(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】X線位相イメージング装置およびX線位相イメージング装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/041 20180101AFI20220531BHJP
G01T 7/00 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
G01N23/041
G01T7/00 B
(21)【出願番号】P 2018187537
(22)【出願日】2018-10-02
【審査請求日】2021-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100202728
【氏名又は名称】三森 智裕
(72)【発明者】
【氏名】和田 幸久
(72)【発明者】
【氏名】徳田 敏
(72)【発明者】
【氏名】田邊 晃一
(72)【発明者】
【氏名】木村 健士
(72)【発明者】
【氏名】土岐 貴弘
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-013530(JP,A)
【文献】国際公開第2015/060093(WO,A1)
【文献】特開2012-093332(JP,A)
【文献】特開2015-121639(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0307976(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0265125(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
G01T 1/00 - G01T 1/16
G01T 1/167 - G01T 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源と、
前記X線源から照射されたX線を検出する検出器と、
前記X線源と前記検出器との間に配置され、前記X線源から照射される前記X線により自己像を形成するための第1格子と、前記第1格子の自己像と干渉させるための第2格子と、を含む複数の格子と、を備え、
前記複数の格子の各々は、複数の溝部が設けられた一方側表面と、前記一方側表面とは反対側に設けられる他方側表面とを有する格子本体部材を含み、
前記複数の格子のうちの少なくとも1つは、前記格子本体部材の前記一方側表面および前記他方側表面のうちの少なくともいずれか一方に積層され、前記格子本体部材よりもX線の透過率の高い高透過性基板を含
み、
前記格子本体部材は、前記複数の溝部よりも前記他方側表面側に設けられ、前記X線の光軸が延びる方向における前記高透過性基板の厚みよりも小さい厚みを有する非溝部分を含む、X線位相イメージング装置。
【請求項2】
前記高透過性基板は、樹脂とカーボンとのうちの少なくとも一方を含む、請求項1に記載のX線位相イメージング装置。
【請求項3】
前記格子本体部材は、シリコンにより構成されている、請求項1または2に記載のX線位相イメージング装置。
【請求項4】
前記X線の光軸が延びる方向において、前記複数の溝部の深さの1/3は、前記高透過性基板の厚みよりも小さい、請求項1~3のいずれか1項に記載のX線位相イメージング装置。
【請求項5】
前記複数の溝部の前記他方側表面側の端部と、前記他方側表面との間の距離は、前記X線の光軸が延びる方向における前記高透過性基板の厚みよりも小さい、請求項1~4のいずれか1項に記載のX線位相イメージング装置。
【請求項6】
前記高透過性基板は、前記第1格子に設けられる第1高透過性基板と、前記第2格子に設けられる第2高透過性基板とを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のX線位相イメージング装置。
【請求項7】
前記高透過性基板は、前記一方側表面および前記他方側表面の両方に積層されている、請求項1~6のいずれか1項に記載のX線位相イメージング装置。
【請求項8】
前記一方側表面に積層された前記高透過性基板と、前記他方側表面に積層された前記高透過性基板とは、前記格子本体部材を挟持した状態で互いに接着されている、請求項7に記載のX線位相イメージング装置。
【請求項9】
前記X線の光軸が延びる方向から見て、前記一方側表面に積層された前記高透過性基板、および、前記他方側表面に積層された前記高透過性基板の各々は、前記格子本体部材から突出するとともに互いに接着される突出面を有する、請求項8に記載のX線位相イメージング装置。
【請求項10】
前記複数の格子は、前記X線源と前記第1格子との間に配置され、前記X線源から照射されたX線の可干渉性を高めるための第3格子をさらに含み、
前記第1格子、前記第2格子、および、前記第3格子のうちの少なくとも1つは、前記高透過性基板を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載のX線位相イメージング装置。
【請求項11】
X線源と前記X線源から照射されたX線を検出する検出器との間に配置される複数の格子の格子本体部材の一方側表面に複数の溝部を形成するステップと、
前記一方側表面とは反対側において、前記格子本体部材を薄膜化することにより他方側表面を形成するステップと、
前記複数の格子のうちの少なくとも1つの前記格子本体部材の、前記一方側表面および前記他方側表面のうちの少なくともいずれか一方に、前記格子本体部材よりも光の透過率の高い高透過性基板を積層するステップと、を備え
、
前記他方側表面を形成するステップは、前記複数の溝部よりも前記他方側表面側に設けられる前記格子本体部材の非溝部分の前記X線の光軸が延びる方向における厚みが、前記高透過性基板の厚みよりも小さくなるように、前記格子本体部材を薄膜化するステップを含む、X線位相イメージング装置の製造方法。
【請求項12】
前記他方側表面を形成するステップは、前記格子本体部材を研磨することにより薄膜化するように構成されている、請求項11に記載のX線位相イメージング装置の製造方法。
【請求項13】
前記他方側表面を形成するステップは、前記一方側表面に前記高透過性基板を積層するステップの後に行われるように構成されている、請求項11または12に記載のX線位相イメージング装置の製造方法。
【請求項14】
