(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】カチオン電着塗膜形成方法
(51)【国際特許分類】
C09D 163/00 20060101AFI20220530BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20220530BHJP
C09D 5/44 20060101ALI20220530BHJP
C09D 7/47 20180101ALI20220530BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20220530BHJP
【FI】
C09D163/00
B05D1/36 A
C09D5/44 A
C09D7/47
C09D175/04
(21)【出願番号】P 2019095729
(22)【出願日】2019-05-22
【審査請求日】2019-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】梶山 優子
(72)【発明者】
【氏名】細野 宏
(72)【発明者】
【氏名】カール-ハインツ グローセ-ブリンクハウス
(72)【発明者】
【氏名】堀江 雅博
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-089685(JP,A)
【文献】特開2013-142111(JP,A)
【文献】特開2016-121313(JP,A)
【文献】特開2016-120476(JP,A)
【文献】特開2016-191013(JP,A)
【文献】特表2018-510761(JP,A)
【文献】特開昭62-174277(JP,A)
【文献】特開2000-007959(JP,A)
【文献】米谷俊一,コンポーネント技術 特集 ねじ締結と摩擦係数,ヤマハ技報,2004年07月06日,No.38
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 163/00
C09D 5/44
C09D 175/04
C09D 7/47
B05D 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン電着塗料組成物を使用するカチオン電着塗膜形成方法であって、前記カチオン電着塗料組成物が、
(a)アミン変性エポキシ樹脂
(但し、ビスフェノ-ル型エポキシ樹脂の水酸基に環状エステル化合物を反応させてなるアミン変性エポキシ樹脂を除く)、
(b)ブロックイソシアネート化合物、
(c)顔料、および
(d)アクリル系表面調整剤、
を含有し、
前記(d)アクリル系表面調整剤の溶解性パラメーター(SP値)が9.5~10.2であり、
前記(d)アクリル系表面調整剤の、前記カチオン電着塗料組成物の総質量に対する含有量が0.1質量%~0.3質量%の範囲にあり、
前記カチオン電着塗料組成物から得られる焼付硬化塗膜表面の静摩擦係数が0.1以上とされることを特徴とするカチオン電着塗膜形成方法。
【請求項2】
前記(d)アクリル系表面調整剤の含有量のカチオン電着塗料組成物の総質量に対する含有量が0.12~0.28質量%である請求項1に記載のカチオン電着塗膜形成方法。
【請求項3】
前記(a)アミン変性エポキシ樹脂が、
(i)ポリグリシジルエーテルと、1級モノもしくはポリアミン、2級モノもしくはポリアミン、または1、2級混合モノもしくはポリアミンとの付加物、または
(ii)ポリグリシジルエーテルと、ケチミン化された1級アミン基を有するポリアミンとの付加物である、請求項1または2に記載のカチオン電着塗膜形成方法。
【請求項4】
前記(b)ブロックイソシアネート化合物が、外部架橋タイプのブロックイソシアネート化合物のみからなり、その使用割合(樹脂固形分)は、カチオン電着塗料組成物の総樹脂固形分に対して10~50質量%である請求項1~3のいずれか1項に記載のカチオン電着塗膜形成方法。
【請求項5】
さらに顔料分散用樹脂を用い、当該顔料分散用樹脂と、前記(a)アミン変性エポキシ樹脂とは、相互に同一材料から調整されたアミン変性エポキシ樹脂である1~4のいずれか1項に記載のカチオン電着塗膜形成方法。
【請求項6】
前記(d)アクリル系表面調整剤が、(メタ)アクリル酸共重合体の表面調整剤であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のカチオン電着塗膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン電着塗膜形成方法に関する。更に詳しくは、金属基体に対するカチオン電着塗装用の組成物の硬化塗膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗装は、カチオン電着塗料中に被塗物を陰極として浸漬させ、電圧を印加することにより行われる。カチオン電着塗装の被塗物は、従来より鋼板が大部分を占め、一般にはこれを表面処理したものに対して電着塗装が行われる。
【0003】
電着塗装は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装することができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので、自動車車体等の大型で複雑な形状を有し、高い防錆性が要求される被塗物の下塗り塗装方法として広く使用されている。下塗り塗装後の部材は表面の平滑さが求められる一方で、塗装後の複数の部材をボルト等で締結することも多いため、締結時に部材間で滑りが起こらず、しっかりと固定されることが、作業性や最終製品の品質面から特に重要である。
【0004】
部材のボルト締結性を向上するための従来技術としては、例えば、研磨剤を含有させた研磨剤保持層を部材間に設ける方法(例えば、特許文献1)が知られている。しかしながら、この方法では、締結する部材のどちらか一方に研磨剤保持層を形成する工程が増えてしまう。
【0005】
