(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】磁性体検査装置および磁性体検査システム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/82 20060101AFI20220531BHJP
B66B 5/00 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
G01N27/82
B66B5/00 G
(21)【出願番号】P 2018208581
(22)【出願日】2018-11-06
【審査請求日】2021-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100155608
【氏名又は名称】大日方 崇
(72)【発明者】
【氏名】飯島 健二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康展
【審査官】今浦 陽恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-204113(JP,A)
【文献】特開平07-198684(JP,A)
【文献】国際公開第2015/166533(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/095354(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/138850(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72 - 27/9093
B66B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の磁性体の数以上の数設けられ、前記複数の磁性体の各々の磁束を検知する複数の差動コイルと、
前記複数の差動コイルの各々の検知信号を取得する処理部と、を備え、
前記複数の差動コイルの各々は
、第1の受信コイルと、前記第1の受信コイルと差動接続されているとともに、前記第1の受信コイルの検出面と検出面が対向するように設けられ
た第2の受信コイルとを有し、前記複数の磁性体の各々の磁束を検知する際に、前記第1の受信コイルと前記第2の受信コイルとの間に前記磁性体が配置されるように構成されて
おり、
前記処理部は、前記複数の差動コイルの各々の検知信号のうち傷み波形の大きさが最も大きい検知信号に対応する前記磁性体を、傷みが生じた前記磁性体であると特定するように構成されている、磁性体検査装置。
【請求項2】
前記複数の差動コイルの各々は、前記第1の受信コイルおよび前記第2の受信コイルの前記磁性体が延びる方向の一方側の部分と、前記第1の受信コイルおよび前記第2の受信コイルの前記磁性体が延びる方向の他方側の部分との差動信号を出力するように設けられている、請求項1に記載の磁性体検査装置。
【請求項3】
前記第1の受信コイルと前記第2の受信コイルとでは、前記磁性体が延びる方向に略直交する方向の幅が前記磁性体が延びる方向の幅よりも大きい、請求項2に記載の磁性体検査装置。
【請求項4】
前記処理部は、前記複数の差動コイルのうちの決められた差動コイルの各々の検知信号を加算した加算信号に基づいて、前記磁性体に異常が生じたか否かを判定するように構成されている、請求項1~
3のいずれか1項に記載の磁性体検査装置。
【請求項5】
前記処理部は、前記磁性体に異常が生じたと判定した場合、前記磁性体に異常が生じたことを示す異常判定信号を出力するように構成されている、請求項
4に記載の磁性体検査装置。
【請求項6】
複数の磁性体の数以上の数設けられ、前記複数の磁性体の各々の磁束を検知する複数の差動コイルを備える磁性体検査装置と、
前記複数の差動コイルの各々の検知信号を取得する処理装置と、を備え、
前記複数の差動コイルの各々は
、第1の受信コイルと、前記第1の受信コイルと差動接続されているとともに、前記第1の受信コイルの検出面と検出面が対向するように設けられ
た第2の受信コイルとを有し、前記複数の磁性体の各々の磁束を検知する際に、前記第1の受信コイルと前記第2の受信コイルとの間に前記磁性体が配置されるように構成されて
おり、
前記処理装置は、前記複数の差動コイルの各々の検知信号のうち傷み波形の大きさが最も大きい検知信号に対応する前記磁性体を、傷みが生じた前記磁性体であると特定するように構成されている、磁性体検査システム。
【請求項7】
前記処理装置は、前記複数の差動コイルのうちの決められた差動コイルの各々の検知信号を加算した加算信号に基づいて、前記磁性体に異常が生じたか否かを判定するように構成されている、請求項
6に記載の磁性体検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体検査装置および磁性体検査システムに関し、特に、複数の磁性体を検査可能な磁性体検査装置および磁性体検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クレーンやエレベータ、吊り橋、ロボットなどに使用されるワイヤロープ(磁性体)が知られている。このようなワイヤロープでは、素線断線、摩耗、変形などによる劣化の程度を知るために、目視による外観検査が行われている。また、たとえば目視による外観検査だけではワイヤロープの内部の劣化の程度が分からないなどの理由から、磁気による非破壊検査が行われる場合もある。
【0003】
