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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】製紙用添加剤、紙及び紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 17/37 20060101AFI20220531BHJP
   D21H 21/18 20060101ALI20220531BHJP
   C08F 220/56 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
D21H17/37
D21H21/18
C08F220/56
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020539551
(86)(22)【出願日】2019-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2019033754
(87)【国際公開番号】W WO2020045514
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2018163508
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109635
【氏名又は名称】星光PMC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100164828
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦 康宏
(72)【発明者】
【氏名】山本 琢二
(72)【発明者】
【氏名】信国 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】岩城 直陶
(72)【発明者】
【氏名】茨木 英夫
(72)【発明者】
【氏名】吉谷 孝治
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-196588(JP,A)
【文献】国際公開第2016/092965(WO,A1)
【文献】国際公開第02/053835(WO,A1)
【文献】特開2011-246830(JP,A)
【文献】特開2010-024441(JP,A)
【文献】特開2012-251252(JP,A)
【文献】特開2015-052194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-D21J7/00
C08F6/00-246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(メタ)アクリルアミド、(B)(メタ)アリルスルホン酸類、(C)カルボキシル基を有するアニオン性ビニルモノマー、(D)4級アンモニウムを有するカチオン性ビニルモノマーを共重合成分として含む両性ポリアクリルアミドを含有する製紙用添加剤であって、
前記両性ポリアクリルアミドのアニオン等量とカチオン等量の比が0.05以上1.7以下であり、
前記両性ポリアクリルアミドのオクタノール/水分配係数が-1.44以上-0.60以下であり、
前記両性ポリアクリルアミドの表面張力が66mN/m以上74mN/m未満であり、
前記両性ポリアクリルアミドのピークトップ分子量Mpが100万から500万であり、
分子量分布Mw/Mnが2.5以上8.0以下であり、
ピークトップ分子量Mpと製紙用添加剤の20質量%水溶液(25℃)の粘度Vの比Mp/Vが200以上800以下
であることを特徴とする製紙用添加剤。
【請求項2】
請求項1に記載の製紙用添加剤を含有する紙。
【請求項3】
請求項1に記載の製紙用添加剤を用い、パルプスラリー中にアルミニウム化合物をアルミナ換算でパルプの乾燥質量当たり0~0.3質量%添加し、抄紙pHが5.0~8.5で抄紙することを特徴とする紙の製造方法。
【請求項4】
抄紙電気伝導度が300mS/mを超えることを特徴とする請求項に記載の紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙力増強効果に優れる製紙用添加剤、製紙用添加剤を含有する紙及び紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、生産性の向上あるいは紙力の向上を図るために、紙の製造においてはポリアクリルアミド系紙力剤を含む種々の製紙用添加剤が用いられている。
【0003】
ポリアクリルアミド系紙力剤としては、例えば、高濃度、高分子量でありながら低粘度のアクリルアミド系ポリマー水溶液であり、比破裂強さ、Z軸強度等の紙力強度、あるいは、濾水度に優れた紙力増強剤(特許文献1参照)、(メタ)アクリルアミドと4級アンモニウム系モノマーと(メタ)アリルスルホン酸塩とを含み、かつ、窒素を含有する架橋性モノマーと、3級アミノ系モノマーとを含まない重合成分の重合により得られるアクリルアミド系ポリマーを含有する紙力増強剤(特許文献2参照)などが提案されている。
【0004】
近年、環境への配慮や操業性改善の観点から、紙の製造において古紙原料の活用や節水(白水リサイクル)、あるいは中性抄紙での硫酸バンド低減~バンドレス化が進められた結果、製紙原料中灰分の増加や抄紙系の高電気伝導度化などによる紙質低下が課題となってきている。
【0005】
しかしながら、前記した従来の技術では、紙力増強剤の定着助剤となる硫酸バンドやポリ塩化アルミニウム(PAC)などのアルミニウム化合物がパルプスラリーに少量しか添加されない系やバンドレスの抄紙系、あるいは節水のため白水リサイクル率の高い高電気伝導度の抄紙系や紙力増強剤をパルプスラリーに高添加しても紙力増強効果が頭打ちになる抄紙系において使用された場合、十分に満足できる紙力増強効果が得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平08-067715号公報
【文献】特許第6060314号公報(国際公開第WO2016/092965号公報)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、紙力増強効果に優れるポリアクリルアミド系製紙用添加剤、製紙用添加剤を含有する紙及び製紙用添加剤を用いた紙の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、特定ポリアクリルアミド系製紙用添加剤を用いることで、前記した抄紙条件(古紙活用、白水リサイクル、バンドレス化)においても、満足し得る紙力を有する紙が得られることを見いだした。
