(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】接着剤硬化物、加飾シート及び加飾成形体
(51)【国際特許分類】
C09J 175/04 20060101AFI20220531BHJP
C09J 163/02 20060101ALI20220531BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20220531BHJP
C09J 7/35 20180101ALI20220531BHJP
C09J 7/22 20180101ALI20220531BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
C09J175/04
C09J163/02
C09J11/06
C09J7/35
C09J7/22
B32B27/00 D
(21)【出願番号】P 2018038013
(22)【出願日】2018-03-02
【審査請求日】2021-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】396009595
【氏名又は名称】東洋モートン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】尾内 良行
(72)【発明者】
【氏名】花木 寛
(72)【発明者】
【氏名】土屋 翔吾
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-077280(JP,A)
【文献】特開2016-206442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン系接着剤を硬化してなる接着剤硬化物であり、引張伸び率が300%時の伸び応力が、1MPa以上12MPa以下であり、
前記ポリウレタン系接着剤が、主剤と硬化剤とを含有し、該主剤が、ポリエーテルポリウレタンポリオール、ポリエステルポリオール及びポリエステルポリウレタンポリオールからなる群より選ばれる少なくとも1種のポリオールを含み、該硬化剤が、ポリイソシアネートを含み、
前記主剤がさらに、芳香族エポキシ樹脂を含む、接着剤硬化物。
【請求項2】
破断伸度が400%以上である、請求項1に記載の接着剤硬化物。
【請求項3】
前記主剤が、ポリエーテルポリウレタンポリオール及びポリエステルポリウレタンポリオールからなる群より選ばれる少なくとも1種のポリオールを含む、請求項1
又は2に記載の接着剤硬化物。
【請求項4】
前記芳香族エポキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含む請求項1~
3いずれか1項に記載の接着剤硬化物。
【請求項5】
基材層及び接着剤層、又は、基材層、装飾層及び接着剤層、をこの順に有してなる加飾シートであって、該接着剤層が、請求項1~
4いずれか1項に記載の接着剤硬化物からなる加飾シート。
【請求項6】
前記接着剤層の膜厚が2~20μmである、請求項
5に記載の加飾シート。
【請求項7】
前記基材層が、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、及びポリ塩化ビニル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種から形成された層である、請求項
5又は6に記載の加飾シート。
【請求項8】
請求項
5~7いずれか1項に記載の加飾シートが、前記接着剤層を介して三次元被着体に積層されてなる加飾成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸び率と耐熱性に優れる立体熱成形に適した接着剤硬化物に関する。また、該接着層を含む立体熱成形用に好適な加飾シートに関する。また、該加飾シートを具備してなる立体成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家庭用電化製品、自動車内装品、及び雑貨品等の様々な分野において、被着体である成形体の表面に、白、黒、及びカラーインキにより文字や絵柄を加飾することにより、高い機能性や意匠性を発現させてきた。特に、三次元曲面などの複雑な表面形状を有する成形体の加飾には、三次元曲面を有する物品の表面に加飾シートをラミネートして装飾した加飾品が各種用途で使用されている。加飾シートをラミネートする加飾法としては、例えば、特許文献1等に開示されている樹脂成形物の成形と同時にその表面に加飾シートを積層一体化する事で、表面が加飾された加飾成形品が得られる射出成形同時加飾方法や、例えば、特許文献2に開示されている成形装置内に加飾シートを導入後、加飾シートを加熱により軟化させ、軟化した加飾シートを三次元成形体の表面に貼り付けることにより加飾を行う真空・圧空成形を用いた方法(TOM成形)などが知られている。
TOM成形に用いられる加飾シ-トとしては、加飾層(表面層もしくは表面保護層)と粘接着剤層等を有する加飾シ-トが知られている。加飾層と粘接着剤層を有する加飾シ-トを用いる場合は、粘接着剤層等の粘接着力を利用して、加飾シ-トと成形体を密着接合させる。特許文献2には、樹脂層(表面層)と、接着剤層を有する複層シートが開示されており、接着剤層を構成する接着剤としてアクリル系接着剤が用いられている。
【0003】
また、三次元立体形状を有する成形体の加飾シ-トは、モバイル、家電、ノートPC、建材、自動車内外装等の用途に使用されるため、加工性や接着強度以外に、耐候性や耐久性が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公昭50-19132号公報
【文献】特開2002-067137号公報
【文献】特開2015-214147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、高い伸び率と耐熱性とを有し、接着性と加工性に優れる立体熱成形に適した接着剤硬化物、並びに該硬化物を用いてなる加飾シート及び加飾成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明は以下の通りである。
[1] ポリウレタン系接着剤を硬化してなる接着剤硬化物であり、引張伸び率が300%時の伸び応力が、1MPa以上12MPa以下である、接着剤硬化物。
【0007】
[2] 破断伸度が400%以上である、[1]に記載の接着剤硬化物。
【0009】
[4] ポリウレタン系接着剤が、主剤と硬化剤とを含有し、該主剤が、ポリエーテルポリウレタンポリオール及びポリエステルポリウレタンポリオールからなるポリオールを含み、該硬化剤が、ポリイソシアネートを含む[1]~[3]いずれか1項に記載の接着剤硬化物。
【0010】
[5] 前記主剤がさらに、ビスフェノール型エポキシ樹脂を含む[4]に記載の接着剤硬化物。
【0011】
[6] 基材層及び接着剤層、又は、基材層、装飾層及び接着剤層、をこの順に有してなる加飾シートであって、該接着剤層が、[1]~[5]いずれか1項に記載の接着剤硬化物からなる加飾シート。
【0012】
[7] 前記接着剤層の膜厚が2~20μmである、[6]に記載の加飾シート。
【0013】
[8] 前記基材層が、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、及びポリ塩化ビニル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種から形成された層である、[6]又は[7]に記載の加飾シート。
【0014】
