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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/20 20060101AFI20220531BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20220531BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20220531BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
C08J3/20 CFD
C08L1/02 ZBP
C08L67/04
C08L101/16
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018172162
(22)【出願日】2018-09-14
(65)【公開番号】P2020045374
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】河向 隆
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-131700(JP,A)
【文献】特開2017-128717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/20
C08L 1/02
C08L 67/04
C08L 101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細セルロース繊維と、生分解性樹脂と、を溶融混練する樹脂組成物の製造方法において、前記微細セルロース繊維は、平均繊維幅2~10000nm、且つ、平均繊維長0.1~2.0mmであり、前記微細セルロース繊維は粉末状物であり、その粉末状物は水を加えて調整された水分を含み、粉末状物の水分の割合が10~90質量%であり、前記微細セルロース繊維の粉末状物は、セルロースのシート状物を細片化したものであり、前記シート状物の水分含有率が20~90質量%であり、前記溶融混練は、前記微細セルロース繊維の粉末状物が含む水が亜臨界状態となる温度及び圧力条件下で溶融混練を行う、ことを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記微細セルロース繊維の粉末状物は、微細繊維化したセルロース繊維のシート状物を細片化したものである、請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記生分解性樹脂は予めペレット化されたものである、請求項1または2に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記生分解性樹脂がポリ乳酸である請求項1~の何れか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
セルロース繊維を含むパルプを微細化する微細化工程と、
前記微細化処理したセルロース繊維を水分含有率が20~90質量%であるシート状にするシート化工程と、
前記シート状の微細セルロース繊維を粉末状にする粉末状化工程と、
前記微細セルロース繊維の粉末状物の水分を調節する水分調整工程と、
前記微細セルロース繊維の粉末状物と、樹脂を、亜臨界状態で溶融混練工程と
を有する樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物の製造方法に関するものであり、更に詳しくは、微細セルロース繊維と生分解性樹脂を含む樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂からなる成形品の機械的物性を向上させる目的で、当該熱可塑性樹脂にセルロース繊維を混練した樹脂組成物を成形材料とすることが行われている。例えば、特許文献1には、セルロース繊維の高い親水性を利用して、水にセルロース繊維を分散させた状態で、加熱溶融した熱可塑性樹脂に混練する方法が開示されている。また、特許文献2には、セルロース繊維を直接に溶融した第1の熱可塑性樹脂に溶融混練した後、ペレット化し、第2の熱可塑性樹脂のペレットとドライブレンドして、再度溶融混練するという、少なくとも二段階の溶融混練工程を経る方法が開示されている。
【0003】
一方で、プラスチックスの分野では環境に対する影響の面から生分解性樹脂や海水分解性樹脂が近年注目されている。しかしながら生分解性樹脂等は強度特性や耐熱性が低かったり、成形サイクルタイムが長いといった欠点がある。
【0004】
上記、生分解性樹脂の欠点を補うためセルロース系材料と生分解性樹脂を複合化した技術がある。特許文献3には、ポリ乳酸樹脂、植物繊維、粉末セルロースを含むポリ乳酸樹脂組成物が開示されている。特許文献4には生分解性樹脂、及び結晶化度が50%未満であるセルロースを含有する生分解性樹脂組成物が開示されている。特許文献5には、ポリ乳酸樹脂及び結晶化度が50%未満のセルロースを含む組成物用を特定の溶融混練装置を用いた製造方法が開示されている。特許文献6にはポリ乳酸75重量%以上を含み、0.05~10重量%のセルロースナノ繊維を含む組成物が開示されている。特許文献7には、水分の割合は10~60質量%であり、水が亜臨界状態となる温度及び圧力条件下で、溶融混練を行う、微細セルロース繊維含有樹脂組成物の製造方法が開示されている。特許文献8には、特定のセルロース繊維含有シートを粉砕したものと樹脂を含んだ組成物が開示されている。
しかし、いずれの技術においても生産性が高く、剛性や耐熱性が十分なセルロース含有の生分解性樹脂組成物は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5211571号公報
【文献】特許第5169188号公報
【文献】特開2007-138106号公報
【文献】特開2011-006712号公報
【文献】特開2011-152787号公報
【文献】再公表2007/136086
【文献】特開2017-128717号公報
【文献】特開2018-131700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリ乳酸等の生分解性樹脂の分野においては、生分解性を損なうことなく剛性や耐熱性に優れた樹脂複合体の開発が求められている。
