(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】電源装置
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20220530BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20220530BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20220530BHJP
【FI】
H02J7/00 S
H01M10/44 P
H01M10/48 P
(21)【出願番号】P 2018547541
(86)(22)【出願日】2017-10-12
(86)【国際出願番号】 JP2017036942
(87)【国際公開番号】W WO2018079276
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-08-20
(31)【優先権主張番号】P 2016212329
(32)【優先日】2016-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104949
【氏名又は名称】豊栖 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100074354
【氏名又は名称】豊栖 康弘
(72)【発明者】
【氏名】竹内 基二
(72)【発明者】
【氏名】表 祐介
(72)【発明者】
【氏名】廣田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】亀山 寿
(72)【発明者】
【氏名】張 志旭
(72)【発明者】
【氏名】浜田 充弘
【審査官】坂東 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-241570(JP,A)
【文献】特開平09-163612(JP,A)
【文献】特開2009-177937(JP,A)
【文献】特開昭59-97637(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0164778(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
H01M 10/44
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の二次電池と、
前記二次電池の出力側に接続してなる半導体素子の電流遮断スイッチと、
前記電流遮断スイッチをオンオフに制御する制御回路と、
前記二次電池と前記電流遮断スイッチよりも出力側において、正及び負の出力側に接続してなるスパイク吸収回路とを備える電源装置であって、
前記スパイク吸収回路が、半導体素子の保護用スイッチとダイオードとの直列回路からなり、
さらに、前記保護用スイッチをオンオフに制御する小信号スイッチと、
前記電流遮断スイッチがオフ状態に切り換えられる電流遮断タイミングから予め設定されている設定時間(T)において前記小信号スイッチをオン状態に保持する遅延回路とを備え、
前記ダイオードは前記二次電池の正及び負の出力側に対して逆方向に接続され、
前記遅延回路
は、タイミングコンデンサーとタイミング抵抗との並列回路を備え、タイミングコンデンサーとタイミング抵抗の時定数により設定時間(T)を特定し、前記電流遮断スイッチの電流遮断タイミングから設定時間(T)は前記小信号スイッチをオン状態に保持して、オン状態の前記小信号スイッチが前記保護用スイッチをオン状態として、前記スパイク吸収回路でもってキックバック電圧を減衰させることを特徴とする電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載される電源装置であって、
前記電流遮断スイッチが前記二次電池の過放電を防止する放電スイッチであることを特徴とする電源装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載される電源装置であって、
