IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 有限会社飯田製作所の特許一覧

<>
  • 特許-金属体-フッ素樹脂体接合体の製造方法 図1
  • 特許-金属体-フッ素樹脂体接合体の製造方法 図2
  • 特許-金属体-フッ素樹脂体接合体の製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】金属体-フッ素樹脂体接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 37/06 20060101AFI20220531BHJP
   B29C 65/44 20060101ALI20220531BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20220531BHJP
   B32B 15/082 20060101ALI20220531BHJP
   B32B 37/14 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
B32B37/06
B29C65/44
B32B15/08 105Z
B32B15/082 B
B32B37/14 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019210673
(22)【出願日】2019-11-21
(65)【公開番号】P2021079662
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2021-03-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515110122
【氏名又は名称】有限会社飯田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】野渡 透一
(72)【発明者】
【氏名】三宅 茂夫
(72)【発明者】
【氏名】野渡 潤也
(72)【発明者】
【氏名】保谷 篤彦
(72)【発明者】
【氏名】花田 秀美
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-125136(JP,A)
【文献】特開2016-037023(JP,A)
【文献】特開2019-123153(JP,A)
【文献】特開2019-018403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C63/00-63/48
65/00-65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属体-フッ素樹脂体接合体の製造方法であって、前記フッ素樹脂体は、第1の面と、前記第1の面に対向する第2の面とを有し、前記製造方法は、
粗面加工された表面を有する前記金属体を提供する工程と、
前記表面に、フッ素樹脂体を前記第1の面を接触させる工程と、
前記金属体を熱しながら、前記金属体と前記フッ素樹脂体とを圧接する工程と
を備え
前記第1の面と前記第2の面との間の前記フッ素樹脂体の厚みは、1mm~3mmからなる板体もしくは筒体であり、
前記加熱は、前記金属体を前記フッ素樹脂体の溶融温度以上に加熱し、加熱された前記金属体からの伝熱によって前記フッ素樹脂体の前記第1の面を前記フッ素樹脂体の溶融温度以上に加熱し、かつ前記フッ素樹脂体の前記第2の面は前記溶融温度以上にならないように行うことを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
前記接触させる工程は、前記金属体と前記フッ素樹脂体との間に接着層を配さず直接前記金属体と前記フッ素樹脂体とを重ねる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記接触させる工程は、プラズマ処理した前記金属体および/またはプラズマ処理した前記フッ素樹脂体との間にPFAフィルムを介した状態で接触させる、請求項1に記載の製造方法
【請求項4】