【0007】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、複合化を行う際の生産効率に優れ、剛性や耐熱性に優れた微細セルロース繊維と生分解性樹脂を含有する組成物の製造方法を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、特定の微細セルロース繊維を含むシートを粉砕した粉末状物と生分解性樹脂を水分を含んだ状態で、かつ、亜臨界状態となる温度および圧力で溶融混練することで、生産効率に優れ、かつ剛性や耐熱性に優れた樹脂複合体を成形し得る樹脂組成物が得られることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0009】
[1] 微細セルロース繊維と、生分解性樹脂と、を溶融混練する樹脂組成物の製造方法において、前記微細セルロース繊維は、平均繊維幅2~15000nm、且つ、平均繊維長0.1~2.0mmであり、前記微細セルロース繊維は粉末状物であり、その粉末状物は水分を含み、粉末状物の水分の割合が10~90質量%であり、前記溶融混練は、前記微細セルロース繊維の粉末状物が含む水が亜臨界状態となる温度及び圧力条件下で溶融混練を行う、ことを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
[2] 前記微細セルロース繊維の粉末状物は、セルロースのシート状物を細片化したものである、[1]に記載の樹脂組成物の製造方法。
[3] 前記微細セルロース繊維の粉末状物は、フィブリル化したセルロース繊維のシート状物を細片化したものである、[1]または[2]に記載の樹脂組成物の製造方法。
[4] 前記生分解性樹脂は予めペレット化されたものである、[1]~[3]の何れか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
[5] 前記生分解性樹脂がポリ乳酸である[1]~[4]の何れか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
[6] セルロース繊維を含むパルプを微細化する微細化工程と、
前記微細化処理したセルロース繊維をシート状にするシート化工程と、
前記シート状の微細セルロース繊維を粉末状にする粉末状化工程と、
前記微細セルロース繊維の粉末状物の水分を、必要に応じて調節する水分調整工程と、
前記微細セルロース繊維の粉末状物と、樹脂を、亜臨界状態で溶融混練工程と
を有する樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、樹脂中の微細セルロース繊維の分散性を極めて高くすることができ、優れた剛性と耐熱性を有する機械部品等の成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
<微細セルロース繊維>
(微細セルロース繊維の物性)
溶融混練に用いる微細セルロース繊維は、平均繊維幅2~15000nm、且つ、平均繊維長0.1~2.0mmの微細セルロース繊維であり、微細セルロース繊維は粉末状物であり、その粉末状物は水分を含み、粉末状物の水分の割合が10~90質量%である。
【0013】
微細セルロース繊維は、後述の方法により測定された平均繊維幅が2~15000nmである微細なセルロース繊維である。微細セルロース繊維は、I型(平行鎖)の結晶構造のセルロース分子の集合体であることが好ましい。微細セルロース繊維の平均繊維幅は、4~12000nmが好ましく、20~10000nmがより好ましく、50~8000nmがさらに好ましい。 平均繊維幅が2nm以上であれば、セルロース分子として水に溶解することを抑制できるため、微細繊維としての物性(強度や剛性、寸法安定性)を容易に発現できる。特に平均繊維幅が10000nm以下とすると、通常の製紙用のパルプに含まれる繊維の繊維幅よりも顕著に幅が狭くなり、通常の製紙用パルプとは異なる特性を発揮する。微細セルロース繊維の平均繊維幅が上記範囲内にある場合、全ての微細セルロース繊維が上記繊維幅の範囲内にある必要はなく、一部の微細セルロース繊維は繊維幅が上限を超えてもよいし、下限未満であってもよい。すなわち、太い繊維や細い繊維が混在してもよい。
【0014】
平均繊維幅の測定は以下の方法で行う。固形分濃度0.05~0.1質量%の微細セルロース繊維の水系懸濁液を調製し、前記懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストして電子顕微鏡観察用試料とする。構成する微細セルロース繊維の幅に応じた倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。ここで「幅」とは、微細セルロース繊維の端から端までの距離であって短い方の距離を意味する。ただし、試料、観察条件や倍率は下記の条件(1)、(2)を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、前記直線Xに対し、20本以上の微細セルロース繊維が交差する。
(2)同じ画像内で前記直線と垂直に交差する直線Yを引き、前記直線Yに対し、20本以上の微細セルロース繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する微細セルロース繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組、異なる観察画像を3枚以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する微細セルロース繊維の幅を読み取る。このようにして少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。本発明における繊維幅は、このように読み取った繊維幅の平均値である。
【0015】
微細セルロース繊維の、後述の方法により測定される平均繊維長は0.1mm~2.0mmである。平均繊維長は0.1mm~1.0mmが好ましく、0.3mm~0.6mmがより好ましい。微細セルロース繊維の平均繊維長が前記下限値以上であれば、繊維による補強効果により微細セルロース繊維含有樹脂組成物の強度をより向上させやすくなる。前記上限値以下であれば、後段の溶融混練工程において、微細セルロース繊維の分散性が良好となる。さらに微細セルロース繊維含有樹脂組成物の強度をより向上させることができる。