このような非破壊検査を行う装置として、従来、複数の磁性体を検査可能な磁性体検査装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。上記特許文献1には、複数のワイヤロープ(磁性体)を検査可能なロープテスタ(磁性体検査装置)が開示されている。このロープテスタは、ワイヤロープと同じ数設けられた複数の磁化検出体を備えている。複数の磁化検出体の各々は、複数のワイヤロープの各々の磁束を検知する。ロープテスタは、磁化検出体によるワイヤロープの磁束の検出結果に基づいて、複数のワイヤロープのうちのいずれのワイヤロープに傷みが生じているかを判定する。また、複数の磁化検出体の各々は、ワイヤロープの磁束を検出するためのパンケーキコイルを含んでいる。導線が巻回されたパンケーキコイルは、ワイヤロープの周りを囲うように、曲げ加工によりU字状に湾曲するように設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたロープテスタでは、導線が巻回されたパンケーキコイルがU字状に湾曲するように設けられているため、コイル(パンケーキコイル)の形状および構造が複雑化する。また、導線が巻回されたパンケーキコイルをU字状に形成するために曲げ加工を行う必要があるため、コイル(パンケーキコイル)の製造性(製造容易性)が低下する。さらに、パンケーキコイルがワイヤロープの周りを囲うようにU字状に設けられているため、ワイヤロープとコイル(パンケーキコイル)とが接触しやすく、コイルの品質が低下しやすい。これらの結果、導線が巻回されたコイルの形状および構造を簡素化し、導線が巻回されたコイルの製造性を向上させかつコイルの品質の低下を抑制しつつ、複数のワイヤロープのうちのいずれのワイヤロープに傷みが生じているかを判定することができないという問題点がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、コイルの形状および構造を簡素化し、コイルの製造性を向上させかつコイルの品質の低下を抑制しつつ、複数の磁性体のうちのいずれの磁性体に傷みが生じているかを判定することが可能な磁性体検査装置および磁性体検査システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面による磁性体検査装置は、複数の磁性体の数以上の数設けられ、複数の磁性体の各々の磁束を検知する複数の差動コイルと、複数の差動コイルの各々の検知信号を取得する処理部と、を備え、複数の差動コイルの各々は、第1の受信コイルと、第1の受信コイルと差動接続されているとともに、第1の受信コイルの検出面と検出面が対向するように設けられた第2の受信コイルとを有し、複数の磁性体の各々の磁束を検知する際に、第1の受信コイルと第2の受信コイルとの間に磁性体が配置されるように構成されており、処理部は、複数の差動コイルの各々の検知信号のうち傷み波形の大きさが最も大きい検知信号に対応する磁性体を、傷みが生じた磁性体であると特定するように構成されている。
【0008】
この発明の第1の局面による磁性体検査装置では、上記のように構成することにより、コイルをU字状に湾曲するように設ける場合と異なり、コイルに曲げ加工を行う必要がないため、コイル(差動コイル)の製造性を向上させることができる。さらに、コイルが露出している場合にも、コイルを磁性体の周りを囲うようにU字状に設ける場合と比べて、磁性体とコイル(差動コイル)とが接触しにくいようにすることができるので、コイル(差動コイル)の品質が低下することを抑制することができる。また、複数の差動コイルを設けることにより、複数の磁性体の傷みを個別に検知することができるので、複数の磁性体のうちのいずれの磁性体に傷みが生じているかを判定することができる。これらの結果、コイルの製造性を向上させかつコイルの品質の低下を抑制しつつ、複数の磁性体のうちのいずれの磁性体に傷みが生じているかを判定することが可能な磁性体検査装置を提供することができる。
【0009】
上記第1の局面による磁性体検査装置において、好ましくは、複数の差動コイルの各々は、第1の受信コイルおよび第2の受信コイルの磁性体が延びる方向の一方側の部分と、第1の受信コイルおよび第2の受信コイルの磁性体が延びる方向の他方側の部分との差動信号を出力する差動コイルを形成するように設けられている。
【0010】
この場合、好ましくは、第1の受信コイルと第2の受信コイルとでは、磁性体が延びる方向に略直交する方向の幅が磁性体が延びる方向の幅よりも大きい。このように構成すれば、第1の受信コイルと第2の受信コイルとの磁性体が延びる方向の部分を、磁性体から遠くなるように設けることができる。その結果、磁性体の傷みの検知に寄与させたくない第1の受信コイルと第2の受信コイルとの磁性体が延びる方向の部分の、磁性体の傷みの検知への寄与度を小さくすることができるとともに、磁性体の傷みの検知に寄与させたい第1の受信コイルと第2の受信コイルとの磁性体が延びる方向に略直交する方向の部分の、磁性体の傷みの検知への寄与度を大きくすることができる。
【0012】
上記第1の局面による磁性体検査装置では、傷みが生じた磁性体を検知する差動コイルから得られた傷み波形の大きさが最も大きいことを利用して、傷みが生じた磁性体を容易かつ確実に特定することができる。
【0013】
上記第1の局面による磁性体検査装置において、好ましくは、処理部は、複数の差動コイルのうちの決められた差動コイルの各々の検知信号を加算した加算信号に基づいて、磁性体に異常が生じたか否かを判定するように構成されている。このように構成すれば、加算信号に基づいていくつかの磁性体についてまとめて(束状態で)異常を判定することができるので、いくつかの磁性体のうちのいずれかの磁性体に異常が生じたことを検知することができる。また、個々の検知信号では異常に起因した波形が小さい場合にも、加算信号では加算により異常に起因した波形を大きくすることができるので、磁性体に異常が生じたことを早期に検知することができる。
【0014】
この場合、好ましくは、処理部は、磁性体に異常が生じたと判定した場合、磁性体に異常が生じたことを示す異常判定信号を出力するように構成されている。このように構成すれば、ユーザは、異常判定信号に基づいて、磁性体に異常が生じたことを早期に知ることができるので、磁性体に生じた異常の解消を早期に行うことができる。
【0015】
この発明の第2の局面による磁性体検査システムは、複数の磁性体の数以上の数設けられ、複数の磁性体の各々の磁束を検知する複数の差動コイルを備える磁性体検査装置と、複数の差動コイルの各々の検知信号を取得する処理装置と、を備え、複数の差動コイルの各々は、第1の受信コイルと、第1の受信コイルと差動接続されているとともに、第1の受信コイルの検出面と検出面が対向するように設けられた第2の受信コイルとを有し、複数の磁性体の各々の磁束を検知する際に、第1の受信コイルと第2の受信コイルとの間に磁性体が配置されるように構成されており、処理装置は、複数の差動コイルの各々の検知信号のうち傷み波形の大きさが最も大きい検知信号に対応する磁性体を、傷みが生じた磁性体であると特定するように構成されている。
