(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/73 20060101AFI20220531BHJP
【FI】
H01M4/73 A
(21)【出願番号】P 2017240157
(22)【出願日】2017-12-15
【審査請求日】2020-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】特許業務法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 真之
(72)【発明者】
【氏名】村田 和也
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-079706(JP,A)
【文献】特開平09-007604(JP,A)
【文献】特開平07-335222(JP,A)
【文献】特開平07-226225(JP,A)
【文献】特開平11-354128(JP,A)
【文献】特開2002-075379(JP,A)
【文献】特開2016-126924(JP,A)
【文献】特開平09-007606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/64- 4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池であって、
集電体と、前記集電体に支持された電極材料と、を有する電極板を備え、
前記集電体は、
第1の枠骨を含む4本の枠骨から構成され、第1の方向視で略四角形の枠部と、
前記第1の枠骨に設けられた耳部と、
前記枠部の内側に設けられた内側部と、
を有し、
前記内側部は、
前記第1の枠骨に接続される2本の前記枠骨の間を結ぶN1本の第1の内骨から構成された第1の内骨群と、
前記第1の枠骨と前記第1の枠骨に対向する1本の前記枠骨との間を結ぶN2本の第2の内骨から構成された第2の内骨群と、
を有し、
前記第2の内骨群は、延伸方向に直交する断面の断面積S2が、0.35×T0
2≦S2≦0.65×T0
2(ただし、T0は前記第1の方向における前記枠部の厚さ)という関係を満たすn2本の太内骨を含み、
前記第1の内骨群は、延伸方向に直交する断面の断面積S1が、0.077×S2max≦S1≦0.125×S2max(ただし、S2maxは前記太内骨の断面積の最大値)という関係を満たすn1本の細内骨を含み、
前記第2の内骨群を構成する前記第2の内骨の本数N2に対する、前記太内骨の本数n2の比(n2/N2)は、0.7以上であり、
前記第1の内骨群を構成する前記第1の内骨の本数N1に対する、前記細内骨の本数n1の比(n1/N1)は、0.7以上である、鉛蓄電池。
【請求項2】
請求項1に記載の鉛蓄電池であって、
前記太内骨の、前記第1の方向における厚さT2に対する、前記第1の方向と前記太内骨の延伸方向との両方に直交する方向における幅W2の比(W2/T2)は、0.9以上、1.1以下である、鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池として鉛蓄電池が広く利用されている。例えば、鉛蓄電池は、ビルの非常電源等として利用される。
【0003】
鉛蓄電池は、正極板と負極板とを備える。正極板および負極板は、それぞれ、集電体と、集電体に支持された活物質とを有する。集電体は、4本の枠骨から構成された略四角形の枠部と、1本の枠骨に設けられた耳部と、枠部の内側に設けられた内側部とを備える。内側部は、複数の内骨を有している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉛蓄電池が長期間使用されると、集電体の内側部を構成する内骨が腐食することによって切断され、その結果、容量が低下して寿命を迎える。従来の鉛蓄電池では、他の特性の低下を回避しつつ、寿命をさらに延ばすことが望まれている。
【0006】
本明細書では、鉛蓄電池の他の特性の低下を回避しつつ、鉛蓄電池の寿命特性を向上させることが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示される鉛蓄電池は、集電体と、前記集電体に支持された電極材料と、を有する電極板を備え、前記集電体は、第1の枠骨を含む4本の枠骨から構成され、第1の方向視で略四角形の枠部と、前記第1の枠骨に設けられた耳部と、前記枠部の内側に設けられた内側部と、を有し、前記内側部は、前記第1の枠骨に接続される2本の前記枠骨の間を結ぶN1本の第1の内骨から構成された第1の内骨群と、前記第1の枠骨と前記第1の枠骨に対向する1本の前記枠骨との間を結ぶN2本の第2の内骨から構成された第2の内骨群と、を有し、前記第2の内骨群は、延伸方向に直交する断面の断面積S2が、0.35×T02≦S2≦0.65×T02(ただし、T0は前記第1の方向における前記枠部の厚さ)という関係を満たすn2本の太内骨を含み、前記第1の内骨群は、延伸方向に直交する断面の断面積S1が、0.077×S2max≦S1≦0.125×S2max(ただし、S2maxは前記太内骨の断面積の最大値)という関係を満たすn1本の細内骨を含み、前記第2の内骨群を構成する前記第2の内骨の本数N2に対する、前記太内骨の本数n2の比(n2/N2)は、0.7以上であり、前記第1の内骨群を構成する前記第1の内骨の本数N1に対する、前記細内骨の本数n1の比(n1/N1)は、0.7以上である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態における鉛蓄電池100の外観構成を示す正面図である。
【
図2】本実施形態における鉛蓄電池100の外観構成を示す上面図である。
【
図3】本実施形態における鉛蓄電池100の内部構成を示す上面図である。
【
図4】
図2のIV-IVの位置における鉛蓄電池100のYZ断面構成を示す説明図である。
【
図5】
図2のV-Vの位置における鉛蓄電池100のYZ断面構成を示す説明図である。
【
図6】
図3のVI-VIの位置における鉛蓄電池100の一部分のXZ断面構成を示す説明図である。
【
図7】正極集電体212のYZ平面構成を示す説明図である。
【
図8】
図7のVIII-VIIIの位置における正極集電体212のXY断面構成を示す説明図である。
【
図9】
図7のIX-IXの位置における正極集電体212のXZ断面構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書に開示される技術は、以下の形態として実現することが可能である。
【0010】
