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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】抗菌マスク
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/11 20060101AFI20220531BHJP
【FI】
A41D13/11 M
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020138595
(22)【出願日】2020-08-19
(62)【分割の表示】P 2019549176の分割
【原出願日】2018-09-27
(65)【公開番号】P2020193429
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2020-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2017201241
(32)【優先日】2017-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018062193
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 貴文
(72)【発明者】
【氏名】宅見 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】玉倉 大次
(72)【発明者】
【氏名】安藤 正道
【審査官】冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3127874(JP,U)
【文献】特開2000-144545(JP,A)
【文献】特開昭61-249554(JP,A)
【文献】特開2011-194336(JP,A)
【文献】国際公開第2016/175321(WO,A1)
【文献】特開昭61-272063(JP,A)
【文献】特開平7-24077(JP,A)
【文献】特開2011-104553(JP,A)
【文献】特開2015-29568(JP,A)
【文献】中国実用新案第202800197(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D13/11
A62B18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮により電位を生じる第1圧電繊維と第2圧電繊維とを含むフィルタを有し、
前記第1圧電繊維の撚り数と前記第2圧電繊維の撚り数とが異なることにより、前記第1圧電繊維から生じる電位と前記第2圧電繊維から生じる電位とは異なっている、抗菌マスク。
【請求項2】
伸縮により電位を生じる第1圧電繊維と第2圧電繊維とを含むフィルタを有し、
前記第1圧電繊維のフィラメント数と前記第2圧電繊維のフィラメント数とが異なることにより、前記第1圧電繊維から生じる電位と前記第2圧電繊維から生じる電位とは異なっている、抗菌マスク。
【請求項3】
伸縮により電位を生じる第1圧電繊維と第2圧電繊維とを含むフィルタを有し、
前記第1圧電繊維のフィラメント径と前記第2圧電繊維のフィラメント径とが異なることにより、前記第1圧電繊維から生じる電位と前記第2圧電繊維から生じる電位とは異なっている、抗菌マスク。
【請求項4】
伸縮により電位を生じる第1圧電繊維と第2圧電繊維とを含むフィルタを有し、
前記第1圧電繊維の圧電定数と前記第2圧電繊維の圧電定数とが異なることにより、前記第1圧電繊維から生じる電位と前記第2圧電繊維から生じる電位とは異なっている、抗菌マスク。
【請求項5】
伸縮により電位を生じる第1圧電繊維と第2圧電繊維とを含むフィルタを有し、
前記第1圧電繊維がS糸であり、第2圧電繊維がZ糸であることにより、前記第1圧電繊維から生じる電位と前記第2圧電繊維から生じる電位とは異なっている、抗菌マスク。
【請求項6】
前記フィルタは、第1主面と第1主面とは反対側であって、使用者側に位置する第2主面とを備える、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の抗菌マスク。
【請求項7】
前記フィルタは、外層と、内層とを含み、
前記外層は、前記第1主面側に配置され、
前記内層は、前記第2主面側に配置されていることを特徴とする、請求項に記載の抗菌マスク。
【請求項8】
前記第1圧電繊維と前記第2圧電繊維は、前記外層に配置されていることを特徴とする、請求項に記載の抗菌マスク。
【請求項9】
前記第1圧電繊維と前記第2圧電繊維は、前記内層に配置されていることを特徴とする、請求項に記載の抗菌マスク。
【請求項10】
前記フィルタは、外層と、内層と、前記外層と内層との間の中間層とを含み、
前記外層は、前記第1主面側に配置され、
前記内層は前記第2主面側に配置されていることを特徴とする、請求項に記載の抗菌マスク。
【請求項11】
前記第1圧電繊維と前記第2圧電繊維が前記中間層に配置されていることを特徴とする、請求項10に記載の抗菌マスク。
【請求項12】
前記フィルタは、編地であることを特徴とする、請求項1ないし請求項11のいずれかに記載の抗菌マスク。
【請求項13】
前記フィルタは、電荷を発生しない糸を含むことを特徴とする、請求項1ないし請求項12のいずれかに記載の抗菌マスク。
【請求項14】
前記フィルタは、圧電糸が撚られてなる前記第1圧電繊維及び前記第2圧電繊維を含む織物であることを特徴とする、請求項1ないし請求項13のいずれかに記載の抗菌マスク。
【請求項15】
前記フィルタは、粗メッシュ部と細メッシュ部とを有することを特徴とする請求項1ないし請求項1のいずれかに記載の抗菌マスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性を有する抗菌マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、抗菌性を有するフィルタについては、多数の提案がなされている(特許文献1を参照)。特許文献1に記載のマスク用フィルタは、厚さ方向に開口する網目が設けられた網状生地に、粘性を有する薬剤を塗布して、網状生地に粘着力を付加し、粘着力が付加された網状生地に活性炭粒子を付着させてなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-320491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のマスク用フィルタにおいて、抗菌性の効果が長く持続しないおそれがある。例えば、網状生地に粘性を有する薬剤を塗布して活性炭粒子を付着させた構造であるため、長時間使用又は放置していると活性炭粒子が網状生地から剥離し、マスクの抗菌効果が低下するおそれがある。
【0005】