【0009】
すなわち、前記課題を解決するための手段である本発明は、
<1>(A)(メタ)アクリルアミド、(B)(メタ)アリルスルホン酸類、(C)カルボキシル基を有するアニオン性ビニルモノマー、(D)4級アンモニウムを有するカチオン性ビニルモノマーを共重合成分として含む両性ポリアクリルアミドを含有する製紙用添加剤であって、前記両性ポリアクリルアミドのアニオン等量とカチオン等量の比が、0.05以上1.7以下であり、前記両性ポリアクリルアミドのオクタノール/水分配係数が-1.44以上-0.60以下であり、前記両性ポリアクリルアミドの表面張力が66mN/m以上74mN/m未満であることを特徴とする製紙用添加剤、
<2>前記両性ポリアクリルアミドのピークトップ分子量Mpが100万から500万であり、分子量分布Mw/Mnが2.5以上8.0以下であり、ピークトップ分子量Mpと製紙用添加剤の20質量%水溶液(25℃)の粘度Vの比Mp/Vが200以上800以下であることを特徴とする、前記<1>の製紙用添加剤、
<3>前記<1>又は<2>の製紙用添加剤を含有する紙、
<4>前記<1>又は<2>の製紙用添加剤を用い、パルプスラリー中にアルミニウム化合物をアルミナ換算でパルプの乾燥質量当たり0~0.3質量%添加し、抄紙pHが5.0~8.5で抄紙することを特徴とする紙の製造方法、
<5>抄紙電気伝導度が300mS/mを超えることを特徴とする前記<4>の紙の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、昨今の抄紙条件においても紙力に優れた紙を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の製紙用添加剤に含有する両性ポリアクリルアミドは、(A)(メタ)アクリルアミド、(B)(メタ)アリルスルホン酸類、(C)カルボキシル基を有するアニオン性ビニルモノマー、(D)4級アンモニウムを有するカチオン性ビニルモノマーを共重合成分として含むモノマーを共重合させたものである。製紙用添加剤全固形分に占める前記両性ポリアクリルアミドの割合は、90質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0012】
(A)(メタ)アクリルアミドは、アクリルアミド、メタクリルアミドであり、各々単独又は混合して用いることができる。
【0013】
(B)(メタ)アリルスルホン酸類は、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、及びこれらのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩又はアンモニウム塩から選ばれる少なくとも1種である。これらの中でも、メタリルスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0014】
(C)カルボキシル基を有するアニオン性ビニルモノマーとしては、カルボキシル基をひとつ以上有するアニオン性ビニルモノマーであればよい。例えば、不飽和モノカルボン酸、不飽和ジカルボン酸、不飽和トリカルボン酸、不飽和テトラカルボン酸、及びこれらのナトリウム、カリウム塩等のアルカリ金属塩又はアンモニウム塩等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を併用して使用することができる。これらの中でも、紙力増強向上効果及び経済性の点から、不飽和モノカルボン酸、不飽和ジカルボン酸及びこれらのナトリウム、カリウム塩等のアルカリ金属塩又はアンモニウム塩が好ましい。
【0015】
不飽和モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、2-(メタ)アクリルアミド-N-グリコール酸、N-アクリロイルグリシン、3-アクリルアミドプロパン酸、4-アクリルアミドブタン酸等が挙げられる。
【0016】
不飽和ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等が挙げられる。
【0017】
前記(C)カルボキシル基を有するアニオン性ビニルモノマーの中でも、アクリル酸、2-アクリルアミド-N-グリコール酸、イタコン酸及びこれらのナトリウム、カリウム塩等のアルカリ金属塩又はアンモニウム塩類がより好ましい。
【0018】
(D)4級アンモニウムを有するカチオン性ビニルモノマーとしては、3級アミノ基を有するビニルモノマーと4級化剤との反応によって得られるビニルモノマーや、ジアリルジアルキルアンモニウム4級塩を挙げることができる。前記4級化剤としては、メチルクロライド、及びメチルブロマイド等のアルキルハライド、ベンジルクロライド、及びベンジルブロマイド等のアリールハライド、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、エピクロロヒドリン、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、グリシジルトリアルキルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0019】
前記(D)4級アンモニウムを有するカチオン性ビニルモノマーの一例としては、ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩、ジメチルアミノエチルアクリレート硫酸メチル4級塩、ジメチルアミノエチルアクリレート塩化ベンジル4級塩、ジメチルアミノエチルメタクリレート塩化メチル4級塩、ジメチルアミノエチルメタクリレート硫酸メチル4級塩、ジメチルアミノエチルメタクリレート塩化ベンジル4級塩、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド硫酸メチル4級塩、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化ベンジル4級塩、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド塩化メチル4級塩、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド硫酸メチル4級塩、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド塩化ベンジル4級塩、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)トリメチルアンモニウム4級塩、塩化ジアリルジメチルアンモニウム、塩化ジアリルジエチルアンモニウムが挙げられる。
