(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】燃料電池用セパレータ
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0265 20160101AFI20220531BHJP
H01M 8/026 20160101ALI20220531BHJP
H01M 8/0258 20160101ALI20220531BHJP
H01M 8/0206 20160101ALI20220531BHJP
H01M 8/0228 20160101ALI20220531BHJP
【FI】
H01M8/0265
H01M8/026
H01M8/0258
H01M8/0206
H01M8/0228
(21)【出願番号】P 2019016135
(22)【出願日】2019-01-31
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】河邉 聡
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-191687(JP,A)
【文献】特開2008-171638(JP,A)
【文献】国際公開第2007/088832(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/0265
H01M 8/026
H01M 8/0258
H01M 8/0206
H01M 8/0228
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の厚み方向における両側に電極層が接合されてなる膜電極接合体を備える燃料電池に用いられて、同方向における前記膜電極接合体の外側に配置され、かつ導電性を有するセパレータ基材を備え、
前記セパレータ基材には、前記膜電極接合体に向けて突出する複数の凸状部と、同凸状部の突出方向とは反対側へ凹む複数の凹状部とが形成され、
複数の前記凸状部及び複数の前記凹状部は、前記膜電極接合体の面に沿う方向に互い違いに配置されて平行に延びており、
前記凹状部及び前記電極層により囲まれた領域が、同電極層に対しガスとして酸化ガス又は燃料ガスを供給する流路を構成する燃料電池用セパレータにおいて、
前記凸状部及び前記凹状部の前記電極層側の面のうち少なくとも前記凸状部の頂面には、導電性を有する薄膜が積層され、
前記頂面における前記薄膜には、前記凸状部の両側の前記流路を連通させる溝が形成され、
前記凹状部のうち前記ガスの流れ方向における前記溝の下流側には、前記流路の流路断面積を、同溝により連通された箇所での流路断面積よりも小さくする流路抵抗増大部が設けられている燃料電池用セパレータ。
【請求項2】
前記溝は、前記凸状部の両側の前記流路のうち、前記流路抵抗増大部により流路断面積が小さくされていない側の前記流路を起点として分岐する複数の分岐溝部からなり、
複数の分岐溝部において前記起点から遠い側のそれぞれの端部は、互いに離間した状態で、前記凸状部の両側の前記流路のうち、前記流路抵抗増大部により流路断面積が小さくされた流路に繋がれている請求項1に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項3】
前記凹状部は、前記凸状部及び前記凹状部の配列方向に相対向する一対の側壁部を備え、
前記流路抵抗増大部は、両側壁部の相対向する箇所にそれぞれ設けられて、互いに接近する側へ突出する一対の突部により構成されている請求項1又は2に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項4】
前記溝は、前記流路抵抗増大部が設けられた前記凹状部を両側から挟む前記凸状部上の前記薄膜において、前記凸状部及び前記凹状部の配列方向に相対向する箇所にそれぞれ形成されている請求項1~3のいずれか1項に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項5】
前記流路抵抗増大部は凹状部毎に設けられ、
前記流路抵抗増大部と、同流路抵抗増大部により流路断面積が小さくされた流路に繋がれた前記溝との組み合わせは、隣り合う凹状部では、前記流路におけるガスの流れ方向に互いに異なる箇所に位置している請求項1~4のいずれか1項に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項6】
前記セパレータ基材は金属材料により形成されており、
前記凸状部及び前記凹状部の前記電極層側の面には、導電性を有し、かつ前記セパレータ基材よりも高い耐腐食性を有する第1薄膜が全面にわたって積層され、
前記薄膜は第2薄膜として、前記第1薄膜のうち、少なくとも前記凸状部の頂面に積層された部分に形成されている請求項1~5のいずれか1項に記載の燃料電池用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池における複数層の膜電極接合体間に配置される燃料電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示される燃料電池では、
図6に概略的に示すように、膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)71が厚み方向(
図6の上下方向)における両側からセパレータ75によって挟まれている。膜電極接合体71は、電解質膜72と、上記厚み方向における電解質膜72の両側に配置された電極層とを備えている。一方の電極層はカソード電極層73を構成し、他方の電極層はアノード電極層74を構成している。なお、燃料電池70においては、複数層の膜電極接合体71が上記セパレータ75によって隔てられることで、膜電極接合体71がそれぞれ上述したように厚み方向における両側からセパレータ75によって挟まれている。
