IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱マテリアル株式会社の特許一覧

特許7081686接合体、ヒートシンク付絶縁回路基板、及び、ヒートシンク
<>
  • 特許-接合体、ヒートシンク付絶縁回路基板、及び、ヒートシンク 図1
  • 特許-接合体、ヒートシンク付絶縁回路基板、及び、ヒートシンク 図2
  • 特許-接合体、ヒートシンク付絶縁回路基板、及び、ヒートシンク 図3
  • 特許-接合体、ヒートシンク付絶縁回路基板、及び、ヒートシンク 図4
  • 特許-接合体、ヒートシンク付絶縁回路基板、及び、ヒートシンク 図5
  • 特許-接合体、ヒートシンク付絶縁回路基板、及び、ヒートシンク 図6
  • 特許-接合体、ヒートシンク付絶縁回路基板、及び、ヒートシンク 図7
  • 特許-接合体、ヒートシンク付絶縁回路基板、及び、ヒートシンク 図8
  • 特許-接合体、ヒートシンク付絶縁回路基板、及び、ヒートシンク 図9
  • 特許-接合体、ヒートシンク付絶縁回路基板、及び、ヒートシンク 図10
  • 特許-接合体、ヒートシンク付絶縁回路基板、及び、ヒートシンク 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】接合体、ヒートシンク付絶縁回路基板、及び、ヒートシンク
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20220531BHJP
   H01L 23/40 20060101ALI20220531BHJP
   B23K 20/00 20060101ALI20220531BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20220531BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
H01L23/36 C
H01L23/40 F
B23K20/00 310H
B23K20/00 310L
C22C21/00 E
C22C21/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020557768
(86)(22)【出願日】2019-11-27
(86)【国際出願番号】 JP2019046332
(87)【国際公開番号】W WO2020111107
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2018222347
(32)【優先日】2018-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】寺▲崎▼ 伸幸
【審査官】豊島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-168625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K20/00 -20/26
C22C 5/00 -25/00
C22C27/00 -28/00
C22C30/00 -30/06
C22C35/00 -45/10
H01L23/29
H01L23/34 -23/36
H01L23/373-23/427
H01L23/44
H01L23/467-23/473
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金からなる銅部材と、Siを含有するアルミニウム合金からなるアルミニウム合金部材と、が接合されてなる接合体であって、
前記アルミニウム合金は、Si濃度が1.5mass%以上12.5mass%以下の範囲内とされ、Fe濃度が0.15mass%以下、Cuの濃度が0.05mass%以下とされており、
前記アルミニウム合金部材と前記銅部材とが固相拡散接合されており、
前記アルミニウム合金部材と前記銅部材との接合界面に、CuとAlを含む金属間化合物からなる金属間化合物層を備え、
前記金属間化合物層においては、前記アルミニウム合金部材側に位置するとともにθ相からなる第1金属間化合物層と、前記銅部材側に位置するとともにθ相以外の非θ相からなる第2金属間化合物層と、が積層されており、
θ相からなる第1金属間化合物層の厚さt1と、非θ相からなる第2金属間化合物層の厚さt2との比t2/t1が1.2以上2.0以下の範囲内とされていることを特徴とする接合体。
【請求項2】
絶縁層と、この絶縁層の一方の面に形成された回路層と、前記絶縁層の他方の面に形成された金属層と、この金属層の前記絶縁層とは反対側の面に配置されたヒートシンクと、を備えたヒートシンク付絶縁回路基板であって、
前記金属層のうち前記ヒートシンクとの接合面は、銅又は銅合金で構成され、
前記ヒートシンクのうち前記金属層との接合面は、Si濃度が1.5mass%以上12.5mass%以下の範囲内とされ、Fe濃度が0.15mass%以下、Cuの濃度が0.05mass%以下とされたアルミニウム合金で構成され、
前記ヒートシンクと前記金属層とが固相拡散接合されており、
前記ヒートシンクと前記金属層との接合界面に、CuとAlを含む金属間化合物からなる金属間化合物層を備え、
前記金属間化合物層においては、前記ヒートシンク側に位置するとともにθ相からなる第1金属間化合物層と、前記金属層側に位置するとともにθ相以外の非θ相からなる第2金属間化合物層と、が積層されており、
θ相からなる第1金属間化合物層の厚さt1と、非θ相からなる第2金属間化合物層の厚さt2との比t2/t1が1.2以上2.0以下の範囲内とされていることを特徴とするヒートシンク付絶縁回路基板。
【請求項3】
ヒートシンク本体と、前記ヒートシンク本体に接合された銅又は銅合金からなる銅部材層と、を備えたヒートシンクであって、
前記ヒートシンク本体は、Si濃度が1.5mass%以上12.5mass%以下の範囲内とされ、Fe濃度が0.15mass%以下、Cuの濃度が0.05mass%以下とされたアルミニウム合金で構成され、
前記ヒートシンク本体と前記銅部材層とが固相拡散接合されており、
前記ヒートシンク本体と前記銅部材層との接合界面に、CuとAlを含む金属間化合物からなる金属間化合物層を備え、
前記金属間化合物層においては、前記ヒートシンク本体側に位置するとともにθ相からなる第1金属間化合物層と、前記銅部材層側に位置するとともにθ相以外の非θ相からなる第2金属間化合物層と、が積層されており、
