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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/04 20060101AFI20220531BHJP
   B60W 10/18 20120101ALI20220531BHJP
   B60K 26/02 20060101ALI20220531BHJP
   B60W 10/188 20120101ALI20220531BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20220531BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20220531BHJP
   B60T 7/06 20060101ALI20220531BHJP
   G05G 5/03 20080401ALI20220531BHJP
   G05G 1/30 20080401ALI20220531BHJP
【FI】
B60W10/00 120
B60K26/02
B60W10/188
B60W10/06
B60T8/17 B
B60T7/06 E
G05G5/03 A
G05G1/30 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018064583
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019172156
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-02-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089004
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】井上 政雄
(72)【発明者】
【氏名】坂田 伸幸
(72)【発明者】
【氏名】八木 淳
(72)【発明者】
【氏名】山田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山崎 陽
【審査官】佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-347936(JP,A)
【文献】特開2010-095008(JP,A)
【文献】特開2003-165456(JP,A)
【文献】特開2006-281872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
B60K 26/02
B60T 8/17
B60T 7/06
G05G 5/03
G05G 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に装備されたアクセルペダルとブレーキペダルの少なくとも1つの操作機構の反力を制御する車両用制御装置において、
乗員による前記操作機構の操作量を検出する操作量検出手段と、
車両の走行速度を検出する車速検出手段と、
前記検出された操作量と車速に基づき車両の目標加速度を演算する目標加速度演算手段と、
前記操作機構から乗員に付与する反力を制御可能な反力制御手段とを有し、
前記反力制御手段は、前記演算された目標加速度が大きい程、前記操作機構の操作量に対する前記操作機構の反力の比である剛性値が高くなるように前記反力を制御することを特徴とする車両用制御装置。
【請求項2】
前記反力制御手段が、前記目標加速度と剛性値からなる剛性特性を規定した剛性特性マップを備え、
前記剛性特性は、乗員が知覚可能な目標加速度近傍位置に第1変化点を有し、前記第1変化点よりも目標加速度が大きいときの剛性増加率が第1変化点よりも目標加速度が小さいときの剛性増加率よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記剛性特性は、前記第1変化点よりも目標加速度が大きい第2変化点を有し、前記第2変化点よりも目標加速度が大きいときの剛性増加率が第2変化点よりも目標加速度が小さいときの剛性増加率よりも小さくなるように設定されていることを特徴とする請求項2に記載の車両用制御装置。
【請求項4】
車両の変速段を検出する変速段検出手段を有し、
