(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】金属粉
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20220530BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20220530BHJP
H01B 1/02 20060101ALI20220530BHJP
H01B 5/00 20060101ALI20220530BHJP
B22F 9/24 20060101ALN20220530BHJP
【FI】
B22F1/00 K
B22F1/00 L
H01B1/00 C
H01B1/00 H
H01B1/02 A
H01B1/02 Z
H01B5/00 C
H01B5/00 H
B22F9/24 E
B22F9/24 B
(21)【出願番号】P 2020173712
(22)【出願日】2020-10-15
【審査請求日】2021-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000110147
【氏名又は名称】トクセン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 宇鎭
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-138300(JP,A)
【文献】特開2016-139598(JP,A)
【文献】RSC Advances,英国,2015年09月29日,Vol.5,p.84257-84262
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00
H01B 1/00
H01B 1/02
H01B 5/00
B22F 9/24
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレーク状である第一層、
及び
フレーク状であって、上記第一層と積層されており、上記第一層の結晶と同じ結晶に属する第二層
を備えており、
上記第二層が部分的に上記第一層と離間しており、
その材質が導電性金属であ
り、
その粒子径が0.1μm以上30μm以下である微小積層金属粒子。
【請求項2】
上記導電性金属が銀又は銅である請求項1に記載の微小積層金属粒子。
【請求項3】
多数の微小金属粒子を備えた金属粉であって、
これらの微小金属粒子が、微小積層金属粒子を含んでおり、
それぞれの微小積層金属粒子が、
フレーク状である第一層、
及び
フレーク状であって、上記第一層と積層されており、上記第一層の結晶と同じ結晶に属する第二層
を有しており、
上記第二層が部分的に上記第一層と離間しており、
その材質が導電性金属であ
り、
その平均粒子径が0.1μm以上30μm以下である金属粉。
【請求項4】
上記導電性金属が銀又は銅である請求項3に記載の金属粉。
【請求項5】
上記微小金属粒子における、上記微小積層金属粒子の比率が、30質量%以上である、請求項3又は4に記載の金属粉。
【請求項6】
その粒子径の標準偏差が15μm以下である
請求項3から5のいずれかに記載の金属粉。
【請求項7】
上記第一層と上記第二層とが、フレークが螺旋状に成長することで積層されている、請求項1又は2に記載の微小積層金属粒子。
【請求項8】
上記第一層と上記第二層とが、フレークが螺旋状に成長することで積層されている、
請求項3から6のいずれかに記載の金属粉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉に関する。詳細には、本発明は、導電性が要求される用途に適した金属粉に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器のプリント基板の製造に、導電性ペーストが用いられる。このペーストは、金属粉、バインダー及び溶剤を含んでいる。金属粉は、微小金属粒子の集合である。このペーストが用いられた印刷、エッチング等の手段により、素子と他の素子とを連結するパターンが得られる。このパターンは、加熱される。加熱により、微小金属粒子が隣接する他の微小金属粒子と焼結される。パターンは電子の通路なので、パターンには優れた導電性が必要である。
【0003】
特開2007-254845公報には、材質が銀であり、フレーク状である粒子が開示されている。この粒子は、球状の粒子にボールミルによる加工が施されて形成される。この粒子は、パターンにおいて、他の粒子と部分的に重なり合う。この重なり合いは、パターンの導電性に寄与しうる。
【0004】
