫瘍、特に固形腫瘍が含まれる。本発明は、腫瘍、特に、皮膚の表面の下に位置するものの治療に適している。
【0093】
本発明を用いて治療され得る腫瘍の例としては、骨肉腫及び軟部組織肉腫を含む肉腫;癌、例えば、乳癌、肺癌、脳癌、膀胱癌、甲状腺癌、前立腺癌、結腸癌、直腸癌、膵臓癌、胃癌、肝臓癌、子宮癌、肝臓癌、腎臓癌、前立腺癌、子宮頸癌及び卵巣癌;ホジキン及び非ホジキンリンパ腫を含むリンパ腫;神経芽細胞腫、黒色腫、骨髄腫、ウィルムス腫瘍;急性リンパ芽球性白血病及び急性骨髄芽球性白血病を含む白血病;星細胞腫、神経膠腫及び網膜芽が挙げられる。膵臓癌の治療は、本発明の好ましい態様を形成する。
【0094】
一態様において、本明細書に記載の複合体は、音響力学的療法の方法、及び同時に、インビボイメージング方法(画像診断などの方法)において使用することができる。そのような方法において、イメージングを用いて、対象となる標的部位での複合体(又は複数の複合体)のペイロード堆積及び/又は蓄積を監視することができる。上記のように、本発明のこの態様は、イメージング潜在力を有する増感剤、例えば、NIRイメージング剤として同時に機能する増感剤を選択することによって実現することができる。或いは、NIRイメージング剤などの公知のイメージング剤はまた、本発明における使用のために提案された微小気泡の少なくとも1つにコンジュゲートすることができる。単一の微小気泡が使用される場合、ひいては、これは、化学療法剤、超音波感受性薬剤及びNIRイメージング剤を保有することができる。異なる微小気泡が、化学療法剤及び超音波感受性薬剤を保有するために使用される場合、NIRイメージング剤は、微小気泡の一方又は両方の種類に(例えば、ビオチン-アビジン相互作用などの非共有結合を介して)コンジュゲートすることができる。微小気泡のこれらの種類のそれぞれは新しく、これらは本発明のさらなる態様を形成する。
【0095】
インビボで特定の部位に化学療法剤及び超音波感受性薬剤を標的化する手段を提供することに加えて、本明細書に記載の方法はさらに、エクスビボで利用することができる。例えば、白血病の治療の自家骨髄移植において、患者の骨髄を、癌細胞への微小気泡複合体(又は複数の複合体)の分子標的によってエクスビボで治療することができる。次いで、これらの混合物は、超音波で処理されて、癌細胞を破壊することができ、次いで、処理された骨髄を用いて、放射線治療後の患者において造血を再確立することができる。或いは、本発明の方法は、従来の移植のために、摘出した臓器から不要な組織を除去するためにエクスビボで行うことができる。外科的切除した組織は標的化され、治療した組織の再移植前に病変が破壊される。
【0096】
本明細書に記載される方法のいずれかで使用するために、微小気泡複合体は、一般的に、少なくとも1つの薬学的に許容される担体又は賦形剤と共に医薬組成物中に提供される。そのような組成物は、本発明のさらなる態様を形成する。
【0097】
本発明に従って使用するための医薬組成物は、当技術分野で周知の技術を用いて製剤化することができる。投与経路は、使用目的に依存する。典型的には、これらは、全身投与され、ひいては、非経口投与、例えば、皮内、皮下、腹腔内又は静脈内注射に適合した形態で提供することができる。好適な薬学的形態は、1種以上の不活性担体又は賦形剤と共に活性微小気泡複合体を含有する懸濁液及び溶液を含む。適切な担体には、生理食塩水、滅菌水、リン酸緩衝生理食塩水及びそれらの混合物が含まれる。
【0098】
該組成物は、さらに、乳化剤、懸濁剤、分散剤、可溶化剤、安定剤、緩衝剤、防腐剤などの他の薬剤を含むことができる。該組成物は、従来の滅菌技術によって滅菌することができる。
【0099】
該複合体を含有する溶液は、例えば、粘度調整剤、乳化剤、可溶化剤などの薬剤を添加することによって安定化させることができる。
【0100】
好ましくは、本発明で使用するための組成物は、水又は生理食塩水、例えば、リン酸緩衝生理食塩水中の複合体(又は複数の複合体)の水性懸濁液形態で使用される。該複合体は、使用の時点で再構成するため、例えば、水、生理食塩水又はPBSで再構成するための凍結乾燥粉末形態で供給することができる。
【0101】
本明細書に記載の方法は、添加された微小気泡を含有する治療有効量の組成物の投与を伴う。次いで、微小気泡複合体は、活性化の前に身体の所望の部分又は標的領域に分配が可能になる。身体に投与されると、標的領域は、所望の治療効果を達成するための周波数及び強度で超音波に曝露される。増感剤添加微小気泡については、典型的な活性化手順は添付の図1に模式的に示されている。これは、微小気泡(MB)が最初に集束超音波により破壊されることによって、後に所望の標的組織(例えば、腫瘍)に浸透することができる超音波感受性薬剤(SS)を放出する二段階プロセスを示す。標的細胞内の超音波感受性薬剤のその後の超音波活性化により一重項酸素が生成され、それが、タンパク質、脂質、アミノ酸及びヌクレオチドなどの様々な細胞成分を酸化することによって標的細胞を破壊することができる。超音波感受性薬剤の活性化は、典型的には、その送達の後(すなわち、超音波感受性薬剤を放出する微小気泡のバースト後)に起こることが予想されるが、それにもかかわらず、複合体の送達及び超音波感受性薬剤の活性化は同時であり得る。
【0102】
本明細書に記載の組成物の有効用量は、該複合体の性質、投与様式、治療される病状、患者などに依存し、それに応じて調整することができる。
【0103】
使用することができる超音波の周波数及び強度は、標的部位での微小気泡の選択的破壊を達成する必要性に基づいて選択することができ、例えば、微小気泡の共振周波数に一致させることができる。超音波周波数は、典型的には、20kHz~10MHz、好ましくは0.1~2MHzの範囲である。超音波は、異なる周波数の組合せの単一周波数のいずれかとして送達することができる。超音波の強度(すなわち、電力密度)は、約0.1W/cm2~約1kW/cm2、好ましくは、約1~約50W/cm2の範囲であり得る。処理時間は、典型的には、1ミリ秒~20分の範囲であり、これは選択された強度に依存し、すなわち、低い超音波強度については、処理時間が延長され、より高い超音波強度については、処理時間はより短くなる。超音波は、連続モード又はパルスモードで適用することができ、集束するか、又は柱状ビームとして送達され得る。
【0104】
音響エネルギー(例えば、超音波)を生成することが可能な任意の放射線源は、本明細書に記載する方法で使用することができる。該源は、標的部位にエネルギーを導くことができなければならず、例えば、身体の表面から標的組織にエネルギーを導くことができるプローブ又は装置を含むことができる。
【0105】
キャビテーション(又は微小気泡破壊)を達成するのに必要な超音波の周波数及び/又は強度並びに超音波感受性薬剤の活性化を引き起こすのに必要なそれらが異なる場合には、超音波パラメータ(周波数/強度)のこれらの異なるセットは、同時に又は2(又は複数)の工程手順で適用することができる。
【0106】
本発明のさらなる態様は、患者の細胞又は組織の音響力学的治療方法に関し、本方法は、
(a)本明細書に記載の有効量の組成物を、影響を受けた細胞又は組織に投与すること;及び
(b)前記細胞又は組織を超音波に供すること、
を含む。
【0107】
使用される超音波感受性薬剤は、光にも応答するものである場合に、超音波活性化は光活性化を伴い得る。例えば、超音波感受性薬剤としてNIR色素を使用する場合、光熱活性化も追加的に使用することができる。
【0108】
異なる微小気泡が、化学療法剤及び超音波感受性薬剤を運ぶために使用される場合、これらは、一般的に、単一の医薬製剤、例えば、水性溶液中で共投与されることが想定される。しかしながら、別の実施形態において、これらは、別々の製剤に(例えば、同時に又は連続して)別々に投与することができる。
【0109】
このように、さらなる態様において、本発明は、本明細書に記載の微小気泡-化学療法剤複合体、並びに音響力学的療法及び/又は画像診断の方法で同時又は逐次使用するための本明細書に記載の微小気泡-超音波感受性薬剤複合体を含む生成物を提供する。
【0110】
さらに別の態様において、本発明は、必要に応じて、音響力学的療法及び/又は画像診断の方法における(i)及び(ii)の使用説明書と共に、(i)本明細書に記載の微小気泡-化学療法剤複合体;及び別々に(ii)本明細書に記載の微小気泡-超音波感受性薬剤複合体を含むキットを提供する。使用される場合、該キットの活性成分(すなわち、(i)及び(ii))は、同時に、別々に又は逐次的に投与することができる。該キットの一実施形態において、成分(i)及び/又は(ii)は、例えば、凍結乾燥粉末として、乾燥形態で提供することができる。この場合、該キットはまた、活性物質の粉末形態の再構成のための無菌の、生理学的に許容される液体、例えば、生理食塩水又はPBSを含有する容器を含むことができる。
【0111】
本発明による様々な方法及び使用は、主に、「すぐに使える」微小気泡-超音波感受性薬剤複合体の投与の文脈で本明細書に記載されているが、代替実施形態において、該複合体の前駆体を投与することができる。本明細書で使用する用語「前駆体」は、インビボでそれに変換され、ひいては、本質的にそれと同等である微小気泡-超音波感受性薬剤複合体の前駆体を指すことが意図される。したがって、例えば、用語「前駆体」は、インビボで又は投与中のいずれかに、所望の微小気泡-超音波感受性薬剤複合体に変換することが可能なナノエマルジョン又はナノ液滴製剤を包含する。一実施形態において、そのような前駆体は、標的組織(例えば、腫瘍組織)に蓄積する際、所望の複合体に変換することが可能である。標的組織又は細胞への分配後に、液滴から気泡への遷移は、超音波を含む方法によって開始することができる。或いは、複合体の前駆体を投与する工程は、それ自体、本発明に係る微小気泡-超音波感受性薬剤複合体の形成を誘導することができる。例えば、該前駆体が、ナノエマルジョンの形態をとる場合、液滴から気泡への遷移は、ファインゲージ針を通して注射によって誘導され得る。標的細胞又は組織、例えば、腫瘍内への適切なナノエマルジョンの直接注射は、本発明の好ましい態様を形成する。
【0112】
理解されるとおり、本明細書に記載の組成物、方法又は使用のいずれにおいても、本発明に係る微小気泡-超音波感受性薬剤複合体への言及は、本明細書で定義される適切な「前駆体」で置換することができる。
【0113】