前記金属体の加熱温度は50℃~00℃であり、加熱時間は分~0分であり、前記フッ素樹脂体の前記第2の面の温度は00℃を超えないように加熱する、請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記圧接する工程における、前記金属体と前記フッ素樹脂体との圧接力は、.2MPa~.0MPaである、請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記金属体および前記フッ素樹脂体は、それぞれ板体である、請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記金属体および前記フッ素樹脂体は、それぞれ筒体である、請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属体-フッ素樹脂体接合体の製造方法に関し、特に約1mm以上の厚みを有するフッ素樹脂体と金属体との接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、その耐化学薬品性、耐熱性、非粘着性などの優れた特性によって金属表面への被覆材料として好ましく用いられており、例えば、金属体-フッ素樹脂体接合体は耐蝕性の要求される化学装置のライニングや、耐蝕性および非粘着性の要求される調理器具の内面などに用いられている。従来より、一般的にはフッ素樹脂と金属との間に接着剤を介在させることでフッ素樹脂と金属とを接合し、金属体-フッ素樹脂体接合体を製造していた。また、従来は金属に接合するフッ素樹脂の厚みは薄膜(数~数十μm)であって、厚みの大きい(例えば、約1mm以上)フッ素樹脂と金属とを所望の接合強度(剥離強度)で接合された金属体-フッ素樹脂体接合体の製造方法は存在しなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、これらの方法は初期には所望の接合強度(剥離強度)を示すが、その耐熱性は接着剤自身の熱劣化、また、アンカー効果の減衰などに劣化することで、長期にわたり所望の接合強度(剥離強度)を維持するのが困難という問題があった。
【0004】
本発明は、長期にわたり高い接合強度(剥離強度)が維持される金属体-フッ素樹脂体接合体の製造方法を得ることを目的とする。また、本発明は、所定の厚み(例えば、約1mm以上)を有するフッ素樹脂体からなる金属体-フッ素樹脂体接合体において、高い接合強度(剥離強度)を達成する接合方法を提供することをもう一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の項目を提供する。
【0006】
(項目1)
金属体-フッ素樹脂体接合体の製造方法であって、前記フッ素樹脂体は、第1の面と、前記第1の面に対向する第2の面とを有し、前記製造方法は、
粗面加工された表面を有する前記金属体を提供する工程と、
前記表面に、フッ素樹脂体を前記第1の面を接触させる工程と、
前記金属体を、前記フッ素樹脂体の溶融温度以上に、かつ前記フッ素樹脂体の前記第2の面が前記溶融温度以上にならないように加熱しながら、前記金属体と前記フッ素樹脂体とを圧接する工程と
を備えた、製造方法。
【0007】
(項目2)
前記接触させる工程は、前記金属体と前記フッ素樹脂体との間に接着層を配さず直接前記金属体と前記フッ素樹脂体とを重ねる、項目1に記載の製造方法。
【0008】
(項目3)
前記接触させる工程は、前記金属体と前記フッ素樹脂体の少なくともいずれか一方がプラズマ処理された状態の前記金属体と前記フッ素樹脂体とをPFAフィルムを介した状態で接触させる、項目1に記載の製造方法
(項目4)
前記第1の面と前記第2の面との間の前記フッ素樹脂体の厚みは、約1mm~約3mmである、項目1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【0009】
(項目5)
前記金属体の加熱温度は約350℃~約400℃であり、加熱時間は約5分~約30分であり、前記フッ素樹脂体の前記第2の面の温度は約200℃を超えないように加熱する、項目1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【0010】
(項目6)
前記圧接する工程における、前記金属体と前記フッ素樹脂体との圧接力は、約0.2MPa~約1.0MPaである、項目1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【0011】
(項目7)
前記金属体および前記フッ素樹脂体は、それぞれ板体である、項目1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【0012】
(項目8)