前記第1変化点が前記検出された変速段により変更されることを特徴とする請求項2又は3に記載の車両用制御装置。
【請求項5】
前記反力制御手段は、前記操作機構の操作量に応じた反力を発生可能な電動モータを有することを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装備されたアクセルペダルとブレーキペダルの少なくとも1つの操作機構の反力を制御する車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、乗員によって操作される操作機構と、乗員に付与する反力を操作機構に発生させる反力生成機構と、乗員による操作機構の操作量に応じて車両が所定の応答量動作するように駆動する駆動手段とを備えたバイワイヤ機構を搭載した車両が知られている。
このようなバイワイヤ機構を採用した車両では、操作機構と駆動手段を機械的要素による連結から電気信号による連結に置き換えることにより、乗員による操作機構の操作と乗員に対する反力と車両の応答とを機械的に分離された独立要素として夫々制御している。
【0003】
バイワイヤ機構のうちアクセルバイワイヤ技術は、乗員により操作されたアクセルペダルのストロークをパラメータとして、アクセルペダルを介した乗員への操作反力(踏力)と車両の挙動(加速度)を夫々制御している。
一般に、乗員に付与されるアクセルペダルの操作反力は、アクセルペダルの操作フィーリング向上のために、アクセルペダルの踏込速度に比例した特性に設定されている。
【0004】
特許文献1のペダル装置及びそれを備えた自動車は、ペダル位置或いはペダル速度を検出するペダル位置検出手段と、検出されたペダル位置に応じて大きくなる剛性反力とペダル速度に応じて大きくなる粘性反力とからなるペダル反力を演算する演算手段と、この演算手段の出力に基づいて動作するアクチュエータとを備え、演算手段は、ペダル速度が所定値を超えたときのペダル反力が所定値を超えないときの予め設定されているペダル反力よりも小さくなるように制御している。
これにより、ペダルの操作速度が速いとき、小さい力でペダルを素早く操作することができ、ペダルの操作性を高くしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-281803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
乗員が車両の運転(操作機構の操作)することによって満足感や充実感を得るためには、乗員が意のままの操作を達成できることが必要不可欠である。
そして、意のままの操作の達成とは、操作機構の操作に伴う手応えに基づいて直感的な操作ができることであり、換言すれば、この手応えに基づく直感的な操作により乗員が所望する走行制御が実行可能であることと定義付けすることができる。
特許文献1の技術は、乗員によるアクセルペダルの操作速度が速い(乗員による仕事量が多い)とき、アクセルペダルを容易に且つ素早く操作することができる。
しかし、意のままの操作の達成という観点からすれば、車両が高加速である程ペダル反力が低下するような操作感覚は、車両の加速度傾向と乗員の負荷傾向とが反対の関係になり、乗員がアクセルペダルを介して実際に認識する操作感覚と実際の車両挙動とが一致せずに違和感を覚える虞がある。
【0007】
また、アクセルペダルの操作反力がアクセルペダルの踏込位置や踏込速度に比例するような操作感覚の場合には、アクセルペダルの操作フィーリングが向上する。
しかし、高車速における定速走行時には操作反力が高くなる一方、これとは反対に低車速における加速走行時には操作反力が低くなることから、依然として、操作機構を介した乗員の体感と実際の車両挙動が一致していない。
即ち、乗員の直感的な操作感覚による走行制御を可能にするためには、更なる改善の余地が残されている。
【0008】
本発明の目的は、乗員の直感的な操作感覚による走行制御を可能にすることができる車両用制御装置等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の車両用制御装置は、車両に装備されたアクセルペダルとブレーキペダルの少なくとも1つの操作機構の反力を制御する車両用制御装置において、乗員による前記操作機構の操作量を検出する操作量検出手段と、車両の走行速度を検出する車速検出手段と、前記検出された操作量と車速に基づき車両の目標加速度を演算する目標加速度演算手段と、前記操作機構から乗員に付与する反力を制御可能な反力制御手段とを有し、前記反力制御手段は、前記演算された目標加速度が大きい程、前記操作機構の操作量に対する前記操作機構の反力の比である剛性値が高くなるように前記反力を制御することを特徴としている。