国際公開第2016/125355公報には、材質が銀であり、フレーク状である粒子が開示されている。この粒子は、シュウ酸銀が分散した液からの析出によって得られる。この粒子は、パターンにおいて、他の粒子と部分的に重なり合う。この重なり合いは、パターンの導電性に寄与しうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-254845公報
【文献】国際公開第2016/125355公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のフレーク状粒子から得られたパターンでは、厚さ方向における導電性は、充分ではない。本発明の目的は、導電性に優れたパターンが得られうる金属粉の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る微小積層金属粒子は、
フレーク状である第一層、
及び
フレーク状であって、第一層と積層されており、この第一層と一体である第二層
を有する。
【0008】
好ましくは、第二層は、部分的に第一層と離間している。
【0009】
好ましくは、微小積層金属粒子の材質は、導電性金属である。好ましい導電性金属は、銀又は銅である。
【0010】
他の観点によれば、本発明に係る金属粉は、多数の微小金属粒子を有する。これらの微小金属粒子は、微小積層金属粒子を含む。それぞれの微小積層金属粒子は、
フレーク状である第一層、
及び
フレーク状であって、第一層と積層されており、この第一層と一体である第二層
を有する。
【0011】
好ましくは、微小金属粒子における、微小積層金属粒子の比率は、30質量%以上である。
【0012】
好ましくは、金属粉の平均粒子径は、0.1μm以上30μm以下である。好ましくは、金属粉の粒子径の標準偏差は、15μm以下である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る金属粉から得られたパターンでは、金属粒子が隣接する金属粒子と部分的に重なる。この重なりは、長さ方向におけるパターンの導電性に寄与する。この金属粒子では、第二層が第一層と一体なので、第一層と第二層との間の電気抵抗が極めて小さい。この金属粒子は、厚さ方向におけるパターンの導電性に寄与する。このパターンは、導電性に極めて優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る微小積層金属粒子が示された平面図である。
【
図2】
図2は、
図1の微小積層金属粒子が示された正面図である。
【
図3】
図3は、
図1のIII-III線に沿った拡大断面図である。
【
図4】
図4は、
図1-3の微小積層金属粒子を含む導電性ペーストから得られたパターンが下地と共に示された、模式的断面図である。
【
図5】
図5は、
図1の微小積層金属粒子を含む金属粉が示された顕微鏡写真である。
【
図6】
図6(a)-(c)は、
図1の微小積層金属粒子を含む金属粉が示された顕微鏡写真である。
【
図7】
図7(a)-(c)は、
図1の微小積層金属粒子を含む金属粉が示された顕微鏡写真である。
【
図8】
図8(a)-(c)は、
図1の微小積層金属粒子を含む金属粉が示された顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0016】
本発明に係る金属粉は、多数の微小金属粒子の集合である。これら微小金属粒子は、多数の微小積層金属粒子を含んでいる。
図1-3には、1つの微小積層金属粒子2が示されている。この微小積層金属粒子2の主成分は、導電性の金属である。
【0017】
この金属粉の典型的な用途は、導電性ペーストである。金属粉、溶剤、バインダー、分散剤等が混合され、導電性ペーストが得られうる。
【0018】
図1-3に示されるように、この微小積層金属粒子2は、センター層4、上ミドル層6、上エンド層8、下ミドル層10及び下エンド層12を有している。
【0019】
センター層4は、フレーク状である。換言すれば、センター層4は、薄い板の形状を有する。平面視におけるセンター層4の輪郭は、多角形(主として三角形又は六角形)である。センター層4は、導電性金属の結晶である。好ましくは、センター層4は、銀又は銅の結晶である。
【0020】
上ミドル層6は、フレーク状である。換言すれば、上ミドル層6は、薄い板の形状を有する。上ミドル層6は、導電性金属の結晶である。好ましくは、上ミドル層6は、銀又は銅の結晶である。上ミドル層6は、センター層4と積層されている。上ミドル層6は、センター層4と一体である。上ミドル層6は、センター層4と同じ結晶に属している。本発明では、2つの層が同じ結晶に属するとき、これらの層が一体であると見なされる。なお、一体である2つの層が同じ結晶粒に属する必要はない。換言すれば、各層が多結晶であってよい。上ミドル層6がセンター層4と一体なので、センター層4と上ミドル層6との間の電気抵抗は、極めて小さい。
