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特許7081520測定装置、走査方向判定システム及び走査方向判定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】測定装置、走査方向判定システム及び走査方向判定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/50 20060101AFI20220531BHJP
   G01P 13/04 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
G01J3/50
G01P13/04 Z
【請求項の数】 32
(21)【出願番号】P 2019019566
(22)【出願日】2019-02-06
(65)【公開番号】P2020126015
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】米杉 政則
【審査官】大河原 綾乃
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-2342(JP,A)
【文献】特開2012-81617(JP,A)
【文献】国際公開第2015/170603(WO,A1)
【文献】米国特許第7466416(US,B2)
【文献】特表平11-501174(JP,A)
【文献】特開2015-198354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00 - G01J 4/04
G01P 13/04
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
G01N 21/84 - G01N 21/958
G01B 11/00 - G01B 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定装置の走査に伴い、測定対象物からの光を受光して受光に応じた出力を発生し、測定対象物の特性を測定するための受光素子と、
測定装置の走査に伴い加速度信号を出力する加速度センサと、
前記受光素子の出力の変化から走査方向の判定タイミングを検知するタイミング検知手段と、
前記タイミング検知手段の検知結果と前記加速度センサの出力とに基づいて、測定装置の走査方向を判定する走査方向判定手段と、
を備えたことを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記タイミング検知手段は、前記受光素子の出力から得られるパラメータを継続的に算出し、走査開始後、算出されたパラメータが第1の閾値を最初に超えたタイミングを前記判定タイミングとして検知し、
前記走査方向判定手段は、前記タイミング検知手段により検知された判定タイミングで、測定装置の走査方向を判定する請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記タイミング検知手段は、前記受光素子の出力から得られるパラメータを継続的に算出し、走査開始後、算出されたパラメータが第1の閾値を最初に超えたタイミングに基づいて前記判定タイミングを検知し、
前記走査方向判定手段は、前記タイミング検知手段により検知された判定タイミングで、測定装置の走査方向を判定する請求項1または2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記パラメータは、前記受光素子が前記測定対象物の表面からの反射光を受光することによって得られる色差である請求項2または3に記載の測定装置。
【請求項5】
前記パラメータは、前記受光素子が前記測定対象物の光源からの光を受光することによって得られる光の色差及び明度差である請求項2または3に記載の測定装置。
【請求項6】
前記測定対象物は複数のパッチが印刷されたチャートであり、前記タイミング検知手段は、走査開始後最初のパッチを検知したタイミングに基づいて前記判定タイミングを検知する請求項1~5のいずれかに記載の測定装置。
【請求項7】
前記走査方向判定手段は、測定装置に作用する重力加速度成分を検出し、前記加速度センサの出力から前記重力加速度成分を除外した状態で、測定装置の走査方向を判定する請求項1~6のいずれかに記載の測定装置。
【請求項8】
前記走査方向判定手段は、前記加速度センサの出力に基づいて測定装置の移動量を算出し、算出された移動量に基づいて、測定装置の走査方向を判定する請求項1~7のいずれかに記載の測定装置。
【請求項9】
前記走査方向判定手段は、前記タイミング検知手段により検知された判定タイミングで、算出された前記移動量の正負を判定することにより、測定装置の走査方向を判定する請求項8に記載の測定装置。
【請求項10】
前記走査方向判定手段は、前記加速度センサの出力波形グラフにおいてピーク値を有する正側と負側の各波形に対し、絶対値が同じである第2の閾値を正側と負側に設定するとともに、正側の波形については第2の閾値を超える部分の面積、負側の波形については第2の閾値を下回る部分の面積を、前記タイミング検知ステップで判定タイミングが検知されるまで算出し、算出された面積のうち最も大きい面積の正負を判定することにより、測定装置の走査方向を判定する請求項1~7のいずれかに記載の測定装置。
【請求項11】
前記加速度センサは、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術により構成されたものである請求項1~10のいずれかに記載の測定装置。
【請求項12】
測定装置の走査に伴い、測定対象物からの光を受光して受光に応じた出力を発生し、測定対象物の特性を測定するための受光素子と、測定装置の走査に伴い加速度信号を出力する加速度センサと、を備えた測定装置と、
前記受光素子の出力の変化から走査方向の判定タイミングを検知するタイミング検知手段と、
前記タイミング検知手段の検知結果と前記加速度センサの出力とに基づいて、測定装置の走査方向を判定する走査方向判定手段と、
を備えたことを特徴とする走査方向判定システム。
【請求項13】
前記タイミング検知手段は、前記受光素子の出力から得られるパラメータを継続的に算出し、走査開始後、算出されたパラメータが第1の閾値を最初に超えたタイミングを走査方向の判定タイミングとして検知し、
前記走査方向判定手段は、前記タイミング検知手段により検知された判定タイミングで、測定装置の走査方向を判定する請求項12に記載の走査方向判定システム。
【請求項14】
