(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】空気二次電池用触媒の製造方法、空気二次電池の製造方法、空気二次電池用触媒及び空気二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/88 20060101AFI20220531BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20220531BHJP
H01M 4/26 20060101ALI20220531BHJP
B01J 23/644 20060101ALI20220531BHJP
C01B 3/00 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
H01M4/88 K
H01M12/08 K
H01M4/26 J
B01J23/644 M
C01B3/00 A
(21)【出願番号】P 2018066454
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000231372
【氏名又は名称】日本重化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】夘野木 昇平
(72)【発明者】
【氏名】梶原 剛史
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 賢大
(72)【発明者】
【氏名】安岡 茂和
(72)【発明者】
【氏名】渡部 芳克
【審査官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-272231(JP,A)
【文献】特開2014-220111(JP,A)
【文献】特開2017-063020(JP,A)
【文献】特開2007-119900(JP,A)
【文献】特開2017-112112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62,4/86-4/98
H01M 8/00-8/0297、8/08-8/2495
H01M 12/00-16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気二次電池の空気極に用いる空気二次電池用触媒の製造方法であって、パイロクロア型酸化物の前駆体を調製する前駆体調製工程と、
前記前駆体を焼成し、パイロクロア型酸化物を形成する焼成工程と、
前記焼成工程により得られた前記パイロクロア型酸化物を酸性水溶液に浸漬させ酸処理する酸処理工程と、
を備えて
おり、
前記パイロクロア型酸化物は、一般式:A
2-X
B
2-Y
O
7-Z
(ただし、X、Y、Zは、それぞれ0以上1以下の数値を表し、Aは、Biを表し、Bは、Ruを表している。)で表される組成を有しているパイロクロア型の遷移元素酸化物であり、
前記パイロクロア型の遷移元素酸化物は、パイロクロア型のビスマスルテニウム酸化物であり、
前記酸性水溶液は、硝酸水溶液、塩酸水溶液、及び硫酸水溶液のうちのいずれかである、
空気二次電池用触媒の製造方法。
【請求項2】
前記ビスマスルテニウム酸化物に含まれているビスマスの量をX、ルテニウムの量をYとした場合に、前記ルテニウムの量に対する前記ビスマスの量の比であるX/Yの値が、0.90以下となるように前記酸処理が施される、請求項
1に記載の空気二次電池用触媒の製造方法。
【請求項3】
前記ルテニウムの量に対する前記ビスマスの量の比であるX/Yの値が、0.80以上となるように前記酸処理が施される、請求項
2に記載の空気二次電池用触媒の製造方法。
【請求項4】
空気二次電池用触媒を含む空気極合剤を空気極基材に担持させ空気極を製造する空気極製造工程と、
負極合剤を負極基材に担持させ負極を製造する負極製造工程と、
前記空気極と、前記負極とをセパレータを介して重ね合わせて電極群を形成する電極群形成工程と、
前記電極群をアルカリ電解液とともに容器に収容する収容工程と、を備え、
前記空気二次電池用触媒は、請求項1~
3の何れかに記載の空気二次電池用触媒の製造方法により製造される、空気二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記負極製造工程は、前記負極合剤に水素吸蔵合金を含有させるプロセスを更に含む、
請求項
4に記載の空気二次電池の製造方法。
【請求項6】
空気二次電池の空気極に用いられる空気二次電池用触媒であって、
硝酸水溶液、塩酸水溶液、及び硫酸水溶液のうちのいずれかの酸性水溶液に浸漬される酸処理が施され、製造過程で生じた副生成物が除去された状態のパイロクロア型酸化物を
含んでおり、
前記パイロクロア型酸化物は、一般式:A
2-X
B
2-Y
O
7-Z
(ただし、X、Y、Zは、それぞれ0以上1以下の数値を表し、Aは、Biを表し、Bは、Ruを表している。)で表される組成を有しているパイロクロア型の遷移元素酸化物であり、
前記パイロクロア型の遷移元素酸化物は、パイロクロア型のビスマスルテニウム酸化物である、空気二次電池用触媒。
【請求項7】
前記ビスマスルテニウム酸化物は、前記ビスマスルテニウム酸化物に含まれているビスマスの量をX、ルテニウムの量をYとした場合に、前記ルテニウムの量に対する前記ビスマスの量の比であるX/Yの値が、0.90以下である、請求項
6に記載の空気二次電池用触媒。
【請求項8】
前記ルテニウムの量に対する前記ビスマスの量の比であるX/Yの値が、0.80以上である、請求項
7に記載の空気二次電池用触媒。
【請求項9】
セパレータを介して重ね合わされた空気極及び負極を含む電極群と、
前記電極群をアルカリ電解液とともに収容している容器と、を備え、
前記空気極は、請求項
6~8の何れかに記載の空気二次電池用触媒を含んでいる、空気二次電池。
【請求項10】
前記負極は、水素吸蔵合金を含んでいる、請求項
9に記載の空気二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気二次電池用触媒の製造方法、空気二次電池の製造方法、空気二次電池用触媒及び空気二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高効率でクリーンなエネルギー変換装置として大気中の酸素を正極活物質とする空気二次電池が注目を集めている。
【0003】
なかでも、電解液としてアルカリ性水溶液(アルカリ電解液)を用い、負極活物質である水素を吸蔵放出可能な水素吸蔵合金を負極に備えた空気水素二次電池は、以下に示すようなメリットがあるため、次世代の二次電池として期待されている。
【0004】
