(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】圧反射性血管交感神経活動検出装置、圧反射性血管交感神経活動検出プログラムおよび圧反射性血管交感神経活動検出方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/02 20060101AFI20220531BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20220531BHJP
A61B 5/16 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
A61B5/02 310A
A61B10/00 H
A61B5/16
(21)【出願番号】P 2019510214
(86)(22)【出願日】2018-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2018013525
(87)【国際公開番号】W WO2018181851
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2017067476
(32)【優先日】2017-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307014555
【氏名又は名称】北海道公立大学法人 札幌医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】加藤 有一
【審査官】伊知地 和之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/157605(WO,A1)
【文献】特開2008-086568(JP,A)
【文献】特開2013-202123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02 - 5/03
A61B 5/06 - 5/22
A61B 9/00 - 10/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体動脈の脈波データと、前記脈波データに対応する拍間隔とに基づいて、圧反射機能に伴う血管の交感神経活動である圧反射性血管交感神経活動を検出する圧反射性血管交感神経活動検出装置であって、
前記拍間隔がn(nは3以上の自然数)拍連続して増加または減少する系列のうち、前記拍間隔と前記脈波データとの相関係数が、第n-1拍目までは任意の正の閾値より大きく、かつ、第n拍目に前記相関係数が前記閾値以下となる系列を前記圧反射性血管交感神経活動を示す圧反射性血管交感神経活動系列(VBRSA系列)として検出するVBRSA系列検出部を有する、圧反射性血管交感神経活動検出装置。
【請求項2】
前記圧反射性血管交感神経活動系列における、n拍分の前記拍間隔とn-1拍分の前記脈波データとの回帰分析によって、第n拍目の前記脈波データの理論値を算出する理論値算出部と、
第n拍目の前記脈波データの実測値と前記理論値とに基づいて、前記圧反射性血管交感神経活動を示す指標であるVBRSA値を算出するVBRSA値算出部と
を有する、請求項1に記載の圧反射性血管交感神経活動検出装置。
【請求項3】
前記VBRSA値算出部は、下記式(1)~(3)のいずれかを用いて前記VBRSA値を算出する、請求項2に記載の圧反射性血管交感神経活動検出装置;
VBRSA値=|PVt-PVm| ・・・式(1)
VBRSA値=|ln(PVt)-ln(PVm)| ・・・式(2)
VBRSA値=|PVt/PVm| ・・・式(3)
但し、各符号は以下を表す。
PVt:脈波データの理論値
PVm:脈波データの実測値
【請求項4】
前記VBRSA値算出部は、前記VBRSA系列のうち前記拍間隔がn拍連続して増加する上昇系列と、前記VBRSA系列のうち前記拍間隔がn拍連続して減少する下降系列とのそれぞれについて、前記VBRSA値を個別に算出する、請求項2または請求項3に記載の圧反射性血管交感神経活動検出装置。
【請求項5】
前記VBRSA値算出部は、前記上昇系列について算出された前記VBRSA値の平均値と、前記下降系列について算出された前記VBRSA値の平均値とを合算または平均化した値を前記VBRSA値として算出する、請求項4に記載の圧反射性血管交感神経活動検出装置。
【請求項6】
前記脈波データは、光電式容積脈波、規準化された前記光電式容積脈波である規準化脈波容積、または対数化された前記規準化脈波容積のうちのいずれかである、請求項1から請求項5のいずれかに記載の圧反射性血管交感神経活動検出装置。
【請求項7】
生体動脈の脈波データと、前記脈波データに対応する拍間隔とに基づいて、圧反射機能に伴う血管の交感神経活動である圧反射性血管交感神経活動を検出する圧反射性血管交感神経活動検出プログラムであって、
前記拍間隔がn(nは3以上の自然数)拍連続して増加または減少する系列のうち、前記拍間隔と前記脈波データとの相関係数が、第n-1拍目までは任意の正の閾値より大きく、かつ、第n拍目に前記相関係数が前記閾値以下となる系列を前記圧反射性血管交感神経活動を示す圧反射性血管交感神経活動系列(VBRSA系列)として検出するVBRSA系列検出部としてコンピュータを機能させる、圧反射性血管交感神経活動測定プログラム。
【請求項8】
前記圧反射性血管交感神経活動系列における、n拍分の前記拍間隔とn-1拍分の前記脈波データとの回帰分析によって、第n拍目の前記脈波データの理論値を算出する理論値算出部と、
第n拍目の前記脈波データの実測値と前記理論値とに基づいて、前記圧反射性血管交感神経活動を示す指標であるVBRSA値を算出するVBRSA値算出部としてコンピュータを機能させる、請求項7に記載の圧反射性血管交感神経活動検出プログラム。
【請求項9】
前記VBRSA値算出部は、下記式(1)~(3)のいずれかを用いて前記VBRSA値を算出する、請求項8に記載の圧反射性血管交感神経活動検出プログラム;
VBRSA値=|PVt-PVm| ・・・式(1)
VBRSA値=|ln(PVt)-ln(PVm)| ・・・式(2)
VBRSA値=|PVt/PVm| ・・・式(3)
但し、各符号は以下を表す。
PVt:脈波データの理論値
PVm:脈波データの実測値
【請求項10】
前記VBRSA値算出部は、前記VBRSA系列のうち前記拍間隔がn拍連続して増加する上昇系列と、前記VBRSA系列のうち前記拍間隔がn拍連続して減少する下降系列とのそれぞれについて、前記VBRSA値を個別に算出する、請求項8または請求項9に記載の圧反射性血管交感神経活動検出プログラム。
【請求項11】
前記VBRSA値算出部は、前記上昇系列について算出された前記VBRSA値の平均値と、前記下降系列について算出された前記VBRSA値の平均値とを合算または平均化した値を前記VBRSA値として算出する、請求項10に記載の圧反射性血管交感神経活動検出プログラム。
【請求項12】
前記脈波データは、光電式容積脈波、規準化された前記光電式容積脈波である規準化脈波容積、または対数化された前記規準化脈波容積のうちのいずれかである、請求項7から請求項11のいずれかに記載の圧反射性血管交感神経活動検出プログラム。
【請求項13】
生体動脈の脈波データと、前記脈波データに対応する拍間隔とに基づいて、圧反射機能に伴う血管の交感神経活動である圧反射性血管交感神経活動を検出する圧反射性血管交感神経活動検出方法であって、
前記拍間隔がn(nは3以上の自然数)拍連続して増加または減少する系列のうち、前記拍間隔と前記脈波データとの相関係数が、第n-1拍目までは任意の正の閾値より大きく、かつ、第n拍目に前記相関係数が前記閾値以下となる系列を前記圧反射性血管交感神経活動を示す圧反射性血管交感神経活動系列(VBRSA系列)として検出するVBRSA系列検出ステップを有する、圧反射性血管交感神経活動測定方法。
【請求項14】
前記圧反射性血管交感神経活動系列における、n拍分の前記拍間隔とn-1拍分の前記脈波データとの回帰分析によって、第n拍目の前記脈波データの理論値を算出する理論値算出ステップと、
