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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20220530BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20220530BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
C08L67/00 ZAB
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019215313
(22)【出願日】2019-11-28
(65)【公開番号】P2021031668
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2019-11-28
(31)【優先権主張番号】108128832
(32)【優先日】2019-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】501296612
【氏名又は名称】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】NAN YA PLASTICS CORPORATION
【住所又は居所原語表記】NO.201,TUNG HWA N.RD.,TAIPEI,TAIWAN
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(72)【発明者】
【氏名】楊 文政
(72)【発明者】
【氏名】廖 徳超
(72)【発明者】
【氏名】蕭 嘉▲彦▼
(72)【発明者】
【氏名】袁 敬堯
(72)【発明者】
【氏名】謝 育淇
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-256328(JP,A)
【文献】特公平02-048016(JP,B2)
【文献】特公平06-039521(JP,B2)
【文献】特公昭56-015730(JP,B1)
【文献】国際公開第2002/022707(WO,A1)
【文献】特開2007-002008(JP,A)
【文献】特開2012-041463(JP,A)
【文献】特開2012-126763(JP,A)
【文献】特開2006-282801(JP,A)
【文献】特開2000-169623(JP,A)
【文献】特開2000-302849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02;5/12-5/22
C08G 63/00-64/42
B29B 17/00-17/04
C08J 11/00-11/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生プラスチックを再生利用するためのポリエステルフィルムの製造方法であって、
前記ポリエステルフィルムの製造方法は、
物理的手段で一部分の前記再生プラスチックを再製することにより物理的再生ポリエステル樹脂を取得するステップと、
化学的手段で他部分の前記再生プラスチックを再製することにより化学的再生ポリエステル樹脂を取得するステップと、
前記物理的再生ポリエステル樹脂及び前記化学的再生ポリエステル樹脂を含んだポリエステルの組成物を調製するステップと、
前記ポリエステルの組成物を使用して前記ポリエステルフィルムを成形するステップと、を含み、
前記ポリエステルの組成物の総重量を100wt%とした場合、前記化学的再生ポリエステル樹脂の重量比率が5wt%以上であり、
前記ポリエステルフィルムの総重量を100wt%とした場合、前記物理的再生ポリエステル樹脂と前記化学的再生ポリエステル樹脂の総重量は10wt%~100wt%であり、
化学的手段で他部分の前記再生プラスチックを再製する前記ステップはさらに、
前記再生プラスチックを解重合することで原料混合物を取得するステップと、
前記原料混合物を再重合することで前記化学的再生ポリエステル樹脂を製造するステップと、を含み、
前記原料混合物を再重合する前記ステップはさらに、前記原料混合物に静電密着剤を添加するステップを含み、前記静電密着剤はアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を含んだ複合物であり、
