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特許7081654エスカレーターの電動機の制御方法及び制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】エスカレーターの電動機の制御方法及び制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 1/32 20060101AFI20220531BHJP
【FI】
H02P1/32
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020210968
(22)【出願日】2020-12-21
【審査請求日】2020-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 哲也
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-036533(JP,A)
【文献】特開昭57-203663(JP,A)
【文献】特開2003-070282(JP,A)
【文献】特開2009-216324(JP,A)
【文献】特開2019-071775(JP,A)
【文献】特開昭60-002587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エスカレーターのステップを走行させる電動機を商用電源に対してスター接続する電磁接触器を含むスター運転用回路と、前記電動機を前記商用電源に対してΔ接続する電磁接触器と、を含むΔ運転用回路を制御するエスカレーターの電動機の制御方法であって、
前記電動機を前記スター運転用回路を介して前記商用電源に接続することにより、前記電動機をスター運転で始動する始動処理と、
前記エスカレーターの定格速度に応じて設定された閾値に前記ステップの走行速度が達したことを契機として第1タイマーによる計時を開始する第1計時処理と、
前記第1タイマーにより計時された時間が第1所定時間に達したことを契機として、前記電動機を前記Δ運転用回路を介してΔ運転で前記商用電源に接続する切替処理と、
前記電動機の始動を契機として第2タイマーによる計時を開始する第2計時処理と、
前記第2タイマーにより計時される時間が、前記ステップの走行速度が前記閾値に達する予測時間と、前記第1所定時間との合計時間よりも長く設定された第2所定時間に達したことを契機として、前記電動機を前記Δ運転用回路を介してΔ運転で前記商用電源に接続する第2切替処理と、
を実行するエスカレーターの電動機の制御方法。
【請求項2】
前記エスカレーターの定格速度に応じて設定された閾値は、前記定格速度の90%の速度である、
請求項1に記載のエスカレーターの電動機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレーターのステップを走行させる電動機の制御方法及び制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エスカレーターのステップを走行させる誘導電動機(以下、単に「電動機」)の駆動制御は、インバーターを用いるインバーター制御(例えば、特許文献1参照)と、インバーターを用いない非インバーター制御とに大別することができる。ステップを常時走行させるような連続運転仕様のエスカレーターの場合、非インバーター制御は、インバーター制御と比較して省エネ効果が大きいというメリットがある。非インバーター制御では、商用電源から電動機に交流電力が直接供給される一方、インバーター制御では、商用電源から供給される交流電力はインバーターの内部での直流電力への変換及び交流電力への再変換を経て電動機に供給されるため、インバーターにおいて約5%の無駄な電力消費が発生するからである。
【0003】
非インバーター制御では、電動機の始動電流が大きくなるので、電源から電動機へ至る交流電力の供給経路に設けられる電磁接触器の接点劣化が発生し易く、エスカレーターの運転回数に応じて電磁接触器を交換することが必要となる。電源から電動機へ至る交流電力の供給経路に設けられる電磁接触器の交換サイクルを長くするには、電動機の始動電流を抑制することが考えられる。非インバーター制御において始動電流の抑制を実現する電動機の始動方法としては、直入れ制御と、Y-Δ制御(スター-デルタ制御)とが挙げられる。直入れ制御における始動電流は、電動機の定格電流の6倍となる。一方、Y-Δ制御では、スター(Y)運転からΔ運転への切替時間を最適にすることで、Δ運転開始時の始動電流を定格電流の3倍に抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-256294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Y-Δ制御においてΔ運転の始動電流を確実に軽減するには、スター運転の時間を長くする必要がある。