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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】大豆を主原料とする人造米の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20220530BHJP
   A23L 11/00 20210101ALI20220530BHJP
【FI】
A23L7/10 E
A23L11/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020193842
(22)【出願日】2020-11-20
【審査請求日】2022-03-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591183625
【氏名又は名称】フジッコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】須藤 頌大
(72)【発明者】
【氏名】稲熊 渉
(72)【発明者】
【氏名】丸山 健太郎
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-153396(JP,A)
【文献】特開2008-212145(JP,A)
【文献】国際公開第2007/055122(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/041683(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/10
A23L 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆粉と大豆タンパクとトランスグルタミナーゼを含む原料を加水して混練する混練工程と、
混練物を押出成形して米状成形物を得る成形工程と、
米状成形物を加熱乾燥する乾燥工程、を含み、
前記混練工程および前記成形工程の温度が、40℃以下であり、
前記乾燥工程の温度が、30~100℃であり、
前記原料が、大豆粉と大豆タンパクの混合割合が30:70~90:10であることを特徴とする人造米の製造方法。
【請求項2】
前記原料が、全原料固形分100重量部に対して、固形分として大豆粉と大豆タンパクと合計50重量部以上を含むことを特徴とする請求項1記載の人造米の製造方法。
【請求項3】
前記原料が、デンプン類を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の人造米の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆を主原料とする、高タンパク質、低糖質、かつ、米と同様の食感を有する人造米の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本人の主食である米は、デンプンを多く含んでおり比較的高カロリーであるため、肥満や糖尿病等の疾患患者においてはその摂取量を制限される場合があり、日々の食事において満足感を味わうことができない人が増加している。
そこで、様々な低カロリー食が開発されている。例えば、澱粉、デキストリン、ゲル化剤および白濁剤を用いた人造米(特許文献1)、グルコマンナンを主原料とし澱粉、食物繊維、増粘多糖類を含む飯粒状低カロリー食品(特許文献2)が提案されている。
【0003】
また、近年においては高齢者の摂食量の低下に伴う栄養障害、虚弱(フレイル)や老化に伴う筋肉量の減少(サルコペニアの発症)が問題となっており、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、高齢者のフレイル予防の観点から、十分な量のタンパク質を毎日摂ることが推奨されている。一方、日本人の主食である米は低タンパク質であり、米だけでは必要なタンパク質を摂取することはできないことから、主食となる米の代替となり、かつ、タンパク質を多く含む人造米の開発が要望されている。
例えば、大豆粉を主原料とし、化工澱粉類を副原料として用いる人造米(特許文献3)、グルテンと大豆原料を原料に用いる人造米の製造方法(特許文献4)が提案されている。
これらは高タンパク質かつ低糖質を満たす人造米であるが、食感のさらなる改良やアレルゲンフリーの観点で改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-225719号公報