そこで、この発明は、従来の抗菌性を有する材料よりも効果が長く持続する抗菌マスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の抗菌マスクは、伸縮により電位を生じる第1圧電繊維と第2圧電繊維とを含むフィルタを有し、前記第1圧電繊維から生じる電位と前記第2圧電繊維から生じる電位とは異なっている。
【0007】
本発明の抗菌フィルタにおいては、使用時に伸縮させると、第1主面側において負の電荷が発生する。一般的に細菌及び真菌等は負に帯電している。このため第1主面側に接近した細菌及び真菌等を跳ね返すことができる。これにより、細菌及び真菌等が抗菌フィルタの内部へ侵入することを防止できる。なお、本発明の圧電繊維は、負の電荷を発生する複数の第1圧電繊維と正の電荷を発生する複数の第2圧電繊維との少なくともいずれか一方を含む概念である。
【0008】
また、従来から、電場により細菌及び真菌等の増殖を抑制することができる事が知られている(例えば、土戸哲明,高麗寛紀,松岡英明,小泉淳一著、講談社:微生物制御-科学と工学を参照。また、例えば、高木浩一,高電圧・プラズマ技術の農業・食品分野への応用,J.HTSJ,Vol.51,No.216を参照)。また、この電場を生じさせている電位により、湿気等で形成された電流経路、又は局部的なミクロな放電現象等で形成された回路を電流が流れることがある。この電流により菌が弱体化し菌の増殖を抑制することが考えられる。本発明の抗菌フィルタにおいては、伸縮により負の電荷を発生する複数の第1圧電繊維を備えているため、繊維と繊維との間、あるいは人体等の所定の電位(グランド電位を含む。)を有する物に近接した場合に、電場を生じさせる。あるいは、複数の第1圧電繊維は、汗等の水分を介して、繊維と繊維との間、あるいは人体等の所定の電位(グランド電位を含む。)を有する物に近接した場合に、電流を流す。
【0009】
従って、本発明の抗菌フィルタにおいて複数の第1圧電繊維は、以下のような理由により抗菌効果を発揮する。人体等の所定の電位を有する物に近接して用いられる物(衣料、履物、又はマスク等の医療用品)に適用した場合に発生する電場又は電流の直接的な作用によって、菌の細胞膜や菌の生命維持のための電子伝達系に支障が生じ、菌が死滅する、或いは菌自体が弱体化する。さらに、電場もしくは電流によって水分中に含まれる酸素が活性酸素種に変化する場合がある、又は電場もしくは電流の存在によるストレス環境により菌の細胞内に酸素ラジカルが生成される場合がある、これらのラジカル類を踏む活性酸素種の作用により菌が死滅する、又は弱体化する。また、上記の理由が複合して抗菌効果を生じている場合もある。なお、本発明で言う「抗菌」とは、菌の発生を抑制する効果、また菌を死滅する効果の両方を含む概念である。
【0010】
また、圧電体を用いるため、圧電により電場を生じさせるため、電源が不要であるし、感電のおそれもない。また、圧電体の寿命は、薬剤等による抗菌効果よりも長く持続する。さらに、薬剤よりもアレルギー反応が生じるおそれは低い。
【0011】
本発明の抗菌フィルタは、伸縮により電荷を発生する複数の圧電繊維を備え、第1主面と該第1主面の反対側に位置する第2主面とが形成され、少なくとも前記第2主面側において、伸縮により正の電荷を発生する複数の第2圧電繊維が配置されることを特徴とする。
【0012】
本発明の抗菌フィルタにおいては、使用時に伸縮させると、第2主面側において正の電荷が発生する。このため第2主面側に接近した細菌及び真菌等を吸着させることができる。細菌及び真菌等を一度抗菌フィルタへ吸着させるため、発生した電荷により抗菌効果を効率よく奏することができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、細菌及び真菌等が抗菌フィルタの内部へ侵入することを防止、又は効率良く抗菌効果を奏する。また、従来の抗菌性を有する材料よりも効果が長く持続し、かつ薬剤等より安全性の高い抗菌フィルタを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1(A)は、第1圧電繊維の構成を示す図であり、図1(B)は、図1(A)のA-A線における断面図であり、図1(C)は、第2圧電繊維の構成を示す図であり、図1(D)は、図1(C)のB-B線における断面図である。
図2図2(A)及び図2(B)は、ポリ乳酸の一軸延伸方向と、電場方向と、圧電糸の変形と、の関係を示す図である。
図3図3(A)は、第1圧電繊維に張力が加わった時に各圧電繊維に生じるずり応力(せん断応力)を図示したものであり、図3(B)は、第2圧電繊維に張力が加わった時に各圧電繊維に生じるずり応力(せん断応力)を図示したものである。
図4図4(A)は、第1圧電繊維及び第2圧電繊維における、電位を示す図であり、図4(B)は、電場を示す図である。
図5図5(A)は、第1実施形態に係る抗菌マスクの構造の模式図であり、図5(B)は、第2実施形態に係る抗菌マスクの構造の模式図である。
図6図6は、第3実施形態に係る抗菌マスクの構造の模式図である。
図7図7(A)は、第4実施形態に係る抗菌マスクの構造の模式図であり、図7(B)は、第5実施形態に係る抗菌マスクの構造の模式図である。
図8図8は、第6実施形態に係る抗菌マスクの構造の模式図である。
図9図9(A)は、第7実施形態に係る抗菌ガーゼの構造の模式図であり、図9(B)は、第8実施形態に係る抗菌ガーゼの構造の模式図であり、図9(C)は、第9実施形態に係る抗菌ガーゼの構造の模式図である。
図10図10(A)は、第10実施形態に係るフィルタの模式図であり、図10(B)及び図10(C)は、図10(A)のC-C線における切断部端面図である。
図11図11(A)~11(C)は、第10実施形態に係るフィルタの構造の模式図である。
図12図12(A)は、第10実施形態に係るフィルタの変形例1の模式図であり、図12(B)は、図12(A)のD-D線における切断部端面図である。
図13図13(A)は、第10実施形態に係るフィルタの変形例2の模式図であり、図13(B)は、図13(A)のE-E線における切断部端面図である。
図14図14(A)は、第10実施形態に係るフィルタの変形例3の模式図であり、図14(B)は、図14(A)のF-F線における切断部端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1(A)は、第1圧電繊維の構成を示す図であり、図1(B)は、図1(A)のA-A線における断面図であり、図1(C)は、第2圧電繊維の構成を示す図であり、図1(D)は、図1(C)のB-B線における断面図である。なお、図1(A)~図1(D)においては、一例として7本の圧電糸100が撚られてなる圧電繊維を示しているが、圧電糸100の本数はこれに限られず、実際には用途等を鑑みて、適宜設定される。また、圧電繊維は複数の圧電糸を撚り合わせたものに限らず、芯糸又は軸芯となる空間に圧電フィルムが巻かれたカバリング糸であっても良い。さらに、説明の便宜上、先に抗菌フィルタを構成する圧電繊維及び、圧電繊維を構成する圧電繊維について説明を行った後、抗菌フィルタについて説明する。