しかしながら、スター運転時の電動機の出力トルクは定格トルクの1/3であるため、利用者の乗込みに応じてステップの走行を開始する自動発停止仕様のエスカレーターでは利用者が乗込むことを考慮してスター運転の時間を最短にしておく必要があった。また、エスカレーターに用いられる電動機は、エスカレーターの傾斜、ステップの走行速度、ステップ幅及び一定区間毎のライズ等のエスカレーターの仕様に応じて選定されるため、Y-Δ制御における切替時間の最適値はエスカレーターの仕様に応じて異なる。このため、Y-Δ制御における切替時間を画一に設定できないという問題があった。さらに、Y-Δ制御における最適な切替時間は、電源電圧の変動或いは利用者の乗込みによっても変動するが、従来、電源電圧の変動、利用者の乗込み或いはライズの上限及び下限を考慮せず、電動機の容量により切替時間が設定されていた。このため、Δ運転開始時の始動電流を確実に抑制することはできず、Δ運転の始動電流が直入れ制御の始動電流の6倍を上回ってしまうこともあった。
【0006】
本発明の目的は、エスカレーターのステップを走行させる電動機のY-Δ制御において、Δ運転開始時の始動電流を確実に抑制することを可能にする電動機の制御方法及び制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエスカレーターの電動機の制御方法は、
エスカレーターのステップを走行させる電動機をスター運転で始動し、
前記エスカレーターの定格速度に応じて設定された閾値に前記ステップの走行速度が達したことを契機として第1タイマーによる計時を開始し、
前記第1タイマーにより計時された時間が第1所定時間に達したことを契機として、前記電動機の運転態様をスター運転からΔ運転に切り替える。
【0008】
前記閾値は前記定格速度の90%の値とすることができる。
【0009】
前記電動機の始動を契機として第2タイマーによる計時を開始し、
前記第2タイマーにより計時される時間が、前記ステップの走行速度が前記閾値に達する予測時間と、前記第1所定時間との合計時間よりも長く設定された第2所定時間に達したことを契機として、前記電動機の運転態様をスター運転からΔ運転に切り替えることができる。
【0010】
また、本発明のエスカレーターの電動機の制御装置は、
エスカレーターのステップを走行させる電動機を商用電源に対してスター接続する電磁接触器を含むスター運転用回路と、前記電動機を前記商用電源に対してΔ接続する電磁接触器と、を含むΔ運転用回路を制御するエスカレーターの電動機の制御装置であって、
前記電動機を前記スター運転用回路を介して前記商用電源に接続することにより、前記電動機を始動する始動処理と、
前記エスカレーターの定格速度に応じて設定された閾値に前記ステップの走行速度が達したことを契機として第1タイマーによる計時を開始する第1計時処理と、
前記第1タイマーにより計時された時間が第1所定時間に達したことを契機として、前記電動機を前記Δ運転用回路を介して前記商用電源に接続する切替処理と、
を実行する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエスカレーターの電動機の制御方法及び制御装置によれば、第1タイマーにより計時される時間が第1所定時間に達した時点ではステップの走行速度は閾値以上とすることができる。たとえば、上記閾値をエスカレーターの定格速度の90%の速度等に設定しておくことで、第1所定時間に達した時点ではステップの走行速度は略定格速度となるため、Δ運転における始動電流を定格電流の約3.1倍に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る電動機の制御方法を実行する制御装置を含むエスカレーターの駆動制御システムの構成例を示す図である。
図2図2は、制御装置の実行する制御方法を示すフローチャートである。
図3図3は、制御装置の動作を示すタイミングチャートである。
図4図4は、本実施形態の効果を説明する図である。
図5図5は、本実施形態の効果を説明する図である。
図6図6は、スター運転開始時点から一定時間経過後にΔ運転に切り替える場合の電流の時間変化の一例を示す図である。