前記電流遮断スイッチの出力側に接続してなる電池の過充電を防止する充電スイッチとを備え、
前記充電スイッチの出力側に接続してなる前記スパイク吸収回路が、前記電流遮断スイッチと前記充電スイッチとの接続点に接続されてなることを特徴とする電源装置。
【請求項4】
請求項3に記載される電源装置であって、
前記電流遮断スイッチと前記充電スイッチと前記保護用スイッチがFETであることを特徴とする電源装置。
【請求項5】
請求項
3又は4のいずれかに記載される電源装置であって、
前記保護用スイッチの入力側に接続されて、オン状態にある前記充電スイッチを介して前記保護用スイッチに入力される電圧を設定電圧に制限して入力する定電圧ダイオードを備えることを特徴とする電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の二次電池の出力側に負荷電流を遮断する電流遮断スイッチを接続してなる電源装置に関し、とくに大電流で負荷に電流を供給している状態、或いは負荷が短絡して大電流が流れた状態で電流遮断スイッチがオフ状態に切り換えられても、切り換え時に発生するキックバック電圧で電流遮断スイッチがアバランシェ破壊されない電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電源装置は、二次電池の過充電および過放電を防止し、さらに過電流や電池温度が設定温度よりも高くなると電流を遮断する電流遮断スイッチを設けている。電流遮断スイッチは、二次電池の出力側に接続されて充電電流および負荷電流を遮断する。電流遮断スイッチとして、半導体素子であるFETが使用される。(特許文献1、2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-163612号公報
【文献】特開2009-177937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2に記載されるパック電池は、二次電池の出力側に充電スイッチと放電スイッチとを直列に接続して、二次電池の過充電や過放電を防止する。この回路構成のパック電池は、誘導負荷を接続する状態で電流を遮断するとキックバック電圧が発生する。キックバック電圧は、負荷のインダクタンスに流れていた電流の変化によって発生し、以下に示す理論式で表される。
(キックバック電圧)=-(負荷のインダクタンス)×di/dt
このときに生じるキックバックのエネルギーは負荷のインダクタンスと電流の二乗の積に比例して大きくなる。負荷電流の変化率に比例してキックバック電圧は急激に大きくなることから、負荷電流の大きい電源装置は、電流を遮断する瞬間に電流遮断スイッチに相当に高いキックバック電圧が印加される。このキックバック電圧が、電流遮断スイッチの最大逆電圧を越えると、電流遮断スイッチはアバランシェ降伏する。このときに生じるキックバックのエネルギーが大きい場合はアバランシェ破壊に至る。電源装置は、常にインダクタンスのある負荷が接続されるわけではないが、電源装置に接続している配線にもインダクタンスがあるため、負荷のインダクタンスを皆無にすることはできない。とくに、負荷に接続する配線が長くなるにしたがってインダクタンスは大きくなってキックバック電圧とキックバックのエネルギーも高くなる。したがって、電源装置は、電流遮断スイッチをオフ状態に切り換える瞬間にキックバック電圧が発生し、このキックバック電圧が電流遮断スイッチをアバランシェ破壊させる潜在リスクを持つ。電源装置は種々の用途に使用されるので、負荷インダクタンスや電流は用途によって変動する。電源装置は、インダクタンスが増加し、端子間の短絡時をはじめ大電流を供給する状態でより大きなキックバック電圧が発生するので、種々の用途に安全に使用できる電源装置は、キックバック電圧による電流遮断スイッチのアバランシェ破壊を確実に防止することが極めて大切である。
【0005】