【0020】
前記(D)4級アンモニウムを有するカチオン性ビニルモノマーは、1種単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0021】
本発明の製紙用添加剤に含有する両性ポリアクリルアミドは、両性ポリアクリルアミドを構成する(A)~(D)成分の割合が、
(A)(メタ)アクリルアミド 62~99.2モル%
(B)(メタ)アリルスルホン酸類 0.1~3モル%
(C)カルボキシル基を有するアニオン性ビニルモノマー 0.2~15モル%
(D)4級アンモニウムを有するカチオン性ビニルモノマー 0.5~20モル%
であることが好ましい。
【0022】
本発明の製紙用添加剤に含有する両性ポリアクリルアミドには、本発明の効果に支障のない範囲において、前記(A)~(D)以外に他のモノマーを加えて使用することもできる。前記(A)~(D)以外のモノマーとしては、その他のアニオン性ビニルモノマー(C’)、その他のカチオン性ビニルモノマー(D’)、架橋性モノマー(E)、ノニオン性ビニルモノマー(F)を挙げることができる。
【0023】
その他のアニオン性ビニルモノマー(C’)としては、例えば、不飽和スルホン酸(前記(B)(メタ)アリルスルホン酸類を除く)、不飽和ホスホン酸、及びこれらのナトリウム、カリウム塩等のアルカリ金属類又はアンモニウム塩等が挙げられる。その他のアニオン性ビニルモノマー(C’)は、カルボキシル基を有するアニオン性ビニルモノマー(C)の一部に代えて、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下で用いることができる。
【0024】
不飽和スルホン酸としては、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。
【0025】
不飽和ホスホン酸としては、ビニルホスホン酸、α-フェニルビニルホスホン酸等が挙げられる。
【0026】
その他のカチオン性ビニルモノマー(D’)としては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、アルキルジアリルアミン、ジアリルアルキルアミン、ジアリルアミン、アリルアミン等の3級アミノ基、2級アミノ基、1級アミノ基を有するビニルモノマーが挙げられ、それらの塩酸、硫酸、ギ酸、酢酸、リン酸などの無機酸や有機酸の塩類であってもよい。その他のカチオン性ビニルモノマー(D’)は、4級アンモニウムを有するカチオン性ビニルモノマー(D)の一部に代えて用いることができる。
【0027】
架橋性モノマー(E)としては、例えば、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド等のN置換(メタ)アクリルアミド類;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリアクリルホルマール等の多官能(メタ)アクリレート類;アジピン酸ジビニル等のジビニルエステル類を挙げることができる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。架橋性モノマー(E)は、前記両性ポリアクリルアミドの共重合成分として、前記(A)~(D)成分の一部に代えて0.001~2.0モル%用いることが好ましい。
【0028】
ノニオン性ビニルモノマー(F)としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、スチレン誘導体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、及びメチルビニルエーテル等を挙げることができる。これらは1種単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。ノニオン性ビニルモノマー(F)は、前記両性ポリアクリルアミドの共重合成分として、前記(A)~(D)成分の一部に代えて、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下で用いることができる。
【0029】
両性ポリアクリルアミドの製造方法としては、特に制限はなく、従来公知の各種の方法を採用することが出来る。例えば、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下、撹拌機及び温度計を備えた反応容器に、前述のモノマーと溶媒である水(必要に応じて有機溶媒を併用することも可能である)、さらに必要に応じて硫酸、塩酸等の酸もしくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等のアルカリといったpH調整剤によりpHを調整する。その後重合開始剤を加え、反応制御可能な温度範囲で反応させ、目的とする両性ポリアクリルアミドを得ることが出来る。また、必要に応じて、モノマー、水、連鎖移動剤、pH調整剤、重合開始剤の一部又は全量を反応容器に滴下しながら重合することもできる。共重合体の分子構造設計の自由度が広がることから、モノマーを分割及び/又は滴下して重合を行うことが好ましい。
【0030】
本発明において使用する重合開始剤は、特に限定されるものではなく、公知のものが使用できる。例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素、過酸化ベンゾイル、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド等の過酸化物、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウム等の臭素酸塩、過ホウ素酸ナトリウム、過ホウ素酸カリウム、過ホウ素酸アンモニウム等の過ホウ素酸塩、過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウム、過炭酸アンモニウム等の過炭酸塩、過リン酸ナトリウム、過リン酸カリウム、過リン酸アンモニウム等の過リン酸塩等が例示できる。この場合、単独でも使用できるが、還元剤と組み合わせてレドックス系重合開始剤としても使用できる。
【0031】