【0016】
この発明の第2の局面による磁性体検査システムでは、上記のように構成することにより、第1の局面による磁性体検査装置と同様に、構成を簡素化しつつ、複数の磁性体のうちのいずれの磁性体に傷みが生じているかを判定することが可能な磁性体検査システムを提供することができる。
【0018】
上記第2の局面による磁性体検査システムにおいて、好ましくは、処理装置は、複数の差動コイルのうちの決められた差動コイルの各々の検知信号を加算した加算信号に基づいて、磁性体に異常が生じたか否かを判定するように構成されている。このように構成すれば、第1の局面による磁性体検査装置と同様に、いくつかの磁性体のうちのいずれかの磁性体に異常が生じたことを検知することができるとともに、磁性体に異常が生じたことを早期に検知することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、上記のように、コイルの形状および構造を簡素化し、コイルの製造性を向上させかつコイルの品質の低下を抑制しつつ、複数の磁性体のうちのいずれの磁性体に傷みが生じているかを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1および第2実施形態による磁性体検査システムの構成を示す概略図である。
【
図2】第1および第2実施形態による磁性体検査装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】第1実施形態による磁性体検査装置がワイヤロープを検査する状態をY方向から見た模式的な図である。
【
図4】第1実施形態による磁性体検査装置がワイヤロープを検査する状態をZ方向から見た模式的な図である。
【
図5】第1実施形態による差動コイルを示す模式的な斜視図である。
【
図6】第1実施形態による差動コイルの第1の受信コイルと第2の受信コイルとを示す模式的な斜視図である。
【
図7】(A)は、ワイヤロープの周りに巻き回された差動コイルがワイヤロープの磁束を検知する状態を示した模式的な図であり、(B)は、第1位実施形態による差動コイルがワイヤロープの磁束を検知する状態を示した模式的な図である。
【
図8】第1実施形態による複数の差動コイルの各々の検知信号を説明するための図である。
【
図9】第1実施形態による差動コイルの検知信号の加算の第1の例を説明するための図である。
【
図10】第2実施形態による差動コイルの検知信号の加算の第2の例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
[第1実施形態]
図1~
図10を参照して、第1実施形態による磁性体検査システム300の構成について説明する。
【0023】
(磁性体検査システムの構成)
図1に示すように、磁性体検査システム300は、検査対象物であり磁性体であるワイヤロープWの傷み(素線断線など)を検査するためのシステムである。磁性体検査システム300は、ワイヤロープWの磁束を計測する磁性体検査装置100と、磁性体検査装置100によるワイヤロープWの磁束の計測結果の表示、および、磁性体検査装置100によるワイヤロープWの磁束の計測結果に基づく解析などを行う処理装置200とを備えている。磁性体検査システム300によりワイヤロープWの傷みを検査することにより、目視により確認しにくいワイヤロープWの傷みを確認可能である。なお、ワイヤロープWは、特許請求の範囲の「磁性体」の一例である。
【0024】
ワイヤロープWは、磁性を有する素線材料が編みこまれる(たとえば、ストランド編みされる)ことにより形成されており、Z方向に延びる長尺材からなる磁性体である。ワイヤロープWは、劣化による切断が生じることを未然に防ぐために、磁性体検査装置100により状態(傷等の有無)を検査されている。ワイヤロープWの磁束の計測の結果、劣化の程度が決められた基準を超えたと判断されるワイヤロープWは、作業者により交換される。
【0025】
図1では、磁性体検査装置100が、エレベータ110のかご111の移動に用いられるワイヤロープWを検査する例を示している。エレベータ110は、かご111と、ワイヤロープWを駆動するための巻き上げ機112とを備えている。エレベータ110は、巻き上げ機112によりワイヤロープWを移動させることにより、かご111を上下方向(Z方向)に移動させるように構成されている。磁性体検査装置100は、ワイヤロープWに対して移動しないように固定された状態で、巻き上げ機112により移動されるワイヤロープWの傷みを検査する。
【0026】
ワイヤロープWは、磁性体検査装置100の位置において、Z方向に延びるように配置されている。磁性体検査装置100は、ワイヤロープWの表面に沿って、ワイヤロープWに対して相対的にZ方向(ワイヤロープWの長手方向)に移動しながら、ワイヤロープWの磁束を計測する。エレベータ110に使用されるワイヤロープWのように、ワイヤロープW自体が移動する場合には、ワイヤロープWをZ方向に移動させながら、磁性体検査装置100によるワイヤロープWの磁束の計測が行われる。これにより、ワイヤロープWのZ方向の各位置における磁束を計測することができるので、ワイヤロープWのZ方向の各位置における傷みを検査可能である。
【0027】
(処理装置の構成)
図1に示すように、処理装置200は、たとえばパーソナルコンピュータである。処理装置200は、磁性体検査装置100が配置される空間とは違う空間に配置されている。処理装置200は、通信部201と、処理部202と、記憶部203と、表示部204とを備えている。通信部201は、通信用のインターフェースであり、磁性体検査装置100と処理装置200とを通信可能に接続する。処理装置200は、通信部201を介して、磁性体検査装置100によるワイヤロープWの計測結果(計測データ)を受信する。処理部202は、処理装置200の各部を制御する。処理部202は、CPUなどのプロセッサ、メモリなどを含んでいる。処理部202は、通信部201を介して受信したワイヤロープWの計測結果に基づいて、素線断線などのワイヤロープWの傷みを解析する。記憶部203は、たとえばフラッシュメモリを含む記憶媒体であり、ワイヤロープWの計測結果、処理部202によるワイヤロープWの計測結果の解析結果などの情報を記憶(保存)する。表示部204は、たとえば液晶モニタであり、ワイヤロープWの計測結果、処理部202によるワイヤロープWの計測結果の解析結果などの情報を表示する。