まず、空気水素二次電池は、正極の活物質が空気中の酸素であるため、電池内に正極活物質を貯蔵するためのスペースを確保する必要がなく、このスペースを省略すれば、その分だけ電池の省スペース化が図れるメリットがある。また、このスペースを省略せずに水素吸蔵合金の貯蔵に利用した場合、空気水素二次電池の電池容量は負極の容量にのみ依存するため、水素吸蔵合金の量が増える分だけ高容量化が図れるメリットがある。つまり、空気水素二次電池は、同じく水素吸蔵合金を用いるニッケル水素二次電池に比べ、より高いエネルギー密度が得られる可能性がある。
【0005】
上記の空気水素二次電池のようにアルカリ電解液を用いる空気二次電池では、空気極において以下に示すような充放電反応が起こる。
【0006】
放電:O2+2H2O+4e-→4OH-・・・(I)
【0007】
充電:4OH-→O2+2H2O+4e-・・・(II)
【0008】
空気水素二次電池の空気極は、放電時には反応式(I)で表されるように酸素を還元して水酸化物イオンを生成し、充電時には反応式(II)で表されるように酸素と水を生成する。空気極で発生した酸素は、空気極における大気に開放されている部分から大気中に放出される。
【0009】
上記したような空気水素二次電池の正極である空気極には、触媒として、パイロクロア型酸化物が用いられる。このパイロクロア型酸化物としては、遷移元素酸化物が挙げられ、例えば、特許文献1に開示されているようなビスマスルテニウム酸化物が知られている。このビスマスルテニウム酸化物は、酸素発生と酸素還元に対して触媒活性を有していることから、空気水素二次電池の正極に用いられる。
【0010】
このビスマスルテニウム酸化物は、例えば、硝酸ビスマスと塩化ルテニウムを出発原料とする共沈法により前駆体を生成し、その後、当該前駆体を焼成するといった製造方法により製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、上記したビスマスルテニウム酸化物の製造方法においては、その過程で副生成物が形成される。この副生成物が混入した触媒を用いて空気極を作成し、当該空気極を備えた空気水素二次電池について充放電サイクルを行うと、ビスマスルテニウム酸化物自体は溶解析出反応を起こさないものの、上記した副生成物が溶解析出反応を起こす。詳しくは、電池における充放電の際の化学反応(以下、電池反応という)にともない、副生成物中の金属成分(主にビスマス)の溶解析出反応が繰り返され、極板上で金属成分が樹枝状に析出するいわゆるデンドライト成長をする。このように金属成分がデンドライト成長すると、当該金属成分はセパレータ中に伸びていき、最終的にはセパレータを突き抜けてしまう。その結果、微小短絡を発生させるという問題が生じる。このように微小短絡が発生すると、電池内部では、正極及び負極の間で、電解質を介したイオン伝導性だけではなく、電子伝導性が存在することになる。電子伝導性が存在する場合、電池は自己放電を起こしていることになる。金属成分のデンドライト成長は、充放電のサイクルにともない増加するので、充放電サイクルが進行すると自己放電量も増える。その結果、比較的少ないサイクル数で電池の放電容量の低下が起こり、早期に電池の寿命が尽きてしまう。
【0013】
このため、充放電を繰り返した場合でも、従来よりも放電容量の低下が起こり難く、放電容量が安定している空気二次電池を開発することが望まれている。
【0014】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、微小短絡の発生を抑制することができる空気二次電池用触媒の製造方法、空気二次電池の製造方法、空気二次電池用触媒及び空気二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明によれば、空気二次電池の空気極に用いる空気二次電池用触媒の製造方法であって、パイロクロア型酸化物の前駆体を調製する前駆体調製工程と、前記前駆体を焼成し、パイロクロア型酸化物を形成する焼成工程と、前記焼成工程により得られた前記パイロクロア型酸化物を酸性水溶液に浸漬させ酸処理する酸処理工程と、を備えている空気二次電池用触媒の製造方法が提供される。
【0016】
前記パイロクロア型酸化物は、一般式:A2-XB2-YO7-Z(ただし、X、Y、Zは、それぞれ0以上1以下の数値を表し、Aは、Bi、Pb、Tb、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Mn、Y、Znから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Bは、Ru、Ir、Si、Ge、Ta、Sn、Hf、Zr、Ti、Nb、V、Sb、Rh、Cr、Re、Sc、Co、Cu、In、Ga、Cd、Fe、Ni、W、Moから選ばれる少なくとも1種の元素を表している。)で表される組成を有しているパイロクロア型の遷移元素酸化物である構成とすることが好ましい。
【0017】
前記酸性水溶液は、硝酸水溶液、塩酸水溶液、硫酸水溶液のうちのいずれかである構成とすることが好ましい。
【0018】
前記パイロクロア型の遷移元素酸化物は、パイロクロア型のビスマスルテニウム酸化物である構成とすることが好ましい。
【0019】
前記ビスマスルテニウム酸化物に含まれているビスマスの量をX、ルテニウムの量をYとした場合に、前記ルテニウムの量に対する前記ビスマスの量の比であるX/Yの値が、0.90以下となるように前記酸処理が施される構成とすることが好ましい。
【0020】
前記ルテニウムの量に対する前記ビスマスの量の比であるX/Yの値が、0.80以上となるように前記酸処理が施される構成とすることが好ましい。
【0021】
また、本発明によれば、空気二次電池用触媒を含む空気極合剤を空気極基材に担持させ空気極を製造する空気極製造工程と、負極合剤を負極基材に担持させ負極を製造する負極製造工程と、前記空気極と、前記負極とをセパレータを介して重ね合わせて電極群を形成する電極群形成工程と、前記電極群をアルカリ電解液とともに容器に収容する収容工程と、を備え、前記空気二次電池用触媒は、上記した何れかの空気二次電池用触媒の製造方法により製造される、空気二次電池の製造方法が提供される。
【0022】
前記負極製造工程は、前記負極合剤に水素吸蔵合金を含有させるプロセスを更に含む構成とすることが好ましい。
【0023】
また、本発明によれば、空気二次電池の空気極に用いられる空気二次電池用触媒であって、酸性水溶液に浸漬される酸処理が施され、製造過程で生じた副生成物が除去された状態のパイロクロア型酸化物を含む、空気二次電池用触媒が提供される。
【0024】
前記パイロクロア型酸化物は、一般式:A2-XB2-YO7-Z(ただし、X、Y、Zは、それぞれ0以上1以下の数値を表し、Aは、Bi、Pb、Tb、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Mn、Y、Znから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Bは、Ru、Ir、Si、Ge、Ta、Sn、Hf、Zr、Ti、Nb、V、Sb、Rh、Cr、Re、Sc、Co、Cu、In、Ga、Cd、Fe、Ni、W、Moから選ばれる少なくとも1種の元素を表している。)で表される組成を有しているパイロクロア型の遷移元素酸化物である構成とすることが好ましい。
