(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】電動ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 15/06 20060101AFI20220531BHJP
F04C 15/00 20060101ALI20220531BHJP
F04C 2/10 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
F04C15/06 A
F04C15/00 E
F04C15/00 A
F04C2/10 341Z
(21)【出願番号】P 2018096552
(22)【出願日】2018-05-18
【審査請求日】2021-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】藤川 透
【審査官】大屋 静男
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-170685(JP,A)
【文献】特開2012-021464(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0126089(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0082117(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/10、14/28
F04C 15/00、15/06
F04D 13/06
H02K 5/128
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータハウジングと、前記モータハウジングに隣接するポンプハウジングと、
前記モータハウジングに収容され、回転軸によって軸支されるロータと、
前記ロータの径方向外側に配置され、前記モータハウジングに固定されるステータと、
前記ポンプハウジングに収容され、前記ロータの回転によって流体を吸入及び吐出するポンプ部と、
前記ロータと前記ステータとの間に設けられ、前記ポンプ部の流体が前記ステータに流入することを防止するカップ状のキャンと、を備え、
前記キャン
は、開口側の端部に、前記モータハウジングと前記ポンプハウジングとの間を径方向外側に向かって延出するフランジを有し、
前記モータハウジングと前記フランジとの間に弾性変形可能なシール部材が配置され
、
前記キャンの前記フランジは、前記モータハウジングと間に間隙を有する状態で前記シール部材に当接するように構成され、
前記キャンの内部の流体圧が上昇すると、前記シール部材が弾性変形して前記間隙が狭くなることにより、前記フランジと前記ポンプハウジング
の端面との間であって、前記シール部材よりも前記キャンの開口側に、前記キャンの
前記内
部と前記キャンの外
部とを連通させる連通路が形成され
、前記キャンの前記内部に流入した流体が前記連通路を介して前記外部に排出可能に構成されている電動ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
電動ポンプは、例えば、車両に搭載されるトランスミッション等の油圧装置に作動油を供給するために用いられる。こうした電動ポンプでは、モータ部の冷却効率を高めるために、電動ポンプから吐出される作動油の一部をモータ部のロータに流通させる場合がある。ただし、モータ部のステータに作動油が流入するとモータ部の動作に支障をきたすことになる。このため、作動油がステータに流入するのを防止するために、モータ部にはステータと回転軸に支持されたロータとの間にキャンが配置されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動ポンプは、ステータとロータとの間の距離が小さいほどモータ効率を高めることができる。このため、ステータとロータとの間に配置されるキャンは可能な限り肉厚が薄い方が望ましい。キャンは、ロータに流入した作動油がステータに向けて流出しないようにその内部はポンプ部以外の外部とは遮断される密閉空間として構成されている。このため、ポンプ部からキャンの内部に作動油が流入することでキャンの内部において油圧が上昇する。キャンが薄い肉厚で構成されている場合には、キャンは内部の油圧上昇の影響を受けて変形する虞があり、変形量が増大することでキャンが破損する虞もある。そうなると、電動ポンプにおいてモータ部の機能が大きく損なわれる。
【0005】
