IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

特許7081694磁気記録層、磁壁移動素子及び磁気記録アレイ
<>
  • 特許-磁気記録層、磁壁移動素子及び磁気記録アレイ 図1
  • 特許-磁気記録層、磁壁移動素子及び磁気記録アレイ 図2
  • 特許-磁気記録層、磁壁移動素子及び磁気記録アレイ 図3
  • 特許-磁気記録層、磁壁移動素子及び磁気記録アレイ 図4
  • 特許-磁気記録層、磁壁移動素子及び磁気記録アレイ 図5
  • 特許-磁気記録層、磁壁移動素子及び磁気記録アレイ 図6
  • 特許-磁気記録層、磁壁移動素子及び磁気記録アレイ 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】磁気記録層、磁壁移動素子及び磁気記録アレイ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/8239 20060101AFI20220531BHJP
   H01L 27/105 20060101ALI20220531BHJP
   H01L 43/08 20060101ALI20220531BHJP
   H01L 43/10 20060101ALI20220531BHJP
   H01L 43/12 20060101ALI20220531BHJP
   H01F 10/14 20060101ALI20220531BHJP
   H01F 10/16 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
H01L27/105 447
H01L43/08 M
H01L43/08 Z
H01L43/12
H01F10/14
H01F10/16
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020568568
(86)(22)【出願日】2019-10-03
(86)【国際出願番号】 JP2019039106
(87)【国際公開番号】W WO2021064935
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2020-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 彰広
(72)【発明者】
【氏名】大田 実
(72)【発明者】
【氏名】柴田 竜雄
【審査官】宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-324269(JP,A)
【文献】特開2015-060609(JP,A)
【文献】特開2010-141340(JP,A)
【文献】特開2004-134064(JP,A)
【文献】特許第6499798(JP,B1)
【文献】特開2010-263168(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/8239
H01L 43/08
H01L 43/12
H01F 10/14
H01F 10/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に磁壁を有し、希ガス元素を含有する磁気記録層であり、
前記希ガス元素は、Ne、Ar、Kr、Xe、Rn、Ogのいずれかの元素であり、
前記磁気記録層が延びる第1方向と交差する切断面において、前記磁気記録層の中央領域は、前記磁気記録層の外周領域より前記希ガス元素の濃度が濃い、磁気記録層。
【請求項2】
内部に磁壁を有し、希ガス元素を含有し、
前記希ガス元素は、Ne、Ar、Kr、Xe、Rn、Ogのいずれかの元素であり、
結晶格子内に前記希ガス元素を含有した第1格子と、結晶格子内に前記希ガス元素を含有していない第2格子と、を含み、
前記第1格子が内部に分散している、磁気記録層。
【請求項3】
前記磁気記録層が延びる第1方向と交差する切断面において、前記磁気記録層の中央領域は、前記磁気記録層の外周領域より前記希ガス元素の濃度が濃い、請求項に記載の磁気記録層。
【請求項4】
前記希ガス元素の平均希ガス濃度が25atm%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の磁気記録層。
【請求項5】
前記希ガス元素の平均希ガス濃度が0.14atm%以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の磁気記録層。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の磁気記録層と、
前記磁気記録層の第1領域の磁化を固定する第1磁化固定部と、
前記磁気記録層の前記磁壁を前記第1領域と挟む第2領域の磁化を固定する第2磁化固定部と、を備える、磁壁移動素子。
【請求項7】
内部に磁壁を有し、希ガス元素を含有する磁気記録層と、
前記磁気記録層の第1領域の磁化を固定する第1磁化固定部と、
前記磁気記録層の前記磁壁を前記第1領域と挟む第2領域の磁化を固定する第2磁化固定部と、を備え、
前記希ガス元素は、Ne、Ar、Kr、Xe、Rn、Ogのいずれかの元素であり、
前記磁気記録層の第1方向の長さは、前記第1方向と直交する第2方向及び第3方向の長さより長く、
前記第1磁化固定部は、前記磁気記録層の前記第1方向の第1端に接続され、
前記第2磁化固定部は、前記第1方向において、前記第1端と反対側の前記磁気記録層の第2端に接続される、磁壁移動素子。
【請求項8】
内部に磁壁を有し、希ガス元素を含有する磁気記録層と、
前記磁気記録層の第1領域の磁化を固定する第1磁化固定部と、
前記磁気記録層の前記磁壁を前記第1領域と挟む第2領域の磁化を固定する第2磁化固定部と、を備え、