【0016】
圧電糸100は、伸縮により電荷を発生する圧電繊維(電荷発生糸)の一例である。圧電糸100は、機能性高分子、例えば圧電性ポリマーからなる。圧電性ポリマーとしては、例えばポリ乳酸(PLA)が挙げられる。また、ポリ乳酸(PLA)は、焦電性を有していない圧電性ポリマーである。ポリ乳酸は、一軸延伸されることで圧電性が生じる。ポリ乳酸には、L体モノマーが重合したPLLAと、D体モノマーが重合したPDLAと、がある。なお、圧電糸100は機能性高分子の機能を阻害しないものであれば、機能性高分子以外のものをさらに含んでいてもよい。
【0017】
ポリ乳酸は、キラル高分子であり、主鎖が螺旋構造を有する。ポリ乳酸は、一軸延伸されて分子が配向すると、圧電性を発現する。さらに熱処理を加えて結晶化度を高めると圧電定数が高くなる。一軸延伸されたポリ乳酸からなる圧電糸100は、厚み方向を第1軸、延伸方向900を第3軸、第1軸及び第3軸の両方に直交する方向を第2軸と定義したとき、圧電歪み定数としてd14及びd25のテンソル成分を有する。従って、ポリ乳酸は、一軸延伸された方向に対して45度の方向に歪みが生じた場合に、最も効率よく電荷を発生する。
【0018】
図2(A)及び図2(B)は、ポリ乳酸の一軸延伸方向と、電場方向と、圧電糸100の変形と、の関係を示す図である。図2(A)に示すように、圧電糸100は、第1対角線910Aの方向に縮み、第1対角線910Aに直交する第2対角線910Bの方向に伸びると、紙面の裏側から表側に向く方向に電場を生じる。すなわち、圧電糸100は、紙面表側では、負の電荷が発生する。圧電糸100は、図2(B)に示すように、第1対角線910Aの方向に伸び、第2対角線910Bの方向に縮む場合も、電荷を発生するが、極性が逆になり、紙面の表面から裏側に向く方向に電場を生じる。すなわち、圧電糸100は、紙面表側では、正の電荷が発生する。
【0019】
ポリ乳酸は、延伸による分子の配向処理で圧電性が生じるため、PVDF等の他の圧電性ポリマー又は圧電セラミックスのように、ポーリング処理を行う必要がない。一軸延伸されたポリ乳酸の圧電定数は、5~30pC/N程度であり、高分子の中では非常に高い圧電定数を有する。さらに、ポリ乳酸の圧電定数は経時的に変動することがなく、極めて安定している。
【0020】
圧電糸100は、断面が円形状の繊維である。圧電糸100は、例えば、圧電性高分子を押し出し成型して繊維化する手法、圧電性高分子を溶融紡糸して繊維化する手法(例えば、紡糸工程と延伸工程を分けて行う紡糸・延伸法、紡糸工程と延伸工程を連結した直延伸法、仮撚り工程も同時に行うことのできるPOY-DTY法、又は高速化を図った超高速防止法などを含む)、圧電性高分子を乾式あるいは湿式紡糸(例えば、溶媒に原料となるポリマーを溶解してノズルから押し出して繊維化するような相分離法もしくは乾湿紡糸法、溶媒を含んだままゲル状に均一に繊維化するような液晶紡糸法、又は液晶溶液もしくは融体を用いて繊維化する液晶紡糸法、などを含む)により繊維化する手法、又は圧電性高分子を静電紡糸により繊維化する手法等により製造される。なお、圧電糸100の断面形状は、円形に限るものではない。
【0021】
第1圧電繊維31及び第2圧電繊維32は、このような、PLLAの圧電糸100を複数撚ってなる糸(マルチフィラメント糸)を構成する。第1圧電繊維31は、圧電糸100を左旋回して撚られた左旋回糸(以下、S糸と称する。)である。一方、第2圧電繊維32は、圧電糸100を右旋回して撚られた右旋回糸(以下、Z糸と称する。)である。
【0022】
各圧電糸100の延伸方向900は、それぞれの圧電糸100の軸方向に一致している。第1圧電繊維31においては、圧電糸100の延伸方向900は、第1圧電繊維31の軸方向に対して、左に傾いた状態となる。一方、第2圧電繊維32においては、圧電糸100の延伸方向900は、第2圧電繊維32の軸方向に対して、右に傾いた状態となる。第1圧電繊維31又は第2圧電繊維32の軸方向に対する延伸方向900の傾きの角度は、第1圧電繊維31又は第2圧電繊維32の撚り回数に依存する。従って、第1圧電繊維31及び第2圧電繊維32は撚り回数を調整することにより、第1圧電繊維31及び第2圧電繊維32の軸方向に対す圧電糸100の傾きの角度を調整することができる。
【0023】
図3(A)は、第1圧電繊維に張力が加わった時に各圧電繊維に生じるずり応力(せん断応力)を図示したものであり、図3(B)は、第2圧電繊維に張力が加わった時に各圧電繊維に生じるずり応力(せん断応力)を図示したものである。
【0024】
図3(A)に示すように、S糸の第1圧電繊維31に張力をかけた場合、第1圧電繊維31の表面は図2(A)に示すような状態となる。このため、第1圧電繊維31の表面には負の電荷が発生し、内側には正の電荷が発生する。一方、図3(B)に示すように、Z糸の第2圧電繊維32に張力をかけた場合、第2圧電繊維32の表面は図2(B)に示すような状態となる。このため、第2圧電繊維32の表面には正の電荷が発生し、内側には負の電荷が発生する。
【0025】
第1圧電繊維31及び第2圧電繊維32は、この電荷により生じる電位差によって電場を生じる。この電場は近傍の空間にも漏れて他の部分と結合電場を形成する。また、第1圧電繊維31又は第2圧電繊維32に生じる電位は、近接する所定の電位、例えば人体等の所定の電位(グランド電位を含む。)を有する物に近接した場合に、第1圧電繊維31又は第2圧電繊維32と該物との間に電場を生じさせる。
【0026】
従来から、電場により細菌及び真菌の増殖を抑制することができる旨が知られている(例えば、土戸哲明,高麗寛紀,松岡英明,小泉淳一著、講談社:微生物制御-科学と工学を参照。また、例えば、高木浩一,高電圧・プラズマ技術の農業・食品分野への応用,J.HTSJ,Vol.51,No.216を参照)。また、この電場を生じさせている電位により、湿気等で形成された電流経路、又は局部的なミクロな放電現象等で形成された回路を電流が流れることがある。この電流により菌が弱体化し菌の増殖を抑制することが考えられる。なお、本実施形態で言う菌とは、細菌、真菌又はダニやノミ等の微生物を含む。
【0027】
従って、第1圧電繊維31は、第1圧電繊維31の近傍に形成される電場によって、あるいは人体等の所定の電位を有する物に近接した場合に発生する電場によって、直接的に抗菌効果を発揮する。あるいは、第1圧電繊維31は、汗等の水分を介して、近接する他の繊維又は人体等の所定の電位を有する物に近接した場合に電流を流す。この電流によっても、直接的に抗菌効果を発揮する場合がある。あるいは、電流又は電圧の作用により水分に含まれる酸素が変化した活性酸素種、さらに繊維中に含まれる添加材との相互作用又は触媒作用によって生じたラジカル種、又はその他の抗菌性化学種(アミン誘導体等)によって間接的に抗菌効果を発揮する場合がある。あるいは、電場又は電流の存在によるストレス環境により菌の細胞内に酸素ラジカルが生成される場合がある、これにより第1圧電繊維31が、間接的に抗菌効果を発揮する場合がある。また、第2圧電繊維32も第1圧電繊維31と同様に直接的又は間接的に抗菌効果を発揮することができる。ラジカルとしては、スーパーオキシドアニオンラジカル(活性酸素)又はヒドロキシラジカルの発生が考えられる。なお、本実施形態で言う「抗菌」とは、菌の発生を抑制する効果、また菌を死滅する効果の両方を含む概念である。