図7図7は、スター運転開始時点から一定時間経過後にΔ運転に切り替える場合の電流の時間変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明のエスカレーターの電動機20の制御方法及び制御装置100について説明を行なう。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態による制御装置11を含むエスカレーターの駆動制御システム10の構成例を示す図である。駆動制御システム10は、エスカレーターのステップ(図示せず)を走行させる電動機20を、商用電源30から供給される三相交流電力により駆動する。図1には、駆動制御システム10の他に電動機20と商用電源30を図示している。
【0015】
駆動制御システム10により駆動されるエスカレーターとして、30°の傾斜を有し、1つのステップに二人の利用者が搭乗可能な自動発停止仕様のエスカレーターを例示できる。駆動制御システム10では、エスカレーターの下階側の搭乗口から利用者が乗り込んだことを搭乗口の人感センサー等(図示せず)により検知されたことを契機とし、昇り方向にステップを走行させる「アップ運転」を開始させる。同様に、上階側の搭乗口から利用者が乗り込んだことを搭乗口に設けられた人感センサー等(図示略)により検知されたことを契機とし、降り方向にステップを走行させる「ダウン運転」を開始させる。なお、一例として、駆動制御システム10により駆動されるエスカレーターのライズは5m、エスカレーターの定格速度は30m/分としている。また、電動機20の定格電流は24Aとしている。
【0016】
図1に示すように、駆動制御システム10は、制御装置11の他に、アップ運転用回路40、ダウン運転用回路50、スター運転用回路60、Δ運転用回路70、及び、電動機20を過電流から保護するOCR(Over Current Relay)を含む過電流保護回路80を含む。
【0017】
アップ運転用回路40は、エスカレーターをアップ運転する際に商用電源30と電動機20とを接続する回路である。ダウン運転用回路50は、エスカレーターをダウン運転する際に商用電源30と電動機20とを接続する回路である。スター運転用回路60は、電動機20をスター運転する際に商用電源30と電動機20とを接続する回路である。Δ(デルタ)運転用回路70は、電動機20をΔ運転する際に商用電源30と電動機20とを接続する回路である。図1に示すように、アップ運転用回路40、ダウン運転用回路50、スター運転用回路60、及びΔ運転用回路70の各々は、U相、V相及びW相の各相に対して1つずつ設けられた電磁接触器を含んでいる。また、図1に示すように、アップ運転用回路40は3つの電磁接触器#1を、ダウン運転用回路50は3つの電磁接触器#2を、スター運転用回路60は3つの電磁接触器#5を、Δ運転用回路70は3つの電磁接触器#10を夫々含んでいる。電磁接触器#1、#2、#5及び#10の各々は、制御装置11から与えられる制御信号S1、S2、S5及びS10によって開状態から閉状態、又は、閉状態から開状態に切替可能となっている。
【0018】
制御装置11は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のコンピューターと、揮発性メモリ及び非揮発性メモリ等の記憶装置と、リアルタイムクロックとを含んで構成することができる。また、制御装置11は、エスカレーターの上下の搭乗口に設けられる人感センサーやステップの走行速度を検出する速度センサーに接続される。
【0019】
不揮発性メモリは例えばフラッシュROM(Read Only Memory)である。不揮発性メモリには、本発明の制御方法を制御装置11に実行させるプログラムが予め格納されている。揮発性メモリは例えばRAM(Random Access Memory)である。揮発性メモリは上記プログラムを実行する際のワークエリアとしてCPUによって利用される。
【0020】
制御装置11のCPUは、電源の投入を契機として上記プログラムを不揮発性メモリから揮発性メモリへ読み出し、その実行を開始する。上記プログラムに従って作動しているCPUは、下側の搭乗口に設けられた人感センサーからの出力信号により利用者の乗り込みを検知した場合には、アップ運転用回路40の3つの電磁接触器#1を閉状態とし、且つ、ダウン運転用回路50の3つの電磁接触器#2を開状態として、フローチャート図2に示す制御方法を実行する。また、上記プログラムに従って作動しているCPUは、上側の搭乗口に設けられた人感センサーからの出力信号により利用者の乗り込みを検知した場合には、アップ運転用回路40の3つの電磁接触器#1を開状態とし、且つ、ダウン運転用回路50の3つの電磁接触器#2を閉状態とし、フローチャート図2に示す制御方法を実行する。
【0021】
図2に示すように本発明の制御方法は、始動処理(ステップS100)、第1判定処理(ステップS110)、第1スリープ処理(ステップS120)、第1計時処理(ステップS130)、第2判定処理(ステップS140)、第2スリープ処理(ステップS150)及び切替処理(ステップS160)を含む。これら各ステップの処理内容は以下の通りである。