前記希ガス元素は、Ne、Ar、Kr、Xe、Rn、Ogのいずれかの元素であり、
前記第1磁化固定部と前記第2磁化固定部とのうちの少なくとも一方は、前記磁気記録層に接続され、強磁性体を含む導電層であり、
前記導電層は前記希ガス元素を有し、
前記磁気記録層における前記希ガス元素の希ガス元素濃度は、前記導電層における前記希ガス元素の希ガス元素濃度より濃い、磁壁移動素子。
【請求項9】
前記磁気記録層に積層された非磁性層と強磁性層とをさらに有し、
前記非磁性層は、前記強磁性層と前記磁気記録層との間にある、請求項6~8のいずれか一項に記載の磁壁移動素子。
【請求項10】
前記強磁性層は前記希ガス元素を有し、
前記磁気記録層における前記希ガス元素の希ガス元素濃度は、前記強磁性層における前記希ガス元素の希ガス元素濃度より濃い、請求項9に記載の磁壁移動素子。
【請求項11】
内部に磁壁を有し、希ガス元素を含有する磁気記録層と、
前記磁気記録層の第1領域の磁化を固定する第1磁化固定部と、
前記磁気記録層の前記磁壁を前記第1領域と挟む第2領域の磁化を固定する第2磁化固定部と、
前記磁気記録層に積層された非磁性層と強磁性層と、を備え、
前記希ガス元素は、Ne、Ar、Kr、Xe、Rn、Ogのいずれかの元素であり、
前記非磁性層は、前記強磁性層と前記磁気記録層との間にあり、
前記強磁性層は前記希ガス元素を有し、
前記磁気記録層における前記希ガス元素の希ガス元素濃度は、前記強磁性層における前記希ガス元素の希ガス元素濃度より濃い、磁壁移動素子。
【請求項12】
請求項6~11のいずれか一項に記載の磁壁移動素子を複数有する、磁気記録アレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録層、磁壁移動素子及び磁気記録アレイに関する。
【背景技術】
【0002】
微細化に限界が見えてきたフラッシュメモリ等に代わる次世代の不揮発性メモリに注目が集まっている。例えば、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)、ReRAM(Resistance Randome Access Memory)、PCRAM(Phase Change Random Access Memory)等が次世代の不揮発性メモリとして知られている。
【0003】
MRAMは、磁化の向きの変化によって生じる抵抗値変化をデータ記録に利用している。データ記録は、MRAMを構成する磁気抵抗変化素子のそれぞれが担っている。例えば、特許文献1には、磁気記録層内における磁壁を移動させることで、多値のデータを記録することができる磁気抵抗変化素子(磁壁移動素子)が記載されている。特許文献1には、磁気記録層内にトラップサイトを設けることで、多値のデータ記録が安定化することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5441005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の磁壁移動素子は、磁気記録層の側面に凹凸がある。この凹凸は磁壁のトラップサイトとして機能し、磁壁の位置を制御する。しかしながら、磁壁移動素子の大きさが小さくなると、凹凸を適切に形成することが難しくなる。また特許文献1は、結晶粒界を磁壁のトラップサイトとして用いることも記載されている。磁壁移動素子におけるトラップサイトの数は、磁壁移動素子の階調数と一致する。結晶粒界は一つのトラップサイトのサイズとして大きく、磁壁移動素子の微細化が進むにつれて、所望の階調数の磁壁移動素子を得ることが難しい。
【0006】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、磁壁の動作を制御しやすい磁気記録層、磁壁移動素子及び磁気記録アレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)第1の態様にかかる磁気記録層は、内部に磁壁を有し、希ガス元素を含有する。
【0008】
(2)上記態様にかかる磁気記録層は、前記磁気記録層が延びる第1方向と交差する切断面において、前記磁気記録層の中央領域は、前記磁気記録層の外周領域より希ガス元素の濃度が濃くてもよい。
【0009】
(3)上記態様にかかる磁気記録層は、平均希ガス濃度が25atm%以下であってもよい。
【0010】
(4)上記態様にかかる磁気記録層は、平均希ガス濃度が0.14atm%以上であってもよい。
【0011】
(5)上記態様にかかる磁気記録層は、結晶格子内に希ガス元素を含有した第1格子と、結晶格子内に希ガス元素を含有していない第2格子と、を含み、前記第1格子が内部に分散していてもよい。
【0012】
(6)第2の態様にかかる磁壁移動素子は、上記態様にかかる磁気記録層と、前記磁気記録層の第1領域の磁化を固定する第1磁化固定部と、前記磁気記録層の前記磁壁を前記第1領域と挟む第2領域の磁化を固定する第2磁化固定部と、を備える。
【0013】
(7)上記態様にかかる磁壁移動素子において、前記第1磁化固定部又は前記第2磁化固定部のうちの少なくとも一方は、前記磁気記録層に接続され、強磁性体を含む導電層であってもよい。
【0014】
(8)上記態様にかかる磁壁移動素子において、前記導電層は希ガス元素を有し、前記磁気記録層の希ガス元素濃度は、前記導電層の希ガス元素濃度より濃くてもよい。
【0015】
(9)上記態様にかかる磁壁移動素子において、前記磁気記録層に積層された非磁性層と強磁性層とをさらに有し、前記非磁性層は、前記強磁性層と前記磁気記録層との間にあってもよい。
【0016】
(10)上記態様にかかる磁壁移動素子において、前記強磁性層は希ガス元素を有し、前記磁気記録層の希ガス元素濃度は、前記強磁性層の希ガス元素濃度より濃くてもよい。
