(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】電動式船外機
(51)【国際特許分類】
B63H 20/00 20060101AFI20220531BHJP
B63H 20/02 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
B63H20/00 610
B63H20/02 100
(21)【出願番号】P 2018090193
(22)【出願日】2018-05-08
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金原 匡利
(72)【発明者】
【氏名】楠 未来
【審査官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03865335(US,A)
【文献】米国特許第07163427(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0210455(US,A1)
【文献】特開2011-213217(JP,A)
【文献】米国特許第03954082(US,A)
【文献】特開平10-016888(JP,A)
【文献】実開昭61-205900(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第108583837(CN,A)
【文献】実開昭61-179200(JP,U)
【文献】特開2003-137186(JP,A)
【文献】特開平08-002494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 20/00
B63H 20/02
B63H 20/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータ
と、プロペラシャフト
とが、上下に配置されて収容されたモータケースと、
前記モータケースを操作ハンドルに連結するシャフトと、
前記シャフトを船体に固定する固定部材と、
前記シャフトに設けられて前記モータケースと前記固定部材との距離を調整するシャフトアジャスタと、
前記モータケースの外表面に水平に設けられるキャビテーションプレートと、を備え
、
前記電動モータは、前記キャビテーションプレートよりも高い位置に配置されることを特徴とする電動式船外機。
【請求項2】
前記モータケースは、前記船体側から見た場合にT字形状に構成されることを特徴とする請求項
1に記載の電動式船外機。
【請求項3】
格納時において、
前記固定部材及び前記モータケースが地面に接触し、
前記操作ハンドルが前記地面に触れない位置まで移動された姿勢とすることを特徴とする請求項1
または請求項
2に記載の電動式船外機。
【請求項4】
前記モータケースは、取り付け状態で前記船体の進行方向に対して垂直な合わせ面を有する少なくとも2つの部材から構成されることを特徴とする請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の電動式船外機。
【請求項5】
前記電動モータは、前記プロペラシャフトに接続されるプロペラとは反対側の前記部材内に配置されることを特徴とする請求項
4に記載の電動式船外機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電動式の船外機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船を推進する船外機のプロペラは、内燃式機関をその駆動源にしてきた。
近年では、水質汚染対策及び騒音対策など環境対策の観点から、小型の船を中心に、内燃式機関に代えて電動モータを駆動源にする電動式船外機も採用されている。従来の電動式船外機は、駆動源となる推進用モータが電動式船外機の頭頂部に取り付けられたものが大半である。
ところで、電動式船外機においても、内燃式船外機と同様に、船に対する船外機の取り付け高さは、船の仕様に合わせて調整する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-137186号公報
【文献】特開平8-2494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の電動式船外機では、推進用モータが、発熱により、駆動時間の経過に伴いその出力が低下するという課題があった。