【0028】
図4(A)は、第1圧電繊維及び第2圧電繊維における、電位を示す図であり、図4(B)は、電場を示す図である。なお、図4(A)及び図4(B)においては、一例として7本の圧電糸が撚られてなる圧電繊維を示している。
【0029】
第1圧電繊維31(S糸)及び第2圧電繊維32(Z糸)がPLLAで形成された場合、第1圧電繊維31単独では、張力が加わった時に表面が負の電位になり、第1圧電繊維31の内部は正の電位になる。第2圧電繊維32単独では、張力が加わった時に表面が正の電位になり、第2圧電繊維32の内部は負の電位になる。
【0030】
ここで、S糸である第1圧電繊維31とZ糸である第2圧電繊維32とを近接させると、第1圧電繊維31と第2圧電繊維32との間に比較的強い電場を生じさせることができる。例えば、近接する部分(表面)は同電位となるように、Z糸の中心部は負の電位、S糸の中心部は正の電位となる。この場合、第1圧電繊維31と第2圧電繊維32との近接部は0Vとなり、元々の電位差を保つように、第1圧電繊維31の内部の正の電位はさらに高くなる。同様に第2圧電繊維32の内部の負の電位はさらに低くなる。
【0031】
第1圧電繊維31の断面では、主に中心から外に向かう電場が形成され、第2圧電繊維32の断面では主に中心から内に向かう電場が形成される。第1圧電繊維31及び第2圧電繊維32を近接させた場合、これらの電場が空気中に漏れ出て結合し、第1圧電繊維31及び第2圧電繊維32の間で電場回路が形成される。すなわち、各所の電位差は、繊維同士が複雑に絡み合うことにより形成される電場結合回路、又は水分等で糸の中に偶発的に形成される電流パスで形成される回路により定義される。
【0032】
図5(A)は、第1実施形態に係る抗菌マスクの構造の模式図であり、図5(B)は、第2実施形態に係る抗菌マスクの構造の模式図である。
【0033】
図5(A)に示すように、第1実施形態に係る抗菌マスク51は、抗菌フィルタ101を備える。なお、図において、抗菌マスクにおいては、抗菌フィルタのみ示し、後の部分は省略する。以下、第2実施形態から第6実施形態の説明においても同様である。
【0034】
抗菌フィルタ101は、ヒトの口や鼻を覆うように例えば長方形の形状に形成されている。抗菌フィルタ101は、第1主面21と第1主面21の反対側に位置する第2主面22とが形成されている。抗菌マスク51においては、第2主面22が使用者U側に位置する。なお、抗菌フィルタ101の形状については長方形に限らず、ひし形や多角形、円形、楕円形であっても良い。
【0035】
抗菌フィルタ101は、外層11と内層12とを備える。第1主面21側には外層11が、第2主面22側には内層12が、配置されている。第1主面21側の外層11において、複数の第1圧電繊維31が配置されている。例えば、外層11は、第1圧電繊維31を編糸として用いて編んだ編物、第1圧電繊維31を備える不織布、又は第1圧電繊維31を織った織物などを含む。
【0036】
抗菌フィルタ101を構成する糸は、表面に負の電荷を発生させる第1圧電繊維31以外の糸を備えていてもよい。第1圧電繊維31の使用量を調節することにより、用途に応じて発生させる電荷の極性の割合等を調節することができる。通常、圧電繊維は綿糸等に比べて肌触りが悪いため、ユーザが着用すると皮膚が刺激される場合がある。このため、抗菌フィルタ101に電荷を発生しない糸(綿糸等)を一部使用することによって、抗菌フィルタ101の肌触りがよくなり、皮膚への刺激が緩和される。
【0037】
抗菌フィルタ101に圧電体を用いるため、圧電により電場を生じさせることができる。このため、抗菌フィルタ101には電源が不要であるし、感電のおそれもない。また、圧電体の寿命は、薬剤等による抗菌効果よりも長く持続する。また、薬剤よりもアレルギー反応が生じるおそれは低い。
【0038】
使用時に抗菌フィルタ101が延伸されると、外層11において、第1圧電繊維31の表面には負の電荷が発生する。負に帯電する細菌及び真菌等81が第1主面21側に接近すると、第1圧電繊維31が発生する負の電荷により細菌及び真菌等81が跳ね返される。これにより、細菌及び真菌等81が抗菌フィルタ101の内部へ侵入することを防止できる。
【0039】
なお、抗菌フィルタ101は、全て第1圧電繊維31で構成されていても良い。また、抗菌フィルタ101は、普通布で構成したフィルタの周囲に第1圧電繊維31で構成した抗菌フィルタを枠状に付加するものであっても良い。第1圧電繊維31で構成した抗菌フィルタを枠状に設けた場合、中央部に位置する普通布は細菌及び真菌等を吸着しやすい。これにより、第1圧電繊維31で跳ね返せなかった細菌及び真菌等が普通布に吸着することにより、体内に取り込まれてしまうことを防止することができる。
【0040】
なお、抗菌フィルタ101は、全体として均一に形成されていなくてもよい。例えば、抗菌フィルタ101の生地の目の粗さを中央部で粗く、かつ端部に向かうに従って密になるように構成する。その他、抗菌フィルタ101は、普通布と第1圧電繊維31とをパッチワーク状に組み合わせることにより部分的に第1圧電繊維31を配置しても良い。
【0041】
抗菌フィルタ101に普通布を組み合わせた場合、全て第1圧電繊維31で構成された場合に比べて、抗菌フィルタ101全体から発生する負の電荷は小さくなるため、細菌及び真菌等を跳ね返す効果は弱くなる。しかしながら、第1圧電繊維31が細菌及び真菌等を、普通布で付着する前に跳ね返す場合もあるため、ある程度の抗菌効果を奏することができる。また、抗菌フィルタ101に普通布を組み合わせた場合、普通布は吸湿性に優れるため、抗菌効果だけでなく通気性を確保することができる。
【0042】
抗菌フィルタ101に普通布を組み合わせた場合、普通布と第1圧電繊維31との割合は、面積比で2:8~8:2までの間であることが好ましい。抗菌フィルタ101が所定の割合の普通布を含むことにより、細菌及び真菌等をある程度吸着することができ、かつ通気性を確保できる。また、抗菌フィルタ101が所定の割合の第1圧電繊維31を含むことにより、細菌及び真菌等を十分に跳ね返すことができる。
【0043】