物理的手段で一部分の前記再生プラスチックを再製する前記ステップにおいて、顆粒寸法が2ミクロンより大きい滑剤を前記再生プラスチックに添加する、ことを特徴とする、ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記ポリエステルの組成物の総重量を100wt%とした場合、前記物理的再生ポリエステル樹脂の含有量は10wt%~90wt%であり、前記化学的再生ポリエステル樹脂の含有量は10wt%~90wt%である、請求項1に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記原料混合物を再重合する前記ステップはさらに、滑剤を前記原料混合物に添加した後、前記原料混合物を再重合するステップを含み、前記滑剤は、シリカ、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、シリカゲル、アクリル又はそれらの組成物であり、前記ポリエステルフィルムの透明度が85%以上になるように、前記ポリエステルの組成物には更に前記滑剤が0.01wt%~1wt%含まれ、前記滑剤の顆粒寸法は2ミクロンより小さい、請求項1に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ポリエステルフィルムのヘイズは5%以下である、請求項3に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記原料混合物を再重合する前記ステップはさらに、前記原料混合物に顔料を添加して、前記原料混合物を再重合するステップを含み、前記ポリエステルの組成物には更に前記顔料が10ppm~10wt%含まれる、請求項1に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記原料混合物を再重合する前記ステップはさらに、前記原料混合物に白色の添加物を添加して、前記原料混合物を再重合するステップを含み、前記ポリエステルの組成物には更に前記白色の添加物が5wt%~40wt%含まれる、請求項1に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記白色の添加物としては、二酸化チタン、硫酸バリウム及び炭酸カルシウムから選択される少なくとも1種である、請求項6に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記白色の添加物は二酸化チタン、硫酸バリウム及び炭酸カルシウムを含み、二酸化チタンは前記白色の添加物の総重量の0.01wt%~80wt%を占め、硫酸バリウムは前記白色の添加物の総重量の0.01wt%~80wt%を占め、炭酸カルシウムは前記白色の添加物の総重量の0.0wt%~80wt%を占める、請求項7に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記原料混合物を再重合する前記ステップはさらに、艶消し添加剤を前記原料混合物に添加して、前記原料混合物を再重合するステップを含み、前記艶消し添加剤は、シリカ、シリカゲル、アクリル又はそれらの組成物であり、前記ポリエステルフィルムのヘイズが0.1%~90%になるように、前記ポリエステルの組成物には前記艶消し添加剤が500ppm~20wt%含まれる、請求項1に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記原料混合物を再重合する前記ステップはさらに、分解性材料を前記原料混合物に添加するステップを含み、前記ポリエステルの組成物には前記分解性材料が5wt%~90wt%含まれる、請求項1に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項11】
物理的手段で一部分の前記再生プラスチックを再製する前記ステップにおいて、有機添加物を前記再生プラスチックに添加し、前記有機添加物は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4-メチルペンテン又はそれらの組成物である、請求項1に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステルフィルム及びその製造方法に関し、特に物理的再生ポリエステル樹脂と化学的再生ポリエステル樹脂を同時に使用するポリエステルフィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックの使用量が大幅に増加し、それに伴って大量のプラスチック廃棄物が発生している。プラスチックは分解が困難である。そのため、プラスチックの再生及び再生後の処理方法は重要な課題である。
【0003】
再生プラスチックでは、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate、PET)の量が最も多い。PET再生プラスチックの含有量は再生プラスチックの総量の52.4%を占める。そのため、以下にPET再生プラスチックを説明する。このような大量のPET再生プラスチックに対し、当業者はPET再生プラスチックの処理方法を積極的に考案しなくてはならない。
【0004】
既存の技術では、PET再生方法としては、物理的(機械的)方法によりPETを再生する方法が最もよく見られる。前記物理的方法は、洗浄済みのPET回収プラスチックをフレークに切断し、高温で溶融し、押出機によりPET再生粒(r-PETとも呼ばれる)を押出することによって製造する。
