(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】テクネチウム-99Mのサイクロトロン生産のためのプロセス、システム、及び装置
(51)【国際特許分類】
C22B 34/34 20060101AFI20220530BHJP
C22B 3/24 20060101ALI20220530BHJP
C22B 61/00 20060101ALI20220530BHJP
B22F 9/26 20060101ALI20220530BHJP
C25D 13/00 20060101ALI20220530BHJP
G21H 5/02 20060101ALI20220530BHJP
G21G 4/08 20060101ALI20220530BHJP
G21K 1/00 20060101ALI20220530BHJP
G21K 5/08 20060101ALI20220530BHJP
【FI】
C22B34/34
C22B3/24 101
C22B61/00
B22F9/26 Z
C25D13/00 Z
G21H5/02 C
G21G4/08 T
G21K1/00 R
G21K5/08 R
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019228535
(22)【出願日】2019-12-18
(62)【分割の表示】P 2017244111の分割
【原出願日】2013-04-25
【審査請求日】2020-01-08
(32)【優先日】2012-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2012-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521282974
【氏名又は名称】トライアンフ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】シャファー, ポール
(72)【発明者】
【氏名】ベナール, フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】バックリー, ケネス, アール.
(72)【発明者】
【氏名】ヘーンメイヤー, ヴィクトアール
(72)【発明者】
【氏名】マニュエラ, コーネリア ヘーレ
(72)【発明者】
【氏名】クルグ, ジュリアス アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】コバックス, マイケル エス.
(72)【発明者】
【氏名】モーリー, トーマス ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ラス, トーマス ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ヴァリアント, ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ツァイスラー, ステファン ケー.
(72)【発明者】
【氏名】ドッド, モーリス ジー.
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/039038(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 34/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径10ミクロン未満のモリブデン-100粒子で被覆され焼結により硬化した遷移金属標的板を用意するステップと、
無酸素環境において、硬化した前記モリブデン-100被覆の遷移金属標的板に、16MeV~30MeV及び80μA~300μAの陽子を30分~8時間照射するステップと、
照射された前記遷移金属標的板を回収し、照射された前記遷移金属標的板をテクネチウム-99m回収モジュールに搬送するステップと、
モリブデン原子及びテクネチウムイオンを、照射された前記遷移金属標的板からH
2O
2溶液により溶解させて、酸化物溶液を形成し、
前記酸化物溶液のpHを13~15まで上昇させて、K
2[MoO
4]イオン及びK[TcO
4]イオン、或いは代替としてNa
2[MoO
4]イオン及びNa[TcO
4]イオンを前記酸化物溶液中に形成するステップと、
pH調整された前記酸化物溶液を樹脂カラムに流して、K[TcO
4]イオン、或いは代替としてNa[TcO
4]イオンを前記樹脂カラムに固定化し、K
2[MoO
4]イオン又はNa
2[MoO
4]イオンを前記樹脂カラムから溶出させるステップと、
結合されたK[TcO
4]イオン又はNa[TcO
4]イオンを前記樹脂カラムから溶出させるステップと、
溶出された前記K[TcO
4]イオン又はNa[TcO
4]イオンをアルミナカラムに流して、K[TcO
4]イオン又はNa[TcO
4]イオンを前記アルミナカラムに固定化するステップと、
固定化された前記K[TcO
4]イオン又はNa[TcO
4]イオンを水で洗浄するステップと、
固定化された前記K[TcO
4]イオン又はNa[TcO
4]イオンを生理食塩水で溶出させるステップと、
溶出された前記K[TcO
4]又はNa[TcO
4]イオンを回収するステップとを含む、モリブデン-100金属粉末からテクネチウム-99mを生産するためのプロセス。
【請求項2】
Mo
2(OH)(OOH)、H
2Mo
2O
3(O
2)
4、H
2MoO
2(O
2)およびこれらの組合せに例示される1つ又は複数の酸化されたモリブデン種が生成される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記樹脂カラムが固相抽出カラムである、請求項1又は2に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、テクネチウム-99mの生産のためのプロセス、システム、及び装置に関する。より詳細には、本開示は、サイクロトロン等の加速器を用いてモリブデン100からテクネチウム-99mを生産することに関する。
【背景技術】
【0002】
テクネチウム-99m(以下、Tc-99mと呼ぶ)は、核医学診断法において最も広く使用されている放射性トレーサの1つである。Tc-9 9mは、容易に検出可能な140keVのガンマ線を放出し、半減期が約6時間しかないため、患者の放射能被爆が制限される。核医学法の種類に応じて、Tc-99mは、放射線機器によりその後にイメージングされる必要な位置へTc-99mを運ぶ、選択された薬剤に結合される。一般的な核医学診断法としては、Tc-99mを、肝臓、脾臓、及び骨髄のイメージングのために硫黄コロイドに標識を付けること、肺スキャンのために粗大凝集アルブミンに標識を付けること、骨スキャンのためにホスホン酸塩に標識を付けることこと、肝胆道系のイメージングのためにイミノ2酢酸に標識すること、腎スキャン及び脳スキャンのためにグルコヘプトン酸に標識すること、脳スキャン及び腎スキャンのためにジエチレントリアミン5酢酸(DPTA)に標識すること、腎皮質スキャンのためにジメルカプトコハク酸(DMSA)に標識すること、心臓の血液プールスキャンのために赤血球に標識すること、心筋血流のイメージングのため、心室造影のためにメトキシイソブチルイソニトリル(MIBI)に標識すること、及び損傷した心臓のカルシウム沈着をイメージングするためにピロリン酸塩に標識することが挙げられる。Tc-99mは、例えば、Tc-99m標識硫黄コロイドを最初に注入し、次にTc-99m標識イソスルファンブルー色素を注入することによって、乳がん又は悪性黒色腫等のがんの部位から排出するセンチネル節、すなわち、リンパ節を特定することにより、種々の形のがんを検出するために非常に有用でもある。免疫シンチグラフィー法は、発見が困難ながんの検出に特に有用であり、選択されたがん細胞特有のモノクローナル抗体にTc-9mを標識し、標識されたモノクローナル抗体を注入した後、放射線機器で被験者の身体をスキャンすることに基づく。
【0003】
現在、世界の核医学用Tc-99mの供給量は、原子炉で生産されている。まず、Tc-99mの親核種であるモリブデン-99(以下Mo-99と呼ぶ)が、世界中のいくつかの原子炉において、濃縮ウランを核分裂させることにより生産される。Mo-99は、半減期が66時間と比較的長いため、世界中の病院に輸送することができる。Mo-99は、カラムクラマトグラフィーを用いたMo-99/Tc-99mジェネレータデバイスの形で分配され、崩壊するMo-99からTc-99mを抽出し、回収する。クラマトグラフィーカラムには酸性アルミナ(A12O3)が充填され、そこにMo-99がモリブデン酸塩MoO4
2-の形で添加される。Mo-99は崩壊すると、過テクネチウム酸塩TcO4
-を形成する。これは、その単一電荷が、ジェネレータデバイスの内側のアルミナカラムにあまり密に結合されないからである。通常の生理食塩水を固定化Mo-99のカラムに引き通すことにより可溶性のTc-99mを溶出して、Tc-99mを過テクネチウム酸塩として含み、ナトリウムを釣合い陽イオンとして含む生理食塩水にする。その後、過テクネチウム酸ナトリウム溶液を、使用する器官特異薬剤「キット」に適切な濃度で添加することができ、又は、薬剤標識なしで、[Tc-99m]O4
-のみを主要な放射性医薬品として必要とする特定の方法のために、過テクネチウム酸ナトリウムを直接使用することができる。
【0004】