前記金属体および前記フッ素樹脂体は、それぞれ筒体である、項目1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【0013】
(項目9)
粗面化された表面を備えた金属体と、
約1mm~約3mmのフッ素樹脂体と
が接合された金属体-フッ素樹脂体接合体であって、
前記粗面化された表面と前記フッ素樹脂体とが接着層を介さず接合されており、
前記金属体と前記フッ素樹脂体との接合強度が約50kgf以上である、接合体。
【0014】
(項目10)
項目1~8のいずれか一項に記載の製造方法によって製造された、項目9に記載の接合体。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、長期にわたり高い接合強度(剥離強度)が維持される金属体-フッ素樹脂体接合体の製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】接合前の金属体とフッ素樹脂体との断面の一例を示す図
図2】板体の金属体と板体のフッ素樹脂体とを圧接した状態で加熱を行うことで、金属体-フッ素樹脂体接合体を成形した状態の断面の一例を示す図。
図3】筒体の金属体と筒体のフッ素樹脂体とを圧接した状態で加熱を行うことで、金属体-フッ素樹脂体接合体を成形した状態の断面の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0018】
本明細書において、「約」とは、後に続く数字の±10%の範囲内をいう。
【0019】
本発明は、長期にわたり高い接合強度(剥離強度)が維持される金属体-フッ素樹脂体接合体の製造方法を得ることができることを課題とし、
金属体-フッ素樹脂体接合体の製造方法であって、前記フッ素樹脂体は、第1の面と、前記第1の面に対向する第2の面とを有し、前記製造方法は、
粗面加工された表面を有する前記金属体を提供する工程と、
前記表面に、フッ素樹脂体を前記第1の面を接触させる工程と、
前記金属体を、前記フッ素樹脂体の溶融温度以上に、かつ前記フッ素樹脂体の前記第2の面が前記溶融温度以上とならないように加熱しながら、前記金属板と前記フッ素樹脂体とを圧接する工程と
を備えた、製造方法を提供することによって、上記課題を解決した。
【0020】
すなわち、本発明の金属体-フッ素樹脂体接合体の製造方法は、金属体を、フッ素樹脂体の溶融温度以上に、かつフッ素樹脂体の金属体と接する第1の面と対向する第2の面の温度が溶融温度以上とならないように加熱しながら、金属体とフッ素樹脂体とを圧接することにより、金属体の粗面化された表面と接するフッ素樹脂体の第1の面が溶融温度以上に加熱されることで第1の面は溶融し金属体の粗面化された表面と密接に接合されるとともに、フッ素樹脂体全体が溶融しないため、フッ素樹脂体自体の機械強度の低下が防止される。その結果、金属体-フッ素樹脂体接合体の高い接合強度(剥離強度)を長期にわたって維持することが可能となる。
【0021】
したがって、本発明の金属体-フッ素樹脂体接合体の製造方法は、金属体とフッ素樹脂体とを圧接した状態で金属体を加熱するものであって、金属体の加熱が、フッ素樹脂体の溶融温度以上であって、かつフッ素樹脂体の第1の面と対向する第2の面の温度が溶融温度以上とならないように加熱するものであれば、その他の構成は任意であり得る。
(フッ素樹脂体)
本発明の製造方法におけるフッ素樹脂体は、第1の面と、第1の面に対向する第2の面とを有するものであれば、その形状は特に限定されるわけではなく、任意の形状であり得る。ここで、第1の面は後述する金属体の粗面化された表面に接触させる面である。フッ素樹脂体の形状としては、例えば、フッ素樹脂体は第1の面と第1の面に対向する第2の面とを有する板状体であってもよいし、筒体(リング状体)であってもよい。
例えば、フッ素樹脂体が、第1の面と第1の面と対向する第2の面とを有する板状体の場合、平面視において略円形状(略真円、略楕円など)などであってもよい。また、本発明の製造方法におけるフッ素樹脂体の厚み(第1の面と、第1の面に対向する第2の面との間の距離)は、特に限定されるものではなく任意であり得る。例えば、フッ素樹脂体の厚みは、数μm~数百μm程度の薄膜であってもよいし、約1mm以上の厚さであってもよい。1つの実施形態において、フッ素樹脂体の厚みは、約1mm~約3mmの厚さである。
【0022】