θ相からなる第1金属間化合物層の厚さt1と、非θ相からなる第2金属間化合物層の厚さt2との比t2/t1が1.2以上2.0以下の範囲内とされていることを特徴とするヒートシンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アルミニウム合金からなるアルミニウム合金部材と、銅又は銅合金からなる銅部材とが接合された接合体、絶縁層の一方の面に回路層が形成された絶縁回路基板にヒートシンクが接合されたヒートシンク付絶縁回路基板、ヒートシンク本体に銅部材層が形成されたヒートシンクに関するものである。
本願は、2018年11月28日に日本に出願された特願2018-222347号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
LEDやパワーモジュール等の半導体装置においては、導電材料からなる回路層の上に半導体素子が接合された構造とされている。
風力発電、電気自動車、ハイブリッド自動車等を制御するために用いられる大電力制御用のパワー半導体素子においては、発熱量が多いことから、これを搭載する基板としては、例えば窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al)などからなるセラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に導電性の優れた金属板を接合して形成した回路層と、を備えた絶縁回路基板が、従来から広く用いられている。なお、パワーモジュール用基板としては、セラミックス基板の他方の面に金属層を形成したものも提供されている。
【0003】
例えば、特許文献1に示すパワーモジュールにおいては、セラミックス基板の一方の面及び他方の面にアルミニウム又はアルミニウム合金からなる回路層及び金属層が形成された絶縁回路基板と、この回路層上にはんだ材を介して接合された半導体素子と、を備えた構造とされている。
そして、絶縁回路基板の金属層側には、ヒートシンクが接合されており、半導体素子から絶縁回路基板側に伝達された熱を、ヒートシンクを介して外部へ放散する構成とされている。
ところで、特許文献1に記載されたパワーモジュールのように、回路層及び金属層をアルミニウム又はアルミニウム合金で構成した場合には、その表面にAlの酸化皮膜が形成されるため、はんだ材によって半導体素子やヒートシンクを接合することができないといった問題があった。
【0004】
そこで、特許文献2には、回路層及び金属層をAl層とCu層の積層構造とした絶縁回路基板が提案されている。この絶縁回路基板においては、回路層及び金属層の表面にはCu層が配置されるため、はんだ材を用いて半導体素子及びヒートシンクを良好に接合することができる。このため、積層方向の熱抵抗が小さくなり、半導体素子から発生した熱をヒートシンク側へと効率良く伝達することが可能となる。
なお、この特許文献2に示すように、ヒートシンクを放熱板とし、この放熱板を冷却部に締結ネジによってネジ止めする構造のものも提案されている。
【0005】
また、特許文献3には、金属層及びヒートシンクの一方がアルミニウム又はアルミニウム合金で構成され、他方が銅又は銅合金で構成されており、これら前記金属層と前記ヒートシンクとが固相拡散接合されたヒートシンク付絶縁回路基板が提案されている。このヒートシンク付絶縁回路基板においては、金属層とヒートシンクとが固相拡散接合されているので、熱抵抗が小さく、放熱特性に優れている。
【0006】
さらに、特許文献4には、ADC12等のSiを比較的多く含むアルミニウム合金からなるヒートシンクと銅からなる金属層とが固相拡散接合されたヒートシンク付絶縁回路基板が提案されている。また、ADC12等のSiを比較的多く含むアルミニウム合金からなるヒートシンク本体と銅からなる金属部材層とが固相拡散接合されたヒートシンクが提案されている。
ADC12等のSiを比較的多く含むアルミニウム合金においては、強度が高く、かつ、融点が低いことから、様々な形状とすることができ、放熱特性に優れたヒートシンクを構成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第3171234号公報
【文献】特開2014-160799号公報
【文献】特開2014-099596号公報
【文献】特開2016-208010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ADC12等のアルミニウム合金においては、添加元素が多いため、熱伝導度が低くなる傾向にある。このため、発熱量の多い半導体素子等を搭載する場合には、放熱特性が不十分となるおそれがあった。
一方、純アルミニウムにおいては、熱伝導度は高く、放熱特性に優れている。しかしながら、純アルミニウムは、高温での軟化が著しいため、ねじ締結することは困難であった。また、線熱膨張係数が比較的大きいために反りが大きくなり、他の部材との接合が不十分となるおそれがあった。
【0009】
また、特許文献3,4に記載されたように、アルミニウム合金からなるアルミニウム合金部材と、銅又は銅合金からなる銅部材と、を固相拡散接合した場合には、アルミニウム合金部材と銅部材との接合界面には、銅とアルミニウムとからなる金属間化合物層が形成される。ここで、銅とアルミニウムとからなる金属間化合物としては、図1に示すように複数の相がある。このため、アルミニウム合金部材と銅部材との接合界面に形成された金属間化合物層は、θ相、η相、ζ相、δ相、γ相といった各相が形成される。
ここで、上述の金属間化合物層は、比較的硬く脆いため、冷熱サイクルを負荷した際に、金属間化合物層に割れが生じ、接合率が低下するおそれがあった。
【0010】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、アルミニウム合金からなるアルミニウム合金部材と、銅又は銅合金からなる銅部材と、が固相拡散接合されてなり、冷熱サイクル信頼性に優れ、かつ、放熱特性及び強度に優れた接合体、この接合体を備えたヒートシンク付絶縁回路基板及びヒートシンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の課題を解決するために、本発明の接合体は、銅又は銅合金からなる銅部材と、Siを含有するアルミニウム合金からなるアルミニウム合金部材と、が接合されてなる接合体であって、前記アルミニウム合金は、Si濃度が1.5mass%以上12.5mass%以下の範囲内とされ、Fe濃度が0.15mass%以下、Cuの濃度が0.05mass%以下とされており、前記アルミニウム合金部材と前記銅部材とが固相拡散接合されており、前記アルミニウム合金部材と前記銅部材との接合界面に、CuとAlを含む金属間化合物からなる金属間化合物層を備え、前記金属間化合物層においては、前記アルミニウム合金部材側に位置するとともにθ相からなる第1金属間化合物層と、前記銅部材側に位置するとともにθ相以外の非θ相からなる第2金属間化合物層と、が積層されており、θ相からなる第1金属間化合物層の厚さt1と、非θ相からなる第2金属間化合物層の厚さt2との比t2/t1が1.2以上2.0以下の範囲内とされていることを特徴としている。
