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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】工作機械システム
(51)【国際特許分類】
   B24B 49/16 20060101AFI20220531BHJP
   B24B 5/42 20060101ALI20220531BHJP
   B23Q 17/09 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
B24B49/16
B24B5/42
B23Q17/09 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018113419
(22)【出願日】2018-06-14
(65)【公開番号】P2019214108
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 群司
(72)【発明者】
【氏名】四井 利彦
(72)【発明者】
【氏名】兼田 真照
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-161906(JP,A)
【文献】特開2013-129028(JP,A)
【文献】特開2007-222997(JP,A)
【文献】特開2016-087781(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0158314(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B5/00-7/30
B24B41/00-51/00
B23Q17/00-23/00
G05B19/18-19/416
G05B19/42-19/46
G05B23/00-23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物を回転可能に支持する工作物支持装置と、
前記工作物支持装置に対し、前記工作物の回転軸線方向に交差する方向へ相対移動可能に設けられる砥石台と、
前記砥石台に対して回転可能に支持され、前記工作物に対する研削加工を行う砥石車と、
前記砥石車による前記工作物の研削加工時に発生する研削負荷を検出する研削負荷検出器と、
前記砥石車による前記工作物の残り研削代を演算する研削残量演算部と、
前記研削負荷が所定の第一閾値を上回った時の前記残り研削代が所定の第二閾値に下回る場合に、前記工作物が不良であると判定する良否判定部と、
を備える、工作機械システム。
【請求項2】
前記第一閾値は、前記残り研削代とは関係なく一定であり、
前記良否判定部は、前記研削負荷が前記第一閾値を上回る期間が複数回あった場合、最後に前記第一閾値を上回った期間のうち、前記研削負荷が最大値となったときの前記残り研削代が前記第二閾値を下回った場合に、前記工作物が不良であると判定する、請求項1に記載の工作機械システム。
【請求項3】
前記第一閾値は、前記残り研削代に応じて変動する、請求項1に記載の工作機械システム。
【請求項4】
前記工作機械システムは、前記砥石台の位置を検出する砥石台位置検出器を備え、
前記研削残量演算部は、研削加工が終了したときの前記砥石台の位置を基準にして前記残り研削代を演算する、請求項1-3の何れか一項に記載の工作機械システム。
【請求項5】
前記工作機械システムは、
前記工作物の研削加工中に前記研削負荷に関するデータを、研削加工終了後の前記工作物に対して実際に行った良否検査の結果と関連づけて記憶するデータ蓄積部と、
前記データ蓄積部に蓄積された複数の前記データを解析し、前記第一閾値又は前記第二閾値を決定する閾値解析部と、
を備え、
