(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】ガス分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/61 20060101AFI20220531BHJP
【FI】
G01N21/61
(21)【出願番号】P 2017251920
(22)【出願日】2017-12-27
【審査請求日】2020-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】谷口 裕
(72)【発明者】
【氏名】小泉 和裕
(72)【発明者】
【氏名】山内 芳准
【審査官】平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06002702(US,A)
【文献】特開2012-026918(JP,A)
【文献】特開2017-053680(JP,A)
【文献】特開2008-070314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00- 21/01
G01N 21/17- 21/61
G01J 1/02- 1/04
G01J 3/00- 3/51
G12B 17/00- 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガス中に含まれる成分を分析するガス分析装置であって、
発光波長の異なる発光素子を2つ有し、前記被測定ガスにレーザー光を照射する発光部と、
受光素子を有し、前記被測定ガスを通過した前記レーザー光を受光する受光部と、
前記レーザー光が通過する光路に配置された少なくとも一つの光学素子を移動して、前記レーザー光の光路長を変化させる駆動部と、
前記光学素子の位置が、前記レーザー光の波長の
1/2倍だけ異なる2つの状態において前記受光部が検出した各信号に基づいて、前記被測定ガスの濃度を算出する算出部と
を備え、
前記発光部は、2つの前記発光素子を順次選択して発光させ、
前記駆動部は、前記レーザー光の光軸方向の第1方向において、順次発光しているそれぞれの前記発光素子の発光波長に応じた位置に前記受光素子を順次移動させた後に、前記レーザー光の光軸方向の前記第1方向と反対の第2方向において、順次発光しているそれぞれの前記発光素子の発光波長に応じた位置に前記受光素子を順次移動させる
ガス分析装置。
【請求項2】
被測定ガス中に含まれる成分を分析するガス分析装置であって、
発光波長の異なる発光素子を2つ有し、前記被測定ガスにレーザー光を照射する発光部と、
受光素子を有し、前記被測定ガスを通過した前記レーザー光を受光する受光部と、
前記レーザー光が通過する光路に配置された少なくとも一つの光学素子を移動して、前記レーザー光の光路長を変化させる駆動部と、
前記光学素子の位置が、前記レーザー光の波長の3/2倍だけ異なる2つの状態において前記受光部が検出した各信号に基づいて、前記被測定ガスの濃度を算出する算出部と
を備え、
前記発光部は、2つの前記発光素子を順次選択して発光させ、
前記駆動部は、前記レーザー光の光軸方向の第1方向において、順次発光しているそれぞれの前記発光素子の発光波長に応じた位置に前記受光素子を順次移動させた後に、前記レーザー光の光軸方向の前記第1方向と反対の第2方向において、順次発光しているそれぞれの前記発光素子の発光波長に応じた位置に前記受光素子を順次移動させる
ガス分析装置。
【請求項3】
前記駆動部は、前記光学素子を、前記レーザー光の波長の1/2倍の振幅で移動させる
請求項
1に記載のガス分析装置。
【請求項4】
前記受光部は、前記駆動部が前記光学素子を移動させる周期と同期して、前記レーザー光の強度を測定する
請求項
3に記載のガス分析装置。
【請求項5】
前記発光部は、いずれかの前記発光素子を選択して発光させ、
前記駆動部は、発光している前記発光素子の発光波長に応じた振幅で前記受光素子を移動させる
請求項
1から4のいずれか一項に記載のガス分析装置。
【請求項6】
前記発光部は、前記発光素子の熱を放熱させる放熱部を更に有し、
前記駆動部は、前記受光素子を移動させる
請求項
1から5のいずれか一項に記載のガス分析装置。
【請求項7】
被測定ガス中に含まれる成分を分析するガス分析装置であって、
前記被測定ガスにレーザー光を照射する発光部と、
前記被測定ガスを通過した前記レーザー光を受光する受光部と、
前記レーザー光が通過する光路に配置された少なくとも一つの光学素子を移動して、前記レーザー光の光路長を変化させる駆動部と、
前記光学素子の位置が、前記レーザー光の波長の1/2倍だけ異なる2つの状態において前記受光部が検出した各信号に基づいて、前記被測定ガスの濃度を算出する算出部と
を備え、
前記発光部は発光素子を有し、
前記受光部は受光素子を有し、
前記発光部は、
前記発光素子の熱を放熱させる放熱部と、
前記発光素子と前記放熱部との相対位置を固定せずに、前記発光素子と前記放熱部との間を熱的に接続する接続部と
を有し、
前記駆動部は、前記発光素子を移動させる
ガス分析装置。
【請求項8】
被測定ガス中に含まれる成分を分析するガス分析装置であって、
前記被測定ガスにレーザー光を照射する発光部と、
前記被測定ガスを通過した前記レーザー光を受光する受光部と、
前記レーザー光が通過する光路に配置された少なくとも一つの光学素子を移動して、前記レーザー光の光路長を変化させる駆動部と、
前記光学素子の位置が、前記レーザー光の波長の3/2倍だけ異なる2つの状態において前記受光部が検出した各信号に基づいて、前記被測定ガスの濃度を算出する算出部と
を備え、
前記発光部は発光素子を有し、
前記受光部は受光素子を有し、
前記発光部は、
前記発光素子の熱を放熱させる放熱部と、
前記発光素子と前記放熱部との相対位置を固定せずに、前記発光素子と前記放熱部との間を熱的に接続する接続部と
を有し、
前記駆動部は、前記発光素子を移動させる
ガス分析装置。
【請求項9】
前記受光部は、前記受光素子が出力する信号を増幅する増幅器が設けられた回路基板を更に有し、