また、従来の電動式船外機では、船に対する取り付け高さの調整、いわゆるトランサム高さの調整に手間がかかるという課題もあった。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、船体に対する船外機の取り付け高さの調整が容易で、かつ、推進用モータの冷却性能に優れ、環境にやさしい電動式船外機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態に係る電動式船外機は、電動モータと、プロペラシャフトとが、上下に配置されて収容されたモータケースと、前記モータケースを操作ハンドルに連結するシャフトと、前記シャフトを船体に固定する固定部材と、前記シャフトに設けられて前記モータケースと前記固定部材との距離を調整するシャフトアジャスタと、前記モータケースの外表面に水平に設けられるキャビテーションプレートと、を備え、前記電動モータは、前記キャビテーションプレートよりも高い位置に配置されるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、船に対する船外機の取り付け高さの調整が容易で、かつ、推進用モータの冷却性能に優れ、環境にやさしい電動式船外機が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】実施形態に係る電動式船外機の概略側面断面図。
【
図3】
図1のI-I線に沿ったモータケースの縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
なお、以下の実施形態において、鉛直・水平及び上下の表現は、電動式船外機が船体に取り付けられた状態を基準にしたものである。また、「進行方向」とは、船の進行方向を指す。さらに、「前」の表現は、正運転時の船の進む向き、「後」の表現は、正運転時の船の進む向きとは逆向きを示す。
なお、各図では、簡単のため、一部の構成を適宜省略する。
【0010】
まず、
図1を用いて、実施形態に係る電動式船外機10(以下、単に「船外機10」という)を概説する。
図1は、実施形態に係る船外機10の概略側面図である。
【0011】
船外機10は、一般に、船体の後端部において、船外に突出するように設けられる。船外機10は、その下端部付近に取り付けられたプロペラ12を水中で回転させることで、船を推進する。
【0012】
実施形態に係る船外機10においては、
図1に示されるように、モータケース21と操作ハンドル18とがシャフト17で接続されて、船外機10の主要部分を構成する。操作ハンドル18を水平方向に旋回操作すると、モータケース21に設けられたプロペラ12が、モータケース21ごと連動して旋回されて、船の進路が変更される。また、船体後端部のトランサム13にシャフト17がクランプ機構(固定部材)14を介して取り付けられることで、船外機10が船体に設置される。
【0013】
次に、船外機10のより詳細な構成を、
図1に加えて
図2を用いて説明する。
図2は、実施形態に係る船外機10の概略側面断面図である。
モータケース21の後側の外面には、キャビテーションプレート22が水平に設けられる。キャビテーションプレート22の下方には、プロペラ12が配置される。キャビテーションプレート22は、プロペラ12の回転によるキャビテーションの発生を抑制して、エネルギーを無駄なく推進力に変換する。
【0014】
通常、船体が水面を滑走するプレーニング走行時には、水面の位置は、このキャビテーションプレート22の位置になる。つまり、モータケース21は、プレーニング走行時には、キャビテーションプレート22より上側がほぼ水面上に維持され、キャビテーションプレート22より下側がほぼ水面下に維持される。
【0015】
モータケース21の内部では、このキャビテーションプレート22よりも高い位置、すなわち操作ハンドル18側に推進用モータ19がモータケース21に面接触して取り付けられる。推進用モータ19で発生した熱Qは、主にモータケース21との接触面から金属製のモータケース21に伝導し、モータケース21の壁中を熱伝導によって伝播する。
【0016】
モータケース21は、キャビテーションプレート22よりも下部の水中に浸漬されている箇所で水冷される。また、モータケース21のうち、キャビテーションプレート22よりも上部では、大気中に露出し、主に走行風によって空冷される。
【0017】
モータケース21は、例えば、前後方向に2分割されたリヤケースメンバ21a及びフロントケースメンバ21bで構成される。これらリヤケースメンバ21a及びフロントケースメンバ21bの合わせ面35は、進行方向に垂直な方向と一致する。この合わせ面35に、Oリングやガスケットなどのシール部材39が付与されてボルト等の締結具で締結されることで、モータケース21内部の水密性が確保される。
【0018】
推進用モータ19は、その出力軸24が進行方向前方を向くように横置きにされる。推進用モータ19の出力軸24は、モータ本体の巻線部26よりも前側であっても後側であってもよい。つまり、推進用モータ19が、
図2の図示とは異なり、船体側のフロントケースメンバ21bに収容されて、巻線部26が、その出力軸24より船体側になるように配置されてもよい。
【0019】
推進用モータ19の下部空間には、プロペラシャフト20が、この推進用モータ19の出力軸24と平行に配置される。プロペラシャフト20は、ベアリング25を介し回転可能にモータケース21に支持され、ブッシュ等で水密性を維持されながら、モータケース21の後方に突出している。プロペラシャフト20の後端部には、プロペラ12が軸支される。