【0025】
前記パイロクロア型の遷移元素酸化物は、ビスマスルテニウム酸化物である構成とすることが好ましい。
【0026】
前記ビスマスルテニウム酸化物は、前記ビスマスルテニウム酸化物に含まれているビスマスの量をX、ルテニウムの量をYとした場合に、前記ルテニウムの量に対する前記ビスマスの量の比であるX/Yの値が、0.90以下である構成とすることが好ましい。
【0027】
前記ルテニウムの量に対する前記ビスマスの量の比であるX/Yの値が、0.80以上である構成とすることが好ましい。
【0028】
また、本発明によれば、セパレータを介して重ね合わされた空気極及び負極を含む電極群と、前記電極群をアルカリ電解液とともに収容している容器と、を備え、前記空気極は、上記した何れかの空気二次電池用触媒を含んでいる、空気二次電池が提供される。
【0029】
前記負極は、水素吸蔵合金を含んでいる構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る空気二次電池用触媒の製造方法は、パイロクロア型酸化物を酸性水溶液に浸漬させ酸処理する酸処理工程を含んでおり、この酸処理工程を経ることにより、パイロクロア型酸化物の副生成物が除去され、副生成物中の金属成分の溶解析出反応にともなうデンドライトが生じることを防止することができる。よって、本発明によれば、微小短絡の発生を抑制することができる空気二次電池用触媒の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の一実施形態に係る空気水素二次電池を概略的に示した断面図である。
【
図2】実施例1のビスマスルテニウム酸化物の粉末及び比較例1のビスマスルテニウム酸化物の粉末のX線回折プロファイルを示したグラフである。
【
図3】実施例1のビスマスルテニウム酸化物のSEM画像(倍率:300倍)の写真である。
【
図4】比較例1のビスマスルテニウム酸化物のSEM画像(倍率:300倍)の写真である。
【
図5】放電容量率とサイクル数との関係を示したグラフである。
【
図6】充電終了後の休止時における電池電圧と経過時間との関係を示したグラフである。
【
図7】実施例1のセパレータ、比較例1のセパレータ及び未使用のセパレータのX線回折プロファイルを示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る空気二次電池用触媒を含む空気極を組み込んだ空気水素二次電池(以下、単に電池と称する)2について図面を参照して説明する。
【0033】
図1に示すように、電池2は、容器4に入れられた電極群6が、天板8と底板10との間に挟まれて形成されている。
【0034】
電極群6は、負極12と、空気極(正極)14とがセパレータ16を介して重ね合わされて形成されている。
【0035】
負極12は、多孔質構造をなし多数の空孔を有する導電性の負極基材と、前記した空孔内及び負極基材の表面に担持された負極合剤とを含んでいる。
【0036】
このような負極基材としては、例えば発泡ニッケルを用いることができる。
【0037】
負極合剤は、負極活物質としての水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末、導電剤及び結着剤を含む。ここで、導電剤としては、黒鉛、カーボンブラック等を用いることができる。
【0038】
水素吸蔵合金粒子を構成する水素吸蔵合金としては、特に限定されるものではないが、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金が用いられる。この希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の組成は自由に選択できるが、例えば、一般式:
Ln1-xMgxNiy-a-bAlaMb・・・(III)
で表されるものを用いるのが好ましい。
【0039】
ただし、一般式(III)中、Lnは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sc、Y、Zr及びTiよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Mは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ga、Zn、Sn、In、Cu、Si、P及びBよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を表し、添字a、b、x、yは、それぞれ0.05≦a≦0.30、0≦b≦0.50、0.01≦x≦0.30、2.8≦y≦3.9を満たす数を表す。
【0040】
ここで、水素吸蔵合金粒子は、例えば以下のようにして得られる。
【0041】
まず、所定の組成となるように金属原材料を秤量して混合し、この混合物を不活性ガス雰囲気下にて、例えば、高周波誘導溶解炉で溶解してインゴットにする。得られたインゴットは、不活性ガス雰囲気下にて900~1200℃に加熱され、その温度で5~24時間保持する熱処理が施され均質化される。この後、インゴットを粉砕し、篩分けを行うことにより所望粒径の水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末を得る。
【0042】
結着剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム等が用いられる。
【0043】
ここで、負極12は、例えば以下のようにして作製することができる。
【0044】
まず、水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末、導電剤、結着剤及び水を混練して負極合剤ペーストを調製する。得られた負極合剤ペーストは負極基材に充填され、乾燥させられる。乾燥後、水素吸蔵合金粒子等が付着した負極基材はロール圧延されて、体積当たりの合金量を高められ、その後、裁断がなされ、これにより負極12が作製される。この負極12は、全体として板状をなしている。
【0045】
次に、空気極14は、多孔質構造をなし多数の空孔を有する導電性の空気極基材と、前記した空孔内及び空気極基材の表面に担持された空気極合剤(正極合剤)とを含んでいる。
【0046】
このような空気極基材としては、例えば、発泡ニッケルやニッケルメッシュを用いることができる。
【0047】
空気極合剤は、空気二次電池用触媒、導電剤及び結着剤を含む。
【0048】