前記良否判定部は、前記閾値解析部により決定された前記第二閾値を用いて前記工作物の良否を判定する、請求項1-4の何れか一項に記載の工作機械システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、砥石車モータの電力値が所定の閾値を上回った場合に、工作物に研削焼けが発生したと判定する異常判定装置に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-97839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、研削焼けが発生した場合、工作物Wには加工変質層が形成される。この点に関して、研削加工中に研削焼けが発生したとしても、その後の研削加工によって加工変質層が研削加工で除去された場合、研削加工後の工作物Wは、加工変質層を有しない良品となる。良品である工作物を不良品として除去することは、不良品として廃棄する工作物の増加につながるため、製造コストが嵩む要因となる。
【0005】
本発明は、研削加工後の良否判定を的確に行うことができる工作機械システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の工作機械システムは、工作物を回転可能に支持する工作物支持装置と、前記工作物支持装置に対し、前記工作物の回転軸線方向に交差する方向へ相対移動可能に設けられる砥石台と、前記砥石台に対して回転可能に支持され、前記工作物に対する研削加工を行う砥石車と、前記砥石車による前記工作物の研削加工時に発生する研削負荷を検出する研削負荷検出器と、前記砥石車による前記工作物の残り研削代を演算する研削残量演算部と、前記研削負荷が所定の第一閾値を上回った時の前記残り研削代が所定の第二閾値に下回る場合に、前記工作物が不良であると判定する良否判定部とを備える。
【0007】
本発明の工作機械システムによれば、良否判定部は、研削加工中の研削負荷が第一閾値を上回った工作物に関して、研削負荷が第一閾値を上回った時の残り研削代が第二閾値に下回る場合に、当該工作物が不良であると判定する。この場合、工作機械システムは、研削加工中の研削負荷が第一閾値を上回った工作物を一律的に不良品と判定する場合と比べて、正確な良否判定を行うことができる。つまり、工作機械システムは、実際には良品である工作物を良否判定部が誤って不良品であると判定することを抑制できる。その結果、工作機械システムは、良品である工作物が不良品として廃棄されることを減らすことができるので、製造コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態における工作機械システムの概略構成を示す図であり、工作機械を平面視した図を示す。
図2】工作機械システムのブロック図である。
図3】研削加工中における砥石回転用モータの電流値及び砥石台のX軸座標の推移を示したグラフである。
図4】データ蓄積部に蓄積されるデータの一例を示す図である。
図5】良否判定部により実行される良否判定処理を示したフローチャートである。
図6】ピーク時の電流値と、実際の良否検査の結果との関係を示した図である。
図7】ピーク時の残り研削代と、実際の良否検査の結果との関係を示した図である。
図8】残り研削代と第一閾値との関係を示すである。
図9】変形例における残り研削代と第一閾値との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(1.工作機械システム1の概略)
以下、本発明に係る工作機械システムを適用した実施形態について、図面を参照しながら説明する。まず、図1を参照して、本発明に係る工作機械システム1の概略構成を説明する。
【0010】
図1に示すように、工作機械システム1は、工作機械100と、解析装置200とを備える。工作機械100は、工作物Wの研削加工に用いる砥石台トラバース型の研削盤である。なお、本実施形態では、工作物Wがクランクシャフトであり、クランクジャーナル及びクランクピン等を研削部位とする場合を例に挙げて説明する。解析装置200は、工作物Wに対する加工が終了した後、工作機械100から収集した加工データに基づき、工作物Wが良品であるか否かの解析を行う。
【0011】
(2.工作機械100)
次に、工作機械100について説明する。図1に示すように、工作機械100は、ベッド10と、工作物支持装置20と、砥石支持装置30と、定寸装置40と、制御装置50とを主に備える。なお、以下において、砥石台のトラバース送り方向をZ軸方向、トラバース送り方向に直交する水平方向(プランジ送り方向)をX軸方向、トラバース送り方向と直交する鉛直方向をY軸方向とする。
【0012】