キックバック電圧による電流遮断スイッチのアバランシェ破壊は、出力側に逆方向にダイオードを接続して吸収できる。キックバック電圧が出力電圧と逆電圧となり、出力側の回路とダイオードで形成される閉回路をなすからである。ただ、この回路構成の電源装置は、充電器に逆接続されるとダイオードに過大なショート電流が流れるので、逆接続する状態では安全性を確保できない。逆接続の安全性は、ダイオードと直列に、ヒューズやPTCからなるスパイク吸収回路を正負の出力側に接続して解消できる。このスパイク吸収回路は、充電器を逆接続する状態で、ダイオードの過大電流でヒューズを溶断し、あるいはPTCをトリップさせて過大電流を遮断しあるいは減衰する。しかしながら、ヒューズを直列に接続するスパイク吸収回路は、一度ヒューズが溶断されるとキックバック電圧から電流遮断スイッチを保護できず、またPTCを接続するスパイク吸収回路は、トリップするとPTCの電気抵抗が増加するのでキックバック電圧による電流遮断スイッチのアバランシェ破壊を有効に防止できなくなる欠点がある。
【0006】
本発明は、従来の以上の欠点を解決することを目的に開発されたものである。本発明の重要な目的は、キックバック電圧による電流遮断スイッチのアバランシェ破壊を確実に防止しながら、充電器を逆接続する時の過電流を防止して、高い安全性を確保する電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の電源装置は、複数の二次電池と、二次電池の出力側に接続している半導体素子の電流遮断スイッチと、電流遮断スイッチをオンオフに制御する制御回路と、二次電池と電流遮断スイッチの出力側に接続している、半導体素子の保護用スイッチとダイオードとの直列回路からなるスパイク吸収回路と、保護用スイッチをオンオフに制御する小信号スイッチと、電流遮断スイッチがオフ状態に切り換えられる電流遮断タイミングから予め設定されている設定時間(T)は小信号スイッチをオン状態に保持する遅延回路とを備える。ダイオードは二次電池の正及び負の出力側に対して逆方向に接続され、遅延回路は、タイミングコンデンサーとタイミング抵抗との並列回路を備え、タイミングコンデンサーとタイミング抵抗の時定数により設定時間(T)を特定し、電流遮断スイッチの電流遮断タイミングから設定時間(T)は小信号スイッチをオン状態に保持して、オン状態の小信号スイッチが保護用スイッチをオン状態として、電流遮断時に発生するキックバック電圧をスパイク吸収回路で減衰させる。
【0008】
以上の電源装置は、負荷電流を電流遮断するときに発生する、最大定格電圧を越えるキックバック電圧によって、半導体素子である電流遮断スイッチのアバランシェ破壊を確実に防止できる特徴がある。とくに、以上の電源装置は、出力ラインに長い配線が接続されて、配線のインダクタンスが大きくなり、また遮断時の電流が相当に大きい使用状態において、電流遮断スイッチがオフに切り換えられて電流遮断時に、高電圧のキックバック電圧が発生する状態にあっても、半導体素子である電流遮断スイッチのキックバック電圧によるアバランシェ破壊を確実に阻止できる特徴がある。
【0009】
電源装置に誘導負荷を接続して電流を遮断するとき、瞬間的に発生するキックバック電圧は、電流を遮断するときに誘導負荷のインダクタンスに蓄えられる電流のエネルギー(E)に起因する。誘導負荷に蓄えられる電流のエネルギーは、キックバック電圧を放電することで消費される。
誘導負荷の電流を遮断するときに、インダクタンス(L)に蓄えられる電流のエネルギ(E)は、以下の式で表されるように、負荷の電流の二乗とインダクタンスの積に比例して大きくなる。
E=1/2(L×I2)
ただし、Lは負荷に接続している誘導負荷のインダクタンス、Iは遮断時の電流である。
電源装置に接続される負荷のインダクタンスは、負荷自体がモータやコイル等の誘導負荷のみでなく、配線のインダクタンスも加算される。したがって、配線のインダクタンスは長くなると大きくなるので、電源装置に長い配線を介して負荷を接続すると配線によるインダクタンスが無視できなくなる。とくに、大出力の電源装置は、種々の負荷が接続されることから配線が長くなる用途もあって、長い配線によるインダクタンスによってキックバック電圧が高くなる。したがって、種々の用途に使用される電源装置は、キックバック電圧による電流遮断スイッチのアバランシェ破壊を確実に防止することが極めて大切である。
