(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】混合液分離装置
(51)【国際特許分類】
B01D 17/032 20060101AFI20220530BHJP
B01D 17/02 20060101ALI20220530BHJP
B01D 43/00 20060101ALI20220530BHJP
C02F 1/40 20060101ALI20220530BHJP
C02F 11/12 20190101ALI20220530BHJP
【FI】
B01D17/032
B01D17/02
B01D43/00 Z
C02F1/40 Z
C02F11/12
(21)【出願番号】P 2021154921
(22)【出願日】2021-09-22
【審査請求日】2021-11-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000179328
【氏名又は名称】リックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大石 和義
(72)【発明者】
【氏名】岡元 浩幸
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/038408(WO,A2)
【文献】特開2017-225908(JP,A)
【文献】特開2014-050775(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113382796(CN,A)
【文献】特開2010-167534(JP,A)
【文献】特開2006-326445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 17/00-17/12、43/00
B23Q 11/00-13/00
C02F 1/40、11/00-11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被連れ回り特性が異なる少なくとも2種類の非混和の液状の物質の混合液から特定の物質を分離して取り出す混合液分離装置であって、
円筒形で、その一端部に前記混合液を吸入する吸入口を有し、他端部に分離された前記特定の物質を吐出する吐出口を有する外側部材と、
該外側部材と同軸的に配置され該外側部材内で相対回転可能な棒状の内側部材と、
前記外側部材と前記内側部材とを相対回転させる駆動手段と、を有し、
前記内側部材の外周側は該外側部材および該内側部材の相対回転により該特定の物質を前記一端部から前記他端部に案内するラセン状の案内壁を一条有し、
前記外側部材と前記内側部材の相対回転により前記特定の物質を前記案内壁に沿って前記他端部に送ることにより分離し、
前記案内壁間の距離である谷幅Vw(mm)は、前記案内壁の幅である山幅Mw(mm)を基準として、
2.33以上
、11.50以下であり、外径D(mm)との関係が、(Vw+Mw)/πDが0.0
7以上、0.
13以下、
である、
混合液分離装置。
【請求項2】
前記(Vw+Mw)/πDが
0.09以上である請求項1に記載の混合液分離装置。
【請求項3】
前記谷幅Vwは6.3mm以上である請求項
1又は2に記載の混合液分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械などの工場設備にて洗浄や潤滑などに使用されて非混和の異種成分が混合状態となった混合液から、所定の物質を分離する混合液分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械加工などの製造業では、加工時の潤滑や冷却、加工後の洗浄や脱脂など各種の目的で工業用水を主成分とするクーラントが使用される。これらのクーラントには、使用目的に応じて切削剤や洗浄剤など各種の成分が添加され、使用後には切り粉や潤滑用に供給された油分などの異物が混合した排液の状態で回収される。そして回収された排液は異物を除去した後に循環使用される。このような排液処理のための設備として、従来より各種の装置が用いられている(例えば特許文献1、2参照)。
【0003】