【0010】
この車両用制御装置では、乗員による前記操作機構の操作量を検出する操作量検出手段と、車両の走行速度を検出する車速検出手段と、前記検出された操作量と車速に基づき車両の目標加速度を演算する目標加速度演算手段とを有するため、乗員によるアクセルペダルとブレーキペダルの少なくとも1つの操作機構の操作量に起因した車両挙動である目標加速度を演算することができる。
前記操作機構から乗員に付与する反力を制御可能な反力制御手段を有するため、乗員に対して操作機構の操作感を知覚させることができる。
前記反力制御手段は、前記演算された目標加速度が大きい程、前記操作機構の操作量に対する前記操作機構の反力の比である剛性値が高くなるように前記反力を制御するため、操作機構の操作感と車両の目標加速度とを直接的に関連付けすることができ、操作機構を介した乗員の体感(負荷傾向)と実際の車両挙動(動作加速傾向)とを一致させることができる。
これにより、乗員の直感的な操作感覚による車両の走行制御を可能にしている。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記反力制御手段が、前記目標加速度と剛性値からなる剛性特性を規定した剛性特性マップを備え、前記剛性特性は、乗員が知覚可能な目標加速度近傍位置に第1変化点を有し、前記第1変化点よりも目標加速度が大きいときの剛性増加率が第1変化点よりも目標加速度が小さいときの剛性増加率よりも大きくなるように設定されていることを特徴としている。
この構成によれば、非加速領域(遊び領域及び定速領域)と加速領域とを乗員の操作感覚によって区分することができる。また、操作機構の戻し操作時、乗員に対して基準点を直感的に認識させることができる。
【0012】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記剛性特性は、前記第1変化点よりも目標加速度が大きい第2変化点を有し、前記第2変化点よりも目標加速度が大きいときの剛性増加率が第2変化点よりも目標加速度が小さいときの剛性増加率よりも小さくなるように設定されていることを特徴としている。
この構成によれば、加速領域と高加速領域とを乗員の操作感覚によって区分しつつ、高加速領域の操作性を確保している。
【0013】
請求項4の発明は、請求項2又は3の発明において、車両の変速段を検出する変速段検出手段を有し、前記第1変化点が前記検出された変速段により変更されることを特徴としている。
この構成によれば、変速段毎に乗員の操作感覚を異ならせることができる。
【0014】
請求項5の発明は、請求項1~3の何れか1項の発明において、前記反力制御手段は、前記操作機構の操作量に応じた反力を発生可能な電動モータを有することを特徴としている。
この構成によれば、操作機構を介した乗員の体感と実際の車両挙動とを簡単な構成で一致させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両用制御装置によれば、アクセルペダルとブレーキペダルの少なくとも1つの操作機構を介した乗員の体感と実際の車両挙動とを一致させることにより、乗員の直感的な操作感覚による走行制御を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1に係る車両用制御装置の構成を示す全体概略図である。
図2】車両用制御装置のブロック図である。
図3】ステア剛性特性マップである。
図4】ステア剛性特性の説明図である。
図5】アクセル剛性特性マップである。
図6】アクセル剛性特性の説明図である。
図7】ブレーキ剛性特性マップである。
図8】ステアリング制御処理手順を示すフローチャートである。
図9】アクセル制御処理手順を示すフローチャートである。
図10】ブレーキ制御処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
以下の説明は、本発明をステアバイワイヤ機構とアクセルバイワイヤ機構とブレーキバイワイヤ機構とを備えた車両の制御装置に適用したものを例示したものであり、本発明、その適用物、或いは、その用途を制限するものではない。
