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特許7080944細胞生存率を向上させるための組成物およびその使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】細胞生存率を向上させるための組成物およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/575 20060101AFI20220530BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20220530BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20220530BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220530BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20220530BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20220530BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20220530BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20220530BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220530BHJP
【FI】
A61K31/575
A61K31/192
A61P39/06
A61P43/00 121
A61K9/14
A61K9/48
A61K9/20
A61K9/10
A61K9/08
【請求項の数】 17
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020155505
(22)【出願日】2020-09-16
(62)【分割の表示】P 2019040563の分割
【原出願日】2014-02-24
(65)【公開番号】P2021008473
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2020-10-16
(31)【優先権主張番号】61/804,690
(32)【優先日】2013-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】14/140,083
(32)【優先日】2013-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515265950
【氏名又は名称】アミーリクス・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】43 Thorndike St,Cambridge,MA 02141,U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】ジョシュア・ビー.・コーエン
(72)【発明者】
【氏名】ジャスティン・ケリー
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-518935(JP,A)
【文献】特表2011-518119(JP,A)
【文献】国際公開第2009/140265(WO,A1)
【文献】特表2005-532372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/575
A61K 31/192
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
約10mg/kg体重~約40mg/kg体重のタウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)又はその薬学的に許容される塩、及び、約10mg/kg体重~約400mg/kg体重の4-フェニル酪酸(4-PBA)又はその薬学的に許容される塩を含む、対象のレドックスホメオスタシスを調節する方法において使用するための医薬組成物。
【請求項2】
前記組成物が、約10mg/kg体重~約30mg/kg体重のタウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)又はその薬学的に許容される塩を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記組成物が、約10mg/kg体重~約100mg/kg体重の4-フェニル酪酸(4-PBA)又はその薬学的に許容される塩を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記組成物が、約30mg/kg体重~約100mg/kg体重の4-フェニル酪酸(4-PBA)又はその薬学的に許容される塩を含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記組成物が、約10mg/kg体重のタウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)又はその薬学的に許容される塩を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記組成物が、約15mg/kg体重のタウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)又はその薬学的に許容される塩を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記組成物が、約20mg/kg体重のタウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)又はその薬学的に許容される塩を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記組成物が、約30mg/kg体重のタウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)又はその薬学的に許容される塩を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記組成物が、約40mg/kg体重のタウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)又はその薬学的に許容される塩を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記組成物が、約10mg/kg体重の4-フェニル酪酸(4-PBA)又はその薬学的に許容される塩を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記組成物が、約30mg/kg体重の4-フェニル酪酸(4-PBA)又はその薬学的に許容される塩を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記組成物が、約50mg/kg体重の4-フェニル酪酸(4-PBA)又はその薬学的に許容される塩を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記組成物が、約100mg/kg体重の4-フェニル酪酸(4-PBA)又はその薬学的に許容される塩を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記組成物が、約200mg/kg体重の4-フェニル酪酸(4-PBA)又はその薬学的に許容される塩を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記組成物が、約400mg/kg体重の4-フェニル酪酸(4-PBA)又はその薬学的に許容される塩を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記組成物が、散剤、カプセル剤、錠剤、乳剤、水性懸濁剤、分散剤又は液剤の形である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記組成物が、対象に投与した場合、