前記他方側表面を形成するステップは、前記複数の溝部の前記他方側表面側の端部と、前記他方側表面との間の距離を、前記X線の光軸が延びる方向における前記高透過性基板の厚みよりも小さくするように構成されている、請求項13に記載のX線位相イメージング装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線位相イメージング装置に関し、特に、複数の格子を備えるX線位相イメージング装置およびX線位相イメージング装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の格子を備えるX線位相イメージング装置およびX線位相イメージング装置の製造方法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1のX線位相イメージング装置は、X線源と、X線を検出するX線画像検出器と、X線源およびX線画像検出器の間に設けられる第1回折格子、および、第2回折格子、および、第3回折格子と、画像処理部と、を備える。第1回折格子、第2回折格子、および、第3回折格子の各々は、シリコン基板により形成されている。また、第1回折格子、第2回折格子、および、第3回折格子の各々の一方側の表面には、複数のスリット溝が設けられている。X線の波長と複数のスリット溝のピッチ幅とを調整することにより、第1回折格子は、照射されるX線を回折するように機能し、タルボ像(自己像)を形成する。
【0004】
また、第2回折格子(第3回折格子)の他方側の表面とスリット溝との間には、所定の厚みの基板部分が設けられている。また、複数のスリット溝には、X線を吸収するように機能する金属が埋められている。これにより、第2回折格子および第3回折格子の各々は、複数のスリット溝が設けられることによって、X線を透過するシリコンと、X線を吸収する金属とが交互に配列されるように構成されている。その結果、第3回折格子は、マルチスリット形状を有し、線源格子として機能する。また、第1回折格子により形成されたタルボ像(自己像)と第2回折格子との干渉により、モアレ縞の画像コントラストが形成され、形成された画像コントラストがX線画像検出器により検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載されているような従来のX線位相イメージング装置では、X線の光軸が延びる方向における第1回折格子、第2回折格子、および、第3回折格子の厚みが比較的大きい場合などに、シリコン基板(特に上記基板部分)においてX線が十分に透過されず、X線画像検出器により検出されるX線の信号量が過度に小さくなる場合がある。この場合、X線画像検出器により検出された信号に基づいて生成される位相コントラスト画像においてコントラストが鮮明に表れず、位相コントラスト画像が不鮮明になるという問題点がある。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、格子におけるX線の透過が不十分であることに起因して、検出器により検出された信号に基づいて生成される位相コントラスト画像が不鮮明になるのを抑制することが可能なX線位相イメージング装置およびX線位相イメージング装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面におけるX線位相イメージング装置は、X線源と、X線源から照射されたX線を検出する検出器と、X線源と検出器との間に配置され、X線源から照射されるX線により自己像を形成するための第1格子と、第1格子の自己像と干渉させるための第2格子と、を含む複数の格子と、を備え、複数の格子の各々は、複数の溝部が設けられた一方側表面と、一方側表面とは反対側に設けられる他方側表面とを有する格子本体部材を含み、複数の格子のうちの少なくとも1つは、格子本体部材の一方側表面および他方側表面のうちの少なくともいずれか一方に積層され、格子本体部材よりもX線の透過率の高い高透過性基板を含み、格子本体部材は、複数の溝部よりも他方側表面側に設けられ、X線の光軸が延びる方向における高透過性基板の厚みよりも小さい厚みを有する非溝部分を含む。
【0009】
この発明の第1の局面におけるX線位相イメージング装置では、上記のように、複数の格子のうちの少なくとも1つは、格子本体部材の一方側表面および他方側表面のうちの少なくともいずれか一方に積層され、格子本体部材よりも光の透過率の高い高透過性基板を含む。これにより、高透過性基板の厚みの分、格子の機械的強度を向上することができるので、格子本体部材を容易に薄膜化することができる。この場合、高透過性基板は格子本体部材よりもX線の透過率が高いので、高透過性部材を積層するとともに格子本体部材を薄膜化することによって、格子本体部材が薄膜化されていないとともに高透過性部材が積層されていない従来の構成に比べて、格子全体としての透過率を容易に高くすることができる。その結果、格子におけるX線の透過が不十分であることに起因して、検出器により検出された信号に基づいて生成される位相コントラスト画像が不鮮明になるのを抑制することができる。
【0010】
上記第1の局面におけるX線位相イメージング装置において、好ましくは、高透過性基板は、樹脂とカーボンとのうちの少なくとも一方を含む。ここで、樹脂およびカーボンは比較的X線の透過率が高いので、格子におけるX線の透過が不十分であることに起因して、検出器により検出された信号に基づいて生成される位相コントラスト画像が不鮮明になるのを効果的に抑制することができる。
【0011】
上記第1の局面におけるX線位相イメージング装置において、好ましくは、格子本体部材は、シリコンにより構成されている。ここで、シリコンは、従来、格子を構成する材料として一般的に用いられている材料であり、樹脂およびカーボンよりもX線の透過率が低い。したがって、高透過性基板が樹脂またはカーボンなどを含む場合において、高透過性基板を積層するとともにシリコンにより構成される格子本体部材を薄膜化することによって、格子全体としてのX線の透過率を容易に高くすることができる。
【0012】
上記第1の局面におけるX線位相イメージング装置において、好ましくは、X線の光軸が延びる方向において、複数の溝部の深さの1/3は、高透過性基板の厚みよりも小さい。このように構成すれば、複数の溝部の深さの1/3が高透過性基板の厚みよりも大きい場合に比べて、複数の溝部を構成する格子本体部材の部分におけるX線の透過率を高くすることができる。
【0013】
