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特許7081842スピン起動トルクベースのスイッチング素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】スピン起動トルクベースのスイッチング素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/82 20060101AFI20220531BHJP
   H01L 43/08 20060101ALI20220531BHJP
   H01L 21/8239 20060101ALI20220531BHJP
   H01L 27/105 20060101ALI20220531BHJP
   H01F 10/30 20060101ALI20220531BHJP
   H01F 41/18 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
H01L29/82 Z
H01L43/08 Z
H01L27/105 447
H01F10/30
H01F41/18
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020174818
(22)【出願日】2020-10-16
(65)【公開番号】P2021064791
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2020-10-16
(31)【優先権主張番号】10-2019-0128664
(32)【優先日】2019-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0011887
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】314000442
【氏名又は名称】高麗大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】KOREA UNIVERSITY RESEARCH AND BUSINESS FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】145, Anam-ro Seongbuk-gu Seoul 02841, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金 永根
(72)【発明者】
【氏名】金 奎▲げん▼
【審査官】宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0338021(US,A1)
【文献】特開2017-059634(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0295615(US,A1)
【文献】国際公開第2017/208576(WO,A1)
【文献】特開2004-227621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/82
H01L 43/08
H01L 21/8239
H01F 10/30
H01F 41/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直磁気異方性(perpendicular magnetic anisotropy、PMA)の特性が発現されるタングステン-バナジウム(tungsten-vanadium)合金薄膜を備えるスピントルク発生層を形成するステップと、
前記スピントルク発生層上に磁化自由層を形成するステップとを含み、
前記スピントルク発生層を形成するステップは、
タングステン薄膜を形成するステップと、
前記タングステン薄膜上に前記タングステン-バナジウム合金薄膜を形成するステップと、
250℃~400℃の温度範囲内で熱処理するステップと、を含み、
前記タングステン-バナジウム合金薄膜を形成するステップは、
前記熱処理の温度に応じて予め設定された組成比率で前記タングステン-バナジウム合金薄膜を形成する、スピン軌道トルクベースのスイッチング素子の製造方法。
【請求項2】
前記タングステン-バナジウム合金薄膜を形成するステップは、
タングステンスパッタリングターゲット及びバナジウムターゲットを用いた同時蒸着法を通じて前記タングステン-バナジウム合金薄膜を形成する、請求項に記載のスピン軌道トルクベースのスイッチング素子の製造方法。
【請求項3】
前記タングステン-バナジウム合金薄膜を形成するステップは、
前記熱処理の温度が250℃である場合、バナジウムの組成比率(x)(ここで、xは実数)が20at%≦x≦90at%である前記タングステン-バナジウム合金薄膜を形成し、
前記熱処理の温度が300℃である場合、前記バナジウムの組成比率(x)が0at%<x≦70at%である前記タングステン-バナジウム合金薄膜を形成し、