この特許文献に示す先行技術においては、円筒形の外側部材の内部に外側部材に対して相対回転する棒状の内側部材を同軸配置し、内側部材の外周に設けられた螺旋状の案内壁を外側部材の内周面に摺接させる構成のスクリューパイプ方式の液分離機構を採用している。そして作動時には、スクリューパイプの下部を分離対象の混合液内に浸入させた状態で、外側部材と内側部材を相対回転させる。これにより、案内壁が外側部材の内周面に摺接しながら回転し、混合液の液面に浮遊した油分などの分離対象物質が案内壁の螺旋面によって上方に移送されて分離回収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】再公表WO2005/038408号公報
【文献】特開2014-050775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで従来の混合液分離装置は高い性能をもつものの、更なる高性能化を果たすことで装置の稼働量を減少させて長寿命化を目指すことが求められた。混合液分離装置が故障により作動しなくなるとクーラントが本来の効果を発揮することができなくなり、連鎖的に他の装置にも悪影響を及ぼすおそれがあるため長期間問題なく稼働できることが求められる。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、従来よりも高い回収速度を実現することができる混合液分離装置を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する目的で本発明者らは鋭意検討を行った結果、内側部材の外周に設けられた螺旋状の案内壁について特定の形態を採用することにより回収速度が向上できることを見出し以下の発明を完成した。すなわち、本発明の混合液分離装置は、被連れ回り特性が異なる少なくとも2種類の非混和の液状の物質の混合液から特定の物質を分離して取り出す混合液分離装置であって、
円筒形で、その一端部に前記混合液を吸入する吸入口を有し、他端部に分離された前記特定の物質を吐出する吐出口を有する外側部材と、
該外側部材と同軸的に配置され該外側部材内で相対回転可能な棒状の内側部材と、
前記外側部材と前記内側部材とを相対回転させる駆動手段と、
を有し、
前記内側部材の外周側は該外側部材および該内側部材の相対回転により該特定の物質を前記一端部から前記他端部に案内するラセン状の案内壁を一条有し、
前記外側部材と前記内側部材の相対回転により前記特定の物質を前記案内壁に沿って前記他端部に送ることにより分離し、
前記案内壁間の距離である谷幅Vw(mm)は、前記案内壁の幅である山幅Mw(mm)を基準として、1.0以上であり、外径D(mm)との関係が、(Vw+Mw)/πDが0.01以上、0.20以下である。
【0008】
(Vw+Mw)/πDは0.15以下であることが好ましく、0.07以上であることも好ましい。前記谷幅Vwは6.3mm以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の混合液分離装置は、上記構成を有することにより高い回収速度を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の混合液分離装置における案内壁の山幅Mwを測定する位置を説明する模式図である。
【
図2】本発明の混合液分離装置の正面概略図である。
【
図3】本発明の混合液分離装置の正面の一部拡大図である。
【
図4】本実施例の混合液分離装置における回収速度の(Vw+Mw)/πD依存性を示すグラフである。
【
図5】本実施例の混合液分離装置における回収速度のVw/Mw依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の混合液分離装置の実施の形態を説明する。本明細書中に記載した数値範囲は、明細書中に記載した値を上限又は下限として用いて任意の範囲を設定可能であり、設定した範囲の上限及び/又は下限は含んでいても含まなくても良い。
【0012】
本発明の混合液分離装置は、被連れ回り特性が異なる少なくとも2種且つ非混和の物質からなる混合液から特定の物質を分離する混合液分離装置である。本発明の混合液分離装置は後述する案内壁などの内側部材に対する連れ回り特性が異なる2以上の物質の混合液から特定の物質を分離する装置である。混合液から回収される量は、特定の物質の連れ回り特性と特定の物質の存在量・存在比などに影響される。連れ回り特性に影響を与える因子としては粘度や親和性などがある。粘度が高い方、親和性が高い方が内側部材から脱落し難く連れ回りしやすくなる。特に粘度の高さが連れ回りのし易さに大きな影響を与える。したがって、本発明の混合液分離装置で分離できる混合液としては、粘度の低い液体と粘度の高い液体とを含む混合液が望ましい。たとえば、水と油、粘度の異なる油、などである。特に粘度が高い油を特定の物質とすることが好ましい。粘度が高い油としてはVG32以上の粘度が高い油(VG46、VG68、VG100、VG150など)が好ましい。また、混合液は、切り粉や切削粉などの金属屑を含むスラッジや、ヘドロ、また、水溶性と不水溶性の液体であってもよい。
