(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】皮下植込型医療装置および皮下植込型医療装置の信号を処理する方法
(51)【国際特許分類】
A61N 1/39 20060101AFI20220530BHJP
A61B 5/273 20210101ALI20220530BHJP
A61B 5/28 20210101ALI20220530BHJP
A61B 5/33 20210101ALI20220530BHJP
【FI】
A61N1/39
A61B5/273
A61B5/28
A61B5/33 120
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020115480
(22)【出願日】2020-07-03
【審査請求日】2020-11-06
(32)【優先日】2019-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】510166157
【氏名又は名称】ソーリン シーアールエム エス ア エス
【氏名又は名称原語表記】SORIN CRM S.A.S.
(74)【代理人】
【識別番号】100064012
【氏名又は名称】浜田 治雄
(72)【発明者】
【氏名】ティエリー ルゲ
(72)【発明者】
【氏名】ラファエル コルデロ アルヴァレス
(72)【発明者】
【氏名】デルフィーヌ フォイヤーシュタイン
【審査官】土谷 秀人
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-500549(JP,A)
【文献】特表2008-526462(JP,A)
【文献】特表2006-522650(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0287876(US,A1)
【文献】特表2006-508774(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0111264(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/39
A61B 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮下植込型能動医療装
置であって、
ハウジング(12)
と、
ハウジング(12)に接続された皮下植込型リード(14)
と、
ここで、皮下植込型リード(14)は、少なくとも2つの電気信号が同時に収集される少なくとも2つの双極子(D1、D2)を形成する複数の感知電極(20、22、24)を含
み、
ここで、第1の双極子(D1)は、第2の双極子(D2)の長さ(L2)より短い長さ(L1)を有
し、
および
R波の検出に対応する脱分極ピークの検出が第1の双極子(D1)を介して実行されるような、定義された一連の心周期の間に、第1の双極子(D1)、および第2の双極子(D2)を介して同時に収集された電気信号に基づいて、類似性の基準を決定することによって頻脈性不整脈が存在するかどうかを決定するように構成された制御器(28)
と、
制御器(28)は、第1の双極子(D1)を介して収集された信号と第2の双極子(D2)を介して収集された信号を組み合わせるように構成され、そして第1の双極子(D1)を介して収集された信号の関数として第2の双極子(D2)を介して収集された信号の表現に基づいて、時間の関数としてパラメータ化され患者の心臓活動を表して、2次元曲線を決定し、類似性の基準は、前記2次元曲線と正常洞調律を表す基準2次元曲線との比較によって定義されること、
を含む皮下植込型能動医療装置。
【請求項2】
皮下植込型リード(14)の第1の双極子(D1)および第2の双極子(D2)を介して収集された信号が、QRS波を含み、かつR波の検知を中心とする時間窓にわたって考慮され、R波の検知は第1の双極子(D1)のみを介して行われる請求項1に記載の皮下植込型能動医療装置。
【請求項3】
制御器(28)は、前記2次元曲線の複数の点の連続する各点の間の接線ベクトルの座標の少なくとも1つのサインの変化の関数として収集された信号における、望ましくない雑音の有無を同定するようにさらに構成されている請求項1
または2に記載の皮下植込型能動医療装置。
【請求項4】
制御器(28)は、前記2次元曲線の複数の点の連続する各点の間の接線ベクトル変化サインの座標の少なくとも1つの数を決定し、かつ、その数を望ましくない雑音を示す所定の閾値数と比較することによって、望ましくない雑音の存在を同定するように構成されている請求項
3に記載の皮下植込型能動医療装置。
【請求項5】
制御器(28)は、収集された信号と正常洞周期を表す基準信号との間で類似している周期の数を計算することによって、類似性の基準に基づいて決定される大部分の基準を決定することによって、頻脈性不整脈の有無を決定するようにさらに構成されている請求項
1に記載の皮下植込型能動医療装置。
【請求項6】
皮下植込型リード(14)が、除細動電極(26)をさらに含む請求項1~
5のいずれか1項に記載の皮下植込型能動医療装置。
【請求項7】
類似性の基準が治療対象の頻脈性不整脈の存在を示す場合に、除細動電極(26)によって除細動動作をトリガーするように制御器(28)が構成されている請求項
6に記載の皮下植込型能動医療装置。
【請求項8】
制御器(28)が、加速度計および/またはジャイロスコープによって患者の位置を決定するように構成され
る加速度計および/またはジャイロスコープ
をさらに含み、前記制御器は前記2次元曲線を、正常洞調律を表す基準2次元曲線の決定された前記位置における基準2次元曲線と比較することによって、類似性の基準を決定するようにさらに構成され
る請求項1~
7のいずれか一項に記載の皮下植込型能動医療装置。
【請求項9】