【0003】
各セパレータ75は、導電性を有する金属製のセパレータ基材76を備えている。各セパレータ基材76には、膜電極接合体71に向けて突出する複数の凸状部77と、同凸状部77の突出方向とは反対側へ凹む複数の凹状部78とが形成されている。複数の凸状部77及び複数の凹状部78は、膜電極接合体71の面に沿う方向(
図6の左右方向)に互い違いに配置されて平行に延びている。
【0004】
各凹状部78及びカソード電極層73により囲まれた領域は、同カソード電極層73に酸化ガスを供給する流路81を構成している。各凹状部78及びアノード電極層74により囲まれた領域は、同アノード電極層74に燃料ガスを供給する流路82を構成している。
【0005】
各凸状部77の頂面には、導電性を有する薄膜85が積層されている。各薄膜85は、膜電極接合体71とセパレータ75毎のセパレータ基材76との接触抵抗の増大を抑制して、同接触抵抗が、燃料ガス及び酸化ガスの膜電極接合体71での反応に及ぼす影響を小さくするために設けられている。接触抵抗は、二つの物体を接触させて電流を流すとき、その界面近傍に存在する電気抵抗である。
【0006】
上記燃料電池70では、アノード電極層74に燃料ガスが供給され、カソード電極層73に酸化ガスが供給されると、それら燃料ガス及び酸化ガスの膜電極接合体71での反応に基づき発電が行われる。この際、上記反応に伴ってカソード電極層73で水が生成される。生成された水の一部は、カソード電極層73と各薄膜85との間に位置する。この水のうち流路81に近いものは、同流路81内を高い流速で流れる酸化ガスに乗って燃料電池70の外部へ排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、上記水のうち、流路81から遠ざかった箇所に位置するものは、同流路81内の酸化ガスの流れによって燃料電池70の外部へ排出されきれず、カソード電極層73と各薄膜85との間で滞留する。この滞留する水が原因で、酸化ガスの拡散が十分に行われず、燃料ガス及び酸化ガスの反応が低下するおそれがある。
【0009】
なお、カソード電極層73及びアノード電極層74にある程度の水分を含ませることにより、発電効率を向上させることができる。そのため、膜電極接合体71を薄くすることが考えられる。こうすると、カソード電極層73側で生成された水が電解質膜72を伝わってアノード電極層74側に移動しやすくなる。ただし、各薄膜85とアノード電極層74との間に必要以上の水が保持されて、同アノード電極層74側に余剰の水が溜まると、燃料ガスがアノード電極層74に接触しにくくなって、燃料ガス及び酸化ガスの反応が低下するおそれがある。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、発電に伴い生成した水の排水性能を高めることのできる燃料電池用セパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する燃料電池用セパレータは、電解質膜の厚み方向における両側に電極層が接合されてなる膜電極接合体を備える燃料電池に用いられて、同方向における前記膜電極接合体の外側に配置され、かつ導電性を有するセパレータ基材を備え、前記セパレータ基材には、前記膜電極接合体に向けて突出する複数の凸状部と、同凸状部の突出方向とは反対側へ凹む複数の凹状部とが形成され、複数の前記凸状部及び複数の前記凹状部は、前記膜電極接合体の面に沿う方向に互い違いに配置されて平行に延びており、前記凹状部及び前記電極層により囲まれた領域が、同電極層に対しガスとして酸化ガス又は燃料ガスを供給する流路を構成する燃料電池用セパレータにおいて、前記凸状部及び前記凹状部の前記電極層側の面のうち少なくとも前記凸状部の頂面には、導電性を有する薄膜が積層され、前記頂面における前記薄膜には、前記凸状部の両側の前記流路を連通させる溝が形成され、前記凹状部のうち前記ガスの流れ方向における前記溝の下流側には、前記流路の流路断面積を、同溝により連通された箇所での流路断面積よりも小さくする流路抵抗増大部が設けられている。
【0012】
上記の構成によれば、ガスとしての酸化ガス又は燃料ガスは、それぞれ対応する流路を流れる。この際、流路抵抗増大部はガスの流れの抵抗となる。一方、薄膜に形成されて、凸状部の両側の流路を連通させる溝では、ガスが流通可能である。一方の流路を流れるガスは、溝を通って他方の流路へ流入可能である。そのため、流路抵抗増大部により流路抵抗が増大される側の流路を流れるガスの一部は、同流路抵抗増大部を通過するが、別の一部は、ガスの流れ方向における流路抵抗増大部よりも上流側の溝を通って、流路抵抗増大部により流路抵抗が増大されない側の流路へ移り、その流路を流れる。
【0013】
流路を流れる酸化ガスは、同流路に面した電極層に供給される。流路を流れる燃料ガスは、同流路に面した電極層に供給される。供給された燃料ガス及び酸化ガスの膜電極接合体での反応に基づき発電が行われる。この反応に伴い、酸化ガスが供給された電極層では水が生成される。生成した水の一部は、電極層と、薄膜のうち凸状部の頂面に積層された部分との間に位置する。この水のうち、流路に近いものは、同流路内を流れるガスによって同流路に引っ張られる。流路へ出た水は、ガスに乗って同流路を流れる。また、上記水のうち溝に近いものは、同溝を流れるガスによって、流路抵抗増大部により流路抵抗が増大されない側の流路に追い出される。この水は、追い出された側の流路におけるガスに乗って流れる。上記のように、ガスに乗って流路を流れる水は、最終的には燃料電池の外部へ排出される。