上記実情に鑑み、キャンの変形を容易に抑制することができる電動ポンプが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電動ポンプの特徴構成は、モータハウジングと、前記モータハウジングに隣接するポンプハウジングと、前記モータハウジングに収容され、回転軸によって軸支されるロータと、前記ロータの径方向外側に配置され、前記モータハウジングに固定されるステータと、前記ポンプハウジングに収容され、前記ロータの回転によって流体を吸入及び吐出するポンプ部と、前記ロータと前記ステータとの間に設けられ、前記ポンプ部の流体が前記ステータに流入することを防止するカップ状のキャンと、を備え、前記キャンは、開口側の端部に、前記モータハウジングと前記ポンプハウジングとの間を径方向外側に向かって延出するフランジを有し、前記モータハウジングと前記フランジとの間に弾性変形可能なシール部材が配置され、前記キャンの前記フランジは、前記モータハウジングと間に間隙を有する状態で前記シール部材に当接するように構成され、前記キャンの内部の流体圧が上昇すると、前記シール部材が弾性変形して前記間隙が狭くなることにより、前記フランジと前記ポンプハウジングの端面との間であって、前記シール部材よりも前記キャンの開口側に、前記キャンの前記内部と前記キャンの外部とを連通させる連通路が形成され、前記キャンの前記内部に流入した流体が前記連通路を介して前記外部に排出可能に構成されている点にある。
【0007】
本構成によると、ポンプ部の流体は、キャンと、キャンとモータハウジングとの間に配置されたシール部材とによって、ポンプ部の流体がモータ部のロータに流入した場合でも、ステータに流入することが防止される。ここで、モータ部では、キャンの内部(ロータ)に流体が流入した場合、キャンの内部は流体量が増すことで流体圧が高くなることがある。そこで、本構成では、キャンの開口側にキャンの内部側とキャンの外部側とを連通させる連通路が形成されている。この連通路によって、キャンの内部に流入した流体をキャンの外部に容易に流出させることができる。これにより、キャンの内部は流体が流入しても流体圧の上昇が抑制されるため、キャンの肉厚が薄い場合であっても、キャンの変形を効果的に抑制することができる。その結果、電動ポンプは、キャンの肉厚を薄くしてモータ効率を高めることができる。
【0008】
【0009】
また、本構成によれば、キャンのフランジは、シール部材に当接し、モータハウジングとは離間している。ここで、キャンの内部が流体量の増加によって流体圧が上昇すると、流体圧がキャンのフランジに作用してフランジがシール部材を押圧する。このとき、シール部材が弾性変形することで、フランジはモータハウジングに近接する。すなわち、フランジとモータハウジングとの間隙が狭くなり、フランジとポンプハウジングの端面との間にはキャンの内部とキャンの外部とを連通させる連通路が形成される。これにより、キャンの内部に流体が流入しても連通路から流体が排出可能になるため、キャンの内部において流体圧の上昇が抑制される。その結果、キャンが肉厚の薄い形状である場合でも、キャンの変形を効果的に抑制することができる。
また、キャンは、フランジがポンプハウジングの端面に当接した状態で配置されることで、キャンの内部を密閉空間として構成することができる。このように構成することで、キャンの外部からの内部への異物の混入を防止することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図5】別実施形態の電動ポンプの要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
図1に示すように、電動ポンプ1は、ポンプ部10とモータ部30とドライバ部50から構成されている。電動ポンプ1は、例えば車両のトランスミッション等に作動油を供給するオイルポンプとして用いられる。尚、電動ポンプ1は作動油以外の流体の供給に使用しても良い。
【0013】
ポンプ部10は、一端面に円形の収納凹部18が形成されたポンプハウジング12と、ポンプハウジング12の収納凹部18が形成された端面を覆うポンプカバー11より構成されている。ポンプハウジング12とポンプカバー11とは共にアルミ合金製である。ポンプハウジング12には収納凹部18の中心から偏心した軸受孔19が形成されている。軸受孔19には回転軸15が挿入され、軸受孔19によって回転軸15が回転自在に支持されている。
【0014】
収納凹部18内に設けられたポンプ14は、外歯を成すインナロータ22と、これと噛合する内歯を成すアウタロータ23から構成されている。アウタロータ23は外周面が収納凹部18に支持され、回転自在になっている。インナロータ22は回転軸15と同軸芯となるように回転軸15の一方の端部に圧入固着されている。回転軸15のインナロータ22が固着された側と反対側の端部は、ポンプハウジング12からモータ部30に向けて突出している。
【0015】
互いに噛合するインナロータ22、アウタロータ23の歯部の間には、回転に伴い容積が増減するポンプ室24が形成されている。ポンプカバー11には、ポンプ室24の作動油が吐出される吐出路25及び作動油が吸入される吸入路26が貫通形成されている。
【0016】