【0028】
(磁性体検査装置の構成)
図2に示すように、磁性体検査装置100は、検知部1と、電子回路部2とを備えている。検知部1は、ワイヤロープWの磁束を検知(計測)する。具体的には、検知部1は、励振コイル11と、一対の受信コイル121および122を有する差動コイル12とを含んでいる。励振コイル11は、ワイヤロープWの磁化の状態を励振する。励振コイル11は、励振交流電流が流れることにより、Y方向(ワイヤロープWの長手方向、軸方向)に沿った磁界を内部(輪の内側)に発生させるとともに、発生させた磁界を内部に配置されたワイヤロープWに印加する。差動コイル12は、励振コイル11により磁界を印加されたワイヤロープWのY方向の磁束を検知(計測)する。差動コイル12は、検知したワイヤロープWの磁束に応じた検知信号(差動信号)を送信する。なお、差動コイル12の詳細な説明は、後述する。また、受信コイル121および122は、それぞれ、特許請求の範囲の「第1の受信コイル」および「第2の受信コイル」の一例である。
【0029】
電子回路部2は、処理部21と、受信I/F(インターフェース)22と、励振I/F23と、電源回路24と、記憶部25と、通信部26とを含んでいる。処理部21は、磁性体検査装置100の各部を制御するように構成されている。処理部21は、CPU(中央処理装置)などのプロセッサ、メモリ、AD変換器などを含んでいる。受信I/F22は、差動コイル12の検知信号(差動信号)を受信して、処理部21に送信する。受信I/F22は、増幅器を含んでいる。受信I/F22は、増幅器により差動コイル12の検知信号を増幅して、処理部21に送信する。励振I/F23は、処理部21からの制御信号を受信する。励振I/F23は、受信した制御信号に基づいて、励振コイル11に対する電力の供給を制御する。電源回路24は、外部から電力を受け取って、励振コイル11などの磁性体検査装置100の各部に電力を供給する。記憶部25は、たとえばフラッシュメモリを含む記憶媒体であり、ワイヤロープWの計測結果(計測データ)などの情報を記憶(保存)する。通信部26は、通信用のインターフェースであり、磁性体検査装置100と処理装置200とを通信可能に接続する。
【0030】
(差動コイルに関する構成)
図3および
図4に示すように、エレベータ110(
図1参照)には、複数(8つ)のワイヤロープWが設けられている。複数のワイヤロープWは、各々の長手方向(Z方向)に略直交する方向(X方向)に並ぶように設けられている。
【0031】
磁性体検査装置100は、複数(8つ)のワイヤロープWを同時に検査可能に構成されている。具体的には、磁性体検査装置100には、複数のワイヤロープWの数と同じ数(8つ)差動コイル12が設けられている。複数の差動コイル12は、ワイヤロープWの並ぶ方向(X方向)に並ぶように設けられている。複数の差動コイル12の各々は、複数のワイヤロープWの各々の磁束を検知して、複数のワイヤロープWの各々に対応する検知信号を送信する。処理部21は、複数の差動コイル12の各々の検知信号を取得する。
【0032】
また、励振コイル11は、複数のワイヤロープWを取り囲むように設けられている。また、励振コイル11は、複数のワイヤロープWの磁化の状態を同時に励振するように構成されている。これにより、複数のワイヤロープWの各々に励振コイルを設ける場合に比べて、磁性体検査装置100の構成を簡素化可能である。また、励振コイル11は、複数のワイヤロープWと共に、複数の差動コイル12を取り囲むように設けられている。複数のワイヤロープWと複数の差動コイル12とは、励振コイル11の内部(輪の内側)に配置されている。なお、複数の差動コイル12は、励振コイル11の外部(輪の外側)に配置されていてもよい。また、複数の差動コイル12は、実質的に同様の構成を有しているため、特に区別する必要がない限り、以下では、1つの差動コイル12について説明する。
【0033】
ここで、第1実施形態では、差動コイル12は、共に平面コイルであり、互いに差動接続されているとともに、検出面同士が互いにY方向に対向するように設けられた受信コイル121と、受信コイル122とを有している。そして、差動コイル12は、ワイヤロープWの磁束を検知する際に、受信コイル121と受信コイル122との間にワイヤロープWが非接触で配置されるように構成されている。受信コイル121と受信コイル122とは、ワイヤロープWの磁束を検知する際に、ワイヤロープWとは接触しないように設けられている。差動コイル12は、受信コイル121により得られた信号と受信コイル122により得られた信号との差動信号を検知信号として出力するように設けられている。
【0034】
図5に示すように、受信コイル121は、Y1方向側に配置されたプリント基板PB1に設けられた平面コイルである。具体的には、受信コイル121は、プリント基板PB1の基板面上の平面内において巻き回された渦巻き状の導線からなる。同様に、受信コイル122は、Y2方向側に配置されたプリント基板PB2に設けられた平面コイルである。具体的には、受信コイル122は、プリント基板PB2の基板面上の平面内において巻き回された渦巻き状の導線からなる。
【0035】
なお、複数の差動コイル12の各々の受信コイル121は、共に単一のプリント基板PB1に設けられている。同様に、複数の差動コイル12の受信コイル122は、共に単一のプリント基板PB2に設けられている。これにより、複数の差動コイル12の各々の受信コイル121(122)を別々のプリント基板に設ける場合に比べて、磁性体検査装置100の構成を簡素化可能である。また、磁性体検査装置100がY1方向側とY2方向側とに分割される構造(半割りにされる構造)を有する場合には、磁性体検査装置100の分割を容易化可能である。
【0036】
図6に示すように、受信コイル121の端部と、受信コイル122の端部とは、互いに差動接続されている。具体的には、受信コイル121の内側の端部と、受信コイル122の内側の端部とは、互いに差動接続されている。受信コイル121と受信コイル122とは、互いに逆方向に電流が流れるように構成されている。
【0037】