ベッド10は、ほぼ矩形状からなり、床上に配置される。ただし、ベッド10の形状は矩形状に限定されるものではない。ベッド10の上面には、Z軸方向に延びるように、且つ、相互に平行に配置された一対のZ軸ガイドレール11a、11bが設けられる。そして、一対のZ軸ガイドレール11a、11bの間には、Z軸ボールねじ11cと、Z軸ボールねじ11cを回転駆動する砥石台用Z軸モータ11dとが配置される。また、ベッド10には、研削条件等に関する各種パラメータが入力される操作盤12が設けられ、操作盤12は、作業者により操作される。
【0013】
工作物支持装置20は、ベッド10に設けられる。工作物支持装置20は、工作物Wを回転可能に両端支持する。なお、工作物Wは、工作物支持装置20に対し、クランクジャーナルが回転中心となるように工作物支持装置20は、主軸台21と、心押台22とを主に備える。
【0014】
主軸台21は、主軸台本体23と、主軸24と、主軸モータ25と、主軸センタ26とを備える。主軸台本体23は、ベッド10の上面に固定される。主軸24は、軸方向をZ軸方向へ向けた状態で、主軸台本体23に対して回転可能に挿通支持される。主軸モータ25は、主軸24の左端に設けられる。主軸モータ25は、主軸台本体23に対して主軸24をZ軸回りに回転駆動する。なお、主軸モータ25には、主軸モータ25の回転角を検出可能なエンコーダ(図示せず)が設けられている。主軸センタ26は、主軸24の右端に設けられ、軸状の工作物Wの軸方向一端を支持する。
【0015】
心押台22は、心押台本体27と、心押センタ28とを備える。心押台本体27は、ベッド10の上面に固定される。心押センタ28は、軸方向をZ軸方向へ向けた状態で、心押台本体27に対して回転可能に挿通支持される。心押センタ28は、主軸センタ26との間で、工作物Wの軸方向両端をZ軸回りに回転可能に支持する。また、心押センタ28は、工作物Wの長さに応じて心押台本体27の右端面からの突出量の変更が可能に構成される。
【0016】
砥石支持装置30は、砥石台トラバースベース31と、砥石台32と、砥石軸部材33と、砥石車34と、砥石回転用モータ35とを主に備える。砥石台トラバースベース31は、ベッド10に対し、Z軸方向へ移動可能に設けられた矩形板状の部材である。具体的に、砥石台トラバースベース31は、Z軸ボールねじ11cのナット部材に連結され、Z軸モータ11dの駆動により一対のZ軸ガイドレール11a,11bに沿ってZ軸方向へ移動する。
【0017】
また、砥石台トラバースベース31の上面には、X軸方向に延びるように、且つ、相互に平行に配置された一対のX軸ガイドレール31a、31bが設けられる。そして、一対のX軸ガイドレール31a、31bの間には、X軸ボールねじ31cと、X軸ボールねじ31cを回転駆動するX軸モータ31dとが配置されている。
【0018】
砥石台32は、砥石台トラバースベース31に対し、X軸方向へ移動可能に設けられた矩形板状の部材である。具体的に、砥石台32は、一対のX軸ガイドレール31a,31b上をX軸方向へ移動可能に配置されている。砥石台32は、X軸ボールねじ31cのナット部材に連結され、X軸モータ31dの駆動により一対のX軸ガイドレール31a,31bに沿って移動する。このように、砥石台32は、ベッド10及び工作物支持装置20に対し、X軸方向及びZ軸方向に相対移動可能に構成されている。
【0019】
砥石軸部材33は、砥石台32に対し、Z軸に平行な回転軸線回りに回転可能に支持される。砥石車34は、砥石軸部材33の一端に対し、砥石軸部材33と一体回転可能に設けられる。砥石回転用モータ35は、砥石台32の上面に設けられ、ベルト・プーリ機構36を介して砥石軸部材33を回転駆動し、砥石車34を回転させる。そして、砥石車34は、回転しながら工作物Wを研削する。なお、砥石回転用モータ35は、ベルト・プーリ機構36を用いずに、直接的に砥石軸部材33及び砥石車34を回転させてもよい。
【0020】
図2に示すように、工作機械100は、砥石台32のZ軸方向における位置を検出するZ軸位置検出器37と、砥石台32のX軸方向における位置を検出するX軸位置検出器38と、砥石車34による工作物Wの研削加工時に発生する研削負荷を検出する研削負荷検出器39とを更に備える。なお、研削負荷検出器39は、砥石回転用モータ35の動力値を研削負荷として検出する。