【0014】
従って、溝がない場合に比べ、排出される水の量が多くなり、排水性能が高まる。また、溝がない場合とは異なり、生成された水が、電極層と、薄膜のうち凸状部の頂面に積層された部分との間に滞留することが抑制される。滞留が原因で、ガスの拡散が十分に行われず、燃料ガス及び酸化ガスの反応が低下する現象が起こりにくくなる。
【発明の効果】
【0015】
上記燃料電池用セパレータによれば、発電に伴い生成した水の排水性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態における燃料電池の部分断面図。
【
図2】第1実施形態における第1セパレータの部分斜視図。
【
図3】第1実施形態における第1セパレータの部分底面図。
【
図4】第2実施形態における第1セパレータの部分斜視図。
【
図5】第3実施形態における第1セパレータの部分斜視図。
【
図6】従来の燃料電池において、膜電極接合体が厚み方向における両側からセパレータによって挟まれた状態を概略的に示す略図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、燃料電池用セパレータを具体化した第1実施形態について、
図1~
図3を参照して説明する。
【0018】
図1に示すように、燃料電池10は複数層の膜電極接合体11を備えている。各膜電極接合体11は、厚み方向(
図1の上下方向)における両側から燃料電池用セパレータによって挟み込まれている。ここで、両燃料電池用セパレータを区別するために、
図1において各膜電極接合体11の上側(厚み方向における一方の外側)に位置するものを第1セパレータ21といい、下側(厚み方向における他方の外側)に位置するものを第2セパレータ31というものとする。
【0019】
複数層の膜電極接合体11は、それらの間に設けられた第1セパレータ21及び第2セパレータ31によって互いに隔てられている。各膜電極接合体11は、電解質膜12と、上記厚み方向における同電解質膜12の両側に配置された電極層とを備えている。一方(
図1の上方)の電極層はカソード電極層13を構成し、他方(
図1の下方)の電極層はアノード電極層14を構成している。
【0020】
カソード電極層13を挟んで電解質膜12とは反対側(
図1の上側)には、炭素繊維等からなり、後述する酸化ガスの拡散を促進するガス拡散層15が配置されている。アノード電極層14を挟んで電解質膜12とは反対側(
図1の下側)には、炭素繊維等からなり、後述する燃料ガスの拡散を促進するガス拡散層16が配置されている。
【0021】
上記膜電極接合体11及び両ガス拡散層15,16と、それらを上記厚み方向における両側(外側)から挟み込む第1セパレータ21及び第2セパレータ31とによってセルユニット20が構成されている。さらに、複数のセルユニット20が上記厚み方向に重ねられることによって、燃料電池10におけるセルスタックが構成されている。
【0022】
図1及び
図2に示すように、各第1セパレータ21の骨格部分は、導電性を有する金属製のセパレータ基材22によって構成されている。第1実施形態では、各セパレータ基材22は、100μm程度の厚みを有するステンレス鋼板によって形成されている。
【0023】
各セパレータ基材22には、膜電極接合体11に向けて突出する複数の凸状部23と、同凸状部23の突出方向とは反対側へ凹む複数の凹状部24とが形成されている。
図1及び
図2では、各凸状部23は下方へ突出し、各凹状部24は上方へ凹んでいる。各凹状部24は、凸状部23及び凹状部24の配列方向(
図1では左右方向)に相対向する一対の側壁部24aと、両側壁部24aの底部同士を連結する底壁部24bとを備えている。複数の凸状部23及び複数の凹状部24は、膜電極接合体11の面に沿う方向(
図1では左右方向)に互い違いに配置されて平行に延びている。各凹状部24及びカソード電極層13により囲まれた領域は、同カソード電極層13に対し酸化ガス(例えば空気)を供給するための流路25を構成している。
【0024】
図1に示すように、各第2セパレータ31の骨格部分は、導電性を有する金属製のセパレータ基材32によって構成されている。第1実施形態では、各セパレータ基材32は、上記セパレータ基材22と同様、100μm程度の厚みを有するステンレス鋼板によって形成されている。
【0025】
各セパレータ基材32には、膜電極接合体11に向けて突出する複数の凸状部33と、同凸状部33の突出方向とは反対側へ凹む複数の凹状部34とが形成されている。
図1では、各凸状部33は上方へ突出し、各凹状部34は下方へ凹んでいる。各凹状部34は、凸状部33及び凹状部34の配列方向(
図1では左右方向)に相対向する一対の側壁部34aと、両側壁部34aの底部同士を連結する底壁部34bとを備えている。複数の凸状部33及び複数の凹状部34は、膜電極接合体11の面に沿う方向(
図1では左右方向)に互い違いに配置されて平行に延びている。各凹状部34及びアノード電極層14により囲まれた領域は、同アノード電極層14に対し燃料ガス(例えば水素)を供給するための流路35を構成している。
【0026】
燃料電池10におけるセルスタックでは、複数のセルユニット20が上記厚み方向に重ねられていることについては上述した通りである。従って、