【0010】
以上の電源装置は、キックバック電圧が発生するタイミングにおいては、スパイク吸収回路の保護用スイッチをオン状態としてキックバック電圧による保護用スイッチのアバランシェ破壊を防止する。以上の電源装置は、電流遮断スイッチがオフ状態に切り換えられて、電流が遮断された瞬間から設定時間(T)が経過するまでは、遅延回路が小信号スイッチをオン状態に保持し、オン状態の小信号スイッチは保護用スイッチをオン状態とし、保護用スイッチをオン状態とするスパイク吸収回路は、キックバックのエネルギーを電流エネルギーとして、ダイオードを介して流すことで速やかに減衰させる。保護用スイッチをオン状態として、キックバック電圧を放電するときに、ダイオードの両端に発生する電圧、すなわちダイオードの順方向の電圧降下は約0.6Vと極めて低く、仮に2個のダイオードを直列に接続しても、ダイオードの電圧降下は■かに1.2Vに過ぎないので、保護用スイッチがオン状態にあって、スパイク吸収回路の両端の電圧は1.2Vに制限される。したがって、保護用スイッチのオン状態にいて、出力端子に発生するスパイク電圧は極めて低く、スパイク電圧がオフ状態の電流遮断スイッチをアバランシェ破壊することはない。またスパイク電圧がダイオードで短絡して減衰されるので、スパイク電圧は速やかに減衰する。
【0011】
また、以上の電源装置は、電流遮断スイッチをオフ状態に切り換えた後、所定の時間に限って電流遮断スイッチをオン状態に切り換えて、その後はオフ状態に保持するので、通常の使用状態において保護用スイッチはオフ状態に保持される。保護用スイッチをオフ状態とする電源装置に充電器が逆接続されると、オフ状態の保護用スイッチがダイオードの電流を遮断する。したがって、充電器を逆接続してダイオードに過大電流が流れる弊害を防止できる。さらに、スパイク吸収回路が、ダイオードと直列に接続する素子に、ヒューズやPTCを使用せず、半導体素子の保護用スイッチを接続しているので、キックバック電圧によるアバランシェ破壊を防止でき、また、繰り返し充電器に逆接続されてもアバランシェ破壊を確実に防止できる。従来の、ダイオードにヒューズを直列に接続するスパイク吸収回路は、充電器に逆接続されるとヒューズが溶断して、その後にアバランシェ破壊を防止できず、また、PTCはトリップすると電気抵抗が増大して安全性が低下する。以上の電源装置は、キックバック電圧による電流遮断スイッチのアバランシェ破壊を防止しながら、充電器の逆接続における安全性を実現する特徴を実現する。
【0012】
本発明の電源装置は、電流遮断スイッチを二次電池の過放電を防止する放電スイッチとすることができる。この電源装置は、制御回路が二次電池の残容量を検出し、二次電池が過放電されると放電スイッチをオフ状態に切り換えて、二次電池の過放電を防止できる特徴がある。
【0013】
本発明の電源装置は、過電流遮断スイッチの出力側に、電池の過放電(過充電)を防止する放電(充電)スイッチを接続して、放電スイッチの出力側に接続しているスパイク吸収回路を、電流遮断スイッチと放電(充電)スイッチとの接続点に接続することができる。
【0014】
本発明の電源装置は、電流遮断スイッチと充電スイッチと保護用スイッチをFETとすることができ、また、本発明の電源装置は、保護用スイッチの入力側に定電圧ダイオードを接続することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための電源装置を例示するものであって、本発明は電源装置を以下のものに特定しない。
【0016】
さらに、この明細書は、特許請求の範囲を理解しやすいように、実施例に示される部材に対応する番号を、「特許請求の範囲」および「課題を解決するための手段の欄」に示される部材に付記している。ただ、特許請求の範囲に示される部材を、実施例の部材に特定するものでは決してない。
【0017】