本発明に係る微小気泡-超音波感受性薬剤前駆体として使用するためのナノエマルジョン又はナノ液滴製剤は、当技術分野で公知の方法及び手順の適切な変形、例えば、Rbpoportら(上述)によって開示されたものによって生成することができる。そのような製剤において、液体パーフルオロカーボン(例えば、パーフルオロアルカン)によって形成することができるナノエマルジョン液滴のコアは、適切なポリマー、タンパク質又は脂質シェル材料(例えば、微小気泡-超音波感受性薬剤複合体に関連して本明細書に記載のポリマーのいずれか)の壁によって包まれている。超音波感受性薬剤へのナノ液滴のシェルの連結は、従来の方法を使用して達成され、予め形成された微小気泡に超音波感受性薬剤を付着するための上記のもののいずれかを含むことができる。使用される正確な方法は、シェル材料及び超音波感受性薬剤の正確な性質、具体的には、任意のペンダント官能基の性質に依存する。必要に応じて、シェル及び/又は超音波感受性薬剤のいずれかは、例えば、部分をカップリングするのに使用することができる反応性官能基を含むように官能化することができる。適切な反応性基には、酸、ヒドロキシ、カルボニル、酸ハロゲン化物、チオール及び/又は第一級アミンが含まれる。一実施形態において、該シェルは、ビオチンで官能基化し、次いで、アビジンに結合して、ビオチン化超音波感受性薬剤の結合を容易にすることができる。形成された微小気泡が酸素ガスを含有することが望ましい場合、パーフルオロカーボンは液体の形態で酸素の担体として作用することができる。複合体の形成に続いて、パーフルオロカーボン液は酸素で飽和され、その後、気化して酸素ガスを形成する。
【0114】
微小気泡-超音波感受性薬剤複合体に関して上述したのと同様に、微小気泡-化学療法剤複合体の前駆体もまた、本発明において使用することができる。同様に、これらは、投与中又は意図された標的部位のいずれかで、所望の複合体を形成することができるナノエマルジョンの形態をとることができる。
【0115】
これから、本発明を以下の非限定的な実施例及び添付の図面を参照してさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0116】
図1】微小気泡-超音波感受性薬剤複合体の超音波活性化超音波感作の模式図である。
図2】(a)ローズベンガル誘導体(「RB1」と表記する)の調製の模式図及び(b)微小気泡へのRB1の共有カップリングの模式図を示す。
図3】PBSでの希釈(1:10)後にO2MBの40倍対物レンズで撮影した顕微鏡写真を示す。スケールバーは20μmである。(b)30枚の光学顕微鏡像の分析から得られた遠心分離後のO2MBのサイズ分布(グラフの左側の白いボックスは、画像解析ソフトウェアによって検出されたMBを示すが、システムの光学分解能の450nm未満である)。
図4】37℃で、DBPC又はDSPCのいずれかから調製したMBのPBS分散液のインキュベーション後に残っている%MBのプロットである。エラーバーは、n=4の場合の±標準誤差を表す。*p<0.05及び**p<0.01。
図5】O2MB又はPFBMBのいずれかを含有する脱気したPBS溶液についての溶存酸素の増加率(%)のプロットである。矢印は、超音波適用の時刻を示す。
図6】(左から右へ)(i)未処理、(ii)ゲムシタビン、(iii)5-FU、(iv)O2MB-5FU+US、(v)O2MB-RB+US、(vi)O2MB-RB/O2MB-5FU混合物-US及び(vii)O2MB-RB/O2MB-5FU混合物+USで処理した(a)BxPc-3、(b)MIA PaCa-2及び(c)PANC-1細胞の細胞生存率のプロットである。[RB]、[5-FU]及び[ゲムシタビン]を、それぞれ5μΜ、100μΜ及び100μΜで一定に保った。超音波処理を、1MHzの周波数、3.0Wcm-2の超音波パワー密度及び50%のデューティ・サイクル、パルス周波数=100Hzで30秒間施した。エラーバーは、n=4の場合の±標準誤差を表す。*p<0.05及び**p<0.01及び***p<0.001。
図7】PFBMB-RB/PFBMB-5FU混合物+US(左)又は(ii)O2MB-RB/O2MB-5FU混合物+US(右)で処理したBxPc-3(黒)、MIA PaCa-2(灰色)及び(c)PANC-1(白)細胞の細胞生存率のプロットである。濃度及びUSパラメータは図6のとおりである。エラーバーは、n=4の場合の±標準誤差を表す。**p<0.01。
図8】(i)未処置(白菱形)、(ii)超音波のみ(黒菱形)、(iii)ゲムシタビン(白三角)、(iv)O2MB-RB/O2MB-5FU混合物-US(白丸)、(v)O2MB-RB+US(黒四角)、(vi)O2MB-RB/O2MB-5FU混合物+US(黒丸)で処置したマウスの(a)腫瘍容積の変化率(%)及び(b)平均体重のプロットである。図の簡便さのために、5FUのみ、O2MB-RB-US、O2MB-5FU+US、O2MB-5FU-USについては示さない。RB、5-FU及びゲムシタビンの濃度は、それぞれの場合で、それぞれ0.184mg/kg(90.8μM)、0.115mg/kg(440μM)及び0.264mg/kg(440μM)で一定に保った。超音波処理を、1MHzの周波数、3.0Wcm-2の超音波パワー密度及び50%のデューティ・サイクル、パルス周波数=100Hzで30秒間施した。エラーバーは、n=4の場合の±標準誤差を表す。(i)と比較した(iv)については*p<0.05及び**p<0.01及び***p<0.001並びに(v)と比較した(vi)についてはΔp<0.05及びΔΔp<0.01及びΔΔΔp<0.001。
図9】IPゲムシタビン(0、3及び8日目に120mg/kg)(黒四角)又はビヒクルのみ(黒菱形)で処置したマウスの腫瘍体積の変化率(%)のプロットである。エラーバーは、n=4の場合の±標準誤差を表す。
図10】(a)免疫組織化学を用いたBcl3及びBcl2タンパク質発現を示す。内部画像は全区間であり、主画像は、20倍の倍率で選択した領域である。(b)Bcl3及びBcl2の発現についての組織学スコアである。
図11】(a)Bcl3の定量的RT-PCR mRNA発現、(b)(i)未処置(黒)、(ii)O2MB-5FU+US(灰色)及び(iii)O2MB-RB/O2MB-5FU混合物+US(白)のBcl3遺伝子発現プロファイルのプロットを示す。エラーバーは、n=3の場合の±標準誤差を表す。***p<0.001。
図12】(a)IV注射中に腫瘍に超音波を適用する場合(+US)と適用しない場合(-US)での、MB-9コンジュゲートの静脈内投与の前(t=0)、5分後(t=5)及び30分後(t=30)の異所性BxPC-3腫瘍を有するヌードマウスの代表的な蛍光画像、(b)IV注射中に腫瘍に超音波を適用する場合(US)と適用しない場合(対照)での、MB-9コンジュゲートの静脈内投与後5分及び30分の時点で記録した腫瘍の蛍光の増加率(%)のプロットを示す。強度の増加を、処置前の腫瘍に対して測定した。エラーバーは、n=3の場合の±SEMを表す。(c)O2MB又はPFBMBのIV懸濁液で処置したマウスのHif1αタンパク質発現を示す(ローディング対照GBPDHと比較した)濃度測定データ。エラーバーは、n=3の場合の±SEMを表す。*p<0.05及び**p<0.01及び***p<0.001。
図13】(i)ビヒクルのみ(白丸)、又は(ii)処置間で1分間の遅れ、3×3分間、780nmの光照射で、PBS:DMSO(98:2)中のI2-IR783(100μL、1mg/kg)の腫瘍内注射(白四角)で処置した異所性ヒト膵臓BxPC3腫瘍を有するマウスについての時間に対する腫瘍成長率(%)のプロットを示す。治療群のマウスに、8日目に100μLのO2MB(1×108 MB/mL)を含む第2の処置を行った。
図14】(a)UV-Visスペクトル及び(b)ICG(・・・・・・)、I2-IRCYDYE(実線)及びI4-IRCYDYE(-----)の蛍光スペクトルを示す。
図15】ICG、I2-IRCYDYE及びとI4-IRCYDYEについての、410nmでのSOSG強度の増加のプロットを示す。増加したSOSG強度は、一重項酸素の生成を示す。
図16】1分間、780nm(200mW)の光を当てる場合(白棒)及び当てない場合(黒棒)での、(a)ICG、(b)I2-IRCYDYE及び(C)I4-IRCYDYEで処置したMia Paca(上のグラフ)及びBxPC3細胞(下のグラフ)の細胞生存率のプロットを示す。
図17】SDT及び5FU処理を組み合わせた時に明らかな相乗効果があるかどうかを決定するために、ローズベンガル(RB)、5-フルオロウラシル(5FU)及びRB/5FU組み合わせ処理±超音波を用いたMia Paca2細胞の処理を示す。この細胞を、3時間、サブ致死用量である3μΜのRB及び50μΜの5FUのいずれか(又は両方)とインキュベートすることで、相乗効果が明らかであるかを特定できた。超音波暴露は、3.0Wcm-2、1MHz、50%のデューティ・サイクル、100Hzのパルス反復周波数で30秒間であった。細胞生存率を、MTTアッセイを用いて、処理後24時間測定した。
図18】ドキソルビシン(Dox-O2MB)及びローズベンガル(RBO2MB)を表面に付着させた酸素添加微小気泡の模式図を示す。
図19】(i)ビヒクルのみ、(ii)DoxO2 MB+US、(iii)RBO2MB+US又は(iv)DoxO2 MB/RBO2MBの組み合わせ+USで処理したヒト異種移植片MDA-MB-231乳房腫瘍の時間に対する腫瘍体積変化率(%)のプロットを示す。グループ(ii)及び(iii)についてはRB及びDOXそれぞれ300μΜ及び475μΜ、並びにグループ(iv)についてはRB及びDOXそれぞれ150μΜ及び237.5μΜを含有するMBの用量を反映する100μLの腫瘍内注射を0日及び14日目に施した。超音波暴露は、3W/cm2、1MHz、50%のデューティ・サイクル、100Hzのパルス反復で3.5分間であった。
【発明を実施するための形態】
【0117】
実施例
試薬及び器具:
ローズベンガルナトリウム塩、2-ブロモエチルアミン、NHS-ビオチン、MTT、アビジン、FITCアビジン、クロロ酢酸、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、Ν,Ν’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、無水ジメチルホルムアミド(DMF)及びエタノールを、可能な限り最高級でSigma Aldrich社(UK)から購入した。ビオチン、5-フルオロウラシル、ジ(N-スクシンイミジル)カーボネート及び2-アミノエタノールを、Tokyo Chemical Industry UK社から購入した。1,2-ジベヘノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、ジベヘノイルホスファチジルコリン(DBPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[アミノ(ポリエチレングリコール)-2000(DSPE-PEG(2000))及びDSPE-PEG(2000)-ビオチンを、Avanti Polar Lipids(Alabaster,Alabama,USA)から購入した。ドキソルビシンをXBBC(中国)から購入した。酸素ガスをBOC Industrial Gases UKから購入し、パーフルオロブタン(PFB)ガスをApollo Scientific社から購入した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)をGibco,Life Technologies,UKから購入した。
【0118】
NMRスペクトルを、Varian 500 MHz分光計で記録した。ESI-MSの特徴付けは、エレクトロスプレーイオン化(ESI)を利用するLCQTM四重極イオントラップ質量分析計(Finnigan MAT,San Jose,California,USA)を用いて達成した。光学顕微鏡画像は、光学顕微鏡(Leica DM500光学顕微鏡)で撮影した。溶存酸素を、Thermo Scientific Orion Star A216ベンチトップ溶存酸素計を用いて測定した。エラーを±SEM(平均の標準誤差)として表し、統計比較を対応のないスチューデントt検定を用いて行った。
【0119】
実施例1-O2添加微小気泡(O2MB)の調製
DSPC MBを、McEwanら(J Control Release.2015;203,51-6)に記載されるように調製した。しかしながら、MBの物理的安定性及びO2保持に対するそれらの安定性の両方を改善するために、発明者らは、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)の代わりに、長鎖脂質ジベヘノイルホスファチジルコリン(DBPC)を利用し、これは、MB表面の拡散を低減し、ひいては安定性を向上させることが以前の研究で示されている。
【0120】
DBPC MBの調製については、DBPC(4.0mg、4.43μmol)、DSPE-PEG(2000)(1.35mg、0.481μmol)及びDSPE-PEG(2000)-ビオチン(1.45mg、0.481μmol)を、82:9:9のモル比で、クロロホルムに溶解し、ガラスバイアルに入れた。全てのクロロホルムが蒸発するまで、溶液を40℃で加熱した。PBS(pH7.4±0.1)(5ml)を乾燥脂質フィルムに添加し、内容物を30分間絶えず磁気撹拌しながら、脂質相転移温度を超えて(>70℃)加熱する。次いで、懸濁液をMicroson超音波細胞破壊器で1.5分間超音波処理(100ワット、パワー設定4で22.5kHz)し、ヘッドスペースをパーフルオロブタン(PFB)の気体で充填し、気体/液体界面を20秒間超音波処理(パワー19)すると、PFBMBが生成した。MB懸濁液を、約10分間氷浴中で冷却した。次いで、アビジンの水溶液(50μL、10mg/mL)を、冷却したMB懸濁液に添加し、さらに10分間撹拌した。次いで、この懸濁液を遠心分離し(300RPM、10分)、得られたMB「ケーキ」を1mLのPBS(pH7.4±0.1)に濃縮した。これを、2つの凍結乾燥バイアルに分けた。次いで、PFBMBについては、バイアルを圧着した(金属キャップで密封した)。酸素充填MBを作成するために、バイアルのヘッドスペース及びMB懸濁液を2分間酸素ガスの正圧下で分散し、次いで、バイアルを圧着した。上記のように調製した後、MB試料を従来の光学顕微鏡下で画像化し、それらのサイズ分布及び濃度を決定した。10μLの試料を、各懸濁液から取り出し、90μLのPBS(pH7.4±0.1)で希釈し、その後、血球計算器(Bright-Line,Hausser Scientific,Horsham,PA,USA)で検査した。Leica DM500光学顕微鏡で40倍の対物レンズを用いて画像を取得した。次いで、MBのサイズ分布及び濃度を、Matlab(2010B,The MathWorks,Natick,MA,USA)で、目的が書き込まれた画像解析ソフトウェアを用いて取得した。
【0121】
これらのMBは、光学顕微鏡画像分析によって決定した場合に、約1×109MB/mLの濃度で、1~2μmmの平均直径を有していた(図3)。DBPCの包含がMB安定性に与える効果を決定するために、発明者らは、37℃でDBPC又はDSPCで調製したMBのPBS分散液をインキュベートし、様々な時間間隔で残りの生存MB数を計数した。結果を図4に示し、DSPCを用いて調製したものと比較して、DBPCから調製したMBの安定性の有意な改善を明らかにしている。実際、3時間のインキュベーション後、DBPC MBの80%が残ったが、DSPC MBの数は54%に減少した。これらの結果は、脂質のアシル鎖長が増加すると、微小気泡の機械的柔軟性と表面拡散の両方を低減することを示した以前の研究のものと一致している。
【0122】
実施例2-ビオチン化ローズベンガル及びビオチン化5-FUの調製
【0123】
【化7】
【0124】
ビオチン官能化ローズベンガル(6)を、McEwanら(J Control Release.2015;203,51-6)に記載されているように調製した。ビオチン官能化5-FU(5)を、以下に概説する手順に従うスキーム1aに従って合成した。
【0125】
N-(2-ヒドロキシエチル)-5-(2-オキソヘキサヒドロ-1H-チエノ[3,4-d]イミダゾール-4-イル)ペンタンアミド(2)の調製:
無水DMF(40mL)中のビオチン-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(1)(KangらのJr.Rapid Commun Mass Spectrom.2009,23(11),1719-1726)に記載のビオチンとジ(N-スクシンイミジル)カーボネートとの反応によって調製した)の氷冷溶液(3.75g、11ミリモル)に、2-アミノエタノール(1.0ml、16.4ミリモル)を加え、混合物を30分間、25℃で撹拌した。反応を薄層クロマトグラフィー(TLC)(Merck Silica 60、HF 254、20:80メタノール-ジクロロメタン v/v)により監視した。ビオチン-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(Rf=0.76)は、アルコール生成物(Rf=0.47)の同時形成と共に、15分以内に消費された。反応混合物を減圧下で濃縮し、残渣をDMFと共蒸発させ、過剰量の2-アミノエタノールを除去した。白色残留物を水から再結晶し、明黄色の固体(1.7g、38%)として2を得た。分析試料を、2回目の再結晶から得て、融点は192-195℃であった。
【0126】
1HNMR(500MHz,D2O)4.49-4.47(m,1H,-CH),4.31-4.30(m,1H,-CH),3.53-3.51(m,2H,CH2),3.23-3.18(m,3H,CH及びCH2),2.85-2.64(m,2H,CH2),2.15(t,2H,-CH2),1.62-1.46(M,4H,CH2X2),1.32-1.26(m,2H,CH2)。
13C NMR(125MHz,D2O)177.09(C=O),61.98(CH2),60.19(CH),59.91(CH),55.24(CH),41.29(CH2),39.61(CH2),35.42(CH2),27.77(CH2),27.56(CH2),25.02(CH2)。
ESMS(M+H+):C122133Sの実測値288.70、計算値=287.13。
【0127】
5-フルオロウラシル-1-カルボン酸(4)の調製:
水100mL中の5-フルオロウラシル(3)(5g、38.4ミリモル)、水酸化カリウム(9.07g、161.6ミリモル)及びクロロ酢酸(3.63g、38.4ミリモル)の混合物を、70℃で2時間還流した。室温まで冷却した後、溶液のpHを濃塩酸の添加により5.5に調整した。次いで、反応混合物を18時間、冷蔵庫(5℃)で保管し、得られた白色結晶を濾過により単離し、冷水で洗浄し、52.5%の収率で4を生成した。融点は200℃を超える。
【0128】
1H NMR(500MHz,D2O)7.76(d,1H,J=6Hz,CH),4.29(s,2H,CH2
13C NMR(D2O):173.58(C=O),159.97(C=O),150.80(C=O),141.20(C),131.74(CH),51.48(CH2)。
ESMS (M-H+):C6542Fの実測値187.10、計算値=188.11。
【0129】
2-(5-(2-オキソヘキサヒドロ-1H-チエノ[3,4-d])イミダゾール-4-イル)ペンタンアミド)エチル2-(5-フルオロ-2,4-ジオキソ-3,4-ジヒドロピリミジン-1(2H)-イル)アセテート(5)の調製:
N-(2-ヒドロキシエチル)-5-(2-オキソヘキサヒドロ-1H-チエノ[3,4-d]イミダゾール-4-イル)ペンタンアミド(2)(0.5g、1.7ミリモル)、5-フルオロウラシル-1-カルボン酸(4)(0.4g、2.1ミリモル)、DMAP(0.023g、0.17ミリモル)及びHOBT(0.023g、0.17ミリモル)を、N2雰囲気下で、100mLの2口丸底フラスコ中の20mLの無水DMFに加えた。混合物を40℃に加熱し、均一な溶液が得られるまで撹拌した。次いで、DCC(0.4g、1.9ミリモル)を反応混合物に加え、12時間室温で撹拌した。DMFを減圧下で除去し、ジエチルエーテル(50mL)を加え、内容物を20分間撹拌した。得られた白色半固体生成物を濾過により除去し、減圧下で過剰のジエチルエーテルを除去した後、粗生成物を、移動相としてアセトニトリル/水(80:20 v/v)を使用して分取HPLC(C-18カラム)により精製した。生成物5を、白色半固体(0.24g、収率30%)として所望の画分の凍結乾燥後に得た。
【0130】
1H NMR(500MHz,D2O):7.67(D,1H,J=6.0Hz,CH),4.50-4.47(m,1H,CH),4.31-4.29(m,1H,CH),4.19(s,2H,CH2),3.54(t,2H,CH2),3.22-3.19(M,2H,CH2),2.89-2.86(M,1H,CH),2.67-2.64(m,2H,CH2),2.17-2.14(m,2H,CH2),1.61-1.47(m,4H,CH2X2),1.47-1.28(m,2H,CH2)。