(1)本明細書に開示される鉛蓄電池は、鉛蓄電池であって、集電体と、前記集電体に支持された電極材料と、を有する電極板を備え、前記集電体は、第1の枠骨を含む4本の枠骨から構成され、第1の方向視で略四角形の枠部と、前記第1の枠骨に設けられた耳部と、前記枠部の内側に設けられた内側部と、を有し、前記内側部は、前記第1の枠骨に接続される2本の前記枠骨の間を結ぶN1本の第1の内骨から構成された第1の内骨群と、前記第1の枠骨と前記第1の枠骨に対向する1本の前記枠骨との間を結ぶN2本の第2の内骨から構成された第2の内骨群と、を有し、前記第2の内骨群は、延伸方向に直交する断面の断面積S2が、0.35×T02≦S2≦0.65×T02(ただし、T0は前記第1の方向における前記枠部の厚さ)という関係を満たすn2本の太内骨を含み、前記第1の内骨群は、延伸方向に直交する断面の断面積S1が、0.077×S2max≦S1≦0.125×S2maxという関係を満たすn1本の細内骨を含み、前記第2の内骨群を構成する前記第2の内骨の本数N2に対する、前記太内骨の本数n2の比(n2/N2)は、0.7以上であり、前記第1の内骨群を構成する前記第1の内骨の本数N1に対する、前記細内骨の本数n1の比(n1/N1)は、0.7以上である。
【0011】
このように、本鉛蓄電池では、耳部が設けられた第1の枠骨に向かう方向の内骨であるN2本の第2の内骨の内、比較的高い割合(7割以上)の内骨が、鋳造性の低下を伴わない範囲で断面積S2が大きい(S2≧0.35×T02である)太内骨とされている。そのため、鉛蓄電池が長期間使用されて内骨の腐食が進行しても、耳部が設けられた第1の枠骨に向かう方向の内骨である第2の内骨が切断されることを抑制することができ、その結果、容量の低下を抑制することができ、寿命特性を向上させることができる。
【0012】
また、本鉛蓄電池では、太内骨の存在により、集電体の重量の増加、ひいては、鉛蓄電池の重量の増加が懸念される。しかしながら、第1の枠骨に接続される2本の枠骨の間を結ぶ内骨(すなわち、切断されても容量への影響が小さい内骨)であるN1本の第1の内骨の内、比較的高い割合(7割以上)の内骨が、鋳造性および活物質の充填性の低下を伴わない範囲で断面積S1が小さい(0.077×S2max≦S1≦0.125×S2maxである)細内骨とされている。そのため、太内骨の存在による集電体の重量の増加の影響を細内骨の存在によって補償し、集電体全体としての重量の増加を抑制することができ、ひいては、鉛蓄電池の重量の増加を抑制することができる。従って、本鉛蓄電池によれば、鉛蓄電池の他の特性(重量特性、充填性、鋳造性)の低下を回避しつつ、鉛蓄電池の寿命特性を向上させることができる。
【0013】
(2)上記鉛蓄電池において、前記太内骨の、前記第1の方向における厚さT2に対する、前記第1の方向と前記太内骨の延伸方向との両方に直交する方向における幅W2の比(W2/T2)は、0.9以上、1.1以下である構成としてもよい。本鉛蓄電池によれば、太内骨の延伸方向に直交する断面の形状を、切断防止の点で理想的な円形に近い形状とすることができ、太内骨が腐食して切断されることを効果的に抑制することができ、鉛蓄電池の寿命特性を効果的に向上させることができる。なお、太内骨の厚さT2に対する幅W2の比(W2/T2)を0.9以上、1.1以下とすると、太内骨の断面積S2が増加傾向となり、ひいては、集電体の重量が増加傾向となる。しかしながら、本鉛蓄電池では、比較的高い割合(7割以上)の第1の内骨が細内骨とされているため、集電体全体としての重量の増加を抑制しつつ、太内骨の断面形状を腐食防止の点で理想的な形状(W2/T2が0.9以上、1.1以下である形状)とすることができ、鉛蓄電池の寿命特性を効果的に向上させることができるのである。
【0014】
A.実施形態:
A-1.基本構成:
(鉛蓄電池100の構成)
図1は、本実施形態における鉛蓄電池100の外観構成を示す正面図であり、
図2は、鉛蓄電池100の外観構成を示す上面図であり、
図3は、鉛蓄電池100の内部構成を示す上面図(後述する蓋14を外した状態を示す図)であり、
図4は、
図2のIV-IVの位置における鉛蓄電池100のYZ断面構成を示す説明図であり、
図5は、
図2のV-Vの位置における鉛蓄電池100のYZ断面構成を示す説明図であり、
図6は、
図3のVI-VIの位置における鉛蓄電池100の一部分のXZ断面構成を示す説明図である。なお、図示の便宜上、
図3では、後述する複数の極板群20(およびそれに接続されるストラップ52,54)の内の一部(3つ)のみが示されており、また、
図4および
図5では、極板群20の構成が分かりやすく示されるように、該構成の一部の図示が省略されている。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を「上方向」といい、Z軸負方向を「下方向」というものとするが、鉛蓄電池100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
【0015】
本実施形態の鉛蓄電池100は、制御弁式鉛蓄電池(密閉式鉛蓄電池)である。制御弁式鉛蓄電池は、内部に流動する電解液を有さないことから設置姿勢の自由度が高く、また、液量の点検や補水が不要であることからメンテナンスが容易であり、例えば、無停電電源装置、通信基地局、二輪自動車等の電源として利用される。鉛蓄電池100は、筐体10と、正極側端子部材30と、負極側端子部材40と、複数の極板群20とを備える。以下では、正極側端子部材30と負極側端子部材40とを、まとめて「端子部材30,40」ともいう。
【0016】
(筐体10の構成)
筐体10は、電槽12と、蓋14とを有する。電槽12は、上面に開口部を有する略直方体の容器であり、例えば合成樹脂により形成されている。蓋14は、電槽12の開口部を塞ぐように配置された部材であり、例えば合成樹脂により形成されている。蓋14の下面の周縁部分と電槽12の開口部の周縁部分とが例えば熱溶着によって接合されることにより、筐体10内に外部との気密が保たれた空間が形成されている。
【0017】
蓋14には、排気栓15が配置されている。排気栓15は、各セルに設けられた内圧調整用のゴム弁(不図示)からの排気をまとめて鉛蓄電池100の外部へ排気する機能を有する。
【0018】
筐体10内の空間は、複数の(本実施形態では5枚の)隔壁58によって、所定方向(本実施形態ではX軸方向)に並ぶ複数の(本実施形態では6つの)セル室16に区画されている。以下では、複数のセル室16が並ぶ方向(X軸方向)を、「セル並び方向」という。筐体10内の各セル室16には、1つの極板群20が収容されている。本実施形態では、筐体10内の空間が6つのセル室16に区画されているため、鉛蓄電池100は6つの極板群20を備える。
【0019】
(極板群20の構成)
図4から
図6に示すように、極板群20は、複数の正極板210と、複数の負極板220と、セパレータ230とを備える。複数の正極板210および複数の負極板220は、正極板210と負極板220とが交互に並ぶように配置されている。また、セパレータ230は、互いに隣り合う正極板210と負極板220との間に配置され、正極板210と負極板220とに挟持されている。なお、極板群20が、正極板210、負極板220、セパレータ230以外の他の部材(例えば、正極板210と負極板220との間に配置された不織布シート)を備えるとしてもよい。以下では、正極板210と負極板220とを、まとめて「極板210,220」ともいう。
