(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット及びスパッタリングターゲットの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20220531BHJP
C22C 1/05 20060101ALI20220531BHJP
C22C 29/12 20060101ALI20220531BHJP
C22C 32/00 20060101ALI20220531BHJP
C22C 9/00 20060101ALI20220531BHJP
C22C 5/04 20060101ALI20220531BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C22C1/05 E
C22C1/05 J
C22C29/12 Z
C22C32/00 B
C22C32/00 Z
C22C9/00
C22C5/04
C23C14/08 K
(21)【出願番号】P 2018159246
(22)【出願日】2018-08-28
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】梅本 啓太
(72)【発明者】
【氏名】齋籐 淳
(72)【発明者】
【氏名】白井 孝典
【審査官】篠原 法子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-027195(JP,A)
【文献】特開2014-237889(JP,A)
【文献】特開2001-355065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
C22C 1/05
C22C 29/12
C22C 32/00
C22C 9/00
C22C 5/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属成分としてCuとInを含有するとともに、金属相と酸化物相との複合組織からなり、前記酸化物相の面積率が5%以上96%以下の範囲内とされ、密度比が90%以上であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
金属成分中におけるCuの含有量が10原子%以上90原子%以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記酸化物相からなる母相に前記金属相が分散した組織とされており、分散した前記金属相の平均粒子径が56μm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記金属相からなる母相に前記酸化物相が分散した組織とされており、母相である前記金属相における平均結晶粒子径が100μm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットを製造するスパッタリングターゲットの製造方法であって、
Cu粉及びIn-Cu合金粉のいずれか一方又は両方からなる金属粉と、CuO粉及びIn
2O
3粉のいずれか一方又は両方からなる酸化物粉と、を含有し、前記金属粉のメディアン径D
Mと前記酸化物粉のメディアン径D
Oとの比D
M/D
Oが0.5以上200以下の範囲内とされた焼結原料粉を得る焼結原料粉形成工程と、
前記焼結原料粉を加圧するとともに1000℃未満の温度にまで加熱して焼結体を得る焼結工程と、
を有していることを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項6】
前記酸化物粉のメディアン径D
Oが5μm以下であることを特徴とする請求項5に記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物膜を成膜する際に用いられるスパッタリングターゲット、及び、このスパッタリングターゲットの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯端末装置などの入力手段として、投影型静電容量方式のタッチパネルが採用されている。この方式のタッチパネルでは、タッチ位置検出のために、センシング用の電極が形成されている。このセンシング用の電極は、パターニングによって形成するのが通常であり、透明基板の一方の面に、X方向に延びたX電極と、X方向に対して直交するY方向に延びたY電極とを設け、これらを格子状に配置している。