図1の上下方向における中央部分に示されるセルユニット20の第1セパレータ21の上側には、二点鎖線で示すように、上隣のセルユニット20における第2セパレータ31が配置されている。そして、第1セパレータ21の各凹状部24の底部と、その上隣の第2セパレータ31の各凹状部34の底部との間に薄膜26が介在されている。各薄膜26は、両凹状部24,34間の接触抵抗の増大を抑制するためのものであり、セパレータ基材22,32よりも導電性の高い(電気抵抗値の低い)材料、例えばカーボン、金、白金等によって形成されている。さらに、第1セパレータ21の凸状部23と上隣の第2セパレータ31の凸状部33との間には、冷却液(例えば冷却水)の流路27が形成されている。
【0027】
同様に、
図1の上下方向における中央部分に示されるセルユニット20の第2セパレータ31の下側には、二点鎖線で示すように、下隣のセルユニット20における第1セパレータ21が配置されている。そして、第2セパレータ31の各凹状部34の底部と、その下隣の第1セパレータ21の各凹状部24の底部との間に薄膜26が介在されている。さらに、第2セパレータ31の各凸状部33と下隣の第1セパレータ21の各凸状部23との間には、冷却液の流路27が形成されている。
【0028】
図1及び
図2に示すように、セルユニット20毎の第1セパレータ21のセパレータ基材22において、凸状部23及び凹状部24のカソード電極層13側の面のうち、凸状部23の頂面には薄膜42が積層されている。各薄膜42は、膜電極接合体11とセパレータ基材22との間の接触抵抗の増大を抑制して、同接触抵抗が、燃料ガス及び酸化ガスの膜電極接合体11での反応に及ぼす影響を小さくするために設けられている。各薄膜42は、上記薄膜26と同様の材料を用い、インクジェット印刷法により、厚さが例えば数100nm~数100μmとなるように形成されている。各薄膜42は、各セパレータ基材22よりも高い親水性を有している。各第1セパレータ21は、各薄膜42においてガス拡散層15に接している。表現を変えると、第1セパレータ21毎の各薄膜42は、ガス拡散層15を介してカソード電極層13に間接的に接している。
【0029】
各薄膜42には、凸状部23の延びる方向に対し交差する方向、第1実施形態では直交する方向(
図1の左右方向)へ延びる溝43が形成されている。溝43は、凸状部23の延びる方向に互いに離間した複数箇所に形成されている。各溝43は、後述する流路抵抗増大部の設けられた凹状部24を両側から挟む凸状部23上の薄膜42において、上記凸状部23及び凹状部24の配列方向に相対向する箇所にそれぞれ形成されている。各溝43の深さは、薄膜42の厚みと同一に設定されており、同溝43が形成された箇所では、凸状部23の頂面が露出している。
【0030】
薄膜42に溝43が形成された凸状部23の両側には流路25が位置している。各溝43の一方の端部は一方の流路25に繋がり、同溝43の他方の端部は他方の流路25に繋がっている。各凸状部23の両側の流路25は、溝43によって連通されている。溝43の流路25との接続部分における流路断面積は、同流路25の溝43との接続部分における流路断面積よりも小さい。
【0031】
図1~
図3に示すように、各凹状部24のうち、酸化ガスの流れ方向における溝43の下流側には、流路25の流路断面積を、同溝43によって連通された箇所での流路断面積よりも小さくする流路抵抗増大部が設けられている。隣り合う凹状部24における流路抵抗増大部は、流路25における酸化ガスの流れ方向に互いに異なる箇所に位置している(
図2参照)。各流路抵抗増大部は、凹状部24における両側壁部24aであって、凸状部23及び凹状部24の配列方向に相対向する箇所にそれぞれ設けられて、互いに接近する側へ突出する一対の突部28によって構成されている。
【0032】
突部28と、同突部28により流路断面積を小さくされた流路25に繋がれた溝43との組み合わせは、隣り合う凹状部24では、同流路25における酸化ガスの流れ方向に互いに異なる箇所に位置している。
【0033】
図1に示すように、セルユニット20毎の第2セパレータ31のセパレータ基材32において、凸状部33及び凹状部34のアノード電極層14側の面のうち、各凸状部33の頂面には薄膜52が積層されている。各薄膜52は、第1セパレータ21における薄膜42と同様の目的で、同様の材料を用い、同様の方法によって、同様の厚み及び親水性を有するように形成されている。第2セパレータ31は、凸状部33毎の薄膜52においてガス拡散層16に接している。各薄膜52には、第1セパレータ21の溝43と同様の方向に延びて、両端が異なる流路35に繋がる溝53が形成されている。各溝53は、後述する流路抵抗増大部の設けられた凹状部34を両側から挟む凸状部33上の薄膜52において、凸状部33及び凹状部34の配列方向に相対向する箇所にそれぞれ形成されている。凸状部33の両側の流路35は、溝53によって連通されている。溝53の流路35との接続部分における流路断面積は、同流路35の溝53との接続部分における流路断面積よりも小さい。
【0034】
各凹状部34のうち、燃料ガスの流れ方向における溝53の下流側には、流路35の流路断面積を、同溝53によって連通された箇所での流路断面積よりも小さくする流路抵抗増大部が設けられている。隣り合う凹状部34における流路抵抗増大部は、流路35における燃料ガスの流れ方向に互いに異なる箇所に位置している。各流路抵抗増大部は、凹状部34における両側壁部34aであって、凸状部33及び凹状部34の配列方向に相対向する箇所にそれぞれ設けられて、互いに接近する側へ突出する一対の突部38によって構成されている。
【0035】