前記タイミング検知手段は、前記受光素子の出力から得られるパラメータを継続的に算出し、走査開始後、算出されたパラメータが第1の閾値を最初に超えたタイミングに基づいて前記判定タイミングを検知し、
前記走査方向判定手段は、前記タイミング検知手段により検知された判定タイミングで、測定装置の走査方向を判定する請求項12または13に記載の走査方向判定システム。
【請求項15】
前記パラメータは、前記受光素子が前記測定対象物の表面からの反射光を受光することによって得られる色差である請求項13または14に記載の走査方向判定システム。
【請求項16】
前記パラメータは、前記受光素子が前記測定対象物の光源からの光を受光することによって得られる光の色差及び明度差である請求項13または14に記載の走査方向判定システム。
【請求項17】
前記測定対象物は複数のパッチが印刷されたチャートであり、前記タイミング検知手段は、走査開始後最初のパッチを検知したタイミングに基づいて前記判定タイミングを検知する請求項12~16のいずれかに記載の走査方向判定システム。
【請求項18】
前記走査方向判定手段は、測定装置に作用する重力加速度成分を検出し、前記加速度センサの出力から前記重力加速度成分を除外した状態で、測定装置の走査方向を判定する請求項12~17のいずれかに記載の走査方向判定システム。
【請求項19】
前記走査方向判定手段は、前記加速度センサの出力に基づいて測定装置の移動量を算出し、算出された移動量に基づいて、測定装置の走査方向を判定する請求項12~18のいずれかに記載の走査方向判定システム。
【請求項20】
前記走査方向判定手段は、前記タイミング検知手段により検知された判定タイミングで、算出された前記移動量の正負を判定することにより、測定装置の走査方向を判定する請求項19に記載の走査方向判定システム。
【請求項21】
前記走査方向判定手段は、前記加速度センサの出力波形グラフにおいてピーク値を有する正側と負側の各波形に対し、絶対値が同じである第2の閾値を正側と負側に設定するとともに、正側の波形については第2の閾値を超える部分の面積、負側の波形については第2の閾値を下回る部分の面積を、前記タイミング検知ステップで判定タイミングが検知されるまで算出し、算出された面積のうち最も大きい面積の正負を判定することにより、測定装置の走査方向を判定する請求項12~18のいずれかに記載の走査方向判定システム。
【請求項22】
前記加速度センサは、MEMS技術により構成されたものである請求項12~21のいずれかに記載の走査方向判定システム。
【請求項23】
測定装置の走査に伴い、測定対象物からの光を受光して受光に応じた出力を発生し、測定対象物の特性を測定するための受光素子と、測定装置の走査に伴い加速度信号を出力する加速度センサと、を備えた測定装置の走査方向を判定するプログラムであって、
前記受光素子の出力の変化から走査方向の判定タイミングを検知するタイミング検知ステップと、
前記タイミング検知ステップの検知結果と前記加速度センサの出力とに基づいて、測定装置の走査方向を判定する走査方向判定ステップと、
をコンピュータに実行させるための走査方向判定プログラム。
【請求項24】
前記タイミング検知ステップでは、前記受光素子の出力から得られるパラメータを継続的に算出し、走査開始後、算出されたパラメータが第1の閾値を最初に超えたタイミングを走査方向の判定タイミングとして検知し、
前記走査方向判定ステップでは、前記タイミング検知ステップにより検知された判定タイミングで、測定装置の走査方向を判定する処理を前記コンピュータに実行させる請求項23に記載の走査方向判定プログラム。
【請求項25】
前記タイミング検知ステップでは、前記受光素子の出力から得られるパラメータを継続的に算出し、走査開始後、算出されたパラメータが第1の閾値を最初に超えたタイミングに基づいて前記判定タイミングを検知し、
前記走査方向判定ステップでは、前記タイミング検知ステップにより検知された判定タイミングで、測定装置の走査方向を判定する処理を前記コンピュータに実行させる請求項23または24に記載の走査方向判定プログラム。
【請求項26】
前記パラメータは、前記受光素子が前記測定対象物の表面からの反射光を受光することによって得られる色差である請求項24または25に記載の走査方向判定プログラム。
【請求項27】
前記パラメータは、前記受光素子が前記測定対象物の光源からの光を受光することによって得られる光の色差及び明度差である請求項24または25に記載の走査方向判定プログラム。
【請求項28】
前記測定対象物は複数のパッチが印刷されたチャートであり、前記タイミング検知ステップでは、走査開始後最初のパッチを検知したタイミングに基づいて前記判定タイミングを検知する処理を前記コンピュータに実行させる請求項23~27のいずれかに記載の走査方向判定プログラム。
【請求項29】
前記走査方向判定ステップでは、測定装置に作用する重力加速度成分を検出し、前記加速度センサの出力から前記重力加速度成分を除外した状態で、測定装置の走査方向を判定する処理を前記コンピュータに実行させる請求項23~28のいずれかに記載の走査方向判定プログラム。
【請求項30】
前記走査方向判定ステップでは、前記加速度センサの出力に基づいて測定装置の移動量を算出し、算出された移動量に基づいて、測定装置の走査方向を判定する処理を前記コンピュータに実行させる請求項23~29のいずれかに記載の走査方向判定プログラム。
【請求項31】
前記走査方向判定ステップでは、前記タイミング検知ステップにより検知された判定タイミングで、算出された前記移動量の正負を判定することにより、測定装置の走査方向を判定する処理を前記コンピュータに実行させる請求項30に記載の走査方向判定プログラム。
【請求項32】
前記走査方向判定ステップでは、前記加速度センサの出力波形グラフにおいてピーク値を有する正側と負側の各波形に対し、絶対値が同じである第2の閾値を正側と負側に設定するとともに、正側の波形については第2の閾値を超える部分の面積、負側の波形については第2の閾値を下回る部分の面積を、前記タイミング検知ステップで判定タイミングが検知されるまで算出し、算出された面積のうち最も大きい面積の正負を判定することにより、測定装置の走査方向を判定する処理を前記コンピュータに実行させる請求項23~29のいずれかに記載の走査方向判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一方向に走査されながら測定対象物からの光を受光して測定対象物の特性を測定するための測定装置、測定装置の走査方向を判定する走査方向判定システム及び走査方向判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような走査型の測定装置は、例えば、複数のパッチが印刷されたチャートをユーザーが手動で走査する分光測色計等のように、測定対象物の分光特性、色差等の各種の特性を測定するのに広く用いられている。