前記駆動部は、前記受光素子および前記回路基板を移動させる
請求項
1から8のいずれか一項に記載のガス分析装置。
【請求項10】
前記駆動部は、前記光学素子が移動する位置の振幅波形を、三角波で制御する
請求項1から
9のいずれか一項に記載のガス分析装置。
【請求項11】
前記駆動部は、前記光学素子が移動する位置の振幅波形を、矩形波で制御する
請求項1から
9のいずれか一項に記載のガス分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分析装置に関する。
【0002】
レーザー吸収分光法を利用してガス濃度を測定するガス分析装置が知られている。ガス分析装置において、測定雰囲気を挟む光源部と受光部との間の光路上には、複数の光学素子が設けられている。レーザー光のコヒーレント性に起因して、光学素子間での光の多重反射によって干渉光が発生する。干渉光は、測定光に対して干渉ノイズとして重畳される。干渉光の発生を軽減するために、集光レンズを光軸方向に沿ってランダムに微動させる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、集光レンズ等をランダムに微動させるだけでは、干渉を低減することが難しい。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1] 特開2008-70314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ガス分析装置においては、干渉ノイズを低減することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては、ガス分析装置を提供する。ガス分析装置は、被測定ガス中に含まれる成分を分析してよい。ガス分析装置は、発光部を備えてよい。発光部は、被測定ガスにレーザー光を照射してよい。ガス分析装置は、受光部を備えてよい。受光部は、被測定ガスを通過したレーザー光を受光してよい。ガス分析装置は、駆動部を備えてよい。駆動部は、少なくとも一つの光学素子を移動して、レーザー光の光路長を変化させてよい。光学素子は、レーザー光が通過する光路に配置されてよい。ガス分析装置は、算出部を備えてよい。算出部は、光学素子の位置が、レーザー光の波長の1/2倍だけ異なる2つの状態において受光部が検出した各信号に基づいて、被測定ガスの濃度を算出してよい。算出部は、光学素子の位置が、レーザー光の波長の3/2倍だけ異なる2つの状態において受光部が検出した各信号に基づいて、被測定ガスの濃度を算出してよい。
【0005】
発光部は発光素子を有してよい。受光部は受光素子を有してよい。駆動部は発光素子および受光素子の少なくとも一方を移動させてよい。
【0006】
駆動部は、光学素子を、レーザー光の波長のn/2倍の振幅で移動させてよい。
【0007】
受光部は、駆動部が光学素子を移動させる周期と同期して、レーザー光の強度を測定してよい。
【0008】
発光部は、発光波長の異なる複数の発光素子を有してよい。駆動部は、受光素子を移動させてよい。
【0009】
発光部は、いずれかの発光素子を選択して発光させてよい。駆動部は、発光している発光素子の発光波長に応じた振幅で受光素子を移動させてよい。
【0010】
発光部は、2つの発光素子を順次選択して発光させてよい。駆動部は、発光している発光素子の発光波長に応じた位置に受光素子を順次移動させてよい。駆動部は、レーザー光の光軸方向の第1方向において、順次発光しているそれぞれの発光素子の発光波長に応じた位置に受光素子を順次移動させた後に、レーザー光の光軸方向の第1方向と反対の第2方向において、順次発光しているそれぞれの発光素子の発光波長に応じた位置に受光素子を順次移動させてよい。
【0011】
発光部は、放熱部を更に有してよい。放熱部は、発光素子の熱を放熱させてよい。駆動部は、受光素子を移動させてよい。
【0012】
発光部は、放熱部を有してよい。放熱部は、発光素子の熱を放熱させてよい。発光部は、接続部を有してよい。接続部は、発光素子と放熱部との相対位置を固定せずに、発光素子と放熱部との間を熱的に接続してよい。駆動部は、発光素子を移動させてよい。
【0013】
受光部は、回路基板を有してよい。回路基板には、増幅器が設けられてよい。増幅器は、受光素子が出力する信号を増幅してよい。駆動部は、受光素子および回路基板を移動させてよい。
【0014】
駆動部は、光学素子が移動する位置の振幅波形を、三角波で制御してよい。
【0015】
駆動部は、光学素子が移動する位置の振幅波形を、矩形波で制御してよい。
【0016】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態におけるガス分析装置100の概略構成を示す断面図である。
【
図5】走査駆動信号の波形図の一例を示す図である。
【
図6】高調波変調信号発生部から出力される変調信号の波形図の一例である。
【
図7】電流制御部から出力されるレーザー駆動信号の波形図の一例である。
【
図8】受光信号処理部60の概略構成を示す図である。
【
図9】受光信号、同期検波回路の出力信号、およびトリガ信号の一例を示す図である。
【
図14】本実施形態において受光素子41を±λ/4に移動させたときの測定波形、および平均化波形の例である。
【
図15】本発明の第2実施形態におけるガス分析装置100の概略構成を示す断面図である。
【
図17】本実施形態におけるガス分析装置100の処理内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0019】
図1は、本発明の第1実施形態におけるガス分析装置100の概略構成を示す断面図である。ガス分析装置100は、被測定ガス中に含まれる成分を分析する。本例では、ガス分析装置100は、煙道10内を流れるガス中に含まれる被測定ガス中の対象ガス濃度を測定する。ガス分析装置100は、レーザー光照射を用いたガス濃度測定装置であってよい。ガス分析装置100における測定方式は限定されない。例えば、照射したレーザー光1の光吸収を利用した、波長可変半導体レーザー光吸収分光法(TDLAS法)が測定方式として採用される。