核分裂に基づくTc-99mの生産の問題は、世界中のMo-99の供給量を生産するいくつかの原子炉の耐用年数が終わりに近付いていることである。現在、世界中のMo-99の供給量の約3分の2が、2つの原子炉、すなわち、(i)カナダ、オンタリオのChalk River LaboratoriesのNational Research Universal Reactorと、(ii)オランダのPetten原子炉とから供給されている。どちらの設備も、2009年~2010年に長期間にわたって停止したため、医療施設へのMo-99の深刻な供給不足が世界中で続いている。現在は、両設備は再び稼働しているが、Mo-99の長期にわたる確実な供給に関して大きな懸念を残している。
【0005】
医療用サイクロトロンが、研究の目的で少量のTc-99mをMo-100から生産できることが知られている。サイクロトロンで生産されたTc-99mは、核医学イメージングで使用されるときに、原子炉によるTc-99mに匹敵することが最近実証された(Guerin他、2010、Cyclotron production of 99mcTc:An approach to the medical isotope crisis.J.Nucl.Med.51(4):131-16N)。しかしながら、Mo-100からTc-99mへの変換を発表している多くの研究を分析すると、変換効率、ガンマ線生成、及び純度に関してかなりの相違があることがわかる(Challan他、2007、Thin target yields and Empire-II predictions in the accelerator production of technetium-99m.J.Nucl.Rad.Phys.2:1-;Takacs他、2003、Evaluation of proton induced reactions on 100Mo:New cross sections for production of 99mTc and 99Mo.J.Radioanal.Nucl.Chem.257:195-201;Lebeda他、2012、New measurement of excitation functions for (p,x) reactions on natMo with special regard to the formation of 95mTc,96m+gTc,99mTc and 99Mo.Appl.Radiat.Isot.68(12):2355-2365;Scholten他、1999、Excitation functions for the cyclotron production of 99mTc and 99Mo.Appl.Radiat.Isot.51:69-80)。
【発明の概要】
【0006】
本開示の例示的な実施形態は、サイクロトロン等の加速器を用いた陽子照射により、モリブデン-100(Mo-100)からテクネチウム-99m(Tc-99m)を生産するプロセスに関する。一部の例示的な実施形態は、本開示のプロセスを実行するためのシステムに関する。一部の例示的な実施形態は、本開示のシステムを備えた装置に関する。
【0007】
以下の図面を参照しながら、本開示について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の例示的なプロセスの概略を説明する概略フローチャートである。
【
図2】本開示の一実施形態による、例示的な細長標的板の平面図である。
【
図3】
図3(a)は
図2の例示的な標的板の横断面側面図であり、
図3(b)はその横断面端面図である。
【
図4】
図2、
図3に示す例示的な標的板を取り付けるための例示的な標的カプセル装置の斜視図である。
【
図5】
図4の標的カプセル装置の上部の部分図である。
【
図6】
図5の標的カプセル装置の横断面側面図である。
【
図7】
図4~
図6の標的カプセルアセンブリ装置に係合するプッシャ部品を有する例示的な標的取上げ装置の斜視図である。
【
図8】プッシャ部品に係合した
図7の標的取上げ装置の横断面側面図である。
【
図9】
図12~
図14に示す標的ステーション装置に係合し協働するための、例示的な受入セル装置の斜視図である。
【
図12】
図4~
図6に示す標的カプセル装置に係合した、
図7、
図8に示す標的取上げ装置を受けるための例示的な標的ステーション装置の斜視図である。
【
図15】
図15(a)は本開示の一実施形態による例示的な円形標的板の平面図、
図15(b)は上面図、
図15(c)は
図15(a)の例示的な円形標的板の横断面側面図である。
【
図16】円形標的ディスクを取り付けるための例示的な標的カプセル装置の斜視図である。
【
図18】
図16に示す標的カプセル装置の横断面側面図である。
【
図19】プッシャ部品に係合した例示的な標的取上げ装置の斜視図である。
【
図21】
図24~
図27に示す標的ステーション装置に係合し協働するための、例示的な受入セル装置の斜視図である。
【
図24】
図16~
図18に示す標的カプセル装置に係合した、
図19に示す標的取上げ装置を受けるための例示的な標的ステーション装置の斜視図である。
【
図26】例示的な標的セル装置が未装填位置に収容された標的まで送達された状態にある、
図24に示す標的ステーション装置の横断面上面図である。
【
図27】例示的な標的セル装置が装填位置まで移動した状態にある、
図24に示す標的ステーション装置の横断面上面図である。
【
図28】係合解除モードで示す、例示的なブースタステーションの斜視図である。
【
図29】係合モードで示す、
図28の例示的なブースタステーションの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の例示的な実施形態は、サイクロトロン等の加速器により発生させた陽子線を用いて、Mo-100の低エネルギー陽子照射を行うことによりTc-99mを生産するためのプロセスに関する。本開示のプロセスのための適切な陽子エネルギーは、標的に入射する約10MeV~約30MeVである。例示的なプロセスの概要を説明するフローチャートが
図1に示される。プロセスは一般に、以下のステップをたどる。
1)濃縮Mo-100金属粉末の供給量を加工して、約10ミクロン未満の一定の粒径を持つMo-100粉末を生産する。
2)加工されたMo-100粉末の被覆を、遷移金属を含む標的板に、電気化学堆積及び/又は電気泳動堆積によって堆積させる。
3)被覆標的板を不活性雰囲気で約2時間~約10時間、約1200℃~約2000℃の温度で焼結させる。
4)焼結標的板を標的ホルダ内にしっかりと係合させる。本明細書で、焼結標的板に係合した標的ホルダを、標的カプセルアセンブリと呼ぶ。
5)標的カプセルアセンブリを受入セル装置内に設置し、そこで標的カプセルアセンブリが標的取上げ装置により係合される。標的取上げ装置は標的移送駆動装置と協働して、サイクロトロンに係合した標的ステーション装置内へ標的カプセルアセンブリを送達する。6)略無酸素の雰囲気で、加速器により発生させた陽子の供給量を、焼結標的板に照射する。
7)移送駆動装置を用いて、標的カプセルアセンブリを標的ステーションから係合解除し、標的カプセルアセンブリを受入セル装置内へ移送して、モリブデン酸イオン及び過テクネチウム酸イオンを陽子照射された標的板から分離、回収する。
8)過テクネチウム酸イオンをモリブデン酸イオンから分離し、過テクネチウム酸イオンを浄化し、さらに加工する。過テクネチウム酸イオンの損失を最小限にするために、正確に制御された環境条件下でこれらのステップを行う。
9)モリブデン酸イオンを回収し、浄化して、被覆標的板で再利用するのに適切な状態にする。
【0010】
Mo-100からTc-99mを生産するために予め加速器を使用することは、研究用の使用のため、及びこのように生産されたTc-99mの医療診断イメージングにおける機能と、原子炉を用いてMo-99から生産された標準的なTc-99mとを比較するために十分な、少量の生産物を生成することに重点を置いている。市販の濃縮Mo-100金属粉末には、一般的に、1ミクロン未満~1ミリメートル超の粒径が混合されている。したがって、標的裏当てディスク又は裏当て板を被覆するためにこのような粉末を使用すると、板面にわたってMo-100が不均一に分散され、Mo-100堆積の厚さにばらつきが生じる。このようなばらつきにより、陽子線照射中に標的板が損傷し、モリブデン原子からテクネチウム原子への変換効率が低下し、過テクネチウム酸イオンの生産量が予測できなくなる。したがって、商用グレードのMo-100粉末を約25000N~約100000Nの圧力で押圧して、6.0~9.5mmの直径を有するペレットにすることが一般的な慣行となっている。Mo-100ペレットを、その後、水素雰囲気において800℃~900℃の温度で還元する。Mo-100は、一般的に、押圧若しくはアーク溶解若しくは電子ビーム溶解により、商用グレードMo-100粉末として、或いは焼結Mo-100ペレットとして、標的裏当てディスクに取り付けられる。溶解方法は、一般に、種々の掃引パターン及び集束パターンで印加された40mA~70mAの電流を使用する。結果として、このような粉末及び/又はペレットを標的板の被覆に使用すると、板面にわたってMo-100が不均一に分散され、Mo-100堆積の厚さにばらつきが生じる。このようなばらつきにより、(i)陽子線照射中に標的板が損傷し、(ii)モリブデン原子からテクネチウム原子への変換効率が低下し、(iii)過テクネチウム酸イオンの生産量が予測できなくなる。一般的に直面する他の問題は、標的ディスク自体に関連する。サイクロトロンにおける研究規模のTc-99m生産で一般的に使用される標的としては、一般に約5~6mmの直径を有する銅又はタンタルの小型の薄いディスクが挙げられる。