受信コイル121は、Y方向から見て、略矩形状に形成されている。具体的には、受信コイル121は、ワイヤロープWが延びる方向に略直交する方向(以下、単に「X方向」という)に長手方向を有し、ワイヤロープWが延びる方向(以下、単に「Z方向」という)に短手方向を有する略矩形状に形成されている。また、受信コイル121は、X方向に幅W1を有し、Z方向に幅W2を有している。幅W1は、たとえば、受信コイル121のX方向の一方側の端部から他方側の端部までの幅である。幅W2は、たとえば、受信コイル121のZ方向の一方側の端部から他方側の端部までの幅である。X方向の幅W1は、Z方向の幅W2よりも大きい。幅W1は、たとえば、幅W2の約4倍である。
【0038】
受信コイル121は、Z方向の一方側(Z1方向側)の導線部分である長手部分121aと、Z方向の他方側(Z2方向側)の導線部分である長手部分121bと、X方向の一方側(X1方向側)の導線部分である短手部分121cと、X方向の他方側(X2方向側)の導線部分である短手部分121dとを有している。長手部分121aおよび121bは、X方向に延びるように設けられている。短手部分121cおよび121dは、Z方向に延びるように設けられている。また、受信コイル121は、非導線部分121eを中央部に有している。非導線部分121eは、長手部分121aおよび121bと、短手部分121cおよび121dとにより囲まれた空間である。
【0039】
受信コイル122は、受信コイル121に対応する形状を有している。つまり、受信コイル122は、Y方向から見て、略矩形状に形成されている。具体的には、受信コイル122は、X方向に長手方向を有し、Z方向に短手方向を有する略矩形状に形成されている。また、受信コイル122は、X方向に幅W3を有し、Z方向に幅W4を有している。幅W3は、たとえば、受信コイル122のX方向の一方側の端部から他方側の端部までの幅である。幅W4は、たとえば、受信コイル122のZ方向の一方側の端部から他方側の端部までの幅である。X方向の幅W3は、Z方向の幅W4よりも大きい。幅W3は、たとえば、幅W4の約4倍である。なお、幅W3は、幅W1と同じ大きさを有しており、幅W4は、幅W2と同じ大きさを有している。
【0040】
受信コイル122は、Z方向の一方側(Z1方向側)の導線部分である長手部分122aと、Z方向の他方側(Z2方向側)の導線部分である長手部分122bと、X方向の一方側(X1方向側)の導線部分である短手部分122cと、X方向の他方側(X2方向側)の導線部分である短手部分122dとを有している。長手部分122aおよび122bは、X方向に延びるように設けられている。短手部分122cおよび122dは、Z方向に延びるように設けられている。また、受信コイル122は、非導線部分122eを中央部に有している。非導線部分122eは、長手部分122aおよび122bと、短手部分122cおよび122dとにより囲まれた空間である。
【0041】
ここで、
図7(A)および(B)を参照して、差動コイル12では、ワイヤロープWの周りに巻き回すように設けられた差動コイル130と等価的な検知信号が得られる点について説明する。
【0042】
図7(A)に示すように、差動コイル130は、互いに差動接続されているとともに、共にワイヤロープWの周りに巻き回すように設けられた受信コイル131と、受信コイル132とを有している。差動コイル130は、受信コイル131により得られた信号と受信コイル132により得られた信号との差動信号を検知信号として出力するように設けられている。
【0043】
また、受信コイル131(132)は、Z方向から見て、X方向に長手方向を有し、Y方向に短手方向を有する略矩形状に形成されている。受信コイル131(132)は、Y方向の一方側(Y1方向側)の導線部分である長手部分131a(132a)と、Y方向の他方側(Y2方向側)の導線部分である長手部分131b(132b)と、X方向の一方側(X1方向側)の導線部分である短手部分131c(132c)と、X方向の他方側(X2方向側)の導線部分である短手部分131d(132d)とを有している。
【0044】
ここで、差動コイル130では、短手部分131c(132c)および131d(132d)は、長手部分131a(132a)および131b(132b)よりもワイヤロープWから十分に遠くなるように設けられている。この場合、得られる信号がワイヤロープWからの距離の3乗に比例して減衰するため、短手部分131c(132c)および131d(132d)により得られる信号は相対的に小さくなり、長手部分131a(132a)および131b(132b)により得られる信号は相対的に大きくなる。
【0045】
言い換えると、短手部分131c(132c)および131d(132d)のワイヤロープWの傷みの検知への寄与度が小さくなるとともに、長手部分131a(132a)および131b(132b)のワイヤロープWの傷みの検知への寄与度が大きくなる。この結果、差動コイル130は、実質的に、受信コイル131の長手部分131aおよび131bと、受信コイル132の長手部分132aおよび132bとにより得られた信号を検知信号として出力する。具体的には、差動コイル130は、実質的に、受信コイル131の長手部分131aおよび131bにより得られた信号と、受信コイル132の長手部分132aおよび132bにより得られた信号との差動信号を検知信号として出力する。
【0046】
図7(B)に示すように、差動コイル12では、短手部分121c(122c)および121d(122d)は、長手部分121a(122a)および121b(122b)よりもワイヤロープWから十分に遠くなるように設けられている。この場合、得られる信号がワイヤロープWからの距離の3乗に比例して減衰するため、短手部分121c(122c)および121d(122d)により得られる信号は相対的に小さくなり、長手部分121a(122a)および121b(122b)により得られる信号は相対的に大きくなる。
【0047】
言い換えると、短手部分121c(122c)および121d(122d)のワイヤロープWの傷みの検知への寄与度が小さくなるとともに、長手部分121a(122a)および121b(122b)のワイヤロープWの傷みの検知への寄与度が大きくなる。この結果、差動コイル12は、実質的に、受信コイル121の長手部分121aおよび121bと、受信コイル122の122aおよび122bとにより得られた信号を検知信号として出力する。具体的には、差動コイル12は、実質的に、受信コイル121の長手部分121aおよび受信コイル122の122aにより得られた信号と、受信コイル121の長手部分121bおよび受信コイル122の長手部分122bにより得られた信号との差動信号を検知信号として出力する。