【0012】
この構成の接合体によれば、前記アルミニウム合金は、Si濃度が1.5mass%以上12.5mass%以下の範囲内とされ、Fe濃度が0.15mass%以下、Cuの濃度が0.05mass%以下とされているので、アルミニウム合金部材の強度が高く、かつ、熱伝導率が比較的高くなる。よって、銅部材で拡げた熱をアルミニウム合金部材側へと効率良く伝達させることができる。
【0013】
そして、本発明においては、アルミニウム合金部材を構成する前記アルミニウム合金のSi濃度が1.5mass%以上12.5mass%以下の範囲内とされ、Fe濃度が0.15mass%以下、Cuの濃度が0.05mass%以下とされており、前記アルミニウム合金部材と前記銅部材との接合界面に形成された金属間化合物層において、前記アルミニウム合金部材側に位置するとともにθ相からなる第1金属間化合物層の厚さt1と、前記銅部材側に位置するとともにθ相以外の非θ相からなる第2金属間化合物層の厚さt2との比t2/t1が1.2以上とされているので、θ相からなる第1金属間化合物層の厚さが必要以上に厚くなく、このθ相を起因とした割れの発生を抑制できる。また、銅部材側に位置する非θ相からなる第2金属間化合物層の厚さが確保されて銅部材の変形抵抗が高くなり、締結等で外力が負荷された場合であっても銅部材が容易に変形せず、金属間化合物層の割れの発生を抑制できる。
さらに、第1金属間化合物層の厚さt1と第2金属間化合物層の厚さt2との比t2/t1が2.0以下とされているので、アルミニウム合金部材側に位置するθ相からなる第1金属間化合物層の厚さが確保されてアルミニウム合金部材の変形抵抗が高くなり、締結等で外力が負荷された場合であってもアルミニウム合金部材が容易に変形せず、金属間化合物層の割れの発生を抑制できる。
【0014】
本発明のヒートシンク付絶縁回路基板は、絶縁層と、この絶縁層の一方の面に形成された回路層と、前記絶縁層の他方の面に形成された金属層と、この金属層の前記絶縁層とは反対側の面に配置されたヒートシンクと、を備えたヒートシンク付絶縁回路基板であって、前記金属層のうち前記ヒートシンクとの接合面は、銅又は銅合金で構成され、前記ヒートシンクのうち前記金属層との接合面は、Si濃度が1.5mass%以上12.5mass%以下の範囲内とされ、Fe濃度が0.15mass%以下、Cuの濃度が0.05mass%以下とされたアルミニウム合金で構成され、前記ヒートシンクと前記金属層とが固相拡散接合されており、前記ヒートシンクと前記金属層との接合界面に、CuとAlを含む金属間化合物からなる金属間化合物層を備え、前記金属間化合物層においては、前記ヒートシンク側に位置するとともにθ相からなる第1金属間化合物層と、前記金属層側に位置するとともにθ相以外の非θ相からなる第2金属間化合物層と、が積層されており、θ相からなる第1金属間化合物層の厚さt1と、非θ相からなる第2金属間化合物層の厚さt2との比t2/t1が1.2以上2.0以下の範囲内とされていることを特徴としている。
【0015】
この構成のヒートシンク付絶縁回路基板によれば、前記ヒートシンクは、Si濃度が1.5mass%以上12.5mass%以下の範囲内とされ、Fe濃度が0.15mass%以下、Cuの濃度が0.05mass%以下とされたアルミニウム合金で構成されているので、ヒートシンクの強度が高く、ねじ締結を行うことができるとともに、反りの発生を抑制でき、冷却器等と密着させることができる。また、ヒートシンクの熱伝導率が比較的高くなるため、放熱特性に優れている。
【0016】
そして、前記ヒートシンクと前記金属層との接合界面に形成された金属間化合物層において、前記ヒートシンク側に位置するとともにθ相からなる第1金属間化合物層の厚さt1と、前記金属層側に位置するとともにθ相以外の非θ相からなる第2金属間化合物層の厚さt2との比t2/t1が1.2以上とされているので、θ相からなる第1金属間化合物層の厚さが必要以上に厚くなく、このθ相を起因とした割れの発生を抑制できる。また、金属層側に位置する非θ相からなる第2金属間化合物層の厚さが確保されて金属層の変形抵抗が高くなり、締結等で外力が負荷された場合であっても金属層が容易に変形せず、金属間化合物層の割れの発生を抑制できる。
さらに、第1金属間化合物層の厚さt1と第2金属間化合物層の厚さt2との比t2/t1が2.0以下とされているので、ヒートシンク側に位置するθ相からなる第1金属間化合物層の厚さが確保されてヒートシンクの変形抵抗が高くなり、締結等で外力が負荷された場合であってもヒートシンクが容易に変形せず、金属間化合物層の割れの発生を抑制できる。
【0017】
本発明のヒートシンクは、ヒートシンク本体と、前記ヒートシンク本体に接合された銅又は銅合金からなる銅部材層と、を備えたヒートシンクであって、前記ヒートシンク本体は、Si濃度が1.5mass%以上12.5mass%以下の範囲内とされ、Fe濃度が0.15mass%以下、Cuの濃度が0.05mass%以下とされたアルミニウム合金で構成され、前記ヒートシンク本体と前記銅部材層とが固相拡散接合されており、前記ヒートシンク本体と前記銅部材層との接合界面に、CuとAlを含む金属間化合物からなる金属間化合物層を備え、前記金属間化合物層においては、前記ヒートシンク本体側に位置するとともにθ相からなる第1金属間化合物層と、前記銅部材層側に位置するとともにθ相以外の非θ相からなる第2金属間化合物層と、が積層されており、θ相からなる第1金属間化合物層の厚さt1と、非θ相からなる第2金属間化合物層の厚さt2との比t2/t1が1.2以上2.0以下の範囲内とされていることを特徴としている。
【0018】
この構成のヒートシンクによれば、前記ヒートシンク本体は、Si濃度が1.5mass%以上12.5mass%以下の範囲内とされ、Fe濃度が0.15mass%以下、Cuの濃度が0.05mass%以下とされたアルミニウム合金で構成されているので、ヒートシンク本体の強度が高く、ねじ締結を行うことができるとともに、反りの発生を抑制でき、冷却器等と密着させることができる。また、ヒートシンク本体の熱伝導率が比較的高くなるため、放熱特性に優れている。
【0019】
そして、前記ヒートシンク本体と前記銅部材層との接合界面に形成された金属間化合物層において、前記ヒートシンク本体側に位置するとともにθ相からなる第1金属間化合物層の厚さt1と、前記銅部材層側に位置するとともにθ相以外の非θ相からなる第2金属間化合物層の厚さt2との比t2/t1が1.2以上とされているので、θ相からなる第1金属間化合物層の厚さが必要以上に厚くなく、θ相を起因とした割れの発生を抑制できる。また、銅部材層側に位置する非θ相からなる第2金属間化合物層の厚さが確保されて銅部材層の変形抵抗が高くなり、締結等で外力が負荷された場合であっても銅部材層が容易に変形せず、金属間化合物層の割れの発生を抑制できる。