本発明の製造方法におけるフッ素樹脂体は、樹脂の分子構造中にフッ素を含む合成樹脂であれば、特に限定されるわけではなく、任意の樹脂であり得る。具体的には、例えば、4個フッ素原子を有する四フッ化エチレン系樹脂、三フッ化エチレン系樹脂、二フッ化エチレン系樹脂、一フッ化エチレン系樹脂およびこれらの樹脂の混合物などであり得る。その中でも、特に、熱可塑性を示さず加工性が悪く、接合性が悪い四フッ化エチレン系樹脂が好ましい。ここで、四フッ化エチレン系樹脂とは、具体的には、例えば、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、四フッ化エチレンバーフロロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・バーフロロアルコキシエチレン共重合体(EPE)および四フッ化エチレン・エチレン共重合体(ETFE)などである。中でも好ましくはPTFEである。
【0023】
フッ素樹脂体の金属体と接触させる表面性状は任意であり得る。例えば、平滑な面であってもよいし、粗面化された面であってもよい。本発明の製造方法におけるフッ素樹脂体において、粗面化する手段は、特に限定されるものではなく、任意の粗面化手段であり得る。金属体と接触する表面を粗面化することにより、金属体との接触面積が増加することにより接合強度(剥離強度)を向上させることが可能となる。
【0024】
例えば、具体的な粗面化手段としては、エッチング液(例えば、強アルカリ溶液、過マンガン酸塩溶液、クロム酸塩溶液など)に浸漬させる化学エッチング加工、サンドブラス加工などの機械研磨加工、陽極酸化加工、レーザー加工、プラズマ加工などがある。粗面化手段の好ましい実施形態として、プラズマ加工である。プラズマ加工は、化学エッチング加工による処理液の廃液処理の問題や、ブラスト加工などの周囲に粉塵が充満することによる作業者の健康や加工室内の清掃の問題などが生じないためである。
【0025】
本発明の金属体-フッ素樹脂体接合体の製造方法においては、従来、接合性が悪い四フッ化エチレン系樹脂においても金属体と高い接合強度(剥離強度)を得ることが可能である。
(金属体)
本発明の製造方法における金属体は、特に限定されるものではなく、任意の金属であり得る。一般的には、例えば、アルミニウム系、鉄系、銅系、チタン系およびニッケル系などの金属である。具体的には、鉄系またはアルミニウム系金属である。鉄系金属とは、主に鉄が含有されている金属であればいずれでもよい。1つの実施形態において、鉄系金属としては、SUS303、SUS304などである。また、アルミニウム系金属とは、主にアルミニウムが含有されている金属であればいずれでもよい。1つの実施形態において、アルミニウム系金属としては、A4043やAL5052などである。
【0026】
本発明の製造方法における金属体は、粗面化された表面を有していれば、その形状は特に限定されるものではなく、任意の形状であり得る。例えば、金属体は第1の面と第1の面に対向する第2の面とを有する板状体であってもよいし、筒体であってもよいし、柱状体であってもよい。1つの実施形態において、金属体は第1の面と第1の面と対向する第2の面とを有する板状体であって、平面視において略矩形状や略円形状(略真円、略楕円など)である。しかし、本発明はこれに限定されない。
【0027】
本発明の製造方法における金属体の厚みは、特に限定されるわけではなく、厚みは任意であり得る。一般的には、約1mm以上であり、好ましくは、約1mm~約10mmである。1つの実施形態において、金属体は板体であって、厚みは約2mmである。
【0028】
本発明でいう粗面化とは、表面に微細な凹凸を形成することをいう。
【0029】
本発明の製造方法における金属体の粗面化の手段は、特に限定されるものではなく、任意の粗面化手段であり得る。フッ素樹脂体と接触する表面を粗面化することにより、フッ素樹脂との接触面積が増加することにより接合強度(剥離強度)を向上させることが可能となる。
【0030】
例えば、具体的な粗面化手段としては、エッチング液(例えば、強アルカリ溶液、過マンガン酸塩溶液、クロム酸塩溶液など)に浸漬させる化学エッチング加工、サンドブラス加工などの機械研磨加工、陽極酸化加工、レーザー加工、プラズマ加工などがある。粗面化手段の好ましい実施形態として、レーザー加エまたはプラズマ加工である。レーザー加工またはプラズマ加工は、化学エッチング加工による処理液の廃液処理の問題や、ブラスト加工などの周囲に粉塵が充満することによる作業者の健康や加工室内の清掃の問題などが生じないためである。
【0031】