第n拍目の前記脈波データの実測値と前記理論値とに基づいて、前記圧反射性血管交感神経活動を示す指標であるVBRSA値を算出するVBRSA値算出ステップとを有する、請求項13に記載の圧反射性血管交感神経活動検出方法。
【請求項15】
前記VBRSA値算出ステップでは、下記式(1)~(3)のいずれかを用いて前記VBRSA値が算出される、請求項14に記載の圧反射性血管交感神経活動検出方法;
VBRSA値=|PVt-PVm| ・・・式(1)
VBRSA値=|ln(PVt)-ln(PVm)| ・・・式(2)
VBRSA値=|PVt/PVm| ・・・式(3)
但し、各符号は以下を表す。
PVt:脈波データの理論値
PVm:脈波データの実測値
【請求項16】
前記VBRSA値算出ステップでは、前記VBRSA系列のうち前記拍間隔がn拍連続して増加する上昇系列と、前記VBRSA系列のうち前記拍間隔がn拍連続して減少する下降系列とのそれぞれについて、前記VBRSA値を個別に算出する、請求項14または請求項15に記載の圧反射性血管交感神経活動検出方法。
【請求項17】
前記VBRSA値算出ステップでは、前記上昇系列について算出された前記VBRSA値の平均値と、前記下降系列について算出された前記VBRSA値の平均値とを合算または平均化した値を前記VBRSA値として算出する、請求項16に記載の圧反射性血管交感神経活動検出方法。
【請求項18】
前記脈波データは、光電式容積脈波、規準化された前記光電式容積脈波である規準化脈波容積、または対数化された前記規準化脈波容積のうちのいずれかである、請求項13から請求項17のいずれかに記載の圧反射性血管交感神経活動検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血圧を一定に保つ役割を果たす圧反射機能に関わる血管の交感神経活動を非侵襲的に検出する圧反射性血管交感神経活動検出装置、圧反射性血管交感神経活動検出プログラムおよび圧反射性血管交感神経活動検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、血圧は、心血管疾患や脳梗塞等における重要なリスクファクターであることが知られている。このため、血圧の状態を日常的にモニターすることにより、上述した心血管疾患や脳梗塞等を予防するための指針や、プレクリニカル段階での診断材料等として利用することができる。しかしながら、血圧を測定する行為は、身体への負担が大きく面倒な作業でもあるため、現実的には日常的または継続的に血圧をモニタリングすることは困難である。
【0003】
そこで近年、血圧を一定の範囲に保とうとする自律神経系の圧反射機能を評価する研究が行われている。当該圧反射機能の低下が、脳卒中、高血圧症および失神等におけるリスクファクターと考えられているためである。ただし、血圧は、血行力学上、心拍出量(一回拍出量×心拍数)と血管抵抗との積として定義されるところ、圧反射においては、上記心拍数に対する心臓の交感神経活動の寄与は見られないため、上記心拍数は心臓の副交感神経活動によって制御され、上記血管抵抗は血管の交感神経活動によって制御されている。このため、前記圧反射機能には、心臓の副交感神経活動(心臓の神経性圧反射機能)と、血管の交感神経活動(血管の神経性圧反射機能)との双方が関わっている。
【0004】
具体的には、
図15に示すように、心臓の神経性圧反射機能では、血圧の上昇により血管壁が伸展すると、頸動脈等に存在する圧受容体細胞が発火する。そして、当該発火信号を受けた脳が心臓の副交感神経活動を介して心拍数を減少させて(すなわち、心拍間隔または脈拍間隔を延長させて)心拍出量を下げ、血圧を下げようとする。一方、血管の神経性圧反射機能は、血管の弛緩により血圧が低下すると、所定値以下にならないよう、血管の交感神経活動を賦活して血管を緊張させ、血圧を上げようとする。
【0005】
ただし、心臓の神経性圧反射機能と血管の神経性圧反射機能との作用バランスには個人差があり、心臓の神経性圧反射機能が優位に働く人もいれば、血管の神経性圧反射機能が優位に働く人もいる。また、同じ個人であっても、例えば安静にしている場合と運動した後とでは、上記作用バランスが変わることもある。したがって、圧反射機能を総合的に評価するには、心臓の神経性圧反射機能と血管の神経性圧反射機能とを別個独立に測定する必要がある。
【0006】
心臓の神経性圧反射機能を測定する技術としては、当該機能を感度として非侵襲的に測定する方法が存在する。例えば、血管壁の伸展による血管径の増加や減少を超音波エコーにより毎拍測定し、これとともに生じる心拍ないし脈拍間隔の延長ないし短縮として現れる心臓の圧反射系列に基づいて検出する、いわゆるシーケンス法が知られている。また、本願発明者は、血管径ではなく、規準化脈波容積(非特許文献1)による血液容積を用いて、心臓の神経性圧反射感度を測定する方法を提案している(特許文献1)。
【0007】
一方、血管の神経性圧反射機能を測定する技術としては、従来、
図16に示すように、拡張期血圧または血管抵抗と、いわゆるマイクロニューログラフィによって侵襲的に測定された血管の交感神経活動(MSA:Muscle nerve Sympathetic Activity)との関数から導き出す方法しか存在していない(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Y. Sawadaら,「Normalized pulse volume (NPV) derived photo-plethysmographically as a more valid measure of the finger vascular tone, International Journal of Psychophysiology, 2001, Vol.41」, p1-10, Elsevier B.V.
【文献】G. Sundlofら,「Human muscle nerve sympathetic activity at rest. Relationship to blood pressure and age, The Journal of Physiology, 1978, Vol.274」, p621-637, The Physiological Society.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したマイクロニューログラフィは、血管の交感神経活動を直接測定できるものの、末梢神経束内に針のような金属の微小電極を刺入しなければならず、侵襲的であるという問題がある。また、マイクロニューログラフィを実施するには、病院検査のように行動が制限されたり(安静等)、整備された施設(実験室や検査室等)や熟練の測定者を必要とするため、測定可能な時間、場所、シチュエーション等が極めて限定的であるという問題もある。
【0011】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、簡易的かつ非侵襲的に、圧反射機能に伴う血管の交感神経活動である圧反射性血管交感神経活動を検出することができる圧反射性血管交感神経活動検出装置、圧反射性血管交感神経活動検出プログラムおよび圧反射性血管交感神経活動検出方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る圧反射性血管交感神経活動検出装置は、簡易的かつ非侵襲的に、圧反射機能に伴う血管の交感神経活動である圧反射性血管交感神経活動を検出するという課題を解決するために、生体動脈の脈波データと、前記脈波データに対応する拍間隔とに基づいて、圧反射機能に伴う血管の交感神経活動である圧反射性血管交感神経活動を検出する圧反射性血管交感神経活動検出装置であって、前記拍間隔がn(nは3以上の自然数)拍連続して増加または減少する系列のうち、前記拍間隔と前記脈波データとの相関係数が、第n-1拍目までは任意の正の閾値より大きく、かつ、第n拍目に前記相関係数が前記閾値以下となる系列を前記圧反射性血管交感神経活動を示す圧反射性血管交感神経活動系列(VBRSA系列)として検出するVBRSA系列検出部を有する。また、本発明に係る圧反射性血管交感神経活動検出プログラムは、前記VBRSA系列検出部としてコンピュータを機能させるものである。