【0020】
図1において、煙道10は、ガスを流す流路を形成する。本例では、煙道10の内部空間が測定対象空間11である。煙道10は、ボイラまたは燃焼炉から排出されるガスの流路であってよい。ボイラまたは燃焼炉は、石炭、重油、またはごみを燃焼してよい。但し、煙道10は、ガス流路に限られない。本明細書における煙道10は、測定対象ガスが流れる内部空間を含む機器であればよく、容器、煙突、排気ダクト、脱硝装置、化学プラント設備、鉄鋼プラント設備、および加熱炉等の各種機器であってよい。
【0021】
本例において、ガス分析装置100は、発光側フランジ部21、受光側フランジ部22、発光部30、および受光部40を備える。発光側フランジ部21および受光側フランジ部22は、両端が開口した円筒状に形成されている。本明細書において発光部30から出射されるレーザー光1の光軸方向をX軸方向とする。煙道10の長手方向をZ軸方向とする。X軸方向およびZ軸方向と直交する方向をY軸方向とする。
【0022】
発光側フランジ部21が、煙道10の壁部12に設けられた開口14に通ずるように壁部12に固定される。一方、受光側フランジ部22は、煙道10を挟んで発光側フランジ部21に対向する位置において壁部12に設けられた開口に通ずるように壁部12に固定される。発光側フランジ部21および受光側フランジ部22は、例えば、煙道の壁部12に溶接等によって固定される。発光側フランジ部21および受光側フランジ部22は、ステンレス等の金属材料によって形成されてよい。
【0023】
発光部30は、被測定ガスにレーザー光1を照射する。本例では、発光部30は、煙道10の壁部12の開口14を通じて、測定対象空間11に向けてレーザー光1を照射する。発光部30は、レーザー発光素子31を含むレーザー光源部32を備えてよい。発光部30は、筐体34を備えている。一例において、筐体34は、一端が開口し他端が閉塞した有底円筒状に形成されてよい。筐体34は、出射管35を介して発光側フランジ部21に取り付けられてよい。
【0024】
筐体34内には、レーザー光源部32が収納されている。発光部30の出射側にはコリメートレンズ33が設けられている。コリメートレンズ33は、レーザー発光素子31から出射された光を平行光とする。コリメートレンズ33によって平行光とされたレーザー光1が測定対象空間11に照射されてよい。本例では、コリメートレンズ33は、出射管35の内部に取り付けられている。
【0025】
受光部40は、被測定ガスを通過したレーザー光1を受光する。本例では、煙道10内を通過したレーザー光1を受光する。受光部40は、受光素子41を有してよい。受光部40は、筐体43を備えている。一例において、筐体43は、一端が開口し他端が閉塞した有底円筒状に形成されてよい。筐体43は、入射管44を介して受光側フランジ部22に取り付けられてよい。受光素子41は、筐体43内に収容されている。受光素子41の入射側には、集光レンズ42が設けられてよい。集光レンズ42は、筐体43の開口を覆うように設けられてよい。集光レンズ42は、レーザー光1を受光素子41の位置に集光する。
【0026】
ガス分析装置100は、受光信号処理部60を備える。受光信号処理部60は、受光部40が検出した信号に基づいて被測定ガスの濃度を算出する算出部の一例である。受光信号処理部60は、受光素子41と電気的に接続されている。
図1では、受光信号処理部60を受光部40の筐体43の外部に示しているが、この場合に限られない。筐体43内に受光信号処理部60の少なくとも一部が設けられてよい。
【0027】
ガス分析装置100は、発光部用の駆動部36を備える。駆動部36は、レーザー発光素子31を光軸方向(X軸方向)に沿って移動する。本例では、駆動部36は、レーザー発光素子31を含むレーザー光源部32を光軸方向に沿って移動する。本例では、ガス分析装置100は、受光部用の駆動部47を備える。駆動部47は、受光素子41を光軸方向(X軸方向)に移動する。駆動部36および駆動部47は、レーザー光1が通過する光路に配置された少なくとも一つの光学素子を移動して、レーザー光1の光路長を変化させる駆動部の例である。
【0028】
駆動部による移動対象の光学素子には、レーザー発光素子31、受光素子41、コリメートレンズ33、および集光レンズ42が含まれてよい。ガス分析装置100の光学系によっては、コリメートレンズ33の出射面側に発光側窓部が設けられていてもよく、集光レンズ42の入射面側に受光側窓部が設けられていてもよい。この場合は、発光側窓部および受光側窓部も光学素子に含まれてよい。
【0029】
本例では、駆動部として、2つの駆動部36および駆動部47が備えられる。しかしながら、駆動部は、レーザー発光素子31および受光素子41の少なくとも一方を移動させてよい。すなわち、駆動部36および駆動部47のどちらか一方は省略されてよい。また、3つ以上の光学素子を移動するために3つ以上の駆動部が設けられてもよい。
【0030】
駆動部は、光学素子を、レーザー光1の波長λのn/2倍の振幅で移動させる。具体的には、発光部用の駆動部36は、レーザー発光素子31をレーザー光1の波長λのn/2倍の振幅で移動させる。受光部用の駆動部47は、受光素子41をレーザー光1の波長λのn/2倍の振幅で移動させる。駆動部36によって、レーザー発光素子31の位置が、レーザー光1の波長のn/2倍(ただし、nは整数)だけ異なる2つの状態となり得る。同様に、駆動部47によって受光素子41の位置が、レーザー光1の波長のn/2倍(ただし、nは整数)だけ異なる2つの状態となり得る。受光信号処理部60は、レーザー発光素子31等の光学素子の位置が、レーザー光1の波長のn/2倍(ただし、nは整数)だけ異なる2つの状態において受光部40が検出した各信号に基づいて、被測定ガスの濃度を算出する。
【0031】