なお、抗菌マスク51は、ヒトの口や鼻を覆うような一般的なマスクの形状に限られず、例えばヒトの口だけを覆うような形状であってもよい。細菌及び真菌等が口へ侵入することを防止する。また、抗菌フィルタ101は、周囲の細菌及び真菌等を跳ね返すため、鼻の周囲の細菌及び真菌等が鼻へ侵入することを防止する。これにより、このような形状の抗菌マスク51を使用した場合、細菌及び真菌等が口や鼻への侵入することを防止するだけでなく、鼻が外部へ露出されているため使用者は呼吸しやすくなる。
【0044】
以下、第2実施形態に係る抗菌マスクについて説明する。第2実施形態に係る抗菌マスクの説明においては、第1実施形態と異なる点についてのみ説明を行い、同様の点については説明を省略する。
【0045】
図5(B)に示すように、第2実施形態に係る抗菌マスク52は、抗菌フィルタ102を備える。抗菌フィルタ102は、外層11と内層12とを備える。第2主面22側の内層12において、複数の第2圧電繊維32が配置されている。
【0046】
使用時に抗菌フィルタ102が延伸されると、内層12において、第2圧電繊維32の表面には正の電荷が発生する。使用者Uから排出された負に帯電する細菌及び真菌等81が第2主面22側に接近すると、第2圧電繊維32が発生する正の電荷により細菌及び真菌等81は内層12に吸着される。これにより、使用者Uから排出された細菌及び真菌等81が再び呼吸などにより使用者Uへ吸入又は付着されることを防止できる。また、細菌及び真菌等81を一度抗菌フィルタ102へ吸着させるため、抗菌フィルタ102で発生した電荷により捕菌した菌及び真菌等81に対して抗菌効果を効率よく奏することができる。
【0047】
また、抗菌フィルタ102が延伸されたときのみ、抗菌フィルタ102には正の電荷を発生させることができる。使用時以外、例えば保管中には正の電荷を発生させることがない。このため、保管中に正の電荷が発生することにより、不要な細菌及び真菌等81が抗菌フィルタ102に付着することを防止することができる。
【0048】
なお、抗菌フィルタ102は、全て第2圧電繊維32で構成されていても良い。また、抗菌フィルタ102は、普通布で構成したフィルタの周囲に第2圧電繊維32で構成した抗菌フィルタを枠状に付加するものであっても良い。第2圧電繊維32で構成した抗菌フィルタを枠状に設けた場合、中央部に位置する普通布は細菌及び真菌等を吸着しやすい。これにより、第2圧電繊維32で吸着しきれなかった細菌及び真菌等が普通布に吸着することにより、体内に取り込まれてしまうことをさらに防止することができる。
【0049】
抗菌フィルタ102に普通布を組み合わせた場合、全て第2圧電繊維32で構成された場合に比べて、抗菌フィルタ102全体から発生する正の電荷は小さくなるため、細菌及び真菌等を吸着する効果は弱くなる。しかしながら、普通布は吸湿性に優れるため、抗菌フィルタ102に普通布を組み合わせた場合、通気性を確保することができる。
【0050】
抗菌フィルタ102に普通布を組み合わせた場合、普通布と第2圧電繊維32との割合は、面積比で2:8~8:2までの間であることが好ましい。抗菌フィルタ102が所定の割合の普通布を含むことにより、通気性を確保できる。また、抗菌フィルタ102が所定の割合の第2圧電繊維32を含むことにより、細菌及び真菌等を十分に吸着する効果も得られる。
【0051】
なお、抗菌マスク52は、ヒトの口だけを覆うような形状であってもよい。ヒトの口から飛沫された細菌及び真菌等を吸着することにより、再び口へ侵入することを防止する。また、抗菌フィルタ102は、周囲の細菌及び真菌等を吸着するため、鼻の周囲の細菌及び真菌等が鼻へ侵入することを防止する。これにより、このような形状の抗菌マスク52を使用した場合、細菌及び真菌等が口や鼻への侵入することを防止するだけでなく、鼻が外部へ露出されているため使用者は呼吸しやすくなる。
【0052】
以下、第3実施形態に係る抗菌マスクについて説明する。図6は、第3実施形態に係る抗菌マスクの構造の模式図である。第3実施形態に係る抗菌マスク53の説明においては、第1実施形態と異なる点についてのみ説明を行い、同様の点については説明を省略する。
【0053】
図6に示すように、第3実施形態に係る抗菌マスク53は、抗菌フィルタ103を備える。抗菌フィルタ103は、外層11と内層12とを備える。第1主面21側の外層11において、複数の第1圧電繊維31が配置されている。第2主面22側の内層12において、複数の第2圧電繊維32が配置されている。
【0054】
使用時に抗菌フィルタ103が延伸されると、内層12において、第2圧電繊維32の表面には正の電荷が発生する。これにより、使用者Uから排出された細菌及び真菌等81が再び呼吸などにより使用者Uへ吸入又は付着されることを防止できる。また、細菌及び真菌等81を一度抗菌フィルタ102へ吸着させるため、抗菌フィルタ102で発生した電荷により捕菌した菌及び真菌等81に対して抗菌効果を効率よく奏することができる。
【0055】
これと同時に、抗菌フィルタ103が延伸されると、外層11において、第1圧電繊維31の表面には負の電荷が発生する。これにより、細菌及び真菌等81が抗菌フィルタ101の内部へ侵入することを防止できる。
【0056】
以下、第4実施形態及び第5実施形態に係る抗菌マスクについて説明する。図7(A)は、第4実施形態に係る抗菌マスクの構造の模式図であり、図7(B)は、第5実施形態に係る抗菌マスクの構造の模式図である。第4実施形態及び第5実施形態に係る抗菌マスクの説明においては、第3実施形態と異なる点についてのみ説明を行い、同様の点については説明を省略する。
【0057】
図7(A)に示すように、第4実施形態に係る抗菌マスク54は、抗菌フィルタ104を備える。抗菌フィルタ104は、外層11と内層12とを備える。第1主面21側の外層11において、複数の第1圧電繊維31が配置されている。第2主面22側の内層12において、複数の第1圧電繊維31及び複数の第2圧電繊維32が配置されている。
【0058】
使用時に抗菌フィルタ104が延伸されると、内層12において、第2圧電繊維32の表面には正の電荷が発生する。これにより、使用者Uから排出された細菌及び真菌等81が再び呼吸などにより使用者Uへ吸入又は付着されることを防止できる。これと同時に内層12において、第1圧電繊維31の表面には負の電荷が発生する。内層12において、正及び負の電荷が共に発生するため、第1圧電繊維31及び第2圧電繊維32の間では比較的大きな電圧が発生する。これにより内層12において吸着された細菌及び真菌等81に対して、さらに効率よく抗菌効果を奏することができる。
【0059】
図7(B)に示すように、第5実施形態に係る抗菌マスク55は、抗菌フィルタ105を備える。抗菌フィルタ105は、外層11と内層12とを備える。第1主面21側の外層11において、複数の第1圧電繊維31及び複数の第2圧電繊維32が配置されている。第2主面22側の内層12において、複数の第2圧電繊維32が配置されている。
【0060】