モータ部30は、モータハウジング32に、環状のステータ33と、ステータ33の内周面から所定の隙間をおいてその径方向内側に位置する円筒状のロータ34とを収容して構成されている。ロータ34は回転軸15に軸支されている。モータハウジング32はポンプハウジング12に隣接して設けられる。ステータ33及びロータ34は、いずれも回転軸15の軸芯と同軸である。ロータ34は、電磁鋼板の薄板を積層して形成されるロータコア35と、ロータコア35を貫通する複数のスロットに収容される永久磁石36とを備えている。ロータ34は、モータハウジング32に固定されたステータ33と対向するように、ステータ33の径方向内側に配設される。
【0017】
ステータ33は、電磁鋼板を積層したステータコア39と絶縁体からなるコイル支持枠41に巻回されたコイル40から構成されている。ステータ33の内周側には、ロータ34との間に円筒空間37が形成されている。
【0018】
モータ部30に対して、ポンプ部10とは反対の側にドライバ部50が設けられている。ドライバ部50は、モータハウジング32とカバー部51とを組み合わせることで形成されるドライバ収容部52に、電子部品が実装されたプリント基板53が配置されて構成される。ドライバ部50はステータ33のコイル40に通電して交番磁界を発生させ、ロータ34を回転させる。ロータ34の回転により回転軸15を介してインナロータ22が回転し、それに伴いアウタロータ23が連れ回りする。これにより、吸入路26を流通する作動油はポンプ室24に吸入され、吐出路25から吐出される。
【0019】
ロータ34は円筒空間37には、
図4に示される、カップ状のキャン60が配置されている。キャン60は、非磁性体(例えば、ステンレス)等の板材によって構成され、有底筒状に形成されている。キャン60は、円筒空間37の内径とほぼ同じ外周径を有し、その側面はステータ33とロータ34との間に設けられる。すなわち、キャン60の内部にロータ34が収容されている。キャン60は、ポンプ部10の側に開口61を有し、開口61の側にフランジ62を備える。フランジ62はモータハウジング32とポンプハウジング12との間を径方向外側に向かって延出している。フランジ62と、モータハウジング32のポンプ部10の側の端面42との間にシール部材65が配置されている。シール部材65は、例えば弾性変形可能なOリングで構成されており、端面42に形成された円形の溝部43にその一部が収容される。キャン60のフランジ62とフランジ62に対向する端面42との間には間隙73が形成されている。キャン60は、シール部材65にフランジ62が当接した状態で、フランジ62がシール部材65の弾性力によりポンプハウジング12のモータ部30の側の端面27に押し付けられて保持される(
図2参照)。
【0020】
ポンプ14が回転し作動油がポンプ室24に吸入されると、ポンプ室24内の作動油の一部は軸受孔19と回転軸15の隙間を流通し、キャン60の内部に流入する。キャン60の内部への作動油の流入量が少なく、キャン60の内部の油圧が低圧状態のときは、
図2に示すように、キャン60のフランジ62は、シール部材65によってポンプハウジング12のモータ部30の側の端面27に押し付けられる。これにより、キャン60の内部はポンプ部10以外の外部に対して密閉状態が維持される。
【0021】
一方、電動ポンプ1の作動中に、キャン60の内部に作動油が流入してキャン60の内部の油圧が上昇して高圧状態になると、
図3に示すように、フランジ62に作動油の油圧が作用して、フランジ62はシール部材65をモータハウジング32の端面42に向けて押し上げる。このとき、シール部材65は圧縮され弾性変形して、フランジ62はモータハウジング32の端面42に近接する。すなわち、フランジ62とモータハウジング32の端面42との間隙73が狭くなり、フランジ62とポンプハウジング12の端面27との間にはキャン60の内部側(ロータ34が収容された側)とキャン60の外部側とを連通させる連通間隙70(連通路の一例)が形成される。こうして、フランジ62と、ポンプハウジング12のモータ部30の側の端面27との間に連通路としての連通間隙70が形成される。これにより、キャン60の内部に作動油が流入して高圧状態になっても連通間隙70からキャン60の外部側に向けて作動油が排出されるため、キャン60の内部においてそれ以上の油圧の上昇が抑制される。その結果、キャン60が肉厚の薄い形状である場合でも、キャン60の変形を効果的に抑制することができる。
【0022】
図2、
図3に示すように、モータハウジング32とポンプハウジング12とは、モータハウジング32の厚さより厚いカラー80により端面42と端面27との間に間隙72を有した状態で、ボルト81により締結され固定されている。したがって、連通間隙70を流通してキャン60の外部に到達したキャン60の内部の作動油は、更に間隙72を流通して電動ポンプ1の外部に排出される。作動油が電動ポンプ1の外部に排出されても、電動ポンプ1が例えば油槽の中に配置される場合には、電動ポンプ1の外部に排出された作動油は油槽に排出されるため何ら問題はない。電動ポンプ1が例えば油槽の外側に取付けられる場合には、電動ポンプ1の外部に排出された作動油を、不図示の油路を介してオイルパン(不図示)や吸入路26に戻すように構成してもよい。