TUDCA若しくはその薬学的に許容される塩を含むが、4-PBA若しくはその薬学的に許容される塩を含まない医薬組成物、又は、
4-PBA若しくはその薬学的に許容される塩を含むが、TUDCA若しくはその薬学的に許容される塩を含まない医薬組成物
と比較して、活性酸素代謝物質媒介性の酸化的障害を相乗的に低減する、請求項1に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、2013年12月24日に出願された米国特許出願第14/140,083号および2013年3月24日に同仮特許出願第61/804,690号の利益を主張するものである。これらの全内容は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、細胞生存率、特に神経細胞の生存率を向上させるのに使用するための方法および組成物、より具体的には、細胞における活性酸素代謝物質媒介性の酸化的障害を低減すること、細胞におけるレドックスホメオスタシスを調節することまたは細胞におけるミトコンドリアの機能障害を低減することを通じて、細胞生存率を向上させるのに使用するための方法および組成物に関する。本発明は、薬物治療の分野、より具体的には、アルツハイマー病および他のアミロイドーシス関連の病理の治療に関する。
【背景技術】
【0003】
中枢神経系(CNS)の神経変性疾患は、神経細胞の構造および機能の進行性損失を引き起こし、罹患した患者およびその家族にとって深刻な疾患である。これらの神経変性疾患の中には、例えば、多発性硬化症(MS)、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)および脳卒中がある。CNSの複雑さのために、これらの疾患の多くは、今日まで残念ながら十分に理解されていない。
【0004】
アルツハイマー病は、最もよく見られる神経変性疾患であり、米国で最も大きな医学的問題の1つである。2012年に、推定540万人のアメリカ人が、この疾患に罹患しており、それは主な死因の第6位であった。加齢がアルツハイマー病の最も大きな危険因子であるため、患者の数は、アメリカ人高齢者の人口として、2025年までに710万人に膨れ上がると予想されている。他の危険因子は、ある特定の遺伝子変異、糖尿病および炎症を含む。
【0005】
アルツハイマー病は、アミロイドβが凝集して斑となることおよび種々の形のリン酸化されたタウタンパク質によって媒介される神経原線維変化の形成を特徴とする。この疾患のいくつかの主要な症状は、記憶の喪失、日常的な仕事を完遂および計画するのが難題であること、時間または場所が混乱すること、言葉または話すことに問題があることならびに人格の変化を含む。
【0006】
アルツハイマー病は、幅広いクラスの認知症の最も一般的なものであり、その多くは、アミロイド斑、アミロイドオリゴマーの形成および/またはリン酸化されたタウタンパク質によって媒介されると考えられている。これらの疾患は、ピック病、多発梗塞性認知症、クロイツフェルト-ヤコブ病、レビー小体型認知症、混合型認知症および前頭側頭型認知症を含むが、これらに限定されない。
【0007】
アルツハイマー病の治療に使用されている、現在承認されている薬物は、NMDA型グルタミン酸受容体を遮断するかまたはアセチルコリンエステラーゼ阻害剤であるかの何れかであり、後者は、患者の50%においてのみ、およびある特定の認知力テストの下でのみ、約6~12か月間、ただ穏やかに有効であるだけである。両方のクラスの薬物は、一般的にうつ状態の脳に対して、全体的に神経の興奮を増加させるモデルに基づいており、多くの副作用を引き起こさせ易く、疾患の病理に変化を起こすために何の役にも立たない。神経変性疾患を治療するための数種の薬物のクラスが、知られているまたは提案されているが、有効な療法は、ほとんど無いまたは存在しない。それ故に、神経変性疾患を治療するための改善された療法が必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
少なくとも部分的に、本発明は、胆汁酸(例えば、タウロウルソデオキシコール酸(TUDCA))をフェニル酪酸(PBA)(例えば、4-フェニル酪酸(4-PBA))と組み合わせて含む組成物が、細胞における活性酸素代謝物質媒介性の酸化的障害を有意に低減し、結果的に、細胞生存率(例えば、神経細胞の生存率)の向上につながるという発見に基づいている。以下の例において論じられているように、化合物TUDCAおよび4-PBAを、過酸化水素によって誘発される細胞アポトーシスに対する保護剤として、個々におよび組み合わせて評価した。過酸化水素によって誘発される細胞アポトーシスは、レドックスホメオスタシスの変化、活性酸素種の過剰産生およびミトコンドリアの機能障害を通じて引き起こされると考えられている。例は、細胞生存率および/または細胞死を測定すると、TUDCAおよび4-PBAが、過酸化水素の曝露から細胞を保護する際に、より大きな相加効果を有することを実証している。この驚くべき発見は、これらの薬物が、前述の病理を軽減する際に、互いの有効性を相乗的に増加させることを示唆している。
【0009】
本発明は、細胞生存率、特に神経細胞の生存率を向上させるのに使用するための方法および組成物、より具体的には、細胞における活性酸素代謝物質媒介性の酸化的障害を低減すること、細胞におけるレドックスホメオスタシスを調節することまたは細胞におけるミトコンドリアの機能障害を低減することによって、細胞生存率を向上させるのに使用するための方法および組成物を提供する。本発明は、細胞生存率を向上させるためのおよび酸化的ストレスに関連する疾患に伴う少なくとも1つの症状を治療するための、そのような疾患の、発症の時期を妨げるためのまたは発症の進展を遅延させるための、胆汁酸(例えば、タウロウルソデオキシコール酸(TUDCA))とフェニル酪酸(例えば、4-PBA)との併用投与にさらに関する。
【0010】
本発明は、神経細胞の酸化的ストレスを低減するためのおよび神経変性疾患(例えばアルツハイマー病(AD)、ハンチントン病(HD)、パーキンソン病(PD)、筋萎縮性側索硬化症、ピック病、多発梗塞性認知症、クロイツフェルト-ヤコブ病、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症)を含むが、これらに限定されない酸化的ストレスに関連している疾患に伴う少なくとも1つの症状を治療するための、そのような疾患の、発症の開始時間を妨げるためのまたは発症を遅延させるための、医薬組成物または製剤中に、胆汁酸(例えば、タウロウルソデオキシコール酸(TUDCA))およびフェニル酪酸(例えば、4-PBA)またはその類似体、誘導体、薬理学的相当物もしくは塩の組合せを含む組成物の投与を含む、新規なアプローチをさらに提供する。
【0011】
一側面では、本開示は、細胞における活性酸素代謝物質媒介性の酸化的障害を低減するための方法であって、細胞を、胆汁酸またはその薬学的に許容される、塩、類似体、誘導体もしくはプロドラッグおよびフェニル酪酸(PBA)またはその薬学的に許容される、塩、類似体、誘導体もしくはプロドラッグと接触させることを含む方法を提供する。一態様では、活性酸素代謝物質媒介性の酸化的障害は、過酸化水素(H)媒介性の障害である。
【0012】
別の側面では、本開示は、細胞におけるレドックスホメオスタシスを調節する方法であって、細胞を、胆汁酸またはその薬学的に許容される、塩、類似体、誘導体もしくはプロドラッグおよびフェニル酪酸(PBA)またはその薬学的に許容される、塩、類似体、誘導体もしくはプロドラッグと接触させることを含む方法を提供する。
【0013】
さらに別の側面では、本開示は、細胞におけるミトコンドリアの機能障害を低減する方法であって、細胞を、胆汁酸またはその薬学的に許容される、塩、類似体、誘導体もしくはプロドラッグおよびフェニル酪酸(PBA)またはその薬学的に許容される、塩、類似体、誘導体もしくはプロドラッグと接触させることを含む方法を提供する。
【0014】