さらに、第1金属間化合物層の厚さt1と第2金属間化合物層の厚さt2との比t2/t1が2.0以下とされているので、ヒートシンク本体側に位置するθ相からなる第1金属間化合物層の厚さが確保されてヒートシンク本体の変形抵抗が高くなり、締結等で外力が負荷された場合であってもヒートシンク本体が容易に変形せず、金属間化合物層の割れの発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アルミニウム合金からなるアルミニウム合金部材と、銅又は銅合金からなる銅部材と、が固相拡散接合されてなり、冷熱サイクル信頼性に優れ、かつ、放熱特性及び強度に優れた接合体、この接合体を備えたヒートシンク付絶縁回路基板及びヒートシンクを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】CuとAlの2元状態図である。
図2】本発明の第一実施形態に係るヒートシンク付絶縁回路基板を備えたパワーモジュールの概略説明図である。
図3図2に示すヒートシンク付絶縁回路基板のヒートシンクと金属層(Cu層)との接合界面の断面拡大説明図である。
図4】第一実施形態に係るヒートシンク付絶縁回路基板の製造方法を説明するフロー図である。
図5】第一実施形態に係るヒートシンク付絶縁回路基板の製造方法の概略説明図である。
図6】本発明の第二実施形態に係るヒートシンクの概略説明図である。
図7図6に示すヒートシンクのヒートシンク本体と銅部材層との接合界面の断面拡大説明図である。
図8】第二実施形態に係るヒートシンクの製造方法を説明するフロー図である。
図9】第二実施形態に係るヒートシンクの製造方法の概略説明図である。
図10】本発明の他の実施形態であるヒートシンク付絶縁回路基板を備えたパワーモジュールの概略説明図である。
図11】通電加熱法によって固相拡散接合を行う状況を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第一実施形態)
以下に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。
図2に、本発明の第一実施形態であるヒートシンク付絶縁回路基板30を用いたパワーモジュール1を示す。
このパワーモジュール1は、ヒートシンク付絶縁回路基板30と、このヒートシンク付絶縁回路基板30の一方の面(図2において上面)にはんだ層2を介して接合された半導体素子3と、を備えている。
ヒートシンク付絶縁回路基板30は、絶縁回路基板10と、絶縁回路基板10に接合されたヒートシンク31と、を備えている。
【0023】
絶縁回路基板10は、絶縁層を構成するセラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(図2において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面に配設された金属層13と、を備えている。
【0024】
セラミックス基板11は、絶縁性および放熱性に優れた窒化ケイ素(Si)、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al)等のセラミックスで構成されている。本実施形態では、セラミックス基板11は、特に放熱性の優れた窒化アルミニウム(AlN)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、例えば、0.2~1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0025】
回路層12は、図5に示すように、セラミックス基板11の一方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板22が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12は、純度が99mass%以上のアルミニウム(2Nアルミニウム)または純度が99.99mass%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)の圧延板(アルミニウム板22)がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。なお、回路層12となるアルミニウム板22の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
【0026】
金属層13は、図2に示すように、セラミックス基板11の他方の面に配設されたAl層13Aと、このAl層13Aのうちセラミックス基板11が接合された面と反対側の面に積層されたCu層13Bと、を有している。
Al層13Aは、図5に示すように、セラミックス基板11の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板23Aが接合されることにより形成されている。本実施形態においては、Al層13Aは、純度が99mass%以上のアルミニウム(2Nアルミニウム)または純度が99.99mass%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)の圧延板(アルミニウム板23A)がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。接合されるアルミニウム板23Aの厚さは0.1mm以上3.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
Cu層13Bは、図5に示すように、Al層13Aの他方の面に、銅又は銅合金からなる銅板23Bが接合されることにより形成されている。本実施形態においては、Cu層13Bは、無酸素銅の圧延板(銅板23B)が接合されることで形成されている。Cu層13Bの厚さは0.1mm以上6mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、1mmに設定されている。
【0027】
ヒートシンク31は、絶縁回路基板10側の熱を放散するためのものであり、本実施形態では、図2に示すように、冷却媒体が流通する流路32が設けられている。このヒートシンク31は、Si濃度が1.5mass%以上12.5mass%以下の範囲内とされ、Fe濃度が0.15mass%以下、Cuの濃度が0.05mass%以下とされたアルミニウム合金で構成されている。なお、このヒートシンク31(アルミニウム合金)においては、Si析出物が微細に分散されたものとされている。