【文献】特開平6-315356号公報
【文献】特開2009-153396号公報
【文献】特開2007-129946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、大豆を主原料とする高タンパク質、低糖質、かつ、米飯のような硬さや弾力を有する食感に優れた人造米を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意努力した結果、主原料の大豆粉と大豆タンパクにトランスグルタミナーゼを加え、これを加水混練して米粒状に成型した米状成形物を、加熱乾燥すると同時にトランスグルタミナーゼを活性化し作用させて得られる人造米が、炊飯時に炊き崩れることなく米粒の形状を保持し、米飯のような硬さや弾力がある食感を有し、食味と食感に優れた米飯の代替食となることを見出した。さらに高タンパク質かつ低糖質であることから、フレイルやサルコペニアの予防食や糖質制限食として食味と食感に優れた米飯の代替食となることを見出し、本発明の完成に至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下に関するものである。
[1]大豆粉と大豆タンパクとトランスグルタミナーゼを含む原料を加水して混練する混練工程と、
混練物を押出成形して米状成形物を得る成形工程と、
米状成形物を加熱乾燥する乾燥工程、を含むことを特徴とする人造米の製造方法に関する。
[2]混練工程および成形工程の温度が、40℃以下であることを特徴とする[1]記載の人造米の製造方法に関する。
[3]乾燥工程の温度が、60~90℃であることを特徴とする[1]、[2]記載の人造米の製造方法に関する。
[4]前記原料が、固形分として大豆粉と大豆タンパクとが合計50重量部以上を含むことを特徴とする[1]~[3]に記載の人造米の製造方法に関する。
[5]前記原料が、大豆粉と大豆タンパクの混合割合が30:70~90:10であることを特徴とする[1]~[4]に記載の人造米の製造方法に関する。
[6]前記原料が、デンプン類を含むことを特徴とする[1]~[5]に記載の人造米の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、炊飯時に炊き崩れることなく米粒の形状を保持し、米飯のような硬さと弾力がある食感を有し、さらに高タンパク質かつ低糖質で、食味と食感に優れた米飯の代替食となる人造米を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。本発明の人造米は、少なくとも原料にトランスグルタミナーゼと、主原料となる大豆粉と大豆タンパクを含むことを特徴とする。
また、本発明の人造米は、全原料固形分100重量部に対して大豆粉と大豆タンパクとが合計50重量部以上を含むことを特徴とする。さらに、本発明の人造米は、動物性タンパク質および小麦タンパク質を含まないことを特徴とする。
【0010】
(大豆粉)
本発明に用いる大豆粉は一般的な大豆粉を使用できる。具体的には例えば、脱皮した大豆を粉砕し、適宜加熱し乾燥したものである。大豆粉は、大豆特有の不快臭や不快味など風味の観点から加熱処理によりリポキシゲナーゼなどの酵素活性を失活させた大豆粉を使用することが好ましい。
大豆粉に使用する大豆の原料としては、丸大豆、脱皮大豆、挽き割り大豆などを使用することができ、特に限定されない。
大豆粉に使用する大豆の種類としては、黄大豆、白大豆、青大豆、黒大豆、鞍掛豆などを使用することができ、所望する風味に応じて選択すればよく、特に限定されない。例えば、色調の観点から白米に近い色調にする場合は白大豆や黄大豆が好ましい。
大豆粉の加工方法は、例えば、大豆を、脱皮処理し、加熱処理した後、粉砕処理し、乾燥処理する。なお、当該加熱処理は、脱皮処理の前または前後、または粉砕処理の後、何れであってもよく、特に限定されるものではない。また、予め脱皮処理した大豆を用いる場合は、脱皮処理は不要となる。
大豆の脱皮処理は、特に限定されないが、一般的に用いられる公知のいずれの方法を用いてもよい。具体的には、挽き割り方式、乾燥破砕方式、石臼による乾式脱皮方式、研磨方式、瞬間加熱方式などが挙げられ、市販の脱皮機を用いて行えばよい。加熱方式を用いる場合には、脱皮処理と同時に、加熱によるリポキシゲナーゼなどの酵素活性を失活、抑制することができる。