また、他の方法では、電着塗装された部材を締結するボルトに対し、水系ウレタン樹脂エマルジョンと、オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体エマルジョンまたはウレタン変性ポリオレフィンエマルジョンを含有する水性液体からなる摩擦係数安定化剤を塗布し、ボルト表面の摩擦係数を安定化させる方法(例えば、特許文献2)や、含フッ素重合体を含有したカチオン電着塗料組成物によりネジ表面の滑り性を向上させ、締め付けを容易にする方法(例えば、特許文献3)が知られている。しかしながら、これらの方法は、ボルト等のネジ類に着目したものであり、塗膜自体の性能として滑りを抑制するものではない。
【0006】
さらに、電着塗膜表面の摩擦係数を規定した従来技術として、フッ素樹脂微粒子を含有したカチオン電着塗料組成物(例えば、特許文献4)や、ポリテトラフルオロエチレン粒子を含有したアニオン電着組成物(例えば、特許文献5)が知られている。
【0007】
しかしながら、特許文献4および5の方法は、電着塗装により形成された電着塗膜(下塗り層)上に、中塗り塗膜、および/または、ベースコート塗膜およびクリヤー塗膜等から成る上塗り塗膜等を形成して、自動車車体やその部品等に用いる場合、電着塗膜とその上に形成される塗膜間の密着性を確保することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2006-22948号公報
【文献】特開2006-206682号公報
【文献】特開2006-199948号公報
【文献】特開2004-277565号公報
【文献】特開2013-142111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかるに、本発明は、従来技術による不具合を有さず、良好な平滑性と優れた耐滑り性とを有する硬化塗膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、上記課題が、以下のカチオン電着塗膜形成方法により解決されることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明の上記課題は、カチオン電着塗料組成物を使用するカチオン電着塗膜形成方法であって、カチオン電着塗料組成物が、
(a)アミン変性エポキシ樹脂、
(b)ブロックイソシアネート化合物、
(c)顔料、および
(d)表面調整剤、
を含有し、
(d)表面調整剤の溶解性パラメーター(SP値)が9.0以上であり、
(d)表面調整剤の、カチオン電着塗料組成物の総質量に対する含有量が0.1質量%~0.3質量%の範囲にあり、
カチオン電着塗料組成物から得られる焼付硬化塗膜表面の静摩擦係数が0.1以上とされることを特徴とするカチオン電着塗膜形成方法により解決される。
【発明の効果】
【0012】
本発明のカチオン電着塗膜形成方法により、平滑性と耐滑り性に優れた表面を有する硬化塗膜を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施例及び比較例における、耐滑り性評価試験に用いる評価用サンプルの構成、および測定方法についての説明図(断面図)である。
【
図2】
図2は、
図1に示した評価用サンプルの構成部材の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明で用いられるカチオン電着塗料組成物は、(a)アミン変性エポキシ樹脂、(b)ブロックイソシアネート化合物、(c)顔料、および(d)表面調整剤を含む。
【0015】
上記カチオン電着塗料組成物においては、(d)表面調整剤としては、溶解性パラメーター(SP値)が9.0以上のものが使用され、(d)表面調整剤の、カチオン電着塗料組成物の総質量に対する含有量が0.1質量%~0.3質量%の範囲とされる。
【0016】
カチオン電着塗料組成物で電着塗装した被塗物は、焼付により硬化するが、上記のカチオン電着塗料組成物から得られる本発明の硬化塗膜表面の静摩擦係数は0.1以上、好ましくは0.12以上、特に好ましくは0.14とされる。
【0017】
なお、電着塗料組成物の硬化塗膜の静摩擦係数が0.5を超えると、外観不良となる場合がある。
【0018】
上記の構成による本発明により得られる硬化塗膜は、下塗り層に要求される防食性や平滑性のみならず、硬化塗膜表面が優れた耐滑り性を有する。すなわち、上記硬化塗膜は、これを相互に、または他の部材と重ね合わせてボルト等による締結などの組付け作業の際にも滑りにくく、作業性が向上し、これらの塗膜を有する最終製品においても緩みが生ずることがなく、製品の精度や品質が向上する。
【0019】
更に、本発明により得られる硬化塗膜は、表面が平滑に得られるために、外観が良好であり、上部に上塗り層等を積層してマルチコート塗装系とする場合にも製膜に影響を与えることなく、上部層との密着性にも優れるものである。
【0020】
以下、本発明で使用されるカチオン電着塗料組成物の成分について説明する。
【0021】
[成分(a)アミン変性エポキシ樹脂]
カチオン電着塗料組成物の基体樹脂としては、(a)アミン変性エポキシ樹脂が用いられる。
【0022】
(a)アミン変性エポキシ樹脂に用いられるエポキシ樹脂としては、平均で1分子あたり1個よりも多いグリシジル基を有する限り、全ての低分子および高分子化合物を用いることができる。特に、2個またはそれ以上のグリシジル基を有するポリグリシジルエーテルが好ましい。
【0023】
本発明で使用する(a)アミン変性エポキシ樹脂のエポキシ当量は、500~1000程度、特に700~900程度であることが好ましい。 エポキシ当量を上記範囲とすることにより、乳化性が良好となり安定したエマルションを得ることができる。
【0024】
上記のポリグリシジルエーテルとしては、ポリフェノールのポリグリシジルエーテルが挙げられる。
【0025】