還元剤としては、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩あるいはN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン等の有機アミン、2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン塩酸塩等のアゾ化合物、アルドース等の還元糖等が例示できる。また、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン塩酸塩、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、4,4’-アゾビス-4-シアノ吉草酸及びその塩等のアゾ化合物も使用可能である。これらの開始剤は2種類以上併用してもよい。
【0032】
重合に用いる重合開始剤の使用量は、特に限定されないが、重合成分の重合反応を十分に進行させるため、重合成分の質量100部に対して、通常は0.005以上5質量部以下、好ましくは0.01以上2.5質量部以下である。
【0033】
本発明の製紙用添加剤は、含有する両性ポリアクリルアミドのアニオン等量とカチオン等量の比が0.05以上1.7以下である必要がある。ここで、アニオン等量とカチオン等量の比とは、両性ポリアクリルアミドを構成するアニオン性を呈する全モノマーのアニオン等量の合計を、カチオン性を呈する全モノマーのカチオン等量の合計で除した値である。両性ポリアクリルアミドのアニオン等量とカチオン等量の比が0.05未満の場合、パルプスラリーに添加されるアルミニウム化合物や古紙中のアルミニウム化合物とのイオン結合部位が少ないため、パルプ繊維に定着し難くなり、紙力増強効果が低下する。
アニオン等量とカチオン等量の比が1.7を超える場合、負に帯電しているパルプ繊維とのイオン結合部位が少ないため、又はアニオン性基がカチオン性基を分子内で中和してしまうため、パルプ繊維に定着し難くなり、紙力増強効果が低下する。
【0034】
本発明の製紙用添加剤は、含有する両性ポリアクリルアミドのオクタノール/水分配係数(以下、LogP(Poly)と記載することがある)は-1.44以上-0.60以下である必要がある。ここで、オクタノール/水分配係数(LogP)は、Howard法(J. of Pharmaceutical Sciences Vol84, No.1 1995)を用いて求めることができる。両性ポリアクリルアミドのオクタノール/水分配係数(LogP(Poly))は、前記Howard法により、両性ポリアクリルアミドの各共重合成分のオクタノール/水分配係数(LogP)を計算により各々求め、これに各々の共重合成分のモル分率を乗じた総和から算出することができる。
【0035】
各共重合成分のオクタノール/水分配係数(LogP)は、以下の計算式で求めた。
LogP=Σ(fi×ni)+Σ(cj×nj)+0.229
ここでfi、cjは、各々、各共重合性分に対応するフラグメント定数、補正係数であり、表1に例を示す。フラグメントとは、化学構造を任意に分割したものをいう。
【0036】
【表1】
【0037】
表1から、例えばアクリルアミドは、表2に示すフラグメント定数の総和として求めることができる。また例えばイタコン酸は、表3に示すフラグメント定数、補正係数の総和として求めることができる。
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
オクタノール/水分配係数は、値が小さいほど親水性であることを示し、値が大きいほど疎水性であることを示す。両性ポリアクリルアミドのオクタノール/水分配係数(LogP(Poly))が-0.60より大きいと、パルプスラリー中の疎水性夾雑物(樹脂酸、ピッチ等)に両性ポリアクリルアミドが吸着され、その分パルプ繊維への定着量が少なくなり紙力向上効果を低下させる。LogP(Poly)値が-1.44未満であると、親水性が高いため水溶液中の両性ポリアクリルアミドはパルプ繊維に対して吸脱着を起こすために定着し難くなり、紙力増強効果が低下する。
【0041】
本発明の製紙用添加剤は、含有する両性ポリアクリルアミドの表面張力が、66mN/m以上74mN/m未満である必要がある。ここで、両性ポリアクリルアミドの表面張力とは、両性ポリアクリルアミドを0.2質量%含有する25℃、pH7.0に調整した0.2M-酢酸アンモニウム/0.6M-NaCl水溶液の表面張力を表面張力計(協和科学株式会社) CBVP SURFACE TENSIOMETER A3を用いて測定した値をいう。製紙用添加剤に消泡剤などの表面張力に影響を与える両親媒性の添加物を含まない場合は、製紙用添加剤のまま両性ポリアクリルアミド濃度を0.2質量%に緩衝溶液で調整して測定した値を本発明で規定する表面張力とみなすことができる。一方、消泡剤など表面張力に影響を与える両親媒性の添加物を含有する製紙用添加剤の場合には、アセトンにより両性ポリアクリルアミドを沈殿させ、真空乾燥により添加物を除去した両性ポリアクリルアミドの0.2質量%濃度の緩衝溶液の表面張力を測定する。
【0042】
表面張力は単位面積あたり存在する自由エネルギーであり、セルロースの表面張力は68.7mN/mである(参考文献:紙パ技協誌 第39巻8号p733~746)。またBKPのパルプ繊維の表面張力は71.3mN/mである(参考文献:繊維学会誌 Vol.49 No.6(1993))。
【0043】
本発明の製紙用添加剤に含有する両性ポリアクリルアミドは、抄紙系に添加された際に速やかにパルプ繊維に定着することが好ましい。そのため、両性ポリアクリルアミドの表面張力が66mN/m以上74mN/m未満であると、セルロースやパルプ繊維の表面張力に近いためパルプ繊維に濡れ拡がりやすく、面接着となるためにパルプ繊維に定着して紙力増強効果を発揮しやすい。両性ポリアクリルアミドの表面張力が66mN/m未満であると、パルプ繊維により濡れ拡がりやすくパルプ繊維の細孔に移動してしまい、パルプ繊維に定着しているにも関わらず紙力向上効果に貢献できなくなる。また、表面張力が74mN/m以上であると、パルプ繊維に濡れ拡がらず点接着となるため紙力増強効果を発揮しにくい。
【0044】