【0005】
環境保護の需要により、また、PET製品に対しできる限り多くの再生PET粒を再生するため、高品質の再生PET粒を大量に使用する必要がある。業界において、今は物理的手段で再生する方法を使用してPETを再生することがよく見られるが、このように製造される再生粒には、製造過程で滑剤、静電密着剤等の機能的な成分を添加することができない。そのため、別途に新しい非再生PET粒を使用して、別途に滑剤、静電密着剤等の機能的な成分を添加する必要がある。
【0006】
しかし、これでは、PET製品におけるPET再生粒の使用比率が低下してしまう。つまり、既存の技術ではPET再生粒のみを使用して新たなPET製品を製造することができない。PET再生粒の利用比率が低いと、環境保全の基準に達成できず、環境保全の認証を取得できない恐れがある。そして、PET製品の生産過程で新たに使用されるPETバージンペレットでは、その後、また処理を要するPET回収プラスチックになるため、どうしても再生又は再利用の課題に面することになる。
【発明の概要】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、既存技術の不足を改善するため、ポリエステルフィルム及びその製造方法を提供することである。
【0008】
前述の課題を解決するために、本発明による一つの態様は、再生プラスチックを再生利用するためのポリエステルフィルムの製造方法を提供する。
前記ポリエステルフィルムの製造方法は、物理的手段で一部分の前記再生プラスチックを再製することにより物理的再生ポリエステル樹脂を取得するステップと、化学的手段で他部分の前記再生プラスチックを再製することにより化学的再生ポリエステル樹脂を取得するステップと、前記物理的再生ポリエステル樹脂及び前記化学的再生ポリエステル樹脂を含んだポリエステルの組成物を調製するステップと、前記ポリエステルの組成物を使用して前記ポリエステルフィルムを成形するステップと、を含む。
前記ポリエステルの組成物の総重量を100wt%(重量パーセント濃度)とした場合、前記化学的再生ポリエステル樹脂の重量比率が5wt%以上であり、前記ポリエステルフィルムの総重量を100wt%とした場合、前記物理的再生ポリエステル樹脂と前記化学的再生ポリエステル樹脂の総重量は10wt%~100wt%である。
【0009】
本発明による一実施形態において、前記ポリエステルの組成物の総重量を100wt%とした場合、前記物理的再生ポリエステル樹脂の含有量は10wt%~90wt%であり、前記化学的再生ポリエステル樹脂の含有量は10wt%~90wt%である。
【0010】
本発明による一実施形態において、化学的手段で他部分の前記再生プラスチックを再製するステップはさらに、再生プラスチックを解重合することで原料混合物を取得するステップと、原料混合物を再重合することで前記化学的再生ポリエステル樹脂を製造するステップと、を含む。
【0011】
本発明による一実施形態において、原料混合物を再重合するステップはさらに、原料混合物に静電密着剤を添加するステップを含み、前記静電密着剤はアルカリ金属化学物又はアルカリ土類金属化学物を含んだ複合物である。
【0012】
本発明による一実施形態において、原料混合物を再重合するステップはさらに、滑剤を原料混合物に添加した後、原料混合物を再重合するステップを含み、滑剤は、シリカ、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、シリカゲル、アクリル又はそれらの組成物である。ポリエステルフィルムの透明度が85%以上になるように、ポリエステルの組成物には更に前記滑剤が0.01wt%~1wt%含まれる。前記滑剤の顆粒寸法は2ミクロンより小さい。
【0013】
本発明による一実施形態において、ポリエステルフィルムのヘイズは5%以下である。
【0014】
本発明による一実施形態において、原料混合物を再重合するステップはさらに、原料混合物に顔料を添加して、原料混合物を再重合するステップを含み、ポリエステルの組成物には更に顔料が10ppm~10wt%含まれる。
【0015】
本発明による一実施形態において、原料混合物を再重合するステップはさらに、原料混合物に白色の添加物を添加して、原料混合物を再重合するステップを含み、ポリエステルの組成物には更に白色の添加物が5wt%~40wt%含まれる。
【0016】
本発明による一実施形態において、白色の添加物としては、二酸化チタン、硫酸バリウム及び炭酸カルシウムから選択される少なくとも1種である。
【0017】
本発明による一実施形態において、白色の添加物は二酸化チタン、硫酸バリウム及び炭酸カルシウムを含み、二酸化チタンは白色の添加物の総重量の0.01wt%~80wt%を占め、硫酸バリウムは白色の添加物の総重量の0.01wt%~80wt%を占め、炭酸カルシウムは白色の添加物の総重量の0.0wt%~80wt%を占める。