【0021】
後述されるように、結晶の成長によってセンター層4及び上ミドル層6が形成される。従って、現実の微小積層金属粒子2では、センター層4と上ミドル層6とは明確に区別され得ない。
図2に示された正面図において、見かけ上、2つの層が区別されうる。
【0022】
図3から明らかなように、センター層4と上ミドル層6との間には、スペースS1が存在している。換言すれば、上ミドル層6は、部分的にセンター層4と離間している。
【0023】
上エンド層8は、フレーク状である。換言すれば、上エンド層8は、薄い板の形状を有する。上エンド層8は、導電性金属の結晶である。好ましくは、上エンド層8は、銀又は銅の結晶である。上エンド層8は、上ミドル層6と積層されている。上エンド層8は、上ミドル層6と一体である。上エンド層8は、上ミドル層6と同じ結晶に属している。従って、上ミドル層6と上エンド層8との間の電気抵抗は、極めて小さい。
【0024】
後述されるように、結晶の成長によって上ミドル層6及び上エンド層8が形成される。従って、現実の微小積層金属粒子2では、上ミドル層6と上エンド層8とは明確に区別され得ない。
図2に示された正面図において、見かけ上、2つの層が区別されうる。
【0025】
図3から明らかなように、上ミドル層6と上エンド層8との間には、スペースS2が存在している。換言すれば、上エンド層8は、部分的に上ミドル層6と離間している。
【0026】
下ミドル層10は、フレーク状である。換言すれば、下ミドル層10は、薄い板の形状を有する。下ミドル層10は、導電性金属の結晶である。好ましくは、下ミドル層10は、銀又は銅の結晶である。下ミドル層10は、センター層4と積層されている。下ミドル層10は、センター層4と一体である。下ミドル層10は、センター層4と同じ結晶に属している。従って、センター層4と下ミドル層10との間の電気抵抗は、極めて小さい。
【0027】
後述されるように、結晶の成長によってセンター層4及び下ミドル層10が形成される。従って、現実の微小積層金属粒子2では、センター層4と下ミドル層10とは明確に区別なされ得ない。
図2に示された正面図において、見かけ上、2つの層が区別されうる。
【0028】
図3から明らかなように、センター層4と下ミドル層10との間には、スペースS3が存在している。換言すれば、下ミドル層10は、部分的にセンター層4と離間している。
【0029】
下エンド層12は、フレーク状である。換言すれば、下エンド層12は、薄い板の形状を有する。下エンド層12は、導電性金属の結晶である。好ましくは、下エンド層12は、銀又は銅の結晶である。下エンド層12は、下ミドル層10と積層されている。下エンド層12は、下ミドル層10と一体である。下エンド層12は、下ミドル層10と同じ結晶に属している。従って、下ミドル層10と下エンド層12との間の電気抵抗は、極めて小さい。
【0030】
後述されるように、結晶の成長によって下ミドル層10及び下エンド層12が形成される。従って、現実の微小積層金属粒子2では、下エンド層12と下ミドル層10とは明確に区別なされ得ない。
図2に示された正面図において、見かけ上、2つの層が区別されうる。
【0031】
図3から明らかなように、下ミドル層10と下エンド層12との間には、スペースS4が存在している。換言すれば、下エンド層12は、部分的に下ミドル層10と離間している。
【0032】
この微小積層金属粒子2では、センター層4、上ミドル層6、上エンド層8、下ミドル層10及び下エンド層12が、同じ結晶に属している。
【0033】
図4は、
図1-3の微小積層金属粒子2を含む導電性ペーストから得られたパターン14が下地16と共に示された、模式的断面図である。
図4において、矢印Xはパターン14の長さ方向を表し、矢印Yはパターン14の厚さ方向を表す。
図4に示されるように、微小積層金属粒子2のフレーク状の表面は、隣接する微小積層金属粒子2のフレーク状の表面と、接触している。面と面とが接触しているので、これらの微小積層金属粒子2の接触面積は、大きい。従って、これらの微小積層金属粒子2の間では、電気が容易に流れうる。このペーストの長さ方向の電気抵抗は、小さい。
【0034】
図4に示されるように、微小積層金属粒子2における積層方向(微小積層金属粒子2の厚み方向でもある)は、ペーストの厚み方向と概ね一致している。前述の通り、微小積層金属粒子2では、層が他の層と一体である。従って、このペーストの厚さ方向の電気抵抗は、小さい。
【0035】
このペーストでは、長さ方向の電気抵抗は小さく、かつ厚さ方向の電気抵抗も小さい。本発明に係る微小積層金属粒子2により、導電性に優れたペーストが得られうる。
【0036】