ここで、タッチパネルの電極に金属膜を用いた場合には、金属膜が金属光沢を有することから、電極のパターンが外部から視認されてしまう。このため、金属薄膜の上に、可視光の反射率の低い低反射率膜を成膜することで、電極の視認性を低下させることが考えられる。
【0003】
また、液晶表示装置やプラズマディスプレイに代表されるフラットパネルディスプレイでは、カラー表示を目的としたカラーフィルタが採用されている。このカラーフィルタでは、コントラストや色純度を良くし、視認性を向上させることを目的として、ブラックマトリクスと称される黒色の部材が形成されている。
上述の低反射率膜は、このブラックマトリクス(以下“BM”と記す)としても利用可能である。
【0004】
さらに、太陽電池パネルにおいて、ガラス基板等を介して太陽光が入射される場合、その反対側には、太陽電池の裏面電極が形成されている。この裏面電極としては、モリブデン(Mo)、銀(Ag)などの金属膜が用いられている。このような態様の太陽電池パネルを裏面側から見たとき、その裏面電極である金属膜が視認されてしまう。
このため、裏面電極の上に、上述の低反射率膜を成膜することで、裏面電極の視認性を低下させることが考えられる。
【0005】
そこで、例えば特許文献1、2には、上述の低反射率膜として適した酸化物膜、及び、この酸化物膜を成膜する際に用いられるスパッタリングターゲットが提案されている。
特許文献1に記載されたスパッタリングターゲットにおいては、金属元素として、Mo及びInのいずれか1種又は2種、及び、Cu及びFeのいずれか1種又は2種を主成分とし、これらの金属元素の一部又は全部が酸化物からなる構造とされている。
また、特許文献2に記載されたスパッタリングターゲットにおいては、金属元素として、FeとMoを含有し、これらの金属元素の一部又は全部が酸化物の形態で存在し、酸化物相にFe-Mo-O系化合物が含まれたものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-027195号公報
【文献】特開2016-191090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述のスパッタリングターゲットにおいて、密度比が低い場合には、内部に空孔が生じており、スパッタ成膜時に異常放電が発生しやすくなる。
ここで、上述の酸化物膜を成膜するスパッタリングターゲットにおいて、密度比を向上させるために、焼結温度を高く設定した場合には、酸化物粉が還元してしまい、焼結後のスパッタリングターゲットの組成が安定しないおそれがあった。一方、密度比を向上させるために、加圧荷重を高くした場合には、酸化物からなるスパッタリングターゲットに割れが生じ、製造歩留が低下するといった問題があった。
以上のように、酸化物膜を成膜するスパッタリングターゲットにおいては、上述の酸化物粉の融点が高く、焼結性が不十分であることから、密度比を十分に向上させることが困難であった。
【0008】
特に、最近では、生産効率の向上の観点から、スパッタ成膜時のパワー密度比をさらに上げて成膜のスループットをさらに向上させることが求められており、異常放電が発生しやすい傾向にある。
また、成膜する基板の大型化や成膜効率の向上に対応するために、大型のスパッタリングターゲットや円筒型のスパッタリングターゲットが要求されており、密度比の向上がさらに困難となっている。
このため、上述の酸化物膜を成膜するスパッタリングターゲットにおいては、さらなる密度比の向上が求められている。
【0009】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、密度比が十分に高く、酸化物膜を安定してスパッタ成膜が可能なスパッタリングターゲット、及び、このスパッタリングターゲットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のスパッタリングターゲットは、金属成分としてCuとInを含有するとともに、金属相と酸化物相との複合組織からなり、前記酸化物相の面積率が5%以上96%以下の範囲内とされ、密度比が90%以上であることを特徴としている。
【0011】
この構成のスパッタリングターゲットによれば、金属成分としてCuとInを含有し、かつ、金属相と酸化物相との複合組織からなるので、金属成分としてCuとInを含有する酸化物膜をスパッタ成膜することが可能となる。
そして、密度比が90%以上とされているので、空孔に起因した異常放電の発生を抑制することができる。
また、前記酸化物相の面積率が5%以上96%以下の範囲内とされているので、金属相及び酸化物相の面積がそれぞれ確保されており、ターゲットスパッタ面全体で放電状態が安定し、異常放電の発生を抑制することができる。