空気二次電池用触媒としては、酸性水溶液に浸漬させる酸処理が施されたパイロクロア型酸化物が用いられる。ここで、酸処理が施される対象のパイロクロア型酸化物としては、一般式:A2-XB2-YO7-Z(ただし、X、Y、Zは、それぞれ0以上1以下の数値を表し、Aは、Bi、Pb、Tb、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Mn、Y、Znから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Bは、Ru、Ir、Si、Ge、Ta、Sn、Hf、Zr、Ti、Nb、V、Sb、Rh、Cr、Re、Sc、Co、Cu、In、Ga、Cd、Fe、Ni、W、Moから選ばれる少なくとも1種の元素を表している。)で表される組成を有しているパイロクロア型の遷移元素酸化物を用いることが好ましい。より好ましくはビスマスルテニウム酸化物が用いられる。このビスマスルテニウム酸化物は、酸素発生と酸素還元の二元触媒活性を有しており、パイロクロア型の構造を有している。
【0049】
空気二次電池用触媒は、以下のようにして作製される。
【0050】
まず、パイロクロア型のビスマスルテニウム酸化物が調製される。具体的には、以下の通りである。
【0051】
Bi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oを同じ濃度となるように蒸留水の中に投入し、撹拌してBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oの混合水溶液を調製する。このとき蒸留水の温度は、60℃以上、90℃以下とする。そして、この混合水溶液に、1mol%/l以上、3mol%/l以下のNaOH水溶液を加える。この際の浴温度は60℃以上、90℃以下に保持し、酸素バブリングを行いながら撹拌する。この操作によって生じた沈殿物を含む溶液を80℃以上、100℃以下に保持して水分の一部を蒸発させてペーストを形成する。このペーストを蒸発皿に移し、100℃以上、150℃以下に加熱し、その状態で10時間以上、20時間以下保持して乾燥させ、ペーストの乾燥物を得る。そして、この乾燥物を乳鉢で粉砕した後、空気雰囲気下で500℃以上、700℃以下の温度に加熱し、0.5時間以上、2時間以下保持することにより焼成し、焼成物を得る。得られた焼成物を60℃以上、90℃以下の蒸留水を用いて水洗した後乾燥させる。これにより、パイロクロア型のビスマスルテニウム酸化物が得られる。
【0052】
次に、調製されたビスマスルテニウム酸化物に酸処理として硝酸水溶液に浸漬させる硝酸処理を施す。具体的には、以下の通りである。
【0053】
まず、硝酸水溶液を準備する。ここで、硝酸水溶液の濃度は、1mol%/l以上、3mol%/l以下とすることが好ましく、硝酸水溶液の量は、ビスマスルテニウム酸化物2gに対して40mlの割合となる量を準備することが好ましく、硝酸水溶液の温度は、20℃以上、25℃以下に設定することが好ましい。
【0054】
そして、準備された硝酸水溶液に中に、ビスマスルテニウム酸化物を浸漬し、10分以上、10時間以下撹拌する。所定時間経過後、硝酸水溶液中からビスマスルテニウム酸化物を吸引濾過する。濾別されたビスマスルテニウム酸化物は、60℃以上、80℃以下に設定されたイオン交換水に投入され洗浄される。
【0055】
洗浄されたビスマスルテニウム酸化物は、室温(25℃)の減圧環境下で10時間以上、14時間以下保持され、乾燥させられる。なお、洗浄されたビスマスルテニウム酸化物の乾燥に関しては、大気中において、80℃~150℃の温度環境下で1時間以上、24時間以下保持して乾燥する乾燥条件を採用しても構わない。
【0056】
以上のようにして、硝酸処理が施されたビスマスルテニウム酸化物を得る。このように硝酸処理を施すことにより、パイロクロア型酸化物の製造過程で生じる副生成物を除去することができる。なお、酸処理に用いられる酸性水溶液は、硝酸水溶液に限定されるものではなく、硝酸水溶液の他に塩酸水溶液、硫酸水溶液を用いることができる。これら、塩酸水溶液及び硫酸水溶液においても、硝酸水溶液と同様に副生成物を除去できるという効果が得られる。
【0057】
次に、導電剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、ニッケル粒子の集合体であるニッケル粉末を用いることが好ましい。
【0058】
結着剤は、酸化還元触媒を結着させるとともに空気極14に適切な撥水性を付与する働きをする。ここで、結着剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、フッ素樹脂が用いられる。なお、好ましいフッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が用いられる。
【0059】
空気極14は、例えば、以下のようにして作製することができる。
【0060】
まず、ビスマスルテニウム酸化物、結着剤及び水を含む空気極合剤ペーストを調製する。
【0061】
得られた空気極合剤ペーストは、シート状に成形され、その後、ニッケルメッシュ(空気極基材)にプレス圧着させられる。これにより、空気極の中間製品が得られる。
【0062】
次いで、得られた中間製品は、焼成炉に投入され焼成処理が行われる。この焼成処理は、不活性ガス雰囲気中で行われる。この不活性ガスとしては、例えば、窒素ガスやアルゴンガスが用いられる。焼成処理の条件としては、300℃以上、400℃以下の温度に加熱し、この状態で、10分以上、20分以下の間保持する。その後、中間製品を焼成炉内で自然冷却し、中間製品の温度が150℃以下になったところで大気中に取り出す。これにより、焼成処理が施された中間製品が得られる。この中間製品を所定形状に裁断することにより、空気極14を得る。
【0063】
以上のようにして得られた空気極14及び負極12は、セパレータ16を介して積層され、これにより電極群6が形成される。このセパレータ16は、空気極14及び負極12の間の短絡を避けるために配設され、電気絶縁性の材料が採用される。このセパレータ16に採用される材料としては、例えば、ポリアミド繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの等を用いることができる。
【0064】
形成された電極群6は、アルカリ電解液とともに容器4の中に入れられる。この容器4としては、電極群6とアルカリ電解液とを収容できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレン製の袋状の容器(以下、収容袋18という)が用いられる。この収容袋18は、例えば、チャック付きの出し入れ口(図示せず)が一部に設けられており、また別な一部に開口20が設けられている。電極群6は、上記した出し入れ口を通して収容袋18の内部に収容される。
【0065】