図1に示す電源装置は、複数の二次電池1と、二次電池1の出力側に接続している半導体素子の電流遮断スイッチ2と、電流遮断スイッチ2をオンオフに制御する制御回路3と、二次電池1と電流遮断スイッチ2の出力側にあって、電源装置の出力側に接続しているスパイク吸収回路4と、スパイク吸収回路4の保護用スイッチ6をオンオフに制御する小信号スイッチ7と、電流遮断スイッチ2がオフ状態に切り換えられる電流遮断タイミングから予め設定している設定時間(T)は小信号スイッチ7をオン状態に保持する遅延回路8とを備える。
【0018】
複数の二次電池1は直列に接続された出力電圧を高くしている。とくに、大電力の電源装置は多数の二次電池1を直列に接続して出力電圧を高く、また複数の二次電池1を並列に接続して出力電流や充放電できる容量を大きくしている。大電力の電源装置は、負荷に供給する電流が大きいことから、電流を遮断するとき瞬間的に発生するスパイク電圧も高くなる。高電圧のスパイク電圧は、保護素子として接続しているFETなどの放電スイッチをアバランシェ破壊する原因となるが、本発明の電源装置は、スパイク電圧による半導体素子のアバランシェ破壊を有効に防止できる特徴がある。したがって、本発明の電源装置は、負荷に大電力を供給できる装置、すなわち多数の二次電池を直列や並列に接続している、たとえば容量を1KWh以上とする電源装置に適している。
【0019】
ただし、小容量の電源装置においても、誘導負荷を接続して放電スイッチがオフ状態に切り換えられると、誘導負荷のインダクタンスによって高いスパイク電圧が発生し、このスパイク電圧がFETなどの放電スイッチをアバランシェ破壊することもあるので、本発明は電源装置を大容量の装置に特定するものではない。
【0020】
図1の電源装置は、負荷電流を遮断する電流遮断スイッチ2と直列に、二次電池1の過充電を防止するために接続している充電スイッチ9を直列に接続している。電流遮断スイッチ2は二次電池1の過放電を防止する放電スイッチで、放電スイッチの電流遮断スイッチ2と、充電スイッチ9を半導体スイッチング素子とする。図の電源装置は、放電スイッチの電流遮断スイッチ2と充電スイッチ9の半導体スイッチング素子をMOSFETとする。2組のMOSFETは互いに直列に接続されて、二次電池1と出力端子との間に接続されて、二次電池1の過放電や過充電を防止する。MOSFETは大電流を制御できる半導体素子であって、とくにオン状態における電圧降下がトランジスタよりも小さいことから、オン状態における半導体素子の電力ロスを小さくできる特徴がある。ただし、本発明の電源装置は、電流遮断スイッチ2と充電スイッチ9をMOSFETに特定するものでなく、たとえば、トランジスタやIGBT等の半導体素子も使用できる。
【0021】
制御回路3は、充電スイッチ9と、二次電池の過放電を防止する放電スイッチに併用される電流遮断スイッチ2をオンオフに制御する。さらに、制御回路3は遅延回路8を介してスパイク吸収回路4の保護用スイッチ6をオンオフに制御する。制御回路3は、二次電池1が充放電されない状態で、電流遮断スイッチ2と充電スイッチ9をオフ状態とし、二次電池1を充放電する状態では、電流遮断スイッチ2と充電スイッチ9をオン状態とする。さらに制御回路3は、負荷の短絡や過電流を検出して電流遮断スイッチ2をオフ状態に切り換え、二次電池1の満充電を検出すると充電スイッチ9をオフ状態に切り換える。
【0022】
スパイク吸収回路4は、半導体素子の保護用スイッチ6とダイオード5との直列回路で、ダイオード5は二次電池1の正及び負の出力側電圧の逆方向に接続される。保護用スイッチ6はMOSFETである。ただ、保護用スイッチ6にはFETに代わってトランジスタやIGBTなどの半導体スイッチング素子も使用できる。スパイク吸収回路4は、電流遮断スイッチ2である放電スイッチがオフ状態に切り換えられて、負荷電流が遮断された瞬間に発生するキックバック電圧を防止する。誘導負荷に流れていた電流を遮断する瞬間に、誘導負荷のインダクタンスと電流の変化率に比例するキックバック電圧が発生する。このキックバック電圧は、オフ状態に切り換えられた瞬間に半導体素子の両端に印加される。キックバック電圧が半導体素子の最大定格電圧を越えると、半導体素子はアバランシェ破壊する。スパイク吸収回路4の保護用スイッチ6は、負荷電流を遮断した電流遮断タイミングから設定時間(T)は、オン状態に保持される。オン状態の保護用スイッチ6は、発生するキックバック電圧をダイオード5で短絡して、キックバック電圧を吸収する。キックバック電圧は、正負の出力端子に逆方向に印加されるので、出力端子に逆方向に接続しているダイオード5を介して短絡される。