上記第1の局面におけるX線位相イメージング装置において、好ましくは、複数の溝部の他方側表面側の端部と、他方側表面との間の距離は、X線の光軸が延びる方向における高透過性基板の厚みよりも小さい。このように構成すれば、X線の透過率の比較的小さい部分(溝部の上記端部と他方側表面との間の部分)の厚みを、X線の透過率の比較的高い高透過性基板の厚みよりも小さくすることができるので、格子全体としてのX線の透過率をより一層高くすることができる。
【0014】
上記第1の局面におけるX線位相イメージング装置において、好ましくは、高透過性基板は、第1格子に設けられる第1高透過性基板と、第2格子に設けられる第2高透過性基板とを含む。このように構成すれば、第1高透過性基板および第2高透過性基板のうちのいずれか一方のみが設けられている場合に比べて、複数の格子全体としてのX線の透過率を高くすることができる。
【0015】
上記第1の局面におけるX線位相イメージング装置において、好ましくは、高透過性基板は、一方側表面および他方側表面の両方に積層されている。このように構成すれば、高透過性基板が一方側表面および他方側表面のうちのいずれか一方に積層されている場合に比べて、格子全体としての厚みを大きくすることができるので、格子の機械的強度をより向上することができる。
【0016】
また、高透過性基板が一方側表面および他方側表面のうちのいずれか一方に積層されている場合と異なり、格子本体部材の両端からかかる応力がバランスされる。その結果、格子本体部材にかかる応力を緩和することができるとともに、格子本体部材に反りが生じるのを抑制することができる。
【0017】
この場合、好ましくは、一方側表面に積層された高透過性基板と、他方側表面に積層された高透過性基板とは、格子本体部材を挟持した状態で互いに接着されている。このように構成すれば、一方側表面に積層された高透過性基板と、他方側表面に積層された高透過性基板とが互いに接着されていない場合に比べて、格子全体としての機械的強度をより一層向上することができる。
【0018】
上記一方側表面の高透過性基板と他方側表面の高透過性基板とが互いに接着されるX線位相イメージング装置において、好ましくは、X線の光軸が延びる方向から見て、一方側表面に積層された高透過性基板、および、他方側表面に積層された高透過性基板の各々は、格子本体部材から突出するとともに互いに接着される突出面を有する。このように構成すれば、突出面が設けられる分、高透過性基板同士を容易に接着することができる。
【0019】
上記第1の局面におけるX線位相イメージング装置において、好ましくは、複数の格子は、X線源と第1格子との間に配置され、X線源から照射されたX線の可干渉性を高めるための第3格子をさらに含み、第1格子、第2格子、および、第3格子のうちの少なくとも1つは、高透過性基板を含む。このように構成すれば、第1格子、第2格子、および、第3格子のうちのいずれにも高透過性基板が設けられていない場合に比べて、複数の格子全体としてのX線の透過率を容易に高くすることができる。
【0020】
この発明の第2の局面におけるX線位相イメージング装置の製造方法は、X線源とX線源から照射されたX線を検出する検出器との間に配置される複数の格子の格子本体部材の一方側表面に複数の溝部を形成するステップと、一方側表面とは反対側において、格子本体部材を薄膜化することにより他方側表面を形成するステップと、複数の格子のうちの少なくとも1つの格子本体部材の、一方側表面および他方側表面のうちの少なくともいずれか一方に、格子本体部材よりも光の透過率の高い高透過性基板を積層するステップと、を備え、他方側表面を形成するステップは、複数の溝部よりも他方側表面側に設けられる格子本体部材の非溝部分のX線の光軸が延びる方向における厚みが、高透過性基板の厚みよりも小さくなるように、格子本体部材を薄膜化するステップを含む。
【0021】
この発明の第2の局面におけるX線位相イメージング装置の製造方法では、上記のように、格子本体部材を薄膜化することにより他方側表面を形成するステップと、一方側表面および他方側表面のうちの少なくともいずれか一方に、格子本体部材よりも光の透過率の高い高透過性基板を積層するステップとを備える。これにより、格子本体部材の薄膜化のステップにおいて薄膜化する格子本体部材の厚みを調整するとともに、高透過性基板の積層のステップにおいて積層される高透過性基板の厚みを調整することによって、格子全体の厚みを容易に調整することができるとともに格子全体の透過率を容易に調整することができる。その結果、格子全体の機械的強度を向上させながら、格子本体部材を薄膜化するステップおよび高透過性部材を積層するステップが行われない従来の製造方法によって格子(X線位相イメージング装置)を製造する場合に比べて、格子全体の透過率を容易に高くすることができる。これにより、格子におけるX線の透過が不十分であることに起因して、検出器により検出された信号に基づいて生成される位相コントラスト画像が不鮮明になるのを抑制することが可能なX線位相イメージング装置の製造方法を提供することができる。
【0022】
上記第2の局面におけるX線位相イメージング装置の製造方法において、好ましくは、他方側表面を形成するステップは、格子本体部材を研磨することにより薄膜化するように構成されている。このように構成すれば、格子本体部材を研磨により機械的に薄膜化するので、研磨用の装置を制御することによって、薄膜化する量(厚み)を精度良く調整することができる。その結果、格子全体としてのX線の透過率を精度良く調整することができる。
【0023】
上記第2の局面におけるX線位相イメージング装置の製造方法において、好ましくは、他方側表面を形成するステップは、一方側表面に高透過性基板を積層するステップの後に行われるように構成されている。このように構成すれば、他方側表面を形成する際には、高透過性基板の厚みの分、格子全体の厚みが大きくなっている。その結果、格子の機械的強度が高い状態で、薄膜化により他方側表面を形成する工程を行うことができるので、薄膜化の工程を容易化することができる。その結果、格子本体部材の厚みがより小さくなるように薄膜化の工程を行うことができる。
【0024】
