(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】クレーンにおける安全装置
(51)【国際特許分類】
B66C 15/00 20060101AFI20220531BHJP
B66C 13/22 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
B66C15/00 A
B66C13/22 Y
(21)【出願番号】P 2019178892
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2021-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】504005781
【氏名又は名称】株式会社日立プラントメカニクス
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】川尻 栄作
(72)【発明者】
【氏名】吉田 豊
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-019351(JP,A)
【文献】特開平07-315763(JP,A)
【文献】特開昭61-101389(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0289931(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 1/00-25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンの運転時に、クレーンが荷役する取扱物の傾斜を検出するクレーンにおける安全装置において、
クレーンが荷役する取扱物の荷姿情報をリアルタイムで取得
するクレーンに搭載した3次元測域センサを用いて、
以下(a)~(c)によって、クレーンの運転時に取扱物の傾斜を検出し、クレーンの運転を自動的に停止するようにしたことを特徴とするクレーンにおける安全装置。
(a)3次元測域センサを用いてクレーンが荷役する取扱物の着床時における上面の対角位置の床面までの高さを含む座標を取得する。
(b)クレーンが荷役する取扱物の傾斜を、3次元測域センサを用いて取得した取扱物の荷役時における上面の対角位置の高さ情報と、取扱物の着床時における上面の対角位置の高さ情報とに基づいて検出する。
(c)検出したクレーンが荷役する取扱物の傾斜が、予め設定した閾値を超えた場合、クレーンの運転を自動的に停止する。
【請求項2】
前記取扱物の上面の対角位置の変位から取扱物の回転角度を検出するようにしたことを特徴とする請求項
1に記載のクレーンにおける安全装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンの運転時に、クレーンが荷役する取扱物の傾斜を検出するクレーンにおける安全装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、クレーンが荷役する取扱物の姿勢制御を行うために、水平度検出器及び荷重検出器等の複数種類のセンサを用いた装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
ところで、特許文献1において開示された装置では、複数種類のセンサを用いて取扱物の姿勢を間接的に検出するようにしているため、検出誤差やタイムラグが生じやすいという問題があった。
【0004】
ところで、本件出願人は、先に、測域センサ、すなわち、空間の物理的な形状データを出力することができる走査型の光波距離計をいい、「光検出と測距」又は「レーザ画像検出と測距」とも呼ばれる「LIDAR」(Light Detection and Ranging 又は Laser Imaging Detection and Rangingの略語。光を用いたリモートセンシング技術の一つで、パルス状に発光するレーザ照射に対する散乱光を測定し、遠距離にある対象物までの距離やその対象物の形状や性質を分析する装置。)を使用して、簡易な設備構成で、クレーンが荷役する取扱物の立体的な形状を吊上時に把握し、その情報に応じて減速距離を変えて、作業者などの対象物との衝突を防止する装置(特許文献2参照。)を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平2-147508号公報