【0048】
以上のように、差動コイル12と、差動コイル130とでは、共に実質的に長手部分だけで信号が得られるため、等価的な検知信号が得られる。
【0049】
(検知信号の信号処理に関する構成)
図8に示すように、あるワイヤロープWに傷みが生じた場合、差動コイル12同士が近くに設けられていると、傷みが生じたワイヤロープWを検知する差動コイル12だけでなく、この差動コイル12の近くの、傷みが生じていないワイヤロープWを検知する差動コイル12からも傷み波形Wdが得られる場合がある。なお、
図8では、1~3および5~8番目のワイヤロープWには傷みが生じておらず、4番目のワイヤロープWに傷みが生じている場合を例に示してる。
【0050】
そこで、本実施形態では、処理部21は、複数の差動コイル12の各々の検知信号の傷み波形Wdの大きさに基づいて、傷みが生じたワイヤロープWを特定するように構成されている。具体的には、まず、処理部21は、複数の差動コイル12の各々の検知信号の傷み波形Wdを抽出するとともに、抽出した傷み波形Wdの大きさを取得する。傷み波形Wdの大きさは、たとえば、傷み波形Wdのピークの大きさである。そして、処理部21は、複数の差動コイル12の各々の検知信号の傷み波形Wdの大きさを比較する。そして、処理部21は、複数の差動コイル12の各々の検知信号のうち傷み波形Wdの大きさが最も大きい検知信号に対応するワイヤロープW(
図8では、4番目のワイヤロープW)を、傷みが生じたワイヤロープWであると特定するように構成されている。
【0051】
また、本実施形態では、
図9および
図10に示すように、処理部21は、複数の差動コイル12のうちの決められた差動コイル12の各々の検知信号を加算した加算信号に基づいて、ワイヤロープWに異常が生じたか否かを判定するように構成されている。決められた差動コイル12は、たとえば、ユーザにより予め設定されている。
【0052】
たとえば、
図9に示すように、処理部21は、複数の差動コイル12のうちの全部の差動コイル12を決められた差動コイル12として、全部の差動コイル12の各々の検知信号を加算した加算信号に基づいて、ワイヤロープWに異常が生じたか否かを判定する。これにより、全部のワイヤロープWについてまとめて(束状態で)異常を判定可能である。また、たとえば、処理部21は、
図10に示すように、複数の差動コイル12のうちの差動コイル12が並ぶ方向(X方向)に連続する一部の差動コイル12を決められた差動コイル12として、一部の差動コイル12の各々の検知信号を加算した加算信号に基づいて、ワイヤロープWに異常が生じたか否かを判定する。これにより、計測を所望する一部のワイヤロープWについてまとめて(束状態で)異常を判定可能である。
【0053】
また、処理部21は、複数の差動コイル12を複数のグループに分けて、複数のグループの各々の加算信号を生成する。
図10では、それぞれ3つの差動コイル12を含む複数のグループの各々の加算信号が生成される例を示している。具体的には、
図10では、1番目~3番目の差動コイル12のグループ、2番目~4番目の差動コイル12のグループ、3番目~5番目の差動コイル12のグループ、4番目~6番目の差動コイル12のグループ、5番目~7番目の差動コイル12のグループ、および、6番目~8番目の差動コイル12のグループの加算信号が生成される例を示している。処理部21は、複数のグループの各々の加算信号に基づいて、ワイヤロープWに異常が生じたか否かを判定する。具体的には、処理部21は、複数のグループの各々の加算信号のうち傷み波形の大きさが最も大きい加算信号に対応するワイヤロープWに、異常が生じたと判定する。
【0054】
また、処理部21は、ワイヤロープWに異常が生じたと判定した場合、ワイヤロープWに異常が生じたことを示す異常判定信号を出力するように構成されている。たとえば、処理部21は、異常判定信号を処理装置200に出力して、ワイヤロープWに異常が生じたことを処理装置200の表示部204に表示させる。これにより、ユーザは、ワイヤロープWに異常が生じたことを容易に確認可能である。また、たとえば、処理部21は、異常判定信号を検査されたワイヤロープWが用いられている装置(エレベータ110)に出力して、異常判定信号に応じた動作(停止動作など)をこの装置に行わせる。
【0055】
なお、全部の差動コイル12の各々の検知信号を加算した場合、全部のワイヤロープWの周りに巻き回すように設けられた差動コイルと等価的な検知信号が加算信号として得られる。また、一部の差動コイル12の各々の検知信号を加算した場合、検知信号を加算した差動コイル12に対応する一部のワイヤロープWの周りに巻き回すように設けられた差動コイルと等価的な検知信号が加算信号として得られる。
【0056】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0057】
第1実施形態では、上記のように、複数の差動コイル12の各々を、平面コイルである受信コイル121と、受信コイル121と差動接続されているとともに、受信コイル121の検出面と検出面が対向するように設けられた平面コイルである受信コイル122とを有するように構成する。そして、複数の差動コイル12の各々を、複数のワイヤロープWの各々の磁束を検知する際に、受信コイル121と受信コイル122との間にワイヤロープWが配置されるように構成する。これにより、差動コイル12の受信コイル121と受信コイル122とを共に平面コイルにより構成することができるので、コイルをU字状に湾曲するように設ける場合やコイルをワイヤロープWの周りに巻き回すように設ける場合に比べて、コイル(差動コイル12)の形状および構造を簡素化することができる。また、コイルをU字状に湾曲するように設ける場合と異なり、コイルに曲げ加工を行う必要がないため、コイル(差動コイル12)の製造性を向上させることができる。さらに、コイルが露出している場合にも、コイルをワイヤロープWの周りを囲うようにU字状に設ける場合と比べて、ワイヤロープWとコイル(差動コイル12)とが接触しにくいようにすることができるので、コイル(差動コイル12)の品質が低下することを抑制することができる。また、複数の差動コイル12を設けることにより、複数のワイヤロープWの傷みを個別に検知することができるので、複数のワイヤロープWのうちのいずれのワイヤロープWに傷みが生じているかを判定することができる。これらの結果、コイルの形状および構造を簡素化し、コイルの製造性を向上させかつコイルの品質の低下を抑制しつつ、複数のワイヤロープWのうちのいずれのワイヤロープWに傷みが生じているかを判定することができる。