【0020】
推進用モータ19の出力軸24にはドライブプーリ27、プロペラシャフト20にはドリブンプーリ29が設けられる。これらドライブプーリ27とドリブンプーリ29との間には、歯付ベルト28が巻装される。そして、推進用モータ19のモータ出力が、出力軸24からドライブプーリ27、歯付ベルト28、ドリブンプーリ29、及びプロペラシャフト20に伝達され、プロペラ12を回転させる。
なお、推進用モータ19とプロペラシャフト20間は、歯付ベルト28の代わりにスプロケットを用いたチェン駆動としてもよい。
【0021】
ここで、
図3は、
図1のI-I線に沿ったモータケース21の縦断面図である。
推進用モータ19及びプロペラシャフト20は、
図3に示されるように、モータケース21内で鉛直方向に沿って並置される。
【0022】
推進用モータ19の直径は、ドライブプーリ27及びドリブンプーリ29の直径よりも大きい。よって、船体側から見た場合、モータケース21の断面形状は、キャビテーションプレート22を境界とした略T字形状になる。つまり、モータケース21のうち水上に位置する推進用モータ19の収容部分が、その下部の水没部分よりも幅広な形状に構成される。
【0023】
図1及び
図2に戻って、船外機10の構成の説明を続ける。
モータケース21の頭頂部には、シャフト17が固定される。
シャフト17は、例えば内部に中空空間11を有する同一径を維持したパイプである。操作ハンドル18に設けられた電源スイッチ31と推進用モータ19とを接続する電源ケーブル(図示せず)は、例えば、この中空空間11に通される。このシャフト17は、シャフトアジャスタ16を介して、クランプ機構14に取り付けられる。
【0024】
シャフトアジャスタ16は、例えば筒状ホルダ33及びロック機構34で構成される。筒状ホルダ33は、シャフト17の外径と同程度の内径を有する円筒の一部で構成される。そして、この筒状ホルダ33にシャフト17が摺動可能に保持される。
【0025】
シャフト17は、筒状ホルダ33に設けられたロック機構34で固定される。ロック機構34は、例えば、シャフト17に設けられた複数の留孔に嵌まる止めピンを備える。このピンが、留孔のいずれかに嵌り込むことで、筒状ホルダ33に対するシャフト17の相対位置が固定される。
【0026】
また、筒状ホルダ33は、クランプ機構14のスイベルブラケット36に、水平方向に回転自在に支持される。スイベルブラケット36は、スイベル軸37を介してクランプブラケット38に回転自在に支持される。クランプブラケット38は、トランサム13を把持する。
【0027】
このようなクランプ機構14との接続構造により、シャフト17は、旋回可能になる。また、船外機10は、トランサム13に対してトリム、チルト動作が可能になる。
【0028】
また、シャフト17の頭頂部には、シャフト17を特定の角度内で水平回転させて船を操舵する操作ハンドル18が接続される。これら操作ハンドル18とシャフト17との接続部には、シャフト17に対する操作ハンドル18の接続角度を変更するためのリンク機構32が設けられている。
【0029】
ここで、船外機10を船体から取り外して倉庫等に収容する収納時の船外機10の姿勢について、
図2及び
図4を用いて説明する。
図4は、実施形態に係る船外機10の概略正面図である。
船外機10は、収納時には、クランプブラケット38に設けられた固定レバー40が取り外されて、プロペラ12と反対側の面が接地されるように横置きにされる。
【0030】
このとき、操作ハンドル18は、
図2に示されるように、リンク機構32を中心に地面から離れる方向に折り曲げられる。この結果、収納時には、
図4に示されるように、左右のクランプブラケット38及びモータケース21が、支持面41で地面に3点接触して船外機10を支持する。
【0031】
以上のように構成されたことから、本実施形態によれば、次の効果(1)~(9)を奏する。
【0032】
(1)推進用モータ19を、プロペラシャフト20付近に配置して一部が水中に浸漬されるモータケース21内に収容する構成にした。
この構成によって、自らの発熱によって温度上昇する推進用モータ19が、モータケース21を介した水冷により効率的に冷却される。
また、推進用モータ19の巻線部26を船体側のフロントケースメンバ21b側に収容する場合、さらに走行風、風又は飛沫によっても冷却され、推進用モータ19の冷却効率をより向上させることができる。
また、キャビテーションプレート22が冷却フィンとしても機能するため、モータケース21自体も放熱効率が向上されており、冷却効率が高い構造になっている。
【0033】
(2)推進用モータ19からプロペラシャフト20に動力を伝える歯付ベルト28又はチェンの全長の半分以上がモータケース21内の水面下部分に配置されている。よって、モータケース21内の雰囲気も水冷により冷却されやすく、熱劣化による寿命低下が防止される。