前記皮下植込型能動医療装置が皮下心臓除細動器である請求項1に記載の皮下植込型能動医療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮下植込型心臓装置のための信号を処理する方法、およびこのような皮下植込型心臓装置、特に皮下植込型除細動器に関する。
【背景技術】
【0002】
「植込型除細動器」または「ICD」としても知られる従来型、すなわち、経静脈型、植込型自動除細動器は、一般に胸部パウチに植込まれる金属ハウジング内に収容される除細動パルス発生器およびマイクロプロセッサ監視および制御ユニットを含む。このハウジングは、心臓に到達するまで鎖骨下静脈に挿入される1つまたはそれ以上のリードに接続される。心臓の内部では、リードの遠位端が心腔の内壁に付着しており、心臓の電気生理学的機能を反映する電位図(EGM)を記録することができる。EGMをもとに、心室頻拍や心室細動など、生命を脅かす心室性頻脈性不整脈を終息させるために、除細動(除細動ショック)という形での治療が行われる(あるいは割り込まれる)。
【0003】
このような経静脈的植込型自動除細動器(および心臓刺激器または「ペースメーカ」および類似の装置)の最も弱い要素は、心臓内リードである。実際、リードの破損は、ペースメーカの機能不全の最も一般的な原因の1つである。植込型ICDリード(または植込型ペースメーカーリード)を抜去することは、高い罹患率と高い死亡率を苦しむ手技であり、一般的には抗生物質を用いて治療できない重篤な全身感染症の場合にのみ行われる。大多数の状況では、破損したリードは装置から切り離され、心臓に残される。その後、古いリードの隣に新しいリードを植込み、植込型自動除細動器に接続する。しかし、この解決策は、静脈内に十分な空間が残っている場合にのみ可能である。なぜなら、より多くのリードの存在が静脈閉塞を引き起こす可能性があるからである。したがって、心臓内リードの使用は、生涯に多数のリードを必要とする可能性のある若年患者には理想的ではない。
【0004】
心臓内リードに関連する上記の問題の解決策は、それらを皮下リードに置き換えることである。そのようにして、心臓との接触や血液との接触がなければ、全身感染のリスクはなくなり、静脈はもはや閉塞しなくなる。さらに、皮下リードは心臓に触れないため、心臓内リードを抽出するのとは異なり、皮下リードを抽出するのは外傷性が低く、死亡のリスクもない。その結果、リードが破損した場合に非常に安全に取り外すことができ、その後、患者のリスクなしに新しい皮下リードと交換することができる。
【0005】
皮下植込型装置の主な課題は、皮下に記録された信号の信号対雑音比の減少および好結果の除細動に必要なエネルギーの増加に関連している。皮下植込型装置はEGMを記録するのではなく、遠方視野で空間的に平均化される電気生理学的活動を捉える皮下心電図(ECG)を記録する。その後、R波に比べて皮下信号の方がP波とT波が大きくなり、多数の頻脈性不整脈検出アルゴリズムに基づくR-R間隔の検出がより困難になる。筋電位のような非心雑音源もまた、皮下信号を劣化させ、検出アルゴリズムを妨害し、それによって処理および治療を妨害することができる。さらに、皮下信号は心内信号よりも姿勢の変化に対して感受性が高い傾向にある。全体として、これらの困難は、従来の植込型自動除細動器よりも複雑な検出手順をもたらす。特許文献1、および特許文献2から知られる心内膜電位図信号を処理するためのアルゴリズムまたは方法は、真性心室頻拍(VT)と上室性頻拍(SVT)を識別できるように構成されている。しかしながら、これらの既知のアルゴリズムは、皮下で収集された信号に基づいて頻脈性不整脈を検出するようには適応されていない。実際、皮下除細動器は、雑音およびP波またはT波の過剰検出または「過剰感知」に罹りやすいため、皮下除細動器の特定の状況において、雑音またはP波またはT波が過剰感知された場合にVTまたは心室細動(VF)を診断するリスクを最小限にすることが必要である。例えば、植込型自動除細動器において、収集された信号の誤った解釈は、外傷性であったり、患者に有害にもあり得る不適切なショックをもたらす可能性がある。
【0006】
上述の限界を考慮すると、特に頻脈性不整脈の有無を確認できるように、またTまたはP波(または雑音)の過剰感知と頻脈性不整脈とを区別できるように、皮下リードを介して収集される信号の処理を改善する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】欧州特許出願公開第2105843A1号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2368493A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、皮下医療装置の皮下リードによって収集された信号の処理を改善し、特に、皮下リードを用いて記録された頻脈性不整脈エピソードの検出または「感知」および識別の感度および特異性を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ハウジングと、ハウジングに接続された皮下植込型リードとを備え、皮下植込型リードは、少なくとも2つの電気信号が同時に収集される少なくとも2つの双極子を形成する複数の感知電極を備え、第1の双極子は、第2の双極子の長さよりも短い長さを有し、デバイスは、R波の検出に対応する脱分極ピークの検出が第1の双極子を介して実行されるように規定された一連の心周期中に、第1の双極子および第2の双極子を介して同時に収集された電気信号に基づいて、類似性の基準を決定することによって、頻脈性不整脈が存在するか否かを決定するように構成された制御器をさらに備える皮下植込型能動医療デバイス、特に皮下心臓除細動器を提供することによって、この目的を達成する。
【0010】