【実施例1】
【0018】
以下、本発明の実施例1について図1図10に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施例1の車両は、車両用制御装置1を有している。この車両用制御装置1は、ステアバイワイヤ機構Sと、アクセルバイワイヤ機構Aと、ブレーキバイワイヤ機構Bと、ECU(Electronic Control Unit)2等を主な構成要素としている。
また、この車両は、腕系操作手段としてステアリングホイール(以下、ステアリングと略す)3と、脚系操作手段としてアクセルペダル(以下、アクセルと略す)4及びブレーキペダル(以下、ブレーキと略す)5と、転舵装置6と、エンジン7と、変速機8と、ブレーキ装置9と、前後2対の車輪10等を備えている。
【0019】
変速機8は、例えば、自動変速機であり、エンジン7から出力されたエンジントルクを設定されたギヤ比で前輪差動装置(図示略)に伝達可能に構成されている。
この変速機8には、現在選択されている変速段位置を検出可能なポジションセンサ11(図2参照)が設けられている。
また、この車両には、走行速度を検出可能な車速センサ12(図2参照)が設けられている。これら、ポジションセンサ11及び車速センサ12の検出信号は、ECU2に随時出力されている。
【0020】
まず、ステアバイワイヤ機構Sについて説明する。
図1図2に示すように、ステアバイワイヤ機構Sは、ステアリング3と左右1対の前側車輪10の転舵駆動手段である転舵装置6とが機械的に分離されて構成されている。
ステアバイワイヤ機構Sは、ステアリング3と、乗員によるステアリング3の操作量(操舵角)を検出するステアリングセンサ31と、ステアリング3の操作に伴う操作力(操舵トルク)を検出するトルクセンサ32と、ステアリング3の操作量に基づきステアリング3に対して物理的な反力を付与するための電動モータ33等を備えている。
【0021】
転舵装置6は、駆動輪である左右1対の前側車輪10にリンク機構を介して夫々連結されたラック付ステアリングロッド13と、このステアリングロッド13を左右方向に駆動可能なピニオンギヤを備えたステアリングモータ14とを有している。
ステアリングモータ14によって駆動されたステアリングロッド13が左右1対の前側車輪10を転舵することにより、車両の物理的な応答量である車輪10のスリップ角を制御するように構成されている。
ステアリングモータ14、ステアリングセンサ31、トルクセンサ32、モータ33は、夫々ECU2に電気的に接続されている。
ECU2とモータ33が、ステアリング3の反力制御手段に相当している。
【0022】
次に、アクセルバイワイヤ機構Aについて説明する。
図1図2に示すように、アクセルバイワイヤ機構Aは、ペダル操作の際、踵がフロアパネルに支持されるオルガン型ペダル支持構造によって構成されたアクセル4とエンジン7のスロットルバルブ(図示略)とが機械的に分離されて構成されている。
アクセルバイワイヤ機構Aは、アクセル4と、乗員によるアクセル4の操作量(踏込ストロークに対応した回転軸回りの回転角)を検出するアクセルセンサ41と、アクセル4の操作に伴う操作力(踏力)を検出するトルクセンサ42と、アクセル4の操作量に基づきアクセル4に対して物理的な反力を付与するための電動モータ42等を備えている。
【0023】
エンジン7は、スロットルバルブを回動駆動可能なスロットル駆動モータ15を有している。スロットル駆動モータ15が、駆動されたスロットルバルブを開度調整することにより、車両の物理的な応答量である加速度を制御するように構成されている。
スロットル駆動モータ15、アクセルセンサ41、トルクセンサ42、モータ43は、夫々ECU2に電気的に接続されている。
ECU2とモータ43が、アクセル4の反力制御手段に相当している。
【0024】
次に、ブレーキバイワイヤ機構Bについて説明する。
図1図2に示すように、ブレーキバイワイヤ機構Bは、ペダル操作の際、踵がフロアパネルに支持されない吊り下げ型ペダル支持構造によって構成されたブレーキ5と車輪10を制動可能な液圧ブレーキ機構17とが機械的に分離されて構成されている。
ブレーキバイワイヤ機構Bは、ブレーキ5と、乗員によるブレーキ5の操作量(踏込ストローク)を検出するブレーキセンサ51と、ブレーキ5の操作に伴う操作力(踏力)を検出するトルクセンサ52と、ブレーキ5の操作量に基づきブレーキ5に対して物理的な反力を付与するための電動モータ53等を備えている。