図2は、発光部30の一例を示す断面図である。発光部30は、筐体34内に、レーザー光源部32と、駆動部36とを備える。本例では、筐体34の一端には、出射管35が設けられている。出射管35には、コリメートレンズ33が取り付けられている。本例では、駆動部36は、コリメートレンズ33を移動させなくてよい。したがって、コリメートレンズを固定することができ、煙道10内のガスが筐体34内に流入しないように封止することができる。
【0032】
駆動部36は、ピエゾ素子を用いたピエゾ振動部38を備えてよい。ピエゾ振動部38は、アクチュエータの一例である。駆動部36には、ピエゾ振動部38を制御する制御回路を内蔵してよい。制御回路によってピエゾ振動部38に電圧が印加されることによって、ピエゾ振動部38が変形するので、ピエゾ振動部38に接続されたレーザー発光素子31等を光軸方向(X軸方向)に移動させることができる。しかしながら、駆動部36におけるアクチュエータは、ピエゾ振動部38に限定されない。
【0033】
駆動部36の基端は、筐体34のベース板37に固定されてよい。駆動部36の先端には、ピエゾ振動部38が設けられてよい。ピエゾ振動部38は、レーザー光源部32に接続される。レーザー光源部32は、レーザー発光素子31を含む。レーザー発光素子31は熱を生じるため、放熱する必要がある。したがって、発光部30は、レーザー発光素子31から発生した熱を放熱させる放熱部72を備えてよい。本例では、出射管35が放熱部72を兼ねており、放熱部72から筐体34へと熱が放熱される。しかし、この場合に限られず、筐体34自体が放熱部72であってもよく、別途の放熱フィン等が設けられていてもよい。
【0034】
本例では、放熱部72とレーザー発光素子31との相対位置が固定されない。放熱部72とレーザー光源部32の間、すなわち、放熱部72とレーザー発光素子31の間には、接続部39が備えられてよい。接続部39は、レーザー発光素子31と放熱部72との間を熱的に接続する。接続部39は、例えば、放熱グリスである。レーザー光源部32に放熱フィンを設け、駆動部36が、レーザー光源部32および放熱フィンを移動させてもよい。この場合には、レーザー光源部32および放熱フィンと、出射管35または筐体34との間に、放熱グリス等の接続部39が設けられてよい。接続部39を設けることによって、レーザー発光素子31からの放熱を確保しつつ、駆動部36が、レーザー発光素子31を移動させることができる。
【0035】
但し、本例とは異なり、発光部30においては、放熱を考慮して、レーザー光源部32が放熱部72に固定されてもよい。この場合には、発光部用の駆動部36は省略される。受光部用の駆動部47が、受光素子41を移動させてよい。
【0036】
図3は、受光部40の一例を示す断面図である。受光部40は、筐体43内に、受光素子41、回路基板45、および駆動部47を備える。受光素子41は、受光素子アダプタ41aによって保持されてよい。受光素子アダプタ41aには、回路基板45が接続されてよい。回路基板45には、増幅器46が設けられてよい。増幅器46は、受光素子41が出力する信号を増幅する。筐体34の一端には、入射管44が設けられてよい。入射管44には集光レンズ42が設けられていてよい。本例では、駆動部47は、集光レンズ42を移動させない。したがって、集光レンズ42を固定することができ、煙道内のガスが筐体43内に流入しないにように封止することができる。
【0037】
駆動部47は、ピエゾ素子を用いたピエゾ振動部49を備えてよい。駆動部47は、ピエゾ振動部49を制御する制御回路を内蔵してよい。制御回路によってピエゾ振動部49に電圧が印加されることによって、ピエゾ振動部49が変形するので、ピエゾ振動部49に接続された受光素子41等を光軸方向(X軸方向)に移動させることができる。但し、駆動部47は、ピエゾ素子以外のアクチュエータを用いてもよい。
【0038】
駆動部47の基端は、筐体43のベース板48に固定されてよい。駆動部47の先端には、ピエゾ振動部49が設けられてよい。駆動部47は、受光素子41と回路基板45とを共に移動させてよい。具体的には、ピエゾ振動部49は、受光素子アダプタ41aおよび回路基板45を移動させてよい。例えば、ピエゾ振動部49は、回路基板45に接続される。
【0039】
以上のように、本実施形態のガス分析装置100は、レーザー光1が通過する光路に配置された少なくとも一つの光学素子を移動して、レーザー光1の光路長を変化させる駆動部を有する。そして、光学素子の位置が、レーザー光1の波長のn/2倍(ただし、nは整数)だけ異なる2つの状態において受光部40が検出した各信号に基づいて、被測定ガスの濃度を算出する。光学素子の位置が+λ・n/4の位置にある状態(但し、λは、レーザー光1の波長であり、nは整数)における干渉ノイズと、光学素子の位置が、-λ・n/4の位置にある状態における干渉ノイズとは、位相が逆になる。したがって、このような2つの状態において受光部40が検出した各信号を平均することによって干渉ノイズを軽減することができる。そえゆえ、ランダムな微動の場合に比べて干渉を軽減することができる。
【0040】
特に、本実施形態においては、光学素子として、集光レンズではなく、レーザー発光素子31および受光素子41の少なくとも一方が移動される。したがって、レーザー発光素子31等に比べて重い石英レンズ等の集光レンズを移動させる場合と比べて、駆動部36および駆動部47の負担を軽くすることができる。それゆえ、駆動部36および駆動部47を小型化することができる。
【0041】
図4は、レーザー光源部32の一例を示す図である。レーザー光源部32は、以下に説明するレーザー発光素子31等の複数の部品をパッケージに収容したユニットとして構成されてよい。
図4に示すように、レーザー光源部32の内部には、波長制御部202としての波長走査駆動信号発生部204および高調波変調信号発生部205 、電流制御部206、レーザー発光素子31、サーミスタ208、ペルチェ素子210、および温度制御部207が収容されている。
【0042】