【0003】
このような走査型の測定装置では、走査方向を知る必要がある場合がある。例えば、パッチが印刷されたチャートにおいて、複数列及び複数行に亘って多数のパッチが配列されている場合、1行目のパッチを一端側から他端側に向かって測定装置を走査して受光素子からの出力データを取得した後、2行目のパッチについては他端側から一端側へと折り返して走査し、このような往復走査を行毎に繰り返して行う場合がある。この場合、他端側から一端側へと逆方向に走査された行については、逆方向に走査されていることがわかれば、演算により、一端側から他端側へ走査したときの測定値を得ることができ、各行共に一端側から他端側へ走査したときの測定値に統一することができる。
【0004】
このような測定装置の走査方向を判定する技術として、特許文献1には、スキャンガイドを加工して走査方向を判別できる特徴を付加しておき、この特徴を、特性測定用の受光素子とは別の光学センサにより検出し、検出した情報に基づいて走査方向を判定する技術が開示されている。
【0005】
また、方向検知手段としては加速度センサが知られており、特許文献2には、物体の三次元空間における運動の解析を行うために、加速度センサを用いた技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第7466416号公報
【文献】特開2003-329705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、特性測定用の受光素子とは別にスキャンガイドの特徴を読み取るための光学センサが必要となるのみならず、スキャンガイドに走査方向の判定のための加工を施す必要があり、構成が複雑化するとともにコストの増加を避けることができないという問題がある。
【0008】
また、特許文献2のように加速度センサを使用する場合、加速度センサから出力される値は、走査に伴う移動に起因する運動加速度と重力加速度の合力となるため、重力加速度の影響を排除する必要がある。特許文献2では、3軸の合成加速度がある値の範囲内にある時加速度センサが搭載されている物体が静止状態若しくは等速運動状態にあると判断し、3軸それぞれに出力されている値が重力によるもので重力加速度成分として算出している。しかし、手動で測定装置を走査するような小さい運動加速度を扱う場合、特許文献2に記載の技術では重力加速度の方が相対的に大きくなるため、走査方向を検知することが困難であるという問題がある。
【0009】
この発明は、このような技術的背景に鑑みてなされたものであって、走査方向を簡易な構成で精度良く判定することができる走査型の測定装置及び走査方向判定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、以下の手段によって達成される。
(1)測定装置の走査に伴い、測定対象物からの光を受光して受光に応じた出力を発生し、測定対象物の特性を測定するための受光素子と、測定装置の走査に伴い加速度信号を出力する加速度センサと、前記受光素子の出力の変化から走査方向の判定タイミングを検知するタイミング検知手段と、前記タイミング検知手段の検知結果と前記加速度センサの出力とに基づいて、測定装置の走査方向を判定する走査方向判定手段と、を備えたことを特徴とする測定装置。
(2)前記タイミング検知手段は、前記受光素子の出力から得られるパラメータを継続的に算出し、走査開始後、算出されたパラメータが第1の閾値を最初に超えたタイミングを前記判定タイミングとして検知し、前記走査方向判定手段は、前記タイミング検知手段により検知された判定タイミングで、測定装置の走査方向を判定する前項1に記載の測定装置。
(3)前記タイミング検知手段は、前記受光素子の出力から得られるパラメータを継続的に算出し、走査開始後、算出されたパラメータが第1の閾値を最初に超えたタイミングに基づいて前記判定タイミングを検知し、前記走査方向判定手段は、前記タイミング検知手段により検知された判定タイミングで、測定装置の走査方向を判定する前項1または2に記載の測定装置。
(4)前記パラメータは、前記受光素子が前記測定対象物の表面からの反射光を受光することによって得られる色差である前項2または3に記載の測定装置。
(5)前記パラメータは、前記受光素子が前記測定対象物の光源からの光を受光することによって得られる光の色差及び明度差である前項2または3に記載の測定装置。
(6)前記測定対象物は複数のパッチが印刷されたチャートであり、前記タイミング検知手段は、走査開始後最初のパッチを検知したタイミングに基づいて前記判定タイミングを検知する前項1~5のいずれかに記載の測定装置。
(7)前記走査方向判定手段は、測定装置に作用する重力加速度成分を検出し、前記加速度センサの出力から前記重力加速度成分を除外した状態で、測定装置の走査方向を判定する前項1~6のいずれかに記載の測定装置。
(8)前記走査方向判定手段は、前記加速度センサの出力に基づいて測定装置の移動量を算出し、算出された移動量に基づいて、測定装置の走査方向を判定する前項1~7のいずれかに記載の測定装置。
(9)前記走査方向判定手段は、前記タイミング検知手段により検知された判定タイミングで、算出された前記移動量の正負を判定することにより、測定装置の走査方向を判定する前項8に記載の測定装置。
(10)前記走査方向判定手段は、前記加速度センサの出力波形グラフにおいてピーク値を有する正側と負側の各波形に対し、絶対値が同じである第2の閾値を正側と負側に設定するとともに、正側の波形については第2の閾値を超える部分の面積、負側の波形については第2の閾値を下回る部分の面積を、前記タイミング検知ステップで判定タイミングが検知されるまで算出し、算出された面積のうち最も大きい面積の正負を判定することにより、測定装置の走査方向を判定する前項1~7のいずれかに記載の測定装置。
(11)前記加速度センサは、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術により構成されたものである前項1~10のいずれかに記載の測定装置。