大豆の加熱処理は、加熱によるリポキシゲナーゼなどの酵素活性を失活、抑制することができればよく、特に限定されないが、一般的に用いられる公知のいずれの方法を用いてもよい。加熱方法としては、乾式加熱および湿式加熱のいずれであってもよく、乾式加熱としては焙煎、熱風等による加熱が挙げられる。
大豆の粉砕処理は、特に限定されないが、一般的に用いられる公知のいずれの方法を用いてもよい。粉砕方法は、例えば、乾式粉砕、湿式粉砕、凍結粉砕等が挙げられ、市販の粉砕機を用いて行えばよい。得られる大豆粉の粒度は、例えば、100μm以下、好ましくは25μm以下であり、最終的に得られる人造米の食感を向上させる観点から、大豆粉の粒度は小さいほど好ましい。
大豆粉は、目的とする人造米の食感、風味、成形性に応じて使用量を調整することができ、後述する大豆タンパクとの混合割合を調整することにより食味と食感に優れた本発明の人造米を得ることができる。
【0011】
(大豆タンパク)
本発明に用いる大豆タンパクは、特に限定されず、例えば、分離大豆蛋白、濃縮大豆蛋白の何れであっても使用でき、またこれらを組み合わせたものが使用できる。
分離大豆蛋白は、脱脂大豆から非蛋白性化合物が除去され、例えば、蛋白が乾物換算で約90%以上含有量まで精製されたものである。分離大豆蛋白としては、例えば、市販品、大豆蛋白を原料に調製したものを用いることができる。
濃縮大豆蛋白は、脱脂大豆から油脂の大部分と水溶性非蛋白性化合物が除去され、例えば、蛋白が乾物換算で約70%以上含有量まで精製されたものである。濃縮大豆蛋白としては、例えば、市販品、大豆蛋白を原料に調製したものを用いることができる。
大豆タンパクの性状としては、例えば、粉末状、粒状、繊維状が挙げられるが、本発明に用いる大豆タンパクは粉末状である。粒状および繊維状の大豆タンパクを用いた場合には、人造米の食感および見栄えが不均一となり好ましくない。
大豆タンパクは、目的とする人造米の食感、風味、成形性に応じて使用量を調整することができ、前述した大豆粉との混合割合を調整することにより食味と食感に優れた本発明の人造米を得ることができる。
【0012】
(大豆粉と大豆タンパクの混合割合)
大豆粉と大豆タンパクの混合割合は、目的とする人造米の食感、風味、成形性に応じて調整することができる。後述する副原料を用いない場合は、原料における大豆粉と大豆タンパクの混合割合は、全原料固形分に対して30重量部:70重量部~90重量部:10重量部の範囲で調整することにより成形性が良いものが得られるため好ましい。より好ましくは30重量部:70重量部~50重量部:50重量部とすることでより食感がよいものを得ることができるため好ましい。
大豆粉と大豆タンパクの混合割合は、全原料固形分に対して大豆粉が25重量部以下となる場合には、大豆粉と大豆タンパクを混合、混練した混練物に粘りがないため、後述する混練物を押出成形して米状成形物を得る工程において成形ができないため不適となる。
また、全原料固形分に対して大豆粉が90重量部を超える場合には、前記混練物の粘りが強すぎるため、混練物を押出成形した米状成形物がバラバラにならず互いにくっつき成形不良が生じるため不適となる。
【0013】
(トランスグルタミナーゼ)
本発明に用いるトランスグルタミナーゼの作用は、前述した大豆粉および大豆タンパクに含まれるタンパク質に対して、グルタミン酸残基とリシン残基との間にイソペプチド結合による架橋結合を形成し、高分子化することを触媒することにより、タンパク質に弾力を与えることができる。
本発明に用いるトランスグルタミナーゼは、従来知られているいずれのものであってもよく、市販のものでも独自の方法で調製されたものでもあってもよい。例えば、アクティバTG-H、アクティバTG-K、アクティバTG-M、アクティバTG-AK、アクティバTG-B、アクティバTG-S(いずれも味の素株式会社)等が挙げられる。これらのトランスグルタミナーゼは1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
トランスグルタミナーゼは、目的とする人造米の食感に応じて使用量を調整することができ、使用量は特に限定されないが、例えば、全原料固形分に対して0.005~1.0重量部を使用してもよく、好ましくは0.01~0.2重量部を添加、使用することで人造米の食感に弾力を付与することができる。
【0014】
(副原料)
本発明に用いる副原料は、必須ではないが目的とする人造米の食感、風味、成形性、保存性を向上させる目的で適宜使用することができる。副原料に用いる原料は特に限定されないが、米粉や加工澱粉等のデンプン類、アルギン酸等の増粘多糖類、単糖やデキストリンなどのデンプン類以外の糖類、セルロース等の食物繊維素材などを使用することができる。