第1の双極子を介して収集された信号に基づいて脱分極ピークを検出することは、第1の双極子が皮下リードの2つの双極子のうちの短いものであるため、R波の皮下検出の質を改善することを可能にし、従って、第2の双極子よりもQRS複合体を検出するときに雑音の過剰感知のリスクまたは誤差のリスクにさらされにくい。実際、第1の双極子の電極間にカバーされる距離は短く、それによって、外部ソースによって信号が劣化するリスクが低減される。たとえば、筋電位を導入できる電極間の筋肉量は少ない。
【0011】
皮下移植可能な能動医療デバイスを提供する際に、本発明は、以下の実施形態によってさらに改善され得る。
【0012】
本発明の1つの実施形態では、皮下植込型リードの第1の双極子、および第2の双極子を介して収集された信号は、QRS波を含み、かつR波の検出を中心とする時間窓にわたって考慮されてもよく、R波の検出は、第1の双極子のみを介して行われる。
【0013】
したがって、第1の双極子を介して収集された信号のR-R間隔を決定することができ、時間窓、例えば、80ミリ秒(ms)から150msの範囲の時間窓、特に100msの時間窓を、第1の双極子を介して実行されるR波の検出に中心を置くことができる。したがって、R波の検出は、さらなる計算コストを加えないように、第2の双極子上では行わない。第1の双極子からの信号と共に現在収集されている第2の双極子からの信号、特に時間窓のみの間は、装置のメモリに記録することができる。
【0014】
本発明の1つの実施形態では、制御器は、第1の双極子を介して収集された信号と第2の双極子を介して収集された信号とを組み合わせ、第1の双極子を介して収集された信号の関数として第2の双極子を介して収集された信号の表現に基づいて、時間の関数としてパラメータ化され患者の心臓活動を表して、2次元曲線を決定するように構成されてもよく、類似性の基準は、比較、特に相関によって、前記2次元曲線と正常洞調律で代表的な基準2次元曲線との間で定義される。
【0015】
制御器によって決定された2次元曲線を有することによって、第1の双極子を介して収集された信号と第2の双極子を介して収集された信号とを組み合わせることが可能となり、このようにして、皮下リードの2つの双極子から来る情報が、同時に考慮されることが可能となり、特に、双極子に応じて-異なる電気信号形態を考慮することによって、より関連性の高い収集された信号の起源に関連するパラメータを得ることに寄与する。収集された信号の起源に関するこのようなパラメータは、特に、類似性の基準の決定に関与する。
【0016】
本発明の1つの実施形態では、前記2次元曲線の複数の点の連続する各点の間の接線ベクトルの座標の少なくとも1つの符号の変化の関数として、収集された信号における望ましくない雑音の有無を識別するように、前記制御器をさらに構成することができる。より正確には、制御器は、接線ベクトル変化符号の座標のうちの少なくとも1つの回数を、前記2次元曲線の複数の点の連続する各対の間で決定し、その数を望ましくない雑音を示す所定の閾値数と比較することによって、望ましくない雑音の存在を識別するように構成されてもよい。
【0017】
実際、非騒音心周期については、2つの双極子上で検出された信号の間に関係または比率が存在し、これは、2次元曲線が本質的に均一な様式で表されることを意味する。逆に、雑音の多い心周期、すなわち心臓外起源のアーチファクトを含む周期については、2次元曲線を不規則に表現することができる。このような不規則な表現は、接線ベクトルの座標の少なくとも1つが2次元曲線の連続する点の各対の間で符号を変化させる回数によって特徴付けられることがある。このように、制御器は、ソフトウエア資源の観点から速くかつ費用効果的な計算によって収集された信号中の雑音の存在を同定するように適応される。装置の制御器は、R波の検出のための閾値を増加させることによって、または不応期間を長くすることによって、例えば、30秒間、ある一定の時間、「雑音モード」に移行するように構成することができる。
【0018】
本発明の1つの実施形態では、制御器は、収集された信号と正常な洞周期を代表する基準信号との間で類似している周期の数を計算することによって、類似性の基準に基づいて決定される大部分の基準を決定することによって、頻脈性不整脈の有無を決定するようにさらに構成されてもよい。
【0019】
したがって、大多数の基準を用いて、頻脈性不整脈エピソードの存在の確認を推測することができる。逆に、T波および/またはP波の過剰感知が起こっており、したがって特別な治療は必要ないと結論付けられるかもしれない。したがって、この装置は、T波またはP波(または雑音)の過剰感知を頻脈性不整脈から区別することができるように構成されており、これは、経静脈性除細動器よりも雑音および/またはP波またはT波を過剰感知しやすい皮下除細動器の特定の状況において必要である。
【0020】
本発明の1つの実施形態では、皮下植込型リードは、除細動電極をさらに含むことができる。さらに、類似性の基準が治療すべき頻脈性不整脈の存在を示す場合に、除細動電極によって除細動手術をトリガーするように、制御器を構成してもよい。
【0021】
このように、皮下植込型医療装置は、頻脈性不整脈エピソードを検出するだけでなく、必要であれば除細動電気パルスを送出することによって、そのような状態を治療するためにも適応する。
【0022】
本発明の1つの実施形態では、皮下植込型能動医療装置は、加速度計および/またはジャイロスコープによって患者の位置を決定するように構成された加速度計および/またはジャイロスコープをさらに含み、前記制御器は、前記2次元曲線を、正常洞調律を表す基準2次元曲線の決定された前記位置における基準2次元曲線と比較することによって、類似性の基準を決定する。
【0023】
皮下信号は心内信号よりも姿勢に対する感受性が高い。このように、患者の位置を検出することを可能にすることにより、収集された電気信号の解釈をより細かくすることができ、従って改善される。