この場合、好ましくは、他方側表面を形成するステップは、複数の溝部の他方側表面側の端部と、他方側表面との間の距離を、X線の光軸が延びる方向における高透過性基板の厚みよりも小さくするように構成されている。このように構成すれば、X線の透過率の比較的小さい部分(溝部の上記端部と他方側表面との間の部分)の厚みを、X線の透過率の比較的高い高透過性基板の厚みよりも小さくすることができるので、格子全体としてのX線の透過率をより一層高くすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、上記のように、格子におけるX線の透過が不十分であることに起因して、検出器により検出された信号に基づいて生成される位相コントラスト画像が不鮮明になるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】一実施形態によるX線位相イメージング装置の構成を示した図である。
【
図2】一実施形態によるX線位相イメージング装置の第2格子の構成を示した断面図である。
【
図3】一実施形態によるX線位相イメージング装置(複数の格子)の製造方法を示したフロー図である。
【
図4】
図3のフローの各ステップにおける格子の状態を示した図である。
【
図5】管球出力と検出器への到達光量との関係を示した実験結果を説明するための図である。
【
図6】一実施形態の第1変形例によるX線位相イメージング装置の構成を示した断面図である。
【
図7】一実施形態の第2変形例によるX線位相イメージング装置の構成を示した断面図である。
【
図8】一実施形態の第3変形例によるX線位相イメージング装置の構成を示した断面図である。
【
図9】一実施形態の第3変形例によるX線位相イメージング装置をX線の光軸が延びる方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0028】
[本実施形態]
図1~
図5を参照して、本実施形態によるX線位相イメージング装置100の構成について説明する。
【0029】
(X線位相イメージング装置の構成)
X線位相イメージング装置100は、
図1に示すように、被写体Tを通過したX線の位相差を利用して、被写体Tの内部を画像化する装置である。具体的には、X線位相イメージング装置100は、タルボ(Talbot)効果を利用して、被写体Tの内部を画像化する装置である。X線位相イメージング装置100は、たとえば、医療用途では、リウマチ、乳癌、および、肺癌などの検査、診断装置として利用される。また、X線位相イメージング装置100は、たとえば、非破壊検査用途では、生体材料および樹脂などの新素材を観察および解析するために利用される。
【0030】
図1は、X線位相イメージング装置100をX方向から見た図である。
図1に示すように、X線位相イメージング装置100は、X線源1と、第1格子2と、第2格子3と、第3格子4と、検出器5と、を備えている。被写体Tは、第1格子2と第2格子3との間に設けられている。なお、本明細書において、X線源1から第1格子2に向かう方向をZ2方向、その逆向きの方向をZ1方向とする。また、Z方向と直交する面内の左右方向をX方向とし、紙面の奥に向かう方向をX2方向、紙面の手前側に向かう方向をX1方向とする。また、Z方向と直交する面内の上下方向をY方向とし、上方向をY1方向、下方向をY2方向とする。なお、
図1は概略図であり、第1格子2、第2格子3、および、第3格子4の大きさ(各部分の寸法の比率)等は実際とは異なる。
【0031】
X線源1は、高電圧が印加されることにより、X線を発生させるとともに、発生されたX線をZ2方向に向けて照射するように構成されている。
【0032】
第1格子2は、X線源1と、第2格子3との間に配置されており、X線源1からX線が照射される。第1格子2は、いわゆる位相格子である。第1格子2は、タルボ効果により、第1格子2の自己像(図示せず)を形成するために設けられている。なお、可干渉性を有するX線が、スリットが形成された格子を通過すると、格子から所定の距離(タルボ距離)離れた位置に、格子の像(自己像)が形成される。これをタルボ効果という。
【0033】
第2格子3は、第1格子2と検出器5との間に配置されており、第1格子2を通過したX線が照射される。第2格子3は、いわゆる、吸収格子である。第2格子3は、第1格子2からタルボ距離離れた位置に配置される。第2格子3は、第1格子2の自己像と干渉して、検出器5の検出表面上にモアレ縞(図示せず)を形成する。
【0034】
第3格子4は、X線源1と第1格子2との間に配置されている。第3格子4は、いわゆる、マルチスリットである。第3格子4は、X線源1からのX線を多点光源化するように構成されている。3枚の格子(第1格子2、第2格子3、および、第3格子4)のピッチと格子間の距離とが一定の条件を満たすことにより、X線源1から照射されるX線の可干渉性を高めることが可能である。これにより、X線源1の管球の焦点サイズが大きくても干渉強度を保持できる。
【0035】
検出器5は、X線を検出するとともに、検出されたX線を電気信号に変換し、変換された電気信号を画像信号として読み取るように構成されている。検出器5は、たとえば、FPD(Flat Panel Detector)である。検出器5は、複数の変換素子(図示せず)と複数の変換素子上に配置された画素電極(図示せず)とにより構成されている。複数の変換素子および画素電極は、所定の周期(画素ピッチ)で、X方向およびY方向にアレイ状に配列されている。また、検出器5は、取得した画像信号を、図示しない画像処理部に出力するように構成されている。
【0036】
(複数の格子の構成)
ここで、複数の格子(第1格子2、第2格子3、および、第3格子4)の各々の構成について説明する。
【0037】
第1格子2、第2格子3、および、第3格子4は、それぞれ、格子本体部材20、格子本体部材30、および、格子本体部材40を含む。格子本体部材20は、複数の溝部21が設けられた表面22と、表面22とは反対側に設けられる裏面23とを有する。格子本体部材30は、複数の溝部31が設けられた表面32と、表面32とは反対側に設けられる裏面33とを有する。格子本体部材40は、複数の溝部41が設けられた表面42と、表面42とは反対側に設けられる裏面43とを有する。表面22、表面32、および、表面42の各々は、X線源1側の面である。裏面23、裏面33、および、裏面43の各々は、検出器5側の面である。なお、表面22、表面32、および、表面42は、それぞれ、特許請求の範囲の「一方側表面」の一例である。また、裏面23、裏面33、および、裏面43は、それぞれ、特許請求の範囲の「他方側表面」の一例である。
【0038】