【0131】
13C NMR 125MHz,D2O):177.12(C=O),173.74(C=O),165.33(C=O),160.01(C=O),159.81(C=O),141.14(C),131.71(CH),62.00(CH2),60.22(CH),59.94(CH),55.26(CH),51.53(CH2),41.31(CH2),39.64(CH2),35.45(CH2),27.79(CH2),27.58(CH2),25.14(CH2)。
ESMS (M-H+):C1824FN56Sの実測値456.20、計算値=457.48。
【0132】
実施例3-O2MB-ローズベンガル及びO2MB-5FUコンジュゲートの調製
5(91.2mM)及び6(0.61mM)の飽和溶液を、PBS(pH7.4±0.1)中の0.5%DMSO液で調製した。次いで、これらのストック溶液の0.3mLのアリコートを、アビジン官能化PFBMB(1×109 MB/mL)の2つの1mL懸濁液に別々に添加し、内容物を15分間、ボルテックスで混合した。次いで、懸濁液を5分間で、遠心分離(900rpm)し、溶液の上部に浮遊した乳状懸濁液としてMBコンジュゲートを単離した。溶液を除去し、さらに、5又は6のいずれかを含有するストック溶液0.3mLと交換し、混合/遠心分離の工程を繰り返した。次いで、MB懸濁液を、PBS(5mL)で洗浄し、5分間遠心分離(900rpm)し、MBを清浄な遠心管に移した。この洗浄手順を再度繰り返し、単離したPFBMB-RB及びPFBMB-5FUコンジュゲートをガラスバイアルに入れた。次いで、PFBMB-RB及びPFBMB-5FUコンジュゲートに、酸素ガスを2分間噴霧し、得られたO2MB-RB及びO2MB-5FUコンジュゲートを1:3.25の比率で混合し、90.8μMのRB及び440μMの5-FUで、6.8×107MB/mLを含有する最終懸濁液を生成した。
【0133】
このO2MB-RB/O2MB-5FU混合物を、本明細書に記載のインビトロ及びインビボ実験で直接使用した。
【0134】
実施例4-O2MB-IR820コンジュゲートの調製
【0135】
【化8】
【0136】
2-((E)-2-((E)-2-((4-アミノフェニル)チオ)-3-((E)-2-(1,1-ジメチル-3-(4-スルホブチル)-1H-ベンゾ[e]インドール-2-(3H)-イリデン)エチリデン)シクロヘキサ-1-エン-1-イル)ビニル)-1,1-ジメチル-3-(4-スルホブチル)-1H-ベンゾ[e]インドール-3-イウム(8)の合成:
化合物7を、文献の手順に従って調製した(Jamesら、腫瘍の近赤外蛍光イメージングのための潜在的プローブとしてのポリメチン色素の評価(Evaluation of Polymethine Dyes as Potential Probes for Near Infrared Fluorescence Imaging of Tumors):パート-1.Theranostics.2013,3(9),692-702)。4-アミノチオフェノール(0.63g、5ミリモル)をN2雰囲気下で無水DMF(50ml)に溶解した。7(0.6g、0.7ミリモル)をこの溶液に添加し、混合物を室温で18時間撹拌した。この反応を、TLC(移動相として25%のMeOH/DCMを使用して、Merck Silica 60、HF 254)によって監視した。DMFを減圧下で除去し、残渣をDMF(5mL)に再溶解し、Et2O(15mL)で沈殿させた。固体生成物を濾過し、Et2O(30mL)で洗浄し、溶出剤としてMeOH/DCM(1:3)を用いるカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、60~120メッシュ)によって精製した。生成物(230mg、4.8%)を赤褐色の半固体として単離した。この化合物は、安定せず、次の工程で直ちに使用した。
【0137】
1H NMR(500MHz,MeOH-d4):8.96-8.93(m,2H,Ar-CH),8.81-8.78(m,2H,Ar-CH),8.09-8.07(m,2H,Ar-CH),7.90-7.89(m,6H,Ar-CH),7.57-7.51(m,4H,Ar-CH),7.38(brs,2H,NH2),7.38-7.28(m,2H,Ar-CH),6.34-6.31(m,2H,CH X 2),4.23(brs,4H,CH X 2,CH2),2.87-2.80(m,8H,CH2 X4),1.98-1.91(m,10H,CH2 X5),1.70(s,12H,CH3 X4)。
【0138】
13C NMR(125MHz,dmso-d6):173.4,170.2,150.1,148.4,143.7,144.6,142.7,134.3,133.9,132.4,128.0,126.1,126.2,125.5,125.7,117.5,115.4,104.7,61.8,59.3,49.4,48.9,46.8,30.2,28.6,26.8,26.9,25.2,21.0。
ESMS:C5258363Na2 +の計算値=961.1、実測値960.3。
【0139】
2-((E)-2-((E)-3-((E)-2-(1,1-ジメチル-3-(4-スルホブチル)-1H-ベンゾ[e]インドール-2-(3H)-イリデン)エチリデン)-2-((4-(5-(2-オキソヘキサヒドロ-1H-チエノ[3,4-d]イミダゾール-4-イル)ペンタンアミド)フェニル)チオ)シクロヘキサ-1-エン-1-イル)ビニル)-1,1-ジメチル-3-(4-スルホブチル)-1H-ベンゾ[e]インドール-3-イウム(9)の合成:
化合物8(100mg、0.1ミリモル)を、無水DMF(50mL)中の1(40.9mg、0.12ミリモル)の撹拌溶液に添加し、そこへ触媒量のトリエチルアミンを添加した。溶液を室温で5時間撹拌した。反応混合物をエーテル(100ml)に加え、内容物を30分間攪拌した。沈殿物を濾過により回収し、溶出剤としてMeOH:DCM(1:4)を用いて分取TLCにより精製し、生成物を緑色の粉末として単離した。収率=21mg、18.4%。
【0140】
1H NMR(500MHz,MeOH-d4):8.77(d,J=7.8Hz,2H,Ar-CH),8.21(d,J=7.5Hz,2H,Ar-CH),8.03-7.99(m,2H,Ar-CH),7.73(d,J=7.5Hz,2H,Ar-CH),7.60-7.57(m,2H,Ar-CH),7.47-7.44(M,2H,Ar-CH),7.20-7.17(m,2H,Ar-CH),7.16(d,J=12Hz,1H,CH),6.89-6.83(m,2H,Ar-CH),6.58(d,J=12Hz,1H,CH),6.42(brs,1H,NH),6.36(brs,2H,NH X 2),4.29-4.27(m,6H,CH X 2,NCH2),4.10(brs,2H,-CH2),3.14-3.06(m,3H,CH,CH2),2.80-2.74(m,4H,CH2 X 2),2.57-2.48(m,4H,CH2 X 2),2.19-2.16(m,2H,CH2),1.88-1.59(m,2H,CH2),1.76(s,12H,CH3 X 4),1.59-1.57(M,2H,CH2),1.48-1.28(M,12H,CH2 X 6)。
【0141】
13C NMR(125MHz,dmso-d6):177.5,174.3,169.9,166.2,152.5,150.2,148.0,145.3,144.8,140.7,134.8,132.6,131.3,130.0,128.5,126.3,124.7,120.1,116.8,114.8,102.5,64.0,62.3,60.1,54.9,50.1,48.6,48.1,42.2,36.7,32.8,30.2,28.4,28.3,26.9,26.0,24.5,22.8。
ESMS:C6272584 +の計算値=1142.4(プロトン化形態,M+)、実測値1143.4。
【0142】
2MB-IR820コンジュゲートの調製
ビオチン官能化IR-820(9)を、5-FU及びローズベンガルについて上で説明した手順に従って、O2MBの表面に付着させた。[MB]=2.6×108;[9]=280μΜ。
【0143】
実施例5-O2MBからの超音波媒介O2放出
実施例1で調製した0.5mLのO2MB懸濁液(1×108)を、脱気したPBS液(pH7.4±0.1)(4.5mL)に加えた。この溶液の溶存酸素レベルを、溶存酸素計を用いて、2分間隔で20分間にわたって測定した。超音波を、1MHzの周波数、3.0Wcm-2の超音波パワー密度及び50%のデューティサイクル(パルス周波数=100Hz)を使用して、4.5分後に1分間適用した。PFBMBを用いた対照実験も、同じ手順に従って実施した。
【0144】
2MBが、インビボでの酸素送達のための担体として成功する場合、MBが標的部位で超音波に暴露されるまで、MBのコアと血液との間の気体交換が最小化されることが重要である。市販のMBの半減期は、男性での0.97分から女性での1.23分の範囲である。したがって、酸素拡散勾配が存在し得る状況で、少なくともこの時間の間、O2MBがそれらの酸素を保持することができることが重要である。そのようなシナリオをシミュレートする試みにおいて、O2MB(0.5mL、1×108)をガラスバイアル中の脱気した4.5mLのPBS(pH7.4±0.1)に添加し、内容物を37℃で定期的に撹拌した。O2MBは、PBS溶液の上部に浮遊した時に、オープンバイアルのヘッドスペース内の空気と直接接触する。PBS溶液中の溶存O2の量を、溶存酸素計を用いて測定し、超音波処理前に4.5分間、及び超音波処理後に14.5分間測定した。対照として、PFBMBを用いた実験も行った。結果を図5に示し、溶存酸素が40%超増加する照射後5分の時点で、超音波を外部から印加することによって破壊されるまで、O2MBが効果的にO2を保持することを示す。対照的に、PFBMB対照実験中の溶存酸素は、超音波への暴露後1分の時点で約20%増加し、次いで、超音波への曝露後5分の時点でわずか5%に減少した。発明者らは、対照調製物中の溶存O2のこの初期増加が、測定チャンバー内の流体の超音波媒介攪拌によるものであると考える。それにもかかわらず、結果から、O2MBが効果的に酸素を保持し、超音波への暴露がこのシステムにおいて、比較的長時間持続される溶存酸素の増加をもたらすことが示唆される。発明者らは、保持と超音波媒介放出の両方のこの時間枠が、微小気泡の標的化を可能にするのに十分な時間及び特定の解剖学的部位へのそれらの気体のペイロードを容易にし、SDT中の強化されたROS生成を支持するのに十分である組織微小環境中の溶存酸素の増加を提供すると考える。