突部38と、同突部38により流路断面積を小さくされた流路35に繋がれた溝53との組み合わせは、隣り合う凹状部34では、同流路35における燃料ガスの流れ方向に互いに異なる箇所に位置している。
【0036】
なお、上記第1セパレータ21は、次のようにして製造される。まず、平坦なステンレス鋼板が準備され、これをプレス成形することにより、複数の凸状部23及び複数の凹状部24を有するセパレータ基材22が形成される。各凸状部23の頂面に対し、インクジェット印刷法によって、セパレータ基材22よりも導電性の高い材料が塗布されることで、溝43を有する薄膜42が形成される。第2セパレータ31も、上記第1セパレータ21と同様の工程を経ることにより製造される。
【0037】
次に、上記のようにして構成された第1実施形態の作用及び効果について説明する。
図2及び
図3において矢印で示すように、燃料電池10においては、酸化ガスが各流路25を流れる。また、燃料ガスが各流路35を流れる。この際、各突部28が酸化ガスの流れの抵抗となる。各凹状部24において突部28の設けられた箇所では、設けられていない箇所よりも流路断面積が小さくなっているからである。薄膜42に形成されて、凸状部23の両側の流路25を連通させる溝43では、酸化ガスが流通可能である。一方の流路25を流れる酸化ガスの一部は、流れ方向を変えて溝43を通って他方の流路25へ流入可能である。そのため、突部28により流路抵抗が増大される側の流路25を流れる酸化ガスの一部は、同流路25に沿って流れて、両突部28間を通過する。しかし、流路25を流れる酸化ガスの別の一部は、同酸化ガスの流れ方向における両突部28よりも上流側の溝43を通って、両突部28により流路抵抗が増大されない側の流路25へ移り、その流路25を流れる。
【0038】
同様に、燃料ガスが各流路35を流れる際には、
図1に示すように、各突部38が燃料ガスの流れの抵抗となる。そのため、両突部38により流路抵抗が増大される側の流路35を流れる燃料ガスの一部は、両突部38間を通過するが、別の一部は、燃料ガスの流れ方向における両突部38よりも上流側の溝53を通って、両突部38により流路抵抗が増大されない側の流路35へ移り、その流路35を流れる。
【0039】
各流路25を流れる酸化ガス(空気)は、ガス拡散層15を介してカソード電極層13に供給される。各流路35を流れる燃料ガス(水素)は、ガス拡散層16を介してアノード電極層14に供給される。供給された燃料ガス及び酸化ガスの膜電極接合体11での反応に基づき発電が行われる。この反応に伴い、酸化ガスが供給されたカソード電極層13では水が生成される。
【0040】
詳しくは、燃料ガス(水素)がアノード電極層14に供給されると、そこで水素原子から電子がとられて同アノード電極層14に送り出され、その電子が同アノード電極層14から外部回路(図示略)の導線を通ってカソード電極層13に流れる。そして、アノード電極層14で電子がとられることによってプラスの電荷を帯びた水素イオン(プロトン)は、電解質膜12を伝わってカソード電極層13に移動する。一方、酸素ガス(空気)が供給されているカソード電極層13では、上述したように流された電子を酸素分子が受け取って酸素イオンとなる。さらに、アノード電極層14から電解質膜12を伝わってカソード電極層13に移動した水素イオンが上記酸素イオンと結合し、カソード電極層13で水が生成される。
【0041】
生成した水の一部は、カソード電極層13と各薄膜42との間のガス拡散層15に位置する。この水のうち、流路25に近いものは、
図1~
図3に示すように、同流路25を流れる酸化ガスによって同流路25に引っ張られる。流路25へ出た水は、酸化ガスに乗って同流路25を流れる。また、上記水のうち溝43に近いものは、同溝43を流れる酸化ガスによって、両突部28により流路抵抗が増大されない側の流路25に追い出される。この水は、追い出された側の流路25における酸化ガスに乗って流れる。上記のように、酸化ガスに乗って流路25を流れる水は、最終的には燃料電池10の外部へ排出される。
【0042】
従って、溝43がない場合に比べ、燃料電池10から排出される水の量が多くなり、排水性能が高まる。また、溝43がない場合とは異なり、生成された水が、ガス拡散層15に滞留することが抑制される。滞留が原因で、酸化ガスの拡散が十分に行われず、燃料ガス及び酸化ガスの反応が低下する現象が起こりにくくなる。
【0043】
ここで、
図1に示すように、カソード電極層13及びアノード電極層14にある程度の水分を含ませることにより、発電効率を向上させることができる。そのため、膜電極接合体11を薄くすることが考えられる。こうすると、カソード電極層13側で生成された水が電解質膜12を伝わってアノード電極層14側に移動しやすくなる。ただし、ガス拡散層16に必要以上の水が保持されてアノード電極層14側に余剰の水が溜まると、燃料ガス(水素)がアノード電極層14に接触しにくくなって、膜電極接合体11での燃料ガス及び酸化ガスの反応が低下するおそれがある。
【0044】
しかし、ガス拡散層16における水のうち、流路35に近いものは、同流路35を流れる燃料ガスによって同流路35に引っ張られる。流路35へ出た水は、燃料ガスに乗って同流路35を流れる。
【0045】
また、第1実施形態では、第2セパレータ31における薄膜52にも溝53が形成されていて、ガス拡散層16に必要以上の水が保持される現象が、溝53によって抑制される。すなわち、ガス拡散層16における水のうち溝53に近いものは、同溝53を流れる燃料ガスによって、両突部38により流路抵抗が増大されない側の流路35に追い出される。この水は、追い出された側の流路35における燃料ガスに乗って流れる。そして、上記のように、燃料ガスに乗って流路35を流れる水は、最終的には燃料電池10の外部へ排出される。