このようなディスクには、Tc-99mの大規模生産を可能にするために十分なMo-100を装填することができない。それはディスクが機械的に壊れやすく、陽子照射下で、付随して発生する非常に高レベルの熱のために、破損、すなわち、破壊するおそれがあるからである。サイクロトロンに基づくシステムを用いてMo-100からのTc-99m生産を順調に増加させるためには、対処しなければならない多くの課題及び問題がある。対処しなければならないモリブデンに関連する問題として、(i)水溶液からのガルバニめっきにより、Mo-100の厚い層を標的板に堆積させることができない、(ii)特定のテクネチウムアイソトープの生産を促すために、モリブデンを同位体濃縮させる、及び(iii)濃酸溶液が必要であり、モリブデンの照射板を溶解させるために長時間かかるという問題を克服することが挙げられる。サイクロトロンに基づくシステムを用いてMo-100からのTc-99mの商業規模生産を促すために解決しなければならない課題としては、適切な標的裏当て板材料、すなわち(i)陽子照射前及び陽子照射中にMo-100が強く付着する材料、(ii)陽子が貫通しない材料、(iii)陽子照射中の加熱に耐える、機械的に十分に頑強な材料、(iv)照射中にMo-100の熱放散及び/又は冷却が十分に可能な薄さを持つ材料、及び(iv)化学的に不活性な材料、すなわち、照射されたMo-100の溶解を化学的に汚染せず、又はそうでなければMo-100の溶解を妨げない材料の選択及び構成が挙げられる。
【0011】
したがって、本開示の一部の例示的な実施形態は、市販のMo-100粉末を10ミクロン未満の均一な粒子に精製するためのプロセス、精製されたMo-100粒子を取り付けるための機械的に頑強な標的板、及び精製されたMo-100粒子を標的板に取り付けるための電気泳動方法に関する。
【0012】
一態様によれば、商用グレードのMo-100金属粉末が、最初に約3%~約40%の過酸化水素(H2O2)を含む溶液中で酸化される。H2O2の特に適切な濃度は約30%である。次に、Mo-100とH2O2との混合物を約40℃~50℃で加熱して、残留H2O2を変性させた後、乾燥させて、固体酸化モリブデンを回収する。固体酸化モリブデンは、3段階の加熱プロセスを用いてMo-100金属に戻すよう変換される。第1段階では、乾燥した酸化モリブデンがアルゴンガス混合物中に約2%の水素を含む環境において約400℃で約30分間加熱され、MoO3を形成させる。400℃で30分経過後、プロセスの第2段階のために、約30分間、温度を約700℃まで上昇させて、MoO3からMoO2への還元を促す。その後、プロセスの第3段階のために、約30分間、温度をさらに約1100℃まで上昇させて、MoO2をMo-100金属に還元させる。MoO2が1500℃で昇華するため、第3段階の間、温度を約1100℃~約1455℃、約1100℃~約1400℃、約1100℃~約1350℃、約1100℃~約1300℃、約1100℃~約1250℃、約1100℃~約1200℃で維持することが重要である。プロセスの第1段階の間、雰囲気水素含有量を約5%未満、約4%未満、約3%未満、及び好ましくは約2%以下に制限して、MoO3からMoO2への還元率を制御することが重要である。MoO2からMo-100への還元は吸熱反応であるため、このプロセスの第3段階には、高水素雰囲気、或いは、純水素雰囲気を使用することが適切である。この第3段階プロセスにより生産された加工Mo-100粉末は、10ミクロン未満の一定の粒径を特徴とする。
【0013】
本開示の本実施形態の別の態様は、10ミクロン未満の均一な粒径を有する精製されたMo-100粉末で標的裏当て板を被覆するための電気泳動プロセスに関する。精製Mo-100粉末は、無水ニトロメタン、ニトロアルカン、イソプロパノール等に例示される適切な極性有機溶媒、及びゼインに例示される適切な結合剤に懸濁された後、約15℃~約30℃から選択された周囲温度で激しく撹拌される。その後、遷移金属を含む陰極と、銅に例示される導電性金属を含む陽極とが、懸濁液に浸漬される。約150V~約5000V、約200V~約4000V、約250V~約3000V、約300V~約2500V、約400V~約2000V、約500V~約1500Vの電位が、陽極及び陰極の両端に、約2分~約30分間印加されて、Mo-100及び結合剤を陰極上に堆積させる。陽極及び陰極の両端に印加される特に適切な電位は、約1200Vである。その後、被覆された陰極が混合物から取り除かれ、アルゴンに例示される不活性ガスによりもたらされる無酸素雰囲気において、約1500℃~約2000℃、約1300℃~約1900℃、約1400℃~約1800℃、約1400℃~約1700℃の温度で、2~7時間、2~6時間、4~5時間加熱することにより焼結される。このプロセスにより、可能な理論密度の約85%の密度で、モリブデン金属層を標的裏当て板(以下、「標的板」とも呼ぶ)に堆積させることができることを我々は見出した。
【0014】
本実施形態の別の態様は、Mo-100を取り付け可能な標的板に関する。標的板構成は、(i)サイクロトロンから延びるビームラインにより、又はビームラインなしで、或いは代替として(ii)ビームラインを使用しない自己遮蔽サイクロトロンチャンバにおいて送達される陽子の照射に適している。標的板の幅は、入射ビームに対して約7°~約90°の選択された角度で標的板に送達されたときでも、サイクロトロンを用いて発生させた陽子エネルギーのビームスポット全体を受けるのに十分なものである。サイクロトロンビームラインで一般的に生じるビームスポットは、約15mm直径でコリメートされる。Mo-100被覆標的板をタンパク質ビームラインに対してある角度で配置することが一般的であり、この場合、標的板の照射表面積は、約10mm~約15mm×約20mm~約80mmの細長のスポットとなる。ビームラインを使用しない自己遮蔽サイクロトロンでは、標的板を設置するための空間が、一般的に、約30cm×30cm×30cm~約30cm×30cm×80cmである。したがって、Tc-99mの大規模生産のためには、(i)Advanced Cyclotron Systems Inc.(ACSI,Richmond,BC,CA)、Best Cyclotron Systems Inc.(Springfield,VA,USA)、IBA Industrial (Louvain-la-Neuve,Belgium)により製造されたTR PETサイクロトロンに例示されるもの等の、ビームラインを使用するサイクロトロン、及び(ii)GE(登録商標)のPETトレース(PETtrace)(登録商標)サイクロトロンシステム(GE及びPETトレースは、General Electric Company,Schenectady,NY,USAの登録商標)に例示される、ビームラインを使用しない自己遮蔽サイクロトロンにおいて使用可能な標的板を有することが望ましい。例示的な標的板は、標的ディスクに対して90°で陽子線を照射するための円形ディスク、或いは代替として、標的板に対して90°未満の角度で送達される陽子線を照射するための細長の板であり得る。
【0015】
しかしながら、Mo-100の陽子照射中に生じる重大な問題は、過剰な熱の発生である。したがって、良好な熱導体であり、容易に熱を放散する標的裏当て板にMo-100を被覆する必要がある。最適な熱伝導性金属に関する問題は、融点が比較的低いことである。したがって、電気泳動によってMo-100で被覆された熱伝導性金属を含む標的裏当て板は、本明細書で開示された焼結プロセス中に溶解し、被覆されたMo-100粉末の密度を高めて粘着性を持たせるおそれがある。タンタルが非常に高い融点、すなわち約3000℃以上の融点を持つことが知られている。したがって、タンタルが、標的裏当て板構成に好ましい金属基板であると思われる。しかしながら、タンタルに関する問題として、この遷移金属にはあまり熱伝導性がないことが挙げられる。したがって、標的裏当て板の裏へ、及びその周りで直接流れる冷却剤流により何がしか冷却すると同時に、破壊又は分解することなく熱を吸収し、且つMo-100層から出るおそれのある残留陽子を停止させるのに十分な厚さをもたらすためには、標的裏当て板にタンタルを使用する際に、標的裏当て板をできるだけ薄く維持する必要がある。したがって、Mo-100を被覆するためのタンタル標的裏当て板の種々の設計及び構成を我々は研究した。1つの手法は、
図2及び
図3に例示するように、一連の相互接続された流路をタンタル標的裏当て板の裏に機械加工することである。冷却剤の流れが、陽子照射中に流路を通って方向付けされるため、発生した熱の一部を放散させる。しかしながら、タンタル標的裏当て板の裏の周りの冷却剤流のために流路を設けることにより、裏当て板の構造強度が損なわれる、すなわち、裏当て板は非常に可撓性があり、冷却剤流及び陽子照射の応力下で破壊することを我々は見出した。意外にも、このようなタンタル標的裏当て板に被覆されたMo-100の密度を高めて粘着性を持たせる焼結プロセスによっても、タンタル基板が大きく硬化し、これにより、陽子照射中、及び同時に行われる、設けられた流路を通した、標的裏当て板の裏の周りでの冷却剤の加圧循環中の使用において、標的裏当て板が機械的に頑強になり、且つ標的裏当て板の耐久性が非常に高くなることを我々は見出した。標的裏当て板の裏の周りの冷却剤の加圧流により温度を約500℃以下で維持しながら、130マイクロアンペア超の16.5MeV陽子が照射されたとき、及び300マイクロアンペア超の18.5MeV陽子が照射されたときに、タンタルを含む焼結Mo-100被覆標的板が頑強であり、構造的に安定していると我々は判断した。
【0016】