【0018】
本発明による一実施形態において、原料混合物を再重合するステップはさらに、艶消し添加剤を前記原料混合物に添加して、原料混合物を再重合するステップを含む。艶消し添加剤は、シリカ、シリカゲル、アクリル又はそれらの組成物である。ポリエステルフィルムのヘイズが0.1%~90%になるように、ポリエステルの組成物には艶消し添加剤が500ppm~20wt%含まれる 。
【0019】
本発明による一実施形態において、原料混合物を再重合するステップはさらに、分解性材料を原料混合物に添加するステップを含み、ポリエステルの組成物には分解性材料が5wt%~90wt%含まれる。
【0020】
本発明による一実施形態において、物理的手段で一部分の再生プラスチックを再製するステップにおいて、顆粒寸法が2ミクロンより大きい滑剤を再生プラスチックに添加する。
【0021】
本発明による一実施形態において、物理的手段で一部分の再生プラスチックを再製するステップにおいて、有機添加物を再生プラスチックに添加し、有機添加物は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4-メチルペンテン又はそれらの組成物である。
【0022】
前述の課題を解決するために、本発明による別の手段は、前記のポリエステルフィルムの製造方法により調製されるポリエステルフィルムを提供する。即ち、ポリエステルフィルムは、再生ポリエステル樹脂を10wt%~100wt%含有し、再生ポリエステル樹脂は物理的再生ポリエステル樹脂と化学的再生ポリエステル樹脂とを含む。再生ポリエステルの総重量を100wt%とした場合、化学的再生ポリエステル樹脂の重量比率は5wt%以上である。
【0023】
本発明の有益な効果は以下の通りである。即ち、本発明に係るポリエステルフィルム及びその製造方法は、"物理的再生ポリエステル樹脂と化学的再生ポリエステル樹脂を含んだポリエステルの組成物を調製する"及び"化学的再生ポリエステル樹脂の重量比率は5wt%以上である"といった特徴により、ポリエステル樹脂を物理的に再生する従来の方法による再生の比率が低い問題を改善することができる。また、需要や用途に応じて、異なる性質の化学的再生ポリエステル樹脂を選用し、さらに物理的再生ポリエステル樹脂と化学的再生ポリエステル樹脂の使用量を調整することにより、異なる性質のポリエステルフィルムを調製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明に係る"ポリエステルフィルム及びその製造方法"の実施形態について、所定の具体的な実施形態を通して説明し、業者にとっては本明細書で開示された内容を通じて本発明の優れた点や効果を理解することができる。本発明は他の具体的な実施形態を通して実施され又は応用されていてもよく、本明細書における詳細な内容については、他の観点や応用に基づいて、本発明の技術的精神を逸脱することなく各種の変形や変更を行ってもよい。
【0025】
理解すべきことは、本文で使用された術語の"又は"は、場合によって、関連する列挙項目の中のいずれか一つ又は複数の組み合わせを含む可能性がある。
【0026】
再生プラスチックを大量に処理するために、本発明はポリエステルフィルム及びその製造方法を提供する。前記ポリエステルフィルムは再生ポリエステル樹脂によって製造され、再生ポリエステル樹脂の使用比率が高い。本発明に係るポリエステルフィルム及びその製造方法においては、物理的手段により再製される物理的再生ポリエステル樹脂及び化学的手段により再製される化学的再生ポリエステル樹脂が同時に使用される。さらに言えば、本発明に係るポリエステルフィルム及びその製造方法によれば、ポリエステルフィルムを再生ポリエステル樹脂のみで調製することができ、別途にポリエステルのバージンペレット(Polyester virgin resin)を添加する必要がない。
【0027】
まず、再利用可能な再生プラスチックを取得するために、各種の廃棄プラスチックを収集した後に、種類、色及び用途に分けて分類し、圧縮して梱包した後に処理場に搬送する。本実施形態において、再生プラスチックの材料はPETであるが、これに制限されない。
【0028】
次に、再生プラスチックにおけるボトル蓋、包装フィルムや粘着剤を除去する。再生プラスチックから他の非再生プラスチックの部品を分離させた後、再生プラスチックを破砕する。浮選法で異なる材質のボトルの飲み口、パッドをボトル胴体から分離させる。ボトル胴体を乾燥させた後、処理後のボトル破片を取得できる。他の実施形態においては、処理後のボトル破片を購入してもよい。
【0029】
その後、物理的再生ポリエステル樹脂を取得するために一部分のボトル破片に対し物理的手段で再生する。そして、化学的再生ポリエステル樹脂を取得するために他部分のボトル破片に対し化学的手段で再生する。
【0030】
[物理的再製]