その原料となるポリフェノールとしては、ビスフェノールA(2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン)、ビスフェノールE(1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン)、ビスフェノールF(ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)プロパン等のビスフェノール類、及び1,5-ジヒドロキシ-3-ナフタレン等のナフタレン類を用いることができる。
【0026】
更に、(a)アミン変性エポキシ樹脂の原料としては、上記以外の環式ポリオールから得られるポリグリシジルエーテルも用いることができる。このような環式ポリオールの例としては、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,2-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン等の脂環式ポリオールや、水添されたビスフェノールAやビスフェノールFが挙げられる。
【0027】
また、ポリグリシジルエーテルとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなど、例えばC2-C4アルキレングリコールを繰り返し単位とするポリアルキレングリコール等の直鎖状ポリオールのポリグリシジルエーテルと、モノフェノール化合物との反応によって得られるポリグリシジルエーテル、および
フェノール性ノボラック樹脂または類似のポリフェノール樹脂のポリグリシジルエーテルやエポキシ化合物とカルボキシル末端基を有するブタジエン-アクリロニトリルコポリマーとの反応によって得られるポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0028】
(a)アミン変性エポキシ樹脂の製造において、ポリグリシジルエーテルと反応させるアミンとしては、1級、2級モノアミン、またはこれらのポリアミンを用いることができる。
【0029】
1級モノアミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等のC1-C6アルキルアミン、エタノールアミン等のC1-C6アルカノールアミン、2級モノアミンとしては、例えばジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、メチルブチルアミンを含むジC1-C6アルキルアミン、およびジエタノールアミンを含むジC1-C6アルカノールアミン;C1-C6アルキルC1-C6アルカノールアミンを挙げることができる。
【0030】
更に、ポリアミンとしては、例えば、ジメチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン等のジC1-C6アルキルアミノC1-C6アルキルアミン等が挙げられる。
【0031】
(a)アミン変性エポキシ樹脂の特記すべき具体例としては、
(i)ポリグリシジルエーテルと、1級モノもしくはポリアミン、2級モノもしくはポリアミン、または1、2級混合モノもしくはポリアミンとの付加物、または
(ii)ポリグリシジルエーテルと、ケチミン化された1級アミン基を有するポリアミンとの付加物等が挙げられる。
【0032】
(a)アミン変性エポキシ樹脂としては上記(i)または(ii)のいずれか一方を用いても、これら双方を用いてもよい。
【0033】
上記のうち、本発明では、例えばビスフェノール骨格などを有するポリグリシジルエーテルと、ケチミン化された1級アミン基有するポリアミンとの付加物が好ましく使用される。
【0034】
ケチミン化された1級アミノ基を有するポリアミンとしては、例えば、N-メチルアミノプロピルアミンやジエチレントリアミンとメチルイソブチルケトンとの反応物等が挙げられる。
【0035】
また、本発明で用いられるカチオン電着塗料組成物には、(a)アミン変性エポキシ樹脂のほかに、イソシアネート基と反応する官能基を有する樹脂であれば、アクリル系、アルキド系、ポリブタジエン系、ポリエステル系等のいずれの樹脂も併用でき、2種以上を併用してもよい。
【0036】
(a)アミン変性エポキシ樹脂の使用割合(樹脂固形分)は、カチオン電着塗料組成物の総樹脂固形分に対して、40~90質量%、特に50~80質量%であると好ましい。この範囲で(a)アミン変性エポキシ樹脂を配合することにより、防錆性に優れた硬化塗膜を得ることができる。
【0037】
[成分(b)ブロックイソシアネート化合物]
カチオン電着塗料組成物は(b)ブロックイソシアネート化合物を含む。
【0038】
ブロックイソシアネート硬化型の電着塗料組成物であり、カチオン電荷を有する樹脂およびブロックイソシアネートを含み、その樹脂の電荷を利用して電着を行い塗膜の硬化時にブロックイソシアネートのブロック剤が解離して、塗料組成物中の活性水素、例えば(a)アミン変性エポキシ樹脂中のヒドロキシル基等の活性水素と反応することにより硬化するウレタンタイプのカチオン電着塗料である。
【0039】
(b)ブロックイソシアネート化合物は、例えば(a)アミン変性エポキシ樹脂の分子中に含まれる自己架橋タイプでもよく、また(a)アミン変性エポキシ樹脂の外部に含まれる外部架橋タイプでもよい。
【0040】
自己架橋タイプ、外部架橋タイプのどちらのブロックイソシアネート化合物を製造する場合にも、次に挙げるようなイソシアネートおよびブロック剤が使用される。
【0041】
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、3,3’-ジメチルビフェニル4,4’-ジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、
テトラメチレンジイソシアネート、1,6-へキサンジイソシアネート、およびリジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、
4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート、
ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等のポリマー状のイソシアネート等が挙げられる。
【0042】
上記のポリイソシアネート化合物は、分子の末端等にイソシアネート(好ましくは2個以上)を保持するように、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、トリメチロールプロパン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリカプロラクトン、ポリカーボネートポリオールをはじめとするポリオール、アジピン酸、フタル酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸等のカルボン酸、または上記のポリオール及びカルボン酸の双方とさらに反応させたものでもよい。
【0043】
(b)ブロックポリイソシアネート化合物を製造するために使用可能なブロック剤の例としては、
i)フェノール、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、ニトロフェノール、クロロフェノール、エチルフェノール、t-ブチルフェノール、ヒドロキシ安息香酸、これら酸のエステル、または2,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン;
ii)ラクタム、例えば、ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム、またはβ-プロピオラクタム;
iii)活性メチレン性化合物、例えば、ジエチルマロネート、ジメチルマロネート、アセト酢酸エチルエステル、アセト酢酸メチルエステル、またはアセチルアセトン;
iv)アルコール、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、n-アミルアルコール、t-アミルアルコール、ラウリルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メトキシメタノール、グリコール酸、グリコール酸エステル、乳酸、乳酸エステル、メチロール尿素、メチロールメラミン、ジアセトンアルコール、エチレンクロロヒドリン、エチレンブロムヒドリン、1,3-ジクロロ-2-プロパノール、1,4-シクロヘキシルジメタノール、またはアセトシアンヒドリン;
v)メルカプタン、例えば、ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、t-ブチルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、2-メルカプロベンゾチアゾール、チオフェノール、メチルチオフェノール、またはエチルチオフェノール;
vi)酸アミド、例えば、アセトアニリド、アセトアニシジンアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸アミド、ステアリン酸アミド、またはベンズアミド;
vii)イミド、例えば、スクシンイミド、フタルイミド、またはマレインイミド;
viii)アミン、例えば、ジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン、キシリジン、N-フェニルキシリジン、カルバゾール、アニリン、ナフチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、またはブチルフェニルアミン;
ix)イミダゾール、例えば、イミダゾール、または2-エチルイミダゾール;x)尿素類、例えば、尿素、チオ尿素、エチレン尿素、エチレンチオ尿素、または1,3-ジフェニル尿素;
xi)カルバメート、例えば、N-フェニルカルバミド酸フェニルエステル、または2-オキサゾリドン;
xii)イミン、例えば、エチレンイミン;
xiii)オキシム、例えば、アセトンオキシム、ホルムアルドキシム、アセタトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトキシム、ジイソブチルケトキシム、ジアセチルモノキシム、ベンゾフェノキシム、またはクロロヘキサノキシム;
xiv)硫黄含有酸の塩、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、または亜硫酸水素カリウム;
xv)ヒドロキサム酸エステル、例えば、ベンジルメタクリロヒドロキサメート(BMH)、またはアリルメタクリロヒドロキサメート;
xvi)置換ピラゾール、イミダゾール、またはトリアゾール;
xvii)1,2-ポリオール、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール;
xviii)2-ヒドロキシエステル、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート;
xix)上記(i)~(xviii)のいずれか2種類以上のブロック剤の混合物、が挙げられる。
【0044】
本発明では、100~200℃の加熱により解離するブロック剤が好ましく使用される。
【0045】
上記ブロックポリイソシアネート化合物のブロック剤の解離を促進させるための解離触媒を用いることが可能である。解離触媒として、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫等の有機錫化合物、N-メチルモルホリン等のアミン類、亜鉛、コバルト、ビスマス、ジルコニウム等の金属塩が使用できる。触媒の濃度は、一般に、カチオン電着塗料組成物の総樹脂固形分に対し、0.1~5質量%である。
【0046】
外部架橋タイプの(b)ブロックイソシアネート化合物は、全ての遊離イソシアネート基がブロックされた状態で用いることが好ましい。
【0047】