【0017】
(11)第3の態様にかかる磁気記録アレイは、上記態様にかかる磁壁移動素子を複数有する。
【発明の効果】
【0018】
上記態様にかかる磁気記録層、磁壁移動素子及び磁気記録アレイは、磁壁の動作を制御しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施形態に係る磁気記録アレイの構成図である。
図2】第1実施形態に係る磁気記録アレイの要部の断面図である。
図3】第1実施形態に係る磁壁移動素子の平面図である。
図4】第1実施形態に係る磁壁移動素子をA-A線に沿って切断した断面図である。
図5】第1実施形態に係る磁壁移動素子をB-B線に沿って切断した断面図である。
図6】第1変形例に係る磁壁移動素子の断面図である。
図7】第2実施形態に係る磁壁移動素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0021】
まず方向について定義する。x方向及びy方向は、後述する基板Sub(図2参照)の一面と略平行な方向である。x方向は、後述する磁気記録層10が延びる方向であり、後述する第1導電層30から第2導電層40へ向かう方向である。x方向は、第1方向の一例である。y方向は、x方向と直交する方向である。z方向は、後述する基板Subから磁壁移動素子100へ向かう方向であり、例えば磁気記録層10の積層方向である。また本明細書で「x方向に延びる」とは、例えば、x方向、y方向、及びz方向の各寸法のうち最小の寸法よりもx方向の寸法が大きいことを意味する。他の方向に延びる場合も同様である。
【0022】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態にかかる磁気記録アレイの構成図である。磁気記録アレイ200は、複数の磁壁移動素子100と、複数の第1配線Wp1~Wpnと、複数の第2配線Cm1~Cmnと、複数の第3配線Rp1~Rpnと、複数の第1スイッチング素子110と、複数の第2スイッチング素子120と、複数の第3スイッチング素子130とを備える。磁気記録アレイ200は、例えば、磁気メモリ、積和演算器、ニューロモーフィックデバイスに利用できる。
【0023】
<第1配線、第2配線、第3配線>
第1配線Wp1~Wpnは、書き込み配線である。第1配線Wp1~Wpnは、電源と1つ以上の磁壁移動素子100とを電気的に接続する。電源は、使用時に磁気記録アレイ200の一端に接続される。
【0024】
第2配線Cm1~Cmnは、共通配線である。共通配線は、データの書き込み時及び読み出し時の両方に用いることができる配線である。第2配線Cm1~Cmnは、基準電位と1つ以上の磁壁移動素子100とを電気的に接続する。基準電位は、例えば、グラウンドである。第2配線Cm1~Cmnは、複数の磁壁移動素子100のそれぞれに設けられてもよいし、複数の磁壁移動素子100に亘って設けられてもよい。
【0025】
第3配線Rp1~Rpnは、読み出し配線である。第3配線Rp1~Rpnは、電源と1つ以上の磁壁移動素子100とを電気的に接続する。電源は、使用時に磁気記録アレイ200の一端に接続される。
【0026】
<第1スイッチング素子、第2スイッチング素子、第3スイッチング素子>
図1に示す第1スイッチング素子110、第2スイッチング素子120、第3スイッチング素子130は、複数の磁壁移動素子100のそれぞれに接続されている。磁壁移動素子100にスイッチング素子が接続されたものを半導体装置と称する。第1スイッチング素子110は、磁壁移動素子100のそれぞれと第1配線Wp1~Wpnとの間に接続されている。第2スイッチング素子120は、磁壁移動素子100のそれぞれと第2配線Cm1~Cmnとの間に接続されている。第3スイッチング素子130は、磁壁移動素子100のそれぞれと第3配線Rp1~Rpnとの間に接続されている。
【0027】
第1スイッチング素子110及び第2スイッチング素子120をONにすると、所定の磁壁移動素子100に接続された第1配線Wp1~Wpnと第2配線Cm1~Cmnとの間に書き込み電流が流れる。第1スイッチング素子110及び第3スイッチング素子130をONにすると、所定の磁壁移動素子100に接続された第2配線Cm1~Cmnと第3配線Rp1~Rpnとの間に読み出し電流が流れる。
【0028】
第1スイッチング素子110、第2スイッチング素子120及び第3スイッチング素子130は、電流の流れを制御する素子である。第1スイッチング素子110、第2スイッチング素子120及び第3スイッチング素子130は、例えば、トランジスタ、オボニック閾値スイッチ(OTS:Ovonic Threshold Switch)のように結晶層の相変化を利用した素子、金属絶縁体転移(MIT)スイッチのようにバンド構造の変化を利用した素子、ツェナーダイオード及びアバランシェダイオードのように降伏電圧を利用した素子、原子位置の変化に伴い伝導性が変化する素子である。
【0029】
第1スイッチング素子110、第2スイッチング素子120、第3スイッチング素子130のいずれかは、同じ配線に接続された磁壁移動素子100で、共用してもよい。例えば、第1スイッチング素子110を共有する場合は、第1配線Wp1~Wpnの上流に一つの第1スイッチング素子110を設ける。例えば、第2スイッチング素子120を共有する場合は、第2配線Cm1~Cmnの上流に一つの第2スイッチング素子120を設ける。例えば、第3スイッチング素子130を共有する場合は、第3配線Rp1~Rpnの上流に一つの第3スイッチング素子130を設ける。
【0030】
図2は、第1実施形態に係る磁気記録アレイ200の要部の断面図である。図2は、図1における一つの磁壁移動素子100を磁気記録層10のy方向の幅の中心を通るxz平面で切断した断面である。