(12)測定装置の走査に伴い、測定対象物からの光を受光して受光に応じた出力を発生し、測定対象物の特性を測定するための受光素子と、測定装置の走査に伴い加速度信号を出力する加速度センサと、を備えた測定装置と、前記受光素子の出力の変化から走査方向の判定タイミングを検知するタイミング検知手段と、前記タイミング検知手段の検知結果と前記加速度センサの出力とに基づいて、測定装置の走査方向を判定する走査方向判定手段と、を備えたことを特徴とする走査方向判定システム。
(13)前記タイミング検知手段は、前記受光素子の出力から得られるパラメータを継続的に算出し、走査開始後、算出されたパラメータが第1の閾値を最初に超えたタイミングを走査方向の判定タイミングとして検知し、前記走査方向判定手段は、前記タイミング検知手段により検知された判定タイミングで、測定装置の走査方向を判定する前項12に記載の走査方向判定システム。
(14)前記タイミング検知手段は、前記受光素子の出力から得られるパラメータを継続的に算出し、走査開始後、算出されたパラメータが第1の閾値を最初に超えたタイミングに基づいて前記判定タイミングを検知し、前記走査方向判定手段は、前記タイミング検知手段により検知された判定タイミングで、測定装置の走査方向を判定する前項12または13に記載の走査方向判定システム。
(15)前記パラメータは、前記受光素子が前記測定対象物の表面からの反射光を受光することによって得られる色差である前項13または14に記載の走査方向判定システム。
(16)前記パラメータは、前記受光素子が前記測定対象物の光源からの光を受光することによって得られる光の色差及び明度差である前項13または14に記載の走査方向判定システム。
(17)前記測定対象物は複数のパッチが印刷されたチャートであり、前記タイミング検知手段は、走査開始後最初のパッチを検知したタイミングに基づいて前記判定タイミングを検知する前項12~16のいずれかに記載の走査方向判定システム。
(18)前記走査方向判定手段は、測定装置に作用する重力加速度成分を検出し、前記加速度センサの出力から前記重力加速度成分を除外した状態で、測定装置の走査方向を判定する前項12~17のいずれかに記載の走査方向判定システム。
(19)前記走査方向判定手段は、前記加速度センサの出力に基づいて測定装置の移動量を算出し、算出された移動量に基づいて、測定装置の走査方向を判定する前項12~18のいずれかに記載の走査方向判定システム。
(20)前記走査方向判定手段は、前記タイミング検知手段により検知された判定タイミングで、算出された前記移動量の正負を判定することにより、測定装置の走査方向を判定する前項19に記載の走査方向判定システム。
(21)前記走査方向判定手段は、前記加速度センサの出力波形グラフにおいてピーク値を有する正側と負側の各波形に対し、絶対値が同じである第2の閾値を正側と負側に設定するとともに、正側の波形については第2の閾値を超える部分の面積、負側の波形については第2の閾値を下回る部分の面積を、前記タイミング検知ステップで判定タイミングが検知されるまで算出し、算出された面積のうち最も大きい面積の正負を判定することにより、測定装置の走査方向を判定する前項12~18のいずれかに記載の走査方向判定システム。
(22)前記加速度センサは、MEMS技術により構成されたものである前項12~21のいずれかに記載の走査方向判定システム。
(23)測定装置の走査に伴い、測定対象物からの光を受光して受光に応じた出力を発生し、測定対象物の特性を測定するための受光素子と、測定装置の走査に伴い加速度信号を出力する加速度センサと、を備えた測定装置の走査方向を判定するプログラムであって、前記受光素子の出力の変化から走査方向の判定タイミングを検知するタイミング検知ステップと、前記タイミング検知ステップの検知結果と前記加速度センサの出力とに基づいて、測定装置の走査方向を判定する走査方向判定ステップと、をコンピュータに実行させるための走査方向判定プログラム。
(24)前記タイミング検知ステップでは、前記受光素子の出力から得られるパラメータを継続的に算出し、走査開始後、算出されたパラメータが第1の閾値を最初に超えたタイミングを走査方向の判定タイミングとして検知し、前記走査方向判定ステップでは、前記タイミング検知ステップにより検知された判定タイミングで、測定装置の走査方向を判定する処理を前記コンピュータに実行させる前項23に記載の走査方向判定プログラム。
(25)前記タイミング検知ステップでは、前記受光素子の出力から得られるパラメータを継続的に算出し、走査開始後、算出されたパラメータが第1の閾値を最初に超えたタイミングに基づいて前記判定タイミングを検知し、前記走査方向判定ステップでは、前記タイミング検知ステップにより検知された判定タイミングで、測定装置の走査方向を判定する処理を前記コンピュータに実行させる前項23または24に記載の走査方向判定プログラム。
(26)前記パラメータは、前記受光素子が前記測定対象物の表面からの反射光を受光することによって得られる色差である前項24または25に記載の走査方向判定プログラム。
(27)前記パラメータは、前記受光素子が前記測定対象物の光源からの光を受光することによって得られる光の色差及び明度差である前項24または25に記載の走査方向判定プログラム。
(28)前記測定対象物は複数のパッチが印刷されたチャートであり、前記タイミング検知ステップでは、走査開始後最初のパッチを検知したタイミングに基づいて前記判定タイミングを検知する処理を前記コンピュータに実行させる前項23~27のいずれかに記載の走査方向判定プログラム。
(29)前記走査方向判定ステップでは、測定装置に作用する重力加速度成分を検出し、前記加速度センサの出力から前記重力加速度成分を除外した状態で、測定装置の走査方向を判定する処理を前記コンピュータに実行させる前項23~28のいずれかに記載の走査方向判定プログラム。
(30)前記走査方向判定ステップでは、前記加速度センサの出力に基づいて測定装置の移動量を算出し、算出された移動量に基づいて、測定装置の走査方向を判定する処理を前記コンピュータに実行させる前項23~29のいずれかに記載の走査方向判定プログラム。
(31)前記走査方向判定ステップでは、前記タイミング検知ステップにより検知された判定タイミングで、算出された前記移動量の正負を判定することにより、測定装置の走査方向を判定する処理を前記コンピュータに実行させる前項30に記載の走査方向判定プログラム。
(32)前記走査方向判定ステップでは、前記加速度センサの出力波形グラフにおいてピーク値を有する正側と負側の各波形に対し、絶対値が同じである第2の閾値を正側と負側に設定するとともに、正側の波形については第2の閾値を超える部分の面積、負側の波形については第2の閾値を下回る部分の面積を、前記タイミング検知ステップで判定タイミングが検知されるまで算出し、算出された面積のうち最も大きい面積の正負を判定することにより、測定装置の走査方向を判定する処理を前記コンピュータに実行させる前項23~29のいずれかに記載の走査方向判定プログラム。