【0024】
本発明の目的は、皮下植込型医療装置の皮下植込型リードの電極によって、第1の双極子上で同時に収集された電気信号を処理する方法を、定義された一連の心周期の間に提供することによっても達成され、この方法は、1)時間の関数としてパラメータ化され、第2の双極子を介して収集された信号を第1の双極子を介してプロットすることによって、患者の心臓活動を表す2次元曲線を決定すること、2)収集された信号における望ましくない雑音の有無を、2次元曲線の複数の点の連続する各点の間の接線ベクトルの座標の少なくとも1つの変化の関数として同定すること、および/または3)前記2次曲線と正常洞調律を表す基準2字曲線との間の類似性の基準に基づいて頻脈性不整脈エピソードの有無を確認すること、を含む。
【0025】
2次元曲線を決定する工程1)は、第1の双極子を用いて収集された信号を第2の双極子を用いて収集された信号と組み合わせることを可能にする。このようにして、皮下リードの2つの双極子から来る情報を、特に双極子に応じて-異なる電気信号形態を考慮することによって-同時に考慮することが可能になり、それによって、より関連性のある収集された信号の起源に関連するパラメータを得ることに寄与する。さらに、皮下で収集された信号は、特に望ましくない雑音に曝されるので、本方法の工程2)は、望ましくない雑音の有無を同定することを可能にし、同じ2次元曲線によってそうすることを可能にし、それによって、雑音サイクルが処理されないか、収集された信号の処理中に考慮されないので、ソフトウェア資源の観点から計算コストを低減することを可能にする。最後に、本方法の工程3)は、頻脈性不整脈の有無を識別することを可能にし、この識別は、前記二次元曲線に基づいても行われる。したがって、信号を処理する本発明の方法は、皮下植込型医療装置に対して特異的に適応され、最適化される。
【0026】
電気信号を処理する方法を提供する際に、本発明は、以下の実施形態の手段によってさらに改良され得る。
【0027】
本発明の1つの実施形態では、本方法の工程1)に先立って、初期分析工程、特に、収集された信号における頻脈性不整脈エピソードの潜在的存在を検出するために、心臓リズムおよび/または熱速度の分析を行い、初期分析工程において、皮下植込型リードの双極子の1つを介して収集された信号を、所定の頻脈性不整脈閾値と比較することができる。
【0028】
特に、この初期比較工程は、双極子からの信号に対して実施され、QRS波を検出すること、特にR波を検出することを含む。このように、この初期比較工程は、R-R間隔を所定の頻拍性不整脈閾値と比較することを含む。この工程は、2つの双極子のうちの1つのみでR波を検出することを必要とするため、本発明の方法の計算コストを最小限に抑えることができる。
【0029】
本発明の1つの実施形態において、工程1)、工程2)および/または工程3)は、収集された信号における頻脈性不整脈エピソードの潜在的存在が、初期分析工程において検出された場合にのみ実施され得る。
【0030】
したがって、信号を処理する本方法の工程1)、2)および3)は、系統的に行われるのではなく、むしろ頻脈性不整脈エピソードの存在が疑われる場合にのみ行われる。これにより、不必要な計算工程を回避することにより、本方法により計算コストをさらに削減することが可能になる。
【0031】
本発明の一実施形態では、工程2)において、2次元曲線の複数の点の連続する各点の間の接線ベクトル変化符号の座標の少なくとも1つの回数が、望ましくない雑音を示す所定の閾値数より大きい場合、望ましくない雑音の存在を同定することができる。
【0032】
実際、非騒音心周期については、2つの双極子上で検出された信号の間に関係または比率が存在し、これは、2次元曲線が本質的に均一な様式で表されることを意味する。逆に、雑音の多い心周期、すなわち心臓外起源のアーチファクトを含む周期については、2次元曲線を不規則に表現することができる。このような不規則な表現は、接線ベクトルの座標の少なくとも1つが2次元曲線の連続する点の各対の間で符号を変化させる回数によって特徴付けられることがある。したがって、この方法の工程2)は、信号内の望ましくない雑音を識別するために高速かつ費用対効果のある計算工程を提供する。
【0033】
本発明の1つの実施形態では、望ましくない雑音を示す所定の閾値数は、前記2次元曲線の複数の点の全てに対して定義されてもよい。
【0034】
したがって、望ましくない雑音の識別は、2次元曲線の複数の点のすべての点を考慮すること、すなわち、曲線の各点に含まれる情報を考慮することによって、網羅的に決定されてもよい。
【0035】
本発明の1つの実施形態では、工程3)は、初期分析工程において頻脈性不整脈エピソードの潜在的存在が検出され、工程2)において望ましくない雑音が同定されていない信号に基づいて実施される。
【0036】
雑音の過剰感知のような皮下に収集された信号に特異的に関連する制限を緩和するために、本方法は、頻脈性不整脈エピソードの有無を確認するための工程が、工程2)、すなわち、非雑音サイクルの信号に対して有効であると考えられるサイクルの信号に対してのみ誘発されることを保証する。
【0037】
本発明の1つの実施形態では、工程2)における望ましくない雑音の存在の同定に続いて、工程2)において雑音であると同定された心周期を無視するる信号処理工程、次いで、初期分析工程を再び行うことができる。
【0038】
従って、収集された信号に望ましくない雑音が存在しても、必ずしも信号が使用不能になるわけではない。
【0039】
本発明の1つの実施形態では、工程3)は、収集された信号と正常な洞周期を表す基準信号との間で類似している周期の数を決定することによって、類似性の基準に基づいて決定される大部分の基準を決定することをさらに含むことができる。さらに、本発明の実施において、大部分の基準は、頻脈性不整脈エピソードの存在を代表する所定の大部分の閾値と比較され、それによって、頻脈性不整脈エピソードの有無を確認することが可能となる。