【0020】
正極板210は、正極集電体212と、正極集電体212に支持された正極活物質216とを有する。正極集電体212は、略格子状または網目状に配置された骨を有する導電性部材であり、例えば鉛または鉛合金により形成されている。また、正極集電体212は、その上端付近に、上方に突出する正極耳部214を有している。正極活物質216は、二酸化鉛を含んでいる。正極活物質216は、さらに、公知の他の添加剤を含んでいてもよい。このような構成の正極板210は、例えば、一酸化鉛と水と希硫酸とを主成分とする正極活物質用ペーストを正極集電体212に塗布または充填し、正極活物質用ペーストを乾燥させた後、公知の化成処理を行うことにより作製することができる。なお、本実施形態における正極活物質216は、正極板210から正極集電体212を取り除いたものであり、特許請求の範囲における正極材料に相当する。
【0021】
負極板220は、負極集電体222と、負極集電体222に支持された負極活物質226とを有する。負極集電体222は、略格子状または網目状に配置された骨を有する導電性部材であり、例えば鉛または鉛合金により形成されている。また、負極集電体222は、その上端付近に、上方に突出する負極耳部224を有している。負極活物質226は、鉛(海綿状鉛)を含んでいる。負極活物質226は、さらに、公知の他の添加剤(例えば、繊維、カーボン、リグニン、硫酸バリウム等)を含んでいてもよい。このような構成の負極板220は、例えば、鉛を含む負極活物質用ペーストを負極集電体222に塗布または充填し、該負極活物質用ペーストを乾燥させた後、公知の化成処理を行うことにより作製することができる。
【0022】
セパレータ230は、絶縁性材料(例えば、ガラス繊維や合成樹脂)により構成され、厚さ方向に弾性変形可能なマット状の部材である。セパレータ230には、電解液(例えば、希硫酸)が含浸されている。このように、セパレータ230は、両極板210,220の間の短絡を防止すると共に、電解液を保持する機能を有する。なお、極板群20がセル室16に収容された状態では、極板群20は、厚さ方向(本実施形態ではX軸方向)に圧縮力を受けている。そのため、極板群20を構成する各極板210,220は、電解液を保持したセパレータ230と良好に接触した状態となる。
【0023】
図3から
図5に示すように、極板群20を構成する複数の正極板210の正極耳部214は、例えば鉛または鉛合金により形成された正極側ストラップ52に接続されている。すなわち、複数の正極板210は、正極側ストラップ52を介して電気的に並列に接続されている。同様に、極板群20を構成する複数の負極板220の負極耳部224は、例えば鉛または鉛合金により形成された負極側ストラップ54に接続されている。すなわち、複数の負極板220は、負極側ストラップ54を介して電気的に並列に接続されている。以下では、正極側ストラップ52と負極側ストラップ54とを、まとめて「ストラップ52,54」ともいう。
【0024】
鉛蓄電池100において、一のセル室16に収容された負極側ストラップ54は、例えば鉛または鉛合金により形成された接続部材56を介して、該一のセル室16の一方側(例えばX軸負方向側)に隣り合う他のセル室16に収容された正極側ストラップ52に接続されている。また、該一のセル室16に収容された正極側ストラップ52は、接続部材56を介して、該一のセル室16の他方側(例えばX軸正方向側)に隣り合う他のセル室16に収容された負極側ストラップ54に接続されている。すなわち、鉛蓄電池100が備える複数の極板群20は、ストラップ52,54および接続部材56を介して電気的に直列に接続されている。なお、
図4に示すように、セル並び方向の一方側(X軸正方向側)の端に位置するセル室16に収容された正極側ストラップ52は、接続部材56ではなく、後述する正極柱34に接続されている。また、
図5に示すように、セル並び方向の他方側(X軸負方向側)の端に位置するセル室16に収容された負極側ストラップ54は、接続部材56ではなく、後述する負極柱44に接続されている。
【0025】
(端子部材30,40の構成)
図1および
図2に示すように、正極側端子部材30は、筐体10におけるセル並び方向の一方側(X軸正方向側)の端部付近に配置されており、負極側端子部材40は、筐体10におけるセル並び方向の他方側(X軸負方向側)の端部付近に配置されている。
【0026】
図4に示すように、正極側端子部材30は、正極側ブッシング32と、正極柱34と、正極側端子部36とを含む。正極側ブッシング32は、上下方向に貫通する孔が形成された略円筒状の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。正極側ブッシング32は、インサート成形により蓋14に埋設されている。正極柱34は、略円柱形の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。正極柱34は、正極側ブッシング32の孔に挿入されており、例えば溶接により正極側ブッシング32に接合されている。正極柱34の下端部は、正極側ブッシング32の下端部より下方に突出し、さらに、蓋14の下面より下方に突出しており、上述したように、セル並び方向の一方側(X軸正方向側)の端に位置するセル室16に収容された正極側ストラップ52に接続されている。正極側端子部36は、例えば略L形の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。正極側端子部36の上端部は、蓋14の上面より上方に突出しており、正極側端子部36の下端部は、正極柱34の上端部と電気的に接続されている。蓋14の上面における正極側端子部36が貫通した部分の周りは、例えば樹脂部材90により封止されている。なお、正極側端子部36と正極柱34とが一体部材であるとしてもよい。
【0027】
図5に示すように、負極側端子部材40は、負極側ブッシング42と、負極柱44と、負極側端子部46とを含む。負極側ブッシング42は、上下方向に貫通する孔が形成された略円筒状の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。負極側ブッシング42は、インサート成形により蓋14に埋設されている。負極柱44は、略円柱形の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。負極柱44は、負極側ブッシング42の孔に挿入されており、例えば溶接により負極側ブッシング42に接合されている。負極柱44の下端部は、負極側ブッシング42の下端部より下方に突出し、さらに、蓋14の下面より下方に突出しており、上述したように、セル並び方向の他方側(X軸負方向側)の端に位置するセル室16に収容された負極側ストラップ54に接続されている。負極側端子部46は、例えば略L形の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。負極側端子部46の上端部は、蓋14の上面より上方に突出しており、負極側端子部46の下端部は、負極柱44の上端部と電気的に接続されている。蓋14の上面における負極側端子部46が貫通した部分の周りは、例えば樹脂部材90により封止されている。なお、負極側端子部46と負極柱44とが一体部材であるとしてもよい。