【発明の効果】
【0011】
前項(1)及び(12)に記載の発明によれば、測定装置の走査に伴って、測定対象物からの光を受光して受光に応じた出力を発生し、測定対象物の特性を測定するための受光素子の出力の変化から走査方向の判定タイミングが検知され、検知結果と加速度センサの出力とに基づいて走査方向の判定が行われるから、スキャンガイド等に走査方向の判定のための特徴を加工する必要はなくなり、またその特徴を読み取るための専用の光学センサも不要となる。このため、簡易で安価な構成で走査方向を判定することができる。
【0012】
また、加速度センサの出力のみならずタイミング検知手段の検知結果をも用いて走査方向を判定するから、加速度センサの出力のみから走査方向を判定するよりも高精度な判定を行うことができる。
【0013】
前項(2)及び(13)に記載の発明によれば、受光素子の出力から得られるパラメータが、走査開始後、第1の閾値を最初に超えたタイミングが走査方向の判定タイミングとして検知され、この検知された判定タイミングで、測定装置の走査方向が判定されるから、より精度の高い判定を行うことができる。
【0014】
前項(3)及び(14)に記載の発明によれば、受光素子の出力から得られるパラメータが、走査開始後、第1の閾値を最初に超えたタイミングに基づいて走査方向の判定タイミングが検知され、この検知された判定タイミングで、測定装置の走査方向が判定されるから、より精度の高い判定を行うことができる。
【0015】
前項(4)及び(15)に記載の発明によれば、受光素子が前記測定対象物の表面からの反射光を受光することによって得られる色差を基に、走査方向の判定タイミングが検知される。
【0016】
前項(5)及び(16)に記載の発明によれば、受光素子が前記測定対象物の光源からの光を受光することによって得られる光の色差及び明度差を基に、走査方向の判定タイミングが検知される。
【0017】
前項(6)及び(17)に記載の発明によれば、測定対象物である複数のパッチが印刷されたチャートの最初のパッチを検知したタイミングに基づいて判定タイミングが検知される。
【0018】
前項(7)及び(18)に記載の発明によれば、測定装置に作用する重力加速度成分を除外した状態で測定装置の走査方向が判定されるから、より精度の高い走査方向の判定を行うことができる。
【0019】
前項(8)及び(19)に記載の発明によれば、加速度センサの出力に基づいて測定装置の移動量が算出され、算出された移動量に基づいて、より精度の高い走査方向の判定を行うことができる。
【0020】
前項(9)及び(20)に記載の発明によれば、タイミング検知手段により検知された判定タイミングで、算出された測定装置の移動量の正負を判定することにより、測定装置の走査方向を精度良く判定することができる。
【0021】
前項(10)及び(21)に記載の発明によれば、加速度センサの出力波形グラフにおいてピーク値を有する正側と負側の各波形に対し、絶対値が同じである第2の閾値を正側と負側に設定するとともに、正側の波形については第2の閾値を超える部分の面積、負側の波形については第2の閾値を下回る部分の面積を、タイミング検知ステップで判定タイミングが検知されるまで算出し、算出された面積のうち最も大きい面積の正負を判定することにより、測定装置の走査方向を判定することにより、測定装置の走査方向を確実に精度良く判定することができる。
【0022】
前項(11)及び(22)に記載の発明によれば、MEMS技術により構成された加速度センサは安価で小型であるため、走査型の測定装置に搭載するのに好適なものとなる。
【0023】
前項(23)に記載の発明によれば、測定装置に備えられ、測定装置の走査に伴い、測定対象物からの光を受光して受光に応じた出力を発生する受光素子の出力の変化から走査方向の判定タイミングを検知し、検知結果と加速度センサの出力とに基づいて測定装置の走査方向を判定する処理を、コンピュータに実行させることができる。
【0024】
前項(24)に記載の発明によれば、受光素子の出力から得られるパラメータを継続的に算出し、走査開始後、算出されたパラメータが第1の閾値を最初に超えたタイミングを走査方向の判定タイミングとして検知し、検知された判定タイミングで、測定装置の走査方向を判定する処理をコンピュータに実行させることができる。
【0025】
前項(25)に記載の発明によれば、受光素子の出力から得られるパラメータを継続的に算出し、走査開始後、算出されたパラメータが第1の閾値を最初に超えたタイミングに基づいて判定タイミングを検知し、検知された判定タイミングで、測定装置の走査方向を判定する処理をコンピュータに実行させることができる。
【0026】
前項(26)に記載の発明によれば、色差が閾値を超えたタイミングを走査方向の判定タイミングとして検知する処理をコンピュータに実行させることができる。
【0027】
前項(27)に記載の発明によれば、光の色差及び明度差が閾値を超えたタイミングを走査方向の判定タイミングとして検知する処理をコンピュータに実行させることができる。
【0028】
前項(28)に記載の発明によれば、測定対象物である複数のパッチが印刷されたチャートの最初のパッチを検知したタイミングに基づいて判定タイミングを検知する処理をコンピュータに実行させることができる。
【0029】
前項(29)に記載の発明によれば、測定装置に作用する重力加速成分を検出し、加速度センサの出力から重力加速成分を除外した状態で、測定装置の走査方向を判定する処理をコンピュータに実行させることができる。
【0030】
前項(30)に記載の発明によれば、加速度センサの出力に基づいて測定装置の移動量を算出し、算出された移動量に基づいて、測定装置の走査方向を判定する処理をコンピュータに実行させることができる。
【0031】
前項(31)に記載の発明によれば、受光素子の出力の変化から決定された判定タイミングで、算出された測定装置の移動量の正負を判定することにより、測定装置の走査方向を判定する処理をコンピュータに実行させることができる。
【0032】
前項(32)に記載の発明によれば、加速度センサの出力波形グラフにおいてピーク値を有する正側と負側の各波形に対し、正側の波形においては正の値である第2の閾値を超える部分の面積、負側の波形においては負の値である第2の閾値を下回る部分の面積を、判定タイミングが検知されるまで算出し、算出された面積のうち最も大きい面積の正負を判定することにより、測定装置の走査方向を判定する処理をコンピュータに実行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】(A)は、この発明の一実施形態に係る走査型の測定装置の外観を示す斜視図、(B)はルーラと呼ばれるガイド板の斜視図である。