【0145】
実施例6-インビトロ細胞傷害性実験
ヒト原発膵臓腺癌細胞株MIA PaCa-2及びPANC-1は、ダルベッコ改変イーグル培地中で維持するが、BxPC-3細胞はRPMI-1640培地中で維持し、これらの全てに、加湿した5%CO2の雰囲気中、37℃で10%(v/v)のウシ胎児血清を補充した。これらの細胞株を、ウェルあたり5×103細胞の濃度で96ウェルプレートのウェルに播種し、加湿した5%CO2雰囲気中、37℃で21時間インキュベートし、その後、3時間、37℃の低酸素(O2/CO2/N2、0.1:5:94.9 v/v/v)チャンバーに移した(これは、腫瘍部位で見出される低酸素状態を模倣することを意図している)。次いで、培地を各ウェルから除去し、O2MB-RB(50μL、5μΜのRB)及びO2MB-5FU(50μL、100μΜの5FU)コンジュゲートで置換した。次いで、個々のウェルを、Sonidel SP100 sonoporator(30秒、周波数=1MHz、超音波パワー密度=3.0Wcm-2、デューティ・サイクル=50%、パルス繰り返し周波数=100Hz)を用いて送達する超音波で処理した。細胞を、処理液を除去する前に、さらに3時間低酸素環境で維持し、細胞をPBSで洗浄し、新鮮な培地(ウェル当たり200μL)を加えた。次いで、MTTアッセイ(McHaleら,cancer Lett 1988;41,315-21)を用いて細胞生存率を決定する前に、プレートをさらに21時間、正常酸素条件(すなわち、37℃で、加湿した5%CO2雰囲気)でインキュベートした。ビヒクルのみ、ゲムシタビン(膵臓癌治療で使用するための承認薬)、5-FU、O2MB-5FU+US、O2MB-RB+US及びO2MB-RB/O2MB-5FU混合物-USについて、同様の手順を繰り返した。全ての実験で、RB、5FU及びゲムシタビンの量は、それぞれ5μΜ、100μΜ及び100μΜを使用した。全てのグループも、同じ量のRB又は5-FUが付着したPFBMBコンジュゲートを用いて繰り返した。
【0146】
図6に示す結果は、組み合わせたSDT/代謝拮抗療法(すなわち、O2MB-RB/O2MB-5FU混合物+US)で処理した細胞の全3つ細胞株において、代謝拮抗薬単独療法(すなわち、5-FU又はゲムシタビン)のいずれかで処理した細胞の生存率と比較して、生存率の統計的に有意な減少が観察されたことを明らかにしている。実際、SDT処置単独(すなわち、O2MB-RB+US)で処理した細胞のそれに比べて、生存率の統計的に有意な減少がまた、併用療法で処理した細胞について観察された。そのような低酸素条件下で観察されたSDT効果がO2MBの使用により大いに増強されることは、超音波処理を行うO2MB-RB/O2MB-5FUと超音波処理を行うPFBMBコンジュゲートの他の点では同一の混合物との間の細胞傷害性の差を比較することによって確認された(図7)。実際に、20%を超える細胞生存率の統計的に有意(p<0.01)な減少が、PFBMBコンジュゲートと比較してO2MBコンジュゲートで処理した全3の細胞株について観察された。まとめると、図6及び図7に示す結果は、SDTを代謝拮抗薬療法と組み合わせた場合、特に、O2MBが追加のO2を提供して、SDT効果を向上させることできる低酸素環境で得られる利益をはっきりと強調する。
【0147】
実施例7-インビボ細胞傷害性実験
BxPc-3細胞を、上記のように10%ウシ胎児血清を補充したRPMI-1640培地中で維持した。細胞(1×106)を、100μLのマトリゲル(登録商標)に再懸濁し、雌のBalb/c SCID(C.B-17/IcrHan(登録商標)Hsd-Prkdcscid)マウスの後部背部に移植した。腫瘍形成は、移植後約2週間で生じ、キャリパーを使用して、腫瘍測定を1日おきに行った。腫瘍が、腫瘍体積の式=4πR3/3を用いる幾何平均直径から計算して218mm3の平均体積に達したら、動物を無作為に10のグループ(n=4)に分けた。麻酔の誘導(Hypnorm/Hypnovelの腹腔内注射)後に、O2MB-RB(MB=1.6×107、[RB]=90.8μΜ)及びO2MB-5FU(MB=5.2×107、[5FU]=440μΜ)を含有するPBSの100μL混合物を各腫瘍に直接注射した。腫瘍内注射は、プラットフォームの薬物動態学的挙動に起因する実験的変動を排除するために、投与の経路として選択した。次いで、必要であれば、1MHzの超音波周波数、3.5Wcm-2の超音波パワー密度(ISATP;空間平均時間ピーク)及び100Hzのパルス反復周波数で30%のデューティ・サイクルを用いて、3.5分間超音波で腫瘍を処置した。追加の処置グループに、(i)薬物なし、(ii)O2MB-RBコンジュゲート単独±超音波処理;及び(iii)O2MB-5FUコンジュゲート単独±超音波処理を含めた。ゲムシタビン(440μΜ)及び5-FU(440μΜ)単独処置も行った。処置後、動物を麻酔から回復させ、腫瘍体積及び体重を9日間毎日記録した。腫瘍体積の増加率(%)を、各グループについての処置前測定値を用いて計算した。
【0148】
腫瘍体積を、9日間毎日測定し、各グループの腫瘍体積の変化率(%)を時間の関数としてプロットした。解釈を容易にするために、10グループ中6グループの結果のみを図8aに示す。これらの結果から、ゲムシタビン又は5-FU単独処置のいずれかと比較して、SDT/代謝拮抗薬の組み合わせ療法で処置したマウスの腫瘍体積の劇的な減少が明らかになる。実際、処置後9日目に、ゲムシタビン又は5-FUのみで処置したマウスの腫瘍は、それぞれ125.1及び123.3%増え、O2MB-RB/O2MB-5FU混合物+USで処置した腫瘍は、同じ期間内に元の出発体積をわずか29.1%上回って増えた。加えて、SDT単独(すなわち、O2MB-RB+US)処置に対して、SDT/5-FU組み合わせ療法(すなわち、O2MB-RB/O2MB-5FU混合物+US)で処置した腫瘍の腫瘍体積の統計学的に有意な減少もあり、腫瘍は、処置後9日目に、平均30.2%小さくなった。各グループの動物の平均体重(図8b)の分析から、実験の過程での目立った減少は示されず、処置が任意の急性の悪影響をもたらさなかったことが示唆された。
【0149】
これらの実験では、ゲムシタビンを、使用した5FUの量(440μΜ)との直接モル比較を提供するために、0.264mg/kgの濃度で腫瘍内注射として投与した。この量は腫瘍に直接送達されたにもかかわらず、マウスで使用されるゲムシタビンの正常な全身用量(120mg/kg)よりも著しく少ない。
【0150】
全身ゲムシタビン療法に対するSDT/5FU組み合わせ療法の有効性を比較するために、発明者らは、0、3及び8日目に腹腔内(IP)注射により投与されるゲムシタビン(120mg/kg)で、異所性BxPC-3腫瘍を有するマウスを処置した。腫瘍体積を、以前のように毎日測定し、未処置の動物対照と比較した。これらの結果(図9)は、対照グループの腫瘍体積が約100%増加する一方で、腫瘍体積はゲムシタビン処置グループで38%増加し、処置中のどの時点でも、腫瘍体積は出発腫瘍体積より減少しなかったことを実証する。対照的に、単独処置では、SDT/5FU療法(図8)について、腫瘍体積は、最初の治療の体積より減少し、処置後6日までそのままであったが、ゲムシタビングループの腫瘍は6日目に腫瘍体積の20%増加を示した。そのような劇的な応答は、増感剤/5-FUの比較的低い量を使用して達成することができ、単独処置後に、非常に有望であり、そのような薬剤の標的化送達が、副作用の少ない、強化された治療的利益を提供できることを示唆している。
【0151】
実施例8-腫瘍担持マウスへのIV投与後のO2MB-9コンジュゲートのインビボNIR蛍光イメージング
無胸腺ヌードマウスを麻酔し(Hypnorm/Hypnovelの腹腔内注射)、O2MB-9コンジュゲート(100μL)を、尾静脈注射により投与した。処置グループにおいて、IV注射中に、及びIV注射後に3分間、超音波(上記2.10の条件)を腫瘍に適用したが、対照グループ(各グループにおいてn=3)の腫瘍には超音波を適用しなかった。投与後(t=5分及びt=10分)、ICGフィルターセット(励起:705~780nm;発光:810~885nm)を使用して蛍光モードで、Xenogen IVIS(登録商標)ルミナイメージングシステムのチャンバー内に動物を入れた。データをキャプチャし、Living Image(登録商標)ソフトウェアパッケージのバージョン2.60を用いて分析した。定量的データを、腫瘍の周囲の対象となる領域を描画し、O2MB-9投与後t=5及びt=10分の時点での蛍光シグナル(光子/秒)を、投与前に取得した蛍光シグナルと比較することによって取得した。
【0152】
実施例9-免疫組織化学及びqRT-PCR分析
発明者らはまた、5-FUの単独処置と比較した場合の、分子レベルでのSDT/5-FU組み合わせ処置の効果をプロービングすることに興味を持った。これを行うために、対照グループ(すなわち、無処置)、O2MB-5FU+USグループ(すなわち、5-FU)、及びO2MB-RB/O2MB-5FU混合物+USグループ(すなわち、併用処置)の腫瘍を、監視期間の終了時に採取し、免疫組織化学及びqRT-PCR分析に供した。
【0153】
2MBのIV投与後の腫瘍におけるHIF1α発現:
無胸腺ヌードマウスを麻酔(Hypnorm/Hypnovelの腹腔内注射)し、PFBMB又はO2MB(100μL)のいずれかを尾静脈注射により投与した(各グループn=3)。IV注射中に、及びIV注射後に3分間、超音波(上記の2.10の条件)を腫瘍に適用し、腫瘍を30分後に摘出した。HIF-1αタンパク質発現のウェスタンブロット分析のために、総タンパク質を、尿素緩衝液を用いて抽出した。これらの研究で用いられる一次マウス抗体は、抗HIF1α(Millipore,1:500)、及び抗GBPDH(Sigma,1:1000)であった。タンパク質試料を、4~12%のTruPAGE(登録商標)ゲルで電気泳動し、ニトロセルロース膜に移した。非特異的結合のブロッキングを、0.05%(v/v)Tween20を含有する1×トリス緩衝生理食塩水で希釈した5%(w/v)のウシ血清アルブミン中で行った。次いで、膜を適切な二次抗体、ヤギ抗マウスIgG-HRP(原液の1:10000)中でインキュベートした。二次抗体を、ドイツのハイデルベルクのSanta Cruz Biotechnology社から購入した。デンシトメトリーを、ハウスキーピング基準としてGAPDHを用いて、HIF1αのタンパク質発現を定量するために行った。