電極群6を収容袋18に収容する場合、電極群6の空気極14側に空気極14と接するようにカーボン不織布24を配設する。このカーボン不織布24は、PTFEにより撥水処理が施されている。また、電極群6の負極12側に負極12と接するようにセパレータ17を配設する。このセパレータ17は、例えば、上記したセパレータ16と同素材、同形状のものが用いられる。
【0066】
ここで、収容袋18に収容された電極群6は、
図1に示すように、負極側に配設されたセパレータ17の上に載置されている。そして、電極群6の空気極14の上には、カーボン不織布24が配設されている。そして、収容袋18の開口20からはカーボン不織布24のみ露出した状態となっている。
【0067】
次いで、上記したような収容袋18に収容された電極群6は、収容袋18とともに天板8と底板10との間に挟まれる。
【0068】
天板8は、アクリル樹脂製の板材であり、
図1に示すように、収容袋18の開口20に相対する位置に通気路26を有している。この通気路26は、全体として1本のサーペンタイン形状をなしており、端部が大気に開放されている。
【0069】
底板10は、天板8と同じ大きさのアクリル樹脂製の板材である。なお、底板10は、通気路を備えていない。
【0070】
電極群6を収容した収容袋18は、樹脂で形成された平板状の負極側緩衝板22を介在させた状態で底板10の上に載置される。そして、電極群6を収容した収容袋18の上に天板8が載置される。このようにして、収容袋18に収容された電極群6は天板8及び底板10により上下から挟まれる。このとき、天板8の通気路26はカーボン不織布24に相対している。カーボン不織布24は、気体は通すが水分は遮断するので、空気極14はカーボン不織布24及び通気路26を介して大気に開放されることになる。つまり、空気極14は、カーボン不織布24を通じて大気と接することになる。
【0071】
収容袋18に収容された電極群6を上下から挟んだ天板8及び底板10は、
図1において概略的に記載されているように、天板8及び底板10の周端縁部38、40が連結具34、36により上下から挟みこまれている。このようにして、電池2が形成される。
【0072】
ここで、この電池2においては、空気極(正極)14に空気極リード(正極リード)42が電気的に接続されており、負極12に負極リード44が電気的に接続されている。これら空気極リード42及び負極リード44は、
図1中においては概略的に記載してあるが、気密性及び水密性を保持した状態で収容袋18の外に引き出されている。そして、空気極リード42の先端には空気極端子(正極端子)46が設けられており、負極リード44の先端には負極端子48が設けられている。したがって、電池2においては、これら空気極端子46及び負極端子48を利用して充放電の際の電流の入力及び出力が行われる。
【0073】
[実施例]
【0074】
1.電池の製造
【0075】
(実施例1)
【0076】
(1)触媒合成
【0077】
第1ステップとして、Bi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oを所定量準備し、これらBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oが同じ濃度となるように75℃の蒸留水中に投入し、撹拌してBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oの混合水溶液を調製した。そして、この混合水溶液に、2mol%/lのNaOH水溶液を加えた。この際の浴温度は75℃とし、酸素バブリングを行いながら撹拌した。この操作によって生じた沈殿物を含む溶液を85℃に保持して水分の一部を蒸発させてペーストを形成した。このペーストを蒸発皿に移し、120℃に加熱し、その状態で12時間保持して乾燥させ、ペーストの乾燥物(前駆体)を得た。そして、第2ステップとして、この乾燥物を乳鉢で粉砕した後、空気雰囲気下で600℃に加熱し、1時間保持することにより焼成し、焼成物を得た。得られた焼成物を70℃の蒸留水を用いて水洗した後、吸引濾過し、乾燥させた。これにより、パイロクロア型のビスマスルテニウム酸化物を得た。
【0078】
得られたビスマスルテニウム酸化物を、乳鉢を用いて粉砕することにより所定粒子径の粒子の集合体であるビスマスルテニウム酸化物の粉末を得た。このビスマスルテニウム酸化物の粉末に関し、走査型電子顕微鏡による二次電子像を観察した結果、ビスマスルテニウム酸化物の粒子径は0.1μm以下であった。
【0079】
次いで、第3ステップとして、ビスマスルテニウム酸化物の粉末2gを40mlの硝酸水溶液とともにスターラーの撹拌槽に入れ、当該硝酸水溶液の温度を25℃に保持したまま6時間撹拌した。ここで、硝酸水溶液の濃度は2mol%/lとした。
【0080】
撹拌が終了した後、硝酸水溶液中からビスマスルテニウム酸化物の粉末を吸引濾過することにより取り出した。取り出されたビスマスルテニウム酸化物の粉末は、70℃に加熱したイオン交換水1リットルで洗浄した。洗浄後、ビスマスルテニウム酸化物の粉末を、25℃の室温下で減圧容器に入れ、減圧環境下で12時間保持することにより乾燥を行った。
【0081】
以上のようにして、硝酸処理されたビスマスルテニウム酸化物の粉末、すなわち、空気二次電池用触媒を得た。
【0082】
(2)空気極の製造
【0083】
硝酸処理されたビスマスルテニウム酸化物の粉末、ニッケル粉末、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョン及びイオン交換水を、質量比で56.5:16.1:16.1:11.3の割合で均一に混合して空気極合剤のペーストを作製した。
【0084】
得られた空気極合剤のペーストをシート状に成形し、シート状の空気極合剤のペーストをメッシュ数60、線径0.08mm、開口率60%のニッケルメッシュにプレス圧着させた。
【0085】
ニッケルメッシュに圧着された空気極合剤を窒素ガス雰囲気下で340℃に加熱し、この温度で13分間保持し、焼成した。焼成後、縦40mm、横40mmに裁断して、空気極14を得た。なお、空気極14の厚さは0.20mmであった。
【0086】
(3)負極の製造
【0087】
Nd、Mg、Ni、Alの各金属材料を所定のモル比となるように混合した後、高周波誘導溶解炉に投入しアルゴンガス雰囲気下にて溶解させ、得られた溶湯を鋳型に流し込み、25℃の室温まで冷却してインゴットを作製した。
【0088】
ついで、このインゴットに対し、温度1000℃のアルゴンガス雰囲気下にて10時間保持する熱処理を施した後、アルゴンガス雰囲気下で機械的に粉砕して、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粉末を得た。得られた希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粉末について、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置により体積平均粒径(MV)を測定した。その結果、体積平均粒径(MV)は60μmであった。