【0016】
平均繊維長の測定は、長さ加重平均繊維長の測定により求められる。例えば、カヤーニオートメーション社のカヤーニ繊維長測定器(FS-200形)を用いて測定することができる。なお、平均繊維長の測定は上記の装置に限られず、同等品を使用して測定することもできる。少なくとも120本の微細セルロース繊維の繊維長を測定し、その平均値を平均繊維長とする。
【0017】
微細セルロース繊維の軸比(長軸/短軸)は20~10000の範囲であることが好ましい。軸比が20以上であると、成形物を形成し易くなり、軸比が10000以下であると、繊維スラリーの粘度が過度に高くなることを防止できる。また、軸比が20~10000の範囲であると、後述する混合分散液を抄紙する工程において、濾水性を高く維持することができる。本実施形態における軸比は、カヤーニオートメーション社のカヤーニ繊維長測定器(FS-200形)を用いて求めた平均繊維長測定値と、電子顕微鏡観察により求めた平均繊維幅とにより求めた値である。ここで「長軸」とは、平均繊維長を意味し、「短軸」とは、平均繊維幅を意味する。
【0018】
(微細化工程)
セルロース繊維を微細化する方法としては、公知の粉砕機や製紙用叩解機を使用した方法を挙げることができる。例えば、湿式粉砕または乾式粉砕によってセルロース繊維を微細化し、セルロース繊維同士を解離する方法が挙げられる。詳細な微細化処理については、例えば、国際公開第2013/137449号の段落0032~0035に記載されており、当該記載を参照して行うことができる。本発明においては製紙用叩解機、特にリファーナーやビーターが好ましく、水でセルロースを希釈、膨潤させて叩解することが特に好ましい。
【0019】
微細化は、下記測定方法(a)で測定した際のフリーネスで100~500mlとなるようにセルロース繊維を叩解することが好ましい。
測定方法(a)は、「0.3g法」や「変則フリーネス測定方法」とも呼ばれる方法で、水分散体中に含まれる微細セルロース繊維の含有量を絶乾質量で0.3gとなるように調整し、カナダ標準ろ水度試験機に装着するふるい板としてステンレスワイヤー製の80メッシュのふるい板を用いる以外は、JIS P 8121-2(2012)に準拠して水分散体のフリーネスを測定する。
【0020】
測定方法(a)で測定した際の水分散体のフリーネスは、100~500mlであればよく、150~450mlであることが好ましく、200~400mlであることがより好ましい。測定方法(a)で測定した際の水分散体のフリーネスを上記範囲内とすることにより、樹脂成分と均一に混合することが容易となる。さらに、測定方法(a)で測定した際の水分散体のフリーネスを上記範囲内とすることにより、樹脂複合体(成形体)とした際の剛性や耐熱性を高め、樹脂複合体(成形体)の外観を良好なものとすることができる。
【0021】
セルロース繊維の微細化処理の前または後で、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルラジカル)酸化処理、リンのオキソ酸処理などの化学変性処理、オゾン処理、クラフト処理、スルファイト処理、漂白処理、酵素処理を施してもよい。
【0022】
微細セルロース繊維を得るためのセルロース繊維原料としては、パルプ(セルロース繊維含有材料)を用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプが挙げられる。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられる。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。
中でも、セルロース繊維原料はバージンパルプであることが好ましい。ここで、バージンパルプとは、製紙された履歴を有しないパルプを意味する。
【0023】
(シート化工程)
上記微細セルロース繊維は、一旦シート状に加工され、微細セルロース繊維含有シートとすることが好ましい。シート状にする方法については特に限定するものではないが、例えば微細セルロース繊維を含有するスラリーを用い、通常の抄紙方法で抄紙する。この場合、スラリーの固形分濃度は0.1~10.0質量%であることが好ましく、0.5~5.0質量%であることがより好ましい。微細セルロース繊維含有のスラリーの固形分濃度が前記下限値以上であれば、後述する粉末状化する工程において微細セルロース繊維を充分に含む粉末状物を容易に製造できる。前記上限値以下であれば、微細セルロース繊維を含有するスラリーが凝集塊を形成することを防止できる。微細セルロース繊維のスラリーには、必要に応じて、サイズ剤や紙力増強剤などの公知の製紙用薬品が含まれてもよい。
【0024】
微細セルロース繊維含有シートの水分含有率は、10~90質量%であればよく、12~80質量%であることが好ましく、15~70質量%であることがより好ましい。微細セルロース繊維含有シートの水分含有率を10質量%以上とすることにより、セルロース繊維間に強固な水素結合が形成されることを抑制することができ、結果として樹脂との混合を容易にすることができる。また、微細セルロース繊維含有シートの水分含有率を90質量%以下とすることにより、抄紙時にシートが破断することを抑制でき、また、樹脂成分との混合を容易にすることができる。また、水分が過剰であると、樹脂との混練時の生産性が低下する傾向にある。
【0025】
微細セルロース繊維含有シートの水分含有率は、所定の大きさに裁断した微細セルロース繊維含有シートの乾燥前後の重量を測定することで算出できる。具体的には、裁断後の微細セルロース繊維含有シートの乾燥前の重量を測定し、その後、裁断後の微細セルロース繊維含有シートを110℃で3時間乾燥し、乾燥後の重量を測定する。水分含有率は以下の式により算出される。
水分含有率(%)=(乾燥前重量-乾燥後重量)/乾燥前重量×100
【0026】