【0040】
したがって、大多数の基準および大多数の閾値の定義値を使用すると、頻脈性不整脈エピソードの存在の確認を推測することができる。逆に、T波および/またはP波の過剰感知が起こっており、したがって特別な治療は必要ないと結論付けられるかもしれない。したがって、信号を処理する本方法は、T波またはP波(または雑音)の過剰感知を頻脈性不整脈から区別することを可能にする。これは、経静脈性除細動器よりも雑音および/またはP波またはT波を過剰感知しやすい皮下除細動器の特定の状況において必要である。
【0041】
本発明およびその利点は、以下の図面を参照して、特に記載される好適な実施形態および実施形態によって、以下でより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図2】患者に植込まれた本発明の皮下植込型装置を示す透過性の図式図である。
【
図3】信号を処理するための本発明の方法の流れ図である。
【
図4A】信号を処理するための
図3に示す本発明の方法の詳細な流れ図である。
【
図4B】信号を処理するための
図3に示す本発明の方法の詳細な流れ図である。
【
図7】頻脈性不整脈の存在を識別するために定義された分布を示す。
【
図8】本発明の方法によって正常洞調律であると分類された信号を示す。
【
図9】本発明の方法によって頻脈事象であると分類された信号を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明は、例として、および図を参照して、有利な実施形態および実施形態を使用することにより、以下により詳細に記載される。記載された実施形態および実施形態は単に可能な構成であり、本発明を実施する際には、上述の個々の特徴が互いに独立して提供されるか、または完全に省略されることがあることに留意すべきである。
【0044】
図1は、皮下除細動器タイプ10の皮下植込型医療装置10を示す。
図2は、植込状態の前記皮下植込可能装置10を示す。
【0045】
皮下除細動器10は、パルスを生成し、かつ、皮下植込可能リード14が接続されたハウジング12から構成されている。
【0046】
皮下植込リード14は、少なくとも部分的に柔軟であり、2つの末端16および18、ハウジング12に接続される近位末端16と自由な遠位末端18を有する。
【0047】
実施形態および
図2および3に示す実施形態では、皮下植込型リード14は、3つの検出電極20、22、24、および1つの除細動電極26を含む。変形例として、皮下植込リード14は、3つ以上の感知電極を含むことができる。
【0048】
皮下植込み式リード14は、また、導体ワイヤ(図示せず)を含み、リード14の電極20、22、24を、現在の技術状態からそれ自体公知であるハウジング12における電気接点(図示せず)に電気的に接続することが可能になる。
【0049】
皮下植込リード14の感知電極20、22、24は、患者の心臓活動を推定するために使用される電気信号を検出することを可能にする。
【0050】
しかし、皮下で電気生理学的活動を検出または感知することは、筋肉電気雑音または外部環境との干渉のような多数のアーチファクトによって劣化する。また、リード14は皮下型であるため、感知電極20、22、24は心筋、すなわち心筋と直接接触していない。感知電極20、22、24の適切な位置決めは、検出され収集された電気生理学的信号の質を改善することを可能にし、それによってR波の検出の質(すなわち、脱分極ピークの質)をそれに応じて改善することを可能にする。また、収集された信号を最適に処理することで、R波の検出品質をさらに向上させることができます。
【0051】
R波の検出を改善し、特に、R-R間隔の測定を容易にするように、P心波およびT心波の検出を最小限にするために、皮下植込型装置10は、感知電極20、22、24の特定の位置決めを有する。具体的には、
図2および3に示すように、第1の感知電極20および第2の感知電極22がハウジング12と除細動電極26の間に位置し、一方、第3の感知電極24がリード14の遠位端18と除細動電極26の間に位置する。このように、除細動電極26は、第2の感知電極22と第3の感知電極24との間に配置される。したがって、リード14の近位端16からリード14の遠位端18に向かう方向において、リードは、第1の感知電極20;第2の感知電極22、除細動電極26、および次に第3の感知電極24の順序で感知電極を含む。
【0052】
感知電極20、22、24の具体的な位置決めは、
図1のみを参照して長さに関して説明される。
図1は、非植込状態におけるリード14を示しており、ここでは、湾曲しておらず、軸Aに沿って整列されている。
【0053】
第1の感知電極20と第2の感知電極22は、長さL1の第1の双極子D1を形成する。
【0054】
図1および
図2に示す実施形態では、第2の感知電極22および第3の感知電極24は、長さL
2の第2の双極子D
2を形成する。変形例において、第2の双極子D
2は、第3の感知電極24によって、および第1の感知電極20によって形成され得る。別の変形例において、ハウジング12は電極として機能し、感知電極20、22、24の1つと双極子を形成することができる。
【0055】
第1の双極子D1の長さL1は第2の双極子D2の長さL2より短い。特に、長さL1は、5ミリメートル(mm)から50mmの範囲にあり、より詳細には、10mmから20mmの範囲にあり、一方、長さL2は、80mmから400mmの範囲にある。さらに、第1の感知電極20とハウジング12との間の距離L3は、80mmから300mmの範囲にある。
【0056】
皮下植込医療装置10は、ハウジング12内に収容された制御器28をさらに含む。装置10の制御器28は、第1の双極子D1を介して、および皮下植込型リード14の第2の双極子D2を介して同時に記録された電気生理学的信号を検出するように構成されている。制御器28は、第1の双極子D1で心臓信号のR波を検出するように構成されている。