【0028】
ここで、ヒートシンク31と金属層13(Cu層13B)とは、固相拡散接合されている。
金属層13(Cu層13B)とヒートシンク31との接合界面には、図3に示すように、金属間化合物層40が形成されている。この金属間化合物層40は、ヒートシンク31のAl原子と金属層13(Cu層13B)のCu原子とが相互に拡散することによって形成されたものである。
【0029】
この金属間化合物層40は、図3に示すように、ヒートシンク31側に配設されるとともにCuとAlの金属間化合物のθ相からなる第1金属間化合物層41と、金属層13側に配設されるとともにθ相以外のη相、ζ相、δ相、γ相等の非θ相からなる第2金属間化合物層42と、で構成されている。
ここで、金属間化合物層40の厚さは、10μm以上80μm以下の範囲内、好ましくは、20μm以上50μm以下の範囲内に設定されている。
【0030】
そして、θ相からなる第1金属間化合物層41の厚さt1と、非θ相からなる第2金属間化合物層42の厚さt2との比t2/t1が、1.2以上2.0以下の範囲内とされている。
なお、上述の厚さ比t2/t1の下限は1.4以上とすることが好ましく、1.5以上とすることがさらに好ましい。また、上述の厚さ比t2/t1の上限は1.8以下とすることが好ましく、1.6以下とすることがさらに好ましい。
【0031】
また、θ相からなる第1金属間化合物層41の厚さt1の下限は5μm以上とすることが好ましく、10μm以上とすることがさらに好ましい。一方、θ相からなる第1金属間化合物層41の厚さt1の上限は20μm以下とすることが好ましく、15μm以下とすることがさらに好ましい。
【0032】
次に、本実施形態であるヒートシンク付絶縁回路基板30の製造方法について、図4及び図5を参照して説明する。
【0033】
(回路層及びAl層形成工程S01)
まず、図5に示すように、セラミックス基板11の一方の面に、回路層12となるアルミニウム板22を、Al-Si系のろう材箔26を介して積層する。
また、セラミックス基板11の他方の面に、Al層13Aとなるアルミニウム板23A、Al-Si系のろう材箔26を介して積層する。なお、本実施形態では、Al-Si系のろう材箔26として、厚さ10μmのAl-8mass%Si合金箔を用いた。
【0034】
そして、積層方向に加圧(圧力1~35kgf/cm(0.1~3.5MPa))した状態で真空加熱炉内に配置し加熱して、アルミニウム板22とセラミックス基板11を接合して回路層12を形成する。また、セラミックス基板11とアルミニウム板23Aを接合してAl層13Aを形成する。
ここで、真空加熱炉内の圧力は10-6Pa以上10-3Pa以下の範囲内に、加熱温度は600℃以上650℃以下、加熱温度での保持時間は15分以上180分以下の範囲内に設定されることが好ましい。
【0035】
(Cu層(金属層)形成工程S02)
次に、Al層13Aの他方の面側に、Cu層13Bとなる銅板23Bを積層する。
そして、積層方向に加圧(圧力3~35kgf/cm(0.3~3.5MPa))した状態で真空加熱炉内に配置し加熱して、Al層13Aと銅板23Bとを固相拡散接合し、金属層13を形成する。
ここで、真空加熱炉内の圧力は10-6Pa以上10-3Pa以下の範囲内に、加熱温度は400℃以上548℃以下、加熱温度での保持時間は5分以上240分以下の範囲内に設定されることが好ましい。
なお、Al層13A、銅板23Bのうち固相拡散接合されるそれぞれの接合面は、予め当該面の傷が除去されて平滑にされている。
以上のようにして、絶縁回路基板10が製造されることになる。
【0036】
(ヒートシンク準備工程S11)
一方、ヒートシンク31を準備する。まず、ヒートシンク31の素材となるアルミニウム合金板を製造する。具体的には、Si濃度が1.5mass%以上12.5mass%以下の範囲、Fe濃度が0.15mass%以下、Cuの濃度が0.05mass%以下となるように成分調整したアルミニウム合金溶湯を溶製する。そして、このアルミニウム合金溶湯を用いて、双ロール法によってアルミニウム合金板を製造する。双ロール法では、冷却速度が速くなるため、Si析出物が微細に分散することになる。
そして、このアルミニウム合金板を加工して、ヒートシンク31を成形する。
【0037】
(金属層/ヒートシンク接合工程S03)
次に、上述の絶縁回路基板10の金属層13(Cu層13B)とヒートシンク31とを積層し、積層方向に加圧(圧力5~35kgf/cm(0.5~3.5MPa))した状態で真空加熱炉内に配置し加熱して、金属層13(Cu層13B)とヒートシンク31を固相拡散接合する。なお、金属層13(Cu層13B)及びヒートシンク31のうち固相拡散接合されるそれぞれの接合面は、予め当該面の傷が除去されて平滑にされている。
ここで、真空加熱炉内の圧力は10-6Pa以上10-3Pa以下の範囲内に、加熱温度は400℃以上520℃以下、加熱温度での保持時間は15分以上300分以下の範囲内に設定されることが好ましい。
【0038】
この金属層/ヒートシンク接合工程S03において、Cu層13B中のCu原子及びヒートシンク31中のAl原子が相互拡散し、図3に示すように、θ相からなる第1金属間化合物層41と、非θ相からなる第2金属間化合物層42とが積層された金属間化合物層40が形成される。
このようにして、本実施形態であるヒートシンク付絶縁回路基板30が製造される。
【0039】
ここで、本実施形態では、上述のように、双ロール法によって製造されたアルミニウム合金板を用いてヒートシンク31を成形しているので、ヒートシンク31には、Si析出物が微細に分散している。SiはAlに比べてCuの拡散速度が速いため、Si析出物が分散していることにより、Cuの拡散が促進され、θ相が大きく成長することになる。これにより、θ相からなる第1金属間化合物層41の厚さt1と、非θ相からなる第2金属間化合物層42の厚さt2との比t2/t1が、1.2以上2.0以下の範囲内とされる。また、ヒートシンク31には、粗大なSi析出物が存在していないため、カーケンダルボイドが過剰に形成されることを抑制できる。
【0040】
(半導体素子接合工程S04)
次いで、回路層12の一方の面(表面)に、はんだ材を介して半導体素子3を積層し、還元炉内においてはんだ接合する。
上記のようにして、本実施形態であるパワーモジュール1が製造される。
【0041】
以上のような構成とされた本実施形態に係るヒートシンク付絶縁回路基板30によれば、ヒートシンク31が、Si濃度が1.5mass%以上12.5mass%以下の範囲内とされ、Fe濃度が0.15mass%以下、Cuの濃度が0.05mass%以下とされたアルミニウム合金で構成されているので、ヒートシンク31の強度が高く、ねじ締結を行うことができるとともに、反りの発生を抑制することができる。また、ヒートシンク31の熱伝導率が比較的高くなるため、放熱特性に優れている。