【0031】
図2に示す第1スイッチング素子110及び第2スイッチング素子120は、トランジスタTrである。トランジスタTrは、ゲート電極Gと、ゲート絶縁膜GIと、基板Subに形成されたソース領域S及びドレイン領域Dと、を有する。基板Subは、例えば、半導体基板である。第3スイッチング素子130は、電極Eと電気的に接続され、例えば、y方向に位置する。
【0032】
トランジスタTrのそれぞれと磁壁移動素子100とは、接続配線Cwを介して、電気的に接続されている。接続配線Cwは、導電性を有する材料を含む。接続配線Cwは、例えば、z方向に延びる。接続配線Cwは、例えば、絶縁層90の開口部に形成されたビア配線である。
【0033】
磁壁移動素子100とトランジスタTrとは、接続配線Cwを除いて、絶縁層90によって電気的に分離されている。絶縁層90は、多層配線の配線間や素子間を絶縁する絶縁層である。絶縁層90は、例えば、酸化シリコン(SiO)、窒化シリコン(SiN)、炭化シリコン(SiC)、窒化クロム、炭窒化シリコン(SiCN)、酸窒化シリコン(SiON)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)等である。
【0034】
「磁壁移動素子」
図3は、磁壁移動素子をz方向から平面視した平面図である。図4は、磁壁移動素子を図3に示すA-A線に沿って切断した断面図である。図4は、磁壁移動素子100を磁気記録層10のy方向の中心を通るxz平面で切断している。図5は、磁壁移動素子を図3に示すB-B線に沿って切断した断面図である。図5は、磁壁移動素子100を磁気記録層10のx方向の中心を通るyz平面で切断している。
【0035】
磁壁移動素子100は、磁気記録層10と中間層20と第1導電層30と第2導電層40と非磁性層50と強磁性層60とを有する。磁壁移動素子100は、絶縁層90に覆われている。磁壁移動素子100にデータを書き込む際は、第1導電層30と第2導電層40との間の磁気記録層10に書き込み電流を流す。磁壁移動素子100からデータを読み出す際は、第1導電層30又は第2導電層40と強磁性層60との間に読み出し電流を流す。
【0036】
「磁気記録層」
磁気記録層10は、x方向に延びる部分であり、書き込み電流が通電される部分である。磁気記録層10は、例えば、z方向からの平面視で、x方向が長軸、y方向が短軸の矩形である。磁気記録層10は、第1導電層30及び第2導電層40と接続されている。書き込み電流は、磁気記録層10に沿って、第1導電層30から第2導電層40に向って、又は、第2導電層40から第1導電層30に向って流れる。磁気記録層10は、中間層20、第1導電層30及び第2導電層40上に積層されている。
【0037】
磁気記録層10は、内部の磁気的な状態の変化により情報を磁気記録可能な層である。磁気記録層10は、強磁性層、磁壁移動層と呼ばれる場合がある。
【0038】
磁気記録層10は、例えば、磁化固定領域11、12と磁壁移動領域13とを有する。磁壁移動領域13は、二つの磁化固定領域11、12に挟まれる。
【0039】
磁化固定領域11は、z方向から見て、磁気記録層10の第1導電層30と重なる領域である。磁化固定領域12は、z方向から見て、磁気記録層10の第2導電層40と重なる領域である。磁化固定領域11、12の磁化M11、M12は、磁壁移動領域13の磁化M13A、M13Bより磁化反転しにくく、磁壁移動領域13の磁化M13A、M13Bが反転する閾値の外力を印加しても磁化反転しない。そのため、磁化固定領域11、12の磁化M11、M12は、磁壁移動領域13の磁化M13A、M13Bに対して固定されていると言われる。すなわち、本明細書において「磁化が固定」とは、磁壁移動領域13の磁化が反転する反転電流密度の書き込み電流を印加しても、磁化が反転しないことをいう。
【0040】
磁化固定領域11の磁化M11と、磁化固定領域12の磁化M12とは異なる方向に配向している。磁化固定領域11の磁化M11と、磁化固定領域12の磁化M12とは、例えば、反対方向に配向している。磁化固定領域11の磁化M11は例えば+z方向に配向し、磁化固定領域12の磁化M12は例えば-z方向に配向している。
【0041】
磁壁移動領域13は、第1磁区13Aと第2磁区13Bとからなる。第1磁区13Aは、磁化固定領域11に隣接する。第1磁区13Aの磁化M13Aは、磁化固定領域11の磁化M11の影響を受けて、例えば、磁化固定領域11の磁化M11と同じ方向に配向する。第2磁区13Bは、磁化固定領域12に隣接する。第2磁区13Bの磁化M13Bは、磁化固定領域12の磁化M12の影響を受けて、例えば、磁化固定領域12の磁化M12と同じ方向に配向する。そのため、第1磁区13Aの磁化M13Aと第2磁区13Bの磁化M13Bとは、異なる方向に配向する。第1磁区13Aの磁化M13Aと第2磁区13Bの磁化M13Bとは、例えば、反対方向に配向する。
【0042】
第1磁区13Aと第2磁区13Bとの境界が磁壁15である。磁壁15は、磁壁移動領域13内を移動する。磁壁15は、原則、磁化固定領域11、12には侵入しない。
【0043】
磁壁移動領域13における第1磁区13Aと第2磁区13Bとの比率が変化すると、磁壁15が移動する。磁壁15は、磁壁移動領域13のx方向に書き込み電流を流すことによって移動する。例えば、磁壁移動領域13に+x方向の書き込み電流(例えば、電流パルス)を印加すると、電子は電流と逆の-x方向に流れるため、磁壁15は-x方向に移動する。第1磁区13Aから第2磁区13Bに向って電流が流れる場合、第2磁区13Bでスピン偏極した電子は、第1磁区13Aの磁化M13Aを磁化反転させる。第1磁区13Aの磁化M13Aが磁化反転することで、磁壁15は-x方向に移動する。
【0044】