本発明の製造方法において、金属体とフッ素樹脂体両方に粗面化処理を施しても良いし、金属体またはフッ素樹脂体のいずれか一方のみに粗面化処理を施してもよい。加工容易性などの観点で、好ましくは、金属体に粗面化処理を施す。
(加熱工程)
本発明の製造方法における金属体の加熱は、金属体とフッ素樹脂体との接触を維持した状態で金属体を加熱できれば、特に限定されるものではなく、任意の加熱形態であり得る。例えば、大気中内での加熱であってもよいし、実質的に酸素の存在しない略真空雰囲気下での加熱であってもよい。加熱手段は任意の手段であり得る。例えば、加熱手段は具体的には電熱ヒータであるが、本発明はこれに限定されない。
【0032】
本発明の製造方法における金属体の加熱温度は、フッ素樹脂体の溶融温度以上の温度である。具体的な加熱温度はフッ素樹脂体の種類によって適宜最適温度が決定される。例えば、1つの実施形態において、PTFEの場合は溶融温度約327℃であるのに対して加熱温度は約350℃~約400℃である。
【0033】
本発明の製造方法において、金属体およびフッ素樹脂体の第2の面の温度を、温度センサを用いて測定するのが好ましい。温度センサは金属体またはフッ素樹脂体の第2の面の温度が測定できれば、特に限定されるものではなく、任意の手段であり得る。例えば、サーミスタであってもよいし、熱電対であってもよいし、測温抵抗体(RTD)などであってもよい。温度センサによる金属体およびフッ素樹脂体の第2の面の温度を測定することにより、より正確に金属体の加熱温度を制御可能となり、高い接合強度(剥離強度)の金属体-フッ素樹脂体接合体を均一な品質で製造することが可能となる。
【0034】
本発明の製造方法における金属体の加熱時間は、金属体の加熱によって金属体と接触するフッ素樹脂体の金属体と接触する第1の面と対向する第2の面の温度が、フッ素樹脂の溶融温度以上とならない時間であれば、特に限定されるものではなく、任意の時間であり得る。
【0035】
フッ素樹脂体の第2の面の温度は、フッ素樹脂体の溶融温度以下であれば任意の温度であり得るが、好ましくは、約250℃以下である。約250℃以下であれば、フッ素樹脂体の機械的強度の改質が防止される。1つの実施形態において、溶融温度約327℃のPTFEにおいて、フッ素樹脂体の第2の面の温度を約200℃以下とする。このように、フッ素樹脂体の第2の面の温度が、溶融点以上とならないように金属体の加熱温度または加熱時間を調整することにより、フッ素樹脂体全体が溶融しないためフッ素樹脂体自体の機械強度が保たれる。
【0036】
フッ素樹脂体の第2の面の温度が溶融温度以上とならないように金属体の加熱温度を調整する方法は任意であり得る。例えば、金属体を加熱する加熱手段の動作をON/OFFを調整してもよいし、金属体またはフッ素樹脂体の第2の面を冷却する冷却手段を用いて調整するようにしてもよい。
【0037】
フッ素樹脂体の第2の面の温度が、溶融点以上とならないように金属体の加熱温度または加熱時間を調整することにより、金属体とフッ素樹脂体との高い接合強度を長期にわたり維持することが可能となる。本発明の製造方法における加熱時間は、具体的には、加熱温度と金属体やフッ素樹脂体の厚みなどで適宜最適な時間が決定される。一つの実施形態において、金属体の加熱温度が約350℃~約400℃において、加熱時間は約5分~約30分であり得る。しかし、本発明はこれに限定されない。
(圧接)
本発明の製造方法における金属体とフッ素樹脂体との圧接は、金属体の加熱状態を維持したまま圧接することができれば、特に限定されるものではなく、任意の圧接手段であり得る。圧接手段としては、機械プレスであってもよいし、油圧や空気圧などの液圧プレスであってもよい。
【0038】
本発明の製造方法における圧接力は、特に限定されるものではなく任意の力であり得る。本発明の製造方法における圧接力は、具体的には、金属体の加熱温度やフッ素樹脂体の厚みなどによって適宜最適な力が決定される。一つの実施形態において、圧接力は約0.2MPa~約1.0MPaである。圧接力は約0.2MPa以下であると、金属体とフッ素樹脂体との密着性が低下する恐れがあり、圧接力は約1MPa以上であるとフッ素樹脂体を加熱した際に変形する恐れがある。
【0039】
1つの実施形態において、金属体とフッ素樹脂体との圧接において、金属体とフッ素樹脂体とは直接接する状態であり、金属体とフッ素樹脂体との間に接着層を介在させずに圧接する。本発明の製造方法においては、金属体とフッ素樹脂体との間に接着層を介在させなくとも高い接合強度(剥離強度)を得ることが可能である。また、本発明の製造方法においては、一定の温度範囲でゲル化したPTFEが温度降下で硬化したときに金属表面下部の物理的・化学的、その他の処理の複合によって垂直あるいは水平方向、あるいはそれらの複合的に形成された凹凸に入り込むことで、一定の強度で接合できる。