【0012】
ここで、本発明のスパッタリングターゲットにおいては、金属成分中におけるCuの含有量が10原子%以上90原子%以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、金属成分中におけるCuの含有量が10原子%以上90原子%以下の範囲内とされた組成の酸化物膜を成膜することができ、可視光の反射率が低く、低反射率膜として使用可能な酸化物膜を確実に成膜することが可能となる。
【0013】
また、本発明のスパッタリングターゲットにおいては、前記酸化物相からなる母相に前記金属相が分散した組織とされており、前記金属相の平均粒子径が56μm以下である構成としてもよい。
この場合、前記酸化物相からなる母相に分散した前記金属相の平均粒子径が56μm以下に制限されているので、金属相が局所的に凝集しておらず、ターゲットスパッタ面全体で放電状態が安定し、異常放電の発生をさらに抑制することができる。
【0014】
また、本発明のスパッタリングターゲットにおいては、前記金属相からなる母相に前記酸化物相が分散した組織とされており、前記金属相における平均結晶粒子径が100μm以下である構成としてもよい。
この場合、前記金属相からなる母相に前記酸化物相が分散した組織とされており、母相である前記金属相における平均結晶粒子径が100μm以下に制限されているので、加工における割れの発生を抑制でき、製造歩留を向上させることができる。また、スパッタが進行してもターゲットスパッタ面に大きな凹凸が形成されず、異常放電の発生を抑制でき、安定してスパッタ成膜を行うことができる。
【0015】
本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、上述のスパッタリングターゲットを製造するスパッタリングターゲットの製造方法であって、Cu粉及びCu-In合金粉のいずれか一方又は両方からなる金属粉と、CuO粉及びIn2O3粉のいずれか一方又は両方からなる酸化物粉と、を含有し、前記金属粉のメディアン径DMと前記酸化物粉のメディアン径DOとの比DM/DOが0.5以上200以下の範囲内とされた焼結原料粉を得る焼結原料粉形成工程と、前記焼結原料粉を加圧するとともに1000℃未満の温度にまで加熱して焼結体を得る焼結工程と、を有していることを特徴としている。
【0016】
この構成のスパッタリングターゲットの製造方法によれば、Cu粉及びCu-In合金粉のいずれか一方又は両方からなる金属粉と、CuO粉及びIn2O3粉のいずれか一方又は両方からなる酸化物粉と、を含有し、前記金属粉のメディアン径DMと前記酸化物粉のメディアン径DOとの比DM/DOが0.5以上200以下の範囲内とされた焼結原料粉を用いているので、焼結時に、酸化物粉同士の間の空隙を、延性のある金属相が変形しながら埋めることによって空孔が排除されることになり、密度比を確実に向上させることができる。
また、前記焼結原料粉を加圧するとともに1000℃未満の温度にまで加熱して焼結体を得る焼結工程を備えているので、焼結温度が比較的低く、酸化物粉の還元を抑制することができる。
【0017】
ここで、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法においては、前記酸化物粉のメディアン径DOが5μm以下であることが好ましい。
この場合、前記酸化物粉のメディアン径DOが5μm以下と比較的微細とされていることから、酸化物粉同士の接触面積が増加し、焼結性を向上させることができ、密度比をさらに向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、密度比が十分に高く、酸化物膜を安定してスパッタ成膜が可能なスパッタリングターゲット、及び、このスパッタリングターゲットの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲットにおいて、酸化物相からなる母相に金属相が分散した組織を示す説明図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲットにおいて、金属相からなる母相に酸化物相が分散した組織を示す説明図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲットの製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態であるスパッタリングターゲット、及び、スパッタリングターゲットの製造方法について、添付した図面を参照して説明する。