【0013】
例えば、本実施形態の混合液分離装置が想定する混合液はクーラントとクーラント中に混入したオイルが挙げられる。特に特定の物質としては、粘度が高いオイルが想定される。そのためクーラントと比べて粘度差が非常に大きくなっており、オイルが連れ回りにより回収される速度はクーラントが回収される速度よりも非常に高くなっている。本実施形態の混合液分離装置は、後述する構成をもつことにより回収速度が向上できる。
【0014】
そして、本発明の混合液分離装置は、外側部材、内側部材および駆動手段からなる。
外側部材は、円筒形で、その一端部に混合液を吸入する吸入口を有し、他端部に分離された特定の物質を吐出する吐出口を有する。また、内側部材は、外側部材と同軸的に配置され、外側部材内で相対回転可能な棒状である。
【0015】
外側部材および内側部材は、その材質に特に限定はないが、分離する混合液中に長期間浸されたり混合液と接触していても安定な材質が望まれる。したがって、その材質は混合液の種類に応じて適宜選択する必要があるが、たとえば、金属製や樹脂製が好ましい。また、外側部材および内側部材の大きさは、分離される混合液の種類や分離量に依存するものであるため、適宜決定すればよい。内側部材の軸方向の長さのうち、液面から上の部分が長い方が分離速度は低下するものの、分離精度は高くできる。
【0016】
外側部材の吸入口は、混合液を外側部材内に吸入できれば、その形状や大きさに特に限定はない。たとえば、円筒部材の一方の開口端部や、外周面に形成された開口部からなるのが好ましい。吸入口は、混合液に浸った状態で、外側部材および内側部材に対する被連れ回り力により吸入口から混合液を連続的に吸入させるのがよい。また、分離対象の物質が液面に浮かぶものであるときは、開口部が、軸方向に延びる開口であるのが好ましい。軸方向に延びる開口であれば、混合液分離装置の軸方向が液面に対して交差するように設置した場合、液面の変動があっても、開口部に液面近傍が位置することになり液面に浮かぶ物質を含む混合液を開口部から連続的に吸入することが可能となる。軸方向に延びる開口とする場合には、外側部材の軸方向の全体にわたる大きさであっても良く、例えば、軸方向の全長のうち、変動する液面が存在しうる範囲を開口とすることができる。
【0017】
外側部材の吐出口は、分離された特定の物質を外側部材の外部へ吐出できれば、その形式に特に限定はない。たとえば、円筒部材の一方の開口端部や、外周面に形成された開口部からなるのが好ましい。特に、外側部材の外周面に開口した開口部からなる吐出口であれば、特定の物質を効率よく装置外へ吐出することができる。吐出口の大きさや形状に特に限定はなく、さらに、開口部から装置の外部に向かって延出する管状部材などを設け、特定の物質を回収箱などに搬送してもよい。
【0018】
また、外側部材の他端部に形成され吐出口から吐出する特定の物質を受ける特定物質受け部と、特定物質受け部に形成され特定物質受け部に溜まった特定の物質を排出する特定物質排出部と、からなる排出手段を有する混合液分離装置であれば、特定の物質を効率よく装置外へ排出することができる。
【0019】
特定物質受け部は、吐出口から吐出する特定の物質を受けることができれば、その形状や大きさに特に限定はないが、たとえば、外側部材と同軸的に固定された有底円筒形状部分を有すれば、特定物質排出部以外の場所から流出するのを防ぐことができる。また、円筒形状部品は、加工しやすく安価であるため、入手が容易である。さらに、後述の排出手段において移送手段として板状体を用いる場合には、特定物質受け部が円筒形であるのが好ましい。後述のように、板状体は特定物質受け部に対して回転するので、特定物質受け部が円筒形状でない(たとえば方形状)と、板状体が届かない場所ができ、排出されない特定物質が生じる可能性がある。
【0020】