【0025】
液圧ブレーキ機構17は、車輪10に一体回転可能に設けられたロータディスクと、このロータディスクに制動力を付与可能なキャリパを備えている(何れも図示略)。
ブレーキ装置9には、ポンプ駆動モータ16を駆動源とした液圧ポンプと、加圧用バルブと、リターン用バルブとを備え、液圧ポンプがキャリパに配設されたシリンダに接続されている(何れも図示略)。液圧ポンプからブレーキ液圧がシリンダに供給されたとき、ピストンがブレーキパットをロータディスクに向けて押圧することにより、車両の物理的な応答量である減速度を制御するように構成されている。
ポンプ駆動モータ16、ブレーキセンサ51、トルクセンサ52、電動モータ53は、夫々ECU2に電気的に接続されている。
ECU2とモータ53が、ブレーキ5の反力制御手段に相当している。
【0026】
次に、ECU2について説明する。
ECU2は、CPU(Central Processing Unit)と、ROMと、RAMと、イン側インタフェースと、アウト側インタフェース等によって構成されている。
ROMには、連携制御するための種々のプログラムやデータが格納され、RAMには、CPUが一連の処理を行う際に使用される処理領域が設けられている。
ECU2は、乗員が操作機構であるステアリング3とアクセル4とブレーキ5のうち少なくとも何れかを操作したとき、その操作量に応じた車両挙動(応答量)を発生させるための動作指令信号を該当するモータ14~16に送信している。
この車両挙動に関する動作指令信号の送信と同期して、ECU2は、車両挙動に応じた反力を発生させるための動作指令信号を該当するモータ33,43,53に送信している。
【0027】
図2に示すように、ECU2は、記憶部21と、ステアリング制御部22と、アクセル制御部23と、ブレーキ制御部24を有している。
【0028】
記憶部21は、車両の挙動、所謂動作加速度を制御するために、前側車輪10のスリップ角と目標横加速度との関係を規定した複数の横加速度特性マップと、アクセル4の操作量(回転角)と目標加速度との関係を車速及び変速段毎に規定した複数の加速度特性マップと、ブレーキ5の操作量(踏込ストローク)と目標減速度との関係を規定した減速度特性マップを記憶している(何れも図示略)。更に、記憶部21は、乗員に付与する反力、所謂動作負荷を制御するために、ステア剛性特性マップM1と、アクセル剛性特性マップM2と、ブレーキ剛性特性マップM3を記憶している。
【0029】
図3に示すように、ステア剛性特性マップM1は、横軸が目標横加速度(m/s)、縦軸がステア剛性(N/deg.)に設定され、目標横加速度が大きい程ステア剛性が高くなるように設定されている。ステア剛性とは、ステアリング3の反力をステアリング3の操作量(操舵角)で除算したものである。
ステア剛性特性マップM1は、非加速領域(遊び領域及び定速領域)と第1加速領域を区分する第1変化点P1sと、第1加速領域と第2加速領域を区分する第2変化点P2sが設定されている。
【0030】
図4に示すように、第1変化点P1sは、乗員が車両の加速動作を知覚可能な横加速度、例えば、0.05Gに設定され、第2変化点P2sは、所定条件の下、乗員によるステアリング3の操作が仕事量的に乗員の負担になる横加速度、例えば、0.30Gに設定されている。所定条件は、乗員がステアリング3を持ち替えない操舵状態において、ステアリング3の中立状態に対して左回転60°から右回転60°の範囲である。
それ故、この所定条件が成立したとき、ステア剛性特性マップM1が用いられる。
非加速領域の剛性増加率をKs0、第1加速領域の剛性増加率をKs1、第2加速領域の剛性増加率をKs2としたとき、次式(1)の関係が成立している。
0≦Ks2<Ks0<Ks1 …(1)
【0031】
図5に示すように、アクセル剛性特性マップM2は、横軸が目標加速度(m/s)、縦軸がアクセル剛性(N/deg.)に設定され、目標加速度が大きい程アクセル剛性が高くなるように設定されている。アクセル剛性とは、アクセル4の反力をアクセル4の操作量(回転角)で除算したものである。
アクセル剛性特性マップM2は、非加速領域(遊び領域及び定速領域)と第1加速領域を区分する第1変化点P1a(P5a,P6a)と、第1加速領域と第2加速領域を区分する第2変化点P2aが設定されている。
【0032】