【0046】
従って、溝53がない場合に比べ、燃料電池10から排出される水の量が多くなり、排水性能が高まる。また、溝53がない場合とは異なり、生成された水が、ガス拡散層16に滞留して、アノード電極層14側に余剰な水が溜まることが抑制される。水の滞留が原因で、燃料ガスの拡散が十分に行われず、燃料ガス及び酸化ガスの反応が低下する現象が起こりにくくなる。
【0047】
第1実施形態によると、上記以外にも、次の効果が得られる。
・各第1セパレータ21において、流路25の流路断面積を小さくするだけであれば、流路抵抗増大部(突部28)は凹状部24の一対の側壁部24aのうち一方にのみ設けられればよい。
【0048】
しかし、ステンレス鋼板をプレス加工して、突部28からなる流路抵抗増大部を形成する第1実施形態では、同流路抵抗増大部に急激に形状が変化する部分があると、鋼板が破れる等の問題が発生する。この問題を解消するには、流路抵抗増大部になだらかに形状が変化する部分(長い助走区間)を形成する必要がある。反面、長い助走区間により、流路抵抗増大部が、凹状部24が延びる方向に長くなってしまう問題が新たに生ずる。
【0049】
この点、第1実施形態では、流路抵抗増大部が一対の側壁部24aの両方に設けられている。流路抵抗増大部は、両側壁部24aの相対向する箇所にそれぞれ設けられて、互いに接近する側へ突出する一対の突部28によって構成されている。流路25において流路抵抗増大部によって小さくされる流路断面積が同一であるという条件下では、流路抵抗増大部が2つの突部28によって構成される場合、1つの突部によって構成される場合よりも、1つ当たりの突部28の大きさが小さくなる。これに伴い、
図3に示すように、各突部28の助走区間Z1が短くなり、凹状部24の延びる方向(
図3では上下方向)における流路抵抗増大部の寸法を短くすることができる。
【0050】
図1に示すように、各第2セパレータ31では、流路抵抗増大部が、両側壁部34aであって、凸状部33及び凹状部34の配列方向に相対向する箇所にそれぞれ設けられて、互いに接近する側へ突出する一対の突部38によって構成されている。そのため、各第2セパレータ31でも、上記第1セパレータ21と同様に、凹状部34の延びる方向における流路抵抗増大部の寸法を短くする効果が得られる。
【0051】
・
図3に示すように、第1実施形態では、各第1セパレータ21における溝43が、流路抵抗増大部(突部28)の設けられた凹状部24を両側から挟む一対の凸状部23上の薄膜42を対象とし、両薄膜42において、凸状部23及び凹状部24の配列方向に相対向する箇所にそれぞれ形成されている。そのため、上述したように、各流路25を流れる酸化ガスの一部は、同酸化ガスの流れ方向における流路抵抗増大部(突部28)よりも上流で、上記配列方向における両側に振り分けられる。振り分けられた酸化ガスは、両溝43を互いに遠ざかる側へ向けて流れ、流路抵抗増大部(突部28)により流路抵抗が増大されない側の流路25へ移り、その流路25を流れる。
【0052】
また、ガス拡散層15に滞留している水のうち溝43に近いものは、同溝43を流れる酸化ガスによって、流路抵抗増大部(突部28)により流路抵抗が増大されない側の流路25に追い出される。この水は、追い出された側の流路25における酸化ガスに乗って流れ、燃料電池10の外部へ排出される。
【0053】
そのため、溝43が、両薄膜42において、凸状部23及び凹状部24の配列方向に相対向する箇所に形成されない場合に比べ、酸化ガス及び水をバランスよく流すことができる。
【0054】
図1に示すように、各第2セパレータ31でも、溝53が、流路抵抗増大部(突部38)の設けられた凹状部34を両側から挟む一対の凸状部33上の薄膜52を対象とし、両薄膜52において、凸状部33及び凹状部34の配列方向に相対向する箇所にそれぞれ形成されている。そのため、第2セパレータ31でも、上記第1セパレータ21と同様に、燃料ガス及び水をバランスよく流す効果が得られる。
【0055】
・
図2に示すように、突部28と、同突部28により流路断面積を小さくされた流路25に繋がれた溝43との組み合わせが、隣り合う凹状部24では、同流路25における酸化ガスの流れ方向に互いに異なる箇所に位置している。そのため、酸化ガスは、流路25のうち突部28の近くまで流れると、流路抵抗増大により流れにくくなって、溝43を経由して隣の流路25に流入する。この酸化ガスは、流路25のうち突部28の近くまで流れると、流路抵抗増大により流れにくくなって、溝43を経由して隣の流路25に流入する。このように酸化ガスは、突部28の近くまで流れる毎に溝43を介して隣の流路25に移る。そのため、酸化ガスを膜電極接合体11の面に沿う方向に偏在させることなく、満遍なく均等に流れされることができる。
【0056】
また、ガス拡散層15に滞留している水のうち、各流路25に近いものは上記酸化ガスに乗って流れる。また、ガス拡散層15に滞留している水のうち、溝43に近いものは、同溝43を流れる酸化ガスによって、突部28により流路抵抗が増大されない側の流路25に追い出される。そのため、上記水についても、膜電極接合体11の面に沿う方向に偏在させることなく、満遍なく均等に流れさせて、燃料電池10の外部へ排出することができる。
【0057】
図1に示すように、各第2セパレータ31でも、突部38と、同突部38により流路断面積を小さくされた流路35に繋がれた溝53との組み合わせが、隣り合う凹状部34では、同流路35における燃料ガスの流れ方向に互いに異なる箇所に位置している。そのため、第2セパレータ31でも、上記第1セパレータ21と同様の効果が得られる。