【0089】
この水素吸蔵合金粉末の組成を高周波プラズマ分光分析法(ICP)によって分析したところ、組成は、Nd0.89Mg0.11Ni3.33Al0.17であった。
【0090】
得られた水素吸蔵合金の粉末100質量部に対し、ポリアクリル酸ナトリウムの粉末0.2質量部、カルボキシメチルセルロースの粉末0.04質量部、スチレンブタジエンゴムのディスパージョン3.0質量部、カーボンブラックの粉末0.5質量部、水22.4質量部を添加して25℃の環境下において混練し、負極合剤ペーストを調製した。
【0091】
この負極合剤ペーストを面密度(目付)が約250g/m2、厚みが約0.6mmの発泡ニッケルのシートに充填し、これを乾燥させ、負極合剤が充填された発泡ニッケルのシートを得た。得られたシートは圧延され、体積当たりの合金量を高めた後、縦40mm、横40mmに切断して負極12を得た。なお、負極12の厚さは、0.25mmであった。
【0092】
次に、得られた負極12に、活性化処理を施した。この活性化処理の手順を以下に示す。
【0093】
まず、一般的な焼結式の水酸化ニッケル正極を準備した。なお、この水酸化ニッケル正極としては、その正極容量が負極12の負極容量よりも十分大きいものを準備した。そして、この水酸化ニッケル正極と、得られた負極12とを、これらの間にポリエチレンの不織布で形成されたセパレータを介在させた状態で重ね合わせて、活性化処理用電極群を形成した。この活性化処理用電極群を所定量のアルカリ電解液とともにアクリル樹脂製の容器に収容した。これにより、ニッケル水素二次電池の単極セルを形成した。
【0094】
この単極セルに対し、初回の充放電操作として、温度25℃の環境下にて、5時間静置後、0.1Itで14時間の充電を行った後、0.5Itで電池電圧が0.70Vになるまで放電させた。次いで、2回目の充放電操作として、温度25℃の環境下にて、単極セルを5時間静置後、0.5Itで2.8時間の充電を行った後に、0.5Itで電池電圧が0.70Vになるまで放電させる操作を行った。2回目以降は、上記した2回目の充放電操作を1サイクルとする充放電サイクルを複数回行うことにより負極12の活性化処理を行った。また、各充放電サイクルにおいては単極セルの容量を求めた。そして、得られた容量の最大値を負極の容量とした。なお、負極の容量は700mAhであった。
【0095】
その後、0.5Itで2.8時間の充電を行った後、単極セルから負極12を取り外した。このようにして、活性化処理及び充電が済んだ負極12を得た。
【0096】
(4)空気水素二次電池の製造
【0097】
得られた空気極14及び負極12を、これらの間にセパレータ16を挟んだ状態で重ね合わせ、電極群6を作製した。この電極群6の作製に使用したセパレータ16はスルホン基を有するポリプロピレン繊維製不織布により形成されており、その厚みは0.1mm(目付量53g/m2)であった。
【0098】
次いで、評価用の収容袋18を準備し、この収容袋18内に上記した電極群6を収容した。この収容袋18は、例えば、ポリエチレン製の袋であり、チャック付きの出し入れ口(図示せず)が一部に設けられており、また別な一部に縦が30mm、横が30mmの開口20が設けられている。
【0099】
電極群6は上記した出し入れ口から収容袋18内へ入れられた。収容袋18内では、電極群6の下(負極12の下)に、セパレータ16とは別のセパレータ17を配設するとともに、電極群6の上(空気極14の上)にPTFEにより撥水処理を施したカーボン不織布(縦が45mm、横が45mm、厚さが0.2mm)24を配設した。そして、収容袋18の開口20の周囲の部分をカーボン不織布24に密着させ、収容袋18からは開口20を介してカーボン不織布24のみ露出させた状態とした。そして、出し入れ口よりアルカリ電解液(5mol%/lのKOH水溶液)を10ml注入した。その後、出し入れ口のチャックを閉め、収容袋18内を減圧脱泡した。
【0100】
上記したような状態で収容袋18に収容されている電極群6を収容袋18とともに天板8と底板10との間に挟んだ。このとき、収容袋18と底板10との間には負極側緩衝板22を介在させた。そして、天板8及び底板10を連結具34、36で連結し固定した。ここで、天板8は、アクリル樹脂製の板材であり、端部が大気に開放されている通気路26を有している。この通気路26は、幅が2mm、端幅が2.5mm、深さが1mm、山幅が1mmである全体として1本のサーペンタイン形状をなしている。この通気路26は、開口20を介してカーボン不織布24に臨んでいる。底板10は、天板8と同じ大きさのアクリル樹脂製の板材であり、通気孔は備えていない。
【0101】
以上のようにして、
図1に示すような電池2を製造した。得られた電池2は、25℃の環境下で3時間静置し、電極群6にアルカリ電解液を浸透させた。
【0102】
なお、空気極14には空気極リード42が、負極12には負極リード44が、それぞれ電気的に接続されており、これら空気極リード42及び負極リード44は、収容袋18の気密性及び水密性を保持した状態で収容袋18の内側から外側へ適切に延びている。また、空気極リード42の先端には空気極端子46が取り付けられており、負極リード44の先端には負極端子48が取り付けられている。
【0103】
得られた電池2については、空気極端子46及び負極端子48を介して、空気極14の単位面積当たりの電流値が20mA/cm2となる条件で放電を行い、特性評価前の電池2とした。
【0104】
(比較例1)
【0105】
ビスマスルテニウム酸化物に硝酸処理を行わず、硝酸処理を施していないビスマスルテニウム酸化物を用いたことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。
【0106】
2.空気二次電池用触媒及び空気水素二次電池の評価
【0107】
(1)空気二次電池用触媒のX線回折(XRD)分析
【0108】
(i)分析条件
【0109】
実施例1における硝酸処理されたビスマスルテニウム酸化物の粉末の一部及び比較例1における硝酸処理されていないビスマスルテニウム酸化物の粉末の一部を予め分析用試料として取り分けておき、この分析用試料についてX線回折(XRD)分析を行った。分析には平行ビームX線回折装置を用いた。ここでの分析の条件は、X線源はCuKα、管電圧は40kV、管電流は15mA、スキャンスピードは5度/min、ステップ幅は0.02度であった。分析結果のプロファイルを
図2に示した。
【0110】
(ii)考察
【0111】
分析結果のプロファイルにおいて、三角形のマークを付した部分のピークは副生成物のピークである。この分析結果のプロファイルから、硝酸処理が施されていない比較例1に係る空気二次電池用触媒は、副生成物が生じていることがわかる。