【0040】
また別の実施形態において、金属体とフッ素樹脂体との圧接において、金属体とフッ素樹脂体との少なくとも一方にプラズマ処理した状態である金属体とフッ素樹脂体とを、PFAフィルムを介して圧接する。
【0041】
本発明の金属体-フッ素樹脂体接合体の用途は、特に限定されるものではないが、フッ素樹脂体部分を摺動面として用いる摺動部材(ピストン部の軸受材としてのウェアリング)、構造物の防水性や気密性を保持するシール部材やパッキン、フッ素樹脂体部分をライニング材として用いるライニングタンク、ライニング容器などに好適に用いることができる。
【0042】
(金属体-フッ素樹脂体接合体の製造方法)
図1図2は、本発明における金属体-フッ素樹脂体接合体の製造方法の一例を説明するための図であって、図1は、接合前の金属体とフッ素樹脂体との断面の一例を示し、図2は、プレスにより板体の金属体と板体のフッ素樹脂体とが圧接され、金属体-フッ素樹脂体接合体を成形した状態の断面の一例を示す。
【0043】
図1に示すように、まず、第1の面11と第2の面12とを有する板体のフッ素樹脂体10を準備する。フッ素樹脂体10の厚みは約2mmである。また、第1の面21と第1の面21に対向する第2の面22とを有する板体の金属体20を準備する。金属体20は例えば、厚みは約2mmの板体である。金属体20の第1の面21はレーザー加工など公知の粗面化手段によって粗面化されている。
【0044】
図2に示すように、プレスの上金型51にフッ素樹脂体10をセットし、下金型52に金属体20をセットする。金属体20は粗面化された表面21がフッ素樹脂体10と対向する向きになるようにセットする。なお、上金型51に金属体20をセットし、下金型52にフッ素樹脂体10をセットしてもよい。
【0045】
プレスの上金型51には、電熱ヒータなどからなる加熱手段61と、上金型51にセットされる対象物(フッ素樹脂体10)の上金型51と接する面(第2の面)の温度を測定する熱電対などからなる温度センサ71とを備えている。また、下金型52には、下金型52にセットされる対象物(金属体20)の下金型52と接する面の温度を測定する熱電対などからなる温度センサ72とを備えている。
【0046】
上金型51にフッ素樹脂体10、下金型52に金属体20をセットした状態で、プレスを作動させ、金属体20とフッ素樹脂体10とが直接接した状態で約0.2MPa~約1.0MPaの圧力Pでフッ素樹脂体10と金属体とを圧接する。
【0047】
フッ素樹脂体10と金属体20とを圧接した状態で、加熱手段62を作動させ金属体20を加熱する。加熱手段62で加熱される金属体20の温度は温度センサ72で測定する。また、温度センサ71によってフッ素樹脂体10の上金型51と接する面(第2の面)の温度を測定する。
【0048】
加熱手段62による金属体20の加熱は、金属体20の温度がフッ素樹脂体10の溶融温度(約327℃)以上である約350℃~約400℃になるように温度センサ72で測定するとともに、フッ素樹脂体10の上金型51と接する面(第2の面)の温度が溶融温度(約327℃)以上とならない例えば、約200℃以下となるように温度センサ71で測定しながら約5分~約30分間の間加熱する。金属体20の温度がフッ素樹脂体10の溶融温度(約327℃)以上に加熱されることにより、金属体20に接するフッ素樹脂体10の第1の面11も伝熱により溶融温度(約327℃)以上に加熱される。そのため、第1の面11が溶融することで金属体20の接する面21と強固に接着されることになる。しかし、フッ素樹脂体10の第1の面11と対向する面であって上金型51の面に接する第2の面12は溶融する温度よりも低い温度であるため、フッ素樹脂体10全体は溶融せずフッ素樹脂体10自体の機械強度の低下が防止される。そのため、この加熱により、フッ素樹脂体10と金属体20とが接着剤を介在させずに高い接合強度(剥離強度)で接合されるとともに長期にわたり高い剥離強度を維持することが可能となる。
【0049】
図3は、プレスにより筒体の金属体と筒体のフッ素樹脂体とが圧接され、金属体-フッ素樹脂体接合体を成形した状態の断面の一例を示す。
【0050】