【0022】
始動処理(ステップS100)は、電動機20をスター運転用回路60を介して商用電源30に接続することにより、電動機20をスター運転で始動する。始動処理(ステップS100)では、制御装置11は、スター運転用回路60の3つの電磁接触器#5を閉状態とし、且つΔ運転用回路70の3つの電磁接触器#10を開状態とすることによって、電動機20をスター運転用回路60を介して商用電源30に接続する。
【0023】
第1判定処理(ステップS110)では、ステップの走行速度が予め定められた閾値に達したか否かを判定する。本実施形態では、上記閾値は例えばエスカレーターの定格速度の90%の値に予め設定されている。前述したように本実施形態における定格速度は30m/分であるから、上記閾値は27m/分となる。第1判定処理(ステップS110)では、制御装置11は、速度センサーの出力信号の示す走行速度と上記閾値とを比較することで、ステップの走行速度が上記閾値に達したか否かを判定する。ステップの走行速度が上記閾値以上であれば、第1判定処理(ステップS110)の判定結果は“Yes”となる。一方、ステップの走行速度が上記閾値未満である場合には、第1判定処理(ステップS110)の判定結果は“No”となる。
【0024】
第1判定処理(ステップS110)の判定結果が“No”である場合、制御装置11は、例えば0.01秒のスリープ(休眠)を行なう第1スリープ処理(ステップS120)を実行し、その後、第1判定処理(ステップS110)を再度実行する。これに対して、第1判定処理(ステップS110)の判定結果が“Yes”である場合、制御装置11は、第1計時処理(ステップS130)を実行する。つまり、第1計時処理(ステップS130)は、エスカレーターの定格速度に応じて設定された閾値にステップの走行速度が達したことを契機として実行される処理である。第1計時処理(ステップS130)では、制御装置11は、リアルタイムクロックを用いた第1タイマーによる計時を開始する。
【0025】
第1計時処理(ステップS130)に続く第2判定処理(ステップS140)では、第1タイマーにより計時された時間が予め設定された第1所定時間に達したか否かを判定する。本実施形態では、例えば第1所定時間は0.2秒に予め設定されている。第2判定処理(ステップS140)では、制御装置11は、第1タイマーにより計時された時間と第1所定時間とを比較することで、第1タイマーにより計時された時間が第1所定時間に達したか否かを判定する。第1タイマーにより計時された時間が第1所定時間以上であれば、第2判定処理(ステップS140)の判定結果は“Yes”となる。一方、第1タイマーにより計時された時間が上記第1所定時間未満である場合には、第2判定処理(ステップS140)の判定結果は“No”となる。
【0026】
第2判定処理(ステップS140)の判定結果が“No”である場合、制御装置11は、例えば0.01秒のスリープ(休眠)を行なう第2スリープ処理(ステップS150)を実行し、その後、第2判定処理(ステップS140)を再度実行する。これに対して、第2判定処理(ステップS140)の判定結果が“Yes”である場合には、制御装置11は、切替処理(ステップS160)を実行する。つまり、切替処理(ステップS160)は、第1タイマーにより計時された時間が第1所定時間に達したことを契機として実行される処理である。
【0027】
切替処理(ステップS160)は、電動機20をΔ運転用回路70を介して商用電源30に接続する処理である。切替処理(ステップS160)では、制御装置11は、スター運転用回路60の3つの電磁接触器#5を開状態とし、その後、50ミリ秒のスリープの後、Δ運転用回路70の3つの電磁接触器#10を閉状態とすることによって、電動機20をΔ運転用回路70を介して商用電源30に接続し、Δ運転を開始する。
【0028】
次に図3に示すタイミングチャートを参照しつつ、制御装置11の動作を説明する。
【0029】
図3に示すように、制御装置11は、時刻T0において利用者の乗り込みを検知して始動処理(図2のステップS100)を実行し、電動機20のスター運転を開始するものとする。本実施形態では、電動機20のスター運転の開始から約3秒でステップの走行速度はエスカレーターの定格速度に達するが、時刻T0から3秒経過するよりも前の時刻T1において定格速度の90%に達したものとする。ステップの走行速度が定格速度の90%に達すると、第1判定処理(ステップS110)の判定結果は“Yes”となり、制御装置11は第1計時処理(ステップS130)を実行する。
【0030】