【0112】
一方、実施例1では、副生成物のピークが消失している。実施例1の空気二次電池用触媒は、硝酸処理が施されており、この硝酸処理により結晶性の高い副生成物が除去されたものと考えられる。また、実施例1は、比較例1に対して、全体的にバックグラウンドの強度が低下しており、非晶質とみられる副生成物も同時に除去されていると考えられる。
【0113】
(2)空気二次電池用触媒の組成分析
【0114】
(i)分析条件
【0115】
実施例1における硝酸処理されたビスマスルテニウム酸化物の粉末の一部及び比較例1における硝酸処理されていないビスマスルテニウム酸化物の粉末の一部を予め分析用試料として取り分けておき、この分析用試料について走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行うと同時に、エネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いて、試料の組成の分析を行った。
【0116】
実施例1の分析結果のSEM画像(倍率:300倍)の写真を
図3に示し、比較例1の分析結果のSEM画像(倍率:300倍)の写真を
図4に示した。分析結果のSEM画像から、エリアマッピングによる組成分析を行った。組成分析により検出された元素の組成を表1に示した。また、ルテニウム量に対するビスマス量の比(Bi/Ru)も併せて示した。
【0117】
【0118】
(ii)考察
【0119】
実施例1の空気二次電池用触媒のルテニウム量に対するビスマス量の比(Bi/Ru)は0.85であった。一方、比較例1の空気二次電池用触媒のルテニウム量に対するビスマス量の比(Bi/Ru)は0.91であった。つまり、実施例1は、比較例1に対してルテニウム量に対するビスマス量の比が低下している。これは、硝酸処理により副生成物が除去されたことに起因すると考えられる。
【0120】
以上より、ビスマスルテニウム酸化物に硝酸処理を施さなければ、Bi/Ruの値は0.91となり、ビスマスルテニウム酸化物に硝酸処理を施すと、副生成物が除去され、Bi/Ruの値は0.91よりも低くなることがわかる。
【0121】
(3)空気水素二次電池の特性分析
【0122】
(i)分析条件
【0123】
実施例1及び比較例1に係る特性評価前の各電池に対し、25℃の環境下にて、3時間静置後、電流値が180mAとなる充電電流で2.2時間充電し、その後、20分間静置した。
【0124】
ついで、20分間静置した後の電池に対し、同一の環境下にて、電流値が180mAとなる放電電流で電池電圧が0.4Vになるまで放電した後、10分間静置した。
【0125】
上記した充放電のサイクルを1サイクルとして、20サイクル繰り返した。
【0126】
なお、通気路26には充放電によらず、常に1分間当たり13mlの空気を流し続けた。
【0127】
各サイクルにおいて、充電時における充電容量及び放電時における放電容量を求めた。得られた充電容量及び放電容量から、各サイクルにおける充電容量に対する放電容量の百分率を放電容量率として求めた。そして、放電容量率とサイクル数との関係から放電容量の推移を求めた。その結果を
図5に示した。
【0128】
また、20サイクル目の充電を行った後の休止状態において、電池電圧と経過時間との関係を求めた。この電池電圧と経過時間との関係から電圧推移を求めた。その結果を
図6に示した。
【0129】
(ii)考察
【0130】
実施例1の電池に係る放電容量率の推移のグラフは、充放電サイクルが進行しても放電容量率が、98~99%程度でほぼ一定の値を示し、安定している。つまり、実施例1の電池は、充電した量とほぼ等しい量だけ放電されており、しかも、その状態は充放電サイクルが進行しても維持されている。つまり、実施例1の電池は、自己放電が低く抑えられている。これは、実施例1の電池では、微小短絡が発生していないためと考えられる。
【0131】
一方、比較例1の電池に係る放電容量率の推移のグラフは、充放電サイクルの進行に伴って放電容量率が低下している。つまり、比較例1の電池は、充電した量に比べ放電した量が少なくなっており自己放電を起こしている。これは、比較例1の電池では、微小短絡が発生しているためと考えられる。
【0132】
また、実施例1の電池に係る電圧推移のグラフは、電池電圧の値が1.35V程度で推移し、急激な低下もなく安定している。これは、実施例1の電池では、微小短絡が発生していないためと考えられる。
【0133】
一方、比較例1の電池に係る電圧推移のグラフは、電池電圧の値が休止状態開始直後から急激に低下している。これは、比較例1の電池では、微小短絡が発生しているためと考えられる。
【0134】
(4)セパレータのX線回折(XRD)分析
【0135】
(i)分析条件
【0136】
上記した空気水素二次電池の特性分析において充放電を20サイクル繰り返した後の実施例1及び比較例1の電池を解体し、セパレータを取り出した。実施例1に係るセパレータ及び比較例1に係るセパレータについて、一部を切り取り、分析用試料を採取した。得られた分析用試料についてX線回折(XRD)分析を行った。分析には平行ビームX線回折装置を用いた。ここでの分析の条件は、X線源はCuKα、管電圧は40kV、管電流は15mA、スキャンスピードは1度/min、ステップ幅は0.01度であった。分析結果のプロファイルを
図7に示した。
【0137】
なお、未使用のセパレータについても分析用試料を準備し、この未使用のセパレータについても、上記と同条件でX線回折(XRD)分析を行った。得られた分析結果のプロファイルを
図7に併せて示した。
【0138】
(ii)考察
【0139】
比較例1に係るセパレータのプロファイルでは、黒塗りの三角形のマークを付した部分にピークがある。このピークは、ビスマスのピークに相当する。つまり、比較例1に係るセパレータにはビスマスが析出していることがわかる。このことから、硝酸処理を施していない比較例1においては、副生成物が残存しており、この副生成物に含まれているビスマスが電池反応にともない溶解析出反応を起こし、デンドライト成長して、セパレータ内に伸びたものと考えられる。このセパレータ内に伸びたビスマスが微小短絡の原因となっていると考えられる。
【0140】
実施例1に係るセパレータのプロファイルでは、黒塗りの三角形のマークを付した部分にピークは存在していない。また、未使用のセパレータのプロファイルと実施例1のセパレータのプロファイルとはほぼ一致しており、実施例1のセパレータは、充放電が繰り返されても初期の状態が維持されている。これらのことから、実施例1に係るセパレータにはビスマスの析出は起こっていないといえる。これは、硝酸処理により副生成物が除去されたことに起因しているためと考えられる。
【0141】