使用時に抗菌フィルタ105が延伸されると、外層11において、第1圧電繊維31の表面には負の電荷が発生する。これにより、細菌及び真菌等81が抗菌フィルタ101の内部へ侵入することを防止できる。これと同時に外層11において、第2圧電繊維32の表面には正の電荷が発生する。外層11において、正及び負の電荷が共に発生するため、第1圧電繊維31及び第2圧電繊維32の間では比較的大きな電圧が発生する。これにより外層11において跳ね返されずに残った細菌及び真菌等81に対して、さらに効率よく抗菌効果を奏することができる。また、内層12において、吸着された細菌及び真菌等81に対して、さらに効率よく抗菌効果を奏することができる。
【0061】
以下、第6実施形態に係る抗菌マスクについて説明する。図8は、第6実施形態に係る抗菌マスクの構造の模式図であり、図8は、第6実施形態に係る抗菌マスクの構造の模式図である。第6実施形態に係る抗菌マスクの説明においては、第3実施形態と異なる点についてのみ説明を行い、同様の点については説明を省略する。
【0062】
図8に示すように、第6実施形態に係る抗菌マスク56は、抗菌フィルタ106を備える。抗菌フィルタ106は、外層11と内層12と中間層13とを備える。中間層13は、外層11と内層12との間に配置される。中間層13には、複数の第1圧電繊維31及び複数の第2圧電繊維32が配置されている。
【0063】
使用時に抗菌フィルタ106が延伸されると、内層12において、第2圧電繊維32の表面には正の電荷が発生する。内層12において、第2圧電繊維32が発生する正の電荷により細菌及び真菌等81は内層12に吸着される。また、中間層13において、正及び負の電荷が共に発生するため、第1圧電繊維31及び第2圧電繊維32の間では比較的大きな電圧が発生する。これにより、内層12に吸着した、又は外層11において跳ね返されずに残った細菌及び真菌等81に対して、さらに効率よく抗菌効果を奏することができる。
【0064】
以上の様な、抗菌フィルタ101~106は、マスク以外に各種の衣料、又は医療部材等の製品に適用可能である。例えば、抗菌フィルタ101~106は、肌着(特に靴下)、タオル、靴及びブーツ等の中敷き、スポーツウェア全般、帽子、寝具(布団、マットレス、シーツ、枕、枕カバー等を含む。)、歯ブラシ、フロス、浄水器、エアコン又は空気清浄器のフィルタ等、ぬいぐるみ、ペット関連商品(ペット用マット、ペット用服、ペット用服のインナー)、各種マット品(足、手、又は便座等)、カーテン、台所用品(スポンジ又は布巾等)、シート(車、電車又は飛行機等のシート)、オートバイ用ヘルメットの緩衝材及びその外装材、ソファ、包帯、ガーゼ、縫合糸、医者及び患者の服、サポーター、サニタリ用品、スポーツ用品(ウェア及びグローブのインナー、又は武道で使用する籠手等)、あるいは包装資材等に適用することができる。
【0065】
衣料のうち、特に靴下(又はサポータ)は、歩行等の動きによって、関節に沿って必ず伸縮が生じるため、抗菌フィルタ101~106は、高頻度で電荷を発生する。また、靴下は、汗などの水分を吸い取り、菌の増殖の温床となるが、抗菌フィルタ101~106は、菌の増殖を抑制することができるため、防臭のための菌対策用途として、顕著な効果を生じる。
【0066】
また、抗菌フィルタ101~106は、人間を除いた動物の体表面の菌抑制方法としても使用可能であり、動物の皮膚の少なくとも一部に、圧電体を含んだ布を対向させるように配置し、前記圧電体に外力が加えられた時に発生する電荷によって、前記布と対向する前記動物の体表面の菌の増殖を抑制してもよい。これにより、簡素な方法で、薬剤等の使用よりも安全性の高い、動物の体表面の菌の増殖を抑制し、及び動物の体表面の白癬菌治療することができる。
【0067】
なお、WO2015/159832には、複数の圧電糸と導電糸とを用いて編物又は織物にし、これに変位が加わった事をセンシングするトランスデューサが開示されている。この場合、導電糸は、すべて検知回路に接続されており、一本の圧電糸に対して必ず対の導電糸が存在する。WO2015/159832では、圧電糸に電荷が発生した時、導電糸を電子が移動し、圧電糸に発生した電荷を即座に中和する。WO2015/159832では、この電子の移動による電流を検知回路が捉えて信号として出力する。従ってこの場合、発生した電位は即座にキャンセルされるので、圧電糸と導電糸との間、及び圧電糸と圧電糸との間に強い電場が形成される事がなく、抗菌効果は発揮されない。
【0068】
以下、上記医療部材のうち、ガーゼを例に挙げて説明する。図9(A)は、第7実施形態に係る抗菌ガーゼの構造の模式図であり、図9(B)は、第8実施形態に係る抗菌ガーゼの構造の模式図であり、図9(C)は、第9実施形態に係る抗菌ガーゼの構造の模式図である。なお、図9(A)~図9(C)においては、主要な構成のみを表している。また、第8実施形態及び第9実施形態に係る抗菌ガーゼの説明においては、第7実施形態と同様の構成については説明を省略する。
【0069】
図9(A)に示すように、第7実施形態に係る抗菌ガーゼ107は、例えば、絆創膏等の皮膚Sの傷口Wに宛がうものである。抗菌ガーゼ107は、抗菌フィルタ101と同様に、外層11を備える。
【0070】
使用時に抗菌ガーゼ107が延伸されると、外層11において、第1圧電繊維31の表面には負の電荷が発生する。これにより、外層11において細菌及び真菌等81を跳ね返すことができる。また、皮膚Sの動物細胞は、負の電荷を帯びている。外層11の第1圧電繊維31が伸張する際に発生する負の電荷と皮膚Sの動物細胞が帯びている負の電荷とは反発する。このため、皮膚Sの動物細胞は抗菌ガーゼ107に貼りつきにくい。抗菌ガーゼ107は皮膚Sの傷口Wに触れ難く、通気性も向上するため、傷の治癒を早めることができる。また、第1圧電繊維31によって発生する電荷によって細胞が刺激されることによって、さらに傷の治癒を早めることができる。
【0071】
図9(B)に示すように、第8実施形態に係る抗菌ガーゼ108は、抗菌ガーゼ107にさらに中間層13を外側に積層させたものである。中間層13は、第1圧電繊維31及び第2圧電繊維32を備える。
【0072】
中間層13において、正及び負の電荷が共に発生するため、第1圧電繊維31及び第2圧電繊維32の間では比較的大きな電圧が発生する。抗菌ガーゼ108に血液や体液が付着し、外層11において跳ね返されずに残った細菌及び真菌等81に対して、効率よく抗菌効果を奏することができる。これにより、細菌及び真菌等81を跳ね返すだけでなく、菌の増殖を抑制することができる。
【0073】
図9(C)に示すように、第9実施形態に係る抗菌ガーゼ109は、抗菌フィルタ106と同様に、外層11と内層12と中間層13とを備える。内層12は、第2圧電繊維32を備える。
【0074】
使用時に抗菌ガーゼ109が延伸されると、内層12において、第2圧電繊維32の表面には正の電荷が発生する。内層12の第2圧電繊維32が発生する正の電荷と皮膚Sの動物細胞が帯びている負の電荷とは引き付けあう。このため、皮膚Sの動物細胞は抗菌ガーゼ109に密着する。このため、比較的通気性を阻むため、乾燥することが好ましくない患部に対応することができる。また、第2圧電繊維32によって発生する電荷によって細胞が刺激されることによって、さらに傷の治癒を早めることができる。