【0021】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットは、金属成分としてCuとInを含有するとともに、金属相と酸化物相との複合組織からなるものとされている。
そして、酸化物相の面積率が5%以上96%以下の範囲内とされ、密度比が90%以上とされている。
また、本実施形態においては、金属成分中におけるCuの含有量が10原子%以上90原子%以下の範囲内とされていることが好ましい。
【0022】
ここで、本実施形態に係るスパッタリングターゲットにおいては、上述のように、酸化物相の面積率が5%以上96%以下の範囲内とされており、酸化物相の比率が高い場合には、酸化物相からなる母相に前記金属相が分散した組織となり、金属相の比率が高い場合には、金属相からなる母相に酸化物相が分散した組織となる。
【0023】
図1は、酸化物相からなる母相に前記金属相が分散した組織の実例であり、酸化物相11からなる母相に金属相12が分散した組織である。このような組織の場合には、分散した金属相12の平均粒子径(すなわち、分散した金属相12自体の大きさ)が56μm以下であることが好ましい。
また、
図2は、金属相からなる母相に酸化物相が分散した組織の実例であり金属相12からなる母相に酸化物相11が分散した組織である。このような組織の場合には、母相である金属相12における平均結晶粒子径が100μm以下であることが好ましい。
【0024】
以下に、本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいて、酸化物相の面積率、密度比、金属成分中におけるCuの含有量、分散した金属相の平均粒子径、母相である金属相における平均結晶粒子径について、上述のように規定した理由について説明する。
【0025】
(酸化物相の面積率)
本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいては、金属相と酸化物相との複合組織とされており、金属相によって密度比の向上が図られている。
ここで、酸化物相の面積率が5%未満である場合には、金属相と比較して電気抵抗が高い酸化物相が孤立して存在することになり、この酸化物相を起因としてスパッタ時に異常放電が発生するおそれがある。
一方、酸化物相の面積率が96%を超える場合には、金属相が不足し、密度比を十分に向上させることができないおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、酸化物相の面積率を5%以上96%以下の範囲内に設定している。
【0026】
なお、孤立した酸化物相に起因する異常放電の発生をさらに抑制するためには、酸化物相の面積率の下限を15%以上とすることが好ましく、30%以上とすることがさらに好ましい。
また、密度比をさらに向上させるためには、酸化物相の面積率の上限を90%以下とすることが好ましく、85%以下とすることがさらに好ましい。
【0027】
(密度比)
スパッタリングターゲットの密度比が低くなると、内部に空孔が多く存在することになり、スパッタ成膜時に異常放電が発生しやすくなるおそれがある。特に、酸化物相からなるスパッタリングターゲットにおいては、酸化物の焼結性が不十分なことから、密度比が低くなる傾向にあり、異常放電が発生しやすい。
そこで、本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいては、密度比を90%以上に設定している。なお、密度比は、92%以上であることが好ましく、94%以上であることがさらに好ましい。
ここで、密度比は、スパッタリングターゲットの理論密度比に対する実際の密度比(実測密度比)の比率である。スパッタリングターゲットの理論密度比は、その組成に応じて算出することになる。
【0028】
(金属成分中におけるCuの含有量)
本実施形態であるスパッタリングターゲットを用いて成膜された酸化物膜は、上述のスパッタリングターゲットと同等の組成を有するものとなる。
ここで、本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいて、金属成分中におけるCuの含有量が10原子%以上90原子%以下の範囲内とすることで、可視光(波長400~800nm)において、平均反射率が低くなり、反射率が十分に低い酸化物膜を成膜することが可能となる。