【0058】
・各第1セパレータ21における各薄膜42の親水性が低いと、各溝43内の水が同溝43の内側面に対し弾かれやすくなって、同溝43内で移動しにくくなる。各溝43内の水が、流路25側へ移動しにくくなる。
【0059】
しかし、各薄膜42がセパレータ基材22よりも高い親水性を有している第1実施形態では、各溝43内の水が同溝43の内側面に対し広がりやすい。これに伴い、各溝43内の水が、流路25側へ移動しやすくなる。
【0060】
また、各第2セパレータ31における各薄膜52がセパレータ基材32よりも高い親水性を有しているため、上記第1セパレータ21と同様に、各溝53内の水が流路35側へ移動しやすくなる。
【0061】
・溝43,53を有する薄膜42,52をインクジェット印刷法によって形成している。そのため、薄膜42,52における溝43,53の形状を、インクジェット印刷法のパターン調整を通じて簡単に変更することができる。
【0062】
・薄膜42,52において溝43,53が形成された箇所では、セパレータ基材22,32を露出させている。表現を変えると、該当する箇所では、セパレータ基材22,32における凸状部23,33の頂面に薄膜42,52を形成していない。従って、上記頂面において溝43,53を形成する予定の箇所には、インクジェット印刷法によって印刷材料を塗布しなくてすみ、溝43,53を形成しやすい。
【0063】
(第2実施形態)
次に、燃料電池用セパレータの第2実施形態について、
図4を参照して説明する。
第2実施形態では、各第1セパレータ21における溝43が、複数の分岐溝部43aによって構成されている。
図4では、分岐溝部43aが2つ図示されているが、3つ以上であってもよい。複数の分岐溝部43aは、凸状部23の両側の流路25のうち、突部28により流路断面積が小さくされていない側(
図4の左下側)の流路25を起点として分岐している。複数の分岐溝部43aにおいて上記起点から遠い側の端部は、互いに離間した状態で、凸状部23の両側の流路25のうち、突部28により流路断面積が小さくされた側(
図4の右上側)の流路25に繋がれている。
【0064】
上記以外の構成は第1実施形態と同様である。そのため、第1実施形態で説明したものと同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
従って、第2実施形態によると、第1実施形態と同様の作用及び効果が得られる。
【0065】
また、突部28により流路抵抗が増大される側(
図4の右上側)の流路25を流れる酸化ガスの一部は、第1実施形態で説明したように、同酸化ガスの流れ方向における突部28の上流側の溝43を通って、突部28により流路抵抗が増大されない側(
図4の左下側)の流路25へ移り、その流路25を流れる。この際、第2実施形態では、酸化ガスは、複数の分岐溝部43aをそれぞれ流れた後に合流して、突部28により流路抵抗が増大されない側の流路25へ流れる。この合流により、酸化ガスの流速を速くする効果が期待できる。また、複数の分岐溝部43aのそれぞれを酸化ガスが流れ、水がこれらの酸化ガスに乗って流れた後に合流するため、ガス拡散層15に滞留する水をより多く追い出す効果も期待できる。
【0066】
なお、図示はしないが、各第2セパレータ31における溝53が、上記溝43と同様に、複数の分岐溝部によって構成されてもよい。この場合、溝53における複数の分岐溝部は、凸状部33の両側の流路35のうち、突部38により流路断面積が小さくされていない側の流路35を起点として分岐する。溝53における複数の分岐溝部において上記起点から遠い側の端部は、互いに離間した状態で、凸状部33の両側の流路35のうち、突部38により流路断面積が小さくされた流路35に繋がれる。このようにした場合にも、上記第1セパレータ21の溝43と同様の作用及び効果が期待できる。
【0067】
(第3実施形態)
次に、燃料電池用セパレータの第3実施形態について、
図5を参照して説明する。
第3実施形態では、セルユニット20毎の第1セパレータ21における層構造が第1実施形態と異なっている。第3実施形態では、第1セパレータ21のセパレータ基材22において、凸状部23及び凹状部24のカソード電極層13側の面に、導電性を有し、かつ同セパレータ基材22よりも高い耐腐食性を有する第1薄膜41が全面にわたって積層されている。第3実施形態では、第1薄膜41は、窒化チタン(TiN)等の導電性粒子を樹脂材料に混合させることによって形成されている。
【0068】
第1実施形態での薄膜42は、第3実施形態では第2薄膜として、第1薄膜41のうち、凸状部23の頂面に積層された部分に形成されている。薄膜42には、凸状部23の両側の流路25を連通させる溝43が形成されている。この溝43は、凸状部23の延びる方向へ互いに離間した複数箇所に形成されている。各溝43の深さは、薄膜42の厚みと同一に設定されており、同溝43が形成された箇所では、第1薄膜41が露出している。
【0069】
上記以外の構成は第1実施形態と同様である。そのため、第1実施形態で説明したものと同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
従って、第3実施形態によると、第1実施形態と同様の作用及び効果が得られるほか、次の作用及び効果も得られる。
【0070】
上記燃料電池10では、電解質膜12での反応の副産物として酸性の物質が生ずると、ステンレス鋼板製のセパレータ基材22がこの酸性物質との電気化学的な反応によって浸食、すなわち、腐食するおそれがある。この際、セパレータ基材22から鉄イオンが溶出し、膜電極接合体11の構成部材、例えば電解質膜12、触媒(図示略)等の性能低下を招く懸念がある。