微細セルロース繊維含有シートの密度は、0.55~1.05g/cmであることが好ましく、0.65~1.00g/cmであることがより好ましく、0.70~0.95g/cmであることが更に好ましい。微細セルロース繊維含有シートの密度を上記範囲内とすることにより、粉砕を容易に行うことができ、かつ樹脂成分との均一混合を容易に行うことができる。また、微細セルロース繊維含有シートの密度を上記範囲内とすることにより、ロール状体の巻取りとする際にシートが破断することを抑制することもできる。
【0027】
従来、微細セルロース繊維の水分散体から粉末を製造する際には、大量の水を含む水分散体から水分を除く工程を設ける必要があった。また、微細セルロース繊維の水分散体を用いて樹脂複合体を製造する際には、樹脂成分との混練が困難であったり、水分散体を濃縮する工程で微細セルロース繊維が凝集することがあり、樹脂成分中に微細セルロース繊維が均一に分散しないという問題があった。一旦、水分含有率が10~90質量%である微細セルロース繊維含有シートを形成することにより、従来の微細セルロース繊維の水分散体の水分含有率(通常90~99.9%)と比較して大幅に少なくなっている。このため、微細セルロース繊維含有シートから粉末化する際にかかるエネルギーを少なく抑えることができ、粉末の生産効率を格段に高めることができる。また、微細セルロース繊維含有シートを粉砕して、樹脂と混練溶融することで、樹脂成分に微細セルロース繊維を均一に分散させることが容易となる。このように、微細セルロース繊維含有シートを形成することにより、粉末化や複合化を効率良く行うことができるので好ましい。
微細セルロース繊維含有シートの坪量は、1.0~1000g/mが好ましく、5.0~500g/mがより好ましく、10.0~100g/mがさらに好ましい。微細セルロース繊維シートの坪量が前記下限値以上であれば、充分なシート強度を確保でき、連続生産しやすくなり、前記上限値以下であれば、微細セルロース繊維含有シートを後段での粉末状化することが容易になる。
【0028】
微細セルロース繊維含有シートは、シートを連続して巻き取ったロール状体(巻取り)であってもよく、枚葉状体(平判)であってもよい。このため、微細セルロース繊維含有シートは、ハンドリング性に優れ、輸送しやすいという利点を有する。また、微細セルロース繊維含有シートを製造する際には、従来の紙製品やシートを製造する搬送装置等をそのまま用いることができるため、設備投資等にかかるコストを抑制することができる。得られた微細セルロース繊維含有シートは、フィルムや包装紙で包装することができる。包装しておくと、次の粉末状化工程に移るまでの間の水分蒸発を防ぐだけでなく、異物の混入を防ぐことができる。異物の混入は、得られる樹脂組成物、或いは樹脂組成物を用いた成形体の品質の低下や異常を起こすおそれがある。
【0029】
(粉末状化工程)
本発明で使用する微細セルロース繊維は、溶融混練する際に粉末状であることにより、生分解性樹脂と、より容易に均一に分散させることができる。この結果、得られる樹脂組成物の剛性や耐熱性をより向上させることができる。粉末状物とは、必ずしも微細セルロース繊維の全てが粉末である必要はない。
粉末状物の粒子径(長径)は10mm以下、0.1mm以上が50%以上含まれることが好ましい。7mm以下、0.3mm以上がさらに好ましく、5mm以下、0.5mm以上が特に好ましい。粉末状物の粒子径が10mmを超えると樹脂中での分散性が悪くダマになりやすい。粉末状物の粒子径が0.1mm以下のものは粉末状物の生産性が低くなったり、粉砕エネルギーで水分が蒸発し、微細セルロース繊維同士が凝集しやすくなり、樹脂中での分散性が悪くなる。
【0030】
微細セルロース繊維の粉末状物を得る方法は特に限定しないが、微細セルロース繊維含有シートを細片化する方法が好ましい。例えば、微細セルロース繊維含有シートを裁断、粉砕等を行う方法が挙げられる。前記裁断又は粉砕は、例えば、アトマイザー、カッターミル、ビーズミル、ボールミル、ジェットミルなどの公知の粉砕機やシュレッダーを使用して行うことができる。
【0031】
粉末状物の平均粒子径は、光学顕微鏡などで撮影した画像を画像解析して測定することができる。また、ヴァーダーサイエンティフィック(株)製のカムカイザーP4や(株)セイシン企業製のPITAー04などでも測定可能である。
得られた微細セルロース繊維の粉末状物を保管する場合、不純物の混入や水分の蒸発を防ぐため、容器等に保管してもよい。
【0032】
<生分解性樹脂>
本発明における「生分解性」とは、自然界において微生物によって低分子化合物に分解され得る性質のことであり、具体的には、JISK6953(ISO14855)「制御された好気的コンポスト条件の好気的かつ究極的な生分解度及び崩壊度試験」に基づいた生分解性のことを意味する。
生分解性樹脂としては、生分解性を有する樹脂であれば特に限定されるものではないが、微細セルロース繊維との親和性に優れるポリエステル系樹脂が好ましい。ポリエステル系樹脂は適度な極性と親水性があるため微細セルロース繊維との親和性に優れると考えられる。
【0033】
生分解性を有するポリエステル樹脂としては、ポリヒドロキシブチレート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリ乳酸樹脂、ポリリンゴ酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリ(2-オキセタノン)等の脂肪族ポリエステル樹脂;ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレンアジペート/テレフタレート等の脂肪族芳香族コポリエステル樹脂;デンプン、セルロース、キチン、キトサン、グルテン、ゼラチン、ゼイン、大豆タンパク、コラーゲン、ケラチン等の天然高分子と上記の脂肪族ポリエステル樹脂あるいは脂肪族芳香族コポリエステル樹脂との混合物等が挙げられる。これらのなかで、加工性、経済性、大量に入手できることなどから、脂肪族ポリエステル樹脂が好ましく、物性の観点からポリ乳酸樹脂がより好ましい。
【0034】
ポリ乳酸樹脂は、原料モノマーとして乳酸成分のみを縮重合させて得られるポリ乳酸、及び/又は、原料モノマーとして乳酸成分とヒドロキシカルボン酸成分とを用い、それらを縮重合させて得られるポリ乳酸を含有する。
【0035】
乳酸には、L-乳酸(L体)、D-乳酸(D体)の光学異性体が存在する。本発明では、乳酸成分として、いずれかの光学異性体のみ、又は双方を含有してもよいが、成形性の観点から、いずれかの光学異性体を主成分とする光学純度が高い乳酸を用いることが好ましい。
