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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-30
(45)【発行日】2022-06-07
(54)【発明の名称】水耕栽培槽および排水部品
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/00 20180101AFI20220531BHJP
【FI】
A01G31/00 601B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021538557
(86)(22)【出願日】2019-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2019030664
(87)【国際公開番号】W WO2021024340
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2022-01-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593083273
【氏名又は名称】大浩研熱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122183
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】林 大輔
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-060167(JP,U)
【文献】実開平4-74945(JP,U)
【文献】特開昭61-35731(JP,A)
【文献】特開昭63-126436(JP,A)
【文献】特開2018-78809(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0206422(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00 - 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地の少なくとも一部が浸かるように液体肥料が満たされる浸漬部と、前記浸漬部に液体肥料を供給する供給部と、前記浸漬部に供給された液体肥料が排出される排出部と、を備え、
前記排出部は、前記浸漬部の底面よりも上方に形成された排水口と、前記排水口と前記供給部との間に前記排水口を取り囲むように形成された遮水壁と、液体肥料が前記遮水壁を迂回して前記排水口に誘導される誘導路と、を有し、
前記誘導路は、平坦面であることを特徴とする水耕栽培槽。
【請求項3】
培地の少なくとも一部が浸かるように液体肥料が満たされる浸漬部と、前記浸漬部に液体肥料を供給する供給部と、前記浸漬部に供給された液体肥料が排出される排出部と、を備え、
前記排出部は、前記浸漬部の底面よりも上方に形成された排水口と、前記排水口と前記供給部との間に前記排水口を取り囲むように形成された遮水壁と、液体肥料が前記遮水壁を迂回して前記排水口に誘導される誘導路と、を有し、
前記誘導路は、前記遮水壁を迂回した液体肥料が前記排水口に向かって流れる平坦面であり、
前記平坦面は、前記供給部から見て前記排水口よりも遠い側に向かって伸びていることを特徴とする水耕栽培槽。
【請求項4】
培地の少なくとも一部が浸かるように液体肥料が満たされる浸漬部と、前記浸漬部に液体肥料を供給する供給部と、前記浸漬部に供給された液体肥料が排出される排出部と、を備え、
前記排出部は、前記浸漬部の底面よりも上方に形成された排水口と、前記排水口と前記供給部との間に前記排水口を取り囲むように形成された遮水壁と、液体肥料が前記遮水壁を迂回して前記排水口に誘導される誘導路と、を有し、
前記遮水壁は、前記供給部と前記排水口との間にある第1の壁の高さが、第1の壁の両側にある第2の壁の高さよりも高いことを特徴とする水耕栽培槽。
【請求項5】
培地の少なくとも一部が浸かるように液体肥料が満たされる浸漬部から液体肥料を排出するために用いられる排水部品であって、
前記排水部品は、前記浸漬部の底面よりも上方に位置し、該浸漬部に供給された液体肥料が排出される排水口と、前記排水口を取り囲むように形成された遮水壁と、液体肥料が前記遮水壁を迂回して前記排水口に誘導される誘導路と、を有し、
前記誘導路は、前記遮水壁と前記排水口とをつなぐ平坦面であることを特徴とする排水部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水耕栽培槽の排水部品に関する。