ここで、本実施形態では、第1格子2は、格子本体部材20の表面22に積層される樹脂基板24を含む。また、第2格子3は、格子本体部材30の表面32に積層される樹脂基板34を含む。第3格子4は、格子本体部材40の表面42に積層される樹脂基板44を含む。樹脂基板24は、格子本体部材20よりもX線の透過率が高い。また、樹脂基板34は、格子本体部材30よりもX線の透過率が高い。また、樹脂基板44は、格子本体部材40よりもX線の透過率が高い。なお、樹脂基板24、樹脂基板34、および、樹脂基板44は、それぞれ、特許請求の範囲の「高透過性基板」の一例である。また、樹脂基板24および樹脂基板34は、それぞれ、特許請求の範囲の「第1高透過性基板」および「第2高透過性基板」の一例である。
【0039】
具体的には、樹脂基板24は、格子本体部材20の表面22に接着剤により接着されている。また、樹脂基板34は、格子本体部材30の表面32に接着剤により接着されている。また、樹脂基板44は、格子本体部材40の表面42に接着剤により接着されている。なお、接着剤として、収縮率の小さいレンズ用接着剤を用いてもよい。
【0040】
ここで、本実施形態では、樹脂基板24、34、および、44の各々は、エポキシ樹脂、ポリイミド、ポリプロピレン、ABS、ポリカーボネイト、塩化ビニル、アクリル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン、ナイロン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などが材質として考えられる。なお、格子本体部材(20、30、40)は、シリコンにより構成されている。
【0041】
また、複数の溝部31には、金属35(たとえば金)が埋められている。また、複数の溝部41には、金属45(たとえば金)が埋められている。金属35および金属45の各々は、X線を吸収するように機能する。また、金属35および金属45の各々は、たとえば後述する電解メッキ法により形成される。なお、複数の溝部21には、金属が埋められていない。すなわち、複数の溝部21は、空気により満たされている。
【0042】
また、樹脂基板34(44)が、表面32(42)に積層されることによって、溝部31(41)から金属35(45)が浮き上がるのを抑制することが可能である。
【0043】
(格子の構成)
次に、
図2を参照して、第2格子3の構成について説明する。第1格子2および第3格子4について、第2格子3の構成と共通である部分については、詳細な説明を省略する。
【0044】
本実施形態では、
図2に示すように、X線の光軸が延びる方向(Z方向)において、複数の溝部31の深さDの1/3は、樹脂基板34の厚みtよりも小さい。なお、複数の溝部31の深さとは、X線の光軸が延びる方向(Z方向)における溝部31の長さを意味する。具体的には、樹脂基板34の厚みtは、100μm以上1000μm以下である。また、複数の溝部31の深さDは、300μm以下である。
【0045】
また、X線の光軸が延びる方向(Z方向)において、複数の溝部21の深さ(図示せず)は、1μm以上40μm以下である。すなわち、X線の光軸が延びる方向(Z方向)において、複数の溝部21の深さ(図示せず)の1/3は、樹脂基板24の厚み(100μm以上1000μm以下、図示せず)よりも小さい。なお、X線の光軸が延びる方向(Z方向)において、複数の溝部21の深さ(図示せず)は、樹脂基板24の厚み(100μm以上1000μm以下、図示せず)よりも小さい。また、X線の光軸が延びる方向(Z方向)において、複数の溝部41の深さ(図示せず)は、300μm以下であり、複数の溝部41の深さの1/3は、樹脂基板44の厚み(100μm以上1000μm以下、図示せず)よりも小さい。
【0046】
また、第2格子3は、複数の溝部31が表面32において周期的に設けられたラメラ構造体である。なお、複数の溝部31の周期pは、2μm以上100μm以下である。また、複数の溝部31の各々の幅を幅Wとすると、溝部31のアスペクト比(D/W)は、3以上100以下となる。
【0047】
また、本実施形態では、複数の溝部31の裏面33側の端部31aと、裏面33との間の距離d1は、X線の光軸が延びる方向(Z方向)における樹脂基板34の厚みtよりも小さい。言い換えると、格子本体部材30において、複数の溝部31よりも検出器5側(Z2方向側)の厚み(距離d1)は、樹脂基板34の厚みtよりも小さい。具体的には、樹脂基板34の厚みtが上記したように100μm以上1000μm以下であるのに対して、距離d1は、50μm以下である。
【0048】
なお、裏面33は、格子本体部材30を研磨(粗研磨、ラッピング)することによって薄膜化することにより形成された表面である。すなわち、距離d1が50μm以下になるように、格子本体部材30は研磨(薄膜化)されている。
【0049】
次に、
図3を参照して、第2格子3の製造方法について説明する。製造方法についても、複数の格子間で共通であるので、第1格子2および第3格子4についての説明は省略する。
【0050】
まず、ステップS1(
図4のS1参照)において、格子本体部材30の表面32に、複数の溝部31を形成する。具体的には、まず、DRIE(Deep Reactive Ion Etching)により周期的な溝部31を形成(パターニング)する。次に、溝部31の表面(および格子本体部材30の表面32)に絶縁層(SiO
2膜)を熱酸化法等により製膜する。
【0051】
なお、ステップS1の段階では、端部31aと第2格子3の裏面33aとの間の距離d2は、600μmから700μm程度である。すなわち、距離d2は、距離d1(
図2参照)の10倍以上の大きさである。
【0052】
次に、ステップS2(
図4のS2参照)において、複数の溝部31の各々に、金属35を形成する。具体的には、まず、複数の溝部31の各々の底面31b(端部31a側の面、
図2参照)の絶縁層をICP(Inductive Coupled Plasma)ドライエッチング法等により除去する。次に、電解メッキ法によって複数の溝部31を金属35により埋める。詳細には、格子本体部材30に電圧を印加することにより、溝部31の底面31bから金属35を析出させる。そして、析出した金属35が成長することにより、溝部31は金属35により埋められる。なお、この工程は、第1格子2では行われない。
【0053】
次に、ステップS3(
図4のS3参照)において、格子本体部材30の表面32に、樹脂基板34を積層する。そして、ステップS4(