[9] [6]~[8]いずれか1項に記載の加飾シートが、前記接着剤層を介して三次元被着体に積層されてなる加飾成形体。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、高い伸び率と耐熱性とを有し、接着性と加工性に優れる立体熱成形に適した接着剤硬化物、並びに該硬化物を用いてなる加飾シート及び加飾成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の加飾シートの一形態を例示する断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の加飾シートの他の一形態を例示する断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の三次元被着成形体の一形態を例示する断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の加飾成形体の一形態を例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。本発明の接着剤硬化物は、ポリウレタン系接着剤を硬化してなる反応硬化型接着剤硬化物であり、引張伸び率が300%時の伸び応力が、1MPa以上12MPa以下であることを特徴とする。伸びの良い反応硬化型接着剤硬化物を用いることで、優れた伸び率と耐熱性とを両立することが可能とする効果を奏する。この接着剤硬化物を用いることで、接着性と加工性に優れ、特に立体熱成形に適した加飾シート及び、該加飾シートを用いた加飾成形体を得ることができる。
【0018】
<接着剤硬化物>
前述のとおり、本発明の接着剤硬化物は、ポリウレタン系接着剤を硬化してなる反応硬化型接着剤硬化物であり、引張伸び率が300%時の伸び応力が、1MPa以上12MPa以下である。
【0019】
<ポリウレタン系接着剤>
本発明においてポリウレタン系接着剤は特に限定されず、従来公知の一液硬化型、二液硬化型の接着剤を用いることができる。二液硬化型のポリウレタン系接着剤として好ましくは、主剤と硬化剤とを用いる二液硬化型ポリウレタン系接着剤を使用できる。主剤として好ましくはポリオール主剤であり、硬化剤として好ましくはポリイソシアネート硬化剤である。
【0020】
[ポリオール主剤]
ポリオール主剤は、使用するポリオールの種類により、エーテル系とエステル系に分類され、接着力の発現と、耐熱性、塗工性を両立させるため、他の成分を添加したり、最適な分子量にして用いられる。
【0021】
(エーテル系主剤)
エーテル系主剤は、分子量500~3,000程度のポリエーテル類を有機ジイソシアネートで鎖伸長反応させて、分子量数千~数万にまで高分子量化したポリエーテルポリウレタンポリオールを主剤として使用する。エーテル主鎖であるため、粘度が低く、高速塗工性に優れるが、凝集力が小さいため初期接着に劣る面がある。
【0022】
エーテル系主剤としては、特定のポリエーテルポリウレタンポリオールが好ましく、後述のようにさらにビスフェノールA型エポキシ樹脂を含有するものが好ましい。
【0023】
前記ポリエーテルポリウレタンポリオールとしては、炭素数が3又は4の繰り返し単位を有するポリアルキレングリコール及びアルカンジオールモノマーと、有機ジイソシアネートとの反応を、0.7以上、1未満の当量比(NCO/OH)で行って得たものであり、その重量平均分子量が20,000~70,000かつウレタン結合当量が320~600g/eqであり、前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、その数平均分子量400~5,000であり、常温で固形状又は半固形状をなしているものが好適である。
【0024】
(ポリアルキレングリコール)
上記ポリエーテルポリウレタンポリオールの合成に用いるポリアルキレングリコールとしては、例えば、いずれも繰り返し単位中の炭素数が3であるポリトリメチレングリコール及びポリプロピレングリコールや、いずれも繰り返し単位中の炭素数が4であるポリテトラメチレングリコール及びポリブチレングリコール等が挙げられる。これらの中でも、ポリテトラメチレングリコール及びポリプロピレングリコールのうちの少なくとも一方を含むポリアルキレングリコールが好適に用いられ、ポリテトラメチレングリコールを含むポリアルキレングリコールより好適に用いられる。ポリテトラメチレングリコールは、特に、耐水性が高く、適度な結晶性を有していることに加えて、高い耐湿熱性を発揮するためである。したがって、ポリテトラメチレングリコール構造を繰り返し単位として有するポリエーテルポリウレタンポリオールを主剤として含む接着剤組成物は、特に屋外において使用される積層体の製造に好適に使用することができる。
【0025】
(アルカンジオールモノマー)
上記ポリエーテルポリウレタンポリオールの合成に用いるアルカンジオールモノマーとしては、炭素数が、2~9程度の範囲であることが好ましく、2~6程度の範囲であることがより好ましい。これにより、アルカンジオールモノマーの分子量が適度なものとなるので、ポリエーテルポリウレタンポリオールにおいてハードセグメントを形成するウレタン結合密度を比較的高くすることができる。このため、調製される接着剤組成物では、高い凝集力が得られる。
【0026】
かかるアルカンジオールモノマーとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,9-ノナンジオール等が挙げられ。これらのうちの1種又は任意の2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
(有機ジイソシアネート)
上記ポリエーテルポリウレタンポリオールの合成に用いる有機ジイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル-4,4’-ジイソシアネート、及び、これらの誘導体等が挙げられ、これらのうちの1種又は任意の2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
なお、上記誘導体としては、上記の有機ジイソシアネートと多価アルコールとを反応させて得られるポリウレタンジイソシアネートが挙げられる。また、この多価アルコールには、上記ポリエーテルポリウレタンポリオールを合成する際の原料として挙げたアルカンジオール等を用いることができる。
【0029】
これらの中でも、有機ジイソシアネートとしては、イソシアネート基が芳香環に直接結合していない脂肪族もしくは脂環族ジイソシアネート、又は、これらの誘導体を用いることが好ましい。脂肪族もしくは脂環族ジイソシアネートは、紫外線等の光が照射されたとしても、多量体化( 例えば、二量体化)し難い。このため、接着剤組成物を用いて製造された積層体を屋外に長期間放置したとしても、接着剤組成物の硬化物が経時的に変色(黄色に変色) するのを好適に防止することができる。
【0030】
また、上記エーテル系主剤としては、ポリエーテルポリウレタンポリオール及びビスフェノールA型エポキシ樹脂に加えて、公知の接着剤用の添加剤を含有してもよい。かかる添加剤としては、例えば、シランカップリング剤、反応促進剤等が挙げられる。主剤がシランカップリング剤を含むことにより、接着剤組成物の金属材料で構成される基材に対する接着力を向上することができ、主剤が反応促進剤を含有することにより、接着剤組成物のエージング時間(硬化に要する時間)を短縮することができる。
【0031】
シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランのようなビニル基を有するトリアルコキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシランのようなアミノ基を有するトリアルコキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランのようなグリシジル基を有するトリアルコキシシランが挙げられ、これらのうちの1種又は任意の2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