波長走査駆動信号発生部204は、被測定ガスの吸収波長を走査するようにレーザー発光素子31の発光波長を可変とする波長走査信号を発生する。高調波変調信号発生部205は、ガス吸収波形を検出するために、例えば10kHz程度の正弦波信号を生成する。生成された正弦波信号は、変調信号として用いられる。電流制御部206は、レーザー駆動信号を、レーザー発光素子31の駆動電流に変換してレーザー発光素子31を駆動する。レーザー駆動信号は、波長走査駆動信号発生部204で発生させた波長走査信号と高調波変調信号発生部205で発生させた正弦波信号とを合成した信号である。
【0043】
レーザー発光素子31は、半導体レーザーダイオード(LD: Laser Diode)であってよい。レーザー発光素子31は、電流制御部206から供給される駆動電流に応じてレーザー光1を出射する。サーミスタ208は、レーザー発光素子31の温度を検出するための温度検出素子である。ペルチェ素子210は、レーザー発光素子31を冷却する冷却部である。レーザー発光素子31は、サーミスタ208と接した状態で、配置されてよい。温度制御部207は、サーミスタ208によって測定された温度に基づいてペルチェ素子210を制御する。これにより、レーザー発光素子31の温度を一定温度に保つことによって、レーザー光1の波長が制御される。
【0044】
図5は、走査駆動信号の波形図の一例を示す図である。
図5は、
図4の波長走査駆動信号発生部204から出力される電流波形の一例を示している。被測定ガスの吸光特性を走査する波長走査駆動信号S1は、レーザー発光素子31の駆動電流値を直線的に変化させる。これにより、レーザー発光素子31による発光波長が徐々に変化する。例えば、0.2nm程度の吸光特性を走査するように発光波長が変化する。一方、信号S2は、駆動電流値をレーザー発光素子31が安定するスレッショルドカレント以上に保ち、一定波長で発光させる。更に、信号S3では、駆動電流値が0mAにされる。なお、トリガ信号は信号S3と同期する信号である。
【0045】
図6は、高調波変調信号発生部205から出力される変調信号の波形図の一例である。
図6は、
図4の高調波変調信号発生部205から出力される変調信号の波形図である。測定対象ガスの吸光特性を検出するための信号S4は、例えば周波数が10kHzの正弦波とし、波長幅を0.02nm程度変調する。
【0046】
図7は、電流制御部から出力されるレーザー駆動信号の波形図の一例である。
図7は、
図4の電流制御部206から出力されるレーザー駆動信号を示す。駆動信号S5がレーザー発光素子31に供給される。これにより、レーザー発光素子31からは、測定対象ガスの0.2nm程度の吸光特性を波長幅0.02nm程度で、検出可能な変調光が出力される。
【0047】
図8は、受光信号処理部60の概略構成を示す図である。
図1に示される受光素子41は、例えばフォトダイオードである。受光素子41として、レーザー発光素子31の発光波長に感度を持つ素子が適用される。受光素子41の出力は、配線を通じて受光信号処理部60に送られる。
【0048】
受光信号処理部60は、I-V変換器61、発振器62、同期検波回路63、ローパスフィルタ64A、ローパスフィルタ64B、および演算部65を備える。I-V変換器61は、受光素子41の出力を電圧出力に変換する。ローパスフィルタ64Aは、電圧出力から高調波ノイズ成分を除去する。ローパスフィルタ64Aからの出力信号は、同期検波回路63に入力される。同期検波回路63は、ローパスフィルタ64Aからの出力信号に、発振器62からの2f信号(2倍波信号)を加えて、レーザー光1の変調信号の2倍周波数成分の振幅のみを抽出する。同期検波回路63の出力信号は、ローパスフィルタ64Bでノイズ除去や増幅が行われ、演算部65に送られる。演算部65では、ガス濃度検出のための演算処理を行う。
【0049】
上記のように構成したガス分析装置100を用いたガス濃度検出の方法について説明する。まず、事前に、レーザー発光素子31の温度をサーミスタ208により検出する。さらに、
図5に示した波長走査駆動信号S1の中心部分で被測定ガスの濃度を測定できるように、温度制御部207によりペルチェ素子210の通電を制御してレーザー発光素子31 の温度を所望の温度に保つ。
【0050】
ペルチェ素子210が、レーザー発光素子31の温度を所望の温度に保ちながら、電流制御部206は、ドライブ電流を変化させることによりレーザー発光素子31を駆動する。この結果、被測定ガスが存在する煙道10内に向けて測定用のレーザー光1が照射される。被測定ガスを通過したレーザー光1は、受光素子41へ入射する。被測定ガスによるレーザー光1の吸収がある場合は、同期検波回路63によって2倍波信号が検出され、ガスの吸収波形が現れる。
【0051】
図9は、受光信号、同期検波回路の出力信号、およびトリガ信号の一例を示す図である。
図9は、被測定ガスを検出しているときの同期検波回路63の出力波形を示す。続いて、演算部65には、波長走査駆動信号発生部204からトリガ信号が入力される。トリガ信号は、上記の信号S1、信号S2、および信号S3を含めた1周期ごとに出力される信号である。トリガ信号は、レーザー光源部32の波長走査駆動信号発生部204より出力される。トリガ信号は、通信線を介して受光信号処理部60の演算部65へ入力される。トリガ信号は、上述の波長走査駆動信号のS3と同期がとれている。
【0052】
図9において、点線で囲まれた領域Aの部分は被測定ガスが存在する場合に得られる出力波形である。
図9に示されるように、トリガ信号の印加開始時点から所定時間tb、tc、td経過したときに、同期検波回路63の出力波形において最小値B 、最大値C、最小値Dが検出される。これら所定時間tb、tc、tdは、工場出荷前または校正時に実験的に予め算出しておいてメモリに登録されてよい。
【0053】