【0028】
鉛蓄電池100の放電の際には、正極側端子部材30の正極側端子部36および負極側端子部材40の負極側端子部46に負荷(図示せず)が接続され、各極板群20の正極板210での反応(二酸化鉛から硫酸鉛が生ずる反応)および負極板220での反応(鉛(海綿状鉛)から硫酸鉛が生ずる反応)により生じた電力が該負荷に供給される。また、鉛蓄電池100の充電の際には、正極側端子部材30の正極側端子部36および負極側端子部材40の負極側端子部46に電源(図示せず)が接続され、該電源から供給される電力によって各極板群20の正極板210での反応(硫酸鉛から二酸化鉛が生ずる反応)および負極板220での反応(硫酸鉛から鉛(海綿状鉛)が生ずる反応)が起こり、鉛蓄電池100が充電される。
【0029】
A-2.正極集電体212の詳細構成:
次に、正極板210を構成する正極集電体212の詳細構成について説明する。
図7は、正極集電体212のYZ平面構成を示す説明図であり、
図8は、
図7のVIII-VIIIの位置における正極集電体212のXY断面構成を示す説明図であり、
図9は、
図7のIX-IXの位置における正極集電体212のXZ断面構成を示す説明図である。以下の説明では、Z軸方向を「縦方向」ともいい、Y軸方向を「横方向」ともいい、X軸方向を「奥行方向」ともいう。X軸方向(奥行方向)は、特許請求の範囲における第1の方向に相当する。
【0030】
図7に示すように、正極集電体212は、枠部60と、内側部70と、上述した耳部214とを有する。なお本実施形態では、正極集電体212は、さらに、枠部60の下側に設けられた足部80を有する。
【0031】
枠部60は、4本の枠骨61,62から構成され、X軸方向(奥行方向)視で略四角形状(本実施形態では、略長方形状)をしている。X軸方向(奥行方向)における枠部60の厚さT0は、4.0mm以上であることが好ましい。以下の説明では、枠部60を構成する4本の枠骨の内、Y軸方向(横方向)に平行な一対の枠骨を「横枠骨61」といい、Z軸方向(縦方向)に平行な一対の枠骨を「縦枠骨62」という。また、一対の横枠骨61のうち、上側(Z軸正方向側)に位置する横枠骨61を「上側横枠骨61t」といい、下側(Z軸負方向側)に位置する横枠骨61を「下側横枠骨61b」という。また、一対の縦枠骨62のうち、Y軸負方向側に位置する縦枠骨62を「左側縦枠骨62l」といい、Y軸正方向側に位置する縦枠骨62を「右側縦枠骨62r」という。
【0032】
耳部214は、上側横枠骨61tから上方に延びるように設けられている。上側横枠骨61tは、特許請求の範囲における第1の枠骨に相当する。
【0033】
内側部70は、枠部60の内側に設けられており、複数の内骨710,720を有している。より詳細には、内側部70は、上側横枠骨61tに接続される2本の枠骨(すなわち、左側縦枠骨62lおよび右側縦枠骨62r)の間を結ぶ複数の第1の内骨710から構成された第1の内骨群71を有する。本実施形態では、第1の内骨710の本数N1は14本であり、各第1の内骨710の延伸方向はY軸方向(横方向)に平行であり、各第1の内骨710はZ軸方向(縦方向)において略均等に配置されている。以下の説明では、第1の内骨710を、「横内骨710」ともいい、第1の内骨群71を「横内骨群71」ともいう。
【0034】
内側部70は、さらに、上側横枠骨61tと、上側横枠骨61tに対向する1本の枠骨(すなわち、下側横枠骨61b)との間を結ぶ複数の第2の内骨720から構成された第2の内骨群72を有する。本実施形態では、第2の内骨720の本数N2は7本であり、各第2の内骨720の延伸方向はZ軸方向(縦方向)に平行であり、各第2の内骨720はY軸方向(横方向)において略均等に配置されている。以下の説明では、第2の内骨720を、「縦内骨720」ともいい、第2の内骨群72を「縦内骨群72」ともいう。
【0035】
このように、内側部70は、横内骨群71を構成する複数の横内骨710と、縦内骨群72を構成する複数の縦内骨720とを有する。各横内骨710は、各縦内骨720との交差点において各縦内骨720と接続されている。そのため、X軸方向(奥行方向)視での内側部70の形状は、略格子状(編み目状)となっている。なお、内側部70は、さらに他の内骨(例えば、上側横枠骨61tから下側横枠骨61bに向けて延びるものの、下側横枠骨61bまで至らずに途中で途切れた内骨や、下側横枠骨61bと左側縦枠骨62lとを結ぶ斜め方向の内骨等)を有していてもよい。
【0036】
図7および
図8に示すように、本実施形態では、縦内骨群72は太内骨720aを含んでいる。ここで、太内骨720aは、延伸方向に直交する断面の断面積S2が、下記の式(1)の関係を満たす内骨である。すなわち、太内骨720aは、枠部60の厚さT0を1辺とする仮想的な正方形VSの面積(=T0
2)に対する縦内骨720の断面積S2の比(=S2/T0
2)(以下、「縦骨断面係数K2」という)が、0.35以上、0.65以下である縦内骨720である。太内骨720aは、断面積S2が比較的大きいが(縦骨断面係数K2が0.35以上であるが)、断面積S2が過度に大きくはない(縦骨断面係数K2が0.65以下である)縦内骨720であると言える。なお、太内骨720aの断面積S2は、例えば、10.6mm
2以上、19.7mm
2以下であることが好ましい。
0.35×T0
2≦S2≦0.65×T0
2 ・・・(1)
(ただし、T0はX軸方向(奥行方向)における枠部60の厚さ)
【0037】
本実施形態では、縦内骨群72を構成する縦内骨720の本数N2に対する、太内骨720aの本数n2の比(=n2/N2)(以下、「太内骨率R2」という)は、0.7以上となっている。例えば、
図7に示す例では、縦内骨群72を構成する7本の縦内骨720のすべてが太内骨720aとなっている(すなわち、N2=7、n2=7である)ため、太内骨率R2は1.0である。
【0038】
また、本実施形態では、
図8に示すように、太内骨720aの、X軸方向(奥行方向)における厚さT2に対する、X軸方向と太内骨720aの延伸方向(すなわち、Z軸方向)との両方に直交する方向(すなわち、Y軸方向)における幅W2の比(=W2/T2)は、0.9以上、1.1以下となっている。すなわち、太内骨720aの延伸方向に直交する断面の形状は、比較的円形に近い形状となっている。
【0039】
また、
図7および