前述の通り、微小積層金属粒子2はスペース(S1-S4)を有している。スペースを有する微小積層金属粒子2を含む金属粉の見かけ密度は、小さい。前述の通り、層は他の層と一体である。従って、スペースが存在しても、層の間の電気抵抗は小さい。この金属粉は、軽量かつ低電気抵抗である。この金属粉を含むペーストは、低コストで得られうる。
【0037】
図1-3に示された微小積層金属粒子2は、5つの層を有している。層の数は4以下であってよく、6以上であってもよい。本発明では、一体である2以上のフレーク層を有する微小金属粒子が、「微小積層金属粒子」と称される。層の数は、3以上が好ましい。層の数は15以下が好ましく、9以下がより好ましく、5以下が特に好ましい。
【0038】
図1-3に示された微小積層金属粒子2は、センター層4の上側及び下側の両方に他の層を有している。微小積層金属粒子2が、センター層4の片側のみに他の層を有してもよい。
【0039】
金属粉が、微小積層金属粒子2以外の微小金属粒子を含んでもよい。微小積層金属粒子2以外の微小金属粒子として、塊状粒子、球状粒子、フレーク状粒子及び多面体状粒子が、例示される。
【0040】
導電性の観点から、微小金属粒子における微小積層金属粒子2の比率は30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上が特に好ましい。理想的な比率は、100質量%である。
【0041】
金属粉の平均粒子径D50は、0.1μm以上30μm以下が好ましい。平均粒子径D50が0.1μm以上である金属粉では、印刷時に高い充填率が達成されうる。この観点から、平均粒子径D50は2.0μm以上がより好ましく、3.0μm以上が特に好ましい。平均粒子径D50が30μm以下である金属粉により、微細なパターン14が得られうる。この観点から、平均粒子径D50は15μm以下がより好ましく、7μm以下が特に好ましい。
【0042】
充填率の観点から、最小粒子径Dminは0.1μm以上が好ましい。パターン14の微細の観点から、最大粒子径D50maxは30μm以下が好ましい。
【0043】
金属粉における粒子径の標準偏差σは、15μm以下が好ましい。標準偏差σが15μm以下である金属粉から、均質なパターン14が得られうる。この観点から、標準偏差σは10μm以下がより好ましく、7μm以下が特に好ましい。
【0044】
平均粒子径D50、最小粒子径Dmin、最大粒子径D50max及び標準偏差σは、レーザー回折式粒度分布計によって測定される。測定器の例として、堀場製作所社の「LA-950V2」が挙げられる。
【0045】
好ましくは、微小積層金属粒子2の金属組織は、単結晶である。この微小積層金属粒子2は、ペーストの導電性に寄与しうる。
【0046】
微小積層金属粒子2が、金属とこの金属の表面に付着する有機化合物とを有してもよい。この有機化合物は、金属と化学的に結合している。微小積層金属粒子2の主成分は、金属である。微小積層金属粒子2における金属の比率は、99.0質量%以上が好ましく、99.5質量%以上が特に好ましい。微小積層金属粒子2が、有機化合物を含まなくてもよい。
【0047】
以下、この金属粉の製造方法の一例が、説明される。この製造方法では、還元法により、銀粉が得られる。この製造方法は、
(1)銀塩水溶液を調製する工程、
(2)この水溶液を撹拌しつつこの水溶液に還元剤を添加し、材質が銀であるフレークを析出させる工程、
及び
(3)水溶液をさらに撹拌しつつ、フレークを螺旋状に成長させる工程
を含んでいる。
【0048】
本発明では、フレークは、概して厚さ方向(
図3における上下方向)に成長する。成長に応じて、フレークの輪郭線は、回転する。このような成長が、本発明では、「螺旋状に成長」と称される。フレークが螺施状に成長することで、複数の層が積層された銀粒子(微小積層金属粒子2)が得られうる。
【0049】
上記工程(1)にて調製される水溶液において、好ましい銀塩は、硝酸銀である。水溶液における銀塩の濃度は、0.1M以上1.0M以下が好ましい。濃度が0.1M以上である水溶液が使用されることにより、粒子の成長が促進されうる。この観点から、この濃度は0.3M以上がより好ましく、0.4M以上が特に好ましい。濃度が1.0M以下である水溶液が使用されることにより、フレーク状の層が析出しやすい。この観点から、この濃度は0.8M以下がより好ましく、0.7M以下が特に好ましい。
【0050】
上記工程(1)にて調製される水溶液が酸を含むことで、この水溶液のPHが調整されうる。結晶の成長時に粒子の凝集が抑制され、従ってフレーク状の層が析出しやすいとの観点から、PHは5以下が好ましく、3以下がより好ましく、2以下が特に好ましい。PHの調整に適した酸として、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酸、フッ化水素酸、硝酸、塩酸、硫酸及びリン酸が例示される。塩酸、硝酸及び硫酸が、特に好ましい。
