(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】フィルム成形装置
(51)【国際特許分類】
B29C 51/26 20060101AFI20220531BHJP
B29C 51/10 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
B29C51/26
B29C51/10
(21)【出願番号】P 2018113862
(22)【出願日】2018-06-14
【審査請求日】2021-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】304050369
【氏名又は名称】株式会社浅野研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺本 一典
(72)【発明者】
【氏名】高井 章伍
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-024309(JP,A)
【文献】特開平04-282224(JP,A)
【文献】特開2017-154430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 51/26
B29C 51/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と,
前記基台との間にフィルムを挟み込むボックス体と,
前記基台と前記ボックス体との間に挟み込まれたフィルムと,前記ボックス体と,の間の空間を加圧する加圧部と,を有し,
前記加圧部の加圧により前記フィルムを前記基台に押し付けて成形するフィルム成形装置であって,
前記ボックス体は,
前記基台側が開口しておりその反対側が閉鎖されている主体部と,
前記主体部の開口側と前記基台との間に位置し,前記基台とともに前記フィルムを挟み付ける環状の枠部とを有し,
前記枠部は,前記主体部から見て,前記基台に向かって近接しまた離隔する方向に,前記主体部との間で気密を維持しつつ移動できるように設けられていること
,
前記主体部および前記枠部にそれぞれ,前記基台に向かう方向の摺動を支持する摺動面が設けられるとともに,前記摺動面同士の間に,気密を維持するシール部材が挟み込まれていること,
前記枠部は,前記摺動面が形成された第1部位と,前記主体部の下面とその上面が当接し,前記基台とその下面が当接する第2部位と,前記第1部位と前記第2部位を連結する第3部位を備え,前記第1部位の前記摺動面には、前記シール部材を挟み込むための溝が形成されていること,
を特徴とするフィルム成形装置。
【請求項2】
請求項1に記載のフィルム成形装置であって,
前記主体部と前記枠部との離隔を規制する規制部材を有することを特徴とするフィルム成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,フィルムを基台に押し付けて成形するフィルム成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から,インサート成形その他の用途のために,フィルム状の部材を所望の形状に成形することが行われている。そのようなフィルム成形技術の一例として,非特許文献1の2ページ目の
図2の右半分に記載されているものを挙げることができる。同図の成形機では,「下型」と「上圧空BOX」とでフィルムを挟み付けるとともに,上圧空BOXとフィルムとの間の空間を加圧することとしている。これにより,フィルムが下型の形状に成形される。成形されたフィルムはその後,下型から分離され,また余分な周辺部分が切除されて,多層化その他の後工程に供される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】溝口憲一著「熱成形による加飾成形技術」(プラスチックスエージVol.59 2013 Mar. p50-p54)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら前記した従来の技術には,次のような問題点があった。多品種対応が不便なのである。その原因は,加圧時に上圧空BOXが上向きに逃げようとすることにある。これでは肝心のフィルムにうまく圧力が加わらないので,上圧空BOXの逃げを防止する必要がある。このため,加圧時における上圧空BOXの高さ方向位置を位置決めする必要がある。一方,多品種対応とする場合には,成形対象のフィルムの厚さも種々異なる。フィルムの厚さが種々異なれば,上圧空BOXの位置決め位置も異なることになる。その調整が煩雑なのである。
【0005】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,多品種対応を容易にできるようにしたフィルム成形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様におけるフィルム成形装置は,基台と,基台との間にフィルムを挟み込むボックス体と,基台とボックス体との間に挟み込まれたフィルムとボックス体との間の空間を加圧する加圧部と,を有し,加圧部の加圧によりフィルムを基台に押し付けて成形するフィルム成形装置であって,ボックス体は,基台側が開口しておりその反対側が閉鎖されている主体部と,主体部の開口側と基台との間に位置し,基台とともにフィルムを挟み付ける環状の枠部とを有し,枠部は,主体部から見て,基台に向かって近接しまた離隔する方向に,主体部との間で気密を維持しつつ移動できるように設けられている。
【0007】