物理的手段で再生する方法を以下に説明する。まず、ボトル破片を溶融するのに必要な時間や消費エネルギを減らすために、破片を切断する。次に、切断後のボトル破片を溶融して混合する。そして、単軸スクリュー又は二軸スクリュー押出機を使用して造粒し、物理的再生ポリエステル樹脂を製造する。つまり、成形後のボトル破片は切断、溶融及び押出のステップを経てシェーピングされ、元来のボトル破片におけるポリエステル分子は並び替えられる。しかし、物理的手段で再生する過程で、ポリエステル分子はポリエステル分子は再配列されているだけで、再編成されていない。元来に再生プラスチックに存在している成分(例えば、ポリエステルを合成するときに使用される金属触媒、滑剤、酸化防止剤又は添加剤)は依然として物理的再生ポリエステル樹脂に存在する。
【0031】
なお、物理的手段で再生する過程では、有機添加物を添加してもよい。製造工程では、PETポリエステル樹脂と有機添加物と共に相容しない膜内穴が形成される。このように製造されるPET膜は光学的に白色の艶消し状態を呈し、ポリエステルフィルムにおける密度は低下する。この有機添加物は、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ4-メチルペンテン(TPX)又はそれらの組成物であるが、これに制限されない。
【0032】
また、物理的手段で再生する過程では、滑剤を添加してもよく、滑剤は、例えばシリカ、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、シリカゲル、アクリル又はそれらの組成物であるが、これに制限されない。滑剤の顆粒寸法は2ミクロンである。
【0033】
[化学的再製]
化学的手段で再生する方法を以下に説明する。まず、ボトル破片を解重合するのに必要な時間や消費エネルギを減らすために、ボトル破片を切断する。次に、ボトル破片を化学解重合液に投入してポリエステルの分子鎖を破壊し、ポリエステル分子を解重合させ、分子鎖の短いポリエステル単量体と低重合体を取得する。本実施形態において、化学解重合液は、ギ酸、メタノール、酢酸、エタノール、グリコール、プロピオン酸、マロン酸、アセトン、ブタノン、トルエン又はそれらの組成物を含む溶液であってもよいが、これに制限されない。好ましい実施形態では、化学解重合溶液はエチレングリコールである。アルコール分解工程は一般に加圧高温プロセスによって行われ、アルコール分解が完了すると、予備重合セクションに入ると同時に真空が蒸留され、過剰なEGと不純物が除去される。
【0034】
次に、原料混合物における単量体及び/又は低重合体の含有量を高めるために、原料混合物に対し分離精製のステップを行う。さらに、所定の反応条件において、原料混合物における単量体及び/又は低重合体を再重合させる。これで化学的再生ポリエステル樹脂を製造する。即ち、化学的手段で再生する過程において、ポリエステル分子は小単位の分子に解重合され、更に組み替えられて新たなポリエステル分子に重合される。
【0035】
他の実施形態において、化学的再生ポリエステル樹脂の調製方法は、以上に制限されない。加水分解法又は超臨界流体法を使用して製造してもよい。加水分解法はボトル破片がアルカリ溶液に投入された状態で行われる。加水分解法は、温度と圧力を一定の値に調節し、さらにマイクロ波放射による照射で、ポリエステル分子を単量体に開裂させる方法である。超臨界流体法は超臨界流体状態のメタノールでポリエステルを少量の単量体と低重合体に分解させる方法である。単量体と低重合体の歩留まりは反応温度と反応時間による影響を受ける。
【0036】
そして、再重合の過程においては、化学的再生ポリエステル樹脂の特性(例えば滑り性、靜電密著性、ヘイズ、色、分解性及び/又は強度)を調整するため、別途に原料混合物に添加物を適量に添加してもよい。PETからなるフィルムは通常、PETを口金より溶融押出し、押出した溶融物を回転冷却ドラム表面で急冷して未延伸フィルムとする。この場合、フィルムの表面欠点を無くし厚みの均一性を高めるためには、PET溶融物と回転冷却ドラムの表面との密着性を高める必要がある。この課題を解決するためには、押出口金から溶融押出したシート状物を回転冷却ドラム面で急冷する際に、該シート状物とドラム表面との密着性を高めることが必要となる。該シートを冷却体表面に密着させながら急冷する方法(静電密着キャスト法)が有効である。静電密着キャスト法を効果的に行うには、とりもなおさず、シート状物とドラム表面との静電密着性を高めることが必要であり、そのためには、シート状物表面にいかに多くの電荷量を析出させるかが重要である。電荷量を多くするためには、ポリエステルを改質してその比抵抗を低くすることが有効であり、多大の努力が払われている。例えば、PET製造時に、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を含んだ複合物であった静電密着剤を特定範囲の値添加する必要がある。