【0075】
なお、本実施形態の抗菌フィルタ101~106は、菌対策用途以外にも、以下の様な用途を有する。
【0076】
(1)生体作用圧電繊維製品
生体を構成する組織には圧電性を有するものが多い。例えば、人体を構成するコラーゲンは、タンパク質の一種であり、血管、真皮、じん帯、健、骨、又は軟骨等に多く含まれている。コラーゲンは、圧電体であり、コラーゲンが配向した組織は非常に大きな圧電性を示す場合がある。骨の圧電性については既に多くの報告がなされている(例えば、深田栄一,生体高分子の圧電気、高分子Vol.16(1967)No.9 p795-800等を参照)。従って、第1圧電繊維31又は第2圧電繊維32を備えた抗菌フィルタにより電場が生じ、該電場が交番するか、又は該電場の強度が変化すると、生体の圧電体は、逆圧電効果によって振動を生じる。第1圧電繊維31及び/又は第2圧電繊維32によって生じる交番電場、あるいは電場強度の変化により、生体の一部、例えば毛細血管や真皮に微小な振動が加えられ、その部分の血流の改善を促すことができる。これにより皮膚疾患や傷等の治癒が促される可能性がある。従って、抗菌フィルタ101~106は、生体作用圧電繊維製品として機能する。
【0077】
(2)物質吸着用圧電繊維製品
上述したように、第1圧電繊維31は、外力が係った場合に、負の電荷を生じる。第2圧電繊維32は、外力が係った場合に、正の電荷を生じる。そのため、第1圧電繊維31は、正の電荷を有する物質(例えば花粉等の粒子)を吸着する性質を有し、第2圧電繊維32は、負の電荷を有する物質(例えば黄砂等の有害物質等)を吸着する。従って、第1圧電繊維31及び第2圧電繊維32を備えた抗菌フィルタ103~106は、例えばマスク等の医療用品、又は、空調機若しくは空気清浄機等のフィルタに適用した場合に、花粉及び黄砂等の微粒子を吸着することができる。以下に、例を挙げ説明する。
【0078】
図10(A)は、第10実施形態に係るフィルタの模式図である。図10(B)及び図10(C)は、図10(A)のC-C線における切断部端面図である。図11(A)~11(C)は、第10実施形態に係るフィルタの構造の模式図であり、該フィルタの変化について説明する図である。なお、第10実施形態に係るフィルタの説明においては、先に述べた実施形態と同様の構成については説明を省略する。また、図10(A)~図10(C)においては、フィルタを構成する枠材111、第1圧電繊維31、及び第2圧電繊維32のみ示し、普通糸等の他のフィルタを構成する構成については省略して示している。
【0079】
第10実施形態に係るフィルタ110は、例えば、空調機又は空気清浄機等のフィルタとして用いられる。図10(A)に示すように、フィルタ110は、枠材111と、フィルタ部112とを備える。フィルタ部112は、枠材111に固定されている。
【0080】
フィルタ部112は、第1圧電繊維31又は第2圧電繊維32を備えた織物又は不織布等である。例えば、フィルタ部112を構成する横糸の一部は第1圧電繊維31であって、フィルタ部112を構成する縦糸の一部は第2圧電繊維32である。ここで説明の便宜上、フィルタ部112は、不使用時に主に正の電荷が発生し、伸長した時に主に負の電荷が発生するように構成されているものについて説明する。なお、フィルタ部112としては、正又は負のいずれか一方の電荷の大きさのみが変化するものであってもよい。
【0081】
図10(B)に示すように、フィルタ部112は、不使用時においては平坦な形状を維持している。不使用時において、フィルタ部112は、横糸方向に軽く張力をかけた状態で枠材111に固定されていてもよい。すなわち、第1圧電繊維31が伸長した状態で枠材111に固定されている。この場合、例えば、図11(A)に示すように、不使用時においてフィルタ部112に正の電荷が発生している。このため、フィルタ部112は、使用した時に一度吸着した塵82を吸着したままの状態で保持することができる。このように、一度フィルタ部112に吸着した塵82の運動エネルギーは、フィルタ部112に吸収されてなくなる。
【0082】
フィルタ部112は、使用時において矢印で示す向きに風を受けると、図10(C)に示すように変形しながら振動する。フィルタ部112の振動とは、例えば図10(C)に示す状態と図10(B)に示す状態とを繰り返すことを示す。
【0083】
フィルタ部112が振動すると、フィルタ部112の第1圧電繊維31及び第2圧電繊維32が伸縮する。このとき、特に縦糸である第1圧電繊維31が大きく伸縮するため、負の電荷が発生しやすい。このように、フィルタ部112が変形すると、例えば、図11(B)に示すように、フィルタ部112において、負の電荷が発生する。これにより、一度表面側に吸着した塵82とフィルタ部112との吸着力が弱まる。従って、フィルタ部112に吸着した塵82が、フィルタ部112において移動しやすくなる。また、フィルタ部112は使用時において絶えず変形しながら振動するため、電荷の発生状況は変動を続ける。
【0084】
ここで、フィルタ部112の内部側に正の電荷がある場合、図11(C)に示すように、塵82は内部側にひき寄せられる。これにより、フィルタ部112は内部に塵82を保持しつつ、振動することにより表面にさらに正の電荷を発生させることができる。このため、図11(D)に示すように、フィルタ部112は塵82をさらに表面に吸着することができる。このように、フィルタ部112は、振動することによって、吸着力を長く発揮することができる。
【0085】
なお、フィルタ部112は表面に近いほど目が粗く、内部に近いほど目が細かい構造であることが好ましい。フィルタ110は、フィルタ部112の表面で塵82を引き付ける。この後、表面に吸着した塵82は、フィルタ部112の動きや電荷の発生状況の変動に応じて移動する。このとき、フィルタ部112の表面が粗いと塵82はフィルタ部112の内部に入りこみやすい。従って、フィルタ部112は、一度フィルタ部112の表面で捕獲した塵82をフィルタ部112の内部に取り込みやすくなる。また逆に、フィルタ部112は、一度フィルタ部112の内部に取り込まれた塵82をフィルタ部112の外部に流出し難くすることができる。これにより、フィルタ部112の塵82を保持する効果を高めることができる。
【0086】
なお、図10では横糸である第1圧電繊維31は伸張時に負の電荷を発生し、縦糸である第2圧電繊維32は伸張時に負の電荷を発生し、としているが、横糸に第2圧電繊維32を、また縦糸に第1圧電繊維31を用いても構わない。
【0087】