上記態様におけるフィルム成形装置では,ボックス体の枠部と基台との間にフィルムを挟み込んだ状態でフィルムの成形を行う。すなわち,挟み込まれたフィルムは,基台を覆っている。加圧部で加圧すると,フィルムとボックス体との間の空間の圧力が上昇していく。この圧力により枠部がフィルムに押し付けられ,またフィルムが基台に押し付けられる。これによりフィルムが,基台の形状に倣った形状に成形される。このため,成形対象のフィルムの厚さに応じた調節を要しない。
【0008】
上記態様のフィルム成形装置ではさらに,主体部および枠部にそれぞれ,基台に向かう方向の摺動を支持する摺動面が設けられるとともに,摺動面同士の間に,気密を維持するシール部材が挟み込まれていることが望ましい。このようになっていれば,摺動可能な距離をある程度確保しやすい。また機密性も確保しやすい。
【0009】
上記のいずれかの態様のフィルム成形装置ではまた,主体部と枠部との離隔を規制する規制部材を有することが望ましい。成形時に加圧部の加圧により,主体部が基台から離隔する向きに移動することとなる。この移動を規制部材で規制することで,圧力上昇によるフィルムの成形をより良好に行うことができる。
【発明の効果】
【0010】
本構成によれば,多品種対応を容易にできるようにしたフィルム成形装置が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態に係るフィルム成形装置の構成を示す断面図である。
【
図2】
図1のフィルム成形装置にフィルムをセットした状態を示す断面図である。
【
図3】
図2の状態に対して加圧ポンプで加圧した状態を示す断面図である。
【
図4】変形例の場合の枠部材付近を示す断面図(その1)である。
【
図5】変形例の場合の枠部材付近を示す断面図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,
図1に示す構成のフィルム成形装置1として,本発明を具体化したものである。
図1のフィルム成形装置1は,上部分2と下部分3とにより構成されている。上部分2は,成形対象であるフィルム4より上方に位置する部分である。下部分3は,フィルム4より下方に位置する部分である。
【0013】
上部分2は,圧空ボックス5と,枠部材6とを有している。圧空ボックス5は,下方側,すなわち下部分3の側が開口した箱状の部材である。圧空ボックス5における開口側と反対側(
図1中で上方)は閉鎖されている。枠部材6は,圧空ボックス5の開口部分に取り付けられている枠状の部材である。枠部材6は,圧空ボックス5と下部分3との間に位置しており,圧空ボックス5の開口部に沿う環状をなしている。圧空ボックス5と枠部材6とにはそれぞれ,縦方向の摺動面7,8が形成されている。圧空ボックス5の摺動面7と枠部材6の摺動面8との間には,シールリング9が挟み込まれている。これにより枠部材6は,圧空ボックス5に対して縦方向に摺動可能とされている。
【0014】
この摺動方向は,圧空ボックス5から見て,下部分3に向かって近接しまたは離隔する方向である。言い替えれば,圧空ボックス5の高さ方向の寸法がある程度伸縮可能とされている,ということである。つまり,圧空ボックス5と枠部材6とを合わせたものが「ボックス体」に相当し,圧空ボックス5がその「主体部」であり枠部材6がその「枠部」である。枠部材6の下端は,フィルム4に接触する(
図1中では接触していない)接触端10とされている。また,圧空ボックス5には,加圧ポンプ11が接続されている。
【0015】
圧空ボックス5の上方には,昇降装置12と,ストッパ部材13とが設けられている。昇降装置12は,圧空ボックス5を上下に移動させるものである。より詳細には昇降装置12は,圧空ボックス5を上昇させる状態と,上昇を解除する状態とをとるものである。ストッパ部材13は後述するように,圧空ボックス5の上向きの移動を規制するものである。また,圧空ボックス5と枠部材6との過度の離隔を規制するものであるとも言える。ストッパ部材13は,退避可能である。
図1中に示されるストッパ部材13の位置は退避した位置であり,フィルム4の成形を行うときのストッパ部材13は,もう少し低い位置となる。
【0016】
下部分3は,下ボックス14と型台15とを有している。下ボックス14は,上方が開口した箱状の部材である。型台15は,下ボックス14の中に配置されており,型面16を上方に向けている部材である。下ボックス14内にはさらに,昇降装置17が設けられている。昇降装置17は,型台15を下ボックス14内で上下に移動させるものである。
図1における型台15は,その昇降移動の範囲内で下降した位置にある。この,下ボックス14と型台15とを合わせた全体が,「基台」に相当する。
【0017】
次に,上記のように構成されたフィルム成形装置1におけるフィルム4の成形動作を説明する。フィルム成形装置1でのフィルム4の成形とは,フィルム4を,型台15の型面16の形状に成形することである。そのためにはまず,新たなフィルム4をフィルム成形装置1にセットする。
【0018】
新たなフィルム4のセットとは,新たなフィルム4により下部分3が覆われ,そのフィルム4を上部分2で下部分3とともに挟み付ける状態とすることである。そのためには,ストッパ部材13を退避させ,圧空ボックス5を昇降装置12により上昇させ,型台15を下降させておく。その状態で,新たなフィルム4を引き出してきて下ボックス14に被せるようにする。そして,圧空ボックス5の昇降装置12による上昇を解除する。また,型台15を上昇させる。この状態を
図2に示す。
【0019】