さらに、反応促進剤としては、例えば、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、ジオクチルチンジラウレート、ジブチルチンジマレートのような金属系触媒、1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7、1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン-5、6-ジブチルアミノ-1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7のような3級アミン、トリエタノールアミンのような反応性3級アミン等が挙げられ、これらのうちの1種又は任意の2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
塗膜外観向上させる目的で、公知のレベリング剤又は消泡剤を、主剤に配合することもできる。
【0034】
レベリング剤としては、たとえば、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、アラルキル変性ポリメチルアルキルシロキサン、ポリエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエーテルエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、アクリル系共重合物、メタクリル系共重合物、ポリエーテル変性ポリメチルアルキルシロキサン、アクリル酸アルキルエステル共重合物、メタクリル酸アルキルエステル共重合物、レシチンなどが挙げられる。
【0035】
消泡剤としては、シリコーン樹脂、シリコーン溶液、アルキルビニルエーテルとアクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルとの共重合物などの公知のものが挙げられる。
【0036】
(エステル系主剤)
エステル系主剤は、分子量1,000~3,000程度のポリエステル類をジイソシアネートで鎖伸長反応させて、分子量数千~数万にまで高分子量化したポリエステルポリウレタンポリオールを主剤として使用する場合と、分子量数千~数万のポリエステルポリオールを主剤として使用する場合がある。エステル主剤系は、加水分解性があり、粘度が高いため、高速塗工性は劣るが、エーテル主剤系に比べ凝集力が大きく、初期接着、耐熱性、耐薬品性などに優れる。
【0037】
前記ポリエステルポリオール及び/又はポリエステルポリウレタンポリオールとしては、芳香族二塩基酸及び一定の炭素数以上の脂肪族二塩基酸と、一定の炭素数以上の脂肪族多価アルコールとを組み合わせたポリエステルポリオール及び/又はポリエステルポリウレタンポリオールからなるエステル系主剤が好適であり、硬化剤として後述する一定量のイソシアヌレートを含有するポリイソシアネートと組み合わせて使用する場合、より好適である。
【0038】
主剤として、前記ポリエステルポリオール及び/又はポリエステルポリウレタンポリオールを用いると、ポリオールの耐加水分解性を高め、屋外暴露時の経時的な接着強度の低下を抑制することができる。また、硬化剤であるポリイソシアネートが耐熱性の高いイソシアヌレート骨格を含むことにより、架橋密度を高めて高温下での樹脂の膨潤を抑えることで樹脂への水分の浸入を抑制して、接着剤硬化皮膜の耐湿熱性を高めることができる。
【0039】
前記ポリエステルポリオール及び/又はポリエステルポリウレタンポリオールを構成する二塩基酸及びそのエステル化合物としては、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、無水フタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、コハク酸、グルタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸及びそのエステル化合物を例示できる。これらを適宜組み合わせて使用できるが、二塩基酸全量に対し、芳香族二塩基酸が40~80モル%、炭素数9以上の脂肪族二塩基酸が20~60モル%となるように組み合わせて使用する。芳香族二塩基酸が40モル%未満であると、充分な耐熱性及び粘弾性が得られない恐れがあり、80モル%を超えると接着力が低下する恐れがある。また、脂肪族二塩基酸が炭素数8以下の化合物で構成されているか、又は、炭素数9以上の脂肪族二塩基酸が20モル%未満であると、ポリオールのエステル結合度が上がって加水分解基点が増加し、長期耐湿熱性に悪影響を与える恐れがある。
【0040】
上記例示化合物のなかでも、芳香族二塩基酸としては、エステル交換反応における反応性の観点から、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸、無水フタル酸が好ましい。炭素数9以上の脂肪族二塩基酸としては、親油性が高く疎水性を有し、ポリマーへの吸水を抑制する観点から、炭素数9のアゼライン酸及び炭素数10のセバシン酸が好ましい。炭素数11以上の脂肪族二塩基酸では、芳香臭が強くなるため、加工作業環境への配慮を行なうことが好ましい。
【0041】
多価アルコールの具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,9-ナノンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオールなどが挙げられる。これらを単独で、あるいは2種以上で使用できるが、多価アルコール全量に対し炭素数5以上の脂肪族多価アルコールを20モル%以上の割合で使用する。脂肪族多価アルコールが炭素数4以下のアルコールで構成されていたり、炭素数5以上の脂肪族多価アルコールの割合が20モル%未満であったりすると、ポリオールのエステル結合度が上がって加水分解基点が増加し、長期耐湿熱性に影響する恐れがある。
【0042】
上記例示化合物のなかでも、炭素数5以上の脂肪族多価アルコールとして、側鎖を有し溶解安定性を向上させる炭素数5のネオペンチルグリコール及び炭素数6の3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ならびに、親油性が高く疎水性を有しポリマーへの吸水を抑制する1,6-ヘキサンジオールなどが好ましい。
【0043】
ポリエステルポリオールの重量平均分子量は、凝集力と接着強度を確保する観点から、10,000以上であることが好ましく、樹脂の溶解性、粘度及び接着剤の塗工性(取り扱い性)の観点から、150,000以下であることが好ましく、10,000~100,000であることが一層好ましい。
【0044】
ポリエステルポリオールと反応させてポリエステルポリウレタンポリオールの合成に用いられる有機ジイソシアネートとしては、特に限定されず、前述の有機ジイソシアネートを単独で、あるいは2種以上で使用できる。なかでも、屋外用途である場合、経時的な黄変を低減させる目的で、ウレタン架橋部には脂肪族又は脂環族のイソシアネート化合物を用いることが好ましい。
【0045】
また、ポリエステルポリオールをウレタン化して用いることにより、ポリオール自身のエステル結合度(後述)を下げることができ、その結果、加水分解起点を減らして耐湿熱性を高めることができる。
【0046】
ポリエステルポリウレタンポリオールの重量平均分子量は、上記ポリエステルポリオールと同様の理由から、10,000~100,000であることが好ましく、10,000~70,000であることが一層好ましい。
【0047】