1つ以上の態様では、胆汁酸は、タウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)、ウルソデオキシコール酸(UDCA)、ケノデオキシコール酸、コール酸、ヒオデオキシコール酸、デオキシコール酸、7-オキソリトコール酸、リトコール酸、ヨードデオキシコール酸、イオコール酸、タウロケノデオキシコール酸、タウロデオキシコール酸、グリコウルソデオキシコール酸、タウロコール酸、グリココール酸またはその類似体、誘導体もしくはその誘導体からなる群から選択される。いくつかの態様では、胆汁酸は、タウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)、ウルソデオキシコール酸(UDCA)からなる群から選択される。
【0015】
いくつかの態様では、細胞を、約80μM~約120μMの濃度の胆汁酸と接触させる。
【0016】
1つ以上の態様では、PBAは、4-フェニル酪酸、グルセリル(トリ-4-PBA)、フェニル酢酸、2-POAA-OMe、2-POAA-NO、2-NOAAまたはその薬学的に許容される、塩、類似体、誘導体もしくはプロドラッグである。
【0017】
いくつかの態様では、細胞を、約0.8mM~約1.2mMの濃度のフェニル酪酸と接触させる。いくつかの側面では、細胞は、哺乳動物細胞である。ある態様では、細胞は、ヒト細胞である。別の態様では、細胞は、神経細胞である。
【0018】
ある特定の側面では、本開示は、対象における活性酸素代謝物質媒介性の酸化的障害に関係する神経変性疾患を治療する方法であって、活性酸素代謝物質媒介性の酸化的障害に関係する神経変性疾患を経験している対象を同定すること、前記対象に、胆汁酸またはその薬学的に許容される、塩、類似体、誘導体もしくはプロドラッグおよびフェニル酪酸(PBA)またはその薬学的に許容される、塩、類似体、誘導体もしくはプロドラッグを投与することを含み、胆汁酸と組み合わせて投与されるPBAの量を、PBA単独の投与と比較して10%~55%減じる方法を提供する。
【0019】
さらに別の側面では、本開示は、治療を必要とする対象における、神経変性疾患を治療する方法であって、APOEε4アレルの少なくとも1コピーを有する対象を同定すること、前記対象に、胆汁酸またはその薬学的に許容される、塩、類似体、誘導体もしくはプロドラッグおよびフェニル酪酸(PBA)またはその薬学的に許容される、塩、類似体、誘導体もしくはプロドラッグを含む組成物を投与し、それによって、神経変性疾患を治療することを含む方法を提供する。
【0020】
他に特に定義しない限り、ここで使用される科学技術用語はすべて、本発明が属する普通の当業者によって共通に理解されているものと同じ意味を有する。方法および材料は、本発明に使用するために、ここに記載されている。当技術分野において知られている他の適した方法および材料も、使用することができる。材料、方法および例は、一例に過ぎず、限定するためのものではない。ここで言及される、出版物、特許出願、特許、配列、データベース登録および他の参照文献はすべて、参照によって完全に組み込まれる。抵触する場合には、本明細書は定義を含めてコントロールする。
【0021】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳しい説明および図からならびに特許請求の範囲から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、ラット皮質神経細胞培養において過酸化水素を曝露した後に、PrestoBlueによって評価された、組合せたUDCAとPBAの、細胞生存率を増加させる能力を実証するグラフである。****は、対照に対するp<.0001の有意性を意味する。##は、過酸化水素の曝露に対するp<.01の有意性を意味する。は、過酸化水素の曝露に対するp<.05の有意性を意味する。組合せは、有意な保護をもたらすが、それぞれの薬物は、個々に有意な保護をもたらさない。300μMでのNMDAの曝露は、陰性対照として使用される。DFX(示さず)は、PrestoBlue測定に干渉することが考えられ、突飛な結果をもたらしたので、プロットに含めなかった。
図2図2は、ラット皮質神経細胞培養において過酸化水素(H)を曝露した後に、LDHによって評価された、組み合わせたTUDCAとPBAの、細胞死を改善する能力を実証するグラフである。****は、対照に対するp<10-4の有意性を意味する。##は、過酸化水素の曝露に対するp<.01の有意性を意味する。は、過酸化水素の曝露に対するp<.05の有意性を意味する。組合せは、有意な保護をもたらすが、それぞれの薬物は、個々に有意な保護をもたらさない。300μMでのNMDAの曝露は、陰性対照として使用されるが、DFXは、LDH試験における陽性対照である。
図3図3は、置換され得る位置を理解するのを手助けするために、標識炭素を用いて、TUDCA(式I)の化学構造を実証している。
図4図4は、置換され得る位置を理解するのを手助けするために、標識炭素を用いて、UDCA(式II)の化学構造を実証している。
図5図5は、ナトリウムイオンによって安定化されたPBA(式III)の化学構造を実証している。本発明下での使用に利用可能な誘導体は、背景に記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0023】
糖尿病、炎症、加齢、特定の遺伝的変異および多くの他の条件は、アルツハイマー病の危険因子である。これらの症状間に共通している糸は、それらが、フリーラジカルの産生増大、レドックスホメオスタシスの不均衡および/または細胞および組織に対するフリーラジカル媒介性の障害の増大にすべて関係していることである。スーパーオキシドおよび他のフリーラジカルは、病原性アミロイドタンパク質の量を増加させることおよび凝集によってアミロイド斑、オリゴマーおよび他の種を増加させることに関係している。理論によって制限されることなく、人によっては、この凝集は、アミロイド鎖のアミノ酸、特にメチオニン35残基の酸化に関与するプロセスに原因があるとする者もいる。
【0024】
アミロイドタンパク質群のミトコンドリアへの組み込みが、シトクロムc、酸素ラジカルおよび他のフリーラジカルの放出に関係している。これらのラジカルは、小胞体ストレス応答を増加させ、アミロイドタンパク質の凝集も増加させることが示されている。
【0025】
最近の報告は、活性酸素代謝物質が、アルツハイマー病の病理に関与し得ることを示唆している。酸素ラジカルならびに脂質および窒素ラジカルは、BAX、シトクロムcおよびJNKによって媒介されるアポトーシスの経路における前駆物質である。証拠は、これらの種から生じたレドックス状態の変化が、異常なタンパク質のプロセッシングによって少なくとも部分的に引き起こされる多くの疾患の病理において重大な、タンパク質分解活性の増加を引き起こすことも示唆している。細胞のレドックス状態の変化は、主要な抗酸化物質種、たとえばグルタチオン(GSH)およびビタミンEの減少も引き起こす。
【0026】
活性酸素代謝物質媒介性の障害
最近の研究は、神経変性疾患の主要な因子の1つとして、活性酸素代謝物質媒介性の障害にも関係があるとし始めている。例えば、過酸化水素は、ミトコンドリア、細胞のタンパク質分解状態、アミロイドβの産生、レドックスホメオスタシスおよび細胞内の多くのアポトーシスの経路に影響を及ぼすことが示されている。過酸化水素は、フェントン化学によって、金属イオン、たとえば鉄および銅と反応して、多くの活性酸素種を形成することも示されている。複数の神経変性の病理における抗酸化物質、たとえばビタミンEおよびグルタチオンの減少は、これらの疾患における酸化的障害の増加を示唆している。
【0027】
PINK1およびパーキン(パーキンソンタンパク質2、E3ユビキチンタンパク質リガーゼ)は、ミトコンドリアの品質管理を調節していると考えられており、これらの遺伝子の変異は、パーキンソン病の原因となり得る。研究は、過酸化水素が細胞へ導入された後に、パーキンの転写が増加することを示している。パーキンソン様の症状を誘導するMPTP(1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラ/ヒドロピリジン)も、過酸化水素の産生に直接つながる。いくつかの研究は、この疾患における過酸化水素レベルの最大90%までの増加を実証している。
【0028】
アルツハイマー病において、アミロイドβは、金属イオン、たとえば鉄および銅と接触すると、過酸化水素を直接産生することが示されており、金属イオンは、この疾患に罹患している患者の脳内に、より高濃度で見出される。過酸化水素は、アミロイドβの病原型へのプロセッシングも増加させ得る。過酸化水素および活性酸素-代謝物質媒介性の経路は、この疾患における細胞死の主要な経路であるとも考えられている。