【0042】
また、本実施形態においては、ヒートシンク31と金属層13との接合界面に形成された金属間化合物層40において、ヒートシンク31側に位置するとともにθ相からなる第1金属間化合物層41の厚さt1と、金属層13側に位置するとともにθ相以外の非θ相からなる第2金属間化合物層42の厚さt2との比t2/t1が1.2以上とされている。これによって、θ相からなる第1金属間化合物層41の厚さが必要以上に厚くなく、この第1金属間化合物層41を起因とした割れの発生を抑制できる。また、金属層13側に位置する非θ相からなる第2金属間化合物層42の厚さが確保されることで、金属層13の変形抵抗が高くなり、外力が負荷された場合であっても金属層13が容易に変形せず、金属間化合物層40の割れの発生を抑制できる。
さらに、第1金属間化合物層41の厚さt1と第2金属間化合物層42の厚さt2との比t2/t1が2.0以下とされているので、ヒートシンク31側に位置するθ相からなる第1金属間化合物層41の厚さが確保されてヒートシンク31の変形抵抗が高くなり、外力が負荷された場合であってもヒートシンク31が容易に変形せず、金属間化合物層40の割れの発生を抑制できる。
【0043】
(第二実施形態)
次に、本発明の第二実施形態であるヒートシンクについて説明する。図6に、本発明の第二実施形態に係るヒートシンク101を示す。
このヒートシンク101は、ヒートシンク本体110と、ヒートシンク本体110の一方の面(図6において上側)に積層された銅又は銅合金からなる銅部材層117と、を備えている。本実施形態では、銅部材層117は、図9に示すように、無酸素銅の圧延板からなる銅板127を接合することによって構成されている。
【0044】
ヒートシンク本体110は、冷却媒体が流通する流路111が設けられている。このヒートシンク本体110は、Si濃度が1.5mass%以上12.5mass%以下の範囲内とされ、Fe濃度が0.15mass%以下、Cuの濃度が0.05mass%以下とされたアルミニウム合金で構成されている。なお、このヒートシンク本体110(アルミニウム合金)においては、Si析出物が微細に分散されたものとされている。
【0045】
ここで、ヒートシンク本体110と銅部材層117は、固相拡散接合されている。
ヒートシンク本体110と銅部材層117との接合界面には、図7に示すように、AlとCuを含有する金属間化合物層140が形成されている。この金属間化合物層140は、ヒートシンク本体110のAl原子と銅部材層117のCu原子とが相互に拡散して形成されたものである。
【0046】
この金属間化合物層140は、図7に示すように、ヒートシンク本体110側に配設されたCuとAlの金属間化合物のθ相からなる第1金属間化合物層141と、銅部材層117側に配設されるとともにθ相以外のη相、ζ相、δ相、γ相等の非θ相からなる第2金属間化合物層142と、で構成されている。
ここで、金属間化合物層140の厚さは、10μm以上80μm以下の範囲内、好ましくは、20μm以上50μm以下の範囲内に設定されている。
【0047】
そして、θ相からなる第1金属間化合物層141の厚さt1と、非θ相からなる第2金属間化合物層142の厚さt2との比t2/t1が、1.2以上2.0以下の範囲内とされている。
なお、上述の厚さ比t2/t1の下限は1.4以上とすることが好ましく、1.5以上とすることがさらに好ましい。また、上述の厚さ比t2/t1の上限は1.8以下とすることが好ましく、1.6以下とすることがさらに好ましい。
【0048】
また、θ相からなる第1金属間化合物層141の厚さt1の下限は5μm以上とすることが好ましく、10μm以上とすることがさらに好ましい。一方、θ相からなる第1金属間化合物層141の厚さt1の上限は20μm以下とすることが好ましく、15μm以下とすることがさらに好ましい。
【0049】
次に、本実施形態であるヒートシンク101の製造方法について、図8及び図9を参照して説明する。
【0050】
(ヒートシンク本体準備工程S101)
接合するヒートシンク本体110を準備する。まず、ヒートシンク本体110の素材となるアルミニウム合金板を製造する。具体的には、Si濃度が1.5mass%以上12.5mass%以下の範囲、Fe濃度が0.15mass%以下、Cuの濃度が0.05mass%以下となるように成分調整したアルミニウム合金溶湯を溶製する。そして、このアルミニウム合金溶湯を用いて、双ロール法によってアルミニウム合金板を製造する。
双ロール法では、冷却速度が速くなるため、Si析出物が微細に分散することになる。
そして、このアルミニウム合金板を加工して、ヒートシンク本体110を成形する。
【0051】
(ヒートシンク本体/銅部材層接合工程S102)
次に、図9に示すように、ヒートシンク本体110と銅部材層117となる銅板127とを積層し、積層方向に加圧(圧力5~35kgf/cm(0.5~3.5MPa))した状態で真空加熱炉内に配置して加熱することにより、銅板127とヒートシンク本体110とを固相拡散接合する。なお、銅板127、ヒートシンク本体110のうち固相拡散接合されるそれぞれの接合面は、予め当該面の傷が除去されて平滑にされている。
ここで、真空加熱炉内の圧力は10-6Pa以上10-3Pa以下の範囲内に、加熱温度は450℃以上520℃以下、加熱温度での保持時間は15分以上300分以下の範囲内に設定されることが好ましい。
【0052】
このヒートシンク本体/銅部材層接合工程S102において、銅部材層117(銅板127)中のCu原子及びヒートシンク本体110中のAl原子が相互拡散し、図7に示すように、θ相からなる第1金属間化合物層141と、非θ相からなる第2金属間化合物層142とが積層された金属間化合物層140が形成される。
このようにして、本実施形態であるヒートシンク101が製造される。
【0053】
ここで、本実施形態では、上述のように、双ロール法によって製造されたアルミニウム合金板を用いてヒートシンク本体110を成形しているので、ヒートシンク本体110には、Si析出物が微細に分散している。SiはAlに比べてCuの拡散速度が速いため、Si析出物が分散していることにより、Cuの拡散が促進され、θ相が大きく成長することになる。これにより、θ相からなる第1金属間化合物層141の厚さt1と、非θ相からなる第2金属間化合物層142の厚さt2との比t2/t1が、1.2以上2.0以下の範囲内とされる。また、ヒートシンク本体110には、粗大なSi析出物が存在していないため、カーケンダルボイドが過剰に形成されることを抑制できる。
【0054】