以上より、硝酸処理により副生成物が除去されれば、ビスマスの析出は起こらず微小短絡の発生を抑制できるといえる。ビスマスルテニウム酸化物は、硝酸処理を施され、Bi/Ruの値が0.90以下となれば、ビスマスの析出が起こらない効果が得られる程度に副生成物が除去された状態となると考えられる。このため、ビスマスルテニウム酸化物については、硝酸処理を施し、Bi/Ruの値が0.90以下でなるべく低くなることが好ましいと考えられる。ただし、Bi/Ruの値が0.80未満となるとビスマスルテニウム酸化物の結晶構造が変化する可能性がある。よって、Bi/Ruの値は、0.90以下、0.80以上とすることがより好ましいと考えられる。
【0142】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、空気二次電池用触媒としては、ビスマスルテニウム酸化物の他に、前記した遷移元素酸化物が挙げられる。本発明によれば、前記した遷移元素酸化物に対し酸処理を施すことにより、前記した遷移元素酸化物の製造過程で生じる副生成物を除去でき、副生成物が除去された状態の空気二次電池用触媒が得られるので、副生成物中の遷移元素がデンドライト成長する不具合の発生を抑制することができる。
【0143】
<本発明の態様>
【0144】
本発明の第1の態様は、空気二次電池の空気極に用いる空気二次電池用触媒の製造方法であって、パイロクロア型酸化物の前駆体を調製する前駆体調製工程と、前記前駆体を焼成し、パイロクロア型酸化物を形成する焼成工程と、前記焼成工程により得られた前記パイロクロア型酸化物を酸性水溶液に浸漬させ酸処理する酸処理工程と、を備えている空気二次電池用触媒の製造方法である。
【0145】
本発明の第2の態様は、上記した本発明の第1の態様において、前記パイロクロア型酸化物は、一般式:A2-XB2-YO7-Z(ただし、X、Y、Zは、それぞれ0以上1以下の数値を表し、Aは、Bi、Pb、Tb、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Mn、Y、Znから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Bは、Ru、Ir、Si、Ge、Ta、Sn、Hf、Zr、Ti、Nb、V、Sb、Rh、Cr、Re、Sc、Co、Cu、In、Ga、Cd、Fe、Ni、W、Moから選ばれる少なくとも1種の元素を表している。)で表される組成を有しているパイロクロア型の遷移元素酸化物である、空気二次電池用触媒の製造方法である。
【0146】
本発明の第3の態様は、上記した本発明の第1又は第2の態様において、前記酸性水溶液は、硝酸水溶液、塩酸水溶液、硫酸水溶液のうちのいずれかである、空気二次電池用触媒の製造方法である。
【0147】
本発明の第4の態様は、上記した本発明の第2又は第3の態様において、前記パイロクロア型の遷移元素酸化物は、パイロクロア型のビスマスルテニウム酸化物である、空気二次電池用触媒の製造方法である。
【0148】
本発明の第5の態様は、上記した本発明の第4の態様において、前記ビスマスルテニウム酸化物に含まれているビスマスの量をX、ルテニウムの量をYとした場合に、前記ルテニウムの量に対する前記ビスマスの量の比であるX/Yの値が、0.90以下となるように前記酸処理が施される、空気二次電池用触媒の製造方法である。
【0149】
本発明の第6の態様は、上記した本発明の第5の態様において、前記ルテニウムの量に対する前記ビスマスの量の比であるX/Yの値が、0.80以上となるように前記酸処理が施される、空気二次電池用触媒の製造方法である。
【0150】
本発明の第7の態様は、空気二次電池用触媒を含む空気極合剤を空気極基材に担持させ空気極を製造する空気極製造工程と、負極合剤を負極基材に担持させ負極を製造する負極製造工程と、前記空気極と、前記負極とをセパレータを介して重ね合わせて電極群を形成する電極群形成工程と、前記電極群をアルカリ電解液とともに容器に収容する収容工程と、を備え、前記空気二次電池用触媒は、上記した本発明の第1~6の態様の何れかの空気二次電池用触媒の製造方法により製造される、空気二次電池の製造方法である。
【0151】
本発明の第8の態様は、上記した本発明の第7の態様において、前記負極製造工程は、前記負極合剤に水素吸蔵合金を含有させるプロセスを更に含む、空気二次電池の製造方法である。
【0152】
本発明の第9の態様は、空気二次電池の空気極に用いられる空気二次電池用触媒であって、酸性水溶液に浸漬される酸処理が施され、製造過程で生じた副生成物が除去された状態のパイロクロア型酸化物を含む、空気二次電池用触媒である。
【0153】
本発明の第10の態様は、上記した本発明の第9の態様において、前記パイロクロア型酸化物は、一般式:A2-XB2-YO7-Z(ただし、X、Y、Zは、それぞれ0以上1以下の数値を表し、Aは、Bi、Pb、Tb、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Mn、Y、Znから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Bは、Ru、Ir、Si、Ge、Ta、Sn、Hf、Zr、Ti、Nb、V、Sb、Rh、Cr、Re、Sc、Co、Cu、In、Ga、Cd、Fe、Ni、W、Moから選ばれる少なくとも1種の元素を表している。)で表される組成を有しているパイロクロア型の遷移元素酸化物である、空気二次電池用触媒である。
【0154】
本発明の第11の態様は、上記した本発明の第10の態様において、前記パイロクロア型の遷移元素酸化物は、ビスマスルテニウム酸化物である、空気二次電池用触媒である。
【0155】
本発明の第12の態様は、上記した本発明の第11の態様において、前記ビスマスルテニウム酸化物は、前記ビスマスルテニウム酸化物に含まれているビスマスの量をX、ルテニウムの量をYとした場合に、前記ルテニウムの量に対する前記ビスマスの量の比であるX/Yの値が、0.90以下である、空気二次電池用触媒である。
【0156】
本発明の第13の態様は、上記した本発明の第12の態様において、前記ルテニウムの量に対する前記ビスマスの量の比であるX/Yの値が、0.80以上である、空気二次電池用触媒である。
【0157】
本発明の第14の態様は、セパレータを介して重ね合わされた空気極及び負極を含む電極群と、前記電極群をアルカリ電解液とともに収容している容器と、を備え、前記空気極は、上記した本発明の第9~11の態様の何れかの空気二次電池用触媒を含んでいる、空気二次電池である。
【0158】
本発明の第15の態様は、上記した本発明の第14の態様において、前記負極は、水素吸蔵合金を含んでいる、空気二次電池である。
【符号の説明】
【0159】
2 電池(空気水素二次電池)
4 容器
6 電極群
8 天板
10 底板
12 負極
14 空気極(正極)
16 セパレータ
24 カーボン不織布
26 通気路