図2の状態では,上部分2(枠部材6)の接触端10と,下ボックス14の縁辺部とで,フィルム4が挟み付けられている。これにより,上部分2とフィルム4とで区画される空間が,外界から遮断された閉鎖空間となっている。この状態での昇降装置12は,圧空ボックス5を下向きに押圧している。この押圧力は軽いものでよい。この状態ではまた,上部分2の圧空ボックス5と枠部材6とが,最も近接している状態にある。この状態での圧空ボックス5および枠部材6の高さ方向位置は,厳密にはフィルム4の厚さにより多少異なる。
【0020】
図2の状態ではまた,型台15が,
図1中に示される位置よりも上昇した位置にある。
図2における型台15では,その型面16の周縁部分が下ボックス14の縁辺部とほぼ同じ高さとなっている。このため,型面16の中央の盛り上がり部分が上部分2側に食い込む形となっている。これにより,フィルム4はフィルム成形装置1の内部で上向きに張られた状態となっている。
【0021】
この状態で加圧ポンプ11をオンする。これにより,上部分2とフィルム4と間の閉鎖空間を加圧する。そうすると当該閉鎖空間が膨張しようとする。圧空ボックス5と枠部材6との摺動によりこの閉鎖空間の膨張が実現される。このため
図2に示した状態に対して,枠部材6の位置はそのままで,圧空ボックス5が上昇する。この圧空ボックス5の上昇は,昇降装置12によるのではなく,加圧ポンプ11からの加圧による動きである。また,圧空ボックス5のこの上昇に対して,昇降装置12による押圧は,軽いので特に邪魔とはならない。圧空ボックス5と枠部材6とのこの摺動は,摺動面7,8により支持される動きである。一方で枠部材6は,空気圧によりフィルム4に押し付けられる。また,摺動時においてもシールリング9により,摺動面7,8の間を通しての空気漏れは阻止されている。
【0022】
加圧による圧空ボックス5の上昇はやがて,圧空ボックス5がストッパ部材13に当接することで停止する。これ以後は,加圧により枠部材6のフィルム4への押圧力が増していく。これを型締めと呼んでいる。この型締めとともに,フィルム4は全体的に型台15の型面16に押し付けられることとなる。この状態を
図3に示す。
図3の状態では,フィルム4は全体的に型面16に密着している。このようにしてフィルム4が,型台15の型面16の形状に成形される。成形されたフィルム4はその後,型台15から分離され,縁辺の余計な部位が除去された上で,多層化その他の後処理に供される。
【0023】
上記のようなフィルム成形装置1におけるフィルム4の成形処理においては,フィルム4の厚さに対して寛容である,という特徴がある。なぜなら,フィルム4の厚さの相違は,
図2の状態から
図3の状態への圧空ボックス5と枠部材6との摺動量(圧空ボックス5の上昇量)により吸収されるからである。
図2の状態での圧空ボックス5の高さは前述のようにフィルム4の厚さの影響を受けるのに対し,
図3の状態での圧空ボックス5の高さはフィルム4の厚さとは無関係である。
【0024】
したがって,成形対象のフィルム4の品種を変更する場合でも,ストッパ部材13の高さを調節したりシムを噛ませたりする必要はない。また,このときの圧空ボックス5の上昇は昇降装置12によるものではないので,昇降装置12の駆動量を微調節するようなことも不要である。このようにして,フィルム4の厚さのバリエーションへの対応性が良好なフィルム成形装置1となっている。
【0025】
なお,上記のようにしてフィルム4の成形を行うに際して,フィルム4における形成予定箇所をあらかじめ予熱しておくことが望ましい場合がある。そのため,フィルム4を予熱するヒータをフィルム成形装置1と組み合わせて配置することが望ましい。あるいは,圧空ボックス5の内部にヒータを配置してもよい。もしくは,型台15にヒータ機能を内蔵してもよい。
【0026】
以上詳細に説明したように本実施の形態によれば,圧空ボックス5の下端の開口部のところに枠部材6を摺動可能に設けている。これにより実質的に,圧空ボックス5と枠部材6との全体としての高さ方向の寸法を可変としている。このようにすることで,多品種対応を容易にできるようにしたフィルム成形装置1が実現されている。
【0027】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,下ボックス14に減圧ポンプを設けてもよい。また,前記形態では,圧空ボックス5と枠部材6との取付構造において,枠部材6が外側で圧空ボックス5が内側とした。しかしこの内外関係は逆でもよい。
【0028】
さらに,摺動面7,8自体が不可欠ではない。
図4に示すように,圧空ボックス18と枠部材19とを水平面20,21同士で向き合わせてその間にシールリング22を配置してもよい。この場合,シールリング22の伸縮範囲内でのみ,フィルム4の厚さの相違に対応できることになる。しかし多くの場合それで十分である。さらにこの場合,枠部材19の脱落防止機構23が備えられることになる。縦方向の摺動面7,8間にシールリング9を挟み込む
図1~
図3の形態であっても,
図4に示すような脱落防止機構23を備えることができる。あるいは
図5に示すように摺動面7,8の形状により脱落防止機構23の機能を持たせることもできる。
【0029】
さらに,成形後のフィルム4を型台15から分離しない用途にも適用可能である。すなわち,ラミネートや転写のようにフィルム4により型台15にコーティングを施す用途にも使用することができる。その場合には成形の都度型台15を交換することとなる。なお,型台15の昇降装置17は不可欠なものではない。なお,圧空ボックス5等を上方から見た全体形状は,多角形でも円形でもよく,特段の限定はない。
【符号の説明】
【0030】
1 フィルム成形装置
3 下部分(基台)
4 フィルム
5,18 圧空ボックス
6,19 枠部材
7,8 摺動面
9,22 シールリング
11 加圧ポンプ
13 ストッパ部材(規制部材)
14 下ボックス
15 型台
23 脱落防止機構(規制部材の別の例)