【0154】
免疫応答特徴付け:
処置を施した組織における免疫応答を特徴付けるために、Bcl3及びBcl2タンパク質発現を、監視期間の終了時に採取した組織試料における免疫組織化学を用いて調べた。Bcl2及びBcl3タンパク質の免疫組織化学(IHC)評価を、パラフィン包埋切片にて行った。パラフィン包埋組織試料を、Leica RM2235 ミクロトーム(Leica Biosystems社、Newcastle)を用いて4μmの厚さに切断し、コーティングしたスライドガラス上で調べた。Bcl2(クローン:BCL-2/100/D5)及びBcl3(クローン:1E8)のIHC分析物を、それぞれ1:200及び1:150に希釈した。両方の抗体は、Leica Biosystemsから入手したマウス抗ヒトであった。免疫染色を、ボンドエピトープ回収溶液(Bond Epitope Retrieval Solution)2(pH9.0のEDTAベース)と共に、オンボード熱誘導抗原回収(on board heat-induced antigen retrieval)を用いる自動化Bond-Max system(Leica Biosystems社、Newcastle)を用いて30分間行った。内因性ペルオキシダーゼ活性を、5分間、0.3%過酸化水素を用いてブロックした。組織学的標本を室温で15分間、一次抗体とインキュベートし、スライドを室温で8分間、ウサギ抗マウスとインキュベートした。次いで、スライドを、室温で8分間、ヤギ抗ウサギポリマー試薬とインキュベートした。反応を、ボンドポリマーレファイン検出キット(bond polymer refine detection kit)、その後、色原体として3,3’-ジアミノベンジジンテトラヒドロクロリドを用いて10分間発色した。免疫組織強度及び比例スコアを、オールレッドら(免疫組織化学的分析による乳癌の予後因子及び予測因子(Prognostic and predictive factors in breast cancer by immunohistochemical analysis).1998,11(2):155-68)に従って行った。免疫組織化学研究を行うために、Bcl3発現を転写レベルで確認した。Bcl3のmRNA発現を、表1に記載のプライマーを用いて遺伝子特異的qRT-PCRで測定した。
【0155】
【表1】
【0156】
qRT-PCR及び分析を、以前に公開されたプロトコル(Hamoudiら、Leukemia,2010,24巻,8番,pp.1487-1497;及びBiら、Haematologica,2012,97,926-930)に従って実施した。簡単に説明すると、RNAをRecoverAllキット(Life Technologies,Paisley,UK)を用いて顕微解剖スライドから抽出した。cDNA合成は、2つのハウスキーピング遺伝子;18S rRNA及びβアクチンを含む遺伝子の各々のリバースプライマーを用いて、スーパースクリプトIII第一鎖cDNA(Superscript iii First Strand cDNA)合成キット(Life Technologies,Paisley,UK)を用いて行った。qRT-PCRを、CFX96装置(BioRad、UK)上でSYBRグリーンキットを用いて行った。qRT-PCRサイクルは、以下のとおりであった:95℃で3分間、95℃で10秒、60℃で45秒の40サイクル。分析のために、18SのrRNA及びβアクチンの幾何平均を、単一のハウスキーピング値として取得した。グループ間の統計的比較を、ボンフェローニ事後解析と双方向ANOVAを用いて行った。
【0157】
結果:
免疫組織化学の結果は、タンパク質レベルで、治療グループと対照グループの両方の間に、Bcl3及びBcl2の調節解除があったことを明らかにした。分析のこのレベルで、Bcl3の強度及び割合は、対照及び5FUのグループにおいて高かったが、併用処置グループでは減少した。同様に、Bcl2タンパク質発現は、対照グループで最も高く、5FUグループで減少し、併用処置グループで検出されなかった(図10)。mRNAレベルで、同様のパターンがBcl3について観察され(図11a及び11b)、ΔΔCtは、5FUと組み合わせ処置グループのそれぞれについて、対照グループに比べて約5倍及び7倍の有意な減少を示した(p<0.001)。Bcl3は、NF-κβ経路の重要なメンバーであり、生存、増殖、炎症及び免疫応答を含む多くの細胞経路の調節に関与している。Bcl3の発現及び活性化は、組織及び刺激の種類に依存して、高まった細胞増殖又は生存に関連している。その転写リプレッサー機能は、免疫応答の調節並びに免疫細胞の発達及び活性化に関与することが示されている(Wessellsら、J Biol Chem 2004;279:49995-50003、及びKuwataら、Blood 2003;102:4123-4129)。Bcl3発現が調節解除されたという事実は、免疫応答並びに生存及び増殖細胞シグナル伝達の変化を示唆している。これは、重要な抗アポトーシス遺伝子であるBcl2が、対照において高く、その発現は併用処置後に著しく減少したという事実によって確認された。実際、Bcl2発現は、原発膵臓腫瘍の大部分において上方制御されることが知られており(Campaniら、Pathol.2001,194(4),444-450)、その発現を下方制御するためにBcl2特異的siRNAを用いることは、インビトロ及びインビボで膵臓腫瘍成長に対する抗増殖及びアポトーシス促進効果を有することが実証されている(Ockerら,Gut,2005,54(9),1298-1308)。より最近には、MIA PaCa-2膵臓癌異種移植モデルを用いて抗腫瘍活性を示すG-四重鎖結合化合物(MM41)が、タンパク質レベルでの解析後に、Bcl2レベルを40%低下させたことが示されている(Ohnmachtら、Sci Rep.2015,16(5):11385)。まとめると、これらの結果は、SDT/5-FU組み合わせ処置の結果として、細胞シグナル伝達経路に顕著な効果を示し、従来の化学療法ベースのレジメンと共に使用した場合に、SDTが膵臓癌患者にとって重要な治療上の利益を提供できることを示唆している。
【0158】
実施例10-NIRイメージング
臨床橋渡しに適するために、MB懸濁液を静脈内投与する必要があり、MBを適切な超音波条件を用いて腫瘍部位で破壊した。そのような方法は、増感剤/化学療法剤の局在化を高め、腫瘍部位での腫瘍pO2を増やす必要がある。そのようなアプローチの実現可能性を試験するために、ビオチン官能化赤外線吸収シアニン色素(9)をRB及び5-FU(スキーム2)の代わりとして用いた。実施例4を参照されたい。9のUV-Vis及び蛍光スペクトルは、この化合物をインビボイメージングに最適にさせるNIR領域に吸光度(750nm)及び発光極大(818nm)を明らかにする。
【0159】
実施例4に記載したように、色素(9)はRB及び5-FUのために使用したのと同じ手順に従って、MB表面上に装填した。次いで、O2MB-9コンジュゲートを、異所性Bx-PC3腫瘍を有する無胸腺ヌードマウスの尾静脈を介して静脈内投与した。超音波を、IV投与中及びIV投与後3分間、腫瘍に直接適用した。超音波を行わない対照実験は、比較目的のために使用した。IVIS全身イメージングシステムを用いて投与前、投与後5及び30分にマウスを画像化した。代表的な画像(図12a)は、超音波処置グループのマウスの処置後30分の時点で強い腫瘍蛍光を明らかにし、対照グループのマウスは無視できる程度の腫瘍の蛍光を示し、ほとんどの放射は、肝臓領域から観察された。腫瘍蛍光の強度を処置前の値(図12b)と比較して測定したところ、超音波処置グループについて、処置後30分の時点で、対照グループに対して統計的に有意な(p<0.01)7倍増強が観察された。さらに、O2MB又はPFBMBのいずれかを、尾静脈注射により腫瘍を有する動物に投与し、続いて超音波処理した場合に、外科的に切除した腫瘍からのタンパク質抽出物は、O2MBで処置した腫瘍においてHif-1αの有意な減少を明らかにした(図12c)。これらの結果から、O2MB-9コンジュゲートの投与中及び投与直後の腫瘍への超音波の適用が、腫瘍血管におけるMBの刺激依存性破壊を促進し、ひいては、標的化の方法でO2と付着ペイロードの両方の放出を促進することが示唆される。最終結果は、Hif1αタンパク質の発現低下によって証明される腫瘍pO2の増加、及び(9)の増強した蛍光によって証明される腫瘍におけるより高濃度の薬物である。
【0160】
実施例11-モノヨードICG合成(I2-IR783又は「I2-IRCYDYE」)
【0161】
【化9】
【0162】
(4-ヨードフェニル)ヒドラジン(1)の合成:
20g(91.3ミリモル)の4-ヨードアニリンを15mLの濃塩酸と15mLの水の溶液と共に撹拌した。混合物を約-10℃に冷却し、水45mL中12.6g(182.6ミリモル)のNaNO2を連続的に撹拌しながら滴加した。懸濁液をさらに30分間撹拌し、その後、SnCl2.2H2O(67.99g,40mlの濃HCl中301.3ミリモル)の氷冷溶液を、-10℃で温度を維持しながら滴加した。反応混合物をこの温度で1.5時間、5℃で一晩撹拌した。得られた淡褐色の沈殿物を濾過し、水で3回洗浄した。次いで、このようにして得られたこの固体塊を、水(100ml)中のNaOHの飽和溶液で攪拌し、エーテル(200ml)で抽出した。エーテル層をNaOH、Na223及び水の水溶液で洗浄した。MgSO4(無水)で乾燥した後、エーテル層を乾燥状態まで蒸発させ、褐色粉末として(4-ヨードフェニル)ヒドラジンを17.94g得た。融点=104~106℃。
【0163】
1H NMR(CDCl3):7.48(d,J=8.0Hz,2H,Ar-CH),6.62(d,J=8.0Hz,2H,Ar-CH),5.18(brs,1H,NH),3.55(brs,2H,NH2)。
ESMS(M+H) C67IN2の実測値=235.00、計測値=234.04。
【0164】
5-ヨード-2,3,3-トリメチル-3H-インドール(2)の合成:
12.68g(54.1ミリモル)の(4-ヨードフェニル)ヒドラジン(1)及び8g(92.8ミリモル)の3-メチル-2-ブタノンを、20時間、100mlの氷酢酸中で還流した。酢酸を蒸発させ、残渣をエーテルに溶解した。不溶性沈殿物を濾別し、エーテル溶液をNaOHの水溶液で洗浄し、その後、Na223及び水で洗浄した。有機層を無水Na2SO4で乾燥させ、エーテルを減圧下で除去し、赤色ガム状液体として10.5gの5-ヨード-2,3,3-トリメチル-3H-インドール(2)を得た。
【0165】