図9に示すように、本実施形態では、横内骨群71は細内骨710aを含んでいる。細内骨710aは、延伸方向に直交する断面の断面積S1が、下記の式(2)の関係を満たす内骨である。すなわち、細内骨710aは、太内骨720aの断面積S2の最大値S2maxに対する横内骨710の断面積S1の比(=S1/S2max)(以下、「横骨断面係数K1」という)が、0.077以上(すなわち、1/13以上)、0.125以下(すなわち、1/8以下)である横内骨710内骨である。細内骨710aは、断面積S1が比較的小さいが(横骨断面係数K1が0.125以下であるが)、断面積S1が過度に小さくはない(横骨断面係数K1が0.077以上である)横内骨710であると言える。なお、細内骨710aの断面積S1は、例えば、1.2mm
2以上、2.0mm
2以下であることが好ましい。
0.077×S2max≦S1≦0.125×S2max ・・・(2)
(ただし、S2maxは太内骨720aの断面積S2の最大値)
【0040】
本実施形態では、横内骨群71を構成する横内骨710の本数N1に対する、細内骨710aの本数n1の比(=n1/N1)(以下、「細内骨率R1」という)は、0.7以上となっている。例えば、
図7に示す例では、横内骨群71を構成する14本の横内骨710の内、12本の横内骨710が細内骨710aとなっている(すなわち、N1=14、n1=12である)ため、細内骨率R1は0.86である。
【0041】
A-3.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の鉛蓄電池100は、正極集電体212と正極集電体212に支持された正極活物質216とを有する正極板210を備える。正極集電体212は、上側横枠骨61tを含む4本の枠骨61,62から構成され、X軸方向視で略四角形の枠部60と、上側横枠骨61tに設けられた耳部214と、枠部60の内側に設けられた内側部70とを有する。内側部70は、上側横枠骨61tに接続される2本の枠骨(左側縦枠骨62lおよび右側縦枠骨62r)の間を結ぶN1本の横内骨710から構成された横内骨群71と、上側横枠骨61tと上側横枠骨61tに対向する1本の枠骨(下側横枠骨61b)との間を結ぶN2本の縦内骨720から構成された縦内骨群72とを有する。縦内骨群72は、延伸方向に直交する断面の断面積S2が、0.35×T02≦S2≦0.65×T02(ただし、T0は枠部60の厚さ)という関係を満たすn2本の太内骨720aを含む。横内骨群71は、延伸方向に直交する断面の断面積S1が、0.077×S2max≦S1≦0.125×S2max(ただし、S2maxは前記太内骨の断面積の最大値)という関係を満たすn1本の細内骨710aを含む。縦内骨群72を構成する縦内骨720の本数N2に対する、太内骨720aの本数n2の比(n2/N2)は、0.7以上である。横内骨群71を構成する横内骨710の本数N1に対する、細内骨710aの本数n1の比(n1/N1)は、0.7以上である。
【0042】
このように、本実施形態の鉛蓄電池100では、耳部214が設けられた上側横枠骨61tに向かう方向の内骨であるN2本の縦内骨720の内、比較的高い割合(7割以上)の縦内骨720が、鋳造性の低下を伴わない範囲で断面積S2が大きい(S2≧0.35×T02である)太内骨720aとされている。そのため、鉛蓄電池100が長期間使用されて内骨710,720の腐食が進行しても、耳部214が設けられた上側横枠骨61tに向かう方向の内骨である縦内骨720が切断されることを抑制することができ、その結果、容量の低下を抑制することができ、寿命特性を向上させることができる。
【0043】
また、本実施形態の鉛蓄電池100では、太内骨720aの存在により、正極集電体212の重量の増加、ひいては、鉛蓄電池100の重量の増加が懸念される。しかしながら、上側横枠骨61tに接続される2本の枠骨(左側縦枠骨62lおよび右側縦枠骨62r)の間を結ぶ内骨(すなわち、切断されても容量への影響が小さい内骨)であるN1本の横内骨710の内、比較的高い割合(7割以上)の横内骨710が、鋳造性および活物質の充填性の低下を伴わない範囲で断面積S1が小さい(0.077×S2max≦S1≦0.125×S2maxである)細内骨710aとされている。そのため、太内骨720aの存在による正極集電体212の重量の増加の影響を細内骨710aの存在によって補償し、正極集電体212全体としての重量の増加を抑制することができ、ひいては、鉛蓄電池100の重量の増加を抑制することができる。従って、本実施形態の鉛蓄電池100によれば、鉛蓄電池100の他の特性(重量特性、充填性、鋳造性)の低下を回避しつつ、鉛蓄電池100の寿命特性を向上させることができる。
【0044】
また、本実施形態の鉛蓄電池100では、太内骨720aの、X軸方向(奥行方向)における厚さT2に対する、X軸方向と太内骨720aの延伸方向(すなわち、Z軸方向)との両方に直交する方向(すなわち、Y軸方向)における幅W2の比(=W2/T2)は、0.9以上、1.1以下である。本実施形態の鉛蓄電池100によれば、太内骨720aの延伸方向に直交する断面の形状を、切断防止の点で理想的な円形に近い形状とすることができ、太内骨720aが腐食して切断されることを効果的に抑制することができ、鉛蓄電池100の寿命特性を効果的に向上させることができる。なお、太内骨720aの厚さT2に対する幅W2の比(=W2/T2)を0.9以上、1.1以下とすると、太内骨720aの断面積S2が増加傾向となり、ひいては、正極集電体212の重量が増加傾向となる。しかしながら、本実施形態の鉛蓄電池100では、比較的高い割合(7割以上)の横内骨710が細内骨710aとされているため、正極集電体212全体としての重量の増加を抑制しつつ、太内骨720aの断面形状を腐食防止の点で理想的な形状(W2/T2が0.9以上、1.1以下である形状)とすることができ、鉛蓄電池100の寿命特性を効果的に向上させることができるのである。
【0045】
A-4.性能評価:
鉛蓄電池の複数のサンプル(実施例に相当するSA1~SA14および比較例に相当するSA21~SA26)を作製し、該サンプルを対象とした性能評価を行った。
図10~
図13は、性能評価結果を示す説明図である。なお、複数のサンプルの内の基準となるサンプルSA1については、
図10~
図13のすべてに共通して記載されている(各図において太枠で囲んで示す)。
【0046】
A-4-1.各サンプルについて:
各サンプルにおいて、正極集電体212の有する横内骨群71は、1種類または断面積の互いに異なる2種類の横内骨710から構成されており、正極集電体212の有する縦内骨群72は、1種類または断面積の互いに異なる2種類の縦内骨720から構成されている。
図10~
図13には、各サンプルについて、各縦内骨720の上述した縦骨断面係数K2(=S2/T0
2)の最大値(以下、「最大縦骨断面係数K2max」という)が示されている。縦内骨群72が1種類の縦内骨720から構成されている場合には、該縦内骨720の縦骨断面係数K2が最大縦骨断面係数K2maxとなり、縦内骨群72が2種類の縦内骨720から構成されている場合には、断面積S2が大きい方の縦内骨720の縦骨断面係数K2が最大縦骨断面係数K2maxとなる。なお、本性能評価では、T0=5.5mmとした。