また、(b)ブロックイソシアネートとして、(a)アミン変性エポキシ樹脂中にブロックイソシアネートを有している自己架橋タイプのものを使用する場合、公知の方法によりこれを製造することができる。例えば、部分的にブロックしたポリイソシアネ―ト化合物中の遊離のイソシアネートを、(a)アミン変性エポキシ樹脂中中の活性水素に反応させる方法等により、(a)アミン変性エポキシ樹脂中へブロックイソシアネートが導入される。
【0048】
外部架橋タイプの(b)ブロックイソシアネート化合物のみを用いる場合にはその使用割合(樹脂固形分)は、カチオン電着塗料組成物の総樹脂固形分に対して、10~50質量%、特に20~40質量%であると好ましい。なお、外部架橋タイプの(b)ブロックイソシアネート化合物と、自己架橋タイプの(b)ブロックイソシアネート化合物と、を適宜併用することも可能である。この範囲で(b)ブロックイソシアネート化合物を配合することにより、強靭性に優れた硬化塗膜を得ることができる。
【0049】
[(c)顔料]
本発明で用いられるカチオン電着塗料組成物は(c)顔料を含む。
【0050】
(c)顔料としては、通常電着塗料で用いられる顔料であれば特に制限はなく、所望の色彩、表面特性を考慮して適宜選択することにより配合することができる。このような顔料としては、例えば、酸化チタン、ベンガラ、カーボンブラック、黄酸化鉄等の着色顔料;クレー、タルク、マイカ、炭酸カルシウム等の体質顔料;リンモリブデン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、ポリリン酸アルミニウム等の防錆顔料等が挙げられる。
【0051】
本発明で用いられるカチオン電着塗料組成物においては、カチオン電着塗料組成物において(c)顔料の分散状態を良好とする目的で、顔料分散用樹脂を用いることができる。顔料分散用樹脂には制限はなく、同様の目的で使用される公知の顔料分散樹脂、例えばカチオン電荷を有する樹脂を使用することができるが、顔料の分散性を高めたものが好ましく、例えば、エポキシ4級アンモニウム型あるいは3級アミン型、アクリル4級アンモニウム型の樹脂が好適である。
【0052】
また、顔料分散用樹脂として、(a)アミン変性エポキシ樹脂を用いることも可能である。基体樹脂として単独で使用する(a)アミン変性エポキシ樹脂と、顔料分散用樹脂としての(a)アミン変性エポキシ樹脂とを、は異なる種類の樹脂としてもよいが、作業の容易化及び相溶性を考慮して、相互に同一材料から調整された樹脂とすることも可能である。この場合、顔料分散用樹脂用の(a)アミン変性エポキシ樹脂のエポキシ当量を、基体樹脂として単独で使用する(a)アミン変性エポキシ樹脂のエポキシ当量よりも小さくする等により、顔料分散用樹脂による顔料の分散性を向上させる配慮も有効である。なお、顔料分散用樹脂として(a)アミン変性エポキシ樹脂を用いる場合は、その使用量は、上述の(a)アミン変性エポキシ樹脂の使用量の一部として考慮される。
【0053】
(c)顔料は、カチオン電着塗料組成物の総質量に対して、0.1~20質量%、特に1~10質量%の範囲で添加される。これにより、カチオン電着塗料組成物の被塗物に対する密着性や被覆性等の塗膜物性を良好に維持しつつ、所望の防錆性が発揮される。
【0054】
[(d)表面調整剤]
本発明で用いられるカチオン電着塗料組成物は、(d)溶解性パラメーター(SP値)が9.0以上である表面調整剤が必須成分として用いられる。(d)表面調整剤を必須とする理由は、これを配合することにより、単に塗膜のレベリング剤として平滑性を上昇させるだけではなく、塗膜の静摩擦係数低下を抑制し、塗膜の耐滑り性を発現することにある。
【0055】
塗料に配合する表面調整剤は、従来技術においては、塗膜表面に配向し表面の平滑性を向上させるが、同時に表面の耐滑り性を悪化させる傾向にあるが、本発明では(d)表面調整剤として、エポキシ樹脂との相溶性が調整されており、耐滑り性を悪化させない化合物が用いられる。
【0056】
(d)表面調整剤としてはアクリル系、ビニルエーテル系、シリコン系、ブタジエン系表面調整剤、またはその混合物等が使用される。このうち、アクリル系、例えば(メタ)アクリル酸共重合体の表面調整剤が好ましく用いられる。
【0057】
(d)表面調整剤は、溶解性パラメーター(SP値)が9.0以上であることよりエポキシ樹脂との相溶性が調節され、表面のレベリングと耐滑り性が両立できる。(d)成分の溶解性パラメーター(SP値)のより好ましい範囲は9.2~10.5であり、さらに好ましい範囲は9.5~10.2である。(d)表面調整剤の例としては、ポリフローWS(商品名、共栄社化学(株)製、SP値:10.2)、ポリフローNo.85(商品名、共栄社化学(株)製、SP値:9.5)、ポリフローNo.7(商品名、共栄社化学(株)製、SP値:9.3)、ポリフローNo.90(商品名、共栄社化学(株)製、SP値:9.6)、ポリフローNo.36(商品名、共栄社化学(株)製、SP値:9.5)等が挙げられる。
【0058】
(d)表面調整剤は1種類を使用しても、2種類以上を併用してもよく、その含有量はカチオン電着塗料組成物の総質量に対して0.1質量%~0.3質量%とされる。
【0059】
(d)表面調整剤の含有量が、0.1質量%未満の場合は、表面レベリング性への効果が不十分であり、0.3質量%を超える場合は耐滑り性が悪化する場合がある。(d)表面調整剤の含有量のより好ましい範囲は塗料組成物中で0.12~0.28質量%であり、さらに好ましい範囲は塗料組成物中で0.15~0.25質量%である。
【0060】
[溶解性パラメーター(SP値)の測定方法]
本発明において用いられる(d)表面調整剤の溶解性パラメーター(SP値)はいわゆる濁点滴定法に基づき以下のように測定する。
【0061】
まず、添加剤サンプル0.5gを透明なガラス製ビーカーに採取し、テトラヒドロフラン24.5gを加え、完全に溶解させた後、ノルマルヘキサンを撹拌下、滴下していき、白濁が始まる時のノルマルヘキサン質量w1(g)を測定する。