【0057】
第1の双極子D1は第2の双極子D2より短いので、第1の双極子D1は過度に感知する危険性、すなわち過剰検出の危険性、特に、音源の雑音を記録しにくくするため、露出が少ない。さらに、装置10が皮下に植込まれている間に、第1の双極子D1が左肺心切痕の近くおよび上に位置する。第1の双極子D1のこの特別な位置決めにより、P波およびT波に対してより特徴的なR波で電気生理学的信号を検出することができ、この位置で検出されたP波およびT波はR波に対して最小化されている。
【0058】
別の実施形態では、皮下植込型能動医療装置10は、加速度計および/またはジャイロスコープによって患者の位置を決定するように制御器28が構成されるように、加速度計および/またはジャイロスコープを含むことができる。
【0059】
別の実施形態では、第1の双極子を介したR波の検出は、複数の「第2の双極子」上、すなわち第1の双極子よりも長く複数の双極子上での心臓信号の検出と組み合わせることができ、例えば、第2の感知電極22、および第3の感知電極24によって形成される双極子と、第1の感知電極20、および第3の感知電極24によって形成される双極子と、ハウジング12と感知電極20、22、24のうちの1つとの間に形成される双極子とを組み合わせることができる。
【0060】
第1の双極子D1および第2の双極子D2を介して収集された電気信号は、あらゆる頻脈性不整脈の存在を検出する目的で信号を処理するためのアルゴリズムのための入力信号として役立つ。処理に先立ち、既知の技術を用いて、信号が適切なフィルタリング、規格化、および/またはセンタリング前処理を受けることが可能である。
【0061】
この処理信号の方法は、一般に
図3を参照して以下に記載され、次いで
図4aおよび4bを参照してより詳細に記載される。
【0062】
信号を処理する方法30は、
図1および
図2を参照して、上述の皮下植込型医療装置10に適用されてもよい。
【0063】
図3に示される方法30は、第1の双極子D
1および第2の双極子D
2を介して同時に時間領域で収集される信号が記録される第1の工程100を含む。前記信号は、検出されたR波を中心とした所定の時間窓にわたって記録されてもよい。変形例において、信号は、特に頻脈性不整脈が疑われる期間に連続的に記録され得る。装置10の制御器28は、それ自体が、収集された信号が保存されるメモリを含むことができる。
【0064】
方法30の第2工程200の間に、第1の双極子D
1のみを介して収集された信号の関数として、頻脈性不整脈エピソードの潜在的存在が検出される。この第2工程200は、心リズムまたは心拍数の分析に基づいてもよい。変形例において、工程200は形態学的分析を含むことができる。頻脈性不整脈エピソードの存在が疑われない場合(
図3の矢印202参照)、方法30は初期工程100にループバックする。逆に、頻脈性不整脈エピソードの存在が疑われる場合(
図3の矢印204参照)、信号を処理する方法30は第3工程300に進む。したがって、信号を処理する方法30の以下の工程は、頻脈性不整脈エピソードの存在さえ疑われなければ、不必要に実行されない。これにより、特に、ソフトウェア資源と電力の観点からコストを削減することが可能となる。
【0065】
第3の工程300では、時間の関数としてパラメータ化され、患者の心臓活動を表す二次元曲線が、第1の双極子を介して収集された信号の関数として、第2の双極子を介して収集された信号をプロットすることによって決定される。加えて、2次元曲線の複数の点における接線ベクトルが決定される。ベクトルは、正規化ベクトルであってもよい。
【0066】
第3の工程300に続いて、第4の工程400が続き、その間に、収集された信号における望ましくない雑音の有無が、2次元曲線の複数の点の連続する各点の間の接線ベクトルの座標の少なくとも1つの符号の変化に基づいて同定される。望ましくない雑音の存在を検出するこの方法は、有する工程数が少ないために、まず、計算コストを低減することを可能にし、そして、第二に、収集された信号の振幅の解析を必要としないという事実のために、それを可能にする。
【0067】
望ましくない雑音の存在が検出される場合(
図3の矢印402を参照)、工程400に続いて、工程400で収集された信号内で検出される任意の望ましくない雑音の成分が無視される工程404が続く。次いで、工程404に続いて、前述したように、第2の工程200(
図3の矢印406参照)を行う。逆に、信号内に望ましくない雑音の存在が検出されない場合(
図3の矢印408参照)、処理信号の方法30は、第5の工程500に進む。
【0068】
第5の工程500では、2次元曲線と正常洞周期を表す基準2次元曲線との類似性の基準に従って決定される大多数の基準に基づいて、頻脈性不整脈エピソードの有無を確認するが、この基準は大多数の基準を以下により詳細に記載する。
【0069】
信号を処理する方法30およびその工程100~500は、
図4aおよび4bの流れ図を参照して、以下により詳細に説明される。同じ100番台を共有する参照番号は、同じ工程を指し、特に、
図3を参照して上に記載され、以下に参照がなされる工程100~500のいずれか1つを指す。
【0070】
第1の双極子D1、および第2の双極子D2を介して同時に時間領域で収集された信号が記録される第1の工程100に続いて工程102が続き、その間、脱分極ピークの各々の検出後、すなわちR波の各々の検出後に、対応する拍動が固定幅であり、かつ前記脱分極ピークを中心とする時間窓によって隔離される。例えば、時間窓は、R波のピークの検出を中心とする80msから150msの範囲の幅、特に100msの幅を有し、1000ヘルツ(Hz)のサンプリング周波数に対して100点に相当する。この値は100ミリ秒であり、その形態を解析するためにQRS複合体を単離することが可能である。装置10の制御器28は、複数の連続した検出サイクルをそのメモリに保持するように構成されている。R波の検出は、特に、R-R間隔の決定を可能にする。