適切な標的を生産するのに必要なMo-100の質量は、陽子線スポットのサイズに応じて決まる。標的は、陽子線スポットサイズに少なくとも一致するか、又はこれを超えなければならない。Mo-100の密度は、約10.2g/cm3である。したがって、標的板を被覆するのに必要なMo-100の質量は、およそ「Mo-100の密度×標的面積×必要厚さ」となり、使用されるビームラインのタイプ、すなわち、直交照射、或いは代替として、標的板に対して90°未満の角度で送達された陽子線の照射について計算される。必要なMo-100の質量は、標的に対する角度での陽子の送達に影響されず、これは、ビームに対する標的の角度を変化させることによりビーム投射の1つの軸しか延長されないため、被覆の必要厚さが表面積の増加と同じ割合で減少するからであることに注目されたい。
【0017】
表1は、サイクロトロンにより一般に使用される3つの照射エネルギーのそれぞれについて、陽子線を直交照射(すなわち、板に対して約90°)するために円形標的板に堆積させるモリブデンの標的厚さの一覧を示す。
【表1】
【0018】
表2は、表1に挙げた3つの照射エネルギーのそれぞれについて、標的に対して異なる角度で陽子照射するために細長の標的板に堆積させるモリブデンの標的厚さの一覧を示す。
【表2】
【0019】
例示的な標的板10が
図2、
図3に示され、丸い両端部を持つ細長の形状を有する。
図2は、例示的な標的板10の上面図である。
図3(a)は標的板10の横断面側面図であり、
図3(b)は標的板10の横断面端面図である。標的板10の厚さは、モリブデンがないときに、19MeVの最大エネルギーで陽子線全体を停止させるのに十分なものである。しかしながら、陽子照射中に発生する高熱のため、標的板10の下面に水路12を設けて、標的板10の下部での冷却剤の循環を可能にし、過剰な熱を放散させる。標的板は、Mo-100で被覆されると、温度を約500℃以下で維持しながら、標的板に対して10°の角度で約10mm×約20mmの楕円形ビームスポットに送達されるときに、300μAの18MeV陽子を放散させることができる。
【0020】
この例示的な標的板は、長さ約105mm、幅40mm、厚さ1.02mmである。陰極すなわち標的板は、銅、コバルト、鉄、ニッケル、パラジウム、ロジウム、銀、タンタル、タングステン、亜鉛、及びこれらの合金に例示されるもの等の任意の遷移金属を含むことができる。銅、銀、ロジウム、タンタル、及び亜鉛が特に適している。タンタルを標的板材料として使用する場合、焼結プロセスによってもタンタル標的板が大きく硬化して、標的板の耐久性が非常に高くなり、陽子照射、並びに/又は陽子照射中及び標的板の裏の周りの冷却剤の流れによる加圧中に発生する過剰な熱から生じる破壊応力に耐えることができるようになることに留意されたい。
【0021】
Mo-100からのTc-99mの生産中に対処しなければならない別の問題は、標的板に被覆されたMo-100が、陽子線照射中及び照射後に酸化しないようにすることである。酸化モリブデンは、ほんの摂氏数百度でかなりの蒸気圧を有するため、陽子照射中に高熱及び酸素に晒されると、酸化モリブデンが形成されることになり、結果としてMo-100からTc-99mへの変換効率が低下する。
【0022】
したがって、本開示の一部の例示的な実施形態は、(i)以下で「標的カプセルアセンブリ」又は「標的カプセル装置」と呼ぶ、Mo-100被覆標的板を取り付け、収容するための部品と、(ii)取り付けられたMo-100被覆標的板の周りの酸素欠乏雰囲気を維持しながら、サイクロトロンにより発生する陽子照射源に対して標的カプセルアセンブリを係合させ、係合解除するための部品とを備えたシステムに関する。したがって、本明細書で開示されたシステム及び部品は、略無酸素である雰囲気環境を提供し維持することにより、陽子照射中にMo-100被覆標的板が酸素に晒されないようにすることができるよう構成される。無酸素環境は、照射中及び照射後に真空を加えて維持することによりもたらすことができる。或いは、環境を超高純度不活性ガスで飽和させることができる。
【0023】
図4~
図14を参照する開示の以下の部分は、Mo-100被覆標的板に、ビームラインにおいて90°未満の角度で標的板に送達される陽子を照射するための、例示的な実施形態の使用及び本開示の態様に関する。このようなビームラインは、ACSIにより製造されたものに例示される市販のPETサイクロトロンである。
【0024】
一態様は、Mo-100被覆標的板を取り付けるための標的カプセル装置に関する。別の態様は、標的カプセルの遠隔係合のため、及びカプセルアセンブリを標的ステーション装置へ搬送して標的ステーション装置に係合させるための標的カプセル取上げ装置に関する。別の態様は、組み立てられ係合された標的カプセル装置及び標的取上げ装置を係合するための真空チャンバを備えた標的ステーション装置に関する。標的ステーション装置は、サイクロトロンに例示されるもの等の加速器からの陽子源にシール係合可能である。
【0025】
ACSIにより製造されたものに例示されるPETサイクロトロンにより、90°未満の角度で送達された陽子を照射するために、細長のMo-100被覆標的板を取り付けるための例示的な細長の標的カプセル装置が、
図4~
図6に示される。この例示的な標的カプセル装置20は、底部標的板ホルダ21と、上部カバー板22とを備え、上部カバー板22には複数の離間した穴23が設けられて、その穴を通してソケットヘッドキャップねじ24が挿入され、底部標的板ホルダ21とねじ係合される。細長の標的カプセル装置20は、標的カプセル取上げ装置に係合するための近位端25と、適切な加速器(図示せず)からの陽子の放出を受けるための穴26aを持つ遠位端26とを有する。標的カプセル装置20の遠位端26は、冷却された冷却剤流の供給量にシール係合するための2つのポート26bも有し、冷却剤流は流路27により方向付けされ、標的板10の下面に設けられた流路12を通って標的板10の下部に接触して流れる(
図3(a)及び
図3(b)参照)。底部標的板ホルダ21の上面は、水平面に対して約5°~約85°の角度で傾斜していてもよい。上部カバー板22の下面は、底部標的板ホルダ21の上面に対して合致する角度で傾斜する。細長の標的板10は、これにより底部標的板ホルダ21の上面に設けられた流路に嵌入するOリング28の上部に配置される。また、Oリング28は、これにより上部カバー板22の下面に設けられた流路に嵌入する。ソケットヘッドキャップねじ24が離間した穴23に挿通され、底部標的板ホルダ21にねじ係合すると、Oリング28は、底部標的板ホルダ21と上部カバー板22との間で細長の標的板10にしっかりとシール係合する。標的カプセル装置20の近位端25の外径の形状は、標的ステーションにそのために設けられたローラ(図示せず)に係合し、且つ標的カプセル装置20を回転させてポート26a、26bを標的ステーションに整合させ、真空及び水シールを形成するためのものである。標的カプセル装置20の対称構成により、装置20を時計方向又は反時計方向に回転させることができる。冷却剤は、どちらかのポート26bを通って標的カプセル装置20に入り、反対側のポート26bを通って出ることができる。
【0026】
例示的な標的取上げ装置40が
図7~
図8に示される。標的取上げ装置40は、
図4~
図6に示す標的カプセル装置20の近位端25にそのために設けられたチャンバ25aに対して係合し、係合解除するように構成された取上げヘッドデバイス41を備える。取上げヘッドデバイス41は、標的板カプセル装置20の近位端25のチャンバ25aに対して係合し、係合解除するように構成された取上げヘッド内から半径方向に伸長し、後退する構造を有する。適切な係合デバイスとして、ピン、プロング、ストラット等が挙げられる。
図8は、伸長可能/後退可能なプロング43を示す。標的取上げ装置40は、プロング43に例示される係合デバイスに対して係合可能且つ係合解除可能な標的カプセル装置プッシャ44も備える。取上げヘッドデバイス41に設けられた伸長可能/後退可能なプロング43は、取上げヘッドデバイス41から後方に延びる結合軸48に取り付けられた遠隔制御可能なプルリング49によって作動され、操作される。標的取上げ装置40は、前方へ延びる軸47を備えた標的取上げガイド46をさらに備え、軸47は、取上げヘッドデバイス41から後方へ延びる結合軸48に摺動可能に受けられて、係合する。標的取上げガイド46の後部は、係合可能/係合解除可能な鋼帯(
図8に破線で軸50として示す)と協働し、この鋼帯は、標的取上げ装置40と協働して、標的ステーション受入セル装置80(
図9参照)から標的ステーション装置(
図12に部品58として示す)へ標的カプセル装置20を送達し、次いで、標的カプセルアセンブリ20を標的ステーション装置58から照射後に回収して、標的ステーション受入セル装置80に戻すように送達する。
【0027】
図9~
図11は、鉛張り換気フードに取り付け可能な、例示的な標的ステーション受入セル装置80を示す。適切な鉛張り換気フードとして、Von Gahlen International Inc.(Chatsworth,GA,USA)及びComecer Inc.(Miami,FL,USA)から市販されている「ホットセル」が挙げられる。標的ステーション受入セル装置80は、上部棚83及び下部棚84が取り付けられる枠組82を備える。駆動ユニットアセンブリ85は、上部棚83に取り付けられる。駆動ユニットアセンブリ85は、駆動ユニットアセンブリ85内に収容されたドラム(図示せず)に巻き上げられた、ある長さの鋼帯50を収容する。鋼帯50の近位端は、駆動ユニットアセンブリ85内に設けられたドラム(図示せず)に係合し、鋼帯50の遠位端は、