前記熱処理の温度が400℃である場合、前記バナジウムの組成比率(x)が0at%<x≦30at%である前記タングステン-バナジウム合金薄膜を形成する、請求項に記載のスピン軌道トルクベースのスイッチング素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願との相互参照〕
本出願は、2019年10月16日付の韓国特許出願第10-2019-0128664号及び2020年01月31日付の韓国特許出願第10-2020-0011887号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
スピン軌道トルクベースのスイッチング素子及びその製造方法に関し、より詳細には、垂直磁気異方性を維持しながら、スピン軌道トルクスイッチングを可能にするスイッチング素子に関する。
【背景技術】
【0003】
図1は、一般的な磁気トンネル接合素子を説明するための図である。図1を参照すると、スピン軌道トルク(spin-orbit torque、SOT)スイッチングベースのMRAMの核心素子である磁気トンネル接合(magnetic tunnel junction;MTJ)100は、非磁性のスピントルク発生層、磁化自由層、トンネルバリア層及び磁化固定層の積層構造で構成されており、磁化自由層と磁化固定層の相対的な磁化方向に応じて絶縁層を通過するトンネル電流の電気抵抗値が変わるトンネル磁気抵抗(tunneling magneto resistance、TMR)現象を用いて情報を格納する。
【0004】
高いトンネル磁気抵抗比、高い書き込み安定性、低い書き込み電流、高集積化を実現するために、磁気トンネル接合100は、必須に垂直磁気異方性(perpendicular magnetic anisotropy、PMA)の特性を有しなければならない。垂直磁気異方性とは、磁性層の磁化方向が磁性層面に垂直であることを意味する。
【0005】
最近は、磁化自由層に隣接するスピントルク発生層の面内の平行な方向に電流が流れるときに発生するスピンホール効果(spin hall effect)またはラシュバ効果(rashba effect)を用いて磁化自由層のスイッチングを誘導するスピン軌道トルク現象が見出され、既存のスピントランスファートルク(spin-transfer torque、STT)書き込み(writing)方式よりも高速、低電流消耗で情報の書き込みが可能な技術として関心を集めており、核心は、スピントルク発生層の物質の組み合わせを多様化して、スピン軌道トルクの効率を示すスピンホール角度(spin hall angle)が大きい構造を作ることである。
【0006】
そこで、公知の技術では、スピン軌道トルクの効率を向上させるために、磁気トンネル接合100においてスピントルク発生層と磁化自由層との間に異種の単一物質を挿入する構造を提案したが、このような構造は、垂直磁気異方性エネルギーの観点で損失が発生するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】韓国登録特許第10-1829452号、「磁気メモリ素子」
【文献】韓国登録特許第10-1457511号、「スピンホール効果磁気装置、方法、及び適用」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、単一の金属物質であるタングステン上にタングステン-バナジウムを合金化して蒸着することによって、垂直磁気異方性エネルギーの損失なしにスピン軌道トルクの効率を増大させることができるスピン軌道トルクベースのスイッチング素子及びその製造方法を提供しようとする。
【0009】
また、本発明は、磁化自由層に接触して面内電流を提供する導線層としてタングステン-バナジウム合金を使用することができるスピン軌道トルクベースのスイッチング素子及びその製造方法を提供しようとする。
【0010】
また、本発明は、垂直磁気異方性の特性の発現のために、タングステン-バナジウム合金の組成範囲及び熱処理条件が最適化されたスピン軌道トルクベースのスイッチング素子及びその製造方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子は、垂直磁気異方性(perpendicular magnetic anisotropy、PMA)の特性が発現されるタングステン-バナジウム(tungsten-vanadium)合金薄膜を備えるスピントルク発生層と、スピントルク発生層上に形成される磁化自由層とを含むことができる。
【0012】
一態様によれば、スピントルク発生層は、タングステン薄膜、及びタングステン薄膜と磁化自由層との間に形成されるタングステン-バナジウム合金薄膜を含むことができる。
【0013】
一態様によれば、スピン軌道トルクベースのスイッチング素子は、250℃~400℃の温度範囲内での熱処理を通じて形成されてもよい。