【0021】
本実施形態において、工作機械100は、Z軸位置検出器37及びX軸位置検出器38として、Z軸モータ11d及びX軸モータ31dの回転等を測定するロータリエンコーダを用いているが、リニアスケール等の直線位置検出器をZ軸位置検出器37及びX軸位置検出器38として用いてもよい。また、本実施形態において、工作機械100は、研削負荷検出器39として、砥石回転用モータ35の電流値を検出する電流計を用いているが、砥石回転用モータ35の電圧や電力を測定する電圧計や電力計等を研削負荷検出器39として用いてもよい。
【0022】
定寸装置40は、ベッド10に設けられ、工作物Wであるクランクシャフトの研削部位であるクランクピン又はクランクジャーナルの外径を測定する。制御装置50は、工作機械100に関する制御を行う。そして、制御装置50は、PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)51と、NC装置52とを主に備える。
【0023】
PLC51は、例えば、定寸装置40が測定した測定値データを取得すると共に、図示しないクーラント供給装置によるクーラントの供給制御を行う。NC装置52は、定寸装置40による測定結果に基づき、各種モータ(主軸モータ25、Z軸モータ11d、X軸モータ31d及び砥石回転用モータ35等)の駆動制御を行う。また、NC装置52は、Z軸位置検出器37、X軸位置検出器38及び研削負荷検出器39が検出した検出値データを取得する。
【0024】
(3.解析装置200の概略)
続いてに、解析装置200の概略を説明する。図2に示すように、解析装置200は、良否判定部210と、第一閾値設定部220と、研削残量演算部230と、第二閾値設定部240とを備える。
【0025】
良否判定部210は、研削加工後の工作物Wが良品であるか否かを判定する。第一閾値設定部220は、良否判定部210が工作物Wに研削焼けが発生したか否かの判定を行う際に用いる第一閾値Th1を設定する。本実施形態において、第一閾値Th1は、電流値であり、良否判定部210は、研削負荷検出器39により検出された電流値が第一閾値Th1を上回った場合に、工作物Wに研削焼けが発生したと判定する。なお、第一閾値Th1の設定は、研削部位に応じて変えることも可能である。
【0026】
研削残量演算部230は、砥石車34による工作物Wの残り研削代を演算する。具体的に、研削残量演算部230は、一の研削部位に対する研削加工を行う中で、研削負荷検出器39が検出した電流値が最大となったとき(以下「ピーク時」と称す)の工作物Wの残り研削代(研削残量)を演算により求める。
【0027】
第二閾値設定部240は、良否判定部210が研削加工後の工作物Wが良品であるか否かの判定を行う際に用いる第二閾値Th2を設定する。本実施形態において、第二閾値Th2は、残り研削代(研削残量)であり、良否判定部210は、ピーク時の残り研削代が第二閾値Th2を下回る場合に、工作物Wが不良品であると判定する。なお、第二閾値Th2の設定は、研削部位に応じて変えることも可能である。
【0028】
また、解析装置200は、データ蓄積部250と、閾値解析部260とを更に備える。データ蓄積部250は、工作物Wの研削加工中に取得したデータを記憶し、蓄積する。工作機械100は、工作物Wの一の研削部位の研削加工が終了した後、当該研削加工時に取得したデータを解析装置200に送信する。なお、工作機械100から解析装置200に送信されるデータとしては、X軸位置検出器38が検出した砥石台32のX軸座標値に関するデータや、研削負荷検出器39が検出した砥石回転用モータ35の電流値(即ち、研削負荷)に関するデータ等が挙げられる。また、データ蓄積部250には、研削加工後の工作物Wに対し、研削焼けに起因する加工変質層が形成されていたか否かについて実際に行った良否検査の結果を示すデータが、解析装置200から受信した当該工作物Wのデータに関連づけて記憶される。
【0029】
閾値解析部260は、データ蓄積部250に蓄積された複数のデータを解析し、第一閾値Th1及び第二閾値Th2の設定値を導出する。そして、良否判定部210は、閾値解析部260により導出された第一閾値Th1及び第二閾値Th2を用いて、工作物Wの良否判定を行う。