【0023】
保護用スイッチ6のMOSFETのゲートは、分圧抵抗(R1、R2)を介して小信号スイッチ7に接続され、ゲートとソースとの間には、保護用スイッチ6のMOSFETのゲートに入力する電圧を設定電圧に制限する定電圧ダイオードZD1を接続している。分圧抵抗(R1、R2)は、保護用スイッチ6のゲートとソース間の電圧をR1/(R1+R2)に分圧して入力し、さらに分圧抵抗(R1、R2)で分圧して入力される電圧は、定電圧ダイオードZD1で設定電圧に制限して保護用スイッチ6のゲートに入力される。保護用スイッチ6は、電流遮断スイッチ2がオフ状態に切り換えられて負荷電流が遮断された電流遮断タイミングから設定時間(T)は、オン状態の小信号スイッチ7からゲートにオン電圧が入力されてオン状態に保持されて、キックバック電圧を吸収する。
【0024】
スパイク吸収回路4の保護用スイッチ6は、常にオン状態には保持されない。電源装置の出力端子に充電器が逆接続されてダイオード5に過大電流が流れるのを防止するためである。したがって、保護用スイッチ6は、電流遮断タイミングから設定時間(T)に限ってオン状態に保持され、その後は小信号スイッチ7でオフ状態に切り換えられる。
【0025】
小信号スイッチ7は、遅延回路8から入力される信号で保護用スイッチ6のオンオフを制御する。小信号スイッチ7は、オン状態で、保護用スイッチ6にオン信号を入力する。ただし、小信号スイッチ7のオン状態においても、電流遮断スイッチ2がオン状態にあると保護用スイッチ6はオフ状態となる。オン状態の電流遮断スイッチ2が、保護用スイッチ6のゲートとソース間をショートして、ゲート電圧を0Vとするからである。
【0026】
オン状態の小信号スイッチ7は、保護用スイッチ6であるFETのゲートを二次電池1のマイナス側に接続する。この状態で、電流遮断スイッチ2のFETがオフ状態となると、保護用スイッチ6のFETは、ドレインとゲートの間に、電流遮断スイッチ2のソースとドレイン間のオン電圧が印加されて、保護用スイッチ6をオン状態とする。電流遮断スイッチ2のソースとドレイン間にキックバック電圧が印加されるからである。したがって、保護用スイッチ6は、小信号スイッチ7がオン、電流遮断スイッチ2がオフの状態でオン状態となる。
【0027】
遅延回路8は、電流遮断スイッチ2をオフ状態に切り換えた電流遮断タイミングから設定時間(T)は、小信号スイッチ7を介して保護用スイッチ6をオン状態に保持し、設定時間(T)が経過した後は保護用スイッチ6をオフ状態に切り換える。遅延回路8は、入力ラインに接続している入力ダイオードD1と、この入力ダイオードD1と直列に接続している入力抵抗R3と、設定時間(T)を特定する時定数を特定するタイミングコンデンサーC1とタイミング抵抗R4との並列回路と、この並列回路と並列に接続している定電圧ダイオードZD2とからなり、定電圧ダイオードZD2の両端を小信号スイッチ7であるFETのゲートとソースとの間に接続している。
【0028】
タイミングコンデンサーC1とタイミング抵抗R4の時定数は、設定時間(T)を特定する。タイミングコンデンサーC1の静電容量とタイミング抵抗R4の抵抗値の積で特定される時定数でもって遅延回路8の設定時間(T)を特定する。時定数を大きくして、設定時間(T)は長く、反対に時定数を小さくして設定時間(T)は短くなる。タイミングコンデンサーC1とタイミング抵抗R4の時定数は、キックバック電圧の減衰時間を考慮して設定され、たとえば、200μsec以上であって10msec以下、好ましくは500μsec以上であって3msec以下、さらに好ましくは500μsec以上であって2msec以下に設定される。