図4のS4参照)において、表面32とは反対側において、格子本体部材30を研磨することにより薄膜化することによって、裏面33を形成する。ステップS4において、複数の溝部31の裏面33側の端部31aと、裏面33との間の距離d1(
図2参照)が、X線の光軸が延びる方向(Z方向)における樹脂基板34の厚みt(
図2参照)よりも小さくなるように、格子本体部材30を薄膜化して裏面33を形成する。
【0054】
(実験結果)
次に、
図5を参照して、格子本体部材(20、30、40)の材質による検出器5へ到達する光量を測定した実験結果について説明する。
【0055】
図5に示すように、第1格子2、第2格子3、および、第3格子4の各々が、カーボン(C)基板により構成されている場合(破線参照)に検出器5へ到達する光量は、第1格子2、第2格子3、および、第3格子4の各々が、シリコン(Si)により構成されている場合(一点鎖線参照)の光量に比べて大きいということが確認された。具体的には、管球出力が10kWから40kWまでの光量の積分値を比較すると、格子がカーボンの場合の積分値は、格子がシリコンの場合の積分値の3.6倍であった。特に、X線源1の管球(図示せず)の出力が比較的小さい場合において、格子がシリコンの場合の光量が、格子がカーボンの場合の光量に対して顕著に大きいことが確認された。なお、シリコンの各格子およびカーボンの各格子の厚みは、互いに同一である。
【0056】
また、格子がカーボンの場合の光量のピークが現われる管球出力が、格子がシリコンの場合においてピークが現われる管球出力に対して変化して(小さくなって)いることが確認された。すなわち、格子の材質によって、検出器5に到達するX線の線質が変化していることが確認された。また、格子がカーボンの場合の光量のピークが現われる管球出力は、管球から出力された直後のスペクトル(タングステンスペクトル、実線参照)のピークが現われる管球出力と略等しいという結果が得られた。すなわち、複数の格子がカーボン基板の場合は、X線源1の管球から出力されたX線の線質を大きく変化させずに検出器5に到達させることが可能であることが確認された。なお、光量についても、格子がカーボンの場合において検出器5により検出された光量は、X線源1の管球から出力された直後の光量と大きく変化していないことが確認された。また、カーボン基板の代わりに樹脂基板を用いたとしても、樹脂基板は略炭素(カーボン)により構成されているので、同様の結果が得られると考えられる。
【0057】
これらの結果から、シリコンである格子本体部材(20、30、40)を薄膜化して、樹脂基板(24、34、44)を積層することにより、検出器5に到達するX線の光量が過度に小さくなるのを抑制することが可能であるとともに、格子を透過することに起因してX線の線質が変化するのを抑制することが可能であるということが分かった。
【0058】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0059】
本実施形態では、上記のように、複数の格子(第1格子2、第2格子3、第3格子4)の各々が、格子本体部材(20、30、40)の表面(22、32、42)に積層され、格子本体部材(20、30、40)よりもX線の透過率の高い樹脂基板(24、34、44)を含むように、X線位相イメージング装置100を構成する。これにより、樹脂基板34の厚みtの分、第2格子3の機械的強度を向上することができるので、格子本体部材30を容易に薄膜化することができる。この場合、樹脂基板34は格子本体部材30よりもX線の透過率が高いので、樹脂基板34を積層するとともに格子本体部材30を薄膜化することによって、格子本体部材30が薄膜化されていないとともに樹脂基板34が積層されていない従来の構成に比べて、第2格子3全体としての透過率を容易に高くすることができる。その結果、第2格子3におけるX線の透過が不十分であることに起因して、検出器5により検出された信号に基づいて生成される位相コントラスト画像が不鮮明になるのを抑制することができる。なお、第1格子2および第3格子4の各々においても同様の効果を得ることができる。
【0060】
また、樹脂は比較的X線の透過率が高いので、格子におけるX線の透過が不十分であることに起因して、検出器5により検出された信号に基づいて生成される位相コントラスト画像が不鮮明になるのを効果的に抑制することができる。
【0061】
また、本実施形態では、上記のように、格子本体部材(20、30、40)が、シリコンにより構成されるように、X線位相イメージング装置100を構成する。ここで、シリコンは、従来、格子を構成する材料として一般的に用いられている材料であり、樹脂およびカーボンよりもX線の透過率が低い。したがって、樹脂基板(24、34、44)が樹脂またはカーボンなどを含む場合において、樹脂基板(24、34、44)を積層するとともにシリコンにより構成される格子本体部材(20、30、40)を薄膜化することによって、格子(2、3、4)全体としてのX線の透過率を容易に高くすることができる。
【0062】
また、本実施形態では、上記のように、X線の光軸が延びる方向において、複数の溝部31の深さDの1/3が、樹脂基板34の厚みtよりも小さいように、X線位相イメージング装置100を構成する。これにより、複数の溝部31の深さDの1/3が樹脂基板34の厚みtよりも大きい場合に比べて、複数の溝部31を構成する格子本体部材30の部分におけるX線の透過率を高くすることができる。なお、第1格子2および第3格子4の各々においても同様の効果を得ることができる。
【0063】
また、本実施形態では、上記のように、複数の溝部31の裏面33側の端部31aと、裏面33との間の距離d1が、X線の光軸が延びる方向における樹脂基板34の厚みtよりも小さいように、X線位相イメージング装置100を構成する。これにより、X線の透過率の比較的小さい部分(溝部31の端部31aと裏面33との間の部分)の厚みを、X線の透過率の比較的高い樹脂基板34の厚みtよりも小さくすることができるので、第2格子3全体としてのX線の透過率をより一層高くすることができる。なお、第1格子2および第3格子4においても同様の効果を得ることができる。
【0064】
また、本実施形態では、上記のように、第1格子2に設けられる樹脂基板24と、第2格子3に設けられる樹脂基板34とが設けられるように、X線位相イメージング装置100を構成する。これにより、樹脂基板24および樹脂基板34のうちのいずれか一方のみが設けられている場合に比べて、複数の格子全体としてのX線の透過率を高くすることができる。