また、特定物質排出部は、特定物質受け部に溜まった該特定の物質を排出できれば、その形式に特に限定はない。たとえば、特定物質排出部として、特定物質受け部に開口部を形成すれば、特定物質受け部に溜まった特定の物質は、開口部に達したところから順次装置外へ吐出される。そのため、たとえば、有底円筒形状部分を有する特定物質受け部の底部や外周面に開口を設ければよい。また、装置を設置した際に、特定物質排出部が重力の作用方向に開口している排出口であれば、特定物質受け部に溜まった特定の物質が自重により効率的に排出されるため好ましい。また、排出口が重力の作用方向に開口していると、排出口の側面に特定の物質やゴミ等が滞り難くなるため、排出口で特定の物質が固化して固まったりゴミやスラッジが溜まったりなどして起こる排出口の詰まりを低減できる。
【0021】
また、排出手段は、さらに、特定物質受け部に溜まった特定の物質を排出口へ移送する移送手段を有するのが好ましい。移送手段としては、内側部材に固定され、外側部材と内側部材との相対回転により特定物質受け部と相対的に回転して特定物質受け部に溜まった特定の物質を特定物質排出部に押し集める板状体であるのが好ましい。本発明の混合液分離装置において、外側部材と内側部材とは相対回転するため、内側部材に固定された板状体は、外側部材に形成された特定物質受け部や排出部と相対回転する。板状体を特定物質受け部に対して回転することにより、特定物質受け部に溜まった特定の物質を板状体で押して排出部に集めることができ、効率よく排出を行うことができる。また、特定の物質が、長時間の放置により固化しやすい物質であっても、板状体により流動されるので、特定物質受け部に溜まった状態で固化するのを防止できる。
【0022】
板状体は、特定の物質を押すことができる面を有するものであれば、その大きさや数に特に限定はない。また、板状体は、金属板やある程度の剛性を有する樹脂製板などの他、特定物質受け部と弾接するゴム板などの弾性体であってもよい。
【0023】
また、外側部材および内側部材は、その設置方向に特に限定はないが、その軸方向が重力の作用方向であるのが好ましい。軸方向が重力の作用方向となるように設置すれば、設置場所が少なくて済む。また、外側部材および内側部材の回転が重力により偏芯し難くなる。この際、吸入口が下側に、吐出口が上側に位置するとよい。なお、外側部材および内側部材の軸方向が重力の作用方向に対して角度をもって設置される場合には、両部材を同軸的に相対回転可能に支持する支持具を用いれば、外側部材および内側部材の回転が重力により偏芯するのを防ぐことができる。
【0024】
駆動手段は、外側部材と内側部材とを相対回転させる。回転手段は、モータからなるのが好ましい。また、混合液の種類に応じて装置の回転数を変更できるように、モータを制御する回路を有してもよい。さらに、外側部材および内側部材の回転が偏芯しないように、軸受けを設けてもよい。
【0025】
なお、本発明の混合液分離装置は、混合液中の特定の物質が外側部材および内側部材に連れ回ることができる回転速度で相対回転する。そして、回転速度は、装置の寸法、また、混合液の種類や処理能力に依存するものであるが、10~200rpmが好ましい。このとき発生する遠心力は0.002~0.9G程度の弱いものである。したがって、物質を外側部材の内周面側に押し付けたり内側部材から遠ざけたりするような強い遠心力が発生する程早い回転ではない。ただし、物質の回収能力や装置の耐久性を考慮すると、30~120rpmが好ましい。
【0026】
内側部材の外周側は、外側部材および内側部材の相対回転により特定の物質を外側部材の一端部から他端部に案内するラセン状の案内壁を1条有する。そして、外側部材と内側部材の相対回転により特定の物質を案内壁に沿って他端部に送ることにより分離する。並列する案内壁間の軸方向での距離を谷幅Vw(mm)とし、案内壁の軸方向での幅である山幅Mw(mm)をとすると、Vw/Mwは1.0以上である。
【0027】
更に、案内壁の外径をD(mm)とすると、(Vw+Mw)/πDが0.01以上、0.20以下である。(Vw+Mw)/πDは下限値が0.04、0.05、0.07、0.09の何れかであることが好ましく、上限値が0.15、0.14、0.135、0.13、0.125、0.12の何れかであることが好ましい。
【0028】
谷幅Vwは5.0mm以上であることが好ましく、6.3mm以上であることがより好ましく、9.0mm以上であることが更に好ましい。Vwの上限は特に規定しないが13
.0mm、10.5、10mmなどが例示できる。Mwとしては3.0mm以下であることが好ましく、2.0mm以下であることがより好ましく、1.2mm以下であることが更に好ましい。Dとしては下限値が、10mm、15mm、20mm、上限値が、150mm、100mm、50mmとすることが好ましい。Dは大きい方が分離速度が大きくなり、小さい方が混合液分離装置の大きさを小さくできる。