【0014】
一態様によれば、タングステン-バナジウム合金薄膜は、熱処理の温度に応じて予め設定された組成比率で形成されてもよい。
【0015】
一態様によれば、タングステン-バナジウム合金薄膜は、熱処理の温度が250℃である場合、バナジウムの組成比率(x)(ここで、xは実数)が20at%≦x≦90at%であり、熱処理の温度が300℃である場合、バナジウムの組成比率(x)が0at%<x≦70at%であり、熱処理の温度が400℃である場合、バナジウムの組成比率(x)が0at%<x≦30at%であってもよい。
【0016】
本発明の一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子の製造方法は、垂直磁気異方性(perpendicular magnetic anisotropy、PMA)の特性が発現されるタングステン-バナジウム(tungsten-vanadium)合金薄膜を備えるスピントルク発生層を形成するステップと、スピントルク発生層上に磁化自由層を形成するステップとを含むことができる。
【0017】
一態様によれば、スピントルク発生層を形成するステップは、タングステン薄膜を形成するステップと、タングステン薄膜上にタングステン-バナジウム合金薄膜を形成するステップとをさらに含むことができる。
【0018】
一態様によれば、合金薄膜を形成するステップは、タングステンスパッタリングターゲット及びバナジウムターゲットを用いた同時蒸着法を通じてタングステン-バナジウム合金薄膜を形成することができる。
【0019】
一態様によれば、スピン軌道トルクベースのスイッチング素子の製造方法は、250℃~400℃の温度範囲内で熱処理するステップをさらに含むことができる。
【0020】
一態様によれば、合金薄膜を形成するステップは、熱処理の温度に応じて予め設定された組成比率でタングステン-バナジウム合金薄膜を形成することができる。
【0021】
一態様によれば、合金薄膜を形成するステップは、熱処理の温度が250℃である場合、バナジウムの組成比率(x)(ここで、xは実数)が20at%≦x≦90at%であるタングステン-バナジウム合金薄膜を形成し、熱処理の温度が300℃である場合、バナジウムの組成比率(x)が0at%<x≦70at%であるタングステン-バナジウム合金薄膜を形成し、熱処理の温度が400℃である場合、バナジウムの組成比率(x)が0at%<x≦30at%であるタングステン-バナジウム合金薄膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0022】
一実施例によれば、本発明のスイッチング素子は、単一の金属物質であるタングステン上にタングステン-バナジウムを合金化して蒸着することによって、垂直磁気異方性エネルギーの損失なしにスピン軌道トルクの効率を増大させることができる。
【0023】
一実施例によれば、本発明のスイッチング素子は、磁化自由層に接触して面内電流を提供する導線層としてタングステン-バナジウム合金を使用し、垂直磁気異方性の特性の発現のために、タングステン-バナジウム合金の組成範囲及び熱処理の条件を最適化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】一般的な磁気トンネル接合素子を説明するための図である。
図2】一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子を説明するための図である。
図3】一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子の具現例を説明するための図である。
図4】250℃で熱処理された一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子の垂直磁気異方性の特性を説明するための図である。
図5】300℃で熱処理された一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子の垂直磁気異方性の特性を説明するための図である。
図6】400℃で熱処理された一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子の垂直磁気異方性の特性を説明するための図である。
図7】300℃で熱処理された一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子のスピン軌道トルクの効率を説明するための図である。
図8】一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子のスイッチング電流及びスピン-軌道トルクの有効磁場の特性を説明するための図である。