【0013】
また、本発明に係る圧反射性血管交感神経活動検出装置の一態様として、圧反射性血管交感神経活動をVBRSA値として指標化し、圧反射性血管交感神経活動を簡易的かつ客観的に評価するという課題を解決するために、前記圧反射性血管交感神経活動系列における、n拍分の前記拍間隔とn-1拍分の前記脈波データとの回帰分析によって、第n拍目の前記脈波データの理論値を算出する理論値算出部と、第n拍目の前記脈波データの実測値と前記理論値とに基づいて、前記圧反射性血管交感神経活動を示す指標であるVBRSA値を算出するVBRSA値算出部とを有していてもよい。また、本発明に係る圧反射性血管交感神経活動検出プログラムの一態様として、前記理論値算出部と、前記VBRSA値算出部としてコンピュータを機能させてもよい。
【0014】
さらに、本発明の一態様として、圧反射性血管交感神経活動を評価するのに適したVBRSA値を算出するという課題を解決するために、前記VBRSA値算出部は、下記式(1)~(3)のいずれかを用いて前記VBRSA値を算出してもよい。
VBRSA値=|PVt-PVm| ・・・式(1)
VBRSA値=|ln(PVt)-ln(PVm)| ・・・式(2)
VBRSA値=|PVt/PVm| ・・・式(3)
但し、各符号は以下を表す。
PVt:脈波データの理論値
PVm:脈波データの実測値
【0015】
また、本発明の一態様として、上昇系列と下降系列とのそれぞれについてVBRSA値を個別に算出することで、疾患に応じて異なる傾向等を把握し、評価の精度を向上するという課題を解決するために、前記VBRSA値算出部は、前記VBRSA系列のうち前記拍間隔がn拍連続して増加する上昇系列と、前記VBRSA系列のうち前記拍間隔がn拍連続して減少する下降系列とのそれぞれについて、前記VBRSA値を個別に算出してもよい。
【0016】
さらに、本発明の一態様として、上昇系列および下降系列の合算値をVBRSA値として算出することで、VBRSA系列の検出数が少なくても算出し、圧反射性血管交感神経活動を示す指標を分かりやすく表現するという課題を解決するために、前記VBRSA値算出部は、前記上昇系列について算出された前記VBRSA値の平均値と、前記下降系列について算出された前記VBRSA値の平均値とを合算または平均化した値を前記VBRSA値として算出してもよい。
【0017】
また、本発明の一態様として、無次元の絶対量である規準化脈波容積(NPV)や、対数化された規準化脈波容積(lnNPV)を用いることにより、生体の組織成分に起因する誤差を除外し、同一人の測定結果のみならず、異なる個人間の測定結果も比較可能とし、広く一般的に圧反射性血管交感神経活動の動向を把握するという課題を解決するために、前記脈波データは、光電式容積脈波、規準化された前記光電式容積脈波である規準化脈波容積、または対数化された前記規準化脈波容積のうちのいずれかであってもよい。
【0018】
また、本発明に係る圧反射性血管交感神経活動検出方法は、簡易的かつ非侵襲的に、圧反射機能に伴う血管の交感神経活動である圧反射性血管交感神経活動を検出するという課題を解決するために、生体動脈の脈波データと、前記脈波データに対応する拍間隔とに基づいて、圧反射機能に伴う血管の交感神経活動である圧反射性血管交感神経活動を検出する圧反射性血管交感神経活動検出方法であって、前記拍間隔がn(nは3以上の自然数)拍連続して増加または減少する系列のうち、前記拍間隔と前記脈波データとの相関係数が、第n-1拍目までは任意の正の閾値より大きく、かつ、第n拍目に前記相関係数が前記閾値以下となる系列を前記圧反射性血管交感神経活動を示す圧反射性血管交感神経活動系列(VBRSA系列)として検出するVBRSA系列検出ステップを有する。
【0019】
また、本発明に係る圧反射性血管交感神経活動検出方法の一態様として、圧反射性血管交感神経活動をVBRSA値として指標化し、圧反射性血管交感神経活動を簡易的かつ客観的に評価するという課題を解決するために、前記圧反射性血管交感神経活動系列における、n拍分の前記拍間隔とn-1拍分の前記脈波データとの回帰分析によって、第n拍目の前記脈波データの理論値を算出する理論値算出ステップと、第n拍目の前記脈波データの実測値と前記理論値とに基づいて、前記圧反射性血管交感神経活動を示す指標であるVBRSA値を算出するVBRSA値算出ステップとを有していてもよい。
【0020】
さらに、本発明の一態様として、圧反射性血管交感神経活動を評価するのに適したVBRSA値を算出するという課題を解決するために、前記VBRSA値算出ステップでは、下記式(1)~(3)のいずれかを用いて前記VBRSA値が算出されてもよい。
VBRSA値=|PVt-PVm| ・・・式(1)
VBRSA値=|ln(PVt)-ln(PVm)| ・・・式(2)
VBRSA値=|PVt/PVm| ・・・式(3)
但し、各符号は以下を表す。
PVt:脈波データの理論値
PVm:脈波データの実測値
【0021】
また、本発明の一態様として、上昇系列と下降系列とのそれぞれについてVBRSA値を個別に算出することで、疾患に応じて異なる傾向等を把握し、評価の精度を向上するという課題を解決するために、前記VBRSA値算出ステップでは、前記VBRSA系列のうち前記拍間隔がn拍連続して増加する上昇系列と、前記VBRSA系列のうち前記拍間隔がn拍連続して減少する下降系列とのそれぞれについて、前記VBRSA値を個別に算出してもよい。
【0022】
さらに、本発明の一態様として、上昇系列および下降系列の合算値をVBRSA値として算出することで、VBRSA系列の検出数が少なくても算出し、圧反射性血管交感神経活動を示す指標を分かりやすく表現するという課題を解決するために、前記VBRSA値算出ステップでは、前記上昇系列について算出された前記VBRSA値の平均値と、前記下降系列について算出された前記VBRSA値の平均値とを合算または平均化した値を前記VBRSA値として算出してもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、簡易的かつ非侵襲的に、圧反射機能に伴う血管の交感神経活動である圧反射性血管交感神経活動を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係る圧反射性血管交感神経活動検出装置および圧反射性血管交感神経活動検出プログラムの一実施形態を示すブロック図である。
【
図2】(a)生体組織(静脈部分は省略)の光電式容積脈波を測定する様子を示す断面図、および(b)光電式容積脈波の交流成分(PGac)と直流成分(PGdc)を説明する図である。
【
図3】本発明に係る「拍間隔」および「脈波データに対応する拍間隔」を説明する図である。
【
図4】(a)血圧(BP)、心拍間隔(RRI)および規準化脈波容積(NPV)の実測データ、および(b)当該実測データにおける収縮期血圧(SBP)と規準化脈波容積(NPV)との散布図である。
【
図5】
図4(a)の実測データにおける、(a)収縮期血圧(SBP)と心拍間隔(RRI)との散布図、および(b)規準化脈波容積(NPV)と心拍間隔(RRI)との散布図である。
【
図6】実測データにおける心臓の神経性圧反射感度(Cardiac nBRS)および圧反射性血管交感神経活動系列(VBRSA系列)についての検出時間および測定結果を示す図である。
【
図7】(a)心臓の神経性圧反射感度(Cardiac nBRS)の測定方法、および(b)圧反射性血管交感神経活動(Vascular BRSA)の算出方法を示す図である。
【
図8】本発明に係る圧反射性血管交感神経活動検出方法の一実施形態を示すフローチャート図である。
【
図9】実施例1における個人の実測データを示すグラフである。
【
図10】
図9の実測データにおける、VBRSA値(Vascular BRSA)と頸動脈の血管抵抗(Carotid arterial resistance)との散布図である。
【