【0065】
また、本実施形態では、上記のように、第1格子2、第2格子3、および、第3格子4が、それぞれ、樹脂基板24、樹脂基板34、および、樹脂基板44を含むように、X線位相イメージング装置100を構成する。これにより、第1格子2、第2格子3、および、第3格子4のうちのいずれにも樹脂基板が設けられていない場合に比べて、複数の格子全体としてのX線の透過率を容易に高くすることができる。また、第1格子2、第2格子3、および、第3格子4のうちのいずれか1つまたは2つにだけ樹脂基板が設けられている場合に比べて、複数の格子全体としてのX線の透過率を容易に高くすることができる。
【0066】
また、本実施形態では、上記のように、格子本体部材(20、30、40)を薄膜化することにより裏面(23、33、43)を形成するステップと、格子本体部材(20、30、40)の、表面(22、32、42)に樹脂基板(24、34、44)を積層するステップと、を備えるように、X線位相イメージング装置100の製造方法を構成する。これにより、格子本体部材(20、30、40)の薄膜化のステップにおいて薄膜化する格子本体部材(20、30、40)の厚みを調整するとともに、樹脂基板(24、34、44)の積層のステップにおいて積層される樹脂基板(24、34、44)の厚みを調整することによって、格子(2、3、4)全体の厚みを容易に調整することができるとともに格子(2、3、4)全体の透過率を容易に調整することができる。その結果、格子(2、3、4)全体の機械的強度を向上させながら、格子本体部材(20、30、40)を薄膜化するステップおよび樹脂基板(24、34、44)を積層するステップが行われない従来の製造方法によって格子(2、3、4)(X線位相イメージング装置100)を製造する場合に比べて、格子(2、3、4)全体の透過率を容易に高くすることができる。これにより、格子(2、3、4)におけるX線の透過が不十分であることに起因して、検出器5により検出された信号に基づいて生成される位相コントラスト画像が不鮮明になるのを抑制することが可能なX線位相イメージング装置100の製造方法を提供することができる。
【0067】
また、本実施形態では、上記のように、裏面(23、33、43)を形成するステップが、格子本体部材(20、30、40)を研磨することにより薄膜化するように、X線位相イメージング装置100の製造方法を構成する。これにより、格子本体部材(20、30、40)を研磨により機械的に薄膜化するので、研磨用の装置を制御することによって、薄膜化する量(厚み)を精度良く調整することができる。その結果、格子(2、3、4)全体としてのX線の透過率を精度良く調整することができる。
【0068】
また、本実施形態では、上記のように、裏面(23、33、43)を形成するステップが、表面(22、32、42)に樹脂基板(24、34、44)を積層するステップの後に行われるように、X線位相イメージング装置100の製造方法を構成する。これにより、裏面(23、33、43)を形成する際には、樹脂基板(24、34、44)の厚みの分、格子(2、3、4)全体の厚みが大きくなっている。その結果、格子(2、3、4)の機械的強度が高い状態で、薄膜化により裏面(23、33、43)を形成する工程を行うことができるので、薄膜化の工程を容易化することができる。その結果、格子本体部材(20、30、40)の厚みがより小さくなるように薄膜化の工程を行うことができる。
【0069】
また、本実施形態では、上記のように、裏面33を形成するステップが、複数の溝部31の裏面33側の端部31aと、裏面33との間の距離d1を、X線の光軸が延びる方向における樹脂基板34の厚みtよりも小さくするように、X線位相イメージング装置100の製造方法を構成する。これにより、X線の透過率の比較的小さい部分(溝部31の端部31aと裏面33との間の部分)の厚みを、X線の透過率の比較的高い樹脂基板34の厚みtよりも小さくすることができるので、第2格子3全体としてのX線の透過率をより一層高くすることができる。なお、第1格子2および第3格子4の各々においても、同様の効果を得ることができる。
【0070】
(変形例)
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0071】
たとえば、上記実施形態では、表面(22、32、42、一方側表面)に樹脂基板(24、34、44、高透過性基板)が積層されている例を示したが、本発明はこれに限られない。
【0072】
たとえば、
図6に示す例では、第2格子13において、格子本体部材130の裏面133に、樹脂基板134が積層されている。なお、図示は省略するが、第1格子および第3格子においても同様の構成であってもよい。また、裏面133および樹脂基板134は、それぞれ、特許請求の範囲の「他方側表面」および「高透過性基板」の一例である。
【0073】
この場合、裏面133を形成するステップ(薄膜化するステップ)は、樹脂基板134を積層するステップの前に行われるので、複数の溝部31の裏面133側の端部31aと、裏面133との間の距離d3は、複数の溝部31の深さDよりも大きくなる。具体的には、距離d3は、200μm以上である。
【0074】
また、
図7に示す例では、第2格子53において、格子本体部材230の表面232に樹脂基板234aが積層されているとともに、格子本体部材230の裏面233に樹脂基板234bが積層されている。なお、図示は省略するが、第1格子および第3格子においても同様の構成であってもよい。また、表面232および裏面233は、それぞれ、特許請求の範囲の「一方側表面」および「他方側表面」の一例である。また、樹脂基板234aおよび樹脂基板234bは、それぞれ、特許請求の範囲の「高透過性基板」の一例である。
【0075】
この場合、樹脂基板234aおよび樹脂基板234bのいずれを先に格子本体部材230に積層(接着)させてもよいが、樹脂基板234aを積層するステップ、格子本体部材230を薄膜化するステップ、樹脂基板234bを積層するステップの順に行う場合が、格子本体部材230の厚みを最も小さくすることが可能である。
【0076】
これにより、樹脂基板が表面232および裏面233のうちのいずれか一方に積層されている場合に比べて、第2格子53全体としての厚みを大きくすることができるので、第2格子53の機械的強度をより向上することができる。なお、第1格子および第3格子においても同様の効果を得ることができる。