【背景技術】
【0002】
畑作のような土壌を用いた食物(野菜や果物)の栽培は、天候に恵まれれば水や肥料を適切に与えることで特別な設備が不要である。一方、一般的な畑作では、土壌菌による病気、害虫による食害、天候不順による生育不良等、様々な要因により安定的に食物を栽培することは容易ではない。
【0003】
近年、様々な植物の栽培を安定して行う技術として水耕栽培が注目されている。水耕栽培は土壌を用いずにハウス内で行われることが一般的であり、病気や害虫から植物を守ることが比較的容易である。また、水耕栽培時の生育温度や水やりの管理も容易である。一方、水耕栽培においては液肥を安定して植物に供給すること、植物への給水と栽培槽からの排水を適切に行うことが必要であり、これらが適切に行われないと根の生育に支障が生ずる場合がある。
【0004】
そこで、栽培槽本体のほぼ中心部に配置され、下方から液肥を供給するように設けられた給水部と、液肥を排水するように栽培槽本体の周囲壁に隣接して設けられた複数の水位調節排水パイプと、を有する水耕栽培槽が考案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5357954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の水耕栽培槽は、根を広範囲に迅速に生長させることにより、地上部の葉、茎、花、実を速く大きく良質に育てることができる。しかしながら、根は流れに沿って排水口に向かって真っすぐに生長する傾向があるため、排水口に到達した根が排水口を塞いでしまうおそれがある。根が排水口を塞いでしまうと、液肥が栽培槽本体からあふれ出すことになる。このことを防止するためには、頻繁に排水口に入り込んだ根を引き出さねばならず、根が切れてしまわないような注意が必要であり、手間のかかる作業となる。また、頻繁に人の手が根に触れることになり、植物にストレスを与えたり、雑菌が繁殖したりすることで、生育障害に至ることもある。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的の一つは、生長した根が排水口に入り込みにくくなる新たな排水構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の水耕栽培槽は、培地の少なくとも一部が浸かるように液体肥料が満たされる浸漬部と、浸漬部に液体肥料を供給する供給部と、浸漬部に供給された液体肥料が排出される排出部と、を備える。排出部は、浸漬部の底面よりも上方に形成された排水口と、排水口と供給部との間に排水口を取り囲むように形成された遮水壁と、液体肥料が遮水壁を迂回して排水口に誘導される誘導路と、を有する。
【0009】
この態様によると、供給部から排出部へ向かう液体肥料の流れが遮水壁によって迂回するため、液体肥料の流れに沿って培地から伸びる根が真っすぐ排水口に入り込みにくくなる。
【0010】
遮水壁は、供給部から見て排水口よりも遠い領域まで形成されていてもよい。これにより、仮に根が排水口に向かって伸びようとすると、遮水壁を迂回する際にそれまでと反対方向に伸びなければならなくなる。そのため、培地から伸びた根は、排水口に入り込みにくくなる。また、培地から伸びた根が排水口に入るまでの距離が長くなるため、栽培開始から排水口に根が入り込むまでの期間を長くできる。
【0011】
誘導路は、遮水壁を迂回した液体肥料が排水口に向かって流れる平坦面であり、平坦面は、供給部から見て排水口よりも遠い側に向かって伸びていてもよい。これにより、根が遮水壁を迂回して排水口に向かって伸びても、根が平坦面の上を伸びている段階で発見し易いので、根が排水口に入り込む前に根を排水口から離すことができる。
【0012】
遮水壁は、供給部と排水口との間にある第1の壁の高さが、第1の壁の両側にある第2の壁の高さよりも高い。これにより、供給部から排水口へ直線的に伸びる根が第1の壁を乗り越えにくくできる。また、第2の壁よりも壁の高さが高い第1の壁をつまんで上下することで、排水口の高さの調整が容易となる。
【0013】
本発明の別の態様は、排水部品である。この排水部品は、培地の少なくとも一部が浸かるように液体肥料が満たされる浸漬部から液体肥料を排出するために用いられる排水部品である。排水部品は、浸漬部の底面よりも上方に位置し、該浸漬部に供給された液体肥料が排出される排水口と、排水口を取り囲むように形成された遮水壁と、液体肥料が遮水壁を迂回して排水口に誘導される誘導路と、を有する。
【0014】
この態様によると、排水口へ向かう液体肥料の流れが遮水壁によって迂回するため、液体肥料の流れに沿って培地から伸びる根が真っすぐ排水口に入り込みにくくなる。