なお、可視光の反射率が十分に低い酸化物膜を確実に成膜するためには、金属成分中におけるCuの含有量の下限を20原子%以上とすることが好ましく、30原子%以上とすることがさらに好ましい。また、金属成分中におけるCuの含有量の上限を80原子%以下とすることが好ましく、70原子%以下とすることがさらに好ましい。
【0029】
(分散した金属相の平均粒子径)
酸化物相からなる母相に金属相が分散した組織とされたスパッタリングターゲットにおいて、分散した金属相の平均粒子径を小さくすることで、局所的に電気抵抗が低い部分が存在せず、ターゲットスパッタ面全体で放電状態が安定することになり、スパッタ成膜時における異常放電の発生を抑制することが可能となる。
そこで、本実施形態のスパッタリングターゲットにおいて、酸化物相からなる母相に金属相が分散した組織とされている場合には、分散した金属相の平均粒子径を56μm以下に制限することが好ましい。
なお、分散した金属相の平均粒子径は、45μm以下であることが好ましく、35μm以下であることがさらに好ましい。
【0030】
(母相である金属相における平均結晶粒子径)
金属相からなる母相に酸化物相が分散した組織とされたスパッタリングターゲットにおいて、母相である金属相における平均結晶粒子径を小さくすることで、スパッタが進行した際に、金属相の母相に大きな凹凸が生じることが抑制され、異常放電の発生を抑制することが可能となる。また、延性のある金属相がつぶれて金属相の扁平率が大きくなることを抑制でき、焼結体を加工してスパッタリングターゲットを作製する際に割れの発生を抑制でき、製造歩留を向上することができる。
そこで、本実施形態のスパッタリングターゲットにおいて、金属相からなる母相に酸化物相が分散した組織とされている場合には、母相である金属相における平均結晶粒子径を100μm以下に制限することが好ましい。
なお、母相である金属相における平均結晶粒子径は、75μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。
【0031】
次に、本実施形態に係るスパッタリングターゲットの製造方法について、
図3のフロー図を参照して説明する。
【0032】
(焼結原料粉形成工程S01)
まず、Cu粉及びIn-Cu合金粉のいずれか一方又は両方からなる金属粉と、CuO粉及びIn2O3粉のいずれか一方又は両方からなる酸化物粉と、準備する。
ここで、Cu粉においては、純度が99.99mass%以上であることが好ましい。
また、In-Cu合金紛については、Cuの含有量が5mass%以上50mass%以下の範囲内とされ、残部がIn及び不可避不純物とされた組成のものを用いることが好ましい。
CuO粉は、純度が99mass%以上であることが好ましい。
In2O3粉は、純度が99mass%以上であることが好ましい。
【0033】
そして、上述の金属粉及び酸化物粉の粒子径については、金属粉のメディアン径DMと、酸化物粉のメディアン径DOとの比DM/DOが0.5以上200以下の範囲内となるように調整する。
また、本実施形態においては、酸化物粉のメディアン径DOが5μm以下であることが好ましい。
【0034】
ここで、金属粉としてCu粉及びIn-Cu合金粉を含む場合には、金属粉のメディアン径DMは、Cu粉のメディアン径DCuとIn-Cu合金粉のメディアン径DInCuと金属粉中のCu粉の質量比WCuと金属粉中のIn-Cu合金粉の質量比WInCuから、以下のようにして算出される。
DM=(DCu×WCu+DInCu×WInCu)
【0035】
また、酸化物粉としてCuO粉及びIn2O3粉を含む場合には、酸化物粉のメディアン径DOは、CuO粉のメディアン径DCuOとIn2O3粉のメディアン径DIn2O3と酸化物粉中のCuO粉の質量比WCuOと酸化物粉中のIn2O3粉の質量比WIn2O3から、以下のようにして算出される。
DO=(DCuO×WCuO+DIn2O3×WIn2O3)
【0036】
上述の金属粉と酸化物粉を所定の比率で混合し、焼結原料粉を得る。
ここで、焼結原料粉形成工程S01においては、ボールミル等の混合装置を用いることが好ましい。
【0037】
(焼結工程S02)
次に、上述の焼結原料粉を、加圧しながら加熱することで焼結し、焼結体を得る。本実施形態では、ホットプレス装置を用いている。
この焼結工程S02において、上述の酸化物粉同士の間の空隙を、延性のある金属相が変形しながら埋めることにより、空孔が排除され、密度比が向上することになる。
なお、焼結工程S02における焼結温度は1000℃未満、焼結温度での保持時間は0.5時間以上10時間以下の範囲内、加圧圧力は5MPa以上50MPa以下の範囲内としている。