図6に示すように、第1変化点P1aは、乗員が車両の加速動作を知覚可能な加速度、例えば、0.03Gに設定され、第2変化点P2aは、乗員によるアクセル4の操作が仕事量的に乗員の負担になる加速度、例えば、0.55Gに設定されている。
非加速領域の剛性増加率をKs0、第1加速領域の剛性増加率をKa1、第2加速領域の剛性増加率をKa2としたとき、次式(2)の関係が成立している。
0≦Ka2<Ka0<Ka1 …(2)
【0033】
図5に示すように、アクセル剛性特性マップM2は、現在選択されている変速段に応じて剛性特性が変更されている。
1速の剛性特性(点線)の第1変化点P3aは、2速の剛性特性(実線)の第1変化点P1aとアクセル剛性が同じ値にされているものの、第1変化点P1aよりも目標加速度が大きい。停止車両を駆動するための初期動力を確保するためである。
1速の剛性特性(点線)の第2変化点P4aは、2速の剛性特性(実線)の第2変化点P2aとアクセル剛性が同じ値にされているものの、第2変化点P2aよりも目標加速度が大きい。1速における第1加速領域の剛性増加率を、2速における第1加速領域の剛性増加率Ka1と略等しくするためである。
尚、第2加速領域の剛性増加率は両者略同じである。
【0034】
3速の剛性特性(破線)の第1変化点P5aは、2速の剛性特性(実線)の第1変化点P1aと目標加速度が同じ値にされているものの、第1変化点P1aよりもアクセル剛性が高い。6速の剛性特性(一点鎖線)の第1変化点P6aは、3速の剛性特性(破線)の第1変化点P5aと目標加速度が同じ値にされているものの、第1変化点P5aよりもアクセル剛性が高い。即ち、変速段が2速以上の剛性特性の第1変化点は、目標加速度が同じ値に設定されており、アクセル剛性が高変速段程高くなるように設定されている。
また、2速以上の剛性特性の第2変化点は、変速段に拘らず一定である。
尚、4速、5速の剛性特性は、図示を省略している。
【0035】
通常、変速は、アクセル4を踏み戻して、車両が定速状態になった時点で行われる。
本実施例では、非加速領域と第1加速領域を区分する第1変化点を設定すると共に、非加速領域の剛性増加率を第1加速領域の剛性増加率よりも小さく設定したため、乗員はアクセル4の踏み応えに基づいて直感的に定速状態を知覚することができ、変速時期を判定することができる。
【0036】
図7に示すように、ブレーキ剛性特性マップM3は、横軸が目標減速度(m/s)、縦軸がブレーキ剛性(N/mm)に設定されている。ブレーキ剛性とは、ブレーキ5の反力をブレーキ5の操作量(踏込ストローク)で除算したものである。
ブレーキ剛性特性マップM3は、非減速領域(遊び領域及び定速領域)と減速領域を区分する第1変化点P1bが設定されている。
【0037】
ここで、ブレーキ制御は、前述したアクセル制御と車両の動作方向が反対方向である。
しかし、目標減速度が大きい程車両挙動(車両の加速度傾向)が大きくなることから、減速度は負の加速度と見做すことができる。そこで、本実施例では、目標減速度を目標横加速度と同様に目標加速度の1つとして扱う。
以下、目標減速度が大きい程目標加速度が大きいものとして説明する。
【0038】
第1変化点P1bは、乗員が車両の減速動作を知覚可能な減速度に設定されている。
非減速領域の剛性増加率をKb0、減速領域の剛性増加率をKb1としたとき、次式(3)の関係が成立している。
Kb0<0<Kb1 …(3)
ブレーキ5が吊り下げ型ペダル支持構造であるため、ペダル操作前であってもブレーキ5に乗員の脚の自重が作用する。それ故、脚の自重を考慮し、適切な遊び領域及び定速領域を確保するため、剛性増加率Kb0を負の値に設定している。
【0039】
次に、ステアリング制御部22、アクセル制御部23及びブレーキ制御部24について説明する。
ステアリング制御部22は、複数の横加速度特性マップから車速に基づき所定の横加速度特性マップを選択し、ステアリング3の操舵角に基づき求められた前側車輪10のスリップ角と選択された横加速度特性マップを用いて目標横加速度を演算している。この目標横加速度に基づいて目標転舵角が演算され、ステアリングモータ14に送信する動作指令信号を作成している。
また、ステアリング制御部22は、演算された目標横加速度とステア剛性特性マップM1に基づいてステア剛性を演算し、このステア剛性に応じた動作指令信号をモータ33に送信している。
【0040】