図11】実施例2において、精神的ストレスに対する反応機序の異なる群ごとに測定された、(a)平均血圧(MBP)、(b)頸動脈の血管抵抗(Carotid arterial resistance)および(c)VBRSA値(Vascular BRSA)を示すグラフである。
【
図12】実施例2における、全被験者の実測データについてのVBRSA値(Vascular BRSA)と頸動脈の血管抵抗(Carotid arterial resistance)との相関図である。
【
図13】実施例3における日常生活上の実測データを示すグラフである。
【
図14】
図13の実測データのうち、血圧測定期間におけるVBRSA値と拡張期血圧(DBP)との相関図である。
【
図15】圧反射機能に関わる機序を説明する図である。
【
図16】従来のマイクロニューログラフィによる血管交感神経活動(MSA)と拡張期血圧との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係る圧反射性血管交感神経活動検出装置、圧反射性血管交感神経活動検出プログラムおよび圧反射性血管交感神経活動検出方法は、圧反射機能に関わる血管の交感神経活動である圧反射性血管交感神経活動(Vascular BRSA:Vascular Baroreflex-Related Sympathetic Activity)を検出するとともに、当該圧反射性血管交感神経活動を指標化して評価するのに好適なものである。
【0026】
本願発明者は、上述した課題に鑑みて鋭意研究した結果、生体から非侵襲的に測定された脈波データのみを使用することにより、簡易的かつ非侵襲的に、信頼性の高い圧反射性血管交感神経活動を個別に検出できることを見出した。
【0027】
以下、本発明に係る圧反射性血管交感神経活動検出装置、圧反射性血管交感神経活動検出プログラムおよび圧反射性血管交感神経活動検出方法の一実施形態について図面を用いて説明する。
【0028】
図1に示すように、本実施形態の圧反射性血管交感神経活動検出装置1には、耳や指等における生体動脈の脈波を検出するための脈波検出手段2が接続されている。また、圧反射性血管交感神経活動検出装置1は、本実施形態の圧反射性血管交感神経活動検出プログラム1aや各種のデータを記憶する記憶手段3と、この記憶手段3を制御するとともに各種のデータを取得して演算処理を実行する演算処理手段4とを有している。以下、各構成手段について詳細に説明する。
【0029】
なお、本実施形態において、圧反射性血管交感神経活動検出装置1は、記憶手段3および演算処理手段4を備えたパーソナルコンピュータによって構成されており、別途、脈波検出手段2が周辺機器として接続されている。しかしながら、装置構成は上記に限定されるものではない。例えば、本実施形態の圧反射性血管交感神経活動検出プログラム1aをアプリ化してスマートフォンやタブレット端末にインストールし、それらを本実施形態の圧反射性血管交感神経活動検出装置1として機能させてもよい。
【0030】
脈波検出手段2は、光電式容積脈波記録法(PPG:Photo-Plethysmography)により、動脈における脈動性の容積変化を示す容積脈波を非侵襲的に検出するものである。本実施形態において、脈波検出手段2は、
図1に示すように、生体に装着されて光量を検出する光電式センサ21と、この光電式センサ21からの出力信号を増幅して脈波データとして出力する脈波アンプ22とを有している。
【0031】
光電式センサ21は、生体に固定されるLED(Light Emitting Diode)等の発光部21aと、この発光部21aと対向する位置に生体を挟んで配置されるフォトダイオード等の受光部21bとを備えている。そして、発光部21aから発光されて生体を透過した透過光量を受光部21bで検出し、脈波アンプ22から脈波データとして時系列で出力するようになっている。
【0032】
なお、本実施形態において、脈波アンプ22は、脈波データとして光電式容積脈波を出力している。しかしながら、この構成に限定されるものではなく、脈波アンプ22は、光電式容積脈波を異なる値に変換してから出力してもよい。具体的には、脈波アンプ22は、規準化された光電式容積脈波である規準化脈波容積(Normalized Pulse Volume:以下、「NPV」という場合がある)を脈波データとして出力してもよい。あるいは、脈波アンプ22は、規準化脈波容積の自然対数(lnNPV)のように、対数化された規準化脈波容積を脈波データとして出力してもよい。なお、規準化脈波容積(NPV)の算出方法としては、光電式容積脈波を直流成分と交流成分とに分離するとともに、当該交流成分の振幅を同時刻における前記直流成分の平均値で除算する方法がある。しかしながら、当該方法に限定されるものではなく、算出結果としての規準化脈波容積(NPV)が等しいものであればよい。
【0033】
また、本実施形態において、脈波検出手段2は、生体動脈の脈波データを耳から取得しているが、検出対象部位は耳に限定されるものではない。すなわち、脈波検出手段2によって生体動脈の脈波を検出できる部位であればよく、例えば指、鼻、掌、手首、腕、足等を検出対象部位とすることもできる。また、本実施形態において、受光部21bとしては、フォトダイオードのような透過型の光センサを使用しているが、フォトトランジスタのような反射型の光センサを使用してもよい。
【0034】
さらに、脈波検出手段2は、在宅環境等の日常生活においても、簡単かつ手軽に脈波をモニタリングできるように、ウェアラブルに構成されていることが好ましい。例えば、耳に取り付け可能なイヤフォンタイプやイヤリングタイプ、手首や上腕等に取り付け可能なブレスレットタイプ、指に取り付け可能な指輪タイプ等である。このような脈波検出手段2によれば、装着する際の負担が少なく、モニタリング中も何ら支障なく日常生活を過ごすことができる。
【0035】
記憶手段3は、各種のデータを記憶するとともに、演算処理手段4が演算処理を行う際のワーキングエリアとして機能するものである。本実施形態において、記憶手段3は、ハードディスク、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等で構成されており、
図1に示すように、プログラム記憶部31と、脈波データ記憶部32と、拍間隔記憶部33と、心電図データ記憶部34と、VBRSA系列記憶部35と、VBRSA値記憶部36とを有している。
【0036】
プログラム記憶部31には、本実施形態の圧反射性血管交感神経活動検出プログラム1aがインストールされている。そして、この圧反射性血管交感神経活動検出プログラム1aが演算処理手段4によって実行されることにより、パーソナルコンピュータやスマートフォン、タブレット端末等のコンピュータを後述する各構成部として機能させるようになっている。
【0037】
なお、圧反射性血管交感神経活動検出プログラム1aの利用形態は、上記構成に限られるものではない。例えば、CD-ROMやUSBメモリ等のように、コンピュータで読み取り可能な非一時的な記録媒体に圧反射性血管交感神経活動検出プログラム1aを記憶させておき、当該記録媒体から直接読み出して実行してもよい。また、外部サーバ等からクラウドコンピューティング方式やASP(Application Service Provider)方式等で利用してもよい。
【0038】
脈波データ記憶部32は、後述する脈波データ取得部41によって取得された脈波データまたは後述する脈波データ変換部42によって変換された脈波データを時系列で記憶するものである。拍間隔記憶部33は、後述する拍間隔取得部43によって取得された拍間隔を時系列で記憶するものである。心電図データ記憶部34は、心電計等の心電図取得手段(図示せず)によって取得された心電図データを時系列で記憶するものである。
【0039】
また、VBRSA系列記憶部35は、後述するVBRSA系列検出部44によって検出された圧反射性血管交感神経活動系列(VBRSA系列)を記憶するものである。さらに、VBRSA値記憶部36は、後述するVBRSA値算出部46によって算出された圧反射性血管交感神経活動を示す指標であるVBRSA値を記憶するものである。
【0040】