【0036】
L体又はD体の含有量、即ち、前記異性体のうちいずれか多い方の含有量は、乳酸成分中、80~100モル%が好ましく、90~100モル%がより好ましく、98~100モル%がさらに好ましい。なお、乳酸成分におけるL体及びD体の総含有量は、実質的に100モル%であることが好ましいことから、前記異性体のうちいずれか少ない方の含有量は、乳酸成分中、0~20モル%が好ましく、0~10モル%がより好ましい。
【0037】
乳酸成分のみを縮重合させる場合の乳酸成分におけるL体又はD体の含有量、即ち、前記異性体のうちいずれか多い方の含有量は、80~100モル%が好ましく、90~100モル%がより好ましく、98~100モル%がさらに好ましい。なお、乳酸成分におけるL体及びD体の総含有量は、実質的に100モル%であることから、前記異性体のうちいずれか少ない方の含有量は、乳酸成分中、0~20モル%が好ましく、0~10モル%がより好ましく、0~2モル%がさらに好ましい。
【0038】
乳酸成分とヒドロキシカルボン酸成分とを縮重合させる場合の乳酸成分におけるL体又はD体の含有量、即ち、前記異性体のうちいずれか多い方の含有量は、85~100モル%が好ましく、90~100モル%がより好ましい。なお、乳酸成分におけるL体及びD体の総含有量は、実質的に100モル%であることから、前記異性体のうちいずれか少ない方の含有量は、乳酸成分中、0~15モル%が好ましく、0~10モル%がより好ましい。
【0039】
一方、ヒドロキシカルボン酸成分としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸等のヒドロキシカルボン酸化合物が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせて利用することができる。これらのなかでも、生分解性樹脂組成物の強度と可撓性の両立、耐熱性、及び透明性の観点から、グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸が好ましい。
【0040】
また、本発明においては、上記乳酸及びヒドロキシカルボン酸化合物の2量体が、それぞれの成分に含有されてもよい。乳酸の2量体としては、乳酸の環状二量体であるラクチドが例示され、ヒドロキシカルボン酸化合物の2量体としては、グリコール酸の環状二量体であるグリコリドが例示される。なお、ラクチドにはL-乳酸の環状二量体であるL-ラクチド、D-乳酸の環状二量体であるD-ラクチド、D-乳酸とL-乳酸とが環状二量化したメソ-ラクチド、及びD-ラクチドとL-ラクチドとのラセミ混合物であるDL-ラクチドがあり、本発明ではいずれのラクチドも用いることができるが、生分解性樹脂組成物の強度と可撓性の両立、耐熱性、及び透明性の観点から、D-ラクチド及びL-ラクチドが好ましい。なお、乳酸の2量体は、乳酸成分のみを縮重合させる場合、及び乳酸成分とヒドロキシカルボン酸成分とを縮重合させる場合、いずれの乳酸成分に含有されていてもよい。
【0041】
乳酸の2量体の含有量は、生分解性樹脂組成物の強度と可撓性の両立の観点から、乳酸成分中、80~100モル%が好ましく、90~100モル%がより好ましい。
【0042】
ヒドロキシカルボン酸化合物の2量体の含有量は、生分解性樹脂組成物の強度と可撓性の両立の観点から、ヒドロキシカルボン酸成分中、80~100モル%が好ましく、90~100モル%がより好ましい。
【0043】
乳酸成分のみの縮重合反応、及び、乳酸成分とヒドロキシカルボン酸成分との縮重合反応は、特に限定はなく、公知の方法を用いて行うことができる。
【0044】
かくして、原料モノマーを選択することにより、例えば、L-乳酸又はD-乳酸いずれかの成分85モル%以上100モル%未満とヒドロキシカルボン酸成分0モル%超15モル%以下からなるポリ乳酸が得られるが、なかでも、乳酸の環状二量体であるラクチド、グリコール酸の環状二量体であるグリコリド及びカプロラクトンを原料モノマーとして用いて得られるポリ乳酸が好ましい。
【0045】
また、本発明において、ポリ乳酸として、生分解性樹脂組成物の強度と可撓性の両立、耐熱性の観点から、異なる異性体を主成分とする乳酸成分を用いて得られた2種類のポリ乳酸からなるステレオコンプレックスポリ乳酸を用いてもよい。
【0046】
ステレオコンプレックスポリ乳酸を構成する一方のポリ乳酸〔以降、ポリ乳酸(A)と記載する〕は、L体90~100モル%、D体を含むその他の成分0~10モル%を含有する。他方のポリ乳酸〔以降、ポリ乳酸(B)と記載する〕は、D体90~100モル%、L体を含むその他の成分0~10モル%を含有する。なお、L体及びD体以外のその他の成分としては、2個以上のエステル結合を形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等が挙げられ、また、未反応の前記官能基を分子内に2つ以上有するポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等であってもよい。
【0047】
ステレオコンプレックスポリ乳酸における、ポリ乳酸(A)とポリ乳酸(B)の重量比〔ポリ乳酸(A)/ポリ乳酸(B)〕は、10/90~90/10が好ましく、20/80~80/20がより好ましく、40/60~60/40がさらに好ましい。
【0048】
ポリ乳酸樹脂における、ポリ乳酸の含有量は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは実質的に100重量%であることが望ましい。
【0049】
なお、ポリ乳酸樹脂は、上記方法により合成することができるが、市販の製品としては、例えば、レイシアH-100、H-280、H-400、H-440等の「レイシアシリーズ」(三井化学社製)、3001D、3051D、4032D、4042D、6201D、6251D、7000D、7032D等の「Nature Works」(ネイチャーワークス社製)、エコプラスチックU’z S-09、S-12、S-17等の「エコプラスチックU’zシリーズ」(トヨタ自動車社製)、テラマックTE-2000(ユニチカ製)が挙げられる。これらのなかでも、生分解性樹脂組成物の強度と可撓性の両立、及び耐熱性の観点から、レイシアH-100、H-280、H-400、H-440(三井化学社製)、3001D、3051D、4032D、4042D、6201D、6251D、7000D、7032D(ネイチャーワークス社製)、エコプラスチックU’z S-09、S-12、S-17(トヨタ自動車社製)、テラマックTE-2000(ユニチカ製)が好ましい。