次に、第10実施形態に係るフィルタ110の変形例1~3について説明する。図12(A)は、第10実施形態に係るフィルタの変形例1の模式図であり、図12(B)は、図12(A)のD-D線における切断部端面図である。図13(A)は、第10実施形態に係るフィルタの変形例2の模式図であり、図13(B)は、図13(A)のE-E線における切断部端面図である。図14(A)は、第10実施形態に係るフィルタの変形例3の模式図であり、図14(B)は、図14(A)のF-F線における切断部端面図である。なお、変形例1~3においては、第10実施形態に係るフィルタ110と異なる点のみについて説明を行い、後は説明を省略する。
【0088】
図12(A)及び図12(B)に示すように、変形例1に係るフィルタ120は、枠材121の形状が枠材111と異なる。枠材121は格子状に形成されている。フィルタ部122は、枠材121に固定されている。このため、第1圧電繊維31及び第2圧電繊維32は細かい区画に区切られた状態で枠材121に固定されている。
【0089】
図12(C)に示すように、使用時において、フィルタ部122は、矢印で示す向きに風を受けると、変形しながら振動する。枠材121がフィルタ部122と比較して伸縮しにくい素材で形成されている場合、フィルタ部122は、枠材121によって区切られた区画毎に振動する。これにより、フィルタ部122の伸縮は、フィルタ部112と比べて、全体的に均等となる。
【0090】
また、枠材121を区画が均一な格子状に形成した場合、格子の区画毎のフィルタ部122の伸縮がより均一になる。従って、フィルタ部122全体として均一に電荷が発生する。このため、フィルタ120は、塵82をフィルタ部122で均一に吸着することができる。従って、フィルタ120は、フィルタ部122の一部が目詰まりすることを防止できる。なお、枠材121の素材や太さ等を変更することにより、適宜フィルタ120に、使用状態に適した強度を持たせることができる。
【0091】
図13(A)に示すように、変形例2に係るフィルタ130は、変形例1と同様に枠材131の形状は格子状であるが、フィルタ部132の形状が異なる。図13(A)及び図13(B)に示すように、フィルタ部132は、フィルタ130の一主面133側から他方の主面134に向かって突出するように立体的に形成されている。フィルタ部132の表面積は立体的に形成されているため、変形例1のフィルタ部122と比べて、フィルタ部132の表面積は広い。
【0092】
図13(C)に示すように、フィルタ部132は、矢印で示す向きに風を受けると、変形しながら振動する。このとき、フィルタ部132の表面積は広いため、フィルタ130は、フィルタ120と比べてより多くの塵82を吸着し、保持することができる。
【0093】
図14(A)に示すように、変形例3に係るフィルタ140は、フィルタ部142の形状がフィルタ110と異なる。フィルタ部142は、図14(A)及び図14(B)に示すように、蛇腹に形成されている。このため、フィルタ部142の表面積は広く形成されるため、フィルタ140は、より多くの塵82を吸着し、保持することができる。
【0094】
また、図14(C)に示すように、使用時において、フィルタ部142は、矢印で示す向きに風を受けると、変形しながら振動する。このとき、フィルタ部142は蛇腹に形成されているため、フィルタ110のように平面状に形成された場合と比べて動きが大きくなる。これにより、フィルタ140は、フィルタ110と比べてより大きな電荷を発生することができる。すなわち、フィルタ140は、フィルタ110と比べて塵82の吸着力が強くなる。従って、フィルタ140は、フィルタ110と比べてより速やかに塵82を吸着し、保持することができる。
【0095】
さらに、フィルタ部142は蛇腹に形成されているため、図14(C)に示す矢印で示す向きと異なる向きにも振動が生じる。例えば、フィルタ部142において風を受ける側から窪む箇所145で空気が渦を巻いて移動することにより、フィルタ部142は、図14(C)に示す矢印に垂直な方向の振動が生じる。これにより、フィルタ部142はより複雑な動きをするため、フィルタ部142での電荷の発生もより複雑となる。このため、フィルタ140は、一度フィルタ部142の表面で捕獲した塵82を、フィルタ部142の内部にさらに取り込みやすくなる。
【0096】
なお、芯糸に導電体を用いて、当該導電体に絶縁体を巻き、該導電体に電気を流して電荷を発生させる構成も、電荷を発生する繊維である。ただし、圧電体は、圧電により電場を生じさせるため、電源が不要であるし、感電のおそれもない。また、圧電体の寿命は、薬剤等による抗菌効果よりも長く持続する。また、薬剤よりもアレルギー反応が生じるおそれは低い。また、薬剤、特に抗生物質等による耐性菌の発現が近年大きな問題となっているが、本発明による殺菌方法ではメカニズム上、耐性菌を生じることが考えられない。
【0097】
なお、表面に負の電荷を生じる繊維としては、PLLAを用いたS糸の他にも、PDLAを用いたZ糸も考えられる。また、表面に正の電荷を生じる繊維としては、PLLAを用いたZ糸の他にも、PDLAを用いたS糸も考えられる。
【0098】
なお、延伸時に表面に負の電荷を生じる繊維としてPLLAを用いたS糸を、延伸時に表面に正の電荷を生じる繊維としてPLLAを用いたZ糸を、例示したが、この構造に限ることない。例えば、第1圧電繊維31の代わりに、延伸時に表面に負の電荷を生じる繊維であれば他の繊維も使用可能である。同様に第2圧電繊維32の代わりに、延伸時に表面に正の電荷を生じる繊維であれば他の繊維も使用可能である。逆に収縮時に正又は負の電荷を生じる繊維を用いることも可能である。
【0099】
また本実施形態では第1圧電繊維31と第2圧電繊維32との間で電位差が生じていれば効果が得られる。仮に、第1圧電繊維31と第2圧電繊維32とで同じ極性の電荷が発生する場合であっても、各圧電繊維の電荷の発生量が異なっていれば同様の効果を得ることが出来る。例えば、撚り数の異なる圧電繊維の組み合わせ、フィラメント数の異なる圧電繊維の組み合わせ、フィラメント径の異なる圧電繊維の組み合わせ、圧電定数の異なる圧電繊維の組み合わせ、またこれらの条件を複合した圧電繊維の組み合わせなどが挙げられる。
【0100】
なお、本実施形態に係る抗菌フィルタは、上記の実施形態以外に、例えば、網戸等にも適応できる。網戸等において、抗菌フィルタを備えるメッシュシートは、軽く張力をかけた状態で枠に固定される。定常状態において抗菌フィルタは張力がかかった状態が維持されている。このため、抗菌フィルタには常に電荷が発生している状態である。従って、後から抗菌フィルタに新たに張力を加えなくても、常に抗菌効果等を奏することができる。
【符号の説明】
【0101】
21…第1主面
22…第2主面
31…第1圧電繊維(左旋回糸:S糸)
32…第2圧電繊維(右旋回糸:Z糸)
51,52,53,54,55,56…抗菌マスク
101,102,103,104,105,106…抗菌フィルタ
107,108,109…抗菌ガーゼ(抗菌フィルタ)
図1
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