【0029】
遅延回路8は、制御回路3からの入力される制御信号で小信号スイッチ7をオンオフに制御する。図の電源装置は、電流遮断スイッチ2に入力する信号を制御信号として遅延回路8に入力する。この制御信号は、電流遮断スイッチ2のオン状態で”High”、オフ状態で”Low”となる信号である。遅延回路8に入力される”High”信号は、入力ダイオードD1と入力抵抗R3を介して時定数を特定するタイミングコンデンサーC1を充電して小信号スイッチ7をオン状態とする。電流遮断スイッチ2がオフ状態に切り換えられて、演算回路の入力信号が”High”から”Low”に切り換えられると、タイミングコンデンサーC1がタイミング抵抗R4で次第に放電されて、設定時間(T)が経過した後、小信号スイッチ7がオフ状態に切り換えられる。
【0030】
電源装置の通常の使用状態において、負荷に電力を供給するために、電流遮断スイッチ2はオン状態にある。この状態で電流遮断スイッチ2に入力される”High”信号は遅延回路8に入力されて、小信号スイッチ7をオン状態とする。小信号スイッチ7がオン状態にあっても、オン状態の電流遮断スイッチ2が保護用スイッチ6のゲートとソースを短絡して、保護用スイッチ6をオフ状態に保持する。すなわち、通常の使用状態で保護用スイッチ6はオフ状態に保持される。
【0031】
電流遮断スイッチ2がオフ状態に切り換えられると、遅延回路8の設定時間(T)はオン信号を小信号スイッチ7に入力して小信号スイッチ7をオン信号に保持する。この状態で、電流遮断スイッチ2がオフ状態に切り換えられて負荷電流が遮断されると、電流遮断スイッチ2が保護用スイッチ6のゲートとソース間をショートしなくなって、分圧抵抗(R1、R2)を介して保護用スイッチ6のゲートにオン信号が入力される。したがって、電流遮断スイッチ2がオフ状態に切り換えられた電流遮断タイミングから設定時間(T)が経過するまでの間は、保護用スイッチ6はオン状態に保持される。オン状態の保護用スイッチ6は、ダイオード5を介してキックバック電圧を短絡して、電流遮断スイッチ2のキックバック電圧によるアバランシェ破壊を防止する。負荷電流を遮断した瞬間に発生するキックバック電圧は、ダイオード5で短絡されて速やかに減衰する。遅延回路8の設定時間(T)は、キックバック電圧が消滅する時間に設定しているので、設定時間(T)が経過すると、遅延回路8は小信号スイッチ7をオフ状態に切り換えて、保護用スイッチ6をオフ状態に切り換える。スパイク吸収回路4は、キックバック電圧が減衰した後、保護用スイッチ6をオフ状態に切り換える。オフ状態に切り換えられた保護用スイッチ6は、電源装置の出力端子に充電器が逆接続される状態で、ダイオード5に過大電流が流れるのを阻止する。
【0032】
以上の電源装置は以下の動作で、電流遮断スイッチ2をオフ状態に切り換えた瞬間に発生するキックバック電圧で電流遮断スイッチがアバランシェ破壊するのを防止し、また出力端子に充電器を逆接続する状態での弊害を防止する。
【0033】
1.二次電池が充放電されていない状態
この状態において、制御回路3は電流遮断スイッチ2と充電スイッチ9と小信号スイッチ7をオフ状態とする。小信号スイッチ7は、制御回路3から電流遮断スイッチ2に出力される”Low”信号が遅延回路8を介して出力されてオフ状態となる。オフ状態の小信号スイッチ7によって、スパイク吸収回路4の保護用スイッチ6はオフ状態となる。
この状態で出力端子が短絡されると、オフ状態にある電流遮断スイッチ2によって二次電池1は放電されることがない。また、充電器が接続されてもオフ状態の電流遮断スイッチ2によって充電電流はながれず、また、充電器が逆接続されてもオフ状態の保護用スイッチ6によってスパイク吸収回路4のダイオード5には電流が流れない。
【0034】
2.二次電池が充放電される状態
この状態において、制御回路3は電流遮断スイッチ2の電流遮断スイッチ2と充電スイッチ9と小信号スイッチ7をオン状態とする。小信号スイッチ7は、制御回路3から電流遮断スイッチ2に出力される”High”信号が遅延回路8を介して入力されてオン状態となる。小信号スイッチ7はオン状態となるが、オン状態の電流遮断スイッチ2が保護用スイッチ6のゲートとソースを短絡するので、保護用スイッチ6はゲートにオン信号が入力されずにオフ状態に保持される。