【0050】
<溶融混練工程>
溶融混練工程は、前述した所定の含水率の微細セルロース繊維の粉末状物と生分解性樹脂とを、当該微細セルロース繊維の粉末状物に含まれる水が亜臨界状態となる温度及び圧力条件下で、溶融混練する工程である。
【0051】
具体的な方法としては、例えば、微細セルロース繊維の粉末状物と生分解性樹脂とを各々計量して所定の割合で混合し、亜臨界状態の水を形成可能な耐熱圧チャンバーに投入して溶融混練する方法が挙げられる。
【0052】
溶融混練される微細セルロース繊維粉末状物の含水率(微細セルロース繊維及び水分の合計に対する水分の割合)は、10~90質量%であり、12~80質量%が好ましく、15~70質量%がより好ましい。上記下限値以上であると、亜臨界状態の水分が、微細セルロース繊維を生分解性樹脂に対して分散させる効率がより高められる。上記上限値以下であると、溶融混練時の発生熱量が過剰となることを防止し、微細セルロース繊維の分解を抑制することができる。さらに、微細セルロース繊維を生分解性樹脂に分散させる役割を果たした水分を、微細セルロース含有樹脂組成物から除去する手間が少なくなり生産効率が向上する。
【0053】
溶融混練される微細セルロース繊維粉末状物の含水率は、溶融混練を行う直前の微細セルロース繊維粉末状物の含水率である。上記好ましい含水率に調整するために、溶融混練する前の微細セルロース繊維粉末状物を乾燥、加湿などの水分調節工程を有しても良い。例えば、溶融混練する前に微細セルロース繊維粉末状物に所定の水を加え、ブレンダーなどの攪拌機により一定時間攪拌して水分を調整してもかまわない。
【0054】
微細セルロース繊維粉末状物(固形分換算)と生分解性樹脂との混合割合は、目的の物性や生分解性樹脂が有する物性に応じて適宜設定される。例えば、生分解性樹脂100質量部(固形分)に対して微細セルロース粉末状物の配合量(固形文換算)は1~100質量部(固形分)であることが好ましく、5~90質量部がより好ましく、10~80質量部がさらに好ましい。
微細セルロース繊維の粉末状物の配合量が前記下限値以上であれば、生分解性樹脂を充分に強化することができ、前記上限値以下であれば、得られる微細セルロース繊維含有樹脂組成物の靭性を充分に維持できる。
【0055】
微細セルロース繊維粉末状物と生分解性樹脂との混合に際しては、例えば、タンブラーミキサー、ヘンシェルミキサーなどを使用することができる。この際に各種添加剤を同時に混合してもよい。添加剤として、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、填料、顔料、染料、帯電防止剤、滑剤、可塑剤などが挙げられる。
【0056】
混合した各材料を溶融混練する装置としては、微細セルロース繊維の粉末状物に含まれる水を亜臨界状態にするとともに、微細セルロース繊維と生分解性樹脂とを溶融混練することが可能な耐熱圧チャンバーを備えた装置が好ましい。このような装置としては、例えば、外部から圧力および熱量を加える形式の加圧可能な加熱炉をチャンバーとして、当該チャンバー内で撹拌をしながら溶融混練する公知の装置が適用可能である。なかでも、任意のタイミングでチャンバー内の水分を気化させて除去する機構を備えた装置がより好ましい。
【0057】
溶融混練の際のチャンバー内の温度は、100℃超300℃以下が好ましく、150℃以上250℃以下がより好ましい。溶融混練時のチャンバー内の圧力は、溶融混練温度における飽和水蒸気圧以下であり、0.5MPa~25MPaが好ましく、1MPa~20MPaがより好ましい。上記温度範囲及び圧力範囲の下限値以上であると、微細セルロース繊維の粉末状物に含まれる水を亜臨界状態にすることが容易になり、生分解性樹脂に対する微細セルロース繊維の分散性をより向上させることができる。上記温度範囲及び圧力範囲の上限値以下であると、微細セルロース繊維又は生分解性樹脂が分解して、目的の樹脂組成物の強度を向上させるために必要な繊維強度又は樹脂強度が失われることを充分に抑制することができる。なお、本発明における好適な水の亜臨界状態は、100℃超300℃以下及び0.5~25MPaであり、より好適な水の亜臨界状態は、150℃以上250℃以下及び1MPa~20MPaである。
【0058】
溶融混練の時間としては、1~60分が好ましく、2~30分がより好ましく、3~15分がさらに好ましい。上記下限値以上であると、生分解性樹脂中に微細セルロース繊維を充分均一に分散させることができる。上記上限値以下であると、生分解性樹脂や微細セルロース繊維の分解を充分に抑制することができる。
【0059】
溶融混練の完了を判断する指標の一つとして、溶融混練時の撹拌に要するトルクを測定し、そのトルクが最大値となった後に、トルクが低下することが挙げられる。
【0060】
溶融混練によって微細セルロース繊維と生分解性樹脂とが均一に混合した後においては、チャンバー内の水分を除去することが好ましい。チャンバーの温度及び圧力を水の臨界点から充分に下げて、水を蒸気化することによって、チャンバー内から水分を除去することができる。
【0061】
溶融混練の終了後、チャンバー内から目的の微細セルロース繊維溶融樹脂組成物を取り出す。取り出し時の温度は特に限定されないが、チャンバー内に生分解性樹脂が付着して残存することを防止するために、生分解性樹脂の融点以上の温度であることが好ましい。取り出した微細セルロース繊維含有樹脂組成物を押出機へ供給し、押出機のダイから棒状に吐出し、冷却し、裁断して、ペレット状に成形することが好ましい。
【0062】
<作用機序>
溶融混練工程における溶融混練のメカニズムの詳細は未解明であるが、次のように推測される。チャンバー内で亜臨界状態となった水は活性化され、その比誘電率が低下し、イオン積が増大する。この様に活性化した水は、互いに凝集した微細セルロース繊維を解繊し、モノフィラメントにするとともに、それらの再凝集を防ぐ。さらに、活性化した水は生分解性樹脂を単一のポリマー分子鎖に近い状態に分散する。この結果、分散されたポリマー分子と微細セルロース繊維のモノフィラメントとがチャンバー内で撹拌され、効率良く混合されることによって、均一に分散して混ざり合った微細セルロース繊維含有樹脂組成物が得られると推測される。