演算処理手段4は、CPU(Central Processing Unit)等から構成されており、圧反射性血管交感神経活動検出プログラム1aを実行することにより、脈波データ取得部41と、脈波データ変換部42と、拍間隔取得部43と、VBRSA系列検出部44と、理論値算出部45と、VBRSA値算出部46として機能するようになっている。以下、各構成部についてより詳細に説明する。
【0041】
脈波データ取得部41は、脈波検出手段2から生体動脈の脈波データを取得するものである。本実施形態において、脈波データ取得部41は、脈波検出手段2から光電式容積脈波を脈波データとして取得する。そして、当該光電式容積脈波を脈波データ変換部42に提供し規準化脈波容積(NPV)に変換させるようになっている。
【0042】
なお、脈波データ取得部41は、上記構成に限定されるものではなく、脈波検出手段2側で予め光電式容積脈波が規準化脈波容積(NPV)や、対数化された規準化脈波容積(lnNPV)に変換されている場合、それらを脈波データとして取得してもよい。また、光電式容積脈波をそのまま脈波データとして使用してもよい。これらの場合、脈波データ取得部41は、脈波検出手段2から取得した脈波データを脈波データ変換部42に提供することなく、直接脈波データ記憶部32に時系列で格納する。
【0043】
また、本実施形態において、脈波データ取得部41は、脈波検出手段2から直接脈波データを取得しているが、この構成に限定されるものではない。例えば、他の装置によって測定された脈波データについては、USBメモリ等の記録媒体から取り込んでもよい。また、データサーバ等に保存されている脈波データについては、インターネット等を介してダウンロードしてもよい。
【0044】
脈波データ変換部42は、脈波データとしての光電式容積脈波を規準化脈波容積(NPV)や対数化された規準化脈波容積(lnNPV)等の異なる値に変換するものである。本発明において、圧反射性血管交感神経活動を検出するための脈波データとしては、光電式容積脈波よりも規準化脈波容積(NPV)や対数化された規準化脈波容積(lnNPV)を用いることが好ましい。以下、その理由について説明する。
【0045】
まず、
図2(a)に示すように、生体動脈における光電式容積脈波を測定する場合、ランバート・ベールの法則(Lambert-Beer's law)に従えば、光源からの光が、一層で成り立つ溶液中を通過する際の吸収は、溶液の濃度および通過する液層の厚さに比例する。したがって、
図2(b)に示すように、光電式容積脈波の交流成分(PGac)は、その直流成分(PGdc)における動脈の脈動成分を増幅することにより算出される。
【0046】
しかしながら、
図2(a)、(b)に示すように、実際の生体には、光が生体を透過する際の液層として、動脈が拍動していないときの非拍動成分や、生体の組織にあたる固定成分等の個人差成分が存在する。このため、光電式容積脈波の交流成分(PGac)は、異なる個人間では比較できない相対値としてしか使用できない。そこで、異なる個人間でも比較可能な絶対値として、光電式容積脈波の交流成分(PGac)をその直流成分(PGdc)で除算することにより脈動に伴う血液容積を規準化した規準化脈波容積(NPV)が知られている(非特許文献1)。
【0047】
当該規準化脈波容積(NPV)は、上記のとおり、同じ単位(mV)同士の除算により算出されるため、脈動に伴う血液容積を無次元化した絶対量といえる。したがって、ある個人について異なる日時に取得した測定結果のみならず、異なる個人について取得された測定結果も比較することができる。また、生体の組織成分に起因する誤差が除外されるというメリットを有する。したがって、本発明においては、圧反射性血管交感神経活動を検出するための脈波データとして、規準化脈波容積(NPV)や対数化された規準化脈波容積(lnNPV)を使用することが推奨される。
【0048】
なお、規準化脈波容積(NPV)は、ΔI/Iによって評価されるところ、脈動変化分の透過光量(ΔI)は、脈波の交流成分の振幅によって決定される。また、生体(組織+血液)の透過光量(I)は、同時刻における脈波の直流成分の平均値によって決定される。したがって、脈波データ変換部42は、脈波データ取得部41によって取得された脈波データ(光電式容積脈波)に基づいて、脈波の交流成分の振幅を同時刻における当該脈波の直流成分の平均値で除算してなる規準化脈波容積(NPV)を毎拍ごとに算出し、脈波データ記憶部32に時系列で格納するようになっている。
【0049】
また、脈波データ変換部42は、毎拍ごとに算出した規準化脈波容積(NPV)をさらに対数化し、当該対数化された規準化脈波容積(lnNPV)を脈波データ記憶部32に時系列で格納するようにしてもよい。一方、上記のとおり、脈波データ取得部41が、脈波検出手段2側で予め変換された規準化脈波容積(NPV)や、対数化された規準化脈波容積(lnNPV)を脈波データとして取得する場合、脈波データ変換部42は不要である。
【0050】
拍間隔取得部43は、脈波データに対応する拍間隔を取得するものである。本発明において、「拍間隔」とは、
図3に示すように、脈波データにおける脈拍間隔(PI)、脈波データの交流成分が立ち上がる部分の間隔(RI:以下、「立ち上がり間隔」という)、および心電図データにおける心拍間隔(RR間隔)等のように、拍動の一拍分に相当する全ての時間間隔を含む概念である。
【0051】
また、本発明において、「脈波データに対応する拍間隔」とは、脈波データが取得された時間帯と同じ時間帯における拍間隔のみならず、脈波データが取得された時間帯よりも一拍分遅れた拍間隔を含む概念である。具体的には、拍間隔が心拍間隔の場合、
図3に示すように、脈波A、B、Cに対して、心拍間隔a、b、cのみならず、心拍間隔b、c、dも「脈波データに対応する拍間隔」に当たる。
【0052】
したがって、本実施形態において、拍間隔取得部43は、脈波データ記憶部32に格納された脈波データを参照し、当該脈波データに対応する脈拍間隔や立ち上がり間隔を取得し、時系列で拍間隔記憶部33に格納する。なお、本実施形態では、脈拍間隔や立ち上がり間隔を判別しにくい老人等にのために、別途、心電図データ記憶部34に心電図データを用意している。この場合、拍間隔取得部43は心電図データを参照し、脈波データに対応する心拍間隔を取得し、時系列で拍間隔記憶部33に格納するようになっている。
【0053】
VBRSA系列検出部44は、脈波データから圧反射性血管交感神経活動を示す圧反射性血管交感神経活動系列(VBRSA系列)を検出するものである。この圧反射性血管交感神経活動系列は、心臓の神経性圧反射機能による影響を受けるものではなく、血管の神経性圧反射機能に関わる血管の交感神経系により影響を受けるものである。以下、脈波データのうち規準化脈波容積(NPV)からVBRSA系列を検出する方法について具体的に説明するが、他の脈波データについても同様に考えることができる。
【0054】
上述したとおり、規準化脈波容積(NPV)は、異なる個人間での測定結果を比較でき、生体の組織成分に起因する誤差を除外するというメリットを有する。しかしながら、規準化脈波容積(NPV)は、心臓の圧反射機能(交感神経)を機序とする一回拍出量(血液容積の脈動変化)と、血管の圧反射機能(交感神経)を機序とする血管抵抗(血管収縮度)との双方から影響を受ける。
【0055】
このため、
図4(a),(b)に示すように、収縮期血圧(SBP)と規準化脈波容積(NPV)とが正相関のループを繰り返すデータ系列については、心臓の圧反射機能が優位に機能しており、一回拍出量に依存する心臓圧反射優位系列と考えられる。一方、上記正相関のループから大きく逸脱するデータ系列については、規準化脈波容積(NPV)が全く異なる値を示すため、血管の圧反射機能が優位に機能しており、血管抵抗に依存する血管圧反射優位系列と考えられる。なお、
図4(b)において、心臓圧反射優位系列のデータは白丸(○)で示し、血管圧反射優位系列のデータは黒丸(●)で示す。
【0056】
つまり、