【0029】
ハンチントン病は、過酸化水素によって引き起こされ得るタンパク質分解産物ならびに広範囲に及ぶミトコンドリアの機能障害も示す。3-ヒドロキシキノイリンの増加は、ハンチントン病における主要な病理学的工程として関係しており、過酸化水素およびヒドロキシルラジカル産生を直接誘導することが知られている。
【0030】
過酸化水素は、ALSの病理における、潜在的なメディエーターであることも示されている。過酸化水素の捕捉剤は、この分野において、治療とみなされている。
【0031】
レドックスホメオスタシスの調節
レドックスホメオスタシスは、恒常的なレドックス状態を維持するための、細胞における還元力のある種および酸化力のある種を管理する、細胞の試みを指す。レドックスホメオスタシスの破壊は、自由エネルギーの必要量を変化させ得、非病理性の条件下では起こらないプロセスが、細胞内で行われることを可能にし得る。レドックスホメオスタシスの調節の不具合によって引き起こされ得るいくつかのプロセスは、アルツハイマー病、パーキンソン病のレビー小体およびレビー小体型認知症の特徴である、アミロイドβが凝集して斑となること、ハンチントン病の老人斑、ALSに見出されているアミロイド斑を含む斑ならびにタウロパチーという障害を含む。典型的な生理学的条件下で、これらのタンパク質は凝集しないが、増加された濃度および非典型的なレドックス状態によって、凝集の自由エネルギーが変化し、結果的に、これらの病理において観察される斑の形成につながると考えられている。変化したレドックス状態は、ミトコンドリアの経路と相互作用するフリーラジカルを産生して、アポトーシスを誘導することもできる。したがって、細胞のレドックス状態の調節を助けることができる薬剤を開発する必要性が存在する。過酸化水素は、細胞のレドックス状態の変化を誘導するため、それは、細胞にレドックス媒介性の障害を引き起こすのに使用することができる。
【0032】
ミトコンドリアの機能障害
ミトコンドリアの機能障害は、神経変性疾患において広範囲に及ぶ。アルツハイマー病では、細胞のミトコンドリアの膜電位が著しく低下し、ミトコンドリアによるグルコース代謝が損なわれ、ミトコンドリアの透過性が増加する。ミトコンドリアは、複数のアポトーシスの経路を媒介して、結果的に、アルツハイマー病における神経細胞死をもたらすことが観察されている。
【0033】
PINK1およびパーキンは両方とも、ミトコンドリアの品質管理タンパク質である。これらのタンパク質の変異または欠如が、パーキンソン病に強く関連している。MPTPは、パーキンソン病の永続的な症状を誘導するのに使用される分子であり、ミトコンドリアの複合体Iの破壊を通じて作用し、ミトコンドリアの機能障害、細胞のレドックス状態の変化およびアポトーシスを引き起こす。
【0034】
ハンチントン遺伝子の変異およびその結果得られたタンパク質は、ハンチントン病の主なメディエーターであると考えられており、結果的に、ミトコンドリアにおける膜電位の損失および重大な酸化的リン酸化遺伝子の発現の減少につながることが、細胞培養において直接示されている。ハンチントン病の病理は、中枢神経系に存在するミトコンドリアの数の減少にも関連している。
【0035】
ミトコンドリアの局在化異常、エネルギー代謝障害およびアポトーシスの経路は、筋萎縮性側索硬化症を媒介すると考えられている。冒された組織由来のミトコンドリアは、活性酸素代謝物質を過剰産生し、それらを細胞質ゾルに漏出させることも示されている。
【0036】
多くの神経変性疾患では、ミトコンドリアは、フリーラジカルを過剰産生し、エネルギー代謝の低下を引き起こし、透過性を増加させ、膜電位を減少させ、抗酸化物質を減少させ、金属イオンを細胞内に漏出させ、細胞のレドックス状態を変化させ、細胞をプロアポトーシスの経路へと導く。したがって、ミトコンドリアの機能障害のメカニズムを変化させ、減じることができる薬剤を開発する必要性が存在する。
【0037】
APOEε4アレル
アルツハイマー病の遺伝学は複雑である。少なくとも4つの遺伝子座における変異が、AD(すなわち、家族性AD)に対する遺伝的感受性に関係している。3つの遺伝子が、早期発症型ADに関係している:APP[21番染色体上のβ-アミロイド前駆体タンパク質]、PS1(プレセニリン1)およびPS2(プレセニリン2)。19番染色体上のアポリポタンパク質E(APOE)遺伝子のε4アレルは、晩期発症型ADに関係している。APOEε4とADとの関係は、70歳より前に発症した個体で最も強いように思われ、高齢になるにつれて弱くなる。APOEε4アレルの少なくとも1コピーを有する患者は、特に高いレベルの過酸化代謝物質およびミトコンドリアの障害を有することが示されている。この患者集団に対する治療は、特に有効であり得る。
【0038】
ある特定の側面では、本開示は、治療を必要とする対象における、神経変性疾患を治療する方法であって、APOEε4アレルの少なくともコピーを有する対象を同定すること、前記対象に、胆汁酸またはその薬学的に許容される、塩、類似体、誘導体もしくはプロドラッグおよびフェニル酪酸(PBA)またはその薬学的に許容される、塩、類似体、誘導体もしくはプロドラッグを含む組成物を投与し、それによって、神経変性疾患を治療することを含む方法を企図している。
【0039】
ある特定の側面では、本発明は、細胞を胆汁酸と接触させることを含む方法を提供する。ここで使用される場合、「胆汁酸」(例えば、水溶性の胆汁酸誘導体、胆汁酸塩またはアミンに抱合された胆汁酸)は、3α-ヒドロキシル基で置換され、その上、典型的には、ステロール核のC、CまたはC12位において、他のヒドロキシル基で任意に置換されたコラン酸から誘導された核を有する、天然に存在する界面活性剤を指す。胆汁酸誘導体は、ハロゲンおよびアミノ基を含むがこれらに限定されない他の官能基を有する胆汁酸の、ヒドロキシルおよびカルボン酸基で形成された誘導体を含むが、これらに限定されない。可溶性の胆汁酸は、HCl、リン酸、クエン酸、酢酸、アンモニアまたはアルギニンのうちの1つと組み合わされた胆汁酸の遊離酸の形の水性調製物を含んでいてもよい。
【0040】
ある特定の側面では、本発明の方法は、細胞を、胆汁酸またはその薬学的に許容される、塩、類似体、誘導体もしくはプロドラッグと接触させることを含む。1つ以上の態様では、胆汁酸は、式I(図3)に示されているタウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)であり、置換され得る位置を理解するのを手助けするために、標識炭素を用いる。
【0041】
1つ以上の態様では、胆汁酸は、式II(図4)に示されているウルソデオキシコール酸(UDCA)であり、置換され得る位置を理解するのを手助けするために、標識炭素を用いる。
【0042】
生理学的に関連のある胆汁酸誘導体は、TUDCAまたはUDCAの、3または7位における水素の置換体の何れかの組合せ、3または7位におけるヒドロキシル基の立体化学の変化およびその薬学的に許容される、塩、溶媒和物またはアミノ酸抱合体を含む。
【0043】
いくつかの態様では、胆汁酸は、式IVのTUDCA化合物
【化1】
【0044】
[式中、Rは、-HまたはC-Cアルキルであり、
は、-CH-SOであり、Rは、-Hであり;またはRは、-COOHであり、Rは、-CH-CH-CONH、-CH-CONH、-CH-CH-SCHもしくは-CH-S-CH-COOHであり、
は、-Hまたは塩基性アミノ酸の残基である]あるいはその薬学的に許容される、類似体、誘導体、プロドラッグまたはその混合物である。
【0045】
本発明は、TUDCAおよびUDCAに加えて、例えば、ケノデオキシコール酸(「ケノジオール」または「ケン酸」とも称される)、コール酸、ヒオデオキシコール酸、デオキシコール酸、7-オキソリトコール酸、リトコール酸、ヨードデオキシコール酸、イオコール酸、タウロケノデオキシコール酸、タウロデオキシコール酸、グリコウルソデオキシコール酸、タウロコール酸、グリココール酸、コール酸を含む胆汁酸またはその類似体、誘導体もしくは誘導体の使用も企図している。
【0046】