【0029】
なお、谷幅Vwは、螺旋状に配設された案内壁間の距離である。MwとVwの値は、案内壁の全体にわたって評価できるが、特に液面近傍とその近傍より上に位置する部分の値として評価することが好ましい。更にMw及びVwの値が案内壁の評価する範囲の全体にわたって同一の値でない場合には、平均値で評価できる。なお、軸方向の評価する範囲の長さの任意の90%以上の部分においてMw及びVwの値が平均値を100%としたときに50~150%の範囲に入ることが好ましく、軸方向の評価する範囲の全体にわたって50~150%の範囲に入ることがより好ましい。この範囲の下限としては70%、90%を採用でき、上限値は130%、110%を採用できる。
【0030】
山幅Mwの測定は案内壁の最外周(軸方向のそれぞれの位置における最も外方向に位置する点)より0.1mmの部分での幅である(
図1)。例えば、
図1(a)に示すように、案内壁の断面形状が矩形である場合は、Mwは最外周部分の幅と同じ幅であり、
図1(b)に示すように、案内壁の断面形状が波状である場合には最外周から0.1mm中心側に移動した部位での幅である。Vwは、Mwを測定した部位において測定した値である。従って、案内壁を構成するらせんのピッチPからMwを引いた値がVwである。
【0031】
外側部材および内側部材は、混合液中の特定の物質に対してより強く連れ回しする性質を有するのが好ましい。たとえば、物理的または化学的に外側部材および内側部材に付着しやすい物質は、外側部材および内側部材に連れ回される。
【0032】
また、外側部材および内側部材は、外側部材の内周側および内側部材の外周側の少なくとも一方にラセン状の案内壁を有する形状であれば、その形状に特に限定はない。すなわち、外側部材はその内周側が円筒状であり、内側部材はその外周側にラセン状の案内壁を有するものが好ましい。外周側にラセン状の案内壁を有する内側部材としては、雄螺子の他、バネや、ラセン状に巻いた線材であってもよい。この際、特定の物質は、その粘着力や摩擦力などにより、外側部材のシリンダ状の内周面および内側部材の案内壁(雄螺子)に連れ回される。より連れ回り特性を向上させたい場合は、外側部材の内周側または内側部材の外周側を起毛状やブラシ状の凹凸面としてもよい。特に、金属屑などの粉体は、凹凸面に付着し易いので好ましい。また、外側部材の内周側および内側部材の外周側の少なくとも一方を親水性または疎水性の面としてもよいし、磁力を有する面としてもよい。
【0033】
そして、吸入口より吸入された混合液は、混合液のうち特定の物質を、外側部材と内側部材の相対回転により案内壁に沿って他端部に送る。この際、混合液中の特定の物質以外(以下「他の物質」とする。)は、外側部材および内側部材に連れ回され難いので、他の物質が吸入口から特定の物質と共に吸入されても、特定の物質が外側部材の一端から他端へと送られるうちに、外側部材および内側部材より脱離する。また、凹凸面を形成した場合であっても、凹凸面を弾性材料で形成すれば、凹凸面に付着した特定の物質はラセン状の案内壁に掻き取られ、掻き取られた特定の物質を案内壁に沿って、外側部材の一端部から他端部へ、滑らかに送ることができる。
【0034】
なお、混合液の粘度の差が小さい液体からなる混合液であっても、外側部材と内側部材との隙間の幅や、回転手段の回転数を調整することにより、分離が可能である。また、同一の混合液であっても、隙間の幅や、回転手段の回転数を調整することにより、分離量や、分離後の特定の物質に含まれる他の物質の量が変化するなど、処理能力に差が生じるため、分離後の特定物質の用途に応じて調整するとよい。
【0035】
本発明の混合液分離装置は、たとえば金属加工工程において回収された廃液を回収したタンクに対し、少なくとも1つ設置すればよい。また、回収された特定の物質に、さらに他の物質が含まれている場合は、各部材の連れ回り特性や、部材間の隙間の幅や回転数といった条件を変えた混合液分離装置を用いて分離することも可能である。
【0036】
以下に、本発明の混合液分離装置について以下実施例に基づき詳細に説明を行う。以下の説明で用いる図面は模式図であり相対的な位置、大きさなどについては必ずしも厳密なものでは無い。
【0037】
本実施例の混合液分離装置を
図2及び3を用いて説明する。
図2は、本実施例の混合液分離装置の正面図であって、
図3は、
図2の一部拡大図である。