【0015】
(デンプン類)
本発明に用いるデンプン類は、必須ではないが使用することにより、本発明の人造米に米飯特有の風味や食感を付与することができる。
デンプン類は、特にその原料や種類に限定はなく、例えば、米粉、もち粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、キャッサバ澱粉などの穀類澱粉類、高度分岐環状デキストリン、湿熱処理澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、酢酸澱粉、ヒドロキシアルキル澱粉、リン酸架橋澱粉などの加工澱粉類などが挙げられ、必要に応じてこれらを少なくとも1種類以上を用いることができる。
デンプン類の使用量は、特に限定されないが、特に米飯の風味を好む場合には、全原料固形分に対して3重量部以上、好ましくは5重量部以上、より好ましくは10重量部以上含む場合には、米飯特有の風味を有する人造米を得ることができる。
【0016】
(増粘多糖類)
増粘多糖類としては、特に限定されず、例えばアルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アラビアガム、アラビノガラクタン、アルギン酸、ガティガム、カードラン、カラギーナン、グルコマンナン、ファーセレラン、カラヤガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、ジェランガム、ネイティブジェランガム、グァーガム、サイリウムシードガム、タマリンドシードガム、タラガム、トラガントガム、ペクチン、プルラン、ウェランガム、カシアガム、ゼラチン、寒天等が挙げられる。増粘多糖類を用いることにより本発明の人造米の食感に弾力、粘りを付与し、保水性を向上することができる。
【0017】
(食物繊維素材)
食物繊維素材としては、セルロース、ポリデキストロース、難消化性デキストリン、グァーガム酵素分解物、低分子アルギン酸ナトリウム、サイリウム種皮、イヌリン、水溶性大豆多糖類、アラビアガム、コーンファイバー等が挙げられる。食物繊維素材を用いることにより本発明の人造米の食感に弾力、粘りを付与し保水性と風味を向上することができる。
【0018】
(デンプン類以外の糖類)
デンプン類以外の糖類としては、食用に供されているいずれの糖類も使用することができ、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルチトール、ソルビトールなどの還元水あめ等が挙げられる。これらは本発明の人造米を炊いたとき、および炊き上がり後に時間をおいたときに、ふっくらとした仕上がりになるという効果およびタンパク質の硬化抑制効果、デンプンの老化抑制効果などを付与することができる。
【0019】
また、本発明の人造米は、大豆粉と大豆タンパク、トランスグルタミナーゼを加水混練し成形した米状成形物を、加熱乾燥すると同時にトランスグルタミナーゼを活性化させ、タンパク質にトランスグルタミナーゼを作用させることを特徴とする。
【0020】
(混練工程)
本発明の方法においては、まず、主原料の大豆粉と大豆タンパクを均一に粉体混合する。副原料を用いる場合は、主原料と同時に混合する。次に、トランスグルタミナーゼを冷水に溶解し、該溶解液と粉体混合物を混合し混練する。
混練工程において、混練時の加水量は適宜設定できるが、例えば、水を含む原料総重量を100重量部としたとき、好ましくは30~60重量部、より好ましくは45~55重量部となる範囲になるように加水する。加水量が多い場合および少ない場合には、後述する成形工程で成形不良が生じて目的とする米状成形物を得ることができない。また、加水量が少ない場合には、後述する乾燥工程でトランスグルタミナーゼが十分に作用できず、好ましい食感を得ることができない。
混練工程においては、トランスグルタミナーゼとタンパク質との反応を亢進させないために混練物の品温が40℃以下となる条件で行う。原料となる主原料および副原料は、予め冷蔵庫で冷却しておくことが好ましい。
混練方法は、原料が均一に混合できればよく、混練機の種類は特に限定されないが、好ましくは冷却チラーを備えたものが好ましい。
【0021】
(成形工程)
混練工程で得られた混練物をスクリュー式押出機に供し、さらに混練されながら該押出機の先端に備え付けたダイ部で押出し切断して米粒状に成型する。本工程において混練物が圧縮して押し出されることにより、緻密な組織を有する米状形成物を得ることができる。