次に、ノルマルヘキサンの代わりに蒸留水を用いる以外は同様にして蒸留水質量w2(g)を測定する。w1およびw2の測定はいずれも20℃で行い、得られた質量w1およびw2(g)からそれぞれ溶媒モル数n1およびn2を求め、溶解性パラメーター(SP値)Dを下記の式(1)により算出する。
【0062】
D=((Vmix1)1/2×Dmix1+(Vmix2)1/2×Dmix2)/ ((Vmix1)1/2+(Vmix2)1/2).....(1)
上記式(1)中のVmix1およびVmix2は下式(2)および(3)により表される。
【0063】
Vmix1=Vm1×Vm0/ ((1-f1)×Vm1+f1×Vm0)....(2)
Vmix2=Vm2×Vm0/ ((1-f2)×Vm2+f2×Vm0)....(3)
上記式(1)中のDmix1(ノルマルヘキサンの場合)およびDmix2(蒸留水の場合)は下式(4)および(6)により表される。
【0064】
ノルマルヘキサンの場合:
Dmix1=f1×d1+(1-f1)×d0.....(4)
なお、式中(4)において、f1は以下の式(5)により表される。
【0065】
f1=n1×Vm1 / (n1×Vm1+n0×Vm0)......(5)
蒸留水の場合:
Dmix2=f2×d2+(1-f2)×d0.....(6)
式中(6)において、f2は以下の式(7)により表される。
【0066】
f2=n2×Vm2 / (n2×Vm2+n0×Vm0)......(7)
【0067】
また、上記式(2)~(7)に用いた符号の定義は以下の通りである。
【0068】
f:濁点における体積分率
(ノルマルヘキサンf1、蒸留水f2)
d:溶媒の溶解性パラメーター(SP値)
(テトラヒドロフランd0、ノルマルヘキサンd1、蒸留水d2)
n:溶媒のモル数
(テトラヒドロフランn0、ノルマルヘキサンn1、蒸留水n2)
Vm:溶媒のモル体積
(テトラヒドロフランVm0、ノルマルヘキサンVm1、蒸留水Vm2)
ここで各溶媒の溶解性パラメーター(SP値)(上記式(4)および(6)中のd0、d1、d2)は文献値を使用した。[参考文献:C.M.Hansen,K.Skaarup,J.Paint Technology,38,511(1967)]
【0069】
[静摩擦係数の測定方法]
本発明において、硬化塗膜の静摩擦係数の測定は、ASTM D1894(プラスチック・フィルムとシートの摩擦試験)に準じ、後述の機器を用いて測定する。
【0070】
さらに、本発明で用いられるカチオン電着塗料組成物は、クレーター防止用添加剤、熱硬化性反応希釈剤、顔料分散剤、光保護剤、例えば、UV吸収剤および可逆性ラジカル捕捉剤(HALS)、酸化防止剤、有機溶剤、湿潤剤、乳化剤、重合阻害剤、腐蝕防止剤、易流動性助剤、乾燥剤、殺生剤等を、有効量で含有させることができる。しかしながら、フッ素樹脂微粒子は、形成される電着塗膜とその上に形成される塗膜間の密着性を確保することができないため、含有させない。
【0071】
本発明で用いられるカチオン電着塗料組成物の製造において、通常、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、スーパーミル、連続分散機等を用いて、顔料を所望の大きさに粉砕し、必要に応じて、上述の顔料分散用樹脂や顔料分散剤とともに十分に湿潤、分散を混錬し、まず顔料ペーストを製造することが好ましい。
【0072】
さらに、(a)アミン変性エポキシ樹脂、(b)ブロックポリイソシアネート化合物、および必要な添加剤とともに混合する。得られた混合物を水性化する場合は、連続的な水の相ができるのに十分な水の量を配合し、攪拌機、乳化装置等を用い水溶液や水性エマルションを製造する。このように得られた水溶液または水性エマルションに対し、予め準備しておいた顔料または顔料ペーストを添加することにより、添加剤フリー電着塗料組成物が得られる。この他、(c)顔料または顔料ペーストを、(a)アミン変性エポキシ樹脂と、(b)ブロックポリイソシアネート化合物とを混合する時点で添加することも可能である。いずれの場合にも、顔料が混合物中に均一に分散されることが好ましい。
【0073】
続いて、上記の水溶液や水性エマルションに対して、(d)溶解性パラメーター(SP値)9.0以上の表面調整剤を添加、混合することにより、カチオン電着塗料組成物が得られる。
【0074】
本発明で用いられるカチオン電着塗料組成物は、必要により、水等の水性媒体を添加して、一般的に塗料固形分が5~35質量%、pHが5.0~6.5になるように調整して電着塗装を行う。塗装条件としては、例えば、塗料温度は25~35℃、電圧は40~400V、硬化塗膜の膜厚が10~40μmの範囲となるように塗装を行うのが好ましい。さらに、塗膜の硬化時の焼付温度は100~200℃の範囲が適している。
【0075】
本発明で用いられるカチオン電着塗装組成物は、求められる品質に応じて、所望の導電性基材(被塗物)、例えば、冷延鋼、熱延鋼、アルミニウム、マグネシウム、マグネシウム合金等の金属基材に対し、これらの基材を必要に応じて表面処理、例えば、リン酸亜鉛処理、リン酸鉄処理、クロメート処理、ジルコン系処理、有機皮膜処理等を施した後、慣用の電着塗装方法により使用される。
【0076】
本発明においては、特に、電着塗膜・焼付後の硬化した塗膜の表面の静摩擦係数が0.1以上とされることが必須である。電着塗膜・焼付後の硬化した塗膜の表面の静摩擦係数が0.1未満では、このような硬化塗膜に対してボルト締結をする際に滑りが生ずるため、耐滑り性が不十分であるといえる。すなわち堅固なボルト締結を作業性良く、かつ長期にわたり緩みが生じないように行うために、上述の摩擦係数が必要となる。電着塗膜・焼付後の硬化塗膜表面の静摩擦係数のより好ましい範囲は0.12~0.5であり、さらに好ましい範囲は0.14~0.3である。
【0077】
本発明により得られる硬化塗膜は、上述の金属基材の下塗り層として、自動車車体等の車両やその部品等に用いることにより、従来品と同様またはこれを上回る耐腐食性(防錆性)を与えることができる。本発明の硬化塗膜は、下塗り層とされ、必要に応じて、その塗膜上に、中塗り塗膜、および/または、ベースコート塗膜およびクリヤー塗膜等から成る上塗り塗膜等を形成して、マルチコート塗装系とすることもできる。