図2】測定装置の走査方向の判定処理を行う判定処理部の構成を示すブロック図である。
図3】加速度センサから出力された加速度データの一例を示す図である。
図4】(A)は加速度センサから出力された加速度信号の一例を示す図、(B)は(A)の加速度信号を積分して得た速度を示す図、(C)は(B)の速度をさらに積分して得た測定装置の変位を示す図である。
図5】(A)は加速度センサから出力された加速度信号の他の例を示す図、(B)は(A)の加速度信号を積分して得た速度を示す図、(C)は(B)の速度をさらに積分して得た測定装置の変位を示す図である。
図6】走査方向の判定タイミングについての説明図である。
図7】測定装置の演算部で実行される走査方向の判定処理を示すフローチャートである。
図8】(A)~(C)は演算部110で実施される走査方向の判定方法の他の例を説明するための図である。
図9】この発明の実施形態に係る走査方向判定システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0035】
図1(A)は、この発明の一実施形態に係る走査型の測定装置1の外観を示す斜視図、同図(B)はルーラと呼ばれるガイド板(以下、ルーラともいう)2の斜視図である。
【0036】
測定装置1として、この実施形態では測定対象物の表面からの反射光を受光して分光測色を行う分光測色計が用いられており、その前端下部に下向きに突出する突出部11が、前端上面に測定結果等を表示する表示部12が、側面に電源スイッチ13及び測定開始時に押される測定開始ボタン14が、それぞれ備えられている。
【0037】
突出部11には、照明部(図示せず)と受光素子(図2の符号101)が配置されており、突出部11の下面において照明部から測定対象物に照射された照明光の反射光を受光素子で受光することにより、測色を行うことができるようになっている。
【0038】
ルーラ2は幅方向の中央部に長さ方向に沿って開口部21を有している。このルーラ2は、使用時には、測定対象物の被測定部位が開口部21に臨むようにルーラ2を測定対象物に対して配置するとともに、測定装置1の突出部11の先端部(下端部)をルーラ2の長さ方向の一端側で位置合わせする。この状態で、測定装置1とルーラ2とは、測定装置1の突出部11内の照明装置による照明光が、ルーラ2の開口部21に露出している被測定部位に照射され、その反射光が突出部11内の受光素子101によって受光される位置関係となっている。そして、ユーザーが、測定装置1の測定ボタン14を押したのち、測定装置1をルーラ2の長さ方向の他端に向かって移動させると、測定装置1はルーラ2で案内されながら、ルーラ2の長さ方向の他端へと走査されていく。測定装置1の走査により、突出部11内の照明装置による照明光の測定対象物に対する照射位置は、ルーラ2の長さ方向に連続的に変わっていき、受光素子101もそれに合わせた出力を発生する。
【0039】
測定装置1がルーラ2の長さ方向の他端まで走査されると、ユーザーは測定ボタン14の押下を解除すると共に、ルーラ2の開口部21に臨む測定対象物における被測定部位の位置をずらし、この状態で再度測定ボタン14を押し、測定装置1をルーラ2の長さ方向の他端側から一端側へと逆向きの走査方向で走査する。このような往復走査を繰り返すことで、受光素子101から測定対象物の測定データを得ることができるようになっている。
【0040】
図2は、測定装置1をルーラ2に沿って走査させるときの走査方向の判定処理を行う判定処理部の構成を示すブロック図である。この実施形態は、走査方向の判定処理を測定装置1内で実行する場合について説明する。
【0041】
図2に示すように、測定装置1は前述した受光素子101と加速度センサ102と演算部110を備えている。
【0042】
受光素子101は、測定装置1の走査による移動に伴い、測定対象物における被測定部位の表面の反射光を受光して受光に応じた出力を発生する。加速度センサ102は測定装置1の走査による移動に伴い加速度を検出し加速度信号を出力する。加速度センサ102の種類は特に限定されないが、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術により構成されたものであることが望ましい。MEMS技術により構成された加速度センサ102は安価で小型であるため、走査型の測定装置1に搭載するのに好適であるからである。なお、MEMS技術により構成された加速度センサ102は、質量が小さいため感度は低下するが、走査方向の判定に使用される場合は問題がない。
【0043】
演算部110は、受光素子101からの情報と加速度センサ102の出力とに基づいて、測定装置1の走査方向の判定処理を実行するものであり、CPU111、RAM112、記憶部113、タイミング検知部114及び走査方向判定部115等を備えている。
【0044】
CPU111は測定装置1の全体を統括的に制御し、RAM112はCPU111の動作時の作業領域となるメモリであり、記憶部113はCPU111の動作プログラムや受光素子101の出力データや加速度センサ102からの加速度信号等を保存するための不揮発メモリである。
【0045】
タイミング検知部114は、受光素子101の出力から得られるパラメータの変化を検知するものであり、CPU101の機能の一部として構成される。具体的には、この実施形態では、受光素子101の出力から得られるパラメータを継続して算出するとともに、算出されたパラメータが予め設定された閾値を超えて変化したかどうかを監視しており、パラメータが閾値を超えたタイミングを走査方向の判定タイミングとして検知し、走査方向判定部115に通知する。なお、パラメータが閾値を超えたタイミングを走査方向の判定タイミングとするのではなく、パラメータが閾値を超えたタイミングを検知し、このタイミングに基づいて走査方向の判定タイミングが決定されても良い。例えばパラメータが閾値を超えたタイミングから所定時間後のタイミングを判定タイミングとして検知しても良い。
【0046】
タイミング検知部114によって算出されるパラメータとしては、測定装置1が本実施形態のように測色計である場合は、受光素子101が測定対象物の表面からの反射光を受光することによって得られる色差を挙げることができる。色差の算出は公知であるので説明は省略する。
【0047】