成形に用いる押出機の種類は特に限定されないが、スクイーザーやエクストルーダーを用いることができ、好ましくは冷却チラーを備えたものが好ましい。
成形工程においては、トランスグルタミナーゼとタンパク質との反応を亢進させないために米状成形物の品温が40℃以下となる条件で行う。
前工程の混練工程中および成形工程中において、混練物の品温が40℃を超える場合には、混練物中のトランスグルタミナーゼの活性化が亢進し、一度組織化されたものが押出により崩壊するため得られた米状成形物の保形性が低下し、割れや屑が多く発生する。また、最終製品の人造米において、弾力の付与が過剰となり好ましい食感を得ることができない。
【0022】
(乾燥工程)
成形工程で得られた米状成形物を、100℃以下で乾燥させると同時にトランスグルタミナーゼの活性化を亢進させ、さらに乾燥が進むことにより米状成形物を所定の乾燥状態まで乾燥させ、同時にトランスグルタミナーゼを失活もしくは不活性化させる。
乾燥工程においては、100℃以下で乾燥させることにより、変色が少ない色調のよいものが得られるだけでなく、同時にトランスグルタミナーゼとタンパク質との反応を亢進させることができ、これにより米状成形物内のタンパク質が互いに架橋結合して高分子化されることにより本発明の人造米に適度な弾力と保形性の向上を付与することができ、食感と調理耐性に優れた人造米を得ることができる。
乾燥工程の温度は、100℃以下であり、好ましくは50~100℃、30~210分間で乾燥することが好ましい。より好ましくは60~90℃、35~90分間であり、この場合は食感および色調のよいものが得られるだけでなく、乾燥効率が高く乾燥時間が短時間となるため生産性が高く好ましい。なお、下限温度は特に限定されないが、低温で乾燥する場合は乾燥効率が悪く、乾燥時間がかかることから好ましくない。
本発明の方法における所定の乾燥状態は、水分量12重量%以下が好ましく、より好ましくは10重量%以下であり、さらに好ましくは8重量%以下であり、水分量を低下することにより、保存中の微生物による変敗や褐変を抑制できるため好ましい。
また、使用する乾燥機は、特に限定されないが、熱風バンド乾燥、熱風流動乾燥、熱風棚式乾燥などを用いることができる。
【0023】
本発明の方法により得られた人造米は、風味と食感に優れており、この人造米を単体でそのまま通常の炊飯方法でご飯として喫食することができる。また、本発明の人造米は、精白米、玄米などに適宜混ぜて炊飯して喫食することができる。
【0024】
かくして、本発明の方法によって、炊飯時に炊き崩れすることなく米粒の形状を保持し、米飯のような硬さと弾力ある食感を有し、さらに高タンパク質かつ低糖質で、食味と食感に優れた米飯の代替食となる人造米を製造することができる。
【実施例
【0025】
次に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
〔実施例1、2、比較例1~3〕
下記の実施例および比較例は、特記しない限り、下記の原料および条件を用いて行った。
(人造米の製造)
はじめに、実施例1の製造方法について以下に記載する。
原料には、大豆粉、粉末状大豆タンパク(不二製油株式会社製、分離大豆蛋白)、トランスグルタミナーゼ(味の素株式会社製)を用いた。
大豆粉は、丸大豆(北海道産とよまさり)を115℃20分間、熱風加熱した後、大豆を脱皮機で脱皮し、粉砕機にて粉砕することにより行った。得られた大豆粉の平均粒径は20~30μmであった。
次に、10℃以下で冷蔵保存した大豆粉2000gと大豆タンパク2750gを粉体混合した後、10℃の水5249gにトランスグルタミナーゼ1gを溶解して、これらを混合し均一に混練して混練物を得た。このとき混練物の品温は20℃以下であった。
次に、混練物を端部に成形ダイ部を備えたスクリュー式押出機に供給し、押出機ローターの外環ジャケット内にチラー水(10℃)を循環させて押出し、同時にカッティングして米状成形物を得た。このとき米状成形物の品温は25℃以下であった。なお、米状成形物のサイズは、長さ7mm×幅2mm×厚み2~3mmとなるように調整した。
次に、米状成形物をスチームコンベクションオーブンに供給し、加湿なしで熱風棚式乾燥を80℃45分行い、乾燥中にトランスグルタミナーゼを活性化、作用させて、実施例1の人造米のサンプルを得た。
実施例2として、原料の大豆タンパクを分離大豆蛋白から濃縮大豆蛋白(松田産業株式会社製)に替えた以外は、実施例1と同様に行い、実施例2のサンプルを得た。