演算部65は、トリガ信号の印加開示時点から所定時間tb、tc、td経過するときに同期検波回路63の出力波形の値を読みとって記憶する。そして、演算部65は、記憶された出力波形から濃度を算出する。同期検波回路の出力波形はその波形のピークにある最大値Cがそのままガス濃度に対応する。したがって、演算部65は、最大値Cに関連づけられた値を被測定ガスの成分濃度として出力してよい。これに代えて、演算部65は,最大値Cから最小値B、最小値Dを減じた差分値に関連づけられた値を濃度として出力してよい。このように、トリガ信号に応じて、演算部65は、1オフセットごとに被測定ガスの濃度を測定する。
【0054】
上述した方法によりガス濃度検出が可能となる。光源にレーザー発光素子31を使用しているため、通常の光源に比べて高いコヒーレンス性によって、例えばレーザー発光素子31とコリメートレンズ33の入射面との問、集光レンズ42と受光素子41との聞などでレーザー光1の一部が多重反射し、この多重反射光が干渉ノイズとなり得る。
【0055】
この干渉ノイズを低減させるために、本実施形態では、
図1から
図3において説明したとおり、駆動部36および駆動部47により、レーザー発光素子31および受光素子41の少なくとも一方を、レーザー光1の波長のn/2倍の振幅で振幅移動させる。これにより、集光レンズをランダムに微動させる場合に比べて、干渉を軽減することができる。
【0056】
図10は、駆動部による振動波形の一例である。
図10の横軸は、時間を示し、縦軸は振動変位を示す。
図10に示されるとおり、駆動部は、光学素子を移動する位置の振幅波形を、三角波で制御してよい。具体的には、駆動部36は、レーザー発光素子31をレーザー光1の波長λのn/2倍の振幅で光軸方向(X軸方向)に振動させる。駆動部36は、レーザー発光素子31を±λ/4の位置に移動させる。波長λが1.6μmから2μmn場合には、レーザー発光素子31を±0.4μmから±0.5μm程度に移動させる。同様に、駆動部47は、受光素子41をレーザー光1の波長λのn/2倍の振幅で光軸方向(X軸方向)に振動させる。本例では、n=1である。
【0057】
ピエゾ振動部38の振動の周期は、
図5に示される波長走査駆動信号S1の周期と同期してよい。ピエゾ振動部38の振動の周期は、波長走査駆動信号S1の周期のn倍(但し、nは整数)であってよい。換言すれば、ピエゾ振動部38の振動の周波数をfとし、波長走査駆動信号の周波数をf
s1とすると、f=f
s1/n(但し、nは整数)であってよい。
図9に示されるとおり、波長走査駆動信号S1と受光部40による測定タイミング(同期検波回路の出力)とは同期する。したがって、受光部40は、駆動部36が光学素子を移動させる周期と同期して、レーザー光1の強度を測定してよい。特に、受光部40が検出した信号に基づいて同期検波回路出力を取得する周期と、駆動部36が光学素子を移動させる周期とが同期してよい。例えば、駆動部36および同期検波回路出力が、共通のクロック信号に応じて動作する。
【0058】
駆動部36によってレーザー光源部32とコリメートレンズ33との聞の距離を変化させるとレーザー光源部32とコリメートレンズ33の表面と聞の多重反射光によって発生している干渉光の強度は、干渉発生条件が変化するため変動する。この干渉光変動の周波数は、駆動部36におけるピエゾ振動部38の振動周波数に等しい。そこで、振動周波数成分を除去可能なローパスフィルタ等のフィルタ処理によって検出信号から干渉ノイズを除去してもよい。
【0059】
また、レーザー発光素子31の位置が+λ・n/4の位置にある状態(但し、λは、レーザー光1の波長であり、nは整数)における干渉ノイズと、レーザー発光素子31の位置が、-λ・n/4の位置にある状態における干渉ノイズとは、位相が逆になる。したがって、このような2つの状態において受光部40が検出した各信号を平均することによって干渉ノイズを軽減することができる。そえゆえ、ランダムな微動の場合に比べて、干渉ノイズを軽減することができる。
【0060】
1回の測定周期(オフセット)おいて、1つの測定値を取得し、4回の平均化を行うことで、干渉光の強度の低減を図ってよい。変位の変化が直線である三角波で光学素子が移動する位置を制御することで、効率よく干渉ノイズを除去できる。
【0061】
図11は、駆動部における駆動波形の他の例である。
図11の横軸は、時間を示し、縦軸は振動変位を示す。
図11に示されるとおり、駆動部は、光学素子を移動する位置の振幅波形を、正弦波で制御してよい。本例においても、レーザー発光素子31の位置が、レーザー光1の波長のn/2倍(ただし、nは整数)だけ異なる2つの状態において受光部40が検出した各信号に基づいて、被測定ガスの濃度を算出することができる。したがって、干渉ノイズを軽減することができる。
【0062】
図12は、駆動部における駆動波形の他の例である。
図12の横軸は、時間を示し、縦軸は振動変位を示す。
図12に示されるとおり、駆動部は、光学素子が移動する位置の振幅波形を、矩形波で制御してよい。例えば、被測定ガスの濃度をT秒(例えば1秒間)の平均値によって算出する場合には、前半のT/2間の時間では、駆動部36は、レーザー発光素子31の位置を+λ/4に移動させる。後半のT/2間の時間では、駆動部36は、レーザー発光素子31の位置を-λ/4に移動させる。本例では、矩形波の周期は、測定周期(オフセット)の整数倍である。
図12に示される例では、矩形波の周期は、測定周期(オフセット)の8倍である。
【0063】
レーザー発光素子31の位置が+λ・n/4の位置にある状態(但し、λは、レーザー光1の波長であり、nは整数)における干渉ノイズと、レーザー発光素子31の位置が、-λ・n/4の位置にある状態における干渉ノイズとは、位相が逆になる。したがって、このような2つの状態において受光部40が検出した各信号を平均することによって干渉ノイズを軽減することができる。駆動部36は、測定周波数に比べてピエゾ振動部38の振動の周波数を低くすることができる。したがって、アクチュエータとしてのピエゾ振動部38を高速に動作させる必要がないので、ピエゾ振動部38を安定的に動作させやすい。
【0064】
図10、
図11、および