【0071】
本発明の有利な実施形態では、R波の検知は、第1の双極子D1のみを介して収集された信号に基づいて行われる。したがって、R波の検知は、いかなる計算費用も追加しないように、第2の双極子D2上では行われない。加えて、第1の双極子D1は第2の双極子D2よりも短いので、第1の双極子D1は、特に、音源の雑音を記録しにくいので、劣化しにくい。実際、長さL1=5mm~50mm、特にL1=10mm~20mmの第1双極子D1の幾何学は、第1の双極子D1を筋電位に対してあまり容易にレンダリングできないようにする。また、リードを植込む際には、双極子D1の位置により、R波/P波比、R波/T波比の検知を最適化することができ、過剰感知の危険性を減少させることができる。しかしながら、第1の双極子D1の信号と同時に収集される第2の双極子D2の信号は、メモリに保持され、信号を処理する方法30の工程300で使用される。
【0072】
方法30の第2の工程200の間に、短い双極子D1を介して収集された信号のR-R間隔に基づいて潜在的存在がある頻脈性不整脈エピソードの潜在的存在が決定される。先行する工程102で計算されたR-R間隔が頻脈性不整脈を表す閾値未満である場合、頻脈性不整脈エピソードの存在が疑われる。変形例において、頻脈性不整脈エピソードの潜在的存在は、複数のサイクルにわたる、例えば5サイクルから20サイクルにわたる、特に8サイクルにわたる移動平均を考慮することによって確立され得る。所定の頻拍性不整脈閾値は、固定値または調節可能な値、特に患者ごとにプログラム可能な値を有していてもよい。
【0073】
図3を参照して説明したように、頻脈性不整脈エピソードの存在が疑われなければ(
図4aの矢印202参照)、方法30は第1の工程100にループバックする。逆に、頻脈性不整脈エピソードの存在が疑われる場合(
図4aの矢印204参照)、信号を処理する方法30は第3の工程300に進む。
【0074】
第3の工程300では、第1の双極子D
1を介して、および第2の双極子D
2を介して、同時にかつサブカタログに記録された連続する拍動、すなわち、拍動の一部がQRS複合体を構成する時間窓内にあり、R波を中心とするものは、横座標に沿って第1の双極子D
1を持ち、第2の双極子が縦座標をD
2する2次元曲線の形で表される。変形例では、第2の双極子D
2は横座標に沿っていてもよく、第1の双極子D
1は縦座標に沿っていてもよい。このような2次元曲線を
図5に示すが、
図5に示すように、2次元曲線は、完全な心臓ループの一部、すなわち、時間窓内で隔離されたQRS波にのみ対応するので、閉ループではない。
【0075】
収集された信号の2次元分析、すなわち2次元での分析は、それ自体を制限している方法で解釈すべきではない。本発明は、3つ以上の双極子を介して皮下および同時的に信号が収集される状況に、本記述の教示を外挿することにより、高次(三次元以上)の多次元空間での分析に等しく適用される。
【0076】
図4aに示すように、収集された信号における望ましくない雑音の有無が同定される方法30の工程400は、3つの連続するサブ工程401、403、および405を含む。
【0077】
工程400の第1のサブ工程401では、工程300で決定された2次元曲線の各点における接線ベクトルの座標が計算される。
【0078】
工程400の第2のサブ工程403において、方法30のアルゴリズムは、各接線ベクトルの2つの座標のうち少なくとも1つが2次元曲線上の2つの連続点間で符号を変化させる回数を計算する。
【0079】
このように第2のサブ工程403は、2次元曲線の曲率を特徴付けることを可能にする。実際、雑音の多い心周期ではない場合、2つの双極子D
1とD
2を介して収集された信号の間には、2次元曲線が本質的に一様な方法で表現されることを意味する関連性が存在する。逆に、雑音の多い心周期、すなわち心臓外起源のアーチファクトを含む周期については、
図6に示すように、2次元曲線を不規則に表現することができ、次いで、このような不規則な表現(
図6参照)を、本発明に従い、2次元曲線の連続する各点の間の接線ベクトルの座標の少なくとも1つが符号を変化させる回数によって特徴づける。
【0080】
工程400の第3のサブ工程405において、方法30のアルゴリズムは、符号の変化数を望ましくない雑音を示す所定の閾値数と比較する。望ましくない雑音を示す所定の閾値数は、2次元曲線の複数の点のすべてに対して定義され得る。変形例では、望ましくない雑音を示すこの所定の閾値数は、所与の連続した点のある数に対する絶対閾値であると定義され得る。
【0081】
信号中に望ましくない雑音の存在が検出されない場合(
図4aおよび4bの矢印408参照)、信号を処理する方法30は、第5の工程500に進む。
【0082】
逆に、望ましくない雑音の存在が信号内で検出される場合(
図4aの矢印402を参照)、工程400のサブ工程405に続き、工程400で検出される収集された信号内の望ましくない雑音の成分が無視される工程404が続く。変形例では、検出された雑音サイクルの一定の数の後に、アルゴリズムは、「雑音モード」と呼ばれるモードを誘発し、このモードでは、パラメータ、特にR波を検出するための閾値が、例えば30秒間の一定の時間経過の間、一時的に修正される。別の変形例では、このアルゴリズムは、雑音モードにおいて、一定の所定の経過時間にわたって不応期間を長くする。
【0083】
工程404に続いて、工程407(
図4aの矢印406参照)が続き、その間、R-R間隔が、望ましくない雑音が無視され、したがって考慮されていない信号について再度計算される。次いで、工程407に続いて、前述の工程200が続き、その間に、望ましくない雑音が清浄化された信号のR-R間隔を、頻脈性不整脈を示す閾値と比較する。