図9】一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子の製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本明細書の様々な実施例が添付の図面を参照して記載される。
【0026】
実施例及びこれに使用された用語は、本明細書に記載された技術を特定の実施形態に対して限定しようとするものではなく、当該実施例の様々な変更、均等物、及び/又は代替物を含むものと理解しなければならない。
【0027】
以下で様々な実施例を説明するにおいて、関連する公知の機能又は構成についての具体的な説明が発明の要旨を不明瞭にする可能性があると判断される場合には、その詳細な説明を省略する。
【0028】
そして、後述する用語は、様々な実施例における機能を考慮して定義された用語であって、これは、使用者、運用者の意図又は慣例などによって変わり得る。したがって、その定義は、本明細書全般にわたる内容に基づいて行われるべきである。
【0029】
図面の説明に関連して、類似の構成要素に対しては類似の参照符号が使用され得る。
【0030】
単数の表現は、文脈上明らかに別の意味を示すものでない限り、複数の表現を含むことができる。
【0031】
本文書において、「A又はB」又は「A及び/又はBのうち少なくとも1つ」などの表現は、共に並べられた項目の全ての可能な組み合わせを含むことができる。
【0032】
「第1」、「第2」、「第一」、又は「第二」などの表現は、当該構成要素を、順序又は重要度に関係なく修飾することができ、ある構成要素を他の構成要素と区分するために用いられるだけで、当該構成要素を限定しない。
【0033】
ある(例:第1)構成要素が他の(例:第2)構成要素に「(機能的に又は通信的に)連結されて」いるとか、「接続されて」いると言及された際には、前記ある構成要素が前記他の構成要素に直接的に連結されるか又は別の構成要素(例:第3構成要素)を介して連結され得る。
【0034】
本明細書において、「~するように構成された(又は設定された)(configured to)」は、状況によって、例えば、ハードウェア的又はソフトウェア的に「~に適した」、「~する能力を有する」、「~するように変更された」、「~するように作られた」、「~ができる、」又は「~するように設計された」と相互互換的に(interchangeably)使用され得る。
【0035】
ある状況では、「~するように構成された装置」という表現は、その装置が他の装置又は部品と共に「~できる」ことを意味し得る。
【0036】
例えば、文句「A、B、及びCを行うように構成された(又は設定された)プロセッサ」は、当該動作を行うための専用プロセッサ(例:エンベデッドプロセッサ)、又はメモリ装置に格納された1つ以上のソフトウェアプログラムを実行することによって、当該動作を行うことができる汎用プロセッサ(例:CPU又はapplication processor)を意味し得る。
【0037】
また、「又は」という用語は、排他的論理和「exclusive or」よりは、包含的論理和「inclusive or」を意味する。
【0038】
すなわち、別に言及しない限り、又は文脈から明らかでない限り、「xがa又はbを用いる」という表現は、包含的な自然順列(natural inclusive permutations)のいずれか1つを意味する。
【0039】
上述した具体的な実施例において、発明に含まれる構成要素は、提示された具体的な実施例によって単数又は複数で表現された。
【0040】
しかし、単数又は複数の表現は、説明の便宜のために提示した状況に適するように選択されたものであって、上述した実施例が単数又は複数の構成要素に制限されるものではなく、複数で表現された構成要素であっても単数で構成されてもよく、単数で表現された構成要素であっても複数で構成されてもよい。
【0041】
一方、発明の説明では具体的な実施例について説明したが、様々な実施例が内包する技術的思想の範囲から逸脱しない限り、様々な変形が可能であることは勿論である。
【0042】
したがって、本発明の範囲は、説明された実施例に限定されて定められてはならず、後述する特許請求の範囲だけでなく、この特許請求の範囲と均等なものによって定められなければならない。
【0043】
図2は、一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子を説明するための図である。
【0044】
図2を参照すると、一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子200は、垂直磁気異方性(perpendicular magnetic anisotropy、PMA)の特性が発現されるタングステン-バナジウム(tungsten-vanadium)合金薄膜を備えるスピントルク発生層と、スピントルク発生層上に形成される磁化自由層と、磁化自由層上に形成されるトンネルバリア層とを含むことができる。