【0058】
また、第1実施形態では、上記のように、複数の差動コイル12の各々を、受信コイル121および受信コイル122のワイヤロープWが延びる方向の一方側の部分(長手部分121a、122a)と、受信コイル121および受信コイル122のワイヤロープWが延びる方向の他方側の部分(長手部分121b、122b)との差動信号を出力する差動コイルを形成するように設ける。これにより、受信コイル121と受信コイル122とが平面コイルである場合にも、受信コイル121と受信コイル122とを差動コイル12として機能させることができる。その結果、平面コイルである受信コイル121と受信コイル122とにより差動コイル12の構成を簡素化しつつ、受信コイル121と受信コイル122とを差動コイル12として機能させることができる。
【0059】
また、第1実施形態では、上記のように、受信コイル121と受信コイル122とにおいて、ワイヤロープWが延びる方向に略直交する方向の幅(幅W1、W3)をワイヤロープWが延びる方向の幅(幅W2、W4)よりも大きくする。これにより、受信コイル121と受信コイル122とのワイヤロープWが延びる方向の部分(短手部分121c、121d、122c、122d)を、ワイヤロープWから遠くなるように設けることができる。その結果、ワイヤロープWの傷みの検知に寄与させたくない受信コイル121と受信コイル122とのワイヤロープWが延びる方向の部分(短手部分121c、121d、122c、122d)の、ワイヤロープWの傷みの検知への寄与度を小さくすることができるとともに、ワイヤロープWの傷みの検知に寄与させたい受信コイル121と受信コイル122とのワイヤロープWが延びる方向に略直交する方向の部分(長手部分121a、121b、122a、122b)の、ワイヤロープWの傷みの検知への寄与度を大きくすることができる。
【0060】
また、第1実施形態では、上記のように、処理部21を、複数の差動コイル12の各々の検知信号の傷み波形Wdの大きさに基づいて、傷みが生じたワイヤロープWを特定するように構成する。ここで、複数の差動コイル12を設ける場合、差動コイル12同士が近くに設けられていると、傷みが生じたワイヤロープWを検知する差動コイル12だけでなく、この差動コイル12の近くの、傷みが生じていないワイヤロープWを検知する差動コイル12からも傷み波形Wdが得られる場合がある。そこで、上記のように構成することによって、傷みが生じていないワイヤロープWを検知する差動コイル12から傷み波形Wdが得られた場合にも、複数の差動コイル12の各々の検知信号の傷み波形Wdの大きさを比べることができるので、複数の差動コイル12の各々の検知信号の傷み波形Wdの大きさに基づいて、傷みが生じたワイヤロープWを容易に特定することができる。
【0061】
また、第1実施形態では、上記のように、処理部21を、複数の差動コイル12の各々の検知信号のうち傷み波形Wdの大きさが最も大きい検知信号に対応するワイヤロープWを、傷みが生じたワイヤロープWであると特定するように構成する。これにより、傷みが生じたワイヤロープWを検知する差動コイル12から得られた傷み波形Wdの大きさが最も大きいことを利用して、傷みが生じたワイヤロープWを容易かつ確実に特定することができる。
【0062】
また、第1実施形態では、上記のように、処理部21を、複数の差動コイル12のうちの決められた差動コイル12の各々の検知信号を加算した加算信号に基づいて、ワイヤロープWに異常が生じたか否かを判定するように構成する。これにより、加算信号に基づいていくつかのワイヤロープWについてまとめて(束状態で)異常を判定することができるので、いくつかのワイヤロープWのうちのいずれかのワイヤロープWに異常が生じたことを検知することができる。また、個々の検知信号では異常に起因した波形が小さい場合にも、加算信号では加算により異常に起因した波形を大きくすることができるので、ワイヤロープWに異常が生じたことを早期に検知することができる。
【0063】
また、第1実施形態では、上記のように、処理部21を、ワイヤロープWに異常が生じたと判定した場合、ワイヤロープWに異常が生じたことを示す異常判定信号を出力するように構成する。これにより、ユーザは、異常判定信号に基づいて、ワイヤロープWに異常が生じたことを早期に知ることができるので、ワイヤロープWに生じた異常の解消を早期に行うことができる。
【0064】
[第2実施形態]
次に、
図1および
図2を参照して、第2実施形態について説明する。この第2実施形態では、上記第1実施形態と異なり、処理装置が傷みが生じたワイヤロープを特定したり、加算信号に基づいてワイヤロープに異常が生じたか否かを判定したりする例について説明する。なお、上記第1実施形態と同一の構成については、図中において同じ符号を付して図示し、その説明を省略する。
【0065】
(処理装置の構成)
磁性体検査システム600は、
図1に示すように、磁性体検査装置400と処理装置500とを備える点で、上記第1実施形態の磁性体検査システム300と相違する。また、磁性体検査装置400および処理装置500は、
図1および
図2に示すように、それぞれ、処理部321および処理部502を備える点で、上記第1実施形態の磁性体検査装置100および処理装置200と相違する。
【0066】
第2実施形態では、磁性体検査装置400の処理部321は、通信部26を介して、複数の差動コイル12の各々の検知信号を処理装置500に送信する処理を行う。処理装置500の処理部502は、通信部201を介して、複数の差動コイル12の各々の検知信号を取得する。処理装置500の処理部502は、複数の差動コイル12の各々の検知信号の傷み波形Wdに基づいて、傷みが生じたワイヤロープWを特定するように構成されている(