【0030】
(4.良否判定の手順)
ここで、図3から図5を参照して、良否判定部210が行う工作物Wの良否判定の手順を説明する。図3に示すように、工作物Wの一の研削部位に対する研削加工が終了すると、NC装置52は、当該研削加工中に取得したデータを解析装置200に送信する。具体的に、NC装置52は、X軸位置検出器38が検出した砥石台32のX軸座標値に関するデータや、研削負荷検出器39が検出した砥石回転用モータ35の電流値(即ち、研削負荷)の検出値に関するデータ等を取得する。
【0031】
なお、工作機械100による研削加工は、荒加工工程と、仕上加工工程とを含む。荒加工工程は、仕上加工工程よりも砥石台の送り速度が大きい。つまり、荒加工工程は、仕上加工工程と比べて、時間あたりの工作物Wの研削量が大きく、研削負荷も大きくなる。また、工作機械100は、定寸装置40による計測結果に基づき、研削部位の外径が、研削部位ごとに設定された所定値に到達した段階で、砥石台32の送り速度を変更し、荒加工工程から仕上加工工程へ移行する。そして、工作機械100は、研削部位の外径が目標値に到達すると、砥石台32を工作物Wに対して後退させる。これにより、工作機械100は、工作物Wの一の研削部位に対する一連の研削加工を終了する。
【0032】
図4に示すように、解析装置200は、取得したデータに基づき、ピーク時における砥石回転用モータ35の電流値及び砥石台32のX軸座標値を抽出する。ここで、解析装置200は、電流値が第一閾値Th1を上回る期間が複数回あった場合に、最後に第一閾値Th1を上回った期間でのピーク時における電流値及びX軸座標値を抽出する。また、解析装置200は、抽出した電流値及びX軸座標値を、解析装置200によるデータ取得時の時刻、研削部位、及び実際の良否検査の結果と関連づけてデータ蓄積部250に記憶する。
【0033】
次に、研削残量演算部230は、研削負荷検出器39が検出する電流値の変動推移に基づき、研削加工が終了したときの砥石台32のX軸方向位置、即ち、工作物Wの残り研削代が0となったときの砥石台32のX軸座標値を特定する。続いて、研削残量演算部230は、ピーク時における砥石台32のX軸座標値を特定する。そして、研削残量演算部230は、研削加工が終了したときの砥石台32のX軸方向位置とピーク時における砥石台32のX軸方向位置とに基づき、ピーク時の残り研削代を演算により求める。
【0034】
このように、研削残量演算部230は、研削加工が終了したときの砥石台のX軸方向位置を基準にして残り研削代を演算により求める。この場合、研削残量演算部230は、砥石車34の外径に関係なく、残り研削代を演算により求めることができる。つまり、研削残量演算部230は、砥石車34の外径がドレッシング等により変化したとしても、残り研削代を正確に求めることができる。
【0035】
次に、図5に示すフローチャートを参照しながら、良否判定部210により実行される良否判定処理について説明する。良否判定処理は、研削加工後の工作物Wに対して行う処理であり、研削加工後の工作物Wに加工変質層が形成されていると判断した場合に、当該工作物Wを不良品と判定する。
【0036】
良否判定部210は、良否判定処理において、最初に、ピーク時における電流値が第一閾値Th1を上回ったか否かを判定する(S1)。その結果、ピーク時における電流値が第一閾値Th1を上回っていた場合に(S1:Yes)、良否判定部210は、続いて、ピーク時における残り研削代が第二閾値Th2を下回ったか否かを判定する(S2)。
【0037】
良否判定部210は、ピーク時における残り研削代が第二閾値Th2を下回っていた場合(S2:Yes)、研削加工後の工作物Wに加工変質層が形成されていると判断する。つまり、良否判定部210は、当該工作物Wが不良品であると判定し(S3)、本処理を終了する。一方、良否判定部210は、ピーク時の電流が第一閾値Th1以下である場合(S1:No)、及び、ピーク時の電流が第一閾値Th1を上回った場合であってもピーク時の残り研削代が第二閾値Th2以上であれば(S2:No)、良否判定部210は、工作物Wが良品であると判定し(S4)、本処理を終了する。
【0038】