【0047】
同様に、
図10~
図13には、各サンプルについて、各横内骨710の上述した横骨断面係数K1(=S1/S2max)の最小値(以下、「最小横骨断面係数K1min」という)が示されている。横内骨群71が1種類の横内骨710から構成されている場合には、該横内骨710の横骨断面係数K1が最小横骨断面係数K1minとなり、横内骨群71が2種類の横内骨710から構成されている場合には、断面積S1が小さい方の横内骨710の横骨断面係数K1が最小横骨断面係数K1minとなる。
【0048】
また、
図10~
図13には、各サンプルについて、太内骨率R2が示されている。ただし、
図10~
図13に示された太内骨率R2は、縦内骨720の本数に対する、最大縦骨断面係数K2maxを取る縦内骨720の本数の比である。最大縦骨断面係数K2maxが上述した実施形態に記載された式(1)を満たす範囲(すなわち、0.35以上、0.65以下)内にある場合には、最大縦骨断面係数K2maxを取る縦内骨720は太内骨720aに該当するため、
図10~
図13に示された太内骨率R2は上述した実施形態に記載された太内骨率R2と同じ意味になる。一方、最大縦骨断面係数K2maxが上記範囲(0.35以上、0.65以下)外にある場合には、最大縦骨断面係数K2maxを取る縦内骨720は太内骨720aには該当しないため、
図10~
図13に示された太内骨率R2は、上述した実施形態に記載された太内骨率R2と同じ意味にはならないが、ここでは便宜上同じ言葉を使用する。ただし、この場合には、
図10~
図13における太内骨率R2欄の数値を括弧付きで示す。なお、本性能評価では、縦内骨720の本数は7本とした。
【0049】
同様に、
図10~
図13には、各サンプルについて、細内骨率R1が示されている。ただし、
図10~
図13に示された細内骨率R1は、横内骨710の本数に対する、最小横骨断面係数K1minを取る横内骨710の本数の比である。最小横骨断面係数K1minが上述した実施形態に記載された式(2)を満たす範囲(すなわち、0.077以上、0.125以下)内にある場合には、最小横骨断面係数K1minを取る横内骨710は細内骨710aに該当するため、
図10~
図13に示された細内骨率R1は上述した実施形態に記載された細内骨率R1と同じ意味になる。一方、最小横骨断面係数K1minが上記範囲(0.077以上、0.125以下)外にある場合には、最小横骨断面係数K1minを取る横内骨710は細内骨710aには該当しないため、
図10~
図13に示された細内骨率R1は、上述した実施形態に記載された細内骨率R1と同じ意味にはならないが、ここでは便宜上同じ言葉を使用する。ただし、この場合には、
図10~
図13における細内骨率R1欄の数値を括弧付きで示す。なお、本性能評価では、横内骨710の本数は14本とした。
【0050】
図10に示された各サンプルは、基準となるサンプルSA1に対して、最大縦骨断面係数K2maxのみが異なっている。また、
図11に示された各サンプルは、基準となるサンプルSA1に対して、太内骨率R2のみが異なっている。また、
図12に示された各サンプルは、基準となるサンプルSA1に対して、最小横骨断面係数K1minのみが異なっている。また、
図13に示された各サンプルは、基準となるサンプルSA1に対して、細内骨率R1のみが異なっている。
【0051】
A-4-2.評価項目および評価方法:
本性能評価では、上述した各サンプルを用いて、寿命と、重量と、活物質の充填性と、集電体の鋳造性との4つの項目についての評価を行った。
【0052】
寿命の評価は、JISの過充電寿命試験方法に従い、以下のように行った。すなわち、満充電状態とした鉛蓄電池の各サンプルを0.2×I10(0.02C10A)の電流で連続過充電する。過充電寿命試験中、30日ごとに1時間率容量試験を行って容量を確認する。容量が80%未満となった時点で試験を終了し、その時点の経過日数を寿命とする。測定された寿命が、従来構成の鉛蓄電池(具体的には、X軸方向(奥行方向)における枠部60の厚さT0が4.0mm未満である構成の鉛蓄電池)の寿命(以下、「従来寿命」という)の1.5倍以上であった場合に「優」(◎)と判定し、従来寿命の1.3倍以上、1.5倍未満であった場合に「良」(〇)と判定し、従来寿命の1.3倍未満であった場合に「不良」(×)と判定した。
【0053】
また、重量の評価は以下のように行った。すなわち、各サンプルの重量を測定し、測定された重量が、上述した従来構成の鉛蓄電池の重量(以下、「従来重量」という)の1.5倍未満であった場合に「優」(◎)と判定し、従来重量の1.5倍以上、1.8倍未満であった場合に「良」(〇)と判定し、従来重量の1.8倍以上であった場合に「不良」(×)と判定した。
【0054】
また、充填性の評価は以下のように行った。すなわち、正極集電体212に活物質用ペーストを充填し、コマ落ち(活物質用ペーストの充填後、予熱乾燥炉に入れる前の活物質用ペーストが比較的柔らかい状態のときに、正極集電体212における一部の升目の活物質用ペーストがそっくり抜け落ちてしまう現象)が発生した場合、または、裏周り(内骨が10%以上露出する現象)が発生した場合を出来映え不良とし、出来映え不良の発生率が、0.2%未満であった場合に「優」(◎)と判定し、0.2%以上、0.3%未満であった場合に「良」(〇)と判定し、0.3%以上であった場合に「不良」(×)と判定した。
【0055】
また、鋳造性の評価は以下のように行った。すなわち、鋳造により正極集電体212を作製し、鋳巣(内部に空洞が発生する現象)と焼け折れ(骨が脆くなり折れやひびが発生する現象)と桟切れ(骨が細くなり過ぎて途中で切れる現象)との少なくとも1つが発生した場合を出来映え不良とし、出来映え不良の発生率が、0.2%未満であった場合に「優」(◎)と判定し、0.2%以上、0.3%未満であった場合に「良」(〇)と判定し、0.3%以上であった場合に「不良」(×)と判定した。
【0056】
A-4-3.評価結果:
まず、
図10に示された各サンプル(SA1~SA3,SA21,SA22)について説明する。これらのサンプルの内、サンプルSA1~SA3では、いずれの評価項目についても「良」(〇)以上と判定された一方、サンプルSA22では、「寿命」の評価項目について「不良」(×)と判定され、サンプルSA21では、「重量」および「鋳造性」の評価項目について「不良」(×)と判定された。
【0057】
横内骨群71に関しては、
図10に示されたすべてのサンプルについて、条件は同じである。すなわち、すべてのサンプルにおいて、最小横骨断面係数K1minが上述した実施形態に記載された式(2)を満たす範囲(すなわち、0.077以上、0.125以下)内にあるため、最小横骨断面係数K1minを取る横内骨710は細内骨710aに該当する。また、細内骨率R1が上述した実施形態に記載された範囲(すなわち、0.7以上)内にある。