磁気記録層10は、主に磁性体により構成される。磁気記録層10は、Fe、Co、Ni、Pt、Pd、Gd、Tb、Mn、Ge、Gaからなる群から選択される少なくとも一つの元素を有することが好ましい。磁気記録層10に用いられる材料として、例えば、CoFeとPtの積層膜、CoFeとPdの積層膜、CoとNiの積層膜、CoとPtの積層膜、CoとPdの積層膜、MnGa系材料、GdCo系材料、TbCo系材料が挙げられる。MnGa系材料、GdCo系材料、TbCo系材料等のフェリ磁性体は飽和磁化が小さく、磁壁15を移動するために必要な閾値電流が小さくなる。またCoFeとPtの積層膜、CoFeとPdの積層膜、CoとNiの積層膜、CoとPtの積層膜、CoとPdの積層膜は、保磁力が大きく、磁壁15の移動速度が遅くなる。
【0045】
磁気記録層10は、希ガス元素を含む。希ガス元素は、He、Ne、Ar、Kr、Xe、Rn、Ogであり、好ましくはAr、Kr、Xeである。
【0046】
希ガス元素は、例えば、磁気記録層10を構成する結晶の結晶構造内に取り込まれている。希ガス元素は、例えば、磁気記録層10の結晶格子の一部の元素と置換している。また例えば、希ガス元素は、磁気記録層10の結晶格子の内部に侵入している。前者は置換型固溶体と呼ばれ、後者は侵入型固溶体と呼ばれる。希ガス元素は、その他の元素と比較して原子半径が大きい。そのため希ガス元素が結晶構造内に取り込まれると、磁気記録層10の結晶構造は乱れる。
【0047】
磁気記録層10を構成する結晶は、希ガス元素を含む結晶格子と、希ガス元素を含まない結晶格子からなる。以下、希ガス元素を含む結晶格子を第1格子、希ガス元素を含まない結晶格子を第2格子という。
【0048】
第1格子と第2格子とは、例えば、格子定数、異方性が異なる。また第1格子を構成する各原子の電子雲のつながりと第2格子を構成する各原子の電子雲のつながりとは、異なる。磁壁15は、書き込み電流によって移動する。電子雲のつながりが異なるため、第1格子と第2格子とでは、電流の流れやすさが異なる。そのため、第1格子と第2格子とで磁壁15の動きやすさは不均一であり、第1格子で磁壁15はトラップされる。
【0049】
第1格子と第2格子とは、磁気記録層10内にそれぞれ分散している。第1格子と第2格子の分散は、例えば、弱磁場をかけたローレンツ電子顕微鏡(ローレンツTEM)で観察できる。
【0050】
磁気記録層10の平均希ガス濃度は、例えば、25atm%以下であり、好ましくは10atm%以下である。例えば、磁気記録層10内に第1格子と第2格子とが交互に並ぶ場合の平均希ガス濃度は25atm%となる。磁気記録層10内に第1格子と第2格子とが交互に並ぶと、最も多くのトラップサイトが磁気記録層10内に形成される。また平均希ガス濃度が10atm%以下であれば、磁気記録層10の磁気特性を劣化させにくい。
【0051】
また磁気記録層10の平均希ガス濃度は、例えば、0.14atm%以上であり、好ましくは0.28atm%以下である。希ガス濃度が上記範囲であれば、磁気記録層10内に十分なトラップサイトを形成できる。
【0052】
平均希ガス濃度は、例えば、エネルギー分散型X線分析(EDX)で求められる。平均希ガス濃度は、磁気記録層10のx方向の異なる10点における希ガス濃度の平均値である。
【0053】
磁気記録層10は、図5に示すように、書き込み電流の流れ方向と交差する面において、中央領域16と外周領域17とに分けられる。中央領域16は、外周領域17より磁気記録層10の内側にある。中央領域16の希ガス元素の濃度は、例えば、外周領域17の希ガス元素の濃度より濃い。書き込み電流は、表皮効果により磁気記録層の中央領域16より外周領域17を流れやすい。希ガス元素の濃度が高くなると、磁気特性は低下する。磁壁15は、書き込み電流により生じるスピントランスファートルク(STT)によって移動する。書き込み電流が流れる部分の磁気特性が高いと、磁壁15の動作が安定化する。
【0054】
磁気記録層10は、Ta、Ru、Ir、Rh、W、Mo、Cu、Au、Ag、Cr、B、C、N、O、Mg、Al、Si、P、Ti、Vからなる群から選択されるいずれかの元素を含んでもよい。磁気記録層10がこれらの元素を含むと、磁気記録層10を構成する結晶の基本骨格が歪み、希ガスが結晶格子内に侵入しやすくなる。
【0055】
「中間層」
中間層20は、磁気記録層10の一面に接する。中間層20は、磁気記録層10と絶縁層90との間にある。中間層20は、第1導電層30、絶縁層90及び第2導電層40と、磁気記録層10との間にあってもよい。また磁壁移動素子100は中間層20を有さなくてもよい。中間層20は、下地層と言われることもある。
【0056】
中間層20は非磁性体からなる。中間層20は、例えば、磁気記録層10の結晶構造を規定する。中間層20の結晶構造により磁気記録層10の結晶性が高まり、磁気記録層10の磁化の配向性が高まる。また例えば、中間層20の結晶構造により磁気記録層10の結晶方位が変わり、磁気記録層10の磁化がz方向に配向する。中間層20の結晶構造は、例えば、アモルファス、(001)配向したNaCl構造、ABOの組成式で表される(002)配向したペロブスカイト構造、(001)配向した正方晶構造または立方晶構造、(111)配向した面心立方構造、(0001)配向した六方晶構造である。
【0057】
中間層20は、導体又は絶縁体である。中間層20は、導体であることが好ましい。中間層20が導体の場合、中間層20の厚みは、磁気記録層10の厚みより薄いことが好ましい。中間層20は、例えば、Ta、Ru、Pt、Ir、Rh、W、Pd、Cu、Au、Crを含む。中間層20は、例えば、Ta層、Ru層、Ta層とRu層との積層体である。
【0058】
「第1導電層及び第2導電層」