【0038】
本実施例の混合液分離装置は、外側部材1、内側部材2および駆動手段3からなる。
外側部材1は、外筒本体10と接続部15とからなる。外筒本体10は、樹脂製で円筒形の配管材である。外筒本体10の外周面には、吸入口11が形成されている。吸入口11は、外筒本体10の一端から軸方向に切断され形成された180°開口である。そして、吸入口11は、軸方向に延びる軸方向開口端面111,113と周方向開口端面112により区画されている。ここで、円筒形の部材の外周面に開口を形成する場合、軸方向の切断は、通常、径方向に切断される。しかしながら、その切断面111は、吸入される混合液の流れを妨げる方向に向く。そのため、180゜開口には、混合液が吸入される側に、先端が肉薄となったエッジ部(図略)が設けられる。軸方向開口端面111を内周面側に傾斜する傾斜面としてエッジ部を形成することにより、混合液の流れが滑らかになる。
そして、外筒本体10の他端部には、吐出口16が接続されている。
【0039】
接続部15は、外筒本体10と同じ樹脂製で、一端にフランジ部151をもつ円筒形である。接続部15の他端部は、その底面が、混合液タンク等に設置する際の被設置面150となる。接続部15は、外筒本体10よりも軸方向に短いため、接続部15の被設置面150の下方より外筒本体10の吸入口11側が突出している。
【0040】
内側部材2は、金属製の台形螺子からなる。内側部材2は、外側部材1(外筒本体10)と同軸的に配置される。この際、外側部材1と内側部材2との間に設けられた隙間が1mm以下となるように配置した。内側部材2の外周側は2条のラセン状の案内壁21を有し、外側部材1と内側部材2の相対回転により特定の物質を案内壁21に沿って送ることにより分離する。案内壁21間の距離である谷幅Vw(mm)と、案内壁21の幅である山幅Mw(mm)とが規定される。
【0041】
駆動手段3は、ギヤードモータ(図略)と、ギヤードモータを収納するケース31とからなる。ケース31は開口側にフランジ部315を有し、フランジ部315と外側部材1(接続部15)のフランジ部151とがボルト313により固定されている。ギヤードモータ30は、内側部材2の一端に接続され、内側部材2を回転駆動する。
【0042】
また、ギヤードモータ30を制御する回路にはインバータを組み込み、モータの周波数を制御し、内側部材2の回転数を任意に設定できる。
【0043】
《油回収量測定》
実施例の混合液分離装置を用いて特定の物質の回収速度の評価を行った。本発明の混合液分離装置において、内側部材の形態を変えることで回収速度の向上を期待するものである。そこで本実施例では分離速度ではなく回収速度を検討することとした。回収速度を評価するためには特に混合液を用いることは必須でないため、混合液の代わりに特定の物質としてのVG68オイルを単独で用いた。内側部材の形態について表1に示すように変化させて試験を行った。内側部材は60rpmにて回転させ、10分あたりの特定の物質の回収量で評価した。
【0044】
表1に示すリードをもつ案内壁を条数の数だけピッチの間隔で設けた。案内壁の山幅及び谷幅についても変化させた。内側部材の軸方向の長さは150mmで液面から100mmの部位まで特定の物質を持ち上げて回収するようになっている。内側部材の直径Dは36mmとした。
【0045】
【0046】
表1より(Vw+Mw)/πDと回収速度との関係を検討する。Vw/Mwの値が大きい、試験例1、6、10、13から、
図4に示すように、0.075から0.133の範囲が特に回収速度が高いことが分かった。
【0047】
Vw/Mwの関係について検討すると、
図5から明らかなように、Vw/Mwが1.0以上の場合に高い回収速度を示すことが分かった。なお、3.0を超えても回収速度はほぼ一定になっていることが分かった。
【要約】
【課題】従来よりも高い回収速度を実現できる混合液分離装置を提供すること。
【解決手段】円筒状の外側部材1と、外側部材1内に同軸的に配置され相対回転可能な棒状の内側部材2と、内側部材を回転させる駆動手段3とを有し、 内側部材2の外周側はラセン状の案内壁21を有し、外側部材1と内側部材2の相対回転により特定の物質を案内壁21に沿って送ることにより分離し、螺旋状に配設された案内壁21間の距離である谷幅Vw(mm)は、案内壁21の幅である山幅Mw(mm)を基準として、1.0以上であり、外径D(mm)との関係が、(Vw+Mw)/πDが0.01以上、0.27以下である。
【選択図】
図2