本発明の製造方法によれば、優れた剛性と耐熱性を有する微細セルロース繊維と生分解性樹脂を含む樹脂組成物が得られる。この理由として、溶融混練時の微細セルロース繊維粉末状物の含水率を適切に制御することによって、微細セルロース繊維の劣化や分解を抑制しつつ、生分解性樹脂中に極めて高い分散性で微細セルロース繊維を混練できることが考えられる。
溶融混練の際、微細セルロース繊維粉末状物の含水率が少ないと、微細セルロース繊維と生分解性樹脂との混練に寄与する活性化した水の量が少なくなり、分散性が劣ると考えられる。逆に、含水率が多くなり過ぎると、発生熱量及び活性化した水分量が過多になり、微細セルロース繊維や生分解性樹脂が分解したり劣化したりすると考えられる。分散性が低くなったり、微細セルロース繊維あるいは生分解性樹脂が分解又は劣化したりすると、微細セルロース繊維含有樹脂組成物の機械的強度を高めることは困難である。
【0063】
前述した特許文献1,2には、下記の問題があったと考えられる。
文献1(特許第5211571号公報)の方法では、熱可塑性樹脂に対してセルロース繊維とともに大量の水を混練し、混練中に気化させているため、発生熱量が多くなるので、セルロース繊維が劣化していると考えられる。
文献2(特許第5169188号公報)の方法では、セルロース繊維を第1の熱可塑性樹脂に溶融混練した後、これをペレット化し、これを第2の熱可塑性樹脂のペレットとドライブレンドして、再度溶融混練するという、少なくとも二段階の溶融混練工程を経るため、セルロース繊維が劣化していると考えられる。また、水に分散させずにセルロース繊維を溶融混練しているため、樹脂中のセルロース繊維の分散性が劣ると考えられる。
【0064】
なお、特許第4950939号公報の方法では、セルロース繊維同士が脱水結合した状態のパルプを亜臨界水で処理して、セルロース繊維を分解して熱可塑性樹脂に混練している。この文献の記載から明らかなように、亜臨界状態の水でセルロース繊維を混合すると、通常はセルロース繊維が分解してしまう。しかし、本発明の製造方法においては、上述した様に微細セルロース繊維粉末状物の含水率を調整しているため、微細セルロース繊維の分解を抑制しつつ、生分解性樹脂に微細セルロース繊維を高い分散度で溶融混練することができる。
【0065】
<微細セルロース繊維含有樹脂組成物>
以上説明した製造方法において、微細セルロース繊維粉末状物と、水分と、生分解性樹脂とを含む混合物が、水の亜臨界状態となる温度及び圧力条件下で溶融混練されることによって、樹脂中に微細セルロース繊維が分散されてなる樹脂組成物が得られる。
【0066】
<微細セルロース繊維含有樹脂組成物の製造プロセス>
以上説明したように、微細セルロース繊維含有樹脂組成物の製造プロセスとしては、
セルロース繊維を含むパルプを微細化する微細化工程と、
前記微細化処理したセルロース繊維をシート状にするシート化工程と、
前記シート状の微細セルロース繊維を粉末状にする粉末状化工程と、
前記微細セルロース繊維の粉末状物の水分を、必要に応じて調節する水分調整工程と、
前記微細セルロース繊維の粉末状物と、樹脂を、亜臨界状態で溶融混練工程と
を少なくとも有する。
【0067】
<成形体>
本発明の微細セルロース繊維含有樹脂組成物は成形体の材料として用いることができる。
微細セルロース繊維含有樹脂組成物を用いた成形体を製造する方法は特に制限されず、例えば、射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形などを適用することができる。
【実施例
【0068】
以下、本発明の実施例を示す。なお、以下の例における「%」は「質量%」、「部」は
「質量部」のことである。
実施例2及び5は参考例である。

【0069】
[実施例1]
・微細セルロース繊維含有シートの粉末状物の製造
針葉樹晒クラフトパルプ(王子製紙株式会社製、水分含有率50質量%)に水を加えて、固形分濃度が4.0質量%になるように分散した。その後、ダブルディスクリファイナーで連続循環叩解を行い、セルロース繊維の微細化を行った。得られた微細セルロース繊維の水分散体のフリーネス(0.3g法)は230mlであった(繊維長および繊維幅は表1に記載)。
得られた微細セルロース繊維の水分散体を長網抄紙機で抄紙し、脱水及び乾燥を行うことで、表1に記載の水分、坪量のシートを得た。微細セルロース繊維含有シートをオリエント粉砕機(株)製の竪型粉砕機「VM42K」で粉砕し、微細セルロース繊維を含む粉砕物(粉末状物)を得た。なお粉砕中に水分が蒸発して水分が低下するため、粉末状物の水分を測定し、表1に記載の水分になるよう水を加えて水分を調整した。
【0070】
・微細セルロース繊維と生分解性樹脂を含有する樹脂組成物の製造
得られた微細セルロース繊維シートの粉砕物(粉末状物)8kgと、ポリ乳酸ペレット(PLA:ユニチカ製、テラマックTE-2000、MFR12g/10min)のペレット12kgをドライブレンドした。その後、溶融混合装置(エムアンドエフ・テクノロジー社製、型番:MF‐1000)の混合室内に投入し、200℃、5MPaの条件で混合室内の水分を亜臨界状態にするとともに2分間溶融混練した。その後、樹脂吐出口から棒状の微細セルロース繊維含有樹脂組成物を押出し、ステンレス製トレーの上に載せ、室温で冷却して固化させた。固化した微細セルロース繊維含有樹脂組成物をペレット状(マスターバッチペレット)に裁断した。マスターバッチペレットにおける微細セルロース繊維の含有量は、40質量%であった。
【0071】
得られたマスターバッチペレットをポリ乳酸ペレット(テラマックTE-2000)で微細セルロース繊維の含有量が20質量%になるようにドライブレンドして希釈した後、射出成形機(日精樹脂(株)社製:「NPX7-1F」)に投入し、長方形の成形体(長さ80mm、幅10mm、厚さ4.0mm)を得た。この際、加熱筒(シリンダー)の温度は200℃とし、金型温度は40℃の条件下で成形した。
【0072】
[実施例2~5]
微細セルロース繊維の水分散体のフリーネス、微細セルロース繊維シート水分、粉末状物の水分が表1に記載のように変更したこと以外は実施例1と同様に実施した。なお実施例5のフリーネスは3g法でも測定しており、その値は450mlcsfであった。