エステル系主剤として、上記のポリエステルポリオールとポリエステルポリウレタンポリオールをそれぞれ単独で使用することが可能であるが、両者を混合して使用することが接着力と耐湿熱性のバランスをとる観点から好ましい。その場合のポリエステルポリオールとポリエステルポリウレタンポリオールの混合比は、特に限定されないが、凝集力が高く、延伸性が高い重量平均分子量70,000以上のポリエステルポリオールを使用して接着力を向上させる場合は、このポリエステルポリオールを、エステル系主剤全量に対し60~80質量% 使用することが好ましい。この場合は、ポリエステルポリオールは重量平均分子量が大きく粘度が高くなるため、併用するポリエステルポリウレタンポリオールの重量平均分子量は40,000以下に抑えて、接着剤としての粘度を調整することが塗工の上で好ましい。
【0048】
さらに、このエステル系主剤におけるカルボキシル基と水酸基の反応(カルボキシル基と水酸基の反応比を1対1とする)によるエステル結合の割合を、分子中のエステル結合度(モル/100g)として表した際、1未満になるように設計することが望ましい。すなわち、本発明者らの知見によれば、エステル結合度を1未満とすることで、エステル結合の割合を小さくして耐加水分解性を高め、経時的な接着強度劣化をさらに抑制して長期の耐湿熱性を向上させることができる。
【0049】
たとえば、多塩基酸の中で、分子量の大きい(炭素数の多い)二塩基酸を選択することで、単位重量中(100g中)のエステル結合度を小さくすることができる。好ましくは、炭素数が9以上の脂肪族二塩基酸であり、たとえば、炭素数が9のアゼライン酸、炭素数10のセバシン酸が挙げられる。ただし、炭素数が15程度以上の脂肪族二塩基酸を使用する場合は、接着剤中のソフトセグメントである脂肪族炭素鎖の割合が大きくなり、接着剤の耐熱性が低くなる傾向があるので、他に耐熱性を考慮した設計をする必要もある。
【0050】
さらにそれに加えて、分子量の大きい(炭素数の多い)多価アルコールを選択することにより、エステル系主剤の単位重量中(100g中)のエステル結合度をさらに小さくすることができる。好ましくは、炭素数が5以上の脂肪族多価アルコールであり、たとえば、炭素数5のネオペンチルグリコール、炭素数6の3-メチル-1,5-ペンタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールが挙げられる。炭素数が多く直鎖状の多価アルコールは疎水性のものが多く、これらを選択することで分子鎖の親水度を下げる効果も期待できる。ただし、炭素数が10程度以上の脂肪族多価アルコールを使用する場合は、上記と同様に、他に耐熱性を考慮した設計をする必要がある。
【0051】
特に、工業用接着剤としての基本性能、たとえば室温での接着強度及び高温(80~150℃など)下での接着強度の両立を考慮すると、エステル系主剤のエステル結合度は0.75~0.99の範囲が好ましい。このエステル結合度が0.75以上であるということはすなわち、耐熱性を担う成分である芳香族二塩基酸の二塩基酸成分中における割合が適切であり、かつ、多価アルコールの分子量も適切である、ということである。
【0052】
エステル系主剤は、上記ポリエステルポリオール及び/又はポリエステルポリウレタンポリオールに加えて、本発明の効果を阻害しない範囲で、任意の成分を含むことができる。エステル系主剤中のポリオール成分として、上記ポリエステルポリオール及び/又はポリエステルポリウレタンポリオール以外のポリオールを含むこともできるが、ポリオール成分中の90質量%以上がポリエステルポリオール及び/又はポリエステルポリウレタンポリオールであることが好ましい。
【0053】
(エポキシ樹脂)
またこれら主剤は、耐加水分解性の観点から、さらにエポキシ樹脂を含むことが好ましく、エポキシ基がエステル結合の加水分解により発生したカルボキシル基と反応することにより、分子量低下を制御することが期待される。その場合、せん断強度保持の観点から、脂肪族エポキシ樹脂ではなく、芳香族エポキシ樹脂を配合することが好ましい。なかでも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂を含むことが好ましい。ビスフェノール型エポキシ樹脂は、ビスフェノール骨格による疎水性を有することから、エステル結合の加水分解を抑制する効果が期待される。これらのエポキシ樹脂は、それぞれ単独で、又は2種以上を任意に組み合わせて使用できる。
【0054】
さらに、接着剤硬化皮膜の耐熱性・粘弾性調整と溶液粘度の調整の観点から、数平均分子量1,000~3,000のビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。数平均分子量が1,000未満であると、十分な耐熱性が得られない恐れがあり、一方、数平均分子量が3,000を超えると、接着剤としての粘弾性が損なわれてしまう恐れがある。また、高分子量のポリオールを使用する場合には、低分子量のエポキシ樹脂は、接着剤溶液粘度を低下させて塗工適正を向上させるとの効果が得られるが、数平均分子量が3,000を超えると、溶液粘度を低下させる効果が小さくなってしまう。
【0055】
エステル系主剤にエポキシ樹脂を配合する場合の配合量は、接着剤硬化皮膜の粘弾性調整の観点から、主剤全量に対し50質量%以下が好ましい。さらに好ましい範囲は、接着力を考慮して20~40質量%である。
【0056】
(その他添加剤)
また、上記エステル系主剤としては、上記のポリエステルポリオール及び/又はポリエステルポリウレタンポリオール、エポキシ樹脂に加えて、公知の接着剤用の添加剤を含有してもよい。かかる添加剤としては、前述のエーテル系主剤で使用される添加剤と同様のシランカップリング剤、反応促進剤、レベリング剤、消泡剤等が挙げられる。
【0057】
本発明の主剤は、好ましくはポリエーテルポリウレタンポリオール、ポリエステルポリオール及びポリエステルポリウレタンポリオールからなる群から選ばれる少なくとも1種のポリオールを含み、より好ましくはポリエーテルポリウレタンポリオール及びポリエステルポリウレタンポリオールからなる群から選ばれる少なくとも1種のポリオールを含む。また、さらに好ましくは該主剤がさらに、ビスフェノール型エポキシ樹脂を含むことである。
【0058】
[硬化剤]
本発明の硬化剤は、従来公知の硬化剤を使用することができ、好ましくはポリイソシアネートであり、より好ましくは多官能ポリイソシアネートである。硬化剤は1種又は任意の2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
(多官能ポリイソシアネート)
多官能ポリイソシアネートとしては、例えば、低分子量ポリイソシアネート、低分子量ポリイソシアネートと、水又は多価アルコールとを反応させて得られるポリウレタンイソシアネート(アダクト体)、ポリウレタンイソシアネートのビウレット体又はアロファネート体、低分子量イソシアネートのウレトジオン体(二量体)又はイソシアヌレート体(三量体)等が挙げられる。
【0060】
低分子量ポリイソシアネートとしては、例えば、有機ジイソシアネートとして記載したものと同様のものが挙げられ、これらのうちの1 種又は任意の2 種以上を組み合わせて用いることができる。また、ポリウレタンイソシアネート(アダクト体)を得る場合に、これらの低分子量ポリイソシアネートと反応させる多価アルコールとしては、例えば、トリメチロールプロパンやソルビトールのような3 官能以上の多価アルコールや、上記ポリエーテルポリウレタンポリオールを合成する際の原料として挙げたアルカンジオール等が挙げられる。
【0061】