図3に示すように、フッ素樹脂体10は、外周面11(第1の面)と内周面12(第2の面)とを有する筒体である。そして、金属体20は、外周面22と内周面21とを有する筒体であって、内周面22はフッ素樹脂体10の外周面11とほぼ同じか少し大きい径を有しており、かつ内周面は粗面化されている。
【0051】
筒体からなる金属体20内に筒体からなるフッ素樹脂体10を挿通した状態で、フッ素樹脂体10の内周面から油圧または空気圧Pを付与することでフッ素樹脂体10を金属体20に圧接する。金属体20とフッ素樹脂体10とが直接接した状態で約0.2MPa~約1.0MPaの圧力Pでフッ素樹脂体10と金属体とを圧接する。このようにすることで、金属体20とフッ素樹脂体10とが直接接した状態でフッ素樹脂体10と金属体とが圧接される。
【0052】
フッ素樹脂体10と金属体20とを圧接した状態で、金属体20の外周面21に配置された加熱手段62により金属体20を加熱する。金属体20の加熱温度は金属体20の外周面21に備えた温度センサ72により測定される。また、フッ素樹脂体20の内周面12(第1の面)には加熱手段61と温度センサ71とを配置することで、フッ素樹脂体20の第2の面の温度を測定することができる。図2において説示した加熱方法と同じように加熱することにより、フッ素樹脂体10と金属体20とが接着剤を介在させずに高い接合強度(剥離強度)で接合されるとともに長期にわたり高い剥離強度を維持することが可能となる。なお、図3において、フッ素樹脂体10の外周面11よりも金属体20の内周面22が大きい場合について説示したが、フッ素樹脂体10の内周面11が金属体20の該周面21よりも大きい場合であってもよい。
【0053】
以下に本発明を実施例によってさらに具体的に説明することにする。
【0054】
(実施例1)
レーザー加工で粗面化処理された表面を有する厚み約2mmの板体の金属体であるAL5052板と、厚み約2mmの板体のフッ素樹脂体であるPTFE板とを約0.4MPaで圧接しながら、AL5052板を約350℃で、PTFE板のAL5052板と接する面と対向する面の温度が約200℃以下となるようにして約15分間加熱することで金属体-フッ素樹脂体接合体が得られた。得られた金属体-フッ素樹脂体接合体の48時間後の接合強度(剥離強度)を引張試験で測定したところ約50kgf以上の値が得られた。この結果から、長期にわたり高い接合強度(剥離強度)が得られたことがわかる。なお、接合強度の測定は、JIS K 6850(引張せん断接着強さ)に準拠した方法で行った。
【0055】
(比較例1)
レーザー加工で粗面化処理された表面を有する厚み約2mmの金属体であるAL5052板と、厚み約2mmのフッ素樹脂体であるPTFE板とを約0.4MPaで圧接しながら、AL5052板とPTFE板の両方を約250℃で約30分加熱することで金属体-フッ素樹脂体接合体が得られた。得られた金属体-フッ素樹脂体接合体の48時間後の接合強度(剥離強度)を引張試験で測定したところ簡単に剥離してしまった(測定不能)。
【0056】
(比較例2)
レーザー加工で粗面化処理された表面を有する厚み約2mmのSUS304板と、厚み約2mmのPTFE板とを約0.4MPaで圧接しながら、SUS304板とPTFE板の両方を約300℃で約15分加熱することで金属体-フッ素樹脂体接合体が得られた。得られた金属体-フッ素樹脂体接合体の48時間後の接合強度(剥離強度)を引張試験で測定したところ、接合強度は約10kgfであった。
【0057】
(比較例3)
レーザー加工で粗面化処理された表面を有する厚み約2mmの金属体であるSUS303板と、厚み約2mmの板体のフッ素樹脂体であるPTFE板とを約0.8MPaで圧接しながら、SUS303板とPTFE板の両方を約300℃で約30分加熱したところ、加熱部分のPTFE体全体が溶融してしまい金属体-フッ素樹脂体接合体を得ることができなかった。
【0058】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、長期にわたり高い接合強度(剥離強度)が維持されるフッ素樹脂体と金属体との接合方法を得ることができるものとして有用である。
【符号の説明】
【0060】
10 フッ素樹脂体
11 第1の面
12 第2の面
20 金属体
22 粗面化された面
51 プレス上金型(フッ素樹脂体側)
52 プレス下金型(金属体側)
61 加熱手段(フッ素樹脂体側)
62 加熱手段(金属体側)
71 温度センサ(フッ素樹脂体側)
72 温度センサ(金属体側)
100 金属体-フッ素樹脂体接合体

図1
図2
図3