【0084】
図4bに示すように、頻脈性不整脈の有無が確認される方法30の工程500は、501、503、505、および509の3つの連続したサブ工程を含む。
【0085】
信号が望ましくない雑音を含まないが、R-R間隔が頻脈性不整脈を示す閾値よりサブ工程500の第1のサブ工程501(方法30の工程200を参照)では、比較分析、特に類似性分析が開始される。このように、サブ工程501において、工程300で決定された2次元曲線は、正常な洞調律を表す、すなわち、例えば、制御器28のメモリに予め記録されている基準2次元曲線と比較される。
【0086】
変形例では、工程501は、正常洞周期に加えて、「P波」の基準および「T波」の基準を考慮することによって、類似性の基準を決定することを含むことができる。したがって、この変形例の工程501は、同時に、「T基準との類似性」または「P基準との類似性」があるため、潜在的なP/T過剰感知を同定することを可能にする。
【0087】
各周期の類似性を正常洞調律の基準と分類するために、類似性の基準を工程501で決定する。類似性の基準を用いると、各周期は「正常洞調律に似ている」、もしくは「正常洞調律に似ていない」のいずれかに分類される。
【0088】
類似性の基準を決定するために、各点における各曲線の接線ベクトルを決定する。次に、各点における2つの曲線の接線ベクトル間の平均角度を決定する。次に、各点における2つの曲線の接線ベクトルのノルム間の相関係数を決定する。最後に、
図7に示すように、平均角度と類似係数をグラフで表し、そこから曲線が相互に類似しているかどうかを判断することができる。
図7のグラフは、各周期の分類を、洞基準に「類似している」か、洞基準に「類似していない」か、を表しており、「類似していない」と分類した場合、方法30の現段階では、周期が過剰感知を表しているのか、頻脈性不整脈を表しているのかを知ることは不可能である。つまり、工程500のサブ工程503において、大部分の基準が決定されることになる。
【0089】
大部分の基準は、正常洞調律(NSR)を表す基準の周期に類似するCiの数の、最後に記録されたN非騒音性拍動にわたる関数であり得る。変形例では、類似性の基準は、また、比率Ci対N(Ci/N)によって定義され得る。ここで、Nは、記録された最後の雑音でない拍動の個数である。このようにして、基準周期と周期の類似性は、工程501の類似性の基準によって決定される。
【0090】
工程500のサブ工程505では、この大部分の基準、すなわち、Ciまたは比率Ci/Nの値が、頻脈性不整脈エピソードCrefの欠如を表す所定の大部分の閾値と比較される。
【0091】
洞基準に類似した周期の大部分(例えば、最後の12周期中の8C
i)が検出された場合、頻脈性不整脈の存在は確認されない。次に方法30を再初期化して、工程505に続いてアルゴリズムの第1の工程100(
図4bの矢印506参照)、すなわち新たな電気信号を獲得する工程を行う。
【0092】
逆に、洞基準に類似した周期の大部分(例えば、最後の12周期中の2Ci)が検出された場合、工程509で頻脈性不整脈が確認される。
【0093】
したがって、大多数の基準が所定の閾値Crefを越えるか否かに依存して、アルゴリズムは、頻脈性不整脈エピソードが存在するかまたは存在しないと結論づける。
【0094】
図8は、8拍動の最初の連続(N=8)が、正常洞調律(C
i=3)を表す周期に似た3周期からなる例を示している。正常洞調律を表す周期に似ていない5周期を“o”という記号で示す。したがって、
図7に示した例では、第1の系統の大部分の基準は3/8の比率に相当する。
【0095】
図8に示した拍動の第2の系統では、大多数の基準は4/8の比率に相当する。
【0096】
C
refが3/8以上であると予め決められた場合、アルゴリズムは、
図8の第1の系統の拍動および第2の系統の拍動の解析に続いて、頻脈性不整脈エピソードの存在を確認しない。
【0097】
図9は、正常な洞調律を代表する周期に似た周期がない例を示している。したがって、
図8に示す例では、N=8とC
i=0である。したがって、
図9に示す例の大部分の基準は0であり、それゆえ、必然的に閾値C
refより小さい。このような状況では、次いで、工程509において頻脈性不整脈エピソードの存在が確認され、複数の移動窓にわたってチェックされる。
【0098】
正常洞調律を表す基準2次元曲線は、患者の正常洞調律の少なくとも最後の2周期の平均値および/または中央値をとることによって決定される。
【0099】
皮下植込型医療装置10が加速度計および/またはジャイロスコープを含む実施形態では、さらに、装置10の制御器28は、2次元曲線を所定の位置における基準2次元曲線と比較し、正常洞調律を表現することによって、類似性の基準を決定するように構成することができる。このように、患者の位置を検出することを可能にすることにより、収集された電気信号の解釈をより細かくすることができ、従って改善される。また、各位置の正常洞調律で求めた基準2次元曲線を互いに比較して、位置ごとに十分に異なるものだけをメモリに保持するようにしてもよい。これにより、特にストレージメモリを節約することが可能になる。さらに、各位置の基準曲線を、例えば、毎日または毎週、更新することができる。
【0100】
工程509の後、装置10の制御器28は、皮下植込型リード14の除細動電極26によって除細動動作をトリガーするように構成されてもよい。
【0101】
装置10の制御器28は、方法30の各工程およびサブ工程を実行するように構成されている。
【0102】
記載された実施形態および実装は単に可能な構成であり、実施形態および実装の個々の特性が互いに独立して結合されている場合もあれば、提供されている場合もあることに留意すべきである。