【0045】
一態様によれば、スピン軌道トルクベースのスイッチング素子200は、スピントルク発生層、磁化自由層及びトンネルバリア層を順次積層形成した後に、所定の温度での熱処理を通じて形成されてもよい。
【0046】
また、タングステン-バナジウム合金薄膜は、熱処理の温度に対応して組成範囲が最適化され得、最適化された組成範囲に基づいて形成されたタングステン-バナジウム合金薄膜を通じて、スピン軌道トルクベースのスイッチング素子200は、垂直磁気異方性エネルギーの損失なしにスピン軌道トルクの効率を増大させることができる。
【0047】
一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子200は、後で図3を通じてより具体的に説明する。
【0048】
図3は、一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子の具現例を説明するための図である。
【0049】
図3を参照すると、一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子300は、タングステン薄膜310及びタングステン-バナジウム合金薄膜320を含むスピントルク発生層と、磁化自由層330との積層構造体で形成され得、磁化自由層330上に形成されるトンネルバリア層340及びキャッピング層(capping layer)350をさらに含むこともできる。
【0050】
例えば、磁化自由層330は、コバルト(Co)、鉄(Fe)、ホウ素(B)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)及びマンガン(Mn)及びその合金からなる群から選択された少なくとも1つの物質を含むことができる。
【0051】
また、トンネルバリア層340は、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ハフニウム(HfO)、二酸化チタン(TiO)、酸化イットリウム(Y)及び酸化イッテルビウム(Yb)のうち少なくとも1つの物質を含むことができる。
【0052】
好ましくは、磁化自由層330は、コバルト-鉄-ホウ素合金(CoFeB)薄膜で形成され、トンネルバリア層340は、酸化マグネシウム(MgO)薄膜で形成されてもよい。また、キャッピング層350は、タンタル(Ta)薄膜で形成されてもよい。
【0053】
一態様によれば、タングステン薄膜310は、基板上に形成される非晶質の自然酸化層上に形成されてもよい。例えば、基板はシリコン(Si)基板であり、自然酸化層はシリコン酸化膜(SiO)であってもよい。
【0054】
一態様によれば、スピン軌道トルクベースのスイッチング素子300は、金属層を積層するとき、直流(dc)マグネトロンスパッタリング法を適用し、絶縁体を積層するとき、交流(ac)マグネトロンスパッタリング法を適用し、初期真空(base pressure)はそれぞれ5×10-9Torr以下、アルゴン(Ar)雰囲気で蒸着形成されてもよい。
【0055】
また、スピン軌道トルクベースのスイッチング素子300の各層の厚さは、蒸着時間及びスパッタリングパワーを調節して制御することができる。
【0056】
例えば、蒸着時間及びスパッタリングパワーの調節を通じて、タングステン薄膜310は4nm、タングステン-バナジウム合金薄膜320は2nm、磁化自由層330は0.9nm、トンネルバリア層340は1nm、キャッピング層350は2nmの厚さに形成されてもよい。
【0057】
一方、スピン軌道トルクベースのスイッチング素子300は、250℃~400℃の温度範囲内での熱処理を通じて形成され得る。例えば、熱処理は、10-6Torr帯域の初期真空及び6kOeの外部磁場が印加される環境で約1時間行われてもよい。
【0058】
言い換えると、スピン軌道トルクベースのスイッチング素子300は、タングステン薄膜310、タングステン-バナジウム合金薄膜320、磁化自由層330、トンネルバリア層340及びキャッピング層350を積層形成した後、250℃~400℃の温度範囲内での熱処理を通じて形成され得る。
【0059】
一態様によれば、タングステン-バナジウム合金薄膜320は、熱処理の温度に応じて予め設定された組成比率で形成され得る。
【0060】
より具体的には、タングステン-バナジウム合金薄膜320は、熱処理の温度が250℃である場合、バナジウムの組成比率(x)(ここで、xは実数)が20at%≦x≦90at%であってもよい。
【0061】
また、タングステン-バナジウム合金薄膜320は、熱処理の温度が300℃である場合、バナジウムの組成比率(x)が0at%<x≦70at%であってもよい。
【0062】
また、タングステン-バナジウム合金薄膜320は、熱処理の温度が400℃である場合、バナジウムの組成比率(x)が0at%<x≦30at%であってもよい。
【0063】