時刻T1から第1所定時間(0.2秒)が経過した時刻T2において第2判定処理(ステップS140)の判定結果は“Yes”になると、制御装置11は切替処理(ステップS160)を実行する。このため、時刻T2においてスター運転は終了し、時刻T2から50ミリ秒経過した時刻T3で電動機20のΔ運転が開始される。図4は電動機20に流れる電流の時刻T0以降の時間変化の一例を示す図である。図4に示すように、電動機20に流れる電流には時刻T3において急峻なピークが現れるが、そのピーク値は約73Aであり、電動機20の定格電流の約3.1倍(約74A)よりも小さな値となっている。図5は、時刻T1においてスター運転からΔ運転に切り替える場合において、電動機20に流れる電流の時間変化の一例を示す図である。図5に示すように、ステップの走行速度が定格速度の90%に達した時点で即座にスター運転からΔ運転に切り替えた場合のピーク電流は約96Aである。
【0031】
図6及び図7は、本実施形態との比較のために、時刻T0から一定時間経過後にスター運転からΔ運転に切り替えた場合において、電動機20に流れる電流の時間変化の一例を示す図である。図6は、時刻T0から1.5秒経過時点でスター運転からΔ運転に切り替えた場合の電流の時間変化の一例を示す図であり、図7は、時刻T0から3秒経過時点でスター運転からΔ運転に切り替えた場合の電流の時間変化の一例を示す図である。前述したように、本実施形態では、ステップの走行速度は電動機20のスター運転を開始した時点から3秒で定格速度に達する。このため、図7に示す例では、Δ運転開始時点の始動電流は定格電流の3.1倍程度(約74A)となっているが、図6に示す例では、Δ運転開始時点の始動電流は約155Aであり、定格電流の6.4倍程を上回っている。
【0032】
このように本実施形態によれば、エスカレーターのステップを走行させる電動機20のY-Δ制御において、スター運転の開始から3秒経過時点でΔ運転に切り替える場合、最適な切替時間を設定した場合と同様に、Δ運転開始時の始動電流を電動機20の定格電流の約3.1倍未満に確実に抑制することが可能になる。
【0033】
上記説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或いは範囲を限縮するように解すべきではない。また、本発明の各部構成は、上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【0034】
上記した実施形態は、たとえば以下のように変形することができる。
【0035】
上記実施形態では、第1計時処理を開始するか否かを判定する閾値は、定格速度の90%の値であったが、閾値はこれに限定されず、定格速度の85%、95%等の値であってもよい。本発明における閾値は、制御対象のエスカレーターの定格速度に応じた値であって、ステップの走行速度が当該閾値に達した時点から第1所定時間に亘ってスター運転を継続した時点の走行速度が定格速度に達していると見込まれる値であればよい。
【0036】
本発明の制御方法は、電動機20のスター運転の開始を契機として第2タイマーによる計時を開始する第2計時処理と、前記第2タイマーにより計時される時間が、前記ステップの走行速度が前記閾値に達する予測時間と、前記第1所定時間の合計時間よりも長く設定された第2所定時間に達したことを契機として、電動機20の運転態様をスター運転からΔ運転に切り替える第2切替処理とを含んでもよい。このような形態とすることで、ステップの走行速度を検出する速度センサーの異常等によりステップの走行速度を正常に検出できない場合、或いは、スター運転中に人がエスカレーターに乗り込んだことに起因するトルク不足によりステップの走行速度が上がらない場合等であっても、スター運転からΔ運転に確実に切り替えることができる。
【符号の説明】
【0037】
10 駆動制御システム
11 制御装置
20 電動機
30 商用電源
40 アップ運転用回路
50 ダウン運転用回路
60 スター運転用回路
70 Δ運転用回路
80 過電流保護回路
【要約】
【課題】本発明は、エスカレーターのステップを走行させる電動機のY-Δ制御において、Δ運転開始時の始動電流を確実に抑制するエスカレーターの電動機の制御方法及び制御装置を提供する。
【解決手段】本発明のエスカレーターの電動機の制御方法は、エスカレーターのステップを走行させる電動機20をスター運転で始動し、前記エスカレーターの定格速度に応じて設定された閾値に前記ステップの走行速度が達したことを契機として第1タイマーによる計時を開始し、前記第1タイマーにより計時された時間が第1所定時間に達したことを契機として、前記電動機の運転態様をスター運転からΔ運転に切り替える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7