【0034】
(3)推進用モータ19とプロペラシャフト20とが、シャフトアジャスタ16に対して同じ側に配置されている。このため、推進用モータ19及びプロペラシャフト20の重量を、ほぼ上方においてシャフト17が支え、シャフト17に対して曲げモーメントが発生しにくい構造となる。よって、操作ハンドル18とモータケース21との接続構造をシャフト17に簡素化することができる。従って、シャフト17上を筒状ホルダ33がスライドする簡素な方法で、モータケース21とクランプ機構14との距離を調整することができる。すなわち、トランサム高さを容易に調整することができる。
【0035】
(4)リヤケースメンバ21aとフロントケースメンバ21bとの合わせ面35を、進行方向に対して垂直にした。よって、断熱性の高いシール部材39で推進用モータ19で発生した熱Qが遮断されることなくモータケース21の下部に伝熱することができる。
例えば、対照的に、合わせ面を水平方向に沿って設けた場合、合わせ面での断熱により熱遮断され、熱Qがモータケース21の下部に到達することが阻害される。
【0036】
(5)キャビテーションプレート22の位置を推進用モータ19の位置よりも低くした。よって、プレーニング走行時には、モータケース21の推進用モータ19の収容部分は、水面より上に維持されて、水抵抗ではなく、空気抵抗を受けることになる。推進用モータ19の収容部分は、進行方向に垂直な方向に大きな表面積を有するため、水抵抗と比較して小さい空気抵抗を受けさせることで、全体の走行抵抗を低減させることができる。すなわち、推進用モータ19の収容部分を水面より上にすることで、少ないエネルギーで走行することができる。
また、推進用モータ19の収容部分は、水抵抗と比較して小さい空気抵抗を受けるのみである。従って、推進用モータ19の大出力化に伴いモータ径が大型化した場合も、この大型化による走行抵抗全体への影響を小さくなる。
【0037】
(6)船外機10は、内燃機関に代えて電動モータを駆動源として使用するため、排気ガスを発生させず環境へ及ぼす影響が少ない。
【0038】
(7)推進用モータ19とプロペラシャフト20とを同一のモータケース21に収容し、かつ、軸を平行にして並置した。よって、推進用モータ19からプロペラシャフト20への動力伝達手段に、歯付ベルト28又はチェンを用いることができる。従って、歯付ベルト28又はチェンは、従来の傘歯車又は遊星ギアと比較して騒音が小さいことに加えて、動力を効率的に伝達することができる。
また、推進用モータ19又は歯付ベルト28等の駆動機構を操舵者から離れた場所に配置することでも、体感する騒音を低減させることができる。
【0039】
(8)格納時の姿勢は、左右のクランプ機構14及びモータケース21を地面に3点で接触させる姿勢とした。よって、クランプ機構14とモータケース21との距離が調整可能であり、格納時の姿勢に自由度があるため、安定性が確保しやすい姿勢を選択することができる。
【0040】
(9)収納時に地面と接触する3点を結ぶ範囲内に推進用モータ19を配置した。よって、推進用モータ19が大出力化して重量が増加した場合にも、この範囲外に推進用モータ19を配置したときのように重心位置が高くなることを防止することができる。つまり、推進用モータ19が重量化しても、収納時における船外機10の姿勢の安定性を確保することができる。
また、収納時、重量の集中部分であるモータケース21が地面に接触するため、格納時の姿勢が安定する。
【0041】
以上のように、実施形態に係る船外機10によれば、船体に対する船外機10の取り付け高さの調整が容易で、かつ、推進用モータ19の冷却性能に優れ、環境を配慮することができる。
【0042】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
例えば、モータケースの分割数は、3つ以上であってもよい。
また、ベルト又はチェンの代わりに、一般的なギア列、つまり歯車列で推進用モータからプロペラシャフトに動力を伝達させても、動力伝達方法としては問題はない。
さらに、モータケース内に推進用モータを制御するECU(Electronic Control Unit)を設けてもよい。
【符号の説明】
【0043】
10…電動式船外機(船外機)、11…中空空間、12…プロペラ、13…トランサム、14…クランプ機構(固定部材)、16…シャフトアジャスタ、17…シャフト、18…操作ハンドル、19…推進用モータ、20…プロペラシャフト、21(21a,21b)…モータケース、21a…リヤケースメンバ、21b…フロントケースメンバ、22…キャビテーションプレート、24…出力軸、25…ベアリング、26…巻線部、27…ドライブプーリ、28…歯付ベルト、29…ドリブンプーリ、31…電源スイッチ、32…リンク機構、33…筒状ホルダ、34…ロック機構、35…合わせ面、36…スイベルブラケット、37…スイベル軸、38…クランプブラケット、39…シール部材(ガスケット)、40…固定レバー、41…支持面、Q…熱。