図4(b)の一点鎖線で示すように、収縮期血圧(SBP)が同じ値であっても、心臓の圧反射機能と血管の圧反射機能のうち、どちらの機序が優位に働いているかに応じて、規準化脈波容積(NPV)の値が大きく異なる。このため、規準化脈波容積(NPV)をそのまま使用しても、指標としての独立性を欠くこととなる。
【0057】
また、
図5(a),(b)に示すように、収縮期血圧(SBP)と拍間隔(心拍間隔RRI)との散布図、および規準化脈波容積(NPV)と拍間隔(心拍間隔RRI)との散布図においても、正相関のループを繰り返すデータ系列(
図5中の白丸)から逸脱するデータ系列(
図5中の黒丸)が存在する。したがって、規準化脈波容積(NPV)から血管の圧反射機能に関わる圧反射性血管交感神経活動を独立して検出するには、前記逸脱するデータ系列を検出できればよい。
【0058】
そこで、
図6の実測データにおける時間帯Aに着目すると、
図7(a)に示すように、規準化脈波容積(NPV)および拍間隔(脈拍間隔IBI)からなる3拍以上のデータ系列において正相関が成立しているため、心臓の神経性圧反射系列といえる(特許文献1)。なお、心臓の神経性圧反射感度(Cardiac nBRS:Cardiac neural Baroreflex Sensitivity)は、規準化脈波容積(NPV)と拍間隔(IBI)との相関を示す回帰直線の傾き(回帰係数)によって算出され、
図7(a)に示す例では、19.2(ms/unitless)である。一方、
図6の実測データにおける時間帯Bでは、
図7(b)に示すように、拍間隔(IBI)が3拍連続して減少するのに対して、規準化脈波容積(NPV)が3拍目に増加している。
【0059】
すなわち、心臓の神経性圧反射系列から予想される3拍目の規準化脈波容積(NPV)の理論値は、
図7(b)に示すように、2拍目の値よりも小さい値であるのに対し、3拍目の規準化脈波容積(NPV)の実測値は2拍目の値よりも大きく、理論値から逸脱している。このような系列は、心臓の神経性圧反射系列における副交感自律神経活動によるものではなく、血管の交感神経活動の影響によるものと考えられるため、本発明に係る圧反射性血管交感神経活動系列といえる。なお、圧反射性血管交感神経活動(Vascular BRSA)を示す指標である後述のVBRSA値は、例えば下記式(1)によれば、|理論値-実測値|によって算出され、
図7(b)に示す例では、4.84(unitless)である。
【0060】
以上より、本実施形態において、VBRSA系列検出部44は、脈波データ記憶部32内の脈波データと拍間隔記憶部33内の拍間隔とを参照し、拍間隔がn(nは3以上の自然数)拍連続して増加または減少する系列を探索する。そして、VBRSA系列検出部44は、当該系列のうち、拍間隔と脈波データとの相関係数が、第n-1拍目までは任意の正の閾値より大きく、かつ、第n拍目に相関係数が閾値以下となる系列を圧反射性血管交感神経活動を示す圧反射性血管交感神経活動系列(VBRSA系列)として検出し、VBRSA系列記憶部35に時系列で記憶させるようになっている。
【0061】
なお、本発明において、圧反射性血管交感神経活動系列として検出する連続拍数nを3以上の自然数とするのは、第n-1拍目までは交感神経系の影響を受けておらず、第n拍目から圧反射機能に伴う血管の交感神経活動の影響を受けていることの信頼性を担保するためである。また、本実施形態において、正の閾値としては、0.85を採用しているが、この値に限定されるものではない。
【0062】
理論値算出部45は、心臓の神経性圧反射系列から予想される第n拍目の脈波データの理論値を算出するものである。本実施形態において、理論値算出部45は、VBRSA系列記憶部35に記憶された圧反射性血管交感神経活動系列のデータを参照する。そして当該データ系列における、n拍分の拍間隔とn-1拍分の脈波データとの回帰分析によって推定される、第n拍目の脈波データの理論値を算出する。
【0063】
具体的には、理論値算出部45は、まず、圧反射性血管交感神経活動系列における、n-1拍分の拍間隔と脈波データについて回帰分析(直線回帰等)を行い、回帰直線を算出する。そして、理論値算出部45は、当該回帰直線に第n拍目の拍間隔を代入して得られる値を第n拍目の脈波データの理論値として算出するようになっている。
【0064】
VBRSA値算出部46は、圧反射性血管交感神経活動を示す指標であるVBRSA値を算出するものである。本実施形態において、VBRSA値算出部46は、理論値算出部45によって算出された第n拍目の脈波データの理論値と、VBRSA系列記憶部35に格納された第n拍目の脈波データの実測値とに基づいて、圧反射性血管交感神経活動を示す指標であるVBRSA値を算出する。
【0065】
具体的には、VBRSA値算出部46は、下記式(1)~(3)のいずれかを用いてVBRSA値を算出するようになっている。
VBRSA値=|PVt-PVm| ・・・式(1)
VBRSA値=|ln(PVt)-ln(PVm)| ・・・式(2)
VBRSA値=|PVt/PVm| ・・・式(3)
但し、各符号は以下を表す。
PVt:脈波データの理論値
PVm:脈波データの実測値
【0066】
なお、本発明において、実測値とは、脈波データとして光電式容積脈波を使用する場合は、実際に測定された光電式容積脈波の値をいうものとする。また、脈波データとして規準化脈波容積(NPV)や対数化された規準化脈波容積(lnNPV)を使用する場合は、光電式容積脈波から変換された後の値をいうものとする。また、VBRSA値の算出方法は、上記式(1)~(3)に限定されるものではなく、第n拍目の脈波データに関する理論値と実測値とを用いて、圧反射性血管交感神経活動を評価するのに適した指標を算出うるものであれば、どのような式でもよい。
【0067】
また、本実施形態において、VBRSA値算出部46は、VBRSA値を算出するにあたり、同種のデータ系列ごとに分けて個別に算出してもよい。具体的には、VBRSA系列のうち拍間隔がn拍連続して増加する上昇系列と、VBRSA系列のうち拍間隔がn拍連続して減少する下降系列である。
【0068】
上昇系列について算出したVBRSA値は、血圧を上げ過ぎないように働くものの指標となる。また、下降系列について算出したVBRSA値は、血圧を下げ過ぎないように働くものの指標となる。よって、これらの各VBRSA値は、疾患(例えば糖尿病等)に応じて異なる可能性があるため、別々に算出することによって、評価の精度が向上するものと考えられる。
【0069】
一方、VBRSA値算出部46は、上昇系列および下降系列の合算値をVBRSA値として算出してもよい。具体的には、所定の時間(1分間等)内に上昇系列について算出されたVBRSA値の平均値と、所定の時間(1分間等)内に下降系列について算出されたVBRSA値の平均値とを合算または平均化したものをVBRSA値としてもよい。これにより、VBRSA系列の検出数が少なくても算出できるケースが増大するとともに、圧反射性血管交感神経活動に関する理解しやすい指標としても利用することができる。
【0070】
つぎに、本実施形態の圧反射性血管交感神経活動検出プログラム1aによって実行される圧反射性血管交感神経活動検出装置1の作用および圧反射性血管交感神経活動検出方法について、
図8を参照しつつ説明する。
【0071】
本実施形態の圧反射性血管交感神経活動検出装置1または圧反射性血管交感神経活動検出プログラム1aを用いて圧反射性血管交感神経活動を測定する場合、まず、脈波データ取得部41が脈波検出手段2から生体動脈の脈波データを取得する(ステップS1:脈波データ取得ステップ)。この脈波データは、脈波検出手段2の態様に応じて、簡易的かつ非侵襲的に測定されるため、被測定者にかかる負担が軽減される。また、ウェアラブルな脈波検出手段2であれば、日常的または継続的な測定も簡単になる。
【0072】
つぎに、脈波データ変換部42が、ステップS1で取得された脈波データとしての光電式容積脈波を規準化脈波容積(NPV)等に変換する(ステップS2:脈波データ変換ステップ)。これにより、変換後の脈波データにおいては、上述した非拍動成分や固定成分等の個人差成分が捨象される。このため、ある個人について異なる日時に取得した測定結果のみならず、異なる個人について取得された測定結果も比較可能となる。また、生体の組織成分に起因する誤差が除外される。