図8参照)。また、処理装置500の処理部502は、複数の差動コイル12のうちの決められた差動コイル12の各々の検知信号を加算した加算信号に基づいて、ワイヤロープWに異常が生じたか否かを判定するように構成されている(
図9および
図10参照)。なお、第2実施形態においても、傷みが生じたワイヤロープWの特定方法や加算信号に基づくワイヤロープWの異常の判定方法は、上記第1実施形態と同様である。このため、詳細な説明は省略する。
【0067】
第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0068】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0069】
第2実施形態では、上記のように、処理装置500を、複数の差動コイル12の各々の検知信号の傷み波形Wdの大きさに基づいて、傷みが生じたワイヤロープWを特定するように構成する。これにより、第1実施形態と同様に、複数の差動コイル12の各々の検知信号の傷み波形Wdの大きさに基づいて、傷みが生じたワイヤロープWを容易に特定することができる。
【0070】
また、第2実施形態では、上記のように、処理装置500を、複数の差動コイル12のうちの決められた差動コイル12の各々の検知信号を加算した加算信号に基づいて、ワイヤロープWに異常が生じたか否かを判定するように構成する。これにより、第1実施形態と同様に、いくつかのワイヤロープWのうちのいずれかのワイヤロープWに異常が生じたことを検知することができるとともに、ワイヤロープWに異常が生じたことを早期に検知することができる。
【0071】
なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0072】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0073】
たとえば、上記第1および第2実施形態では、磁性体検査装置において検査される磁性体がワイヤロープである例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、磁性体検査装置において検査される磁性体は、ワイヤロープ以外の磁性体であってもよい。
【0074】
また、上記第1および第2実施形態では、磁性体検査システムがエレベータに用いられるワイヤロープ(磁性体)を検査するシステムである例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、磁性体検査システムがクレーンや、吊り橋、ロボットなどに用いられる磁性体を検査するシステムであってもよい。なお、吊り橋に使用されるワイヤロープ(磁性体)のように、磁性体自体が移動しない場合には、磁性体検査装置を磁性体に沿って移動させながら、磁性体検査装置による磁性体の磁束の計測が行われればよい。
【0075】
また、上記第1および第2実施形態では、磁性体検査装置が、励振コイルを備えている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、磁性体検査装置が、必ずしも励振コイルを備えていなくてもよい。
【0076】
また、上記第1および第2実施形態では、差動コイルが、8つ設けられている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、差動コイルが、8つ以外の複数設けられていてもよい。
【0077】
また、上記第1および第2実施形態では、差動コイルが、複数のワイヤロープ(磁性体)と同じ数設けられている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、差動コイルが、複数の磁性体よりも大きい数設けられていてもよい。たとえば、1つの磁性体につき2つや3つなどの複数ずつ差動コイルが設けられていてもよい。
【0078】
また、上記第1および第2実施形態では、複数の差動コイルが、ワイヤロープ(磁性体)が並ぶ方向に並ぶように設けられている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、複数の差動コイルが、必ずしも磁性体が並ぶ方向に並ぶように設けられていなくてもよい。たとえば、複数の差動コイルが、磁性体が延びる方向にずれるように設けられていてもよい。
【0079】
また、上記第1および第2実施形態では、差動コイルが、略矩形状に形成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、差動コイルが、必ずしも略矩形状に形成されていなくてもよい。たとえば、差動コイルが、略楕円状に形成されていてもよい。
【0080】
また、上記第1および第2実施形態では、磁性体検査装置の処理部または処理装置の処理部が、複数の差動コイルの各々の検知信号の傷み波形の大きさに基づいて、傷みが生じたワイヤロープ(磁性体)を特定するように構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、磁性体検査装置の処理部または処理装置の処理部が、必ずしも、複数の差動コイルの各々の検知信号の傷み波形の大きさに基づいて、傷みが生じた磁性体を特定するように構成されていなくてもよい。
【0081】
また、上記第1および第2実施形態では、磁性体検査装置の処理部または処理装置の処理部が、複数の差動コイルのうちの決められた差動コイルの各々の検知信号を加算した加算信号に基づいて、ワイヤロープ(磁性体)に異常が生じたか否かを判定するように構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、磁性体検査装置の処理部または処理装置の処理部が、必ずしも、複数の差動コイルのうちの決められた差動コイルの各々の検知信号を加算した加算信号に基づいて、ワイヤロープ(磁性体)に異常が生じたか否かを判定するように構成されていなくてもよい。
【符号の説明】
【0082】
12 差動コイル
121 受信コイル(第1の受信コイル)
122 受信コイル(第2の受信コイル)
21 処理部
100、400 磁性体検査装置
200、500 処理装置
300、600 磁性体検査システム
W ワイヤロープ(磁性体)
W1 幅
W2 幅
W3 幅
W4 幅
Wd 傷み波形