図12においては、レーザー発光素子31の位置が±λ/4となり、振幅がλ/2となるように、駆動部36がレーザー発光素子31を移動させる場合を説明した。しかしながら、本実施形態のガス分析装置100は、この場合に限られない。駆動部36は、レーザー発光素子31を±2λ/4(±λ/2)の位置に移動させてもよく、レーザー発光素子31を±3λ/4の位置に移動させてもよい。
【0065】
図13は、駆動部における駆動波形の他の例である。
図13の横軸は、時間を示し、縦軸は振動変位を示す。
図13に示されるとおり、本例においては、レーザー発光素子31の振動変位が時間に応じて変化する。最初の1オフセットにおいては、駆動部36は、レーザー発光素子31を+λ/4の位置に移動させた状態において、受光信号処理部60は、ガス濃度の測定値を得る。次の1オフセットにおいては、レーザー発光素子31を+2λ/4(+λ/2)の位置に移動させた状態において、受光信号処理部60は、ガス濃度の測定値を得る。次いで、次の1オフセットにおいては、レーザー発光素子31を+3λ/4の位置に移動させた状態において、受光信号処理部60は、ガス濃度の測定値を得る。
【0066】
同様に、駆動部36は、レーザー発光素子31を-λ/4、-2λ/4(-λ/2)、-3λ/4に移動させる。各状態において、受光信号処理部60は、ガス濃度の測定値を得る。
図13に示されるとおり、波長λ/4の整数倍ではなく、波長λ/4n(nは整数)の位置にレーザー発光素子31を移動させる時間区間があってもよい。このように、被測定ガスの濃度を時間Tの平均値によって算出して出力する場合に、時間Tの間に、駆動部36による光学素子の移動振幅を順次変化させるようにしてもよい。
【0067】
λ・n/2を満たす条件において複数の振幅を組み合わせることで、レーザー発光素子31と受光素子41との間に介在する光学系にかかわらずノイズの低減が可能となる。
【0068】
干渉が除去可能な最小の振幅(λ/2)の整数倍の振幅で光学素子を振動させる場合、干渉除去効果が発揮される。ただし、発光部30と受光部40の光学系の機体差により最適な振幅は異なる。したがって、初めから複数の振幅(λ/2、2λ/2、3λ/2)で光学素子を移動させ、平均化することで干渉ノイズを効果的に除去できる。なお、
図10から
図13においては、駆動部36がレーザー発光素子31を移動させる場合を説明したが、駆動部47が受光素子41を移動させる場合も同様である。したがって、繰り返しの説明を省略する。
【0069】
図14は、本実施形態において受光素子41を±λ/4に移動させたときの測定波形、および平均化波形の例である。受光素子41を+λ/4に移動させたときの測定波形5と、受光素子41を-λ/4に移動させたときの測定波形6とは、位相が逆になる。したがって、このように、受光素子41の位置が、レーザー光1の波長のn/2倍(ただし、nは整数)だけ異なる2つの状態において受光部40が検出した各信号を平均することにより得られた平均化波形7に示されるとおり、干渉ノイズが軽減される。
【0070】
図15は、本発明の第2実施形態におけるガス分析装置100の概略構成を示す断面図である。本実施形態は、
図1に示される第1実施形態のガス分析装置100に比べて発光部50が異なる。発光部50を除いて、本実施形態のガス分析装置100は、第1実施形態の構造と共通する。したがって、繰り返しの説明を省略する。本実施形態のガス分析装置100においては、発光部50は、レーザー発光素子として、第1発光素子51および第2発光素子52を備える。第1発光素子51および第2発光素子52は、筐体54内に設けられる。第1発光素子51および第2発光素子52は、互いに発光波長が異なる複数の発光素子である。第1発光素子51は、第1レーザー光3を出射する。第2発光素子52は、第2レーザー光2を出射する。
【0071】
被測定ガス成分によっては、第1発光素子51および第2発光素子52の一方が、発光波長帯域0.7以上2.5μmである近赤外線発光素子であってよく、他方が発光波長帯域3μm以上10μm以下の中赤外線発光素子であってよい。
【0072】
本例では、第2レーザー光2をコリメートするために凹面鏡53が設けられている。凹面鏡53の中央部には開口が設けられてよい。凹面鏡53の裏面側に置かれた第1発光素子51から、開口を通じて第1レーザー光3が出射される。なお、第1発光素子51から出力された第1レーザー光3をコリメートするためのマイクロレンズが凹面鏡53の裏面側に設けられてもよい。但し、互いに発光波長が異なる複数の発光素子を有する限り、光学系は、
図15に示される構造に限定されない。本例においては、発光部用の駆動部が設けられていない。受光部用の駆動部47が設けられている。駆動部47は、受光素子41を移動させる。
【0073】
発光部50は、第1発光素子51および第2発光素子52のうち、いずれかの発光素子を選択して発光させる。駆動部47は、発光している発光素子の発光波長に応じた振幅で受光素子41を移動させる。例えば、第1発光素子51が、発光波長帯域0.7以上2.5μmである近赤外線発光素子であれば、駆動部47は、λ1・n/2の振幅、例えば、0.35μm以上1.25μm以下の振幅(n=1の場合)で受光素子41を移動させる。同様に、第2発光素子52が、発光波長帯域3μm以上10μm以下の中赤外線発光素子であれば、駆動部47は、λ2・n/2、例えば、1.5μm以上5μm以下の振幅(n=1の場合)で受光素子41を移動させる。したがって、第2発光素子52を発光させる場合は、第1発光素子51を発光させる場合に比べて、受光素子41を移動させる振幅が大きくなる。
【0074】
発光部50側に駆動部を設ける場合には、第1発光素子51および第2発光素子52を移動するために複数の駆動部が必要となる。また、発光部50の構造が複雑なので、駆動部を設けることが難しい。しかしながら、本例によれば、駆動部47は、発光している発光素子の発光波長に応じた振幅で受光素子41を移動させることができるので、駆動部(アクチュエータ)の数を増やすことなく、複数のガス種類に対応したレーザー式ガス分析計を提供することが可能となる。
【0075】