【文献】特開2019-127375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2において開示した装置は、クレーンが荷役する取扱物の立体的な形状を吊上時に直接検出することができるものである反面、同装置で使用されているLIDAR(例えば、北陽電機社製の「UTM-30LX-EW」)は、2次元LIDAR(以下、「2D-LIDAR」という。)と呼ばれるもので、半円状に光を照射して反射光が戻ってくるまでの時間を測定し、2D-LIDARから対象物までの各角度における距離を測定するとともに、モータコントローラによって制御されるステッピングモータを用いて2D-LIDARを回転させ、スキャニングの角度を変えることによって、対象物に対して3次元の計測を行い、立体的な形状の検出を行うようにしているため、取扱物の3次元の計測を行うのに数秒以上の時間を要し、実質的にリアルタイムで行うことができないことから、クレーンが荷役する取扱物の傾斜を検出する用途に適したものではなかった。
【0007】
本発明は、上記クレーンが荷役する取扱物の傾斜を検出する装置の有する課題に鑑み、簡易な設備構成で、取扱物の3次元の計測をリアルタイムで行うことを可能とすることによって、クレーンが荷役する取扱物の傾斜を直接検出することができるクレーンにおける安全装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のクレーンにおける安全装置は、クレーンの運転時に、クレーンが荷役する取扱物の傾斜を検出するクレーンにおける安全装置において、クレーンに搭載した3次元測域センサを用いてクレーンが荷役する取扱物の荷姿情報をリアルタイムで取得し、着床時の取扱物の複数箇所の高さと、吊上時の取扱物の当該複数箇所の高さとの差を算出し、算出した差から取扱物の傾斜を検出するようにしたことを特徴とする。
ここで、「3次元測域センサ」(Laser Range Scanner 又は 3D Scanner)とは、空間の物理的な3次元の形状データを同時に出力することができる走査型の光波距離計をいう。
【0009】
この場合において、前記取扱物の複数箇所として、取扱物の上面の対角位置を選定するようにすることができる。
【0010】
また、前記取扱物の上面の対角位置の変位から取扱物の回転角度を検出するようにすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のクレーンにおける安全装置によれば、簡易な設備構成で、取扱物の3次元の計測をリアルタイムで行うことを可能とすることによって、クレーンが荷役する取扱物の傾斜や回転角度を直接検出することができ、取扱物の落下等の事故を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るクレーンにおける安全装置を適用した天井クレーンの一実施例を示す側面図である。
【
図2】同クレーンにおける安全装置の制御装置の構成図である。
【
図3】測域センサから取扱物までの距離を測定する原理のイメージ図で、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【
図4】3次元測域センサによるクレーンの取扱物の荷姿情報(着床時)の取得方法を示す説明図である。
【
図5】3次元測域センサによるクレーンの取扱物の荷姿情報(吊上時)の取得方法を示す説明図である。
【
図6】3次元測域センサによるクレーンの取扱物の回転情報の取得方法を示す、(a)は着床時、(a)は吊上時の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のクレーンにおける安全装置の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0014】
図1~
図2に、本発明に係るクレーンにおける安全装置を適用した天井クレーンの一実施例を示す。
【0015】
図1は、本発明に係るクレーンにおける安全装置を天井クレーンに適用した概略構成図で、天井クレーン01下の作業者13は、取扱物09を他の場所に移動させるためフック05に玉掛け作業を行っている。この状態の安全確認を実施するためにクレーン01のクラブ02に設置したカメラ21(ここで、カメラの死角をなくすために、クラブ02の横行方向の前後に2台以上のカメラを設けることもできる。)で監視している。また、取扱物09の形状を計測するために、天井クレーン01上のクラブ02に測域センサ23を設置するようにしている。
【0016】
図2に、このクレーンにおける安全装置の制御構成を示す。