【0058】
一方、縦内骨群72に関しては、
図10に示されたサンプル毎に、条件が異なっている。具体的には、サンプルSA22では、最大縦骨断面係数K2maxが上述した実施形態に記載された式(1)を満たす範囲(すなわち、0.35以上、0.65以下)より低い値(0.30)であるため、最大縦骨断面係数K2maxを取る縦内骨720の断面積S2が小さいことから、該縦内骨720は太内骨720aに該当しない。そのため、サンプルSA22では、縦内骨群72を構成する縦内骨720の断面積S2が全体的に比較的小さいため、縦内骨720が腐食して切断されることに起因する容量の低下を十分に抑制することができず、「寿命」評価が低くなったものと考えられる。
【0059】
また、サンプルSA21では、最大縦骨断面係数K2maxが上述した実施形態に記載された式(1)を満たす範囲(すなわち、0.35以上、0.65以下)より高い値(0.70)であるため、最大縦骨断面係数K2maxを取る縦内骨720の断面積S2が過度に大きいことから、該縦内骨720は太内骨720aに該当しない。そのため、サンプルSA21では、縦内骨群72を構成する縦内骨720の断面積S2が全体的に過度に大きいため、縦内骨群72の重量が過度に増加して「重量」評価が低くなると共に、鋳巣や焼け折れが発生しやすくなって「鋳造性」評価が低くなったものと考えられる。
【0060】
一方、サンプルSA1~SA3では、最大縦骨断面係数K2maxが上述した実施形態に記載された式(1)を満たす範囲(すなわち、0.35以上、0.65以下)内であるため、最大縦骨断面係数K2maxを取る縦内骨720は、断面積S2が比較的大きいが過度に大きくはない太内骨720aに該当する。そのため、サンプルSA1~SA3では、縦内骨群72を構成する縦内骨720が腐食して切断されることに起因する容量の低下を抑制することができ、「寿命」評価が高くなると共に、縦内骨群72の重量の増加を抑制することができ、「重量」評価が高くなり、さらに、鋳巣や焼け折れの発生を抑制することができ、「鋳造性」評価が高くなったものと考えられる。
【0061】
次に、
図11に示された各サンプル(SA1,SA4~SA6,SA23)について説明する。これらのサンプルの内、サンプルSA1,SA4~SA6では、いずれの評価項目についても「良」(〇)以上と判定された一方、サンプルSA23では、「寿命」の評価項目について「不良」(×)と判定された。
【0062】
横内骨群71に関しては、
図11に示されたすべてのサンプルについて、条件は同じである。すなわち、すべてのサンプルにおいて、最小横骨断面係数K1minが上述した実施形態に記載された式(2)を満たす範囲(すなわち、0.077以上、0.125以下)内にあるため、最小横骨断面係数K1minを取る横内骨710は細内骨710aに該当する。また、細内骨率R1が上述した実施形態に記載された範囲(すなわち、0.7以上)内にある。
【0063】
一方、縦内骨群72に関しては、
図11に示されたサンプル毎に、条件が異なっている。具体的には、サンプルSA23では、最大縦骨断面係数K2maxが上述した実施形態に記載された式(1)を満たす範囲(すなわち、0.35以上、0.65以下)内であるため、最大縦骨断面係数K2maxを取る縦内骨720は、断面積S2が比較的大きいが過度に大きくはない太内骨720aに該当する。しかしながら、サンプルSA23では、太内骨率R2が上述した実施形態に記載された範囲(すなわち、0.7以上)より低い値(0.6)となっている。そのため、サンプルSA23では、縦内骨群72を構成する縦内骨720の内、太内骨720aに該当する縦内骨720の本数が少ないため、縦内骨720が腐食して切断されることに起因する容量の低下を十分に抑制することができず、「寿命」評価が低くなったものと考えられる。
【0064】
一方、サンプルSA1,SA4~SA6では、太内骨率R2が上述した実施形態に記載された範囲(すなわち、0.7以上)内である。そのため、サンプルSA1,SA4~SA6では、縦内骨群72を構成する縦内骨720の内、太内骨720aに該当する縦内骨720の本数が多くなり、縦内骨群72を構成する縦内骨720が腐食して切断されることに起因する容量の低下を抑制することができ、「寿命」評価が高くなったものと考えられる。
【0065】
次に、
図12に示された各サンプル(SA1,SA7~SA10,SA24,SA25)について説明する。これらのサンプルの内、サンプルSA1,SA7~SA10では、いずれの評価項目についても「良」(〇)以上と判定された一方、サンプルSA25では、「重量」および「充填性」の評価項目について「不良」(×)と判定され、サンプルSA24では、「充填性」および「鋳造性」の評価項目について「不良」(×)と判定された。
【0066】
縦内骨群72に関しては、
図12に示されたすべてのサンプルについて、条件は同じである。すなわち、すべてのサンプルにおいて、最大縦骨断面係数K2maxが上述した実施形態に記載された式(1)を満たす範囲(すなわち、0.35以上、0.65以下)内にあるため、最大縦骨断面係数K2maxを取る縦内骨720は太内骨720aに該当する。また、太内骨率R2が上述した実施形態に記載された範囲(すなわち、0.7以上)内にある。
【0067】
一方、横内骨群71に関しては、
図12に示されたサンプル毎に、条件が異なっている。具体的には、サンプルSA25では、最小横骨断面係数K1minが上述した実施形態に記載された式(2)を満たす範囲(すなわち、0.077以上、0.125以下)より高い値(0.133)であるため、最小横骨断面係数K1minを取る横内骨710の断面積S1が大きいことから、該横内骨710は細内骨710aに該当しない。そのため、サンプルSA25では、横内骨群71を構成する横内骨710の断面積S1が全体的に比較的大きいため、縦内骨群72が太内骨720aを含むことによる重量増加分を、横内骨群71の重量軽減によって十分に補償することができず、「重量」評価が低くなったものと考えられる。また、サンプルSA25では、横内骨群71を構成する横内骨710の断面積S1が全体的に比較的大きいため、正極集電体212の各升目が過度に小さくなり、「充填性」評価が低くなったものと考えられる。
【0068】
また、サンプルSA24では、最小横骨断面係数K1minが上述した実施形態に記載された式(2)を満たす範囲(すなわち、0.077以上、0.125以下)より低い値(0.071)であるため、最小横骨断面係数K1minを取る横内骨710の断面積S1が過度に小さいことから、該横内骨710は細内骨710aに該当しない。そのため、サンプルSA24では、横内骨群71を構成する横内骨710の断面積S1が全体的に過度に小さいため、桟切れが発生しやすくなって「鋳造性」評価が低くなると共に、桟切れの影響により「鋳造性」評価も低くなったものと考えられる。
【0069】