1H NMR(CDCl3):7.60(dd,J=4.5,8.0Hz,2H,Ar-CH),7.28(d,J=8.0Hz,1H,Ar-CH),2.25(s,3H,CH3),1.20(s,6H,CH3 X2)。
13C NMR(CDCl3):153.4(C),148.1(C),139.3(C),136.6(CH),130.6(CH),121.8(CH),89.9(C),54.0(C),23.0(CH3),22.9(CH3),15.3(CH3)。
ESMS(M+H) C1112INの実測値=286.1、計算値=285.12。
【0166】
5-ヨード-2,3,3-トリメチル-1-(4-スルホブチル)-3H-インドール-1-イウム(3)の合成:
トルエン(70ml)、5-ヨード-2,3,3-トリメチル-3H-インドール(2)(12g、42.1ミリモル)及び1,4-ブタンスルトン(8.6g、63.1ミリモル)を18時間加熱還流した。反応混合物を室温まで冷却させた。得られた褐色の結晶を濾過し、アセトン(3×10ml)で洗浄した。濾過した生成物をMeOH及びジエチルエーテルの溶液から再結晶させた。結晶を収集し、真空乾燥させ、8gの5-ヨード-2,3,3-トリメチル-1-(4-スルホブチル)-3H-インドール-1-イウム(3)を得た。
【0167】
1H NMR(dmso-d6):8.27(s,1H,Ar-CH),7.95(s,1H,Ar-CH),7.82(s,1H,Ar-CH),4.42(brs,2H,CH2),2.79(s,3H,CH3),2.47(brs,2H,CH2),1.90(brs,2H,CH2),1.69(brs,2H,CH2),1.49(s,6H,CH3 X 2)。
13C NMR(DMSO-d6):176.2,148.4,139.9,136.7,132.5,126.8,96.8,49.8,46.8,42.6,26.8,25.6,10.5。
ESMS(M+H) C1521INO3+の実測値=422.10、計算値=422.30。
【0168】
2-((E)-2-((E)-2-クロロ-3-((E)-2-(5-ヨード-3,3-ジメチル-1-(4-スルホブチル)インドリン-2-イリデン)エチリデン)シクロヘキサ-1-エン-1-イル)ビニル)-5-ヨード-3,3-ジメチル-1-(4-スルホブチル)-3H-インドール-1-イウム(5)の合成:
無水EtOH(10ml)中の3(0.2g、0.47ミリモル)、(Flanaganら、Bioconjugate Chem,1997,8,751-756に記載の方法に従って調製した)4(0.153g、0.47ミリモル)及び無水酢酸ナトリウム(0.077g、0.93ミリモル)の溶液を、N2雰囲気下で4時間加熱還流した。EtOHを減圧下で除去し、残渣を、溶出剤として25%MeOH-CHCl3混合物を用いるカラムクロマトグラフィー(シリカ60-120メッシュ)によって精製した。生成物(0.152g、収率33%)を緑色がかった粉末として単離した。
【0169】
1H NMR(MeOH-d4):8.26(d,J=7.8Hz,1H,Ar-CH),8.03-7.98(m,2H,Ar-CH),7.68-7.63(m,2H,Ar-CH),7.63-7.49(m,1H,Ar-CH),6.39-6.36(m,2H,CH X 2),4.34-4.33(m,2H,CH X 2),3.33-3.34(m,4H,CH2 X 2),2.92-2.90(m,2H,CH2),2.89-2.80(m,2H,CH2),2.08-1.96(m,26H,CH2 X 7,CH3 X 4)。
13C NMR(DMSO-d6):174.7,173.9,150.1,149.6,148.0,146.7,145.9,130.8,134.8,132.6,130.1,129.8,128.3,126.4,124.7,120.7,116.1,114.9,104.6,102.8,98.6,62.1,60.1,50.4,29.1,48.7,30.5,28.4,28.5,26.3,26.2,4.6。
ESMS(M-H+) C3846ClI2262 +の実測値=977.2、計算値=979.06。
【0170】
実施例12-ジヨード-IR-820合成(I4―IR783又は「I4-IRCYDYE」)
【0171】
【化10】
【0172】
3,5-ジヨードニトロベンゼン(2)の合成:
0℃に冷却した濃H2SO4(96%、15mL)溶液に、少量ずつ2,6-ジヨード-4-ニトロアニリン1(3.9g、10ミリモル)を加えた。この溶液をこの温度で20分間撹拌し、NaNO2(1.5g、22ミリモル)を加えた。撹拌を2時間、0℃で続けた。次いで、粘性溶液を氷(100g)に注ぎ、任意の固体物質を濾別した。黄色の濾液を、EtOH(200mL)中のCuSO4.5H2O(160mg,1ミリモル)の還流溶液に注意深く注ぎ、2時間撹拌して、ジアゾニウム塩を減少させた。室温に冷却後、固体の3,5-ジヨードニトロベンゼン(2)を分離した。生成物を濾別し、中性になるまで水で洗浄した。生成物を、EtOHから再結晶し、2.48gの微細褐色針(収率66%)を得た。
【0173】
1H NMR (CDCl3) δ=8.43(t,J=1.4Hz,2H,Ar-CH X2),8.29(s,1H,Ar-CH);
13C NMR(CDCl3)δ=94.1,131.7,148.4,151.0。
ESMS[M+H+]:C632NO2Naの計算値397.8、実測値398.9m/z。
【0174】
3,5-ジヨードアニリン(3)の合成:
アルゴン雰囲気下で無水EtOH(75mL)中2(7.15g、19ミリモル)の懸濁液に、SnCl2・2H2O(21.6g、96ミリモル)を加えた。この混合物を沸騰させ、EtOH(40mL)中のNaBH4(361mg、9.5ミリモル)溶液を滴加した。反応混合物を45分間、還流で撹拌した。反応物を0℃に冷却した後、水(60mL)を加え、混合物をNaOH(H2O中2.5M)で中和した。アニリン誘導体を、ジエチルエーテルで抽出し、Na2SO4上で乾燥させ、減圧下で蒸発させて、アニリン3(5.86g、粗収率89%)を得た。
【0175】
1H NMR(CDCl3) δ=7.39(s,1H,Ar-CH),6.97(s,2H,Ar-CH X 2),3.66(brs,2H,NH2)。
13C NMR(CDCl3)δ=148.5,134.8,122.9,95.1。
ESMS[M+H+]:C652Nの計算値344.8、実測値345.5m/z。
【0176】
3,5-ジヨードフェニルヒドラジン(4)の合成:
この化合物を米国特許公開第2013/0231604号に記載の手順にしたがって合成した。
【0177】
4,6-ジヨード-2,3,3-トリメチル-3H-インドール(5)の合成:
この化合物を米国特許公開第2013/0231604号に記載の手順にしたがって合成した。
【0178】
4,6-ジヨード-2,3,3-トリメチル-1-(4-スルホブチル)-3H-インドール-1-イウム(6)の合成:
トルエン(10ml)、4,6-ジヨード-2,3,3-トリメチル-3H-インドール(5)(2.1g、5.1ミリモル)及び1,4-ブタンスルトン(3.5g、25.7ミリモル)を還流下で18時間加熱した。反応混合物を室温まで冷却させた。得られた褐色の結晶を濾過し、アセトン(3×10ml)で洗浄した。濾過した生成物をMeOH及びジエチルエーテルの溶液から再結晶させた。結晶を収集し、真空乾燥させ、1.9gの4,6-ジヨード-2,3,3-トリメチル-1-(4-スルホブチル)-3H-インドール-1-イウム(6)を得た。
【0179】
1H NMR(MeOH-d4):8.42(s,1H,Ar-CH),8.36(s,1H,Ar-CH),4.51-4.48(m,2H,CH2),2.88-2.85(m,2H,CH2),2.09-2.00(m,2H,CH2),1.99-1.82(m,2H,CH2),1.73(s,6H,CH3 X 2),1.16(s,3H,CH3)。
ESMS[M-H+]:C15202NO3+の計算値547.9、実測値546.1m/z。
【0180】
2-((E)-2-((E)-2-クロロ-3-((E)-2-(4,6-ジヨード-3,3-ジメチル-1-(4-スルホブチル)インドリン-2-イリデン)エチリデン)シクロヘキサ-1-エン-1-イル)ビニル)-4,6-ジヨード-3,3-ジメチル-1-(4-スルホブチル)-3H-インドール-1-イウム(8)の合成:
無水EtOH(10ml)中8(0.84g、1.5ミリモル)、(Flanaganら、Bioconjugate Chem,1997,8,751-756に記載の方法に従って調製した)7(0.25g、0.7ミリモル)及び無水酢酸ナトリウム(0.13g、1.5ミリモル)の溶液に、N2雰囲気下で、4時間加熱還流した。EtOHを減圧下で除去し、残渣を、溶出剤として25%MeOH-CHCl3混合物を用いるカラムクロマトグラフィー(シリカ60-120メッシュ)によって精製した。生成物(0.153g、収率8%)を褐色粉末として単離した。
【0181】
1H NMR(MeOH-d4):8.59(s,2H,Ar-CH X 2),8.29(s,2H,Ar-CH X 2),6.77-6.75(m,2H,CH X 2),5.30(brs,2H,CH X 2),4.82-4.72(m,4H,CH2 X 2),3.39(brs,4H,CH2 X 2),2.60-2.47(m,14H,CH2 X 7),2.23(s,12H,CH3 X 4)。
13C NMR(DMSO-d6):170.2,169.9,158.9,150.1,149.7,148.6,146.8,144.9,140.8,139.3,134.2,132.1,126.7,124.3,104.0,100.4,96.7,96.2,94.5,64.1,59.5,50.5,48.7,48.1,30.3,28.7,28.2,26.3,26.1,24.3。
ESMS[M-H+]:C3844CI4262Na+の計算値1253.85、実測値1252.81m/z。
【0182】
実施例13-ヒト異種移植異所性BxPC-3膵臓癌腫瘍を有するマウスにおけるI2-IR783のインビボPDT効果