【0073】
なお、本実施形態では、脈波データ取得部41が光電式容積脈波を脈波データとして取得するため、圧反射性血管交感神経活動検出装置1側で脈波データを変換している(ステップS2)。しかしながら、上述したとおり、脈波検出手段2から規準化脈波容積(NPV)や、対数化された規準化脈波容積(lnNPV)を脈波データとして取得した場合、ステップS2はスキップされ、ステップS1からステップS3へジャンプする。
【0074】
つづいて、拍間隔取得部43が、脈波データに対応する拍間隔を取得すると(ステップS3:拍間隔取得ステップ)、VBRSA系列検出部44が、拍間隔がn(nは3以上の自然数)拍連続して増加または減少する系列のうち、拍間隔と脈波データとの相関係数が、第n-1拍目までは任意の正の閾値より大きく、かつ、第n拍目に相関係数が閾値以下となる系列を圧反射性血管交感神経活動系列(VBRSA系列)として検出する(ステップS4:VBRSA系列検出ステップ)。これにより、圧反射機能に関わる自律神経系のうち、心臓の副交感神経系ではなく、血管の交感神経系の影響を受ける圧反射性血管交感神経活動を示すデータ系列が別個独立に特定される。
【0075】
つぎに、理論値算出部45が、圧反射性血管交感神経活動系列における、n拍分の拍間隔とn-1拍分の脈波データとの回帰分析によって、第n拍目の脈波データの理論値を算出する(ステップS5:理論値算出ステップ)。これにより、仮に第n拍目においても、心臓の神経性圧反射機能が働いていた場合に測定されたはずの脈波データが予想値として算出される。
【0076】
最後に、VBRSA値算出部46が、ステップS5で算出された理論値と、第n拍目の脈波データの実測値とに基づいて、VBRSA値を算出する(ステップS6:VBRSA値算出ステップ)。これにより、当該VBRSA値を用いて、圧反射性血管交感神経活動を簡易的かつ客観的に評価することが可能となる。また、上記式(1)~(3)のいずれかを用いることにより、圧反射性血管交感神経活動を評価するのに適したVBRSA値が算出される。
【0077】
また、本実施形態において、VBRSA値算出部46は、上昇系列と下降系列とのそれぞれについて、VBRSA値を個別に算出してもよい。これにより、両系列におけるVBRSA値が、疾患に応じて異なる傾向を示すようであれば、評価の精度が向上する。さらに、VBRSA値算出部46は、上昇系列および下降系列の合算値をVBRSA値として算出してもよい。これにより、VBRSA系列の検出数が少なくても算出できるケースが増大する。また、圧反射性血管交感神経活動を示す指標が分かりやすい形で表現される。
【0078】
以上のような本発明に係る本実施形態によれば、以下のような効果を奏する。
1.簡易的かつ非侵襲的に、圧反射機能に伴う血管の交感神経活動である圧反射性血管交感神経活動を個別に検出することができる。
2.圧反射性血管交感神経活動をVBRSA値として指標化し、圧反射性血管交感神経活動を簡易的かつ客観的に評価することができる。
3.上記式(1)~(3)のいずれかを用いることにより、圧反射性血管交感神経活動を評価するのに適したVBRSA値を算出することができる。
4.上昇系列と下降系列とのそれぞれについてVBRSA値を個別に算出することで、疾患に応じて異なる傾向等を把握でき、評価の精度を向上することができる。
5.上昇系列および下降系列の合算値をVBRSA値として算出することで、VBRSA系列の検出数が少なくても算出でき、圧反射性血管交感神経活動を示す指標を分かりやすく表現することができる。
6.無次元の絶対量である規準化脈波容積(NPV)や、対数化された規準化脈波容積(lnNPV)を用いることにより、生体の組織成分に起因する誤差を除外することができるため、同一人の測定結果のみならず、異なる個人間の測定結果も比較することができ、広く一般的に圧反射性血管交感神経活動の動向を把握することができる。
7.脈波検出手段2をウェアラブルに構成することで、日常生活においても、血圧を調節する自律神経機能を継続的にモニターすることができる。
8.VBRSA値は、血圧などの他の測定値との関係を関数化することによって、血管の圧反射機能を示す指標(血管神経性圧反射感度)として使用することもできる。
9.脈波データからは、心臓の神経性圧反射感度を別途測定できるため、圧反射性血管交感神経活動との関係性を評価することで、被測定者のそれぞれについて血圧調節機能や血圧状態を幅広く調査・研究することができる。
10.心電図データを用いることにより、脈波における拍間隔が読み取りにくい被測定者からも正確な拍間隔を取得することができる。
11.圧反射性血管交感神経活動系列(VBRSA系列)の検出数や単位時間当たりの検出頻度についても、医学的に有用な情報として提供できる可能性がある。
【0079】
つぎに、本発明に係る圧反射性血管交感神経活動検出装置1、圧反射性血管交感神経活動検出プログラム1aおよび圧反射性血管交感神経活動検出方法の具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0080】
本実施例1では、精神的ストレスによって変動する血行動態に基づいて、本発明に係る圧反射性血管交感神経活動と、血管の交感神経活動(血管の神経性圧反射機能)によって制御される血管抵抗との関連性を確認するための実験を行った。
【0081】
具体的には、仰臥位の被験者1名(23歳、男性)に対し、血圧(BP)を測定するための血圧計(型名:MUB101、製造元:株式会社メディセンス)を指に装着した。また、光電式容積脈波を測定するための脈波検出手段2(型名:EBRS-01J、製造元:有限会社ニッチプロダクト)を被験者の耳に装着した。さらに、ドップラー法により頸動脈における心拍出量(Cardiac output)を測定するための超音波プローブ(型名:UNEXEF38G、製造元:株式会社ユネクス)を被験者の首に固定した。
【0082】
そして、上述した各データを9分間、時系列で同時測定した。当該9分間のうち、最初の3分間は被験者を安静(Rest)にした。また、次の3分間で、被験者に精神的ストレスを負荷する目的で難しい暗算を実施させた(Stress)。そして、最後の3分間は、再び被験者を安静にして回復を図った(Recovery)。
【0083】
そして、測定された心拍出量を血管内皮機能検査装置(型名:UNEXEF38G、製造元:株式会社ユネクス)により処理し、平均血圧(MBP)と心拍出量(Cardiac output)を算出するとともに、血行力学の式(平均血圧=心拍出量×血管抵抗)に基づいて、頸動脈の血管抵抗(Carotid arterial resistance)を算出した。また、測定された光電式容積脈波を本発明に係る圧反射性血管交感神経活動検出装置1によって処理し、規準化脈波容積(NPV)、脈拍間隔(IBI)およびVBRSA値(Vascular BRSA)を算出した。この結果を
図9に示す。
【0084】
図9は、被験者について得られた測定結果を時系列で示す図である。また、当該測定結果のうち、VBRSA値(Vascular BRSA)と頸動脈の血管抵抗(Carotid arterial resistance)のそれぞれについて、10秒毎の平均値をプロットした散布図を
図10に示す。なお、
図10において、白丸は安静時(Rest)、黒丸はストレス負荷時(Stress)、白三角は回復時(Recovery)のデータである。
【0085】
図10に示すように、ストレス負荷時には、安静時に比較して脈拍間隔が半分程度に低減し、脈拍数としては2倍程度に増大している。また、ストレス負荷時には、安静時に比較して血管抵抗が増大し、血管が緊張して固くなっていることがわかる。このとき、VBRSA値(Vascular BRSA)の動向は、血管抵抗が低い安静時には高い値を示し、血管がそれ以上弛緩しないように働いている。一方、血管抵抗が高いストレス負荷時には低い値を示し、あまり働いていない。このような結果は、従来のマイクロニューログラフィーによって測定された血管の交感神経活動と一致する。