比較例として、トランスグルタミナーゼを使用したものとして、原料に大豆粉のみを用いたもの(比較例1)と、大豆タンパクのみを用いたもの(比較例2)、トランスグルタミナーゼを使用しないものとして、大豆粉と大豆タンパクを用いたもの(比較例3)を、原料以外は実施例1と同様にして作製した。なお、表1中、それぞれの数値は、原料総重量当りの重量%を示している。
【0027】
(人造米の炊飯)
実施例、比較例で得られた人造米200gに水400gを加えてジャー炊飯器を用いて常法通りに炊飯を行い、シャモジでよくかき混ぜた後、10分間ジャー炊飯器内で蒸らした。
【0028】
(人造米の評価)
実施例、比較例で得られた人造米について、製造時における人造米の成形性と、人造米の炊飯後の官能評価(食感、見栄え、味・風味)について評価した。
官能評価については、訓練された嗜好性官能評価パネラー5名によって試食を行い、下記の評価基準に従って評価し、その結果を集約した。なお、試食評価において、成形不良により炊飯しなかったものについては「―」標記した。結果を表1に示す。
〔成形性の評価基準〕
◎:粒表面が滑らかで、崩れや割れがなく成型できる。
○:崩れや割れがなく、成形できる。
△:少し崩れがあるが成形できる。
×:成形できない、または崩れや割れが多い。
〔試食評価の評価基準〕
(食感)
◎:米飯に近い食感があり、おいしい。
○:食感がまずまずで、おいしい。
△:食感がやや悪くおいしさが劣る。
×:食感が悪くおいしくない。
(見栄え)
〇:変色、炊き崩れ、結着が少なく見栄えがよい。
△:変色、炊き崩れ、結着の何れかに問題があり見栄えが劣る。
×:変色、炊き崩れ、結着の何れかに問題が多く見栄えが悪い。
(味・風味)
〇:焦げ、苦みがなく、大豆の風味がありおいしい。
△:焦げ、苦みが少しある、または大豆の風味が少なく風味が劣る。
×:焦げ、苦味があり、おいしくない。
【0029】
【表1】
【0030】
表1の結果より、大豆粉単体で大豆タンパクを併用しない場合(比較例1)は粘りが強いため成形不良が生じ、大豆タンパク単体で大豆粉を併用しない場合(比較例2)は粘りがなく生地がまとまらないため成形できなかった。また、トランスグルタミナーゼを使用しない場合(比較例3)は成形性がよいが、炊飯時にゲル化が生じて食感、見栄えとも不良であった。これらから本発明の人造米においては、大豆粉、大豆タンパクおよびトランスグルタミナーゼが必須の原料であることが分かった。また、大豆タンパクの種類については、種類により粘りの強さや付着性に違いがあるが、分離大豆蛋白(実施例1)、濃縮大豆蛋白(実施例2)ともに良好な食感を得ることができた。
【0031】
〔実施例1、比較例4〕: 酵素反応工程の検討
実施例1の混練工程においてトランスグルタミナーゼを活性化、作用させた場合の試験を行った。具体的には、常温保存した大豆粉2000gと大豆タンパク2750gを粉体混合した後、50℃の水5249gにトランスグルタミナーゼ1gを溶解して、これらを混合し均一に混練した。混練直後の混練物の品温は40℃であった。混練物を袋に入れ密封した後、恒温器に入れ40℃1時間維持した後、押出機に供給し、乾燥させて比較例4の人造米のサンプルを得た。なお、成形工程および乾燥工程の条件は、実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
表2の結果より、混練工程においてトランスグルタミナーゼを活性化し作用させた場合(比較例4)は、米状成形物に崩れや割れが生じ、炊飯後の品質も形状が崩れ、食感が不良であった。本発明の人造米においては、乾燥工程においてトランスグルタミナーゼを活性化し作用させることが必須であることが分かった。
【0034】
〔実施例3,4、比較例5,6〕: 混練工程および成形工程の温度条件の検討
米状成形物の成形性について、混練工程から成形工程までの混練物の温度条件を検討した。具体的には、混練工程から成型工程までの混練物の品温が、25℃(実施例3)、40℃(実施例4)、45℃(比較例5)、50℃(比較例6)となるように、加水する水の温度を調整し、混練開始から成形終了まで20分間以内で行い、得られた粒状成形物を乾燥させて人造米の各サンプルを得た。なお、混練工程から成型工程までの温度条件以外は、実施例1と同様に行った。結果を表3に示す。
【0035】
【表3】
【0036】