BxPC-3細胞を、10%ウシ胎児血清を補充したRPMI-160培地中で維持した。細胞を、空気中5%CO2下、37℃で培養した。BxPC-3細胞(1×106)を、100μlのマトリゲルに再懸濁し、雄性SCIDマウスの後背部に移植した。腫瘍形成は、移植後約2週間で生じ、キャリパーを使用して、毎日腫瘍を測定した。腫瘍が、腫瘍体積の式=4πR3/3を用いて幾何平均直径から計算された平均体積267mm3に達したら、動物を無作為に2つのグループ(n=2)に分けた。麻酔(Hypnorm/Hypnovelの腹腔内注射)の誘導後、各腫瘍内に直接注入されるPBS:DMSO(98:2)ビヒクル中のI2-IR783(1mg/kg)の100μlアリコートを処置グループに与え、処置間で1分間の遅れで、3×3分間、780nmの光照射(100mW)で処置した。第2グループ(対照)にビヒクルのみを与えた。処置後、動物を麻酔から回復させ、腫瘍体積を示した時間に監視した。腫瘍体積の増加率(%)を、各グループの前処理測定を用いて計算した。8日目に、処置グループに、上記の第2の処置を施すだけでなく、光照射前に、100μlのO2MB(1×108 MB/mL)を腫瘍内注射した。結果を図13に示す。
【0183】
実施例14-IR783(「I2-IRCYDYE」及び「I4-IRCYDYE」)のI2及びI4類似体の蛍光
図14は、(a)UV/Vis及び(b)カルジオグリーンと比較したI2-IRCYDYE及びI4-IRCYDYEの蛍光発光スペクトルを示す。新規化合物は、明らかにカルジオグリーンと同様の吸収プロファイルを示す。しかしながら、I2-IRCYDYEの蛍光発光はカルジオグリーンと同様のままであるが、I4-IRCYDYEからの発光はかなりクエンチする。これは、追加のヨウ素原子によって増加したISCに起因している。
【0184】
実施例15-一重項酸素生成及びIR783のI2及びI4の類似体(「I2-IRCYDYE」及び「I4-IRCYDYE」)のインビトロ細胞傷害性
図15は、780nmで励起した時に、I2-IRCYDYE及びI4-IRCYDYEの両方がカルジオグリーンよりも一重項酸素を生成することを示す。
【0185】
図16は、780nmの照射にさらされた時に、I2-IRCYDYE及びI4-IRCYDYEの両方が、カルジオグリーンよりも2つの異なる膵臓癌細胞株(Mia Paca及びBxPC-3)に対して有意により高い細胞傷害性であることを示す。780nmで励起した時に、該化合物はまた、カルジオグリーンよりも子宮頸癌細胞株(HeLa)により毒性があることが判明した。異所性BxPC-3膵臓腫瘍を用いたマウスにおけるインビボ実験でも、I2-IRCYDYEは尾静脈投与後18時間の時点で腫瘍内に局在することが示されている。
【0186】
これらの結果は、I2-IRCYDYE及びI4-IRCYDYEの両方が有効なNIR活性化増感剤であること、I2-IRCYDYEはまた、高いNIR蛍光を与えるイメージング剤としての可能性を有することを証明する。これは、固形腫瘍、例えば、膵臓腫瘍の画像誘導PDT及び/又はSDTの可能性を提供する。
【0187】
実施例16-ローズベンガル及び5-FUを用いたヒト膵臓癌MiaPaCa-2細胞の代謝拮抗/音響力学的組み合わせ療法
手順:
ヒト原発膵臓腺癌細胞株MIA PaCa-2を、ダルベッコ改変イーグル培地中で維持し、37℃で、加湿した5%CO2雰囲気で10%(v/v)のウシ胎児血清を補充した。細胞を、ウェル当たり4×103細胞の濃度で96ウェルプレートのウェルに播種し、加湿した5%CO2雰囲気で、37℃で21時間インキュベートした。次いで、培地を除去し、ウェルは、ローズベンガル(3μΜ)、5-フルオロウラシル(50μΜ)又はRB(3μΜ)と5-FU(50μΜ)の両方の組合せのいずれかで3時間処理した。次いで、薬物溶液を除去し、新鮮な培地を添加し、Sonidel SP100 sonoporator(30秒、周波数=1MHz、超音波パワー密度=30Wcm-2、デューティ・サイクル=50%、パルス繰り返し周波数=100Hz)を用いて送達される超音波で処理したウェルを選択した。次いで、細胞を24時間インキュベートし、その後に、細胞生存率を、MTTアッセイを用いて決定した。
【0188】
結果:
結果を図17に示す。結果は、SDT処置(すなわち、RB+US)がRB単独(RB-US)と比較して細胞生存率を11.1%低下させることを実証する。5FU処理+超音波は、5FU単独処理よりも細胞生存率を5.9%低下させた。組み合わせたSDT/5FU+超音波(コンボ+US)での処理は、RB/5FU-超音波での処理と比較して21.9%低下させた。驚くべきことに、この差は、両方の処理による影響を加えることによって予想されるものよりも大きく(17%)、両方の技術を組み合わせることによって相乗効果があることを示す(n=6)。
【0189】
この実験に活性剤を含めた。しかしながら、これらは、微小気泡破壊の際に、効果的に遊離される種である。このように、結果は、本明細書に記載の微小気泡技術を用いて活性剤が送達される状況にまで及ぶことが期待される。
【0190】
実施例17-酸素添加微小気泡ローズベンガル及びドキソルビシンコンジュゲートを用いたヒト乳癌MDA-MB-231腫瘍のアントラサイクリン/音響力学的組み合わせ療法
ビオチン-ローズベンガル及びビオチン-ドキソルビシンの合成:
ビオチン-ローズベンガルの合成については上記の実施例2に記載した。ビオチン-ドキソルビシン(ビオチン-Dox)をスキーム3に従って調製した。
【0191】
【化11】
【0192】
スキーム3:ビオチン-Doxの調製のための合成スキーム
DMF(10ml)中のビオチン-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(0.14g、0.41ミリモル)の氷冷溶液に、窒素雰囲気下でドキソルビシン(0.3g、0.41ミリモル)を添加した。30分間撹拌後、トリエチルアミン(0.5ml、2ミリモル)をこの反応混合物に加え、室温でさらに12時間撹拌した。反応をTLC(Merck Silica 60、HF 254、20:80メタノール-ジクロロメタン v/v)により監視した。反応完了後、過剰のジエチルエーテル(100ml)を反応混合物に加えた。このようにして得られた赤色固体を濾過し、ジエチルエーテル(50ml×3)で3回洗浄した。次いで、この赤色固体を溶出液としてメタノール-ジクロロメタン(20:80、v/v)を用いてPTLC精製に供し、0.25g(収率=78%)のビオチン化ドキソルビシンを得た。分析試料を、エタノールからのこの生成物の再結晶から得た。
【0193】
1H NMR(MeOH-d4)δ:8.54(brs,1H,NH),7.82-7.76(m,2H,芳香族),7.47(d,J=7.5Hz,1H,芳香族),5.39(brs,1H,NH),5.05(brs,2H,NH,OH),4.71(s,2H,-CH2-OH),4.67(brs,2H,OH X 2),4.36-4.33(m,1H,CH),4.25-4.22(m,1H,CH),4.16-4.13(m,1H,CH),3.99(s,3H,OCH3),3.60-3.58(m,1H,CH),3.55(brs,2H,OH X2),3.30-2.5(m,4H,CH2 X1,CH X 2),2.18-2.14(m,3H,CH2 X 1,CH),2.00-1.96(m,1H,CH),1.63-1.50(m,4H,CH2 X 2),1.42-1.26(m,11H,CH3 X 1,CH2 X 4).
ESMS [M-H]:C37432313Sの計算値=769.25、実測値=767.9m/z。
【0194】
酸素添加微小気泡ローズベンガル(RBO2MB)及びドキソルビシン(DoxO2MB)のコンジュゲートの調製:
ビオチン-RB(2.5mg/mL)及びビオチン-DOX(2.5mg/mL)を含有する溶液を、PBS中の0.5%DMSO液(pH7.4±0.1)で調製した。次いで、これらの原液の2mLのアリコートを、アビジン官能化PFBMB(1×109 MB/mL)の2つの2mLの懸濁液に別々に添加し、内容物を15分間混合した。次いで、懸濁液を5分間遠心分離(900rpm)し、MBコンジュゲートを溶液の上部に浮遊している乳状懸濁液として単離した。溶液を除去し、さらにビオチン-RB又はビオチン-Doxのいずれかを含有する2mLの原液と交換し、混合/遠心分離工程を繰り返した。次いで、MB懸濁液を、PBS(5mL)で洗浄し、5分間、遠心分離(900rpm)し、MBを清浄な遠心管に移した。この洗浄手順を再度繰り返し、単離したPFBMB-RB及びPFBMB-Doxコンジュゲートをガラスバイアルに入れた。次いで、PFBMB-RB及びPFBMB-Doxコンジュゲートに、酸素ガスを2分間噴霧し、得られたRBO2MB及びDoxO2MB(図18参照)を動物実験に直接使用した。
【0195】
SCIDマウスの乳癌腫瘍を用いたヒト異種移植片MDA-MB-231の処置:
本研究で用いた全ての動物を、英国の動物(科学的処置)法1986の下でライセンス化された手順に従って人道的に処置した。MDA-MB-231細胞を、上記の10%ウシ胎児血清を補充したRPMI-1640培地中で維持した。細胞(1×106)を100μLのマトリゲル(登録商標)に再懸濁し、雌Balb/c SCID(C.B-17/IcrHan(登録商標)Hsd-Prkdcscid)マウスの後部背部に移植した。腫瘍形成は、移植後約2週間で生じ、キャリパーを使用して一日おきに腫瘍を測定した。腫瘍体積の式=4πR3/3を用いて幾何平均直径から計算された平均体積100mm3に腫瘍が達したら、動物を無作為に3つのグループ(n=3)に分けた。麻酔(Hypnorm/Hypnovelの腹腔内注射)の誘導後、グループ1に100μLのRBO2MB(300μΜのRB)を与え、グループ2に100μLのDoxO2MB(475μΜ)を与え、グループ3にRBO2MB(150μΜのRB)及びDoxO2MB(237.5μΜ)を100μL与えた。プラットフォームの薬物動態学的挙動に起因する実験的変動を排除するために、腫瘍内注射を投与経路として選択した。次いで、腫瘍を1MHzの超音波周波数、3.5Wcm-2の超音波パワー密度(ISATP;空間平均時間ピーク)で、100Hzのパルス繰り返し周波数で30%のデューティ・サイクルを用いて3.5分間超音波で処置した。処置を14日目に繰り返した。処置後、動物を麻酔から回復させ、9日間毎日、腫瘍体積及び体重を記録した。腫瘍体積の増加率(%)を、各グループの処置前測定値を用いて計算した。
【0196】
結果:
結果を図19に示す。結果は、DoxO2MB/RBO2MB+US組み合わせ治療が、ドキソルビシン及びローズベンガルの半分濃度を用いるRBO2MB+USよりも効果的で、DoxO2MB+USと同じくらい効果的であったことを示す。結果は、このプラットフォームを用いて、乳癌を治療することができることを実証する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
【配列表】
0007080820000001.app