本発明の製紙用添加剤は、含有する両性ポリアクリルアミドのピークトップ分子量(Mp)100万以上、500万以下であることが好ましく、さらに好ましくは、150万~400万である。ここで、ピークトップ分子量は分子量分布のピーク頂点の位置から求めることができる。分子量の指標としてはGPC法による重量平均分子量が一般に用いられているが、溶出時間と分子量の関係を求め分子量を重みとして用いた重量平均分子量(Mw)では、高分子量の存在に影響を受けやすい。したがって重量平均分子量(Mw)が一般に紙力増強効果を発揮すると考えられる範囲のポリアクリルアミドであっても、ピークトップ分子量(Mp)が低く、紙力増強効果が十分でない場合がある。ピークトップ分子量(Mp)が100万以上であれば紙力増強効果が十分に得られ、500万以下であると凝集が起こり難く、紙力増強効果に優れる。
【0045】
本発明の製紙用添加剤は、含有する両性ポリアクリルアミドの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比率(Mw/Mn)が2.5以上、8.0以下であることが好ましい。重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比率(Mw/Mn)が2.5以上であれば、両性ポリアクリルアミドの多様性により抄紙系の変動に対する対応力が増加し、8.0以下であれば紙力増強効果の低い低分子量の両性ポリアクリルアミドの含有量や過凝集を引き起こす高分子量の両性ポリアクリルアミドの含有量が減少するため紙力増強効果に優れる。
【0046】
本発明の製紙用添加剤の粘度は特に限定されないが、製紙用添加剤の固形分濃度が20.0質量%になるよう希釈又は濃縮した際の25℃におけるB型粘度(V)が1,000~15,000mPa・sであることがピークトップ分子量(Mp)/粘度(V)の比Mp/Vが200以上となりやすいことから好ましい。
【0047】
重量平均分子量(Mp)/粘度(V)の比Mp/Vは、200以上であることが好ましく、800以下であることが好ましい。200以上であれば適度な凝集が生じ、800以下の場合、過凝集が起こりにくくなるため、紙力増強効果が向上すると考えられる。ここで、粘度は、製紙用添加剤の固形分濃度が20.0質量%になるよう希釈又は濃縮し、その20.0質量%の製紙用添加剤のpHが3.0になるように硫酸又は水酸化ナトリウムで調整した際の25℃におけるB型粘度であり、B型粘度計のローターとしてNo.4のものを使用し、粘度に応じてローターの回転数を適宜12から60rpmに調整して測定した。単位はmPa・sである。
【0048】
本発明の製紙用添加剤は、通常水溶液の状態で供給される。濃度に関しては特に制限はないが、輸送コスト、取扱いの観点から、10~40質量%が好ましい。
【0049】
また、本発明は紙の製造方法を提供する。本発明の紙の製造方法においては、前記した製紙用添加剤を用い、パルプスラリー中にアルミニウム化合物をアルミナ換算でパルプの乾燥質量当たり0~0.3質量%添加し、抄紙pHが5.0~8.5で抄紙することを特徴とする。
【0050】
パルプスラリーはパルプを水で希釈してスラリー状にしたものであり、パルプとしては、クラフトパルプ及びサルファイトパルプ等の晒、又は未晒化学パルプ、砕木パルプ、機械パルプ、サーモメカニカルパルプ等の晒、又は未晒高収率パルプ、並びに新聞古紙、雑誌古紙、段ボール古紙及び脱墨古紙等の古紙パルプのいずれにも使用することができる。
【0051】
本発明の紙の製造方法においては、前記製紙用添加剤をパルプスラリーにパルプの乾燥質量当たり通常0.01~5.0固形分質量%、好ましくは0.05~3.0固形分質量%、さらに好ましくは0.5~3.0固形分質量%を添加して使用する。硫酸バンドやポリ塩化アルミニウムなどのアルミニウム化合物を用いなくとも紙力に優れた紙を得ることができるが、アルミニウム化合物を添加する場合には、アルミナ換算で0.1~0.3質量%を添加することが好ましい。
【0052】
また、製紙用添加剤をパルプスラリーに添加する方法としては、例えば、アルミニウム化合物を全く用いずに製紙用添加剤を添加する方法、アルミニウム化合物を添加した後に製紙用添加剤を添加する方法、製紙用添加剤を添加した後にアルミニウム化合物を添加する方法、アルミニウム化合物と製紙用添加剤を同時に添加する方法などが挙げられ、いずれの方法を用いてもよい。
【0053】
一般的に、NaClやMgClなどの無機塩類の電解質は、水に溶かすと水溶液の内部に分布し、界面表面は真水に近くなり負吸着が生じその水溶液の表面張力が高まる。25℃における純水の表面張力は72.0mN/mであるが、0.2M-NaCl水溶液では72.9、0.6M-NaCl水溶液では73.0、1.2M-NaCl水溶液では73.6mN/mである。一方、抄紙系には様々な無機塩類が溶解しているため、両性ポリアクリルアミドのような電解質は、無機塩類による遮蔽効果によりイオン性官能基の解離が抑制されてカチオン性基の疎水性が強まり表面張力が低下する。セルロースやパルプ繊維の表面張力に対する両性ポリアクリルアミドの表面張力のかい離が大きくなると、両性ポリアクリルアミドはパルプスラリー中の疎水性夾雑物に吸着されやすくなると推測する。
【0054】
同様に、抄紙pHが中性以上に高くなると、両性ポリアクリルアミドは疎水性が強まるために表面張力が低下して、パルプスラリー中の疎水性夾雑物に濡れ拡がりやすくなり、結果としてパルプ繊維への定着が低下し、紙力増強効果が十分でなくなると推測する。
【0055】
本発明の製紙用添加剤は、含有する両性ポリアクリルアミドがカチオン性ビニルモノマーとして4級カチオン性ビニルモノマーを含み、アニオン等量とカチオン等量の比が0.05以上1.7以下であるために、遮蔽効果や高pHでカチオン性を失わず、適度なイオンバランスにより紙力増強効果が良好であるものと推測される。一方、アニオン等量とカチオン等量の比が1.7を超える強アニオン性ポリアクリルアミドでは、紙力増強剤の定着助剤として硫酸バンドやポリ塩化アルミニウムなどのアルミニウム化合物を必要とするため、前記アルミニウム化合物がパルプスラリーに少量しか、あるいは全く添加されない抄紙系では十分な紙力増強効果が得られない。
【0056】
以上の様に、本発明の製紙用添加剤を用いた場合は、前記した従来の製紙用添加剤では十分な紙力増強効果が得られない抄紙系においても、パルプ繊維に濡れ拡がり面接着しやすい表面張力を維持するため優れた紙力増強効果を示す。抄紙電気伝導度は5000mS/mまでが好ましい。
【0057】