【0038】
(機械加工工程S03)
次に、得られた焼結体を所定の寸法となるように機械加工する。これにより、本実施形態であるスパッタリングターゲットが製造される。
【0039】
以下に、本実施形態であるスパッタリングターゲットの製造方法において、金属粉のメディアン径DMと酸化物粉のメディアン径DOとの比DM/DO、酸化物粉のメディアン径DO、焼結条件を、上述のように規定した理由について説明する。
【0040】
(金属粉のメディアン径DMと酸化物粉のメディアン径DOとの比DM/DO)
本実施形態では、金属粉と酸化物粉を混合した焼結原料粉を加圧して加熱することにより、焼結体を製造している。
ここで、金属粉のメディアン径DMと酸化物粉のメディアン径DOとの比DM/DOが0.5未満の場合には、酸化物粉同士の間の空隙が、微細な金属粉によって充填されることになり、焼結工程S02において、酸化物粉同士の間の空隙を、延性のある金属相が変形しながら埋めることができず、空孔を効率的に排除することができなくなり、密度比を向上させることができなくなるおそれがある。
一方、メディアン径比DM/DOが200を超える場合には、金属粉と接触する酸化物粉の数が少なく、酸化物粉同士の空隙を十分に金属相によって埋めることができず、密度比を向上させることができなくなるおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、金属粉のメディアン径DMと酸化物粉のメディアン径DOとの比DM/DOを、0.5以上200以下の範囲内に設定している。
【0041】
なお、金属粉のメディアン径DMと酸化物粉のメディアン径DOとの比DM/DOの上限は、150以下とすることが好ましく、100以下とすることがさらに好ましい。
【0042】
(酸化物粉のメディアン径DO)
焼結原料粉において、酸化物粉のメディアン径DOを小さくすることにより、焼結性が向上し、密度比を十分に向上することが可能となる。
そこで、本実施形態では、酸化物粉のメディアン径DOを5μm以下とすることが好ましく、3μm以下とすることがさらに好ましい。
【0043】
(焼結条件)
本実施形態では、焼結温度を1000℃未満としている。これにより、焼結工程S02において、酸化物粉が還元されることを抑制でき、所定の組成、組織のスパッタリングターゲットを製造することが可能となる。
なお、焼結温度の上限は、980℃未満とすることが好ましく、950℃未満とすることがさらに好ましい。一方、焼結温度の下限については、800℃以上とすることが好ましく、850℃以上とすることがさらに好ましい。
【0044】
また、焼結温度での保持時間を0.5時間以上10時間以下の範囲内とすることで、焼結を確実に進行させることが可能となる。
なお、焼結温度での保持時間の下限は、1時間以上とすることが好ましく、2時間以上とすることがさらに好ましい。一方、焼結温度での保持時間の上限は、8時間以下とすることが好ましく、6時間以下とすることがさらに好ましい。
【0045】
さらに、加圧圧力を5MPa以上50MPa以下の範囲内とすることで、密度比を十分に向上させることが可能となる。
なお、加圧圧力の下限は、10MPa以上とすることが好ましく、15MPa以上とすることがさらに好ましい。一方、加圧圧力の上限は、48MPa以下とすることが好ましく、45MPa以下とすることがさらに好ましい。
【0046】
以上のような構成とされた本実施形態であるスパッタリングターゲットによれば、密度比が90%以上とされているので、空孔に起因した異常放電の発生を抑制することができる。
また、酸化物相の面積率が5%以上96%以下の範囲内とされているので、金属相及び酸化物相の面積がそれぞれ確保されており、ターゲットスパッタ面全体で放電状態が安定し、異常放電の発生を抑制することができる。
【0047】
さらに、金属成分としてCuとInを含有し、かつ、金属相と酸化物相との複合組織からなるので、金属成分としてCuとInを含有する酸化物膜をスパッタ成膜することが可能となる。
そして、本実施形態において、金属成分中におけるCuの含有量が10原子%以上90原子%以下の範囲内とされている場合には、上述の組成の酸化物膜を成膜することができ、可視光の反射率が低く、低反射率膜に適した酸化物膜を確実に成膜することが可能となる。
【0048】
また、本実施形態のスパッタリングターゲットにおいて、酸化物相からなる母相に金属相が分散した組織とされており、金属相の平均粒子径が56μm以下である場合には、金属相が局所的に凝集しておらず、ターゲットスパッタ面全体で放電状態が安定し、スパッタ成膜時に異常放電が発生することを抑制でき、安定してスパッタ成膜を行うことが可能となる。