【0071】
しかし、第3実施形態によれば、鉄イオンの溶出が、凸状部23及び凹状部24のカソード電極層13側の面の全面に形成された第1薄膜41によって抑制される。従って、溶出した鉄イオンが原因で、膜電極接合体11の構成部材の性能が低下する上記現象を第1薄膜41によって抑制することができる。
【0072】
なお、図示はしないが、セルユニット20毎の第2セパレータ31のセパレータ基材32において、凸状部33及び凹状部34のアノード電極層14側の面にも、導電性を有し、かつ同セパレータ基材32よりも高い耐腐食性を有する第1薄膜が全面にわたって積層されてもよい。第1実施形態での薄膜52は、第3実施形態では第2薄膜として、上記第1薄膜のうち、凸状部33の頂面に積層された部分に形成される。薄膜52には、凸状部33の両側の流路35を連通させる溝53が形成される。このようにした場合にも、上記第1薄膜41と同様、セパレータ基材32の腐食による鉄イオンの溶出を第1薄膜によって抑制する作用及び効果が期待できる。
【0073】
なお、上述した各実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。
<セパレータ基材22,32について>
・セパレータ基材22,32は、導電性を有するものであることを条件に、ステンレス鋼とは異なる金属材料、例えば、チタンによって形成されてもよい。
【0074】
<第1薄膜41及び薄膜42,52について>
・薄膜42,52が第1薄膜41と同一の材料によって形成されてもよい。
・薄膜42,52は、凸状部23,33の頂面に加え、同凸状部23,33の他の箇所や凹状部24,34に形成されてもよい。ただし、薄膜42,52を形成する工程の煩雑さ、コスト等を考えると、凸状部23,33の頂面にのみ形成されることが好ましい。
【0075】
また、薄膜42,52が凸状部23,33の頂面とは異なる箇所に形成されると、その分、流路25,35の流路断面積が小さくなる。そのため、薄膜42,52は、必要な箇所である凸状部23,33の頂面にのみ設けられることが好ましい。
【0076】
・上記各実施形態では、薄膜42,52の親水性をセパレータ基材22,32の親水性よりも高くしたが、こうしたことは必須ではない。
・第3実施形態では、第1セパレータ21における第1薄膜41と、第2セパレータ31における第1薄膜との一方が省略されてもよい。
【0077】
・第1~第3実施形態では、第1セパレータ21における薄膜42と、第2セパレータ31における薄膜52との一方が省略されてもよい。
<溝43,53について>
・第1及び第3実施形態における溝43,53は、凸状部23,33の延びる方向に対し、斜めに交差する方向へ延びてもよい。
【0078】
・第1セパレータ21における溝43と、第2セパレータ31における溝53とのいずれか一方が省略されてもよい。
・上記各実施形態において、溝43,53の深さが、薄膜42,52において同溝43,53の設けられていない箇所の厚みよりも小さく設定されてもよい。この場合には、薄膜42,52において溝43,53の形成された箇所にも、同薄膜42,52の一部が形成される。上記各実施形態とは異なり、薄膜42,52において溝43,53の形成された箇所では、セパレータ基材22,32や第1薄膜41が露出しない。インクジェット印刷法であれば、このように、他よりも厚みの小さな箇所(溝43,53)を有する薄膜42,52を形成することが可能である。
【0079】
・複数の分岐溝部43aにより構成される第2実施形態における溝43は、第3実施形態にも適用可能である。
<流路抵抗増大部について>
・第1セパレータ21における流路抵抗増大部は、凹状部24における両側壁部24aの一方にのみ設けられて、対向する側壁部24a側へ突出する突部28により構成されてもよい。
【0080】
第2セパレータ31における流路抵抗増大部についても、上記第1セパレータ21の流路抵抗増大部と同様に、一方の側壁部34aにのみ設けられた突部38によって構成されてもよい。
【0081】
・第1セパレータ21における流路抵抗増大部は、凹状部24における底壁部24bからカソード電極層13側へ突出する突部によって構成されてもよい。
第2セパレータ31における流路抵抗増大部についても、上記第1セパレータ21の流路抵抗増大部と同様に、底壁部34bからアノード電極層14側へ突出する突部によって構成されてもよい。
【0082】
・第1セパレータ21における流路抵抗増大部は、凹状部24における両側壁部24aの少なくとも一方と底壁部24bとに跨がって形成されてもよい。
第2セパレータ31における流路抵抗増大部についても、凹状部34における両側壁部34aの少なくとも一方と底壁部34bとに跨がって形成されてもよい。
【0083】
<その他>
・第1セパレータ21及び第2セパレータ31は、ガス拡散層15,16が形成されない燃料電池にも適用可能である。
【符号の説明】
【0084】
10…燃料電池、11…膜電極接合体、12…電解質膜、13…カソード電極層(電極層)、14…アノード電極層(電極層)、21…第1セパレータ(燃料電池用セパレータ)、22,32…セパレータ基材、23,33…凸状部、24,34…凹状部、24a,34a…側壁部、25,35…流路、28,38…突部(流路抵抗増大部)、31…第2セパレータ(燃料電池用セパレータ)、41…第1薄膜、42,52…薄膜(第3実施形態では第2薄膜を構成)、43,53…溝、43a…分岐溝部。