走査方向判定部115は、タイミング検知部114の検知結果と加速度センサ102の出力とに基づいて、後述する方法で測定装置1の走査方向を判定するものであり、CPU101の機能の一部として構成される。
【0048】
次に、測定装置1の走査方向の判定方法について説明する。
【0049】
図3は、加速度センサ102からの出力である加速度信号の一例を示す図であり、縦軸は加速度を、横軸は時間を示している。
【0050】
図3に示すように、加速度センサ102がルーラー2に配置されたときは、ランダムノイズや、測定装置1とルーラー2とのガタつきによる加速度が発生する。その後、ユーザーが測定装置1の走査を開始すると動き出しの加速度が発生する。また、走査中も速度ムラにより加速度は変化する。
【0051】
そこで、この実施形態では、ランダムノイズ、速度ムラの影響を取り除くために、加速度から算出される測定装置1の変位(移動量)により走査方向を検知する。具体的には、図4(A)に示す加速度センサ102から出力された加速度信号を積分して、同図(B)に示すような速度を得、この速度をさらに積分して、同図(C)に示すような変位を得、この変位に基づいて走査方向を判定する。加速度センサ102は、測定装置1が一方向に移動するときは正の信号を、逆方向に移動するときは負の信号を出力するから、測定装置1の変位が正か負かで走査方向を判定することができる。
【0052】
しかし、測定装置1の走査中の姿勢変化による影響(重力変化によるノイズ)は時間とともに増加するため、測定装置1が動き出した後(信号を得た後)、短い時間で判定を行う必要がある。この理由を図5を参照して説明する。図5(A)に示す加速度センサ102から出力された加速度信号を積分して、同図(B)に示すような速度を得、この速度をさらに積分して、同図(C)に示すような変位を得たとする。同図(B)において、T1は測定開始ボタン114が押されたタイミング、T2はユーザーによる測定装置1の走査が開始されたタイミング、つまり測定装置1が動き出したタイミングである。同図(C)の変位グラフから理解されるように、実際には正方向に移動しているが、測定装置1の姿勢変化による影響により、時間の経過とともに変位が小さくなり、負の値となってしまう場合がある。このため、測定装置1が動き出した後、変位が正の値を保持している短い時間で判定を行う必要がある。
【0053】
しかしながら、ユーザーがいつ走査を開始するかは不明である上、加速度センサ2の出力から測定装置1の動き出しを検知することは、上記ノイズやユーザーによる外乱によって困難である。例えば、所定値以上の加速度の発生を動き出しとして検知することも考えられるが、単なるノイズを動き出しとして検知する場合もあり得る。また、所定値以上の加速度の発生から所定時間後の値で判断するという手法も考えられるが、ユーザーが走査後一旦停止させまた動かした場合などにはエラーとなる場合がある。
【0054】
そこで、本実施形態では、測定装置1に測定対象物の表面特性を測定するために本来的に備わっている受光素子101を利用し、受光素子101の出力から得られるパラメータと組み合わせて判定する。具体的に言えば、本実施形態では測定装置1は分光測色計であり、受光素子101は測色センサであり、測色に伴い受光素子101の出力に基づいてパラメータである色差を継続的に算出可能であることから、走査方向の判定タイミングとしてこの色差を利用する。
【0055】
即ち、図6に示すように、測定対象物が例えば複数の異なる色のパッチ31が印刷されたチャート3であるとすると、パッチ31の並び方向に測定装置1を走査する場合、ユーザーは、電源スイッチ13を投入した後、パッチ31がルーラ2の開口部21に臨むようにチャート3上にルーラ2を配置し、測定装置1の突出部11をルーラ2の一端部にセットして測定開始ボタン14を押し、測定装置1を他端側へ移動させて走査する。
【0056】
測定装置1による測定開始のタイミング、換言すれば測定開始ボタン114が押されたタイミング(図6の下側の変位を示すグラフにおけるタイミングT1)で、加速度センサ102からの加速度信号が取得されるとともに、受光素子101の出力も取得され、測色が開始される。受光素子101の出力の取得開始に伴い、タイミング検知部114は受光素子101の出力に基づいて色差の算出を開始するとともに、継続的に色差の算出を行い、算出結果を予め設定された閾値と比較する。
【0057】
走査に伴い、測定装置1が図6に示す測定装置1’の位置まで移動し、受光素子101がチャート3に印刷された1つ目のパッチ31aを検知したタイミングT3において、算出された色差は急に大きく変化し閾値を超えることになる。タイミング検知部114は、色差が閾値を超えたタイミングを走査方向の判定タイミングとして検知し、走査方向判定部115に通知する。なお、前述したように、色差が閾値を超えたタイミングに基づいて判定タイミングを検知すれば良く、色差が閾値を超えたタイミングを検知した後のタイミング、例えば色差が閾値を超えたタイミングから一定時間経過後のタイミングを判定タイミングとして検知してもよい。
【0058】
走査方向判定部115はこの通知を受けると、変位が正か負かを判断し、正である場合は測定装置1が一方向(正方向)に走査されていると判定し、負である場合は他方向(負方向)に走査されていると判定する。つまり、測定装置1の受光素子101が1つ目のパッチ31aを検知したタイミングT3で走査方向の判定が行われ、このタイミングT3は、測定装置1が動き出した直後に確実に到来するから、測定装置1の走査中の姿勢変化による影響を小さくすることができ、精度の高い走査方向の判定を行うことができる。
【0059】
また、色差が閾値を超えたことを検出することなく、最初のパッチ31aを検出できる場合は、最初のパッチ31aを検出したタイミングを走査方向の判定タイミングとしても良い。
【0060】
なお、この実施形態では、受光素子101として測色センサを例にしているが、例えばフォトセンサなど、光の強度をパラメータとして算出できるものであっても良い。また、測定対象物がパッチ31が印刷されたチャート3である場合を例示したが、直接光源を測定するような測定対象物であっても良い。例えば、光源が液晶である場合は液晶面上で測定装置1を走査させ、液晶で碁盤目状の模様を表示させることで、フォトセンサが最初の模様の液晶を検知したときの光の色差及び明度差が予め設定された閾値を超えたタイミングを、走査方向の判定タイミングとして検知しても良いし、光の色差及び明度差が予め設定された閾値を超えたタイミングに基づいて、判定タイミングを検知しても良い。
【0061】