ここで、多官能ポリイソシアネートは、芳香族多官能ポリイソシアネートと脂肪族又は脂環式多官能ポリイソシアネートとに大別されるが、脂肪族又は脂環式多官能ポリイソシアネートを用いることが好ましい。脂肪族としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、リジンジイソシアネート(LDI)、ブテンジイソシアネート、1,3-ブタジエン-1,4-ジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート等のジイソシアネート類等が挙げられる。また、脂環式多官能ポリイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添ジフェニルメタンジイソシアネート(水添MDI)、水添キシレンジイソシアネート(水添XDI)シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等のジイソシアネート類が例示できる。なお、芳香環を有するがイソシアネート基が直接芳香環に結合していないキシレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)も脂肪族ジイソシアネートに属するものとして本発明で使用することができる。
本発明のポリイソシアネートとして好ましくは脂環式多官能ポリイソシアネートであり、より好ましくはイソホロンジイソシアネートである。
【0062】
前記脂肪族又は脂環式多官能ポリイソシアネートは、その構造中に、芳香環を有しないため、紫外線等の光が照射されたとしても、多量体化(例えば、二量体化)し難い。このため、本発明の接着剤硬化物、並びに該接着剤硬化物を用いてなる加飾シート及び加飾成形体を屋外に長期間放置したとしても、接着剤硬化物が経時的に変色(黄変)するのを好適に防止することができる。
【0063】
また、多官能ポリイソシアネートは、少なくともイソシアヌレート構造を有することが好ましい。イソシアヌレート構造は、耐熱性及び疎水性が高い構造であるため、イソシアヌレート構造を有する硬化剤を用いることにより、接着剤硬化物は、より長期間にわたる耐湿熱性を発揮することができる。なお、イソシアヌレート構造を有する多官能ポリイソシアネートの配合量(含有量)は、硬化剤全量に対して、好ましくは50~100質量%であり、より好ましくは60~100質量%である。硬化剤中のイソシアヌレート構造を有する多官能ポリイソシアネートの配合量を上記範囲とすることにより、接着剤硬化物の耐湿熱性をさらに向上することができる。
【0064】
イソシアヌレート構造を有する多官能ポリイソシアネートの具体例としては、脂環式ジイソシアネートである3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(以下、「イソホロンジイソシアネート」と言う。)のイソシアヌレート、脂肪族ジイソシアネートであるヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート等が挙げられる。これらの硬化剤は、ポリオール主剤と混合した後のポットライフ(可使時間)が長く、接着剤組成物の安定性(溶液安定性)が良好であることから好ましい。これらの中でも、耐熱性の観点から、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレートがより好適に用いられる。
【0065】
[接着剤の調整]
硬化剤の配合量(含有量)は、主剤全量に対して、好ましくは3~20質量部であり、より好ましくは7~18質量部である。硬化剤及び主剤の配合量を前記範囲とすることにより、接着剤硬化物の初期凝集力を向上することができるとともに、該接着剤硬化物を用いてなる加飾シート及び加飾成形体を屋外に長期間放置した場合でも、接着剤硬化物の剥離強度が低下するのを好適に防止することができる。
【0066】
本発明のポイウレタン系接着剤は、公知の有機溶剤を含むことにより有機溶剤溶液(ワニス)として使用することもできる。有機溶剤としては、特に限定されないが、酢酸エチル、酢酸ブチルのようなエステル系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンのようなケトン系溶剤等が挙げられ、これらのうちの1種又は任意の2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0067】
本発明の接着剤硬化物は、特定の伸び応力、好ましくは特定の破断強度、破断伸度及び特定の貯蔵弾性率(Er)を有し、これは、上記主剤及び硬化剤の種類や配合量を適宜調整することで該特定範囲に調整することができる。引張伸び率が300%時の伸び応力を1MPa以上12MPa以下とするためには、主剤及び硬化剤の配合比率[主剤/硬化剤(質量比)]は、好ましくは100/4~100/22であり、より好ましくは100/10~100/20である。
【0068】
例えば、ポリエーテルポリウレタンポリオールに比べ、ポリエステルポリエステルポリオール及びポリエステルポリウレタンポリオールからなるポリオールを使用すること、ポリオールの重量平均分子量を高くすること等により、接着剤硬化物の伸び応力、貯蔵弾性率(Er)を高く設計することができる。
【0069】
[接着剤硬化物]
本発明の接着剤硬化物は、引張伸び率が300%時の伸び応力が、1MPa以上12MPa以下であり、好ましくは、1.3MPa以上8MPa以下であることで、優れた熱成形性を発揮する。特に、破断伸度が400%以上、好ましくは500%以上、より好ましくは600%以上であると、加飾シートを加熱し引き伸ばして成形体と貼り合せる際、複雑な凹凸を有する3次元成形体の形状にも追随し、優れた外観の加飾成形体を得ることができる。
【0070】
<加飾シート>
本発明の加飾シートは、伸び率の高い接着剤硬化物を用いるため、従来公知の加飾シートの接着層として利用されていた熱可塑性樹脂と比較して、大幅に膜厚を低減することができる。具体的には、20μm以下とすることができ軽量化に繋がる。さらに、耐熱性を付与することができる。
【0071】
本発明の加飾シートは、基材層及び接着剤層、又は、基材層、装飾層及び接着剤層、をこの順に有してなり、基材層が装飾性を有していても良い。好ましくは、基材層と装飾層と接着剤層とを少なくとも1層ずつ有する積層シートであり、加飾シートの接着層を保護する目的で、接着剤層上に、さらに剥離層を有していてもよい。その場合、基材層/接着剤層/剥離層、又は、基材層/装飾層/接着剤層/剥離層、となる。本発明の加飾シートは上記層をこの順に有していればよく、層間に別の層を有していてもよい。本発明の接着剤層は、伸び率が高い接着剤硬化物を用いており、特に3次元成形体への使用に適している。
【0072】
[接着剤層]
本発明の加飾シートに使用される接着剤層は、引張伸び率が300%時の伸び応力が、1MPa以上12MPa以下である、前記接着剤硬化物からなる。
【0073】
接着剤層は、従来公知の方法で形成することができ、通常は、基材層に塗布した後に、乾燥、ラミネート(積層)及びエージング(硬化反応)の工程を経る。基材層への接着剤塗布量(DRY)は、公知の条件から選択することができ、通常のドライラミネーションと同様に、好ましくは、2~10g/m2である。塗布方式としてはダイレクトグラビヤコーティング、リバースコーティング、リバースグラビヤコーティング等を用いることができる。
【0074】
また、接着剤層は、積層工程の直前に乾燥工程に供したものであることが好ましい。上記乾燥工程の温度及び時間は、例えば、60~100℃で1~20分間であることが好ましく、70~90℃で5~15分間であることがより好ましい。なお、上記乾燥工程は、積層工程前の1時間以内に行うことが好ましい。上記乾燥工程は、より好ましくは積層工程を行う前の30分以内に行い、更に好ましくは積層工程を行う前の15分以内に行う。また、前記接着剤層は、真空乾燥機において乾燥させたものであることが好ましい。また、上記乾燥工程は、接着剤層を塗布した直後に行う最初の乾燥であってもよいし、最初の乾燥とは別に積層直前に再度乾燥するための再乾燥であってもよい。