第1導電層30及び第2導電層40は、磁気記録層10に接続される。第1導電層30と第2導電層40とは、磁気記録層10の同じ面に接続されても、異なる面に接続されてもよい。第2導電層40は、第1導電層30と離間して磁気記録層10に接続される。第1導電層30は例えば磁気記録層10の第1端部に接続され、第2導電層40は例えば磁気記録層10の第2端部に接続される。第1導電層30及び第2導電層40は、例えば、接続配線Cwと磁気記録層10との接続部である。
【0059】
図4に示す第1導電層30及び第2導電層40は、磁性体を含む。第1導電層30の磁化M30及び第2導電層40の磁化M40は、それぞれ一方向に配向する。磁化M30は、例えば、+z方向に配向する。磁化M40は、例えば、-z方向に配向する。第1導電層30の磁化M30と磁化固定領域11の磁化M11とは、例えば、同じ方向に配向する。第2導電層40の磁化M40と磁化固定領域12の磁化M12とは、例えば、同じ方向に配向する。第1導電層30は、磁化固定領域11の磁化M11を固定する。第2導電層40は、磁化固定領域12の磁化M12を固定する。第1導電層30は第1磁化固定部の一例であり、第2導電層40は第2磁化固定部の一例である。磁化固定領域11は第1領域の一例であり、磁化固定領域12は第2領域の一例である。
【0060】
第1導電層30は、例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、これらの金属を1種以上含む合金、これらの金属とB、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とが含まれる合金等を含む。第1導電層30は、例えば、Co-Fe、Co-Fe-B、Ni-Fe等である。また第1導電層30は、シンセティック反強磁性構造(SAF構造)でもよい。シンセティック反強磁性構造は、非磁性層を挟む二つの磁性層からなる。二つの磁性層はそれぞれ磁化が固定されており、固定された磁化の向きは反対である。第2導電層40は、第1導電層と同様の材料、構成を選択できる。
【0061】
第1導電層30と第2導電層40とのうちの少なくとも一方は、希ガス元素を含んでもよい。第1導電層30及び第2導電層40は、希ガスを含有すると格子定数が大きくなる。格子定数が大きくなると、より大きな異方性磁界が生じ、磁化固定領域11、12の磁化M11、M12を強く固定できる。第1導電層30と第2導電層40とのうちの少なくとも一方に含まれる希ガス元素は、例えば、磁気記録層10に含まれる希ガス元素と同じである。
【0062】
第1導電層30と第2導電層40とのうちの少なくとも一方の希ガス元素濃度は、例えば、磁気記録層10の希ガス元素濃度より薄い。上述のように、第1導電層30は磁化固定領域11の磁化M11を固定し、第2導電層40は磁化固定領域12の磁化M12を固定する。第1導電層30及び第2導電層40のそれぞれが含有する希ガス元素濃度が低いと、第1導電層30及び第2導電層40のそれぞれの磁気特性の劣化を抑制できる。第1導電層30及び第2導電層40の磁気特性が安定化すると、磁化固定領域11、12の磁化M11、M12の固定を維持できる。強磁性体は希ガス元素を含むことで、大きな異方性磁界を生み出すことができるが、希ガス元素濃度が多すぎると磁化が失活する。
【0063】
「非磁性層」
非磁性層50は、磁気記録層10と強磁性層60との間に位置する。非磁性層50は、磁気記録層10の一面に積層される。
【0064】
非磁性層50は、例えば、非磁性の絶縁体、半導体又は金属からなる。非磁性の絶縁体は、例えば、Al、SiO、MgO、MgAl、およびこれらのAl、Si、Mgの一部がZn、Be等に置換された材料である。これらの材料は、バンドギャップが大きく、絶縁性に優れる。非磁性層50が非磁性の絶縁体からなる場合、非磁性層50はトンネルバリア層である。非磁性の金属は、例えば、Cu、Au、Ag等である。非磁性の半導体は、例えば、Si、Ge、CuInSe、CuGaSe、Cu(In,Ga)Se等である。
【0065】
非磁性層50の厚みは、20Å以上であることが好ましく、25Å以上であることがより好ましい。非磁性層50の厚みが厚いと、磁壁移動素子100の抵抗面積積(RA)が大きくなる。磁壁移動素子100の抵抗面積積(RA)は、1×10Ωμm以上であることが好ましく、5×10Ωμm以上であることがより好ましい。磁壁移動素子100の抵抗面積積(RA)は、一つの磁壁移動素子100の素子抵抗と磁壁移動素子100の素子断面積(非磁性層50をxy平面で切断した切断面の面積)の積で表される。
【0066】
「強磁性層」
強磁性層60は、非磁性層50上にある。強磁性層60は、一方向に配向した磁化M60を有する。強磁性層60の磁化M60は、所定の外力が印加された際に磁壁移動領域13の磁化M13A、M13Bよりも磁化反転しにくい。所定の外力は、例えば外部磁場により磁化に印加される外力や、スピン偏極電流により磁化に印加される外力である。強磁性層60は、磁化固定層、磁化参照層と呼ばれることがある。
【0067】
強磁性層60の磁化M60と磁壁移動領域13の磁化M13A、M13Bとの相対角の違いにより、磁壁移動素子100の抵抗値は変化する。第1磁区13Aの磁化M13Aは、例えば強磁性層60の磁化M60と同じ方向(平行)であり、第2磁区13Bの磁化M13Bは、例えば強磁性層60の磁化M60と反対方向(反平行)である。z方向からの平面視で強磁性層60と重畳する部分における第1磁区13Aの面積が広くなると、磁壁移動素子100の抵抗値は低くなる。反対に、z方向からの平面視で強磁性層60と重畳する部分における第2磁区13Bの面積が広くなると、磁壁移動素子100の抵抗値は高くなる。
【0068】