このように、この実施形態では、ルーラ2に走査方向を判定するための特徴を加工する必要がなく、この特徴を読み取るための専用の光学センサも不要であり、測色計として測定装置1に本来的に備わっている受光素子101を走査方向の判定に利用できるから、簡易で安価な構成で走査方向を判定することができる。
【0062】
しかも、加速度センサ102の出力のみならずタイミング検知部114の検知結果をも用いて走査方向を判定するから、加速度センサ102の出力のみから走査方向を判定するよりも高精度な判定を行うことができる。
【0063】
ところで、測定装置1には、静止時及び動作時に拘わらず重力加速度が常時加わっており、加速度センサ2からの出力にも重力加速度成分が含まれている。そこで、加速度センサ2の出力から重力加速度成分を除外して、測定装置1が走査されたときの移動に伴う運動加速度成分のみを算出し、算出された運動加速度成分に基づいて速度、さらには変位を得るのが、より精度の高い変位を得ることができ、ひいては走査方向の判定をより高精度に行うことができる点で望ましい。
【0064】
測定装置1の重力加速度成分は、測定開始時の加速度信号を取得する(例えば測定開始ボタン14の押下をトリガとする)ことで、測定装置1の静止時に作用している重力加速度として検知することができる。なお、加速度信号を取得するタイミングは測定開始時ではなく、測定開始から一定時間後であっても良い。
【0065】
図7は、測定装置1の演算部110で実行される走査方向の判定処理を示すフローチャートである。この処理は、演算部110のCPU111が記憶部43等に格納されている動作プログラムに従って動作することにより実行される。
【0066】
ユーザーが電源スイッチ13を投入後、測定装置1をルーラー2の所定位置にセットし測定開始ボタン14を押すと、加速度センサ102の加速度信号及び受光素子101の出力の取得が開始される。また、そのときの加速度が重力加速度成分として取得される。
【0067】
ステップS1では加速度センサ102から加速度信号を継続的に取得し、ステップS2で、取得した加速度信号から測定開始時の重力加速度成分を除外する。次いで、ステップS3で、加速度から測定装置1の変位(移動量)を算出した後、ステップS4で、受光素子(測色センサ)101の出力から算出したパラメータが閾値を超えたことにより、受光素子101が1つめのパッチ31aを検知したタイミングを取得し、そのタイミングを走査方向の判定タイミングとして決定する。
【0068】
そして、ステップS5で、決定された判定タイミングでの変位の正負を評価し、変位が正であれば、ステップS6に進み測定装置1の走査方向は正であると判定する。変位が負であれば、ステップS7に進み測定装置1の走査方向は負であると判定する。
【0069】
次に、演算部110で実施される走査方向の判定方法の他の例を、図8を参照して説明する。
【0070】
図8(A)は加速度センサ102から時間経過に伴って出力される加速度信号a(t)を示す図である。加速度信号a(t)には、同図(B)のように、測定装置1に作用する走査とは無関係の重力加速度成分a0が含まれているため、測定開始ボタン14の押下時の加速度成分を重力加速度成分a0として算出し、全体の加速度信号a(t)から重力加速度成分a0を除外して(同図(B)の丸数字1)、同図(C)の加速度信号a’(t)を得る。加速度信号a’(t)には、ランダムノイズや、測定装置1とルーラー2とのガタつきによる加速度、さらには実際の動き出し時の加速度が含まれており、このため正負にピークを有する複数の山及び谷の波形が生じる。
【0071】
次に、同図(C)に示すように、上記の処理を行った後の加速度a’(t)のグラフの各山及び谷の波形に対し、絶対値|A|が同じである閾値Aを正側と負側に設定し、正側の山波形については閾値Aを超える部分の面積、負側の谷波形については-Aを下回る部分の面積、換言すれば、各山の波形における加速度a’(t)とAとで囲まれる部分の面積及び各谷の波形における加速度a’(t)と-Aとで囲まれる部分の面積(図8(C)でグレーアウト表示されているV1~V3)を、1つ目のパッチ31aが検知されたタイミングつまり判定タイミングT4になるまで算出する(同図(C)の丸数字2)。
【0072】
そして、算出した面積V1~V3の内、絶対値が最も大きいものが実際の動き出しによる速度と考えられるため、絶対値が最も大きいものを特定し、特定した面積の正負から走査方向を決定する。上図を例にとると、V3が最も大きいためこれを実際の動き出しによる速度と決定し、V3>0であるため正方向に走査されたと判定する(同図(C)の丸数字3)。
【0073】
このような方法によっても、受光素子101の出力の変化と加速度センサ102の出力とに基づいて、測定装置1の走査方向を確実に精度良く判定することができる。
【0074】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることはない。例えば、測定装置1の走査方向の判定を行う演算部110が測定装置1の内部に備えられている場合を説明したが、図9のように、測定装置1とは別の外部のパーソナルコンピュータ等の演算装置4によって、測定装置1の走査方向の判定を行っても良い。図9において、CPU41、RAM42、記憶部43、タイミング検知部44及び走査方向判定部45は、図2に示した演算部110のCPU111、RAM112、記憶部113、タイミング検知部114及び走査方向判定部115にそれぞれ相当するものであり、演算装置4によって行われる判定処理の方法も、図2の演算部110で行われる判定処理の方法と同じであり、CPU41が動作プログラムに従って動作することにより判定処理が行われても良い。
【0075】
また、測定装置1が分光測色計である場合を例示したが、本発明は分光測色計に限定されることはなく、色彩計、光沢計、濃度計等、走査に伴い測定対象物からの光を受光素子により受光して測定対象物の特性を測定する各種の測定装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 測定装置
11 突出部
14 測定開始ボタン
101 受光素子
102 加速度センサ
110 演算部
111 CPU
112 RAM
113 記憶部
114 タイミング検知部
115 走査方向判定部
2 ルーラー
21 開口部
3 チャート
31 パッチ
31a 先頭のパッチ
4 演算装置
41 CPU
42 RAM
43 記憶部
44 タイミング検知部
45 走査方向判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9