一方、サンプルSA1,SA7~SA10では、最小横骨断面係数K1minが上述した実施形態に記載された式(2)を満たす範囲(すなわち、0.077以上、0.125以下)内であるため、最小横骨断面係数K1minを取る横内骨710は、断面積S1が比較的小さいが過度に小さくはない細内骨710aに該当する。そのため、サンプルSA1,SA7~SA10では、縦内骨群72が太内骨720aを含むことによる重量増加分を、横内骨群71の重量軽減によって十分に補償することができたため、「重量」評価が高くなり、正極集電体212の各升目が過度に小さくなることを抑制すると共に桟切れの発生を抑制することができたため、「鋳造性」および「充填性」評価が高くなったものと考えられる。
【0070】
次に、
図13に示された各サンプル(SA1,SA11~SA14,SA26)について説明する。これらのサンプルの内、サンプルSA1,SA11~SA14では、いずれの評価項目についても「良」(〇)以上と判定された一方、サンプルSA26では、「重量」の評価項目について「不良」(×)と判定された。
【0071】
縦内骨群72に関しては、
図13に示されたすべてのサンプルについて、条件は同じである。すなわち、すべてのサンプルにおいて、最大縦骨断面係数K2maxが上述した実施形態に記載された式(1)を満たす範囲(すなわち、0.35以上、0.65以下)内にあるため、最大縦骨断面係数K2maxを取る縦内骨720は太内骨720aに該当する。また、太内骨率R2が上述した実施形態に記載された範囲(すなわち、0.7以上)内にある。
【0072】
一方、横内骨群71に関しては、
図13に示されたサンプル毎に、条件が異なっている。具体的には、サンプルSA26では、最小横骨断面係数K1minが上述した実施形態に記載された式(2)を満たす範囲(すなわち、0.077以上、0.125以下)内であるため、最小横骨断面係数K1minを取る横内骨710は、断面積S1が比較的小さいが過度に小さくはない細内骨710aに該当する。しかしながら、サンプルSA26では、細内骨率R1が上述した実施形態に記載された範囲(すなわち、0.7以上)より低い値(0.6)となっている。そのため、サンプルSA26では、横内骨群71を構成する横内骨710の内、細内骨710aに該当する横内骨710の本数が少ないため、縦内骨群72が太内骨720aを含むことによる重量増加分を、横内骨群71の重量軽減によって十分に補償することができず、「重量」評価が低くなったものと考えられる。
【0073】
一方、サンプルSA1,SA11~SA14では、細内骨率R1が上述した実施形態に記載された範囲(すなわち、0.7以上)内である。そのため、サンプルSA1,SA11~SA14では、横内骨群71を構成する横内骨710の内、細内骨710aに該当する横内骨710の本数が多くなり、縦内骨群72が太内骨720aを含むことによる重量増加分を、横内骨群71の重量軽減によって十分に補償することができ、「重量」評価が高くなったものと考えられる。
【0074】
このように、本性能評価により、縦内骨群72が、縦骨断面係数K2が0.35以上、0.65以下である(すなわち、断面積S2が0.35×T02≦S2≦0.65×T02という関係を満たす)太内骨720aを含み、横内骨群71が、横骨断面係数K1が0.077以上、0.125以下である(すなわち、断面積S1が0.077×S2max≦S1≦0.125×S2maxという関係を満たす)細内骨710aを含み、縦内骨群72を構成する縦内骨720の本数に対する太内骨720aの本数の比である太内骨率R2が0.7以上であり、かつ、横内骨群71を構成する横内骨710の本数に対する細内骨710aの本数の比である細内骨率R1が0.7以上であれば、鉛蓄電池の重量特性や充填性、鋳造性の低下を回避しつつ、鉛蓄電池の寿命特性を向上させることができることが確認された。
【0075】
なお、一般に、鉛蓄電池においては、本性能評価における4つの評価項目の内の「寿命」について最重要視されることが多い。
図10に示すように、最大縦骨断面係数K2maxが0.5以上、0.65以下であるサンプルSA1,SA2では、「寿命」の評価項目について「優」(◎)と判定されたことから、縦内骨群72が、縦骨断面係数K2が0.5以上、0.65以下である(すなわち、断面積S2が0.5×T0
2≦S2≦0.65×T0
2という関係を満たす)太内骨720aを含むと、寿命特性をさらに向上させることができ、より好ましいと言える。また、
図11に示すように、太内骨率R2が1.0であるサンプルSA1では、「寿命」の評価項目について「優」(◎)と判定されたことから、太内骨率R2が1.0であると、寿命特性をさらに向上させることができ、より好ましいと言える。
【0076】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0077】
上記実施形態における鉛蓄電池100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、横内骨群71を構成する複数の横内骨710の延伸方向は、Y軸方向(横方向)に平行であるとしているが、複数の横内骨710の少なくとも一部の延伸方向が、Y軸方向(横方向)とは異なる方向であるとしてもよい。同様に、上記実施形態では、縦内骨群72を構成する複数の縦内骨720の延伸方向は、Z軸方向(縦方向)に平行であるとしているが、複数の縦内骨720の少なくとも一部の延伸方向が、Z軸方向(縦方向)とは異なる方向であるとしてもよい。
【0078】
また、上記実施形態では、正極集電体212の構成について詳細に説明したが、負極集電体222が上述した正極集電体212の構成と同様の構成(縦内骨群が太内骨を含み、横内骨群が細内骨を含み、縦内骨群を構成する縦内骨の本数に対する太内骨の本数の比が0.7以上であり、横内骨群を構成する横内骨の本数に対する細内骨の本数の比が0.7以上である構成)であるとしてもよい。この場合に、正極集電体212の構成は他の構成であるとしてもよい。
【0079】
また、上記実施形態における鉛蓄電池100の製造方法は、あくまで一例であり、種々変形可能である。
【符号の説明】
【0080】
10:筐体 12:電槽 14:蓋 15:排気栓 16:セル室 20:極板群 30:正極側端子部材 32:正極側ブッシング 34:正極柱 36:正極側端子部 40:負極側端子部材 42:負極側ブッシング 44:負極柱 46:負極側端子部 52:正極側ストラップ 54:負極側ストラップ 56:接続部材 58:隔壁 60:枠部 61:横枠骨 61b:下側横枠骨 61t:上側横枠骨 62:縦枠骨 62l:左側縦枠骨 62r:右側縦枠骨 70:内側部 71:横内骨群 72:縦内骨群 80:足部 90:樹脂部材 100:鉛蓄電池 210:正極板 212:正極集電体 214:耳部 216:正極活物質 220:負極板 222:負極集電体 224:耳部 226:負極活物質 230:セパレータ 710:横内骨 710a:細内骨 720:縦内骨 720a:太内骨