図8に示すように標的取上げ装置40に結合される。駆動アセンブリは、(i)ドラムに係合される第1の一方向クラッチ及びギアアセンブリ81と、(ii)内部を通って延びる鋼帯に制御可能に係合可能な第2の一方向クラッチ及びギアアセンブリ86と、(iii)チェーン(図示せず)に協働して、第1の一方向クラッチ及びギアアセンブリ81と第2の一方向クラッチ及びギアアセンブリ86とに駆動力を与える駆動モータ99とを備える。鋼帯の遠位端は、標的取上げ装置40の取上げヘッドデバイス41に結合され、不使用時には標的案内管95内で下方に延びる。標的取上げ装置40は、駆動ユニットアセンブリ85の動作により標的案内管95を通して展開され回収される。ゲート弁アセンブリ100は、ホットセル(図示せず)のポートに、標的案内管95の真下で取り付けられる。ゲート弁アセンブリ100内のゲート弁(図示せず)は、アクチュエータ101により開閉される。下部棚84にはキャリッジレール115が取り付けられ、キャリッジレール115上でドッキングステーションキャリッジテーブル114が前後に搬送される。ドッキングステーション110は、ドッキングステーションキャリッジテーブル114に取り付けられる。ドッキングステーション110は、一対の線形アクチュエータ116により横向きに移動可能である。ドッキングステーションは、一直線に整合する3つの穴111、112、113を有するハウジングを備える。穴111は、標的案内管95の下端部をゲート弁アセンブリ100の上部に接続するための貫通孔である。穴112は、標的取上げ装置40の標的カプセル装置プッシャ44の部品を、不使用時に受けて保管するために設けられる。穴113は、近位端25を上方位置にして、組み立てられた標的カプセルアセンブリ20を受けるように設けられる。
【0028】
使用時に、遠隔制御デバイス(図示せず)を使用するホットセル内で、Mo-100被覆標的板10が標的カプセルアセンブリ20内に取り付けられる。装填された標的カプセルアセンブリ20が、遠隔制御されたデバイスにより、標的カプセルアセンブリ受け穴113内に配置され、標的ドッキングステーションキャリッジテーブル114が、遠隔制御により、上部棚83の前方に、上部棚83から離れて位置決めされる。次に、標的ドッキングステーションキャリッジテーブル114は、上部棚83の下の位置まで遠隔制御により駆動されて、一直線に整合された穴111、112、113がゲート弁アセンブリ100と中心で整合するようにする。その後、ドッキングステーション110を横向きに搬送して、穴113を標的案内管95の下部に正確に位置決めし、これにより、標的案内管95が同時にゲート弁アセンブリ100の上方に向けられる。その後、移送駆動ユニットアセンブリ85を動作させて、標的取上げ機構41を標的カプセル装置20に係合させるように鋼帯を十分に展開した後、移送駆動ユニットアセンブリ85を逆転させて、標的カプセル装置20を標的案内管95内へ引き上げる。次に、ドッキングステーション110を移動させて穴111を標的案内管95に整合させることにより、標的案内管95が同時にゲート弁アセンブリ100の真上に位置するようにした後、アクチュエータ101を動作させてゲート弁を開く。解放アクチュエータ96を動作させて、標的カプセル20を標的取上げ機構41から解放することにより、標的カプセル20をゲート弁アセンブリ100の穴を通して移送管68内へ落下させることができる。その後、標的カプセルプッシャ受け穴112が標的案内管95の真下になるようにドッキングステーション110を移動させる。ピンチローラ104によりピンチローラ線形アクチュエータ103、ピンチローラカム連動装置105、第2の一方向クラッチ及びギアアセンブリ86と協働して、移送駆動装置85内で鋼帯をドラムから展開することによって、標的カプセル装置プッシャ44に係合するように移送駆動装置85を動作させて、標的取上げ装置40の取上げヘッドデバイス41のプロング43が標的カプセル装置プッシャ44に係合するようにする。第1の一方向クラッチ及びギアアセンブリ81は係合解除され、第2の一方向クラッチ及びギアアセンブリが係合されたときに自由に動作する。その後、ピンチローラカム連動装置15と協働してピンチローラ線形アクチュエータ103を動作させることによりピンチローラ104を係合解除し、次いで駆動モータ99と協働して第1の一方向クラッチ及びギアアセンブリ81を有する移送駆動装置85のドラムに鋼帯を再び巻き付けることによって、プッシャ44に係合した標的取上げ装置40が標的案内管95内へ引き上げられる。第2の一方向クラッチ及びギアアセンブリ86は、この動作中に係合解除されて自由に動作している。その後、ドッキングステーション110は、穴111が標的案内管95の真下になるように移動される。次に、ピンチローラ104によってピンチローラ線形アクチュエータ103及び第2の一方向クラッチ86(第1の一方向クラッチ及びギアアセンブリ81は係合解除されて自由に動作する)と協働して鋼帯を展開するように移送駆動装置85を動作させ、プッシャ44を有する標的取上げ装置40が標的カプセルアセンブリ20を移送管68に押し通して、標的カプセルアセンブリ20を、サイクロトロンに動作可能に結合される標的ステーションアセンブリ(
図12~
図14に58で示す)に送達するようにする。
【0029】
図12~
図14は、サイクロトロン(図示せず)等の加速器に対するビームラインに係合する真空チャンバ装置70に、スピゴットフランジ66により結合された、例示的な標的ステーション装置60のアセンブリ58を示す。アセンブリは、枠組59によって設備に取り付けられる。標的ステーション装置60は、移送管取付台69により移送管68に接続される。移送管68の他端部は、
図9~
図11に示す受入セル装置80内に取り付けられたゲート弁アセンブリ100のフランジ120に係合する。標的ステーション装置60は、
図7、
図8に示す標的取上げ装置40によって細長の標的カプセル装置20(
図4~
図6に示す)が送達されるハウジングを備える。標的ステーション装置60に取り付けられた線形駆動ユニット65は、2つのローラ(図示せず)に係合する。これらのローラは、標的カプセルアセンブリ20の近位端の外径に接触し、外径の曲面と協働して標的カプセル装置20を回転させて、スピゴットフランジ66に整合させる。整合させた後、標的カプセル装置20を線形駆動ユニット65により移動させて、スピゴットフランジ66にシール係合することにより、標的カプセルポート26aと真空チャンバ装置70との間の真空気密接続と、標的カプセルポート26bとの2つの水密接続とが形成される。標的カプセルアセンブリ20は、180°離れた2つの位置のいずれかでスピゴットフランジ66に係合することができる。これは、両方の位置が動作上同一であるからである。装填された標的カプセルアセンブリ20は、陽子照射の準備が整う。真空ポート73に相互接続された適切な真空ポンプ(図示せず)により、真空チャンバ70を真空にする。真空チャンバ70の周りに取り付けられた4個の陽子線コリメータアセンブリ71により、陽子線が照射プロセス中にコリメートされる。陽子線の通過は、バッフル72により、陽子がコリメータ又は標的カプセルアセンブリ20の標的板10のみに入射するような位置に制限される。
【0030】
陽子照射の終了後、前記真空弁を有する真空チャンバ70からビームラインが分離され、真空チャンバ圧力が雰囲気圧力まで上昇する。冷却水が、標的カプセル20から除去される。照射された標的カプセルアセンブリ20は、線形アクチュエータ65によりスピゴットフランジ66から係合解除された後、標的取上げ装置40の取上げヘッドデバイス41を標的カプセルアセンブリ20の近位端のチャンバ25aに係合させることにより回収される。その後、標的カプセルユニットが移送管68から出てゲート弁アセンブリ100から外に出るまでに、展開された鋼帯50を駆動ユニットアセンブリ85によって回収することにより、標的カプセルアセンブリ20が標的ステーション受入セル装置80に戻るように送達される。その後、ドッキングステーション110が、標的案内管95の下部の穴113に正確に位置決めされるように搬送された後、照射された標的カプセルアセンブリ20が標的カプセルアセンブリ受け穴113内に置かれて、標的取上げ装置40から係合解除される。その後、標的取上げ装置40は標的案内管95内に後退され、ドッキングステーション110がその停止位置に戻る。より詳細に後述するように、過テクネチウム酸イオン及びモリブデン酸イオンは、これによりホットセル内に設けられた装置において照射標的板から溶解され、回収された後、別個に浄化される。
【0031】
本開示の別の実施形態は、円形のMo-100被覆標的板を取り付け、収容するための部品と、取り付けられたMo-100被覆標的板の周りの酸素欠乏雰囲気を維持しながら、サイクロトロンにより発生させた陽子照射源に対して、収容された円形標的板を係合させ、係合解除するための部品とを備えたシステムに関する。
【0032】
例示的な円形標的板140が
図15(a)~
図15(c)に示される。
図15(a)は、円形標的板140の上部からの斜視図であり、円形標的板140の中心周りの凹部145を示す。
図15(b)は、円形標的板140の上面図であり、
図15(c)は円形標的板140の横断面側面図である。円形標的板140は、銅、コバルト、鉄、ニッケル、パラジウム、ロジウム、銀、タンタル、タングステン、亜鉛、及びこれらの合金に例示されるもの等の任意の遷移金属を含むことができる。銅、銀、ロジウム、タンタル、及び亜鉛が特に適している。凹部145は、精製Mo-100金属粉末を受けるために設けられ、精製Mo-100金属粉末は、前述したようにその後焼結される。