ここで、工作物Wの研削加工中に加工変質層が形成されたとしても、形成された加工変質層が、その後の研削加工で研削され、研削加工終了時において工作物Wから除去される場合がある。この場合、研削加工後の工作物Wは、良品であると考えられる。
【0039】
そこで、良否判定部210は、工作物Wの研削加工時において、ピーク時に発生した研削負荷としての電流値が第一閾値Th1を上回った工作物Wに関して、当該ピーク時における残り研削代が第二閾値Th2を下回る場合に限り、当該工作物Wが不良品であると判定する。この場合、工作機械システム1は、研削加工中の研削負荷が第一閾値Th1を上回った工作物Wを一律的に不良品と判定する場合と比べて、正確な良否判定を行うことができる。
【0040】
つまり、工作機械システム1は、実際には良品である工作物Wを良否判定部210が誤って不良品であると判定することを抑制できる。その結果、工作機械システム1は、良品である工作物Wが不良品として廃棄されることを減らすことができるので、製造コストの低減を図ることができる。
【0041】
(5.第一閾値Th1及び第二閾値Th2の解析)
次に、図6及び図7を参照しながら、閾値解析部260が行う第一閾値Th1及び第二閾値Th2の解析について、例を挙げながら説明する。なお、図6及び図7において、実際の良否検査の結果として、加工変質層がなかった工作物Wは、○印で、加工変質層があった工作物Wは、×印で、それぞれ示される。
【0042】
まず、図6を参照しながら、第一閾値Th1の解析内容について説明する。図6に示すように、閾値解析部260は、データ蓄積部250に蓄積された複数のデータを使用し、各々の工作物Wのピーク時における電流値と当該工作物Wの良否検査の結果との照合を行う。そして、閾値解析部260は、良否検査の結果において不良品と判定された全ての工作物Wを加工した際のピーク時における電流値の最大値よりも低い値を、第一閾値Th1として導出する。
【0043】
これにより、良否判定部210は、良否判定処理(図5参照)の中で実行されるS1の処理において、過去に行った良否検査の結果において不良品と判定された工作物Wの全てに対し、加工変質層を有するとの判定を行うことになる。よって、閾値解析部260は、過去の実績に基づき、第一閾値Th1に設定する値として適切な電流値を導出できるので、工作機械システム1は、加工変質層を有する工作物Wを誤って良品であると判定することを回避できる。
【0044】
続いて、図7を参照しながら、第二閾値Th2の解析内容について説明する。図7に示すように、閾値解析部260は、データ蓄積部250に蓄積された複数のデータから、ピーク時の電流値が第一閾値Th1を超えたときのデータを抽出する。そして、抽出したデータに使用し、各々の工作物Wのピーク時における残り研削代と当該工作物Wの良否検査の結果との照合を行う。そして、閾値解析部260は、良否検査の結果において不良品と判定された全ての工作物Wを抽出し、当該全ての工作物Wを加工した際のピーク時における残り研削代の最小値よりも高い値を、第二閾値Th2として導出する。
【0045】
これにより、良否判定部210は、良否判定処理(図5参照)において、過去の良否検査の結果において不良品と判定された工作物Wの全てに対し、不良品であるとの判定を行うことになる。よって、閾値解析部260は、過去の実績に基づき、第二閾値Th2に設定する値として適切な電流値を導出できるので、工作機械システム1は、加工変質層を有する工作物Wが誤って良品であると判定されることを回避できる。
【0046】
ここで、良否判定部210は、研削加工時において電流値が第一閾値Th1を超える期間が複数回あった場合に、最後に第一閾値Th1を超えて期間でのピーク時における残り研削代に基づき、工作物Wの良否判定を行う。そして、第二閾値Th2は、残り研削代の寸法であって、研削焼けに起因して形成される加工変質層の深さ寸法よりも大きな値が第二閾値Th2として設定される。つまり、工作物Wの研削加工の中で、最後に研削焼けが発生した時点での残り研削代が第二閾値Th2よりも大きければ、良否判定部210は、最後の研削焼けに起因して形成された加工変質層が、その後の研削加工により除去されたと判断し、当該工作物Wが良品であるとの判定を行う。
【0047】