本発明の紙の製造方法においては、パルプスラリーに対して、酸性ロジン系サイズ剤、中性ロジン系サイズ剤、アルキルケテンダイマー系サイズ剤、アルケニルもしくはアルキルコハク酸無水物系サイズ剤、多価カルボン酸とアルキル基又はアルケニル基を有する脂肪族アルコール、アルキル基又はアルケニル基を有する脂肪族アミン系との縮合系サイズ剤などを添加しても良い。これらサイズ剤の添加方法としては、例えば、パルプスラリーにサイズ剤を添加した後に、製紙用添加剤を添加する方法、製紙用添加剤を添加した後に、サイズ剤を添加する方法、サイズ剤に製紙用添加剤を希釈して予め混合した後に、添加する方法などが挙げられる。また、他に、パルプスラリーにサイズ定着剤、本発明以外の製紙用添加剤、消泡剤、クレー、カオリン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン等の充填剤、pH調整剤、染料、蛍光増白剤等を適宜含有せしめてもよい。また、本発明の製造方法により得られる紙は、通常、坪量が10~750g/m程度である。
【0058】
また、サイズプレス、ゲートロールコーター、ビルブレードコーター、キャレンダー等で、澱粉、ポリビニルアルコール、アクリルアミド系ポリマー等の表面紙力増強剤、表面サイズ剤、染料、コーティングカラー、防滑剤等を必要に応じて塗布しても良い。
【0059】
本発明の紙の製造方法においては、本発明の製紙用添加剤等を添加したパルプスラリーの抄紙pHは5.0~8.5であることが紙力増強効果の点から好ましく、6.5~8.5であることが更に好ましい。なお、本発明における抄紙pHとは、抄紙機にて脱水する直前のパルプスラリーのpHであり、抄紙機にて脱水する直前のパルプスラリーのpHは、一般的に実機ではインレットにおけるpHに相当する。
【0060】
本発明の製紙用添加剤を用いて製造される紙としては、PPC用紙・感光紙原紙・感熱紙原紙のような情報用紙、アート紙、キャストコート紙、上質コート紙等のコート原紙、ティシュペーパー、タオルペーパー、ナプキン原紙のような衛生用紙、果樹袋原紙、クリーニングタグ原紙、化粧板原紙・壁紙原紙、印画紙用紙、積層板原紙、食品容器原紙のような加工原紙、重袋用両更クラフト紙・片艶クラフト紙などの包装用紙、電気絶縁紙、ライナー、中芯、紙管原紙、白板紙、石膏ボード原紙、新聞用紙、紙器用板紙等を挙げることができる。
【実施例
【0061】
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に制約されるものではない。以下、%に特に記載のない場合には質量%であることを示す。
【0062】
両性ポリアクリルアミドのピークトップ分子量(Mp)、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比率(Mw/Mn)測定は、GPCに多角度光散乱検出器を接続したGPC-MALS法により行った。測定条件は以下の通りである。
GPC本体 : アジレント・テクノロジー社製 LC1100シリーズ
カラム : 昭和電工(株)製 SHODEX SB806MHQ
溶離液 : N/10硝酸ナトリウムを含むN/15リン酸緩衝液(pH3)
流速 : 1.0ml/分
検出器1 : ワイアットテクノロジー社製多角度光散乱検出器DAWN
検出器2 : 昭和電工(株)製示差屈折率検出器RI-101
【0063】
両性ポリアクリルアミドの重合率はH-NMRで測定した。ここで、重合率とは、両性ポリアクリルアミドの反応に供した全モノマー量に対するポリマーの割合(モル比)を表す。
【0064】
Howard法により求められる、製紙用添加剤に含有する両性ポリアクリルアミドの合成に用いた各共重合成分のLogP値は以下の通りである。
アクリルアミド : -0.8569
メタリルスルホン酸ナトリウム : 1.3949
イタコン酸 : -0.4867
アクリル酸 : 0.3920
2-アクリルアミド-N-グリコール酸 : -2.6750
ジメチルアミノエチルメタクリレート塩化メチル4級塩 : -3.3914
ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩 : -3.8449
ジメチルアミノエチルメタクリレート塩化ベンジル4級化物 : -1.6836
ジメチルアミノエチルアクリレート塩化ベンジル4級化物 :-2.1371
メチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩 : -4.4231
塩化ジアリルジメチルアンモニウム : -2.5892
ジメチルアミノエチルメタクリレート : 0.8290
ジメチルアミノエチルアクリレート : 0.3755
N,N-ジメチルアクリルアミド : -0.1798
N,N’-メチレンビスアクリルアミド : -1.6145
【0065】
<製紙用添加剤の合成>
実施例1
撹拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた1リットル四つ口フラスコに、水323.60g、モノマー類(1)として、50%アクリルアミド水溶液136.13g、80%ジメチルアミノエチルメタクリレート塩化メチル4級塩36.35g、メタリルスルホン酸ナトリウム3.06g、N,N-ジメチルアクリルアミド0.28g、1%N,N’-メチレンビスアクリルアミド4.32gを仕込み、30%硫酸水溶液でpH3.0に調整した。次いで、窒素ガス雰囲気下、65℃に昇温し、重合開始剤として過硫酸アンモニウムを加え、重合を開始させ反応温度を90℃まで昇温させた。その後、過硫酸アンモニウムを添加して重合率が95%に達した時点で、水274.0g、50%アクリルアミド水溶液229.48g、イタコン酸7.29g、メタリルスルホン酸ナトリウム1.11g、N,N-ジメチルアクリルアミド0.28g、1%N,N’-メチレンビスアクリルアミド4.32gから成るモノマー類(2)を加え、さらに過硫酸アンモニウムを加える。その後、さらに過硫酸アンモニウムを加え、25℃における粘度が6000mPa・sに達した時点で、水105.0gを投入して反応を終了させ、固形分20.1%の製紙用添加剤を得た。得られた製紙用添加剤を固形分20.0%、pH3.0に調整し、粘度、ピークトップ分子量、分子量分布、表面張力を測定した結果及び測定結果から算出したピークトップ分子量と粘度の比、並びにモノマー組成から算出したアニオン等量とカチオン等量の比、オクタノール/水分配係数を表6に示す。
【0066】
実施例2~4、6~16、18、21 比較例1~4、6、7、9、10
モノマー類の組成を表4、5に示すように変え、製紙用添加剤の粘度を表6に示すように変えたこと以外は、実施例1と同様に行い、ポリアクリルアミド系製紙用添加剤を得た。