被測定ガスの濃度を時間Tの平均値によって算出する場合には、時間Tのうちで、発光部50は、第1発光素子51および第2発光素子52を順次選択して発光させてよい。この場合も、駆動部47は、駆動部47は、発光している発光素子の発光波長に応じた振幅で受光素子41を移動させる。
【0076】
図16は、駆動部47による振動波形の一例である。本例においては、±λ・n/4(nは整数)において、n=4の場合を示している。本例では、第1の測定周期(オフセット)では、第1発光素子51を発光させて第1波長λ
1の第1レーザー光3を出射する。そして、受光素子41の位置を、+λ
1(+λ
1・n/4 但し、n=4)に移動させる。次いで、第1発光素子51の発光を停止し、第2発光素子52を発光させる。これにより、第2波長λ
2の第2レーザー光2を出射させる。そして、受光素子41の位置を+λ
2(+λ
2・n/4 但し、n=4)に移動させる。次いで、第2発光素子52の発光を停止し、第1発光素子51を発光させる。そして、受光素子41の位置を、-λ
1に移動させる。次いで、第1発光素子51の発光を停止し、第2発光素子52を発光させる。そして、受光素子41の位置を-λ
2に移動させる。以上の処理が繰り返される。
【0077】
受光素子41を、+λ1、-λ1、+λ2、および-λ2の順で振動させるように移動する場合に比べて、各オフセット間において、アクチュエータであるピエゾ振動部49の移動量を低減することができる。したがって、複数の波長λ1、λ2を有する複数の発光素子を順次選択する場合には、基準の位置から見て第1方向(+X軸方向)において、それぞれの波長λ1、λ2に応じた位置+λ1・n/4および+λ2・n/4に順次に移動した後に、第1方向と反対の第2方向(-X軸方向)において、それぞれの波長λ1、λ2に応じた位置-λ1・n/4および-λ2・n/4に順次に移動してよい。
【0078】
但し、受光素子41等の光学素子を移動する順番は、この場合に限定されない。被測定ガスの濃度を出力する間隔である時間Tごとに、光学素子を移動する順番を変更してもよい。
【0079】
図17は、本実施形態におけるガス分析装置100の処理内容を示すフローチャートである。発光部50は、第1発光素子51を選択して発光させる(ステップS101)。駆動部47は、発光している第1発光素子51の発光波長λ
1に応じた振幅で受光素子41を移動させる。第1レーザー光3の波長λ
1のn/2倍(ただし、nは整数)だけ異なる2つの状態において受光部40が検出した各信号に基づいて、被測定ガスの濃度を算出する(ステップS103)。
【0080】
次いで、発光部50は、第2発光素子52を選択して発光させる(ステップS104)。駆動部47は、発光している第2発光素子52の発光波長λ2に応じた振幅で受光素子41を移動させる。第2レーザー光2の波長λ2のn/2倍(ただし、nは整数)だけ異なる2つの状態において受光部40が検出した各信号に基づいて、被測定ガスの濃度を算出する(ステップS106)。
【0081】
なお、ステップS102において、波長λ
1に応じて、受光素子41を光軸に沿って振幅nλ
1/2で振動させて、2つの位置±nλ
1/4の位置にあるときに、受光部40が検出した信号を取得してもよい。同様に、ステップS105において、波長λ
2に応じて、受光素子41を光軸に沿って振幅nλ
2/2で振動させて、2つの位置±nλ
2/4の位置にあるときに、受光部40が検出した信号を取得してもよい。一方、
図16に示されるとおり、駆動部47は、+nλ
1/4、+nλ
2/4、-nλ
1/4、および-nλ
2/4の並び順で順次に受光素子41を移動させ、受光素子41がそれぞれの位置にあるときに、受光部40が検出した信号を取得してもよい。
【0082】
以上の説明では、光学素子として、受光素子41およびレーザー発光素子31の少なくとも一方を駆動部が移動させる場合を説明した。しかしながら、集光レンズ42等を移動できる構造の場合には、駆動部が、集光レンズ42等の他の光学素子を移動させてもよい。この場合も、光学素子の位置が、レーザー光の波長のn/2倍(ただし、nは整数)だけ異なる2つの状態において受光部が検出した各信号に基づいて、被測定ガスの濃度を算出する。これにより、集光レンズをランダムに移動させる場合に比べて、干渉ノイズを低減することができる。特に、受光部40および受光信号処理部60は、駆動部が光学素子を移動させる周期と同期して、レーザー光の強度を測定し、信号処理してよいので、効率的に振動を除去することが出来るガス分析装置を提供できる。
【0083】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0084】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順序で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0085】
1・・レーザー光、2・・第2レーザー光、3・・第1レーザー光、5・・測定波形、6・・測定波形、7・・平均化波形、10・・煙道、11・・測定対象空間、12・・壁部、14・・開口、21・・発光側フランジ部、22・・受光側フランジ部、30・・発光部、31・・レーザー発光素子、32・・レーザー光源部、33・・コリメートレンズ、34・・筐体、35・・出射管、36・・駆動部、37・・ベース板、38・・ピエゾ振動部、39・・接続部、40・・受光部、41・・受光素子、42・・集光レンズ、43・・筐体、44・・入射管、45・・回路基板、46・・増幅器、47・・駆動部、48・・ベース板、49・・ピエゾ振動部、50・・発光部、51・・第1発光素子、52・・第2発光素子、53・・凹面鏡、54・・筐体、60・・受光信号処理部、61・・I-V変換器、62・・発振器、63・・同期検波回路、64・・ローパスフィルタ、65・・演算部、72・・放熱部、100・・ガス分析装置、202・・波長制御部、204・・波長走査駆動信号発生部、205・・高調波変調信号発生部、206・・電流制御部、207・・温度制御部、208・・サーミスタ、210・・ペルチェ素子