カメラ21と赤外線投光器22が、演算装置としての人・形状認識パソコン26に接続されている。クレーンコントローラ30から人・形状認識パソコン26にクレーン作業エリアの再帰性反射材からなるマークを付けたヘルメット11を装着した作業者13を検出するように指示が来ると、人・形状認識パソコン26は赤外線投光器22のON/OFFを行い、それに同期してカメラ21の撮影を行う。
【0017】
このクレーンにおける安全装置は、汎用の天井クレーンに適用することができ、天井クレーン01には、汎用の天井クレーンが備える、例えば、天井クレーン01の走行位置を把握するための走行レーザ距離計24、横行位置を把握するための横行レーザ距離計25を備えるようにしている。
天井クレーン01は3方向の動作が可能となっており、巻上下動作を行う巻上モータ32、巻上モータの速度制御を行う巻上インバータ31、横行動作を行う横行モータ34、横行モータの速度制御を行う横行インバータ33、走行動作を行う走行モータ36、走行モータの速度制御を行う走行インバータ35からなる。
さらに、天井クレーン01には、衝突警報ランプ61、停止ランプ62及び音声ガイダンス装置63等の機器を備えるようにしている。
【0018】
測域センサ23は、演算手段としての人・形状認識パソコン26に接続されている。
ここで、測域センサ23は、空間の物理的な形状データを出力することができる走査型の光波距離計をいい、ここでは、「光検出と測距」又は「レーザ画像検出と測距」とも呼ばれる「LIDAR」(Light Detection and Ranging 又は Laser Imaging Detection and Rangingの略語。光を用いたリモートセンシング技術の一つで、パルス状に発光するレーザ照射に対する散乱光を測定し、遠距離にある対象までの距離やその対象の形状や性質を分析する装置。)、より具体的には、3次元LIDAR(以下、「3D-LIDAR」という。)、例えば、Velodyne Lidar, Inc.製の「Puck」や「Puck-Hi-Res」を使用するようにしている。
この測域センサ23としての3D-LIDARは、2次元(平面)状に光を照射して反射光が戻ってくるまでの時間を測定することで、取扱物09のように床面より高い物体について計測を行いその座標を求める。
測域センサ23の視野内にあるすべての高さを持つ物体、すなわち、取扱物09や対象物の計測を行い、その座標を算出する。
これにより、取扱物09や対象物に対して3次元の計測をリアルタイムで行い、立体的な形状の検出を行うようにする。
【0019】
以下、本発明に係るクレーンにおける安全装置を、この天井クレーン01の動作に基づいて説明する。
天井クレーン01は、クラブ02が図面の矢印方向に動作し、横行と直角方向に走行車輪06を備えた天井クレーン01が走行レール07上を走行して目的位置に移動する。
【0020】
天井クレーン01が目的位置へ移動完了後、フック05下の取扱物09の検知を行う。
人・形状認識パソコン26は、取扱物09の形状を測域センサ23を使用して計測する。
測域センサ23は、2次元(平面)状に光を照射して反射光が戻ってくるまでの時間を測定し、測域センサ23から対象までの距離を測定する。
図3は、そのイメージ図で2次元(平面)状に光をスキャンし、取扱物09からの距離を測定する。
これにより、取扱物09に対して3次元の計測をリアルタイムで行い、人・形状認識パソコン26はその立体的な形状(荷姿情報)を求める。
【0021】
そして、取扱物09に対して3次元の計測をリアルタイムで継続的に行うことによって、具体的には、天井クレーン01の運転時に、着床時の取扱物09の複数箇所の高さと、吊上時の取扱物09の当該複数箇所の高さとの差を算出し、算出した差から天井クレーン01が荷役する取扱物09の傾斜を直接検出するようにする。
【0022】
より具体的には、例えば、
図4に示すような直方体の取扱物09の場合は、取扱物09の4隅(取扱物09の上面の対角位置)を、測域センサ23としての3D-LIDARで計測したポイントを、P1(X1,Y1)、P2(X2,Y2)、P3(X3、Y3)、P4(X4、Y4)とする。
取扱物09が、床面に置かれている状態(着床時)における、P1~P4の床面までの高さをZ1~Z4とすると、それぞれの長さは、
X1=L1*tanθ1/(1+(tanθ1)
2+(tanφ1)
2)
1/2
Y1=L1*tanφ1/(1+(tanθ1)
2+(tanφ1)
2)
1/2
Z1=H-(L1
2-(X1
2+Y1
2))
1/2
X2=L2*tanθ2/(1+(tanθ2)
2+(tanφ2)