【0015】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、生長した根が排水口に入り込みにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施の形態に係る水耕栽培槽を含む栽培システムの概略構成を示す模式図である。
図2】本実施の形態に係る栽培槽を構成する栽培槽本体の上面図である。
図3】本実施の形態に係る栽培槽を構成する上蓋の上面図である。
図4】本実施の形態に係る栽培槽の分解断面図である。
図5】本実施の形態に係る排水部品の上面図である。
図6】本実施の形態に係る排水部品の側面図である。
図7図5に示す排水部品のA-A断面図である。
図8図8(a)~図8(c)は、本実施の形態の変形例に係る排水部品の排水誘導部の上面図である。
図9】本実施の形態の変形例に係る栽培槽を構成する栽培槽本体の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述される全ての特徴やその組合せは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0019】
(栽培システム)
本発明のある態様は、循環型、または一部循環型方式の水耕栽培槽(以下、単に「栽培槽」と称することがある。)を備えた栽培システムに関する。水耕栽培の対象となる植物には、主にトマト、胡瓜、メロン、西瓜等の果菜類や豆類、穀類、花類、樹木等があり、縦型栽培や棚式栽培で根の生育を向上させる。
【0020】
図1は、本実施の形態に係る水耕栽培槽を含む栽培システムの概略構成を示す模式図である。栽培システム10は、植物の生育に適した液体肥料(以下、適宜「液肥」と称する。)Lを調合して作成し、溜めておく液肥槽12と、液肥槽12における液肥の温度を調整するためのヒーターやチラーからなる液温調整部14と、栽培槽16と、栽培槽16へ液肥を供給するポンプ18と、を備える。
【0021】
液肥Lはポンプ18によって液肥槽12から吐出され、配管20を経由して栽培槽16に供給される。栽培槽16から排出された液肥Lは、配管22を経由して液肥槽12に戻されて再利用される。栽培槽16は、例えば台車23に載せられており、詳しくは後述する供給部24、浸漬部26、排出部28が設けられている。
【0022】
図2は、本実施の形態に係る栽培槽を構成する栽培槽本体の上面図である。図3は、本実施の形態に係る栽培槽を構成する上蓋の上面図である。図4は、本実施の形態に係る栽培槽の分解断面図である。
【0023】
図2乃至図4に示すように、栽培槽16は、栽培槽本体30と、栽培槽本体30の上面を覆うように載置される上蓋32と、を備える。栽培槽本体30は、トレイ状の容器であり、培地34の少なくとも一部が浸かるように液肥Lが満たされる浸漬部26と、浸漬部26に液肥Lを供給する供給部24と、浸漬部26に供給された液肥Lが排出される複数の排出部28と、を備える。
【0024】
栽培槽本体30は、断熱材と本体内壁シール(例えば、金属板、樹脂板、ビニール膜等)とからなる周囲壁30aおよび底面部分30bから構成された外部構造(箱体)を有する。本実施の形態に係る栽培槽本体30は、形状が正四角形であるが、長方形、多角形、円形等の任意の形状であってもよい。なお、対称性の高い形状の方が根が等方的に広がるため好ましい。
【0025】
供給部24には、底面部分30bの中心位置に固定された液肥導入部36と、液肥導入部36を中心にして溶接、ネジ止め、接着等により固定された整流構造38と、が設けられている。液肥導入部36を通して導入された液肥Lは、整流構造38により浸漬部26の底部近傍から水平方向に分岐噴射される。
【0026】
栽培槽本体30が正四角形の場合、整流構造38は、周囲壁30aの4つの各壁の中央に向かうように4方向に分岐されるものが好ましい。また、栽培槽本体30は、液肥導入部36から等距離となる周囲壁30aの四隅の位置に、排出部28が設けられている。排出部28には水位調節排水パイプ(液肥レベル調節排水パイプ)となる排水部品40が設置されている。排水部品40によって栽培槽本体30内の液肥Lの水位が調節され、調整された水位に液肥Lが保たれる。
【0027】
上蓋32は、図3に示すように、栽培槽本体30と同様に正四角形であり、培地34を装着する装着用穴42が中央位置に形成されている。装着用穴42の深さは、培地34を装着した状態で培地の少なくとも一部が浸漬部26に満たされた液肥Lに浸かるように設定されている。また、排水部品40によって調整される液肥Lの水位Wも、培地34が液肥Lに浸かるように設定されている。