【0078】
本発明のカチオン電着塗膜は硬化後に優れた平滑性とともに、耐滑り性に優れ、電着塗膜上に設けられる他の塗膜に対する密着性も良好である。
【実施例】
【0079】
次に、本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例、参考例および比較例中、「部」および「%」に関するすべての記載は、別記しない限り、「質量部」または「質量%」を意味する。
【0080】
[カチオン電着塗料組成物の製造例]
製造例1 顔料分散用樹脂の製造
攪拌機、還流冷却器、内部温度計および不活性ガス供給管を備えた反応器中で、エポキシ当量が188であるビスフェノール-A-ジグリシジルエーテル2598部、ビスフェノールA787部、ドデシルフェノール603部およびブチルグリコール206部をトリフェニルホスフィン4部の存在下に、130℃で反応させてエポキシ当量856のエポキシ樹脂Aを製造した。次に、冷却しながら、エポキシ樹脂A3988部に対して、ブチルグリコール849部およびポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(DER732、商品名、Dow Chemical社製)1534部を加え、90℃で2-(2-アミノエトキシ)エタノール266部およびN,N-ジメチルアミノプロピルアミン212部を加えて反応させた。2時間後、粘度が一定になった後、ブチルグリコール1512部で希釈し、氷酢酸201部で中和し、更に脱イオン水1228部加えることにより固形分60%の顔料分散用樹脂を作成した。
【0081】
製造例2 ブロックポリイソシアネート化合物の製造
攪拌機、還流冷却器、内部温度調節計および不活性ガス供給管を備えている反応器に、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(Luprant、商品名、BASF社製)10552部を窒素雰囲気下にて、装入した。この反応器にジブチル錫ジラウレート18部を添加し、かつ、反応温度が60℃を超えないように、時折、冷却をしながら、少しずつブチルジグリコール9498部を滴下した。添加の終了後、反応混合物の温度をさらに60分、60℃に保ち、メチルイソブチルケトン7768部に溶解させた。その後、生成物に対して、その温度が100℃を上回らないように、所定の速度で、トリメチロールプロパン933部を添加した。添加終了後、さらに60分反応させ、遊離NCO基が検出されないことを確認した。このように得られたポリイソシアネート化合物の混合物を65℃に冷却し、さらにn-ブタノール965部と、メチルイソブチルケトン(希釈剤)267部とを同時に添加し、固形分70%のブロックポリイソシアネート化合物を得た。
【0082】
製造例3 ケチミンの製造
攪拌機、還流冷却器、内部温度計および不活性ガス供給管を備えた反応器中で、ジエチレントリアミン180部とメチルイソブチルケトン350部を混合後し、130~150℃で加熱還流を行って生成水を除去した。150℃で生成水の留出が停止した時点で冷却して、ケチミン467部を得た。
【0083】
製造例4 アミン変性エポキシ樹脂Aの製造
攪拌機、還流冷却器、内部温度計および不活性ガス供給管を備えた反応器中で、エポキシ当量188を有するビスフェノール-A-ジグリシジルエーテル6150部をビスフェノールA1400部、ドデシルフェノール335部、p-クレゾール470部およびキシレン441部と共に、窒素雰囲気下に125℃に加熱し、次いで10分間、冷却した。次に、この混合物を130℃に加熱し、さらにN,N’-ジメチルベンジルアミン23部を添加した。反応混合物を、エポキシ当量が880に達するまでこの温度に維持した。添加剤ポリエーテル(K-2000、商品名、BYK Chemie社製)90部を添加し、100℃に維持し、30分後にブチルアルコール211部およびイソブタノール1210部を添加した。この直後、製造例3で得られたケチミン467部とメチルエタノールアミン450部の混合物を添加し、反応器の温度を100℃に調節した。さらに、30分後に反応混合物の温度を105℃に上げた後、N,N’-ジメチルアミノプロピルアミン80部を添加した。アミン添加75分後、プロピレングリコール化合物(Plastilit3060、商品名、BASF社製)903部を添加し、プロピレングリコールフェニルエーテル725部で希釈して冷却し、固形分80%のアミン変性エポキシ樹脂Aを得た。
【0084】
製造例5 顔料ペーストの製造
製造例1で得られた顔料分散樹脂を用い、表1に示す質量割合で各配合成分を十分に混合した後、ボールミルにて、顔料の粒度が粒ゲージによる評価(JISK5600-2-5)で10μm以下となるように分散して、固形分58.1%の顔料ペーストを得た。粒ゲージとしては、(株)東洋精機製作所製グラインドメーターを使用した。
【0085】
【0086】
製造例6 エマルションの製造
製造例4で得られたアミン変性エポキシ樹脂A9949部と製造例2で得られたブロックポリイソシアネート化合物4872部とを混合し、攪拌下にて、88%乳酸424部と脱イオン水7061部との混合液を滴下した。次に、脱イオン水 12600部を30分かけて滴下し、固形分32%のエマルションを得た。
【0087】
製造例7 添加剤フリー電着塗料組成物の製造
脱イオン水453部を予め仕込んだ容器に、製造例6で得られたエマルション471部を添加した。続いて攪拌下で、製造例5で得られた顔料ペースト76部を添加し混合することにより、固形分20%の添加剤フリー電着塗料組成物を得た。
【0088】
[実施例1]
製造例7で得られた添加剤フリー電着塗料組成物に、ポリフローWS(商品名、共栄社化学(株)製)を、塗料組成物の総質量に対する含有量が0.15質量%となるように添加し混合することにより、カチオン電着塗料組成物を製造した。
【0089】
[実施例2~4、参考例、比較例1~4]