表3の結果より、混練工程から成型工程までの品温が40℃以上(実施例4、比較例5,6)の場合は、米状成形物にやや崩れが生じて成型性が低下し、炊飯後の食感と見栄えが劣ることが分かった。特に、品温が45℃以上の場合(比較例5,6)はトランスグルタミナーゼが過剰に活性化、作用することにより、炊飯後の人造米の弾力が強すぎるため食感が不良であった。これらから本発明の人造米においては、混練工程から成型工程までの混練物の品温を40℃以下にすることが必須であることが分かった。
【0037】
〔実施例1、比較例7〕: 乾燥処理の要否検討
実施例1の乾燥工程において、加熱乾燥させない条件でトランスグルタミナーゼを活性化、作用させた場合の試験を行った。具体的には、成形工程後に得られた米状成形物を袋に入れ密閉した後、恒温器に供給し品温が55℃達温後、60分間維持してトランスグルタミナーゼを活性化、作用させて比較例7の人造米のサンプルを得た。なお、混練工程および成形工程の条件は、実施例1と同様に行った。結果を表4に示す。
【0038】
【表4】
【0039】
表4の結果より、乾燥処理をしない場合(比較例7)は、炊飯後の品質において、割れがやや多く、ボソボソして脆い食感であった。本発明の人造米においては、乾燥工程において人造米を乾燥状態とすることが必須であることが分かった。
【0040】
〔実施例5~8、比較例8〕: 大豆粉と大豆タンパクの混合割合の検討
実施例1の原料において、大豆粉と大豆タンパクの混合割合を変更した場合の試験を行った。具体的には、大豆粉と大豆タンパクの混合割合のみを増減させ、水およびトランスグルタミナーゼは実施例1と同様にして行い人造米の各サンプルを得た。なお、混練工程、成形工程および乾燥工程の条件は、実施例1と同様に行った。結果を表5に示す。なお、表5中、それぞれの数値は原料総重量当りの重量%を示し、括弧内の数値は大豆粉と大豆タンパクの割合を示している。
【0041】
【表5】
【0042】
表5の結果より、全原料固形分に対して大豆粉の混合割合が25重量%以下(大豆タンパクが75重量%以上)の場合(比較例8)は、生地に粘りがないため生地がまとまらず成形できなかった。また、全原料固形分に対して大豆粉の混合割合が90重量%以上(大豆タンパクが10重量%以下)の場合(実施例8)は、生地に粘りが強いため、押し出された粒同士の結着が生じ、成形性、食感、見栄えが劣るものが生じた。
【0043】
〔実施例9~15、比較例9,10〕: 乾燥温度の検討
実施例1の乾燥工程において、乾燥温度、時間を変更した場合の試験を行った。具体的には、水分量が8重量%以下となるまで各温度で乾燥させて人造米の各サンプルを得た。なお、混練工程および成形工程の条件は、実施例1と同様に行った。結果を表6に示す。
【0044】
【表6】
【0045】
表6の結果より、乾燥温度が100℃を超える場合(比較例9、10)は、変色や焦げが生じて見栄えが劣るものになった。また、乾燥温度が60~90℃の範囲の場合(実施例11~14)は、食感、見栄え、味・風味の全ての観点において優れていた。
【0046】
〔実施例16〕: 加工デンプンの検討
実施例1の原料において、大豆粉と大豆タンパクの一部を加工デンプンに置き換えた場合の試験を行った。具体的には、大豆粉1590gと大豆タンパク2170gに、加工デンプン(松谷化学工業株式会社製、湿熱処理澱粉)1000gを粉体混合した後、実施例1と同様にして行い、実施例16の人造米のサンプルを得た。なお、混練工程、成形工程および乾燥工程の条件は、実施例1と同様に行った。結果を表7に示す。なお、表7中、それぞれの数値は原料総重量当りの重量%を示し、括弧内の数値は大豆粉、大豆タンパク、加工デンプンの割合を示している。
【0047】
【表7】
【0048】
表7の結果より、加工デンプンを用いることにより、成形性、食感、味・風味に優れる人造米が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の方法によって製造される人造米は、炊飯時に炊き崩れすることなく、米飯のような粒感や硬さ、水分感、弾力性がある食感を有し、さらに高タンパク質かつ低糖質で、食味と食感に優れた米飯の代替食となる人造米を提供することができる。
【要約】
【課題】大豆を主原料とする高タンパク質、低糖質、かつ、米飯のような硬さや弾力を有する食感に優れた人造米を提供することを目的とする。
【解決手段】大豆粉と大豆タンパクとトランスグルタミナーゼを含む原料を加水して混練する混練工程と、混練物を押出成形して米状成形物を得る成形工程と、米状成形物を加熱乾燥する乾燥工程、を含むことを特徴とする人造米の製造方法が提供される。
【選択図】なし