接着剤硬化物からなる接着剤層は、これらの接着剤にカーボンブラック、酸化チタン等の顔料、染料が配合された有色の層であってもよい。
【0075】
[基材]
本発明の加飾シートは基材層を有する。基材層は、成形工程において成形体に追従する形で延伸可能なものであることが好ましい。基材層を構成する材料は、プラスチックであることが好ましい。プラスチックとしては、例えば、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、AS樹脂(アクリロニトリル-スチレン共重合体)、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ナイロン、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられ、好ましくは、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、及びポリ塩化ビニル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂、アクリル系樹脂、及びポリカーボネート系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、特に好ましくは、ABS樹脂又はアクリル系樹脂である。
【0076】
透明性という観点では、アクリル系樹脂が好ましく、(メタ)アクリロイル基を有する単量体成分が主成分である樹脂組成物を重合させることによって得られる樹脂であることが好ましい。単量体成分の主成分は、(メタ)アクリル酸エステルであることが好ましく、メタクリル酸メチルであることが好ましい。
【0077】
本発明における基材層は、無色でもよいし、着色され装飾性を有していてもよい。基材層に装飾性を付与するには、後述の装飾層における公知の着色剤を基材層を形成する樹脂中に添加方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0078】
基材層の厚さは、好ましくは25μm~300μm、より好ましくは50μm~200μmである。基材層の厚さが上記範囲内であれば、加飾成形品を真空成形法により製造する際に、加工成形性、形状追従性、及び取扱い性が良好となる。
【0079】
[装飾層]
本発明における装飾層は、加飾シートの意匠性を付与するために設けられる層であり、模様、文字、及びパターン状の絵柄等を表現する装飾層である。柄としては、例えば、木目、石目、布目、砂目、幾何学模様、文字、ストライプ状やグラデーションの絵柄等が挙げられる。
【0080】
柄層は、通常は、印刷インキでグラビア印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、転写シートからの転写印刷、昇華転写印刷、及びインキジェット印刷等公知の印刷法により形成することができる。柄層の厚さは、柄の形態に応じて適宜調節することができる。
【0081】
柄層の形成に用いられるインキのバインダーとしては、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、セルロース系樹脂、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の塩素化ポリオレフィン樹脂等を、1種又は2種以上を混合して用いることができる。上記インキは、上記の各種樹脂よりなるバインダーに加えて、顔料、染料などの着色剤、体質顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤などを適宜混合したものが使用される。
【0082】
上記インキに用いる着色剤としては、チタン白、亜鉛華、弁柄、朱、群青、コバルトブルーチタン黄、黄鉛、カーボンブラック等の無機顔料、イソインドリノンイエロー、ハンザイエローA、キナクリドンレッド、パーマネントレッド4R、フタロシアニンブルー、インダスレンブルーRS、アニリンブラック等の有機顔料(あるいは染料も含む)、アルミニウム、真鍮、等の金属粉末からなる金属顔料、二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛等の箔粉からなる真珠光沢(パール)顔料、蛍光顔料等を、1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0083】
なお、柄層は、金属薄膜層等でもよい。金属薄膜層の形成は、アルミニウム、クロム、金、銀、銅等の金属を用い、真空蒸着、スパッタリング等の方法で製膜する。あるいはこれらの組み合わせでもよい。該金属薄膜層は、全面に設けても、あるいは、部分的にパターン状に設けてもよい。
【0084】
装飾層は、柄層上に、隠蔽層をさらに設けたものでもよい。隠蔽層は、加飾シ-トを加飾成形品にラミネートした後の地肌(成形体)の模様や着色を隠蔽等の目的で設けられるものである。このため、成形体にラミネート後の層構成は、(表面側)基材層/装飾層(柄層/遮蔽層)/接着層(成形体側)となるのがよい。遮蔽層は、通常、模様のない全面ベタ状又は一部ベタ状の着色層として形成される。なお、柄層がベタ層の作用(遮蔽効果)を兼ねる場合もあり、この場合には、遮蔽層を形成しなくてもよい。遮蔽層は、上記の柄層と同様の着色顔料を含有するインキを用いて形成することができる。
【0085】
また、本発明においては、加飾シ-トにエンボス加工を施してもよい。
【0086】
[剥離層]
本発明の加飾シートは、接着剤層を保護するために剥離層を有していてもよい。剥離層は、接着層から容易に剥離可能なものであればよく、従来公知のものを使用できる。
【0087】
本発明においては、剥離層として、ポリエステルシ-ト等の公知の樹脂シ-トの片面に、シリコーン系等の離型剤を含む離型層を設けた剥離シ-トを用いるのが好ましい。
【0088】
[加飾シートの製造]
本発明の加飾シ-トは、加飾シ-トが上記の各層構成を有するものであれば、特に限定されず、従来公知の方法により製造することができる。例えば、基材層上に、着色剤を含む装飾層用塗工液を塗工し、装飾層を形成する。次に、装飾層上に、上記の接着剤を含む有機溶剤溶液(ワニス)を塗工して、接着層を形成した後、剥離層となる剥離シートをラミネートして、加飾シ-トを製造する。
【0089】
また、本発明の加飾シ-トの各層を積層する際に、本発明の接着剤からなる接着層を各層間に設けて、ラミネートしてもよい。
【0090】
上記の接着剤のコーティング方法としては、例えば、ダイレクトグラビアロールコート法、グラビアロールコート法、キスコート法、リバースロールコート法、フォンテン法、トランスファーロールコート法、その他の方法で塗布することができる。その塗布量(DRY)として、好ましくは0.1g/m2~10g/m2であり、より好ましくは1g/m2~5g/m2である。
【0091】
<加飾成形体>
本発明の加飾成形体は、被着成形体表面の一部又は全面に、本発明の加飾シートを貼着させたものであり、接着剤層を介して加飾シートが被着成形体に貼合されている。
本発明の加飾成形体は本発明の加飾シートを用いることで、高い機能性や意匠性を発現することができる。以下、本発明の加飾成形品の構成を、図面を参照しながら説明する。
【0092】
図4に、本発明による加飾成形体の一例の模式断面図を示す。
図4に示される加飾成形体MSは、被着成形体Mと装飾層とが接着層を介して貼合されてなり、さらに装飾層上に基材層が形成されてなるものである。
【0093】
[被着成形体]
本発明における被着成形体は、本発明の加飾シートにより加飾される成形体であり、例えば、各種素材の曲面板材、立体形状物品等である。本発明の加飾シートは、加飾成形時の成形性、高温環境での密着性が優れているため、加飾成形体の生産性を高めることができ、かつ、意匠性、耐久性に優れた加飾成形体を得ることができる。
【0094】