強磁性層60は、強磁性体を含む。強磁性層60は、例えば、磁気記録層10との間で、コヒーレントトンネル効果を得やすい材料を含む。強磁性層60は、例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、これらの金属を1種以上含む合金、これらの金属とB、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とが含まれる合金等を含む。強磁性層60は、例えば、Co-Fe、Co-Fe-B、Ni-Feである。
【0069】
強磁性層60は、例えば、ホイスラー合金でもよい。ホイスラー合金はハーフメタルであり、高いスピン分極率を有する。ホイスラー合金は、XYZ又はXYZの化学組成をもつ金属間化合物であり、Xは周期表上でCo、Fe、Ni、あるいはCu族の遷移金属元素または貴金属元素であり、YはMn、V、CrあるいはTi族の遷移金属又はXの元素種であり、ZはIII族からV族の典型元素である。ホイスラー合金として例えば、CoFeSi、CoFeGe、CoFeGa、CoMnSi、CoMn1-aFeAlSi1-b、CoFeGe1-cGa等が挙げられる。
【0070】
強磁性層60は、希ガス元素を含んでもよい。第1導電層30及び第2導電層40と同様に、強磁性層60が希ガスを含有すると格子定数が大きくなる。格子定数が大きくなると、より大きな異方性磁界が生じる。強磁性層60に含まれる希ガス元素は、例えば、磁気記録層10に含まれる希ガス元素と同じである。
【0071】
強磁性層60の希ガス元素濃度は、例えば、磁気記録層10の希ガス元素濃度より薄い。強磁性層60が含有する希ガス元素濃度が低いと、強磁性層60の磁気特性の劣化を抑制できる。磁壁移動素子100は、強磁性層60の磁化M60と磁壁移動領域13の磁化M13A、M13Bとの相対角の違いによりデータを記録する。強磁性層60の磁気特性が安定化すると、磁壁移動素子100のMR比が向上する。
【0072】
強磁性層60の膜厚は、強磁性層60の磁化容易軸をz方向とする(垂直磁化膜にする)場合は、1.5nm以下とすることが好ましく、1.0nm以下とすることがより好ましい。強磁性層60の膜厚を薄くすると、強磁性層60と他の層(非磁性層50)との界面で、強磁性層60に垂直磁気異方性(界面垂直磁気異方性)が付加され、強磁性層60の磁化がz方向に配向しやすくなる。
【0073】
強磁性層60の磁化容易軸をz方向とする(垂直磁化膜にする)場合は、強磁性層60をCo、Fe、Niからなる群から選択された強磁性体とPt、Pd、Ru、Rhからなる群から選択された非磁性体との積層体とすることが好ましく、Ir、Ruからなる群から選択された中間層を積層体のいずれかの位置に挿入することがより好ましい。強磁性体と非磁性体を積層すると垂直磁気異方性を付加することができ、中間層を挿入することによって強磁性層60の磁化がz方向に配向しやすくなる。
【0074】
強磁性層60の非磁性層50と反対側の面に、スペーサ層を介して、反強磁性層を設けてもよい。強磁性層60、スペーサ層、反強磁性層は、シンセティック反強磁性構造(SAF構造)となる。シンセティック反強磁性構造は、非磁性層を挟む二つの磁性層からなる。強磁性層60と反強磁性層とが反強磁性カップリングすることで、反強磁性層を有さない場合より強磁性層60の保磁力が大きくなる。反強磁性層は、例えば、IrMn,PtMn等である。スペーサ層は、例えば、Ru、Ir、Rhからなる群から選択される少なくとも一つを含む。
【0075】
磁壁移動素子100の各層の磁化の向きは、例えば磁化曲線を測定することにより確認できる。磁化曲線は、例えば、MOKE(Magneto Optical Kerr Effect)を用いて測定できる。MOKEによる測定は、直線偏光を測定対象物に入射させ、その偏光方向の回転等が起こる磁気光学効果(磁気Kerr効果)を用いることにより行う測定方法である。
【0076】
次いで、磁気記録アレイ200の製造方法について説明する。磁気記録アレイ200は、各層の積層工程と、各層の一部を所定の形状に加工する加工工程により形成される。各層の積層は、スパッタリング法、化学気相成長(CVD)法、電子ビーム蒸着法(EB蒸着法)、原子レーザデポジッション法等を用いることができる。各層の加工は、フォトリソグラフィー等を用いて行うことができる。
【0077】
まず基板Subの所定の位置に、不純物をドープしソース領域S、ドレイン領域Dを形成する。次いで、ソース領域Sとドレイン領域Dとの間に、ゲート絶縁膜GI、ゲート電極Gを形成する。ソース領域S、ドレイン領域D、ゲート絶縁膜GI及びゲート電極GがトランジスタTrとなる。
【0078】
次いで、トランジスタTrを覆うように絶縁層90を形成する。また絶縁層90に開口部を形成し、開口部内に導電体を充填することで接続配線Cwが形成される。第1配線Wp、第2配線Cmは、絶縁層90を所定の厚みまで積層した後、絶縁層90に溝を形成し、溝に導電体を充填することで形成される。
【0079】
第1導電層30及び第2導電層40は、例えば、絶縁層90及び接続配線Cwの一面に、強磁性層を積層し、第1導電層30及び第2導電層40となる部分以外を除去することで形成できる。強磁性層の積層を希ガス雰囲気下で行うと、第1導電層30及び第2導電層40に希ガス元素が含まれる。この際の希ガスのガス圧は、磁気記録層10を積層する際のガス圧より低くすることが好ましい。またスパッタリングのターゲットに印加する印加電圧も、磁気記録層10を積層する際より低くすることが好ましい。除去された部分は、例えば、絶縁層90で埋める。
【0080】
次いで、第1導電層30、第2導電層40及び絶縁層90上に、中間層20を積層する。中間層20の上の一部には、レジストを形成する。レジストは、磁化固定領域11の一部、磁壁移動領域13、磁化固定領域12の一部に跨って形成する。次いで、レジストを介して、中間層20を加工する。例えば、中間層20及びレジストにイオンビームを照射する。中間層20のうちレジストが被覆されていない部分は除去される。