ある特定の側面では、本発明は、細胞をフェニル酪酸と接触させることを含む方法を提供する。フェニル酪酸(PBA)(図4、ナトリウム塩)は、HDAC2(ヒストン脱アセチル化酵素2)阻害剤である。PBAおよび誘導体の取り込みは、結果的に、種々の効果を及ぼすことが示されている差次的遺伝子発現をもたらす。PBAは、種々の効果を有する化学シャペロンとして作用することも示されている。1つの効果は、病原性アミロイドタンパク質の産生の減少である。別の効果は、神経可塑性の増加である。PBAは、胆汁排泄を改善することも示されている。しかし、PBAは、複数の異なる型の細胞に対して細胞毒性であることが知られている。
【0047】
生理学的に関連のあるフェニル酪酸(PBA)種は、水素を重水素で置換した何れかのものを含む。何れの塩、溶媒和物、抱合体および薬理学的に関連のある化合物も、生理学的に関連があると考えられている。先行技術に記載されているすべてのフェニル酪酸誘導体も、生理学的に関連があると考えられる。他のHDAC2阻害剤は、フェニルブチレートの代用とも考えられる。PBAの活性代謝物質であるフェニル酢酸も、代用と考えられ得る。
【0048】
1つ以上の態様では、PBA化合物は、4-フェニル酪酸(4-PBA)である。4-PBAは、低分子量の芳香族カルボン酸である。4-PBAは、遊離酸としての4-フェニル酪酸のみならず、その誘導体およびその生理学的に許容される塩も包含するものと、ここでは定義される。特に、「4-フェニル酪酸」または「4-PBA」は、その遊離酸としても定義されるが、4-フェニル酪酸の薬学的に許容される、塩、共結晶、多形体、水和物、溶媒和物またはプロドラッグの形であるとも定義される。最も好ましくは、「4-フェニル酪酸」または「4-PBA」は、4-PBAの遊離酸または薬学的に許容される塩、たとえばそのナトリウム塩の何れかである。4-PBAの類似体は、例えば、グルセリル(トリ-4-PBA)、フェニル酢酸、2-POAA-OMe、2-POAA-NO、2-NOAAを含む。4-フェニル酪酸塩の生理学的に許容される塩は、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウムまたはカルシウム塩を含む。
【0049】
医薬組成物および投与方法
ある特定の側面では、ここで記載されている方法は、ここで記載されている方法によって活性成分と同定される化合物を含む、医薬組成物および医薬品の、製造および使用を含む。医薬組成物自体も含まれる。
【0050】
いくつかの場合には、ここで開示されている組成物は、神経変性疾患の治療に使用される、他の化合物、薬物および/または薬剤を含むことができる。例えば、いくつかの場合には、ここで開示されている治療用組成物は、1種以上(例えば、1種、2種、3種、4種、5種または10種未満)の化合物と組み合わせることができる。
【0051】
いくつかの場合には、ここで開示されている組成物は、COX2阻害剤、喘息薬、糖尿病薬、他の抗酸化剤、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(例えば、ドネペジル、タクリン、リバスチグミン、ガランタミン、フィゾスチグミン、ネオスチグミン、フペルジンA、イコペジル(CP-118954、5,7-ジヒドロ-3-[2-[1-(フェニルメチル)-4-ピペリジニル]エチル]-6H-ピロロ-[4,5-f]-1,2-ベンゾイソオキサゾール-6-オンマレイン酸塩)、ER-127528(4-[(5,6-ジメトキシ-2-フルオロ-1-インダノン)-2-イル]メチル-1-(3-フルオロベンジル)ピペリジン塩酸塩)、ザナペジル(TAK-147;3-[1-(フェニルメチル)ピペリジン-4-イル]-1-(2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-1-ベンゾアゼピン-8-イル)-1-プロパンフマル酸塩)、メトリホナート(T-588;(-)-R-a-[[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]メチル]ベンゾ[b]チオフェン-5-メタノール塩酸塩)、FK-960(N-(4-アセチル-1-ピペラジニル)-p-フルオロベンズアミド 水和物)、TCH-346(N-メチル-N-2-ピロピニルジベンゾ[b,f]オキセピン-10-メタンアミン)、SDZ-220-581((S)-a-アミノ-5-(ホスホノメチル)-[1,1’-ビフェニル]-3-プロピオン酸)およびそれらの組合せ)、NMDA受容体アンタゴニスト(例えば、メマンチン、ネラメキサン、リマンタジンまたはアマンタジン、リポキシゲナーゼ阻害剤、ロイコトリエン阻害剤、ココナッツ油、他のHDAC阻害剤、スタチン、アンフェタミン、他のMAO阻害剤、金属キレート剤、BACE1-阻害剤、アミロイドβに対する抗体、γ-セクレターゼモジュレータ、アミロイド洗浄剤、リン酸化型タウ抗体、Aβ阻害剤、Aβ斑除去剤、Aβ斑形成の阻害剤、アミロイド前駆体タンパク質のプロセッシング酵素の阻害剤、β-アミロイド変換酵素阻害剤、β-セクレターゼ阻害剤、γ-セクレターゼモジュレータ、神経成長因子アゴニストおよび神経原線維変化洗浄剤)を含む他の化合物を含むことができる。
【0052】
いくつかの場合には、ここで開示されている組成物は、医薬組成物としてまたは医薬組成物中に使用するために製剤することができる。そのような組成物は、対象への、任意の経路、例えば、米国食品医薬品局(FDA)によって承認された任意の経路による、投与のために製剤することができるまたは投与に適合させることができる。例示的な方法は、FDAのCDER Data Standards Manual、version number 004(fda.give/cder/dsm/DRG/drg00301.htmにおいて入手可能である)に記載されている。医薬組成物は、経口、非経口または経皮送達のために製剤されていてもよい。本発明の化合物は、他の医薬用薬剤と組み合わされていてもよい。いくつかの側面では、本発明は、本発明に使用されるTUDCAおよびPBA化合物を含むキットを提供する。キットは、医師および/または患者のための使用説明書、シリンジ、針、箱、瓶、バイアルなどを含んでいてもよい。ある側面では、本発明は、多発性硬化症(MS)、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脳卒中、ピック病、多発梗塞性認知症、クロイツフェルト-ヤコブ病、レビー小体型認知症、混合型認知症、前頭側頭型認知症を含む神経変性疾患および関連疾患を予防または治療するのに有用である、方法および薬剤を提供する。特に、本発明は、アルツハイマー病および他のアミロイドーシス関連の病理を治療または予防するために、ならびにこれらの状態の合併症を予防するために、使用することができる薬剤または医薬組成物を提供する。
【0053】
いくつかの場合には、医薬組成物は、以上に記載されているように、有効量の、胆汁酸およびフェニル酪酸を含むことができる。ここで使用される場合、「有効量」および「治療するために有効な」という用語は、意図された効果または生理学的転帰を得るために、その投与という状況内で有効である期間(急性または慢性の投与および周期的または持続的投与を含む)の、1種以上の薬物の、量または濃度を指す。
【0054】
いくつかの場合には、医薬組成物は、胆汁酸(例えば、TUDCA)、フェニル酪酸(例えば、4-PBA)および薬学的に許容される何れの担体、アジュバントおよび/または媒体も含むことができる。いくつかの場合には、医薬は、1種以上の追加の治療薬剤を、疾患または疾患の症状の調整を達成するのに有効な量で、さらに含むことができる。
【0055】
医薬組成物は、典型的には、薬学的に許容される担体を含む。「薬学的に許容される、担体またはアジュバント」という用語は、本発明の化合物と一緒に患者に投与されてもよく、その薬理活性を無効にせず、治療量の化合物を送達するのに十分な用量を投与される場合に非毒性である、担体またはアジュバントを指す。ここで使用される場合、「薬学的に許容される担体」という専門用語は、医薬の投与に適合する、生理食塩水、溶媒、分散媒、コーティング、抗菌および抗真菌剤、等張化および吸収遅延剤などを含む。
【0056】
本発明の医薬組成物は、従来の非毒性の薬学的に許容される何れの担体、アジュバントまたは媒体を含有していてもよい。場合によって、製剤のpHは、製剤された化合物またはその送達形の安定性を高めるために、薬学的に許容される、酸、塩基または緩衝剤で調整されていてもよい。ここで使用される非経口のという用語は、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、動脈内、滑液包内、胸骨内、髄腔内、病巣内および頭蓋内への注射または注入技術を含む。