得られた製紙用添加剤を実施例1と同様に固形分20.0%、pH3.0に調整し、粘度、ピークトップ分子量、分子量分布、表面張力を測定した結果及び測定結果から算出したピークトップ分子量と粘度の比、並びにモノマー組成から算出したアニオン等量とカチオン等量の比、オクタノール/水分配係数を表6に示す。
【0067】
実施例5
撹拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた1リットル四つ口フラスコに、水753.0g、50%アクリルアミド水溶液329.07g、80%ジメチルアミノエチルメタクリレート塩化メチル4級塩32.45g、イタコン酸6.51g、メタリルスルホン酸ナトリウム1.38g、1%N,N’-メチレンビスアクリルアミド23.13gを仕込み、次いで30%硫酸水溶液でpH3.0に調整した。窒素ガス雰囲気下、60℃に昇温し、重合開始剤として過硫酸アンモニウムを加え、窒素ガス雰囲気下85℃に昇温し、保温した。重合開始から1時間後に、過硫酸アンモニウムを追添加し、反応開始後、2時間後に重合を止めた。冷却後、固形分20.1%、製紙用添加剤を得た。得られた製紙用添加剤を実施例1と同様に固形分20.0%、pH3.0に調整し、粘度、ピークトップ分子量、分子量分布、表面張力を測定した結果及び測定結果から算出したピークトップ分子量と粘度の比、並びにモノマー組成から算出したアニオン等量とカチオン等量の比、オクタノール/水分配係数を表6に示す。
【0068】
実施例17
撹拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた1リットル四つ口フラスコに、水262.40g、モノマー類(1)として、50%アクリルアミド水溶液147.24g、イタコン酸7.29g、メタリルスルホン酸ナトリウム3.99g、N,N-ジメチルアクリルアミド0.28g、1%N,N’-メチレンビスアクリルアミド4.32gを仕込み、30%NaOH水溶液でpH3.0に調整した。次いで、窒素ガス雰囲気下、65℃に昇温し、重合開始剤として過硫酸アンモニウムを加え、重合を開始させ反応温度を90℃まで昇温させた。その後、過硫酸アンモニウムを添加して重合率が97%に達した時点で、水333.20g、50%アクリルアミド水溶液218.33g、80%ジメチルアミノエチルメタクリレート塩化メチル4級塩36.35g、メタリルスルホン酸ナトリウム0.18g、N,N-ジメチルアクリルアミド0.28g、1%N,N’-メチレンビスアクリルアミド4.32gから成るモノマー類(2)を加え、さらに過硫酸アンモニウムを加える。その後、さらに過硫酸アンモニウムを加え、25℃における粘度が9000mPa・sに達した時点で、水111.3gを投入して反応を終了させ、固形分20.5%の製紙用添加剤を得た。得られた製紙用添加剤を、実施例1と同様に固形分20.0%、pH3.0に調整し、粘度、ピークトップ分子量、分子量分布、表面張力を測定した結果及び測定結果から算出したピークトップ分子量と粘度の比、並びにモノマー組成から算出したアニオン等量とカチオン等量の比、オクタノール/水分配係数を表6に示す。
【0069】
実施例19
モノマー類の組成を表4に示すように変え、製紙用添加剤の粘度を表6に示すように変えたこと以外は、実施例17と同様に行い、固形分20.6%の製紙用添加剤を得た。
得られた製紙用添加剤を実施例1と同様に固形分20.0%、pH3.0に調整し、粘度、ピークトップ分子量、分子量分布、表面張力を測定した結果及び測定結果から算出したピークトップ分子量と粘度の比、並びにモノマー組成から算出したアニオン等量とカチオン等量の比、オクタノール/水分配係数を表6に示す。
【0070】
実施例20
モノマー類の組成を表4に示すように変え、製紙用添加剤の粘度を表6に示すように変えたこと以外は、実施例5と同様に行い、固形分20.8%の製紙用添加剤を得た。得られた製紙用添加剤を実施例1と同様に固形分20.0%、pH3.0に調整し、粘度、ピークトップ分子量、分子量分布、表面張力を測定した結果及び測定結果から算出したピークトップ分子量と粘度の比、並びにモノマー組成から算出したアニオン等量とカチオン等量の比、オクタノール/水分配係数を表6に示す。
【0071】
実施例22
モノマー類の組成を表4に示すように変え、製紙用添加剤の粘度を表6に示すように変え、重合率が99%に達した時点でモノマー類(2)を加えたこと以外は、実施例1と同様に行い、製紙用添加剤を得た。
得られた製紙用添加剤を実施例1と同様に固形分20.0%、pH3.0に調整し、粘度、ピークトップ分子量、分子量分布、表面張力を測定した結果及び測定結果から算出したピークトップ分子量と粘度の比、並びにモノマー組成から算出したアニオン等量とカチオン等量の比、オクタノール/水分配係数を表6に示す。
【0072】
実施例23
モノマー類の組成を表4に示すように変え、製紙用添加剤の粘度を表4に示すように変え、モノマー類(2)を加え、さらに過硫酸アンモニウムを加えた後の、追添加の過硫酸アンモニウムを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様に行い、固形分21.2%の製紙用添加剤を得た。
得られた製紙用添加剤を実施例1と同様に固形分20.0%、pH3.0に調整し、粘度、ピークトップ分子量、分子量分布、表面張力を測定した結果及び測定結果から算出したピークトップ分子量と粘度の比、並びにモノマー組成から算出したアニオン等量とカチオン等量の比、オクタノール/水分配係数を表6に示す。
【0073】
比較例5
撹拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた1リットル四つ口フラスコに、重合成分の一部として、表5に記載されるモノマー類の組成の仕込み総量の70モル%を用意し、濃度が30質量%になるように水で希釈した。具体的には、水219.60g、モノマー類(1)として、50%アクリルアミド水溶液255.51g、イタコン酸4.59g、メタリルスルホン酸ナトリウム3.10g、65%塩化ジアリルジメチルアンモニウム26.81gを仕込み、30%硫酸水溶液でpH2.5に調整した。次いで、窒素ガス雰囲気下、60℃に昇温し、重合開始剤として過硫酸アンモニウムを滴下し、重合させた。また重合に伴う昇温によって最高温度95℃に到達してから5分後に重合成分の残部(30モル%)を滴下した。具体的には、水95.50g、50%アクリルアミド水溶液109.50g、イタコン酸1.97g、メタリルスルホン酸ナトリウム1.33g、65%塩化ジアリルジメチルアンモニウム11.49gから成るモノマー類(2)を滴下した。モノマー類(2)の滴下開始時の重合率は97%であった。