以上のような構成とされた本実施形態に係るヒートシンク101によれば、ヒートシンク本体110の一方の面側に、無酸素銅の圧延板からなる銅板127を接合することによって銅部材層117が形成されているので、熱を銅部材層117によって面方向に広げることができ、放熱特性を大幅に向上させることができる。また、はんだ等を用いて他の部材とヒートシンク101とを良好に接合することができる。
【0055】
また、本実施形態では、ヒートシンク本体110が、Si濃度が1.5mass%以上12.5mass%以下の範囲内とされ、Fe濃度が0.15mass%以下、Cuの濃度が0.05mass%以下とされたアルミニウム合金で構成されているので、ヒートシンク本体110の強度が高く、ねじ締結を行うことができるとともに、反りの発生を抑制でき、冷却器等と密着させることができる。また、ヒートシンク本体110の熱伝導率が比較的高くなるため、放熱特性に優れている。
【0056】
そして、ヒートシンク本体110と銅部材層117との接合界面に形成された金属間化合物層140において、ヒートシンク本体110側に位置するとともにθ相からなる第1金属間化合物層141の厚さt1と、銅部材層117側に位置するとともにθ相以外の非θ相からなる第2金属間化合物層142の厚さt2との比t2/t1が1.2以上とされているので、θ相からなる第1金属間化合物層141の厚さが必要以上に厚くなく、この第1金属間化合物層141を起因とした割れの発生を抑制できる。また、銅部材層117側に位置する非θ相からなる第2金属間化合物層142の厚さが確保されて銅部材層117の変形抵抗が高くなり、締結等で外力が負荷された場合であっても銅部材層117が容易に変形せず、金属間化合物層140の割れの発生を抑制できる。
さらに、第1金属間化合物層141の厚さt1と第2金属間化合物層142の厚さt2との比t2/t1が2.0以下とされているので、ヒートシンク本体110側に位置するθ相からなる第1金属間化合物層141の厚さが確保されてヒートシンク本体110の変形抵抗が高くなり、締結等で外力が負荷された場合であってもヒートシンク本体110が容易に変形せず、金属間化合物層140の割れの発生を抑制できる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、第一実施形態では、金属層13を、Al層13AとCu層13Bとを有するものとして説明したが、これに限定されることはなく、図10に示すように、金属層全体を銅又は銅合金で構成してもよい。この図10に示すヒートシンク付絶縁回路基板230においては、セラミックス基板11の他方の面(図10において下側)に銅板がDBC法あるいは活性金属ろう付け法等によって接合され、銅又は銅合金からなる金属層213が形成されている。そして、この金属層213とヒートシンク31とが、固相拡散接合されている。なお、図10に示す絶縁回路基板210においては、回路層212も銅又は銅合金によって構成されたものとされている。
【0058】
また、第一実施形態において、回路層を純度99mass%のアルミニウム板を接合することで形成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、純度99.99mass%以上の純アルミニウムや、他のアルミニウム又はアルミニウム合金、銅又は銅合金等の他の金属で構成したものであってもよい。また、回路層をAl層とCu層の2層構造のものとしてもよい。これは、図10に示す絶縁回路基板210でも同様である。
【0059】
また、第一の実施形態の金属層/ヒートシンク接合工程S03においては、金属層13(Cu層13B)とヒートシンク31とを積層し、積層方向に加圧した状態で真空加熱炉内に配置して加熱する構成とした。また、第二の実施形態のヒートシンク本体/銅部材層接合工程S102においては、ヒートシンク本体110と銅部材層117となる銅板127とを積層し、積層方向に加圧(圧力5~35kgf/cm(0.5~3.5MPa))した状態で真空加熱炉内に配置して加熱する構成として説明した。しかし、本発明はこれら第一の実施形態や第二の実施形態に限定されることはなく、図11に示すように、アルミニウム合金部材301(ヒートシンク31、ヒートシンク本体110)と銅部材302(金属層13、銅部材層117)とを固相拡散接合する際に通電加熱法を適用してもよい。
【0060】
通電加熱を行う場合には、図11に示すように、アルミニウム合金部材301と銅部材302とを積層し、これらの積層体を、カーボン板311,311を介して一対の電極312、312によって積層方向に加圧するとともに、アルミニウム合金部材301及び銅部材302に対して通電を行う。すると、ジュール熱によってカーボン板311,311及びアルミニウム合金部材301と銅部材302が加熱され、アルミニウム合金部材301と銅部材302とが固相拡散接合される。
【0061】
上述の通電加熱法においては、アルミニウム合金部材301及び銅部材302が直接通電加熱されることから、昇温速度を例えば30~100℃/minと比較的速くすることができ、短時間で固相拡散接合を行うことができる。これにより、接合面の酸化の影響が小さく、例えば大気雰囲気でも接合することが可能となる。また、アルミニウム合金部材301及び銅部材302の抵抗値や比熱によっては、これらアルミニウム合金部材301及び銅部材302に温度差が生じた状態で接合することも可能となり、熱膨張の差を小さくし、熱応力の低減を図ることもできる。
【0062】
ここで、上述の通電加熱法においては、一対の電極312,312による加圧荷重は、30kgf/cm以上100kgf/cm以下(3MPa以上10MPa以下)の範囲内とすることが好ましい。
また、通電加熱法を適用する場合には、アルミニウム合金部材301及び銅部材302の表面粗さは、算術平均粗さRa(JIS B 0601:2001)で0.3μm以上0.6μm以下、または、最大高さRz(JIS B 0601:2001)で1.3μm以上2.3μm以下の範囲内とすることが好ましい。通常の固相拡散接合では、接合面の表面粗さは小さいことが好ましいが、通電加熱法の場合には、接合面の表面粗さが小さすぎると、界面接触抵抗が低下し、接合界面を局所的に加熱することが困難となるため、上述の範囲内とすることが好ましい。
【0063】
なお、第一の実施形態の金属層/ヒートシンク接合工程S03に上述の通電加熱法を用いることも可能であるが、その場合、セラミックス基板11が絶縁体であるため、例えば、カーボンからなる冶具等でカーボン板311,311を短絡する必要がある。接合条件は、上述したアルミニウム合金部材301と銅部材302の接合と同様である。
また、金属層13(Cu層13B)とヒートシンク31の表面粗さについては、上述したアルミニウム合金部材301及び銅部材302の場合と同様である。