【0028】
また、上蓋32は、排水部品40の上方にあたる四隅に、水位調節用(液肥レベル調節用)の点検口44が設けられている。点検を行わない場合は、点検口44は、取り外し可能な点検口蓋46によって覆われている。栽培槽本体30に上蓋32を載置すると、図4に示すように、上蓋32に配置された培地13が栽培槽本体30の液肥導入部36の上方、すなわち、整流構造38の上方に位置するようになる。
【0029】
(排水部品)
次に、本実施の形態に係る排水部品40について詳述する。図5は、本実施の形態に係る排水部品の上面図である。図6は、本実施の形態に係る排水部品の側面図である。図7は、図5に示す排水部品のA-A断面図である。
【0030】
排水部品40は、図7に示す底面部分30bに形成された挿入穴48にOリングといった封止部品50を装着して挿入される。図6図7に示すように、排水部品40は、封止部品50を介して挿入穴48に挿入されて固定される筒状のスライド部52を有する。スライド部52は、配管22と繋がる開口部54が形成されている。また、スライド部52の上部には扇形の排水誘導部56が設けられている。
【0031】
排水誘導部56は、浸漬部26の底面26aよりも上方に形成された排水口58と、排水口58を取り囲むように形成された遮水壁60と、液肥Lが遮水壁60を迂回して排水口58に誘導される誘導路62と、を有する。遮水壁60は、図2に示すように、排水口58と供給部24との間であって、排水口58と供給部24とを結んだ直線上に位置している。
【0032】
これにより、図2図6に示すように、供給部24から排出部28へ向かう液肥Lの流れFが遮水壁60によって迂回するため、液体肥料の流れに沿って培地34から伸びる根Rが真っすぐ(あるいは最短距離で)排水口58に入り込みにくくなる。
【0033】
遮水壁60は、図2図5に示すように、供給部24から見て排水口58よりも遠い領域まで形成されている。これにより、仮に根Rが排水口58に向かって伸びようとすると、遮水壁60を迂回する際にそれまでと反対方向に伸びなければならなくなる(図6参照)。加えて、根Rは、平坦な誘導路62のうち遮水壁60が設けられていない縁部62aで折り返されるように伸びなければ排水口58に向かうことができない。
【0034】
したがって、本実施の形態に係る遮水壁60を有する排水誘導部56においては、培地34から伸びた根Rが排水口に入り込みにくくなる。また、培地34から伸びた根Rが排水口58に入るまでの距離が長くなるため、栽培開始から排水口58に根が入り込むまでの期間を長くできる。なお、本実施の形態に係る排水誘導部56は、縁部62aに円弧状の切り欠き62cが形成されている。これにより、供給部24から栽培槽本体30の四隅で滞留しやすい液肥Lを排水口58に導きやすくなる。
【0035】
前述のように、誘導路62は、遮水壁60を迂回した液肥Lが排水口58に向かって流れる平坦面62bである。平坦面62bは、供給部24から見て排水口58よりも遠い側に向かって伸びていてもよい。これにより、根Rが遮水壁60を迂回して排水口58に向かって伸びても排水口58に入り込むまでにある程度の期間がかかるため、その期間内に点検口蓋46を開いて点検口44から排水部品40を観察することで、根Rが平坦面62bの上を伸びている段階で発見し易い。その結果、根Rが排水口58に入り込む前に根Rを排水口58から離すことができる。
【0036】
遮水壁60は、図5乃至図7に示すように、供給部24と排水口58との間にある第1の壁60aの高さh1(排水口58からの高さ)が、第1の壁60aの両側にある第2の壁60bの高さh2よりも高い。これにより、供給部24から排水口58へ直線的に伸びる根Rが遮水壁60の第1の壁60aを乗り越えにくくできる。また、第2の壁60bよりも壁の高さが高い第1の壁60aの上部をつまんで上下することで、排水口58の高さの調整が容易となる。
【0037】
上述のように、本実施の形態に係る栽培槽本体30は、底面部分30bの中央部に設けられた供給部24から液肥Lが供給され、浸漬部26の四隅に設けられた排出部28から液肥Lが排出される。液肥Lの供給部24と排出部28とがこのような配置である栽培槽本体30は、浸漬部26の中央部から最も離れた位置であり、最も流れの抵抗の大きい四隅角部へ流れを集めることで、対流を良好に維持することを意図している。
【0038】
しかしながら、浸漬部26の四隅は液肥Lが滞留しやすく、四隅の底部に排出穴を設けただけだと、液肥Lがスムーズに排出されにくい。そこで、本実施の形態に係る栽培槽本体30は、排水部品40を用いることで、液肥Lの滞留の問題を改善できる。具体的には、排水部品40は、扇形の平坦面68が排水口58よりも四隅角部に接近しているため、最も流れの弱い(滞留しやすい)角部近傍から液肥Lを集水しやすい。これにより、従来では構造的、スペース的に配水管を取り付けることが困難な四隅角部からの効率的な集水も可能となる。