表2に示す表面調整剤を同表に示す含有量で使用した以外は、実施例1と同様の材料及び方法により、で、実施例2~4、参考例、比較例1~4のカチオン電着塗料組成物を製造した。各実施例および比較例における表面調整剤の含有量は、表面調整剤のカチオン電着塗料組成物総質量中における含有量(質量%)を示す。
【0090】
なお、本発明において総質量とは、水および溶媒等の揮発成分もすべて含んだ質量を意味する。
【0091】
(カチオン電着塗膜の測定および評価方法)
以下に記載の方法により、上記実施例、参考例及び比較例の静摩擦係数の測定および耐滑り性評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0092】
(1)静摩擦係数の測定方法
[評価用サンプルの作成]
リン酸亜鉛処理(PBL-3020、商品名、日本パーカーライジング(株)製)をした自動車用冷延鋼板に、上記実施例、参考例および比較例により得られたカチオン電着塗料組成物を塗料温度30℃、電圧200V、電着時間3分、の条件で電着塗装した。水洗後、170℃で20分間焼付けし乾燥膜厚15μmの塗膜を得た。
【0093】
[静摩擦係数の測定]
各実施例、参考例および比較例によるカチオン電着塗料組成物の硬化物表面の静摩擦係数を、表面性試験機(トライボギアタイプHEIDON14FW(商品名)、新東科学(株)製)を用いて測定した。上記の表面性試験機は、試験機先端に半径4mmのSUS304ステンレス鋼製ボールを有しており、このボールを各硬化塗膜の表面上を、荷重500g、40mm/分の速度で10mmスライドさせることにより硬化塗膜の静摩擦係数を測定した。
【0094】
(2)耐すべり性評価方法
図1および
図2を参照しつつ、耐滑り性評価に用いたサンプルおよび評価方法を説明する。
【0095】
[評価用サンプルの作成]
図1に示す耐滑り性評価用サンプル1は、
図2(a)に示す板体2と、
図2(b)に示す板体3とを主要部材としている。
図2(a)に示すように、板体2は基材2aとしての方形の鋼材(40mmx150mmx10mm)から構成され、その一端側に直径20mmφの穴2bを有している。基材2aは、PBL-3020(商品名、日本パーカーライジング(株)製)によりリン酸亜鉛処理による表面処理後、上記実施例
、参考例および比較例により得られたカチオン電着塗料組成物により塗料温度30℃、電圧200V、電着時間3分の条件で電着塗装されたものである。電着塗装後の基材2aは、水洗後、170℃で20分間焼付けにより、表面全体に乾燥膜厚15μmの塗膜2cを有する板体2とされている。同様に、
図2(b)に示す板体3は、基材3aとしての方形の鋼材3(40x150x10mm)から構成されており、その一端側に直径13mmφの穴3bを有している。基材3aは上記の基材2aと同一の材料および方法により、リン酸亜鉛処理、電着塗装、水洗および焼付に付されており、表面全体に乾燥膜厚15μmの塗膜3cを有している。
【0096】
評価用サンプル1は、
図1に示すように、1枚の板体2を、2枚の板体3が、各板体の穴2bおよび3bが全て重なるように挟んで配置することにより構成される。ここで、2枚の板体3は、穴3aから、その反対の端部(他端部)3dに至るまで、全体が相互に重なるように配置されている。他方、板体2は、穴2aを有さない端部(他端部)2dが、板体3の他端部3aとは重ならず、穴2a,3aに対して板体3とは反対方向に延在するように配置される。このように配置された板体2および板体3を、穴2bおよび3bに、M12ボルト4を貫通させてナット5を用いることにより、これら3枚の板体2および3を軸力20KNで固定した。これを評価用サンプル1とした。
【0097】
[耐滑り性評価]
評価用サンプル1における板体3の各他端部3dを、水平な台(図示せず)の上に密着させることにより固定した。この状態(初期状態)では、ボルト4が穴2bの上方に位置し、穴2bの下方は空洞とされている。
【0098】
板体2を、耐滑り性試験機(万能引張試験機、(株)島津製作所製)を用い、
図1に示す矢印D方向(鉛直方向上方)に10mm/minで引っ張ることにより荷重を与え、板体2および3の接合面の滑りが発生した時点、すなわちサンプル1におけるボルト4と穴2bの関係が初期状態から変異して、ボルト4を有さない穴2bの空洞が相対的に上方に移動し始めた点を滑りが発生した時点として測定した。上記試験機により表示される滑りが発生した時点の引張荷重を読み取り、以下の基準により評価を行った。
【0099】
OK: 引っ張り荷重3.0KN以上の場合にのみ滑りが発生
NG: 引っ張り荷重3.0KN未満で滑りが発生
【0100】
【0101】
表2中の表面調整剤は以下のとおりである。
【0102】
表面調整剤A:ポリフローWS(商品名、共栄社化学(株)製)
表面調整剤B:ポリフローNo.85(商品名、共栄社化学(株)製)表面調整剤C:ポリフローNo.7(商品名、共栄社化学(株)製)
表面調整剤D:フローレンAC326F(商品名、共栄社化学(株)製)
【0103】
本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【0104】
例えば、本発明で使用するカチオン電着塗料組成物について、上記の説明では(a)アミン変性エポキシ樹脂を基体樹脂として用いることについて述べたが、(a)アミン変性エポキシ樹脂以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、他の公知の樹脂を併用することも可能である。
【0105】
更に、上記の実施の形態では、硬化塗膜を有する部材が優れた耐滑り性を有することをボルト締結の例を用いて説明したが、本発明の塗膜形成方法によれば、ボルト締結に限らず、硬化塗膜の表面同士が接触状態を維持すべき他の締結または部材の組み立てにおいても不要な位置の変位を生じない利点を有するため、種々の組み立てに有効に使用される。
【符号の説明】
【0106】
1 耐滑り性評価用サンプル
2 板体
3 板体
4 ボルト
5 ナット