【実施例
【0064】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0065】
(試験片の作製)
表1に示すアルミニウム合金板(50mm×50mm、厚さ5mm)の一方の面に、無酸素銅からなる銅板(40mm×40mm、厚さ5mm)を、上述の実施形態に記載した方法によって固相拡散接合した。なお、本発明例においては、アルミニウム合金板は、双ロール法によって製造した。比較例においては、アルミニウム合金板は、ブロック形状の鋳塊を製造し、これを熱間圧延及び冷間圧延することで製造した。
そして、本発明例及び比較例においては、アルミニウム合金板と銅板とを積層方向に15kgf/cm(1.5MPa)の荷重で押圧し、真空加熱炉で500℃において表1に示す保持時間で固相拡散接合を実施した。
【0066】
(アルミニウム合金板の硬さ)
接合体のアルミニウム合金板に対し、ナノインデンテーション法によりインデンテーション硬度を測定した(測定機器:ENT-1100a(株式会社エリオニクス))。測定は、アルミニウム合金板の厚さ方向中央部の10箇所で行い、その平均値とした。なお、インデンテーション硬度は、バーコビッチ圧子と呼ばれる稜間角が114.8°以上115.1°以下の三角錐ダイヤモンド圧子を用いて試験荷重を5000mgfとして負荷をかけた際の荷重―変位の相関を計測し、インデンテーション硬度=37.926×10-3×(荷重〔mgf〕÷変位〔μm〕)の式より求めた。
【0067】
(金属間化合物層の評価)
固相拡散接合されたアルミニウム合金板と銅板との接合体の断面観察を行い、接合界面に形成された金属間化合物層において、θ相の厚さt1、非θ相の厚さt2を測定した。
EPMA(JXA-8530F:日本電子株式会社)を用いて金属間化合物層を含む位置を厚さ方向にライン分析を実施した。CuとAlの合計量を100原子%として、Cu濃度が30~35原子%の領域をθ相とし、Cu濃度が46~72原子%の領域を非θ相とした。なお、Si析出物により局所的なピークが存在する箇所を除外した。
そして、上述の観察を5視野で実施し、θ相の厚さt1の平均値、非θ相の厚さt2の平均値を算出した。測定結果を表1に示す。
【0068】
(冷熱サイクル試験)
次に、このようにして製造された接合体において、冷熱サイクル試験を実施した。冷熱衝撃試験機エスペック社製TSA-72ESを使用し、試験片(ヒートシンク付パワーモジュール)に対して、気槽で、-50℃で45分、175℃で45分の冷熱サイクルを2500回実施した。
そして、冷熱サイクル試験前における接合体の積層方向の熱抵抗と接合率、及び、冷熱サイクル試験後における接合体の積層方向の熱抵抗と接合率を、以下のようにして評価した。
【0069】
(接合率評価)
接合体のアルミニウム合金板と金属板との接合部の接合率について超音波探傷装置(FineSAT200:株式会社日立ソリューションズ)を用いて評価し、以下の式から算出した。ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積、すなわちアルミニウム合金板の面積とした。超音波探傷像において剥離は白色部で示されることから、この白色部の面積を剥離面積とした。評価結果を表1に示す。
接合率(%)={(初期接合面積)-(剥離面積)}/(初期接合面積)×100
【0070】
(熱抵抗の測定)
ヒータチップ(13mm×10mm×0.25mm)を金属板の表面に半田付けし、アルミニウム合金板を冷却器にろう付け接合した。次に、ヒータチップを100Wの電力で加熱し、熱電対(K熱電対、クラス1)を用いてヒータチップの温度を実測した。また、冷却器を流通する冷却媒体(エチレングリコール:水=9:1)の温度を実測した。そして、ヒータチップの温度と冷却媒体の温度差を電力で割った値を熱抵抗とした。
なお、比較例1の冷熱サイクル試験前の熱抵抗を基準として1とし、この比較例1との比率で熱抵抗を評価した。評価結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
比較例1においては、アルミニウム合金板のSi濃度が0.2mass%と本発明の範囲よりも少なく、θ相厚さt1と非θ相厚さt2との比t2/t1が2.8と本発明の範囲よりも大きくなり、冷熱サイクル負荷後に、接合率が低下するとともに、熱抵抗が大きく増加した。
比較例2においては、アルミニウム合金板のSi濃度が18.5mass%と本発明の範囲よりも多く、θ相厚さt1と非θ相厚さt2との比t2/t1が1.0と本発明の範囲よりも小さくなり、冷熱サイクル負荷後に、接合率が低下するとともに、熱抵抗が大きく増加した。
【0073】
比較例3においては、アルミニウム合金板のFe濃度が0.42mass%と本発明の範囲よりも多く、冷熱サイクル負荷後に、接合率が低下するとともに、熱抵抗が大きく増加した。
比較例4においては、アルミニウム合金板のCu濃度が0.26mass%と本発明の範囲よりも多く、冷熱サイクル負荷後に、接合率が大きく低下するとともに、熱抵抗が大きく増加した。
【0074】
これに対して、アルミニウム合金板のSi濃度、Fe濃度、Cu濃度、θ相厚さt1と非θ相厚さt2との比t2/t1が、それぞれ本発明の範囲内とされた本発明例1-8においては、比較例1に対して、熱抵抗が低くなった。また、冷熱サイクル負荷後においても、接合率が大きく低下することなく、かつ、熱抵抗も大きく増加しなかった。
【0075】
以上のことから、本発明例1-8によれば、アルミニウム合金からなるアルミニウム合金部材と、銅又は銅合金からなる銅部材と、が固相拡散接合されてなり、冷熱サイクル信頼性に優れ、かつ、放熱特性及び強度に優れた接合体を提供可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の接合体や、この接合体を備えたヒートシンク付絶縁回路基板及びヒートシンクは、発熱量が多い大電力制御用のパワー半導体素子を備えた制御回路を有する装置、例えば、風力発電装置、電気自動車、ハイブリッド自動車等に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0077】
10、210 絶縁回路基板
11 セラミックス基板
13、213 金属層
13B Cu層(銅部材)
31 ヒートシンク(アルミニウム合金部材)
40 金属間化合物層
41 第1金属間化合物層
42 第2金属間化合物層
101 ヒートシンク
110 ヒートシンク本体(アルミニウム合金部材)
117 銅部材層
140 金属間化合物層
141 第1金属間化合物層
142 第2金属間化合物層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11