そして、上記重合成分の残部の滴下が終了した後、重合開始剤としての過硫酸アンモニウムを2回添加し、85℃前後で反応を150分継続させた。その後、重合停止剤(還元剤)としての亜硫酸ナトリウムと水363.00gとを添加し、冷却することにより、固形分20.5%の製紙用添加剤を得た。
得られた製紙用添加剤を、実施例1と同様に固形分20.0%、pH3.0に調整し、粘度(25℃)は581mPa・sであった。
得られた製紙用添加剤の粘度、ピークトップ分子量、分子量分布、表面張力を測定した結果及び測定結果から算出したピークトップ分子量と粘度の比、並びにモノマー組成から算出したアニオン等量とカチオン等量の比、オクタノール/水分配係数を表6に示す。
【0074】
比較例8
撹拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた1リットル四つ口フラスコに、水269.70g、モノマー類(1)として、50%アクリルアミド水溶液145.25g、65%塩化ジアリルジメチルアンモニウム13.93g、イタコン酸2.91g、メタリルスルホン酸ナトリウム2.66g、N,N-ジメチルアクリルアミド0.28g、1%N,N’-メチレンビスアクリルアミド4.32gを仕込み、30%硫酸水溶液でpH3.0に調整した。次いで、窒素ガス雰囲気下、60℃に昇温し、重合開始剤として過硫酸アンモニウムを加え、重合を開始させ反応温度を85℃まで昇温させた。その後、過硫酸アンモニウムを添加して重合率が90%に達した時点で、水298.80g、50%アクリルアミド水溶液220.80g、65%塩化ジアリルジメチルアンモニウム20.89g、イタコン酸4.37g、メタリルスルホン酸ナトリウム0.97g、N,N-ジメチルアクリルアミド0.28g、1%N,N’-メチレンビスアクリルアミド4.32gから成るモノマー類(2)を加え、さらに過硫酸アンモニウムを加える。その後、さらに過硫酸アンモニウムを加え、25℃における粘度が5000mPa・sに達した時点で、水100.7gを投入して反応を終了させ、固形分20.7%の製紙用添加剤を得た。得られた製紙用添加剤を固形分20.0%、pH3.0に調整し、粘度、ピークトップ分子量、分子量分布、表面張力を測定した結果及び測定結果から算出したピークトップ分子量と粘度の比、並びにモノマー組成から算出したアニオン等量とカチオン等量の比、オクタノール/水分配係数を表6に示す。
【0075】
【表4】
【0076】
【表5】
【0077】
表4、5中の略号は以下の通りである。
AAm : アクリルアミド
SMAS : メタリルスルホン酸ナトリウム
IAc : イタコン酸
AGAc : 2-アクリルアミド-N-グリコール酸
AAc : アクリル酸
DMAEM-MCQ : ジメチルアミノエチルメタクリレート塩化メチル4級塩
DMAEA-MCQ : ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩
DMAEM-BZQ : ジメチルアミノエチルメタクリレート塩化ベンジル4級化物
DMAEA-BZQ : ジメチルアミノエチルアクリレート塩化ベンジル4級化物
DMAPA-MCQ : ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩
DADMACQ : 塩化ジアリルジメチルアンモニウム
DMAEM : ジメチルアミノエチルメタクリレート
DMAEA : ジメチルアミノエチルアクリレート
DMAAm : N,N-ジメチルアクリルアミド
MBAAm : N,N’-メチレンビスアクリルアミド
【0078】
【表6】
【0079】
<手抄き試験による製紙用添加剤の評価>
応用実施例1
濃度2.4%、叩解度(カナディアンスタンダード・フリーネス)330、電気伝導度350mS/mの段ボール古紙パルプスラリーに、硫酸バンドをパルプ固形分に対し、1.0%(アルミナ換算0.153%)、実施例1で得られた製紙用添加剤をパルプ固形分に対し、0.4%を添加した。このパルプスラリーを撹拌後、pH6.7の水でパルプ濃度を0.8%に希釈した後、ノーブル・アンド・ウッド(The Noble & Wood)製シートマシンにて抄紙し、プレス後、ドラムドライヤーで100℃、100秒間乾燥させて、坪量80g/mの紙を得た。得られた紙は、以下に記載する比破裂強さにて評価を行った。結果を表7に示す。
比破裂強さ : JIS P 8112に準拠して行った。
【0080】
応用実施例2~23、応用比較例1~10
応用実施例1において、表7のように製紙用添加剤の種類を変えた以外は、応用実施例1と同様な操作を行い、坪量80g/mの紙を得た。得られた紙は、応用実施例1と同様に評価を行った。結果を表7に示す。
【0081】
【表7】
【0082】
応用実施例24
濃度2.4%、叩解度(カナディアンスタンダード・フリーネス)330、電気伝導度350mS/mの段ボール古紙パルプスラリーに、実施例1で得られた製紙用添加剤をパルプ固形分に対し、0.4%を添加した。このパルプスラリーを撹拌後、pH7.5の水でパルプ濃度を0.8%に希釈した後、ノーブル・アンド・ウッド(The Noble & Wood)製シートマシンにて抄紙し、プレス後、ドラムドライヤーで100℃、100秒間乾燥させて、坪量80g/mの紙を得た。得られた紙は、以下に記載する比破裂強さにて評価を行った。結果を表8に示す。
【0083】
応用実施例25、応用比較例11~12
応用実施例24において、表8のように製紙用添加剤の種類を変えた以外は、応用実施例24と同様な操作を行い、坪量80g/mの紙を得た。得られた紙は、応用実施例24と同様に評価を行った。結果を表8に示す。
【0084】
【表8】
【0085】
表7、8から、本発明の製紙用添加剤は本発明のいずれかの規定を満足しない比較例に比べて、紙力に優れることがわかる。
【0086】
応用実施例1と応用実施例17、20から、製紙用添加剤のピークトップ分子量(Mp)が100万以上500万以下であると、この範囲を外れた製紙用添加剤に比べ、紙力増強効果により優れることがわかる。
【0087】
応用実施例1と応用実施例5、22から、製紙用添加剤のピークトップ分子量(Mp)/粘度(V)の比Mp/Vが、200以上800以下であると、この範囲を外れた製紙用添加剤に比べ、紙力増強効果により優れることがわかる。
【0088】
応用実施例1と応用実施例21、23から、製紙用添加剤の分子量分布Mw/Mnが2.5以上8.0以下であると、この範囲を外れた製紙用添加剤に比べ、紙力増強効果により優れることがわかる。