【0051】
上記工程(1)にて調製される水溶液は、好ましくは、分散剤を含む。好ましい分散剤は、グリコール系分散剤である。グリコール系分散剤を含む水溶液から、粒子径の標準偏差σが小さい銀粉が得られる。特に好ましい分散剤は、ポリエチレングリコールである。
【0052】
上記工程(2)及び(3)において添加される還元剤として、ヒドラジン、ヒドラジン化合物、ホルムアルデヒド、グルコース、L-アスコルビン酸及びD-エリソルビン酸が例示される。
【0053】
還元剤の投入速度は、微小積層金属粒子2の形成に影響を与える。投入速度が遅すぎると、フレーク状の層が析出しにくい。一方、投入速度が速すぎると、フレークが螺旋状に成長しにくい。1秒間に、5g以上30g以下の硝酸銀が還元されるに必要な量の還元剤が投入されるような速度が、好ましい。1秒間に、8g以上20g以下の硝酸銀が還元されるに必要な量の還元剤が投入されるような速度が、特に好ましい。
【0054】
上記工程(2)及び(3)において、撹拌速度は100rpm以上500rpm以下が好ましい。上記工程(2)及び(3)において、水溶液の温度は20℃以上80℃以下が好ましい。上記工程(2)及び(3)の所要時間(つまり撹拌時間)は、10分以上60分以下が好ましい。
【0055】
微小積層金属粒子2を得る手段として、
(a)分散液における硝酸銀の濃度を所定の範囲に設定すること
(b)所定の酸を使用し、硝酸銀水溶液のPHを所定の範囲に設定すること
(c)所定の分散剤を使用すること
(d)所定の還元剤を所定のスピードで投入すること
及び
(e)撹拌速度を所定の範囲に設定すること
が挙げられる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0057】
[実施例1]
0.5リットルの蒸留水に20ccのヒドラジンを投入し、還元液を得た。一方、1リットルの蒸留水に50gの硝酸銀を投入し、さらに5gのポリエチレングリコールを添加して、水溶液を得た。この水溶液に、PHが2になるまで硫酸を添加した。この水溶液を150rpmの速度で撹拌しつつ、この水溶液に100cc/secの速度で還元液を添加した。この水溶液の温度を20℃に保ちつつ、さらに30分間の撹拌を継続した。この水溶液から、微小積層金属粒子を含む銀粉が析出した。
図5-8に、この銀粉の顕微鏡写真が示されている。
【0058】
[実施例2及び3]
10gのポリエチレングリコールを投入した他は実施例1と同様にして、実施例2の銀粉を得た。20gのポリエチレングリコールを投入した他は実施例1と同様にして、実施例3の銀粉を得た。
【0059】
[比較例1]
オートクレーブを用いた反応により、フレーク状の微小粒子を含む銀粉を得た。この銀粉の製造方法は、国際公開第2016/125355公報に開示された製造方法とほぼ同じである。
【0060】
[比較例2]
水溶液における硝酸銀の濃度を0.1Mとし、ポリエチレングリコールに代えてポリビニルピロリドンを使用し、撹拌速度を300rpmとした他は実施例1と同様にして、比較例2の銀粉を得た。この銀粉のそれぞれの微小粒子は、球状であった。
【0061】
[比較例3]
比較例2の方法で得られた銀粉をビーズミルに供し、各粒子をフレーク状として、比較例3の銀粉を得た。
【0062】
[導電性の評価1]
銀粉をメタノールに分散させ、ペーストを得た。このペーストにおける銀濃度は、70質量%であった。スライドガラスに、マスキングによって塗布面を形成した。この塗布面のサイズは、8mm×50mmであった。この塗布面に、ペーストを塗布した。このペーストを150℃の温度下で30分間保持し、焼結体を得た。この焼結体の厚みは、10μmであった。この焼結体の電気比抵抗を、Advanced Instrument Technology社の測定装置(コンタクト4ポイントプローブ)で測定した。この結果が、下記の表1に示されている。
【0063】
[導電性の評価2]
焼結の温度を130℃とした他は評価1と同様にして、電気比抵抗を測定した。この結果が、下記の表1に示されている
【0064】
【0065】
表1に示されるように、各実施例の銀粉から得られた焼結体は、導電性に優れる。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る金属粉は、印刷回路用ペースト、電磁波シールドフィルム用ペースト、導電性接着剤用ペースト、ダイボンディング用ペースト等に用いられうる。
【符号の説明】
【0067】
2・・・微小積層金属粒子
4・・・センター層
6・・・上ミドル層
8・・・上エンド層
10・・・下ミドル層
12・・・下エンド層
14・・・パターン
16・・・下地