【0035】
3.電流遮断スイッチと充電スイッチのオン状態で出力端子が短絡された状態
出力端子が短絡されると、制御回路3が短絡電流を検出して電流遮断スイッチ2をオフ状態に切り換える。電流遮断スイッチ2がオフ状態に切り換えられると、負荷電流が遮断されて出力端子にキックバック電圧が発生するが、キックバック電圧によって、
図2の矢印で示す方向に電流が流れて、電流遮断スイッチ2の両端、すなわち電流遮断スイッチ2であるFETのドレインとソース間に電圧が発生し、この電圧がスパイク吸収回路4の保護用スイッチ6をオン状態に切り換える。この状態において、保護用スイッチ6のFETは、オン状態の小信号スイッチ7を介してゲートに入力される電圧が、入力側に接続している定電圧ダイオードZD1で設定電圧に制限されて入力されて、オン状態に切り換えられる。すなわち、保護用スイッチ6は保護用スイッチ6のFETがオフ状態に切り換えられた瞬間にオン状態に切り換えられる。
オン状態の保護用スイッチ6は、負荷電流を遮断する瞬間にオン状態に切り換えられるので、電流を遮断した瞬間に発生するキックバック電圧は保護用スイッチ6を介してダイオード5で短絡される。したがって、キックバック電圧が上昇して、オフ状態に切り換えられた電流遮断スイッチ2のFETはアバランシェ破壊することはない。
【0036】
4.出力端子が短絡されてキックバック電圧が減衰した状態
保護用スイッチ6がオン状態に切り換えられた後、遅延回路8の設定時間(T)が経過してキックバック電圧が減衰すると、小信号スイッチ7がオフ状態に切り換えられて、保護用スイッチ6がオフ状態に切り換えられる。小信号スイッチ7は、遅延回路8から出力される”Low”信号でオフ状態に切り換えられる。遅延回路8は、電流遮断スイッチ2がオフ状態に切り換えられた後、設定時間(T)が経過すると、出力を”High”から”Low”に切り換えて小信号スイッチ7をオフ状態に切り換える。
【0037】
図1の遅延回路8は、電流遮断スイッチ2がオフ状態に切り換えられた瞬間に、制御回路3からの入力信号が、”High”から”Low”となるが、この遅延回路8は、入力信号が”High”から”Low”になると、”High”信号でチャージされていたタイミングコンデンサーC1がタイミング抵抗R4で放電し、設定時間(T)が経過すると、タイミングコンデンサーC1が放電されて、出力を”High”から”Low”に切り換える。遅延回路8から出力される”Low”信号は、小信号スイッチ7をオフ状態に切り換える。オフ状態の小信号スイッチ7は、保護用スイッチ6であるFETのゲート電圧を遮断して、保護用スイッチ6のFETをオフ状態とする。すなわち、遅延回路8の設定時間(T)が経過すると、小信号スイッチ7がオフ状態となり、オフ状態の小信号スイッチ7が保護用スイッチ6をオフ状態に切り換える。この状態を
図3に示している。
したがって、この状態で電源装置の出力側に充電器が逆接続されても、
図3に示すようにオフ状態にある保護用スイッチ6によってスパイク吸収回路4のダイオード5に過大電流が流れることはない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の電源装置は、長い配線や誘導負荷に接続される大電力装置として有効に、また安全に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明の実施例にかかる電源装置の回路図である。
【
図2】
図1に示す電源装置がキックバック電圧を吸収する状態における通電状態を示す回路図である。
【
図3】
図1に示す電源装置に充電器が逆接続された状態における通電状態を示す回路図である。
【符号の説明】
【0040】
1…二次電池
2…電流遮断スイッチ
3…制御回路
4…スパイク吸収回路
5…ダイオード
6…保護用スイッチ
7…小信号スイッチ
8…遅延回路
9…充電スイッチ