【0049】
あるいは、本実施形態のスパッタリングターゲットにおいて、金属相からなる母相に酸化物相が分散した組織とされており、母相である金属相における平均結晶粒子径が100μm以下である場合には、スパッタが進行した際に金属相の母相に大きな凹凸が生じることを抑制でき、異常放電の発生を抑制することができる。また、加工性が向上することになり、焼結体を加工してスパッタリングターゲットを作製する際の割れの発生を抑制でき、製造歩留を向上させることができる。
【0050】
本実施形態であるスパッタリングターゲットの製造方法によれば、Cu粉及びCu-In合金粉のいずれか一方又は両方からなる金属粉と、CuO粉及びIn2O3粉のいずれか一方又は両方からなる酸化物粉と、を含有し、金属粉のメディアン径DMと酸化物粉のメディアン径DOとの比DM/DOが0.5以上200以下の範囲内とされた焼結原料粉を用いているので、焼結時に、酸化物粉同士の間の空隙を、延性のある金属相が変形しながら埋めることで、焼結時に空孔が排除されることになり、密度比を確実に向上させることができる。
【0051】
また、焼結工程S02において、焼結原料粉を加圧するとともに1000℃未満の温度にまで加熱しているので、焼結温度が比較的低くすることができ、酸化物粉の還元を抑制することができる。さらに、上述の焼結原料粉を用いているので、焼結温度が1000℃未満であっても、密度比を十分に向上させることが可能となる。
【0052】
さらに、本実施形態において、酸化物粉のメディアン径DOを5μm以下とした場合には、酸化物粉同士の接触面積が増加し、焼結性を向上させることができ、密度比をさらに向上させることが可能となる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例】
【0054】
以下に、本発明に係るスパッタリングターゲット、及び、スパッタリングターゲットの製造方法の作用効果について評価した評価試験の結果を説明する。
【0055】
表1に示す金属粉(Cuは純度99.99mass%以上)と酸化物粉(いずれも純度99mass%以上)を準備し、それぞれ表1に示す配合量となるように合計2kgを秤量し、φ5mmのジルコニアボール6kgとともにボールミル容器に投入し、ボールミル装置を用いて混合して焼結原料粉を得た。
なお、金属粉のメディアン径DM、及び、酸化物粉のメディアン径DOは、実施形態の欄に記載した計算式を用いて算出した。
【0056】
そして、得られた焼結原料粉を、ホットプレス用のカーボン製の型に充填し、焼結温度を950℃、焼結温度での保持時間を3時間、加圧圧力を35MPaとして、ホットプレスを行い、焼結体を得た。
そして、得られた焼結体に対して機械加工を行い、直径152.4mm、厚さ6mmのサイズに加工した。これを、Inのはんだ材を用いてバッキングプレートにはんだ付けした。
【0057】
得られたスパッタリングターゲットについて、密度比、スパッタリングターゲット中の金属成分、酸化物相の面積率、母相が酸化物相の場合の金属相の平均粒子径、母相が金属相の場合の金属相における平均結晶粒子径、加工時の割れの発生状況、スパッタ成膜時の異常放電回数、成膜した酸化物膜の反射率について、以下のように評価した。
【0058】
(密度比)
スパッタリングターゲットから10mm×10mm×5mmのサイズのサンプルを採取し、切断面を研磨して、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)装置を用いて3000倍の倍率で組成像を3枚撮影した。組成像において黒色に観察される空孔とそれ以外の部分との比率を画像解析ソフトWinRoof(三谷商事社製)により、面積比率を算出した。黒色以外の部分の割合を密度比として、3枚の画像に対する結果の平均値を表に示した。
【0059】
(スパッタリングターゲットの金属成分)
得られた焼結体から測定試料を1g採取し、ICP-AES装置によって、Cu,Inの金属成分を定量した。得られた金属成分の合計値を全金属成分量とし、下記の式にしたがって、Cuの金属成分値を求めた。また、Inは残部とした。
Cu含有量(原子%)=(Cu定量値)/(全金属成分量)×100
【0060】
(酸化物相の面積率)
得られた焼結体から10mm×10mm×5mmのサイズのサンプルを採取し、切断面を研磨して、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)装置を用いて組成像とCu,In,Oの元素マッピング像から、金属相と酸化物相とを区別し、画像解析ソフトWinRoof(三谷商事社製)により、撮像した画像をモノクロに変換するとともに、色相、明度、彩度を調整した閾値設定で二値化し、画像全体に対する酸化物相の面積率を算出した。