[実施例6~8]
セルロース繊維配合量を表2に記載のように変更したこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0073】
[比較例1]
二軸混練機(テクノベル社製 KZW15、スクリュー直径15mm)に投入し、溶融・混練(回転数300/分、処理速度300g/時、混練温度190℃)としたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0074】
[比較例2]
シート水分を5質量%、粉体水分を3%としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0075】
(測定方法)
(1)微細セルロース繊維の平均繊維長
「JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.52:2000 パルプ及び紙―繊維長試験方法―光学的自動計測法」に準ずるカヤーニ社製:繊維長測定装置「FiberLab」を用いて、微細セルロース繊維の長さ荷重平均繊維長を測定し、微細セルロース繊維の平均繊維長とした。
【0076】
(2)微細セルロース繊維の平均繊維幅
微細セルロース繊維含有シートの表面を走査型電子顕微鏡にて観察した。この際、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定した場合に少なくとも軸に対し、20本以上の繊維が軸と交差するような試料及び観察条件(倍率等)とした。この条件を満足する観察像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交錯する繊維の繊維幅を目視で読み取った。こうして最低3枚の重なっていない表面部分の画像を電子顕微鏡で観察し、各々2つの軸の交錯する繊維の繊維幅の値を読み取り(最低20本×2×3=120本の繊維幅)平均値を算出した。これを、微細セルロース繊維の平均繊維幅とした。
【0077】
(3)微細セルロース繊維含有シートの水分含有率
微細セルロース繊維含有シートは製造直後(30分以内)に、幅25cm×長さ25cmの大きさにカットしたものを16枚用意し、重量を測定した(乾燥前重量)。その後、サンプリングした微細セルロース繊維含有シートを110℃で3時間乾燥させ、乾燥後の重量を測定して水分含有率を測定した。
水分含有率(%)=(乾燥前重量-乾燥後重量)/乾燥前重量×100
【0078】
(4)フリーネス(0.3g法)
フリーネスは、変則フリーネス測定方法(0.3g法)で測定した。変則フリーネス測定方法は、JIS P 8121-2 (2012)「パルプ-ろ水度試験方法- 第2部:カナダ標準ろ水度法」に準拠した測定方法であるが、用いる微細セルロース繊維の量は、絶乾質量で0.3g相当とし、カナダ標準ろ水度試験機に装着する孔のあいたふるい板は、ステンレスワイヤー製の80メッシュのふるい板を用いた測定方法である。
具体的には、離解したパルプを固形分濃度0.030質量%となるように水で希釈した。試料温度を20℃に調整し、試料1000mLをメスシリンダーへ移した。メスシリンダーの開口部を手でふさぎ、メスシリンダーを反転し、試料を混合し、試料をろ水筒へ注いだ。下蓋を開き、5秒経過後、空気コックを開いて試料を流下した。サイドオリフィスからの排水を採取し、量を読み取り読み取った量をフリーネスとした。なお実施例5のみは通常の3g法でもフリーネスを測定した。
【0079】
(5)微細セルロース繊維含有シートの坪量
微細セルロース繊維含有シートの坪量は幅25cm×長さ25cmのシート16枚分の重さを測定して坪量とした。ただし特に調湿はせずに、シート作成後30分以内に坪量を
【0080】
(6)粉体の平均粒子径
得られた粉砕物(粉粒物)の平均粒子径は、表1及び2のとおりであった。粉砕物(粉粒物)の平均粒子径は、光学顕微鏡で観察した後、画像解析処理を行うことで算出した。
(7)粉体の水分調整
粉砕物(粉粒物)の水分を110℃で3時間乾燥させ測定し、表1および表2の水分になるように粉体に水を加え、密閉された容器の中で1時間攪拌した。
【0081】
(8)成形体の曲げ特性
成形体(樹脂複合体)の曲げ強度と曲げ弾性率は、JIS K 7171「プラスチック-曲げ特性の求め方」に準じて測定した。引張試験機として株式会社エーアンドディー社製のテンシロン(型式:RTG-1250)を用いた。引張強度測定時の引張速度は2.0mm/分とした。
(9)成形体の熱変形温度
荷重たわみ温度JIS K 7191「プラスチック-荷重たわみ温度の求め方」に準じて、フラットワイズ法(荷重0.45MPa)で測定した。なお、スパンは64mm固定とし、射出成形体で作成した試験片(80mm×10mm、厚さ4mm)を用いて試験片の中央部で測定した。
(10)外観
外観は目視で判定して、以下の基準で評価した。
○:成形体の表面を観察した際、目視で分かる大きいセルロース繊維の塊が10個以下である
△:成形体の表面を観察した際、目視で分かる大きいセルロース繊維の塊が11個以上30個以下である
×:成形体の表面を観察した際、目視で分かる大きいセルロース繊維の塊が31個以上ある
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
<考察>
実施例の微細セルロース含有樹脂組成物からなる成形体は、機械的物性が優れていた。この理由として、溶融混練時に亜臨界状態の水が生分解性樹脂に対する微細セルロース繊維の分散性を高めたことが考えられる。
一方、比較例1の成形体は、機械的物性が劣っていた。この理由として、溶融混練時の水分が少なかったために微細セルロース繊維同士が凝集し易く、分散性が劣ったことが考えられる。また、比較例2の成形体も機械的物性が劣っていた。この理由として、溶融混練時の水分が多過ぎたために、発生熱量が多く、微細セルロース繊維が劣化したことが考えられる。
以上から、本発明の微細セルロース繊維含有樹脂組成物の製造方法によれば、微細セルロース繊維の劣化や分解を抑制しつつ樹脂中の微細セルロース繊維を混練し、極めて高い分散性が得られることが理解される。さらに、本発明の微細セルロース繊維含有樹脂組成物を使用することにより、優れた機械的物性を有する機械部品等の成形体を製造できることが明らかである。