図4は、250℃で熱処理された一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子の垂直磁気異方性の特性を説明するための図である。
【0064】
図4を参照すると、図4の(a)は、一実施例に係るタングステン-バナジウム合金薄膜のバナジウム(V)及びタングステン(W)の組成比率(at%)が調節された試片を、250℃で1時間熱処理を行った後、熱処理された試片の垂直方向に対応する磁気履歴曲線の測定結果を示し、図4の(b)は、熱処理された試片の面内方向に対応する磁気履歴曲線の測定結果を示し、ここで、磁気履歴曲線は、振動試片磁力計(vibrating sample magnetometer、VSM)を通じて測定することができる。
【0065】
図4の(a)及び(b)によれば、250℃の温度で熱処理されたスピン軌道トルクベースのスイッチング素子(W:4nm/W-V:2nm/CoFeB:0.9nm/MgO:1nm/Ta:2nm)の構造において、タングステン-バナジウム(W-V)合金薄膜のバナジウム(V)の組成は、20at%から90at%の区間で薄膜の垂直磁気異方性が発現されることを確認することができる。
【0066】
図5は、300℃で熱処理された一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子の垂直磁気異方性の特性を説明するための図である。
【0067】
図5を参照すると、図5の(a)は、一実施例に係るタングステン-バナジウム合金薄膜のバナジウム(V)及びタングステン(W)の組成比率(at%)が調節された試片を、300℃で1時間熱処理を行った後、熱処理された試片の垂直方向に対応する磁気履歴曲線の測定結果を示し、図5の(b)は、熱処理された試片の面内方向に対応する磁気履歴曲線の測定結果を示す。
【0068】
図5の(a)及び(b)によれば、300℃の温度で熱処理されたスピン軌道トルクベースのスイッチング素子(W:4nm/W-V:2nm/CoFeB:0.9nm/MgO:1nm/Ta:2nm)の構造において、タングステン-バナジウム合金薄膜(W-V)のバナジウム(V)の組成は、0at%~70at%の区間で薄膜の垂直磁気異方性が発現されることを確認することができる。
【0069】
図6は、400℃で熱処理された一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子の垂直磁気異方性の特性を説明するための図である。
【0070】
図6を参照すると、図6の(a)は、一実施例に係るタングステン-バナジウム合金薄膜のバナジウム(V)及びタングステン(W)の組成比率(at%)が調節された試片を、400℃で1時間熱処理を行った後、熱処理された試片の垂直方向に対応する磁気履歴曲線の測定結果を示し、図6の(b)は、熱処理された試片の面内方向に対応する磁気履歴曲線の測定結果を示す。
【0071】
図6の(a)及び(b)によれば、400℃の温度で熱処理されたスピン軌道トルクベースのスイッチング素子(W:4nm/W-V:2nm/CoFeB:0.9nm/MgO:1nm/Ta:2nm)の構造において、タングステン-バナジウム合金薄膜(W-V)のバナジウム(V)の組成は、0at%~30at%の区間で薄膜の垂直磁気異方性が発現されることを確認することができる。
【0072】
図7は、300℃で熱処理された一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子のスピン軌道トルクの効率を説明するための図である。
【0073】
図7を参照すると、図7の(a)は、スピン軌道トルクの効率の測定のために、一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子を十字状に形成する例示を示し、図7の(b)は、図7の(a)に示された十字状のスイッチング素子のスピンホール角度(spin hall angle)の測定結果を示し、ここで、スピンホール角度は、ハーモニックス測定法(harmonics measurement)を通じて測定することができる。
【0074】
図7の(a)によれば、タングステン薄膜710、タングステン-バナジウム合金薄膜720、磁化自由層730、トンネルバリア層740及びキャッピング層750が積層形成されるスピン軌道トルクベースのスイッチング素子は、十字状に形成されてスピンホール角度を測定することができる。
【0075】
図7の(b)によれば、一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子において、タングステン-バナジウム合金薄膜720のバナジウムの組成が20at%と70at%である場合に、タングステン-バナジウム合金薄膜720なしに単一層であるタングステン薄膜710のみを使用する従来の技術(0.35)とスピンホール角度の測定結果を比較したとき、一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子は、約40%増加した0.50のスピンホール角度を示すことを確認することができる。