このように、良否判定部210は、研削加工中に研削焼けが発生したと判定した場合であっても、その後の研削加工で加工変質層が除去されたと判断した場合に、当該工作物Wを良品として判定することができる。よって、工作機械システム1は、良品が誤って不良品と判定されることを抑制できるので、良品である工作物Wが不良品として廃棄されることを減らすことができるので、製造コストの低減を図ることができる。
【0048】
ここで、作業者は、研削加工後の工作物Wに対して実際に行う良否検査での検査基準に応じて、閾値解析部260が導出する第二閾値Th2の設定を変えることができる。具体的に、作業者は、研削加工後の工作物Wの良否検査を行うにあたり、硬化した部位(白層)の有無に基づき、加工変質層の有無を判定することができる。これに対し、作業者は、軟化した部位(軟化層)の有無に基づき、加工変質層の有無を判定することもできる。
【0049】
この点に関して、軟化層は、白層よりも深い位置に形成される。よって、研削加工時に形成された軟化層をその後の研削加工で除去する場合には、白層のみを除去する場合と比べて、研削焼けの発生時において残り研削代がより多く残存していることが必要とされる。その結果、軟化層の有無に基づいて加工変質層の有無を判定する場合には、白層の有無に基づいて加工変質層の有無を判定する場合と比べて、第二閾値Th2として設定される残り研削代の値は、必然的に高くなる。
【0050】
このように、解析装置200は、閾値解析部260の解析により設定される第二閾値Th2の設定値に関して、作業者が行う工作物Wの良否検査の基準を反映させることができる。よって、良否判定部210は、作業者が要望する加工品質基準に応じた良否判定を行うことができる。
【0051】
なお、本実施形態において、第一閾値Th1は、残り研削代とは関係なく一定である。この場合、閾値解析部260は、過去の良否検査において不良品と判定された工作物Wのピーク時における残り研削代に関するデータに基づき、第一閾値Th1の設定を容易に行うことができる。
【0052】
また、良否判定部210は、一の研削部位の研削加工を行う間に、研削負荷としての電流値が第一閾値Th1を上回った期間が複数回あった場合に、最後に電流値が第一閾値Th1を上回った期間でのピーク時(研削負荷が最大となったとき)における残り研削代の値を抽出する。そして、良否判定部210は、抽出した残り研削代が第二閾値Th2を下回った場合に、工作物Wが不良であると判定する。この場合、良否判定部210は、良否判定を簡素に行うことができ、良否判定に要する時間の短縮を図ることができる。
【0053】
以上説明したように、データ蓄積部250には、工作物Wの研削加工中に研削負荷に関するデータが、研削加工終了後の工作物Wに対して実際に行った良否検査の結果と関連づけて記憶される。そして、閾値解析部260は、データ蓄積部250に蓄積された複数のデータを解析し、第一閾値Th1及び第二閾値Th2を決定する。そして、良否判定部210は、閾値解析部260により決定された第一閾値Th1及び第二閾値Th2を用いて工作物Wの良否を判定する。
【0054】
このように、工作機械システム1は、過去に行った工作物Wの研削加工時に取得したデータに基づき、第一閾値Th1及び第二閾値Th2を決定するので、良否判定部210による工作物Wの良否判定の精度を高めることができる。
【0055】
(6.第一閾値Th1及び第二閾値Th2に設定に関する変形例)
次に、第一閾値Th1及び第二閾値Th2に設定に関する変形例を説明する。図8に示すように、上記実施形態において、第一閾値Th1は、一定値であり、良否判定部210は、電流値が第一閾値Th1を上回った場合に、残り研削代に関わらず、研削焼けが発生したとの判定を行う。同様に、上記実施形態において、第二閾値Th2は、一定であり、良否判定部210は、電流値が第一閾値Th1を上回った工作物Wに関して、ピーク時における残り研削代が第二閾値Th2を下回った場合に、工作物Wが不良品であるとの判定を行う。つまり、上記実施形態において、良否判定部210は、図8に示すグラフにおいて、ピーク時における電流値と残り研削代とで表される座標がハッチングに示す範囲に含まれる場合に、工作物Wが不良品であると判定する。
【0056】