【0057】
医薬組成物は、典型的には、その意図された投与経路に適合するように製剤される。投与経路の例は、非経口、例えば、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば、吸入)、経皮(局所)、経粘膜および直腸投与を含む。
【0058】
医薬組成物は、吸入および/または経鼻投与のための、液剤または散剤の形であり得る。そのような組成物は、当技術分野において知られている技術に従って、適した分散剤または湿潤剤(たとえば、例えば、Tween80)および懸濁化剤を使用して製剤することができる。無菌注射用調製物は、非経口で許容される非毒性の、希釈剤または溶媒中の、無菌注射用の溶液または懸濁液、例えば、1,3-ブタンジオール中の溶液としてであってもよい。許容される媒体および溶媒の中で用いてもよいものは、マンニトール、水、リンガー溶液および等張食塩液である。加えて、無菌不揮発性油は、溶媒または懸濁媒として従来通り用いられる。この目的のために、合成のモノ-またはジグリセリドを含む、何れの無刺激性の不揮発性油を用いてもよい。脂肪酸、たとえばオレイン酸、およびそのグリセリド誘導体は、薬学的に許容される天然油、たとえばオリーブ油またはヒマシ油と同様に、注射可能物の調製に有用であり、特にそれらのポリオキシエチル化型の状態で有用である。これらの油液剤または懸濁液は、薬学的に許容される剤形、たとえば乳剤およびまたは懸濁液の製剤に一般に使用されている、長鎖アルコールの希釈剤もしくは分散剤またはカルボキシメチルセルロースもしくは類似の分散剤を含んでいてもよい。一般に使用されている他の界面活性剤、たとえばTweenもしくはSpanおよび/または薬学的に許容される、固体、液体もしくは他の剤形の製造に一般に使用されている、他の類似の乳化剤またはバイオアベイラビリティー促進剤も、製剤を目的として使用されていてもよい。
【0059】
医薬組成物は、経口で許容される何れの剤形でも経口投与することができ、そのような剤形には、カプセル剤、錠剤、乳剤および水性の懸濁液、分散剤または液剤が含まれるが、これらに限定されない。経口用の錠剤の場合、一般に使用されている担体は、乳糖およびコーンスターチを含む。滑沢剤、たとえばステアリン酸マグネシウムも、典型的には加えられる。カプセル剤の形での経口投与について、有用な希釈剤は、乳糖および乾燥コーンスターチを含む。水性懸濁剤および/または乳剤が経口投与される場合には、活性成分は、油相に懸濁または溶解されていてもよく、乳化剤および/または懸濁化剤と組み合わされる。必要に応じて、ある特定の甘味剤および/または着香剤および/または着色剤が加えられていてもよい。
【0060】
あるいはまたは加えて、医薬組成物は、鼻エアロゾルまたは吸入によって投与することができる。そのような組成物は、医薬製剤の技術分野においてよく知られている技術に従って調製され、当技術分野において知られている、ベンジルアルコールまたは他の適した保存剤、バイオアベイラビリティーを高めるための吸収促進剤、フルオロカーボンおよび/または他の可溶化剤または分散剤を用いて、生理食塩水中の溶液として調製されていてもよい。
【0061】
いくつかの態様では、本開示は、以下の方法において、ここで開示されている(「X」として以下に示されている)、胆汁酸(例えば、TUDCA)およびフェニル酪酸(例えば、4-PBA)を含む、医薬組成物を含む組成物を使用するための方法を提供する。
【0062】
ここで開示されている、1種以上の疾患または状態(例えば、神経変性疾患、以下の例において「Y」と称される」)の治療において、医薬品として使用するための物質X。Yの治療のための医薬品の製造のための物質Xの使用;およびYの治療における使用のための物質X。
【0063】
いくつかの場合には、ここで開示されている治療用組成物は、米国での販売、米国への輸入および/または米国からの輸出用に製剤することができる。
【0064】
医薬組成物を、投与のための使用説明書と一緒に、容器、パックまたはディスペンサーの中に含むことができる。
【0065】
投与量
本発明のいくつかの側面では、TUDCA(タウロウルソデオキシコール酸)およびPBA(4-フェニル酪酸塩)は、個々に投与される(すなわち、個別剤形)。いくつかの態様では、TUDCAは、約10mg/kg体重、約15mg/kg体重、約20mg/kg体重、約30mg/kg体重、約40mg/kg体重または約40mg/kg体重の量で投与される。いくつかの態様では、PBAは、約10mg/kg体重、約30mg/kg体重、約50mg/kg体重、約100mg/kg体重、約200mg/kg体重または約400mg/kg体重の量で投与される。化合物は、個別にまたは一緒に投与することができ、治療レジメンの一部として含まれる。
【0066】
本発明は、TUDCAおよび/またはPBA剤形が、個別にまたは一緒に、1日単回投与量として、毎日を基準として、毎週を基準として、他の何日かを基準として、投与されるように、投与レジメンをさらに提供する。さらに、患者は、数週間、数か月または数年という期間にわたって、特定の投与量を受け得る。例えば、1週、2週、3週、1か月、2か月、3か月、4か月、5か月、6か月、7か月、8か月、9か月、10か月、11か月、1年、2年、3年、4年、5年など。
【0067】
本発明の組成物の利点は、(1)より小さいPBAの固体剤形サイズ;および(2)同一の薬理効果を得るのに必要とされるPBAのより低用量を含む。それ故に、ある特定の側面では、本発明は、PBAを、胆汁酸と組み合わせて、神経変性疾患のPBAを用いた治療と比較して(例えば、PBAの標準的な投与量と比較して)、投与量を減じて投与することを含む、神経変性疾患を治療するための改善された方法を提供する。いくつかの態様では、胆汁酸と組み合わせて投与されるPBAの量は、PBAが単独で投与されることを使用される投与量と比較して、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約40%、約45%、約50%または約55%減じられる。
【0068】
治療の方法
ここで記載されている方法は、細胞の酸化的ストレスに関係している障害(例えば、細胞における活性酸素代謝物質媒介性の酸化的障害、細胞におけるレドックスの不均衡または細胞におけるミトコンドリアの機能障害)の治療のための方法を含む。いくつかの態様では、障害は、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病(AD)、ハンチントン病(HD)、パーキンソン病(PD)、筋萎縮性側索硬化症)である。一般に、方法は、ここで記載されているように、治療有効量の胆汁酸(例えば、TUDCA)をフェニル酪酸(例えば、4-PBA)と組み合わせて、そのような治療を、必要としているまたは必要であると決定されている対象(例えば、哺乳動物対象、例えば、ヒト対象)に投与することを含む。
【0069】
いくつかの場合には、方法は、状態または疾患を、有するまたは有した、ヒト対象の選択を含むことができる。いくつかの場合には、適した対象は、例えば、状態または疾患を、有するまたは有したが、疾患またはその側面が消散し、疾患の症状が現時点で軽減されている対象(例えば、同一の状態または疾患を有する他の対象(例えば、対象の大部分)に比べて)および/または、例えば、無症候性状態の(例えば、同一の状態または疾患を有する他の対象(例えば、対象の大部分)に比べて)、状態または疾患を有しながら、長期間にわたって生存している対象(例えば、同一の状態または疾患を有する他の対象(例えば、対象の大部分)に比べて)を含む。
【0070】
ここで開示されている方法は、幅広い範囲の種、例えば、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、サル)、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、シカ、エルク、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ハムスター、ラットおよびマウスに適用することができる。