【0076】
言い換えると、一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子は、従来技術に比べて約40%程度向上したスピン軌道トルクの効率を示すことを確認することができる。
【0077】
図8は、一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子のスイッチング電流及びスピン-軌道トルクの有効磁場の特性を説明するための図である。
【0078】
図8を参照すると、図8の(a)は、タングステン-バナジウム合金薄膜のバナジウム含量が20at%である一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子の外部磁場(Hext)の大きさの変化によるスイッチング電流(電流密度)の測定結果を示す。すなわち、図8の(a)は、4点プローブ法(four-point probe)を用いたスイッチング測定の結果を示す。
【0079】
また、図8の(b)は、タングステン-バナジウム合金薄膜のバナジウム含量が20at%である一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子のスイッチング測定に基づいて、スピン-軌道トルクの有効磁場(SOT effective magnetic field)を算出した結果を示し、ここで、点線は、ハーモニックス測定法により算出したスピン-軌道トルクの有効磁場の大きさを示す。
【0080】
図8の(a)によれば、一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子は、外部磁場の大きさが10Oeから150Oeまで増加するにつれて、磁化反転に必要なスイッチング電流(又は電流密度)の値が減少することを確認し、印加した全ての外部磁場下でスピン-軌道トルクスイッチング現象を観察することができた。
【0081】
また、外部磁場の大きさが±120Oe以上である場合には、スイッチングに必要な電流(密度)の値が飽和し、平均値で3.52mA(1.02×10A/cm)のスイッチング電流(密度)値を示すことが確認できた。
【0082】
図8の(b)によれば、一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子は、印加される外部磁場が増加するにつれてスイッチング電流が減少するようになって、スピンホール角度が増加するようになり、±120Oeからは、その値が飽和して、ハーモニックス測定法により測定した結果(図8の(b)に示された点線)とほぼ同一のレベルの値を示すことを確認することができる。
【0083】
言い換えると、先に図7の(b)を通じて説明したハーモニックス測定法で最大の効率を示した、バナジウムの組成が20at%である試片に対して、スイッチング測定をベースとするスピンホール角度を測定した結果、ハーモニックス測定法と同様に、50%の効率(0.50のスピンホール角度)が測定されることを確認することができる。
【0084】
図9は、一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子の製造方法を説明するための図である。
【0085】
言い換えると、図9は、図1乃至図8を通じて説明した一実施例に係るスピン軌道トルクベースのスイッチング素子の製造方法を説明する図であって、後で図9を通じて説明する内容のうち、図1乃至図8を通じて説明した内容と重複する説明は省略する。
【0086】
図9を参照すると、一実施例に係るスイッチング素子の製造方法は、金属層を積層するとき、直流(dc)マグネトロンスパッタリング法を適用し、絶縁体を積層するとき、交流(ac)マグネトロンスパッタリング法を適用し、初期真空(base pressure)はそれぞれ5×10-9Torr以下、アルゴン(Ar)雰囲気でスイッチング素子を蒸着形成することができる。
【0087】
また、一実施例に係るスイッチング素子の製造方法は、スイッチング素子の各層の厚さを、蒸着時間及びスパッタリングパワーを調節して制御することができる。
【0088】
例えば、一実施例に係るスイッチング素子の製造方法は、蒸着時間及びスパッタリングパワーの調節を通じて、タングステン薄膜は4nm、タングステン-バナジウム(tungsten-vanadium)合金薄膜は2nm、磁化自由層は0.9nm、トンネルバリア層は1nm、キャッピング層は2nmの厚さに形成することができる。
【0089】
具体的には、ステップ910において、一実施例に係るスイッチング素子の製造方法は、垂直磁気異方性(perpendicular magnetic anisotropy、PMA)の特性が発現されるタングステン-バナジウム合金薄膜を備えるスピントルク発生層を形成することができる。