【0033】
図16~
図18は、凹部のないMo-100被覆円形標的板199、或いは代替として、
図15(a)~a5(c)に例示されるような凹部のある円形標的板を位置決めして取り付けるための例示的なカプセル装置200を示す。
図16は斜視図であり、
図17は標的板140を取り外した状態の端面図であり、
図17は、一般に、外側ハウジング205と、Mo-100被覆円形標的板199を受けて保持するための内側冷却散水器215(冷却スリーブとも呼ぶ)と、冷却スリーブ及び円形標的板140をしっかりと係合させるためのハウジング締結ナット210とを備えたカプセル装置200の横断面側面図である。標的板199、外側ハウジング205、内側冷却散水器215、及びハウジング締結ナット210の間にOリング219が挿入されて、標的板199をカプセル装置200内にシール固定する。冷却スリーブ215の目的は、Mo-100被覆標的板140の陽子照射により発生した熱を制御可能に放散させることにより、モリブデン原子及びテクネチウム原子の熱発生酸化の可能性を最小限にすることである。カプセルのハウジング締結ナット210は、標的取上げ装置に係合し、これを解放するように構成されたチャンバ212を備える(
図19の部品220)。
【0034】
本実施形態の別の態様は、組み立てられた円形標的板カプセル装置(
図19~
図20)に係合して操作するための例示的な標的カプセル取上げ装置220に関する。
図19は斜視図であり、
図20はプッシャ225に係合した標的カプセル取上げ装置220の横断面側面図である。標的カプセル取上げ装置220は、一般に、組み立てられた標的板カプセル装置200又はプッシャ225に係合するための半径方向に伸長可能/後退可能な取上げヘッドデバイス223と、標的取上げガイド230から前方へ延びる軸231に係合するための、取上げヘッドから後方へ延びる軸226とを備える。軸231は、標的取上げガイド230を通って後方へ延び、鋼帯232に係合する。標的カプセル取上げ装置220は、標的カプセル装置200を標的ステーション装置(
図24~
図27に示す)に送達するための標的ハウジングプッシャ225をさらに備える。取上げヘッドデバイス223から後方へ延びる軸226は、作動デバイス227を備えて、組み立てられた標的板ハウジング装置に対して係合し、係合解除するように構成された取上げヘッドデバイス223内で係合デバイス224を半径方向に伸長させ、後退させる。適切な係合デバイスとして、ピン、プロング、ストラット等が挙げられ、係合デバイスは、作動デバイス227の遠隔制御により遠隔作動及び遠隔操作される。
【0035】
本実施形態の別の態様は、組み立てられた円形標的板カプセル装置を受けて取り付けた後、円形標的板カプセル装置をGE(登録商標)のPETトレース(登録商標)サイクロトロンシステムに例示されるサイクロトロンの陽子線ポートに係合させるための例示的な標的ステーション装置に関する。標的ステーションアセンブリは複数の目的を有する。すなわち、(i)組み立てられた標的板カプセル装置を真空チャンバに受けて取り付けること、(ii)真空を適用すること、及び/又は雰囲気空気をヘリウムに例示される超高純度不活性ガスに置き換えることにより、真空チャンバ内に安定した無酸素環境を確立すること、(iii)組み立てられた標的板カプセル装置を、サイクロトロンが発生する陽子エネルギー源に送達して、標的板カプセル装置を陽子放出源に係合させること、(iv)標的板カプセル装置と陽子放出源との真空シールを確立し、維持すること、(v)照射動作中にハウジング装置において冷却散水器の温度を正確に操作すること、(vi)照射された標的板カプセル装置を陽子放出源から係合解除して取り外すことである。
【0036】
図21~
図24は、鉛張り換気フード(ホットセルとも呼ぶ)に設置可能な別の例示的な標的ステーション受入セル装置300を示す。受入セル装置300は、上部棚306及び下部棚307が取り付けられる枠組305を備える。駆動ユニットアセンブリ310は、上部棚306に取り付けられる。駆動ユニットアセンブリ310は、駆動ユニットアセンブリ310内に収容されたドラム(図示せず)に巻き上げられた、ある長さの鋼帯232を収容する。鋼帯232は、駆動ユニットアセンブリ310に相互接続され、且つ上部棚306を通って下方へ延びる標的案内管315を通して展開され回収される。鋼帯(
図19、
図20で示す232)の近位端は、駆動ユニットアセンブリ310内に収容されたドラムに係合し、鋼帯232の遠位端は、
図19、
図20に示すように標的取上げ装置220に結合される。駆動アセンブリ310は、(i)ドラムに係合する第1の一方向クラッチ及びギアアセンブリ311、(ii)内部を通って延びる鋼帯に制御可能に係合可能な第2の一方向クラッチ及びギアアセンブリ312、(iii)チェーン(図示せず)に協働して、第1の一方向クラッチ及びギアアセンブリ311と第2の一方向クラッチ及びギアアセンブリ312とに駆動力を与える駆動モータ313とを備える。したがって、標的取上げ装置220の取上げヘッドデバイス223は、不使用時には標的案内管315と共に下方へ延びる。ゲート弁アセンブリ325は、ホットセル(図示せず)のポートに、標的案内管315の真下で取り付けられる。ゲート弁アセンブリ325は、標的ステーション250(
図24)と動作可能に相互接続する移送管(
図24に部品267として示す)に係合するためのフランジ327を有する。ゲート弁アセンブリ325内のゲート弁(図示せず)は、アクチュエータ326により開閉される。下部棚307にはキャリッジレール340が取り付けられ、キャリッジレール340上でドッキングステーションキャリッジテーブル328が前後に搬送される。ドッキングステーション330はドッキングステーションキャリッジテーブル328に取り付けられる。ドッキングステーションは、一対の線形変換器341により横向きに正確に位置決め可能でもある。ドッキングステーション330は、一直線に整合する4つの穴332、334、336、338を有するハウジングを備える。穴332は、標的案内管315とゲート弁アセンブリ325の上部とを接続する貫通孔である。穴334は、標的取上げ装置220の標的カプセル装置プッシャ225部品を、不使用時に受けて保管するために設けられる。穴336は、近位端212を上方位置にして、組み立てられた標的カプセルアセンブリ200を受けるように設けられる。穴338は、照射された標的カプセルアセンブリ200を受けて、照射された円形標的板140からのモリブデン酸イオン及び過テクネチウム酸イオンを溶解するように設けられる。
【0037】
使用時に、遠隔制御されたデバイス(図示せず)を使用するホットセル内で、Mo-100被覆標的板140が標的カプセルアセンブリ200内に取り付けられる。装填された標的カプセルアセンブリ200が、遠隔制御されたデバイスにより標的カプセルアセンブリ受け穴336内に配置され、ドッキングステーションキャリッジテーブル328が、遠隔制御により、上部棚306の前方に、上部棚306から離れて位置決めされる。次に、ドッキングステーションキャリッジテーブル328は、上部棚306の下の位置まで遠隔制御により駆動されて、一直線に整合された穴332、334、336、338がゲート弁アセンブリ325と中心で整合するようにする。その後、ドッキングステーション330を横方向に搬送して、穴336を標的案内管315の下部に正確に位置決めし、これにより、標的案内管315が同時にゲート弁アセンブリ325の上方に位置決めされる。その後、移送駆動ユニットアセンブリ310を動作させて、標的取上げ機構220を標的カプセル装置200に係合させるように鋼帯を十分に展開した後、移送駆動ユニットアセンブリ310を逆転させて、標的カプセル装置200を標的案内管315内へ引き上げる。ドッキングステーション330を移動させて穴332を標的案内管315に整合させることにより、標的案内管315が同時にゲート弁アセンブリ325の真上になるようにした後、アクチュエータ326を動作させてゲート弁を開く。解放アクチュエータ319を動作させて標的カプセル装置200を標的取上げ装置220から解放することにより、標的カプセル装置200をゲート弁アセンブリ325の穴を通して移送管267内へ落下させることができる。その後、標的カプセルプッシャ受け穴334が標的案内管315の真下になるように、ドッキングステーション330を移動させる。ピンチローラ318によりピンチローラ線形アクチュエータ316、ピンチローラカム連動装置317、第2の一方向クラッチ及びギアアセンブリ312(第1の一方向クラッチ及びギアアセンブリ311は自由に動作する(すなわち、移送力なし))と協働して、移送駆動ユニット310内で鋼帯をドラムから展開することによって、標的取上げ機構220を標的カプセル装置プッシャ225に係合させるように移送駆動装置310を動作させて、標的取上げ装置220の取上げヘッドデバイス223のプロング224が標的カプセル装置プッシャ225に係合するようにする。その後、ピンチローラカム連動装置317と協働してピンチローラ線形アクチュエータ316を動作させることによりピンチローラ318を最初に係合解除し、次いで駆動モータ313と協働して第1の一方向クラッチ及びギアアセンブリ311(第2の一方向クラッチ及びギアアセンブリ312は自由に動作する(すなわち、移送力なし))を有する移送駆動装置310のドラム上に鋼帯を再び巻き付けることによって、プッシャ225に係合した標的取上げ装置220が標的案内管315内へ引き上げられる。その後、ドッキングステーション330は、穴332が標的案内管95の真下になるように移動される。次に、ピンチローラ318によってピンチローラ線形アクチュエータ316、カム連動装置317、及び第2の一方向クラッチ312(第1の一方向クラッチ及びギアアセンブリ311は自由に動作する(すなわち、移送力なし))と協働して鋼帯を展開するように移送駆動装置315を動作させ、プッシャ225を有する標的取上げ装置220が標的カプセルアセンブリ200を移送管267に押し通して、標的カプセルアセンブリ200を、サイクロトロンに動作可能に結合される標的ステーションアセンブリ(