【0071】
「治療する」、「治療すること」、「治療」などという用語は、単離された細胞に適用される場合、細胞を、何れの種類のプロセスもしくは条件にも供すことまたは細胞に対して、何れの種類の操作もしくは手順も行うことを含む。対象に適用される場合、「治療する」という用語は、個体に対して、内科的または外科的な、注意、ケアまたは管理を提供することを指す。個体は、通常、病気もしくは負傷しており、または集団の平均的な一員に比べて病気になる危険性が高く、そのような注意、ケアもしくは管理を必要としている。
【0072】
いくつかの態様では、「治療すること」、「治療」という用語は、対象が、疾患の少なくとも1種の症状の軽減または疾患の改善、例えば、有益なまたは望ましい臨床結果を有するように、対象に、有効量の組成物、例えば、胆汁酸およびフェニル酪酸を含む組成物を投与することを指す。本発明の目的のために、有益なまたは望ましい臨床結果は、検出可能であろうと検出不可能であろうと、1種以上の症状の緩和、疾患の範囲の縮小、疾患の安定された(すなわち、悪化していない)状態、疾患進行の遅延または緩徐化、疾患状態の改善または一時的緩和、寛解(部分的であろうと完全であろうと)を含むが、これらに限定されない。治療することは、治療を受けない場合に予想される生存と比較して、生存を延長させることを指すことができる。それ故に、治療は、疾患状態を改善するが、疾患の完全な治療法でなくてもよいことを、当業者は理解している。いくつかの態様では、治療は、ここで開示されている組成物(例えば、胆汁酸およびフェニル酪酸を含む組成物)を、ここで開示されている神経変性疾患を発症する危険性のある対象に、対象が投与される「予防的治療」であり得る。いくつかの態様では、治療は、疾患の進行が軽減または停止される場合に、「有効」である。
【0073】
ここで使用される「対象」という用語は、何れかの動物を指す。いくつかの場合には、対象は、哺乳動物である。いくつかの場合には、「対象」という用語は、ここで使用される場合、ヒト(例えば、男性、女性または小児)を指す。
【0074】
いくつかの場合には、対象の選択は、対象(例えば、対象候補)からサンプルを得ることおよび対象が選択に適しているという指標について、サンプルを試験することを含む。いくつかの場合には、対象は、例えば医療専門家によって、状態または疾患を有していたまたは有していると、確認または同定され得る。いくつかの場合には、状態または疾患に対する正の免疫応答の提示は、患者記録、家族歴および/または正の免疫応答の指標を検出することから行うことができる。いくつかの場合には、複数の関係者を、対象を選択する際に含むことができる。例えば、第1の関係者は、対象候補からサンプルを得る可能性があり、第2の関係者は、サンプルを試験する可能性がある。いくつかの場合には、対象は、医療従事者(例えば、一般開業医)によって、選択および/または参照され得る。いくつかの場合には、対象の選択は、選択された対象からサンプルを得ることおよびサンプルを保管することおよび/またはここで開示されている方法に使用することを含むことができる。サンプルは、例えば、細胞または細胞集団を含むことができる。
【0075】
いくつかの場合には、治療方法は、対象が罹患している疾患または状態の、予防または治療に必要とされる場合の、単回投与、多回投与および反復投与を含むことができる。いくつかの場合には、治療方法は、治療前、治療中および/または治療後に、対象における疾患のレベルを評価することを含むことができる。いくつかの場合には、治療は、対象における疾患のレベルの減少が検出されるまで、継続することができる。
【0076】
「投与する」、「投与すること」または「投与」という用語は、ここで使用される場合、本発明の薬物を、形にかかわらず、埋め込むこと、吸収させること、摂取させること、注射することまたは吸入させることを指す。いくつかの場合には、ここで開示されている1種以上の化合物を、対象に、局所(例えば、経鼻)投与および/または経口投与することができる。例えば、ここでの方法は、所望のまたは述べられている効果を達成するための、有効量の化合物または化合物組成物の投与を含む。何れかの特定の患者のための、具体的な用量および治療レジメンは、用いられる特定の化合物の活性、年齢、体重、全身の健康状態、性別、食事、投与時間、排泄率、薬物の組合せ、疾患、状態または症状の、重症度および経過、疾患、状態または症状に対する患者の素因ならびに治療を行う医師の判断を含む種々の因子によって決まる。
【0077】
投与後に、対象の疾患のレベルを検出、評定または決定するために、対象を評価することができる。いくつかの場合には、治療は、対象における疾患のレベルの変化(例えば、低減)が検出されるまで、継続することができる。
【0078】
患者の状態の改善時に(例えば、対象における疾患のレベルの変化(例えば、減少))、必要ならば、本発明の化合物、組成物または組合せの維持量が投与されてもよい。続いて、投与量もしくは投与頻度またはその両方は、症状に応じて、改善された状態が保持されるレベルまで減少させてもよい。しかし、患者は、疾患の症状の何らかの再発時に、断続的な治療を長期的に必要とする場合がある。
【0079】
[実施例]
本発明は、以下の実施例においてさらに説明されるが、それらの実施例は、特許請求の範囲に記載されている本発明の範囲を限定するものではない。
【0080】
材料および方法:
ここで記載されているように、過酸化水素を曝露した神経細胞モデルを用いて、Charles River Labs Discovery Research Services Finlandにおいて、化合物を試験した。
【0081】
皮質混合培養を、E18 Wistarラット胎仔(Laboratory Animal Center、Kuopio、Finland)から調製した。皮質を解剖し、組織を小片に切断した。細胞を、DNaseおよびパパインとの15分間インキュベーションによって分離した。細胞を、遠心分離(1500rpm、5分)によって採集した。組織をピペットを用いて摺り潰し、ポリ-L-リジンをコートした48ウェル上に、2g/lグルコース、2mMグルタミン、0.1μg/mlゲンタマイシンならびに10%熱不活性化ウマ血清(HS-HI)および熱活性化ウシ血清(FBS-HI)を補充したMEM中に、細胞をプレーティングした(3×10細胞/cm)。インビトロで3日後、補充物および5%の両方の血清を含むMEMを含有する培地を、細胞に対して取り換えた。インビトロで6日目に、シトシンアラビノシド(10μM最終濃度)を24時間加えることによって、望まない細胞分裂を阻止した。培養に、補充物および5%HS-HIを含むMEMを再供給した後、実験を行った。
【0082】
インビトロで10日目に、良好な状態のウェルを選び、実験を行った。試験化合物を、補充物および5%HS-HIを含むMEM中に希釈した。24時間後、300μM NMDA24時間を、全神経細胞死に対する対照として使用し、H 1時間を使用して、およそ30~60%の細胞死を誘発した。DFX(100μM)を、Hによって誘発される細胞死を阻害するための、潜在的な陽性対照として使用した。培地のみで処理したウェルを、0対照とした。Hを加える24時間前に、試験化合物を細胞にピペットで加えた。60分後、培地を除去し、化合物を含有する培地をウェルにピペットで加え、24時間置いた。
【0083】
24時間後、全てのウェルの培地を採集し、含有し得る細胞残屑を遠心分離(13000rpm、3分)によって除去した。100μlアリコートを、複製としてマイクロタイタープレート中にピペットで加え、等量のLDH試薬を、そのウェルにピペットで加えた。340nmにおける吸収を、Multiskan Ascent ELISA reader(Thermo、Finland)において、3分間動力学測定プロトコルを使用して、直ちに測定した。吸収/分の変化を決定し求め、これは放出されるLDH(=細胞死)に正比例する。
【0084】
細胞培地をLDH測定用に採集した後、100μl PrestoBlue溶液(PrestoBlue試薬(Invitrogen、#A13261、ロット915815C)を培地中で1:10希釈したもの)をウェルに加え、+37℃ CO培養器において1時間インキュベーションした。560nm励起/615nm発光における蛍光を、Victor fluororeader(PerkinElmer)を使用して測定した。