【0077】
また、樹脂基板が表面232および裏面233のうちのいずれか一方に積層されている場合と異なり、格子本体部材230の両端からかかる応力がバランスされる。その結果、格子本体部材230にかかる応力を緩和することができるとともに、格子本体部材230に反りが生じるのを抑制することができる。
【0078】
また、
図8に示す例では、第2格子63において、格子本体部材330の表面332に樹脂基板334aが積層されているとともに、格子本体部材330の裏面333に樹脂基板334bが積層されている。そして、樹脂基板334aと樹脂基板334bとは、格子本体部材330を挟持した状態で互いに接着されている。なお、図示は省略するが、第1格子および第3格子においても同様の構成であってもよい。また、表面332および裏面333は、それぞれ、特許請求の範囲の「一方側表面」および「他方側表面」の一例である。また、樹脂基板334aおよび樹脂基板334bは、それぞれ、特許請求の範囲の「高透過性基板」の一例である。
【0079】
具体的には、
図9に示すように、X線の光軸が延びる方向(Z方向)から見て、樹脂基板334aは、格子本体部材330から突出する突出面334cを有している。また、X線の光軸が延びる方向から見て、樹脂基板334bは、格子本体部材330から突出する突出面334dを有している。突出面334cと突出面334dとは、互いに対向するように設けられている。そして、突出面334cと突出面334dとは、突出面334cと突出面334dとの間に接着剤335(
図8参照)が塗布されることにより互いに接着される。なお、この場合、樹脂基板334aおよび樹脂基板334bと、格子本体部材330とは、接着剤により接着されていなくてもよいし、接着されていてもよい。
【0080】
これにより、表面332に積層された樹脂基板334aと、裏面333に積層された樹脂基板334bとが互いに接着されていない場合に比べて、第2格子63全体としての機械的強度をより一層向上することができる。さらに、突出面(334c、334d)が設けられる分、樹脂基板334aと樹脂基板334bとを容易に接着することができる。なお、第1格子および第3格子の各々においても同様の効果を得ることができる。
【0081】
また、上記実施形態では、格子本体部材(20、30、40)に、樹脂基板(24、34、44、高透過性基板)が積層される例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、第1格子2、第2格子3、および、第3格子4のうちのいずれか1つまたは2つに樹脂基板が積層されていてもよい。
【0082】
また、上記実施形態では、第2格子3を例にすると、複数の溝部31の端部31aと裏面33(他方側表面)との間の部分が一定の厚み(距離d1の部分)を有する例を示したが、本発明はこれに限られない。複数の溝部31の端部31aと裏面33(他方側表面)との間の部分が設けられていなくても(すなわち距離d1がゼロであっても)よい。なお、第1格子2および第3格子4においても、同様の構成であってもよい。
【0083】
また、上記実施形態では、接着剤により樹脂基板(24、34、44、高透過性基板)の積層を行う例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、加熱および加圧によって樹脂基板を接合させてもよい。また、3Dプリンタを用いて樹脂基板を積層させてもよい。また、スピンコートにより樹脂膜を形成して熱硬化させることによって樹脂基板を形成してもよい。また、スクリーン印刷によって樹脂基板を形成してもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、樹脂基板(24、34、44、高透過性基板)を格子本体部材(20、30、40)に積層させる例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、カーボン基板を格子本体部材(20、30、40)に積層させてもよい。カーボン基板は、たとえば、グラファイト基板、グラファイトシート(黒鉛シート)、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)、C/Cコンポジット(炭素繊維強化炭素複合材料)、ガラス状カーボン(ガラス状炭素・グラッシーカーボン)、結晶性グラファイトなどが材質として考えられる。また、カーボン基板ではなく、金属酸化物および金属窒化物(たとえば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム)を積層させてもよい。なお、樹脂基板とカーボン基板の両方を格子本体部材(20、30、40)に積層させてもよい。
【0085】
また、上記実施形態では、第3格子4が設けられている例を示したが、本発明はこれに限られない。第3格子4が設けられていなくてもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、研磨により格子本体部材(20、30、40)を薄膜化する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、化学エッチング、または、研磨(ポリッシング)化学反応と研磨剤とを併用した化学機械研磨(CMP、Chemical Mechanizal Polishing)により、格子本体部材(20、30、40)を薄膜化してもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 X線源
2 第1格子
3、13、53、63 第2格子
4 第3格子
5 検出器
20、30、40、130、230、330 格子本体部材
21、31、41 溝部
22、32、42、232、332 表面(一方側表面)
23、33、43、133、233、333 裏面(他方側表面)
24 樹脂基板(高透過性基板)(第1高透過性基板)
31a 端部(複数の溝部の端部)
34 樹脂基板(高透過性基板)(第2高透過性基板)
44、134、234a、234b、334a、334b 樹脂基板(高透過性基板)
100 X線位相イメージング装置
334c、334d 突出面
d1、d3 距離(溝部の端部と他方側表面との間の距離)
D 深さ(複数の溝部の深さ)
t 厚み(高透過性基板の厚み)