【0023】
図2に示す状態において、シール部材65における、フランジ62に対して垂直となる方向の長さを高さHとし、モータハウジング32の端面42とキャン60のフランジ62との間の間隙73の大きさを幅Tとした場合、シール部材65の高さHに対して、「幅T/高さH」が5~50%になるように幅Tが構成される。「幅T/高さH」が5%未満であると、間隙73が小さすぎて、間隙73が狭くなっても連通間隙70の大きさを十分に確保できないため、キャン60の内部から作動油を適正に排出することができない。一方、「幅T/高さH」が50%超であると、シール部材65が端面42の溝部43からはみ出やすくなり、シール部材65によるシール機能が損なわれるおそれがある。
【0024】
〔第2実施形態〕
図5に示すように、第2実施形態では、ポンプハウジング12の端面27に、フランジ62の延出方向に沿って溝部28が形成され、溝部28はキャン60の内部側とキャン60の外部側とを連通させる連通路71を構成している。連通路71は、モータハウジング32の端面42とポンプハウジング12の端面27との間に形成された間隙72に連通している。連通路71によりキャン60の内部の油圧に関係なく、キャン60の内部側とキャン60の外部側とが常時連通している。これにより、キャン60の内部に流入した作動油は、連通路71および間隙72を介して電動ポンプ1の外部に排出することができる。連通路71(溝部28)は、1つだけ形成されていてもいいし、複数形成されていてもよい。
【0025】
本実施形態では、キャン60の内部に流入された作動油の量が少なく油圧が低圧状態のときであっても、連通路71によって作動油をキャン60の外部に排出可能である。このため、キャン60の内部は、作動油の流入量が増加しても連通路71から作動油が排出されることで油圧の上昇が抑制されるため、低圧状態の維持が可能になる。これにより、キャン60の肉厚が第1実施形態と比較して薄い場合であっても、キャン60の変形を効果的に抑制することができる。その結果、電動ポンプ1は、キャン60の肉厚を薄くしてモータ効率を高めることができる。
【0026】
なお、本実施形態では、連通路71の存在により、キャン60の内部側と外部側とが常時連通した状態であるため、電動ポンプ1の外部から連通路71を介して異物が侵入したりエアが流入したりする可能性がある。このため、異物の侵入を防止しエアの流入をできるだけ抑制する上で、連通路71(溝28部)の深さは可能な限り浅いことが好ましい。また、電動ポンプ1の外部からの異物の侵入を防止するために、電動ポンプ1の連通路71に連続する通路の所定箇所に異物捕集用のフィルタを配置してもよい。
【0027】
〔別実施形態〕
(1)上記の第2実施形態では、連通路71を形成するためにポンプハウジング12の端面27に溝部28を形成する例を示したが、キャン60のフランジ62に溝部を形成して連通路としてもよく、端面27及びフランジ62の両方に溝部を形成して連通路71を構成してもよい。
【0028】
(2)上記の実施形態では、キャン60がフランジ62を有する形状の例を示したが、キャン60はフランジ62を有さずに構成してもよい。この場合は、キャン60の開口61の端部の少なくとも一部とポンプハウジング12の端面27との間に、キャン60の内部側とキャン60の外部側とを連通させる連通路が形成される。当該連通路は、キャン60の開口61の端部に例えば切欠きを設けて形成してもよく、ポンプハウジング12の端面27に溝部を設けて形成してもよい。また、当該連通路は、キャン60の切欠きとポンプハウジング12の端面27の溝部との両方によって形成される構成でもよい。
【0029】
(3)モータハウジング32とポンプハウジング12との間は、対向する端面42,27の一方または双方に溝部を形成することで、電動ポンプ1の外部と連通路とが連通する構成でもよい。この場合、間隙72は不要となる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、キャンを備える電動ポンプに広く利用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 :電動ポンプ
10 :ポンプ部
12 :ポンプハウジング
15 :回転軸
27 :端面
28 :溝部
30 :モータ部
32 :モータハウジング
33 :ステータ
34 :ロータ
42 :端面
43 :溝部
60 :キャン
61 :開口
62 :フランジ
65 :シール部材
70 :連通間隙(連通路)
71 :連通路
H :高さ
T :幅