アクセル制御部23は、複数の加速度特性マップから車速及び変速段に基づき所定の加速度特性マップを選択し、アクセル4の操作量(回転角)と選択された加速度特性マップを用いて目標加速度を演算している。この目標加速度に基づいて目標トルクが演算され、スロットル駆動モータ15に送信する動作指令信号を作成している。
また、アクセル制御部23は、演算された目標加速度とアクセル剛性特性マップM2に基づいてアクセル剛性を演算し、このアクセル剛性に応じた動作指令信号をモータ43に送信している。
【0041】
ブレーキ制御部24は、ブレーキ5の操作量(踏込ストローク)と減速度特性マップを用いて目標減速度を演算している。この目標減速度に基づいて目標ブレーキ圧が演算され、ポンプ駆動モータ16に送信する動作指令信号を作成している。
また、ブレーキ制御部24は、演算された目標減速度とブレーキ剛性特性マップM3に基づいてブレーキ剛性を演算し、このブレーキ剛性に応じた動作指令信号をモータ53に送信している。
【0042】
次に、図8のフローチャートに基づいて、ステアリング制御処理手順について説明する。尚、Si(i=1,2…)は、各処理のためのステップを示す。
まず、S1にて、ステアリング3の操舵角、横加速度特性マップ、ステア剛性特性マップM1等各種情報を読み込み、S2に移行する。
S2では、横加速度特性マップ等を用いて目標横加速度を演算し、S3及びS5に移行する。
【0043】
S3では、目標横加速度に基づいて目標転舵角が演算され、S4に移行する。
S4では、車輪10が目標転舵角になるようにステアリングモータ14を制御して、リターンする。
S2の後、S3と同期して、目標横加速度とステア剛性特性マップM1を用いて目標となるステア剛性を演算し(S5)、S6に移行する。
S6では、ステアリング3が目標横加速度に応じたステア剛性になるようにモータ33を制御して、リターンする。
【0044】
次に、図9のフローチャートに基づいて、アクセル制御処理手順について説明する。
尚、アクセル制御処理は、図8に示したステアリング制御処理と並行して実行されている。
まず、S11にて、アクセル4の回転角、加速度特性マップ、アクセル剛性特性マップM2等各種情報を読み込み、S12に移行する。
S12では、加速度特性マップ等を用いて目標加速度を演算し、S13及びS15に移行する。
【0045】
S13では、目標加速度に基づいて目標トルクが演算され、S14に移行する。
S14では、エンジン7の出力が目標トルクになるようにスロットル駆動モータ15を制御して、リターンする。
S12の後、S13と同期して、目標加速度とアクセル剛性特性マップM2を用いて目標となるアクセル剛性を演算し(S15)、S16に移行する。
S16では、アクセル4が目標加速度に応じたアクセル剛性になるようにモータ43を制御して、リターンする。
【0046】
次に、図10のフローチャートに基づいて、ブレーキ制御処理手順について説明する。
尚、ブレーキ制御処理は、図8に示したステアリング制御処理及び図9に示したアクセル制御処理と並行して実行されている。
まず、S21にて、ブレーキ5の踏込ストローク、減速度特性マップ、ブレーキ剛性特性マップM3等各種情報を読み込み、S22に移行する。
S22では、減速度特性マップ等を用いて目標減速度を演算し、S23及びS25に移行する。
【0047】
S23では、目標減速度に基づいて目標ブレーキ圧が演算され、S24に移行する。
S24では、ブレーキ装置9の出力が目標ブレーキ圧になるようにポンプ駆動モータ16を制御して、リターンする。
S22の後、S23と同期して、目標減速度とブレーキ剛性特性マップM3を用いて目標となるブレーキ剛性を演算し(S25)、S26に移行する。
S26では、ブレーキ5が目標減速度に応じたブレーキ剛性になるようにモータ53を制御して、リターンする。
【0048】
次に、本実施例の車両用制御装置1における作用、効果について説明する。
この車両用制御装置1では、乗員によるアクセル4の操作量を検出するアクセルセンサ41と、車両の走行速度を検出する車速センサ12と、検出された操作量と車速に基づき車両の目標加速度を演算するアクセル制御部23とを有するため、乗員によるアクセル4の操作量に起因した車両挙動である目標加速度を演算することができる。