【0081】
次いで、磁気記録層10、非磁性層50及び強磁性層60を順に積層する。これらの層の積層は、希ガス雰囲気下で行う。磁気記録層10及び強磁性層60を積層する際は、例えば、磁性膜の成膜とエッチングとを繰り返しながら成膜する。磁性膜の成膜は、希ガス雰囲気下において数Å単位で成膜する。磁性膜のエッチングは、希ガス雰囲気下において逆スパッタリングを行う。磁性膜の成膜とエッチングとを繰り返すことで、より多くの希ガス元素が磁気記録層10及び強磁性層60に取り込まれる。また成膜厚みとエッチングする膜厚とのバランスを調整することで、磁気記録層10及び強磁性層60の希ガス元素の含有量を調整できる。また強磁性層60を成膜する際の希ガスのガス圧は、磁気記録層10を積層する際のガス圧より低くすることが好ましい。また強磁性層60を成膜する際に、スパッタリングのターゲットに印加する印加電圧も、磁気記録層10を積層する際より低くすることが好ましい。その後、非磁性層50及び強磁性層60を所定の形状に加工することで、磁壁移動素子100が得られる。
【0082】
第1実施形態に係る磁壁移動素子100によれば、希ガスが含まれる結晶格子がトラップサイトとなり、磁壁移動素子100の階調数をより増やすことができる。また結晶格子は結晶粒界と比較しても小さく、磁壁移動素子100が微細化してもトラップサイトとして適用できる。
【0083】
第1実施形態に係る磁気記録アレイ200及び磁壁移動素子100の一例について詳述したが、第1実施形態に係る磁気記録アレイ200及び磁壁移動素子100は、本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0084】
例えば、磁壁移動素子100は、第1導電層30及び第2導電層40がいずれも強磁性体を含むが、いずれか一方のみが強磁性体を含んでもよい。磁気記録層10のいずれか一方の端部の磁化を固定すれば、磁壁15を適切に動作できるためである。
【0085】
また上記の磁壁移動素子100は、磁化固定部として強磁性体を含む導電層(第1導電層30、第2導電層40)を用いた。しかしながら、磁化固定部は、強磁性体を含む導電層には限られない。
【0086】
例えば、磁気記録層10と交差する方向に延在し、磁気記録層10から離間された配線を磁化固定部としてもよい。電流を流した際に配線の周囲に生じる外部磁場によって磁気記録層10の磁化固定領域11、12の磁化を固定する。
【0087】
また例えば、磁気記録層10と交差する方向に延在し、磁気記録層10と接するSOT配線を磁化固定部としてもよい。電流を流した際にSOT配線から磁気記録層10に注入されるスピンによって磁気記録層10の磁化固定領域11、12の磁化を固定する。スピンは、スピンホール効果によって磁気記録層10に注入され、磁気記録層10の磁化にスピン軌道トルクを与える。
【0088】
また例えば、磁気記録層10のy方向の幅を変更することで磁化固定部を設けてもよい。図6は、第1実施形態に係る磁壁移動素子の変形例である。磁壁移動素子101は、磁気記録層70の形状が、上述の磁気記録層10と異なる。
【0089】
磁気記録層70は、磁壁移動領域71と磁化固定領域72とを有する。磁化固定領域72のy方向の幅は、磁壁移動領域71のy方向の幅より広い。磁化固定領域72は、磁壁移動領域71のy方向の端面と平行な面から突出する突出領域72aを有する。磁壁移動領域71と磁化固定領域72とは電流の流れやすさが異なる。磁気記録層70は、x方向の位置におけるy方向の幅によって磁壁の動作範囲を制御する。磁壁は磁化固定領域72に侵入しない。磁化固定領域72の磁化は突出領域72aが存在することで、一方向に固定される。つまり、突出領域72aは、磁化固定部の一例である。
【0090】
[第2実施形態]
図7は、第2実施形態に係る磁壁移動素子102のyz面における断面図である。磁壁移動素子102は、非磁性層50及び強磁性層60を有さない点が、磁壁移動素子100と異なる。磁壁移動素子102において磁壁移動素子100と同様の構成については、同様の符号を付し、説明を省く。
【0091】
磁壁移動素子102は、光変調器として用いることができる。磁気記録層10に対して光L1を入射し、磁気記録層10で反射した光L2を評価する。磁気カー効果により磁化の配向方向が異なる部分で反射した光L2の偏向状態は異なる。磁壁移動素子102は、光L2の偏向状態の違いを利用した映像表示装置として用いることができる。
【0092】
第2実施形態にかかる磁壁移動素子102においても、磁気記録層10は希ガス元素を含む。したがって、第2実施形態にかかる磁壁移動素子102も磁壁移動素子100と同様の効果が得られる。
【0093】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述した。実施形態及び変形例における特徴的な構成は、それぞれ組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0094】
10、70 磁気記録層
11、12、72 磁化固定領域
13、71 磁壁移動領域
13A 第1磁区
13B 第2磁区
15 磁壁
16 中央領域
17 外周領域
20 中間層
30 第1導電層
40 第2導電層
50 非磁性層
60 強磁性層
72a 突出領域
90 絶縁層
100、101 磁壁移動素子
110 第1スイッチング素子
120 第2スイッチング素子
130 第3スイッチング素子
200 磁気記録アレイ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7