【0037】
例えば、再重合の過程においては、原料混合物に滑剤を添加し、化学的再生ポリエステル樹脂の滑り性と光学的性質を向上させることができる。それにより所定の透明度に達する化学的再生ポリエステル樹脂を製造することができる。滑剤は、シリカ、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、シリカゲル、アクリル又はそれらの組成物であってもよいが、これに制限されない。本実施形態において、滑剤は球形のため、高い透光性を有する。また、滑剤の顆粒寸法は2ミクロンより小さい。
【0038】
再重合の過程において、原料混合物に艶消し添加剤を添加し、化学的再生ポリエステル樹脂のヘイズを調整することにより、所定のヘイズに達する化学的再生ポリエステル樹脂を製造できる。艶消し添加剤は、シリカ、有機物、シリカゲル、アクリル又はそれらの組成物であってもよいが、これに制限されない。好ましい実施形態において、艶消し添加剤は球形となるため、光線の散乱を増やすことができる。
【0039】
再重合の過程において、原料混合物に顔料を添加し、化学的再生ポリエステル樹脂の色彩を調整することにより、各種のポリエステルの製品の需要に対応できる。例えば、黒色の顔料を添加すれば、黒色の化学的再生ポリエステル樹脂を製造することができる。なお、顔料の他に、もともと色がついている添加物を添加してもよい。例えば、白色の添加物を添加することにより白色の化学的再生ポリエステル樹脂を製造することができる。
【0040】
白色の添加物は、白色の無機物、例えば二酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム又はそれらの組成物であってもよいが、これに制限されない。白色の添加物の添加により、化学的再生ポリエステル樹脂の色を調整することができるが、ポリエステルフィルムの物理的性質に影響を与える可能性もある。例えば、二酸化チタンの添加量の多少により、ポリエステルフィルムのヘイズに影響が与えられ、硫酸バリウムや炭酸カルシウムの添加量の多少により、ポリエステルフィルムの表面の光沢度に影響が与えられる。好ましい実施形態において、白色の添加物は、二酸化チタン、硫酸バリウムと炭酸カルシウムを同時に含み、二酸化チタンは白色の添加物の総重量の0.01wt%~80wt%を占め、硫酸バリウムは白色の添加物の総重量の0.01wt%~80wt%を占め、炭酸カルシウムは白色の添加物の総重量の0.01wt%~80wt%を占める。
【0041】
再重合の過程においては、原料混合物に分解性材料を添加することにより、後処理が必要なプラスチックの量を減らすことができる。分解性材料は、生体高分子、天然材料又はそれらの混合物である。具体的には、生体高分子は、澱粉、セルロース、キチン、ポリ乳酸(polylactic acid、PLA)、ポリグリコール酸(polyglycolic acid、PGA)、ポリヒドロキシアルカノエート(polyhydroxyalkanoate、PHA)、ポリヒドロキシブチレート(polyhydroxybutyrate、PHB)、ポリヒドロキシバレラート(polyhydroxyvalerate、PHV)、ポリヒドロキシカプロエート(polyhydroxycaproate、PHC)、ポリヒドロキシヘプタノエート(polyhydroxyheptanoate、PHH)、ポリヒドロキシブチレート・ポリヒドロキシバレラート共重合体(poly(3-hydroxybutyrate-co-3-hydroxyvalerate、PHBV)、ポリカプロラクトン(polycaprolactone、PCL)、ポリブチレンサクシネート(polybutylenesuccinate、PBS)、ポリブチレンサクシネート・アジペート共重合体(polybutylene succinate/adipate、PBSA)、ポリブチレンサクシネート・テレフタレート共重合体(polybutylene succinate/terephthalate、PBST)、ポリブチレンサクシネート・ブチレンフマレート共重合体(polybutylene succinate/butylene fumarate、PBAT)、ポリエステルカーボネート(polyestercarbonate、PEC)、ポリエチレンサクシネート(polyethylene succinate、PES)、ポリブチレンアジペート・テレフタレート共重合体(polybutylene adipate/terephthalate、PBAT)、ポリテトラメチレンアジペート・テレフタレート共重合体(polytetramethylene adipate/terephthalate、PTMAT)、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol、PVA)又はそれらの混合物であってもよいが、これに制限されない。天然材料としては、天然ゴム、リグニン、コーヒー、茶、ココア、シトロネラ、籾、花、ウコン、木の葉、木材、サトウキビ、ヤシガラ、トウモロコシ、種子、サツマイモ、ザボンの皮又はその混合物であってもよいが、これに制限されない。