アクセル4から乗員に付与する反力を制御可能なECU2及びモータ43から構成される反力制御手段を有するため、乗員に対してアクセル4の操作感を知覚させることができる。反力制御手段は、演算された目標加速度が大きい程、アクセル4の反力と操作量の比である剛性値が高くなるように反力を制御するため、アクセル4の操作感と車両の目標加速度とを直接的に関連付けすることができ、アクセル4を介した乗員の体感(負荷傾向)と実際の車両挙動(動作加速傾向)とを一致させることができる。
これにより、乗員の直感的な操作感覚による車両の走行制御を可能にしている。
【0049】
反力制御手段が、目標加速度と剛性値からなる剛性特性を規定した剛性特性マップM2を備え、剛性特性は、乗員が知覚可能な目標加速度近傍位置に第1変化点P1a(P3a,P5a,P6a)を有し、第1変化点P1aよりも目標加速度が大きいときの剛性増加率Ka1が第1変化点P1aよりも目標加速度が小さいときの剛性増加率Ka0よりも大きくなるように設定されている。これにより、非加速領域と第1加速領域とを乗員の操作感覚によって区分することができる。また、アクセル4の戻し操作時、乗員に対して基準点を直感的に認識させることができる。
【0050】
剛性特性は、第1変化点P1a(P4a)よりも目標加速度が大きい第2変化点P2aを有し、第2変化点P2aよりも目標加速度が大きいときの剛性増加率Ka2が第2変化点P2aよりも目標加速度が小さいときの剛性増加率Ka1よりも小さくなるように設定されている。これにより、第1加速領域とこれよりも加速が大きい第2加速領域とを乗員の操作感覚によって区分しつつ、第2加速領域の操作性を確保している。
【0051】
車両の変速段を検出するポジションセンサ11を有し、第1変化点P1aが検出された変速段により変更されるため、変速段毎に乗員の操作感覚を異ならせることができる。
【0052】
反力制御手段は、アクセル4の操作量に相当する回転角に応じた反力を発生可能な電動モータ43を有するため、アクセル4を介した乗員の体感と実際の車両挙動とを簡単な構成で一致させることができる。
【0053】
次に、前記実施形態を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施形態においては、アクセル4の操作機構に適用した例を説明したが、アクセル4に加え、又はアクセル4に代えてブレーキ5に適用しても良い。
この場合、ブレーキ5を吊り下げ型ペダル支持構造からオルガン型ペダル支持構造のブレーキに変更し、第1変化点及び第1変化点よりも減速度が大きい第2変化点を設定する。
そして、非減速領域の剛性増加率をKc0、第1減速制御領域の剛性増加率をKc1、第2減速制御領域の剛性増加率をKc2としたとき、ブレーキ剛性特性を次式の関係が成立するように設定する。
0≦Kc2<Kc0<Kc1
尚、ブレーキ5に適用する場合において、実施例1と同様に、第2変化点を省略しても良く、変速段に応じて第1変化点を変更しても良い。
また、前述した操作機構に加え、シフトレバー等に適用可能である。
【0054】
2〕前記実施形態においては、アクセル4から乗員に付与する反力をモータ43のみによって発生させた例を説明したが、付勢機構とモータ43を併用しても良い。
具体的には、予めばね定数を調整した小径の長尺ばねを大径の短尺ばねに挿通させてアクセル4とフロアパネルとの間に配設する。これにより、非加速領域に相当するアクセル開度が0~3.6deg.の期間において長尺ばねによってKa0の剛性増加率を生成し、第1加速領域に相当するアクセル開度が3.6~4.38deg.の期間において長尺ばねと短尺ばねの併用によってKa1の剛性増加率を生成し、第2加速領域においてモータ43によってKa2の剛性増加率を生成する。
【0055】
3〕前記実施形態においては、アクセル4の操作量をアクセル4の回転軸回りの回転角とした例を説明したが、スロットルバルブの回動角度をパラメータとしてアクセル4の操作量を検出しても良い。
【0056】
4〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施形態に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【符号の説明】
【0057】
1 制御装置
2 ECU
4 アクセル
5 ブレーキ
11 ポジションセンサ
12 車速センサ
23 アクセル制御部
24 ブレーキ制御部
41 アクセルセンサ
43 モータ
51 ブレーキセンサ
53 モータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10