2)
1/2
Y2=L2*tanφ2/(1+(tanθ2)
2+(tanφ2)
2)
1/2
Z2=H-(L2
2-(X2
2+Y2
2))
1/2
X3=L3*tanθ3/(1+(tanθ3)
2+(tanφ3)
2)
1/2
Y3=L3*tanφ3/(1+(tanθ3)
2+(tanφ3)
2)
1/2
Z3=H-(L3
2-(X3
2+Y3
2))
1/2
X4=L4*tanθ4/(1+(tanθ4)
2+(tanφ4)
2)
1/2
Y4=L4*tanφ4/(1+(tanθ4)
2+(tanφ4)
2)
1/2
Z4=H-(L4
2-(X4
2+Y4
2))
1/2
となる。
【0023】
天井クレーン01が荷役する取扱物09の傾斜は、取扱物09の対角Z1、Z3、対角Z2、Z4の高さの情報が床面にあった場合との差(差分)で検出する。
図4に示すように、取扱物09が、床面に置かれている状態(着床時)における、それぞれの高さを、Z1s、Z2s、Z3s、Z4s、
図5に示すように、取扱物09の吊上時(又は運搬時)における、それぞれの高さを、Z1t、Z2t、Z3t、Z4tとし、着床時の取扱物09の対角の長さ((X1+X3)
2+(Y1+Y3)
2)
1/2に対する取扱物09の対角の高さの差を(Z1s-Z3s)、対角の長さと高さ方向の差に対する角度をθs、吊上時の荷物運搬時の対角の高さの差を(Z1t-Z3t)、対角の長さと高さ方向の差に対する角度をθtとすると、
tanθs=(Z1s-Z3s)/((X1+X3)
2+(Y1+Y3)
2)
1/2
tanθt=(Z1t-Z3t)/((X1+X3)
2+(Y1+Y3)
2)
1/2
tanθt/tanθs=((Z1t-Z3t)/((X1+X3)
2+(Y1+Y3)
2)
1/2)/ ((Z1s-Z3s)/((X1+X3)
2+(Y1+Y3)
2)
1/2)
tan(θt/θs)=(Z1t-Z3t)/(Z1s-Z3s)
θt/θs=arctan((Z1t-Z3t)/(Z1s-Z3s))
となり、角度に対する差が(Z1t-Z3t)と(Z1s-Z3s)の関数として表すことができ、これを計算することで、天井クレーン01が荷役する取扱物09の傾斜を直接検出することができる。
【0024】
そして、天井クレーン01の運転状況や取扱物09の種類等によって、θt/θsの閾値を設定し、計算した値が閾値を超える場合は、天井クレーン01の運転(巻き上げ)を自動的に停止し、無線機子機38を操作している作業者13(以下、「オペレータ」という。)に音声ガイダンス装置63から音声アナウンスにより注意喚起を行うようにする。
【0025】
併せて、
図6に示すように、天井クレーン01の運転(巻き上げ)中に取扱物09が回転したこと(回転角度α)を、取扱物09の上面の対角位置の変位から取扱物09の回転角度を計算するようにする。
【0026】
そして、天井クレーン01の運転状況や取扱物09の種類等によって、回転角度αの閾値(例えば、5~10°)を設定し、計算した値が閾値を超える場合は、天井クレーン01の運転(巻き上げ)を自動的に停止し、オペレータに音声ガイダンス装置63から音声アナウンスにより注意喚起を行うようにする。
【0027】
天井クレーン01は、取扱物09を巻き上げた後に、移動(走行及び/又は横行)動作移動に移るが、その間も必要に応じて、取扱物09の傾斜や回転角度αの検出を継続して行うことができる。
【0028】
以上、本発明のクレーンにおける安全装置について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のクレーンにおける安全装置は、簡易な設備構成で、取扱物の3次元の計測をリアルタイムで行うことを可能とすることによって、クレーンが荷役する取扱物の傾斜を直接検出することができることから、天井クレーンの用途に好適に用いることができるほか、例えば、クレーンを用いる建設機械等の用途にも用いることができる。
【符号の説明】
【0030】
01 クレーン(天井クレーン)
02 クラブ
03 巻上装置
04 ワイヤロープ
05 フック
06 走行車輪
07 走行レール
09 取扱物
11 ヘルメット
13 作業者(対象物)
14 玉掛けワイヤ
21 カメラ
22 赤外線投光器
23 測域センサ
24 走行レーザ距離計
25 横行レーザ距離計
26 演算装置(人・形状認識パソコン)
30 クレーンコントローラ
31 巻上インバータ
32 巻上モータ
33 横行インバータ
34 横行モータ
35 走行インバータ
36 走行モータ
37 無線機親機
38 無線機子機