【0061】
(母相が酸化物相の場合の金属相の平均粒子径)
上述の電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)装置による1000倍の組成像の画像解析の結果から、母相が酸化物相であった場合には、金属相の平均粒子径を、当該画像解析の結果から算出した。
【0062】
(母相が金属相の場合の金属相における平均結晶粒子径)
上述の電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)装置による1000倍の組成像の画像解析の結果から、母相が金属相であった場合には、金属相における平均結晶粒子径を、当該画像解析の結果から算出した。
【0063】
(割れの有無)
加工後の焼結体に対して浸透探傷試験を行い、割れの発生状況を評価し、指示模様を目視で評価した。
【0064】
(スパッタ成膜時の異常放電回数)
得られたスパッタリングターゲットを用いて、以下に示す条件で、1時間のスパッタを行い、DC電源装置に備えられているアークカウント機能により、異常放電の回数を計測した。
電源:直流電源
電力:600W
ガス圧:0.2Pa
ガス流量:Ar、50sccm
ターゲット-基板間距離:70mm
基板温度:室温
基板:ガラス基板(商品名:Eagle XG)
【0065】
(酸化物膜の反射率)
ガラス基板上に厚さ200nmの銀膜を成膜し、この銀膜の上に、上述のスパッタリングターゲットを用いて酸化物膜を厚さ50nmで成膜した。
上述のようにガラス基板上に成膜された銀膜と酸化物膜の積層膜について、反射率を測定した。分光光度計(株式会社日立製U4100)を用い、成膜した膜側から400~800nmの波長において測定した。測定された反射率の平均値を「酸化物膜の平均反射率」とした。
【0066】
【0067】
【0068】
金属粉を用いておらず、酸化物相の面積率が100%とされた比較例1においては、密度比が81.2%と低く、異常放電回数が125回と多くなった。また、加工時に割れが確認された。焼結性が不十分であって、内部に空孔が多く存在したためと推測される。
金属粉のメディアン径DMと酸化物粉のメディアン径DOとの比DM/DOが0.3とされた比較例2においては、密度比が87.4%と低く、異常放電回数が64回と多くなった。焼結時に、酸化物粉同士の間の空隙を、延性のある金属相が変形しながら埋めることができず、空孔を効率的に排除することができなかったためと推測される。
【0069】
金属粉のメディアン径DMと酸化物粉のメディアン径DOとの比DM/DOが217とされた比較例3においては、密度比が83.6%と低く、異常放電回数が74回と多くなった。焼結時に、金属粉と接触する酸化物粉の数が少なく、酸化物粉同士の空隙を十分に金属相によって埋めることができなかったためと推測される。
酸化物相の面積率が4.0%とされた比較例4においては、異常放電回数が43回と多くなった。金属相と比較して電気抵抗が高い酸化物相が孤立して存在し、この酸化物相を起因として異常放電が発生したためと推測される。
【0070】
これに対して、金属粉のメディアン径DMと酸化物粉のメディアン径DOとの比DM/DOを0.5以上200以下の範囲内とし、密度比が90%以上、酸化物相の面積率が5%以上96%以下の範囲内とされた本発明例1-8においては、異常放電回数が15回以下と少なく、加工時の割れも確認されなかった。本発明例9においては、母相金属の平均粒子径が111μmと比較的大きかったため、加工後の割れが認められたものの、異常放電への影響はみられなかった。また、本発明例1-9においては、成膜した酸化物膜の平均反射率が21%以下であり、低反射率膜として使用可能な酸化物膜を成膜することができた。
なお、本発明例3と本発明例7とを比較すると、母相が酸化物相の場合の金属相の平均粒子径を56μm以下とすることで、異常放電の発生をさらに抑制できることが確認された。また、本発明例8は、密度比が他の本発明例よりも低いため、異常放電回数が若干多くなった。
【0071】
以上のことから、本発明例によれば、密度比が十分に高く、酸化物膜を安定してスパッタ成膜が可能なスパッタリングターゲット、及び、このスパッタリングターゲットの製造方法を提供できることが確認された。
【符号の説明】
【0072】
11 酸化物相
12 金属相