【0085】
使用した化合物濃度当たりのウェルの数は6個であった(n=6)。100μM TUDCAおよび1mM 4-PBAという1種類の濃度を、個別におよび一緒に試験した。統計分析は、Microsoft excel上で計算した。その値を、両側、等分散t検定によって分析し、すべての条件を他のすべての条件と比較した。
【0086】
例1
本発明者らは、過酸化水素を曝露した神経細胞モデルを対象に、TUDCAおよび4-PBAを組み合わせて、それらが協力してどのような効果をもたらし得るのかを探るために試験した。過酸化水素を曝露した神経細胞モデルを、酸化的ストレスおよび種々の神経変性疾患における病理と、それとの相関関係で選んだ。この試験において、本発明者らは、有効性を、細胞生存率および細胞死に基づいて評価した。
【0087】
TUDCAおよび4-PBAを組み合わせて使用した結果、90.4%の細胞生存率をもたらし、対照の細胞生存率48.6%に対して、統計的に有意な改善となった(p<.003)。(図1、表1)TUDCAおよび4-PBAを用いて個々に処理した結果、細胞生存率はそれぞれ59%および72%となり、対照とは有意に異なるとは限らなかった(それぞれp<.414およびp<.071)。(図1、表1)したがって、組合せは、個々の薬物治療の有効性の合計に対して、有効性の24%増加をもたらす。300μMでのNMDAは、陰性対照として使用され、約0%の細胞生存率に終わった。DFXは、過酸化水素を曝露した条件よりも、細胞生存率が約11%少ないという突飛な結果をもたらした。この結果は、DFXが、PrestoBlue測定モードに干渉するためであると考えられたので、この結果を除外した。有効性は、対照の平均生存率からの、平均生存率の絶対差として計算される。
【0088】
PrestoBlue試験において分かるように、分子の組合せによってもたらされた、対照にほぼ戻ることは、本当に驚くべきことであり、過酸化水素の毒性に関連している疾患の治療法としての、この組合せについての潜在性を強調する。それぞれの化合物単独によってもたらされる利益の合計よりも、生存率を向上させ、細胞死を減少させた。
【表1】
【0089】
TUDCAおよび4-PBAを組み合わせて使用した結果、31.5%の細胞死率をもたらし、対照の細胞死率62.5%に対して、統計的に有意な改善となった(p<.021)。(図2)TUDCAおよび4-PBAを用いて個々に処理した結果、細胞死率はそれぞれ60.4%および46.5%となり、対照とは有意に異なるとは限らなかった(それぞれp<.808およびp<.162)。(図2)したがって、組合せは、個々の薬物治療の有効性の合計に対して、有効性の71%増加をもたらす。DFXおよびNMDAは、それぞれ陽性および陰性対照として使用され、それぞれ38.5%および100%の細胞死となった。有効性は、対照の平均生存率からの、平均生存率の絶対差として計算される。
【0090】
これらの驚くべきおよび相乗的な結果は、TUDCAおよび4-PBAの組合せが、活性酸素代謝物質媒介性の酸化的障害に対する、新規な、有効なおよび強力な治療法であり得、それによって神経細胞の酸化的ストレスを低減しならびに酸化的ストレスに関係する疾患に伴う少なくとも1つの症状を治療し、そのような疾患の、発症の開始時間を妨げまたは発症を遅延させることを示唆している。
【表2】
【0091】
他の態様
本発明は、その詳細な説明と併せて記載されているが、上述の説明は、例証するためのものであり、添付の特許請求の範囲によって定義されている本発明の範囲を限定するものではないことが理解されるべきである。他の側面、利点および改変は、以下の特許請求の範囲内にある。
以下に、当初の特許請求の範囲に記載していた発明を付記する。
[1] 細胞における活性酸素代謝物質媒介性の酸化的障害を低減するための方法であって、前記方法は、前記細胞を、
胆汁酸またはその薬学的に許容される、塩、類似体、誘導体もしくはプロドラッグおよび
フェニル酪酸(PBA)またはその薬学的に許容される、塩、類似体、誘導体もしくはプロドラッグ
と接触させることを含む方法。
[2] 細胞におけるレドックスホメオスタシスを調節する方法であって、前記方法は、前記細胞を、
胆汁酸またはその薬学的に許容される、塩、類似体、誘導体もしくはプロドラッグおよび
フェニル酪酸(PBA)またはその薬学的に許容される、塩、類似体、誘導体もしくはプロドラッグ
と接触させることを含む方法。
[3] 細胞におけるミトコンドリアの機能障害を低減する方法であって、前記方法は、前記細胞を、
胆汁酸またはその薬学的に許容される、塩、類似体、誘導体もしくはプロドラッグおよび
フェニル酪酸(PBA)またはその薬学的に許容される、塩、類似体、誘導体もしくはプロドラッグ
と接触させることを含む方法。
[4] 対象における活性酸素代謝物質媒介性の酸化的障害に関係する神経変性疾患を治療する方法であって、前記方法は、
活性酸素代謝物質媒介性の酸化的障害に関係する神経変性疾患を経験している対象を同定すること、
前記対象に、胆汁酸またはその薬学的に許容される、塩、類似体、誘導体もしくはプロドラッグおよびフェニル酪酸(PBA)またはその薬学的に許容される、塩、類似体、誘導体もしくはプロドラッグを投与すること
を含み、
胆汁酸と組み合わせて投与されるPBAの量を、PBA単独の投与と比較して10%~50%減じる方法。
[5] 治療を必要とする対象における、神経変性疾患を治療する方法であって、前記方法は、
APOE 4アレルの少なくとも1コピーを有する対象を同定すること、
前記対象に、胆汁酸またはその薬学的に許容される、塩、類似体、誘導体もしくはプロドラッグおよびフェニル酪酸(PBA)またはその薬学的に許容される、塩、類似体、誘導体もしくはプロドラッグを含む組成物を投与し、それによって、神経変性疾患を治療すること
を含む方法。
[6] 前記胆汁酸が、タウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)、ウルソデオキシコール酸(UDCA)、ケノデオキシコール酸、コール酸、ヒオデオキシコール酸、デオキシコール酸、7-オキソリトコール酸、リトコール酸、ヨードデオキシコール酸、イオコール酸、タウロケノデオキシコール酸、タウロデオキシコール酸、グリコウルソデオキシコール酸、タウロコール酸、グリココール酸またはその類似体、誘導体もしくは誘導体からなる群から選択される、[1]~[5]の何れか1つに記載の方法。
[7] 前記胆汁酸が、タウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)、ウルソデオキシコール酸(UDCA)からなる群から選択される、[1]~[6]の何れか1つに記載の方法。
[8] 前記PBAが、4-フェニル酪酸、グルセリル(Tri-4-PBA)、フェニル酢酸、2-POAA-OMe、2-POAA-NO2、2-NOAAまたはその薬学的に許容される、塩、類似体、誘導体もしくはプロドラッグである、[1]~[7]の何れか1つに記載の方法。
[9] 前記細胞を、約80μM~約120μMの濃度の胆汁酸と接触させる、[1]~[3]または[6]~[8]の何れか1つに記載の方法。
[10] 前記細胞を、約0.8mM~約1.2mMの濃度のフェニル酪酸と接触させる、[1]~[3]または[6]~[9]の何れか1つに記載の方法。
[11] 前記細胞が、哺乳動物細胞である、[1]~[3]または[6]~[10]の何れか1つに記載の方法。
[12] 前記哺乳動物細胞が、ヒト細胞である、[11]に記載の方法。
[13] 前記細胞が、神経細胞である、[1]~[3]または[6]~[11]の何れか1つに記載の方法。
[14] 前記活性酸素代謝物質媒介性の酸化的障害が、過酸化水素(H )媒介性の障害である、[1]に記載の方法。
[15] 前記神経変性疾患が、アルツハイマー病(AD)、ハンチントン病(HD)、パーキンソン病(PD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ピック病、多発梗塞性認知症、クロイツフェルト-ヤコブ病、レビー小体型認知症(DLB)、混合型認知症および前頭側頭型認知症から選択される、[4]に記載の方法。
[16] 前記神経変性疾患が、アルツハイマー病である、[15]に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5