【0090】
具体的には、ステップ911において、一実施例に係るスイッチング素子の製造方法は、タングステン薄膜を形成することができる。
【0091】
次に、ステップ912において、一実施例に係るスイッチング素子の製造方法は、タングステン薄膜上にタングステン-バナジウム合金薄膜を形成することができる。
【0092】
一態様によれば、ステップ912において、一実施例に係るスイッチング素子の製造方法は、タングステンスパッタリングターゲット及びバナジウムターゲットを用いた同時蒸着法を通じてタングステン-バナジウム合金薄膜を形成することができる。
【0093】
次に、ステップ930において、一実施例に係るスイッチング素子の製造方法は、スピントルク発生層上に磁化自由層を形成することができる。
【0094】
例えば、磁化自由層は、コバルト(Co)、鉄(Fe)、ホウ素(B)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)及びマンガン(Mn)及びその合金からなる群から選択された少なくとも1つの物質を含むことができる。
【0095】
好ましくは、磁化自由層は、コバルト-鉄-ホウ素合金(CoFeB)薄膜で形成されてもよく、コバルト-鉄-ホウ素合金薄膜を形成するためのスパッタリングターゲットの組成は、Co40Fe4020(at%)であってもよい。
【0096】
次に、ステップ940において、一実施例に係るスイッチング素子の製造方法は、磁化自由層上にトンネルバリア層及びキャッピング層を順次積層形成することができる。
【0097】
例えば、トンネルバリア層は、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ハフニウム(HfO)、二酸化チタン(TiO)、酸化イットリウム(Y)及び酸化イッテルビウム(Yb)のうち少なくとも1つの物質を含むことができる。
【0098】
好ましくは、トンネルバリア層は、酸化マグネシウム(MgO)薄膜で形成され、キャッピング層は、タンタル(Ta)薄膜で形成されてもよい。
【0099】
次に、ステップ950において、一実施例に係るスイッチング素子の製造方法は、250℃~400℃の温度範囲内で熱処理を行うことができる。
【0100】
一態様によれば、ステップ912において、一実施例に係るスイッチング素子の製造方法は、熱処理の温度に応じて予め設定された組成比率でタングステン-バナジウム合金薄膜を形成することができる。
【0101】
より具体的には、ステップ912において、一実施例に係るスイッチング素子の製造方法は、熱処理の温度が250℃である場合、バナジウムの組成比率(x)(ここで、xは実数)が20at%≦x≦90at%であるタングステン-バナジウム合金薄膜を形成することができる。
【0102】
また、ステップ912において、一実施例に係るスイッチング素子の製造方法は、熱処理の温度が300℃である場合、バナジウムの組成比率(x)が0at%<x≦70at%であるタングステン-バナジウム合金薄膜を形成することができる。
【0103】
また、ステップ912において、一実施例に係るスイッチング素子の製造方法は、熱処理の温度が400℃である場合、バナジウムの組成比率(x)が0at%<x≦30at%であるタングステン-バナジウム合金薄膜を形成することができる。
【0104】
結局、本発明を用いると、単一の金属物質であるタングステン上にタングステン-バナジウムを合金化して蒸着することによって、垂直磁気異方性エネルギーの損失なしにスピン軌道トルクの効率を増大させることができる。
【0105】
また、本発明は、磁化自由層に接触して面内電流を提供する導線層としてタングステン-バナジウム合金を使用することができる。
【0106】
また、本発明は、垂直磁気異方性の特性の発現のために、タングステン-バナジウム合金の組成範囲及び熱処理の条件を最適化することができる。
【0107】
以上のように、実施例が、たとえ限定された図面によって説明されたが、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、前記の記載から様々な修正及び変形が可能である。例えば、説明された技術が説明された方法と異なる順序で行われたり、及び/又は説明されたシステム、構造、装置、回路などの構成要素が説明された方法と異なる形態で結合又は組み合わせられたり、他の構成要素又は均等物によって代替又は置換されたりしても適切な結果が達成され得る。
【0108】
したがって、他の具現、他の実施例及び特許請求の範囲と均等なものも、後述する特許請求の範囲の範囲に属する。
【符号の説明】
【0109】
200 スピン軌道トルクベースのスイッチング素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9