図24~
図27に270で示す)に送達するようにする。
【0038】
図24~
図27は、標的取上げ装置220により送達された標的カプセル装置200を受けるための例示的な標的ステーションハウジング252を備えた標的ステーションアセンブリ250を示し、標的カプセル装置200は、その後、標的ステーションハウジング252(
図27)内の装填位置に取り付けられる。標的ステーションアセンブリ250は、枠組251によりPETトレース(登録商標)サイクロトロン(図示せず)に取り付けられる。標的ステーションハウジング252は、第1の空気圧駆動シリンダ270が相互接続される円筒形支持要素256に係合される。標的ステーションハウジング252は、受入チャンバ253(
図27に最もよく見られる)と、サイクロトロン陽子放出ポート(図示せず)に係合するためのポート259を備えた照射チャンバ254(
図26に最もよく見られる)とを備える。受入チャンバ253は移送管267に接続され、移送管267を通して標的カプセル装置200が標的取上げ装置220により送達される。標的カプセル装置200は、第2の空気圧駆動シリンダ272と相互接続された標的ホルダデバイス255により、標的ステーションハウジング252内で受入チャンバ253から照射チャンバ254へ移動される。標的ホルダデバイス255は、標的カプセル装置200の遠隔検出のためのリミットスイッチ262(
図25)に動作可能に接続される。標的カプセル装置200は、照射チャンバ254に入ると、第1の空気圧駆動シリンダ270により、標的ハウジングの前フランジ261にシール係合する。円筒形の支持要素標的256は冷却管アセンブリ257を備え、冷却管アセンブリ257は、照射チャンバ254に設置されると、第1の空気圧駆動シリンダにより標的カプセル装置220内へ移動され、同時に標的カプセル装置を標的ハウジングの前フランジ261に対して押して真空気密シールを形成する。したがってポート259はサイクロトロンにシール係合することにより、サイクロトロンと隣接する真空チャンバを形成し、標的板140/199へのエネルギー陽子の自由な通過を可能にする。冷却管アセンブリ257は、標的カプセルアセンブリの冷却散水スリーブ215に係合して、通路218を通して冷却流体を送達する。標的ステーション照射チャンバ254内に設置された後、装填された標的カプセルアセンブリ200は、陽子照射の準備が整う。陽子照射の終了後、冷却管アセンブリ257と、第1の空気圧駆動シリンダ270により冷却散水スリーブ215から抜き出された冷却管アセンブリとから、冷却流体が除去される。照射された標的カプセルアセンブリ200は、第2の空気圧駆動シリンダ272の動作により、照射チャンバ254から標的ステーションハウジング252の受入チャンバ253へ取り外される。その後、ランディングパッド装置258及びリミットスイッチ262と協働して、標的取上げ装置220の取上げヘッドデバイス223を標的カプセルアセンブリ200の近位端のチャンバ212に係合させることにより、照射された標的カプセルアセンブリ200が標的ステーションアセンブリ250から回収される。その後、標的カプセルユニット200が移送管267から出てゲート弁アセンブリ325から外に出るまでに、第1の一方向クラッチ及びギアアセンブリ311の係合によって、駆動ユニットアセンブリ310に設けられたドラムに展開された鋼帯232を回収することにより、標的カプセルアセンブリ200が受入セル装置300に戻るように送達される。その後、ドッキングステーション330が、標的板溶解モジュール338を標的案内管315の下部に正確に位置決めするように搬送される。その後、駆動ユニットアセンブリ310を動作させて、標的カプセルアセンブリ200を溶解モジュール338に押し込むことにより、標的板140/199と溶解モジュール338との液密シールを形成する。より詳細に後述するように、過テクネチウム酸イオン及びモリブデン酸イオンは、照射された標的板から溶解され、回収された後、別個に浄化される。
【0039】
設備設計及び空間構成制限のため、一部のサイクロトロン設備は、本開示による例示的な受入セル装置が設置されたホットセルを、受入セル装置が移送管により接続されるサイクロトロンに取り付けられた標的ステーションアセンブリからある距離のところに配置する必要があり得る。受入セル装置と標的ステーションアセンブリとの間の距離を進むのに必要な移送管の長さ及び湾曲の数が増加すると、標的カプセルアセンブリを標的ステーションアセンブリに、また標的ステーションアセンブリから送達し、回収するために使用される駆動ユニットアセンブリ及び受入セル装置の鋼帯部品に加わる応力及び歪みも増加する。したがって、本開示の別の実施形態は、受入セル装置と標的ステーションアセンブリとの間に位置する移送管内に設置可能なブースタステーション装置に関する。例示的なブースタステーション装置400が
図28、
図29に示され、一般に、ブースタステーション枠組415とブースタステーションハウジング410とを備える。ブースタステーション枠組415は、第1の移送管(図示せず)が挿通されるオリフィスを有する移送管支持板425と、ブースタハウジング裏板420と、移送管支持板425に係合する一端部及びブースタハウジング裏板420に係合する他端部を有する枠組安定板427とを備える。ブースタステーション装置は、第1の移送管の端部に係合するためのオリフィスを有するフランジ422(
図29に最もよく見られる)を備える。ハウジング410は、フランジ430及びフランジ422のオリフィスに整合するオリフィス412を備える。ハウジング410のオリフィス412により、第2の移送管(図示せず)を挿入することができる。第2の移送管は、フランジ430のオリフィスに係合される。伸長可能/後退可能な枠組を備えたピンチローラアセンブリは、上部ローラ440が取り付けられる、一対の旋回可能な上部取付アセンブリ445と、下部ローラ450が取り付けられる、一対の旋回可能な下部取付アセンブリ455と、旋回可能な上部取付アセンブリ445及び旋回可能な下部取付アセンブリ455の左側の対を、旋回可能な上部取付アセンブリ及び旋回可能な下部取付アセンブリの対応する右側の対(図示せず)に接続するフランジ430とを備える。ピンチローラアセンブリ445、455、430を伸長させ、後退させるための一対のアクチュエータ460が、ブースタステーション枠組415に取り付けられる。ピンチローラアセンブリ445、455、430が伸長されたときに上部ローラ440を回転させるためのピンチローラアセンブリ445、455、430に、駆動ユニット465が取り付けられる。ピンチローラアセンブリ445、455、430が
図28に示すように後退位置にあるときに、上部ローラ440及び下部ローラ450は、標的管の直径よりもさらに離れて位置決めされて、標的カプセル装置及び標的取上げ装置がブースタステーションを通過できるようにする。ピンチローラアセンブリ445、455、430が
図29に示すように完全に伸長されると、上部ローラ440及び下部ローラ450が鋼帯の上下面に摩擦係合して、駆動ユニット465により与えられる原動力を加えて、サイクロトロンに係合した標的ステーションアセンブリへの標的カプセル装置の送達を支援し、又は駆動ユニット465の回転方向に応じた、受入セルへの標的カプセル装置の送達を支援する。与えられる摩擦の程度は、線形アクチュエータ460に加えられた空気圧により調整される。
【0040】
本開示の本実施形態の別の例示的な態様は、モリブデン酸イオン及び過テクネチウム酸イオンを陽子照射標的板から溶解及び回収し、次いでモリブデン酸イオン及び過テクネチウム酸イオンを分離し、別個に浄化するためのプロセスに関する。陽子照射標的板の露出面を、約3%~約30%のH2O2の再循環溶液に約2分~約30分接触させて、標的板
の表面からモリブデン酸イオン及び過テクネチウム酸イオンを溶解させることにより、酸化物溶液を形成する。過酸化物溶液を再循環させてもよい。例えば、チャンバ本体に配置されたヒータカートリッジにより溶解チャンバ338を加熱することによって、過酸化物溶液を加熱してもよい。酸化物溶液を回収した後、溶解システム及び標的板を脱イオン蒸留水ですすいで洗い流す。すすぎ/洗浄水が、酸化物溶液に添加され、混合される。その後、約1N~約10NのKOH、或いは、約1N~約10NのNaOHを混入することにより、回収された酸化物/すすぎ液のpHを約14に調節する。その後、pH調節された酸化物/すすぎ液を約80℃まで約2分~約30分加熱して、pH調節された酸化物/すすぎ液中の任意の残留H2O2を分解することができる。酸化物/すすぎ液の強塩基性pHが、モリブデン種及びテクネチウム種を、それぞれK2[MoO4]イオン又はNa2[MoO4]イオン及びK[Tc04]イオン又はNa[TcO4]イオン、或いは、Mo2(OH)(OOH)、H2Mo2O3(O2)4、H2MoO2(O2)等に例示される形として維持する。
【0041】