より詳細には、各種素材としては、木質繊維板、鉄やアルミニウム等の金属素材、ガラス、陶磁器等のセラミックス、石膏等の非セメント窯業系材料、ALC(軽量気泡コンクリート)板等の非陶磁器窯業系材料、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂、フェノール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂及びゴム等の樹脂素材が挙げられる。
本発明において、被着成形体の形状、すなわち加飾シ-トを積層させる対象の形状は、非平面であることが好ましく、例えば、略球面形状、又は凸形状等の凹凸形状等が挙げられる。
【0095】
<使用方法>
本発明の加飾シートを用いて三次元成形体を加飾する場合には、従来公知の手法と同様に行えばよく、特に限定されるものではない。すなわち、接着層が被着成形体表面に面するようにして、被着成形体表面に加飾シートを密着するように、該加飾シートを圧着させて加飾する。その後、加熱を行い、接着層を硬化させて、加飾成形体を得る。真空条件下又は減圧条件下での成形方法としては、例えばTOM成形(3次元被覆成形)法等が挙げられ、本発明の加飾シートはTOM成形等の成形方法において特に好ましく用いられる。
【0096】
前述のとおり、本発明の加飾成形体の製造方法としては、TOM(Three dimension OverlayMethod)工法が好ましく用いられる。TOM工法とは、例えば、固定枠に固定した加飾シ-トが分断する装置内を両空間とも真空ポンプ等で空気を吸引し、装置内を真空引きする。同時に、加飾シ-トが軟化する所定の温度になるまで赤外線ヒーターで加熱し、加飾シ-トが加熱され軟化したタイミングで、装置内空間の片側のみに大気を送り込むことにより、真空雰囲気下の、被着体である成形体の立体形状に、加飾シ-トをしっかりと密着させる。必要に応じ、さらに適宜シリコーンゴムシート側からの圧空押付けを併用してもよい。加飾シ-トが成形体に密着した後、シリコーンゴムシートを加飾シ-トより放した後、固定枠から成形された加飾シ-トをはずして加飾成形品を得る。真空成形は、通常80~150℃、好ましくは110~140℃程度で行われる。
【0097】
本発明により得られる加飾成形体は、特に限定されないが、例えば、バンパー、フロントアンダースポイラー、リヤーアンダースポイラー、サイドアンダースカート、サイドガーニッシュ、ドアミラー等の自動車外装部品、インパネ、センターコンソール、ドアスイッチパネル等の自動車内装部品、携帯電話やオーディオ製品、冷蔵庫、ファンヒータ、照明器具等の家電製品の筐体、洗面化粧台等を挙げることができる。
【実施例】
【0098】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、実施例中、「部」及び「%」は、「質量部」及び「質量%」をそれぞれ表す。
【0099】
<ポリオールの合成方法>
<ポリオールAの合成>
数平均分子量2,000のポリテトラメチレングリコール(「PTMG2000SN」、保土ヶ谷化学(株)社製、以下「PTMG2000」と略す。):74.54部と、3-メチル-1,5-ペンタンジオール(以下、「MPD」と略す。):6.61部と、イソホロンジイソシアネート(以下、「IPDI」と略す。):18.85部とを、0.91の当量比(NCO/OH)となるように、攪拌機付きの合成容器に仕込んだ後、170℃で2 時間、これらの反応を行うことにより、ポリオールを得た。酢酸エチルで希釈して得られた固形分50%の樹脂溶液を、ポリオールA溶液とした。
【0100】
<ポリオールBの合成>
テレフタル酸ジメチル119.5部、エチレングリコール92.2部、ネオペンチルグリコール72.2部、及び酢酸亜鉛0.02部を反応缶に仕込み、窒素気流下で攪拌しながら160~210℃に加熱し、エステル交換反応を行なった。理論量の97%のメタノールが留出した後、イソフタル酸93.0部、アゼライン酸130.0を仕込み、160~270℃に加熱し、エステル化反応を行なった。このまま反応缶を徐々に1~2トールまで減圧し、酸価が0.8mgKOH/g以下となったところで減圧下での反応を停止し、重量平均分子量が80,000のポリエステルポリオール(エステル結合度0.93モル/100g)を得た。酢酸エチルで希釈して得られた固形分50%の樹脂溶液を、ポリオールB溶液とした。
【0101】
<ポリオールCの合成>
ネオペンチルグリコール94.2部、1,6-ヘキサンジオール91.7部、エチレングリコール37.6部、イソフタル酸211.5部、セバシン酸122.9部を反応缶に仕込み、窒素気流下で攪拌しながら160~250℃に加熱し、エステル化反応を行なった。このまま反応缶を徐々に1~2トールまで減圧し、酸価が1mgKOH/g以下となったところで減圧下での反応を停止し、重量平均分子量が6,000の前段階のポリエステルポリオールを得た。得られたポリエステルポリオールにイソホロンジイソシアネート22.9部を徐々に加え、100~150℃で加熱反応させた。6時間反応後に、重量平均分子量35,000のポリエステルポリウレタンポリオール(エステル結合度0.79モル/100g)を得た。酢酸エチルで希釈して得られた固形分50%の樹脂溶液を、ポリオールC溶液とした。
【0102】
<ポリオールDの合成>
ポリオールB100部とポリオールC40部を70℃で加熱・混合し、酢酸エチルで希釈して得られた固形分50%の樹脂溶液をポリオールD溶液とした。
【0103】
<ポリオールEの合成>
ポリオールB40部とポリオールC100部を70℃で加熱・混合し、酢酸エチルで希釈して得られた固形分50%の樹脂溶液をポリオールE溶液とした。
【0104】
<ポリオールFの合成>
エチレングリコール72.8部、アジピン酸146.0部を反応缶に仕込み、窒素気流下で攪拌しながら160~240℃に加熱し、エステル化反応を行なった。このまま反応缶を徐々に1~2トールまで減圧し、酸価が0.8mgKOH/g以下となったところで減圧下での反応を停止し、重量平均分子量が35,000のポリエステルポリオール(エステル結合度1.16モル/100g)を得た。酢酸エチルで希釈して得られた固形分50%の樹脂溶液を、ポリオールFとした。
【0105】
<ポリオールGの合成>
数平均分子量2,000のポリテトラメチレングリコール(「PTG2000SN」、保土ヶ谷化学(株)社製、以下「PTMG2000」と略す。):73.52部と、1,6-ヘキサンジオール(以下、「1,6-HD」と略す。):10.14部と、イソホロンジイソシアネート(以下、「IPDI」と略す。):16.34部とを、0.91の当量比(NCO/OH)となるように、攪拌機付きの合成容器に仕込んだ後、170℃で2時間、これらの反応を行うことにより、ポリオールを得た。酢酸エチルで希釈して得られた固形分50%の樹脂溶液を、ポリオールGとした。
【0106】
<主剤の調整方法>
<主剤1(ポリエーテルポリウレタンポリオール)の調製>
ポリオールA溶液:140部と、融点が78℃、数平均分子量が1,200であり、常温で固形状をなすビスフェノールA型エポキシ樹脂(「YD-012」、東都化成(株)社製):30部と、エポキシ基含有オルガノシランカップリング剤(「KBE403」、信越化学工業(株)製、以下において同様である。):3部とを添加した。その後、これらに、さらに、熱安定剤(「イルガノックス1010」、BASF社製、以下において同様である。):3部を添加し、70℃で加熱しながら混合することにより、これらを溶解して溶解物を得た。次に、この溶解物に、酢酸エチルを添加し、不揮発分が50%となるように調整して、主剤1を得た。
【0107】
<主剤2(ポリエステルポリウレタンポリオール)の調製>