これに対し、第一閾値Th1は、ピーク時における残り研削代に応じて変動する値であってもよい。つまり、図9に示すように、第一閾値Th1は、ピーク時における残り研削代が大きいほど、設定値が高くなるようにしてもよい。この場合において、良否判定部210は、図9に示すグラフにおいて、ピーク時における電流値と残り研削代とで表される座標がハッチングに示す範囲に含まれる場合に、工作物Wが不良品であると判定する。
【0057】
このように、研削焼けに起因して発生する加工変質層は、研削焼けが発生した時点で残り研削代が多く残っているほど、後の研削加工で除去される可能性が高くなると考えられる。これに対し、工作機械システム1は、第一閾値Th1を残り研削代に応じて変動させることにより、良否判定部210が行う良否判定の精度を高めることができる。
【0058】
(7.その他)
以上、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変形改良が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記実施形態では、第一閾値Th1及び第二閾値Th2の双方が、閾値解析部260の解析により決定される場合について説明したが、第一閾値Th1及び第二閾値Th2の何れか一方又は双方に関して、作業者は、任意の値を第一閾値Th1又は第二閾値Th2として設定してもよい。
【0059】
解析装置200は、表1に示す解析手法を用いて第一閾値Th1又は第二閾値Th2を設定することができる。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示す解析手法は、QC手法(例えば、X-R管理図、相関分布等)、線形適応(例えば、線形適応制御等)、非線形同定(例えば、逐次型同定等)ベイズ手法(例えば、ナイーブベイズ法、ベイジアンネットワーク等)、機械学習(例えば、ニューラルネットワーク、サポートベクタマシン等)、回帰分析(例えば、重回帰分析、リッジ回帰等)のように、各々の特性に合わせて分類される。各々の解析手法の予測精度は、解析するデータ量(解析対象となるデータ数)やモデル精度により変化する。即ち、統計等のモデル自体の変数や定数が多い解析手法や事前確率分布の多い解析手法は、解析するデータ量が多いほど、モデル精度が高くなり、予測精度が向上する。
【0062】
例えば、QC手法は、計算量も少なく、相関性も分かりやすいので、解析するデータ量が少なくても予測精度の向上を図ることができる。その一方、QC手法は、解析するデータ量が増えたとしても、予測精度の向上の見込みが低い。これに対し、ベイズ手法は、解析するデータ量が増えるほど、事前情報(事前確率等)に基づく予測からデータに基づく予測に近づくので、予測精度が向上する。また、機械学習は、解析するデータ量が増えるほど、予測精度が向上する。同様に、回帰分析は、解析するデータが増えるほど、予測精度が向上する。
【0063】
線形適応は、モデル自体の精度が予測精度を向上させる要因となる。線形適応は、QC手法と比べて、データ量が少ない段階であっても予測精度を向上させやすい。非線形同定は、モデル自体の精度が予測精度を向上させるための要因となるが、モデル自体の構築が難しい。
【0064】
以上の点から、解析装置200は、解析するデータ量が比較的少なく、検出器から得られるデータが少ないときには、QC手法又は線形適応を選択することで、予測精度を早期に向上させることができる。一方、解析装置200は、解析するデータ量が比較的多い場合には、回帰分析又は機械学習を選択することで、予測精度を確実に向上させることができる。つまり、解析装置200は、データの量や特性に合わせた解析手法を用いることができる。
【符号の説明】
【0065】
1:工作機械システム、 20:工作物支持装置、 32:砥石台、 34:砥石車、 38:X軸位置検出器(砥石台位置検出器)、 39:研削負荷検出器、 100:工作機械、 200:解析装置、 210:良否判定部、 220:第一閾値設定部、 230:研削残量演算部、 240:第二閾値演算部、 250:データ蓄積部、 260:閾値解析部、 Th1:第一閾値、 Th2:第二閾値、 W:工作物
図1
図2
図3
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図9