【0039】
特に、排水口58への集水が、供給部24側からではなく、排水部品の遮水壁を回り込むように浸漬部26の四隅角部から行われることで、浸漬部26における液肥の対流が良好になる。加えて、排水部品40の切り欠き62cは、四隅角部から排水口58へ向かう水の流れに対する抵抗を低減する効果がある。その結果、四隅角部から排水口58へ向かう液肥Lが縁部62aの抵抗で平坦面62bに向かわずに、排水部品40の遮水壁60の外側に向かうことを抑制し、液肥Lが平坦面68を経由して円滑に排水口58に向かうようになる。このように、液肥Lが滞留しがちで流れが弱い四隅角部から排水口58へ向かう対流を強制的に作り出すことで、矩形の浸漬部26全体にわたって偏りやムラの少ない対流が実現できる。
【0040】
(変形例)
図8(a)~図8(c)は、本実施の形態の変形例に係る排水部品の排水誘導部の上面図である。以下では、図5に示す排水誘導部56と異なる点を主として説明する。図8(a)に示す排水誘導部66は、前述の排水誘導部56と比較して、平坦面68の縁部68aが円弧状ではなく直線である。また、縁部68a以外の平坦面68の外周部は全て外周壁70で囲まれている。これにより、根Rは、縁部68a以外から排水口58に向かって伸びにくくなる。
【0041】
図8(b)に示す排水誘導部72は、前述の排水誘導部56と比較して、穴74が平坦面68に形成されている点が異なる。穴74には、例えば、液肥の温度を測る温度センサー、液肥の水位を測る水位センサー、液肥の濃度を測る濃度センサー等が挿入される。また、穴74は、溢れた液体肥料Lが通過する流路としても用いられる。
【0042】
図8(c)に示す排水誘導部76は、前述の排水誘導部56と比較して、平坦面68の上に邪魔板78が設けられている。邪魔板78は、根Rが仮に縁部68aから平坦面68に載り上がっても、根Rが排水口58に向かって真っすぐ伸びないようにするためのものであり、根Rが排水口58に入り込む前に平坦面68上で滞留する時間を長くできる。
【0043】
図9は、本実施の形態の変形例に係る栽培槽を構成する栽培槽本体の上面図である。なお、図9に示す栽培槽本体80は、前述の栽培槽本体30と基本的な構成は同じであるが、全体の形状が長方形である点、供給部24を複数備えている点、複数種の排水部品を備えている点が特徴部分である。なお、図9は、長方形の栽培槽本体80の長手方向の一方の端部を省略して図示している。
【0044】
栽培槽本体80は、長方形の周囲壁80aおよび底面部分80bから構成された箱体を有する。底面部分80bには周囲壁80aの長手方向に沿って複数の供給部24が配置されており、四隅には前述の排水部品40が配置されている。また、周囲壁80aのうち、長手方向に平行な壁80a1に対向するように、図8(a)に示したような排水部品82が複数配置されている。直線の縁部68aは、壁80a1に対してほぼ平行であり、供給部24から供給される液肥Lの流れが縁部68aでの抵抗によって排水部品82の排水口58に向かいにくくなることが低減される。
【0045】
このように、生産性の向上や設備の低コスト化のために、長方形の栽培槽本体80のように大型化した場合、四隅しか排出口がないと、液肥Lを浸漬部26の隅々に均一に供給することが困難である。そこで、栽培槽本体80には長方形の四隅に排水部品40を設けるだけでなく、長方形の辺に対向する部分に複数の排水部品82を設けている。これにより、栽培槽本体80の長辺が短辺に対して非常に長い場合であっても、液肥Lを浸漬部26の隅々に供給することができ、根が等方的に成長しやすくなり、植物の良好な生育が期待できる。
【0046】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、水耕栽培槽に利用できる。
【符号の説明】
【0048】
10 栽培システム、 12 液肥槽、 13 培地、 16 栽培槽、 20,22 配管、 24 供給部、 26 浸漬部、 28 排出部、 30 栽培槽本体、 32 上蓋、 34 培地、 40 排水部品、 48 挿入穴、 52 スライド部、 54 開口部、 56 排水誘導部、 58 排水口、 60 遮水壁、 60a 第1の壁、 60b 第2の壁、 62 誘導路、 62a 縁部、 62b 平坦面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9