ポリオールD溶液:140部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成(株)製、YD-012)30部、エポキシ基含有オルガノシランカップリング剤(信越化学工業(株)製、KBE-403)3部を70℃ で加熱・溶解・混合し、酢酸エチルで希釈して得られた固形分50%の樹脂溶液を、主剤2とした。
【0108】
<主剤3(ポリエステルポリウレタンポリオール)の調製>
ポリオールE溶液:140部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成(株)製、YD-012)30部、エポキシ基含有オルガノシランカップリング剤(信越化学工業(株)製、KBE-403)3部を70℃で加熱・溶解・混合し、酢酸エチルで希釈して得られた固形分50%の樹脂溶液を、主剤3とした。
【0109】
<硬化剤の調整方法>
<硬化剤1の調製>
ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体を、不揮発分が50%となるように、酢酸エチルで希釈して、硬化剤1を調製した。
【0110】
<硬化剤2の調製>
イソホロンジイソシアネートの三量体を酢酸エチルで希釈して固形分50%の樹脂溶液としたものを硬化剤2とした。
【0111】
<硬化剤3 の調製>
硬化剤1:60部と、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンとのアダクト体を、不揮発分が50%となるように酢酸エチルで希釈した硬化剤:40部と、を70℃で混合し、不揮発分が50%となるように、酢酸エチルで希釈して、硬化剤3を調製した。
【0112】
<接着剤の製造方法>
<接着剤1~8>
表1に示す各種主剤及び硬化剤を、表1に示す質量比で配合し、酢酸エチルで希釈して固形分30%に調整し、接着剤1~8を得た。
【0113】
【0114】
<接着剤硬化物の製造>
[実施例1~6、比較例1、2]
(接着剤硬化物1~8)
得られた接着剤を、無延伸ポリプロピレン(CPP)シ-ト未処理面に、アプリケーターにて塗膜厚60μmとなるように塗工、風乾1日後、60℃/1週間エージングを行い、その後、IR透過法でイソシアネート基の消失を確認できるまで、80℃追加エージングを行い、接着剤硬化物1~8を作成した。
【0115】
<接着剤硬化物の評価>
得られた接着剤硬化物について、以下の評価を行った。結果を表2に示す。
【0116】
[膜物性測定用試料作成]
上記接着剤硬化物を巾5mm×長さ6cmに切り取り、未処理CPPより剥離した試料を作製した。試料を1片毎に厚みを測定した。引張試験の場合は測定長さ2cmの両端の両面に両面テープを用いて厚紙を貼り、試料を補強して使用した。
【0117】
[引張伸び率300%時の伸び応力(引張応力)]
テストロン型引張試験器を使用し、チャック間距離:2cm、引張速度:60mm/分の条件で引張試験を行い、300%伸び応力がF(gf)、試料厚みS(μm)の時の引張応力を下記計算式より算出した。
300%引張応力(MPa)=0.098×F×10-3/0.5×S×10-4
=0.098×20×F/S
【0118】
[破断伸度]
テストロン型引張試験器を使用しチャック間距離:2cm、引張速度:60mm/分の条件で引張試験を行い、試料が切断(破断)したときの伸びを求めた。引張伸びは次の式によって算出した。
引張伸び(%)=100×(L-Lo)/Lo
Lo:試験前の試料長さ L:破断時の試料長さ
【0120】
【0121】
<加飾シートの製造方法>
[実施例7]
(加飾シート1)
基材層としてABSシ-ト(テクノポリマー社製、VALUETECH NSG400、厚さ:200μm)を用い、この一面に、装飾層としてポリエステル系グラビアインキVKNT(東洋インキ(株)製)を使用し、グラビア3色刷りによる木目柄の層と薄い茶色の全ベタ層とをグラビア印刷で形成し、装飾層を設けた。続いて、上記装飾層上に、乾燥後の塗布厚が3μmとなるよう接着剤1をグラビア印刷により塗工・乾燥後、剥離シート(片面にシリコーン系剥離剤による剥離処理が施されてなるポリエステルフィルム、膜厚:38μm、東セロ(株)製、SP-PET-03)をラミネートし、加飾シート1を得た。
【0122】
[実施例8~17、比較例3、4]
(加飾シート2~13)
接着層の種類と塗布量、基材層の種類を表3に示す内容に変更した以外は、加飾シート1と同様にして、加飾シート2~13を得た。
【0123】
【0124】
表3中の略称について以下に示す。
ABS:アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂(テクノポリマー社製、VALUETECH NSG400、厚さ:200μm)
PMMA:アクリル系樹脂(三菱ケミカル社製、アクリプレンHBA002P、厚さ125μm)
PC:ポリカーボネート系樹脂(帝人社製、パンライトPC-2151、厚さ200μm)
PVC:ポリ塩化ビニル樹脂(アキレス社製、アキレス赤味透明、厚さ200μm)
PET:ポリエチレンテレフタレート樹脂(東洋紡社製、コスモシャイン、厚さ188μm)
【0125】
<加飾成形体の製造>
[実施例18]
(加飾成形体1)
上下ボックスからなる両面真空成形装置(商品名NGF-0709、布施真空(株)社製)内の下部ボックスに装備された上下昇降テーブル上に直径120cm、厚さ5mmの半球形状に成形されたABS製被着成形体を半球形状の凸面が上向きになるようセットした。その後、上記両面真空成形装置の上部ボックスにあるシートクランプ枠に、得られた加飾シート1の剥離シートを剥がし、加飾シートの接着層と下部ボックスにある被着成形体とが向き合うようセットした。続いて、上下ボックス内の真空度が1.0kPaになるように減圧し、近赤外線ヒータを用いて加飾シ-トの温度が130℃になるまで加熱し、被着成形体を上昇させて、被着成形体と加飾シートとを圧着、その後、上ボックスにのみ200kPaの圧縮空気を導入し、35秒間保持した。上下ボックスを大気圧に開放し、加飾シートを真空圧着させた加飾成形体を得た。その後、60℃7日間のエージングを行い、接着剤を硬化させることにより加飾シートで加飾された加飾成形体1を得た。
【0126】
[実施例19~28、比較例5、6]
(加飾成形体2~13)
加飾シートの種類を表4に示す内容に変更した以外は、加飾成形体1と同様にして、加飾成形体2~13を得た。
【0127】
<加飾成形体の評価>
得られた加飾成形体について、以下の基準に基づいて評価を行った。結果を表4に示す。
【0128】
[接着性評価]
半球形の加飾成形体の加飾層中央にJIS K5600-5-6に準じて40mm×40mmの単一のクロスカットを入れ、20℃24時間放置後と、80℃24時間放置後さらに20℃24時間放置後の、クロスカット部隙間開きを確認した。
評価点数(4以下が使用不可レベル)
10:剥がれが全くない
8:交点には剥がれがなく、Xカット部にわずかに剥がれがある
6:Xカット部の交点からいずれかの方向に、1.5mm以内の剥がれがある
4:Xカット部の交点からいずれかの方向に、1.5mmを超え3mm以内の剥がれがある
2:テープを貼ったXカット部の大部分に剥がれがある
0:Xカット部よりも大きく剥がれる
【0129】
【0130】
これらの評価結果から、耐熱性試験前後の接着性は、実施例の接着層を塗工した加飾シートを用いた場合は良好だったのに対し、比較例の接着層を塗工した加飾シートを用いた場合は良好とは言えないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の接着剤硬化物からなる加飾シートは、接着性、加工性に優れ、且つ成形後の耐熱性に優れているため、携帯電話、パソコン躯体、エアコン、テレビ、冷蔵庫、自動車内装用途の加飾のみならず、自動車外装などに要求される過酷な用途へも利用できる。
【符号の説明】
【0132】
1 基材層
2 装飾層
3 接着剤層
4 剥離シート
S 加飾シート
M 被着成形体
MS 加飾成形体