【0042】
従って、前述の各種添加物により、異なる特性を有する多種の化学的再生ポリエステル樹脂を製造することができる。上述した物理的再製と化学的再製の二種類のステップにより、性質の異なる物理的再生ポリエステル樹脂と化学的再生ポリエステル樹脂を取得することができる。これにより、所定の種類の化学的再生ポリエステル樹脂を選用し、物理的再生ポリエステル樹脂と化学的再生ポリエステル樹脂の使用量の比率を調整すれば、後で各種のポリエステル製品、例えばポリエステルフィルムを製造することに寄与する。
【0043】
物理的再製及び化学的再製のステップを経た後に、物理的再生ポリエステル樹脂と化学的再生ポリエステル樹脂を使用してポリエステルの組成物を調製する。ポリエステルの組成物は物理的再生ポリエステル樹脂と化学的再生ポリエステル樹脂とを含む。物理的再生ポリエステル樹脂及び化学的再生ポリエステル樹脂を所定の成分比率で調整することにより、各種のポリエステルの製品を制作することができる。ポリエステルの製品の外観色相を維持するために、再生ポリエステル樹脂の総重量を100wt%とした場合、化学的再生ポリエステル樹脂の重量比率は5wt%以上である。ポリエステルフィルムの需要や用途に応じて、異なる特性を有する化学的再生ポリエステル樹脂を選用することができる。
【0044】
例えば、透明ポリエステルフィルムを調製する場合、所定の化学的又は物理的再生ポリエステル樹脂をマトリックスとして使用し、ポリエステルの組成物(物理的再生ポリエステル樹脂及び化学的再生ポリエステル樹脂を含む)に滑剤を0.01wt%~1wt%含ませる。即ち、滑剤を化学的再生ポリエステル樹脂に混入した後に、化学的再生ポリエステル樹脂及び物理的再生ポリエステル樹脂の使用量を調節し、ポリエステルの組成物に滑剤を0.01wt%~1wt%含ませる。本実施形態において製造される透明ポリエステルフィルムの透明度は85%以上である。更に滑剤の添加成分と含有量を調節すれば、ポリエステルフィルムのヘイズを5%以下にすることができる。
【0045】
複数色のポリエステルフィルムを調製する場合、所定の化学的再生又は物理的再生ポリエステル樹脂をマトリックスとして使用し、ポリエステルの組成物に顔料を10ppm~10wt%含ませる。例えば、黒色のポリエステルフィルムを調製する場合、ポリエステルの組成物には黒色の顔料を10ppm~10wt%含ませる。なお、複数色のポリエステルフィルムを調製する場合には、顔料の他に、ポリエステルの組成物に他の有色の添加物を添加してもよい。例えば、白色のポリエステルフィルムを調製する場合、ポリエステルの組成物には白色の添加物を5wt%~40wt%添加できる。前述のように、ポリエステルフィルムのヘイズと表面の光沢度も白色の添加物の成分の含有量比率に影響される。好ましい実施形態において、白色の添加物の総重量は100wt%であり、二酸化チタンの含有量は0.01wt%~80wt%であり、硫酸バリウムの含有量は0.01wt%~80wt%であり、炭酸カルシウムの含有量は0.01wt%~80wt%である。
【0046】
艶消し面を有するポリエステルフィルムを調製する場合、所定の化学的又は物理的再生ポリエステル樹脂をマトリックスとして使用し、ポリエステルの組成物に艶消し添加剤を500ppm~20wt%含ませる。艶消し添加剤は顆粒として存在してもよい。これによりヘイズが0.1%~90%の曇り面を有するポリエステルフィルムを製造することができる。
【0047】
分解可能なポリエステルフィルムを調製する場合、所定の化学的又は物理的再生ポリエステル樹脂をマトリックスとして使用し、ポリエステルの組成物に分解性材料を5wt%~90wt%含ませる。これによりポリエステルフィルムの分解特性を向上させることができる。
【0048】
[実施形態の有益な効果]
本発明による一つの有益な効果は以下の通りである。即ち、本発明に係るポリエステルフィルム及びその製造方法は、"物理的再生ポリエステル樹脂と化学的再生ポリエステル樹脂を含んだポリエステルの組成物を調製する"及び"化学的再生ポリエステル樹脂の重量比率は5wt%以上である"といった技術的特徴により、再生ポリエステル樹脂で製造される従来のポリエステルの製品の色相不良の問題を改善することができる。また、様々な需要や用途に応じて、異なる性質の化学的再生ポリエステル樹脂を選用し、さらに物理的再生ポリエステル樹脂と化学的再生ポリエステル樹脂の使用量を調整すれば、異なる性質のポリエステルフィルムを製造することができる。
【0049】
以上の開示内容は本発明を実現できる好ましい実施形態に過ぎず、本発明の特許請求の範囲を制限するためのものではなく、従って、本発明の明細書及び図面内容からの等価的な技術変形は、全て本発明の特許請求の範囲内に含まれる。