【0086】
以上の本実施例1によれば、本発明に係る圧反射性血管交感神経活動と、血管の交感神経活動(血管の神経性圧反射機能)によって制御される血管抵抗との間には、理論通りの関係性があることが確認された。また、本発明に係るVBRSA値は、圧反射性血管交感神経活動を示す指標として利用できることが示された。
【実施例2】
【0087】
本実施例2では、精神的ストレスに対して血圧を上昇させる反応機序が、心臓の圧反射機能または血管の圧反射機能のどちらが優位な人であっても、本発明に係る圧反射性血管交感神経活動が、血管抵抗と関連性を有するか否かを確認する実験を行った。
【0088】
具体的には、20~25歳の男性9名および女性2名の各被験者に対して、実施例1と同様の測定および解析を実施し、上述した各種データを算出した。また、上述した精神的ストレスに対して血圧を上昇させる反応機序は、個人によってどちらが優位に作用するかが異なる。そこで、本実施例2では、主に心拍出量によって血圧を上昇させる(したがって、血管抵抗は低下する)心臓優位反応群と、主に血管抵抗によって血圧を上昇させる血管優位反応群とのいずれかに全被験者を分類した。
【0089】
そして、心臓優位反応群と血管優位反応群とのそれぞれについて、安静時(Rest)、ストレス負荷時(Stress)および回復時(Recovery)における、平均血圧(MBP)、頸動脈の血管抵抗(Carotid arterial resistance)およびVBRSA値(Vascular BRSA)の平均値と標準偏差をグラフ化した。その結果を
図11(a)~(c)に示す。なお、黒丸は血管優位反応群のデータであり、白丸は心臓優位反応群のデータを示している。
【0090】
また、全被験者の実測データを用いて作成された、VBRSA値(Vascular BRSA)と頸動脈の血管抵抗(Carotid arterial resistance)との相関図を
図12に示す。本実施例2において、両者のピアソン相関係数は-0.61であり、1%水準で有意であった。
図11および
図12に示すように、本発明に係るVBRSA値(Vascular BRSA)は、心臓優位反応群と血管優位反応群の双方において、頸動脈の血管抵抗(Carotid arterial resistance)との関連性が確認された。
【0091】
以上の本実施例2によれば、精神的ストレスに対して血圧を上昇させる反応機序が、心臓の圧反射機能または血管の圧反射機能のどちらが優位な人であっても、本発明に係る圧反射性血管交感神経活動が血管抵抗と関連性を有することが確認された。よって、本発明に係るVBRSA値は、反応機序に係る個人差によらず、圧反射性血管交感神経活動を評価しうる指標として利用できることが示された。
【実施例3】
【0092】
本実施例3では、本発明に係るVBRSA値と、血管の弛緩による拡張期血圧との関連性に基づいて、VBRSA値が反射性血管交感神経活動を評価する指標として信頼性を有するものであるか否かを確認する実験を行った。
【0093】
具体的には、被験者(22歳、男性)に対し、血圧変動を測定するための携帯型自動血圧計(型名:TM-2431、製造元:株式会社エー・アンド・デイ)を上腕に装着した。また、光電式容積脈波を測定するための脈波検出手段2(型名:EBRS-01J、製造元:有限会社ニッチプロダクト)を被験者の耳に装着した。そして、上述した各データを就寝前1時間以上、就寝時、そして起床後1時間以上という長時間に渡り、時系列で同時測定した。
【0094】
そして、測定された血圧データを血圧解析ソフト(型名:TM-2430-15、製造元:株式会社エー・アンド・デイ)により処理し、拡張期血圧(DBP)を算出した。また、測定された光電式容積脈波を本発明に係る圧反射性血管交感神経活動検出装置1によって処理し、脈拍間隔(IBI)、規準化脈波容積(NPV)およびVBRSA値(Vascular BRSA)を算出した。その結果を
図13に示す。
【0095】
なお、被験者は、測定期間中における自身の行動事象(Event)について、その内容と時間を記録した。
図13において、Event1として記録されているのは、トイレに行った時刻である。また、Event2は就寝時刻であり、Event3は起床時刻である。本実施例3において、就寝時刻から起床時刻までの期間を就寝期(Sleep)とし、それ以外の期間を覚醒期(Awake)とした。
【0096】
一般的に、健康な若者においては、睡眠中、脈拍数が低下(脈拍間隔が増加)するとともに、血管の弛緩により血圧が低下することが想定されている。この点、本実施例3においても、
図13に示すように、就寝期(Sleep)においては、脈拍間隔(IBI)が増加するとともに、拡張期血圧(DBP)が低下しており、上記想定どおりの結果であることが確認された。
【0097】
また、
図14は、
図13に示す実測データのうち血圧測定時間における、本発明に係るVBRSA値の平均値(Vascular BRSA)と、拡張期血圧(DBP)との相関を示すグラフである。
図14に示すように、VBRSA値と拡張期血圧との間には、高い相関が確認され、その相関係数は、-0.94であった。なお、VBRSA値と拡張期血圧との相関を示す回帰直線の傾きは、血管の圧反射機能を示す指標(血管神経性圧反射感度)として使用することもできる。
【0098】
以上の本実施例3によれば、本発明に係るVBRSA値は、日常生活上においても、血管の弛緩による拡張期血圧と対応した反射性血管交感神経活動を評価する指標として高い信頼性を有することが実証された。
【0099】
なお、本発明に係る圧反射性血管交感神経活動検出装置1、圧反射性血管交感神経活動検出プログラム1aおよび圧反射性血管交感神経活動検出方法は、前述した実施形態および実施例に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0100】
例えば、本発明に係るVBRSA値の数値範囲に対応させて、その評価を示す表示テーブル(例:良好、普通、悪い)を記憶手段3に格納しておき、VBRSA値算出部46によって算出されたVBRSA値に基づき、圧反射性血管交感神経活動に関する評価を表示手段や印刷手段から出力し、被測定者に提示するようにしてもよい。
【0101】
また、上述した本実施形態では、圧反射性血管交感神経活動を検出するための脈波データとして、規準化脈波容積(NPV)を使用しているが、必ずしもこれに限定されるものではない。すなわち、個人間で値を比較できない相対値としてのみ使用する場合には、光電式容積脈波の値をそのまま使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0102】
血圧は、後期高齢化社会の中で増加し続ける心血管疾患における重要なリスクファクターである。信頼性の高い圧反射性血管交感神経活動の測定を日常生活上にまで応用することで、血圧を調節する仕組みをより詳細にモニターし、調べることができる。したがって、慢性心不全を含む生活習慣病全体のプレクリニカルな段階での疾病予測、スクリーニング、診断、および長期の経過観察に役立ち、医療現場への波及効果は極めて広範である。
【0103】
また、本発明に係る反射性血管交感神経活動測定装置1が、スマートフォンやタブレット端末等の携帯端末サイズに小型化されれば、子供からお年寄りまで手軽に扱うことができる健康機器として家庭用・個人用に広く普及することも考えられる。さらに、ウェアラブルな脈波検出手段2を組み合わせて使用すれば、日常生活におけるモニタリングも容易になるものと考えられる。
【符号の説明】
【0104】
1 圧反射性血管交感神経活動検出装置
1a 圧反射性血管交感神経活動検出プログラム
2 脈波検出手段
3 記憶手段
4 演算処理手段
21 光電式センサ
21a 発光部
21b 受光部
22 脈波アンプ
31 プログラム記憶部
32 脈波データ記憶部
33 拍間隔記憶部
34 心電図データ記憶部
35 VBRSA系列記憶部
36 VBRSA値記憶部
41 脈波データ取得部
42 脈波データ変換部
43 拍間隔取得部
44 VBRSA系列検出部
45 理論値算出部
46 VBRSA値算出部