その後、pH調節された(且つ場合によって加熱された)酸化物/すすぎ液を、ダウエックス(DOWEX)(登録商標)IX8、ABEC-2000、AniligTc-02等(ダウエックスはDow Chemical Co.,Midland,MI,USAの登録商標)により例示される商用樹脂が充填された固相抽出(SPE)カラムに押し通す。過テクネチウム酸イオンは樹脂ビーズに固定化され、溶液中のモリブデン酸イオンはSPEカラムを通過してSPEカラムから出る。モリブデン酸イオン溶液は、リザーバに集められる。その後、SPEカラムに対する過テクネチウム酸塩の親和性を維持するが、モリブデン酸塩及び他の不純物が確実に除去されるように、SPEカラムを適切な溶液ですすぐ。集められたモリブデン酸イオン溶液にすすぎ液を添加する。その後、CHCl3(0.1~1.0mg/mL)中の臭化テトラブチルアンモニウム(5~10mL)を用いて、過テクネチウム酸イオンをSPEカラムから溶出する。或いは、NaI(0.1~1.0mg/mL)により、過テクネチウム酸イオンをSPEカラムから溶出してもよい。
【0042】
SPEカラムから溶出された過テクネチウム酸イオン溶液を、適切なカラムが先行するアルミナカラムに押し通して、溶出成分を除去する。ダワー(登録商標)/ABECについて、アルミナカラムに陽イオン交換SPEカートリッジが先行して、溶出剤から残留塩基を除去する。また、アルミナカラムにSPEカートリッジが先行して、ヨウ化物を溶出剤から除去し、過テクネチウム酸塩をアルミナに固定化してもよい。NaIを使用してTcO4を除去することはオプションであり、この場合、Ag/AgCl SPEカートリッジがアルミナカラムの形で必要とされる。吸着された過テクネチウム酸イオンを水で洗浄した後、0.9%のNaCl(w/v)を含む生理食塩水で、0.2ミクロンのフィルタを通して溶出し、鉛遮蔽容器のバイアルに集める。アルミナカラムからの溶出剤は、不純物のない無菌のNa[Tc04]を含む。
【0043】
SPAカラムから集められたモリブデン酸イオン/すすぎ液を乾燥させる。適切な乾燥方法として、凍結乾燥が挙げられる。これにより得られる粉末を約3%~約35%のNaOH溶液、或いは、約3%~約35%のKOH溶液に懸濁させた後、溶液を濾過して乾燥させることができる。これにより得られた粉末を蒸留水で可溶化させ、再び乾燥させて、清浄なNa2MoO4生成物或いはK2MoO4生成物を得る。その後、Na2MoO4又はK2MoO4を強酸性陽イオン交換カラムに押し通して、H2[MoO4]、及びヘプタモリブデン酸塩、オクタモリブデン酸塩に例示されるその他のモリブデンの高分子酸化物種の回収及び溶出を可能にする。その後、溶出された酸化モリブデンを凍結、乾燥、及び保管する。このように回収、保管された乾燥酸化モリブデン粉末を、前述したように、新しい標的板への被覆のために還元することができる。
【0044】
したがって、本開示の別の例示的な実施形態は、モリブデン酸イオン及び過テクネチウム酸イオンの溶解、回収、及び浄化のために照射Mo-100被覆標的板を受けて取り付けるための、本明細書で開示された例示的な受入セル装置と係合可能且つ協働可能な、溶解/浄化モジュールとも総称されるシステム及び装置に関する。開示された本実施形態の例示的な溶解/浄化モジュールは、一般に、
(i)照射Mo-100被覆標的板(「溶解チャンバ」とも呼ぶ)を間接的に取り付けるためのシール可能な容器と、
(ii)リザーバ、リザーバ及び溶解容器を相互接続する導管構造、H2O2溶液を再循環させるためのポンプ、新しいH2O2溶液を投入するための入口ポート、再循環するH2O2溶液の一部を制御可能に除去するための出口ポート、並びに再循環するH2O2溶液の放射能、温度、流量等をモニタリングするための計器を備えた、H2O2溶液の再循環供給部と、
(iii)溶解容器及びH2O2溶液の再循環供給部の溶解後洗浄のために溶解容器に相互接続された、蒸留水の供給部と、
(iv)過テクネチウム酸イオン及びモリブデン酸イオンを固定化し可動化するための使い捨て樹脂カートリッジに個々に係合するための複数のポート、過テクネチウム酸イオン、モリブデン酸イオン、及び樹脂カートリッジからの洗浄廃水を別個に回収するための導管構造、並びに回収された過テクネチウム酸イオン、モリブデン酸イオン、及び洗浄廃水を捕捉し、保管するための充填/キャッピングステーションを備えた化学加工ステーションとを備える。
本開示はまた、以下の[1]~[13]を提供する。
[1] 商用グレードのモリブデン-100金属粉末を約3%~約40%の過酸化水素(H
2
O
2
)を含む溶液中で酸化させて、酸化モリブデンを生成するステップと、
酸化モリブデン及びH
2
O
2
を含む前記溶液を加熱して、過剰なH
2
O
2
を変性させるステップと、
前記酸化モリブデンを乾燥させるステップと、
第1段階において、約5%未満の水素を含む雰囲気で、乾燥した酸化モリブデンを約300℃~約500℃の温度で約15分~約3時間加熱して、MoO
3
を形成するステップと、
第2段階において、約5%未満の水素を含む雰囲気で、温度を約600℃~約850℃まで約15分~約3時間上昇させて、MoO
2
を形成するステップと、
第3段階において、少なくとも約75%の水素を含む雰囲気で、温度を約1000℃~約1300℃まで約15分~約3時間上昇させて、精製されたモリブデン-100金属を形成するステップと、
精製された前記モリブデン-100金属を回収するステップとを含む、モリブデン-100金属粉末を精製するためのプロセス。
[2] 約10ミクロン未満の粒径を持つ精製されたモリブデン-100金属粉末と結合剤とを極性有機溶媒に懸濁させ、混合させるステップと、
モリブデン酸塩-100混合物に、遷移金属を含む陰極板と導電性金属を含む陽極板とを挿入するステップと、
約300V~約1300Vの電位を前記陽極板及び前記陰極板に印加するステップと、 前記陰極板を前記モリブデン酸塩-100混合物から回収するステップと、
前記陰極板を約1200℃~約1900℃の温度で約3時間~約8時間焼結させるステップとを含む、モリブデン-100金属で被覆された硬化した標的板を生産するためのプロセス。
[3] 前記遷移金属がタンタルである、[2]に記載のプロセス。
[4] 略無酸素環境において、モリブデン-100で被覆された硬化した標的板に、約16MeV~約30MeV及び約80μA~約300μAの陽子を約30分~約8時間照射するステップと、
照射された前記標的板を回収し、照射された前記標的板をテクネチウム-99m回収モジュールに搬送するステップと、
モリブデン原子及びテクネチウムイオンを、照射された前記標的板からH
2
O
2
溶液により溶解させて、酸化物溶液を形成し、
前記酸化物溶液のpHを約13~約15まで上昇させて、K
2
[MoO
4
]イオン及びK[TcO
4
]イオン、或いは代替としてNa
2
[MoO
4
]イオン及びNa[TcO
4
]イオンを前記酸化物溶液中に形成するステップと、
pH調整された前記酸化物溶液を樹脂カラムに流して、K[TcO
4
]イオン、或いは代替としてNa
2
[MoO
4
]イオン及びNa[TcO
4
]イオンを前記樹脂カラムに固定化し、K
2
[MoO
4
]イオン又はNa
2
[MoO
4
]イオンを前記樹脂カラムから溶出させるステップと、
結合されたK[TcO
4
]イオン又はNa[TcO
4
]イオンを前記樹脂カラムから溶出させるステップと、
溶出された前記K[TcO
4
]イオン又はNa[TcO
4
]イオンをアルミナカラムに流して、K[TcO
4
]イオン又はNa[TcO
4
]イオンを前記アルミナカラムに固定化するステップと、
固定化された前記K[TcO
4
]イオン又はNa[TcO
4
]イオンを水で洗浄するステップと、
固定化された前記K[TcO
4
]イオン又はNa[TcO
4
]イオンを生理食塩水で溶出させるステップと、
溶出された前記Na[TcO
4
]又はNa[TcO
4
]イオンを回収するステップとを含む、モリブデン-100金属粉末からテクネチウム-99mを生産するためのプロセス。
[5] Mo
2
(OH)(OOH)、H
2
Mo
2
O
3
(O
2
)
4
、H
2
MoO
2
(O
2
)等に例示される1つ又は複数の酸化されたモリブデン種が生成される、[4]に記載のプロセス。
[6] モリブデン-100被覆標的板を内部に収容するための標的カプセル装置と、
前記標的カプセル装置に係合して、標的セル装置を標的ステーション装置に送達するための標的カプセル取上げ装置と、
前記標的カプセル装置を受けて内部に取り付けるための標的ステーション装置であって、サイクロトロンに係合し、前記モリブデン-100被覆標的板に陽子を照射するために前記サイクロトロンに連通可能な標的ステーション装置と、
照射された前記標的カプセル装置を受けて内部に取り付けるための受入セル装置と、
前記受入セル装置と前記標的ステーション装置とを相互接続する移送管と、
陽子照射モリブデン-100被覆標的板を内部に受けるための溶解/浄化モジュールと、
(i)前記標的カプセル取上げ装置と前記標的ステーション装置とを相互接続し、(ii)前記標的ステーション装置と前記受入セル装置とを相互接続し、(iii)前記受入セル装置と前記溶解/浄化モジュールとを相互接続する搬送導管構造と、
前記標的ステーション装置への無酸素雰囲気の供給部とを備えた、モリブデン酸塩-100からテクネチウム-99mを生産するためのシステム。
[7] 前記移送管に係合されるブースタステーション装置をさらに備える、[6]に記載のシステム。
[8] [6]に記載の標的カプセル装置。
[9] [6]に記載の標的カプセル取上げ装置。
[10] [6]に記載の標的ステーション装置。
[11] [6]に記載の標的ステーション受入セル装置。
[12] [6]に記載の溶解/浄化モジュール。
[13] [7]に記載のブースタステーション装置。